平成30(行ケ)10087審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
平成30年12月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告パスカルエンジニアリング株式会社 原告株式会社コスメック
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対象物 |
位置検出装置 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号1回 特許法29条2項1回
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キーワード |
審決21回 無効10回 実施5回 進歩性5回 分割4回 無効審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無である。 |
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判決文
平成30年12月26日判決言渡
平成30年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年12月17日
判 決
原 告 株 式 会 社 コ ス メ ッ ク
上記訴訟代理人弁護士 松 本 司
同 井 上 裕 史
同 田 上 洋 平
被 告 パスカルエンジニアリング株式会社
同訴訟代理人弁護 士 別 城 信 太 郎
同訴訟代理人弁理 士 深 見 久 郎
同 佐 々 木 眞 人
同 高 橋 智 洋
同 松 田 将 治
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
特許庁が無効2017-800126号事件について平成30年5月21日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,進歩
性の有無である。
1 特許庁における手続の経緯
(1) 被告は,平成23年10月7日に特許出願をした特願2011-222
846号(以下「原出願」という。)の一部である,発明の名称を「位置検出装置」
とする発明について,平成25年7月5日に分割出願し(特願2013-1416
58号),平成25年8月9日,設定登録(特許第5337323号)を受けた(請
求項の数7。甲1。以下「本件特許」という。。
)
(2) 原告は,平成25年11月6日,本件特許を無効にするとの審判を請求し
た(無効2013-800210号)。
被告は,平成26年8月4日,訂正請求をした(請求項の数7。甲2。以下「本
件訂正」という。。
)
特許庁は,平成26年12月8日,本件訂正を認めた上,
「本件審判の請求は,成
り立たない。」との審決をし,この審決は,その後,確定した。
(3) 原告は,平成27年2月12日,本件特許を無効にするとの審判を請求し
た(無効2015-800025号)。
特許庁は,平成28年3月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決をした。
原告は,平成28年4月28日,知的財産高等裁判所に上記審決の取消しを求め
て訴えを提起した(平成28年(行ケ)第10102号)。
知的財産高等裁判所は,平成29年2月21日,「原告の請求を棄却する。」との
判決を言い渡した。(甲25)
(4) 原告は,平成29年9月13日,本件特許を無効にするとの審判を請求し
た(無効2017-800126号。以下「本件審判」という。 。
)
特許庁は,平成30年5月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審
決(以下「本件審決」という。 をし,
) その謄本は,同月31日,原告に送達された。
原告は,平成30年6月28日,知的財産高等裁判所に本件審決の取消しを求め
て本件訴えを提起した。
2 本件訂正後の発明の要旨
本件訂正後の本件特許の請求項1~7に係る特許請求の範囲の記載は,次のとお
りである(甲2。以下,これらの発明をそれぞれ「本件訂正発明1~7」といい,
本件訂正発明1~7を併せて「本件訂正発明」という。本件訂正後の明細書及び図
面を併せて「本件訂正明細書」という。。
)
【請求項1】
シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装備された出力部材と,この出
力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する為の油室とを有する油圧シリ
ンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出装置であって,
前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他端部が外界に
連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,
前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された
弁体と,前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保
持する油圧導入室と,前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路とを備
え,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動
させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記
出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位
置検出装置。
【請求項2】
前記油室に油圧が供給され前記出力部材が所定の位置にない状態において,前記
開閉弁機構は前記エア通路を外界に開放する開弁状態を維持し,
前記油室の油圧がドレン圧に切り換えられ且つ前記出力部材が前記所定位置に達
した時に,前記開閉弁機構は,前記エア通路を閉じる閉弁状態に切り換えられ,当
該切換えにより前記開閉弁機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧
力を上昇させ,当該圧力が設定圧以上に上昇したことに基づいて前記出力部材が所
定の位置にあることが検知され,
前記出力部材が前記所定の位置から移動開始したときに,前記開閉弁機構は,前
記エア通路を外界に開放する開弁状態に切換えられ,当該切換えにより前記開閉弁
機構に対して前記一端部側に位置する前記エア通路の圧力を低下させることを特徴
とする請求項1に記載の位置検出装置。
【請求項3】
前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成された前記装着孔に挿入螺合され且
つ前記弁体が進退可能に挿入されたキャップ部材を備え,
前記キャップ部材に,前記エア通路の一部が形成され,前記キャップ部材と前記
弁体との間に前記油圧導入室が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の位置
検出装置。
【請求項4】
前記開閉弁機構の油圧導入路は,前記弁体の軸心近傍部に貫通状に且つ前記弁体
の装着方向と平行に形成されたことを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項5】
前記弁体は,前記出力部材の進退方向と直交する方向に進退可能に設けられたこ
とを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項6】
前記弁体は,前記出力部材の進退方向に進退可能に設けられたことを特徴とする
請求項2に記載の位置検出装置。
【請求項7】
前記所定の位置が,前記出力部材の上昇限界位置,下降限界位置のうちの何れか
の位置であることを特徴とする請求項2に記載の位置検出装置。
3 審決の理由の要点
本件審決は,次のとおり,本件訂正発明に係る特許を無効とすることはできない
と判断した。
(1) 主引用発明(本件特許の優先日前の公然実施発明。甲3の1~3,甲3の
4,甲3の4の2。以下「甲3発明」という。)の認定
「ボディ,キャップ及びマニホールドと,ボディに進退可能に装備されたピスト
ンと,このピストンを押側端と引側端に駆動する為の油室とを有するリニアシリン
ダにおける後退端エアセンサであって,
マニホールド内に形成され且つ加圧エアが供給される引側端確認用ポートと大気
開放されたエア排気ポートとに接続されたエア通路と,エア排気ポートを開閉可能
な開閉弁機構とを備え,
前記開閉弁機構は,キャップに形成した孔に進退可能に装着された検出ロッドと,
押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出させた状態に保持するバネ
とを備え,
前記ピストンが後退端に達したときに,前記ピストンにより前記検出ロッドを移
動させてエア排気ポートの開閉状態を切り換え,エアキャッチセンサによりクラン
プの動作確認を行う後退端エアセンサ。」
(2) 相違点の認定
本件訂正発明1と甲3発明の相違点は,次のとおりである。
<相違点1>
エア通路について,本件訂正発明1では「前記シリンダ本体内に形成され」てい
るのに対し,甲3発明では「マニホールド内に形成され」ている点。
<相違点2>
弁体を出力部材側に進出させた状態に保持する手段について,本件訂正発明1で
は,「前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持
する油圧導入室と,前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路」である
のに対し,甲3発明では,
「押圧することで前記検出ロッドを前記ピストン側に進出
させた状態に保持するバネ」である点。
(3) 相違点の判断
ア 相違点1について
相違点1は,甲3発明において,
「キャップ」と「マニホールド」とが,別部材で
構成されて分離していることから生じているものである。すなわち,甲3発明にお
いて,シリンダを形成する「キャップ」とエア通路が形成された「マニホールド」
とが分割して構成されているため,マニホールドは「シリンダ本体」とはみなされ
ず,同時にマニホールド内に形成されたエア通路も,シリンダ本体内に形成された
ものとはみなされないために,相違点1が生じる。
しかし,この相違は,開閉弁機構の弁体全体の収容空間を,本件訂正発明1のよ
うにシリンダ本体である下端壁部材13に装着孔56として形成したか,甲3発明
のようにキャップ及びマニホールドの2体で半分ずつ囲って形成したかの違いに起
因するものである。
そして,内部に収容空間がある部材を作成するのに,一つの部材に孔を設けるか,
二つの分割部材のそれぞれに凹部を設けて組み立てるかは,一般的に設計事項の範
疇であり,甲3発明において,キャップとマニホールドとを一体的に作成したとし
ても,シリンダを形成することに特段の支障は生じず,エア通路が奏する効果に格
別の変化があるものでもない。
そうすると,甲3発明において,キャップとマニホールドとを一体構成すること
で,両者を併せて「シリンダ本体」に相当するようにし,シリンダ本体にエア通路
が存在するようにすることは,当業者にとって困難性はない。
イ 相違点2について
原告(請求人)は,当業者は,甲3発明に甲4(英国特許出願公開第11402
16明細書)に記載された事項を適用して相違点2の構成を容易に想到すると主張
するが,以下のとおり,採用することはできない。
(ア) 甲4に記載されたピストンドライブでは,二方パイロット弁100,
101は,作業用ピストン21を反転動作させる三方弁の切り換えスイッチの役割
を果たしているものであって,作業用ピストン21の位置を検知するセンサを構成
するものではない。
他方,甲3発明の検出ロッドは,エアキャッチセンサでエア圧を測定することで
ピストンの後退端位置への到達を検知する機構に用いられるものである。
したがって,甲3発明の検出ロッドと,甲4に記載された二方パイロット弁に設
けられた差圧ピストンとは,用途・機能が異なり,甲3発明の検出ロッドに甲4に
記載された二方パイロット弁に設けられた差圧ピストンを適用する動機付けがある
ものとはいえない。
(イ) 仮に,甲3発明の検出ロッドと甲4に記載された二方パイロット弁
に設けられた差圧ピストンとの用途・機能が共通しているとしても,甲4に記載さ
れた二方パイロット弁100,101は,作動用流体と制御用流体とが油圧なら油
圧のみ,空圧なら空圧のみを用いるものに特定されており,作動用流体と制御用流
体とで油圧と空圧のような別種類の流体をそれぞれ使用することは当初から考慮さ
れていないと解される。
そうすると,
「バネの押し力に代えて,図11に示されたような差圧ピストンの作
用に基づく復帰動作を備えたスライド弁を使用可能」という記載を当業者が見たと
しても,甲4に記載された二方パイロット弁100,101を,作業用ピストンの
位置検知に用いようとは考えないものと認められる。
(ウ) また,油圧とエア圧とを併用する甲3発明の検出ロッドに対して,甲
4の図11に記載された作動用流体及び制御用流体ともに油圧流体を使用する差圧
ピストンに置き換えようとしても,甲4に示された構造の差圧ピストンを,甲3発
明の検出ロッドに単純に置き換えすることはできず,油圧流体の経路及びエア圧の
経路の配置構成について,種々の複雑な変更を加える必要があることは明らかであ
り,実際の適用に困難が伴うものと認められる。それに加え,検出ロッド又は差圧
ピストンの構造やキャップ及びマニホールドの構造等にも大きな変更を加える必要
があり,当業者がそのような装置の複雑な改造を積極的に行ってまで,検出ロッド
に対して差圧ピストンの構造を適用することは考えにくい。
(エ) なお,甲5~7,11~18,20は,主となる付勢手段としてバネ
のような付勢部材を用いることしか示しておらず,甲4の二方パイロット弁に設け
られた差圧ピストンを位置検知の用途に転用することについては,記載も示唆もし
ていないから,甲3発明に甲4に記載された事項を適用する動機付けを提示するも
のではない。
また,往復動制御のための弁機構を位置検出弁として利用できることが周知であ
るとしても,甲4の二方パイロット弁が作業用ピストン21を反転動作させる制御
のための弁機構であることに変わりはないから,上記結論を左右するものではない。
(オ) さらに,甲8~10に記載された検知装置は,すべて,ピストンの
位置が移動したことをリミットスイッチの押圧により検知するものであり,ピスト
ンを通過する流体の圧力の変化を検出する型の検出装置ではない。
したがって,甲8~10に示されたような差圧ピストンを用いる検出装置が存在
したからといって,甲3発明の後退端エアセンサの検出ロッドの押圧手段として,
バネに代えて甲4に記載された差圧ピストンを利用することの動機付けとはならな
い。
(カ) 甲3発明の検出ロッドについて,バネにより押圧されて保持される
ことに何らかの課題があり,その課題を解決するため,検出ロッドを流体圧力を用
いて進出させることが周知であったとしても,甲4に記載された二方パイロット弁
は,作業用ピストン21を反転動作させる制御用のものであり,かつ,使用する流
体が共通のものである以上,甲3発明の検出ロッドには組み合わせることはできな
い。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明1は,甲3発明に甲4に記載された事項及び従来周
知の事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえ
ない。
本件訂正発明2~7は,本件訂正発明1を直接又は間接的に引用するものであっ
て,本件訂正発明1で特定された事項を全て含み,更なる限定事項を付加したもの
であるから,本件訂正発明1と同様に,甲3発明に甲4に記載された事項及び従来
周知の事項を適用することで,当業者が容易に発明をすることができたものとはい
えない。
第3 原告主張の審決取消事由(相違点2の判断の誤り)
1(1) 相違点2は,本件訂正発明1では,弁体を「油圧」(油圧導入室及び油圧
導入路)で出力部材側に進出させた状態に保持するのに対し,甲3発明では,弁体
(検出ロッド)を「バネ力」で出力部材側に進出させた状態に保持しているという
相違である。
甲4には,図10で示す「バネ力」で弁体を進出させる構成が記載されているが,
この構成を,図11で示す「油圧」により弁体を進出させる構成に置き換えること
ができる旨説明されており,
「バネ力を油圧に置き換える」という技術事項(以下「甲
4技術事項」という。)が開示されている。
甲3発明に適用することが容易かどうかを検討されるべき甲4技術事項は,スラ
イド弁(検出ロッド)を出力部材側に進出させた状態に保持する力を「バネから油
圧に置き換える」という技術事項であり,甲4に記載された装置や部材の技術事項
ではない。
甲3発明も,甲4のピストンドライブに係る発明も,いずれも弁機構によって開
閉される流路の圧力変化により,シリンダ以外の機器(圧力センサ,三方弁)を作
動させる油圧装置に係る分野の発明であり,甲3発明の「検出ロッド」も,甲4の
「二方パイロット弁」もピストンの位置を検知する機能で共通する。
したがって,甲3発明に甲4技術事項を適用する動機付けがある。
(2) 副引用発明は,相違点に対応する発明が記載されているか否かが問題と
なるのであるから,副引用発明に相違点とは関連しない事項を構成として取り込ん
だ上,主引用発明に副引用発明を適用することにより本件訂正発明を容易に発明を
することができたかどうかを判断することは,進歩性の判断手法として誤りである。
被告の主張は,副引用発明においても,副引用発明に係る文献記載の全ての事項
を考慮しなければならない旨の主張であり,甲4を副引用発明としてではなく,主
引用発明として取り扱うべき旨の主張であることから,理由がない。
2 本件審決の判断は,甲4技術事項ではなく,部材や装置の機能等の相違に基
づき容易性の判断をしたという誤りがある。
また,部材や装置の機能等の相違は,甲4技術事項を適用することに支障がない
(阻害要因もない)のに,これを無視して判断した誤りがある。
(1)ア 甲4の「二方パイロット弁」は,作業用ピストン21が反転位置(スト
ローク端)まで到達したことを検知し,この検知に基づき,該ピストン21を反転
動作させるよう三方弁の油圧を切り替える構成となっている。
上左図で示すように作業用ピストン21が図中左方に移動し,右上図の反転位置
(ストローク端)まで到達すると,この到達を二方パイロット弁100が検知して,
三方弁の油圧を切り替える。
「到達」を検知するとは,ピストン21の「位置」を検知していることになる。
本件訂正発明1や甲3発明における検知も,ピストンのストローク端への到達を検
知することを,「ピストンの位置を検知する」としているからである。
したがって,甲4の「二方パイロット弁」も作業用ピストン21の位置を検知す
る機能を有しており,本件審決の甲4の二方パイロット弁は「作業用ピストン21
の位置を検知するセンサを構成するものではない。」との認定は誤っている。
そして,
「バネ力を油圧に換える」との甲4技術事項は,弁体(検出ロッド)を出
力部材側に進出させた状態に保持する手段に係る技術事項である。
甲4の「二方パイロット弁」も,甲3発明の「検出ロッド」も,出力部材側に進
出された状態を保持する手段が必要な構成(部材)であり,甲4の「二方パイロッ
ト弁」につき開示されている甲4技術事項を,甲3発明の「検出ロッド」に適用す
ることに支障はない。
「検出ロッド」を出力部材側に進出させた状態に保持する手段
を,
「バネ」から「油圧」に換えても,ピストンの後退端位置への到達を検知する機
能を阻害することはない。
したがって,両部材の機能・用途が異なることと,
「バネ力を油圧に換える」とい
う甲4技術事項の適用の可否は,技術的にも法的にも関係がない。
イ 用途・機能の共通性判断において,甲3発明の「検出ロッド」と甲4技
術事項(副引用発明)の間の共通性を検討せずに,甲4に記載の「二方パイロット
弁に設けられた差圧ピストン」との間で,用途・機能の共通性を検討し,その結果
用途・機能が異なるとした本件審決の判断は誤りである。
甲3発明(主引用発明)と,甲4技術事項(副引用発明)がいずれも「弁体(検
出ロッド)を出力部材側に進出させた状態に保持する手段に係る技術的事項」との
点において用途が共通し,いずれもピストンの位置を検知する機能を有するとの点
において,その機能も共通するものである。
(2)ア 装置の作動流体と制御用流体が異なる流体であっても,「検出ロッド」
や「二方パイロット弁」を出力部材側に進出させた状態に保持することには影響は
なく,使用流体が同一でなければならない理由はない。
甲4に接した当業者が,甲4技術事項が作動流体と制御用流体が同一の場合にし
か利用できない技術事項と認識することはない。
甲4の装置が「油圧と空圧のような別種類の流体をそれぞれ使用」していないこ
とは,技術的にも法的にも関係がない。
イ 「バネ力を油圧力に置き換える」という事項の適用に当たっては,駆動
流体に油圧が用いられていれば足りるのであり,制御流体が駆動流体と同一である
か,それとも異なっているかは無関係である。
(3)ア 本件訂正発明1において,具体的な油圧流体の経路やエア圧の経路の
形状及びルート(取り回し)は,クレームとして特定されていない。
本件審決は,甲3発明の「検出ロッド」を,甲4技術事項を開示した作業用流体
及び制御用流体ともに油圧流体を使用する構造の「差圧ピストン」
(二方パイロット
弁100,101)に置換することは,油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構
成につき,種々の複雑な変更を加える必要があるなどと判示するが,この判示は,
発明という技術的思想(無体物)を前提とした論理ではなく,具体的な製品製造レ
ベル(有体物)を前提とした論理であって,進歩性の判断としては根拠にならない
論理である。
イ 当業者は,
「材料の選択,設計変更等の通常の創作能力を発揮できる」者
である。
そして,圧力流体の経路及びエア圧の配置構成は,製品の設計に合わせて当業者
が適宜選択する典型的な設計事項である。それゆえ,本件訂正発明においても,
「エ
ア通路」及び「油圧導入路」の経路は一切特定されていない。
仮に,
「油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について,種々の複雑な変更
を加える必要があることは明らかであり(・・・),実際の適用に困難が伴うものと
認められる」
(本件審決25頁3行~6行)のであれば,本件訂正発明においても「エ
ア通路」及び「油圧導入路」の経路が特定されていない以上,サポート要件違反(特
許法36条6項1号)の無効理由を有することとなる。
すなわち,当業者が実施できるのは明細書の実施例及び図面に記載の「エア通路」
及び「油圧導入路」の範囲に限られるのにもかかわらず,これを特定しない広い範
囲で本件訂正発明の特許請求の範囲を規定していることから,明細書及び図面にサ
ポートされない範囲を含む発明となっていることになる。
そして,当業者であれば,容易に二つの構成が思い浮かぶ。どうして「実際の適
用に困難が伴う」のか,当業者には理解できない認定であるといわざるを得ない。
(4) 以上のとおり,相違点2は,当業者が容易に想到する事項であり,本件審
決は,相違点2の判断を誤ったものであって,この誤りは結論に影響を及ぼす。
第4 被告の主張
1 特許法29条2項は,同条1項各号に掲げる「発明」に基づいて出願に係る
発明を容易にすることができたかどうかを進歩性判断の基準として規定しており,
甲4に記載された発明(以下「甲4発明」という。)の前提となるべき必須の構成を
無視した上で特定の事項を都合よく抜き出して認定することは許されない。
甲4発明は,四方弁36のピストン45に作用する制御流体と,ピストン21に
作用する駆動流体とについて,圧力配管39から流入する加圧油を共通して用いる
ことによって,ピストン21とピストン45とに同じ圧力(P)を作用させるとい
うものであるから,加圧油を共通のものとすることは甲4発明の目的を達成するこ
とに必須の構成である。
原告の主張は,甲4発明における必須の構成を無視した上で都合のよい記載を無
理やり抜き出そうとするものであり,失当である。
2 「加圧エア」(エア通路)と「油圧」(油圧導入室)という2種類の媒体を一
つの「開閉弁機構」に導入することは,
「制御流体」と「駆動流体」とを共通のもの
とするという甲4発明の必須の構成に矛盾するものであるから,甲3発明に甲4事
項を適用して本件訂正発明を得ることに対する阻害要因が存在し,これを当業者が
容易に想到し得たとはいえない。
甲3発明の「検出ロッド」は,エアキャッチセンサでエア圧を測定することでピ
ストンの後退端位置への到達を検知する機構に用いられるのに対し,甲4の「二方
パイロット弁」は,作業用ピストン21を反転させる三方弁の切り換えスイッチの
役割を果たすものであり,両者の具体的な用途・機能は明確に異なる。
甲3発明の「検出ロッド」を,甲4技術事項を開示した作業用流体及び制御用流
体ともに油圧流体を使用する構造の「差圧ピストン」
(二方パイロット弁100,1
01)に置換することは,油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成につき,種々
の複雑な変更を加える必要があり,実際の適用には困難が伴うものであるから,当
業者が容易に想到し得たものではない。
第5 当裁判所の判断
1 本件訂正発明
(1) 本件訂正発明は,前記第2の2記載のとおりであるところ,本件訂正明細
書(甲2)には,以下の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,特に出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの所定の位置に達し
た際に,出力部材の動作に連動させてシリンダ本体内のエア通路の連通状態を開閉
弁機構により切換えエア圧の変化を介して前記出力部材の位置を検知可能にした流
体圧シリンダにおける位置検出装置に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1(判決注:特開2001-87991号公報)のクランプ装置では,
流体圧シリンダのピストン部材から操作ロッドを外部に突出させ,その操作ロッド
の下端部に設けた被検出部の上昇位置と下降位置を2つの位置センサで検出するた
め,流体圧シリンダの下側に被検出部の移動と位置センサの設置のための検出スペ
ースが必要となるため,クランプ装置(つまり,流体圧シリンダ)が大型化すると
いう問題がある。
【0008】
特許文献2(判決注:特開2003-305626号公報)のクランプ装置にお
いては,出力ロッドの上昇位置と下降位置とを検出する機構をクランプ本体の外側
に構成する。そのため,特許文献1のクランプ装置と同様に,クランプ本体の外部
に検出スペースが必要となるから,クランプ装置をコンパクトに構成することがで
きない。しかも,エア通路を開閉する検出具を検出孔に対して摺動自在に移動させ
る構造であるため,長期間使用した場合にエア通路を閉止する性能が低下する虞が
ある。
【0009】
特許文献3(判決注:特開2009-125821号公報)のクランプ装置のワ
ーク受け台のエア噴出口は,アンクランプ状態のとき,クランプ装置やクランプ対
象物の近傍部に開口しているので,機械加工の切粉やクーラント(切削液)がエア
噴出口に侵入して塞いでしまう虞がある。
【0010】
本発明の目的は,出力部材が所定の位置に達したことをシリンダ本体内のエア通
路のエア圧の圧力変化を介して確実に検知可能な位置検出装置を提供すること,出
力部材の所定の位置を検出する信頼性や耐久性を向上し得る位置検出装置を提供す
ることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の位置検出装置は,シリンダ本体と,このシリンダ本体に進退可能に装
備された出力部材と,この出力部材を進出側と退入側の少なくとも一方に駆動する
為の油室とを有する油圧シリンダにおける前記出力部材の位置を検出する位置検出
装置であって,前記シリンダ本体内に形成され且つ一端部に加圧エアが供給され他
端部が外界に連通したエア通路と,このエア通路を開閉可能な開閉弁機構とを備え,
前記開閉弁機構は,前記シリンダ本体に形成した装着孔に進退可能に装着された弁
体と,前記油室の油圧によって前記弁体を前記出力部材側に進出させた状態に保持
する油圧導入室と,前記油室と前記油圧導入室とを連通させる油圧導入路とを備え,
前記出力部材が所定の位置に達したときに,前記出力部材により前記弁体を移動
させて前記開閉弁機構の開閉状態を切り換え,前記エア通路のエア圧を介して前記
出力部材が前記所定の位置に達したことを検知可能に構成したことを特徴とする位
置検出装置。
・・・
【発明の効果】
【0018】
請求項1の位置検出装置によれば,シリンダ本体内のエア通路を開閉する開閉弁
機構を設け,この開閉弁機構は,弁体と油圧導入室と油圧導入路とを備え,弁体を
シリンダ本体に形成した装着孔に組み込むことで,開閉弁機構をシリンダ本体内に
組み込むことができるため,油圧シリンダを小型化することができる。
【0019】
前記油圧シリンダの油室の油圧を,開閉弁機構の油圧導入室に油圧導入路を介し
て導入可能に構成し,出力部材が所定の位置に達しない状態では,油室の油圧を利
用して弁体を油室側に突出した状態に保持することができ,開閉弁機構の開閉状態
を保持することができる。油室の油圧を利用して弁体を付勢するため,信頼性と耐
久性の面で有利である。
【0020】
出力部材が所定の位置に達したとき,出力部材により弁体を移動させて開閉弁機
構の開閉状態を確実に切り換えるため,前記エア通路のエア圧を介して出力部材の
所定の位置を確実に検知可能である。
・・・
【0059】
この油圧シリンダ1によれば,クランプ本体10内のエア通路21,22を開閉
する第1,第2開閉弁機構30,50を,シリンダ本体10に形成した装着孔36,
56に組み込むことで,第1,第2開閉弁機構30,50をクランプ本体10内に
組み込むことができるため,出力部材4の上昇限界位置と下降限界位置を検出可能
な油圧シリンダ1を小型化することができる。
【0060】
第1開閉弁機構30では,クランプ油室14内の油圧を油圧導入室33に導入し,
その油圧を弁体31に作用させて,弁体31を出力部材4側へ突出状態に保持でき
るため,信頼性と耐久性の面で有利である。第2開閉弁機構についても同様である。
出力部材4が所定の位置に達したときに,出力部材4により弁体31,51を移
動させて第1,第2開閉弁機構30,50の開閉状態を切換えるため,エア通路2
1,22のエア圧を介して出力部材4の所定の位置を確実に検知することができる。
(2) 以上の記載によると,本件訂正発明1について,以下のとおり認められ
る。
ア 本件訂正発明1は,出力部材が前進限界位置や後退限界位置などの
所定の位置に達した際に,出力部材の動作に連動させて,シリンダ本体内のエ
ア通路の連通状態を開閉弁機構により切り換え,エア圧の変化を介して出力部
材の位置を検知可能にした 流体圧シリンダにおける 位置検出装置に関するも
のである(【0001】)。
イ 本件訂正発明1は,①出力部材が所定の位置に達したことをシリン
ダ本体内のエア通路の エア圧の圧力変化を介することによって確実に検知可
能にし,②検出スペースをクランプ本体の外部に別途設けないことによって装
置の小型化を可能にし,③長期間の使用によりエア通路を閉止する性能が低下
しないようにするとともに,加工条件によってエア通路が閉止されないように
して,信頼性や耐久性を向上させることを目的として,請求項1の構成を採用
したものである(【0007】~【0011】)。
ウ 本件訂正発明1によると,①出力部材が所定の位置に達したと き,
出力部材により弁体を移動させて開閉弁機構の開閉状態を確実に切り 換える
ため,エア通路のエア圧を介して出力部材の所定の位置を確実に検知すること
ができる(【0020】,【0060】)。
また,本件訂正発明1によると,②開閉弁機構をシリンダ本体内のエア通路
を開閉するものとし,シリンダ本体に形成した装着孔に弁体を組み込むことで,
開閉弁機構全体をシリンダ本体内に組み込むことができるため,油圧シリンダ
を小型化することができる(【0018】,【0059】)。
さらに,本件訂正発明1によると,③油圧シリンダの油室の油圧を,開閉弁
機構の油圧導入室に油圧導入路を介して導入可能に構成し,その油室の油圧を
利用して弁体を油室側に突出した状態に保持することができるため,信頼性と
耐久性を向上させることができる(【0019】,【0060】)。
そして,本件訂正発明1において出力部材の位置検知が行われる仕組みは,
油圧シリンダ本体内に形成されたエア通路の一端部に加圧エアが供給され,他
端部が外界に連通しており,このエア通路を ,油圧シリンダの油室の油圧によ
って弁体を突出した状態に保持することができる 開閉弁機構が開閉可能にし
ていることから,出力部材が所定の位置に達したときに開閉弁機構の弁体を移
動させて,開閉弁機構の開閉状態を切り換え,それに伴いエア通路の外界への
連通が遮られて,エア通路のエア圧が上昇するため,このエア圧の上昇を検知
することによって出力部材が所定の位置に達したことを検知するものである
と認められる。
2 甲3発明
甲3の1~3,甲3の4,甲3の4の2によると,株式会社コスメック製「LL
-RM/RN リニアシリンダ」 本件特許の原出願日
が, (平成23年10月7日)
より前に製作販売され,公然実施されていたことが認められるところ,当該シリン
ダに係る発明(甲3発明)は,前記第2の3(1)のとおりであると認められる。
3 対比
本件訂正発明1と甲3発明の相違点は,前記第2の3(2)のとおりであると認め
られる。
4 相違点2の判断について(取消事由)
(1) 甲4に記載された事項
ア 甲4には,以下の記載がある。
(ア) 「本発明は,往復する流体圧装置の改良に関し,詳しくいえば,油圧
または空圧で連続的に往復移動されるピストンドライブに関し,特には,行程端位
置での低圧ピストンの移動によって制御圧力を反転させる複動ブースタに関する。
本発明は,圧力ブースタに限定されるものではなく,油圧または空圧で駆動される
作動器にも適用できるが,以下の記述では,主として複動式の圧力ブースタに限定
して説明する。(1頁9行~22行)
」
(イ) 「構造例に示された連続動作ピストンドライブは,油圧複動式の圧力
ブースタであって,図1に示すように,次のように構成される。低圧シリンダ20
は,往復するメイン又は作業ピストン21によって分割された作業空間またはメイ
ンシリンダ空間22及び23を備え,高圧シリンダ24,25が設けられると共に,
この実施例ではモータ駆動におけるピストンロッドの役割を果たす高圧ピストン2
6,27が設けられる。高圧流体は,逆止弁28,29と配管30,31とを交互
に通って消費ポイントに供給される。
高圧ピストン26,27は,戻りストローク中に,配管34,35内の逆止弁3
2,33を介して圧力媒体を吸い込む。上記配管34,35は,1つの四方弁36
(図1,2,4,5)又は二つの三方弁37,38(図9,12,13,15)に
よって,圧力流体配管39と回収容器41へ延びる戻し配管40とに,交互に接続
される。低圧シリンダ20の前記メインシリンダ空間22,23は,分岐または供
給管42,43を通って,圧力配管39と戻し配管40とに,交互に接続される。
この点は,全ての回路図で同様である。さらに,これらの回路図の全てにおいて,
上記の種々の空間の状態は,参照文字「p」又は「o」によって示され,それらが
正圧力「p」又は零圧力「o」であることを示している。(3頁26行~55行)
」
(ウ) 「 ・・・。これは,連通部98,99(図9)によって確保される。
エンドポジションへ到達する直前における圧カブースタの反転動作は,以下のよ
うに開始される。
(a) 2つの三方弁37,38のうちの一方の三方弁の制御室からの圧力の放
出
(b) 上記2つの三方弁のうちの一方の三方弁の上記制御室への圧力の付与
まず,上記(a)項の条件下で如何に動作し得るかを図9の回路で説明する。上
記の作業用ピストン21が左方ヘストロークしているときには,三方弁38の制御
室96及び管路94,99,43に圧力が無いのに対して,三方弁37の制御室9
6には管路93,98,42を介して圧力「p」が付与されている。連携された2
つの二方パイロット弁100,101は,上記ストローク中にバネの押す力で閉じ
られたままであり,管路98,99が前記の制御室を低圧シリンダ20へ延びる分
岐路42,43へ接続するので,上記の管路98,99が上記の圧力状態を確実に
保持する。
上記の作業ピストン21の左端位置における反転動作は,前記パイロット弁10
0の機械的な操作によってなされ,これにより,前記三方弁37の制御室が圧抜き
されると共に作業室23が圧力「p」を受け入れる。これと同時に,前記三方弁3
8の制御室に管路99を介して圧力が付与され,これにより,その弁が切換えられ
ると共に作業室22が圧抜きされる。上記移動の反転後,前記パイロット弁100
がバネの圧力によって休止位置へ復帰されるが,制御管路98は,前記三方弁37
の制御室が次の反転までは圧力を受けないようしている。前記の二方パイロット弁
100,101は,図10に示すように,バネの押し力が,ピストンの反対側に作
用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよい。上記バネの押し力
に代えて,図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えた
スライド弁を使用可能である。(5頁47行~97行)
」
(エ) 図1,9~11
イ 以上によると,甲4には,図10に示されたバネの圧力により,パイロ
ット弁100が休止位置に復帰されること,バネの押し力がピストンの反対側に作
用する圧力に基づく力よりも大きくなるように構成すればよいこと,バネの押し力
に代えて,図11に示されたような差圧ピストンの作用に基づく復帰動作を備えた
スライド弁を使用可能であることが記載されていると認められる。
(2) 容易想到性の判断
ア 甲3発明において,空気の圧力変化をエアキャッチセンサにより検知す
ることによりピストンの動作確認を行うとともに,検出ロッドを,バネによる押圧
力に代えて,油圧により,ピストン側に進出させた状態に保持するためには,油圧
流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について,複雑な変更を加える必要があり,
それに伴い,検出ロッド,キャップ,マニホールドの構造等についても,変更を加
える必要があると解されるから,当業者が,甲4に記載された事項を甲3発明と組
み合わせて前記相違点2に係る本件訂正発明1の構成にすることを動機付けられる
とは認められない。
イ 甲4の図10及び11においては,いずれも,流体の流入口は一箇所の
みであり,流出口は,図10では一箇所,図11では二箇所であるが,一つの回路
に集約されることが記載されている。甲3発明において,検出ロッドにつき,バネ
による押圧に代えて,油圧による押圧を可能とするためには,空気圧の変化をエア
キャッチセンサにより検知するためのエア通路とは別に,エア通路とは連通しない
検出ロッドの押圧のための油通路を設けなければならないことになるが,甲4には,
このように2種類の流体の通路を設置することについての記載はない。むしろ,甲
4では,四方弁36又は三方弁37,38とピストン21に作用する駆動流体につ
いて,圧力配管39から流入する加圧油を共通して用いることによって,双方に同
じ圧力を作用させるというものであるから,加圧油を共通のものとすることは,甲
4に記載された目的を達成するために必須の構成である。
そうすると,甲4に記載された事項を甲3発明と組み合わせて前記相違点2に係
る本件訂正発明1の構成にすることの動機付けはない。
ウ したがって,当業者が甲3発明及び甲4に記載された事項に基づいて本
件訂正発明1を容易に想到することができたとは認められない。
5 原告の主張について
(1) 原告は,甲4には,甲4技術事項が記載されており,甲3発明及び甲4技
術事項は,いずれも弁機構によって開閉される流路の圧力変化により,シリンダ以
外の機器を作動させる油圧装置に関する分野の発明であり,甲3発明の「検出ロッ
ド」と甲4の「二方パイロット弁」はピストンの位置を検知する機能で共通するか
ら,甲3発明に甲4技術事項を適用する動機付けがある旨主張する。
しかし,甲3発明と甲4に記載された事項を組み合わせて本件訂正発明1に至る
動機付けがあるかを判断するに当たっては,それぞれの発明,技術的事項の具体的
な構成に照らしてそれらを組み合わせる動機付けがあるかどうかを判断すべきであ
り,原告が主張する甲4技術事項というような抽象的なレベルにおける技術分野や
機能の同一性のみに基づいて動機付けがあると判断することはできない。
(2)ア 原告は,①本件審決は,甲4技術事項を適用することに支障がなく,阻
害要因がないのに,甲4技術事項ではなく,部材や装置の機能等の相違に基づき,
容易性を判断したという誤りがある,②甲4の「二方パイロット弁」は,本件訂正
発明1や甲3発明と同様に,作業用ピストン21の位置を検知する機能を有してお
り,また,甲4の「二方パイロット弁」も,甲3発明の「検出ロッド」も,出力部
材側に進出した状態を保持する手段が必要な部材であり,上記保持する手段をバネ
から油圧に換えても,上記機能を阻害することはなく,甲4の「二方パイロット弁」
と甲3発明の「検出ロッド」の機能・用途が異なることと,甲4技術事項の適用の
可否は関係がない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおりであって,原告の上記主張の前提となる判断枠組みを採
用することはできないから,原告の上記主張は,前記4の認定を左右しない。
イ 原告は,装置の作動流体と制御用流体が異なる流体であっても,
「検出ロ
ッド」や「二方パイロット弁」を出力部材側に進出させた状態に保持することには
影響はなく,使用流体が同一でなければならない理由はない旨主張する。
しかし,前記4(2)イのとおり,甲4において作動流体と制御流体が同一であるこ
とは,必須の構成であって,当業者が,甲3発明に甲4に記載された技術的事項を
組み合わせて本件訂正発明1を想到するということはできない。
(3) 原告は,本件訂正発明1において,具体的な油圧流体の経路やエア圧の経
路の形状及びルート(取り回し)は,クレームとして特定されていないところ,本
件審決は,発明という技術的思想(無体物)を前提とした論理ではなく,具体的な
製品製造レベル(有体物)を前提とした論理であって,進歩性の判断としては,根
拠にならない論理である旨主張する。
しかし,甲3発明における検出ロッドを押圧する駆動機構をバネから油圧に置き
換えるために,甲4の図11の構成を単純に適用すると,甲3発明における空気圧
の変化をエアキャッチセンサにより検知するためのエア通路も,油通路となり,本
件訂正発明1の構成にならないから,甲3発明における検出ロッドを押圧する駆動
機構をバネから油圧に置き換え,かつ,甲3発明におけるエア通路をそのままにし
ようとすると,エア通路とは連通しない検出ロッドの押圧のための油通路を設けな
ければならず,そのために,油圧流体の経路及びエア圧の経路の配置構成について,
複雑な変更を加える必要があり,それに伴い,検出ロッド,キャップ,マニホール
ドの構造等についても変更を加える必要がある。これは,甲3発明と甲4とでは単
にバネと油圧という違いがあるだけではなく,本件訂正発明1の構成要件にエア通
路と油圧導入路として含まれている経路の構成についての技術的思想が異なること
を述べたものであって,そのような点は,容易想到性の判断に当たって考慮するこ
とができるというべきである。このことは,本件訂正発明1が具体的な油圧流体の
経路やエア圧の経路の形状及びルートを特定していないとしても左右されるもので
はなく,また,上記の点を考慮することは,本件訂正発明1についてサポート要件
違反があるかどうかとは関係がないというべきである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
第6 結論
以上によると,原告の取消事由には理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
森 岡 礼 子
裁判官
古 庄 研
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