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平成30(行ケ)10022審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成30年12月26日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官加藤友也
原告コンパニーゼネラールデラン
対象物 トレッドが高トランス含量を有するエマルジョンSBRを含むタイヤ
法令 特許権
特許法29条2項2回
特許法17条の21回
キーワード 刊行物118回
実施79回
審決13回
優先権1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟 である。

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判決文

平成30年12月26日判決言渡
平成30年(行ケ)第10022号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年10月24日
判 決
原 告 コンパニー ゼネラール デ
エタブリッスマン ミシュ
ラン
同訴訟代理人弁護士 田 中 伸 一 郎
佐 竹 勝 一
山 本 飛 翔
同訴訟代理人弁理士 弟 子 丸 健
市 川 さ つ き
秋 澤 慈
和 田 幸 大
同訴訟復代理人弁理士 田 巻 文 孝
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 井 上 猛
加 藤 友 也
大 島 祥 吾
原 賢 一
板 谷 玲 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2016-16715号事件について平成29年10月2日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許出願拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟
である。
1 特許庁における手続の経緯
原告は,名称を「トレッドが高トランス含量を有するエマルジョンSBRを含む
タイヤ」とする発明につき,平成24年5月4日,特許出願(特願2014-50
9693号。優先権主張日 平成23年5月6日 フランス共和国。以下「本願」
という。)をしたが,平成28年7月27日付けで拒絶査定を受けた(甲8)。
原告は,同年11月8日,拒絶査定不服審判請求(甲9)をすると共に手続補正
をした(甲10。同補正を,以下「本件補正」という。。特許庁は,上記審判請求

を不服2016-16715号として審理し,平成29年10月2日,
「本件審判の
請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,同審決謄本
は,同月16日,原告に送達された。
2 本願発明の要旨
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおり
である(甲1,10)。
「トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして,50から100phrまでの,トランス
-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多
いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 必要により,第2のジエンエラストマーとして,0から50phrまでの他
のジエンエラストマー;
- 105から145phrまでのシリカ;
- 必要により,10phr未満のカーボンブラック
- 可塑化系
を含み,可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの,Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの,20℃で液体であり且つTgが-20℃
よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが,50と100phrの間にある,
ゴム組成物であって,
第2のジエンエラストマーとして,35から50phrまでのポリブタジエン(B
R)を含む場合を除く,前記ゴム組成物
を含んでいるタイヤ。」
3 本件審決の理由の要点
(1) 引用発明の認定
特表2004-518806号公報(甲5の2。 「刊行物1」
以下 という。 には,

以下の発明(以下「刊行物1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「タイヤトレッドを構成する為に使用できる架橋性又は架橋ゴム組成物であって,
前記組成物が一種以上のジエンエラストマーをベースとし,且つ前記ジエンエラス
トマーに混和性である少なくとも一種の炭化水素可塑化用樹脂を含み,前記樹脂が,
30℃~100℃のガラス転移温度(Tg)と400g/mol~2000g/m
olの数平均分子量を有するゴム組成物において,前記組成物が,5phr~35
phr(phr:エラストマーの100部当りの質量部)の量の前記炭化水素可塑
化用樹脂と,50phrより多く100phrまでの量の,-65℃~-10℃の
ガラス転移温度(Tg)を有する,エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエ
ンコポリマー及び50phr未満で0phrまでの量の,-110℃~-80℃の
ガラス転移温度(Tg)を有する,90%より多いシス-1,4結合含有量を有す
るポリブタジエンを含み,パラフィン系又は芳香族系の可塑化用油を更に含み,組
成物中の可塑化用油の合計量が30phr以下であり,強化充填剤として,シリカ
である強化白色充填剤を50~150phrの変動量で含むゴム組成物を,タイヤ
トレッドに用いた乗用車又は重量車両用タイヤ。」
(2) 本願発明と刊行物1発明との対比
ア 一致点
「トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして,50から100phrまでの,エマルジ
ョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 第2のジエンエラストマーとして,0から50phrまでの他のジエンエラ
ストマー;
- 105から145phrまでのシリカ;
- 0phrのカーボンブラック
- 可塑化系
を含み,可塑化系が:
- 10と35phrの間の含量Aの,Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と30phrの間の含量Bの,20℃で液体である可塑剤を含み;
- A+Bが,50と65phrの間にある,
ゴム組成物を含んでいるタイヤ。」
イ 相違点1
「本願発明では,第1のジエンエラストマーが,トランス-1,4-ブタジエニ
ル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多いと特定されている
のに対し,刊行物1発明では,そのような特定はない点。」
ウ 相違点2
「本願発明では,20℃で液体である可塑剤のTgが,-20℃より低いと特定
されているのに対し,刊行物1発明では,そのような特定はない点。」
エ 相違点3
「本願発明では,第2のジエンエラストマーが,35から50phrまでのポリ
ブタジエン(BR)を含む場合を除くと特定されているのに対し,刊行物1発明で
は,そのような特定はない点。」
(3) 相違点についての判断
ア 相違点1について
刊行物1には,刊行物1の請求項5及び7で特定されたエマルジョンで調製され
たスチレン-ブタジエンコポリマーの具体的な実施例(組成物I1)として,トラ
ンス結合含有量が72.1%のエマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコ
ポリマー(E-SBR A)が記載されている。
したがって,相違点1は,実質的な相違点とはいえないか,仮に相違するとして
も,当業者が容易に想到することができたものである。
イ 相違点2について
タイヤトレッドのゴム組成物中に用いられるパラフィン系又は芳香族系の可塑化
用油として,Tgが-20℃以下であるものは,周知の技術事項であるから,刊行
物1発明における可塑化用油として,上記周知の技術事項を適用し,Tgが-20℃
以下のものとすることは,当業者が容易に想到することができたものである。
また,刊行物1発明において,可塑化用油として,Tgが-20℃以下のものを
用いることによる効果も,格別顕著なものとはいえない。
ウ 相違点3について
刊行物1には,本願発明の「-65℃~-10℃のガラス転移温度(Tg)を有
する,エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマー」として,E-
SBR Aを80phr,
「-110℃~-80℃のガラス転移温度(Tg)を有す
る,90%より多いシス-1,4結合含有量を有するポリブタジエン」として,B
R-Aを20phr配合した実施例が記載されている。
ポリブタジエンが20phrであることを開示した上記摘示から,相違点3は,
実質的な相違点とはいえない。また,仮に相違するとしても,当該数値範囲を選択
することに,格別の技術的意義や臨界的意義を認めることができないから,本願発
明において特定される,ポリブタジエンの配合量の数値範囲である「50phr未
満で0phrまで」の中から,上記実施例に記載を基に,ポリブタジエンの配合量
を,0~35phrの数値範囲とすることは,当業者が容易に想到することができ
たものである。
(4) 以上のとおり,本願発明は,当業者が刊行物1発明及び周知の技術事項に
基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項により
特許出願の際独立して特許を受けることができない。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126
条7項に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条
1項により却下すべきものである。
(5) 前記のとおり,本願発明は,当業者が刊行物1発明及び周知の技術的事項
に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,本件補正前の発明も,
同様の理由により,当業者が刊行物1発明及び周知の技術的事項に基づいて容易に
発明をすることができたものである。
(6) 以上のとおり,本願の請求項1に係る発明は,特許法29条2項により特
許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもな
く,本願は拒絶すべきでものである。
第3 原告主張の審決取消事由(刊行物1に記載された発明及び相違点の認定の誤
り)
1 刊行物1には,エマルジョンで調整されたスチレン-ブタジエンコポリマー
(E-SBR)と高用量のシリカの組合せは記載されていないから,本件審決の刊
行物1に記載された発明の認定は誤りである。また,同認定の誤りにより,相違点
の認定にも誤りがあり,本願発明は,刊行物1に記載された発明及び周知の技術事
項に基づいて容易に発明することができたものではない。以下,詳述する。
なお,本願発明と刊行物1に記載された発明との間に前記第2の3(2)のとおり
の相違点があること,同相違点については,前記第2の3(3)のとおり,当業者が容
易に想到することができたものであることは認める。
(1) 刊行物1には,E-SBRとシリカの組合せは記載されていないことにつ
いて
ア 刊行物1には,E-SBRとシリカの組合せの選択は一切示されていな
いこと
刊行物1には,刊行物1発明に従う組成のゴム組成物をタイヤのトレッドとした
実施例が開示されている(段落【0030】~【0047】,表1~表5)が,同実
施例においては,ゴム成分がE-SBRのときは強化充填剤としてカーボンブラッ
クを使用し,シリカを使用するときはS-SBR(BRとのブレンドを含む。)又は
NR(天然ゴム)とBRのブレンド等を使用するのみであり,E-SBRとシリカ
の組合せは存在しない。
イ 刊行物1に基づいてE-SBRとシリカの組合せを選択することには阻
害事由が存在すること
(ア) シリカを使用するに当たっての技術的な問題の一つとして,シリカの
表面が親水性であるため,ゴム組成物中に均一に分散させることは困難であること
が知られていた(甲17の243頁~244頁の「3.1 シリカ配合の特長」,甲
19の271頁4行~10行) シリカは表面に多くのシラノール基を持ち,
。 炭化水
素系ポリマーであるゴムとの親和性が極めて低く,また,水素結合によりシリカ同
士が凝集してしまうため,シリカ単独では分散及び補強性を確保できない(甲19
の271頁4行~10行) 当業者は,
。 このゴム組成物へのシリカの分散の問題に対
してシランカップリング剤やシリカ表面改質など様々な技術の開発を試みており,
シリカ配合に適したポリマーの開発も行われてきた。その中でアニオン重合開始剤
を用いた溶液重合反応(S-SBR)は,スチレン及びブタジエン含量,シス型ト
ランス型などのマイクロ構造の制御が可能であり,分子量がそろったポリマーを得
ることができることに加え,重合中のポリマー主鎖末端がリビング性を有し,ポリ
マー末端変性が可能なため,シリカとの組合せにおいては,改質可能なS-SBR
が専ら用いられてきた。そうであるから,刊行物1においても,E-SBRと組み
合わせられた強化充填剤は,カーボンブラックであって,シリカではなかった。
(イ) 永田裕「ゴムの工業的合成法 第3回 スチレンブタジエンゴム」日
本ゴム協会誌88巻8号43頁~48頁[2015年]
(甲20。 「甲20文献」
以下
という。 には,
) E-SBRとシリカの組合せよりもS-SBRとシリカの組合せの
方が,耐摩耗性,ウェットグリップ性,燃費性が向上すること,末端変性S-SB
R(S-SBRにシリカとの親和性の高い官能基を導入したもの)では,更に耐摩
耗性,ウェットグリップ性能及び燃費性が向上することが開示されている(甲20
の47頁,表8)。
したがって,刊行物1を見た当業者が,E-SBRと組み合わせる強化充填剤と
して,カーボンブラックを0phrとし,シリカを選択することはありえない。
(ウ) また,Michel Nardin 他「Powders and Fibers: Interfacial Science
and Applications」surfactant science series Vol.137[2006年](甲21。
以下「甲21文献」という。)には,「他の理由の中で,劣った耐摩耗性はESBR
におけるシリカのカギとなる欠点である。この劣った特性は,その弱いポリマー-
充填剤相互作用による。それは図3.23に図示されるように,SSBRと違って
結合反応で補償されることができない。高濃度のカップリング剤を使用しても,耐
摩耗性はカーボンブラックコンパウンドのそれには大きく及ばない。」との記載が
ある(160頁24行~29行)。
そして,甲21文献の図3.23によると,E-SBRとS-SBRのそれぞれ
をカーボンブラック又はシリカと組み合わせた場合の耐摩耗性について,E-SB
Rとシリカを組み合わせると,E-SBRとカーボンブラックと組み合わせた場合
と比べて耐摩耗性が大きく損なわれることが分かる。また,シリカと組み合わせる
ことによる耐摩耗性の減少の程度は,S-SBRを使用した場合よりもE-SBR
で大きいことが分かる。
さらに,特公平5-80503号公報(甲22。以下「甲22文献」という。)の
表4,表5及び斉藤章「溶液重合SBR」日本ゴム協会誌71巻6号41頁~49
頁[1998年](甲23。以下「甲23文献」という。)の表5にも,E-SBR
とシリカの組合せは,E-SBRとカーボンブラックの組合せやS-SBRとシリ
カの組合せに比べ,耐摩耗性が悪くなることが示されており,E-SBRとシリカ
の組合せが耐摩耗性を阻害することは技術常識といえる。
(エ) 刊行物1に記載された発明は,公知のタイヤに比べて改善された耐摩
耗性を有するタイヤトレッドの組成物に共通の欠点であった「ローリング抵抗及び
グリップ,更に耐摩耗性における改善での相対的な不均衡性」を解決することを目
的とするものであり,このように,耐摩耗性の改善を目的とする刊行物1において,
耐摩耗性が大きく損なわれるE-SBRとシリカの組合せを選択することには阻害
事由が存在する。
(2) 刊行物1には,E-SBRと高用量のシリカの組合せは記載されていない
ことについて
本願発明は,シリカの用量を105~145phrと,高用量のものに限定して
いる。
この点,本件審決は,刊行物1の段落【0007】の「本発明の組成物は,又,
50~150phrの変動量で前記組成物中に存在しても良い強化充填剤を含む。」
との記載を根拠に,本願発明の上記のシリカの用量は刊行物1に記載されていると
している。
しかし,上記の「50~150phrの変動量で前記組成物中に存在しても良い。」
との記載は「105~145phr」よりも広い範囲を示しているのであり,本願
発明の限定を開示していない。
また,刊行物1において,強化充填剤は,シリカに限定されず,カーボンブラッ
ク,アルミナ等も挙げられており,それぞれ性状が異なり,当然強化充填剤として
の効果,機能も同一ではないから,上記記載における50~150phrの変動量
がシリカに関するものであるかは分からないところ,シリカの含有量として刊行物
1に現実に示されているのは,最高がS-SBRとの組合せで90phr,他には
NR等との組合せで65phr,カーボンブラックとのブレンドで使用されるとき
には45phrとの値であるから,上記記載からシリカの用量を「105~145
phr」に限定するとの構成が開示されていると認められない。
さらに,甲22文献によると,高用量のシリカ(110phr)を使用すると耐
摩耗性が低下する。すなわち,甲22文献の実施例11と比較例8は,いずれもゴ
ム成分として末端変性S-SBRであるポリマーGを80部及びE-SBRである
#1500を20部含むが,シリカを40部含む実施例11に対し,シリカを11
0部含む比較例8では耐摩耗性が131から91となっている。
したがって,耐摩耗性の向上を目的とする刊行物1の記載を見て,当業者が現実
に記載されている90phr以上の高用量のシリカをゴム組成物に含有させるとい
うことはあり得ず,刊行物1には,高用量のシリカをゴム組成物に含有させること
は記載されていない。
2 被告の主張について
(1) 被告は,刊行物1の請求項14の記載を見ると,E-SBRとシリカの組
合せも開示されていると主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物1の具体的記載においては,ゴム成分がE-SB
Rのときは強化充填剤としてカーボンブラックを使用し,シリカを使用するときは
S-SBR(BRとのブレンドを含む。)又はNR(天然ゴム)とBRのブレンド等
を使用するのみであるから,被告の上記主張は理由がない。
(2) 被告は,特開2002-161170号公報(乙1。以下「乙1文献」と
いう。,特開2009-29991号公報(乙2。以下「乙2文献」という。,国
) )
際公開2010/126095号(乙3の1。以下「乙3の1文献」という。)及び
特開2005-23295号公報(乙4。以下「乙4文献」という。)を根拠に,本
願の優先日において,タイヤトレッドを構成するために用いられるゴム組成物とし
て,E-SBRとシリカを組み合わせたもの,さらには,そのシリカの含量を「1
05から145phr」程度としたものは,技術常識として広く知られており,こ
のような技術常識も踏まえると,当業者は,刊行物1に,E-SBRとシリカを組
み合わせた発明が記載されていると認識すると主張する。
ア しかし,E-SBRとシリカを組み合わせたものが乙1文献~乙4文献
に存在していたからといって,また,その組合せがよく知られていたからといって,
当業者は,刊行物1に,E-SBRとシリカを組み合わせた発明が記載されている
と認識するということはない。
イ また,乙1文献~乙4文献には,ゴム成分にE-SBRが含まれ,強化
充填剤としてシリカを用いることが示されているとしても,①乙1文献は,E-S
BRの分子量を大きくすること,②乙2文献は,低分子量蛋白質であるペプトンを
添加剤として用いること,③乙3の1文献は,特定構造の含水ケイ酸(シリカ)と
特定のシランカップリング剤を一定の数値範囲の質量で用いること,④乙4文献は,
38~50重量%の特定のTgのS-SBR,20~40重量%の特定のTgのE
-SBR及び10~35重量%のポリブタジエンの3成分のジエンエラストマーを
使用することをそれぞれ特徴としている。刊行物1に記載された発明は,このよう
な特徴的な構成はどれも有していないのであるから,乙1文献~乙4文献のように,
ゴム成分としてE-SBRを含み,強化充填剤としてシリカを用いる構成を適用す
ることはしないし,刊行物1をそのように読むことはない。
ウ さらに,以下のとおり,乙1文献~乙4文献は,E-SBRのゴム成分
に,強化充填剤として「105~145phr」という高用量のシリカを用いてい
ることを示す文献ではない。
(ア) 乙1文献には,「配合されるシリカはゴム成分100重量部に対して,
30重量部~120重量部,好ましくは30重量部~100重量部である。(段落

0023)との記載はあるが,具体的な実施例において使用されているシリカはせ
いぜい75重量部である。
(イ) 乙2文献には,本願発明において規定するような105~145ph
r(ゴム成分100重量部に対して105~145重量部)の高用量のシリカの配
合については記載されていない。また,具体的な実施例では,比較例1のシリカの
配合量(75phr)が最も多く,実施例1から5にかけてシリカの配合量を減ら
し,ペプトンの添加量を増やす実験を行っているのみである。
(ウ) 乙3の1文献においては,実施例1~16(段落【0090】表3)
のわずか1例において,高用量(105.6phr:140/(20+82.5+
30)×100)の含水ケイ酸(シリカ)を使用しているが,若干用量を多く11
3.2phr(150/(20+82.5+30)×100:比較例6(段落【0
089】表2)とすると,一般的にはシリカ(含水ケイ素)の分散性を高めるもの
とされているシランカップリング剤の用量を増やしても,転がり抵抗が非常に劣化
し,耐摩耗性も悪化している。そして,上記の表3の他の実施例をみると,多くは
60phr(80/(20+82.5+30)×100)で転がり抵抗と耐摩耗性
等において良好な結果を出しており,乙3の1文献は,ゴム成分100重量部に対
して105~145重量部という高用量のシリカの配合を提案するものとはいえな
い。
(エ) 乙4文献では,請求項1でエラストマー成分100質量部に対してシ
リカを「10~100質量部」用いると記載され,具体的な実施例の配合処方1~
3(表1)では86質量部(86phr)あるいは85質量部(85phr)用い
たことが記載されているだけであり,本願発明が限定する105~145phrと
いう高用量のシリカの配合を開示するものではない。
エ したがって,被告の上記主張は理由がない。
(3) 被告は,ジエンエラストマーと強化充填剤の組合せとしてどのようなもの
を用いるかは,その組合せによる利点や欠点を考慮しつつ,タイヤの用途や求めら
れる特性等に応じて,当業者が適宜決定し得ることであると主張する。
しかし,問題は,耐摩耗性の改善を目的とする刊行物1にいかなる発明が記載さ
れているのかであり,被告の主張は理由がない。
(4) 被告は,当業者は,刊行物1に記載された発明において,E-SBRとシ
リカを組み合わせた場合には,その組合せによる利点が得られるとともに,さらに,
特定範囲のTgを有する樹脂を添加することによる所定の効果(ローリング抵抗,
タイヤの乾燥又は湿った地面でのグリップに大きく悪い影響を及ぼすことなしに,
耐摩耗性が改善されるとの効果)が得られると理解する,刊行物1に記載された発
明が,タイヤトレッドの耐摩耗性を改善できるゴム組成物を得ることを目的とする
ものであって,E-SBRとシリカの組合せが,E-SBRとカーボンブラックの
組合せに比べて,耐摩耗性が悪くなってしまうことが知られていたとしても,その
ことは,当業者がE-SBRとシリカを組み合わせることを断念するほどの事情で
あるとはいえないと主張する。
しかし,刊行物1記載の発明の課題が,耐摩耗性の改善にある以上,当業者が,
刊行物1の記載に反し,あえて,耐摩耗性が悪くなる組合せであるE-SBRとシ
リカを組み合わせることは考えられない。
(5) 被告は,本願の明細書(甲1。以下「本件明細書」という。)の記載による
と,シリカの含有量が「100」である「C.6;T.6」の方が,シリカの含有
量が「120」である「C.7;T.7」に比べて総合的に優れているといえるか
ら,シリカの含有量の数値範囲(特に下限値)の技術的意義を読み取ることは困難
であると主張する。
ア しかし,実施例「C.6;T.6」と「C.7;T.7」を比較しての
被告の指摘は,本願発明の作用効果との関係で,シリカの含有量について「120」
と「100」の間に臨界的意義はないというだけである。なお,前者が後者より総
合的に優れているかについては,シリカの量以外に,エラストマー成分(BR,N
R),樹脂,液体可塑剤など様々な量が異なっており,直接比較できない。
イ そして,本件明細書によると,特定の可塑化系を含むゴム組成物におい
て,ゴムの主成分としてE-SBRをゴム質量全体の半分以上の質量分用い,強化
充填剤として,シリカをゴム質量全体以上,すなわち「100」以上の質量分用い
ることによって,トレードオフの関係にある転がり抵抗を損なうことなく,ウェッ
トグリップ性能を向上させることができることが,従来の組成物からなるタイヤで
ある「C.1;T.1」及び「C.2;T.2」との比較により,明確に示されて
いる。シリカの含有量がその数値範囲(特に下限値)にあれば,本願発明の作用効
果を有するのであり,数値範囲を限定することの技術的意義は明確である。
ウ このように,シリカの含有量が105phrを下回るかどうかはともか
く,ゴム質量全体と同程度以上の質量割合の用量のシリカを用いれば発明の作用効
果を奏することが明確に記載されており,これが「高用量」の意味である。
エ したがって,被告の上記主張は理由がない。
第4 被告の主張
1 刊行物1には,E-SBRとシリカの組合せが記載されていること
(1)ア 刊行物1の特許請求の範囲の請求項1には,タイヤトレッドを構成する
ために使用できる架橋性又は架橋ゴム組成物として,①50phrより多く100
phrまでの量の,
「-65℃~-10℃のガラス転移温度(Tg)を有する一種以
上のジエンエラストマー」及び②50phr未満で0phrまでの量の,「-11
0℃~-80℃のガラス転移温度(Tg)を有する一種以上のジエンエラストマー」
を含むものが記載されている。
上記請求項1を引用する請求項5には,上記ゴム組成物として,上記①のジエン
エラストマー及び上記②のジエンエラストマーとのブレンドを含むものが記載され,
上記請求項5を引用する請求項7には,上記①のジエンエラストマーとして「エマ
ルジョンで調製された少なくとも一種のスチレン-ブタジエンコポリマー」と,上
記②のジエンエラストマーとして「90%より多いシス-1,4結合含有量を有す
る少なくとも一種のポリブタジエン」とのブレンドを含むものが記載されている。
上記請求項7を引用する請求項14には,上記ゴム組成物において,強化充填剤
として「強化白色充填剤」を含むものが記載されている。
そして,上記請求項14を引用する請求項16及び同請求項を引用する請求項1
7の記載によると,これらの請求項には,上記ゴム組成物をタイヤトレッドに用い
た乗用車又は重量車両用タイヤが記載されているといえる。
イ 刊行物1には,上記請求項14における「強化充填剤」について,
「50
~150phrの変動量で前記組成物中に存在」すること(段落【0007】)が記
載され,同「強化白色充填剤」について,好ましくは「シリカ(SiO2)」である
こと(段落【0009】)が記載されている。
また,刊行物1には,「強化白色充填剤」について,「中間体カップリングシステ
ム以外の如何なる手段も用いる事無しに,タイヤの製造を意図したゴム組成物を強
化する事のできる,換言すれば,その強化機能において通常の充填剤のタイヤグレ
ードのカーボンブラックを置換える事のできる充填剤」であること(段落【000
8】,特に高分散性沈降シリカが好ましいこと(段落【0009】
) )が記載され,そ
のようなシリカとして,各種の市販品が挙げられている(段落【0010】。

さらに,刊行物1には,強化充填剤として強化白色充填剤が使用される場合は,
ゴム組成物が,強化白色充填剤/エラストマーマトリック結合剤(カップリング剤)
を含むこと(段落【0015】)も記載されている。
このように,刊行物1には,強化充填剤として「シリカ」である「強化白色充填
剤」を用いる場合について,単なる一行記載ではなく,具体的な説明がされている。
なお,シリカは,ホワイトカーボンとも呼ばれ,タイヤ用の強化充填剤として,
カーボンブラックと並んで,従来から広く使用されてきたものである(甲19の2
66頁,270頁)から,当業者は,刊行物1の「強化白色充填剤」との記載から,
直ちにそれがシリカであると理解するともいえる。
ウ 刊行物1に記載された発明は,特に改善された耐摩耗性を有するトレッ
ドを構成するために使用することのできる架橋性又は架橋ゴム組成物,及びこのト
レットを導入したタイヤを提供することを目的とし,さらには,公知のタイヤトレ
ッド組成物に共通の欠点とされる「ローリング抵抗及びグリップ,更に耐摩耗性に
おける改善での相対的な不均衡性」を解決することを目的としたものである。そし
て,このような目的を達成するために,刊行物1の特許請求の範囲の欄の請求項1
に記載されるように,特定範囲のTgを有する複数のジエンエラストマーのブレン
ドに,特定範囲のTgを有する樹脂を添加することにより,ローリング抵抗,タイ
ヤの乾燥又は湿った地面でのグリップに大きく悪い影響を及ぼすことなしに,耐摩
耗性を改善するものである。
以上のように,刊行物1に記載された発明は,特定範囲のTgを有する複数のジ
エンエラストマーのブレンドに,特定範囲のTgを有する樹脂を添加することによ
って,課題が解決されるものであって,ジエンエラストマーと強化充填剤との組合
せによって,課題が解決されるものではないことも考慮すると,当業者は,刊行物
1に記載された発明におけるジエンエラストマーと強化充填剤との組合せとして,
S-SBRとシリカの組合せも,E-SBRとシリカの組合せも,いずれもが記載
されていると理解するといえる。このことは,刊行物1にこれらを組み合わせた実
施例が存在しないとしても,変わるものではない。
エ したがって,刊行物1には,E-SBRとシリカを組み合わせる構成が
記載されているといえる。
(2) また,タイヤトレッドを構成するために用いられるゴム組成物としては,
溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマー(S-SBR)とシリカを組み
合わせたものと同様に,E-SBRとシリカを組み合わせたもの(さらには,その
シリカの含量を「105から145phr」程度としたもの)も,本願優先日当時,
技術常識として広く知られたものである。
例えば,乙1文献の特許請求の範囲【請求項1】,段落【0001】,乙2文献の
特許請求の範囲【請求項1】,
【表1】 乙3の1文献の特許請求の範囲
, [請求項1],
段落[0023][表2][表3]
, , ,乙4文献の段落【0036】,段落【0040】
には,E-SBRとシリカの組合せが記載されている。
したがって,刊行物1の実施例に,E-SBRとシリカを組み合わせたものが存
在しないとしても,当業者は,刊行物1に,E-SBRとシリカを組み合わせた発
明が記載されていると認識することは,明らかである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,ゴム組成物へのシリカの分散の問題に対して,シリカ配合に適
したポリマーの開発も行われてきたが,その中で,アニオン重合開始剤を用いた溶
液重合反応(S-SBR)は,ポリマー末端変性が可能なため,シリカとの組合せ
においては,改質可能なS-SBRが専ら用いられてきたというのが,本願の優先
日当時の技術常識であったから,当業者が,上記技術常識に反して,刊行物1に基
づき,E-SBRとシリカの組合せを選択することは,あり得ないと主張する。
しかし,S-SBRとシリカの組合せも,E-SBRとシリカの組合せも,いず
れも,本願の優先日当時,技術常識として広く知られていた。
また,ジエンエラストマーと強化充填剤の組合せによって,様々な利点や欠点が
あることは,自明のことであり,このことは,E-SBRとシリカの組合せについ
ても同様である(乙4の段落【0004】。ジエンエラストマーと強化充填剤の組

合せとしてどのようなものを用いるかは,その組合せによる利点や欠点を考慮しつ
つ,タイヤの用途や求められる特性等に応じて,当業者が適宜決定し得ることであ
る。
したがって,当業者がE-SBRとシリカの組合せを選択することはあり得ない
ということはない。
イ また,原告は,E-SBRとシリカの組合せは,E-SBRとカーボン
ブラックの組合せに比べて,耐摩耗性が悪くなってしまうことが知られていたから,
当業者が,耐摩耗性の改善を目的とする刊行物1において,E-SBRとシリカの
組合せを選択することには,阻害事由が存在すると主張する。
しかし,刊行物1に記載された発明は,特定範囲のTgを有する複数のジエンエ
ラストマーのブレンドに,特定範囲のTgを有する樹脂を添加することにより,ロ
ーリング抵抗,タイヤの乾燥又は湿った地面でのグリップに大きく悪い影響を及ぼ
すことなしに,耐摩耗性を改善するものであり,このことは,E-SBRとシリカ
を組み合わせた場合についても,同様と解される。
したがって,当業者は,刊行物1に記載された発明において,E-SBRとシリ
カを組み合わせた場合には,その組合せによる利点が得られるとともに,さらに,
特定範囲のTgを有する樹脂を添加することによる所定の効果(ローリング抵抗,
タイヤの乾燥又は湿った地面でのグリップに大きく悪い影響を及ぼすことなしに,
耐摩耗性が改善されるとの効果)が得られると理解する。
また,仮に,刊行物1に記載された発明が,タイヤトレッドの耐摩耗性を改善で
きるゴム組成物を得ることを目的とするものであって,E-SBRとシリカの組合
せが,E-SBRとカーボンブラックの組合せに比べて,耐摩耗性が悪くなってし
まうことが知られていたとしても,そのことは,当業者がE-SBRとシリカを組
み合わせることを断念するほどの事情であるとはいえない。
以上のとおりであるから,阻害事由は存在しない。
2 刊行物1には,高用量のシリカをゴム組成物に含有させることが記載されて
いること
(1) 以下のとおり,本願発明におけるシリカの含有量の数値限定に技術的意義
はない。
ア シリカの含有量の数値範囲(上限値及び下限値)の技術的意義について,
本件明細書には,「無機補強充填剤(例えばシリカ)を90から150phrまで,
好ましくは105から145phrまでの割合で含む本質的特徴を有する。(段落

【0010】 と記載されているだけであり,
) 低用量のシリカを使用する場合に比べ
て,高用量のシリカを使用する場合に,どのような点で好ましいのか,具体的な説
明は何らされていない。
イ また,本件明細書の実施例「C.6;T.6」は,シリカの含有量が「10
0」であり,同実施例「C.3~5,7;T.3~5,7」は,シリカの含有量が「1
20」であるが,これらは,ジエンエラストマーの成分及び含有量が異なるほか,
可塑化系(樹脂及び液体可塑剤)の含有量も異なっているから,これら実施例の結
果(表2)を単純に比較することはできない。
仮に,上記実施例の結果を単純比較するとしても,例えば,シリカの含有量が「1
00」である実施例T.6(ウェットグリップ性「110」,転がり抵抗「100」)
の方が,シリカの含有量が「120」である実施例T.7(ウェットグリップ性「1
09」,転がり抵抗「98」)に比べて,総合的に優れているといえる。
ウ したがって,本件明細書の記載から,シリカの含有量の数値範囲(特に
下限値)の技術的意義を読み取ることは,困難である。
(2) 刊行物1には,ゴム組成物に含まれる「強化充填剤」について,
「50~1
50phrの変動量で前記組成物中に存在」すること(段落【0007】)が記載さ
れている。そして,このような「強化充填剤」として,刊行物1の特許請求の範囲
の請求項14及び段落【0008】~【0010】には,
「強化白色充填剤」が挙げ
られ,好ましくは「シリカ(SiO2)」であること(段落【0009】)が記載され
ている。なお,当業者は,
「強化白色充填剤」との記載から,直ちにそれがシリカで
あると理解する。このような刊行物1の記載によると,「50~150phr」が,
シリカである強化白色充填剤の用量であると理解するのが自然である。
したがって,刊行物1に,強化充填剤として,シリカである強化白色充填剤を5
0~150phrの変動量(すなわち,高用量)で含むことが記載されていること
は,明らかである。
(3) 原告は,甲22文献によると,高用量のシリカ(110phr)を使用する
と耐摩耗性が低下するから,耐摩耗性の向上を目的とする刊行物1の記載をみて,
当業者が現実に記載されている90phr以上のシリカをゴム組成物に含有させる
ことはあり得ないと主張する。
ア しかし,刊行物1に記載された発明は,特に改善された耐摩耗性を有す
るトレッドを構成するために使用することのできる架橋性又は架橋ゴム組成物,及
びこのトレッドを導入したタイヤを提供することを課題とし,さらには,公知のタ
イヤトレッド組成物に共通の欠点とされる「ローリング抵抗及びグリップ,更に耐
摩耗性における改善での相対的な不均衡性」を解決することを課題としたものであ
る。そして,このような課題を解決するために,
「特定のTgを有する複数のジエン
エラストマーのブレンドに,特定範囲のTgを有する樹脂を添加する」という解決
手段を採用することにより,ローリング抵抗,タイヤの乾燥又は湿った地面でのグ
リップに大きく悪い影響を及ぼすことなしに,耐摩耗性を改善するものである。刊
行物1に記載された発明において,高用量のシリカを使用した場合についても,上
記解決手段を採用することにより,採用しない場合に比べて,ローリング抵抗等に
大きく悪い影響を及ぼすことなしに耐摩耗性が改善され,上記課題が解決できるこ
とは明らかである。
イ タイヤトレッドを構成するために用いられるゴム組成物において,高用
量のシリカを使用することは,一般に行われていることである。
例えば,乙1文献には,「30重量部~120重量部」(請求項1)と記載され,
乙3の1文献には,「20~150質量部」(請求項1)「105.6phr(=1

40/(20+82.5+30)×100)(表3の実施例10)と記載されてい

る。
ウ 原告が主張するように,高用量のシリカの使用が耐摩耗性を低下させる
ものであるとしても,そのことは,当業者が,刊行物1に90phr以上のシリカ
を使用する発明が記載されていると認識することを,直接妨げるものではない。
むしろ,刊行物1に記載された発明において,このような耐摩耗性が十分とはい
えない高用量のシリカを使用する場合にこそ,耐摩耗性を改善する上記解決手段(特
定範囲のTgを有する複数のジエンエラストマーのブレンドに,特定範囲のTgを
有する樹脂を添加すること)がその意義・効果を発揮すると,当業者は理解すると
いえる。
エ したがって,刊行物1の記載に接した当業者は,刊行物1の実施例で用
いられた90phr以上のシリカを使用する発明も,刊行物1に記載された発明で
あると認識することができるから,原告の上記主張は理由がない。
3 以上のとおり,刊行物1には,E-SBRと高用量のシリカの組合せが記載
されていると認められ,本件審決の刊行物1に記載された発明の認定に誤りはない
から,本願発明と刊行物1に記載された発明との相違点の認定にも誤りはない。
第5 当裁判所の判断
1 本願発明
本件明細書には,以下の記載がある(甲1)。
【技術分野】
【0001】
本発明は,タイヤトレッド及びそのようなタイヤトレッドの製造に使用し得るジ
エンエラストマーをベースにしたゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤトレッドは,知られているように,低転がり抵抗,高耐摩耗性及び高ドラ
イグリップと高ウェットグリップの双方が含まれる多くのしばしば相反する技術的
要求に応じなければならない。
特に転がり抵抗と耐摩耗性の観点からの特性におけるこの妥協は,特に,補強力
の観点から従来のタイヤグレードカーボンブラックに対抗できる補強充填剤として
記載される特定の無機充填剤,特に高分散性シリカ(HDS)によって主に補強され
ている特徴を有する新規な低ヒステリシスゴム組成物の使用によって,特に乗用車
を意図した省エネルギー「グリーンタイヤ」に関して近年改善することができた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
転がり抵抗を損なうことまでのない,特にウェット路面に対するグリップ特性の
改善が,現在,タイヤ設計者の継続的な関心である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この研究を続けているときに,出願人は,タイヤトレッドとして,上記の目的を
達成することを可能にする特定のゴム組成物を発見した。
従って,本発明の第1の主題は,トレッドが少なくとも:
- 第1のジエンエラストマーとして,40から100phrまでの,トランス-
1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエニル単位の全体の50質量%よりも多
いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー「E-SBR」;
- 必要により,第2のジエンエラストマーとして,0から60phrまでの他の
ジエンエラストマー;
- 90から150phrまでの無機補強充填剤;
- 可塑化系
を含み,可塑化系が:
- 10と60phrの間の含量Aの,TGが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
- 10と60phrの間の含量Bの,20℃で液体であり且つTgが-20℃
よりも低い可塑剤を含み;
- A+Bが45phrよりも多い,
ゴム組成物を含んでいるタイヤである。
本発明のタイヤは,特に,4×4車(四輪駆動を有する)及びSUV車(スポーツ用
多目的車)が含まれる旅客輸送タイプの自動車,二輪車(特にオートバイ)だけでな
く,特にバン及び大型車両,例えばバス又は大型運搬車両,例えばローリーから選
ばれる産業車両に装着することを意図する。
本発明及びその利点は,以下の説明及び実施例に照らして容易に理解されるであ
ろう。
【発明を実施するための形態】
【0005】
・・・
従って,本発明のタイヤは,そのトレッドが少なくとも1つの特定のエマルジョ
ンスチレン/ブタジエンコポリマー,少なくとも1つの無機補強充填剤及び少なく
とも1つの特定の可塑化系を含むゴム組成物を含んでいる本質的特徴を有し,これ
らの成分を以下に詳細に記載する。
【0006】
Ⅰ.1- ジエンエラストマー
本発明のタイヤのトレッドの組成物は,第1のジエンエラストマーとして,40
から100phrまでの,トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量がブタジエ
ニル単位(確認として,1,2-,シス-1,4-及びトランス-1,4-単位)の
全体の50質量%よりも多いエマルジョンスチレン/ブタジエンコポリマー(E-S
BR)を含む本質的特徴を有する。好ましくは,このトランス-1,4-含量は,ブ
タジエニル単位の全体の60質量%よりも多く,より好ましくは60%と80質
量%の間にある。
本発明の他の好ましい実施態様によれば,上記のE-SBRのスチレン含量は,
多くても50%(E-SBRの質量%),より好ましくは10%と50%の間,なお
より好ましくは20%から45%までの範囲にある。
E-SBRコポリマーとしても知られるエマルジョンSBRコポリマーは,タイ
ヤ及びゴムの当業者によく知られているコポリマーである。エマルジョンSBRコ
ポリマーは,特にスチレンブロックとブタジエンブロックを含む熱可塑性タイプの
コポリマーと対照的に,ランダムジエンコポリマーであり; エマルジョンSBRコ
ポリマーは,一般的にはコールドプロセスに従って,水及び乳化剤の存在下でエマ
ルジョンとして重合される。特に,1500シリーズ(油で増量されていない)又は
1700のシリーズ(油で増量されている,例えばSBR 1723,SBR 173
2,SBR 1739))が挙げられ得る。これらのTgは,好ましくは-65℃と-
25℃の間にある。
【0007】
当業者は,スチレン及びブタジエンをベースにしたコポリマー,特にE-SBR
のミクロ構造をどのように変性させるかを知っており,特に,スチレン,ブタジエ
ン部分の1,2-結合又はトランス-1,4-結合の含量を変化させることによっ
て,コポリマーのTgを上げ調整する。
好ましくは,ゴム組成物において,第1のジエンエラストマーの含量は,45か
ら100phrまで,より好ましくは50から100phrまでの範囲にある。
上記のE-SBRコポリマーは,必要により,第1のジエンエラストマーと異な
る(すなわち,トランス-1,4-ブタジエニル単位の含量が50%よりも多いE-
SBRコポリマーと異なる)少なくとも1つの第2のジエンエラストマーと組み合
わせることができ,前記第2のジエンエラストマーはその結果として多くても60
phr,好ましくは多くてもに55phrである質量含量で存在する。
この第2のジエンエラストマーは,必要により,好ましくは,天然ゴム(NR),
合成ポリイソプレン(IR),ポリブタジエン(BR),ブタジエンコポリマー,イソ
プレンコポリマー及びこれらのエラストマーの混合物からなる群より選ばれ; その
ようなコポリマーは,より好ましくは,(高トランス含量を有する第1のジエンエラ
ストマー以外の)スチレン/ブタジエンコポリマー(SBR),イソプレン/ブタジエ
ンコポリマー(BIR)及びイソプレン/スチレンコポリマー(SIR)からなる群よ
り選ばれる。更により好ましくは,第2のジエンエラストマーは,ポリブタジエン,
天然ゴム及びこれらの混合物からなる群より選ばれる。
【0008】
この第2のジエンエラストマーは,場合により,任意のミクロ構造を有してもよ
く,これは,用いられる重合条件,特に,変性剤及び/又はランダム化剤の有無及び
使われる変性剤及び/又はランダム化剤の量に左右される。第2のエラストマーは,
例えば,ブロックエラストマー,ランダムエラストマー,逐次エラストマー又は微
小逐次エラストマーであり,分散状態で又は溶解状態で調製されてもよく; 第2の
エラストマーは,カップリング剤及び/又は星状枝分れ剤又は官能基化剤でカップ
リング及び/又は星状枝分れ或いは官能化され得る。第2のエラストマーの中で,ポ
リブタジエンホモポリマー(BR)及び特に4%と80%の間の1,2-単位の含量
(モル%)を有するもの又は80%よりも多いシス-1,4-含量(モル%)を有する
もの; ポリイソプレンホモポリマー(IR); 溶液ブタジエン/スチレンコポリマー
(SBR),特に,Tgが0℃と-70℃の間,より詳しくは-10℃と-60℃の
間にあり,スチレン含量が5%と60質量%の間,より詳しくは20%と50%の
間にあり,ブタジエン部分の1,2-結合の含量が4%と75%の間にあり,且つ
トランス-1,4-結合の含量が10%と80%の間にあるもの; ブタジエン/イ
ソプレンコポリマー(BIR),特に,イソプレン含量が5%と90質量%の間にあ
り且つTgが-40℃から-80℃までを有するもの; 又はイソプレン/スチレン
コポリマー(SIR),特に,スチレン含量が5%と50質量%の間にあり且つTg
が-50℃と-5℃の間にあるものが特に適している。
【0009】
他の好ましい実施態様によれば,第2のジエンエラストマーは,より好ましくは
シス-1,4-結合の含量(モル%)が90%よりも多いポリブタジエンである。
他の好ましい実施態様によれば,第2のジエンエラストマーは,イソプレンエラ
ストマー,より好ましくは天然ゴム又はシス-1,4-タイプの合成ポリイソプレ
ンであり; これらの合成ポリイソプレンの中で,シス-1,4-結合の含量(モル%)
が好ましくは90%よりも多く,より好ましくは98%よりも多いポリイソプレン
が使われる。
より好ましくは,第2のジエンエラストマー,特にイソプレンエラストマー(特に
天然ゴム)の含量は,5から50phrまでの範囲内,更により好ましくは10から
40phrまでの範囲内にある。
上記のジエンエラストマーは,ジエンエラストマー以外の合成エラストマー,実
際にエラストマー以外のポリマーさえも,例えば熱可塑性ポリマーと少量で併用さ
れてもよい。
【0010】
Ⅰ.2-無機補強充填剤
本発明のタイヤのトレッドの組成物は,無機補強充填剤(例えばシリカ)を90か
ら150phrまで,好ましくは105から145phrまでの割合で含む本質的
特徴を有する。
「無機補強充填剤」は,カーボンブラックとは対照的に,それ自体単独で,中間
カップリング剤以外の手段によることなく,タイヤの製造を意図するゴム組成物を
補強することができ,言い換えれば,その補強役割において従来のタイヤグレード
カーボンブラックを置き換えることができる「白色充填剤」,「透明充填剤」又は
「非黒色充填剤」としてさえも知られている,その色合及びその由来(天然か合成
か)の如何にかかわらない任意の無機又は鉱質充填剤を意味するものと理解すべき
であり; そのような充填剤は,一般的には,知られているように,その表面でのヒ
ドロキシル(-OH)基の存在に特徴を有する。
シリカ質タイプの鉱質充填剤,好ましくはシリカ(SiO2)は,特に無機補強充填
剤として適している。用いられるシリカは,当業者に知られている任意の補強性シ
リカ,特にBET比表面積とCTAB比表面積が共に450m2/g未満,好ましく
は30から400m2/gまで,特に60と300m2/gの間にある任意の沈降又は
焼成シリカであり得る。高分散性沈降シリカ(「HDS」)として,例えば,Degussa
製のUltrasil7000及びUltrasil7005シリカ,Rhodia製のZeosil1165M
P,1135MP及び1115MPシリカ,PPG製のHi-SilEZ150Gシリカ,
Huber製のZeopol8715,8745及び8755シリカ又は出願の国際出願第03
/16837号パンフレットに記載されているような高比表面積を有するシリカが
挙げられる。無機補強充填剤として,アルミニウムタイプの鉱質充填剤,特にアル
ミナ(Al2O3)又は(酸化)水酸化アルミニウム,或いは補強性酸化チタンも挙げら
れる。
【0011】
・・・
他の性質の補強充填剤,特に有機的性質,例えばカーボンブラックも,本項に記
載されている無機補強充填剤に等価な充填剤として用いられ得るが,この補強充填
剤が無機層,例えばシリカで覆われているか,或いはその表面に官能基部位,特に
ヒドロキシルを含み,充填剤とエラストマー間の結合を形成するためにカップリン
グ剤の使用を必要とすることを当業者は理解するであろう。一例として,例えば,
特許文献の国際公開第96/37547号パンフレットや同第99/28380号パ
ンフレットに記載されているようなタイヤ用のカーボンブラックが挙げられ得る。
有利な実施態様によれば,トレッドの組成物はカーボンブラックを含み得る。カ
ーボンブラックが存在する場合には,カーボンブラックは,好ましくは20phr
未満,より好ましくは10phr未満(例えば,0.5と20phrの間,特に2と
10phrの間)の含量で用いられる。指示された間隔の範囲内で,更に無機補強充
填剤によって導入される性能を不利にすることなく,カーボンブラックの着色特性
(ブラック顔料分散剤)及びUV安定化特性から利点が誘導される。
【0012】
よく知られているように,無機補強充填剤をジエンエラストマーにカップリング
するために,無機充填剤(その粒子の表面)とジエンエラストマーの間に,化学的及
び/又は物理的性質の満足な結合を与えることを意図したカップリング剤(又は結合
剤)が使われる。このカップリング剤は,少なくとも二官能性である。特に少なくと
も二官能性オルガノシラン又はポリオルガノシロキサンが使われる。
特に,例えば,出願の国際公開第03/002648号パンフレット(又は米国特
許出願公開第2005/016651号明細書)や国際公開第03/002649号
パンフレット(又は米国特許出願公開第2005/016650号明細書)に記載さ
れているような特定の構造に従って「対称」又は「非対称」と呼ばれるシランポリ
スルフィドが使われる。
・・・
【0017】
Ⅰ.3- 可塑化系
本発明のタイヤのトレッドの組成物は:
-10と60phrの間の含量Aの,Tgが20℃よりも高い炭化水素樹脂;
-10と60phrの間の含量Bの,20℃で液体であり且つTgが-20℃よ
りも低い可塑剤を含み;
-A+Bが45phrよりも多い
可塑化系を含むその他の本質的特徴を有する。
好ましくは,可塑化系A+Bの全体の含量は,50と100phrの間,より好
ましくは50と85phrの間にある。
液体可塑剤は,20℃で液体であり; 液体可塑剤は,「低Tg」可塑剤,すなわ
ち,Tgが-20℃未満,好ましくは-40℃未満であるものとして記載される。
芳香族性にしても非芳香族性にしても任意の伸展油,ジエンエラストマーに関し
てその可塑化特性が知られている任意の液体可塑剤が使用し得る。周囲温度(2
0℃)で,これらの可塑剤又はこれらの油は,多少粘稠ではあるが,特に本来周囲温
度で固体である可塑化用炭化水素樹脂と対照的に,液体(即ち,確認として,容器の
形状を最終的にとる能力を有する物質)である。
芳香族性にしても非芳香族性にしても任意の伸展油,ジエンエラストマーに関し
てその可塑化特性が知られている任意の液体可塑剤が使用し得る。周囲温度(2
0℃)で,これらの可塑剤又はこれらの油は,多少粘稠ではあるが,特に本来周囲温
度で固体である可塑化用炭化水素樹脂と対照的に,液体(即ち,確認として,容器の
形状を最終的にとる能力を有する物質)である。
液体ジエンポリマー,ポリオレフィンオイル,ナフテンオイル,パラフィンオイ
ル,DEA(芳香族抽出留分)オイル,MES(中度抽出溶媒和物)オイル,TDAE
(芳香族抽出留分処理)オイル,RAE(芳香族抽出残留分)オイル,TRAE(芳香族
抽出残留分処理)オイル,SRAE(安全芳香族抽出残留分)オイル,鉱油,植物油,
エーテル系可塑剤,エステル系可塑剤,リン酸エステル系可塑剤,スルホン酸エス
テル系可塑剤及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれる液体可塑剤が特
に適している。より好ましい実施態様によれば,液体可塑剤は,MESオイル,T
DAEオイル,ナフテンオイル,植物油及びこれらのオイルの混合物からなる群よ
り選ばれる。
本発明の好ましい実施態様によれば,液体可塑剤,特に石油は,非芳香族タイプ
を有する。液体可塑剤は,IP346方法に従ってDMSO抽出物によって定量し
た多環式芳香族化合物の含量が可塑剤の全質量に対して3質量%未満であるときに,
非芳香族と言われる。それ故,好ましくは,MESオイル,TDAEオイル,ナフ
テンオイル(低粘度又は高粘度,特に水素化又は非水素化された),パラフィンオイ
ル及びこれらのオイルの混合物からなる群より選ばれる液体可塑剤が使われ得る。
RAEオイル,TRAEオイル及びSRAEオイル又はこれらのオイルの混合物は,
低含量の多環式化合物を含有し,石油としても適している。
【0018】
他の個々の実施態様によれば,液体可塑剤は,テルペン誘導体であり; 一例とし
て,特にYasuharaの製品Dimaroneが挙げられ得る。
オレフィン又はジエンの重合から得られる液体ポリマー,例えば,ポリブテン,
ポリジエン,特にポリブタジエン,ポリイソプレン,ブタジエンとイソプレンのコ
ポリマー,ブタジエン又はイソプレンとスチレンのコポリマー,及びこれらの液体
ポリマーの混合物からなる群より選ばれるものも適している。そのような液体ポリ
マーの数平均分子量は,好ましくは500g/モルから50000g/モルまで,よ
り好ましくは1000g/モルから10000g/モルまでの範囲内にある。特に,
一例として,SartomerのRicon製品が挙げられ得る。
本発明の他の好ましい実施態様によれば,液体可塑剤は植物油である。好ましく
は,アマニ油,ベニバナ油,ダイズ油,トウモロコシ油,綿実油,アブラナ油,ヒ
マシ油,キリ油,パイン油,ヒマワリ油,パーム油,オリーブ油,ココナツ油,ピ
ーナッツ油及びブドウ種子油,及びこれらの油の混合物からなる群より選ばれる油,
特にヒマワリ油が使われる。この植物油,特にヒマワリ油は,より好ましくは,オ
レイン酸の豊富な油である。すなわち,植物油が誘導する脂肪酸(又は数種が存在す
る場合には脂肪酸の全て)は質量部分の少なくとも60%,より好ましくは少なく
とも70%,特に80%以上のオレイン酸を含んでいる。
本発明の他の個々の実施態様によれば,液体可塑剤は,エーテルであり; 例えば,
ポリエチレングリコール又はポリプロピレングリコールが挙げられ得る。
【0019】
エステル系可塑剤,リン酸エステル系可塑剤,スルホン酸エステル系可塑剤及び
これらの化合物の混合物からなる群より選ばれる液体可塑剤も適している。カルボ
ン酸トリエステル,リン酸トリエステル又はスルホン酸トリエステル及びこれらの
トリエステルの混合物からなる群より選ばれるトリエステルが特に適している。特
に,カルボン酸エステル系可塑剤の例として,トリメリット酸エステル,ピロメリ
ット酸エステル,フタル酸エステル,1,2-シクロヘキサンジカルボン酸エステ
ル,アジピン酸エステル,アゼライン酸エステル,セバシン酸エステル,グリセロ
ールトリエステル及びこれらの化合物の混合物からなる群より選ばれる化合物が挙
げられ得る。特に,トリエステルの中で,好ましくは主に(50質量%を超える,よ
り好ましくは80質量%を超える場合)C18不飽和脂肪酸から構成される,すなわ
ち,オレイン酸,リノール酸,リノレン酸及びこれらの酸の混合物からなる群より
選ばれるグリセロールトリエステルを挙げることができ; より好ましくは,グリセ
ロールトリエステルが合成由来にしても天然由来にしても,用いられる脂肪酸が,
60質量%を超える,より好ましくは70質量%を超えるオレイン酸から構成され;
天然由来又は合成由来の,高含量のオレイン酸を有するそのようなトリエステル(ト
リオレエート)がよく知られており; トリエステルが,タイヤ用のトレッドの可塑
剤として,例えば出願の国際公開第02/088238号パンフレットに記載され
ている。リン酸エステル系可塑剤として,例えば,12個と30個の間の炭素原子
を含むもの,例えばトリオクチルホスフェートが挙げられ得る。
【0020】
炭化水素樹脂のTgは,20℃よりも高い。
呼称「樹脂」は,本特許出願において,定義上,特に上記液体可塑剤とは対照的
に,周囲温度(20℃)で固体である化合物として貯蔵される。
炭化水素樹脂は,当業者によく知られており,本質的に炭素と水素がベースであ
るが他のタイプの原子を含むことができるポリマーであり,特にポリマーマトリッ
クスにおける可塑剤又は粘着付与剤として使用し得る。炭化水素樹脂は,真の希釈
剤として作用するように,意図するポリマー組成物と用いられる含量で本来混和性
(すなわち,相溶性)である。炭化水素樹脂は,例えば,R. Mildenberg,M. Zander
及びG. Collinによる「炭化水素樹脂」と題する研究(New York, VCH, 1997, ISBN
3-527-28617-9)に記載されており,それの第5章は,特にタイヤゴム分野における
用途で占められている(5.5.「Rubber Tires and Mechanical Goods」)。炭化水素樹
脂は,脂肪族/芳香族タイプの,すなわち,脂肪族モノマー及び/又は芳香族モノマ
ーがベースの脂肪族,脂環式,芳香族,水素化芳香族であり得る。炭化水素樹脂は,
石油がベースの又はベースでない天然又は合成であり得る(それが事実であれば,
石油樹脂の名前としても知られている)。炭化水素樹脂のTgは,好ましくは30℃
よりも高く,特に30℃と95℃の間にある。
知られているように,これらの炭化水素樹脂は,また,加熱されるときに軟化す
るので成形され得る意味で熱可塑性樹脂と記載され得る。炭化水素樹脂は,また,
軟化点又は軟化温度によっても定義され得る。炭化水素樹脂の軟化点は,そのTg
値よりも一般的には約50から60℃だけ高い。軟化点は,ISO規格4625(環
球法)に従って測定される。マクロ組織(Mw,Mn及びPI)は,下記に示されるよ
うにサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)によって定量される。
・・・
【0022】
本発明の好ましい実施態様によれば,炭化水素樹脂は,下記の特性の少なくとも
いずれか1つ,より好ましくは全てを示す:
- Tgが20℃よりも高い(特に30℃と100℃の間),より好ましくは30℃
よりも高い(特に30℃と95℃の間);
- 軟化点が50℃よりも高い(特に50℃と150℃の間);
- 数平均分子量(Mn)が400と2000g/モルの間,好ましくは500と1
500g/モルの間にある;
- 多分散指数(PI)が3未満,好ましくは2未満(確認として:PI=Mw/Mn,
Mwは質量平均分子量である)。
そのような炭化水素樹脂の例として,シクロペンタジエン(CPDと略記される)
ホモポリマー又はコポリマー樹脂,ジシクロペンタジエン(DCPDと略記される)
ホモポリマー又はコポリマー樹脂,テルペンホモポリマー又はコポリマー樹脂,C
5 留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂,C9留分ホモポリマー又はコポリマー樹脂,
α-メチルスチレンホモポリマー又はコポリマー樹脂及びこれらの樹脂の混合物か
らなる群より選ばれるものが挙げられ得る。より詳しくは,上記のコポリマー樹脂
の中で,(D)CPD/ビニル芳香族コポリマー樹脂,(D)CPD/テルペンコポリマ
ー樹脂,テルペン/フェノールコポリマー樹脂,(D)CPD/C5留分コポリマー樹
脂,(D)CPD/C9留分コポリマー樹脂,テルペン/ビニル芳香族コポリマー樹脂,
テルペン/フェノールコポリマー樹脂,C5留分/ビニル芳香族コポリマー樹脂及び
これらの樹脂の混合物からなる群より選ばれるものが挙げられ得る。
【0023】
用語「テルペン」は,ここで,知られているように,α-ピネン,β-ピネン及
びリモネンのモノマーを合わせたものであり; 好ましくは,知られているように,
化合物が3つの可能な異性体: L-リモネン(左旋性エナンチオマー),D-リモネ
ン(右旋性エナンチオマー)或いはジペンテン,右旋性と左旋性のエナンチオマーの
ラセミ体の形で存在するリモネンモノマーが使われる。ビニル芳香族モノマーとし
て,例えば: スチレン,α-メチルスチレン,オルトメチルスチレン,メタメチル
スチレン,パラメチルスチレン,ビニルトルエン,パラ(tert-ブチル)スチレ
ン,メトキシスチレン,クロロスチレン,ヒドロキシスチレン,ビニルメシチレン,
ジビニルベンゼン,ビニルナフタレン又はC9留分(又はより一般的にはC8からC1
0 までの留分)から得られる任意のビニル芳香族モノマーが適している。
より詳しくは,(D)CPDホモポリマー樹脂,(D)CPD/スチレンコポリマー樹
脂,ポリリモネン樹脂,リモネン/スチレンコポリマー樹脂,リモネン/D(CPD)
コポリマー樹脂,C5留分/スチレンコポリマー樹脂,C5留分/C9留分コポリマー
樹脂及びこれらの樹脂の混合物からなる群より選ばれる樹脂が挙げられ得る。
上記の樹脂は全て当業者に周知であり,市販され,例えばポリリモネン樹脂に関
してはDercolyteの名称でDRTから, 5留分/スチレン樹脂又はC5留分/C9留分

樹脂に関してはSuper Nevtacの名称でNeville Chemical社から,Hikorezの名称で
Kolonから又はEscorezの名称でExxon Mobilから,或いは40 MS又は40 NS
(芳香族及び/又は脂肪族樹脂の混合物)の名称でStruktolから販売されている。
・・・
【0027】
ⅠⅠ-本発明の実施例
ⅠⅠ.1-組成物の調製
以下の試験は,下記のようにして行われる: ジエンエラストマー(E-SBR及
び必要により第2のジエンエラストマー),無機補強充填剤,可塑化系及び他の各種
成分を,加硫系を除いて密閉型ミキサーに導入し(最終充填度: 約70容積%),そ
の初期容器温度は約60℃である。次に,熱機械加工(非生産段階)を1段階で行い,
165℃の「滴下」最高温度に達するまで合計で3から4分間続ける。
このようにして得られた混合物を回収し,冷却し,次に,硫黄とスルフェンアミ
ドタイプの促進剤を30℃でミキサー(ホモフィニッシャー)に導入し,全てが適切
な時間(例えば5と12分の間)混合される(生産段階)。このようにした得られた組
成物を引き続きトレッドの形に押出す。
【0028】
ⅠⅠ.2-タイヤについての走行試験
以下の試験の目的は,トレッドが従来の組成物を用いるタイヤと比較して,本発
明の乗用車用のタイヤのウェットグリップの改善を証明することである。
これのために,トレッド用の7つのゴム組成物を本発明の5つ(以下にC.3~C.
7と表示する)と本発明でない2つ(以下に対照組成物をC.1及びC.2と表示す
る)を上で示したように調製した。
これらの配合物(phrで表す)を添付の表1に示す。
組成物C.1は,乗用車用の(低転がり抵抗を有する)「グリーンタイヤ」のトレ
ッドに使用し得る溶液SBR(SSBR)及びBRをベースとする第1の対照組成物
である。第2の対照組成物C.2において,無機補強充填剤及び可塑化系の含量を
本発明の組成物C.3と同じレベルまで増加したが,エラストマーマトリックス(S
SBR及びBR)は変えなかった。
従って,本発明の組成物C.3~C.7は,対照組成物C.1及びC.2と異な
り,60phrの溶液SBRを本発明の高トランス含量を有する60phrのエマ
ルジョンSBRで置き換えている。組成物C.4~C.7は,更に,組成物C.3
のBRエラストマーの代わりに天然ゴム(NR)の一部を含む。
更に,組成物C.1~C.7は全て,高含量の無機補強充填剤(100又は120
phr)及び全可塑化系(55から80phrまで)に特徴を有する。ここで用いら
れる可塑化系は,熱可塑性炭化水素樹脂(C5/C9樹脂)及びTDAE油の混合物で
ある。
以下に示されるように,組成物C.1~C.7をベースとするトレッドを含むそ
れぞれT.1~T.4と表示されるタイヤをウェットグリップの試験及び転がり抵
抗の測定に供するために乗用車に装着した。これらのタイヤに実施した試験の結果
を表2にまとめる。
【0029】
ウェットグリップ試験は,ABSブレーキシステムを備えた「フォルクスワーゲ
ン」メイク及び「ゴルフ6」モデルの自動車のフロントとリアにタイヤを装着する
ことからなる。タイヤをノミナル圧に膨らませる。試験の周囲温度は,25℃であ
る。80km/hから10km/hになるのに必要な距離を,水を噴霧した路面(アス
ファルトコンクリート)上の直線で急ブレーキにおいて測定する。任意に100に
設定した対照タイヤよりも大きい値は,改善された結果を示す。すなわち対照タイ
ヤよりもブレーキ距離が短い。
本発明のタイヤT.3~T.7,すなわちトレッドが高トランス含量を有するE
-SBRを高含量の無機充填剤及び可塑剤と組み合わせてベースとするゴム組成物
を含むタイヤT.3~T.7の濡れた路面に対するブレーキ距離が,すべての場合
において対照タイヤよりも著しく短いことがわかる(評価指数は9%~10%だけ
増加した)。従って,そのようなトレッドは,タイヤのウェットグリップを非常に改
善することを可能にする。
更にまた,ISO 87-67(1992)法に従って,タイヤの転がり抵抗を回
転するドラムで測定する。任意に100に設定した対照タイヤよりも小さい値は,
低下した結果,すなわち転がり抵抗が大きいことを示す。本発明のタイヤT.3~
T.7がすべて対照タイヤT.1及びT.2に等しいか又は非常にわずかに大きい
転がり抵抗を示すことがわかる。
結論として,これらの試験の結果は,高含量の無機補強充填剤及び可塑剤の存在
下に,高トランス含量を有するエマルジョンSBRのトレッドの使用が,転がり抵
抗を損なわずに又は実質的に損なわずに,「グリーンタイヤ」組成物と比較して,
ウェットグリップがかなり改善されたタイヤを得ることを可能にすることを証明し
ている。
【0030】
表1
(1) 41%のスチレン単位及び59%のポリブタジエン単位を有する溶液SBR
(含量は乾燥SBRとして表される); ブタジエン部分については,24%の1,2
-単位,30%のシス-1,4-単位及び46%のトランス-1,4-単位を有す
る(Tg=-28℃);
(2) 4.3%の1,2-単位,2.7%のトランス-1,4-単位及び93%のシ
ス-1,4-単位を有するBR(Tg=-106℃);
(3) 解膠された天然ゴム;
(4) エマルジョンSBR(Styron製のBuna SB 1739); 40%のスチレン単位
及び60%のブタジエン単位を有する; ブタジエン部分については16%の1,2
-単位,14%のシス-1,4-単位及び70%のトランス-1,4-単位; (Tg
=30℃);
(5) シリカ(Degussa製のUltrasil 7000 GR);
(6) シランTESPT(Degussa製のSi69);
(7) カーボンブラックN234(ASTMグレード);
(8) C5/C9樹脂(Exxon製のEscorez ECR-373);
(9) TDAE油(Klaus Dahleke製のVivatec 500);
(10) N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニルパラフェニレンジアミン
(Flexsys製のSantoflex 6-PPD);
(11) ステアリン(Uniqema製のPristerene);
(12) 酸化亜鉛(工業用グレード Umicore);
(13) DPG=ジフェニルグアニジン(Flexsys製のPerkacit DPG);
(14) N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾールスルフェンアミド(Flexsys製の
Santocure CBS)。
【0031】
表2
2 取消事由(刊行物1に記載された発明及び相違点の認定の誤り)について
(1) 刊行物1には,次のとおりの記載がある(甲5の2)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤトレッドを構成する為に使用できる架橋性又は架橋ゴム組成物であって,前
記組成物が一種以上のジエンエラストマーをベースとし,且つ前記ジエンエラスト
マーに混和性である少なくとも一種の炭化水素可塑化用樹脂を含み,前記樹脂が,
10℃~150℃のガラス転移温度(Tg)と400g/mol~2000g/m
olの数平均分子量を有するゴム組成物において,前記組成物が,5phr~35
phr(phr:エラストマーの100部当りの質量部)の量の前記炭化水素可塑
化用樹脂と,50phrより多く100phrまでの量の,-65℃~-10℃の
ガラス転移温度(Tg)を有する一種以上のジエンエラストマー及び50phr未
満で0phrまでの量の,-110℃~-80℃のガラス転移温度(Tg)を有す
る一種以上のジエンエラストマーを含む事を特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
-65℃~-10℃のTgの前記ジエンエラストマーが,溶液で調製されたスチレ
ン-ブタジエンコポリマー,エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポ
リマー,天然ポリイソプレン,95%より多いシス-1,4結合含有量を有する合
成ポリイソプレン及びこれらのエラストマーの混合物から成る群に属し,-11
0℃~-80℃のTgの前記ジエンエラストマーが,90%より多いシス-1,4
結合含有量を有するポリブタジエンを含む,請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
-65℃~-10℃のTgを有するジエンエラストマーとして,-50℃~-1
5℃のTgを有する,溶液で調製された少なくとも一種のスチレン-ブタジエンコ
ポリマー,又は-65℃~-30℃のTgを有する,エマルジョンで調製されたス
チレン-ブタジエンコポリマーを含む,請求項2に記載のゴム組成物。
【請求項4】
-65℃~-10℃のTgの前記ジエンエラストマーを100phrの量で含む,
請求項1~3の何れか一項に記載のゴム組成物。
【請求項5】
-65℃~-10℃のTgの前記ジエンエラストマーと,-110℃~-80℃の
Tgの前記ジエンエラストマーとのブレンドを含む,請求項1~3の何れか一項に
記載のゴム組成物。
【請求項6】
-110℃~-80℃のTgのジエンエラストマーとして,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する少なくとも一種のポリブタジエンと,-65℃~-10℃
のTgのジエンエラストマーとして,溶液で調製された少なくとも一種のスチレン
-ブタジエンコポリマーとのブレンドを含む,請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
-110℃~-80℃のTgのジエンエラストマーとして,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する少なくとも一種のポリブタジエンと,-65℃~-10℃
のTgのジエンエラストマーとして,エマルジョンで調製された少なくとも一種の
スチレン-ブタジエンコポリマーとのブレンドを含む,請求項5に記載のゴム組成
物。
【請求項8】
-110℃~-80℃のTgのジエンエラストマーとして,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する少なくとも一種のポリブタジエンと,-65℃~-10℃
のTgのジエンエラストマーとして,少なくとも一種の天然又は合成ポリイソプレ
ンとのブレンドを含む,請求項5に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記炭化水素可塑化用樹脂が30℃~100℃のガラス転移温度を有する,請求項
1~8の何れか一項に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記炭化水素可塑化用樹脂が,400g/mol~1000g/molの数平均分
子量と,2未満の多分子性指数を有する,請求項1~9の何れか一項に記載のゴム
組成物。
【請求項11】
前記炭化水素可塑化用樹脂を15phr~25phrの量で含む,請求項1~10
の何れか一項に記載のゴム組成物。
【請求項12】
パラフィン系又は芳香族系の一種以上の可塑化用油を更に含み,前記組成物中の可
塑化用油の合計量が30phr以下である,請求項1~11の何れか一項に記載の
ゴム組成物。
【請求項13】
強化充填剤としてカーボンブラックを含む,請求項1~12の何れか一項に記載の
ゴム組成物。
【請求項14】
強化充填剤として強化白色充填剤を含む,請求項1~12の何れか一項に記載のゴ
ム組成物。
【請求項15】
強化充填剤としてカーボンブラックと強化白色充填剤とのブレンドを含む,請求項
1~12の何れか一項に記載のゴム組成物。
【請求項16】
請求項1~15の何れか一項に記載のゴム組成物を含む事を特徴とするタイヤ用ト
レッド。
【請求項17】
請求項16に記載のトレッドを含む事を特徴とする,乗用車又は重量車両用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(発明の分野)
本発明は,タイヤのトレッド,特に,改善された耐摩耗性を有するトレッドを構成
する為に使用する事のできる架橋性又は架橋ゴム組成物,及びこのトレッドを導入
したタイヤに関する。本発明は,特に乗用車用又は重量車両用のタイヤに適用する。
(発明の背景)
燃費及び環境保護の必要性が優先される様になった為に,トレッドの様なタイヤの
構成の中に含まれる様々な半製品の製造の為に使用できる,ゴム組成物の形態で加
工ができ且つ減少されたローリング抵抗を有するタイヤを得る為に,良好な機械的
性質と可能な限り低いヒステリシスを有する混合物を製造する事が望まれる様にな
った。
【0002】
トレッド組成物のヒステリシスを減少させる為に,従って,その様な組成物を含む
タイヤのローリング抵抗を減少させる為に提案されている多くの解決方法の中では,
例えば,US-A-4,550,142,US-A-5,001,196,EP-
A-299074又はEP-A-447066の特許明細書に開示されている組成
物が挙げられる。
ローリング抵抗のこの減少に加えて,タイヤトレッドの耐摩耗性を改善する事,従
って,タイヤトレッドの寿命を増加させる事も望ましい(この改善された耐摩耗性
は,走行によるタイヤの地上細片及び環境保護に貢献するリサイクルが意図される
破損タイヤの量を,時間にわたって減少させる効果を有する)。
この耐摩耗性を改善する為に,現在までに提案されている解決方法は比較的少なく,
例えば,JP-A-61-238501,EP-A-502728又はEP-A-
501227の特許明細書に開示されている組成物が挙げられる。
所で,タイヤの為の一つの機能の改善は,しばしばその他の機能の犠牲を伴う。例
えば,高いガラス転移温度(Tg)又は溶融温度と低い分子量を有する無定形又は
半結晶ポリマーのトレッド組成物の使用は,そのタイヤの乾燥又は湿った地面での
グリップを改善する効果を持つが,それらの耐摩耗性に逆影響を及ぼす。
米国特許第5,901,766号明細書は,実施態様のその実施例において,耐摩
耗性を改善する為のトレッド組成物において,(phr:エラストマーの100部
当りの質量部),50phr以上の量の,-103℃のガラス転移温度(Tg)を
有する,高シス結合含有量を有するポリブタジエン,50phr以下の量の,エマ
ルジョンで調製された,-55℃のTgを有するスチレン-ブタジエンコポリマー,
炭化水素樹脂,フェノール/アセチレン樹脂(非炭化水素),ロジン由来の樹脂及
びその様な樹脂の混合物から成る群に属する可塑化用樹脂(実施態様の実施例では,
15phrの樹脂の合計量で,クマロン/インデンタイプの樹脂と任意に,フェノ
ール/アセチレンタイプの樹脂が使用される),28.75phr以上の量の芳香
族可塑化用油及び70phrのカーボンブラックから成る強化充填剤の使用を開示
している。
全ての公知のトレッド組成物に共通の欠点の一つは,そのタイヤによって達成され
る機能の水準において,特に,ローリング抵抗及びグリップ,更に耐摩耗性におけ
る改善での相対的な不均衡性にある。
本発明の目的は,この現状を解決する事であり,これは,50phrより多く,1
00phrまでの量の,-65℃~-10℃のガラス転移温度(Tg)を有する一
種以上のジエンエラストマーと,50phr未満で0phrまでの量の,-110℃
~-80℃のガラス転移温度(Tg)を有する一種以上のジエンエラストマーと,
5~35phrの量の,少なくとも一種の炭化水素可塑化用樹脂であって,前記ジ
エンエラストマーと混和性であり,10℃~150℃のガラス転移温度と400g
/mol~2000g/molの数平均分子量を有する樹脂との組合わせが,公知
のタイヤに比べて改善された耐摩耗性を有するタイヤトレッドを構成する為に使用
する事のできる架橋性又は架橋ゴム組成物を得る事を可能とする事,そのトレッド
は,可塑化剤として可塑化用油を含み,それを含むタイヤに,ローリング抵抗及び,
同じ公知のタイヤのグリップに近い,乾燥及び湿った地面でのグリップを付与する
事を本出願人が最近に予想外に発見した事によって達成される。
【0003】
又,この炭化水素可塑化用樹脂の,本発明の組成物における存在は,この樹脂が,
タイヤの隣接混合物中への可塑化用油,例えば,芳香族,パラフィン又はナフテン
油の移動を最小限にし,従って,前記混合物の性質,例えば,それらの剛性及びク
ラック抵抗の有害な変化を最小限にし,これは,その中にクラウン強化材を含む三
角クラウンプライの分離に対するタイヤの抵抗(プライの分離に対する抵抗は,時
に,当業者によって“開裂”抵抗と言われる)を改善する事を可能とする事によっ
て,それをタイヤのトレッド中に含むタイヤに対して改善された耐久性を与える事
を可能とする点が注目される。
【0004】
「ジエンエラストマー」とは,ジエンモノマー(共役であるかないかに拘わらず,
二つの二重炭素-炭素結合を持つモノマー)からの部分(ホモポリマー又はコポリ
マー)を少なくとも有するエラストマーを意味する。
本発明の組成物のジエンエラストマーは,「高度に不飽和」であると言える,即ち,
50%より大きい,共役ジエンから得られる単位のモル比を持つ共役ジエンモノマ
ー由来のものである。
本発明の実施態様の一実施例によれば,-65℃~-10℃のTgの前記ジエンエ
ラストマーは,溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマー,エマルジョン
で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマー,天然ポリイソプレン,95%より
多いシス-1,4結合含有量を有する合成ポリイソプレン及びこれらのエラストマ
ーの混合物から成る群に属し,-110℃~-80℃のTgの前記ジエンエラスト
マーは,好ましくは,-105℃~-90℃のガラス転移温度を有し,70%以上
の量のブタジエン単位を含む。更に好ましくは,前記多量成分エラストマーは,9
0%より多いシス-1,4結合含有量を有するポリブタジエンから成る。
本発明の好ましい実施態様によれば,前記組成物は,-65℃~-10℃のTgの
ジエンモノマーとして,-50℃~-15℃のTgを有する,溶液で調製された少
なくとも一種のスチレン-ブタジエンコポリマー,又は,-65℃~-30℃のT
gを有する,エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーを含む。
本発明の実施態様の一実施例によれば,前記組成物は,-65℃~-10℃のTg
の前記ジエンエラストマーを100phrの量で含む。
本発明のその他の実施態様によれば,前記組成物は,-65℃~-10℃のTgの
前記ジエンエラストマーと,-110℃~-80℃のTgの前記ジエンエラストマ
ーとのブレンドを含む。
【0005】
その他の本発明の最初の実施態様によれば,前記組成物は,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する前記ポリブタジエンの少なくとも一種と,前記の溶液で
調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーの少なくとも一種とのブレンドを含む。
その他の本発明の第二の実施態様によれば,前記組成物は,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する前記ポリブタジエンの少なくとも一種と,前記のエマル
ジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーの少なくとも一種とのブレン
ドを含む。
その他の本発明の第三の実施態様によれば,前記組成物は,90%より多いシス-
1,4結合含有量を有する前記ポリブタジエンの少なくとも一種と,前記の天然又
は合成ポリイソプレンの少なくとも一種とのブレンドを含む。
エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーとしては,実質的に1
phr~3.5phrで変動する乳化剤の量を有するコポリマー,例えば,それぞ
れに,1.7phr~1.2phrの乳化剤を含むE-SBRコポリマーが使用さ
れても良い。両方共,フランス国特許出願N0.0001339に記載されている
(この出願の記述に含まれる実施態様の実施例のセクションIを参照)。
本発明の組成物において使用される為に特に選択される可塑化用樹脂は,専ら炭化
水素樹脂,即ち,炭素と水素原子のみを含む樹脂である。この樹脂は,脂肪族及び
/又は芳香族タイプの樹脂であっても良く,前記のジエンエラストマーと混和性で
ある様な樹脂である。そのガラス転移温度は10~150℃であり,その数平均分
子量は,400~2000g/molである。
以下のものが本発明の組成物において使用できる。
1)M.J. Zohuriaan-Mehr and H. Omidian, J.

M.S REV MACROMOL. CHEM. PHYS. C40(1), 23
-49 (2000)の論文で定義されている「脂肪族」系炭化水素樹脂,即ち,そ
の炭化水素鎖が,ピペリレン,イソプレン,モノ-オレフィンの変動量を含むC4
~C6画分で形成されている樹脂及び非重合性パラフィン系化合物。適当な脂肪族
樹脂の例としては,ペンテン,ブテン,イソプレン,ピペリレンをベースとした樹
脂及び少量のシクロペンタジエン又はジシクロペンタジエンを含む樹脂が挙げられ
る。
2)M.J. Zohuriaan-Mehr and H. Omidian, J.

M.S REV MACROMOL. CHEM. PHYS. C40(1), 23
-49 (2000)の論文で定義されている「芳香族」系炭化水素樹脂,即ち,そ
の炭化水素鎖が,スチレン,キシレン,α-メチルスチレン,ビニルトルエン又は
インデン系の芳香族単位で形成されている樹脂。適当な芳香族樹脂の例としては,
α-メチルスチレンとメチレンをベースとした樹脂,及び,クマロンとインデンを
ベースとした樹脂が挙げられる。
3)「脂肪族/芳香族」系の中間体樹脂,即ち,脂肪族単位の質量分率が80%~
95%(従って,芳香族単位の質量分率が5%~20%)である中間体樹脂。
好ましくは,本発明の組成物の可塑化用樹脂は,30℃~100℃のガラス転移温
度と,400~1000g/molの数平均分子量及び2未満の多分子性指数を有
する。
・・・
【0007】
本発明の組成物は,更に,可塑剤として,一種以上の可塑化用油,例えば,パラフ
ィン系又は芳香族系(ナフテン系を含む)油を,前記組成物中の可塑化用油の合計
量が30phr以下となる様に含む。
本発明のタイヤトレッドの耐摩耗性の改善は,走行中にこのトレッドに掛かる圧縮
による緻密化(compaction)の減少,従って,汚染性可塑剤,例えば,
この芳香族油の走行中における損失の減少を含む。
この結果は,環境汚染の著しい減少をもたらし,これは,本発明のトレッド組成物
中に最初に導入される芳香族油の少ない量によって更に最少のものとされる。
本発明の組成物は,又,50~150phrの変動量で前記組成物中に存在しても
良い強化充填剤を含む。
本発明の実施態様の一実施例によれば,前記組成物は,強化充填剤としてカーボン
ブラックを含む。タイヤ,特にこれらのタイヤのトレッドにおいて通常使用される
カーボンブラックの全てが,特に,HAF,ISAF及びSAFのカーボンブラッ
クがこの目的に適する。N115,N134,N234,N339,N347及び
N375のカーボンブラックが挙げられるがこれらに限定されない。
【0008】
本発明の実施態様のその他の実施例によれば,前記組成物は強化充填剤として強化
白色充填剤を含む。
本発明において,「強化白色充填剤」とは,「白色」充填剤(即ち,無機充填剤,
特に,鉱物充填剤),時に,「透明」充填剤とも呼ばれ,それ自身,中間体カップ
リングシステム以外の如何なる手段も用いる事無しに,タイヤの製造を意図したゴ
ム組成物を強化する事のできる,換言すれば,その強化機能において通常の充填剤
のタイヤグレードのカーボンブラックを置換える事のできる充填剤を意味する。
【0009】
好ましくは,強化白色充填剤の全部又は少なくとも多量成分の割合はシリカ(Si
O2)である。使用されるシリカは,当業者に公知の強化シリカであっても良く,特
に,高分散性沈降シリカが好ましいが,BET比表面積とCTAB比表面積のいず
れもが450㎡/gを有する沈降シリカであっても良い。
更に好ましくは,前記シリカはBET又はCTAB比表面積のいずれもが80㎡/
g~260㎡/gの比表面積を有する。
・・・
【0015】
強化白色充填剤が強化充填剤として使用される場合は,本発明のゴム組成物は,更
に,通常の方法で,強化白色充填剤/エラストマーマトリック結合剤(又は,カッ
プリング剤とも呼ばれる)を含む。その機能は,前記白色充填剤とマトリックスと
の間の十分な化学的及び/又は物理的結合(又はカップリング)を確実にし,この
充填剤の前記マトリックス中への分散を促進する事である。
少なくとも二官能性であるその様な結合剤は,例えば,簡単な一般式:Y-T-X
を有する(式中,Yは,白色充填剤と物理的に及び/又は化学的に結合することの
出来る官能基(Y官能)を表し,(その様な結合は,例えば,カップリング剤のケ
イ素原子と充填剤のヒドロキシル(OH)表面基(例えば,シリカの場合は表面シ
ラノール)との間に確立される),Xは,例えば,硫黄原子を介してエラストマー
と物理的に及び/又は化学的に結合する事の出来る官能基(X官能)を表し,Tは,
YとXとを結合させる事のできる炭化水素基を表す)。
・・・
【0030】
【実施例】
実施例1
それぞれが,「乗用車」タイプのタイヤのトレッドを構成するものとして,「対照」
ゴム組成物T1及び本発明のゴム組成物I1を用意した。
以下の表1は,
1)これらの組成物T1及びI1のそれぞれの組成,
2)非加硫及び加硫状態でのそれぞれの組成物の性質,
3)それぞれのトレッドがこれらの組成物T1とI1で形成されているタイヤの機
能,
を含む。
【0031】
【表1】
表1
【0032】
E-SBR A:エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,1
4.9%の1,2-結合含有量,13.0%の1,4-結合含有量,72.1%の
トランス結合含有量,23.9%のスチレン結合含有量,100℃で46のムーニ
ー粘度ML(1+4),38.1phrの油及び-53℃のガラス転移温度Tgを
有する。
E-SBR B:エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,1
4.2%の1,2-結合含有量,14.2%の1,4-結合含有量,71.6%の
トランス結合含有量,38.3%のスチレン結合含有量,100℃で54.5のム
ーニー粘度ML(1+4),37.9phrの油及び-36℃のガラス転移温度T
gを有する。
BR-A:ポリブタジエンであって,凡そ93%のシス-1,4-結合含有量と,
-103℃のガラス転移温度Tgを有する。
可塑化用樹脂R1:HERCULES社から,“R2495”の名称で市販されて
いて,97%の脂肪族結合含有量,0%の芳香族含有量,820g/molの数平
均分子量(Mn)と1060g/molの重量平均分子量(Mw)及び88℃のガ
ラス転移温度Tgを有する。
6PPD:N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジア
ミンと,
CBS:N-シクロヘキシル-ベンゾチアジルスルフェンアミド。
【0033】
高弾性率の動的応力(0.7MPa)下での本発明の組成物I1のTgは,「対照」
組成物T1のTgと実質的に等しい点が注目される。
表1から分かる通り,0.2MPaの低い弾性率の動的応力で測定された,組成物
I1とT1とのTgの間の差(0.5℃)は,高弾性率の前記応力下で測定された,
組成物I1とT1とのTgの間の差(0.1℃)に極めて近い。
高弾性率の応力から低い弾性率の応力へ通過する時にTg間に食い違いが存在しな
い事は,樹脂R1が,E-SBR AとBR-Aによって構成されるエラストマーマ
トリックにおいて容易に混和性である事の事実を伝えるものである。
タイヤのこの機能の結果は,強化充填剤としてカーボンブラックを含むトレッド組
成物I1において,88℃のTgと820g/molのMnの可塑化用樹脂の混入
が,これらのタイヤの乾燥地面でのグリップ及びそのローリング抵抗に逆の影響を
及ぼす事無しに,本発明の樹脂の上述の混和性によって,タイヤ(そのトレッドは,
前記組成物I1で形成されている)の耐摩耗性並びに湿った地面でのグリップを改
善する事が可能である事(その様なタイヤを装着した車両の湿った地面上の挙動も
又改善される)を示す。
この組成物I1は,組成物T1と比較して,著しく少ない量の可塑化用油を含む点
が注目される。
【0034】
実施例2
実施例1と同様に,「乗用車」タイプのタイヤ用として,「対照」トレッド組成物
T2と本発明の組成物I2を調製した。以下の表2は,得られた結果を示す。
【0035】
【表2】
表2
【0036】
S-SBR A 溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,
: 58%の1,
2-結合含有量,25%のスチレン結合含有量,23%のトランス結合含有量,1
00℃で54のムーニー粘度ML(1+4),37.5phrのエクステンダー油
及び-30℃のガラス転移温度Tgを有する。
可塑化用樹脂R2:Gray Valley社から,“W100”の名称で市販され
ていて,49%の脂肪族結合含有量,51%の芳香族含有量,740g/molの
数平均分子量(Mn)と1330g/molの重量平均分子量(Mw)及び55℃
のガラス転移温度Tgを有する。
【0037】
高弾性率の動的応力(0.7MPa)下での本発明の組成物I2のTgは,「対照」
組成物T2のTgと実質的に等しい点が注目される。
表2から分かる通り,0.2MPaの低い弾性率の動的応力で測定された,組成物
I2とT2とのTgの間の差(2.5℃)は,高弾性率の前記応力下で測定された,
組成物I2とT2とのTgの間の差(0.3℃)に近い。
高弾性率の応力から低い弾性率の応力へ通過する時にTg間に食い違いが存在しな
い事は,樹脂R2が,S-SBR AとBR-Aによって構成されるエラストマーマ
トリックにおいて容易に混和性である事の事実を伝えるものである。
タイヤのこの機能の結果は,強化充填剤としてシリカを含むトレッド組成物I2に
おいて,55℃のTgと750g/molのMnの可塑化用樹脂の混入が,タイヤ
の乾燥又は湿った地面でのグリップ,これらのタイヤを装着した車両の挙動及びそ
のローリング抵抗に逆の影響を及ぼす事無しに,本発明の樹脂の上述の混和性によ
って,タイヤ(そのトレッドは,前記組成物I2で形成されている)の耐摩耗性並
びに湿った地面でのグリップを改善する事が可能である事を示す。
この組成物I2は,組成物T2と比較して,著しく少ない量の可塑化用油を含む点
が注目される。
【0038】
実施例3
「最高級乗用車」タイプのタイヤ用として,「対照」トレッド組成物T3と,本発
明の組成物I3とを調製した。以下の表3は得られた結果を示す。
【0039】
【表3】
表3
【0040】
S-SBR B:溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,29%のス
チレン結合含有量,78%のトランス-1,4-結合含有量,100℃で58のム
ーニー粘度ML(1+4),37.5phrのエクステンダー油及び-50℃のガ
ラス転移温度Tgを有する。
S-SBR C 溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,
: 24%の1,
2-結合含有量,40%のスチレン結合含有量,100℃で54のムーニー粘度M
L(1+4),37.5phrのエクステンダー油及び-30℃のガラス転移温度
Tgを有する。
S-SBR D:溶液で調製されたスチレン-ブタジエンコポリマーで,27.5%
のスチレン結合含有量,78%のトランス-1,4-結合含有量,100℃で54
のムーニー粘度ML(1+4)及び-50℃のガラス転移温度Tgを有する。
【0041】
高弾性率の動的応力(0.7MPa)下での本発明の組成物I3のTgは,「対照」
組成物T3のTgの比較的に近い所に設定される点が注目される。
表3から分かる通り,0.2MPaの低い弾性率の動的応力で測定された,組成物
I3とT3とのTgの間の差(6℃)は,高弾性率の前記応力下で測定された,組
成物I3とT3とのTgの間の差(5℃)に近い。
高弾性率の応力から低い弾性率の応力へ通過する時にTg間に食い違いが存在しな
い事は,樹脂R1が,S-SBR BとS-SBR Dによって構成されるエラスト
マーマトリックにおいて容易に混和性である事の事実を伝えるものである。
タイヤのこの機能の結果は,強化充填剤として50%のシリカと50%のカーボン
ブラックとを含むトレッド組成物I3において,88℃のTgと820g/mol
のMnの可塑化用樹脂の混入が,その様なタイヤの湿った地面でのグリップ,これ
らのタイヤを装着した車両の湿った地面上での挙動及びそのローリング抵抗に逆の
影響を及ぼす事無しに,本発明の樹脂の上述の混和性によって,「最高級」タイプ
のタイヤ(そのトレッドは,前記組成物I3で形成されている)の耐摩耗性並びに
湿った地面でのグリップを改善する事が可能である事を示す。
この組成物I3は,組成物T3と比較して,著しく少ない量の可塑化用油を含む点
が注目される。
【0042】
実施例4
「乗用車」タイプのタイヤ用として,「対照」トレッド組成物T4と,本発明の組
成物I4並びにI4-1とを調製した。以下の表4は得られた結果を示す。
【0043】
【表4】
表4
【0044】
高弾性率の動的応力(0.7MPa)下での本発明の組成物I4とI4-1のTg
は,「対照」組成物T4のTgに実質的に等しく用意される点が注目される。
表4から分かる通り,0.2MPaの低い弾性率の動的応力で測定された,組成物
I4,I4-1とT4とのTgの間の差(1~2.5℃)は,高弾性率の前記応力
下で測定された,組成物I4,I4-1とT4とのTgの間の差(0.5~1℃)
に近い。
高弾性率の応力から低い弾性率の応力へ通過する時にTg間に食い違いが存在しな
い事は,樹脂R1が,S-SBR AとBR-Aによって構成されるエラストマーマ
トリックにおいて容易に混和性である事の事実を伝えるものである。
タイヤのこの機能の結果は,強化充填剤としてシリカを含むトレッド組成物I4に
おいて,88℃のTgと820g/molのMnの可塑化用樹脂の混入が,タイヤ
の湿った地面でのグリップ,これらのタイヤを装着した車両の挙動及びそのローリ
ング抵抗に逆の影響を及ぼす事無しに,本発明の樹脂の上述の混和性によって,タ
イヤ(そのトレッドは,前記組成物I4で形成されている)の耐摩耗性並びにクラ
ウンプライの分離抵抗(「開裂」耐久性)を改善する事が可能である事を示す。
組成物I4と比べて非常に低いTgを持つ,樹脂とエラストマーの量が多い組成物
I4-1(25phrの樹脂と49phrのBR-A)は,タイヤ(そのトレッド
は,前記組成物I4-1で形成されている)の耐摩耗性及び「開裂」耐久性を更に
改善し,組成物T4を特徴付けている芳香族油の量と比べてその芳香族油の量を相
当に減少させる事を可能とする(40phrから15phrへの減少)。
この結果は,汚染が,「対照」組成物T4で形成されるトレッドを持つタイヤに比
べて,この組成物I4-1の良好な摩耗性挙動及び改善された耐久性によって更に
最少にされるこの組成物I4-1で構成されるトレッドを持つタイヤを装着した車
両の走行による環境汚染の著しい減少である。
【0045】
実施例5
「雪氷車両」タイプのタイヤ用として,「対照」トレッド組成物T5と,本発明の
組成物I5とを調製した。以下の表5は得られた結果を示す。
【0046】
【表5】
表5
【0047】
NR:“TSSR”タイプの天然ゴム。
高弾性率の動的応力(0.7MPa)下での本発明の組成物I5のTgは,「対照」
組成物T5のTgに実質的に等しい点が注目される。
表5から分かる通り,0.2MPaの低い弾性率の動的応力で測定された,組成物
I5とT5とのTgの間の差(0.5℃)は,高弾性率の前記応力下で測定された,
組成物I5とT5とのTgの間の差(1℃)に近い。
高弾性率の応力から低い弾性率の応力へ通過する時にTg間に食い違いが存在しな
い事は,樹脂R1が,NRとBR-Aによって構成されるエラストマーマトリック
において容易に混和性である事の事実を伝えるものである。
タイヤのこの機能の結果は,強化充填剤としてシリカを含むトレッド組成物I5に
おいて,88℃のTgと820g/molのMnの可塑化用樹脂の混入が,タイヤ
の冬期地面(氷と雪)及び乾燥地面でのグリップ及びそのローリング抵抗に逆の影
響を及ぼす事無しに,本発明の樹脂の上述の混和性によって,タイヤ(そのトレッ
ドは,前記組成物I5で形成されている)の耐摩耗性並びに湿った地面上のそのグ
リップ(ブレーキ及び挙動)を改善する事が可能である事を示す。
組成物I5は,パラフィン系可塑化用油を含み,芳香族油を全く含まないので,走
行中の環境汚染の著しい減少,即ち,汚染が,「対照」組成物T5と比較して,こ
の組成物I5の良好な摩耗性挙動によって更に最少化される点が注目される。
(2) 他の文献の記載(なお,以下に認定する各文献は,甲20文献以外は,い
ずれも,本願の優先日前に開示されたものである。)
ア 甲20文献には,以下のとおりの記載がある(甲20)。
なお,(イ)の表8は抜粋である。
(ア) 47頁右欄10行~29行
「ESBRの用途は広く,自動車タイヤ,・・・など非常に多方面で使われるが,
使用量は圧倒的に自動車タイヤが多い。
・・・最も代表的な非油展コールドESBR
の1500シリーズは,タイヤ,防振ゴムなど幅広い用途に使用される。SSBR
は主に乗用車用のタイヤのトレッドゴムに使用される。
品質やグレードによる配合物性を表8に示す。ESBRはSSBRに比べ配合物
ムーニー粘度が低く,加工性が良い。また引張強度や破断伸びも良い。一方,ウエ
ットグリップ性や,省燃費性はSSBRと比べると悪くなる。SSBRのミクロ構
造による影響はTgの差異として現われ,低Tg化(・・・)すると,耐摩耗性と
省燃費性が良好となるが,ウエットグリップ性は悪化する。末端に変性基を導入す
ると,ポリマー末端と補強剤との相互作用が強固になるため,配合物のムーニー粘
度は増加するが,反発弾性,ウエットグリップ性や省燃費性が改良される。実タイ
ヤでは,それぞれのデメリットを補うため,一般的にBR,NR,IR等とブレン
ドし,使用される。」
(イ) 表8
イ 甲21文献には,以下のとおりの記載がある(甲21)。
(ア) 160頁14行~29行
「上述のように,ミシュランの特許のシリカ-トレッドコンパウンドの特徴のう
ちの一つはポリマー系:主要なゴムは溶液SBRである。しかしながら,SSBR
がこの数十年間で商業化されその転がり抵抗及びスキッド耐性における優位性が,
有意でないにしても認識されてきたが,典型的な旅客トレッドコンパウンドにおけ
る主要なポリマーは乳液SBR(ESBR)である。シリカベースのトレッドコン
パウンドの導入より,そのよりよい加工性と低コストのために,タイヤ製造業者に
よりESBRにおいてシリカを使用する多大な努力がなされてきたが,シリカタイ
ヤにとって溶液重合ゴム(BRを含む)は専有的なポリマーであった。他の理由の
中で,劣った耐摩耗性はESBRにおけるシリカのカギとなる欠点である。この劣
った欠点は,その弱いポリマー-充填剤相互作用による。それは図3.23に図示
されるように,SSBRと違って結合反応で補償されることができない。高濃度の
カップリング剤を配合しても,耐摩耗性はカーボンブラックコンパウンドのそれに
は大きく及ばない。」
(イ) 図3.23
摩耗指数% 充填材 50phr
スリップ比:14%
カーボンブラックN234 シリカ+TESPT 4 phr
図3.23 溶液及び乳液SBRにおけるカーボンブラックN234と
シリカ(ZeoSil1165)/TESPTの耐摩耗性
ウ 甲22文献の表4及び表5には,充塡剤として所定量のシリカと組み合
わせたゴム組成物の破壊特性を評価した結果が示されているところ,表4には,末
端変性(シリカの分散性を向上させる官能基により変性されたもの)S-SBRで
あるポリマーGを100部含む実施例5の耐摩耗性は130,ポリマーGを10部
及びE-SBRである#1500を90部含む比較例7の耐摩耗性は102である
ことが示されている。
また,表5には,S-SBRであるポリマーFを100部含む比較例2,ポリマ
ーFを80部及び#1500を20部含む比較例4,ポリマーFを50部及び#1
500を50部含む比較例5が記載され,耐摩耗性は,比較例2は105,比較例
4は102,比較例5は98であることが示されている。(甲22)
エ 甲23文献には,以下のとおりの表5が記載されている(甲23)。
オ 乙1文献には,以下のとおりの記載がある(乙1)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】 乳化重合により重合された重量平均分子量が100万~150万
のスチレンとブタジエンの共重合体ゴムをゴム成分とした単独配合の,または前記
共重合体ゴムをゴム成分として30重量部以上と他のゴムをゴム成分として70重
量部以下とを配合したゴム組成物に,前記ゴム成分100重量部に対してシリカを
30重量部~120重量部を配合したことを特徴としたタイヤ用ゴム組成物。
・・・
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,タイヤ用ゴム組成物に関するものであり,
さらに詳しくはタイヤの転がり抵抗と湿潤路面での摩擦係数を高次に維持しながら
,耐摩耗性を向上することができるタイヤトレッドに好適なタイヤ用ゴム組成物に
関するものである。
・・・
カ 乙2文献には,以下のとおりの記載がある(乙2)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴムに,シリカと,シランカップリング
剤と,ペプトンを配合してなるタイヤトレッド用ゴム組成物。
・・・
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,空気入りタイヤのトレッドに用いられるゴム組成物に関するものであ
る。
・・・
【0014】
上記ゴム組成物に配合されるシリカとしては,特に限定されないが,含水珪酸を
主成分とする湿式シリカを用いることが好ましい。シリカの比表面積(ISO 5
794/1に準じて測定されるBET法)は,特に限定されないが,100~30
0㎡/gであることが,タイヤトレッド用として好ましい。
・・・
【0028】
バンバリーミキサーを使用し,下記表1に示す配合に従い,実施例及び比較例の
各タイヤトレッド用ゴム組成物を調製した。なお,シリカは,ペプトン,デンプン
又はセルロースの増量に従い,フィラー全体としての補強性が同様となるように,
適宜減量した。表1中の各成分は以下の通りである。
【0029】
・E-SBR:JSR株式会社製「SBR1502」,
・シリカ:東ソー・シリカ工業株式会社製「ニップシールAQ」,BET比表面積
=215m2/g),
・シランカップリング剤:デグッサ社製「Si75」
(ビス-(3-トリエトキシ
シリルプロピル)ジスルフィド)。
【0030】
・ペプトン:日本製薬株式会社製「ポリペプトン」
(牛乳カゼインを動物由来の酵
素で分解したもの。平均分子量=2万,平均粒径=2.0μm),
・デンプン:ナカライテスク株式会社製「馬鈴薯でんぷん」,
・セルロース:ナカライテスク株式会社製「セルロース」。
・・・
【表1】
キ 乙3の1文献には,以下のとおりの記載がある(乙3の1)。
請求の範囲
[請求項1]天然ゴム及びジエン系合成ゴムの少なくとも1種からなるゴム成分
100質量部に対して,充填剤としてセチルトリメチルアンモニウムブロミド吸着
(m2/g)と音響式粒度分布測定によって求められる一次凝
比表面積(CTAB)
集体の直径(nm)の最頻値Aacとが下記式(A)を,灼熱減量(750℃で3時
間加熱した時の質量減少%)と加熱減量(105℃で2時間加熱した時の質量減少%)
との差が下記式(B)を満たす含水ケイ酸20~150質量部,
及びシランカップリング剤として下記一般式(I)(II)(X)及び平均組成式
, ,
(VI)で表される化合物の少なくとも1種を1~25質量部含有するゴム組成物
をトレッドに用いた空気入りタイヤ。
Aac≧-0.76×(CTAB)+274・・・(A)
(灼熱減量)-(加熱減量)≦3 ・・・・・・・(B)
・・・
明細書
発明の名称:空気入りタイヤ
技術分野
[0001]本発明は,空気入りタイヤに関し,さらに詳しくは補強用充填剤と
して特定構造の含水ケイ酸と特定のシランカップリング剤を用いた低発熱性,耐摩
耗性に優れたゴム組成物を用いた空気入りタイヤに関する。
・・・
[0088]実施例1~16及び比較例1~8
表2及び表3に示す配合組成によりバンバリーミキサーで混練して,ゴム組成物
を調製した。それぞれのゴム組成物を用いて195/65R15のタイヤを製造し
て,転がり抵抗および耐摩耗性を測定した。結果を表2,表3に示す。
[0089][表2]
[0090][表3]

1)SBR#1712〔JSR社製〕
2)SBR#1500〔JSR社製〕
3)シースト7HM〔東海カーボン社製〕
4)ニップシールAQ〔日本シリカ工業社製〕
5)含水ケイ酸の製造例Fで製造
6)プレミアム200MP〔ローディア社製〕
7)含水ケイ酸の製造例Gで製造
・・・
ク 乙4文献には,以下のとおりの記載がある(乙4)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン含有量が約38~約50重量パーセントで,Tgが約-22℃~
約-10 ℃の溶液重合スチレン-ブタジエンゴムを約35~約65質量部と,
(B)スチレン含有量が約20~約40重量パーセントで,Tgが約-55℃~
約-28 ℃の乳化または溶液重合スチレン-ブタジエンゴムを約10~約35質
量部と,
(C)ポリブタジエンを約10~約35質量部を含むエラストマー成分100質
量部に
対して,
(D)シリカを約10~約100質量部
含む加硫性ゴム組成物を含む要素を有する空気入りタイヤ。
・・・
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,3成分ブレンドゴムとシリカを含有する要素を有する空気入りタイヤ
に関する。
・・・
【0004】
ESBR/シリカ系は,優れた引裂/引張特性,優れたウエット性能を有するト
レッド配合物を生じるが,ころがり抵抗と磨耗特性に欠ける傾向がある。中スチレ
ンSSBRシリカ系は,優れたウエット/ころがり抵抗/磨耗バランスを有するト
レッド配合物を生じるが,この系は,引裂/引張特性にやや欠ける傾向がある。
・・・
【0040】
本実施例では,3つのゴム配合物を比較する。サンプル1とサンプル2は,従来
技術の代表的な対照サンプルを表す。サンプル3は,本発明の代表である。
【0041】
エラストマーは,表1に示したように標準量の通常の加硫剤および加工助剤で配
合し,標準の加硫サイクルで加硫した。加硫サンプルは,表2に示した標準試験プ
ロトコルに従って,種々の物理特性を評価した。
【0042】
【表1】
ケ なお,乙3の1文献のSBR#1712及びSBR#1500は,い
ずれもE-SBRである(乙3の2)。
(3) 前記(1),(2)の各文献の記載を前提として,刊行物1に,E-SBRと高
用量のシリカの組合せが記載されているかについて検討する。
ア E-SBRとシリカの組合せが記載されているかどうかについて
(ア) 前記(1)で認定した請求項1,5,7,12,14,16,17,段落
【0007】~【0009】からすると,刊行物1には,
「タイヤトレッドを構成す
る為に使用できる架橋性又は架橋ゴム組成物であって,前記組成物が一種以上のジ
エンエラストマーをベースとし,且つ前記ジエンエラストマーに混和性である少な
くとも一種の炭化水素可塑化用樹脂を含み,前記樹脂が,30℃~100℃のガラ
ス転移温度(Tg)と400g/mol~2000g/molの数平均分子量を有
するゴム組成物において,前記組成物が,5phr~35phr(phr:エラス
トマーの100部当りの質量部)の量の前記炭化水素可塑化用樹脂と,50phr
より多く100phrまでの量の,-65℃~-10℃のガラス転移温度(Tg)
を有する,エマルジョンで調製されたスチレン-ブタジエンコポリマー及び50p
hr未満で0phrまでの量の,-110℃~-80℃のガラス転移温度(Tg)
を有する,90%より多いシス-1,4結合含有量を有するポリブタジエンを含み,
パラフィン系又は芳香族系の可塑化用油を更に含み,組成物中の可塑化用油の合計
量が30phr以下であり,強化充填剤として,シリカである強化白色充填剤を5
0~150phrの変動量で含むゴム組成物を,タイヤトレッドに用いた乗用車又
は重量車両用タイヤ。(刊行物1発明)が記載されているものと認められる。

したがって,刊行物1には,ジエンエラストマー,強化充填剤,炭化水素樹脂及
び可塑剤を含むタイヤトレッド用のゴム組成物において,ジエンエラストマーをE
-SBR及びポリブタジエンのブレンドとし,強化充填剤をシリカとした組合せが
記載されている。
(イ) 原告の主張について
a 原告は,刊行物1の実施例には,E-SBRとシリカの組合せは存
在しないから,刊行物1には,同組合せの開示はない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物1の特許請求の範囲において,請求項1に,タ
イヤトレッドを構成するために使用できる架橋性又は架橋ゴム組成物として,①-
65℃~-10℃のガラス転移温度(Tg)を有する一種以上のジエンエラストマ
ー及び②-110℃~-80℃のガラス転移温度(Tg)を有する一種以上のジエ
ンエラストマーを含むものが記載され,請求項1を引用する請求項5に,上記ゴム
組成物として,上記各ジエンエラストマーのブレンドを含むものが記載され,請求
項5を引用する請求項7に,上記①のジエンエラストマーとして「エマルジョンで
調製された少なくとも一種のスチレン-ブタジエンコポリマー」と,上記②のジエ
ンエラストマーとして「90%より多いシス-1,4結合含有量を有する少なくと
も一種のポリブタジエン」とのブレンドを含むものが記載され,請求項7を引用す
る請求項14には,上記ゴム組成物において,強化充填剤として「強化白色充填剤」
を含むものが記載されているところ,段落【0009】には,
「強化白色充填剤」に
ついて,好ましくは「シリカ(SiO2)」であることが記載されているのであるか
ら,刊行物1には,E-SBRとシリカとの組合せは,明確に記載されている。
したがって,刊行物1の実施例にE-SBRとシリカとの組合せが記載されてい
ないとしても,当業者は,刊行物1の記載から,ゴム組成物の生成において,E-
SBRとシリカとを組み合わせることを認識できるというべきであり,原告の上記
主張は理由がない。
b 原告は,シリカは,炭化水素系ポリマーであるゴムとの親和性が極
めて低く,また,水素結合によりシリカ同士が凝集してしまうため,シリカ単独で
は分散及び補強性を確保できないという問題があること,そのため,シリカとの組
合せにおいては,専ら改質可能なS-SBRが用いられてきたことから,E-SB
Rとシリカとの組み合わせることには阻害要因がある旨主張する。
確かに,証拠(甲17,19)によると,シリカは,炭化水素系ポリマーである
ゴムとの親和性が低いことが認められる。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物1の特許請求の範囲において,タイヤトレッド
用のゴム組成物として,E-SBRとシリカとの組合せが記載されている上,前記
(2)オ~クのとおり,タイヤ用ゴム組成物に関する発明において,E-SBRとシリ
カとの組合せを記載した文献が少なからず存在するのであるから,シリカとゴムと
の親和性が低いとしても,このことから,刊行物1に接した当業者が,E-SBR
とシリカとの組合せに想到できないということにはならないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告は,甲20文献には,E-SBRとシリカの組合せよりもS-
SBRとシリカの組合せの方が耐摩耗性,ウェットグリップ性,燃費性が向上する
こと,末端変性S-SBRでは,更に耐摩耗性,ウェットグリップ性能及び燃費性
が向上することが示されていること,甲21文献,甲22文献及び甲23文献にも,
E-SBRとシリカの組合せは,E-SBRとカーボンブラックの組合せやS-S
BRとシリカの組合せに比べ,耐摩耗性が悪くなることが示されていることから,
耐摩耗性の改善を目的とする刊行物1において,耐摩耗性が大きく損なわれるE-
SBRとシリカの組合せを選択することには阻害事由が存在する旨主張する。
しかし,前記(1)で認定した刊行物1の記載からすると,刊行物1に係る発明の課
題は,耐摩耗性を改善することであるが,同課題は,特定範囲のTgを有する複数
のジエンエラストマーのブレンドに,特定範囲のTgを有する樹脂を添加すること
によって解決されるものであると認められるところ,原告が指摘する上記の各文献
においては,ジエンエラストマー及び樹脂のTgを,一定範囲のものにするなどの
工夫はされていないのであるから,これらの文献において,E-SBRとシリカを
組み合わせると耐摩耗性が低下する旨の記載があるとしても,刊行物1に接した当
業者は,ジエンエラストマー及び樹脂のTgを工夫するなどして,耐摩耗性の改善
を図ることが可能であると認識するものと認められる。
そして,前記(2)オ~クのとおり,タイヤ用ゴム組成物に関する発明において,E
-SBRとシリカとの組合せを記載した文献が少なからず存在することを併せ考慮
すると,刊行物1に接した当業者は,タイヤ用ゴム組成物におけるジエンエラスト
マーと強化充填剤との組合せについては,その組合せの利点や欠点を考慮しながら,
求められる特性に応じて,ジエンエラストマー及び樹脂のTgを工夫するなどして,
適宜選択するものと認められる。
したがって,刊行物1に接した当業者が,原告が指摘する,甲20~甲23文献
の記載から,E-SBRとシリカとを組み合わせることを阻害されると認めること
はできず,原告の上記主張は理由がない。
イ E-SBRと高用量のシリカの組合せが記載されているかどうかについ

(ア) 前記(1)のとおり,刊行物1の段落【0007】には,「本発明の組成
物は,又,50~150phrの変動量で前記組成物中に存在しても良い強化充填
剤を含む。」と記載されており,刊行物1に係る発明のゴム組成物に含まれる強化
充填剤の量が「50~150phr」であることが記載されている。
そして,刊行物1の特許請求の範囲の請求項14では,上記強化充填剤として,
強化白色充填剤が挙げられ,段落【0009】では,同強化白色充填剤について,
好ましくは「シリカ(SiO2)」であることが記載されている。
したがって,刊行物1には,強化充填剤として,シリカである強化白色充填剤を
50~150phrの変動量で含むことが記載されており,本願発明の高用量のシ
リカが記載されているものと認められる。
(イ) 原告の主張について
a 原告は,本願発明では,シリカの用量を105~145phrと限
定しているが,刊行物1の段落【0007】では,シリカの用量を「50~150
phr」としているから,刊行物1には,本願発明の上記限定は開示されていない
旨主張するので,以下判断する。
(a) 前記1のとおり,本件明細書には,実施例として,E-SBR6
0phrとシリカ120phrを組み合わせたC.3,C.4,C.5,C.7と
E-SBR60phrとシリカ100phrを組み合わせたC.6とが記載されて
おり,それぞれの「濡れた路面に対するブレーキング」及び「転がり抵抗」は,C.
3は,110,98,C.4は116,98,C.5は115,98,C.6は1
10,100,C.7は109,98と記載されているが,同実施例においては,
E-SBR以外のジエンエラストマーの成分及び含有量並びに可塑化系の含有量が
異なっているから,同実施例によって,シリカの含有量の違いにより,ウェット路
面に対するグリップ特性及び転がり抵抗についての効果を検証することはできず,
したがって,同実施例の記載によって,シリカの用量を105~145phrとし
たことの技術的意義が記載されているということはできない。
また,上記実施例を,E-SBR以外のジエンエラストマーの成分及び含有量並
びに可塑化系の含有量を捨象して,シリカを100phrとしたC.6とシリカを
120phrとしたC.7を比較しても,シリカの用量の少ないC.6の方が,シ
リカの用量の多いC.7よりも,
「濡れた路面に対するブレーキング」及び「転がり
抵抗」が優れている。
その他,本件明細書には,シリカの用量を50~150phrと限定したことの
技術的意義についての記載がない。
(b) 原告は,本件明細書には,ゴム質量全体と同程度以上の質量割合
の用量のシリカを用いれば発明の作用効果を奏することが明確に記載されており,
このゴム質量全体と同程度以上の質量割合のシリカの用量が「高用量」の意味であ
る旨主張する。
しかし,前記1のとおり,本件明細書の実施例は,E-SBRとシリカを組み合
わせたC.3~C.7と,S-SBRとシリカを組み合わせたC.1及びC.2の
7種類の実施例であるが,ゴム成分の質量は,いずれも100phrであり,シリ
カの用量は,100phr(C.1,C.6)又は120phr(C.2~C.5,
C.7)であるから,ゴム質量全体と同程度に満たない質量割合のシリカの用量に
ついての「濡れた路面に対するブレーキング」及び「転がり抵抗」を検証した例は
記載されていない。本件明細書の実施例は,S-SBRとシリカの組合せとE-S
BRとシリカの組合せを比較して,後者が前者よりも優れた効果を有することを示
すものであって,シリカの質量割合がゴム質量全体と同程度以上である場合とそう
でない場合の効果を比較したものではなく,本件明細書に接した当業者も,上記実
施例から,ゴム質量全体と同程度以上の質量割合の用量のシリカを用いれば発明の
作用効果を奏するということを認識することはできないというべきである。
したがって,本件明細書に,原告が主張する上記の意味の「高用量」の技術的意
義が記載されているということはできず,原告の上記主張は理由がない。
(c) 以上のとおり,本件明細書には,本願発明がシリカの用量を10
5~145phrと限定したことの技術的意義は記載されていないから,本願発明
は,単に,105~145phrの用量のシリカを含有するという内容であると認
められ,同用量を含む用量のシリカを含有するゴム組成物の発明が開示されていれ
ば,上記用量の開示があるものと認められる。
b 原告は,刊行物1において,強化充填剤は,シリカに限定されず,
カーボンブラック,アルミナ等も挙げられているから,刊行物1の段落【0007】
の50~150phrの変動量がシリカに関するものかは分からない旨主張する。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物1の段落【0007】は,
「本発明の組成物は,
又,50~150phrの変動量で前記組成物中に存在しても良い強化充填剤を含
む。」と記載されており,強化充填剤の種類を限定していないのであるから,同段
落は,シリカを含むすべての強化充填剤の変動量を記載したものと認められ,具体
的な例が記載されていないとしても,このことは左右されるものではない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
c 原告は,甲22文献によると,高用量のシリカ(110phr)を
使用すると耐摩耗性が低下することが認められるから,耐摩耗性の向上を目的とす
る刊行物1の記載を見て,当業者が現実に記載されている90phr以上のシリカ
をゴム組成物に含有させるなどということはあり得ない旨主張する。
しかし,刊行物1に係る発明の課題は,耐摩耗性を改善することであるが,同課
題は,特定範囲のTgを有する複数のジエンエラストマーのブレンドに,特定範囲
のTgを有する樹脂を添加することによって解決されるものであることは,前記ア
で判示したとおりである。そして,甲22文献においては,ジエンエラストマー及
び樹脂のTgを,一定範囲のものにするなどの工夫はされていないのであるから,
同文献において,E-SBRとシリカを組み合わせると耐摩耗性が低下する旨の記
載があるとしても,刊行物1に接した当業者は,甲22文献のジエンエラストマー
及び樹脂のTgを工夫するなどして,高用量のシリカを使用したとしても,耐摩耗
性の改善を図ることが可能であると認識するものと認められる。したがって,甲2
2文献の記載から,当業者が,E-SBRと高用量のシリカとを組み合わせること
を想到できないと認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(4) 前記(3)のとおり,刊行物1には,刊行物1発明が記載されている。したが
って,刊行物1に記載された発明についての本件審決の認定に誤りはなく,また,
本願発明と刊行物1に記載された発明との相違点についての本件審決の認定に誤り
はない。
3 以上より,取消事由は理由がない。
第6 結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
佐 野 信
裁判官
熊 谷 大 輔

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