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平成29(ワ)5011意匠権侵害差止等請求事件

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裁判所 大阪地方裁判所
裁判年月日 平成31年3月28日
事件種別 民事
法令 意匠権
不正競争防止法5条2項7回
意匠法39条2項7回
不正競争防止法2条1項14号7回
不正競争防止法2条1項1号6回
意匠法39条1回
キーワード 侵害39回
意匠権37回
実施35回
差止15回
損害賠償5回
主文
事件の概要 1 事案の概要25 本件は,後記本件意匠権を有するとともに,後記原告製品等の爪切りを販売等し ている原告が,後記被告各製品を販売等している被告に対し,①後記被告製品1の 製造等が後記本件意匠権を侵害するとして,意匠法37条1項に基づき被告製品1 の製造等の差止め,同条2項に基づき被告製品1の廃棄等を請求し,意匠権侵害の 不法行為に基づき,原告の損害440万円の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌 日である平成29年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅5 延損害金の支払を請求し,②後記被告製品2の販売等が不正競争防止法2条1項1 号の不正競争に該当するとして,同法3条1項に基づき被告製品2の販売等の差止 め,同条2項に基づき被告製品2の廃棄等を請求し,同法4条に基づき,原告の損 害440万円の賠償及びこれに対する上記日から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を請求し,③「日本仕上げ」の表示がある後記被告各10 製品の販売等が同法2条1項14号の不正競争に該当するとして,同法3条1項に 基づき被告各製品の包装紙及び包装箱についての「日本仕上げ」の表示の差止め, 同条2項に基づき同表示がある被告各製品の包装紙及び包装箱の廃棄を請求し,同

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判決文

平成31年3月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成29年(ワ)第5011号 意匠権侵害差止等請求事件

口頭弁論終結日 平成30年12月18日

判 決

原 告 株式会社グリーンベル

同訴訟代理人弁護士 辻 本 希 世 士

同 辻 本 良 和

同 松 田 さ と み

同補佐人弁理士 丸 山 英 之

被 告 グリコケミカル株式会社

同訴訟代理人弁護士 小 松 陽 一 郎

同 川 端 さ と み

同 山 崎 道 雄

同 藤 野 睦 子

同 大 住 洋

同 中 原 明 子

同 原 悠 介

同 三 嶋 隆 子

同 前 嶋 幸 子

主 文

1 被告は,別紙「物件目録」1記載の爪切りを製造し,販売し,輸入し,又は

販売の申出をしてはならない。

2 被告は,別紙「物件目録」2記載の爪切りを販売し,輸入し,又は販売の申

出をしてはならない。

3 被告は,別紙「物件目録」1及び2記載の爪切りを廃棄せよ。

4 被告は,別紙「物件目録」1,2及び3記載の爪切りの包装紙及び包装箱に

つき,「日本仕上げ」の表示をしてはならない。

5 被告は,「日本仕上げ」の表示がある別紙「物件目録」1,2及び3記載の

爪切りの包装紙及び包装箱を廃棄せよ。

6 被告は,原告に対し,76万1265円及びうち1万8713円に対する平

5 成29年6月14日から,うち4153円に対する同月30日から,うち60万8

782円に対する同年7月19日から,うち6036円に対する同月31日から,

うち5834円に対する同年8月31日から,うち4496円に対する同年9月3

0日から,うち6529円に対する同年10月31日から,うち5130円に対す

る同年11月30日から,うち10万1592円に対する同年12月31日から,

それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。

8 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その余を原告の負担

とする。

9 この判決は,第6項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主文第1項,第4項及び第5項と同旨2 被告は,別紙「物件目録」2記載の爪切りを製造し,販売し,輸入し,又は販売の申出をしてはならない。3 被告は,別紙「物件目録」1及び2記載の爪切りを廃棄し,同爪切りの製造に必要な金型を除去せよ。4 被告は,原告に対し,1320万円及びこれに対する平成29年6月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え

第2 事案の概要等

1 事案の概要本件は,後記本件意匠権を有するとともに,後記原告製品等の爪切りを販売等している原告が,後記被告各製品を販売等している被告に対し,①後記被告製品1の製造等が後記本件意匠権を侵害するとして,意匠法37条1項に基づき被告製品1の製造等の差止め,同条2項に基づき被告製品1の廃棄等を請求し,意匠権侵害の不法行為に基づき,原告の損害440万円の賠償及びこれに対する訴状送達日の翌

5 日である平成29年6月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,②後記被告製品2の販売等が不正競争防止法2条1項1号の不正競争に該当するとして,同法3条1項に基づき被告製品2の販売等の差止め,同条2項に基づき被告製品2の廃棄等を請求し,同法4条に基づき,原告の損害440万円の賠償及びこれに対する上記日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求し,③「日本仕上げ」の表示がある後記被告各製品の販売等が同法2条1項14号の不正競争に該当するとして,同法3条1項に基づき被告各製品の包装紙及び包装箱についての「日本仕上げ」の表示の差止め,同条2項に基づき同表示がある被告各製品の包装紙及び包装箱の廃棄を請求し,同法4条に基づき,原告の損害1320万円の賠償及びこれに対する上記日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。なお,上記③の損害には,上記①で賠償請求している被告製品1に係る損害及び上記②で賠償請求している被告製品2に係る損害が含まれていることから,原告は1320万円を上限として損害賠償請求することとしている(上記①ないし③の各損害賠償請求権の併合態様は,単純併合と解される。)。2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者原告及び被告は,いずれもネイルケア製品,耳かき及び化粧小物の製造販売等を業とする株式会社である。

(2) 本件意匠権に基づく請求に関する事実ア 原告の有する本件意匠権原告は,次の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録に係る意匠を「本件登録意匠」という。)を保有している。本件登録意匠は部分意匠であり,その構成は,別紙「本件登録意匠の構成」の各図面の実線で表した部分のとおりであり,その構成態様は,別紙「本件登録意匠の構成態様」のとおりである。

5 登録番号 第1437680号出願日 平成23年6月10日登録日 平成24年3月9日意匠に係る物品 爪切りイ 被告の行為被告は,別紙「物件目録」1記載の爪切り(以下「被告製品1」という。)を中国から輸入し,少なくとも平成28年12月16日から平成29年7月19日までの間,株式会社ドン・キホーテ(以下「ドン・キホーテ」という。)に対し,小売用に販売してきた。被告製品1の物品は本件登録意匠の物品と同じく爪切りであり,被告製品1の意匠(以下「被告意匠」という。)は,本件意匠権の効力範囲に属する(争いがない。)。

(3) 不正競争防止法2条1項1号に係る請求に関する事実ア 原告製品の製造,販売原告は,別紙「原告製品目録」1及び2記載の爪切り(以下,両者を併せて「原告製品」という。)を製造,販売している。その商品形態の構成態様は,別紙「原告製品の構成態様」のとおりである。なお,原告製品は2種類存在するが,サイズが異なるのみであって形態は同一である。また,同一種類の原告製品には複数種類の品番が付されているが,流通ルート等によって品番を使い分けているにとどまり,同一種類内の製品は形態のみならずサイズも同一である。イ 被告の行為被告は,別紙「物件目録」2記載の爪切り(以下「被告製品2」という。)を中国から輸入し,少なくとも平成28年12月16日から平成29年7月19日までの間,日本全国に店舗があるドン・キホーテに対し,小売用に販売してきた。被告製品2の輸入,販売は,原告製品の形態との関係で不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為に該当する(争いがない)。

5 (4) 不正競争防止法2条1項14号に係る請求に関する事実ア 被告の行為被告は,前記(2)イ及び(3)イ記載のとおり,被告製品1及び被告製品2を中国から輸入し,少なくとも平成28年12月から平成29年7月までの間,ドン・キホーテに対し,小売用に販売してきたほか,別紙「物件目録」3記載の爪切り(以下「被告製品3」といい,被告製品1ないし3を併せて「被告各製品」という。)を中国から輸入し,少なくとも平成28年11月6日以降,ドン・キホーテに対し,小売用に販売してきた。イ 被告各製品における本件表示被告各製品は,ドン・キホーテの各店舗において,別紙「被告意匠の構成」及び同「被告製品2の構成」の「パッケージ」欄の写真並びに別紙「被告製品3のパッケージ」のとおり,1個ずつクリアケース(透明のケース)の中に入れられた印字済み台紙に固定された状態で陳列されていたところ,少なくともドン・キホーテに対して平成29年7月19日までに販売された被告製品1及び2並びに平成29年12月までに販売された被告製品3には,上記台紙の表面の左下に,横書きで,「日本仕上げ」と表示されていた(以下,この表示を「本件表示」という。)。なお,現在販売されている被告製品3には本件表示に代えて,「職人仕上げ」と表示されている(甲3ないし6,8,24ないし26,36ないし38,53,54,平成30年10月19日付けのドン・キホーテからの回答書に係る調査嘱託の結果(同月26日ドン・キホーテ発送の回答書補充資料を含む。))。ウ 被告各製品の中国での作業被告各製品は,中国において,少なくとも爪切りの先端部分に刃を付ける刃付けの作業までが行われ,爪切りとしての形態を有する状態で日本国内に輸入された(輸入された時点の状態につき,乙7の資料1の写真参照)。3 争点

(1) 不正競争防止法2条1項14号に係る請求のみに関する争点

5 本件表示は被告各製品の原産地又は品質等について誤認させるような表示か(争点1)

(2) 全請求共通の争点原告の損害の有無及び額(争点2)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(本件表示は被告各製品の原産地又は品質等について誤認させるよう

な表示か)について

(原告の主張)

(1) 原産地(製造国)の誤認表示

ア 本件表示は被告各製品のパッケージの正面に表示されており,その表示の仕方等に照らせば,取引者及び需要者は,本件表示により,被告各製品が日本で製造されたと認識する。被告が指摘するように,被告各製品のパッケージ底面には「Made in China」と表示されているが,バーコード等とともに極めて小さい文字で表示されるにとどまっており,需要者がその表示に触れることはなく,少なくとも気付く需要者はほとんどいない。また,本件で問題とされるのは需要者において真の原産地(製造国)と異なる地域を原産地と認識するおそれの有無であるところ,上記底面の表示により被告各製品の原産地を中国であると認識する需要者が一部存在するとしても,その表示に気付かずに,本件表示のみを見て,日本が原産地であると認識する需要者も相当数存在するはずであるから,被告各製品のパッケージ全体を総合的に観察した場合,需要者が本件表示をもって被告各製品の原産地が日本であると認識するおそれは,少なからず存在する。イ しかるに,被告各製品は中国で製造されたものであるから,本件表示は,取引者及び需要者をして,被告各製品の原産地(製造国)を偽装し,誤認させるものである。ウ 被告の下記主張について

5 被告の下記主張は否認し,争う。本件表示は,「日本」という国名と製造行

為を示唆する「仕上げ」の語が一連一体となって構成されているから,「職人品質」等の表示と相まって,需要者に原産地が日本であるとの認識を惹起させることは間違いない。

(2) 品質等の誤認表示

ア 本件表示には「仕上げ」という表現が含まれる以上,需要者は,本件表示により,少なくとも被告各製品の最終製造工程が日本で行われていると認識する。そして,最終製造工程が日本で行われているという事実は,品質,内容及び製造方法に係る事項である。イ しかし,被告各製品について「仕上げ」と称するに値するような作業は行われておらず,その最終製造工程が日本で行われている事実はない。被告は●(省略)●旨主張しているが,否認し,争う。仮に被告が日本で行っている作業が存在するとしても,せいぜい梱包作業くらいであるが,その作業は被告各製品を包装箱に入れるものに過ぎず,被告各製品に何らかの加工を施すものですらないから,被告各製品の最終製造工程を構成すると評価する余地はない。また,そもそも被告主張のその他の作業も,被告各製品の最終製造工程に該当しない。すなわち,●(省略)●などの作業は,異物や汚れの除去作業であり,それは製造作業が完了した後に行われる出荷前の最終検査に際して行われるに過ぎないし,また●(省略)●作業については,その目的や効果は不明で,無意味な作業であるから,最終製造工程には該当せず,取引者ないし需要者が「仕上げ」として認識する性質のものではない。そもそも,被告各製品は,「職人品質」等の謳い文句とともに販売されていたから,取引者ないし需要者は,被告各製品につき,少なくとも最終製造工程には一定期間製造技術を学んだ職人が日本において関与しており,当該職人でなければなし得ない製造技術によって製造されたことにより,被告各製品には中国をはじめとす

5 る外国製の爪切りにはない品質が確保されていると理解する。しかし,●(省略)

●は,その性質上,職人が学んだ製造技術とは一切無関係になされるものであるから,かかる観点からも,梱包作業を除く上記各作業が被告各製品の最終製造工程を構成することはあり得ない。ウ 以上より,本件表示は,被告各製品の品質,内容ないし製造方法を偽装し,誤認させるものである。

(被告の主張)

(1) 原産地(製造国)の誤認表示該当性

原産地を表示する場合,日本で製造されたことを示すには,「生産地:日本」,「日本製」又は「made in Japan」と表示されるが,本件表示は「日本仕上げ」というものである。そして,「仕上げ」という言葉は一般的に,仕上げ前の段階で一通りの仕事を終えていることを前提としたものであるから,本件表示は日本で行ったのが最終の微調整である「仕上げ」であることを端的に示しており,むしろ,被告各製品が「日本では製造されていないこと」を意味する表示である。本件表示に接した需要者がどのように認識するかは,本件表示そのもの(国語的意味)から,それに接した需要者がどう理解するかを中心に検討すべきであり,「仕上げ」に製造工程を含むとする解釈は取り得ない。したがって,そもそも本件表示は,被告各製品の原産地を表示するものではない。また,被告各製品のパッケージの底面には「Made in China」と,直接的かつ明確に製造国を示した記載が存在しているから,被告各製品を全体として見れば,上記記載により,被告各製品が中国において製造及び加工されたことは明らかであり,取引者又は需要者において,これが日本で製造及び加工されたものであるとの誤認を生じさせることはない。なお,爪切りのような小さなブリスターパックに包装されている商品では,パッケージの裏面や底面に製造地等を記載することは一般的なことであって,本件表示の位置が取引者又は需要者の誤認惹起の有無を左右するものではない。したがって,「日本仕上げ」との表示があっても,同表示は,製造国を

5 日本であると「誤認させるような表示」ではない。

(2) 品質等の誤認表示該当性

本件表示は,「日本仕上げ」という事実を表示しているに過ぎず,爪切りの「仕上げ」について規則や業界標準も存在しない中で,需要者が「品質」に具体的にどのような誤認をするのか判然としない。また,爪切りの「品質」とは何か,日本での「仕上げ」が施されているか否かによって爪切りの「品質」がどのように異なるのかも具体的に主張・立証されていない。したがって,本件表示が需要者に爪切りの品質について何をどう「誤認」させるのか等が不明である。さらに,「日本仕上げ」との表示を付した被告各製品について,表示に相当する客観的事実の存否ではなく,「切れ味」の良し悪しをもって需要者に誤認させるか否かを判断することも,販促のために表示を付す行為を徒に委縮させるものであって,相当ではない。

(3) 被告各製品に関する日本国内での加工作業

ア 爪切り本体は中国で製造されて被告に納品されるが,中国で製造された爪切りは,一般的に刃に刃くずやバリ,汚れ等が見られ,刃先が荒く,切れ味が悪いため,被告各製品として製品化されるまでに,被告は日本国内で,1個ずつ検品作業をし,不良品との選別を行っている。そして,検品作業で合格となった爪切りは,①●(省略)●②●(省略)●さらに,③●(省略)●④●(省略)●⑤●(省略)●⑥●(省略)●⑦パッケージ内に梱包される。以上のように,被告各製品は,日本国内で加工等が施された上で,製品として完成する。イ 本件表示との関係で論ずべきは,日本で仕上げが行われているかどうかであって,●(省略)●や梱包作業も含め,「仕上げ」である。このように,日本国内で被告各製品について仕上げがされ,その品質を確保し,商品価値を高めていることが,需要者に対する訴求力を一定程度高めるため,事実として「日本仕上げ」との本件表示を付しているのであり,この訴求力は,「日本製」であることによって

5 生じる訴求力とは別のレベルのものであるから,本件表示は取引者及び需要者を誤

認させる偽装表示ではない。

2 争点2(原告の損害の有無及び額)について

(原告の主張)

(1) 不正競争防止法2条1項14号に係る請求への同法5条2項の適用

ア 被告各製品は爪切りであるところ,原告も同じく原告製品を含む爪切りを製造販売等しており,原告と被告は同一の物品を取り扱ってきた。また,被告各製品は日本各地のドン・キホーテ等の小売店舗で販売されてきたところ,原告製品を含む爪切りも日本各地の小売店舗で販売されてきたから,原告と被告の販売先や販売形態も同一である。このように,原告製品を含む爪切りと被告各製品は市場において競合関係にあり,少なくとも,ドン・キホーテという同一の店舗において,完全に競合し,具体的な競合関係にあった。イ 被告の下記主張について被告は,原告製の爪切りと被告各製品の価格差を強調するが,両者ともにドン・キホーテという同一の店舗で取り扱われており,原告製の爪切りだけが殊更に高級品であるということはない。そして,本件表示の内容が被告各製品の販売に寄与していることは明白であるし,両製品とも実質的には同一の意味を有する文言をもって販促されていたから,製造技術を学んだ者が日本で製造過程の少なくとも一部に関与した高品質の爪切りを欲する消費者は,被告各製品がなければ原告製の爪切りを購入すると容易に考えられる。また,被告は,爪切りのシェアについて主張しているが,本件においては,ドン・キホーテという特定の店舗において原告製の爪切りと被告各製品との関係が問題になっているから,市場全体のシェアは全く関係がない。同場面において,両製品は完全な互換性を有しているから,原告に損害が発生していることは明らかである。ウ 以上より,原告の被告に対する不正競争防止法2条1項14号に係る請

5 求に当たり,同法5条2項が適用される。

(2) 被告各製品の販売等による原告の損害(全請求に関する主張)

被告は,被告各製品を中国の業者に製造させた上で輸入した後(被告製品1及び2については平成28年6月以降),日本全国にあるドン・キホーテ等の店舗に対し,小売用に販売してきた。そして,被告は被告各製品を1個販売するにつき,少なくとも400円の利益を得ている。また,被告は現在に至るまで,被告各製品を少なくともそれぞれ1万個ずつ販売した。したがって,被告による被告各製品の製造,輸入及び販売行為により,原告は,1200万円(400円×1万個×3)の損害を被った(意匠法39条2項,不正競争防止法5条2項)。また,原告は弁護士に委任して本件訴訟を提起することを余儀なくされ,原告が支払うべき弁護士費用は120万円を下らない。よって,被告による被告各製品の製造,輸入,販売行為により原告が被った損害額は,合計1320万円である。

(3) 被告の下記主張について

ア 経費について(全請求に関する主張)被告主張の経費は,無地クリアケース及び印字済みパッケージに係る費用を除き,否認する。被告主張の経費には客観的証拠が存在しないし,人件費については,侵害行為や不正競争がなくとも必要となる通常の経費であり,被告各製品を製造販売するために追加的に要する費用ではないから,控除は認められない。倉庫保管費についても同様である。イ 本件意匠権に基づく請求に関する主張(ア) 意匠法39条2項の適用及びその推定覆滅事由について原告は本件登録意匠の実施品(甲7。以下「原告実施品」という。)を販売しており,同製品は被告製品1と同じく,個人の消費者に向けて,各店舗で販売さ

5 れる。そして,両製品はいずれも趣向を同じくする需要者向けの製品であり,完全

に競合する。また,原告は卸売業者を通じて,ドン・キホーテにも原告製品(甲9)を含む爪切りを納入していたから,原告は原告実施品につきドン・キホーテと取引する機会を喪失したことは容易に想像できるし,また原告実施品は百貨店だけでなく,ドン・キホーテと同様の雑貨店で販売されていたから,販売チャンネルも被告製品1と異ならず,原告実施品の売上げに影響を及ぼしたことは明らかである。被告は爪切り全体の市場におけるシェアを指摘するが,ほぼデットコピーに該当する形態を備える製品相互間の競合が問題になっている本件において,これを論じても無意味である。なお,被告は公知意匠の存在を指摘しているが,本件登録意匠は一見して異なる形態を備えており,形態の一部の構成態様が珍しくないとしても,意匠法39条2項の推定が覆滅されることはない。以上より,本件には同項が適用されるし,同項の推定を覆滅する事情はない。(イ) 寄与率等について本件登録意匠は部分意匠であるが,登録外の部分も含めた物品全体の形態が類否判断の基礎となる以上,部分意匠であるからといって,登録された部分のみをもって侵害者の利益ないし権利者の売上げに寄与していると評価すべきではなく,一定の寄与率を認定して損害額を減じるべきではない。また,被告製品1の形態は,登録されていない部分も含めて本件登録意匠のほぼデッドコピーであり,登録されていない部分にかかる形態の違いをもって,推定の覆滅なり寄与度減額なりを主張できる前提にない。さらに,本件登録意匠において登録された部分は,レバー操作部とカバー部であり,需要者の注意を最も惹く正面図及び平面図の大部分を占める。被告製品1の包装及び陳列の状況を踏まえると,需要者は,被告製品1の購入に際し,本件登録意匠において登録された部分に相当する部分のみを視認するから,仮に本件登録意匠において登録された部分に着目して被告製品1の利益に対する寄与度を検討すると

5 しても,当該部分の寄与度がほぼ全てを占めるというべきである。

被告はその他に,需要者は刃に着目すると主張したり,被告製品1にgのマークが付されていることを指摘したりするが,刃について被告製品1と原告実施品で特段の形態の違いはなく,また被告製品1のgのマークによって被告製品1に誘引される需要者など一切観念できない。以上より,寄与度減額が認められる余地はない。ウ 不正競争防止法2条1項1号に係る請求に関する主張まず,被告は原告製品の形態に周知性及び特別顕著性がないなどと主張するが,かかる主張は争点の不当な蒸し返しであるとともに,侵害論における自らの主張を故意に真っ向から否定するものである。したがって,被告の上記主張は信義則に反するからそもそも許されるものではなく,また,時機に後れた主張として却下されるべきである。なお,原告製品の形態に周知性や特別顕著性が認められることは,その販売経緯等に照らし,明白であるし,被告指摘の公知意匠は証拠価値がなく,また形態の一部につき公知意匠と共通点があるとしても,不正競争防止法5条2項の推定は覆滅されない。また,被告は,原告製品と被告製品2の形態の差異を指摘するが,微差に過ぎないし,被告製品2に付されたgのマークによって被告製品2に誘引される需要者など一切観念できない。さらに,原告製品は,被告製品2が販売されていた間,ドン・キホーテに納入されており,両製品はドン・キホーテという同一の販売先においても完全に競合していたから,原告は被告製品2の販売等によって原告製品の売上げにかかる機会を大幅に喪失した。その他の主張は上記イ(ア)と同じである。以上より,本件には不正競争防止法5条2項が適用されるし,同項の推定が覆滅されることもない。エ 不正競争防止法2条1項14号に係る請求に関する主張

(被告の主張)

は否認し,争う。仮に被告指摘の他社の各商品が被告各製品が販売されていた時期にドン・キホー

5 テで販売されていたとしても,被告が指摘する各商品には,原告や被告が商品に付

しているような表示は付されていないし,被告各製品やこれに対応する原告製の爪切りとは形状が異なっている。したがって,被告指摘の事実によって原告の損害額が減額される余地はない。

(被告の主張)

(1) 被告が被告各製品を中国から輸入し,ドン・キホーテに対して販売してき

たことは認め,原告のその余の主張は否認し,争う。被告は被告各製品をドン・キホーテにのみ販売していたが,被告製品1及び2は既に販売を停止したし,本件表示のある被告製品3を販売していたのは,平成30年1月8日までである。また,被告は元々金型を所持しておらず,被告各製品を輸入しただけである。

(2) 被告の利益額について

ア 被告製品1被告は,平成28年12月16日から平成29年7月19日までの間に,●(省略)●イ 被告製品2被告は,平成28年12月16日から平成29年7月19日までの間に,●(省略)●ウ 被告製品3被告は,平成28年11月から平成30年1月8日までの間に,●(省略)●

(3) 本件意匠権に基づく請求に関する主張(推定覆滅,寄与率(寄与度減額)

等)ア 原告実施品は,原告の高級品ラインナップに位置するステンレス製の高級爪切りで,高級百貨店で販売される商品であり,価格帯は被告製品1の3倍近くである。これに対し,被告各製品は,「驚安の殿堂」というキャッチフレーズで知ら

5 れている総合ディスカウトストアであるドン・キホーテでのみ販売されたものであ

り,需要者層が異なる。そして,そもそも爪切りの需要者が購入に際して重視するのはその形態等ではなく,購入価格と刃の切れ味(機能)である。また,原告は,帝国データバンク上,業種別売上高243社中7位であり,原告のシェアはせいぜい5%ほどである。このように,原告と被告とは,同種の営業・市場での競業・競業関係等になく,爪切り市場における他の多数の競合品の存在等に鑑みれば,意匠法39条2項適用の前提を欠く。イ 本件登録意匠は,部分意匠であり,爪切りの操作レバー部とカバー部の形状に係るものであって,爪切り全体に占める割合は,表面積割合にしてもせいぜい40%程度である。また,爪切りの最重要部分は刃であるところ,製造原価比率でみれば,操作レバー部とカバー部は高くても20%程度の比率と考えられる。さらに,原告実施品は,そのパッケージ等に「匠の技」と大きく記載され,「HIGHQUALITY」「ステンレス製高級つめきり」であること等が全面に押し出されているこ,とや,爪切りで購入者が最も考慮するのは刃であること,また,その基本的構成態様を有する爪切りは多数存在すること,被告自身による営業努力,被告製品1特有のデザイン(黒塗りの地色に小文字の「g」を配したデザイン等)等に鑑みれば,被告製品1全体の利益に対する同製品の本件登録意匠と類似にあるとされる部分の寄与度は,高くても10%を超えることはない。ウ 原告のシェアがせいぜい5%であることや,原告が製品を他の製造会社に対してOEM供給しており,その方が利益率が低いことは,推定覆滅事由としても考慮すべきである。エ 以上より,仮に意匠法39条2項が適用されるとしても,被告の得た利益に上記寄与度を乗じるととともに,推定覆滅事由を考慮して,原告の損害額を算定すべきである。

(4) 不正競争防止法2条1項1号に係る請求に関する主張(推定覆滅,寄与率

5 (寄与度減額)等)

ア そもそも,

(原告の主張)

・立証内容では,特別顕著性及び周知性の主張・立証に成功していない。このように,実際のところ,二次的出所表示機能が生じていないような商品において,因果関係のある損害額はほとんどない(このことを損害論における推定覆滅事情として主張することは,時機に後れたものなどではない。 。また,原告製品の各構成要素と共通する要素を有する爪切りは多数存在し,)当該態様の各要素は,別紙「原告製品の構成態様」記載の構成E及びG以外は,爪切りであれば当然有する構成である。そして,原告製品は,原告が主張する商品形態(構成A~I)だけでなく,その他の要素が多数一体となった製品であり,原告製品には,「匠の技」というロゴや原告のコーポレートマークを添えた「GREENBELL」のロゴが極めて目立つ態様で付されるなどしている。他方,被告製品2は,原告製品と異なり,ツヤのある黒色であり,操作レバーの約3分の1に小文字の「g」というロゴが付されるなどしている。被告製品2に存在するこれらの特徴は,いわゆる打ち消し表示に該当し,原告製品との混同を防止するものである。イ 以上のことに加え,上記(3)で述べたことも踏まえると,原告と被告とは,同種の営業・市場での競業・競業関係等になく,爪切り市場における他の多数の競合品の存在等に鑑みれば,不正競争防止法5条2項適用の前提を欠く。また,仮に不正競争防止法5条2項が適用されるとしても,上記事情からすれば,被告製品2について不正競争防止法5条2項の推定の少なくとも99%を覆滅する事情があるといえ,又は原告製品の各態様のうち,必ずしも爪切りにおける不可欠な構成とまではいえない態様(構成E及びG)と被告製品2の態様との共通する部分について,被告製品2全体の利益に対する寄与度は1%を超えない。したがって,被告の得た利益に上記寄与度を乗じるととともに,推定覆滅事由を考慮して,原告の損害額を算定すべきである。

(5) 不正競争防止法2条1項14号に係る請求に関する主張

5 ア 同法5条2項の適用の有無(本件表示により原告に損害が発生したか)

品質等誤認惹起行為によっては,一般的に,特定の者に損害は発生しないから,原則,不正競争防止法5条2項は適用されないと解すべきであり,本件では例外的に推定を働かせる合理性も認められない。そして,本件では,被告各製品が販売されたことにより,原告に損害が発生する関係にはなく,現に本件表示により原告には損害が発生していない。すなわち,上述のとおり,原告製品と被告各製品の価格帯や訴求対象となる需要者は異なっており,明らかに市場が競合していない。また,本件表示には原告製品との関連を基礎付ける要素はなく,被告は研磨等の仕上げ作業をして爪切りに客観的に物理的な変化を与えているし,爪切りの「仕上げ」について業界標準等は存在しない。そして,爪切りの製造者は243社あり,その市場における原告のシェアは,高く見積もっても5%である。また,

(原告の主張)

を前提に,ドン・キホーテという特定の店舗における関係をみても,その店舗では,実際に貝印株式会社,株式会社東京化学品研究所等の爪切り製品が販売されており,被告が確認した限り,爪切り売り場に占める各社の割合は上記2社の割合が大きく,原告のシェアは極めて低いし,他社の製品においても原告製品と同様の表示がされていた。以上の事情に照らすと,本件表示によって原告製品の売上げが減少するとの関係性にはなく,原告に本件表示による損害が発生していないことは明らかである。したがって,仮に本件表示が品質等誤認表示と評価されたとしても,同法5条2項の損害額の推定規定は適用されない。イ 推定覆滅事由,寄与率(寄与度減額)等仮に,本件表示により需要者が想起する「品質」と,被告各製品の「品質」に差があるとしても,上述した原告のシェア,需要層の相違,多くの競合他社の存在,かかる競合他者のうちドン・キホーテに納入している業者も多いこと等の事情がある本件において,上記品質の差が原告に損害を与えることは想定し難く,万一,

5 損害を与える事態が想定できたとしても,極めて僅かにすぎない。

また,本件表示が被告製品3全体に占める割合は極めて小さく,一方で,需要者に対して,本件表示よりはるかに強いインパクトを与える表示が複数存在することを踏まえると,本件表示が与える影響は極めて小さい。さらに,被告製品3の販売行為による被告の利益は,被告の販売戦略,商品名,宣伝行為,主に価格面における被告の営業努力等様々な要因が組み合わさった結果であって,本件表示によって得た利益があるとしても,それは,被告製品3全体によって得られた利益のごく僅かにとどまる。以上より,仮に不正競争防止法5条2項による推定を受けるとしても,その推定は少なくとも99%以上は覆滅され,又は被告製品3全体の利益に対する本件表示の寄与度は1%にも満たないため,どれほど高くとも被告の得た利益額に1%を乗じた額が原告の損害額である。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件表示は被告各製品の原産地又は品質等について誤認させるような表示か)について

(1) 認定事実ア 本件表示の表示方法等(ア) 被告各製品のパッケージの表側から視認可能な内容本件表示は「日本仕上げ」というもので,これは「日本」という国名と,「仕上げ」という日本語を組み合わせて一体として表示したものである。そして,本件表示は爪切りである被告各製品とともにクリアケースの中に入れられている印字済み台紙の表面に横書きで記載されたもので,その具体的な表示場所は,別紙「被告意匠の構成」及び同「被告製品2の構成」の「パッケージ」欄の写真並びに別紙「被告製品3のパッケージ」のとおり,パッケージの表側から視認できる場所(その左下)である。また,本件表示は黒地の部分に白字で表示されている。

5 パッケージの表側からは,右側に爪切りである被告各製品が視認でき,その左側に上記台紙の表面の記載内容を視認することができる。そこには最も大きな字で縦書きで「爪切り職人」という商品名が記載されるとともに,それよりも小さい字で縦書きで「曲線刃大型」 「曲線刃中型」又は「曲線刃小型」との記載がされ,さら,に小さい字で横書きで,その上側(上記台紙の左上側)に「職人品質」と,下側(上記台紙の左下側)には本件表示がそれぞれ記載され(本件表示は縦の長さが約0.4㎝,横の長さが約2.4㎝であった。 ,さらに小さい字で縦書きで商品の説)明が記載されている。このうち最後の商品の説明内容は製品によって異なっているが,被告製品1では「硬い爪や大きな爪の方もしっかり切れる。爪飛びを軽減するキャッチケース付き。磨き上げ仕様で切れ味抜群。」と,被告製品2では「曲線刃だから爪に沿ってしっかり切れる。長時間使用でも疲れにくい。磨き上げ仕様で切れ味抜群。」と,被告製品3では「曲線刃だから爪に沿ってしっかり切れる。コンパクトサイズだから持ち運び簡単。磨き上げ仕様で切れ味抜群。」と記載されている(甲3,8,24ないし26,36ないし38)。(イ) 被告各製品のパッケージの裏側から視認可能な内容パッケージの裏側からは,クリアケースに入れられている印字済み台紙の裏面の記載内容を視認することができ,そこには「爪切り職人」という商品名が記載されているほか,商品仕様の説明や使用上の注意事項等が記載されている(甲3,24,26)。(ウ) 被告各製品のパッケージの底面から視認可能な内容クリアケースの中に入れられている印字済み台紙は,ケースの底面からもその記載内容を視認できるように折られてケースの中に入れられており,パッケージの底面からその記載内容を視認することができる。その左側にはバーコードが,その右の下側にはリサイクルマークである「紙」及び「プラ」マーク等が表示されているほか,その上側に横書きで「Made in China」と記載されている。底面は全体的に赤色で,上記の字等が白色で記載等されており,「Made in China」の記載は縦

5 の長さが約0.2㎝,横の長さが約1.3㎝であった(乙1)。イ 被告各製品の各店舗での販売方法ドン・キホーテの各店舗では,被告各製品がパッケージの表面(本件表示のある側)が正面になるように陳列されていた。また,被告各製品が陳列されている場所のすぐ横に,「爪切り職人」 「JAPAN QUALITY」 「その手に宿る熟練の技」とい, ,う宣伝文句が記載された紙が掲げられていることもあった(甲4ないし6,36ないし38)。ウ 爪切り等のパッケージにおける製造国の表示方法の例(ア) 原告製品では,別紙「原告製品の構成」の「パッケージ」欄の写真のとおり,パッケージの表側から視認可能な場所に「日本製」と明記してある。また,原告が製造販売している原告実施品も同様である(甲7,9)。(イ) 平成29年12月当時,貝印株式会社が販売していた「ステンレス爪切りS」では,パッケージの裏側下に,「MADE IN VIETNAM」と記載してあったほか,ピップ株式会社販売の「ストッパーつめきり(サイズ:M)」や白十字株式会社販売の「FC 足のツメキリ」でも,同じ場所に「MADE IN JAPAN」と記載してあった。また,平成30年9月当時,貝印株式会社や株式会社東京化学品研究所が発売していた爪切りも,同様であった(乙17,31。この点は,フェイスケア用品でも同様である[乙18]。)(ウ) なお,日本国内には多数の爪切りの製造販売業者が存在しており,帝国データバンク企業情報(調査日平成28年6月3日)では,原告は主業種が利器工匠具等製造,従業種が金物卸に分類され,その売上額は21億8300円(平成28年6月決算期),業種別売上高は全国243社中7位とされている。原告よりも売上高のある会社としては,貝印株式会社(平成29年3月期の売上高254億円)や白十字株式会社(平成28年度の売上高300億円)等がある(乙24ないし26)。エ 爪切りの製造方法の例

5 (ア) 貝印株式会社の例(甲44)まず,原材料となる鋼材をプレス機によって刃先を曲げるなどして,爪切りの上刃と下刃を製造し(プレス),その後,上刃と下刃をそれぞれ刃が向き合うようにして溶接する(溶接)。そして,溶接された爪切りを加熱炉で加熱し,冷やし,その後再び熱する(熱処理)。その後,表面をきれいに仕上げ(ショットブラスト),爪切りの先端に刃を付けた後(刃付け),上刃と下刃を調整するとともに(刃広げ),テコやビス等の部品を組み付け(仕組み),実際に試験紙を切って切れ味のテストをする(検査)。最後に,爪の飛散を防止するためのプラスチックケースを取り付けた後,包装する(包装)。(イ) 原告の例(甲58)別紙「G-1008 つめきり工程表」のとおりである。

(2) 本件表示の原産地(製造国)の誤認表示該当性ア 原告は,本件表示が被告各製品の原産地(製造国)を日本と誤認させる表示であると主張している。イ 本件表示は「日本仕上げ」という表示にすぎないところ,消費者用工業製品で製造国を表示する場合には,「○○製」とか「Made in ○○」などと,国名を明記した上で,その国で製造されたことが分かるような文言(「製」や「Made」等)を付記するのが一般的であり,前記(1)ウ認定の事実によれば,爪切りにおいても同様であると認められる。これに対し,本件表示は,「日本」という国名と,「仕上げ」という日本語を組み合わせて一体として表示したものであるが,「仕上げ」という言葉は,一般的に,「しあげること」 「できあがり」 「仕事の最終段階での手入れ」などと説明される, ,概念であり,またこれを「仕上げる」という動詞として捉えたとしても,「仕事を終える」とか「一度しおえたものを更に完全な形や状態にする」などいう意味であるから(乙22) 「仕上げ」という言葉を単体で用いた場合には,大部分の仕事を終,えた後の最終段階で行われること,あるいは一通りの仕事が終わった後に更に完全

5 な形や状態にするために行われることを意味すると認めるのが相当である。したがって,爪切りについていえば,「仕上げ」とは,爪切りとしての形態(外観)や機能を有するに至った後の工程を意味し,製品によって形態や構造や製造手順等が異なるので一概にはいえないものの,例えば,前記(1)エの製造工程でいえば,少なくとも爪切りの刃付け(原告の例では別紙「G-1008つめきり工程表」記載の先刃付け)や刃広げ,仕組みまでが終了した後の工程を意味すると解するのが相当である。そうすると,需要者は,「日本仕上げ」との表示から,爪切りを製造する一通りの仕事を終えた地は外国であり,日本では,それを更に完全な形や状態にするための作業を行ったものであると認識すると認められる。ウ ところで,不正競争防止法2条1項14号(以下,単に「14号」という。)が原産地誤認表示を規制する趣旨は,商品が産出,製造又は加工された土地が,それらの自然的条件や製造技術等から商品の主要な品質や内容に影響を及ぼし,その表示が需要者の商品選択に大きな影響を与えることから,原産地を誤認させる表示によって当該商品に対する不当な需要を喚起することを不正競争として防止することにある。この趣旨からすると,商品の「原産地」とは,産出,製造又は加工によってその商品に主要な価値が付与された地を意味すると解するのが相当であり,爪切りについていえば,一応爪を切ることができるような爪切りとしての形態(外観)や機能を有するに至った地を意味すると解するのが相当であるから,前記のように認識される「日本仕上げ」との表示は,日本を原産地とする旨の表示とはいえず,まして,被告各製品では,パッケージの底面に「Made in China」として,中国で製造された(Made)ことが明記されていることからすると,なおさらそのようにいえる(なお,原告は,被告各製品のパッケージにおける「Made in China」との表示が,底面に極めて小さい字で表示されているにすぎないと主張するが,同表示は通常の消費者用工業製品における製造国の表示方法と同列のものであるから,需要者は同表示をもって通常の製造国の表示であると認識すると認められる。 。この点)

5 について,原告は,被告各製品のその他の表示や被告各製品が陳列されている場所のすぐ横に掲げられた宣伝文句も考慮すべきとも主張しているが,これも併せて本件表示による誤認可能性を検討したとしても,需要者の「仕上げ」についての理解が異なることになるとはいえないから,上記判断は左右されないというべきである。したがって,本件表示が原産地の誤認表示に該当する旨の原告の主張は採用できない。

(3) 本件表示の品質等誤認表示該当性ア まず,本件表示は「日本仕上げ」という表示であり,被告各製品の品質,内容,製造方法を直接的にそのまま記載したものと認めることはできないが,14号が事業者間の公正な競争を図るために品質等の誤認表示を不正競争とした趣旨に照らせば,品質を直接・間接に左右する事実も14号の「品質」に当たるし,品質がどのようなものであるかを間接的に推認させる事実を誤認させる表示をすることも,同号の「商品の…品質…について誤認させるような表示をし」たことになると解するのが相当である。イ 前記(2)で述べたとおり,本件表示に接した需要者は,外国において爪切りとしての形態(外観)や機能を一応有するまで製造された被告各製品を,日本において更に完全な形や状態にしたと認識すると認められる。そして,「爪切り専門店おすすめ人気ランキング」を掲載したブログにおいて,「日本製の高級メーカー!」,「もちろん日本製の爪切りです。」と記載されている(甲10)ことからすると,爪切りについては,日本で製造された製品は高級であり,したがって品質が高いと認識されると認められるから,仕上げを日本で行った場合についても,単に外国から輸入した商品をそのまま販売している場合と比べて,品質がより向上していると認識するものと認められ,被告が,「仕上げ」を日本で行うことによって需要者に対する訴求力を一定程度高めると主張するのも,需要者のこのような認識を前提とするものと解される。そうすると,「日本」で「仕上げ」を行ったかどうかということは,商品の品質を直接・間接に左右する事実ということができるし,これを誤認させる

5 ことは,品質がどのようなものであるかを間接的に推認させる事実を誤認させることにもなると認めるのが相当である。もっとも,「日本仕上げ」という表示によって品質がより向上すると認識されるとしても,品質が向上する内容及び程度やそのための作業内容を一義的に認識させるものではない。しかし,前記の「爪切り専門店おすすめ人気ランキング」を掲載したブログ(甲10)では,切れ味や操作性の良さを高級爪切りの特徴として取り上げている上,被告各製品のパッケージには,「硬い爪や大きな爪の方もしっかり切れる。爪飛びを軽減するキャッチケース付き。磨き上げ仕様で切れ味抜群。」などと製品の特徴が表示されていることからすると,需要者は,少なくとも「日本仕上げ」という表示によって切れ味や操作性に関する品質が何らかの形で向上していると認識すると認めるのが相当である。

(4) 被告は被告各製品について日本国内で「仕上げ」をしていなかったかア この点について,被告は,日本国内で種々の仕上げ作業をしたと主張し,被告代表者の報告書(乙7,21),その陳述を記載した電話聴き取り報告書(乙8,23),その主張する作業の様子を撮影した映像(乙20)を提出している。これに対し,原告は,自ら購入した被告各製品の刃の状態を顕微鏡等で確認したり,刃の元素分析をしたりするなどして,被告が日本国内でその主張するような爪切りの仕上げをしていないことを立証しようとしている。そこで,これらに照らして,被告は被告各製品について日本国内で「仕上げ」といえる作業をしていなかったと認められるかについて検討する。イ まず,被告は,●(省略)●と主張し(前記第3の1の被告の主張の(3)アの①),被告代表者はこれに沿う陳述をしている。具体的には,●(省略)●などと陳述している。しかし,原告が購入した被告各製品の刃の状態は甲32の上の写真及び甲46の写真のとおりであり,刃に見られる線は横向きに平行に形成されているにすぎない(甲32,42,46,49)が,被告が説明するとおりの上記方法によって●

5 (省略)●また,被告代表者は●(省略)●ところが,上記各写真によると,原告が購入した被告各製品の刃には横向きに平行に形成された線しかみられず,これは機械的な線であるから,爪切りの刃そのものを製造した際についた線であると推認される。そして,それ以外に,●(省略)●これらに加え,被告代表者の陳述には客観的裏付けがないことも考慮すると,●(省略)●なお,後述のとおり,被告が中国から輸入した被告各製品には,●(省略)●をする必要があったとまで認めることはできないから,上記事情によって被告代表者の陳述が裏付けられるとはいえない。そうすると,被告代表者の上記陳述は,被告自身が販売した被告各製品の刃の客観的状態と整合しないから,これを採用することはできず,むしろ,上記刃の客観的状態に照らせば,●(省略)●はされなかったものと推認することができる。したがって,被告が●(省略)●をしていなかったとの原告の主張を採用することができる。ウ 次に,被告は,●(省略)●被告代表者はこれに沿う陳述をしている。この点について,原告は,被告主張のような作業はされていなかったことを裏付けるものとして,被告各製品の元素分析等の報告書(甲52)を証拠提出している。●(省略)●この分析結果からすると,被告各製品の●(省略)●認められる(なお,甲52は被告製品1ないし3のすべてについて元素分析をしたものではないが,被告の主張立証の内容に照らせば,製品ごとに判断の内容が変わるものとは考え難いから,甲52に基づき認定された事実による推認は他の製品にも及ぶというべきである。 。)●(省略)●ところが,市販されている被告各製品の新品では,●(省略)●しかし,そうであるとしても,実際に市販されている被告各製品に●(省略)●エ さらに,被告は,●(省略)●と主張し(同③),被告代表者はこれに沿

5 う陳述をしている(乙21)。ところで,この●(省略)●るという作業は,仕上げ作業の説明として当初に提出された乙7や,直後にそれを補足して,●(省略)●作業の求釈明に対して説明した乙8には何ら記載されておらず,刃の磨き作業の実施について原告から種々の疑問が示された後に提出された乙20及び21によって初めて述べられるに至ったものである。すなわち,●(省略)●もっとも,被告が中国から輸入した被告各製品には,刃くず等が付着していたことが認められる(乙7,23)一方で,実際に店舗で販売されていた被告各製品についてそのようなものがみられたことはうかがわれないから,被告において●(省略)●作業をしていた可能性は否定できない。しかし,●(省略)●作業は当初の乙7及び8では言及されていなかった程度のものであると考えられることからすると,それによって切れ味がよくなるなどして,爪切りとしての品質が高められるとまで認めることはできない。したがって,上記作業が「仕上げ」に該当する行為とはいえない。オ 加えて,被告は,●(省略)●,その上で,パッケージ内に梱包していた(同⑦)と説明している。しかし,上記④は切れ味の確認にすぎず,爪切りとしての品質を高めるために行われるものではない。また,⑤は,乙7では「研磨」の後の「包装」に位置付けられ,乙21では「切味チェックテスト」の後に位置付けられているから,主として製品の見栄えをよくするための作業であると認められ,それによって切れ味がよくなるなどして,爪切りとしての品質が高められると認めることはできない。また,⑥も,異物を除去するにとどまり,爪切りの刃や爪切り本体に対して何らかの作用を加えているわけではなく,⑦は商品として出荷し,販売するための準備行為にすぎないから,いずれも製品の品質を何らかの点で向上させる「仕上げ」に該当する行為とはいえない。カ 以上より,被告の主張する作業は,そもそもそれがされているとは認め

5 られないか,「仕上げ」とは評価することのできないものといわざるを得ず,かえって,原告の立証によれば,被告において,「仕上げ」と評価することのできる作業は一切行っていなかったと認めることができる。キ 以上より,本件表示は,被告各製品の「品質」について誤認させるような表示に当たると認めることができるし,上記のような意味での「仕上げ」も爪切りを完成させるまでの一工程であるから,「仕上げ」の有無を偽ることは,「製造方法」を偽ることにも該当するし,「品質」の誤認は「内容」の誤認にも当たる。したがって,本件表示は,被告各製品の品質,内容及び製造方法について誤認させるような表示に当たると認められる。

2 争点2(原告の損害の有無及び額)について(1) 侵害行為及び不正競争行為の内容前記第2の2(前提事実)によれば,被告による被告製品1の輸入及び販売行為は本件意匠権を侵害し,被告製品2の輸入及び販売行為は不正競争防止法2条1項1号(以下,単に「1号」という。)の不正競争に該当するということができる。なお,被告が日本国内で被告各製品を製造したとは認められない。また,原告は被告製品2の製造行為も不正競争行為であると主張しているが,同号においては「製造」する行為は規定されていないから,製造行為自体は不正競争行為に当たらない。次に,前記1の認定・判示に照らせば,被告が本件表示を付した被告各製品を販売したことは,14号の不正競争に該当する。なお,被告は被告各製品を輸入した後に本件表示を付したから,本件表示を付した被告各製品を輸入したとは認められない。以下,これらを前提に原告の損害額を検討する。(2) 事実認定まず,本争点の判断に必要な事実を認定する。前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の各事実が認められる。ア 原告が製造販売する爪切りについて

5 (ア) 原告実施品a 原告は本件登録意匠の実施品である原告実施品(匠の技 ステンレス製キャッチャーつめきりL)を製造し,百貨店や小売店(東急ハンズ等)で販売してきたところ(甲11ないし16。ただし,ドン・キホーテでは販売されていない。 ,その定価は2000円(税抜)である。原告実施品のパッケージの表側から)視認可能な場所に,「匠の技」「ステンレス製, キャッチャーつめきり」と商品名が記載されているほか,「本手造り 本刃付け仕上げ」「サクッと切れ味抜群」「日本, ,製」「HIGH QUALITY」と表示されている(甲7,乙27), 。b 原告のホームページでは,原告実施品について,まず「匠の技 最高峰 切れ味が生み出す高級感」という見出しを掲げ,その後に,「サクッと切れる心地よさはまさに爽快!!機能性はもちろん,オール金属製のシャープな質感とやさしさを感じさせる曲面フォルムの調和が魅力のつめきりです。細部にまでこだわった職人技の光る逸品。」と記載されている(乙27)。c 原告実施品は2011(平成23)年度グッドデザイン賞を受賞したところ,それを紹介するホームページにおいて,その「受賞対象の概要」の「概要」の項目で,「ステンレス刃物鋼と亜鉛合金で作られたオール金属製の爪切です。金属のシャープな質感と,優しさを感じさせる曲面造形とを調和させる事により,生活用品である爪切りに,新しい感動と満足を生み出しました。各部に最適な金属材量と金属加工技術を徹底追究し,既存の爪切りの課題であった『機能性とデザインの両立』 『切れ味が生み出す高級感』という2つのテーマを高次元で克服するだ,けでなく『最適な重量バランス』による『上質感』,さらには『切れ味の耐久性向上』という理想をも実現しました。」と記載され,「受賞対象の詳細」の「ユーザー・社会に伝えたいこと」の項目で,「刃物に一番大切なのは,切れ味であり,デザインもそれに裏付けられたものでなければなりません。それが『刀』から続く日本の刃物づくりの伝統であり,そこには人の心を豊かにしてくれるチカラがあるからです。低価格や高額なブランドで選ばれる製品があふれる中で,『日本の匠の技』を

5 適正な価格で提供する事で,切れ味の良い刃物を使う爽快感を多くの人に味わっていただきたいと思いました。」と記載されている。また,審査委員の評価として,「バッタの様にも見える有機的な形態が魅力の爪切りである。その新鮮なデザインを評価したい。デザインの新鮮さと共に,使い心地は,丁寧な手作業による『刃付け』により獲得し,機能的にもケースをスライドさせることで,刃先の露出度の調整も可能にしている。小さなプロダクトに込めた心意気が伝わってくる。」と記載されている(甲56)。d 「爪切り専門店おすすめ人気ランキング!日本製の高級メーカー!」というブログでは,爪切りランキング1位として原告実施品が紹介されており,原告実施品について,「刃を選び抜いた物を使用している上に,様々な技術も取り入れているので鋭利性と耐久性にかなり優れているそうです。また,軽い力で握れるように設計されているので,疲れにくくスムーズに切ることができます。」などと記載されている(甲10)。(イ) 原告製品a 原告は爪切りメーカーとして需要者に周知されているところ,原告製品は,昭和62年以降,約30年間にわたり,継続して販売されている。この間,原告製品は,百貨店や小売店で販売されてきたところ,著名な小売店の特別の販売ブースにおいても販売されたほか,全国放送を含むテレビ番組においても,頻繁に取り上げられた(甲18)。このようなことから,原告製品は,平成20年10月から平成29年3月までの9年間において,金額で2億円以上,数量で76万個以上の売上実績を上げるなどした(甲19)。b 原告製品のパッケージの表側から視認可能な場所に,「匠の技」「ス,テンレス製 高級つめきり」と商品名が記載されているほか,「本手造り 本刃付け仕上げ」 「日本製」 「HIGH QUALITY」と表示され,さらに別紙「原告製品目録」1, ,記載の製品(Sサイズ。以下「原告製品1」という。)には「細部まで良く切れる小さな爪に最適」と,同2記載の製品(Lサイズ)には「硬い爪も良く切れる 足

5 の爪に最適」と表示されている(甲9)。c 原告は,原告製品についてはドン・キホーテにも販売しており,被告が被告製品2をドン・キホーテに販売していた期間にも,原告製品をドン・キホーテに販売しており,原告製品1の上代価格は1100円であった(甲55)。イ 被告各製品について(ア) 被告各製品は,専らドン・キホーテに販売されており,クリアケースに入れられた状態で納入され,各店舗ではそのケースの表面が顧客から見えるように(別紙「被告意匠の構成」及び同「被告製品2の形態」の「パッケージ」欄の写真並びに別紙「被告製品3のパッケージ」参照)陳列されており,その表側からは本件表示や爪切りの上部(別紙「被告意匠の構成」及び「被告製品2の構成」の平面図の側)を視認することができた(甲3ないし6,8,24ないし26,36ないし38)。(イ) 被告が被告各製品をドン・キホーテに販売していた当時のドン・キホーテでの販売価格(税抜)は次のとおりであった(甲6,36,37)。a 被告製品1 1280円b 被告製品2 798円c 被告製品3 498円(ウ) 被告は,平成29年7月19日以降,ドン・キホーテに対して被告製品1及び2を販売しておらず,同年12月16日,ドン・キホーテは同製品の各店舗での販売を中止し,在庫は被告に返品され,売買代金も返金された。また,本件表示が付された被告製品3がドン・キホーテに販売されていたのは同月までであり,被告は,平成30年1月9日以降,ドン・キホーテに対し,本件表示に代えて「職人仕上げ」との表示がされた被告製品3を販売している(調査嘱託の各結果)。ウ 原告・被告以外の爪切り製造販売業者の爪切りについて原告と被告以外にも爪切りを製造販売している業者が多数あり,前記1(1)ウで認定したもの(乙17,31)以外にも,少なくとも甲10,61ないし64,

5 66ないし68,乙28ないし30のものがあった。被告製品1及び2の販売終了後ではあるが,平成30年9月時点で,ドン・キホーテの店舗でも,被告製品3に加え,貝印株式会社,株式会社東京化学品研究所,日野薬品工業株式会社が販売する爪切りが販売されていた。そして,店舗ごとに爪切りの陳列方法等は異なっていたが,被告製品3よりも貝印株式会社販売の商品の方が多く陳列されていることや,被告製品3は定番棚の横に台紙にかけられる形で陳列され,他社の製品が定番棚に陳列されていることもあった(乙31)。(3) 意匠法39条2項及び不正競争防止法5条2項の適用の有無ア 意匠法39条2項及び不正競争防止法5条2項は,民法の原則の下では,意匠権侵害や不正競争(以下「侵害行為」という。)によって意匠権者や不正競争によって営業上の利益を侵害された者(以下「意匠権者等」という。)が被った損害の賠償を求めるためには,意匠権者等において,損害の発生及び額,これと侵害行為との間の因果関係を主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者等が侵害行為によって利益を受けているときは,その利益額を意匠権者等の損害額と推定するとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。このように,上記各条項は,損害額の立証の困難性を軽減する趣旨で設けられた規定であって,その効果も推定にすぎないことからすれば,上記各条項を適用するための要件を,殊更厳格なものとする合理的な理由はないというべきである。したがって,意匠権者等に,侵害者等による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,上記各条項の適用が認められると解するべきであり,意匠権者等の販売する商品と侵害者等が販売する商品とが市場で競合している場合には,侵害者等による侵害行為がなかったならば意匠権者等が何らかの追加的な販売利益が得られるのが通常であるから,それにもかかわらず意匠権者等が利益を得られなかったことを基礎付けるための事情は,上記各条項の推定の覆滅事由として考慮されるべきものと解するのが相当である。

5 イ まず,本件意匠権に基づく請求及び1号に係る請求との関係では,前記認定のとおり,被告が被告製品1及び2をドン・キホーテに販売し,各製品がその各店舗で一般消費者に向けて販売され,他方で,原告も,本件登録意匠を実施した爪切りである原告実施品及び1号でその形態を保護される爪切りである原告製品を製造販売し,それらが百貨店を含む店舗で一般消費者に向けて販売されていたから,需要者を共通にしており,特に原告製品については卸売業者を通じ,被告製品2がドン・キホーテで販売されていた期間中,ドン・キホーテにも納品され,その店舗で販売されていたから販路も共通している。したがって,本件意匠権に基づく請求及び1号に係る請求との関係では,原告に被告による侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在すると認められ,上記各条項が適用されると解するのが相当である。この点,被告は,本件登録意匠の実施品である原告実施品は百貨店等の高級品市場の商品であるのに対し,ドン・キホーテのような総合ディスカウントストアで販売される被告製品1とは価格帯や販売チャンネルが異なっており,需要者や市場が共通せず,競合関係にない旨主張している。しかし,原告実施品も被告製品1も爪切りであり,最終的には一般消費者が購入するものであるし,その価格は被告製品1が店舗での販売価格1280円(税抜)であるのに対し,原告実施品は2000円(税抜)であり,価格差はあるものの,競合関係がおよそ否定されるほどの価格差であるとはいえない。また,原告製品と被告製品2とは同じドン・キホーテで販売されていた上,原告製品1は上代価格が1100円で,被告製品2のドン・キホーテでの販売価格は798円(税抜)であるから,これについても同様である。したがって,被告が指摘する事情によっても競合関係自体は否定できず,それらの事情は推定覆滅事由該当性の問題として検討すべきものである。また,被告は需要者が重視するのは製品の形態等ではないとか,市場における原告のシェアを指摘しているが,これらも推定覆滅事由該当性の問題として検討すべき事柄である。なお,被告は,原告製品については,損害論の主張として,その形

5 態に周知商品等表示性がない旨の主張もしているが,被告は侵害論の主張(これは損害賠償請求における請求原因も構成する。)において,被告製品2の販売等が原告製品の商品形態との関係で1号の不正競争行為に当たることを争わなかった以上,損害論としてであってもその周知商品等表示性の存在自体を争うことは,時機に後れたものとして許されないというべきである。ウ 次に,14号に係る請求との関係での不正競争防止法5条2項の適用の有無を検討する。(ア) まず,同法5条2項は,同条1項や3項と異なり,適用対象となる不正競争を限定していないから,その文言上,14号の不正競争も適用対象としていると解され,被告もそのこと自体を否定しているわけではないと解される。(イ) もっとも,前記のとおり同法5条2項は,損害の額を推定するにとどまり,損害の発生まで推定されるわけではなく,同項が適用される前提として,不正競争によって営業上の利益が侵害された者に損害が発生したことが必要であり,それが基礎付けられて初めて,同項が適用される。そこで,この点についてさらに検討すると,確かに,本件の各書証からもうかがえるように,爪切りは多数の業者が製造販売しており,爪切りの一般市場において,原告実施品や原告製品を含む原告の製造販売する爪切りのシェアが大きかったことを認めるに足りる証拠はない。したがって,一般市場での競合性を考えるだけでは,被告各製品に本件表示が付されたことによって,原告に,原告の製品が販売されなかったことによる逸失利益が発生したと認めることはできない。しかし,本件では,被告は被告各製品を専らドン・キホーテに販売していたところ(なお,原告は被告が同社以外の小売店に対しても被告各製品を販売していたと主張しているが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。 ,原告も原告製品)についてはドン・キホーテに販売しており,ドン・キホーテの各店舗では,原告製品と被告各製品が販売されていたことになる。そして,ドン・キホーテでは,一般市場で販売されているほど多種多様な爪切りが販売されていたわけではなく,不正

5 競争行為が終了した後のものではあるが,乙31からすると,多くても原告と被告以外に3社程度の業者の爪切りが販売されている程度であったと推認される。そして,これらの爪切りは定番棚かどうかはともかくとして,近くの場所に陳列されるのが通例と考えられる。しかも,原告製品には「匠の技」 「細部まで良く切れる」,などと,被告各製品にも「日本仕上げ」との本件表示のほか「職人品質」 「切れ味,抜群」などと,いずれもその品質をうたうキャッチフレーズが表示されている上,原告製品と被告製品2はその形態が類似しているし,被告製品1や3は原告製品と形態が類似しているわけではないが,同様の操作レバーによって操作するタイプの爪切りであって,爪切りの種類として同一の部類に属するものである。以上のことを踏まえると,上記イで判示した原告製品と被告各製品との価格差(なお,被告製品3のドン・キホーテでの販売価格は498円(税抜)であるところ,少なくとも上代価格1100円である原告製品1との関係では,競合関係を否定すべきとまでいうことはできない。)等を考慮しても,ドン・キホーテの各店舗という限られた場面では,原告製品の販売も本件表示による実質的な影響を受ける状況にあったと認められ,被告による本件表示を付した被告各製品の販売によって原告に原告製品が販売できないという逸失利益の損害が発生したと認めるのが相当である。以上より,14号に係る請求との関係でも同法5条2項が適用される。エ 以上判示したとおり,被告による本件意匠権侵害の不法行為及び各不正競争行為には,意匠法39条2項及び不正競争防止法5条2項が適用されるから,以下,侵害行為によって被告が得た利益の額について検討することとする。(4) 被告各製品の売上額及び被告による同製品の販売等に要した費用ア 被告各製品の売上額調査嘱託の各結果及び弁論の全趣旨によれば,被告は被告各製品をドン・キホーテに対して販売していたところ,その販売期間,販売数及び売上額は,次のとおりと認められる。なお,調査嘱託の各結果に不合理な点は認められず,調査嘱託

5 先のドン・キホーテが虚偽の回答をする動機も考えられないから,その裏付け資料を確認しなくてもその内容を信用することができる。また,返品分の販売によって被告は利益を得ていないから,被告の利益の額を算定するに当たっては返品分を販売数から控除するのが相当である。(ア) 被告製品1販売期間 平成28年12月16日から平成29年7月19日まで販売数 1個●(省略)●円で販売した数 ●(省略)●個(そのうち少なくとも●(省略)●個は返品されたため,それを控除すると●(省略)●個)1個●(省略)●円で販売した数 ●(省略)●個売上額 ●(省略)●円(返品分を控除すると●(省略)●円)(イ) 被告製品2販売期間 平成28年12月16日から平成29年7月19日まで販売数 ●(省略)●個(1個●(省略)●円)(そのうち少なくとも●(省略)●個は返品されたため,それを控除すると●(省略)●個)売上額 ●(省略)●円(返品分を控除すると●(省略)●円)(ウ) 被告製品3(本件表示がされたもの。以下,「被告各製品」に含まれる被告製品3を含め,同じ。)販売期間 平成28年11月6日から平成29年12月まで(これ以降に本件表示を付した被告製品3を販売していたことを認めるに足りる証拠はない。)上記期間の販売数 ●(省略)●個(1個●(省略)●円)上記期間の売上額 ●(省略)●円イ 被告各製品の販売等に要した費用被告は,被告各製品を販売するのに費用を要したと主張し,これを売上額から控除すべきと主張しているのに対し,原告は一部を除き,否認している。

5 そこで,被告の利益額を認定するに当たり,被告の上記主張について検討する。(ア) 被告主張の原材料費のうち「加工前本体」の金額(製造委託費又は購入費)これは被告各製品の製造委託費又は購入費(仕入金額)に当たるものと考

えられるが,乙2,9,弁論の全趣旨及び当裁判所に顕著な事実によれば,被告各

製品に係るその金額は,次のとおりと認められる。

被告製品1 1個●(省略)●ドル(輸入日である平成28年11月

日の為替レート(1ドル113.43円)で換算すると,●(省略)●円(0.

円未満四捨五入))

被告製品2 1個●(省略)●ドル(同●(省略)●円(0.1円未

満四捨五入)

)

被告製品3 1個●(省略)●ドル(同●(省略)●円)

(イ) 無地クリアケース及び印字済みパッケージ(印字済み台紙)

乙5,6,10,11によれば,それぞれ●(省略)●円/個,●(省

略)●円/個(いずれも税込)と認められる。

(ウ) 人件費

乙13によれば,被告は平成28年11月の給与として従業員に対し,●

(省略)●円(控除後の金額)を支払った事実が認められるが,その従業員の勤務

状況や被告各製品との関係等を裏付ける証拠は提出されていない。

したがって,その給与が被告各製品の販売等によって追加的に要した費用とは認

められず,被告の利益額算定に当たり,その額を売上額から控除すべきとはいえな

い。

(エ) 倉庫保管費

乙14によれば,被告は平成26年7月,神奈川県相模原市にある2階建

ての建物を,賃貸借契約期間を同年11月1日から平成29年10月31日まで,

家賃を●(省略)●円,共益費を●(省略)●円(それぞれ税込)と定めて,賃借

した事実が認められる。しかし,仮に被告がその建物を倉庫として使用しており,

そこに被告各製品が保管されていたとしても,被告が上記建物を賃借したのは被告

各製品の販売開始の2年程度前であり,その建物の延面積は288.75㎡であっ

たこと(乙14)に照らせば,被告各製品の販売等により,家賃を余分に支出する

ことになったとまで認めることはできない。

したがって,被告主張の倉庫保管費は被告各製品の販売等によって追加的に要し

た費用とは認められず,被告の利益額算定に当たり,その額を売上額から控除すべ

きとはいえない。

(オ) 輸送費

被告は,被告各製品のドン・キホーテの各店舗への輸送を運送会社に依頼

し,その輸送費(運賃)を支出したと認められるが(弁論の全趣旨),被告が実際に,

被告各製品を各店舗に輸送するために要した費用は不明である。もっとも,被告は

製品1個当たりの輸送費を推計しており,その具体的方法は,乙15及び16によ

って,1箱当たりの輸送費の平均値を求めるとともに,1箱に何個の製品が入れら

れていたかを求め,被告各製品の輸送に要した費用を推計するというものである。

この推計方法は,ドン・キホーテの店舗が全国にあり,輸送費が一律でないこと等

に照らせば,一定の合理性を有する推計方法ということができるから,その方法に

よって推計するのが相当である。

そして,乙15,16及び弁論の全趣旨によれば,平成29年6月20日から同

年7月3日までに合計73箱の輸送が依頼され,その運賃は合計●(省略)●円で

あったこと,ドン・キホーテの各店舗への輸送は伝票番号ごとに別々の箱に商品が

入れられ,各箱に入れられている製品の販売価格は●(省略)●円,●(省略)●

円,●(省略)●円の場合があったことが認められる。他方で,同一の伝票番号が

付された合計●(省略)●円の商品についての仕入伝票(乙4)が存在しており,

これによれば,1箱に入れられる製品の販売価格が上記額の場合もあると認められ

る。

これらだけでは輸送費を認定するための材料に乏しいことは否めないが,被告が

被告各製品の販売のために輸送費を追加的に支出したことはこれら資料から認めら

れるから,上記事実から合理的な輸送費を推定するほかない。そこで,上記の例に

より,1箱当たりの運賃は●(省略)●円(●(省略)●÷73,1円未満は四捨五

入)とするのが相当であり,また,1箱に入れられる商品の販売価格は,最低値

(●(省略)●円)と最高値(●(省略)●円)の平均である●(省略)●円とす

るのが相当であり,これらにより,輸送費はドン・キホーテへの販売価格の●(省

略)●%に相当する金額であると認めるのが相当である。

(カ) まとめ

以上より,被告の利益額算定に当たり,売上額から控除される費用は,上

記(ア),(イ)及び(オ)の各費用であると認められ,これによって被告の利益額を算定す

ると,次のとおりとなる。

a 被告製品1 ●(省略)●円

計算式:●(省略)●

b 被告製品2 ●(省略)●円

計算式:●(省略)●

c 被告製品3 ●(省略)●円

計算式:●(省略)●

(5) 推定覆滅事由等

ア 被告製品1関係について

(ア) 意匠権侵害関係について

a 意匠権侵害関係については,原告実施品の販売減少による逸失利益

が問題となるところ,前記認定の被告製品1の利益の額がその損害額と推定される

から,この推定に関する覆滅事由等が問題となる。

b 本件登録意匠が部分意匠であることの考慮について

本件登録意匠は部分意匠であり,意匠の対象となっているのは操作レバ

ーとカバー部である(別紙「本件登録意匠の構成」参照)のに対し,被告製品1は

爪切り全体であるから,本件意匠権侵害行為による原告の損害額と推定されるのは,

被告製品1の販売等による利益の額のうち,本件意匠権侵害部分である操作レバー

とカバー部に相当する額である。そして,被告は,それらの爪切り全体に占める割

合について,表面積にしてせいぜい40%であるとか,その部分の製造原価は高く

ても20%程度であると主張している。

確かに,本件登録意匠の対象部分が爪切りの一部であり,表面積としてみても,

爪切りの大半を占めるわけではないことは被告主張のとおりであるし,また爪切り

における重要部分が刃であり,爪切り全体に占める操作レバーやカバー部の製造原

価が一部にとどまることも,被告主張のとおりと推測される。

しかし,ここで被告製品1の全体に占める本件意匠権侵害部分の割合を検討する

趣旨は,被告製品1の販売利益に占める本件意匠権侵害部分の割合を明らかにする

ためであるから,その割合は,顧客吸引力の観点から,できる限り被告製品1の意

匠全体に対する本件意匠権侵害部分の貢献割合によって決めるべきものであり,被

告が主張する表面積や製造原価,特に製造原価の割合は,それを検討するための出

発点として分かりやすいものではあっても,一要素であるにすぎない。

そこで,本件登録意匠の特徴を検討すると,本件登録意匠のうち,操作レバーの

末端部側が紡錘状となる形状を備え(別紙「本件登録意匠の構成態様」の構成C),

カバー部も,操作レバーの末端部側よりも一回り大きい紡錘状となる形状を備え

(同構成D),操作レバーが先端部側から末端部側に至る中心面から上下に対称な

湾曲した稜線を介して上下に傾斜して下る形状を備え(同構成E),カバー部が中

ほどの紡錘状の稜線を介して操作レバー側に窪み,その窪みにおける稜線の中央近

傍側でより深く窪んだ形状を備えている(同構成F)点は,爪切りを手に持ち,あ

るいは置いて見たときに大きく目立つ点であり,本件の証拠に見られる他の爪切り

の意匠(甲10,61ないし64,66ないし68,乙17,28ないし31)に

は見られない特徴点で,爪切り全体の美感に与える影響が大きいと認められる。こ

のことは,原告のホームページで,原告実施品(甲56の写真参照)について,機

能性だけでなく,「やさしさを感じさせる曲面フォルム」に触れられていることや,

グッドデザイン賞の審査委員から,「バッタの様にも見える有機的な形態が魅力の爪

切りである。その新鮮なデザインを評価したい。」と評価されていることからもうか

がわれる。そして,爪切りの先端側の形状は,それ自体には上記の他の爪切りの形

状と比べて顕著な特徴があるとはいえないが,上記の末端側に比べて細くすぼまる

形状や,各部分の大きさ(同別紙の構成H及びI)のバランスは,「バッタの様に

も見える有機的な形態」との印象を与えるのに寄与しているといえる。

他方,被告製品1でも操作レバー及びカバー部の意匠は,本件登録意匠とほぼ同

一であり,爪切り全体の意匠としても原告実施品とほぼ同一であると認められると

ころ,操作レバー及びカバー部以外の部分(別紙「本件登録意匠の構成」の点線部

分に相当する部分)は,爪切り全体の中で相応に大きな面積割合を占めており,そ

の形態も合わさって全体が「バッタの様にも見える有機的な形態」との印象を与え

ることにもなっているものの,その部分の形態自体には,他の爪切りとの美感上の

顕著な差は認められない。そして,別紙「被告意匠の構成」の「パッケージ」欄の

とおり,被告製品1がドン・キホーテの店舗で販売される際には,クリアケースを

通してその平面視の状態を,末端側が若干だけ隠れた形で視認できるように陳列さ

れていたから(甲3ないし6),需要者は主として平面視の意匠を認識することにな

る。そうすると,被告製品1の意匠全体の美感に対して本件意匠権侵害部分が与え

る影響は高いというべきであり,被告が指摘する表面積や製造原価の点を考慮した

としても,被告製品1の意匠全体に占める本件意匠権侵害部分の割合は7割と認め

るのが相当である。

c 本件意匠権侵害関係で被告が主張する他の推定覆滅事由について

(a) 被告は,本件登録意匠と同一の基本的構成態様を有する爪切りは

多数存在するとして乙28の1ないし3の各意匠の存在を指摘するところ,この主

張は,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力への寄与の低さをいうことにより,

被告製品1についての後記(b)以下の事情の重要性をいう趣旨であると解される。

確かに,乙28の1の意匠では,カバー部と操作レバーの末端部側がそれ以外の

部分と比べて若干ふくらんでいるように見える。しかし,本件登録意匠は,操作レ

バーの末端部側を丸みを帯びた紡錘状となる形状とすること(構成C)と併せて,

カバー部の末端部側をそれよりも一回り大きい紡錘状となる形状とすること(同

D)によって,爪切りをたたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強

調されている。これと対比すると,乙28の1の意匠では操作レバーの末端部側は

カバー部の末端部側とほぼ同じ形態とされているにすぎず,全体として異なる美感

を有するものと認めるほかない。

また,乙28の2及び28の3については,爪切りがたたまれた場合の形態が不

明であるが,乙28の2の意匠はカバー部の末端部側がそれ以外の部分よりもすぼ

んでいるように見えるから,本件登録意匠と異なる美感を有するものといわざるを

得ない。さらに,乙28の3の意匠はカバー部が操作レバーよりも末端部側がふく

らんだ形態を有しているように見えるが,本件登録意匠の構成Bと異なり,操作レ

バーがほぼ平坦なように見え,末端部側へ向かって緩やかに湾曲して下る形状を有

しているとは認められない。そして,上述のとおり,本件登録意匠では,爪切りを

たたんだ場合に,その末端部側がふくらんでいることが強調されているところ,そ

れには本件登録意匠の構成Bも寄与していると認められるから,同構成を有してい

ない乙28の3の意匠と本件登録意匠の美感が共通しているとは認められない。

以上より,乙28の各意匠の存在が,本件登録意匠の被告製品1の顧客吸引力へ

の寄与の低さを基礎付けるとはいえないから,これにより推定が覆滅されるとはい

えない。むしろ,前記bで述べたところからすると,本件登録意匠は,原告実施品

とほぼ同一の形態である被告製品1について,「バッタの様にも見える有機的な形

態」との印象を与える特徴的な意匠であるというべきである。

(b) 次に,被告は,被告製品1特有のデザインの存在を主張している。

しかし,被告が主張する被告製品1特有のデザインについて,美感に与える影響が

大きいとはいえないから,これを推定覆滅事由として考慮することはできない。

(c) もっとも,爪切りは爪を切るために使用する実用品であり日用品

であるから,需要者が購入するに当たっては,一般にその切れ味等の性能や使いや

すさ,それらと価格とのバランスを重視するものと考えられ,商品のデザインを重

視して商品を購入することが多いとはいえない。確かに,原告実施品の場合は,複

数の百貨店や東急ハンズ等で販売され,日本製で定価が2000円(税抜)とされ

ており,爪切りの市場においては,販売価格が500円を下回る爪切りや,100

円前後の爪切りが販売されている(乙28,29,弁論の全趣旨)のと比べると,

爪切りの販売価格としては高いから,原告実施品は,価格の高い高級品として販売

されているといえ,そのような原告実施品を購入する需要者には,品質と並んでデ

ザインを重視する者も多くいると考えられる。これに対し,被告製品1は,専らド

ン・キホーテという総合ディスカウントストアで販売されており,店頭販売価格が

円(税抜)と他の爪切りにも見られる価格帯であり,それが専ら売られて

いたドン・キホーテにおいても,1000円前後の爪切りやそれよりも安い爪切り

が販売されていたことが推認される(乙31は侵害行為があった時期と異なる時期

のものであるが,これによっても推認可能である。)から,このような店舗と価格で

被告製品1を購入した需要者において,商品のデザインを重視して商品を購入する

ことが多いとは考え難い。また,爪切り市場において原告のシェアが高いとも認め

られない。

したがって,以上の点は,推定の一部覆滅事由たり得るというべきである(なお,

被告は,自身の営業努力を主張するが,被告製品1をドン・キホーテで販売できる

ようにしたという以上に,被告主張の営業努力が通常のものを超えたものであると

いうことはできない。)が,前記のとおり本件登録意匠が爪切りのデザインとして特

徴的なものであり,相応の顧客吸引力を有すると考えられること,被告製品1と原

告実施品の価格差が著しいというわけでもないこと,原告実施品の利益率が被告製

品1の利益率に比べて特に低いともうかがわれないこと(なお,被告は,原告がO

EM供給している製品については利益率が低いと主張しているが,そのような事実

を認めるに足りる証拠はない。)も考慮すると,推定覆滅率は60%と認めるのが相

当である。

d したがって,被告製品1の意匠権侵害行為に係る損害の額は,被告

製品1の利益の額の28%(0.7×0.4)となる。

(イ) 14号関係について

a 前記のとおり,被告製品1が専ら販売されていたドン・キホーテの

各店舗という限られた場面では,原告製品について本件表示による逸失利益の損害

が発生したと認めるのが相当である。したがって,前記認定の被告製品1の利益の

額が,被告製品1の14号の不正競争行為による原告製品の逸失利益の額と推定さ

れるから,この推定に関する覆滅事由等が問題となる。

b 前記1での判断のとおり,本件表示は品質等について誤認させるよ

うな表示であるが,その性質上,その表示がされなければ,当然に原告製品が同じ

だけ販売されていたという関係性が認められるわけではない。また,本件表示は,

品質等を誤認させる表示ではあるが,前記1での判断のとおり,「日本仕上げ」との

表示からは,日本での仕上げ作業によって切れ味や操作性に関する品質が何らかの

形で向上していると認識させるにとどまり,その向上の程度が高いことまでを認識

させるものではないから,本件表示が需要者の購入動機に与える影響は限定的なも

のにとどまる。そして,ドン・キホーテの各店舗に限ってみたとしても,本件表示

がされていた頃に,原告製品と被告各製品以外にどのような商品がどの程度,どの

ような形で販売されていたかは不明であるが,前記認定の平成30年9月当時のド

ン・キホーテの一部の店舗での販売状況によると,他に貝印株式会社を含む3社程

度の業者が販売する爪切りが販売されており,その販売商品には1000円前後又

はそれよりも安い被告各製品と同じような価格帯の商品が含まれていたと認められ,

被告製品1の販売当時もこれと同様であったと推認される。しかも,そのうち貝印

株式会社は原告よりも売上高が多い業者であったことに照らせば,被告製品1に本

件表示が付されなかったとしても,ドン・キホーテ内の限られた場面でさえ,かな

りの程度,被告製品1の購入が維持され,又は貝印株式会社の商品を含む他の業者

の商品が販売されていたと考えられる。

これらを考慮すると,その推定覆滅率は9割と認めるのが相当である。

したがって,被告製品1の14号の不正競争行為に係る損害の額は,被告製品1

の利益の額の10%となる。

イ 被告製品2関係について

(ア) 1号関係について

a 1号関係については,前記認定の被告製品2の利益の額が,原告製

品の販売減少による逸失利益の額と推定されるから,この推定に関する覆滅事由等

が問題となる。

b(a) まず,被告は損害論において,原告が特別顕著性や周知性の主

張・立証に成功していないことを主張し,一定の立証をしているのに対し,原告は

これを時機に後れたものとして却下することを申し立てているが,それらの程度を

問題にすることは損害論独自の主張として許されると解されるから,時機に後れて

提出した攻撃又は防御の方法に当たるとは認められない。したがって,原告による

上記申立てを却下することとする。

その上で,被告の主張についてさらに検討すると,上述したように,被告製品2

の販売による1号の不正競争行為については不正競争防止法5条2項による推定が

認められるから,被告が原告製品の商品形態の特別顕著性や周知性の程度を問題に

するに当たっても,その推定を覆滅させるほどの主張立証を尽くすことができたか

という観点から検討すべきである。

(b) まず,被告は乙29及び30の各商品の形態が,原告が原告製品

において独特の形態であるとする構成EやGに係る形態(別紙「原告製品の構成態

様」参照)と同一又は類似している旨を主張している。

しかし,乙29の1の上刃体及び下刃体の末端部に左右方向に穿設された長孔は

1本しかなく,乙29の2及び29の3の商品には,上刃体及び下刃体の末端部に

左右方向に穿設された長孔が存在しているようにも見えるが,その本数や形状は判

然としないから,いずれの商品も,原告製品の構成Eと構成Gの双方に相当する形

態を有しているわけではない。また,乙30の2ないし4の各商品はAmazon.co.jp

での取り扱い開始日がそれぞれ平成30年1月24日,平成29年6月7日,平成

年3月22日であるから(甲66,67,乙30の4),これによって平成28

年12月から平成29年7月の不正競争行為時において推定が覆滅されるほどに特

別顕著性が乏しかったとはいえない。

以上のことを踏まえると,乙29及び30によって,推定が覆滅されるほどに特

別顕著性が乏しいことを立証できたとまでいうことはできないし,販売開始時期等

に照らせば,これらの各商品を原告製品の競合品ということもできない。

(c) また,被告は原告製品の形態の周知性を問題にしているが,原告

が提出している証拠の一部内容を指摘するなどするにとどまっており,それによっ

て推定が覆滅されるほどに周知性が乏しいことを立証できたとまでいうことはでき

ない。

(d) 以上より,被告の上記主張を推定覆滅事由として考慮すべきとは

いえない。

c その他の被告の主張について

(a) 被告は,原告製品の各構成要素と共通する要素を有する爪切りが

多数存在しているとも主張しているが,被告製品2の販売が原告製品の商品形態と

の関係で1号の不正競争行為に当たることを前提とする以上,原告製品が爪切りで

あれば当然有する構成を備えていることだけで推定が覆滅されるとはいえない。

(b) また,被告は,被告製品2と原告製品との色及び形態の差異や

「g」のロゴの存在を指摘しているが,原告製品において独特な形態とされる構成

E及びGの形態の内容に照らせば,被告指摘の各点は微差であり,また「g」とい

うロゴがあるだけで打ち消し表示に当たるともいえないから,被告指摘の点が推定

覆滅事由になるとはいえない。

(c) さらに,被告は,原告製品と被告製品2の価格差を指摘している。

確かに,被告製品2の店頭販売価格は798円(税抜)であるのに対し,原告製

品1のドン・キホーテにおける上代価格は1100円である。しかし,ここでの原

告製品は,先の原告実施品と異なり,ドン・キホーテの各店舗でも販売されており,

上代価格も他の爪切りと同様の価格帯であるから,販売価格の差がさほど大きいと

はいえない。これらからすると,原告製品と被告製品2の価格差によって推定が覆

滅されるとはいえないというべきである。

(d) このほかにも被告は縷々主張するが,前記アで判示したところに

照らしていずれも採用できない。

d 以上より,推定の覆滅は認められない。

(イ) 14号関係について

号関係でも,被告製品2の販売による原告製品の逸失利益が原告の損

害であり,被告製品2の利益の額が原告製品の逸失利益の額と推定されることは,

前記(ア)の1号関係と同様である。そうすると,14号関係は,1号関係と同一の損

害の填補を目的とすることになるから,原告の損害額を算定するに当たっては,被

告製品2の販売による原告製品の逸失利益として,推定覆滅の割合をまとめて検討

するのが相当である。そして,被告製品2関係については,前記(ア)のとおり,1号

関係での推定覆滅が認められない以上,14号関係についてそれ以上に付加すべき

損害があるとは認められないから,推定覆滅についても独自の検討をする必要はな

いというべきである。

(ウ) したがって,被告製品2の1号及び14号の不正競争行為に係る損害

の額は,被告製品2の利益の額となる。

ウ 被告製品3関係について

被告製品3関係については,14号の不正競争行為について,前記認定の被

告製品3の利益の額が,原告製品の販売減少による逸失利益の額と推定されるから,

この推定に関する覆滅事由等が問題となる。

そして,前記ア(イ)で判示したところと同様に,推定覆滅率は90%と認めるのが

相当である。

したがって,被告製品3の14号の不正競争行為に係る損害の額は,被告製品3

の利益の額の10%となる。

(6) 原告の損害額

ア 以上の認定・判示によれば,意匠法39条2項及び不正競争防止法5条

項に基づく原告の損害額は,次のとおり,●(省略)●円である。

(計算式) 被告製品1に係る被告の利益●(省略)●円×0.38(意匠

権侵害行為に係る損害と14号の不正競争行為に係る損害分)+被告製品2に係る

被告の利益●(省略)●円+被告製品3に係る被告の利益●(省略)●円×0.1

≒●(省略)●円

イ また,原告は本件訴訟の追行等を原告訴訟代理人弁護士に委任したとこ

ろ,被告の不法行為及び不正競争行為と相当因果関係のある弁護士費用は●(省

略)●万円と認めるのが相当である。

ウ 以上より,被告の不法行為及び不正競争行為による原告の損害額は,合

計76万1265円となる。

(7) 損害賠償債務についての遅延損害金の起算日について

原告は,訴状送達日の翌日から支払済みまでの遅延損害金の支払を請求してい

るが,被告は訴状送達後もしばらく被告各製品の販売を継続しており,訴状送達日

の翌日を起算日とすることができるのは,その日までにドン・キホーテに対して販

売された製品に係る損害の賠償債務に限られる。

被告製品1及び2は,訴状送達日の翌日(これが平成29年6月14日であるこ

とは,当裁判所に顕著な事実である。)よりも前から販売されていたが,調査嘱託の

結果によっても,どの損害(被告の売上げ)が訴状送達日の翌日までの販売による

ものかが不明であるから,結局,遅くとも最終販売日である平成29年7月19日

には全ての損害について不法行為及び不正競争行為が行われたとの限度で認めるほ

かなく,上記(6)で認定した被告製品1及び2の販売による損害((6)アで認定した

被告製品1及び2に係る損害60万8782円)については,その日を遅延損害金

の起算日とするしかない。

また,本件表示が付された被告製品3についても訴状送達日の翌日より前から販

売されていたところ,調査嘱託の結果(平成30年10月26日ドン・キホーテ発

送の回答書補充資料)によれば,訴状送達日の翌日までの売上げであることが確実

なのは,平成29年5月までの仕入金額に相当する合計●(省略)●円(●(省

略)●個×●(省略)●円)と認められる。これに対し,それより後の被告の売上

げは訴状送達日の翌日より後の不法行為によるものであり,調査嘱託の結果によっ

ても,別紙「被告製品3の販売数と各月の損害額」の「販売数」欄記載のとおり,

月ごとの販売数及びこれに対応した月ごとの販売金額しか分からないから,遅くと

も各月の末日には各月分の損害(被告の利益)が生じたとの限度で認めるほかない。

これを踏まえると,上記(6)アで認定した被告製品3の販売による損害(●(省略)

●円。●(省略)●円の1割)のうち1万8713円は訴状送達日の翌日が起算日

となり,その余は同別紙の平成29年6月以降の「各月の損害額」欄記載の各金額

につき各月末日が起算日となる。

なお,弁護士費用については,各損害賠償請求権と差止請求に係るものが一体と

して請求されていると解されるから,その遅延損害金の起算日は,上記のうちの最

終の不法行為の日である平成29年12月31日とするのが相当である。

差止請求及び廃棄請求について

(1) 差止請求

ア まず,原告は被告製品1の製造,販売等の差止めを請求しているところ,

確かに,被告は平成29年7月には被告製品1の販売を中止し,本件訴訟の侵害論

において,同製品が本件意匠権の効力範囲に属することを争わなかった。

もっとも,被告は原告から本件訴訟の提起前に内容証明郵便でその製造,販売等

の中止を求められていたにもかかわらず(甲27,29),販売を中止したのは訴状

が被告に送達され,答弁書を提出した後であり,本件訴訟が提起された結果,販売

を中止したにすぎないから,依然として同製品を販売し,輸入し,又は販売の申出

をするおそれがあると認められる。また,被告は被告製品1を日本国内では製造し

ていないが,中国の会社に製造委託したと推認されるから,これを日本国内で製造

するおそれもあると認められる。

したがって,被告製品1についての差止請求はすべて理由がある。

イ 次に,原告は被告製品2についても同様の差止めを請求しているところ,

被告は被告製品2も平成29年7月に販売を中止し,本件訴訟の侵害論において,

同製品が1号に属することを争わなかった。

もっとも,販売中止の経緯は上記アと同じである上に,被告は損害論において同

製品の特別顕著性や周知性を争う主張をしており,現時点でも,同製品を販売し,

輸入し,又は販売の申出をするおそれがあると認められる。なお,1号において商

品の製造は不正競争とされていないから,その差止請求は認められない。

したがって,被告製品2の製造の差止請求には理由がなく,その余の差止請求に

は理由がある。

ウ さらに,原告は被告各製品の包装紙及び包装箱についての「日本仕上

げ」の表示の差止めを請求しているところ,被告は平成30年1月9日以降,被告

各製品について本件表示を付すのをやめている。

もっとも,被告は本件表示が品質等について誤認させるような表示かどうかとい

う点を争ってきたのであるし,本件表示を付すのをやめたのは,ドン・キホーテに

対する調査嘱託がされた後であり(弁論の全趣旨),それを受けたものであることが

推認され,自発的にそのような対応をとったわけではないから,依然として同製品

に本件表示を付して第三者に販売等するおそれがあると認められるから,「日本仕上

げ」との表示の差止請求には理由があるというべきである。

(2) 廃棄請求

被告の答弁書や乙10の記載内容,ドン・キホーテから被告製品1及び2に係

る在庫品が返品されたこと,その他の経緯に照らせば,被告は被告製品1及び2や

本件表示が付された被告各製品の印字済み台紙(包装紙又は包装箱に相当する。)を

所持していると推認されるから,これらの廃棄を命じる必要があり,それを求める

原告の請求には理由がある。

これに対し,被告が被告製品1及び2の製造に必要な金型を所有・所持している

ことを認めるに足りる証拠はないから,これらの廃棄を求める原告の請求には理由

がない。

結論

以上により,原告の請求は主文第1項ないし第6項の限度で理由があるから,

その限度で認容し,その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとして,

主文のとおり判決する。なお,主文第1項ないし第5項については,仮執行の宣言

を付すのは相当でないから,これを付さないこととする。

大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

髙 松 宏 之

裁判官

野 上 誠 一

裁判官

大 門 宏 一 郎

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