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平成29(ネ)10049等損害賠償請求控訴事件,同反訴事件

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裁判所 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成30年12月26日
事件種別 民事
対象物 チューブ状ひも本体を備えたひも
法令 特許権
特許法73条2項13回
特許法98条1項1号7回
特許法73条1項3回
特許法74条1項3回
特許法102条2項3回
特許法79条の23回
特許法98条1項2回
特許法104条の31回
特許法100条1項1回
特許法102条3項1回
特許法103条1回
キーワード 特許権221回
実施89回
損害賠償28回
無効27回
侵害25回
許諾8回
分割7回
優先権5回
差止5回
無効審判3回
ライセンス3回
主文 1 本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由がある。
2 本訴請求のうち,債務不履行に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由がない。
3 本訴請求のうち,説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由がない。
4 反訴請求に係る訴えは不適法である。
事件の概要 1 事案の経緯等 (1) 本件は,控訴人が,被控訴人には次のア~ウの債務不履行又は不法行為が あると主張して(アとイは選択的な主張),被控訴人に対し,債務不履行又は不法 行為に基づき,損害額合計2億2000万円及びこれに対する催告の後の日又は不 法行為の後の日である平成28年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

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判決文

平成30年12月26日判決言渡
平成29年(ネ)第10049号 損害賠償請求控訴事件
平成30年(ネ)第10076号 同反訴事件
(原審・東京地方裁判所平成28年(ワ)第19633号)
口頭弁論終結日 平成30年10月17日
中 間 判 決
控訴人(一審原告)兼反訴被 告(以下,「控訴人」という。)
X
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 山 内 貴 博
松 下 昂 永
被控訴人(一審被告)兼反訴原告(以下,「被控訴人」という。)
株 式 会 社 ツ イ ン ズ
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 鮫 島 正 洋
山 本 真 祐 子
森 下 梓
主 文
1 本訴請求のうち,特許権(控訴人の共有持分権)侵害の不法行為に基
づく損害賠償請求の原因(数額の点は除く。)は理由がある。
2 本訴請求のうち,債務不履行に基づく損害賠償請求の原因(数額の点
は除く。)は理由がない。
3 本訴請求のうち,説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求の原
因(数額の点は除く。)は理由がない。
4 反訴請求に係る訴えは不適法である。
事 実 及 び 理 由
用語の略称及び略称の意味は,本判決で付するもののほか,原判決に従う。ま
た,人証は,すべて当審で行われたものである。
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴の趣旨
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,2億2000万円及びこれに対する平成28
年6月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被控訴人は,原判決別紙物件目録記載の被告各商品の製造及び販売をして
はならない。
(4) 被控訴人は,特許第5079926号の特許権の持分4分の1及び特許第
5392519号の特許権の持分4分の1をいずれも有していないことを確認す
る。
(5) 被控訴人は,控訴人に対し,特許第5079926号の特許権及び特許第
5392519号の特許権につき,それぞれ持分4分の1の移転登録手続をせよ。
(控訴人は,当審において,上記(3)~(5)の各請求を追加した。)
2 反訴
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,特許第5079926号の特許権及び特許第
5392519号の特許権につき,それぞれ持分6分の1の移転登録手続をせよ。
(2) 控訴人は,特許第5079926号の特許権の持分2分の1及び特許第5
392519号の特許権の持分2分の1をいずれも有していないことを確認する。
第2 事案の概要
1 事案の経緯等
(1) 本件は,控訴人が,被控訴人には次のア~ウの債務不履行又は不法行為が
あると主張して(アとイは選択的な主張),被控訴人に対し,債務不履行又は不法
行為に基づき,損害額合計2億2000万円及びこれに対する催告の後の日又は不
法行為の後の日である平成28年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分の
割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
ア 名称を「チューブ状ひも本体を備えたひも」とする発明についての特許
第5079926号の特許権(請求項の数5。以下,「本件特許権1」といい,そ
の特許を「本件特許1」といい,特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明1-
1」という。)を共有する控訴人,被控訴人,A及びBの4者(以下,「本件4者」
という。)は,本件発明1-1の実施について,①Bが中国国内の工場で実施品を
製造し,②これをAが梱包し,③これを控訴人が仕入れ,④さらに被控訴人がこれ
を日本に輸入して販売することとし(本件販売形態),これを唯一の販売形態とす
る旨の合意(本件実施合意)をしていたのに,被控訴人はこれに反して控訴人から
の仕入れを中止し,被告各商品を製造・販売した(本件実施合意の債務不履行)。
イ 被控訴人は,本件発明1-1の技術的範囲に属する被告各商品を製造・
販売し,もって本件特許権1(控訴人の共有持分権)を侵害した(特許権侵害によ
る不法行為)。
ウ 被控訴人は,本件4者間に成立した出願に関する合意により,香港への
本件発明1-1の特許出願を平成26年5月22日までに行うよう,弁理士へ出願
指示をすべきであったのに,これを怠った(出願に関する合意の債務不履行又は不
法行為)。
(2) 原審は,①本件4者間において,本件販売形態を唯一の販売形態とする旨
の合意は認められない,②本件特許権1について,特許法73条2項の「別段の
定」は存在しないから,被控訴人は,他の共有者の同意を得ないで被告各商品を製
造・販売することができる,③控訴人の主張するような出願に関する合意は認めら
れないと判断して,控訴人の請求をいずれも棄却した。
(3) 控訴人は,原判決を不服として控訴し,当審において,次のとおり,訴え
の変更をした。
すなわち,控訴人は,次のア~エのとおり主張して,被控訴人に対し,①特許法
100条1項に基づき,被告各商品の製造及び販売の差止め,②債務不履行又は不
法行為に基づき,損害額合計2億2000万円及びこれに対する催告の後の日又は
不法行為の後の日である平成28年6月16日から支払済みまで民法所定の年5分
の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,③被控訴人が本件特許権1の持
分4分の1及び特許第5392519号の特許権(以下,「本件特許権2」とい
い,その特許を「本件特許2」という。本件特許権1及び2を総称して「本件特許
権」,本件特許1及び2を総称して「本件特許」といい,本件特許の対象である発
明を「本件特許発明」という。)の持分4分の1をいずれも有していないことの確
認,④後に定義する本件固定的役割分担合意,本件固定的役割分担合意の解除に伴
う原状回復,後に定義する本件共同出願契約又は特許法74条1項に基づき,控訴
人に対する本件特許権の持分各4分の1の移転登録手続を求めた。
ア 被控訴人は,次の(ア)~(キ)の理由により,本件特許権の持分が剥奪さ
れ,無権利者であり,また,後に定義する本件固定的役割分担合意は,特許法73
条2項の「別段の定」に当たるところ,平成28年4月1日以降,被控訴人が本件
発明1-1の技術的範囲に属する被告各商品を製造・販売したことにより,控訴
人,A及びB(以下,「控訴人ら3者」という。)は1億円の損害を受けた。控訴人
は,A及びBの被控訴人に対する損害賠償請求権を譲り受けた(甲63,甲64の
1~3)。
(ア) 本件4者は,①(a)Bが中華人民共和国内の工場で製造し,(b)Aがこ
れを梱包し,(c)控訴人がこれを仕入れ,香港で輸出の手配をした本件発明1-1
の実施品を,(d)被控訴人が控訴人から購入し,日本に輸入して販売することとし
(本件販売形態),いずれの当事者も各自の担当以外の役割を行わないこと,②控
訴人,A及びBが共有する本件特許発明につき特許を受ける権利(各持分3分の
1)の各一部を被控訴人に無償で譲渡すること,③上記①に違反したときは,共同
出願人たる地位(特許権成立後は,本件特許権の持分)が剥奪されることを内容と
する合意(以下,「本件固定的役割分担合意」という。)をした。それにもかかわら
ず,被控訴人は,控訴人からの仕入れを突如中止し,遅くとも平成28年4月1日
以降,株式会社モリト及び株式会社スリーランナー(以下,「本件製造会社」と総
称する。)に対し,被告各商品を製造させ,これを販売した。これは,本件固定的
役割分担合意の上記①の違反に当たるから,上記③により,遅くとも平成28年4
月1日時点において,被控訴人は本件特許権の持分が剥奪され,無権利者となっ
た。
(イ) 前記(ア)の被控訴人による被告各商品の製造・販売は,本件固定的役
割分担合意に違反し,債務不履行に当たるから,控訴人は,自ら並びにA及びBを
代理して,平成29年6月1日付け控訴理由書兼訴えの変更申立書により,この債
務不履行を理由として,被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受ける権利の
譲渡契約を解除した。これにより,被控訴人は本件特許権の持分が遡及的に剥奪さ
れ,無権利者となった。
(ウ) 本件4者は,他の当事者の同意を得なければ,第三者に本件特許発明
の実施を許諾できない旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕8条。以下,本件特
許発明に係る共同出願契約を「本件共同出願契約」という。 。それにもかかわら

ず,被控訴人は,遅くとも平成28年4月1日以降,本件製造会社に対し,実施許
諾を行った。これは,上記合意違反に当たるから,これにより,遅くとも平成28
年4月1日時点において,被控訴人は本件特許権の持分が剥奪され,無権利者とな
った。
(エ) 本件4者は,事前の相談・承諾なしに,本件特許権に関連する特許を
新たに取得したり,それに関わる製品を販売したりした場合,本件特許権を剥奪で
きる旨合意した(共同出願契約書〔甲5〕13条)。それにもかかわらず,被控訴
人は,①発明の名称を「こぶ部を有する紐」とし,主に「弾性変形可能なこぶ部」
を「間隔を置いて複数個備える紐」を内容とする特願2016-28561号を出
願して,その実施品を販売するとともに,②こぶ付紐用の先端固定具の発明につい
て,特許第6157766号の設定登録を受けて,その実施品を販売し,③本件特
許権の実施品を製造販売している。これらは,いずれも上記合意違反に当たるか
ら,これにより,上記①の出願日である平成28年2月18日時点において,被控
訴人は本件特許権の持分が剥奪され,無権利者となった。
(オ) 本件4者は,被控訴人が本件4者の代表者として香港での本件特許発
明の特許出願手続を誠実に行う旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕4条,12
条)。本件特許発明の発明者は,控訴人ら3者であり,被控訴人代表者は発明者で
はないから,上記合意は,本件固定的役割分担合意を前提とするものであり,本件
固定的役割分担合意に含まれる。それにもかかわらず,被控訴人は,控訴人ら3者
への連絡,弁理士への指示等を怠った結果,平成26年5月22日時点において,
香港での特許取得が不可能となった。これは,本件固定的役割分担合意の違反に当
たるから,平成26年5月22日時点において,被控訴人は本件特許権の持分が剥
奪され,無権利者となった。
(カ) 本件固定的役割分担合意は,本件共同出願契約を締結する上で重要な
前提であり,そのことは,控訴人から被控訴人に対し明示されていたし,被控訴人
にとっては自明であった。仮に本件固定的役割分担合意が認められないのであれ
ば,控訴人ら3者は,控訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につき特許
を受ける権利を譲渡するという取引の要素について誤信していた。したがって,控
訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受ける権利の譲渡は,
錯誤により無効である。
(キ) 控訴人ら3者は,被控訴人代表者の挙動により,本件固定的役割分担
合意の存在を誤信したから,控訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につ
き特許を受ける権利の譲渡は,詐欺によるものである。控訴人は,自ら並びにA及
びBを代理して,平成29年6月1日付け控訴理由書兼訴えの変更申立書により,
この詐欺を理由として,被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受ける権利の
譲渡を取り消した。これにより,被控訴人は本件特許権の持分が遡及的に剥奪さ
れ,無権利者となった。
イ 本件4者は,被控訴人が本件4者の代表者として香港での本件特許発明
の特許出願手続を誠実に行う旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕4条,12
条)。それにもかかわらず,被控訴人は,控訴人ら3者への連絡,弁理士への指示
等を怠った結果,香港での特許取得が不可能となった。香港で本件4者が対応特許
を取得していれば,控訴人ら3者は,香港地域の市場において,特許の存続期間満
了までの間に,少なくとも1億円の利益を得られたから,上記債務不履行による損
害は1億円を下らない。控訴人は,A及びBの被控訴人に対する損害賠償請求権を
譲り受けた(甲63,甲64の1~3)。控訴人は,上記1億円のうち5000万
円を請求する。
ウ 仮に本件固定的役割分担合意が認められない場合,被控訴人には,信義
則上,そのような合意がないことを控訴人ら3者に説明する義務があった。それに
もかかわらず,被控訴人は,控訴人ら3者の誤信を漫然と放置するばかりか,むし
ろその誤信を利用して,本件共同出願契約を締結させ,また,控訴人ら3者に月3
0万個の生産のための巨額の追加投資をさせながら,突然,控訴人ら3者からの本
件特許発明の実施品の調達を停止し,控訴人ら3者の損害を拡大させた。この説明
義務違反の不法行為による損害は,2億円を下らない。控訴人は,A及びBの被控
訴人に対する損害賠償請求権を譲り受けた(甲63,甲64の1~3)。控訴人
は,上記2億円のうち5000万円を請求する。
エ 控訴人は,本件訴訟の追行のために弁護士費用の出捐を余儀なくされて
おり,被控訴人の不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある損害は,2000
万円を下らない。
(4) 被控訴人は,反訴として,控訴人に対し,特許法73条2項及び本件共同
出願契約13条後段に基づき,控訴人が本件特許権の持分各2分の1をいずれも有
していないことの確認,被控訴人に対する本件特許権の持分各6分の1の移転登録
手続を求めた。
2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により認
められる事実)
(1) 当事者
ア 控訴人は,香港に在住し,「結ばない靴ひも」と称される靴ひも等の雑
貨類を被控訴人に対して業として輸出していた者である。
イ 被控訴人は,「結ばない靴ひも」等のスポーツ用品の販売等を業とする
株式会社である。
(2) 本件特許権
本件4者は,次の本件特許権を有している。
ア 本件特許権1(甲2)
特許番号 特許第5079926号
発明の名称 チューブ状ひも本体を備えたひも
出願日 平成24年7月4日
登録日 平成24年9月7日
なお,特許公報(甲2)の発明者欄には,控訴人ら3者及び被控訴人代表者が記
載されている。
イ 本件特許権2(甲4)
特許番号 特許第5392519号
発明の名称 チューブ状ひも本体を備えた固定ひも
出願日 平成24年8月8日(特願2012-150880の分割)
登録日 平成25年10月25日
なお,特許公報(甲4)の発明者欄には,控訴人ら3者及び被控訴人代表者が記
載されている。
(3) 本件特許1の特許請求の範囲
本件特許1の特許請求の範囲請求項1の記載(本件発明1-1)を構成要件に分
説すると,次のとおりである(以下,それぞれの記号に従い「構成要件A」などと
いう。。

A 間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小によって
径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなるチューブ状ひも本体と,
B ひも本体のチューブ状構造によって構成される中心の管部分に非伸縮性素材
からなり,
C こぶのコアを構成し,こぶの径変化に応じたこぶ両端距離の変化に追随する
ようこぶ対応部分にて丸められた中心ひもと,
D を備えたひも。
(4) 共同出願契約書の記載
ア 2013年(平成25年)4月15日付け共同出願契約書(甲6)は,
中国語で記載され,本件4者の署名があるが,同契約書には,次の記載がある(日
本語訳である乙51による。以下,後記イの契約書と区別する必要があるときは,
「甲6契約書」という。。

(ア) 頭書
Twins corporation(以下甲という),X(以下乙という),A(以下丙という),
及びB(以下丁という)は,以下第1条に記載の発明(以下「本件発明」という)
に係る特許を受ける権利(以下本件特許を受ける権利という)に基づいて,本件特
許を受ける権利に基づいて得た特許権(以下「本件特許権」,本件特許を受ける権
利とあわせて「本件各権利」という)に関する共同出願について以下のとおり協議
した。
(イ) 第1条(発明・発明者の確認)
甲,乙,丙及び丁は,下記枠線内にて特定される前記発明について,その内容及
び発明者を確認し,かつ本契約の各種権利を共有する。
(以下,枠線内の記載)
発明の名称:チューブ状型組立基体の紐
発明の内容:間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小
によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなる
チューブ状型組立基体の紐
(チューブ状内部に中心紐を備えた紐と備えていない紐の2種類を
含む)
発明者 :C(英語表記:C)
X(英語表記:X)
A(英語表記:A)
B(英語表記:B)
上記計4名
(ウ) 第4条(代表者の選定,協力)
1,本件発明に係る特許出願手続き及び本件特許権の管理手続について,甲,乙,
丙及び丁は,甲を代表者として選定する。
2,甲は,代表者として前記手続を誠実に履行することを承諾し,乙,丙及び丁
は,甲に協力し,前記手続を履行する。
(エ) 第5条(代理人の選任)
甲は,前条に定める手続をD国際特許事務所弁理士D氏に委託し,かつ前記人を
代表して本件各項権利内容を取得し連絡する。
(オ) 第7条(本件発明の実施)
甲,乙,丙及び丁は,本件発明の実施に対する協議の後,別途に定める。
(カ) 第8条(権利の譲渡等制限)
甲,乙,丙及び丁は,他の全ての当事者の同意を得なければ,本件特許権を乙,
丙及び丁が自ら経営する法人以外の第三者に譲渡し,或いは本件発明の実施を許諾
してはならない。
(キ) 第12条(外国出願,分割出願,国内優先権出願)
1,本件発明は,日本国内出願のほか,PCT条約に基づく国際出願,パリ条約に
基づく外国出願,及び台湾への出願を行う。
2,PCT条約に基づく国際出願の指定国,及びパリ条約に基づく外国出願の出願
国,本件発明の特許出願の分割出願,或いは特許法第41条に定める規定,優先権
主張する出願について,甲,乙,丙及び丁は協議の後,別途に定める。
(ク) 第13条(違反行為)
事前の協議・許可なく,本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し,又は生
産・販売行為を行った場合,本件の各権利は剥奪される。
(甲,乙,丙及び丁の全員が対象である)
(ケ) 第14条(海外販売)
1,日本市場を重視する前提において,日本以外の国で本商品(チューブ状型組立
基体のヒモ)を販売する場合,甲,乙,丙及び丁は協議を行った後に,推進するこ
とができる。この際の価格は日本市場販売価格の80%以上に設定する。
2,靴に装着された本商品が,OEM形式で提供される場合,甲をあらゆる事務の
窓口とする。
(コ) 第16条(協議)
本契約に定めのない事項及び本契約に定める事項に関する疑義は,甲,乙,丙及
び丁が協議した後,別途に定める。
イ 共同出願契約書(甲5)は,日本語で記載され,作成日付及び本件4者
の署名はないが,同契約書には,次の記載がある(以下,前記アの甲6契約書と区
別する必要があるときは,「甲5契約書」という。 。

(ア) 頭書
株式会社ツインズ(以下「甲」という。,X(以下「乙」という。,A(英語表
) )
記:A,以下「丙」という。,およびB(英語表記:B,以下「丁」という。
) )と
は,以下の第1条に記載の発明(以下「本件発明」という。)に係る特許を受ける
権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)に基づく共同出願及び本件特許を
受ける権利に基づいて得た特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許を受ける
権利とあわせて「本件各権利」という。)に関して以下のとおり合意した。
(イ) 第1条(発明・発明者の確認)
甲,乙,丙及び丁は,下記枠線内にて特定される本件発明につき,その内容及
び,本件発明の発明者が,以下のとおりであることを確認し,本件各権利を共有す
るものとする。
(以下,枠線内の記載)
発明の名称:チューブ状ひも本体を備えたひも
発明の内容:間隔をあけて繰返し配置され,自身に加えられる軸方向張力の大小
によって径の大きさが変化するこぶを有する伸縮性素材からなる
チューブ状ひも本体を備えたひも
(チューブ状内部に中心ひもを備えたひもと備えていないひもの双
方を含む)
発明者 :C(英語表記:C)
X(英語表記:X)
A(英語表記:A)
B(英語表記:B)
上記計4名
(ウ) 第4条(代表者の選定,協力)
1 本件発明に係る特許出願に関する手続および本件特許権の管理に関する手続に
ついては,甲,乙,丙及び丁は,甲を代表者として選定する。
2 甲は,代表者として前記手続を誠実に行うことを約し,乙,丙及び丁は,甲に
よる前記手続に協力する。
(エ) 第5条(代理人の選任)
甲は,前条に定める手続を,D国際特許事務所弁理士D氏に委任し,同氏との間
で本件各権利に関しなされる全ての連絡を代表する。
(オ) 第7条(本件発明の実施)
甲,乙,丙及び丁は,本件発明の実施について協議の上,別途定める。
(カ) 第8条(権利の譲渡等制限)
甲,乙,丙及び丁は,他の全ての当事者の同意を得なければ,乙,丙及び丁のい
ずれかが主体となって事業を営む法人以外の第三者に本件各権利を譲渡し,又は本
件発明の実施の許諾をすることができない。
(キ) 第12条(外国出願,分割出願,国内優先権出願)
1 本件発明については,日本国内出願のほか,PCT条約に基づく国際出願,パ
リ条約に基づく外国出願,および台湾への出願を行う。
2 PCT条約に基づく国際出願における指定国及びパリ条約に基づく外国出願に
おける出願国,本件発明の特許出願に基づく分割出願,又は特許法第41条に定め
る優先権を主張した出願については,甲,乙,丙及び丁協議の上,別途定める。
(ク) 第13条(違反行為)
1 事前に相談 承諾無しに,本件各権利(本件特許権)に関連する特許を新たに
取得したり,それに関わる製品販売したりした場合本件各権利を剥奪できる。
(甲,乙,丙及び丁全員対象)
(ケ) 第14条(海外販売)
1 日本市場を重んじて日本以外の他国で本商品(チューブ状ヒモ本体を備えたヒ
モ)する場合 甲,乙,丙及び丁の合意の元進める事ができる。 その場合日本で
の市場売価の80%以上とする。
2 靴に装着する本商品をOEM供給する場合の窓口は全て甲を窓口とする。
(コ) 第16条(協議)
本契約に定めのない事項及び本契約に定める事項に関する疑義については,甲,
乙,丙及び丁協議の上,別途定める。
(5) 被告各商品の販売
被控訴人は,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社(同年11月末
頃までは株式会社スリーランナー,同年12月頃からは株式会社モリト)に被告各
商品を製造させ,被告各商品を独自に販売している。
(6) 技術的範囲の属否
被告各商品は本件発明1-1の技術的範囲に属する(当事者間に争いがない。。

(7) 債権譲渡
控訴人ら3者は,平成29年5月10日,B及びAが控訴人に対し,B及びAが
被控訴人に対して有する本件特許権に基づく損害賠償請求権など,本件特許権に関
連してB及びAが被控訴人に対して有する金銭債権の一切を譲渡する旨合意した
(甲63)。
B及びAは,平成29年7月3日,被控訴人に対し,上記債権譲渡を通知した
(甲64の1~3)。
3 争点
(1) 特許権侵害の不法行為の成否について
ア 本件固定的役割分担合意の有無
イ 本件固定的役割分担合意の解除の成否
ウ 権利の譲渡等制限違反の成否
エ 新特許等を取得しない義務の内容
オ 新特許等を取得しない義務違反の成否
カ 特許出願に関する手続を誠実に行う義務違反の成否
キ 錯誤無効の成否
ク 詐欺取消の成否
ケ 特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無
コ 「別段の定」の解除の成否
サ 「別段の定」違反の主張の可否
シ 通常実施権の有無
ス 過失の有無
セ 無効の抗弁の成否
ソ 控訴人は特許権を有しない旨の主張の成否
(2) 香港での特許出願手続に係る債務不履行の成否について
(3) 説明義務違反の不法行為の成否(説明義務違反の有無)について
(4) 損害の有無及び額
(5) 特許権持分移転登録手続請求の可否
(6) 差止請求の可否
(7) 確認の利益の有無
(8) 反訴請求の可否
4 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(本件固定的役割分担合意の有無)について
ア 控訴人の主張
(ア) 平成24年11月22日,本件4者間で,以下のとおり,本件固定的
役割分担合意が成立した。
被控訴人代表者は,本件特許発明の発明者ではないから,①平成24年3月24
日の被控訴人代表者から控訴人への「2者連名で申請しませんか?」とのメール
(甲36の1)は,控訴人ら3者から特許を受ける権利の持分を譲り受けることの
申込みであり,②同年5月5日の控訴人から被控訴人代表者への「特許を連盟で申
請することは問題ないのですが,最終的には御社からの発注がなければ意味があり
ません」とのメール(甲37の2)は,特許を受ける権利の持分の譲渡に当たり,
被控訴人から控訴人ら3者への発注が確実にされることを条件として提示したもの
である。そして,③同年8月11日の控訴人から被控訴人代表者への「おおよその
フォーキャストをいただけませんでしょうか?それに基づいて機械の数の調整をい
たします。」とのメール(甲43の1)に対し,④同月20日の被控訴人代表者か
ら控訴人への「ORDER FORECAST」とのメール(甲44の1)で返信
したことにより,本件4者が本件販売形態における役割分担を担うことが合意され
た。さらに,⑤同年11月22日の控訴人から被控訴人代表者への「独断で使用し
たと判明した場合のペナルティが必要になると思います。例えば特許権剥奪な
ど。」とのメール(甲46の1)に対し,⑥同日の被控訴人代表者から控訴人への
「同感です」とのメール(甲46の2)で返信したことにより,上記役割分担を固
定的なものとし,これに反する行動を取ったときは本件特許権が剥奪されることに
ついて,明確に合意された。その後,平成25年4月15日付けで,本件共同出願
契約が締結された。
(イ) 後記(ウ)のとおり,被控訴人代表者は,本件特許発明の発明者ではな
い。控訴人らが被控訴人に対して本件特許発明につき特許を受ける権利の各一部を
無償で譲渡したのは,本件特許発明の実施品につき本件販売形態において本件4者
が対等に利益を得ることが定められていたことを反映したものである。
B及びAも,一定の利益を得られるという確実な期待がなければ,本件特許発明
につき特許を受ける権利の一部を被控訴人に譲渡し,かつ,大きな金額(Bは80
万米ドルという大きな投資を行っている。甲17の1・2)を本件特許発明の実施
品に投資することはあり得ない。これを踏まえて作成された確認書(甲7の1・
2)は,客観的な事実と整合し,信用できる。
本件共同出願契約締結後から平成28年3月までの間,数年間にわたり,本件販
売形態が続いていたことも,本件固定的役割分担合意が存在していたことの証左で
ある。
本件共同出願契約に係る契約書(以下,「本件共同出願契約書」という。)の甲5
契約書13条は,当事者が他の当事者に「事前に相談・承諾無し」に,「本件各権
利(本件特許権)に関連する特許を新たに取得したり,それに関わる製品(を)販
売したり」することを禁止するにとどまらず,そのような行為を行ったときには
「本件各権利を剥奪できる」という,極めて強い効果を規定することにより,新た
な技術の進歩・発展について関係者が歩調を合わせ,将来にわたって固定的な取引
関係を維持することを合意している。現行の製品については独占的な取引関係を合
意するが,将来の製品についてはそのような拘束をかけないということは,一般に
行われることであるが,上記13条は,将来においても固定的な取引関係を維持す
ることを合意しているのであるから,現行商品である本件特許発明の実施品につい
ても,固定的な取引関係を維持すること,すなわち,本件固定的役割分担合意を規
定するものと解される。同条は,本件4者を区別することなく一律に生産・販売を
禁止しているが,本件固定的役割分担合意は,同条冒頭の「事前に相談・承諾」に
該当するから,矛盾はない。
平成27年9月頃,控訴人が被控訴人に送付した「総代理店契約」の案文(甲5
1,5条3項,6条)も,同年10月15日,被控訴人が控訴人に送付した契約書
の対案(甲52,53,11条)も,本件固定的役割分担合意が存在することを前
提としている。
控訴人が,「COOK KNOT」という商品名で,「結ばない靴紐」の販売を開
始したのは確かであるが,これは,本件固定的役割分担合意の存在と矛盾するもの
ではない。被控訴人が,本件固定的役割分担合意に反し,控訴人ら3者に無断で
「結ばない靴紐」を日本で製造・販売することにより,本件特許権の持分を剥奪さ
れ,本件固定的役割分担合意の実行は当面不可能となったのであるから,控訴人が
日本において本件特許発明の実施品を自ら販売することが許されるのは当然であ
る。
(ウ) 本件特許発明の発明者は,本件特許発明における特徴的部分である
「内側の中心ひもが非弾性(非伸縮性)材料,外側が弾性(伸縮性)材料という構
造」を発案し,その完成に創作的に寄与した者であるか否かによって認定すべきと
ころ,上記構造を発案し,その完成に創作的に寄与した者は控訴人ら3者であり,
被控訴人代表者は,上記完成に何ら創作的に寄与していないから,本件特許発明の
発明者ではない。被控訴人指摘のメール(甲29の1,甲30,甲32の1,甲3
5,甲36の1,乙45)によっても,被控訴人代表者が本件特許発明の特徴的部
分の完成に創作的に寄与したことは認められない。
本件特許の出願代理人である特許事務所の担当者(E弁護士)の供述(乙46,
証人E)は,具体的にいかにして被控訴人代表者が本件特許発明の特徴的部分の完
成に創作的に寄与したかという点についての供述はほとんどない。また,特許公報
(甲2,4)の発明者欄の記載は,同欄に記載された者が発明者であることを事実
上推定するものにすぎず,被控訴人代表者については,その推定は十分に覆滅させ
られている。
被控訴人は,本件共同出願契約書(甲6,乙51)1条で被控訴人代表者が発明
者であることが確認されているところ,他の条項と同様に法的拘束力が認められる
べきであると主張するが,控訴審における尋問後に主張されたものであるから,時
機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。なお,
発明者性は,事実の問題として,本件共同出願契約書第1条にかかわらず,認定さ
れるべきであり,被控訴人代表者が発明者でないことは,上記のとおりである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 本件4者間で,本件販売形態を数ある商流のうちの一つとする旨の合
意はあったが,本件販売形態で定められた各自の担当以外の役割を自ら行わないと
いう合意はなかった。また,被控訴人代表者は,本件特許発明の発明者であり,被
控訴人が,控訴人ら3者から本件特許発明につき特許を受ける権利の各一部の無償
譲渡を受けた事実はないし,本件販売形態を唯一の商流とする合意に違反したとき
に共同出願人たる地位が剥奪される旨の合意もなかった。
(イ) 本件固定的役割分担合意が記載された書証はない。控訴人は,本件共
同出願契約の締結前に,本件販売形態以外の商流において製造販売した場合の違約
罰を契約書中に加筆したい旨申し出ているのであるから(甲46の1),本件固定
的役割分担合意があったのであれば,その合意を本件共同出願契約書に記載する
か,別の書面により合意するのが自然であるが,そのような記載や書面はない。ま
た,本件固定的役割分担合意は,被控訴人にとって,控訴人ら3者の言い分に従わ
なければ実施品を確保できない事態に陥るという事業活動を大幅に制約するもので
あるから,そのような制約を回避できる条件を付し,これを書面に残すことなく合
意することはあり得ない。
控訴人は,平成29年6月頃から,実施品を「COOL KNOT」という商品
名で販売しているが(乙47~50),このような本件固定的役割分担合意と矛盾
する控訴人の行動からも,そのような合意が存在しないことが示されている。
本件共同出願契約書13条は,本件固定的役割分担合意を規定したものではな
い。同契約書7条には,本件発明の実施は,協議により本件共同出願契約とは別途
定める旨の規定があるから,本件共同出願契約には,製造,販売等についての何ら
かの役割分担に関する合意は含まれないことが明らかである。また,同契約書8条
からは,被控訴人だけでなく,控訴人ら3者のいずれも製造・販売することが可能
であることが理解できるから,これもまた,本件共同出願契約には,製造,販売等
についての何らかの役割分担に関する合意が含まれないことを裏付けている。さら
に,本件共同出願契約書13条は,本件4者を区別することなく一律に生産・販売
を禁止しており,被控訴人が日本に輸入して販売し,Bが靴紐を生産することを含
む本件固定的役割分担合意と矛盾している。加えて,本件特許権が存在すること及
び本件固定的役割分担合意によると,被控訴人は控訴人以外の第三者から靴紐を購
入することができず,靴紐の供給量や供給価格については全て独占的製造権者であ
りB又はその流通過程にいるA及び控訴人の言い分に従うことになるから,少なく
とも合意期間中の靴紐の販売単価又はその決定方法が契約の要素となるべきである
が,本件共同出願契約には,靴紐の購入単価又はその決定方法についての条項はな
いし,被控訴人が控訴人から靴紐を購入しなければならないことを規定する条項す
ら存在しない。
(ウ) 本件特許権の特許公報の発明者欄には,被控訴人代表者が控訴人ら3
者とともに記載されており(甲2,4),控訴人は,出願前にこれを訂正する機会
があったにもかかわらず異議を述べずにこれを承認したし(甲38の1),原審に
おいて被控訴人代表者が発明者であったことを争っていなかった。また,本件共同
出願契約書(甲6,乙51)の第1条でも,被控訴人代表者が発明者であることが
確認されているから,他の条項と同様に法的拘束力が認められるべきである。
結ばない靴紐の開発経緯においては,一貫して,被控訴人代表者が自ら開発主体
として特許回避やその対策を検討したり,被控訴人代表者の指示の下,控訴人が試
作を行う関係にあり(甲29の1,甲30,甲32の1,甲36の1,乙45),
発明者たるべき着想をしていた蓋然性が高いのは,受託者である控訴人ではなく,
委託者である被控訴人代表者である。現に,被控訴人代表者は,本件特許の出願前
に,本件特許発明の本質(作用効果)を具体的に理解していた(甲35)。
本件特許の出願代理人である特許事務所の担当者(E弁護士)も被控訴人代表者
が発明者であると認識していた(甲36の1,乙46)。
(2) 争点(1)イ(本件固定的役割分担合意の解除の成否)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 仮に本件固定的役割分担合意が存在したとしても,被控訴人が実施品
の製造を自社において行うに至ったのは,控訴人による不当な値上げがされたこ
と,従来より実施品の品質不良が多く見られたこと等に基づくものであり,被控訴
人は,控訴人らに対し,不当な値上げ要求を受け入れることはできず,被控訴人自
身において実施品を製造する旨を通告しているから,この通告時点又はこの通告か
ら相当期間経過後において,本件固定的役割分担合意は解除された。
(イ) 控訴人は,平成27年1月23日付けメール(乙78)に添付したエ
クセルファイルにおいて,「希望としましては1月30日までに決定していただけ
ますようお願いいたします。それ以前にご回答頂けない場合は2番目の各個人で販
売していくことになります。」と記載したが,平成27年1月30日までに控訴人
提案の四つの選択肢のいずれを選択するかについて,本件4者間で合意は成立しな
かった。したがって,本件固定的役割分担合意は,平成27年1月30日に解除さ
れた。
(ウ) 控訴人は,平成27年9月7日付けメール(甲57の4)において,
「現状は複雑ではなく,4者が団結して特許の優位性を損なうことなく世界に向け
て販売していくか,もしくは4者で独立採算型,製造販売をして価格,販売力で競
争するかの2つの選択肢だけではないでしょうか?皆さんが後者を選択される場合
は大変遺憾ですが私に異論はございません。」と記載して,被控訴人の日本への生
産移管について同意し,本件固定的役割分担合意を解除することに合意した。
(エ) 控訴人は,平成27年10月15日付けメール(乙89)において,
「これでは商売の旨味はかなり減りますが,御社が利益厳しく日本で安く生産,販
売されるというのであればこれは仕方がありません。」と記載して,被控訴人によ
る日本での生産に最終的に同意し,本件固定的役割分担合意を解除することに合意
した。
イ 控訴人の主張
(ア) 控訴人ら3者が一定の値上げ又は最低発注数量の確約を求めて被控訴
人と交渉を行ったのは,被控訴人代表者が無謀な見通しを根拠として,控訴人ら3
者に対し本件特許発明の実施品の生産量を月5万本からその10倍である月50万
本にまで増産するように求め,控訴人の反対により月30万本までの増産にとどめ
ることになったにもかかわらず,被控訴人による発注量は月30万本を大きく下回
るものにしかならなかったという経緯によるものであり,被控訴人代表者の無謀な
見通しの結果に対応するためにやむを得ずにされた控訴人ら三者による正当な要望
を理由として,被控訴人から本件固定的役割分担合意を解除することはできない。
急激かつ大幅な値上げがあったときは本件固定的役割分担合意を解除できる旨の
条項は,本件共同出願契約書には規定されていないし,本件共同出願契約の交渉過
程においてもそのような議論がされたことはない。
(イ) 被控訴人が主張する平成27年1月23日付けメール(乙78)に添
付したエクセルファイルは,日本国外の販売に関する資料であるから,本件固定的
役割分担合意とは無関係である。控訴人は,被控訴人の日本生産に同意したことは
ないから,解除はされていない。なお,被控訴人の指摘部分は,B及びAによって
作成された要望書を控訴人が日本語訳したものにすぎず,控訴人の意思を表明した
ものでもない。
(ウ) 被控訴人が主張する平成27年9月7日付けメール(甲57の4)に
は,「御社訪問時に詳しく社長のお考えをお聞かせください。それを元に私も決断
させていただきます所存です。」と記載されているとおり,控訴人は協議の上で最
終的な結論を出すつもりであったのであるから,本件固定的役割分担合意が合意解
除された事実はない。
(エ) 被控訴人が主張する平成27年10月15日付けメール(乙89)の
記載は,いずれも本件4者の合意によって最終的に分担協業関係を解体してそれぞ
れが独自に事業を行っていくことが確定した場合の見通しを述べたにすぎず,本件
固定的役割分担合意の解除に合意したものではない。
(3) 争点(1)ウ(権利の譲渡等制限違反の成否)について
ア 控訴人の主張
本件4者は,他の当事者の同意を得なければ,第三者に本件特許発明の実施を許
諾できない旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕8条)。
それにもかかわらず,被控訴人は,本件製造会社に被告各商品の製造をさせてお
り,これは,本件特許発明の実施許諾に当たるから,被控訴人は,上記合意に違反
した。
イ 被控訴人の主張
本件製造会社は,被控訴人の指揮監督下において実施品を製造した上で,製造し
た実施品の全量を被控訴人に納入しており,製造に係る対価(工賃)を被控訴人か
ら受けている(乙42,43)。
このように,被控訴人は,本件製造会社に対し,被控訴人の一機関として実施品
の製造をさせているにすぎず,被控訴人は,本件製造会社に対し,本件発明1-1
の実施許諾を行っていない。
(4) 争点(1)エ(新特許等を取得しない義務の内容)について
ア 控訴人の主張
(ア) 本件4者は,事前の相談・承諾なしに,本件特許権に関連する特許を
新たに取得したり,それに関わる製品を販売したりした場合,本件特許権を剥奪で
きる旨合意した(共同出願契約書〔甲5〕13条)。
その趣旨が,本件固定的役割分担合意を踏まえ,契約各当事者による身勝手な利
益追及を禁じる点にあることからすると,特許の取得を目指して出願を行った時点
で,上記合意違反を構成する。
(イ) 本件共同出願契約は,A及びBから全権委任を受けていた控訴人と,
被控訴人との間で,日本語版をもって交渉が行われ,甲5契約書の内容が固まった
後に,被控訴人側において甲6契約書が作成されたものであるから,優先されるの
は甲5契約書である。
甲6契約書13条によると,取得が禁止されているのは本件特許発明と同一の発
明にかかる特許権であることになるが,既に本件特許として特許が成立している発
明と同一の発明について特許権の取得を禁止することに全く意味はなく,不合理極
まりない規定となってしまう。
(ウ) 仮に甲6契約書を前提とすると,13条は,事前に本件4者全員の協
議・許可なしに,①「本件の各権力(本件特許権)を新たに取得」することと,②
「生産・販売行為を行」うことが禁止されていることになる。
(エ) 被控訴人は,控訴人の主張によると,本件共同出願契約13条は,不
公正な取引方法に該当し,独占禁止法に違反するものとして,公序良俗に反し無効
となってしまうから,適切でないと主張するが,控訴審における尋問後に主張され
たものであるから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下
すべきである。本件共同出願契約13条は,被控訴人のみならず控訴人ら3者をも
制約する双方向のものであり,むしろ本件特許発明を自ら創作する技術・能力を有
する控訴人ら3者にとっても不利なものとなっているから,不公正な取引方法には
該当しない。
(オ) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,同契約書14条違反
の効果を定めたものと理解できるなどと主張するが,何らの合理的根拠を伴わない
解釈である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 本件共同出願契約は,本件4者が署名した中国語による共同出願契約
書(甲6契約書)により成立したものであり,本件4者の署名がない日本語による
共同出願契約書(甲5契約書)は,本件4者の合意内容を示すものではない。
(イ) 甲6契約書13条により,取得が禁止されているのは,本件特許発明
と同一の発明に係る特許権であり,本件特許発明の改良,関連等の特許権は対象と
なっていない。
仮に,甲6契約書13条の「本件各権利(本件特許権)を新たに取得」との文言
を字義通りに解釈しないとしても,上記文言に加え,その違反の効果が特許権剥奪
という極めて大きなものであることを勘案すると,その解釈は,共有特許権者のビ
ジネスを不可能にする程度に,後続発明と本件特許発明が類似しており,本件各権
利(本件特許権)と実質的に同一と言い得る場合に限定して解釈されるべきであ
る。
(ウ) 控訴人主張のように,控訴人ら3者の本件特許権の持分の一部を被控
訴人に譲渡し,本件特許権に関連する特許を新たに取得した場合には,本件特許権
を剥奪できるという合意であるとすると,全体として,控訴人が被控訴人に対し,
関連特許を取得しないとの解除条件付きで本件特許発明に関し日本国内でのライセ
ンスを与えたケースと同視することができるが,公正取引委員会の公表する「知的
財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(乙76)によると,ライセンサーがラ
イセンシーに対し,ライセンシーが開発した改良技術について,ライセンサー又は
ライセンサーの指定する事業者にその権利を帰属させる義務を負わせ,又は独占的
にライセンスさせる義務を負わせることは,ライセンシーの研究開発意欲を損なう
ものであり,原則として不公正な取引方法(一般指定12項)に該当するものとさ
れている。このように,控訴人主張では,本件共同出願契約13条は,不公正な取
引方法に該当し,独占禁止法に違反するものとして,公序良俗に反し無効となって
しまうから,契約は無効とならないように解釈すべきであることからしても適切で
ない。
(エ) 本件共同出願契約書13条の前段と後段を分離して読むと,何につい
ての生産・販売行為が規定されているのか不明であるし,本件4者のうち一人でも
協議・許可に応じない者が存在すると,それだけで本件4者が全て生産・販売する
ことができないことになるから,同条後段は,前段と合わせて読むべきである。そ
して,同条前段は,本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新たに取
得することを禁止しているから,同条後段は,実質的同一の範囲内で新たに取得さ
れた特許権について,その実施品の生産・販売を禁止しているものと理解できるの
であり,既に取得されている本件特許権の実施品を販売することは同条後段に違反
しない。
(オ) 本件共同出願契約は,本件発明を日本だけでなく海外でも出願するこ
とを前提にしているところ,本件共同出願契約書12条は,本件発明について,外
国出願を行うことを規定しており,同契約書14条1項は,海外で結ばない靴紐を
販売する場合の条件について規定しているから,同契約書13条も,海外の特許に
ついて規定したものと理解できる。そして,同条前段は,本件共同出願契約が締結
された時点で未だ海外特許が出願されていない国において,本件4者のいずれかが
単独で特許を出願し,取得することを禁じたものと理解できるから,同条後段につ
いても,同様に,日本以外の国での販売行為を定めた同契約書14条に違反した場
合の効果を規定した条項であると理解できる。同契約書13条後段を日本での生
産・販売行為について規定したものであるとすると,本件共同出願契約締結当時,
被控訴人は既に日本において販売していたのであるから,販売中の靴紐について日
本での販売中止を前提に本件共同出願契約を締結したこととなり,著しく不合理で
ある。
(5) 争点(1)オ(新特許等を取得しない義務違反の成否)について
ア 控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,特願2016-28561号を出願しており(甲56。
以下,「別件特許出願①」という。,これは,発明の名称を「こぶ部を有する紐」

とし,主に「弾性変形可能なこぶ部」を「間隔を置いて複数個備える紐」を内容と
するものであるから,本件特許権のいずれにも関連する特許に該当する(甲8
8)。
また,被控訴人は,「キャタピーアスリート」を販売している(甲89)。これ
は,別件特許出願①の実施品であるから,「本件各権利(本件特許権)に関連する
特許を・・・,それに関わる製品販売したりした場合」に該当する。
(イ) 被控訴人は,特願2017-10234号を出願し,平成29年6月
16日付けで特許第6157766号として設定登録を受けた(甲67。以下,
「別件特許②」といい,この特許に係る発明を「別件特許②発明」という。。別件

特許②発明は,「結ばない靴紐」の使用時の課題を解決することを目的として発明
されたものであり,その課題解決をその効果とするものであるから,発明の用途,
目的及び効果において,本件特許権と密接に関連している。
また,被控訴人は,「キャタピーアスリート」の付属品として「キャタピーフッ
ク」を販売している(甲89)。これは,別件特許②発明の実施品であるから,「本
件各権利(本件特許権)に関連する特許を・・・,それに関わる製品販売したりし
た場合」に該当する。
(ウ)a 被控訴人は,控訴人ら3者の承諾を得ずに,日本において本件特
許権の実施品を製造販売している。これは,甲6契約書13条に違反する。
b 被控訴人は,控訴人が,現在,日本において,被控訴人との協議・
許可なしに,COOLKNOTという商品名又はブランド名により本件特許権の実
施品を販売しているから,この控訴人の販売及び被控訴人の製造販売のいずれも,
本件共同出願契約書13条には違反しないとするのが,契約当事者の合理的意思で
あると主張するが,被控訴人が本件共同出願契約書13条に違反して,本件特許権
の持分を剥奪されたことにより,本件販売形態による本件特許発明の実施品の販売
は当面不可能となったのであるから,控訴人が本件特許発明の実施品を自ら販売す
ることが許されるのは当然であり,被控訴人の主張は理由がない。
c 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段の内容は,同16条の
協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできないなどと
主張するが,同17条が「本契約に関する紛争」が生じた場合に備えて準拠法及び
管轄合意について定めていることに照らしても,同16条は,適切な手続によって
争いを解決するために努力するという程度のものにすぎず,本件共同出願契約に関
する紛争の裁判手続による解決を排除するもの,換言すると,当事者が相互に訴権
を放棄したものと解釈することはできない。
d 被控訴人は,控訴人が,購入数量保証要求や法外な値上げ要求,不
良品の混入等の行為によって,被控訴人をして独自生産に切り替えざるを得ない事
情を作出したなどと主張するが,控訴人が価格の改定を求めたのは,被控訴人によ
る増産要求と控訴人ら3者における設備の増強,その後の発注量の下落に起因する
ものである(甲17の1・2,甲18,19,50,85,86)。また,商品に
不良品が混じっていたことがあったとしても,特に過大なものではなく,控訴人ら
3者に無断で独自生産を行ってよい理由にはならない。
(エ) 被控訴人は,キャタピーアスリート及びキャタピーフックの販売が本
件共同出願契約書13条に該当する旨の主張は,時機に後れた攻撃防御方法として
却下すべきであると主張するが,控訴人は,平成30年5月に被控訴人によるキャ
タピーアスリート及びキャタピーフックの販売を覚知した後,速やかに上記主張を
行っており,訴訟の進行を遅延させるものではないから,時機に後れた攻撃防御方
法に当たらない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 別件特許出願①は,位置によってこぶの径を変更したことに技術的特
徴のある結ばない靴ひもに係る発明であり,実施品の外観すら全く異なっているか
ら,本件特許発明とは同一の発明ではないし,実質的に同一の発明ということもで
きない。このように,別件特許出願①は,コアを非伸縮性とし,外側をゴム製とす
るという控訴人主張に係る本件特許発明の技術的特徴とは無関係の構成要件からな
る発明であるから,本件特許発明と関連があるということもできない。
さらに,別件特許出願①は,設定登録される前に取下処分となっているから(甲
84),被控訴人は別件特許出願①に係る特許を取得していない。
したがって,別件特許出願①は,新特許等を取得しない義務に違反しない。
(イ) 別件特許②発明は,結ばない靴紐の先端固定具に係る発明であり,結
ばない靴紐ですらないのであるから,本件特許発明とは同一の発明ではないし,実
質的に同一の発明でないことは明らかである。このように,別件特許②発明は,コ
アを非伸縮性とし,外側をゴム製とするという控訴人主張に係る本件特許発明の技
術的特徴とは無関係の構成要件からなる発明であるから,本件特許発明と関連があ
るということもできない。
したがって,別件特許②の設定登録を受けたことは,新特許等を取得しない義務
に違反しない。
(ウ)a 控訴人は,現在,日本において,被控訴人との協議・許可なし
に,COOLKNOTという商品名又はブランド名により本件特許権の実施品を販
売しているから,この控訴人の販売及び被控訴人の製造販売のいずれも,本件共同
出願契約書13条には違反しないとするのが,契約当事者の合理的意思である。
b 本件共同出願契約書13条が,これに違反した者のうち一当事者の
みの本件特許権の持分を剥奪するという前提を含むとすると,被控訴人の製造販売
は,控訴人との間で十分な協議を行ったことや控訴人による不当な値上げ,品質不
良に起因すること等の利益衡量から,本件特許権の持分を剥奪されるのは控訴人で
あり,被控訴人ではない。
c 本件共同出願契約13条の「事前の協議・許可なく」は,「事前の
協議又は許可なく」と解釈すべきである。なぜなら,そうでなければ,同条の「生
産・販売行為を行った場合」を「生産及び販売行為を行った場合」と不合理な解釈
をすることになってしまうからである。しかるところ,被控訴人は,控訴人とは価
格交渉を通じて十分な協議を経た。
d 本件共同出願契約書13条の「事前の協議・許可なく」を「事前の
協議及び許可なく」と解釈すると,同条の「生産・販売行為を行った場合」も「生
産及び販売行為を行った場合」と解釈すべきところ,被控訴人は,本件製造会社に
製造を委託しており,「生産」を行っていない。
e 本件共同出願契約書16条は,「本契約に定めのない事項及び本契
約に定める事項に関する疑義は,甲,乙,丙及び丁が協議した後,別途に定める」
と規定するところ,同契約書13条後段の解釈について控訴人と被控訴人との間で
「疑義」が生じているのであるから,同契約書13条後段の内容は,同契約書16
条の協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできない。
f 控訴人は,購入数量保証要求や法外な値上げ要求(乙15,21,
乙22の1・2,乙23の1・2,乙60,被控訴人代表者),不良品の混入(乙
15,32,60等)等の行為によって,被控訴人をして独自生産に切り替えざる
を得ない事情を作出したのであり,被控訴人の債務不履行は,控訴人の行為によっ
て誘導されたものである。このような状況において,控訴人が被控訴人の債務不履
行や,その効果である権利剥奪効を主張することは,信義則に反し,許されない。
被告各商品は,被控訴人によって日本市場に導入され,被控訴人はこれを業として
多くの顧客に販売している。このような現在も継続している事業が上記のような紛
争の相手方の信義則違反絡みの行為によって差し止められ,又は損害賠償責任を被
るという結論は,当事者間の利益衡量にも反する上,法的な正当性なく,顧客や市
場(公益)をも害する結果となる。
また,控訴人の上記誘導行為は,被控訴人の債務不履行を許容する意思表示であ
ったということができる。
なお,控訴人ら3者は,被控訴人の指示によることなく,日本以外の各国販売を
も念頭に置いて自らの経営判断として設備の増強に踏み切ったものである。
g 控訴人は,前記(2)ア(ウ)のとおり,平成27年9月7日付けメール
(甲57の4)において,被控訴人の日本への生産移管について同意した。
(エ) 控訴人は,平成30年7月25日付け控訴人第12準備書面兼訴えの
変更申立書において,キャタピーアスリート及びキャタピーフックの販売は,「本
件各権利(本件特許権)に関連する特許を・・・,それに関わる製品販売したりし
た場合」に該当すると主張するに至ったが,キャタピーアスリートは平成29年1
0月,キャタピーフックは同年2月から被控訴人において販売していた製品であ
り,控訴人はこのことを十分に了解していたものであるから,上記主張は故意又は
重大な過失により時機に後れて提出したものであり,次回期日に侵害論の心証開示
を控えた段階での提出は訴訟の完結を遅延させることも明らかであるから,時機に
後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。
また,キャタピーアスリートは,別件特許出願①の実施品と,キャタピーフック
は,別件特許②発明の実施品と主張されているから,前記(ア),(イ)と同様に,本件
共同出願契約書13条後段に該当しない。
さらに,前記(4)イ(オ)のとおり,本件共同出願契約書13条後段は,海外におい
て同契約書14条に違反して生産・販売した場合の効果を定めたものであるから,
キャタピーアスリート及びキャタピーフックの日本での販売は同契約書14条に違
反せず,同契約書13条後段に該当しない。
(6) 争点(1)カ(特許出願に関する手続を誠実に行う義務違反の成否)につい

ア 控訴人の主張
(ア) 本件4者は,被控訴人が本件4者の代表者として香港での本件特許発
明の特許出願手続を誠実に行う旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕4条,12
条)。本件特許発明の発明者は,控訴人ら3者であり,被控訴人代表者は発明者で
はないから,上記合意は,本件固定的役割分担合意を前提とするものであり,本件
固定的役割分担合意に含まれる。
被控訴人は,D国際特許事務所(以下,「本件特許事務所」という。)から甲15
書面を受領したにもかかわらず,控訴人ら3者に対し,香港での特許出願の要否を
問い合わせ,その結果を本件特許事務所に対し指示することを怠った。その結果,
香港での特許取得が不可能となった。
これは,本件固定的役割分担合意の違反に当たる。
(イ) 香港は,一国二制度のもと,香港特別行政区政府による高度な自治が
保証されているものの,あくまで中華人民共和国の一部である。そして,中華人民
共和国はPCT条約加盟国であり,香港への特許出願においては,PCT条約によ
る国際出願を中国に国内移行させ,さらに香港特許庁に対し記録請求手続を行うと
いうルートが認められている。このように,香港においても,「PCT条約に基づ
く国際出願」は可能であるから,本件共同出願契約書12条は,香港における特許
出願を行うことも,本件4者の合意として規定している。
香港は,控訴人の営業拠点であり,香港を本件特許発明に関する出願対象国から
外すことは考えられないし,香港を外すという議論が本件4者間でされたこともな
い。
本件特許の出願を担当した本件特許事務所は,被控訴人に対し,甲15書面で,
香港への権利化手続を希望するか否かの問合せを行っているし,本件特許事務所が
発行した見積書(甲87)において被控訴人のみが名宛人とされていることから
も,本件4者の間では,香港における特許出願に係る手続は,全て被控訴人が窓口
となって手続を行うこととされていた。
(ウ) 被控訴人は,本件特許発明につき,香港において,本件特許1と本件
特許2の双方をカバーする特許出願が進行している(乙44の1・2)と主張する
が,上記特許出願である「芯なし」(チューブ状ひも本体の内部に中心ひもを備え
ていない紐をいう。以下同じ。)の特許出願は,「芯あり」(チューブ状ひも本体の
内部に中心ひもを備えた紐をいう。以下同じ。)の特許出願から分割されたもので
あるから,「芯なし」である上記特許出願のみが登録された場合に,これに「芯あ
り」を含むと解釈されるとは考えにくい。
また,中国で登録された「芯あり」特許(甲72,73)に比べ,「芯なし」で
ある上記特許出願(甲74の1)の権利範囲は,「伸縮性素材は,ゴム状素材と非
伸縮性の通常素材との編み込みによって構成され」という限定があるなど,明らか
に狭いから,「芯なし」である上記特許出願により,香港での登録に失敗した「芯
あり」特許の全体がカバーされるものではない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 前記のとおり,本件固定的役割分担合意が存在しないから,被控訴人
が本件特許発明に関する手続を誠実に行うことが本件固定的役割分担合意に含まれ
ることはあり得ない。
(イ) 被控訴人は,本件共同出願契約書により,香港での特許出願手続を4
者の代表者として誠実に行う義務を負っていない。本件共同出願契約書12条の
「PCT条約に基づく国際出願」とは,文字通り,PCT条約に基づく国際出願を
指すものであり,その出願によってみなし全指定となった国についての取下げや,
取下げを行わなかった国についての国内移行手続,更には中国についての国内移行
手続後に行われ得る香港における記録請求手続は含まない。同条2項には,PCT
条約に基づく国際出願の指定国については,協議により定めることが規定されてお
り,本件共同出願契約書から,香港に出願する義務を導くことはできない。
(ウ) 被控訴人は,甲15書面を本件特許事務所から受け取っていない。
(エ) 本件特許発明につき,香港において,本件特許1と本件特許2の双方
をカバーする特許出願が進行している(乙44の1・2)。
(7) 争点(1)キ(錯誤無効の成否)について
ア 控訴人の主張
本件固定的役割分担合意は,本件共同出願契約を締結する上で重要な前提であ
り,そのことは,控訴人から被控訴人に対し明示されていたし,被控訴人にとって
自明であった。仮に本件固定的役割分担合意が認められないのであれば,控訴人ら
3者は,控訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受ける権利
を譲渡するという取引の要素について誤信していた。
したがって,控訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受け
る権利の譲渡は,錯誤により無効である。
イ 被控訴人の主張
控訴人は,本件4者間において,本件販売形態を唯一の商流とすることの合意を
しようと試みていたが(甲46の1),それがかなわずに本件共同出願契約が締結
されたのであって(甲6,乙52),控訴人は,上記合意が成立しなかったことを
十分に認識していたから,控訴人に錯誤は生じていない。
また,前記(1)イ(ウ)のとおり,被控訴人代表者は,本件特許発明の発明者である
から,控訴人の主張は前提において失当である。
本件固定的役割分担合意が取引の要素であることも立証されていない。
(8) 争点(1)ク(詐欺取消の成否)について
ア 控訴人の主張
控訴人ら3者は,被控訴人代表者の言動により,本件固定的役割分担合意の存在
を誤信したから,控訴人ら3者から被控訴人に対する本件特許発明につき特許を受
ける権利の譲渡は,詐欺によるものである。
控訴人は,自ら並びにA及びBを代理して,平成29年6月1日付け控訴理由書
兼訴えの変更申立書により,この詐欺を理由として,被控訴人に対する本件特許発
明につき特許を受ける権利の譲渡を取り消すとの意思表示をした。
イ 被控訴人の主張
控訴人は,本件4者間において,本件販売形態を唯一の商流とすることの合意を
しようと試みていたが(甲46の1),それがかなわずに本件共同出願契約が締結
されたのであって(甲6,乙52),控訴人は,上記合意が成立しなかったことを
十分に認識していたから,控訴人が,被控訴人の挙動により上記合意が存在すると
誤信した事実はない。
また,前記(1)イ(ウ)のとおり,被控訴人代表者は,本件特許発明の発明者であ
るから,控訴人の主張は前提において失当である。
(9) 争点(1)ケ(特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,本件特許の登録原簿に記載された特許権者であるが(甲
3),特許権の移転は,登録しなければその効力を生じない(特許法98条1項1
号)。そして,特許権の共有権者は,自由に特許発明をすることができるから(同
法73条2項),本件特許権の侵害を理由とする請求は,いずれも理由がない。
(イ) 控訴人は,本件固定的役割分担合意の内容から「4当事者間の合意に
違反したときは,共同出願人たる地位が剥奪される」という部分を除いた定めが
「別段の定」として合意されたと主張するが,前記のとおり,本件固定的役割分担
合意を含め,製品の製造や販売の役割分担に関する何らかの合意が,本件4者間で
成立していたことはないから,「別段の定」は存在しない。
また,前記(1)イ(イ)のとおり,本件共同出願契約書7条には,本件発明の実施
は,協議により別途定める旨の規定があるから,本件共同出願契約には,製造,販
売等についての何らかの役割分担に関する合意は含まれないことが明らかである。
したがって,同契約書13条後段は,控訴人が主張する「別段の定」を規定したも
のではない。
イ 控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,特許法98条1項1号を根拠として,本件特許権の侵害
を理由とする請求は理由がないと主張するが,控訴審における尋問後に主張された
ものであるから,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下す
べきである。
(イ) 特許法98条1項1号は,通常の特許権の移転について登録を効力発
生要件としたものであって,本件のように,移転が解除されたことにより特許権が
譲受人から譲渡人に対し復帰的に物権変動するときにまで登録を効力発生要件とす
ることは背理であり,その必要もない。本件においては,現時点で登録されている
共有状態について,被控訴人の持分に係る部分が無効となるにすぎないのであっ
て,同条による登録は不要である。
(ウ) 本件4者は,(a)Bが中華人民共和国内の工場で製造し,(b)Aがこれ
を梱包し,(c)控訴人がこれを仕入れ,香港で輸出の手配をした本件発明1-1の
実施品を,(d)被控訴人が控訴人から購入し,日本に輸入して販売することとし
(本件販売形態),いずれの当事者も各自の担当以外の役割を行わないことを合意
した。これは,共有者全員で本件発明1-1の実施を制約する旨を定めたものであ
り,特許法73条2項の「別段の定」に該当する。上記合意は,本件固定的役割分
担合意の一部であるが,前記(1)ア(イ)のとおり,本件共同出願契約書13条は,本
件固定的役割分担合意を規定するものである。
したがって,本件販売形態以外の本件発明1-1の実施は,本件特許権の共有者
であっても許されない。被控訴人による日本国内での被告各商品の製造及び販売
は,上記「別段の定」に反し,控訴人,B及びAが有する本件特許権の持分を侵害
する。
(10) 争点(1)コ(「別段の定」の解除の成否)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 前記(2)アと同様に,「別段の定」は解除された。
(イ) 控訴人は,Bと結託して,ウェブサイトを通じてクールノットを1本
1.11~1.24ドルで販売した(乙27,28,38)。この行為は,本件特
許発明の実施品を海外で販売する場合,日本市場販売価格(980円)の80%以
上の価格に設定することを約する本件共同出願契約書14条1項に違反し,この違
反は重大であって治癒が不可能である。
そこで,被控訴人は,平成30年10月15日付け準備書面(12)をもって,
控訴人の上記債務不履行に基づき,本件共同出願契約を直ちに又は相当期間の経過
をもって解除するとの意思表示をした。
したがって,仮に,本件共同出願契約書13条後段が「別段の定」に該当する場
合でも,同条後段の規定により被控訴人から剥奪された特許権持分は,解除に基づ
き,被控訴人に復することとなる。
(ウ) 前記(イ)の主張は,平成30年8月29日の第9回口頭弁論期日にお
ける裁判所の侵害論の心証開示後に主張したものであるが,以下のとおり,時機に
後れた攻撃防御方法に当たらない。
本件共同出願契約書13条後段が特許法73条2項の「別段の定」に当たるとの
主張は,原審においては双方から主張も立証もされておらず,裁判所の判断もされ
ていない。また,本件固定的役割分担合意の存否にかかわらず,被控訴人の被告各
商品の日本への生産移管が本件共同出願契約書13条後段に違反するか否かという
争点は,平成30年5月16日の第7回口頭弁論期日における裁判所の求釈明以降
に発生したものである。したがって,被控訴人の裁判を受ける権利を保証するた
め,被控訴人には,控訴審での裁判所の心証開示を受けて,これに反論する機会が
与えられるべきである。
さらに,現状の心証開示に鑑みると,結ばない靴紐の市場を日本で開拓し,長年
にわたり結ばない靴紐を日本において供給してきた被控訴人の事業が停止を余儀な
くされる可能性があるが,これは,被控訴人のみならず,その顧客・最終消費者の
利害に大きくかかわる結論であり,そのような判断は三審制という手続保証の枠組
みでされるべきである。この趣旨からも,心証開示がされた現時点でも侵害論の継
続をすべき特段の事情がある。
加えて,平成30年8月29日の第9回口頭弁論期日において,控訴人による訴
えの変更が控訴審の侵害論の最終期日直前に提出されたものであるにもかかわら
ず,損害論の審理に入ることを理由に時機に後れたものとは判断されなかった。こ
のことに鑑みると,前記(イ)の主張についても,同様に損害論の審理の以前に提出
したものである上,既に提出した証拠も踏まえての立証活動であるから,時機に後
れたものではない。
イ 控訴人の主張
(ア) 前記(2)イと同様に,前記ア(ア)の主張は,理由がない。
(イ) 被控訴人は,前記ア(イ)の主張を含む平成30年10月15日付け準
備書面(11)~(13)及び乙92~112を提出した。
しかし,本件訴訟は,控訴審に限っても,平成29年4月12日に控訴が提起さ
れて以降,既に1年半以上の期間が経過し,双方が十分に主張・立証を尽くす機会
が与えられており,平成30年8月29日に行われた第9回口頭弁論期日におい
て,裁判所は,侵害論の審理を終結し,損害論の審理に移行する旨の心証を開示し
た。ここで,上記準備書面の審理を行えば,訴訟の完結を遅延させることが明らか
である。
したがって,被控訴人の準備書面(11)~(13)に係る主張及び乙92~1
12に係る立証は,いずれも時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)に
当たるものとして却下すべきである。
(11) 争点(1)サ(「別段の定」違反の主張の可否)
ア 被控訴人の主張
前記(5)イ(ウ)fと同様に,被控訴人が「別段の定」に違反することを理由に,権
利剥奪を主張し,損害賠償請求することは許されない。
また,控訴人は,Bと手を組み,被控訴人が被告各商品の生産を日本に切り替え
る以前から,世界中で被控訴人に断りなく結ばない靴紐を販売している。まず,B
は,平成26年9月には,被控訴人に通知することなく台湾で「FIT STA
R」のブランド名で結ばない靴紐を販売していた(乙88)。その後,控訴人は,
B及びAとともに,龍帯国際を設立し,平成27年8月~9月には,展示会への出
展等,本格的な営業活動を開始した(乙86~88)。このように,控訴人は,日
本市場においてのみ本件固定的役割分担合意などという前提を勝手に置いた上で,
被控訴人による合意違反を身勝手に主張する一方,自ら販売を行う他国市場におい
ては,そのような合意など全く存在しないものとして,我が物顔で靴紐を販売して
おり,更には本件固定的役割分担合意が存在すると自ら主張する日本市場において
も,自らの行為との関係ではこの合意を反故にして,クールノット社を設立し,販
売を開始している。このような状況において,控訴人が,被控訴人が「別段の定」
に違反することを主張することは許されない。
イ 控訴人の主張
前記(5)ア(ウ)dと同様に,控訴人が不当な値上げ等により,被控訴人において結
ばない靴紐の生産を日本に切り替えざるを得ない状況に追い込んだという事実はな
いから,被控訴人の主張は理由がない。
また,本件4者間で,被控訴人は日本と韓国での販売を,Bは台湾での販売を担
当するとの合意が成立しており,Bによる台湾での販売は,被控訴人も知っていた
ものである。
さらに,龍帯国際は,結ばない靴紐を世界市場で販売することを目的として設立
されたものであるが,被控訴人は,会社設立時には参画していたものの,被控訴人
が海外販売を自分の意のままに管理したいと述べ始めて翻意し,自らの判断で龍帯
国際の事業から脱退することを決定した(甲90,乙86)。龍帯国際による販売
は,被控訴人も了承していたものである。
(12) 争点(1)シ(通常実施権の有無)について
ア 被控訴人の主張
被控訴人は,真実自らが権利者であると信じて事業を行ってきたものであるか
ら,特許法79条の2第1項の適用又は類推適用により,被控訴人には結ばない靴
紐の実施について本件特許権の通常実施権が与えられる。
イ 控訴人の主張
特許法79条の2第1項が適用されるのは,「第74条第1項の規定による請求
に基づく特許権の移転の登録の際」であるが,控訴人は,特許法74条1項に基づ
く請求のみを行っているわけではない。
また,被控訴人は,何らの根拠を示すことなく類推適用されると主張するが,類
推適用すべき基礎がない。
さらに,被控訴人は,本件固定的役割分担合意及び前記「別段の定」に自ら違反
した結果,本件特許権を剥奪され,本件特許発明の実施が許されないにすぎないか
ら,通常実施権による保護を求められるような立場にはない。
(13) 争点(1)ス(過失の有無)について
ア 控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,弁護士に相談して日本生産に踏み切ったから,合意違反
について過失がないなどと主張するが,およそ成り立つ余地はない。
(イ) 前記(10)イ(イ)と同様に,後記イ(イ)の主張は,時機に後れた攻撃防御
方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 被控訴人は,日本生産を実施するに当たり,本件共同出願契約に違反
しないことについて被控訴人代理人弁護士に確認した。仮に本件固定的役割分担合
意が存在したとしても,この合意は契約書の形で存在するわけではなく,その内容
も裁判所の判断を経なければ理解することができないようなものであるから,弁護
士に相談して日本生産に踏み切った被控訴人には,合意違反について過失はない。
(イ) 被控訴人は,平成30年8月29日の心証開示当日まで,本件特許の
特許権者であることを信じて販売を実施してきた。本件特許の登録原簿には,被控
訴人が権利者として記載されている(甲1,3)。
また,被控訴人は,被告各商品の日本への生産移管に当たり,数多くの専門家に
相談したが,被控訴人が相談した弁護士,弁理士,中国弁理士は,いずれも本件共
同出願契約書13条後段の規定により特許が剥奪されるものであることを警告しな
かった。
さらに,本件共同出願契約書13条は,その前段で改良発明の取得について禁止
していることから,被控訴人において,後段だけを取り出して,本件特許権が日本
への生産移管によって剥奪されると予見することは不可能だったし,控訴人も,被
控訴人との交渉中はもとより,本件訴訟提起後も,平成30年5月2日付け控訴人
第8準備書面に至るまで,被控訴人の行為が本件共同出願契約書13条後段に違反
することを具体的に指摘しなかった。
以上のとおり,被控訴人は,心証開示を受けるまで自らが無権利者であることに
ついて善意無過失であったものであるから,損害賠償請求には理由がない。
特許法103条の過失の推定は,本件のように,被控訴人が特許原簿に権利者と
して登録されている場合においては,適用がないというべきである。
なお,前記(10)ア(ウ)と同様に,上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当た
らない。
(14) 争点(1)セ(無効の抗弁の成否)について
ア 被控訴人の主張
(ア) 本件発明1-1は,乙104(特許第3493002号公報)に記載
された発明と同一であるか,同発明及び当業者の技術常識(乙105~110)に
基づき,容易に想到できるものであるから,本件特許1の請求項1は,特許無効審
判により無効にされるべきものである。
(イ) 被控訴人は,裁判所から平成30年8月29日付け口頭弁論期日にお
いて,被控訴人の行為が本件共同出願契約書13条後段に違反するとの心証開示を
受けるまで,自らの事業に多大な貢献をしている本件特許1の無効を主張すること
は不可能であった。
また,被控訴人は,自らが共有特許権者として登録されているから,この意味で
も,特許が無効とされることを前提とした特許法104条の3の抗弁を提出するこ
とのできない立場であった。
しかも,本件特許1の無効理由を予備的にでも主張した場合には,競合他社がそ
の無効理由の内容を知ることとなり,特許無効審判により早晩特許が無効化されて
しまうことが容易に予想された。
したがって,侵害論の心証開示を踏まえて,本件特許1の無効を主張することが
許されるべきである。
イ 控訴人の主張
前記(10)イ(イ)と同様に,前記アの主張は,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法
157条1項)として却下すべきである。
(15) 争点(1)ソ(控訴人は特許権を有しない旨の主張の成否)について
ア 被控訴人の主張
控訴人は,遅くとも平成28年10月23日以降,日本で本件特許権1の実施品
であるクールノットの販売を開始した(乙37)。これは,被控訴人に対して協議
及び許可を求めることなく,控訴人の独断で行われたものである(乙36)。そこ
で,仮に,本件共同出願契約書13条後段が特許法73条2項の「別段の定」を規
定したものであるとすると,控訴人も,クールノットの販売により,平成28年1
0月23日以降,本件特許権の持分が剥奪され,無権利者の状態にある。
また,B及びAは,控訴人と結託して,被控訴人の事前の協議・許可なく,クー
ルノットを製造し,梱包して日本において販売しているものであるから,同様に,
遅くとも平成28年10月23日をもって無権利者となった。
なお,前記(10)ア(ウ)と同様に,上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当た
らない。
イ 控訴人の主張
前記(10)イ(イ)と同様に,前記アの主張は,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法
157条1項)として却下すべきである。
(16) 争点(2)(香港での特許出願手続に係る債務不履行の成否)について
ア 控訴人の主張
前記(6)アのとおり,本件4者は,被控訴人が本件4者の代表者として香港での
本件特許発明の特許出願手続を誠実に行う旨を合意した(共同出願契約書〔甲5〕
4条,12条)。
しかし,被控訴人は,本件特許事務所から甲15書面を受領したにもかかわら
ず,控訴人ら3者に対し,香港での特許出願の要否を問い合わせ,その結果を本件
特許事務所に対し指示することを怠った。その結果,香港での特許取得が不可能と
なった。
イ 被控訴人の主張
前記(6)イ(イ)~(エ)のとおり。
(17) 争点(3)(説明義務違反の不法行為の成否〔説明義務違反の有無〕)につ
いて
ア 控訴人の主張
仮に本件固定的役割分担合意が認められない場合,被控訴人には,信義則上,そ
のような合意がないことを控訴人ら3者に説明する義務があった。
それにもかかわらず,被控訴人は,控訴人ら3者の誤信を漫然と放置するばかり
か,むしろその誤信を利用して,本件共同出願契約を締結させ,また,控訴人ら3
者に月30万個の生産のための巨額の追加投資をさせながら,突然,控訴人ら3者
からの本件特許発明の実施品の調達を停止し,控訴人ら3者の損害を拡大させた。
イ 被控訴人の主張
控訴人は,本件4者間において,本件販売形態を唯一の商流とすることの合意を
しようと試みていたが(甲46の1),それがかなわずに本件共同出願契約が締結
されたのであって(甲6,乙52),控訴人は,上記合意が成立しなかったことを
十分に認識していたから,被控訴人に何らかの説明義務違反が生じることはない。
(18) 争点(4)(損害の有無及び額)について
ア 控訴人の主張
(ア) 特許権侵害の不法行為に基づく損害額
a 被控訴人の得た利益額(民法709条,特許法102条2項)
被控訴人は,被告各商品を概ね市場価格1000円程度で販売している。
被控訴人は,平成28年4月1日から同年6月15日までの間に,被告各商品を
25万個販売した。
控訴人は,従前,被控訴人に対し,被告各商品と同等の商品を,概ね市場価格の
60%の価格で卸売りしていたから,被控訴人の利益率は40%である。
したがって,被控訴人の得た利益の額は,1億円(=1000円×25万個×4
0%)であり,特許法102条2項により,これが控訴人ら3名が受けた損害の額
と推定される。
そして,控訴人は,A及びBから,両名の被控訴人に対する損害賠償請求権を譲
り受けた(甲63,甲64の1~3)。
b 実施料相当額(民法709条,特許法102条3項)
被控訴人は,被告各商品を概ね市場価格1000円程度で販売している。
被控訴人は,平成28年4月1日から同年6月15日までの間に,被告各商品を
25万個販売した。
控訴人ら3名が被告各商品の販売に対し受けるべき金銭の額は,被控訴人の背信
性も考慮すると,市場価格の20%である。
したがって,控訴人ら3名が被告各商品の販売に対し受けるべき金銭の額は,5
000万円(=1000円×25万個×20%)である。
そして,控訴人は,A及びBから,両名の被控訴人に対する損害賠償請求権を譲
り受けた(甲63,甲64の1~3)。
(イ) 香港での特許出願手続に係る債務不履行に基づく損害額
被控訴人が香港での特許出願手続に係る債務を履行して,香港で本件4者が対応
特許を取得していれば,控訴人ら3者は,香港地域の市場において,その特許の存
続期間満了までの間に,少なくとも1億円の利益を得られたから,上記債務不履行
による損害は1億円を下らない。
そして,控訴人は,A及びBから,両名の被控訴人に対する損害賠償請求権を譲
り受けた(甲63,甲64の1~3)。
控訴人は,上記1億円のうち5000万円を請求する。
(ウ) 説明義務違反の不法行為に基づく損害額
被控訴人は,控訴人ら3者が本件固定的役割分担合意があるものと誤信している
ことを利用して,本件共同出願契約を締結させ,控訴人ら3者に月30万個の生産
のための巨額の追加投資をさせながら,突然,控訴人ら3者からの本件特許発明の
実施品の調達を停止して,控訴人らの損害を拡大させた。上記説明義務違反による
投資額分の損害は2億円を下らない。
そして,控訴人は,A及びBから,両名の被控訴人に対する損害賠償請求権を譲
り受けた(甲63,甲64の1~3)。
控訴人は,上記2億円のうち5000万円を請求する。
(エ) 弁護士費用相当額
控訴人は,本件訴訟の追行のために弁護士費用の出捐を余儀なくされており,被
控訴人の不法行為又は債務不履行と相当因果関係のある損害は,2000万円を下
らない。
(オ) 小括
以上のとおり,控訴人は,被控訴人に対し,①特許権侵害の不法行為に基づく損
害賠償として1億円,②香港での特許出願手続に係る債務不履行に基づく損害賠償
として5000万円(1億円の内金請求),③説明義務違反の不法行為に基づく損
害賠償として5000万円(2億円の内金請求),④弁護士費用相当額として20
00万円の合計2億2000万円の支払を求める。
イ 被控訴人の主張
(ア) いずれも否認する。
(イ) 控訴人は,少なくとも控訴理由書の提出日である平成29年6月1日
に至るまで,実施品を日本において製造・販売する等しておらず,日本における実
施がされていないため,特許法102条2項は適用できない。
(ウ) 控訴人が受けるべき金銭の額が市場価格の20%である旨の主張は,
何らの根拠も伴わず,失当である。
(19) 争点(5)(特許権持分移転登録手続請求の可否)について
ア 控訴人の主張
(ア) 前記のとおり,①被控訴人は,本件固定的役割分担合意に違反したこ
とによる効果として,本件特許権の持分が剥奪されており,②本件固定的役割分担
合意に違反したことが債務不履行に該当するので,控訴人らは債務不履行を理由と
して本件特許発明につき特許を受ける権利の譲渡を解除しており,③被控訴人は,
本件共同出願契約8条違反により本件特許権の持分が剥奪されており,④被控訴人
は,本件共同出願契約13条違反により本件特許権の持分が剥奪されており,⑤被
控訴人は,特許出願に関する手続を誠実に行う義務に違反したために本件特許権の
持分が剥奪されており,⑥本件特許を受ける権利の譲渡は,錯誤無効又は詐欺取消
により効力を失っているために本件特許を受ける権利を取得していなかったことと
なり,被控訴人は無権利者となる。
前記①~⑥の結果,被控訴人が有していた本件特許権に係る持分各4分の1は,
控訴人ら3者に等しい割合で移転させるべきこととなるので,控訴人ら3者は,本
件特許権に係る持分各12分の1を取得することとなる。
登録原簿上は被控訴人が本件特許権の持分権者として登録されている(甲1,
3)。
控訴人は,平成30年7月31日,B及びAから,両名の本件特許権に係る持分
各12分の1の移転登録手続請求権を譲り受けた(甲91~95)。
よって,控訴人は,被控訴人に対し,本件固定的役割分担合意に基づく持分移転
登録手続請求,本件固定的役割分担合意の解除に基づく原状回復としての持分移転
登録手続請求,本件共同出願契約に基づく持分移転登録手続請求,特許法74条1
項に基づく持分移転登録手続請求として,本件特許権の持分各4分の1の移転登録
手続を請求することができる。
(イ) 被控訴人は,特許権持分移転登録手続請求について請求の基礎の同一
性を欠くなどと主張するが,従前から控訴人が主張してきた請求原因に実質的な変
更を加えるものではなく,請求の基礎の同一性に変更はなく,著しく訴訟手続を遅
滞させることもない。
また,平成30年6月18日付け控訴人第10準備書面兼訴えの変更申立書によ
る特許権持分移転登録手続請求の追加は,被控訴人の同年5月1日付け準備書面
(5)における主張に沿って行われたものであるし,同年7月25日付け控訴人第
12準備書面兼訴えの変更申立書によるB及びAからの請求権譲渡を理由とする特
許権持分移転登録手続請求の追加は,被控訴人の同年6月22日付け準備書面
(8)における特許権持分移転登録手続請求訴訟は固有必要的共同訴訟である旨の
主張を踏まえ,余計な争点を避け審理を促進するために行われたものである。
(ウ) 特許権の持分移転登録手続請求訴訟は,固有必要的共同訴訟ではな
い。
(エ) 被控訴人は,控訴人が,B及びAから本件特許権に係る持分各12分
の1の移転登録手続請求権を譲り受けたとの主張について,時機に後れた攻撃防御
方法として却下すべきであると主張するが,上記譲渡が行われたのは平成30年7
月31日であり,それを踏まえた上記主張もほぼ同時期に行われたし,訴訟の進行
を遅延させるものでもないから,時機に後れた攻撃防御方法に当たらない。
また,被控訴人は,特許権持分移転登録手続請求権は,特許権持分から離れて独
立に譲渡の対象となるものではないなどと主張するが,特許権持分の移転は登録が
効力発生要件であるから(特許法98条1項1号),特許権持分を取得しようとす
る者は,移転登録が完了するまでは,特許権持分移転登録手続請求権は有している
ものの,特許権持分そのものは保有していない。したがって,特許権持分移転登録
手続請求権を,特許権持分とは離れて独立に譲渡することができるかという問題を
立てること自体が不合理かつ不必要であり,誤りである。
さらに,被控訴人は,B及びAの有する特許権持分のうち,控訴人が被控訴人か
ら剥奪したと主張する持分12分の1の控訴人への移転には,被控訴人の同意が必
要であるなどと主張するが,移転登録が完了するまでは,B及びAは,上記持分1
2分の1を保有しているわけではないから,それらの持分が控訴人に移転すること
も観念できず,被控訴人の同意が必要となる余地はない。仮に,通常の特許権譲渡
契約等の場合であれば,被控訴人の同意が必要であるとしても,本件固定的役割分
担合意においては,役割分担の定めに違反した場合には特許権が剥奪される効果が
生じることを事前に合意しているのであって,実際に剥奪が実行される段階に至っ
て改めて同意が必要であるわけがないから,本件4者は,本件固定的役割分担合意
を合意した際に,剥奪された特許権が他の3者に移転する場合においては,あらか
じめ同意していたか,同意しない権利を放棄していたというべきである。
加えて,被控訴人は,中間省略登録は認められないなどと主張するが,移転登録
が完了するまでは,B及びAは,上記持分12分の1を保有しているわけではな
く,同人らが特許権持分移転登録手続請求権を控訴人に譲渡し,控訴人がこの特許
権持分移転登録手続請求権を行使すれば,上記持分12分の1は,被控訴人から,
B及びAを経由することなく,控訴人に直接移転することになるから,被控訴人か
ら控訴人に対し直接の特許権持分の移転登録を認めることこそ,特許権持分の変動
を正しく特許原簿に反映させることになる。
(オ) 被控訴人は,B及びAから控訴人への特許権持分移転登録手続請求権
の譲渡は,訴訟信託に該当し,無効であるなどと主張するが,B及びAは,被控訴
人から取得する本件特許権の持分各12分の1を控訴人に譲渡する意思を真に有し
ており,B及びAが本件特許権の持分各4分の1を保有し,控訴人が持分2分の1
を保有することになることを,真に納得して,特許権持分移転登録請求権譲渡契約
書(甲91,92)に署名したものであるから,訴訟行為をさせることを主たる目
的として信託したものではない。
(カ) 前記(10)イ(イ)と同様に,後記イ(キ)の主張は,時機に後れた攻撃防御
方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人は,平成30年6月18日付け控訴人第10準備書面兼訴えの
変更申立書において,特許権持分移転登録手続請求を追加し,同年7月25日付け
控訴人第12準備書面兼訴えの変更申立書において,B及びAからの請求権譲渡を
理由とする特許権持分移転登録手続請求を更に追加したが,控訴審の結審直前に至
って,このような訴えの変更を行うことは許されない。また,原審において全く争
われていなかった事実を請求の基礎とするものであり,被控訴人の審級の利益を保
護するため,却下されるべきである。さらに,移転登録手続請求においては,確認
請求とは異なり,同時履行の抗弁権の有無など,今まで審理されていなかった新た
な争点が存在することは明らかであり,この意味でも請求の基礎を同一にするもの
といえない。加えて,これらの新たな争点について控訴人と被控訴人との間で主張
立証を行う必要があるし,少なくとも特許権持分移転登録手続請求権の譲渡の是非
について更に主張立証を行う必要があるから,著しく訴訟手続を遅滞させるもので
ある。
(イ) 特許権の持分移転登録手続請求は,最高裁昭和46年10月7日判
決・民集25巻7号885頁や特許法73条1項などに照らすと,固有必要的共同
訴訟であるから,共有者全員を原告又は被告として訴訟を提起する必要がある。し
たがって,控訴人単独での特許権の持分移転登録手続請求は,不適法である。
(ウ) 控訴人の主張は,すべて否認する。
(エ) 控訴人は,特許権の持分移転登録手続請求について,B及びAの同意
を得たことを立証していないから(特許法73条1項),理由がない。
(オ) 控訴人は,B及びAから,両名の本件特許権に係る持分各12分の1
の移転登録手続請求権を譲り受けたと主張するが,平成29年6月1日付け控訴理
由書兼訴えの変更申立書の提出時点において主張可能であったから,少なくとも重
大な過失により時機に後れて提出したものであり,次回期日に侵害論の心証開示を
控えた段階での提出は訴訟の完結を遅延させることも明らかであるから,時機に後
れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下すべきである。
また,特許権持分移転登録手続請求権は,特許権持分を取得した者が,その持分
に係る移転登録を受けるための権利であるから,その特許権持分から離れて独立に
譲渡の対象となるものではない(特許法98条1項)。この理は,特許権持分移転
登録手続請求権が,契約によって生じた場合も同様である。
さらに,B及びAから控訴人に特許権持分移転登録手続請求権が移転するために
は,その前提として,B及びAの有する特許権持分のうち,控訴人が被控訴人から
剥奪したと主張する持分12分の1が控訴人に移転することを要するが,この持分
の移転には,現時点において特許権者として原簿に登録されている被控訴人の同意
が必要であり,同意のない持分の移転は効力を生じない(特許法73条1項,98
条1項)。そもそも登録が効力発生要件である以上,登録されていない特許権持分
の移転は観念できず,B及びAから控訴人への特許権持分の移転は,被控訴人から
B及びAへの持分移転登録が完了した後にのみ可能である。
加えて,控訴人の主張は,本来であれば,被控訴人からB及びA,B及びAから
控訴人へと順次持分移転登録手続をすべきであるにもかかわらず,被控訴人からB
及びAへの移転登録手続がされていないことを奇貨として,被控訴人から控訴人へ
と中間省略登録手続を求めるものであるが,特許権の移転は登録が効力発生要件で
あることからすると(特許法98条1項),移転登録原因の内容と一致しない中間
省略登録が認められる余地はない。
(カ) 本件において,控訴人が,B及びAから特許権持分移転登録手続請求
権を譲り受けた理由は,控訴人のみが訴訟当事者であることに鑑み,控訴人に同請
求権を一旦移転させ,被控訴人から特許権の移転登録を受けた後に,B及びAに移
転登録して,特許権持分の実態と登録とを整合させようとするものであることは明
らかである。
そうすると,B及びAにおいて,控訴人との間で,本件訴訟を主たる目的として
本件特許権の持分の管理を内容とする契約を締結したものと評価できることになる
から,上記譲渡は,訴訟信託に該当し,無効である(信託法10条)。
(キ) 前記(15)アのとおり,控訴人は無権利者である。
なお,前記(10)ア(ウ)と同様に,上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当た
らない。
(20) 争点(6)(差止請求の可否)について
ア 控訴人の主張
前記(10)イ(イ)と同様に,後記イの主張は,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法
157条1項)として却下すべきである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 仮に,被控訴人が特許法73条2項の「別段の定」に違反したとして
も,同法98条1項1号に基づく登録がなければ,控訴人と被控訴人との間の債務
不履行を構成するにすぎず,特許権侵害を構成するわけではない。
したがって,控訴人の差止請求は,認められない。
(イ) 前記(15)アのとおり,控訴人は,無権利者である。
(ウ) 被控訴人の被告各商品の日本への生産移管は,本件製造会社をして被
告各商品を製造させる行為と,被告各商品を日本で販売する行為とに区別されると
ころ,後者は,被控訴人が日本に生産移管する以前から行ってきたものであるか
ら,別段の定によっても禁じられていない行為である。
したがって,被控訴人による被告各商品の販売行為は,本件共同出願契約書13
条後段に違反することはないから,差止請求の範囲は,被控訴人による被告各商品
の販売には及ばない。
(エ) 前記(10)ア(ウ)と同様に,前記(ア)~(ウ)の主張は,時機に後れた攻撃
防御方法に当たらない。
(21) 争点(7)(確認の利益)について
ア 控訴人の主張
前記(10)イ(イ)と同様に,後記イの主張は,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法
157条1項)として却下すべきである。
イ 被控訴人の主張
前記(15)アのとおり,控訴人は,無権利者であるから,現在の被控訴人の特許権
持分について確認しても,紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切ではない。
なお,前記(10)ア(ウ)と同様に,上記主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当た
らない。
(22) 争点(8)(反訴請求の可否)について
ア 被控訴人の主張
控訴人は,遅くとも平成28年10月23日以降,日本で本件特許権1の実施品
であるクールノットの販売を開始した(乙37)。これは,被控訴人に対して協議
及び許可を求めることなく,控訴人の独断で行われたものである(乙36)。
そこで,仮に,本件共同出願契約書13条後段が特許法73条2項の「別段の
定」を規定したものであるとすると,控訴人のクールノットの販売は,本件共同出
願契約書13条後段に当たり,控訴人の本件特許権の持分は剥奪される。控訴人の
本件特許権の持分は,本訴の結論によりクールノット販売時点で最大で2分の1で
あるから,剥奪される控訴人の持分も最大で2分の1である。
また,本件共同出願契約書13条後段が違反者以外の3者に対し特許権移転登録
手続請求権を発生させる規定であるとすると,被控訴人は,控訴人に対し,控訴人
の有する本件特許権の持分2分の1のうち,その3分の1である持分6分の1の移
転登録手続請求をすることができる。
イ 控訴人の主張
控訴人は,被控訴人による控訴審での反訴の提起に同意しない(民訴法300条
1項)。また,反訴の提起は,著しく訴訟手続を遅滞させる。したがって,反訴は
却下されるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)ケ(特許権の移転登録の要否及び「別段の定」の有無)について
(1) 事案に鑑み,争点(1)ケから判断する。
特許権の移転は,相続その他の一般承継によるものを除き,登録しなければ,そ
の効力を生じないから(特許法98条1項1号),被控訴人は,本件特許権1の特
許権者(共有持分権者)である(甲1)。
控訴人は,被控訴人の特許法98条1項1号を根拠とする主張は,時機に後れた
攻撃防御方法として却下すべきであると主張するが,被控訴人が本件特許権1に係
る特許原簿に特許権者(共有持分権者)として登録されていた事実(甲1)は,既
に訴状において控訴人が主張していたのであり,控訴人において被控訴人は無権利
者である旨の主張をする際にあらかじめ検討しておくべき事項であるから,上記主
張は採用できない。
また,控訴人は,特許法98条1項1号は,通常の特許権の移転について登録を
効力発生要件としたものであって,本件のように,移転が解除されたことにより特
許権が譲受人から譲渡人に対し復帰的に物権変動するときには登録は不要であるな
どと主張するが,同号は,相続その他の一般承継による移転には適用されない旨を
明示した上で,「特許権の移転」を対象としていること,同法74条2項は,特許
がその発明について特許を受ける権利を有しない者の特許出願に対してされたとき
(同法123条1項6号)であっても,その特許に係る発明について特許を受ける
権利を有する者の請求に基づく特許権の移転の登録があったことを要件として,そ
の特許権が初めからその登録を受けた者に帰属していたものとみなすとしているこ
とに照らすと,本件には同法98条1項1号の適用がない旨の主張は採用できな
い。
そうすると,特許法73条2項の「別段の定」をした場合を除き,被控訴人は,
他の共有者の同意を得ないで,本件発明1-1の実施をすることができるから,続
いて,本件4者間の「別段の定」の有無を検討する。
(2) 控訴人は,本件共同出願契約書13条は,本件固定的役割分担合意を規定
するものであり,本件固定的役割分担合意の一部が特許法73条2項の「別段の
定」に該当すると主張するところ,前記第2の2(4)のとおり,本件共同出願契約
書には,中国語で記載され,作成日付及び本件4者の署名があるもの(甲6契約
書)と,日本語で記載され,作成日付及び本件4者の署名がないもの(甲5契約
書)とがあるが,甲6契約書には作成日付及び署名があることに加え,B及びAが
中国語を理解し日本語を理解しないこと,甲6契約書は被控訴人従業員が中国語に
翻訳したものであり,控訴人も中国語を理解すること(以上の事実につき,証人
E,弁論の全趣旨)を併せ考慮すると,本件4者は,作成日付及び署名がある甲6
契約書をもって,本件共同出願契約を締結したと認めるのが相当である。
(3) 前記第2の2(4)ア(ク)のとおり,甲6契約書13条には,「事前の協議・
許可なく,本件の各権利(本件特許権)を新たに取得し,又は生産・販売行為を行
った場合,本件の各権利は剥奪される。(甲,乙,丙及び丁の全員が対象である)」
と記載されている。
同条の「生産・販売行為」の対象は,その文理に照らし,「本件の各権利(本件
特許権)」の実施品であると合理的に解釈できるから,同条は,契約当事者間にお
いて「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生産・販売行為を制限する趣旨の
条項である。そうすると,契約当事者の合理的意思として,同条の「事前の協議・
許可なく」とは,「事前の協議及び許可なく」の意味であると解釈でき,同条の
「生産・販売行為」とは,「生産又は販売行為」の意味であると解釈できる。前者
では「・」を「及び」と解釈し,後者では「・」を「又は」と解釈することになる
が,いずれも契約当事者の合理的意思に沿うものであり,矛盾はない。また,前記
第2の2(4)ア(ア),(イ)によると,本件特許権1は,甲6契約書にいう「本件特許
権」に該当する。
以上によると,同条は,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産
又は販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとして制限するも
のであるから,特許法73条2項の「別段の定」に該当する。
そして,前記第2の2(5),(6)のとおり,被控訴人は,平成28年4月以降,日
本において,本件製造会社に本件発明1-1の実施品である被告各商品を製造さ
せ,被告各商品を独自に販売しているが,これについて,事前の協議及び許可を経
たことは,本件全証拠によっても認められない。
したがって,被控訴人が,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社に
本件発明1-1の実施品である被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売し
たことは,「別段の定」である甲6契約書13条に違反するものである。
(4) 被控訴人は,本件共同出願契約書7条には,本件発明の実施は,協議によ
り別途定める旨の規定があるから,本件共同出願契約には,製造,販売等について
の何らかの役割分担に関する合意は含まれないことが明らかであり,同契約書13
条は「別段の定」を規定したものではない旨の主張をする。
しかし,前記第2の2(4)ア(オ)のとおり,甲6契約書7条は,「甲,乙,丙及び
丁は,本件発明の実施に対する協議の後,別途に定める。」と規定するものである
から,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の実施である生産
及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要するものとすることと矛盾
するものではない。
そして,①Bが中国国内の工場で本件発明1-1の実施品を製造し,②これをA
が梱包し,③これを控訴人が仕入れ,④さらに被控訴人がこれを日本に輸入して販
売するという本件販売形態が本件共同出願契約締結後,長年にわたり続けられてき
たことは,当事者間に争いがないから,本件販売形態は,同契約書13条の「事前
の協議・許可」を経たものということができる。このように,製造,販売等につい
ての役割分担を含む本件販売形態については,同契約書13条の「事前の協議・許
可」を経たものであるから,同契約書13条と矛盾するものではない。
また,前記第2の2(4)ア(カ)のとおり,甲6契約書8条は,「甲,乙,丙及び丁
は,他の全ての当事者の同意を得なければ,本件特許権を乙,丙及び丁が自ら経営
する法人以外の第三者に譲渡し,或いは本件発明の実施を許諾してはならない。」
と規定するものであるから,同契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許
発明の実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要する
ものとすることと矛盾するものということはできない。本件共同出願契約書を起案
した弁護士が,甲6契約書8条と概ね同様の共同出願契約書案8条の「乙,丙及び
丁のいずれかが主体となって事業を営む法人」という文言に添えたコメントには,
「X様やA様,B様が経営している会社については,同意がなくても製造販売等が
可能です。」と記載されているが(甲49),本件4者が合意に達した甲6契約書で
はなく,契約書作成過程の書面に付されたものにすぎないし,契約当事者のうち被
控訴人を除く控訴人ら3者が自然人であったことから,控訴人ら3者が将来的に法
人化して事業を営む際にも支障が生じない旨を説明したものと理解できるから,上
記コメントにより,甲6契約書13条が,本件特許権1の共有者がその特許発明の
実施である生産及び販売をすることについて,事前の協議及び許可を要することを
定めたものではないということはできない。
さらに,本件共同出願契約には,靴紐の購入単価又はその決定方法についての条
項はなく,被控訴人が控訴人から靴紐を購入しなければならないことを規定する条
項もないからといって,甲6契約書13条についての上記判断が左右されるもので
はない。
(5) 被控訴人は,控訴人が,被控訴人との協議・許可なしに,COOLKNO
Tという商品名又はブランド名により本件特許権の実施品を販売しているから,こ
の控訴人の販売及び被控訴人の製造販売のいずれも,本件共同出願契約書13条に
は違反しないとするのが,契約当事者の合理的意思である,本件特許権の持分を剥
奪されるのは控訴人であり,被控訴人ではないと主張するが,前記(3)のとおり,
甲6契約書13条の文理等に照らし,採用できない。
(6) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,同条前段と合わせて読む
べきところ,同条前段は,本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新
たに取得することを禁止しているから,同条後段は,実質的同一の範囲内で新たに
取得された特許権について,その実施品の生産・販売を禁止しているものと理解で
きると主張する。
しかし,甲6契約書13条前段は,その文理に照らすと,事前の協議及び許可な
く,「本件の各権利(本件特許権)」を未取得の国において,「本件の各権利(本件
特許権)」を新たに取得することを禁止するものと解すべきであるから,同条前段
が本件特許権と「実質的同一」の範囲について特許権を新たに取得することを禁止
しているとは認められない。また,同条前段は,「本件の各権利(本件特許権)」を
新たに取得したことのみによって「本件の各権利」を剥奪すると定めていることか
らすると,同条後段が,その新たに取得された「本件の各権利(本件特許権)」の
実施品を生産又は販売したことによって「本件の各権利」を剥奪することのみを定
めたものと解釈するのは不合理である。同条後段は,既に取得されているか,新た
に取得されたものであるかを問わず,「本件の各権利(本件特許権)」の実施品の生
産又は販売行為を無断で行うことを禁止したものと解するのが相当である。
(7) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段は,日本以外の国での販売行
為を定めた同契約書14条に違反した場合の効果を規定した条項であると理解で
き,仮に日本での生産・販売行為について規定したものであるとすると,被控訴人
は,既に販売中の靴紐について,日本での販売中止を前提に本件共同出願契約を締
結したこととなり,著しく不合理であると主張する。
しかし,前記(3)のとおり,甲6契約書13条後段の文理に照らし,日本以外の
国での行為に限定されたものとは解釈できないし,被控訴人が本件共同出願契約締
結当時行っていた本件販売形態は,同条の「事前の協議・許可」を経たものとして
禁止されないから,被控訴人が本件共同出願契約締結当時被告各商品を既に販売し
ていたことは,同条後段が禁止する対象から日本での行為を除外して解釈すべき理
由とはならない。
(8) 被控訴人は,本件共同出願契約書13条後段の内容は,同契約書16条の
協議を経なければ空文であり,これを法的請求の根拠とすることはできないと主張
するが,同契約書16条は,裁判外における紛争解決の方法を定めたものと合理的
に解釈できるのであって,同条の協議を経なければ疑義が生じた契約条項の内容が
空文であり,法的請求の根拠とすることができないものとは認められない。
2 争点(1)コ(「別段の定」の解除の成否)について
(1) 被控訴人は,控訴人作成の平成27年1月23日付けメール(乙78)添
付のエクセルファイルを根拠として,「別段の定」は,同月30日に解除されたと
主張する。
しかし,上記エクセルファイルは,中国語によるB及びAからの今後の協力に関
する方向性の要望書であり,これに控訴人が日本語訳を付したものにすぎず(乙7
8),これにより直ちに同月30日の経過をもって「別段の定」が解除されたもの
ということはできないし,これに基づいて本件4者において「別段の定」を合意解
除したことを認めるに足りる証拠もない。
(2) 被控訴人は,控訴人作成の平成27年9月7日付けメール(甲57の4)
を根拠として,被控訴人の日本への生産移管に同意し,「別段の定」を解除するこ
とに合意したと主張する。
しかし,上記メール(甲57の4)は,「・・・/長文になりましたが現状は複
雑ではなく/4者が団結して特許の優位性を損なうことなく/世界に向けて販売し
ていくか,もしくは/4者で独立採算型,製造販売をして価格,販売力で競争する
か/の2つの選択肢だけではないでしょうか?/皆さんが後者を選択される場合は
大変遺憾ですが私に異論はございません。/・・・/御社訪問時に詳しく社長のお
考えをお聞かせください。/それを元に私も決断させていただきます所存です。
/・・・」(判決注・「/」は改行を示す。以下,証拠の引用箇所において同じ。)
というものであり,控訴人が,本件4者が独立採算で製造販売することを選択する
旨の意思を確定的に表示したものとは認められない。また,証拠(甲51~53,
乙89)及び弁論の全趣旨によると,控訴人と被控訴人は,上記メール後も平成2
7年10月15日にかけて,本件4者による協業を前提とした契約書の作成を協議
していたことが認められるから,このことからも,控訴人が,上記メールをもっ
て,本件4者が独立採算で製造販売することを選択する旨の意思を確定的に表示し
たものとはいえない。
したがって,控訴人が,上記メールにより,被控訴人の日本への生産移管に同意
し,「別段の定」を解除することに合意したと認めることはできない。
(3) 被控訴人は,控訴人作成の平成27年10月15日付けメール(乙89)
を根拠として,被控訴人による日本での生産に最終的に同意し,「別段の定」を解
除することに合意したと主張する。
しかし,証拠(甲52,53,乙68,89)によると,上記メールは,被控訴
人が,本件共同出願契約書の見直しも含めて本件4者間で新たに締結する契約条件
の交渉において,本件4者間の取引における特許料を1点当たり1者1元から0.
5元に変更することを相談したい旨の提案を行ったことに対し,控訴人が0.5元
では交渉の余地がない旨の回答をするに当たり記載されたものであること,控訴人
と被控訴人との間では,上記メール後も,上記特許料を年間販売数量に応じて値引
きする提案も含めて,契約条件の交渉が継続して行われたこと,控訴人作成の同年
11月23日付けメール(乙68)では,「1.生産権利/4者全員が他社にライ
センスを設定して生産させることができるというもので/よろしいでしょうか?/
開始当初に4者で合意した内容ですと8条に他者全員の同意を得ることとありま
す。/4者全員が生産できるとすることは公平と思います。/御社がモリトに生産
を依頼される場合はそのように合意書を変更することになります。」と記載されて
いることが認められる。
そうすると,控訴人作成の平成27年10月15日付けメール(乙89)によ
り,控訴人が被控訴人による日本での生産に最終的に同意し,「別段の定」を解除
することに合意したものとは認められず,むしろ控訴人は同年11月23日に至っ
ても,被控訴人による日本への生産移管は,本件共同出願契約書が変更されない限
り,控訴人ら3者の同意が必要であるものと認識していたものと認められる。
(4) 被控訴人は,被控訴人が被告各商品の製造を自社において行うに至ったの
は,控訴人による不当な値上げがされたこと,従来より実施品の品質不良が多く見
られたこと等に基づくものであり,被控訴人は,控訴人らに対し,不当な値上げ要
求を受け入れることはできず,被控訴人自身において実施品を製造する旨を通告し
ているから,この通告時点又はこの通告から相当期間経過後において,「別段の
定」は解除されたと主張する。そこで,検討すると,以下のとおりである。
ア 前記第2の2の前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事
実が認められる。
(ア) 控訴人は,被控訴人に対し,平成24年5月5日付けメール(甲37
の2)において,B及びAが機械の導入,人員の確保などに安心して投資できるよ
うに,被控訴人から年間の最低発注数量を価格変動なしで契約したい旨を述べた。
被控訴人は,控訴人に対し,同年6月27日付けメール(甲42,85)におい
て,「まず絞った市場に早く出したいです。序所に生産キャパを上げて,導入店舗
を増やしていきたい。設備増設必至です,Aさんと事前に相談して意向を聞きたい
ですね。」と記載し,同年7月2日付けメール(甲86)において,「今回は,主要
の店舗に並べるのと,サンプル配り分です。発注量上げていきますので,増設の件
も前もって検討しておいてください。」と記載して,生産設備の増設を求めた。
控訴人は,被控訴人に対し,同年8月11日付けメール(甲43の1)におい
て,工場の機械の数の調整をするために,おおよその発注予想を提出することを求
め,被控訴人は,控訴人に対し,同月20日付けメール(甲44の1,甲45)に
おいて,同年8月から平成25年7月にかけて,合計40万8000本を発注する
旨のおおよその発注予想を提出した。これを踏まえて,控訴人は,被控訴人に対
し,同年11月22日付けメール(甲46の1)において,日本市場について年間
40万本を発注することを求め,被控訴人は,同日付けメール(甲46の2)によ
り,これを了解した。
(イ) 被控訴人は,平成25年1月から,日本において被告各商品の販売を
開始した。
平成26年1月の被告各商品の販売実績は,3万7763本であったが,同年2
月2日に被告各商品がテレビ番組で取り上げられて以降,爆発的に増大し,同年2
月の被告各商品の販売実績は,13万3036本であった。
しかし,当時の控訴人ら3者の被告各商品の生産能力は月間5万本程度であった
ことから,被控訴人は,同年3月~5月にかけて,大手靴販売店を含む多くの顧客
から被告各商品について問い合わせを受けたものの,商品を供給することができな
い事態に陥った。
(争いがない)
(ウ) 被控訴人は,平成26年6月頃,控訴人ら3者に対し,月間30万本
以上の販売ができる見込みであるから,これに対応できるようにしてほしい旨を述
べた。控訴人ら3者は,これを受け,月間30万本までは難しいとしても,月間1
5万本程度は販売できるものと考え,新たな設備を導入した。(甲16の1・2,
甲17の1・2,甲18,22,甲57の2,甲65)
被告各商品の販売実績は,平成26年3月~5月は,月間5万本を上回ったもの
の,同年6月~12月は,月間平均5万4657本(=38万2597本÷7か
月)にとどまり,平成27年は,上向いたものの,月間平均8万4007本(=1
00万8088本÷12か月)にとどまった(甲50,乙19)。
被控訴人の控訴人に対する被告各商品の発注数量は,平成27年1月~8月の月
間平均で約3万3000本であり,同年の旧正月明け~8月の月間平均で約4万4
000本にとどまった(甲57の1)。
控訴人は,被控訴人に対し,同年9月頃から,月間10万本程度の最低購入数量
を保証することを求め,前記(2),(3)のとおり,控訴人と被控訴人との間におい
て,同年9月~11月末頃にかけて,本件共同出願契約書の見直しも含めて本件4
者間で新たに締結する契約条件の交渉が行われた(甲51~53,甲57の1~
4,乙60,68,73,89,被控訴人代表者)。
(エ) 控訴人が被控訴人に販売した被告各商品には,次のとおり,品質不良
が確認され,その改善の申入れ等が行われた。
a 平成25年3月25日,コブ変形が確認された(乙32)。
b 平成27年2月10日,異物混入及びコブサイズ変形が確認された
(乙32)。
c 平成27年7月28日,カッターの刃に持ち手用と思われるテープ
が巻かれた物が段ボール箱に混入していた(乙32)。
d 被控訴人は,平成27年8月5日,被告各商品の梱包工場におい
て,控訴人,Aらに対し,梱包不良について,ライン内でのQCを確立して欲しい
旨を依頼し,取り急ぎの対策として,ライン内に作業しているカラー・サイズ以外
の余計な資材などは置かないように依頼・指示し,同月7日までに改善対策書の提
出を求めた。また,入荷済みの被告各商品の不良について,検品が必要な数量及び
費用を提出し,承諾を求めた。(乙61)
e 被控訴人は,平成27年10月,「キャタピランABCシール」の
貼付漏れがあったことから,出荷前に同シールの有無の全数検品を行い,控訴人に
もその旨を連絡し,メーカーへの確認を求めた(乙62)。
f 平成28年1月7日,8日の出荷時に検査したところ,検査総数6
912個のうち,43個に品質不良(サイズ・色ラベルなし15個,サイズ・色ラ
ベル破れ1個,JANラベルなし8個,JANラベル誤り19個)が確認された。
このうち,キャタピラン50cmについては,検査数672個のうち36個に品質
不良が確認され,不良率は5%を超えていた。
そこで,被控訴人は,同月14日,控訴人に対し,その旨を連絡するとともに,
早急な改善を求めた。
(乙63,64)
g 平成28年2月16日,カッターの刃に持ち手用と思われるテープ
が巻かれた物が段ボール箱に混入していた。
そこで,被控訴人は,同日,控訴人に対し,その旨を連絡するとともに,原因及
び対策等を書面で回答することを求めた。
(乙32,65)
h 平成28年2月19日,検査数300個のうち43個に台紙誤りが
確認され,不良率は14.3%であった。
そこで,被控訴人は,同日,控訴人に対し,その旨を連絡するとともに,原因及
び対策等を書面で回答することを求めた。
(乙66)
i 平成28年3月16日,靴紐の先端のチップが外れている品質不良
が確認された(乙32)。
(オ) 控訴人は,被控訴人に対し,平成28年1月20日付けメール(乙2
2の1・2)において,「2012年からお取引させていただいております靴ひも
及びその他製品ですが/ご存じの通り人件費,原材料の価格高騰,管理費の増加に
より/現状価格の維持が困難になってまいりました。/当社では価格維持のため,
諸経費の削減,製造の合理化を図るなど/努力を重ねてまいりました。/しかしな
がら,もはやこうした自助努力では吸収できない状況となり/誠に不本意ながら,
値上げを決定した次第です。/つきましては,2016年1月1日より新価格を適
用させていただきたく/存じます。/新価格については,添付ファイルをご参照く
ださい。」と記載して,控訴人の被控訴人に対する被告各商品の販売価格の値上げ
を求めた。
(カ) 控訴人は,被控訴人に対し,平成28年2月2日付けメール(乙23
の1・2)において,「お電話にてお話しいたしました/価格の再度修正の件及び
新規ご発注いただきました物に/Pl を作成いたしましたのでご確認ください。」と
記載して,控訴人の被控訴人に対する被告各商品の販売価格の再度の値上げを求め
た。その値上げ幅は,平成27年の販売価格に対し5割を超えるものであった(値
上げ後の価格は,パッケージ部分を除いた50cmの紐本体で1.78倍〔=1
2.3元÷6.91元〕,パッケージ部分を除いた75cmの紐本体で2.27倍
〔=16.8元÷7.4元〕。乙21)。
(キ) 被控訴人は,平成28年4月以降,日本において,本件製造会社(同
年11月末頃までは訴外株式会社スリーランナー,同年12月頃からは訴外株式会
社モリト)に被告各商品を製造させ,被告各商品を独自に販売している(前記第2
の2(5))。
(ク) Bは,平成28年4月13日,被控訴人に対し,「競争になると,私
は必ずあなたの工場より安い価格で売れる。私は100円で売っても継続できる。
あなたはできる?」などと記載した同日付けメール(乙31)を送付した。
(ケ) 中国の上海(市内)における月額法定最低賃金は,平成25年が16
20人民元,平成26年が1820人民元,平成27年が2020人民元,平成2
8年(4月26日現在)が2190人民元であった(乙26)。
(コ) 1ポンド当たりのゴムの月間平均価格(シンガポール商品取引所の先
物価格)は,平成25年においては,149.85~112.93USセントであ
り,平成26年においては,105.52~72.72USセントであり,平成2
7年においては,同年5月に最高値として83.55USセントとなって以降,同
年11月に最安値として55.44USセントとなるまで漸減し,同年12月は5
6.59USセントであった(乙24)。
(サ) 1キロリットル当たりのナフサの月次価格(財務省貿易統計)は,平
成25年においては,6万8251円~5万8017円であり,平成26年におい
ては,7万1100円~5万9905円であり,平成27年1月~8月において
は,5万0077円~4万1357円であり,同年9月~12月においては,4万
0783円~3万8357円であった(乙25)。
イ 前記ア認定の事実によると,被控訴人の平成27年の被告各商品の販売
実績は,月間平均8万4000本程度であったところ,控訴人が,同年9月頃から
月間10万本程度の最低購入数量を保証することを求めたこと,控訴人は,平成2
8年1月及び2月に,被控訴人に販売する被告各商品について従来の1.5倍以上
の値上げを求めたこと,控訴人が値上げの理由とした原材料の価格高騰に関し,ゴ
ム及びナフサについては,平成27年後半の価格は平成25年以降で見ると相対的
に安値の水準にあったこと,控訴人が被控訴人に販売した被告各商品には度重なる
品質不良が見られ,被控訴人は控訴人に対し再三にわたりその改善を求めていたこ
とが認められる。
もっとも,平成26年2月に被告各商品がテレビ番組で取り上げられたことか
ら,同月の被告各商品の販売実績は,前月の3.5倍以上の13万3036本とな
り,同年3月~5月には,被控訴人は,大手靴販売店を含む多くの顧客から被告各
商品について問い合わせを受けたものの,当時の控訴人ら3者の被告各商品の生産
能力が月間5万本程度であったことから,商品を供給できない状態に陥ったこと,
そのため,被控訴人は,同年6月頃,控訴人ら3者に対し,月間30万本以上の販
売ができる見込みであるから,これに対応できるようにして欲しい旨を述べたこ
と,これを受けて,控訴人ら3者は,月間30万本までは難しいとしても,月間1
5万本程度は販売できるものと考え,新たな設備を導入したこと,被告各商品の販
売実績は,同年6月~12月は月間平均5万5000本弱,平成27年は月間平均
8万5000本弱にとどまり,被控訴人から控訴人に対する被告各商品の発注数量
は,平成27年1月~8月の月間平均で約3万3000本であり,同年の旧正月明
け~8月の月間平均で約4万4000本にとどまったこと,中国の上海(市内)に
おける平成27年の月額法定最低賃金は,平成25年の約1.25倍となってお
り,平成28年も増加傾向にあったことが認められる。
そうすると,控訴人が平成27年9月頃から最低購入数量の保証を求め,平成2
8年1月及び2月に値上げを求めた背景には,控訴人ら3者が最終決断したもので
あるとはいえ,平成26年6月頃被控訴人が月間30万本以上という販売見込みを
示して,控訴人ら3者をして新たな設備を導入させたものの,その後,被告各商品
の販売実績が月間平均8万5000本を下回る水準にとどまり,平成27年1月~
8月の発注数量が上記設備導入前に生産可能であった月間5万本さえも大きく下回
る水準にとどまったことがあるものと認められる。また,控訴人が値上げの理由と
した人件費の高騰については,中国の上海(市内)における月額法定最低賃金の動
向によると,これを推認することができる。
以上を総合すると,被控訴人が主張する最低購入数量保証要求,従来の1.5倍
以上の値上げ要求,度重なる品質不良の事実を考慮しても,被控訴人と控訴人との
信頼関係が破壊されるなど,甲6契約書13条所定の「別段の定」の継続を期待し
がたい重大な事由が存するものとまでは認めることはできないから,「別段の定」
が解除されたものとは認められない。
(5) 被控訴人は,控訴人がクールノットを1本1.11~1.24ドルで販売
したこと(乙27,28,38)が,本件共同出願契約14条1項に違反すること
から,平成30年10月15日付け準備書面(12)をもって,本件共同出願契約
を直ちに又は相当期間の経過をもって解除したとの主張を同準備書面により行っ
た。
しかし,本件においては,平成30年6月25日の第8回口頭弁論期日におい
て,「次回口頭弁論期日で侵害論の審理を終える予定なので,当事者双方はそれま
でに主張立証を尽くすこと」との訴訟指揮がされ,同年8月29日の第9回口頭弁
論期日において,同日までの双方の主張立証を踏まえて,「原判決別紙物件目録1
~6についての本件特許権侵害による損害賠償請求については,損害論の審理を行
う。香港への出願に関する債務不履行及び説明義務違反による損害賠償請求につい
ては,損害論の審理を行わない。」との訴訟指揮がされたのであるから,原審で提
出した乙号証に基づく上記解除の主張は,故意又は重大な過失により時機に後れて
提出したものであり,これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認められ
る。前記第2の4(10)ア(ウ)の被控訴人の主張を踏まえても,上記判断は左右され
ない。
したがって,上記解除の主張は,控訴人の申立てにより,これを却下することと
する(民訴法157条1項)。
3 争点(1)サ(「別段の定」違反の主張の可否)について
(1) 被控訴人は,控訴人は購入数量保証要求や法外な値上げ要求,不良品の混
入等の行為によって,被控訴人をして独自生産に切り替えざるを得ない事情を作出
したのであるから,そのような控訴人において被控訴人が「別段の定」に違反した
ことを主張することは,信義則に反し,許されないと主張する。
しかし,前記2(4)と同様に,被控訴人が主張する事実を踏まえても,控訴人に
おいて,被控訴人が「別段の定」に違反したことを主張することが,信義則に反し
許されないものとまでは認められない。また,控訴人の行為が被控訴人の債務不履
行を許容する意思表示であったということもできない。
(2) 被控訴人は,控訴人は,被控訴人による本件固定的役割分担合意違反を主
張する反面,他国市場においてはそのような合意など全く存在しないものとして靴
紐を販売し,更には日本市場においても,自らは上記合意を反故にして販売を開始
しているのであるから,被控訴人が「別段の定」に違反する旨を主張することは許
されないと主張する。
しかし,仮に,控訴人による日本市場における本件特許発明の実施品の販売が
「別段の定」に違反するのであれば,控訴人もまた「別段の定」に違反したことに
基づく不利益を受けるべき立場にあるとはいえるが,これにより,控訴人におい
て,被控訴人が「別段の定」に違反したことを主張することが許されないものとま
では認められない。また,控訴人が海外市場において結ばない靴紐の販売をしてい
るとしても,我が国の特許権の行使に係る「別段の定」に違反することはなく,こ
れを併せ考慮しても,上記判断は左右されない。
4 争点(1)シ(通常実施権の有無)について
以上のとおり,特許法73条2項の「別段の定」が存するから,被控訴人は,本
件発明1-1の技術的範囲に属する被告各商品を製造・販売し,もって本件特許権
1を侵害したものと認められる。
特許法79条の2第1項は,同法74条1項による請求に基づく特許権の移転の
登録の際に適用される規定であるから,本件に同法79条の2第1項が適用される
ことはない。
また,前記第2の2(4)アのとおり,被控訴人は,「別段の定」が記載された甲6
契約書に署名したのであるから,特許法79条の2第1項を類推適用する基礎も認
められない。したがって,同項が類推適用されることもない。
5 争点(1)ス(過失の有無)について
被控訴人は,同人が特許権者であること,被告各商品の日本への生産移管に当た
り,被控訴人が相談した弁護士,弁理士,中国弁理士は,いずれも本件共同出願契
約書13条後段の規定により特許が剥奪されるものであることを警告しなかったこ
と,同条前段では改良発明の取得について禁止しているから,同条後段が日本への
生産移管を禁止することは予見できなかったこと,控訴人からも同条後段違反の指
摘がなかったことなどを主張して,被控訴人には,特許権侵害に過失はない旨主張
する。
しかし,被控訴人は,甲6契約書に自ら署名したのであるから,その13条の内
容を知悉しているべき立場にあった上,同条は,事前の協議及び許可なく,「本件
の各権利(本件特許権)」の実施品の生産又は販売行為を行った場合には,「本件の
各権利」は剥奪されるという明解なものであって,これが特許法73条2項の「別
段の定」に当たることは明らかであるから,被控訴人には,本件製造会社に本件発
明1-1の実施品である被告各商品を製造させて被告各商品を独自に販売したこと
が,「別段の定」に違反し,本件特許権1を侵害することについて,少なくとも過
失があると認められる。
上記判断は,被控訴人が相談した弁護士,弁理士,中国弁理士から警告がなかっ
たことや,控訴人から指摘がなかったことにより,左右されるものではない。
なお,被控訴人の上記主張は,平成30年10月15日付け準備書面(12)で
されたものであるが,被控訴人は,それより前から過失を争う旨の主張をしていた
ことに照らし,時機に後れた攻撃防御方法(民訴法157条1項)として却下する
ことはしない。
6 争点(1)セ(無効の抗弁の成否)について
被控訴人は,本件発明1-1は,乙104に記載された発明と同一であるか,同
発明及び当業者の技術常識に基づき,容易に想到できるから,本件特許1の請求項
1は,特許無効審判により無効にされるべきものであるとの主張を平成30年10
月15日付け準備書面(13)により行った。
しかし,前記2(5)と同様の理由により,上記無効の抗弁は,故意又は重大な過
失により時機に後れて提出されたものであり,これにより訴訟の完結を遅延させる
こととなると認められる。前記第2の4(14)ア(イ)の被控訴人の主張を踏まえて
も,上記判断は左右されない。
したがって,上記無効の抗弁は,控訴人の申立てにより,これを却下することと
する(民訴法157条1項)。
7 争点(1)ソ(控訴人は特許権を有しない旨の主張の成否)について
被控訴人は,控訴人は,クールノットの販売により,平成28年10月23日以
降,本件特許権の持分が剥奪され,無権利者の状態にあり,また,B及びAも,遅
くとも平成28年10月23日をもって無権利者となったとの主張を,平成30年
10月15日付け準備書面(12)により行った。
しかし,前記2(5)と同様の理由により,上記の主張は,故意又は重大な過失に
より時機に後れて提出されたものであり,これにより訴訟の完結を遅延させること
となると認められる。前記第2の4(10)ア(ウ)の被控訴人の主張を踏まえても,上
記判断は左右されない。
したがって,上記主張は,控訴人の申立てにより,これを却下することとする
(民訴法157条1項)。
8 特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求についての小括
以上によると,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は
除く。)のうち,控訴人の共有持分権に係る部分は,理由がある。
他方,B及びAの共有持分権に係る部分については,前記第2の2(7)のとお
り,控訴人ら3者が,平成29年5月10日,B及びAが控訴人に対し,B及びA
が被控訴人に対して有する本件特許権1に基づく損害賠償請求権を譲渡する旨合意
したことが認められるものの,上記債権譲渡の効力が及ぶ範囲(将来債権を含む
か。)という問題があるので,B及びAの共有持分権に係る部分については,中間
判決では判断しないこととする。
9 争点(2)(香港での特許出願手続に係る債務不履行の成否)について
被控訴人は,甲15書面を本件特許事務所から受領していない旨主張するが,証
拠(甲20)によると,本件特許事務所は,平成26年2月12日,甲15書面と
同内容の書面に捺印したものを,被控訴人宛てに普通郵便で発送したことが認めら
れるから,上記書面は,同月13日頃,被控訴人に配達されたものと推認される。
しかし,甲6契約書12条1項は,「本件発明は,日本国内出願のほか,PCT
条約に基づく国際出願,パリ条約に基づく外国出願,及び台湾への出願を行う。」
と定め,同条2項は,「PCT条約に基づく国際出願の指定国,及びパリ条約に基
づく外国出願の出願国,本件発明の特許出願の分割出願,或いは特許法第41条に
定める規定,優先権主張する出願について,甲,乙,丙及び丁は協議の後,別途に
定める。」と定めているにとどまるから,同条は,PCT条約による国際出願を中
国に国内移行させることを規定しておらず,更に香港特許庁に対し記録請求手続を
行うことを規定しているものとはいえない。
そこで,本件4者間で香港への特許出願をすること(PCT条約による国際出願
を中国に国内移行させ,更に香港特許庁に対し記録請求手続を行うこと)が別途合
意されていたかどうかを検討すると,これを示す書証は提出されておらず,香港が
控訴人の営業拠点であることに加え,本件特許事務所が被控訴人に対し平成24年
9月10日付けで香港への記録請求手続の特許出願手数料等の見積書(甲87)を
発行し,上記のとおり,平成26年2月12日には被控訴人に対し香港への権利化
手続を希望するか否かを問い合わせる内容の甲15書面と同内容の書面に捺印した
ものを郵送したことを考慮しても,上記合意を認めるに足りない。
そうすると,香港での特許出願手続に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の原
因(数額の点は除く。)は,理由がない。
10 争点(3)(説明義務違反の不法行為の成否〔説明義務違反の有無〕)につい

控訴人は,仮に本件固定的役割分担合意が認められない場合,被控訴人には,信
義則上,そのような合意がないことを控訴人ら3者に説明する義務があったと主張
するが,本件全証拠によっても,控訴人主張の説明義務を認めるに足りる根拠は見
当たらない。
そうすると,説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は
除く。)は,理由がない。
11 争点(8)(反訴請求の可否)について
被控訴人は,控訴審において平成30年10月15日に反訴を提起したが,相手
方である控訴人は,反訴答弁書において,上記反訴の提起に同意しない(民訴法3
00条1項),反訴の提起は著しく訴訟手続を遅滞させると主張して,本案前の答
弁として反訴請求に係る訴えの却下を求めた。
上記反訴請求の内容に照らすと,上記反訴の提起について相手方である控訴人の
審級の利益を害さないものとは認められないから,相手方である控訴人の同意を不
要とすることはできない。また,前記2(5)と同様に,反訴の提起は著しく訴訟手
続を遅滞させるものである。
よって,被控訴人の上記反訴の提起は,不適法である。
第4 結論
以上によると,本訴請求のうち,①特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求
の原因(数額の点は除く。)の控訴人の共有持分権に係る部分は,理由があり,②
香港での特許出願手続に係る債務不履行に基づく損害賠償請求の原因(数額の点は
除く。)は,理由がなく,③説明義務違反の不法行為に基づく損害賠償請求の原因
(数額の点は除く。)は,理由がなく,他方,反訴請求に係る訴えは,不適法であ
るから,主文のとおり中間判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
森 岡 礼 子
裁判官
古 庄 研

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