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平成30(ワ)22646不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年12月20日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社北里コーポレーション
法令 不正競争
キーワード 実施10回
侵害6回
損害賠償2回
差止2回
分割1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。15
事件の概要 本件は,卵子等のガラス化凍結保存・加温融解に用いる医療関連器具を販売 する原告が,同種の医療関連器具を販売する被告の管理に係るウェブサイト又25 は被告の作成に係るカタログに表示されている別紙表示目録記載1ないし14 の各表示(以下,各表示をそれぞれ「本件表示1」などといい,これらを総称 して「本件各表示」という。)のうち「解凍後 100%生存」,「生存率 100%」, 「100%の高い生存率」,「100% survival vitrification!」,「100% post- warm survival rates」,「100% survival」(大文字により表記されたものを 含む。)及び「achieving 100%, literally 100%, survival」と記載された各5 部分並びに本件表示8の表示全部(以下,これらを併せて「本件記載部分」と いう。)は被告が販売する製品の品質及び内容(以下「品質等」という。)を 誤認させるような表示であって,不正競争防止法(以下「法」という。)2条 1項14号の不正競争行為に当たり,それによって原告が営業上の利益を侵害 されたと主張して,被告に対し,法3条1項に基づき上記表示の差止めと抹消10 を求めるとともに,法4条及び5条2項に基づき損害賠償金7591万783 4円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年7月26日から支

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判決文

平成30年12月20日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第22646号 不正競争防止法に基づく差止・損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成30年9月13日
判 決

原 告 株式会社北里コーポレーション

同訴訟代理人弁護士 日 野 修 男

10 被 告 株式会社リプロライフ

同訴訟代理人弁護士 松 本 賢 人
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,ガラス化凍結保存容器及びそれと共に用いる凍結液,融解液並びに
それらの広告若しくは取引に用いる書類及びウェブサイトその他の宣伝広告媒
20 体において,「解凍後 100%生存」,「100% survival」,「100% Post-warm S
urvival」,「achieving 100%, literally 100%, survival」及び「凍結卵を
解凍した後の生存率100%を達成できる」旨の表示をしてはならない。
2 被告は,インターネット上のアドレス「http:// 以下省略」において開設
するウェブサイトから,別紙表示目録記載1及び2の各表示のうち「解凍後 1
25 00%生存」と記載された部分を抹消せよ。
3 被告は,インターネット上のアドレス「http:// 以下省略」において開設
するウェブサイトから,別紙表示目録記載3ないし5の各表示のうち「生存率
100%」と記載された部分,同目録記載6の表示のうち「100%の高い生存率」
と記載された部分をそれぞれ抹消せよ。
4 被告は,インターネット上のアドレス「http:// 以下省略」において開設
5 するウェブサイトから,別紙表示目録記載7の表示のうち「100% survival vi
trification!」と記載された部分,同目録記載8の表示全部,同目録記載9の
表示のうち「100% post-warm survival rates」と記載された部分及び同目録
記載10の表示のうち「100% survival」と記載された部分をそれぞれ抹消せ
よ。
10 5 被告は,インターネット上のアドレス「http:// 以下省略」において開設
するウェブサイトから,別紙表示目録記載11の表示のうち「100% SURVIVA
L」と記載された部分及び同目録記載12の表示のうち「achieving 100%, lit
erally 100%, survival」と記載された部分をそれぞれ抹消せよ。
6 被告は,ガラス化凍結保存容器及びそれと共に用いる凍結液,融解液並びに
15 それらの広告宣伝物から,別紙表示目録記載11の表示のうち「100% SURVIVA
L」と記載された部分,同目録記載12の表示のうち「achieving 100%, liter
ally 100%, survival」と記載された部分,同目録記載13の表示のうち「10
0% survival」と記載された部分及び同目録記載14の表示のうち「100% SURV
IVAL」と記載された部分をそれぞれ抹消せよ。
20 7 被告は,原告に対し,7591万7834円及びこれに対する平成30年7
月26日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。
第2 事案の概要
本件は,卵子等のガラス化凍結保存・加温融解に用いる医療関連器具を販売
25 する原告が,同種の医療関連器具を販売する被告の管理に係るウェブサイト又
は被告の作成に係るカタログに表示されている別紙表示目録記載1ないし14
の各表示(以下,各表示をそれぞれ「本件表示1」などといい,これらを総称
して「本件各表示」という。)のうち「解凍後 100%生存」,「生存率 100%」,
「100%の高い生存率」,「100% survival vitrification! 」,「100% post-
warm survival rates」,「100% survival」(大文字により表記されたものを
5 含む。)及び「achieving 100%, literally 100%, survival」と記載された各
部分並びに本件表示8の表示全部(以下,これらを併せて「本件記載部分」と
いう。)は被告が販売する製品の品質及び内容(以下「品質等」という。)を
誤認させるような表示であって,不正競争防止法(以下「法」という。)2条
1項14号の不正競争行為に当たり,それによって原告が営業上の利益を侵害
10 されたと主張して,被告に対し,法3条1項に基づき上記表示の差止めと抹消
を求めるとともに,法4条及び5条2項に基づき損害賠償金7591万783
4円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年7月26日から支
払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案であ
る。
15 1 前提事実(後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
⑴ 当事者
ア 原告は,医薬品,医療用具及び医薬部外品等の製造及び販売等を目的と
する株式会社である(甲1)。
イ 被告は,医療関連,実験関連器具,機材及び溶液の製造及び販売等を目
20 的とする株式会社である(甲2)。
ガラス化凍結保存・加温融解に用いる医療関連器具の販売
ア 原告は,「Cryotop(クライオトップ)」の名称でガラス化凍結
保存に用いる容器,凍結液及び融解液(以下,これらを総称して「原告製
品」という。)を販売している(甲19)。
25 イ 被告は,「Cryotec(クライオテック)」の名称でガラス化凍結
保存に用いる容器,凍結液及び加温液(以下,これらを総称して「被告製
品」という。)を販売している(甲20の1,2)。
ウ なお,ガラス化凍結(vitrification)とは,不妊治療において採卵し
た卵子を凍結するに当たり,高濃度の凍結抑制剤を利用して細胞内の水分
を相当部分除去して,これを液体窒素にすぐに浸す超急速凍結法であり,
5 細胞の90%を占める水分がその凍結過程で鋭い結晶を形成して細胞を損
傷することを防ぐことができる。「ガラス化」とは,凍結過程で細胞内の
水分と凍結抑制剤が結晶を形成しないガラスのようになる現象を指してい
る。(甲3の1)
被告管理のウェブサイト(URLアドレス「http:// 以下省略」。以下
10 「被告サイト1」という。)における表示
ア 被告サイト1の「ヒストリー」のウェブページ(URLアドレス
「http:// 以下省略」。甲11)には,平成27年(2015年)頃から,
本件表示1及び2が記載されている(弁論の全趣旨)。
イ 被告サイト1の「製品紹介」のウェブページ(URLアドレス
15 「http:// 以下省略」。甲28)には,平成27年(2015年)頃から,
本件表示3ないし6が記載されている(弁論の全趣旨)。
被告管理のウェブサイト(URLアドレス「http:// 以下省略」。以下
「被告サイト2」という。)における表示
ア 被告サイト2の「HOME」のウェブページ(上記URLアドレス。甲1
20 2)には,平成25年(2013年)頃から,本件表示7ないし10が記
載されている(弁論の全趣旨)。なお,上記各表示の日本語訳は,次のと
おりである。
本件表示7「クライオテックは生存率100%のガラス化凍結によっ
て確かな幸福を創造します!」
25 本件表示8「加温融解後の生存率100%」
本件表示9「A博士のオリジナルのガラス化凍結/加温融解手順を厳
密に守ることにより,だれでもヒト卵子及び胚について加温融解後10
0%の生存率を得ることができます。それは“クライオテック法”と呼
ばれています。」
本件表示10「100%の生存が証明された溶液のみが提供されま
5 す。」
イ 被告サイト2の「What's Cryotech」のウェブページ(URLアドレス
「http:// 以下省略」。甲13)には,平成25年(2013年)頃から,
本件表示11及び12が記載されている(弁論の全趣旨)。なお,上記各
表示の日本語訳は,次のとおりである。
10 本件表示11「ようこそ“100%生存クラブ”へ!」
本件表示12「クライオテック法の詳細な手順を厳密に遵守すること
により,医療エンブリオロジストは,正常な卵子及び胚の100%生存,
文字どおり100%を達成することが保証されます。」
被告作成のカタログ「SUPER-VITRIFICATION」(以下
15 「被告カタログ」という。)における表示
被告カタログには,平成26年(2014年)6月頃から,以下のとおり,
本件表示11ないし14が記載されている(甲20の1,35の1,35の
2,弁論の全趣旨)。
ア 被告カタログの表紙下段には,本件表示13が記載されており,その日
20 本語訳は,「超・ガラス化凍結」「100%生存のガラス化凍結で確かな
幸せを創造する!」である。
イ 被告カタログの見開き左頁の左下欄の表題には,本件表示11が記載さ
れている。
ウ 被告カタログの見開き左頁の左下欄の下段には,本件表示12が記載さ
25 れている。
エ 被告カタログの見開き右頁の左下欄の表題には,本件表示14が記載さ
れており,その日本語訳は,「クライオテックの強み;“なぜ100%生
存?”」である。
2 争点
⑴ 本件記載部分は被告製品の品質等について誤認させるような表示か
5 原告は営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあるか
被告の故意又は過失の存否
原告の損害の有無及びその額
3 争点についての当事者の主張
⑴ 本件記載部分は被告製品の品質等について誤認させるような表示か(争点
10 ⑴)
【原告の主張】
ア 医療機器を使用するに当たって使用手順を厳格に遵守することは当然の
前提であるから,本件各表示は,被告製品を使用する医療関係者にとって,
使用手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保存し融解すると,
15 100%の生存率を達成することができる旨を表示したものといえる。
これに対し,被告は,本件各表示が被告製品の品質等について表示した
ものではなく,卵子凍結保存の技法であるクライオテック法について言及
したものにすぎない旨主張するが,本件各表示が記載されたウェブページ
やカタログを見てもクライオテック法がいかなるものか説明されておらず,
20 かえって,以下のとおり,生存率が100%である旨を表示して被告製品
を販売しているのであるから,本件各表示が被告製品の品質等について記
載されたものであることは明らかである。
本件表示3ないし6が記載されている被告サイト1のウェブページ
(甲28)は被告製品を紹介するページであり,例えば,本件表示5は,
25 被告製品の特徴として記載されている。そして,本件表示1及び2が記
載されている被告サイト1のウェブページ(甲11)は,本件表示3な
いし6が記載されているウェブページと相互にリンクされて一体として
被告サイト1を構成している。
したがって,本件表示1ないし6は,いずれも同ページで紹介されて
いる被告製品の品質等について表示したものである。
5 本件表示7ないし10が記載されている被告サイト2のウェブページ
(甲12)には,被告製品の容器や溶液を使用することによって凍結保
存して融解した卵子の生存率が100%になる旨の記載がされている。
また,同ページと本件表示11及び12が記載されている被告サイト2
のウェブページ(甲13)は,被告製品を紹介するウェブページと相互
10 にリンクされており,一体として被告サイト2を構成している。
したがって,本件表示7ないし12は,同ページで紹介されている被
告製品の品質等について表示したものである。
被告カタログ(甲35の1)は,その裏表紙に記載された被告製品の
宣伝を目的としたものであるから,被告カタログに記載された本件表示
15 11ないし14は,被告製品の品質等について表示したものである。
イ しかしながら, 各研究報告によれば,被告製品を用い
て卵子を凍結保存し融解するに当たり,クライオテック法の手順を厳密に
遵守したとしても100%の生存率を達成することはできないから,本件
各表示のうち本件記載部分は,需要者である医療関係者をして被告製品の
20 品質等を誤認させるおそれがあるというべきである。
平成25年(2013年)7月に開催されたヨーロッパ生殖医学会の
年次会議における「ヒト卵子の凍結保存のための二つの異なるガラス化
法の比較」と題する研究報告(甲14,15。以下「研究報告1」とい
う。)
25 平成26年7月1日発行の「日本生殖医学会雑誌」に掲載された「ヒ
ト未受精卵凍結の検討-cryotop と cryotech との使用経験-」と題す
る研究報告(甲16。以下「研究報告2」という。)
平成27年(2015年)10月30日及び同年11月1日に開催さ
れた「生殖医療と婦人科内視鏡検査法の南アフリカ学会」の講演会にお
ける「Cryotec ガラス化法実施に伴う卵子細胞及び胚盤胞の生存率」と
5 題する研究報告(甲17。以下「研究報告3」という。)
「Vitrification in Assisted Reproduction(訳:生殖補助医療にお
け る ガ ラ ス 化 凍 結 ) 」 の 「 3 Vitrification of Oocytes : General
Considerations(訳:第3章 卵子の凍結にかかる一般的考察)」にお
ける「Our Experience with Oocyte Vitrification(訳:卵子のガラス
10 化凍結の経験)」と題する研究報告(甲26。以下「研究報告4」とい
う。)
平成28年9月に開催された第34回日本受精着床学会の総会・学術
講演会における「The Cryotec method:生存率 100%を可能とする新戦
略」と題する研究報告(甲33。以下「研究報告5」という。)
15 【被告の主張】
ア 本件各表示は,その記載自体や本件各表示が記載されているウェブペー
ジやカタログの記載全体を読めば明らかなように,卵子を凍結保存し融解
する技法であるクライオテック法について,専用の器具等を用いて正しい
手順に従って実践した場合に臨床結果として100%の生存率を達成する
20 ことができる旨を言及したものであって,被告製品の品質等について記載
したものでもなければ,手順を厳密に遵守したか否かを問わず常に10
0%の生存率が得られるなどと記載したものでもない。
被告製品の需要者は一般消費者ではなく,専門的知識を十分有する医療
関係者や学者研究者であるから,そのような需要者が,これらの記載を見
25 て,手順を厳密に遵守したか否かを問わず常に100%の生存率が得られ
る旨が表示されていると誤認するおそれはない。
イ そして,国内外の学会や専門書(乙4ないし8)において,クライオテ
ック法の手順を遵守して100%の生存率が得られたとの報告が数多く発
表されているから,本件各表示の内容は真実であって,何ら誤認させるよ
うなものではない。
5 ウ 原告が指摘する研究報告1ないし5は,古い時代のものであって今日に
おいて有意なデータとはいえないものか,個人クリニックのデータや個人
的な見解であって学術性や客観性に欠けるものである。
原告は営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがあるか(争点

10 【原告の主張】
ア 原告製品と被告製品はいずれもガラス化凍結保存に用いる容器,凍結液
及び融解液であり,競合する商品である。
被告は,原告製品が被告製品で代替することができない旨主張するが,
学会等の報告において原告製品を用いた臨床結果と被告製品を用いた臨床
15 結果とが比較されており,原告製品が被告製品と代替可能であることを示
している。
イ そして,卵子を凍結保存する医療機器にとって,解凍した卵子の生存率
はその品質等を示す最も重要な基準であり,同機器の需要者が商品を選択
する最も重要な基準として機能するものであるから,被告製品を用いて卵
20 子を凍結保存し融解すると100%の生存率を達成することができると誤
認させる表示は,被告製品と競合する原告製品を販売する原告の営業に重
大な影響を及ぼし,その営業上の利益を損なうものである。
【被告の主張】
被告は,被告代表者において,学会発表やセミナーを実施するなどしてク
25 ライオテック法による正しい卵子凍結技術の普及に努めており,原則として,
これらの学会やセミナーを受講し,正しい技術を実践し得る医療機関に対し
てのみ,被告製品を販売する仕組みをとっている。
これに対し,原告は,そのような学会発表やセミナーを実施したことはな
いし,そもそも,被告製品はクライオテック法を実践する専用の医療キット
であって,厳密な意味では,原告製品で代替することができない。
5 したがって,原告製品は,被告製品と同様の需要者に対し,同様の販売態
様で販売されている競合商品とはいえない。
被告の
【原告の主張】
被告代表者は,学会の講演において被告製品を用いて卵子を凍結保存し融
10 解した場合に100%の生存率を得られないことを自認しており,本件記載
部分が被告製品の品質等につき誤認させるような表示に当たり原告の営業上
の利益を侵害することにつき,故意又は過失があった。
【被告の主張】
否認ないし争う。学会における被告代表者の講演は,クライオテック法の
15 手順を遵守した場合に100%の生存率を得られることを述べたものである。
原告の
【原告の主張】
ア 法5条2項による損害金 6901万6213円
被告製品を用いたガラス化凍結保存の方法による出生実績は過去12
20 年間で34万人であるところ,被告製品の販売実績は増加傾向にあると
思料されるから,直近3年間における被告製品の販売実績は,年平均2
万8333件を下回らない。
また,被告製品の販売価格は1キット当たり7733円であり,その
利益率は70%を下回らないと見込まれる。
25 そうすると,被告が過去3年間に被告製品の販売により得た利益の額
は,次の計算式のとおり,4億6010万8086円となる。
(計算式)7,733×28,333×0.7×3=460,108,086
そして,本件各表示が被告製品の販売に寄与した割合は,15%を下
回らないと見込まれるから,法5条2項による損害金の額は,次の計算
式のとおり,6901万6213円となる。
5 (計算式)460,108,086×0.15=69,016,213
イ 弁護士費用 690万1621円
ただし,前記アの損害金の10%相当額
【被告の主張】
法5条2項による損害金及び弁護士費用のいずれについても,否認ないし
10 争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件記載部分は被告製品の品質等について誤認させるような表示か(争点
⑴)について
本件記載部分を含む本件各表示は,被告製品の需要者である医療関係者や
15 研究者において,使用手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保
存し融解すると100%の生存率を達成することができると理解される表示
であると認められる(弁論の全趣旨)ところ,原告は,研究報告1ないし5
等を論拠にして,手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保存し
融解したとしても100%の生存率を達成することはできない旨主張する。
20 そこで,以下,これらの研究報告等について,順次検討する。
研究報告1について
ア ロタンダ・ヒト生殖センター(ムンバイ・インド)等の担当者らは,研
究報告1において,平成22年(2010年)10月から平成24年(2
012年)8月までの間に成熟卵子をクライオトップ法又はクライオテッ
25 ク法により凍結して融解した症例の生存率について,前者の方法では95.
1%(336個中319個),後者の方法では97.1%(275個中2
67個)であったと報告している(甲14の1ないし3,15の1,2)。
イ しかしながら,研究報告1の対象期間は前記のとおりであるところ,被
告が被告製品を用いて卵子・受精卵を凍結保存する手法を完成させたのは
平成24年(2012年)であると認められる(甲11,28,33の1,
5 弁論の全趣旨)から,クライオテック法により実施した症例には,その完
成前に実施されたものも含まれていた可能性がある。その上,当時前記セ
ンターの院長であったB氏は,その書簡(乙12の1,2)において,同
年5月にクライオテック法により実施された症例について,同年1月に前
記センターのチームに加入した胚培養士が担当し,卵子を粗悪に取り扱っ
10 たために結果が芳しくなく,生存率を引き下げたと説明している(なお,
原告は,この書簡について,作成日付が記載されていないことや,被告代
表者の依頼に応じて,現在閉院となっている上記センターの研究室長の肩
書で作成されたものであることから,成立の真正と信用性を争う旨主張す
るが,これらは成立の真正を左右する事情には当たらず,また,信用性を
15 減殺すべき事情とも認められない。)。
ウ そうすると,クライオテック法により実施した症例の生存率が100%
にならなかったのは,クライオテック法が完成される前に実施された症例
が含まれていたことや担当した胚培養士の技量が未熟であったことが原因
であった可能性があるから,研究報告1によっては,手順を厳密に遵守し
20 て被告製品を用いて卵子を凍結保存し融解したとしても100%の生存率
を達成することができないとは認めるに足りない。
研究報告2について
ア セントマザー産婦人科医院の医師らは,研究報告2において,未受精卵
を原告製品又は被告製品を使用して凍結した症例の蘇生率について,前者
25 の場合には70%(10個中7個),後者の場合には53.9%(13個
中7個)であったと報告している(甲16の1ないし3,弁論の全趣旨)。
イ しかしながら,研究報告2において,被告製品について,操作に慣れて
いないこともあり胚が見えづらかったという欠点が指摘されていることか
らすると,被告製品を使用した症例には,担当した医師らが使用手順を遵
守しなかったものも含まれている可能性があるから,研究報告2によって
5 は,手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保存し融解したと
しても100%の生存率を達成することができないとは認めるに足りない。
研究報告3について
ア VITALAB生殖補助センター(ヨハネスブルク・南アフリカ)の担
当者らは,研究報告3において,平成26年(2014年)9月から平成
10 27年(2015年)5月までの間にクライオテック法により凍結保存し
て融解した940個の卵子の生存率について,月ごとの生存率が63ない
し100%であり,平均生存率が83.8%であったと報告している(甲
17の1ないし4)。
イ しかしながら,研究報告3が,より最近の月における生存率が顕著にそ
15 れ以前の月よりも高くなっており,これはこの技術を用いた技師の経験が
有益であることを示唆している旨考察していることからすると,担当技師
が被告製品を使用する経験を重ねて手順を遵守することにより,遅くとも
前記期間の最終月までには,生存率が100%に至っていたことがうかが
われるから,研究報告3によっては,手順を厳密に遵守して被告製品を用
20 いて卵子を凍結保存し融解したとしても100%の生存率を達成すること
ができないとは認めるに足りない。
研究報告4について
ア 前記ロタンダ・ヒト生殖センターの担当者らは,研究報告4において,
平成23年(2011年)1月から同年12月までの間にクライオテック
25 法により凍結して融解した544個の卵子の生存率について,94.5%
であったと報告している(甲26の1ないし3)。

子・受精卵を凍結保存する手法を完成させたのは平成24年(2012
年)であり,研究報告4はその完成前に実施された症例を対象としたもの
ということになるから,研究報告4によっては,手順を厳密に遵守して被
5 告製品を用いて卵子を凍結保存し融解したとしても100%の生存率を達
成することができないとは認めるに足りない。
研究報告5について
ア 被告代表者のAは,研究報告5において,クライオテック法について,
平成24年(2012年)に一般患者由来の胚はもちろん,未成熟卵子や
10 成熟卵子でも,また,がん患者や高齢患者由来の低グレードの卵子や胚で
あっても解凍後の生存率がほぼ100%となる極めて有効で安全な非侵襲
的ガラス化法として完成した旨報告している(甲33の1,2)。
イ しかしながら,研究報告5の内容を子細に見ても,上記生存率がどのよ
うな症例を対象としたものか説明されておらず,手順を厳密に遵守して実
15 施した症例のみを対象としたものか明らかでないから,研究報告5によっ
ては,手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保存し融解した
としても100%の生存率を達成することができないとは認めるに足りな
い。
その他
20 ア 原告代表者は,陳述書(甲18)において,卵子の凍結保存と融解は卵
子に対してマイナス196度からプラス37度までの温度変化を与えるも
のであることから,生存率が100%になることはあり得ない旨陳述して
いる。
しかし, 研究報告1ないし5はこの
25 陳述を裏付けるものではなく,他にこの陳述を裏付ける的確な証拠はない
から,これを採用することはできない。
イ また,原告は,クライオテック法の技術講習会の受講者らが,同講習会
において正しい手順を習得し,卵子の生存率が100%であった旨記載し
た書面(乙20ないし25)について,いずれも信用性がなく,被告がそ
のような信用性のない書証を提出すること自体,原告の主張を裏付けるも
5 のである旨主張する。
しかし,手順を厳密に遵守して被告製品を用いて卵子を凍結保存し融解
したとしても100%の生存率を達成することができないと認められるか
否かは,客観的な証拠から判断されるべき事柄であるから,原告の上記主
張はおよそ合理的とはいえず,採用することはできない。
10 小括
以上によれば,研究報告1ないし5によっては,手順を厳密に遵守して被
告製品を用いて卵子を凍結保存し融解したとしても100%の生存率を達成
することができないとは認めるに足りず,他にこれを認めるに足りる証拠も
ないから,被告から提出された証拠(乙4ないし10)の内容も考慮すれば,
15 本件記載部分を含む本件各表示が被告製品の需要者である医療関係者や研究
者をしてその品質等を誤認させるおそれがあるとは認めるに足りない(なお,
本件記載部分の表現については,紛争予防の観点から,研究報告1ないし5
の内容も踏まえ,より慎重に検討することが望まれる。)。
2 結論
20 よって,争点 について判断するまでもなく,原告の本件請求はい
ずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部

裁判長裁判官 沖 中 康 人


裁判官 横 山 真 通


裁判官 髙 櫻 慎 平


(別紙)
表示目録

1 「ついに解凍後 100%生存の画期的な凍結手法 「The Cryotec Method」の開発
5 に成功!」(別紙1の黄色マーカー①部分)
2 「2012 年、ついに解凍後 100%生存の画期的な凍結手法の開発に成功。」(別
紙1の黄色マーカー②部分)
3 「生存率 100%を実現、クライオテックの凍結保存」(別紙2の黄色マーカー
③部分)
10 4 「融解後の生存率 100%と臨床成績の向上」(別紙2の黄色マーカー④部分)
5 「胚盤胞、分割胚そして卵子の生存率が 100%になります。」(別紙2の黄色
マーカー⑤部分)
6 「卵子と胚で同一のプロトコールで 100%の高い生存率が得られます。」(別
紙2の黄色マーカー⑥部分)
15 7 「Cryotech Create sure Happiness by 100% survival vitrification!」(別
紙3の黄色マーカー⑦部分)
8 「100% Post-warm Survival」(別紙3の黄色マーカー⑧部分)
9 「Anyone can obtain 100% post-warm survival rates for human oocytes
and embryos by strictly keeping Dr.A's original vitrification/warming
20 protocol. It is called “the Cryotec method”.」(別紙3の黄色マーカー⑨
部分)
10 「Only 100% survival proved solutions are provided.」(別紙3の黄色
マーカー⑩部分)
11 「WELCOME TO “THE 100% SURVIVAL CLUB”!」(別紙4及び別紙5の各黄色
25 マーカー⑪部分)
12 「By strict adherence to specific details of The Cryotec Method, the
clinical embryologist is assured of achieving 100%, literally 100%,
survival of normal oocytes and embryos.」(別紙4及び別紙5の各黄色マー
カー⑫部分)
13 「SUPER-VITRIFICATION」「 Create sure Happiness by 100% survival
5 vitrification!」(別紙5の黄色マーカー⑬部分)
14 「CRYOTECH ADVANTAGE; "WHY 100% SURVIVAL? "」(別紙5の黄色マーカー
⑭部分)
以 上

10 (別紙1ないし5 添付省略)

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