知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成29(行ケ)10204 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成29(行ケ)10204審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 平成31年3月26日
事件種別 民事
当事者 被告
原告プーマエスイー
法令 商標権
商標法4条1項7号11回
商標法4条1項11号7回
商標法4条1項15号6回
キーワード 審決11回
無効4回
商標権3回
実施1回
無効審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 本件は,商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は, 商標法4条1項11号,15号,7号該当性の有無である。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 商標権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

平成31年3月26日判決言渡
平成29年(行ケ)第10204号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成30年12月17日
判 決
原 告 プ ー マ エ ス イ ー
同訴訟代理人弁理士 三 上 真 毅
被 告 Y
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30
日と定める。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2016-890012号事件について平成29年7月7日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。争点は,
商標法4条1項11号,15号,7号該当性の有無である。
1 本件商標
被告は,下記の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者である(甲1の1・
2)。
① 登録番号 第5392941号
② 出願日 平成20年4月12日
③ 登録査定日 平成23年1月11日
④ 登録日 平成23年2月25日
⑤ 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第25類 Tシャツ,帽子
2 特許庁における手続の経緯
原告は,平成28年2月25日,特許庁に対し,本件商標が商標法4条1項7号,
11号及び15号に該当するとして,その登録を無効にすることについて審判を請
求した(無効2016-890012号。以下「本件審判請求」という。。

特許庁は,平成29年7月7日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決
(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同月18日に原告に送達された。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 引用商標の著名性
ア 引用商標は,下記のとおりであり,現に有効に存続している。
① 登録番号 第3324304号
② 出願日 平成6年12月20日
③ 登録日 平成9年6月20日
④ 商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第25類 被服,ガーター,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物,
運動用特殊衣服,運動用特殊靴
イ 引用商標は,本件商標の登録出願時には,原告の業務に係るスポーツシ
ューズ,被服,バッグ等を表示する商標として,我が国の取引者,需要者の間に広
く認識されて周知・著名な商標となっており,それは,本件商標の登録査定時及び
それ以降も継続している。
(2) 商標法4条1項11号該当性
ア 本件商標と引用商標の対比
(ア) 外観
a 共通点
本件商標と引用商標は,アルファベットの文字「SHI-SA」と「PUmA」
が横書きで大きく表されている点,その右上方に,四足動物が右側から左上方へ向
けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いている様子が側面から見た姿でシル
エット風に描かれている点で共通する。
また,本件商標における「SHI-SA」の文字と引用商標における「PUmA」
の文字は,いずれも横長の長方形の枠内にはめ込まれたかのごとく太字で表記され,
個々の文字は縦長となっている点で共通する。
そして,両商標における動物の図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角
度,前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の
描き方について,似通った印象を与える。
b 差異点
本件商標において大きく表示された文字は,
「SHI-SA」であり,引用商標に
おいて大きく表示された文字は,「PUmA」であって,アルファベットの文字数,
末尾の「A」を除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標
においては「SHI」と「SA」の間にハイフン(-)が表記されている点で異な
っている。
そして,両商標における動物の図形については,本件商標の動物図形の方が引用
商標の動物の図形に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標の動物
図形においては,全体に花柄のような模様及び白い輪郭線,口の辺りに歯のような
もの,首飾りのような模様,前足と後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模
様,並びに尻尾は全体として丸みを帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き
毛のような模様が描かれている。
これに対し,引用商標の動物の図形には,模様及び白い輪郭線のようなものは描
かれず,全体的に黒いシルエットとして塗りつぶされているほか,尻尾は全体に細
く,右上方に高くしなるように伸び,その先端だけが若干丸みを帯びた形状となっ
ている。
c 小括
このように,本件商標と引用商標とは,
「SHI-SA」又は「PUmA」の文字
と動物の図形との組合せによる全体的な構成は共通しているものの,両商標の違い
は,明瞭に看て取れるものである。
(イ) 観念
本件商標からは沖縄にみられる獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用商
標からはネコ科の哺乳類「ピューマ」又は「PUmAのブランド」としての観念が
生じるから,両商標は,観念を異にする。
(ウ) 称呼
本件商標は,
「シーサ」又は「シーサー」の称呼が生じ,引用商標は,
「ピューマ」
又は「プーマ」の称呼が生じるから,両商標は,称呼を異にする。
イ まとめ
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観,観念及び称呼において異なるも
のであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたとしても,商
品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえないから,本件商標は,引
用商標に類似するものではなく,商標法4条1項11号に該当しない。
(3) 商標法4条1項15号該当性
前記(2)のとおり,本件商標と引用商標とは,非類似の商標であって,別異のもの
というべきであり,引用商標は,原告の業務に係るスポーツシューズ,被服等の商
品を表示するものとして周知・著名かつ独創的であり,本件商標の指定商品と原告
の業務に係る商品とは,その性質・用途・目的において関連し,商品の取引者及び
需要者が相当程度共通するとしても,本件商標は,これを本件商標の商標権者がそ
の指定商品に使用しても,取引者,需要者に,原告の業務に係る引用商標を連想又
は想起させることはなく,その商品が,原告あるいは同人と経済的又は組織的に何
らかの関係を有する者の業務に係る商品であるかのように,商品の出所について混
同を生ずるおそれはないものというべきである
したがって,本件商標は,その登録出願時及び登録査定時において,商標法4条
1項15号にいう「混同を生ずるおそれ」があったとはいえず,同号に該当しない。
(4) 商標法4条1項7号該当性
ア 本件商標は,その構成自体が非道徳的,卑わい,差別的,矯激若しくは
他人に不快な印象を与えるような文字又は図形でない。
イ 本件商標が,他の法律によって,その使用等が禁止されている事実,そ
の指定商品について使用することが社会公共の利益に反し,社会の一般的道徳観念
に反するものとすべき事情,及び特定の国若しくはその国民を侮辱し又は一般に国
際信義に反するものとすべき事情は見当たらない。
ウ 本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登
録を認めることが商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないもの
とすべき具体的事情は見当たらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当
性を欠くものがあり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見当たら
ない。
エ したがって,本件商標は,
「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあ
る商標」に該当するものということができず,その登録がされた後においても該当
するものということもできないから,商標法4条1項7号に該当しない。
第3 原告主張の審決取消事由
1 商標法4条1項11号該当性
(1)ア 引用商標は,我が国の取引者,需要者の間に広く認識されて周知著名と
なっていたのみならず,世界中で周知著名となっていたものであり,そのことは当
然に,本件商標に接する需要者の印象,記憶,連想等に強く影響を与える。また,
「Tシャツ,帽子」という指定商品の性質上,その需要者(一般消費者)は,商品
に付された商標の一見した印象によって商品の出所を識別することが多い。さらに,
被服類を購入しようとする需要者は,デザイン性,ファッション性に重きを置いて
商品選択をする場合が多く,デザイン性の高い図形及び文字標章の組合せからなる
結合商標においては,図形部分がデザイン性,ファッション性を有している場合は,
需要者はまずマーク,図形に着目して商品識別をすることになるところ,このよう
な結合商標に関しては,図形において外観類似が認められる以上,文字部分の相違
は全体としての商標の類似性に大きく影響を与えないと考えるべきである。そのた
め,本件商標と引用商標の類否判断に当たっても,文字部分の相違は本件商標と引
用商標との類似性に大きく影響を与えない。
このように,引用商標の周知著名性や需要者の注意力等に関する取引の実情を考
慮すると,本件審決で指摘されたような相違点は,両商標の共通点に比して看者の
目に留まりにくく,両商標の共通点に影響を与えないものであるといえる。むしろ,
本件商標がその指定商品である「Tシャツ,帽子」に使用された場合,これに接し
た需要者等は,大きく表された欧文字及び四つ足動物の図形又はその組合せに着目
して,引用商標及びこれを使用する特定の出所を想起し,その出所について混同を
生じるおそれがある。
イ 本件商標は,引用商標と同様に商品(被服)のワンポイントマーク等と
して表示されることが多いため,本件商標に接した需要者が上記の若干の相違点に
気付かず,著名な商標である引用商標を連想する蓋然性は否定できないから,商品
の出所につき誤認混同を生ずるおそれがある。
ウ 原告が実施した下記の標章(以下「調査対象商標」という。)の消費者調
査(甲22,23,69。以下「本件調査」という。)の結果は,37.6%の回答
者が,調査対象商標から「プーマ」「PUMA」又は「puma」を想起したこと,

すなわち,調査対象商標が原告を示すものと誤認混同していることを示し,それ以
外にも複数名が調査対象商標が原告を示すものと誤認混同していることを示してい
る。
調査対象商標は,本件商標を構成する要素のうち,右側から欧文字部分に向かっ
て飛びかかるように左方向を向いた四つ足動物を側面からシルエット風に描き,そ
の内部に花柄と思しき図柄を配置した図形と同一の図形であるから,このような調
査対象商標を図形の構成要素とする本件商標に接した一般消費者は,調査対象商標
と同様,その多数が原告又は引用商標を含む原告の商標を想起すると考えるのが合
理的である。また,本件調査の対象者は,時間をかけて,画面上に大きく表示され
た調査対象商標を確認したが,本件商標を付した商品は主としてTシャツ等の被服
であり,その購入者たる一般消費者はそれほど時間をかけて確認せずに購入するこ
とが通常であるから,本件調査対象者以上に上記混同が生じやすいといえる。本件
調査結果からいっても,引用商標との関係で,本件商標を使用する商品等に係る出
所について混同のおそれが認められる。
(2)ア 被告は,取引の実情として,沖縄県内の店舗及びインターネットにおい
て,沖縄の観光土産品として,本件商標が付されたTシャツ等を観光客向けに販売
している。
「シーサー」は,沖縄を代表するシンボルとして広く認識されるに至っており,
沖縄以外で「シーサー」を目にすることはない。そうすると,沖縄県内の店舗及び
インターネットにおいて,沖縄の観光土産品として本件商標を付された観光客向け
Tシャツ等を目にした通常の注意力を有する需要者・取引者は,本件商標構成中の
文字部分「SHI-SA」「OKINAWAN
, ORIGINAL GUARDI
AN SHISHI-DOG」(日本語で,沖縄由来の魔除け獅子犬の意。)から,
直ちに沖縄の観光のシンボル「シーサー」を想起することが容易に推測される。し
たがって,沖縄土産品に描かれた「シーサー」を想起させる文字や図形は,当該商
品が沖縄由来であることを需要者に印象づける機能を有するにすぎず,沖縄土産品
との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得ない。
そうすると,複数の構成部分を組み合わせた結合商標といえる本件商標において
は,本件商標構成中の文字部分からは出所識別標識として称呼,観念は生じないも
のと認められてしかるべきである。
イ 引用商標中のPUMA図形と本件商標の要部(動物図形)を対比すると,
本件商標の動物図形はPUMA図形に首飾りのような模様,前足・後足の関節部分
における飾り又は巻き毛のような模様,尻尾が全体的に丸みを帯びて先端が尖った
形状等を結合したものと看取されることから, 指定商品について需要者の間に広く

認識された他人の登録商標と他の図形等を結合した商標は,その外観構成がまとま
りよく一体に表されているものを含め,原則として,その他人の登録商標と類似す
るものとする。」旨の著名商標に係る商標審査基準の規定(以下「審査基準の本件規
定」という。)に照らしても,両商標は,類似と判断されるべきである。
2 商標法4条1項15号該当性
(1)ア 本件商標と引用商標が類似することは,前記1のとおりである。
イ 結合商標に関しては,図形において外観類似が認められる以上,文字部
分の相違は全体としての商標の類似性に大きく影響を与えないと考えるべきである
から,類似性の程度を一要素とする「混同を生ずるおそれ」の有無の判断に当たっ
ても,文字部分は大きな影響を与えないと考えるべきである。
ウ 調査対象商標は,本件商標を構成する要素のうち,右側から欧文字部分
に向かって飛びかかるように左方向を向いた四つ足動物を側面からシルエット風に
描き,その内部に花柄と思しき図柄を配置した図形と同一の図形であるから,この
ような調査対象商標を図形の構成要素とする本件商標に接した一般消費者は,調査
対象商標と同様,その多数が原告又は引用商標を含む原告の商標を想起すると考え
るのが合理的である。
また,本件調査の対象者は,時間をかけて,画面上に大きく表示された調査対象
商標を確認したが,本件商標を付した商品は主としてTシャツ等の被服であり,そ
の購入者たる一般消費者はそれほど時間をかけて確認せずに購入することが通常で
あるから,本件調査対象者以上に上記混同が生じやすいといえる。本件調査結果か
ら,引用商標との関係で,本件商標を使用する商品等に係る出所について混同のお
それが認められる。
(2)ア 商標の効力は全国に及ぶ以上,限定された地域における僅かな使用であ
ることをもって,商標法4条1項15号の適用を免れるものではない。
イ 被告は,PUMA図形を意図したことを覆い隠すために「SHI-SA」
の文字等を併記したのであり,著名商標のフリーライドである。
ウ 本件商標の動物図形は引用商標中のPUMA図形に首飾りのような模様,
前足・後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,尻尾が全体的に丸み
を帯びて先端が尖った形状等を結合したものと看取されることから,審査基準の本
件規定に照らしても,「混同を生ずるおそれ」が認められるべきである。
エ 本件商標の要部(動物図形)と同一の調査対象商標を見た4割以上の一
般需要者が,PUMA又はこれと類似すると認識しており,他のどの回答よりも圧
倒的に多いこと(甲22,23,69)からすると,称呼及び観念における両商標
の関連性は高い。
本件商標と引用商標とは, 「SHI-SA」又は「PUmA」の文字と動物の図

形との組合せによる全体的な構成は共通している」のであるから,その基本的構成
は,引用商標と比較的類似性の高いものといえる。
外観,称呼及び観念の差異点は,本件商標の文字部分にのみ起因するところ,当
該文字部分は沖縄土産品との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得
ないことから,本件商標の全体構成において,差異点が格別の出所識別機能を発揮
するといえるものでないことは,上記調査結果から明らかである。
また,引用商標は,周知・著名な商標であるだけではなく,独創的であり,需要
者に強い印象を与えるものである。
さらに,引用商標は,スポーツ用品関連商品やアパレル等にワンポイントマーク
として付されていることが多い。本件商標が使用される商品であるTシャツ,帽子
といったスポーツ用品関連商品やアパレル等の商品の主たる需要者は,商標やブラ
ンドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者を含み,商品の
購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないこと等の実情や,独創
的な引用商標が我が国において高い周知著名性を有していること等を考慮すると,
本件商標が,指定商品に使用された場合には,これに接した需要者(一般消費者)
は,それが引用商標と基本的構成が類似する図形であることに着目し,本件商標に
おける細部の形状等の差異に気付かないおそれがあることから,本件商標をその指
定商品に使用した場合には,これに接する取引者,需要者は,著名商標である引用
商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は
同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商
品であると誤信するおそれがある。
3 商標法4条1項7号該当性
(1)ア 本件商標は,実際には,次のとおりの態様で使用されている。
(ア) 被告は,被告が経営する観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総
合貿易を通じて,次の使用例1~3の各標章を付した半袖Tシャツ,使用例4の標
章を付したタオル,使用例5の標章を付したトランクスを販売している。
(使用例1)
(使用例2)
(使用例3)
(使用例4)
(使用例5)
(イ) 使用例1の標章は,本件商標を引用商標の外観に近づける形に変容さ
れており,一見して原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるものである。
使用例1の標章は,引用商標とは,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたよ
うな欧文字,当該欧文字の右肩上方に配した右側から当該文字部分に向かって跳び
かかるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形,欧文字の右側かつ四つ
足動物の図形の足下に配した円内にアルファベットを記した図形から構成されると
いう点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有している。使
用例1の標章と引用商標とは,主に,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたよ
うな欧文字が使用例1の標章においては「SHI-SA」であるのに対し,引用商
標では「PUmA」である点,使用例1の標章では「SHI-SA」の欧文字及び
四つ足動物の図形に図柄が配されている点,欧文字の右側かつ四つ足動物の図形の
足下に配した円内のアルファベットが引用商標は「R」であるのに対し使用例1の
標章は「C」である点において異なるが,このような相違点は上記のような構成態
様の共通点に比べて看者に強い印象を与えるものではない。
(ウ) 使用例2の標章は,本件商標を引用商標の外観に近づける形に変容さ
れており,一見して原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるものである。
使用例2の標章は,引用商標とは,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたよ
うな欧文字,当該欧文字の右肩上方に配した右側から当該文字部分に向かって跳び
かかるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形,欧文字の右側かつ四つ
足動物の図形の足下に配した円内にアルファベットを記した図形から構成されると
いう点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有している。使
用例2の標章と引用商標とは,主に,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたよ
うな欧文字が使用例2の標章においては「SHI-SA」であるのに対し,引用商
標では「PUmA」である点,使用例2の標章では「SHI-SA」の欧文字及び
四つ足動物の図形に図柄が配されている点,使用例2の標章では「SHI-SA」
の欧文字の上部に「JUMPING」の欧文字が相対的に小さな文字で配されてい
る点において異なるが,このような相違点は上記のような構成態様の共通点に比べ
て看者に強い印象を与えるものではない。
(エ) 使用例3の標章も,本件商標を引用商標の外観に近づける形に変容さ
れている。
使用例3の標章は,引用商標と,横長の長方形の枠の中一杯にはめ込まれたよう
な欧文字,当該欧文字の右肩上方に配した右側から当該文字部分に向かって跳びか
かるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形,欧文字の右側かつ四つ足
動物の図形の足下に配した円内にアルファベットを記した図形から構成されるとい
う点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有している。また,
使用例3の標章には,「SHI-SA」の欧文字の左上部に配した黄色の斜め十字,
緑色の当該斜め十字の上下部分及び黒色の当該斜め十字の左右部分から構成された
ジャマイカの国旗のデザインからなる図形をはじめ,
「SHI-SA」の欧文字及び
四つ足動物の図形にもジャマイカの国旗と思しき色彩並びに図柄が使用されており,
使用例3の標章を付した製品は,被告が経営する有限会社沖縄総合貿易のオンライ
ンショップにおいて「ジャンピングシーサーTシャツ 子供用 ジャマイカ柄」と
いう商品名で販売されているところ(甲11) 使用例3の標章はジャマイカをモチ

ーフにしたものであることが明らかである。原告は,ジャマイカ出身の世界的に著
名な陸上競技短距離選手であるウサイン・ボルト選手と,平成15年以来スポンサ
ー契約を締結しており,同選手の着用スパイクや着用ユニフォームには全て原告の
商品が使用されている(甲12の1~4)。とりわけ,ウサイン・ボルト選手の着用
スポーツウェアの多くには,ジャマイカの国旗に使用されている黄色,緑色及び黒
色を使用した,一見してジャマイカを想起させるデザインが使用されており,その
うち同選手が公式試合の際に着用するユニフォームであるタンクトップには,その
胸元中央に「JAMAICA」の欧文字が付され,当該欧文字の左上部に黄色の斜
め十字,緑色の当該斜め十字の上下部分及び黒色の当該斜め十字の左右部分から構
成されたジャマイカの国旗のデザインからなる図形が配され,右上部には引用商標
のうちプーマの図形が配されている(甲12の1・2)。このように,原告の商品及
び引用商標は,ウサイン・ボルト選手とのスポンサー契約を通じて,ジャマイカ及
び同国の国旗のデザインと長期に亘って強い関連性を有している。これに対し,被
告やその商品,被告が関係する観光土産品等の販売等を行う有限会社沖縄総合貿易
については,いずれも,ジャマイカとの関連性を見いだすことができない。
被告は,本件商標を引用商標の外観に近づける形に変容させた上,被告とは無関
係であるジャマイカをモチーフにしたデザインを加えて使用例3の標章としている
のであって,この使用例3の標章のみを見ても,被告が本件商標を登録することに
よって,世界的に著名な商標である引用商標が持つ顧客吸引力にただ乗りする目的
を有していることは明らかである。
(オ) 使用例4及び5の各標章は,本件商標を引用商標の外観に近づける形
に変容されており,一見して原告の著名な登録商標である引用商標を想起させるも
のである。使用例4及び5の各標章は,引用商標と,横長の長方形の枠の中一杯に
はめ込まれたような欧文字及び当該欧文字の右肩上方に配した右側から当該文字部
分に向かって跳びかかるかのように左方向を向いた四つ足動物を描いた図形から構
成されるという点において,その構成態様が共通し,非常に紛らわしい外観を有し
ている。使用例4及び5の各標章と引用商標とは,主に,横長の長方形の枠の中一
杯にはめ込まれたような欧文字が使用例4及び5の各標章においては「SHI-S
A」であるのに対し,引用商標では「PUmA」である点,引用商標では「PUm
A」の欧文字の右側かつプーマの図形の足下に配した円内にアルファベットの「R」
を記した図形が付されている点において異なるが,このような相違点は上記のよう
な構成態様の共通点に比べて看者に強い印象を与えるものではない。
なお,使用例4の標章が付されたタオルのデザイン及び使用例5の標章が付され
たトランクスのデザインは,引用商標を付した複数の原告のタオル及びショートパ
ンツのデザインと極めて類似している(甲13の1・2)。
イ 本件商標の指定商品が「Tシャツ,帽子」等の衣料品であり,被告が経
営する有限会社沖縄総合貿易は衣料品を取り扱う小売業者であることに鑑みると,
被告は,本件商標を出願した当時,衣料品関連の事情に精通していたことは明らか
である。被告は,本件商標の出願当時の平成23年,原告の引用商標の著名性を知
り,あるいは容易に知り得た。そして,引用商標の中央下寄りにある,横長の長方
形の枠の中一杯にはめ込まれたような特異な「PUmA」のロゴ(各文字は,縦線
を太く,横線を細く,かつ,角部分に丸みを持たせた縦長の書体で表されている。)
からなる欧文字と,その右方の跳躍する動物のシルエットの図形との組合せ及び配
置は,原告の商標以外の商標においてみられるものではないことから,引用商標は
極めて独創的なものといえる。そのため,一見して引用商標の独創的な構成態様を
想起させる本件商標及びそれを変容させた使用例1~5の各標章が,引用商標と無
関係に採択されたとは考えることができない。
また,
「SHI-SA」とは,
「シーサ」
「シ・サ」
「シサ」等と読め,
「SHI-S
A」のデザイン文字の下部に配された,沖縄を意味すると推察される「OKINA
WA」の文字と相まって,沖縄の獅子像であるシーサーを意味すると解されるとこ
ろ,このシーサーとは,一般に「沖縄で,屋根瓦などにとりつける素朴な焼物の唐
獅子像」
(甲14)をいい,巨大な頭部に,大きな目や開いた口が配され,全体に胴
体が短く太いずんぐりとした体型をした,鎮座する守り神として描かれるのが通常
であって,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多く(甲
15),一般人は,このような特徴をもってシーサーとして認識している。本件商標
及びそれを変容させた使用例1~5の各標章におけるシーサーの図形では,上記の
ようなシーサーの本来的特徴はほとんど看取されず,引用商標における「俊敏に獲
物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」を表現したプーマの図形の特徴が
多く看取されるのであって,引用商標に近づけるためにあえてシーサー本来の特徴
から逸脱した描き方が用いられている。
被告は,意図的に著名な引用商標の特徴を一見して分かる程度に残したまま外観
を変え,本件商標及びそれを変容させた使用例1~5の各標章に接する需要者に引
用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわゆる
フリーライド)する不正な目的で本件商標及びそれを変容させた使用例1~5の各
標章を採択したものである。
ウ 本件商標は,被告の不正な目的により,使用例1~5の各標章のように,
引用商標を強く想起させる態様で使用されているところ,使用例1~5の各標章を
はじめとする本件商標類似の標章に接した需要者が,原告の引用商標を直ちに想起
していることは明らかであり,需要者は,原告の著名商標である引用商標の持つ顧
客吸引力がなければ,被告の商品を購入しなかったものと認められる。
エ 以上のとおり,本件商標は,引用商標がスポーツシューズ,被服,バッ
グ等に長年使用され,日本のみならず世界的にも著名な商標であることを承知の上
で,原告の承諾もなく,引用商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,
不当な利益を得る等の不正な目的のもとに,出願し,登録を受けたものであって,
登録出願の経緯に社会的相当性を欠くというべきである。また,本件商標の使用に
より,引用商標の出所表示機能が希釈化され,引用商標に化体した高い名声と信用,
顧客吸引力等を毀損させるおそれがあることから,このような被告の行為は商道徳
に反するのみならず,我が国の国際的な信頼をも損なうおそれがあるというべきで
あり,ひいては国際信義に反するものとして公序良俗を害する行為といわざるを得
ないものでもある。
オ 著名な商標に化体した信用・名声及び顧客吸引力に便乗し,不当な利益
を得る等の不正な目的で登録された,いわゆるパロディ商標については,私的利害
関係を超えて,公正な競争を図り,取引秩序を維持することを目的とする競争秩序
を維持する側面を有する商標法上の公序が問題になり得ることから,このようなパ
ロディ商標には厳格な態度をもって臨むべきとするのが今や国際標準であるところ,
このような国際標準に逆行して,本件商標のような世界的に著名な商標に便乗すべ
く登録されたパロディ商標の使用を認めることは,我が国の国際的な信頼をも損な
いかねないものである。
カ 本件調査結果は,本件商標のうち調査対象商標の図形のみでも原告を示
すものとの誤認混同を生じさせることを示すものであるから,本件商標から欧文字
の二段構成からなるデザイン文字を取り除き,調査対象商標の図形のサイズを拡大
し,より同図形に着目させる態様が用いられている使用例1及び2の各標章につい
て,被告が,意図的に著名な引用商標の特徴を一見して分かる程度に残したまま外
観を変え,本件商標及びそれを変容させた使用例1及び2の各標章に接する需要者
に引用商標を連想・想起させ,著名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗り(いわ
ゆるフリーライド)する不正な目的で本件商標を変容させた事実の存在を一層裏付
けるものである。使用例4及び5の各標章についても同様である。
キ したがって,本件商標は,商標法4条1項7号に違反して登録されたも
のである。
(2)ア 被告が沖縄県知的所有権センターの特許情報活用支援アドバイザーから
商標出願手続の手順を学んだとしても,そのことは,本件商標が不正の目的なく,
制作,出願されたことを裏付けるものではない。
被告は,本件商標の制作前から原告の著名商標を知り,本件商標制作の際に引用
商標に依拠し,PUMA図形を意図したことを覆い隠すために「SHI-SA」の
文字等を併記したのであり,著名商標のフリーライドである。
イ 商標の効力は全国に及ぶ以上,限定された地域における僅かな使用であ
ることをもって,商標法4条1項7号の適用を免れるものではない。
ウ 原告は,「パロディ」が商標法の法概念か否かを争っているのではなく,
「パロディ商標」である本件商標が登録される行政処分によって,原告の著名商標
に化体した業務上の信用・名声・顧客吸引力が毀損され得る状況が作出されること
の是非を問題にしている。
本件商標に係る指定商品(Tシャツ,帽子)をはじめ,アパレルを取り扱う業界
(ファッション業界)においては,高級ブランドのロゴや特有の柄等をもじって使
い,カジュアルに遊んだファッション(パロディ・ファッション)が存在するとこ
ろ,原告の引用商標は,パロディ・ファッションによる被害を被っており,一般消
費者は,本件商標に関連する被告のTシャツをPUMAパロディと認識している。
そして,パロディ商品は,模倣品被害パターンの一つと捉えられ,アパレル業界は,
模倣業者のターゲットになりやすいとの問題意識が高まっている状況,被告及び被
告が代表を務める法人は,長年,本件商標に係る指定商品を取り扱う事業に携わっ
ていることも総合的に勘案すると,被告自らの言動等から不正の目的をもって本件
商標を出願したことを示す客観的事実が具体的に見当たらないことを根拠に,本件

商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものがあったとか,登録を認めること
が商標法の予定する秩序に反するものとして到底容認し得ないものとすべき具体的
事情は見当たらず,かつ,本件商標の登録出願の経緯に社会的相当性を欠くものが
あり,商標法の予定する秩序に反するものとすべき事情も見当たらない」と判断す
ることは,著名商標のパロディを助長することにつながりかねない。
本件は,被告自らが,世界的に著名な「プーマ」等の動物をモチーフにしたデザ
インを参考にして本件商標と色違い商標を制作したこと,できあがったデザインが
「プーマ風なデザイン」であること,デザイン(ロゴ)だけでは「シーサー」を表現
していると誰も気付かないことを認めており,PUMA図形を意図したことを覆い
隠すために本件商標の動物図形の左下に「SHI-SA」の文字等を配置した狙い
がうかがえる。
ある商標が周知 著名商標にフリーライドしたものであると需要者が容易に連想,

想起したものの,商標の外観や称呼,観念,販売地域,流通経路,販売価格,取扱
商品等の相違も相まって,需要者が両商標を区別できた場合,混同のおそれも生じ
難く,両商標が非類似であれば,著名商標の私益保護のための特別規定のいずれに
も該当しないため,当該商標は適法に登録されてしまう。
混同を生じないだけの理由でフリーライドマークの登録をフリーハンドで許して
しまうと,本件のようなパロディ商標の制作や使用を商標法が後押しすることにつ
ながり,他人の信用に便乗する社会を助長することになりかねない。そのような場
合においてこそ,著名商標に対する公益的保護の必要性がある。
フリーライドマークの使用をする者よりも,周知・著名商標の使用をする者を優
先して保護すべきことは,法目的が求めるところであり,周知・著名商標が付され
た真正商品よりも,フリーライドマークが付された商品を手にする利益を需要者に
認めるべき社会的要請は存在しない。
著名商標は,特定の事業者の出所を表す標識としての価値を有するだけでなく,
その名声・信用・顧客吸引力がもたらす社会的影響によって,わが国の産業政策や
公共の利益にも影響を及ぼすため,公益的観点から,保護の要請が認められるべき
である。
パロディの名の下に許されるのは,商標自体の混同は格別,出所の混同を生ずる
おそれがなく,著名商標の識別力又は信用価値の毀損が認められない場合に限るべ
きである。
経済秩序・競争秩序・取引秩序といった公益は,個々の企業の私益の集合体とし
ての側面を有している場合も多い。商標パロディは,一般に,商標保有者の意に反
して行われるところ,同様に,商標保有者の意に反して商標が使用される比較広告
においては,需要者に対して比較を通じた啓蒙的な情報が提供され,市場の透明性
を促進することで,需要者は適切に購買意思を決定することができ,このことは自
由競争秩序の根幹であるが,商標パロディで,これに接する者がその口元を緩める
ことをもって比較広告における需要者の利益に匹敵するとは思えない。
本件商標の使用ができなくなったからといって,被告の商標選択の余地が著しく
狭くなることはない。このため,被告が自らの内面的意思(不正の目的)を明らか
にせず,原告がそれを立証し難い場合でも,原告が提出した証拠資料から確認でき
る需要者の認識や指定商品に係る業界の実情からフリーライドしたものであること
が推測できる場合においては,本件商標の登録が阻止,排除されることで被告が被
る不利益と著名商標保護の公益的要請とを比較衡量し,社会通念上,不正の目的に
より創作されたものと捉え,これを覆す反証がされない限り,商標法4条1項7号
の適用は認められるものと解すべきである。
第4 被告の主張
1 商標法4条1項11号該当性について
(1) 商標法4条1項11号該当性に係る本件審決の判断は正当である。
(2) 引用商標が世界的著名商標であるとの主張により,非類似と認定された他
人の商標を自身の商標の傘に含ませることは,商標権の濫用に通じる。
2 商標法4条1項15号該当性について
商標法4条1項15号該当性に係る本件審決の判断は正当である。
3 商標法4条1項7号該当性について
(1) 本件商標は,商標法4条1項7号に該当するものではない。
被告は,本件商標の出願に当たり,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の
観念を生じさせようと必死の努力をして本件商標を独創した。
被告は,平成15年頃,那覇商工会議所に紹介された沖縄県知的所有権センター
に通って学び,特許情報活用支援アドバイザーの指導の下,平成16年5月31日,
初めて別件の商標登録出願をし,その後も商標について勉強を続け,平成17年6
月21日に本件商標登録を出願した。
被告は,引用商標の顧客吸引力にただ乗りしたり,その名声を毀損するなどの不
正の目的をもって出願したものではない。
(2) 引用商標とは非類似で,極めて限定された沖縄県内での小規模零細の土産
品に付された本件商標の使用が,原告の主張する「世界的著名商標」である引用商
標に化体された名声・信用・顧客吸引力を毀損できるのか極めて疑問である。
(3) 「パロディ商標」という概念は,商標法の定める法概念ではない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(商標法4条1項11号該当性)について
(1) 本件商標の内容
ア 外観
本件商標は,上下方向の概ね中央にアルファベットの文字からなる「SHI‐S
A」の文字列が大きく横書きで記されているところ,これが本件商標の最も大きな
構成部分であり,そのうち,
「S」は,曲線ではなく,上下方向及び左右方向の直線
を外側のみ丸みを帯びた直角の屈曲部でつなげることにより記されており,A」
「 は,
逆V字型ではなく,上下方向及び左右方向の直線を外側のみ丸みを帯びた直角の屈
曲部でつなげた逆U字型の図形の上下方向中央よりやや下の上下方向の直線に挟ま
れた位置に左右方向の直線を配することにより記されており,
「H」は,上下方向及
び左右方向の直線,「I」は上下方向の直線,「‐」は横方向の直線により記されて
おり,また,「H」「I」の上下端の横線が省略されており,
, 「‐」が短く,各文字
の間隔が詰まっていることから,文字列全体が横長の長方形にはめ込まれたかのよ
うな印象を看者に与えるものである。
また,
「SHI‐SA」の右端の「A」の右側の「A」の下端に近い位置には,
「©」
と記載されている。
さらに,本件商標は,上記文字列「SHI‐SA」の右方に,右下から左上に向
かって,やや頭部が大きく,一部が丸まった大きな尻尾を有する四足動物が跳び上
がるように,前足と後足を前後に大きく開いている様子を側面から見た姿でシルエ
ット風に描いた図形が配されている。この図形の内側には,概ね輪郭線に沿って,
白い線が配されているほか,口の回りに歯のようなものが白い線で描かれ,首の周
りに飾りのようなギザギザの模様,前足と後足の関節部分や尻尾にも飾り又は巻き
毛のような模様が,白い線で描かれている。また,この図形の内側には,これらの
白い線よりも細い白い線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。
そして,本件商標は,上記文字列「SHI‐SA」の下方に,それぞれアルファ
ベットの赤色の文字からなる「OKInAWAn ORIgInAL」と「gUA
RDIAn ShIShI-DOg」の文字が,上記文字列「SHI‐SA」より
小さい文字で上下に二段書きされているものである。これらの二段書きの文字列の
字体は,上記文字列「SHI‐SA」の字体とは異なり,上下方向及び左右方向の
直線だけではなく,斜めの線も用いて記されているが,曲線部分において太さが減
じられていたり,各文字の上下端の一部において,隣の文字を含む近隣の上下方向
の直線を繋ぐように細い横線が記されている結果,リボンをひねって文字を形成し
たかのような印象を看者に与えるものである。
このように,本件商標は,
「SHI‐SA」の文字列部分,
「©」の部分,跳躍する
動物のシルエットの図形部分,
「OKInAWAn ORIgInAL」及び「gU
ARDIAn ShIShI-DOg」の文字列部分とが結合されているものであ
る。
イ 観念
本件商標の動物図形部分からは直ちに特定の動物を想起し得るものではないが,
上記動物図形部分の左方に配された「SHI‐SA」の文字列部分は「シーサ」,
「シ・
サ」「シサ」と呼称し得るものであり,また,上記文字列部分「SHI‐SA」の

下方に配された「OKInAWAn ORIgInAL」の文字列部分からは「沖
縄のオリジナル」の意味を,同様に下方に配された「gUARDIAn ShIS
hI-DOg」の文字列部分からは「保護者」「獅子犬」の意味をそれぞれ読み取

ることができ,かつ「OKInAWAn ORIgInAL」と「gUARDIA
n ShIShI-DOg」の文字列は前記アのとおり二段書きされたひとまとま
りのものである。これらのことに,上記動物図形部分の形状も考え合わせると,上
記動物図形部分は,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」
(甲14,36)が跳
躍する様子を側面から見たものと理解することができる。
したがって,本件商標からは,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念
が生じると認められる。
ウ 称呼
本件商標には,その中央に「SHI‐SA」の文字列部分が,その下方に「OK
InAWAn ORIgInAL」及び「gUARDIAn ShIShI-DO
g」の文字列部分が,それぞれ配されていることからすると,本件商標からは「シ
ーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」「シ・サオキナワンオリジナ

ルガーディアンシシドッグ」 シサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」


等の称呼が生じ得る。
また,前記イのとおり,本件商標からは沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」
の観念が生じることからすると,本件商標からは「シーサー」又は「シーサ」の称
呼が生じる。
エ 原告の主張について
原告は,沖縄土産品に描かれた「シーサー」を想起させる文字や図形は,当該商
品が沖縄由来であることを需要者に印象づける機能を有するにすぎず,沖縄土産品
との関係において特定の者の自他商品識別機能を発揮し得ないから,複数の構成部
分を組み合わせた結合商標といえる本件商標においては,本件商標構成中の文字部
分からは出所識別標識として称呼,観念を生じない旨主張する。
しかし,前記アのとおり,本件商標の「SHI‐SA」の文字列部分は,大きく,
本件商標の面積の大きな部分を占めており,その下方の「OKInAWAn OR
IgInAL」 「gUARDIAn
及び ShIShI-DOg」の文字列部分も,
赤色の印象的な書体で,強調して記されており,その占める面積も小さいものとは
いえず,これらの文字部分を併せた面積は,動物図形の面積より,相当大きい。そ
して,本件商標の指定商品は,「Tシャツ,帽子」であり,「沖縄土産品」に限定さ
れているわけではない。
したがって,本件商標構成中の文字部分から称呼,観念を生じないと解すること
はできず,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 引用商標の内容
ア 外観
引用商標は,下部にアルファベットの文字からなる「PUmA」の文字列が大き
く横書きで記されているところ,これが引用商標の最も大きな構成部分であり,そ
のうち,
「P」「U」及び「m」は,上下方向及び左右方向の直線を内側及び外側の

多くが丸みを帯びた直角の屈曲部でつなげることにより記されており,
「A」は,逆
V字型ではなく,上下方向及び左右方向の直線を内側及び外側の多くが丸みを帯び
た直角の屈曲部でつなげた逆U字型の図形の上下方向中央よりやや下の上下方向の
直線に挟まれた位置に左右方向の直線を配することにより,記されており,また,
各文字の上下端の直線である横線が省略されており,上下方向の直線が左右方向の
直線よりも太く,各文字の間隔が詰まっていることから,文字列全体が横長の長方
形にはめ込まれたかのような印象を看者に与えるものである。
また,
「PUmA」の右端の「A」の右側の「A」の下端に近い位置には,
「®」と
記載されている。
さらに,本件商標は,上記文字列「PUmA」の右方に,右下から左上に向かっ
て,頭部と前足の間に間隔があり,全体に細く,先端が若干丸みを帯びた形状とな
った,右上方に高くしなるように伸びた尻尾を有する四足動物が,跳び上がるよう
に,前足と後足を前後に大きく開いている様子を,側面から見た姿で黒いシルエッ
トとして描いた図形が配されている。
このように,引用商標は,
「PUmA」の文字列部分,
「®」の部分,跳躍する動物
のシルエットの図形部分とが結合されているものである。
イ 観念
引用商標には「PUmA」と大きく表記されており,上方へ向けて跳び上がるよ
うに前足と後足を大きく開いた動物図形と相まって,動物の「ピューマ」の観念が
想起される。
「ピューマ」「puma」
( 。日本語の外来語表記では「プーマ」とも表記される。)
とは,南北アメリカに分布するネコ科の哺乳類で,アメリカライオン,ヤマライオ
ン,クーガー等の別名がある。体長は1.5mほどになり,活発で跳躍力が強く,
シカ等を捕食する(広辞苑第7版)。
また,引用商標は,ドイツのスポーツシューズ,スポーツウェア等のメーカーで
あるプーマ社の業務を表す「PUMA」ブランドの商標として著名であり(甲12
の1~4,甲13の1・2,甲19の1・2,甲20,甲26の1~24,甲27
の1~26・28~42,甲28の1~11・17~68・70~76,弁論の全
趣旨),引用商標からは「PUMA」ブランドの観念も生じる。
ウ 称呼
引用商標からは,「PUmA」の文字から,「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が
生じる。
(3) 対比
ア 外観
(ア) 共通点
本件商標と引用商標は,アルファベットの文字(「SHI‐SA」と「PUmA」)
が横書きで大きく表示されており,最も大きな構成部分である点,その右上方に,
四足動物が右側から左上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いてい
る様子が側面から見た姿でシルエット風に描かれている点で共通する。
また,本件商標における「SHI‐SA」の文字と引用商標における「PUmA」
の文字は,各文字が縦長の長方形の枠内にはめ込まれたかのように太字で表記され,
曲線部分を,直線を直角に曲げた形に近づくように表記されている点で,共通して
いる。
そして,両商標における動物図形は,その向きや基本的姿勢のほか,跳躍の角度,
前足・後足の縮め具合・伸ばし具合や角度,胸・背中から足にかけての曲線の描き
方について,似通った印象を与える。
(イ) 差異点
本件商標において大きく表示された文字は「SHI‐SA」であり,引用商標に
おいて大きく表示された文字は「PUmA」であって,アルファベットの文字数,
末尾の「A」を除き使用されているアルファベットの文字が異なるほか,本件商標
においては「SHI」と「SA」の間にハイフン(‐)が表記されている点や,字
体の線の太さや太線が直角に曲がった部分の内側の輪郭線が多くは曲線であるか否
かにおいて異なっている。
また,本件商標においては,大きく表示された「SHI‐SA」の文字の下に2
段にわたって「OKInAWAn ORIgInAL」 「gUARDIAn
及び S
hIShI-DOg」という文字が,比較的小さく表記されているのに対し,引用
商標においては,大きく表示された「PUmA」の文字の下には何も記載されてい
ない。
そして,両商標における動物図形については,本件商標の動物の方が引用商標の
動物に比べて頭部が比較的大きく描かれているほか,本件商標においては,口の辺
りに歯のようなものが描かれ,首の部分にギザギザの飾りのような模様が,前足と
後足の関節部分にも飾り又は巻き毛のような模様が描かれ,尻尾は全体として丸み
を帯びた形状で先端が尖っており,飾り又は巻き毛のような模様が描かれているほ
か,動物図形の内側に輪郭線が描かれ,また,動物図形の内側部分には,細い白い
線で,花柄のような細かい模様が,全体に描かれている。これに対し,引用商標の
動物図形には,模様のようなものは描かれず,全体的に黒いシルエットとして塗り
つぶされているほか,尻尾は全体に細く,右上方に高くしなるように伸び,その先
端だけが若干丸みを帯びた形状となっている。
(ウ) 以上の(ア)及び(イ)に照らすと,本件商標と引用商標とは,「SHI‐
SA」又は「PUmA」の文字と動物図形との組合せによる全体的な形状が共通し
ているものの,両商標において最も大きな構成部分である「SHI‐SA」又は「P
UmA」の文字部分の文字数,使用されている文字,ハイフンの有無が異なること
や,上記文字部分の下の2段にわたる文字部分の有無が異なること等からすると,
両商標の外観は,その違いが明瞭に看て取れるのであって,相紛れるおそれはない
ものである。
イ 観念
本件商標からは,沖縄の伝統的な獅子像である「シーサー」の観念が生じ,引用
商標からは,ネコ科のほ乳類である「ピューマ」又は「PUMA」ブランドの観念
が生じる。
ウ 称呼
本件商標からは,
「シーサオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」「シ・

サオキナワンオリジナルガーディアンシシドッグ」「シサオキナワンオリジナルガ

ーディアンシシドッグ」等並びに「シーサー」又は「シーサ」の称呼が生じ,引用
商標からは,「ピューマ」又は「プーマ」の称呼が生じる。
エ 検討
以上のとおり,本件商標と引用商標とは,外観においても,観念や称呼において
も異なるものであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に使用されたと
しても,商品の出所につき誤認混同が生ずるおそれがあるとはいえないから,本件
商標は引用商標に類似するものではない。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,引用商標は,世界中で周知著名となっていたこと,指定商品の
需要者である一般消費者は,商品に付された商標の一見した印象によって商品の出
所を識別することが多いこと,被服類を購入しようとする需要者は,デザイン性,
ファッション性に重きを置いて商品選択する場合が多く,図形及び文字標章の組合
せからなる結合商標において,図形部分がデザイン性,ファッション性を有してい
る場合は,需要者は,図形に着目して商品識別をすることから,図形において外観
類似が認められる以上,文字部分の相違は,本件商標と引用商標との類似性に大き
く影響を与えないのであって,需要者等は,本件商標の大きく表された欧文字及び
動物図形又はその組合せに着目して,特定の出所を想起し,混同を生じるおそれが
ある旨主張する。
しかし,本件商標において,
「SHI‐SA」及び「OKInAWAn ORIg
InAL gUARDIAn ShIShI-DOg」という文字部分は,その面
積の大きな部分を占めている。需要者が,本件商標につき,全体に占める面積が比
較的小さい動物図形部分のみに着目するとは考え難く,引用商標が世界的に周知著
名な商標であること等,原告が主張する事情によってこの判断が左右されるという
ことはできないから,原告の上記主張は採用することができない。
なお,この判断は審査基準の本件規定によって左右されるものではない。
イ 原告は,本件商標及び引用商標は,ワンポイントマーク等として表示さ
れることが多いため,需要者が相違点に気付かず,著名な商標である引用商標を連
想する蓋然性は否定できない旨主張する。
本件商標が,ワンポイントマークとして使用された場合,その全体が縮小される
ことになるが,そうすると,その面積の大きな部分が文字部分であることから,動
物図形部分は非常に小さくなり,むしろ,文字部分,特に「SHI‐SA」の部分
が,需要者の印象により強く残る可能性が高いと認められる。本件商標が小さく縮
小されて付される可能性があることにより,前記認定が左右されるものではない。
ウ 原告は,本件調査結果から,原告の主張が裏付けられる旨主張する。し
かし,調査対象商標は,文字部分を全く含まない動物図形のみの標章である点が,
本件商標と大きく異なるから,本件調査結果は,本件商標についての前記認定を左
右するものではない。
(5) よって,本件商標が商標法4条1項11号に該当すると認めることはでき
ない。
2 取消事由2(商標法4条1項15号該当性)について
(1) 本件商標が引用商標に類似する商標であるということはできないことは,
前記1のとおりであり,前記1において判示したのと同様の理由で,本件商標が「他
人の業務に係る商品と混同を生ずるおそれがある商標」であるということはできな
いから,本件商標が商標法4条1項15号に該当すると認めることはできない。
(2)ア 原告は,文字部分の相違は「混同を生ずるおそれ」の有無の判断に当た
って大きな影響を与えない旨主張するが,前記1(4)ア,イのとおりであって,原告
の上記主張を採用することはできない。なお,この判断は,審査基準の本件規定に
よって左右されるものではない。
イ 原告は,本件調査結果を根拠に,本件商標につき,
「混同を生ずるおそれ」
があると認められる旨主張するが,前記1(4)ウのとおりであって,原告の上記主張
を採用することはできない。
ウ 原告は,被告が,PUMA図形を意図したことを覆い隠すために「SH
I‐SA」の文字等を併記した旨主張するが,上記主張は,専ら被告の主観を問題
とするものであり,商標法4条1項15号についての上記判断を左右するものでは
ない。
エ 原告は,本件商標の文字部分は沖縄土産品との関係において特定の者の
自他商品識別機能を発揮し得ないと主張するが,前記1(1)エのとおりであって,原
告の上記主張を採用することはできない。
3 取消事由3(商標法4条1項7号該当性)について
(1) 商標法4条1項各号は,商標登録を受けることができない商標として,相
当数の類型を規定しているのであって,同項7号において,
「公の秩序又は善良の風
俗を害するおそれがある商標」がその一類型として規定されているのは,他の号に
当てはまらなくともなお商標登録を受けることができないとすべき商標が存在し得
ることを前提に,一般条項をもって,そのような商標の商標登録を認めないことと
したものであると解されるから,同号の適用は,その商標の登録を社会が許容すべ
きではないといえるだけの反社会性が認められる場合に限られるべきである。
(2) 前記1及び2のとおり,本件商標と引用商標とは,外観においても観念や
称呼においても異なるものであり,本件商標及び引用商標が同一又は類似の商品に
使用されたとしても,商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるとはいえな
いのであるから,本件商標が,引用商標の顧客吸引力にただ乗りし,その出所表示
機能を希釈化させ,又はその名声を毀損させるおそれがあるとか,そのような目的
をもって出願されたということはできない。したがって,本件商標の登録が商道徳
に反するとか,我が国の国際的な信頼を損なうということもできない。
(3)ア 原告は,本件商標は,原告主張に係る使用例1~5のとおり,一見して
原告の著名な商標を想起させるような態様で使用されているものであり,このよう
な使用態様は,被告において,原告の著名商標の持つ顧客吸引力にただ乗りしよう
とするものである旨主張する。
しかし,原告が挙げる使用例は,いずれも,
「SHI‐SA」の文字部分を含むが,
「OKInAWAn ORIgInAL gUARDIAn ShIShI-DO
g」という文字部分を含まず,動物図形部分と「SHI‐SA」の文字部分との大
きさの比率が本件商標と明らかに異なっていたり(使用例1,2,4,5),本件商
標には存在しない文字部分が存在したり(使用例2) 本件商標には存在しない図形

部分が存在し,動物図形部分と「SHI‐SA」の文字部分の輪郭の内側に直線か
らなる模様が記載されている(使用例3)点等で,本件商標と異なっているのであ
って,上記使用例1~5は,いずれも,本件商標の使用例と評価することはできな
い。したがって,これを本件商標の使用例であることを前提とし,本件商標が引用
商標の外観に近づける形に変容させて使用されているから,本件商標は公序良俗に
反する旨の原告の主張は,前提を欠き,採用することができない。
イ 原告は,①被告が本件商標出願当時,衣料品関連の事情に精通していた
ことから,原告の引用商標の著名性を知り,又は,知り得たのであり,原告の引用
商標の独創性からすると,本件商標が引用商標と無関係に採択されたと考えること
はできない,②「シーサー」は,巨大な頭部に,大きな目や開いた口が配され,全
体に胴体が短く太いずんぐりとした体型をした,鎮座する守り神として描かれるの
が通常であって,その姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多
く,一般人はこのような特徴をもってシーサーを認識しているところ,本件商標に
おけるシーサーの図形では,上記のようなシーサーの本来的特徴はほとんど看取さ
れず,引用商標における「俊敏に獲物を追いつめ,必ずしとめるプーマのイメージ」
を表現したプーマの図形の特徴が多く看取されるのであって,引用商標に近づける
ためにあえてシーサー本来の特徴から逸脱した描き方が用いられている,③被告は,
意図的に著名な引用商標の特徴を一見して分かる程度に残したまま外観を変え,著
名な引用商標の持つ顧客吸引力にただ乗りする不正な目的で本件商標を採択した旨
主張する。
(ア) このうち,上記①については,被告が,本件商標出願当時,引用商標
の著名性を知り又は知り得たからといって,前記のとおり,本件商標は引用商標と
は類似していないのであるから,被告が引用商標の顧客吸引力にただ乗りする不正
な目的で本件商標を採択したと認めることはできない。
(イ) 上記②及び③については,次のとおりである。
a 「シーサー」は,沖縄で「獅子さん」の意味であり,素朴な焼き物
の唐獅子像であって,魔除けの一種である(甲14)ところ,
「シーサー」の形状に
は,様々なものがあり,概ねその特徴とされる点としては,たてがみや首飾り,剥
き出した牙,渦巻くような毛並み,太くふっくらとした尻尾等があり,また,その
姿勢としては,上体を起こした状態で前足をついたものが多いが,四つん這いにな
ったもの,前かがみのもの,後足だけで立ち上がったもの等,様々な形態があり,
多くの場合には尻尾が上空に向かって炎のように逆立ち,その先端はすぼんでいる
(甲15,36~41)。
b 本件商標の動物図形を上記の一般的な「シーサー」と比べると,本
件商標に描かれた動物の上方へ向けて跳び上がるように前足と後足を大きく開いて
いる姿勢は,
「シーサー」の形態として一般的なものとはいえず,この点だけを見る
と,引用商標の図形の印象に近いものといえる。他方,本件商標に描かれた,首飾
りのような模様,前足・後足の関節部分における飾り又は巻き毛のような模様,尻
尾の全体的に丸みを帯びて先端が尖った形状等は,いずれも一般的な「シーサー」
の特徴とされているところと一致するのであって,本件商標の動物図形は「シーサ
ー」の特徴とされているいくつかの点を備えているということができる。
c そうすると,本件商標の図形は,
「シーサー」の本来の特徴とは異な
る,引用商標の図形の印象に近い点があるものの,
「シーサー」の本来の特徴を備え
ている点も多く見られるのであって,前記のとおり,本件商標と引用商標は全体と
して類似していないことも考え合わせると,被告が引用商標の顧客吸引力にただ乗
りする不正な目的で本件商標を採択したと認めることはできない。
(4) よって,本件商標について,その商標の登録を社会的に許容すべきでない
といえるだけの反社会性があるとは認められないから,商標法4条1項7号に該当
すると認めることはできない。
(5)ア 原告は,本件調査結果から,原告の主張が裏付けられる旨主張する。
しかし,調査対象商標は,文字部分を全く含まない動物図形のみの標章であるか
ら,本件調査結果は,本件商標についての前記認定を左右するものではない。
イ 原告は,著名商標は,特定の事業者の出所を表す標識としての価値を有
するだけではなく,その名声,信用,顧客吸引力がもたらす社会的影響によって,
わが国の産業政策や公共の利益にも影響を及ぼすため,公益的観点から,保護の要
請が認められるべきであり,パロディの名の下に許されるのは,出所の混同を生ず
るおそれがなく,著名商標の識別力又は信用価値の毀損が認められない場合に限る
べきであり,原告が被告の不正の目的を立証し難い場合でも,需要者の認識や指定
商品に係る業界の実情からフリーライドしたものであることが推測できる場合にお
いては,本件商標の登録が阻止,排除されることで被告が被る不利益と著名商標保
護の公益的要請とを比較衡量し,社会通念上,不正の目的により創作されたものと
して,これを覆す反証がされない限り,商標法4条1項7号の適用は認められるべ
きである旨主張する。
しかし,著名商標であることを理由として,著名ではない商標においては認めら
れない不正の目的の立証責任の転換を認めることが,相当とは考え難いから,原告
の上記主張は,採用することができない。
ウ その他,原告の主張によって前記(4)の判断が左右されないことは,既に
述べたところから明らかである。
第6 結論
以上によると,本件商標の登録は法4条1項11号,15号又は7号に違反しな
い。そうすると,審決の結論に誤りは認められず,原告の本訴請求は理由がないか
ら,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
森 岡 礼 子
裁判官
古 庄 研

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

2月26日(水) - 東京 港区

実務に則した欧州特許の取得方法

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

栄セントラル国際特許事務所

愛知県名古屋市中区栄3-2-3 名古屋日興證券ビル4階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

特許業務法人パテントボックス

東京都千代田区岩本町2-19-9 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

弁理士法人 湘洋特許事務所

〒220-0004 横浜市西区北幸1-5-10 JPR横浜ビル8階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング