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平成30(ワ)11204商標権侵害差止請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 平成31年4月10日
事件種別 民事
法令 商標権
商標法4条1項11号5回
商標法4条1項10号2回
商標法4条1項16号2回
商標法36条1項1回
キーワード 無効13回
商標権9回
侵害3回
差止2回
無効審判1回
損害賠償1回
主文
事件の概要 本件は,別紙商標目録記載1の商標(以下「原告商標」という。)に係る商標 権(以下「原告商標権」という。)を有する原告が,別紙被告店舗目録記載の整 体院(以下「被告店舗」という。)を営む被告が別紙被告標章目録の「使用標章」 欄記載の各標章(以下,同目録記載の符号に従い,「被告標章1-1」,「被告5 標章1-2」,「被告標章2」などといい,番号1-1から番号7までの各標章 を併せて「被告各標章」という。)を使用していることが原告の商標権を侵害す ると主張して,被告に対し,①商標法36条1項に基づき,被告各標章の使用の 差止めを求め,②同条2項に基づき,被告店舗の看板,ウェブサイト等からの被 告各標章の削除並びに被告各標章を付した広告物,衣服及び取引書類の廃棄を求10 め,③商標権侵害に係る不法行為に基づき,損害賠償金90万円及びこれに対す る訴状送達の日の翌日である平成30年4月21日から支払済みまで民法所定の 年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

平成31年4月10日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第11204号 商標権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 平成31年3月1日
判 決
5 原 告 X
同訴訟代理人弁護士 野 口 眞 寿
被 告 Y
同訴訟代理人弁護士 木 村 貴 司
同補佐人弁理士 廣 田 恵 梨 菜
10 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
15 1 被告は,別紙被告店舗目録記載の整体院の看板(店頭表示板),案内板,外
壁,内壁,扉及び入り口ガラス壁面,衣服,その運営するウェブサイト,イン
ターネット上のウェブ広告,パンフレット,チラシなどの広告物並びに取引書
類に別紙被告標章目録記載の標章を使用してはならない。
2 被告は,別紙被告店舗目録記載の整体院の看板(店頭表示版),案内板,外
20 壁,内壁,扉及び入り口ガラス壁面,その運営するウェブサイト並びにインタ
ーネット上のウェブ広告から,別紙被告標章目録記載の標章を抹消せよ。
3 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付したパンフレット,チラシなどの
広告物,衣服及び取引書類を廃棄せよ。
4 被告は,原告に対し,90万円及びこれに対する平成30年4月21日から
25 支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第4項について仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,別紙商標目録記載1の商標(以下「原告商標」という。)に係る商標
権(以下「原告商標権」という。)を有する原告が,別紙被告店舗目録記載の整
体院(以下「被告店舗」という。)を営む被告が別紙被告標章目録の「使用標章」
5 欄記載の各標章(以下,同目録記載の符号に従い,「被告標章1-1」,「被告
標章1-2」,「被告標章2」などといい,番号1-1から番号7までの各標章
を併せて「被告各標章」という。)を使用していることが原告の商標権を侵害す
ると主張して,被告に対し,①商標法36条1項に基づき,被告各標章の使用の
差止めを求め,②同条2項に基づき,被告店舗の看板,ウェブサイト等からの被
10 告各標章の削除並びに被告各標章を付した広告物,衣服及び取引書類の廃棄を求
め,③商標権侵害に係る不法行為に基づき,損害賠償金90万円及びこれに対す
る訴状送達の日の翌日である平成30年4月21日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲記しない事実は,当事者間に争いがない。)
15 (1) 当事者
ア 原告は,(所在地は省略)において「ABCカイロプラクティック 甲
地整体院」という名称の整体院を営んでいる。
イ 被告は,被告店舗を営んでいる者である。
(2) 原告の商標権
20 原告は,原告商標権を有する。
(3) 原告商標の指定役務と被告の提供する役務との関係
被告が被告店舗において提供する役務は,原告商標の指定役務に含まれる。
(4) 被告による標章の使用
被告は,被告の運営するウェブサイト(URLは省略)(甲2)において
25 被告標章1-1,同2,同3-1,同4,同5及び同7を表示させ,被告店
舗の看板に被告標章1-2及び同6を付し,被告店舗において施術者が着用
する施術着に被告標章3-2を付し,被告店舗の外壁ガラス面に被告標章7
を付している。(甲2,7,弁論の全趣旨)
(5) 先願に係る他人の登録商標の存在
Aを商標権者とする別紙商標目録記載2の登録商標(以下「引用商標」と
5 いう。)が存する。(乙1)
2 争点
(1) 原告商標と被告各標章の類否
(2) 商標法4条1項11号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
(3) 商標法4条1項16号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
10 (4) 商標法4条1項10号に該当することを理由とする無効の抗弁の成否
(5) 先使用権の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(原告商標と被告各標章の類否)について
(原告の主張)
15 以下のとおり,原告商標と被告各標章とは類似する。
ア 原告商標について
原告商標は,「ABCカイロプラクティック」と標準文字で横書きして
構成され,「エイビイシイカイロプラクティック」との称呼が生ずる。
イ 被告標章1-1及び同1-2について
20 被告標章1-1は,原告商標に「センター」及び店舗の場所と提供役務
内容を示す「乙地整体院」を付したものにすぎず,原告商標と類似してい
る。
また,被告標章1-2は,上下2段に分かれ,上段に「ABCカイロプ
ラクティックセンター」,下段に「乙地整体院」及び電話番号が表記され
25 ている。このうち,電話番号部分は標章の一部を構成するものではないか
ら,被告標章1-2は,被告標章1-1を2段に分けて記載したものであ
り,原告商標と類似している。
ウ 被告標章2について
被告標章2からは「エイビイシイカイロ」との称呼が生ずるところ,同
標章は原告商標から「プラクティック」を取り除いたのみであり,原告商
5 標と類似している。
エ 被告標章3-1及び同3-2について
被告標章3-1は,原告商標に「センター」を付したものにすぎず,原
告商標と類似するものである。
また,被告標章3-2は,上下2段に分かれ,上段に「ABC」,下段
10 に「カイロプラクティックセンター」と表記したものであって,需要者は
一体として「ABCカイロプラクティックセンター」と認識するものであ
るから,被告標章3-1と同様,原告商標と類似する。
オ 被告標章4について
被告標章4は,被告標章1-1の「カイロプラクティックセンター」の
15 部分を英語表記にしたものであって,その称呼は「エイビイシイカイロプ
ラクティックセンター 乙地セイタイイン」となり,被告標章1-1と同
一である。したがって,被告標章4は,原告商標と類似している。
カ 被告標章5について
被告標章5は,原告商標に店舗の場所と提供役務内容を示す「乙地整体
20 院」を付したものにすぎず,原告商標と類似するものである。
キ 被告標章6について
被告標章6は,三つの部分に分かれ,最上段に横書きで「ABC」,中
段に横書きで「CHIROPRACTIC」,下段に縦書きで「乙地整体
院」と表記されている。需要者がこれを見れば一体として「ABC CH
25 IROPRACTIC 乙地整体院」であると認識するものであり,「C
HIROPRACTIC」の部分は被告標章5の「カイロプラクティック」
の部分をアルファベットによる英語表記にしたものであって,その称呼は
「エイビイシイカイロプラクティック 乙地セイタイイン」となり,被告
標章5と同一である。したがって,被告標章6は,原告商標との誤認混同
を生じさせる類似したものである。
5 ク 被告標章7について
被告標章7は,大きく2段に分けて構成され,上段は大きく「ABC」
と記載し,その隣に小さく「ALWAYS BEST CHOICE」及
び「常に最も優れた」と更に2段で記載し,下段には「カイロプラクティ
ックセンター」を英語表記にして記載したものである。当該記載のうち
10 「ALWAYS BEST CHOICE 常に最も優れた」の部分は相
対的に小さいサイズで記載され,これを見た需要者は同部分について「A
BC」の意味するところを示したものと理解し,被告標章7は被告標章3
-1及び同3-2の「カイロプラクティックセンター」の部分を英語表記
にしたものとして認識するものであるから,被告標章7は,原告商標と類
15 似するものである。
(被告の主張)
原告商標につき,指定役務との関係を踏まえれば,その要部は「ABC」
であるところ,この場合,争点(2)に関して主張するとおり(後記(2)(被告
の主張)),原告商標は,商標法4条1項11号に該当するという無効理由
20 を有するが,仮に,原告商標につき,「ABCカイロプラクティック」全体
に識別力があり,「ABC」が要部とならないとしても,以下のとおり,原
告商標と被告各標章とは類似しない。
ア 被告標章1-1について
被告標章1は,「ABC」,「カイロプラクティックセンター」,「乙
25 地整体院」に分離され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標
章1-1とを対比すると,被告標章1-1は上記のように分離して要部と
して評価される以上,原告商標とは,外観,称呼,観念のいずれも相違す
る。
仮に,被告標章1-1が「ABCカイロプラクティックセンター乙地整
体院」を一体として認識されるとしても,被告標章1には,「カイロプラ
5 クティック」と切り離すことができない「センター」の文字や「乙地整体
院」の文字が存在することから,外観は相違し,全体音数等も異なるため
称呼も相違し,さらに,被告標章1-1には「乙地整体院」という表記が
あるため,「ABCという乙地にあるカイロプラクティックを中心に行う
整体院」,「ABCというカイロプラクティックを中心に行う乙地という
10 整体院」というような観念が想起され,原告商標とは観念も異なる。
したがって,原告商標と被告標章1-1とは類似しない。
イ 被告標章1-2について
被告標章1-2は,「ABC」,「カイロプラクティックセンター」,
「乙地整体院」に分離され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被
15 告標章1-2とを対比すると,被告標章1-2は上記のように分離して要
部として評価される以上,原告商標とは,外観,称呼,観念のいずれも相
違する。
仮に,被告標章1-2が一体として認識されたとしても,被告標章1-
2は,図形や文字等の複数の要素が結合されたものであるから,外観は大
20 きく相違し,全体音数等も異なり称呼が相違し,さらに,被告標章1-2
には「乙地整体院」という表記があるため観念も異なる。
したがって,原告商標と被告標章1-2とは類似しない。
ウ 被告標章2について
被告標章2は,「ABC」,「カイロ」,「乙地整体院」に分離され,
25 いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標章2とを対比すると,被
告標章2は上記のように分離して要部として評価される以上,原告商標と
は外観,称呼,観念のいずれも相違する。
仮に,被告標章2が一体として認識されたとしても,原告商標中の「カ
イロプラクティック」はそれ自体で意味のある用語であるから,これを
「カイロ」と「プラクティック」,「ABCカイロ」と「プラクティック」
5 のように分離して評価することはできず,また,被告標章2には「乙地整
体院」の文字が存在することからすれば,原告商標と被告標章2とは,外
観,称呼,観念が異なる。また,「カイロ」の文字は字句どおりに考えれ
ば「回路」や「懐炉」等が観念される点を踏まえれば,観念はなおさら異
なる。
10 したがって,原告商標と被告標章2とは類似しない。
エ 被告標章3-1について
被告標章3-1は,「ABC」,「カイロプラクティックセンター」に
分離され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標章3-1とを
対比すると,被告標章3-1は上記のように分離して要部として評価され
15 る以上,外観,称呼,観念のいずれも相違する。
仮に,被告標章3-1が一体として認識されたとしても,被告標章3-
1には,「カイロプラクティック」と切り離すことができない「センター」
の文字が存在することから外観が異なり,称呼も音数等で異なり,さらに,
被告標章3-1からは「ABCというカイロプラクティックを中心に行う
20 施設」という観念が生じ,原告商標とは,全体として外観,称呼,観念の
いずれも異なる。
したがって,原告商標と被告標章3とは類似しない。
オ 被告標章3-2について
被告標章3-2は,「ABC」,「カイロプラクティックセンター」に
25 分離され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標章3-2とを
対比すると,被告標章3-2は上記のように分離して要部として評価され
る以上,外観,称呼,観念のいずれも相違する。
仮に,被告標章3-2が全体として一体として認識されたとしても,被
告標章3-1と同様の理由によって,原告商標とは外観,称呼,観念のい
ずれも明らかに異なる。
5 したがって,原告商標と被告標章3-2とは類似しない。
カ 被告標章4について
被告標章4は,「ABC」,「CHIROPRACTIC CENTE
R」,「乙地整体院」に分離され,いずれかが要部となり,あるいは,全
体として認識される場合には,最も大きな文字部分の「乙地整体院」を中
10 心に観察されることになるところ,原告商標と被告標章4とを対比すると,
被告標章4は上記のように分離して要部として評価される以上,外観,称
呼,観念のいずれも異なる。
仮に,被告標章4が全体として評価されるとしても,需要者はその中で
も特に目立つ「乙地整体院」部分に着目するのであり,この部分が含まれ
15 ていない原告商標とは外観,称呼,観念のいずれも異なる。
したがって,原告商標と被告標章4とは類似しない。
キ 被告標章5について
被告標章5は,「ABC」,「カイロプラクティック」,「乙地整体院」
に分離され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標章5とを対
20 比すると,被告標章5は上記のように分離して要部として評価される以上,
原告商標とは外観,称呼,観念のいずれも異なる。
仮に,被告標章5が一体として認識されたとしても,被告標章5には,
「乙地整体院」の文字が存在することから外観が異なり,称呼も音数等で
異なり,さらに,「乙地整体院」という表記があるため,全体として「A
25 BCという乙地にあるカイロプラクティックを行う整体院」,「ABCと
いうカイロプラクティックを行う乙地整体院」という観念が生じ,原告商
標とは,全体として外観,称呼,観念のいずれも明らかに異なる。
したがって,原告商標と被告標章5とは類似しない。
ク 被告標章6について
被告標章6は,「ABC」,「乙地整体院」に分離され,いずれかが要
5 部となるところ,原告商標と被告標章6とを対比すると,被告標章6は上
記のように分離して要部として評価される以上,原告商標とは外観,称呼,
観念のいずれも異なる。
仮に,被告標章6が全体として評価されるとしても,需要者はその中で
も特に目立つ「乙地整体院」部分に着目するのであり,この部分が含まれ
10 ていない原告商標とは外観,称呼,観念のいずれも異なる。
したがって,原告商標と被告標章6とは類似しない。
ケ 被告標章7について
被告標章7は,「ABC」,「ALWAYS BEST CHOICE
常に最も優れた」,「CHIROPRACTIC CENTER」に分離
15 され,いずれかが要部となるところ,原告商標と被告標章7とを対比する
と,被告標章7は上記のように分離して要部として評価される以上,原告
商標とは外観,称呼,観念のいずれも異なる。
仮に,被告標章7が一体として認識されたとしても,被告標章7は,外
観が大きく相違し,全体音数等も異なることから称呼が相違し,観念も異
20 なる。
したがって,原告商標と被告標章7とは類似しない。
(2) 争点(2)(商標法4条1項11号に該当することを理由とする無効の抗弁
の成否)について
(被告の主張)
25 原告商標は,先願登録商標である引用商標に類似する商標であり,かつ,
引用商標に係る指定役務と同一又は類似の役務について使用するものである
ため,商標法4条1項11号に該当し,これを理由として無効とされるべき
ものである。
ア 原告商標につき,「ABC」と「カイロプラクティック」は,分離して
観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合してい
5 るとはいえないから,「ABC」と「カイロプラクティック」は当然に分
離して観察される。そして,「ABC」部分は,語頭に存在し,馴染みの
あるアルファベットの文字列を先頭から順に3個並べていることなどから
すると,この部分が需要者に対し役務の出所識別標識として強く支配的な
印象を与えるものである一方,「カイロプラクティック」部分については
10 普通名称であり,指定役務の内容をそのまま表示しているものであるから,
役務の出所識別標識としての称呼,観念が全く生じない。そうすると,原
告商標の要部は,「ABC」部分である。
仮に,原告商標が一連一体の結合商標であると評価されたとしても,
「ABC」部分が上記の理由から需要者に対し役務の出所識別標識として
15 強く支配的な印象を与えることに変わりはなく,他方で「カイロプラクテ
ィック」は出所識別機能を発揮しないから,全体評価とともに,別途「A
BC」部分が要部として認定される。
以上を踏まえて引用商標と原告商標の類否を検討すると,引用商標は
「ABC」,原告商標の要部は「ABC」であり,引用商標と原告商標の
20 要部とは外観,称呼,観念のいずれにおいても同一であるから,引用商標
「ABC」と原告商標「ABCカイロプラクティック」とは全体として類
似することが明らかである。
したがって,原告商標は,先願登録商標である引用商標に類似する商標
である。
25 イ 引用商標の指定役務のうち「あん摩・マッサージ及び指圧,カイロプラ
クティック,きゅう,柔道整復,はり,栄養の指導」と,原告商標の指定
役務である「あん摩・マッサージ・指圧・整体の施術・カイロプラクティ
ック・きゅう・柔道整復・はり,整体の施術・カイロプラクティックにつ
いての情報の提供,インターネットを用いて行うあん摩・マッサージ・指
圧・整体の施術・カイロプラクティック・きゅう・柔道整復・はりに関す
5 る相談及び診断,栄養の指導」とは相当数で重複し,両指定役務は同一又
は類似する関係にある。
したがって,原告商標は,引用商標に係る指定役務と同一又は類似の役
務について使用するものである。
(原告の主張)
10 原告商標が引用商標に係る指定役務と同一又は類似の役務について使用す
るものであることは認めるが,以下のとおり,原告商標は引用商標に類似す
るものではない。
ア 引用商標は単に「ABC」と書した態様から成るものであるのに対し,
原告商標は「ABCカイロプラクティック」であり,外観,称呼,観念の
15 いずれにおいても類似しない。
イ 「ABC」という3文字の単なる羅列には,英単語としての意味がない
ことは明らかであり,また,「カイロプラクティック」は,手技療法を意
味するものにすぎず,単独で出所識別機能を有するものではないから,原
告商標は,「ABCカイロプラクティック」と結合して初めて出所識別機
20 能を有するものである。
また,その称呼についても,「ABC」の部分のみが分断されることは
なく,一連のものとして「ABCカイロプラクティック」との称呼が生じ
るか,仮に略するとしても「ABCカイロ」との称呼が生じるものである。
さらに,観念については,「ABC」が役務の名称と組み合わせて使用
25 される場合には,「ABC」の部分は,「Action Begin C
hallenger」,「ALWAYS BEST CHOICE」など
のように,役務の内容や役務を提供する方針等と関連する略語として使用
される実情があるため,原告商標の「ABC」の部分は「カイロプラクテ
ィック」という役務の内容と関連する何らかの略語という印象を与えるの
が自然であり,「ABCカイロプラクティック」全体で特定の観念を生じ
5 るものではない。他方,引用商標の「ABC」の文字のみからは,「初歩。
基本。いろは。」のような観念が生じることが通常であるから,原告商標
と引用商標とは観念においても異なっている。
以上からすれば,原告商標は,「ABC」の部分が取引者, 需要者に対
し役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものではなく,
10 「カイロプラクティック」の部分と一体になって初めて出所識別標識とし
ての称呼,観念を生じさせるものであるから,原告商標と引用商標との間
で,役務の出所について誤認混同を生じるおそれはない。
(3) 争点(3)(商標法4条1項16号に該当することを理由とする無効の抗弁
の成否)について
15 (被告の主張)
原告商標の指定役務には,「カイロプラクティック」以外に,「はり」や
「きゅう」のようなカイロプラクティック(広い意味では整体)とは無関係
な役務が含まれているところ,このようなカイロプラクティック以外の役務
に原告商標を使用すれば,需要者に,カイロプラクティック以外の役務の提
20 供を受ける場合に「カイロプラクティック」を受けることが可能であるとの
誤認を生じさせる。
したがって,原告商標は,役務の質の誤認を生じるおそれがある商標であ
って商標法4条1項16号に該当し,これを理由として無効とされるべきも
のである。
25 (原告の主張)
争う。カイロプラクティックは一般の需要者には整体に近い技術と認識さ
れており,原告商標をその指定役務に使用した場合に役務の質を誤認される
おそれはない。
(4) 争点(4)(商標法4条1項10号に該当することを理由とする無効の抗弁
の成否)について
5 (被告の主張)
被告店舗は,商圏となる乙地駅周辺や(地名は省略)及びその近郊(東京
都を中心とする地域)において,原告商標に係る商標登録の出願前から需要
者に広く認識されていたものであり,被告店舗の名称である「ABCカイロ
プラクティックセンター 乙地整体院」は,商標法4条1項10号にいう
10 「他人の業務に係る商品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広
く認識されている商標」に該当する。
また,仮に,原告商標と「ABCカイロプラクティックセンター 乙地整
体院」とが類似するとされた場合には,原告商標は,「他人の業務に係る商
品若しくは役務を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標
15 …に類似する商標」に該当することになる。
そして,被告の提供する役務は「カイロプラクティック」であるところ,
原告商標の指定役務には「カイロプラクティック」が含まれているため,原
告商標は,「ABCカイロプラクティックセンター 乙地整体院」に係る役
務について使用をするものである。
20 したがって,原告商標と「ABCカイロプラクティックセンター 乙地整
体院」とが類似する旨の原告の主張を前提とすれば,原告商標は,商標法4
条1項10号に該当し,これを理由として無効とされるべきものである。
(原告の主張)
争う。
25 (5) 争点(5)(先使用権の有無)について
(被告の主張)
被告は,平成25年6月15日以降,被告各標章を使用し,カイロプラク
ティック役務の提供等を行ってきたものであり,原告商標の商標登録出願前
から現在に至るまでの間,継続して被告各標章を使用している。被告は,原
告から警告書を受領するまで原告の存在は知らなかったのであるから,原告
5 の信用を利用して不当に利益を得ようとしていたものではない。
また,被告は,平成25年6月15日以降,定期的に新聞折込みチラシや
リーフレットポスティング,店頭配布,インターネット等で被告各標章を使
用して被告店舗に係る宣伝広告活動を行ってきたものであり,具体的には,
①被告店舗の開店前後に,(地名は省略)周辺において,新聞折込みチラシ
10 3万部の配布やチラシ6万部のポスティングを行い,②平成25年6月15
日以降,全国向けのインターネット広告として,グーグルアドワーズ広告や,
ウェブサイト「エキテン」での有料広告を掲載し,③同月頃から自社ホーム
ページを立ち上げ,被告店舗の宣伝広告を行ってきた。これらの宣伝広告活
動により,被告店舗は,ウェブサイト「エキテン」において(地名は省略)
15 で口コミランキング1位となった。このように,被告各標章は,東京都を中
心として,その近郊の県において,原告商標の商標登録出願前から需要者に
広く認識されていたものである。
したがって,被告には,被告各標章の使用につき先使用権が認められる。
(原告の主張)
20 以下のとおり,被告各標章について先使用権の要件としての周知性がある
とは認められず,先使用権は認められない。
ア カイロプラクティックや整体の施術を求める需要者は,より良い施術を
受けたいとの思いから遠方の整体院であっても通院するということはよく
みられる事態であり,先使用権の要件としての周知性が認められるために
25 は,東京都のみならず,神奈川県,千葉県及び埼玉県の需要者に知られて
いなければならない。
イ 被告は,被告各標章に周知性があることの根拠として,被告店舗のチラ
シを配布した旨主張するが,新聞による配布とポスティングによる配布と
が同一世帯に重複して行われた可能性も高い上,平成25年10月時点に
おける(地名は省略)の世帯総数は18万8261世帯であり,被告の主
5 張を前提としても,チラシはその限られた一部にのみ配布されたにすぎな
い。また,チラシの配布を受けた者が全てそれを読むとは限らないこと,
ポスティングについても投函されたチラシを精読する者は多くないことを
も踏まえれば,チラシを配布したとの事実によって周知性を認めることは
できない。
10 また,インターネットを通じた広告等に関し,「(地名は省略) 整体」
及び「乙地 整体」との検索ワードによる検索の数はグーグルにおいて月
間僅か10~100件にすぎず,「(地名は省略) 整体」についても月
間100~1000件の検索があるにすぎない。そして,検索結果を見た
需要者のうちどの程度が被告店舗のホームページを見るかも不明である。
15 そうすると,被告店舗は,(地名は省略)内においてすら需要者に広く
認識されておらず,前記1都3県内の需要者に広く認識されていないこと
が明らかである。
第3 当裁判所の判断
1 争点(2)(商標法4条1項11号に該当することを理由とする無効の抗弁の
20 成否)について
事案に鑑み,まず,争点(2)について検討する。
(1) 引用商標と原告商標の類否について
ア 商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用さ
れた場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあ
25 るか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外
観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,記憶,連想等を総合して
全体的に考察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を
明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当
である(最高裁昭和43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号3
99頁,最高裁平成9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号10
5 55頁参照)。
この点に関し,複数の構成部分を組み合わせた結合商標と解されるもの
について,商標の構成部分の一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と
比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されないが,
商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別
10 標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外
の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合
などには,その部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判
断することも許されるものというべきである(最高裁昭和38年12月5
日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成5年9月1
15 0日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成20年9月
8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。
イ これを本件についてみると,原告商標の「カイロプラクティック」とい
う構成部分は,原告商標の指定役務との関係において,役務の種類ないし
内容を表示するものにすぎない上,「カイロプラクティック」の文字は
20 「手技によって脊椎のゆがみを矯正し,神経生理機能を回復する方法」,
「脊椎調整療法」といった意味を有する一般的,普遍的な文字であって
(乙2),取引者,需要者に強い印象を与えるものではないから,上記構
成部分から役務の出所識別標識としての称呼,観念は生じないというべき
である。
25 他方,原告商標の「ABC」という構成部分は,「カイロプラクティッ
ク」という構成部分と不可分的に結合しているものではなく,分離して観
察し得るところ,「ABC」はアルファベットの最初の三文字を並べたも
のであり,「初歩。基本。いろは。」などの観念も生じる語として需要者
に馴染みのある上,「ABC」の文字は役務の内容等を具体的に表すもの
でもないことからすれば,原告商標の指定役務に係る取引者,需要者に対
5 し,役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められ
る。そうすると,原告商標の要部は「ABC」の部分であり,この部分の
みを抽出して引用商標と比較して商標の類否の判断をすることが許される
というべきである。
原告商標の構成部分である「ABC」と引用商標である「ABC」は,
10 その外観,観念及び称呼がいずれも同一であり,整体院等の店舗における
役務の提供に当たり使用されるという実情を踏まえても,原告商標と引用
商標とが同一又は類似の役務に使用された場合に,役務の出所につき誤認
混同を生ずるおそれがあるということができる。
ウ これに対し,原告は,「ABC」の文字には英単語としての意味がない
15 ことから,原告商標の「ABC」の部分はそれのみで役務の出所識別標識
としての機能を有するものではないと主張する。
しかしながら,「ABC」の文字に英単語として特定の意味を有するも
のではないとしても,アルファベットの最初の三文字として需要者にとっ
て馴染みがあることは前記判示のとおりであり,「カイロプラクティック」
20 という部分が,原告商標の指定役務との関係において,役務の種類ないし
内容を表示するものにすぎないのに対し,「ABC」という部分は役務の
内容等を具体的に表すものでもないことも考慮すると,同部分は,それの
みで役務の出所識別標識としての機能を有するものということができる。
また,原告は,原告商標の「ABC」の部分は,役務の内容や役務を提
25 供する方針等と関連する略語として使用される実情があるため,原告商標
の「ABC」の部分は「カイロプラクティック」という役務の内容と関連
する何らかの略語という印象を与えるのが自然であると主張する。
しかし,「ABC」という語が役務の内容や役務を提供する方針等の略
語として使用されるのが一般的であるということはできず,むしろ,前記
のとおり,アルファベットの最初の三文字として理解されるのが通常であ
5 るというべきである。そうすると,原告商標の「ABC」の部分が「カイ
ロプラクティック」という役務の内容と関連する何らかの略語という印象
を需要者に与えるということはできない。
したがって,原告の主張は理由がない。
(2) 原告商標が引用商標に係る指定役務と同一又は類似の役務について使用す
10 るものであることは,当事者間に争いがない。
(3) 以上によれば,原告商標は,商標法4条1項11号に該当し,商標登録を
受けることができないものであるため,商標登録無効審判により無効にされ
るべきものと認められ,原告は,その商標権について権利を行使することが
できない。
15 2 結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐 藤 達 文

裁判官

今 野 智 紀
裁判官細井直彰は,転官のため,署名押印することができない。

裁判長裁判官

佐 藤 達 文


(別紙)
被告店舗目録

東京都(所在地は省略)所在の「ABCカイロプラクティックセンター 乙地整
5 体院」という名称の整体院
以 上


(別紙)
商標目録

1 原告商標
5 登録番号 第5995186号
出 願 日 平成29年3月21日
登 録 日 平成29年11月10日
商 標 ABCカイロプラクティック(標準文字)
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
10 第44類 あん摩・マッサージ・指圧・整体の施術・カイロプラクティッ
ク・きゅう・柔道整復・はり,整体の施術・カイロプラクティックについて
の情報の提供,インターネットを用いて行うあん摩・マッサージ・指圧・整
体の施術・カイロプラクティック・きゅう・柔道整復・はりに関する相談及
び診断,栄養の指導

2 引用商標
登録番号 第5877163号
出 願 日 平成28年6月7日
登 録 日 平成28年8月26日
20 商 標 ABC(標準文字)
商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務
第44類 美容,理容,入浴施設の提供,あん摩・マッサージ及び指圧,カ
イロプラクティック,きゅう,柔道整復,はり,栄養の指導,動物の飼育,
動物の治療,動物の美容,美容院用又は理髪店用の機械器具の貸与
25 以 上

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