平成30(ワ)5002商標権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成30年12月14日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告株式会社メイド・イン・ジャパン
一般社団法人国際ボディメンテナンス協会
ら訴訟代理人弁護士内田公志和田祐造
ら訴訟代理人弁理士坂倉夏子
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法令 |
商標権
商標法26条1項3号3回 商標法26条1項6号2回 商標法36条1項1回
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キーワード |
商標権14回 侵害5回 実施3回 差止2回 ライセンス1回 損害賠償1回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,別紙2商標権目録記載の商標(以下「原告商標」という。)の商標
権を有する原告が,被告株式会社メイド・イン・ジャパン(以下「被告会社」
という。)がそのウェブサイトに別紙1被告標章目録1記載の標章(以下「被10
告標章1」という。)を付し,被告一般社団法人国際ボディメンテナンス協会
(以下「被告協会」という。)がそのウェブサイトに別紙1被告標章目録1及
び2記載の標章(以下「被告標章2」という。)を付していることが原告の商
標権を侵害すると主張し,被告らに対し,商標法36条1項に基づき上記各標
章の使用の差止め,同条2項に基づきウェブサイトから同標章の削除を求める15
とともに,損害賠償金220万円及びこれに対する不法行為の後の日である平
成30年2月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
平成30年12月14日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第5002号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 平成30年11月7日
判 決
5 原 告 株 式 会 社 S S S
同訴訟代理人弁護士 横 井 康 真
被 告 株式会社メイド・イン・ジャパ ン
被 告 一般社団法人国際ボディメンテナンス協会
被告ら訴訟代理人弁護士 内 田 公 志
10 鮫 島 正 洋
和 田 祐 造
日 置 巴 美
被告ら訴訟代理人弁理士 坂 倉 夏 子
主 文
15 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告株式会社メイド・イン・ジャパンは,別紙1被告事業目録1記載の事業
20 に関し,別紙1被告標章目録1記載の標章を使用してはならない。
2 被告一般社団法人国際ボディメンテナンス協会は,別紙1被告事業目録2記
載の事業に関し,別紙1被告標章目録1及び2記載の標章を使用してはならな
い。
3 被告株式会社メイド・イン・ジャパンは,別紙1被告ウェブサイト目録1記
25 載のウェブサイトから別紙1被告標章目録1記載の標章を削除せよ。
4 被告一般社団法人国際ボディメンテナンス協会は,別紙1被告ウェブサイト
目録2記載のウェブサイトから別紙1被告標章目録1及び2記載の標章を削除
せよ。
5 被告らは,原告に対し,連帯して220万円及びこれに対する平成30年2
月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 6 訴訟費用は被告らの負担とする。
7 仮執行の宣言
第2 事案の概要
1 本件は,別紙2商標権目録記載の商標(以下「原告商標」という。)の商標
権を有する原告が,被告株式会社メイド・イン・ジャパン(以下「被告会社」
10 という。)がそのウェブサイトに別紙1被告標章目録1記載の標章(以下「被
告標章1」という。)を付し,被告一般社団法人国際ボディメンテナンス協会
(以下「被告協会」という。)がそのウェブサイトに別紙1被告標章目録1及
び2記載の標章(以下「被告標章2」という。)を付していることが原告の商
標権を侵害すると主張し,被告らに対し,商標法36条1項に基づき上記各標
15 章の使用の差止め,同条2項に基づきウェブサイトから同標章の削除を求める
とともに,損害賠償金220万円及びこれに対する不法行為の後の日である平
成30年2月27日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合に
よる遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに文中掲記した証拠及び弁論の全
20 趣旨により認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,ストレッチ専門スタジオの経営,トレーナーの育成及びスポー
ツジムの経営業務等を営む株式会社である。
イ 被告会社は,フィットネススタジオの運営,インストラクターの育成,セ
25 ミナーの企画等を営む株式会社である。
ウ 被告協会は,トレーナー等の育成のための各種認定試験の実施及びライ
センスの発行事業,トレーナー等の育成のための加盟校の認定及び指導事
業,並びにトレーナー等の育成のためのインターンシップ制度の実施事業
等を営む一般社団法人である。
(2) 原告商標
5 原告は,別紙2商標権目録記載の商標権を有している。
(3) 被告らによる被告標章1及び2の使用
被告会社と被告協会は,被告会社がストレッチ等を教授する指導者の育成
プログラムを実施し,被告協会が当該育成に係るプログラムを終えた者に対
して資格を付与するという関係にある。
10 被告会社のウェブサイト(甲20)の「カラダメンテ養成スクール」の「コ
ース紹介」の頁のタイトルには,別紙3赤枠部分のとおり「パーソナルスト
レッチトレーナー」と記載され,被告標章1が付されている。被告協会のウ
ェブサイト(甲21)の「LICENSES」欄には,別紙4赤枠部分①の
とおり「ストレッチトレーナー」と記載されて被告標章2が付され,その末
15 尾には「ヨガインストラクター」などと並んで,別紙4赤枠部分②のとおり
「パーソナルストレッチトレーナー」と記載されて被告標章1が付されてい
る。
3 争点
(1) 原告商標と被告各標章の類否
20 (2) 商標的使用の該当性
(3) 普通に用いられる方法での表示(商標法26条1項3号)の該当性
(4) 損害の有無
第3 当事者の主張
1 争点(1)(原告商標と被告各標章の類否)について
25 〔原告の主張〕
原告商標と被告各標章とは,以下のとおり,類似している。
(1) 原告商標の要部
ア 外観,称呼及び観念
(ア) 原告商標の外観は,上段にアルファベットで「Stretch Tr
ainer」という文字が,中段に上段の文字の3分の1ほどの大きさ
5 のカタカナで「ストレッチトレーナー」という文字が,下段に中段と同
等の大きさの漢字で 【筋伸張施術者】 という文字等が3段で配され,
「 」
その外枠を枠線で囲んだ外観を有している。このような文字の大きさの
対比からすると,原告商標において特に強調されているのは,上段の「S
tretch Trainer」である。
10 (イ) 原告商標の上段及び中段からは「すとれっちとれーなー」,下段から
は「きんしんちょうせじゅつしゃ」という称呼が生じるところ,上記の
とおり,上段の「Stretch Trainer」の文字が下段の 【筋
「
伸張施術者】」の文字より3倍以上大きいことなどを考慮すると,原告
商標から生じる主たる称呼は「すとれっちとれーなー」である。
15 (ウ) 原告商標は,その上段の「Stretch Trainer」又は中
段の「ストレッチトレーナー」が取引者・需要者の注意を惹く部分とい
うことができるので,「ストレッチの訓練をする者」という観念が生じ
る。
イ 取引の実情
20 原告代表者は,トレーニングとしてのストレッチという新たなスポーツ
領域を開拓し,自らを「ストレッチトレーナー」と称してTV等のメディ
アに頻出した結果,「ストレッチトレーナー」という語は原告を示すもの
として取引者・需要者に広く認識されている。
加えて,インターネット上で原告商標を回答者に示して行ったアンケー
25 ト調査によれば,回答者が原告商標のうち最初に注目した部分は「ストレ
ッチトレーナー」であるとの結果が得られており(甲32~34),この
結果からも,原告商標の要部が上段の「Stretch Trainer」
又は中段の「ストレッチトレーナー」であることが裏付けられる。
ウ 以上のとおり,原告商標の要部は,上段の「Stretch Tra
iner」又は中段の「ストレッチトレーナー」との部分である。
5 (2) 被告標章 1 の要部
被告標章1は「パーソナルストレッチトレーナー」であるが,そのうち「パ
ーソナル」との部分は単に「個人の」という意味にすぎず,取引者・需要者
が特に注目する部分ではないので,同標章の要部は「ストレッチトレーナー」
との部分である。
10 (3) 原告商標と被告各標章の類否
原告商標と被告各標章の要部を対比すると,称呼はいずれも「すとれっち
とれーなー」であり,観念も「ストレッチを訓練する者」である点で同一で
ある。また,原告代表者が,トレーニングとしてのストレッチという新たな
スポーツ領域を開拓し,「ストレッチトレーナー」という用語を用いて広く
15 メディアに露出しているという取引の実情を考慮すると,被告各標章に接し
た取引者・需要者は,その出所について誤認混同を生じる。
したがって,原告商標と被告各標章は類似している。
〔被告らの主張〕
原告商標と被告標章は,以下のとおり,類似していない。
20 (1) 原告商標の要部
ア 外観,称呼及び観念
(ア) 原告商標の外観は,「ストレッチトレーナー」及び「Stretch
Trainer」の文字に加え,
「筋伸張施術者」という造語を追加し,
当該造語を目立たせるように墨付き括弧を付し,これら文字全体に枠囲
25 いを設けている。また,原告商標からは「すとれっちとれーなー きん
しんちょうせじゅつしゃ」という呼称が生じ,その上段及び中段からは
「ストレッチの指導者」という観念が,下段からは「筋肉を伸張させる
施術者」との観念が生じる。
(イ) 原告商標のうち「ストレッチトレーナー」及び「Stretch T
rainer」との文字部分は,ストレッチ運動の指導者という観念を
5 生じるところ,これは,指定役務である「ストレッチ運動及び,体操の
教授」そのもの又はその一般的な名称若しくは当該役務の実践者を表し
たにすぎない。
このことは,「ストレッチトレーナー」という語が平成10年にはブ
ログで使用され(乙3),平成17年頃からは複数の者により使用され
10 るようになり(乙4,5~22,33),求人サイト上の検索ワード(乙
12,20),職種(乙7,12,21,22),当該文字を修飾する
文字を含む標章(乙23~31),類似の用語(乙32)などとしても
広く使用されていることからも明らかである。
他方,原告商標を構成する「筋伸張施術者」との語は,指定役務との
15 関係で一般に用いられる用語ではないばかりでなく,人目を惹くように
墨付き括弧で囲まれている。また,原告商標は,文字全体に枠囲いを設
けているが,指定役務において,枠囲みが一般的に役務を識別する標識
として用いられている事実はない。
このように,原告商標のうち,取引者・需要者の注目を集める部分は,
20 「【筋伸張施術者】」との部分及び文字全体の枠囲いである。
イ 取引の実情
ストレッチの効果は,1960年代にAの提唱を契機(乙34)に日本
でも広く普及し,平成11年には「IDストレッチング」という書籍が出
版されるなどしており(乙34),原告によって普及されたものというこ
25 とはできない。また,理学療法士がリハビリ等に用いるPNFストレッチ
は,現在の日本PNF学会の前身である日本PNF研究会による講習会
の開催,インストラクターの資格制度の運営等の活動により,広く認知さ
れている(乙35~38)。このため,「ストレッチトレーナー」という
語から原告代表者が行うストレッチトレーニングが一般的に連想させる
ことはない。
5 また,原告の行ったアンケート調査については,回答者が最初に着目し
た部分を要部とする理由はなく,原告の主張を基礎付けるものではない。
ウ 以上のとおり,原告商標の要部は,「【筋伸張施術者】」との部分及び
文字全体の枠囲いである。
(2) 被告標章1の要部
10 被告標章1のうち,「ストレッチトレーナー」との部分は,「ストレッチ
の教授の提供」という役務の内容そのものを意味するにすぎないので,取引
者・需要者の注意を惹くことはなく,むしろ,取引者・需要者は「パーソナ
ル」を要部として注目するので,同標章の要部は「パーソナル」との部分で
ある。
15 (3) 原告商標と被告各標章の類否
原告商標と被告各標章を比較すると,原告商標と被告各標章とは,その外
観が全く異なり類似しないばかりか,「すとれっちとれーなー」又は「ぱー
そなる」と「きんしんちょうせじゅつしゃ」とは称呼が異なり,観念も異な
る。
20 したがって,被告各標章は,いずれも原告商標と類似していない。
2 争点(2)(商標的使用の該当性)について
〔被告らの主張〕
(1) 被告標章1は,「ストレッチを教授する指導者の育成」という被告会社の
役務において,当該役務の一般的名称ないし役務の特徴としての役務で育成
25 する者を表したにすぎず,説明・記述的表示であって,識別標識として使用
されているものではない。
したがって,被告らのウェブサイトにおける被告標章1の記載は,いずれ
も商標的使用とはいうことはできない。
(2) 被告標章2は,「ヨガインストラクター」,「ピラティスインストラクタ
ー」などの一般的な指導者を表す名称と併記されていること(甲21)が示
5 すとおり,「ストレッチ教授の指導資格の認定」という被告協会の役務にお
ける一般的名称又は認定資格を表すにすぎず,説明・記述的表示として使用
されているのであって,他の役務と識別するために使用されているものでは
ない。
したがって,被告協会のウェブサイトにおける被告標章2の記載は,商標
10 的使用とはいうことはできない。
(3) 以上のとおり,被告らのウェブサイトにおける被告各標章の記載は商標的
使用に該当するということはできないので,同各標章の掲載行為が原告商標
権を侵害するということはできず,また,同様の理由から,同各標章は,需
要者が何人かの業務に係る役務であることを認識することができる態様によ
15 り使用されているということはできないので,原告商標権の効力は及ばない
(商標法26条1項6号)。
〔原告の主張〕
「ストレッチトレーナー」という用語は一般的な役務を示す名称ではなく,
原告又は原告代表者が各種メディア等において広く需要者に知らしめたもの
20 であって,原告代表者,ひいては原告を示すものとして広く需要者に知られ
るところになった。そうすると,「ストレッチトレーナー」という用語に接
した需要者は,これが何者かの出所を示すものと認識するのであるから,被
告らのウェブサイトにおける被告各標章の記載は,商標的使用に該当すると
いうことができる。
25 3 争点(3) 普通に用いられる方法での表示
( (商標法26条1項3号)の該当性)
について
〔被告らの主張〕
原告商標の指定役務は,別紙2商標権目録記載のとおり,「ストレッチ運動
及び,体操の教授」である。被告標章2は,「ストレッチトレーナー」として,
単にストレッチ体操を教授する指導者を表しているにすぎず,原告商標の指定
5 役務に類似する役務たる「ストレッチ教授の指導資格の認定」の一般的名称な
いし役務の特徴(役務により認定される資格)を普通に用いられる方法で表示
しているものであるから,原告商標権の効力が及ばない(商標法26条1項3
号)。
また,被告標章1についても,「パーソナルストレッチトレーナー」として,
10 「他人に対してマンツーマンで」ストレッチ体操を教授する指導者を表してい
るにすぎず,原告商標の指定役務に類似する役務たる「ストレッチを教授する
指導者の育成」の役務の一般的名称ないし役務の特徴(役務で育成する者)を
普通に用いられる方法で表示しているものであるから,原告商標権の効力が及
ばない。
15 〔原告の主張〕
「ストレッチトレーナー」は一般的な名称ではないので,被告らの主張は,
その前提において誤っている。
4 争点(4)(損害の有無)について
〔原告の主張〕
20 被告会社が被告標章1を用いて行った営業の売上は少なくとも1250万円
(50万円×25月),被告協会が同標章を用いて行った営業の売上は少なく
とも750万円(30万円×25万円)である。被告らが,原告商標と類似す
る被告各標章を使用するための使用料率は,被告らそれぞれの売上額の10%
を下らないので,それぞれの使用料相当額は125万円及び75万円(合計2
25 00万円)を下らない。被告らの事業は相互に共同関係にあるので,原告商標
権の侵害行為は,被告らの共同不法行為ということができる。
また,原告は被告らによる侵害行為の結果,弁護士に依頼して本件訴訟を提
起せざるを得なくなったから,上記合計200万円の10%である20万円が
弁護士費用として相当な損害である。
〔被告らの主張〕
5 否認ないし争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点(1)(原告商標と被告各標章の類否)について
(1) 商標の類否の判断基準
商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用され
10 た場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか
否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観
念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に
考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし
得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高
15 裁判所昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最
高裁判所平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参
照)。
そして,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構
成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど
20 不可分的に結合しているものと認められる場合においては,その構成部分の
一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を
判断することは,原則として許されないが,商標の構成部分の一部が取引者,
需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与え
るものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,
25 観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部のみを他
人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものと
いうことができる(最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決・民集17
巻12号1621頁,最高裁平成5年9月10日第二小法廷判決・民集47
巻7号5009頁,最高裁平成20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事
228号561頁参照)。
5 (2) 原告商標と被告各標章の類否
ア 原告商標の外観,称呼及び観念
原告商標は,別紙2商標目録記載のとおり,「Stretch Tra
iner」という英語の文字と「ストレッチトレーナー」という片仮名の
文字と 【筋伸張施術者】 の墨付き括弧で囲われた漢字の文字から成り,
「 」
10 各文字は順に3段で並んでおり,「Stretch Trainer」の
文字が他の2つの文字よりも大きな文字で記載されており,全体が四角の
枠で囲われているとの外観を呈している。
そして,原告商標の上段及び中段からは「すとれっちとれーなー」との
称呼が生じ,下段からは「きんしんちょうせじゅつしゃ」との称呼が生じ
15 る。また,原告商標の上段及び中段からは「ストレッチの指導員」,下段
からは「筋の伸張を施術する者」といった観念が生じるものと認められる。
イ 原告商標の要部
原告は,原告商標のうち,上段の「Stretch Trainer」
又は中段の「ストレッチトレーナー」との部分が,取引者・需要者に強く
20 支配的な印象を与える要部であると主張する。
(ア) しかし,「ストレッチ」及び「トレーナー」はいずれも一般的に広く
使用される用語であり,両者が結合した「ストレッチトレーナー」とい
う語は,遅くとも,平成21年7月には企業の開催した健康教室のアシ
スタントの肩書きとして使用され(乙16),平成23年10月放送の
25 テレビ番組においてもストレッチトレーナーの資格取得について言及
されるなどの使用例があり(乙8),現在では,ストレッチの指導をす
る者又はそのような職種を意味する一般的な用語として広く使用され
ているものと認められる(乙4~7,9~15,17,19~22)。
他方,原告商標の下段の「筋伸張施術者」という語は造語であり,「ス
トレッチトレーナー」を漢字で表現したものであると考えられるが,ス
5 トレッチの指導をする者又はそのような職種を意味する用語として一
般的に使用されていることをうかがわせる証拠はない。加えて,「筋伸
張施術者」という文字部分のみに墨付き括弧が付されていることも考慮
すると,この部分は,取引者・需要者に対し,上段の「Stretch
Trainer」又は中段の「ストレッチトレーナー」との部分と同等
10 又はそれ以上の強い印象を与えるものと認められる。そうすると,原告
商標のうち上段の「Stretch Trainer」又は中段の「ス
トレッチトレーナー」との部分のみを抽出して,被告各標章と比較して
類否を判断することは相当ではないというべきである。
(イ)a これに対し,原告は,上段の「Stretch Trainer」
15 又は中段の「ストレッチトレーナー」との部分が原告商標の要部であ
る根拠として,上段の「Stretch Trainer」の文字は,
他の部分の文字の3倍以上の大きさであることを挙げる。
しかし,原告商標の「Stretch Trainer」の文字が
他の部分の文字より大きく記載されていることは,同商標の要部を判
20 断する上で考慮すべき要素の一つとなるとしても,そのことから直ち
に同部分が原告商標の要部と認めることはできない。前記判示のとお
り,原告商標のうち,「筋伸張施術者」という語は一般的に使用され
ていない造語であり,取引者・需要者に強い印象を与えると認められ
ることや同部分の外観等に照らすと,原告が指摘する文字の大きさの
25 差違を考慮しても,上段の「Stretch Trainer」との
部分が下段の「筋伸張施術者」との部分と比較して,取引者・需要者
に強く支配的な印象を与えるということはできない。
b また,原告は,原告代表者が,トレーニングとしてのストレッチと
いう新たなスポーツ領域を開拓し,「ストレッチトレーナー」という
用語を用いて広くメディアに露出しているという取引の実情を考慮
5 すると,「ストレッチトレーナー」という語は,原告を示すものとし
て取引者・需要者に広く認識されていると主張する。
しかし,原告提出に係る証拠(甲3~8,10~15)は,原告代
表者が「カリスマストレッチトレーナー」と紹介されるなどしてTV
番組などに出演していることなどを示すものにとどまり,原告代表者
10 がトレーニングとしてのストレッチという新たなスポーツ領域を開
拓したことや,「ストレッチトレーナー」という語が原告又はその代
表者を示すものとして取引者・需要者に広く認識されているとの事実
を認めるに足りる客観的な証拠は存在しない(なお,原告は,「スト
レッチトレーナー」という語が原告代表者を示すものとして取引者・
15 需要者に広く認識されていることを示す証拠として原告従業員の陳
述書(甲29)を提出するが,同証拠は客観的な裏付けに基づくもの
ではなく,採用し得ない。)。
c さらに,原告は,上段の「Stretch Trainer」又は
中段の「ストレッチトレーナー」との部分が原告商標の要部である根
20 拠として,アンケート調査において回答者が原告商標のうち最初に注
目した部分は「ストレッチトレーナー」であったことを指摘する。
しかし,同調査は,インターネット上の原告商標の画像のうち,回
答者が「はじめに目がいった箇所」を調査したものにすぎず,その結
果をもって,同部分が原告商標の要部であるということはできない。
25 (ウ) したがって,原告商標の上段の「Stretch Trainer」
との部分又は中段の「ストレッチトレーナー」との部分が,同商標の要
部であるとの原告主張には理由がない。
ウ 被告標章 1 の要部
原告は,被告標章1のうち「パーソナル」との部分は単に「個人の」と
いう意味にすぎず,取引者・需要者が特に注目する部分ではないので,同
5 標章の要部は「ストレッチトレーナー」との部分であると主張するが,
「パ
ーソナル」という語と「ストレッチトレーナー」という語は,いずれも一
般的に使用される用語であり,いずれかが取引者・需要者に強く支配的な
印象を与えるものではないので,被告標章1から「ストレッチトレーナー」
という部分のみを抽出し,これを同標章の要部であるということはできな
10 い。
エ 原告商標と被告各標章の対比
前記判示のとおり,原告商標と被告各標章は,その一部を抽出するので
はなく,全体を比較することが相当であると認められるところ,原告商標
の称呼は「すとれっちとれーなー」及び「きんしんちょうせじゅつしゃ」
15 であるのに対し,被告標章1は「ぱーそなるすとれっちとれーなー」,被
告標章2は「すとれっちとれーなー」であり,称呼は一致していない。
また,原告商標は「ストレッチトレーナー」 「ストレッチの指導員」
から ,
「【筋伸張施術者】」から「「筋の伸張を施術する者」といった複数の観
念が生じるのに対し,被告商標1は「個人的なストレッチの指導員」,被
20 告標章2は「ストレッチの指導員」といった観念が生じ,観念も一致して
いない。
そして,原告商標は結合商標であって,3段組になった文字に加えて全
体を四角枠で囲われているのに対し,被告商標1及び2はゴシック体の文
字のみであって,外観は異なっている。
25 以上のとおり,原告商標と被告各標章とは,その外観,称呼及び観念に
おいて相違しており,取引の実情に関する原告の主張も前記判示のとおり
理由がないので,原告商標と被告各標章はいずれも類似しているというこ
とはできない。
2 争点(2)(商標的使用の該当性)について
続いて,被告らのウェブサイトにおける被告各標章は,需要者が何人かの業
5 務に係る役務であることを認識することができる態様により使用されている
ということはできないので,商標的使用に該当せず,原告商標権の効力は及ば
ない(商標法26条1項6号)との被告らの主張についても検討する。
(1) 被告会社のウェブページ(甲20)において,被告標章1は,「カラダメ
ンテ養成スクール」の「コース紹介」がされているウェブページの冒頭部分
10 において,「パーソナルストレッチトレーナー」と同ウェブページ上の他の
記載よりやや大きめのポイントのゴシック体で記載されており,その直下に
「IBMA認定 資格取得コース」と記載され,更にその直下にコースの説
明として「国際ボディメンテナンス協会(IBMA)が発行するパーソナル
ストレッチトレーナーの資格取得コースです」との記載がされている。
15 また,被告協会のウェブページ(甲21)における被告標章1は,その末
尾に,「ヨガインストラクター」,「ピラティスインストラクター」,「パ
ーソナルトレーナー」,「タイ古式マッサージセラピスト」などの各種認定
資格と縦に並べて横書きで記載されている。
被告らのウェブサイトにおける被告標章1の上記記載方法及び内容によれ
20 ば,被告商標1は,被告協会の提供している資格取得コースの名称として記
述・説明されているにとどまることは明らかであり,自らの提供する役務を
他の役務と識別し,又はその出所を表示する機能を有する態様で使用されて
いると認めることはできない。
(2) 被告標章2は,被告協会のウェブページ(甲21)において,ストレッチ
25 を行っている女性の画像の下に「STRETCH」という文字が記載され,
その下に「STRETCH」という文字よりもやや小さめのポイントのゴシ
ック体で「ストレッチトレーナー」と記載される態様で掲載されており,そ
の下には「資格取得コース」との記載がある。
そして,同ページには,「STRETCH」に加えて,「YOGA」,「P
ILATES」,「THAI YOGA」などの記載も並列的に配され,被
5 告標章2に対応して,「ヨガインストラクター」,「ピラティスインストラ
クター」,「タイ古式マッサージセラピスト」などの他の資格取得コースが
記載されている。
被告標章2の上記記載方法及び内容によれば,同標章は,被告協会の提供
している資格取得コースの名称として記述・説明されているにとどまること
10 は明らかであり,自らの提供する役務を他の役務と識別し,又はその出所を
表示する機能を有する態様で使用されていると認めることはできない。
(3) これに対し,原告は「ストレッチトレーナー」という語は原告代表者又は
原告を示すものとして広く知られているので,取引者・需要者は被告各標章
を自他役務識別標識と認識すると主張するが,「ストレッチトレーナー」と
15 いう語が原告又はその代表者を示すものとして取引者・需要者に広く認識さ
れているとの事実を認めるに足りる客観的な証拠が存在しないことは前記判
示のとおりであり,原告の主張は理由がない。
(4) したがって,被告各標章に原告商標権の効力は及ばないというべきであり,
この点からしても,原告の請求はいずれも理由がない。
20 3 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいず
れも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
5 裁判官
遠 山 敦 士
10 裁判官
今 野 智 紀
別紙1
被告事業目録
1 被告株式会社メイド・イン・ジャパンが行う以下の事業
① ストレッチに関連するトレーニング方法の講義・教授
② ストレッチに関連するトレーニング方法教授の指導者育成
2 被告一般社団法人国際ボディメンテナンス協会が行う以下の事業
① ストレッチに関連するトレーニング方法の講義・教授
② ストレッチに関連するトレーニング方法教授指導者の資格付与・認定
③ ストレッチに関連するトレーニング方法の普及・啓蒙活動
被告標章目録
1 パーソナルストレッチトレーナー(具体的箇所は別紙3の赤枠部分,別紙4
の赤枠部分②)
2 ストレッチトレーナー(具体的箇所は別紙4の赤枠部分①)
被告ウェブサイト目録
1 URL:http://以下省略 で指定されるウェブサイト,及び,当該サイトの下
層を構成するウェブサイト(URL:http://以下省略 等)
2 URL:http://以下省略 で指定されるウェブサイト,及び,当該サイトの下
層を構成するウェブサイト(URL:http://以下省略 等)
以上
別紙2
商標権目録
商標登録 第5840729号
出 願 日 平成27年11月18日
登 録 日 平成28年4月15日
商 標
商品及び役務の区分 第41類
指定役務 ストレッチ運動及び,体操の教授
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