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平成29(ワ)44053特許権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和1年5月29日
事件種別 民事
法令 特許権
特許法36条6項1号13回
特許法36条6項2号3回
特許法102条2項2回
特許法100条1項1回
キーワード 実施65回
分割34回
進歩性28回
特許権27回
無効20回
新規性15回
優先権11回
刊行物10回
無効審判10回
侵害5回
差止3回
損害賠償2回
審決1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とし,補助参加によって生じた費用は補助参加人らの負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。10
事件の概要 1 事案の要旨 ⑴ 本件は,特許第6226216号の特許権(以下「本件特許権1」とい う。),特許第6241794号の特許権(以下「本件特許権2」という。),特 許第6253842号の特許権(以下「本件特許権3」といい,本件特許権1及び5 2と併せて「本件各特許権」という。また,本件各特許権に係る特許及び明細書を, 特許権の番号に対応させて「本件特許1」,「本件明細書1」などといい,これら の特許及び明細書を一括して「本件各特許」,「本件各明細書」という。)につき, それぞれ専用実施権(以下,特許権の番号に対応させて「本件専用実施権1」など といい,これらを一括して「本件各専用実施権」という。)を有する原告が,被告10 らにおいて製造,販売,販売の申出(以下,これらの行為を一括して「製造販売等」 という。)をしている別紙2被告製剤目録記載1の各製剤(以下,これらを一括し て「被告製剤」という。)は本件特許1の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以 下「本件発明1」という。),本件特許2の特許請求の範囲請求項1ないし3記載 の各発明(以下,請求項の番号に対応させて「本件発明2-1」などといい,これ15 らを一括して「本件発明2」という。),本件特許3の特許請求の範囲請求項1記

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判決文

令和元年5月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成29年(ワ)第44053号 特許権侵害差止請求事件

口頭弁論終結日 平成31年2月25日

判 決

当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とし,補助参加によって生じた費用は補助

参加人らの負担とする。

3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主位的請求

⑴ 被告サンドは,別紙2被告製剤目録記載1の各製剤の製造,販売,輸入又は販売の申出をしてはならない。

⑵ 被告協和発酵キリンは,別紙2被告製剤目録記載1の各製剤の販売又は販売の申出をしてはならない。

⑶ 被告らは,原告に対し,連帯して,1億円及びこれに対する平成30年9月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 予備的請求

⑴ 被告サンドは,添付文書に別紙2被告製剤目録記載2の内容を記載した同目録記載1の各製剤の製造,販売,輸入又は販売の申出をしてはならない(前記1⑴の予備的請求)。

⑵ 被告協和発酵キリンは,添付文書に別紙2被告製剤目録記載2の内容を記載した同目録記載1の各製剤の販売又は販売の申出をしてはならない(前記1⑵の予備的請求)。

第2 事案の概要

1 事案の要旨

⑴ 本件は,特許第6226216号の特許権(以下「本件特許権1」という。),特許第6241794号の特許権(以下「本件特許権2」という。),特

5 許第6253842号の特許権(以下「本件特許権3」といい,本件特許権1及び2と併せて「本件各特許権」という。また,本件各特許権に係る特許及び明細書を,特許権の番号に対応させて「本件特許1」,「本件明細書1」などといい,これらの特許及び明細書を一括して「本件各特許」,「本件各明細書」という。)につき,それぞれ専用実施権(以下,特許権の番号に対応させて「本件専用実施権1」などといい,これらを一括して「本件各専用実施権」という。)を有する原告が,被告らにおいて製造,販売,販売の申出(以下,これらの行為を一括して「製造販売等」という。)をしている別紙2被告製剤目録記載1の各製剤(以下,これらを一括して「被告製剤」という。)は本件特許1の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明1」という。),本件特許2の特許請求の範囲請求項1ないし3記載の各発明(以下,請求項の番号に対応させて「本件発明2-1」などといい,これらを一括して「本件発明2」という。),本件特許3の特許請求の範囲請求項1記載の発明(以下「本件発明3」といい,本件発明1及び2と併せて「本件各発明」という。)の技術的範囲に属し,被告らによる被告製剤の製造販売等は本件各専用実施権を侵害すると主張して,被告らに対し,特許法100条1項に基づき,主位的に,被告製剤の製造,販売,輸入又は販売の申出の差止め,予備的に,被告製剤のうち,添付文書に別紙2被告製剤目録記載2の内容の記載のあるものの製造,販売,輸入又は販売の申出の差止めを求めるとともに,民法709条及び719条1項前段に基づき,平成30年1月18日から同年8月28日までの本件各専用使用権侵害の不法行為による損害賠償金1億円及びこれに対する不法行為後の日である同年9月13日(損害賠償請求に係る同年8月28日付け訴えの追加的変更申立書送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。補助参加人全薬工業は,本件各発明の実施品であるとする製剤について,原告との間で契約を締結し,補助参加人中外製薬は補助参加人全薬工業との間で契約を締結し,いずれも我が国において上記製剤を販売しており,本件訴訟の結果について

5 利害関係を有するとして原告を補助するため本件訴訟に参加した。

⑵ 被告らは,被告製剤が本件各発明の技術的範囲に属することを否認するとともに,本件各特許は,発行順に列挙した次の刊行物記載の発明等に基づき進歩性を欠くこと,特許法36条6項1号に違反することなどを理由として,特許無効審判により無効とされるべきである旨を主張して争っている。ア B.K.Linkら「PHASE Ⅱ PILOT STUDY OF THE SAFETY AND EFFICACY OFRITUXIMAB IN COMBINATION WITH CHOP CHEMOTHERAPY IN PATIENTS WITH PREVIOUSLYUNTREATED INTERMEDIATE-OR HIGH-GRADE NHL」American Society of ClinicalOncology,Vol.17, p.3a(Abstract 7)」(平成10年(1998年)4月発行)(乙9。以下「乙9文献」という。)イ 鏡味良豊「マウス/ヒトキメラ抗体によるB細胞リンパ腫の治療」血液・腫瘍科, Vol.36, No.6, pp.479-486(平成10年(1998年)6月28日発行)(乙1。以下「乙1文献」という。)ウ M.L.Grossbardら「The McLaughlin et al Article Reviewed」OncologyVol.12, No.12, pp.1769-1770(平成10年(1998年)12月発行)(乙33。以下「乙33文献」という。)エ D.G.Maloney「Antibody therapy has arrived. Now where does it fit?」Annals of Oncology, Vol.10, No.6, pp.619-621(平成11年(1999年)6月発行)(乙32。以下「乙32文献」という。)オ U.Winklerら「Behandlung von malignen Lymphomen mit dem Monoklonalenanti-CD20 Antikörper Rituximab(IDEC-C2B8)」Der Onkologe, Vol.5, Issue6,pp.532-540(平成11年(1999年)6月発行)(乙54。以下「乙54文献」という。)2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番の記載を省略する。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

5 ⑴ 当事者ア 原告は,医薬品の製造及び販売等を業とする米国法人である。イ 補助参加人ら(以下,原告と併せて「原告ら」という。)は,いずれも医薬品の製造及び販売等を業とする株式会社であり,我が国において,抗CD20モノクローナル抗体医薬品であるリツキシマブ(遺伝子組換え)製剤(以下「リツキサン製剤」という。)を販売している。ウ 被告らは,いずれも医薬品の製造及び販売等を業とする株式会社である。

⑵ 本件各特許権及び本件各専用実施権ア 本件特許権1及び本件専用実施権1(ア) 米国法人であるバイオジェン インコーポレイテッド(以下「バイオジェン」という。)は,次の内容の本件特許権1を有している。出願日 平成29年5月2日分割の表示 特願2015-32737の分割原出願日 平成11年8月11日(以下「本件原出願日」という。)優先日 平成10年8月11日(以下「本件優先日」という。)優先権主張番号 60/096,180優先権主張国 米国(ただし,優先権主張の効果が及ばないことについて,当事者間に争いがない。)登録日 平成29年10月20日特許番号 特許第6226216号発明の名称 抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法(イ) 原告は,平成29年10月24日,バイオジェンから,本件特許権1について,次の内容の本件専用実施権1の設定を受け,その旨の登録を得て,同専用実施権を有している(甲1)。地域 日本全国期間 本件特許権1の存続期間中

5 内容 本件特許権1により保護される製品の製造,使用,譲渡,販売,輸入及び譲渡若しくは販売の申し出(ウ) 本件発明1は,次のとおりである。「リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される,上記医薬組成物。」イ 本件特許権2及び本件専用実施権2(ア) バイオジェンは,次の内容の本件特許権2を有している。出願日 平成27年2月23日分割の表示 特願2013-168046の分割原出願日 平成11年8月11日(本件原出願日)優先日 平成10年8月11日(本件優先日)優先権主張番号 60/096,180優先権主張国 米国(ただし,優先権主張の効果が及ばないことについて,当事者間に争いがない。)登録日 平成29年11月17日特許番号 特許第6241794号発明の名称 抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法(イ) 原告は,平成29年11月17日,バイオジェンから,本件特許権2について,次の内容の本件専用実施権2の設定を受け,その旨の登録を得て,同専用実施権を有している(甲3)。地域 日本全国期間 本件特許権2の存続期間中内容 本件特許2の特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許

5 権により保護される製品の製造,使用,譲渡,販売,輸入及び譲渡若しくは販売の申し出(ウ) 本件発明2は,次のとおりである。a 本件発明2-1「リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,上記医薬組成物。」b 本件発明2-2「リツキシマブ及び前記化学療法での治療が,有効な相乗作用を提供する,請求項1に記載の医薬組成物。」c 本件発明2-3「リツキシマブが,375mg/㎡の用量として投与される,請求項1又は2に記載の医薬組成物。」ウ 本件特許権3及び本件専用実施権3(ア) バイオジェンは,次の内容の本件特許権3を有している。出願日 平成29年10月3日分割の表示 特願2015-32737の分割原出願日 平成11年8月11日(本件原出願日)優先日 平成10年8月11日(本件優先日)優先権主張番号 60/096,180優先権主張国 米国(ただし,優先権主張の効果が及ばないことについて,当事者間に争いがない。)登録日 平成29年12月8日特許番号 特許第6253842号発明の名称 抗CD20抗体の投与を含むB細胞リンパ腫の併用療法

5 (イ) 原告は,平成29年12月8日,バイオジェンから,本件特許権3について,次の内容の本件専用実施権3の設定を受け,その旨の登録を得て,同専用実施権を有している(甲5)。地域 日本全国期間 本件特許権3の存続期間中内容 本件特許3の特許出願に係る特許を受ける権利に基づいて取得すべき特許権により保護される製品の製造,使用,譲渡,販売,輸入及び譲渡若しくは販売の申し出(ウ) 本件発明3は,次のとおりである。「リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され,前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,医薬組成物。」

⑶ 本件各発明の構成要件の分説ア 本件発明1本件発明1は,次のとおり,構成要件に分説することができる(以下,分説に係る各構成要件を符号に対応させて「構成要件1A」などという。以下同じ。)。1A リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,1B 治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される,

5 1C 上記医薬組成物。イ 本件発明2(ア) 本件発明2-1本件発明2-1は,次のとおり,構成要件に分説することができる。2A リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法と組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,2B 治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ前記化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである,2C 上記医薬組成物。(イ) 本件発明2-2本件発明2-2は,引用に係る本件発明2-1の構成要件(構成要件2Aないし2C)と,次の構成要件2Dに分説することができる。2D リツキシマブ及び前記化学療法での治療が,有効な相乗作用を提供する,(ウ) 本件発明2-3本件発明2-3は,引用に係る本件発明2-1の構成要件(構成要件2Aないし2C)又は本件発明2-2の構成要件(構成要件2Aないし2D)と,次の構成要件2Eに分説することができる。2E リツキシマブが,375mg/㎡の用量として投与される,ウ 本件発明3本件発明3は,次のとおり,構成要件に分説することができる。3A リツキシマブを含み,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,3B 治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の

5 最中に投与され,3C 前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に前記患者に投与される,3D 医薬組成物。

⑷ がん治療における化学療法の概要がん治療における「化学療法」は,抗がん剤を用いたがんの治療を意味する用語であり,使用薬剤の名称の頭文字を組み合わせて,CHOP又はCHOP療法,CVP又はCVP療法などという。すなわち,CHOP又はCHOP療法とは,シクロホスファミド

(Cyclophosphamide),ドキソルビシン(Doxorubicin,別名Hydroxydaunorubicin,「ドコソルビシン」と表記されることもある。),ビンクリスチン(Vincristine,商品名をオンコビン(Oncovin)という。)及びプレドニゾロン(Prednisolone)又はプレドニソン(Prednisone)を併用する化学療法をいい,CVP又はCVP療法とは,シクロホスファミド,ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法をいう。一般に,CHOP,CVPでは,各薬剤を投与する期間(以下「投薬期間」という。)及び投与しない期間(以下「休薬期間」という。)を組み合わせた所定の投薬スケジュールを繰り返すことによって実施される。これらとリツキシマブ(リツクシマブと表記されることもあり,この商品名をリツキサンということもある。)を併用する化学療法を,R-CHOP又はR-CHOP療法,R-CVP又はR-CVP療法という。また,R-CHOPレジメン,R-CVPレジメンとは,一般に,R-CHOPやR-CVPに係る治療計画を意味する(甲23,38,乙3,9,10,14ないし16,30,71,86,93)。

⑸ 被告らの行為被告らは,販売提携関連契約に基づき,平成30年1月18日から,共同して,

5 被告製剤の製造販売等をしている。

⑹ 被告製剤ア 被告製剤は,リツキサン製剤のバイオ後続品(バイオシミラー)として,被告サンドが製造販売承認を受けた医薬品であり,有効成分としてリツキシマブを含有している。イ 被告製剤の添付文書の用法・用量欄には,CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に用いる場合として,「通常,成人には,リツキシマブ(遺伝子組換え)[リツキシマブ後続1]として1回量375mg/㎡を1週間間隔で点滴静注する。最大投与回数は8回とする。他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,併用する抗悪性腫瘍剤の投与間隔に合わせて,1サイクルあたり1回投与する。」と記載されているほか,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。そして,被告製剤の添付文書の臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,「進行期ろ胞性リンパ腫患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験(GP13-301試験)」として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用するR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されている。また,先行バイオ医薬品の臨床成績として,①「国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)における成績」,②「国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)における成績」,③「国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)における成績」が記載されており,①国内臨床第Ⅱ相試験(IDEC-C2B8-6試験)においては,未治療の低悪性度(低グレード)又はろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,

5 ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニゾロンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたこと,②国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)においては,未治療のろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ドキソルビシン塩酸塩,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CHOPレジメンによる寛解導入療法,先行バイオ医薬品,シクロホスファミド水和物,ビンクリスチン硫酸塩及びプレドニソンを併用するR-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたこと,③国外臨床第Ⅲ相試験(EORTC20981試験)においては,再発又は難治性のろ胞性非ホジキンリンパ腫の患者に,R-CHOPレジメンによる寛解導入療法が実施されたことなどが記載されている(甲16)。ウ 被告製剤は,構成要件1A,1C,2A,2C,2E,3A,3Dを充足する。3 争点

⑴ 被告製剤は,文言上,本件発明1の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明1の実施に当たるか(争点1)ア 被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するか(争点1-1)イ 被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足するか(争点1-2)

⑵ 被告製剤は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点2)

⑶ 本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点3)ア 本件発明1は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点3-1)イ 本件発明1は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点3-2)ウ 本件特許1は特許法36条6項1号に違反しているか(争点3-3)エ 本件特許1は特許法36条6項2号に違反しているか(争点3-4)オ 分割要件違反により本件発明1は新規性を欠くか(争点3-5)

⑷ 被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明2の

5 実施に当たるか(争点4)ア 被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか(争点4-1)イ 被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足するか(争点4-2)ウ 被告製剤は構成要件2Dを充足するか(争点4-3)

⑸ 本件特許2は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点5)ア 本件発明2は乙1文献等により進歩性を欠くか(争点5-1)イ 本件発明2は乙33文献等により進歩性を欠くか(争点5-2)ウ 本件特許2は特許法36条6項1号に違反しているか(争点5-3)エ 分割要件違反により本件発明2は新規性を欠くか(争点5-4)

⑹ 被告製剤は,文言上,本件発明3の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件発明3の実施に当たるか(争点6)ア 被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足するか(争点6-1)イ 被告製剤は「最中」(構成要件3B),「各サイクルの1日目」(構成要件3C)を充足するか(争点6-2)

⑺ 被告製剤は,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属するか(争点7)

⑻ 本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものか(争点8)ア 本件発明3は乙9文献等により進歩性を欠くか(争点8-1)イ 本件特許3は特許法36条6項1号に違反しているか(争点8-2)ウ 分割要件違反により本件発明3は新規性を欠くか(争点8-3)

⑼ 被告らに共同不法行為が成立するか(争点9)

⑽ 損害の発生の有無及びその額(争点10)

第3 争点に対する当事者の主張

1 争点1(被告製剤は,文言上,本件発明1の技術的範囲に属し,その製造販

売等は本件発明1の実施に当たるか)について

5 ⑴ 争点1-1(被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するか)

について【原告らの主張】ア ①プレドニソンは,プレドニゾロンのプロドラッグであり,いずれもその活性本体をプレドニゾロンとし,合成副腎皮質ステロイドの一つであるグルココルチコイドとしての薬理作用を発揮するという点で同じ性質を有し,医学上及び薬学上,区別されずに使用され,相互に互換可能な薬剤として扱われてきたこと,②本件原出願日当時,プレドニソンを用いるCHOP療法とプレドニゾロンを用いるCHOP療法は,多数の文献で区別されずに一括りに扱われていたことなどに照らすと,当業者は,構成要件1Bに「(CHOP)による化学療法」の「P」に対応する薬剤として「プレドニソン」が記載されている意味は,CHOP療法において,プレドニゾロンが有するグルココルチコイドとしての薬理作用を発揮する点にあると理解し,プレドニソンを用いるかプレドニゾロンを用いるかで区別していなかった。したがって,プレドニゾロンを用いるCHOP療法も「プレドニソン」を充足する。イ 被告製剤は,添付文書に記載されているR-CHOP療法において,プレドニゾロンが用いられおり,「プレドニソン」(構成要件1B)を充足する。【被告らの主張】ア プレドニソンは,被告製剤の添付文書に記載されているR-CHOP療法に用いられるプレドニゾロンとは異なる薬剤であり,我が国では承認されていない医薬品であるから,被告製剤が我が国でプレドニソンを使用するレジメンに用いられることはなく,被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するとはいえない。プレドニゾロンがプレドニソンと異なる薬剤であることについては,①両者が物理的,化学的,薬学的に異なる特性を有していること,②両者が薬物動態,すなわち,体内での薬物の吸収や代謝の点で相違しており,バイオアベイラビリティ,す

5 なわち,生体内で利用される薬剤の割合の点でも相違し得るものであって,生物学

的に同等でないと考えられていることなどによって裏付けられている。イ したがって,被告製剤は「プレドニソン」(構成要件1B)を充足するとはいえない。

⑵ 争点1-2(被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足するか)について

【原告らの主張】ア 本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与するレジメン(以下「異日投与レジメン」という。)によっていたところ,本件明細書1の段落【0015】,【0017】(以下,明細書の段落については,単に「【0015】」などと示す。)には,異日投与レジメンと区別して,本件発明1の投与レジメンが記載されている。また,本件特許1の出願人であるバイオジェンは,出願過程で提出した平成29年9月15日付け意見書(乙36の6,以下「本件意見書」という。)において,本件発明1が異日投与レジメンに基づくM.S.Czuczmanら「Treatment of PatientsWith Low-Grade B-Cell Lymphoma With the Combination of Chimeric Anti-CD20Monoclonal Antibody and CHOP Chemotherapy」Journal of Clinical Oncology,Vol.17,No. 1, pp.268-276(平成11年(1999年)1月発行)(甲38。以下「甲38文献」という。)と異なる技術思想を有することを主張している。このような本件原出願日当時の技術水準,本件明細書1の記載及び本件特許1の出願経過等に照らすと,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中を意味すると解すべきである(以下,化学療法とリツキシマブの併用療法において,リツキシマブを化学療法薬の投薬期間中に投与するレジメンを「同日投与レジメン」という。)。イ 被告製剤の添付文書の用法・用量欄には,他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合,先行バイオ医薬品の臨床試験で検討された投与間隔,投与時期等を参考にすること

5 が記載されているところ,臨床成績欄には,先行バイオ医薬品の臨床試験である

IDEC-C2B8-6試験,PRIMA試験及びEORTC20981試験において,R-CHOPレジメンが検討されたことが記載されており,また,リツキサン製剤の審査報告書(甲29)には,上記各臨床試験において,リツキシマブがCHOP療法の各薬剤の投与開始日に投与されたことが記載されていることなどに照らすと,被告製剤の添付文書には,本件発明1の用途である同日投与レジメンが記載されている。加えて,被告製剤は,医療現場においても,CHOP療法との同日投与レジメンによって投与されていることなどに照らすと,被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足し,その製造販売等は本件発明1の実施に当たる。【被告らの主張】ア 「最中」の一般的な字義及び本件明細書1の記載等によれば,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中に」は,CHOPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOPによる化学療法のコースを開始してから6コース繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である。また,本件特許1の出願過程において,バイオジェンは,本件明細書1の【0069】ないし【0071】の臨床試験における第3及び第4の注入のように,CHOP療法の各薬剤の投与開始前にリツキシマブを投与するものは本件発明1の技術的範囲に属さないと主張していたから,CHOP療法の各薬剤の投与開始前にリツキシマブを投与するレジメンを権利範囲から意識的に除外したものと解される。イ 我が国では,リツキシマブをCHOP療法と併用する場合,リツキシマブを化学療法の前日又は前々日に施行するのが医療現場では一般的であり,リツキシマブの初回投与はCHOP療法のコース開始前にされているから,被告製剤は「最中」(構成要件1B)を充足するとはいえない。また,本件発明1は公知の医薬品であるリツキシマブについての新規な用途に係る用途発明であり,原告らの主張によれば,本件発明1の新規な用途は,低グレー

5 ド又は濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療において,CHOP療法による

化学療法における各サイクルの化学療法薬の投薬期間中にリツキシマブを投与するというものと解されるが,被告製剤の添付文書の用法・用量欄等にはこのような用途への言及はなく,被告製剤の製造販売等が上記の用途に使用するためにされているとはいえないから,本件発明1の実施に当たらない。

2 争点2(被告製剤は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属

するか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告製剤は,「プレドニソン」(構成要件1B)を充足しないとしても,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属する。

⑴ 第1要件(非本質的部分)

本件発明1は,本件原出願日当時,化学療法とリツキシマブの併用療法は全て異日投与レジメンによっていた中で,B細胞リンパ腫に対する抗CD20抗体と他の治療法との併用療法に関する新たな治療法を開発することを課題,目的として,同日投与レジメンによって投与されるリツキシマブを含む医薬組成物を新たに開示したものであるから,その本質的部分は「(CHOP)による化学療法の最中」にリツキシマブが投与される点にあり,リツキシマブを含む医薬組成物と組み合わせて使用されるCHOP療法の「P」の薬剤がプレドニソンであるかプレドニゾロンであるかは,非本質的部分である。

⑵ 第2要件(置換可能性)

本件発明1のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えても,本件発明1の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。

⑶ 第3要件(置換容易性)

被告製剤の製造時点において,当業者は,本件発明1のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えることを容易に想到できた。

⑷ 第4要件(容易推考性)

5 被告らは,本件発明1のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えた構成は,本

件原出願日前に頒布された刊行物である乙32文献に記載された発明(以下「乙32発明1」という。)等に基づき,容易に推考し得た旨主張するが,乙32文献に同日投与レジメンは開示されていないから,本件発明1は乙32発明1等に基づき容易に推考し得たとはいえない。

⑸ 第5要件(特段の事情)

本件特許1の特許出願手続において,出願人であるバイオジェンが,客観的,外形的にみて,プレドニゾロンがプレドニソンを代替する薬剤であることを認識しながら,あえて特許請求の範囲に記載しなかったことを表示したとはいえないから,本件特許1の特許請求の範囲からプレドニゾロンを用いる構成が意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情があるとはいえない。【被告らの主張】以下のとおり,被告製剤は,本件発明1と均等なものとして,その技術的範囲に属するとはいえない。

⑴ 第1要件(非本質的部分)

ア 本件発明1は,リツキシマブと他の治療法の併用療法の利点を提供することを課題として,特許請求の範囲記載の併用療法に係る構成を採用したものであるが,その効果については,本件明細書1において,【0071】の公知の臨床試験の結果が記載されているにとどまることなどに照らせば,従来技術に対する本件発明1の貢献の程度は皆無であり,本件発明1の本質的部分は,特許請求の範囲の記載と同義のものである。イ したがって,プレドニゾロンを用いるCHOP療法と併用される被告製剤は,本件発明1と本質的部分において相違する。

⑵ 第4要件(容易推考性)

当業者は,乙32発明1及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,本件発明1のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えた構成を容易に推考し得た。

5 すなわち,乙32文献には,リツキシマブと併用されるCHOP療法に用いる薬

剤が特定されていない点で本件発明1と相違するものの,その余の構成で一致する乙32発明1が開示されているところ,本件原出願日当時,CHOP療法に,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニゾロンを用いるレジメンも知られていたから,当業者は,本件発明1のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えた構成を容易に推考し得た。

⑶ 第5要件(特段の事情)

本件特許1の分割出願当初の特許請求の範囲請求項18は,リツキシマブと併用される化学療法を「CHOP」とのみ特定していたため,プレドニゾロンを用いるCHOP療法も含まれていた。しかしながら,その後の補正により「シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法」に限定されたものであり,このような本件特許1の出願経過に照らせば,プレドニゾロンを用いるCHOP療法は,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特段の事情がある。

3 争点3(本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか)につい

て

⑴ 争点3-1(本件発明1は乙1文献等により進歩性を欠くか)について

【被告らの主張】以下のとおり,本件発明1は,本件優先日又は本件原出願日前に頒布された刊行物である乙1文献に記載された発明(以下「乙1発明1」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。ア 乙1発明1乙1文献には,次の各点で本件発明1と相違するものの,その余の構成で一致する乙1発明1が開示されている。(ア) 乙1発明1では,リツキシマブが単独で投与されるのに対し,本件発明1では,「化学療法レジメンと組み合わせて使用」(構成要件1A)される点(以下

5 「相違点1-1」という。)。

(イ) 本件発明1では,リツキシマブを含む医薬組成物が「シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される」(構成要件1B)点(以下「相違点1-2」という。)。イ 乙1発明1及び本件優先日当時の技術常識等に基づく進歩性欠如(ア) 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙1発明1及び本件優先日当時の技術常識等に基づき,相違点1-1及び2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た。a 相違点1-1乙1文献には,化学療法との併用について記載されているから,当業者は,リツキシマブを化学療法レジメンと組み合わせて使用することを容易に想到し得た。b 相違点1-2

①本件優先日当時,低悪性度リンパ腫に対する化学療法としてCHOP療法が用

いられる技術は周知であったこと,②リツキシマブとCHOP療法の併用に係る公知の臨床試験において,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソンがCHOP療法として使用されていたことなどに照らすと,当業者は,相違点1-2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た。(イ) 本件発明1の効果本件明細書1には,低グレード又は濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対して,リツキシマブをCHOP療法の最中に投与した実施例として,【0069】ないし【0071】の臨床試験が記載されているが,①そこには,本件優先日当時,公知であった臨床試験(乙1,4,5)が記載されているにすぎないこと,

②CHOP療法の前後のリツキシマブの投与と一括した治療効果が記載されている

にとどまり,本件発明1の効果を特定することは困難であることなどに照らすと,本件発明1の効果は顕著なものではない。ウ 乙1発明1,乙32文献及び本件原出願日当時の技術常識等に基づく進歩性

5 欠如

(ア) 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙1発明1,乙32文献及び本件原出願日当時の技術常識等に基づき,相違点1-1及び2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た。a 相違点1-1

①乙1文献及び乙32文献に,化学療法との併用について記載されていること,

②本件原出願日当時,リツキシマブを種々の化学療法と組み合わせる臨床試験が実

施されていたことなどに照らすと,当業者は,リツキシマブを化学療法レジメンと組み合わせて使用することを容易に想到し得た。b 相違点1-2

①本件原出願日当時,低悪性度リンパ腫における化学療法としてCHOP療法が

用いられる技術は周知であったこと,②リツキシマブとCHOP療法の併用に係る公知の臨床試験において,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソンがCHOP療法として使用されていたこと,③化学療法と併用する場合のリツキシマブの投与時期について,乙32文献に,「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである」という内容が記載されていることなどに照らすと,当業者は,相違点1-2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得た。(イ) 本件発明1の効果前記イ(イ)のとおり,本件発明1の効果は顕著なものではない。【原告らの主張】以下のとおり,当業者は,相違点1-2に係る本件発明1の構成を容易に想到し得たとはいえず,本件発明1は乙1発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。ア 容易想到性本件原出願日当時,リツキシマブと化学療法との併用療法は全て異日投与レジメンが採用されており,相違点1-2に係る本件発明1の「リツキシマブがCHOP

5 による化学療法の最中に投与されている」との構成を採用する動機付けはない。

また,乙32文献は,異日投与レジメンを開示するものであって,リツキシマブをCHOPによる化学療法の「最中」に投与することを開示又は示唆するものではない。イ 本件発明1の効果本件発明1の投与レジメンに係るR-CHOP療法は,リツキシマブとCHOP療法を組み合わせることにより,優れた治療効果を奏することが確認されている(甲30)。

⑵ 争点3-2(本件発明1は乙33文献等により進歩性を欠くか)について

【被告らの主張】以下のとおり,本件発明1は,本件原出願日前に頒布された刊行物である乙33文献に記載された発明(以下「乙33発明1」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。ア 乙33発明1乙33文献には,次の点で本件発明1と相違するものの,その余の構成で一致する乙33発明1が開示されている。乙33発明1では,リツキシマブがCHOPによる化学療法に続けて投与されているのに対し,本件発明1では,リツキシマブがCHOPによる化学療法の最中に投与されている点(以下「相違点1-3」という。)。イ 容易想到性

①本件原出願日当時,リツキシマブを化学療法とともに投与することも考えられ

ていたこと,②乙32文献に,「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである」という内容が記載されていることなどに照らすと,当業者は,リツキシマブをCHOPによる化学療法の最中に投与することを容易に想到し得た。ウ 本件発明1の効果

5 前記⑴【被告らの主張】イ(イ)のとおり,本件発明1の効果は顕著なものではな

い。【原告らの主張】本件原出願日当時,当業者は,相違点1-3に係る本件発明1の「リツキシマブがCHOPによる化学療法の最中に投与されている」との構成を容易に想到し得たとはいえず,本件発明1は乙33発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。その理由は,前記⑴【原告らの主張】と同様である。

⑶ 争点3-3(本件特許1は特許法36条6項1号に違反しているか)につい

て【被告らの主張】本件明細書1において,本件発明1の対象疾患である低グレード又は濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対するCHOP療法との併用におけるリツキシマブの投与時期について記載されているのは,①【0069】ないし【0071】の臨床試験及び②【0092】のSWOGによる臨床試験のみであるが,①については,本件意見書において,リツキシマブをCHOP療法の最中に投与する実施例ではないとされていること,②については,リツキシマブがCHOP療法の後に投与されていることから,いずれも,本件発明1の実施例ではない。また,【0015】,【0017】は,いずれも,異日投与レジメンを含むものであり,原告らが主張する同日投与レジメンに係る技術思想を開示するものではない。したがって,本件明細書1には本件発明1が記載されておらず,本件特許1は特許法36条6項1号に違反している。【原告らの主張】前記1⑵【原告らの主張】アのとおり,本件明細書1の【0015】,【0017】に,本件発明1の同日投与レジメンが記載されていることは明らかである。また,本件原出願日当時,リツキシマブの低悪性度リンパ腫及び濾胞性リンパ腫

5 に対する有効性やCHOP療法の非ホジキンリンパ腫に対する有効性は確認されて

おり,異日投与レジメンによってリツキシマブと化学療法を併用することで高い治療効果が見込まれることは周知であったところ,本件明細書1において,リツキシマブを含む医薬組成物について,各種臨床試験(【0056】,【0069】,【0074】,【0076】,【0078】,【0087】,【0088】,【0090】,【0092】,【0102】)が多数実施され,その治療効果の認められることが記載されていることなどに照らすと,当業者は,【0015】,【0017】等に基づき,同日投与レジメンが治療効果を有し,本件発明1の課題を解決できると認識する。したがって,本件特許1は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。

⑷ 争点3-4(本件特許1は特許法36条6項2号に違反しているか)につい

て【被告らの主張】CHOP療法の各サイクルは,通常,3週間(21日)であり,本件明細書1の【0070】において,リツキシマブが3回目及び4回目に投与された第3サイクル及び第5サイクルの各2日前は,第2サイクル及び第4サイクルの各20日目であるから,これらはCHOP療法の各サイクル中の投与に当たるはずであるが,本件意見書では,これらはCHOP療法の各サイクル中の投与に当たらないとされている。このような本件意見書の解釈によると,どのような投与法が本件発明1の技術的範囲に属するか不明確であるから,本件特許1は特許法36条6項2号に違反している。【原告らの主張】前記1⑵【原告らの主張】アのとおり,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中を意味すると解すべきであり,本件発明1の技術的範囲は明確であるから,本件特許

5 1が特許法36条6項2号に違反しているとはいえない。

⑸ 争点3-5(分割要件違反により本件発明1は新規性を欠くか)について

【被告らの主張】本件特許1は,国際出願PCT/US99/18120(特願2000-564662。以下「本件原出願」という。)を親出願として,最終的に平成29年5月2日に分割出願された特許出願に係るものであるが,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」がCHOPの各サイクルの化学療法薬の投薬期間中を意味するという原告らの解釈を前提とすると,本件原出願の出願当初の明細書には,リツキシマブを含む医薬組成物が「(CHOP)による化学療法の最中」に投与される構成が開示されておらず,本件発明1は,本件原出願の出願当初の明細書に記載されていない事項を含むものであるから,上記の分割出願は不適法である。したがって,本件特許1は本件原出願日に特許出願されたとみなすことはできない。そうすると,本件発明1は,現実の出願日(平成29年5月2日)前の平成21年に発行された文献(甲12。以下「甲12文献」という。)に開示されていたから,新規性を欠く。【原告らの主張】本件原出願の出願当初の明細書には,本件明細書1の【0015】,【0017】に対応する記載があり,リツキシマブを含む医薬組成物が「(CHOP)による化学療法の最中」に投与される構成は本件原出願の出願当初の明細書に記載されているから,本件特許1の分割出願が不適法であるということはできない。したがって,本件特許1は本件原出願日に特許出願されたとみなされるから,本件発明1は本件原出願日後に発行された甲12文献により新規性を欠くとはいえない。

4 争点4(被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属し,その製造販売等は本件

発明2の実施に当たるか)について

5 ⑴ 争点4-1(被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか)につい

て【原告らの主張】ア 構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミド,ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であり,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に,リツキシマブと併用される化学療法に使用される薬剤の投与量,投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから,それらによる限定はされないものと解すべきである。イ 被告らは,本件原出願日当時のCVP療法がシクロホスファミドを1日目から5日目まで毎日経口投与するなどするものを意味することは技術常識である旨主張するが,次の文献の記載等から明らかなように,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,各薬剤の投与量,投与方法及び投与時期は一義的,硬直的に定められておらず,研究機関等によって異なっていたから,被告らが主張するような技術常識を認めることはできない。(ア) 平成26年(2014年)11月発行の磯部泰司ほか編著「リンパ系腫瘍診療ハンドブック」(甲71,以下「甲71文献」という。)によれば,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,シクロホスファミドを1日目に投与することを基本とするものであり,研究機関や国によって各薬剤の投与量や投与方法が異なっていたところ,1970年代以降に様々な検討がされ,1990年代になっても,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期について多様な検討がされていた。(イ) 本件原出願日前に発行された文献(甲28,57ないし60,72,76,80ないし82)に,シクロホスファミドを1日目にのみ投与する化学療法をCVP療法と記載するものや,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法と記載するものがあった。また,各薬剤の投与量及び投与時期が異なる化学療法を「COP1」等と記載する文献(甲78)や,投与量の異なる化学療法をCVPと記載する文献(甲79)もあり,CVP療法及びCOP療法が

5 意味するところは一義的ではなかった。

(ウ) 本件原出願日前に発行された文献(甲86ないし90,乙12,13,137,158ないし161)に,CVP療法及びCOP療法について,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,並列的,互換的に記載するものがあった。(エ) 本件原出願日前に実施された大規模な実験について,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91ないし93)がある。ウ 被告製剤の添付文書に記載されているR-CVP療法は,シクロホスファミド,ビンクリスチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンによる化学療法に,リツキシマブの投与を組み合わせたものであるから,被告製剤は,構成要件2Bの「CVP」を充足する。【被告らの主張】ア 本件明細書2において,「化学療法」は「化学療法レジメン」と同義で用いられており,「レジメン」は,抗がん剤の投与量,投与スケジュール,治療期間を定めた投与計画であるから,構成要件2Bの「化学療法が,CVPである」は,抗がん剤の種類のみならず,投与量,投与スケジュール等も特定するものと解すべきである。そして,本件原出願日当時のCVP療法が,使用薬剤の組合せが同一のCOP療法とは区別される別個の化学療法レジメンであって,シクロホスファミド(400mg/㎡,最大2mg/body)を1日目から5日目まで毎日経口投与し,ビンクリスチン(1.4mg/㎡)を1日目に静脈注射し,プレドニゾロン(40mg~100mg/㎡又は100mg/body)を1日目から5日目まで毎日経口投与するというコースを3週間ごとに繰り返す化学療法を意味することは技術常識であった。このことは,多数の文献(甲74,77,乙3,10,14ないし16,19,70ないし72,88,89,113,114,134ないし136,138,14

5 2,144,146,153ないし157,163ないし173,177,178)

によって裏付けられている。したがって,構成要件2Bの「CVP」は,そのような化学療法レジメンを意味すると解すべきである。イ 被告製剤の添付文書に記載されているR-CVP療法は,シクロホスファミド750mg/㎡を1日目に投与し,ビンクリスチン1.4mg/㎡を1日目に投与し,プレドニゾロン40mg/㎡を1日目から5日目まで毎日投与するというコースを3週間ごとに繰り返すというものであるから,被告製剤は,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。

⑵ 争点4-2(被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足するか)について

【原告らの主張】ア 本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書2の【0015】,【0017】には,異日投与レジメンと区別して本件発明2の同日投与レジメンが記載されている。また,本件特許2の出願人であるバイオジェンは,本件特許2と原出願が同一であり,本件特許2に先行して登録された本件特許1の出願過程で提出した本件意見書において,本件発明1が異日投与レジメンに基づく甲38文献と異なる技術思想を有することを主張している。このような本件原出願日当時の技術水準,本件明細書2の記載及び本件特許1の出願経過等に照らすと,構成要件2Bの「間に」は,CVP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中を意味すると解すべきである。イ 被告製剤の添付文書の用法・用量欄には,他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合,先行バイオ医薬品の臨床試験で検討された投与間隔,投与時期等を参考にすることが記載されているところ,臨床成績欄には,被告製剤の臨床試験であるGP13-301試験において,R-CVPレジメンとの併用を検討されたことが記載されており,また,リツキサン製剤の審査報告書(甲29)には,リツキシマブが

5 CVP療法の各薬剤の投与開始日に投与されたことが記載されていることなどに照

らすと,被告製剤の添付文書には,本件発明2の用途である同日投与レジメンが記載されている。加えて,被告製剤は,医療現場においても,CVP療法との同日投与レジメンによって投与されていることなどに照らすと,被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足し,その製造販売等は本件発明2の実施に当たる。【被告らの主張】ア 構成要件2Bの「間に」は,前記1⑵【被告らの主張】アの構成要件1Bの「最中」と同様に,CVPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CVPによる化学療法のコースを開始してから全てのコースを繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である。原告らは,「間に」の解釈において本件特許1の出願経過を考慮すべきであると主張するが,本件特許2の出願過程で「間に」の意義は問題にされておらず,「間に」の解釈において本件特許2とは別の特許である本件特許1の出願経過を考慮すべきではない。イ 我が国では,リツキシマブをCVP療法と併用する場合,リツキシマブを化学療法の前日又は前々日に施行するのが医療現場では一般的であり,リツキシマブの初回投与はCVP療法のコース開始前にされているから,被告製剤は「間に」(構成要件2B)を充足するとはいえない。また,本件発明2は公知の医薬品であるリツキシマブについての新規な用途に係る用途発明であり,原告らの主張によれば,本件発明2の新規な用途は,低グレード又は濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療において,CVP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中にリツキシマブを投与するというものと解されるが,被告製剤の添付文書の用法・用量欄等にはこのような用途への言及はなく,被告製剤の製造販売等が上記の用途に使用するためにされているとはいえないから,本件発明2の実施に当たらない。

5 ⑶ 争点4-3(被告製剤は構成要件2Dを充足するか)について

【原告らの主張】リツキシマブは,化学療法と組み合わせて使用するための医薬組成物であり,R-CVP療法には,CVP療法等の化学療法と比較して統計的に有意な差をもって有効な相乗作用が認められているから,被告製剤は,構成要件2Dを充足する。【被告らの主張】本件明細書2には,リツキシマブをCVP療法の間に投与した場合の効果に係る記載がなく,構成要件2Dの「有効な相乗作用」がどのような作用か不明であって,被告製剤が「有効な相乗作用を提供する」ものか否かを判断できない。

5 争点5(本件特許2は特許無効審判により無効とされるべきものか)につい

て

⑴ 争点5-1(本件発明2は乙1文献等により進歩性を欠くか)について

【被告らの主張】以下のとおり,本件発明2は,本件優先日又は本件原出願日前に頒布された刊行物である乙1文献に記載された発明(以下「乙1発明2」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。ア 乙1発明2乙1文献には,次の各点で本件発明2と相違するものの,その余の構成で一致する乙1発明2が開示されている。(ア) 乙1発明2では,リツキシマブが単独で投与されるのに対し,本件発明2では,「化学療法と組み合わせて使用」(構成要件2A)される点(以下「相違点2-1」という。)。(イ) 本件発明2では,リツキシマブを含む医薬組成物が,「化学療法の間に投与され,かつ,前記化学療法が,CVPである」(構成要件2B)点(以下「相違点2-2」という。)。(ウ) 本件発明2-2では,「リツキシマブ及び前記化学療法での治療が,有効な

5 相乗作用を提供する」(構成要件2D)点(以下「相違点2-3」という。)。

イ 乙1発明2及び本件優先日当時の技術常識等に基づく進歩性欠如(ア) 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙1発明2及び本件優先日当時の技術常識等に基づき,相違点2-1ないし3に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。a 相違点2-1乙1文献には,化学療法との併用について記載されているから,当業者は,リツキシマブを化学療法レジメンと組み合わせて使用することを容易に想到し得た。b 相違点2-2本件優先日当時,低悪性度リンパ腫における化学療法としてCVP療法が用いられる技術は周知であったから,当業者は,リツキシマブをCVPによる化学療法の間に投与することを容易に想到し得た。c 相違点2-3乙1文献には,リツキシマブと化学療法の併用による相乗効果について記載されているから,当業者は,相違点2-3に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。(イ) 本件発明2の効果

①本件明細書2に本件発明2の構成は開示されておらず,本件発明2の効果も記

載されていないこと,②乙1文献に,リツキシマブと化学療法の併用による相乗効果について記載されていることなどに照らすと,本件発明2の効果は顕著なものではない。ウ 乙1発明2,乙32文献及び本件原出願日当時の技術常識等に基づく進歩性欠如(ア) 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙1発明2,乙32文献及び本件原出願日当時の技術常識等に基づき,相違点2-1ないし3に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。

5 a 相違点2-1

①乙1文献及び乙32文献に,化学療法との併用について記載されていること,

②本件原出願日当時,リツキシマブと種々の化学療法を組み合わせた臨床試験が実

施されていたことなどに照らすと,当業者は,リツキシマブを化学療法レジメンと組み合わせて使用することを容易に想到し得た。b 相違点2-2

①本件原出願日当時,低悪性度リンパ腫における化学療法としてCVP療法が用

いられる技術は周知であったこと,②化学療法と併用する場合のリツキシマブの投与時期について,乙32文献に,「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである」という内容が記載されていることなどに照らすと,当業者は,リツキシマブをCVPによる化学療法の間に投与することを容易に想到し得た。c 相違点2-3乙1文献及び乙32文献には,リツキシマブと化学療法の併用による相乗効果について記載されているから,当業者は,相違点2-3に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。(イ) 本件発明2の効果

①本件明細書2に本件発明2の構成は開示されておらず,本件発明2の効果も記

載されていないこと,②乙1文献,乙32文献及び乙33文献に,リツキシマブと化学療法の併用による相乗効果について記載されていることなどに照らすと,本件発明2の効果は顕著なものではない。【原告らの主張】以下のとおり,当業者は,相違点2-2及び3に係る本件発明2の構成を容易に想到し得たとはいえず,本件発明2は乙1発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。ア 容易想到性

5 本件原出願日当時,リツキシマブと化学療法との併用療法は全て異日投与レジメ

ンが採用されており,相違点2-2に係る本件発明2の投与レジメンを採用する動機付けはない。また,乙1文献及び乙32文献には,リツキシマブとCVP療法を併用することは記載されておらず,これらを組み合わせても本件発明2の構成に至らない上,これらの文献は,いずれにも異日投与レジメンを開示するものであって,相違点2-2に係る本件発明2の投与レジメンを開示又は示唆するものではなく,相違点2-3に係る本件発明2の有効な相乗効果を開示するものでもない。イ 本件発明2の効果本件発明2の投与レジメンに係るR-CVP療法は,リツキシマブとCVP療法を組み合わせることにより,有効な相乗作用を提供する優れた治療効果を奏することが確認されている(甲44)。

⑵ 争点5-2(本件発明2は乙33文献等により進歩性を欠くか)について

【被告らの主張】以下のとおり,本件発明2は,本件原出願日前に頒布された刊行物である乙33文献に記載された発明(以下「乙33発明2」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。ア 乙33発明2乙33文献には,次の各点で本件発明2と相違するものの,その余の構成で一致する乙33発明2が開示されている。(ア) 乙33発明2では,リツキシマブがCVPによる化学療法に続けて投与されるのに対し,本件発明2では,リツキシマブがCVPによる「化学療法の間に」(構成要件2B)投与される点(以下「相違点2-4」という。)。(イ) 本件発明2-2では,「リツキシマブ及び前記化学療法での治療が,有効な相乗作用を提供する」(構成要件2D)点(以下「相違点2-5」という。)。(ウ) 本件発明2-3では,「リツキシマブが,375mg/㎡の用量として投与

5 される」(構成要件2E)点(以下「相違点2-6」という。)。

イ 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙33発明2,乙32文献及び本件原出願日当時の技術常識等に基づき,相違点2-4ないし6に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。(ア) 相違点2-4

①本件原出願日当時,リツキシマブを化学療法とともに投与することも考えられ

ていたこと,②乙32文献に,「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである」という内容が記載されていることなどに照らすと,当業者は,リツキシマブをCVPによる化学療法の間に投与することを容易に想到し得た。(イ) 相違点2-5乙33文献及び乙32文献には,リツキシマブと化学療法の併用による相乗効果について記載されているから,当業者は,相違点2-5に係る本件発明2の構成を容易に想到し得た。(ウ) 相違点2-6当業者は,乙1文献,公知の併用試験の投与量等を参照し,リツキシマブの投与量を375mg/㎡とすることを容易に想到し得た。ウ 本件発明2の効果前記⑴【被告らの主張】ウ(イ)のとおり,本件発明2の効果は顕著なものではない。【原告らの主張】以下のとおり,当業者は,相違点2-4及び5に係る本件発明3の構成を容易に想到し得たとはいえず,本件発明2は乙33発明2等に基づき進歩性を欠くとはいえない。ア 容易想到性

5 本件原出願日当時,リツキシマブと化学療法との併用療法は全て異日投与レジメ

ンが採用されており,相違点2-4に係る本件発明2の投与レジメンを採用する動機付けはない。また,乙33文献及び乙32文献には,リツキシマブとCVP療法を併用することは記載されておらず,これらを組み合わせても本件発明2の構成に至らない上,これらの文献は,いずれにも異日投与レジメンを開示するものであって,相違点2-4に係る本件発明2の投与レジメンを開示又は示唆するものではなく,相違点2-5に係る本件発明2の有効な相乗効果を開示するものでもない。イ 本件発明2の効果前記⑴【原告らの主張】イのとおり,本件発明2の投与レジメンに係るR-CVP療法は,優れた治療効果を奏することが確認されていた。

⑶ 争点5-3(本件特許2は特許法36条6項1号に違反しているか)につい

て【被告らの主張】本件明細書2において,CVP療法について記載されているのは【0073】のみであるが,そこには,CVP療法の後にリツキシマブを投与するという投与形態が記載されており,リツキシマブをCVPによる「化学療法の間に」(構成要件2B)投与する構成は開示されていない。また,【0015】,【0017】は,異日投与レジメンを含むものであり,本件発明2の技術思想を開示するものではない。したがって,本件明細書2には本件発明2が記載されておらず,本件特許2は特許法36条6項1号に違反している。【原告らの主張】前記4⑵【原告らの主張】アのとおり,本件明細書2の【0015】,【0017】に,本件発明2の投与レジメンが記載されていることは明らかである。また,本件原出願日当時,リツキシマブの低悪性度リンパ腫及び濾胞性リンパ腫

5 に対する有効性やCVP療法の非ホジキンリンパ腫に対する有効性は確認されてお

り,異日投与レジメンによってリツキシマブと化学療法を併用することで高い治療効果が見込まれることは周知であったところ,本件明細書2において,リツキシマブを含む医薬組成物について,各種臨床試験(【0056】,【0069】,【0074】,【0076】,【0078】,【0087】,【0088】,【0090】,【0092】,【0102】)が多数実施され,その治療効果の認められることが記載されていることなどに照らすと,当業者は,【0015】,【0017】等に基づき,同日投与レジメンが治療効果を有し,本件発明2の課題を解決できると認識する。したがって,本件特許2は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。

⑷ 争点5-4(分割要件違反により本件発明2は新規性を欠くか)について

【被告らの主張】本件特許2は,本件原出願を親出願として,最終的に平成27年2月23日に分割出願された特許出願に係るものであるが,本件原出願の出願当初の明細書には,リツキシマブをCVPによる「化学療法の間に」(構成要件2B)投与する構成は開示されておらず,本件発明2は,本件原出願の出願当初の明細書に記載されていない事項を含んでいるから,上記の分割出願は不適法である。したがって,本件特許2は本件原出願日に特許出願されたとみなすことはできない。そうすると,本件発明2は,現実の出願日(平成27年2月23日)前の平成21年に発行された甲12文献に開示されていたから,新規性を欠く。【原告らの主張】本件原出願の出願当初の明細書には,本件明細書2の【0015】,【0017】に対応する記載があり,リツキシマブを含む医薬組成物がCVPによる「化学療法の間に」(構成要件2B)投与される構成は本件原出願の出願当初の明細書に記載されていたから,本件特許2の分割出願が不適法であるということはできない。

5 したがって,本件特許2は本件原出願日に特許出願されたとみなされるから,本

件発明2は本件原出願日後に発行された甲12文献により新規性を欠くとはいえない。

6 争点6(被告製剤は,文言上,本件発明3の技術的範囲に属し,その製造販

売等は本件発明3の実施に当たるか)について

⑴ 争点6-1(被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足

するか)について【原告らの主張】被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足する。その理由は,前記1⑴【原告らの主張】と同様である。【被告らの主張】被告製剤は「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足するとはいえない。その理由は,前記1⑴【被告らの主張】と同様である。

⑵ 争点6-2(被告製剤は「最中」(構成要件3B),「各サイクルの1日目」

(構成要件3C)を充足するか)について【原告らの主張】ア 前記1⑵【原告らの主張】アと同様に,本件原出願日当時の技術水準,本件明細書3の記載,本件特許3と原出願が同一の本件特許1の出願経過等に照らすと,構成要件3Bの「(CHOP)による化学療法の最中に投与され」は,CHOP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中に投与することを意味すると解すべきである。イ 前記1⑵【原告らの主張】イのとおりの被告製剤の添付文書等の記載に照らすと,被告製剤の添付文書には,本件発明3の用途である同日投与レジメン及びR-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの1日目に投与されるレジメンが記載されている。加えて,被告製剤は,医療現場においても,CHOP療法との同日投与レジメン

5 及びR-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの1日目に投与されるレジ

メンによって投与されていることなどに照らすと,被告製剤は「最中」(構成要件3B),「各サイクルの1日目」(構成要件3C)を充足し,その製造販売等は本件発明3の実施に当たる。【被告らの主張】ア 前記1⑵【被告らの主張】アと同様に,構成要件3Bの「(CHOP)による化学療法の最中に」は,CHOPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOPによる化学療法のコースを開始してから6コース繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である。イ 前記1⑵【被告らの主張】イのとおり,我が国では,リツキシマブをCHOP療法と併用する場合,リツキシマブを化学療法の前日又は前々日に施行するのが医療現場では一般的であり,リツキシマブの初回投与はCHOP療法のコース開始前にされているから,被告製剤は「最中」(構成要件3B),「化学療法の各サイクルの1日目」を充足するとはいえない。また,本件発明3は公知の医薬品であるリツキシマブについての新規な用途に係る用途発明であり,原告らの主張によれば,本件発明3の新規な用途は,中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療において,CHOP療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中の1日目に,リツキシマブと各化学療法薬を投与するというものと解されるが,被告製剤の添付文書の用法・用量欄等にはこのような用途への言及はなく,被告製剤の製造販売等が上記の用途に使用するためにされているとはいえないから,本件発明3の実施に当たらない。

7 争点7(被告製剤は,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属

するか)について【原告らの主張】以下のとおり,被告製剤は,「プレドニソン」(構成要件3B及び3C)を充足しないとしても,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属する。

5 ⑴ 第1要件(非本質的部分)

本件発明3は,本件原出願日当時,化学療法とリツキシマブの併用療法は全て異日投与レジメンによっていた中で,B細胞リンパ腫に対する抗CD20抗体と他の治療法との併用療法に関する新たな治療法を開発することを課題,目的として,CHOP療法の各サイクルの1日目にリツキシマブが投与されるレジメンに係る医薬組成物を新たに開示したものであるから,その本質的部分は「CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目」(構成要件3C)にリツキシマブが投与される点にあり,リツキシマブを含む医薬組成物と組み合わせて使用されるCHOP療法の「P」の薬剤がプレドニソンであるかプレドニゾロンであるかは,非本質的部分である。

⑵ 第2要件(置換可能性)

本件発明3のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えても,本件発明3の目的を達することができ,同一の作用効果を奏する。

⑶ 第3要件(置換容易性)

被告製剤の製造時点において,当業者は,本件発明3のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えることを容易に想到できた。

⑷ 第4要件(容易推考性)

被告らは,本件発明3のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えた構成は,本件原出願日前に頒布された刊行物である乙32文献に記載された発明(以下「乙32発明3」という。)等に基づき,容易に推考し得た旨主張するが,乙32文献に同日投与レジメンは開示されていないから,本件発明3は乙32発明3等に基づき容易に推考し得たとはいえない。

⑸ 第5要件(特段の事情)

本件特許3の優先権主張の基礎出願,原出願及び分割出願に係るいずれの明細書においても,プレドニゾロンは記載されていないから,本件特許3の特許出願手続において,プレドニゾロンを特許請求の範囲に含める補正が一旦されていたとしても,本件特許3の特許請求の範囲からプレドニゾロンを用いる構成が意識的に除外

5 されたものに当たるなどの特段の事情があるとはいえない。

【被告らの主張】以下のとおり,被告製剤は,本件発明3と均等なものとして,その技術的範囲に属するとはいえない。

⑴ 第1要件(非本質的部分)

ア 本件発明3は,リツキシマブと他の治療法の併用療法の利点を提供することを課題として,特許請求の範囲記載の併用療法に係る構成を採用したものであるが,その効果については,本件明細書3において,【0090】の公知の臨床試験の結果が記載されているにとどまることなどに照らせば,従来技術に対する本件発明3の貢献の程度は皆無であり,本件発明3の本質的部分は,特許請求の範囲の記載と同義のものである。イ したがって,プレドニゾロンを用いるCHOP療法と併用される被告製剤は,本件発明3と本質的部分において相違する。

⑵ 第4要件(容易推考性)

以下のとおり,当業者は,乙32発明3及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,本件発明3のプレドニソンをプレドニゾロンに置き換えた構成を容易に推考し得た。ア 乙32文献には,次の各点で本件発明3と相違するものの,その余の構成で一致する乙32発明3が開示されている。(ア) 乙32発明3では,リツキシマブと併用されるCHOP療法に用いられる薬剤が特定されていない点。(イ) 本件発明3では,医薬組成物が,「シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中」(構成要件3B),かつ,「シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン」とともに「CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目」(構成要件3C)に投与されるのに対し,乙32発明3では,そのように投与時期が特定

5 されていない点。

イ ①本件原出願日当時,CHOP療法に,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニゾロンを用いるレジメンも知られていたこと,②乙32文献に「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである。mAb過剰状態を達成するのに十分なmAbが投与されている限り,化学療法との関係において正確にいつmAbが投与されるかは重要でない」という内容の記載があることなどに照らせば,当業者は,上記各相違点に係る本件発明3の構成を容易に推考し得た。

⑶ 第5要件(特段の事情)

本件特許3の分割出願当初の特許請求の範囲請求項18は,リツキシマブと併用される化学療法を「CHOP」とのみ特定していたところ,その後の補正により「シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニゾロン(CHOP)による化学療法」と「プレドニゾロン」を用いるCHOP療法に限定された。しかしながら,その後の補正により「シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法」として特許査定を受けたものであり,このような本件特許3の出願経過に照らせば,プレドニゾロンを用いるCHOP療法は,特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるという特段の事情がある。

8 争点8(本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものか)につい

て

⑴ 争点8-1(本件発明3は乙9文献等により進歩性を欠くか)について

【被告らの主張】以下のとおり,本件発明3は,本件原出願日前に頒布された刊行物である乙9文献に記載された発明(以下「乙9発明」という。)等に基づき,当業者が容易に想到し得たものであり,進歩性を欠く。ア 乙9発明

5 乙9文献には,次の各点で本件発明3と相違するものの,その余の構成で一致す

る乙9発明が開示されている。(ア) 本件発明3では,リツキシマブを含む医薬組成物が,「シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される」(構成要件3B)点(以下「相違点3-1」という。)。(イ) 乙9発明では,シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソンが各サイクルの3日目に投与されるのに対し,本件発明3では,「CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に」(構成要件3C)投与される点(以下「相違点3-2」という。)。イ 容易想到性以下のとおり,当業者は,乙9発明,乙32文献及び乙54文献に基づき,相違点3-1及び2に係る本件発明3の構成を容易に想到し得た。(ア) 相違点3-1化学療法と併用する場合のリツキシマブの投与時期について,乙32文献に,「第2の可能性は,化学療法の最中にmAbが存在するようにすることである」という内容の記載があることなどに照らすと,当業者は,リツキシマブをCHOP療法の最中に投与することを容易に想到し得た。(イ) 相違点3-2

①乙32文献に,化学療法との関係で正確にいつ投与されるかは重要でなく,化

学療法コースの間ずっと全身中に存在し続けることが記載されていること,②乙54文献に,中悪性度又は高悪性度のリンパ腫は治療を迅速に開始する必要があるから,低悪性度のリンパ腫とは異なり,リツキシマブを1日目に,CHOP療法の各薬剤を3日目ないし8日目に投与したと記載されていることなどに照らすと,当業者は,乙9発明において,治療を迅速に開始するためにCHOP療法の各薬剤の投与開始日を早め,各サイクルの1日目にすることを容易に想到し得た。ウ 本件発明3の効果

5 ①本件明細書3に本件発明3の構成は開示されておらず,CHOP療法の各薬剤

の投与開始日を各サイクルの1日目とすることの効果を示す記載はないこと,②当業者において,CHOP療法を各サイクルの1日目から開始するか3日目から開始するかで効果に相違があるようなことは知られていないことなどに照らすと,本件発明3の効果は顕著なものではない。【原告らの主張】以下のとおり,当業者は,相違点3-1及び2に係る本件発明3の構成を容易に想到し得たとはいえず,本件発明3は乙33発明等に基づき進歩性を欠くとはいえない。ア 容易想到性本件原出願日当時,リツキシマブと化学療法との併用療法は全て異日投与レジメンが採用されており,相違点3-1及び2に係る本件発明3の構成,すなわち,リツキシマブを含む医薬組成物が「(CHOP)による化学療法の最中に投与される」構成及びCHOP療法の各薬剤が「CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に」投与される構成を採用する動機付けはない。また,乙32文献及び乙54文献は,いずれも異日投与レジメンを開示するものであって,リツキシマブをCHOPによる化学療法の「最中」及び「各サイクルの1日目」に投与することを開示又は示唆するものではない。イ 本件発明3の効果本件発明3の投与レジメンに係るR-CHOP療法は,リツキシマブとCHOP療法を組み合わせることにより,優れた治療効果を奏することが確認されている(甲30)。

⑵ 争点8-2(本件特許3は特許法36条6項1号に違反しているか)につい

て【被告らの主張】本件明細書3において,本件発明3の対象疾患である中悪性度又は高悪性度の非

5 ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対するCHOP療法との併用におけるリツキ

シマブの投与時期について記載されているのは,【0090】のみであるところ,そこには,リツキシマブが「21日サイクルのCHOPの1日目」に投与されることは記載されているものの,CHOP療法の各薬剤の投与時期は記載されておらず,参考文献35として引用されている乙9文献においても,CHOP療法の各薬剤は各サイクルの3日目以降に投与されているから,それらが各サイクルの1日目に投与される本件発明3の構成は開示されていない。また,【0015】,【0017】は,異日投与レジメンを含むものであり,原告らが主張する同日投与レジメンに係る技術思想を開示するものではない。したがって,本件明細書3には本件発明3が記載されておらず,本件特許3は特許法36条6項1号に違反している。【原告らの主張】前記1⑵【原告らの主張】アと同様に,本件明細書3の【0015】,【0017】に,本件発明3の同日投与レジメンが記載されていることは明らかである。また,本件原出願日当時,リツキシマブの低悪性度リンパ腫及び濾胞性リンパ腫に対する有効性やCHOP療法の非ホジキンリンパ腫に対する有効性は確認されており,異日投与レジメンによってリツキシマブと化学療法を併用することで高い治療効果が見込まれることは周知であったところ,本件明細書3において,リツキシマブを含む医薬組成物について,各種臨床試験(【0056】,【0069】,【0074】,【0076】,【0078】,【0087】,【0088】,【0090】,【0092】,【0102】)が多数実施され,その治療効果の認められることが記載されていることなどに照らすと,当業者は,【0015】,【0017】等に基づき,同日投与レジメンが治療効果を有し,本件発明3の課題を解決できると認識する。加えて,【0015】,【0017】について,血液学用語辞典(乙3)に,CHOP療法の各薬剤を全てCHOP療法の1日目に投与するレジメンが記載されて

5 いることを踏まえて読めば,R-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの

1日目に投与されるレジメンが記載されていることは明らかである。したがって,本件特許3は特許法36条6項1号に違反しているとはいえない。

⑶ 争点8-3(分割要件違反により本件発明3は新規性を欠くか)について

【被告らの主張】本件特許3は,本件原出願を親出願として,最終的に平成29年10月3日に分割出願された特許出願に係るものであるが,本件原出願の明細書には,①中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)を対象疾患として「6回の21日サイクルのCHOPの1日目に」リツキシマブを投与したという本件明細書3の【0090】の記載事項,②リツキシマブを含む医薬組成物とCHOP療法の各薬剤を「CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に」(構成要件3C)投与する構成は,いずれも開示されておらず,本件発明3は,本件原出願の出願当初の明細書に記載されていない事項を含んでいるから,上記の分割出願は不適法である。したがって,本件特許3は本件原出願日に特許出願されたとみなすことはできない。そうすると,本件発明3は,現実の出願日(平成29年10月3日)前の平成21年に発行された甲12文献に開示されていたから,新規性を欠く。【原告らの主張】本件原出願の出願当初の明細書には,本件明細書3の【0015】,【0017】に対応する記載があり,リツキシマブを含む医薬組成物が「(CHOP)による化学療法の最中」に投与される構成は本件原出願の出願当初の明細書に記載されていた。加えて,血液学用語辞典(乙3)等に記載された投与時期を踏まえれば,【0015】,【0017】に,R-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの1日目に投与されるレジメンが記載されていることは明らかである。したがって,本件特許3の分割出願が不適法であるということはできず,本件特

5 許3は本件原出願日に特許出願されたとみなされるから,本件発明3が甲12文献

により新規性を欠くとはいえない。

9 争点9(被告らに共同不法行為が成立するか)について

【原告らの主張】被告らは,被告製剤に関する販売提携関連契約に基づき,共同で,被告製剤の製造販売等をしているから,本件各専用実施権の侵害について,共同不法行為が成立する。【被告らの主張】争う。

10 争点10(損害の発生の有無及びその額)について

【原告らの主張】

⑴ 特許法102条2項に基づく損害額

被告らによる被告製剤の販売額は16億円を下らず,その利益率は25%と推測されるから,被告らが得た利益の額は4億円を下らない。したがって,特許法102条2項により,原告が受けた損害の額は4億円と推定される。

⑵ 弁護士費用

被告らの共同不法行為と相当因果関係のある弁護士費用に係る損害は,4000万円を下らない。【被告らの主張】争う。

第4 当裁判所の判断

1 本件各発明の内容等の事実認定

⑴ 本件各明細書の発明の詳細な説明本件各明細書の発明の詳細な説明は,全て同じ内容であり,概要,次のとおりである。また,【表1-1】及び【表1-2】は,別紙3「本件各明細書の表」記載

5 1及び2のとおりである(甲2,4,6)。ア 技術分野「【0001】(発明の分野)本発明は,B細胞リンパ腫の治療における抗CD20抗体またはその断片の使用,特に併用療法におけるそのような抗体と断片の使用に関する。」イ 背景技術「【0002】(発明の背景)B細胞リンパ腫のための診断薬および/または治療薬としてのCD20抗原に対する抗体の使用は,従来から報告されている。CD20は,悪性B細胞(すなわち,活発な増殖がB細胞リンパ腫を引き起こすようなB細胞)の表面で高密度に発現されるため,この抗原は,B細胞リンパ腫の有用なマーカーまたは標的である。【0003】CD20またはBp35は,早期プレB細胞の発生中に発現され,形質細胞の分化まで維持されるBリンパ球限定分化抗原である。CD20分子は,細胞サイクルの開始と分化に必要なB細胞活性化プロセス中のある工程を制御しているかも知れないと考える者もいる。さらに前記したように,CD20は通常,新生物(「腫瘍」)B細胞上で非常に高レベルで発現される。CD20抗原は,脱落せず,変化せず,またはインターナリゼーションされないため,ターゲッティング療法にとって魅力的である。【0004】抗CD20抗体を使用する従来報告された治療法は,治療用抗CD20抗体を,単独でまたは第2の放射能標識抗CD20抗体とともに,または化学療法剤とともに投与していた。【0005】

5 実際,食品医薬品局(Food and Drug Administration)(FDA)は,再発性かつ以前治療された低悪性度非ホジキンリンパ腫(NHL)での,そのような1つの抗CD20抗体(リツキサン(Rituxan)(登録商標))の治療的使用を認可した。また,放射能標識マウス抗CD20抗体とのリツキサン(登録商標)の併用が,B細胞リンパ腫の治療に示唆されている。【0006】しかし,抗CD20抗体および特にリツキサン(登録商標)(米国;英国では,マブテラ(MabThera)(登録商標);一般にはリツキシマブ(Rituximab)(登録商標))は,B細胞リンパ腫(例えば,非ホジキンリンパ腫)の治療に有効であると報告されているが,治療された患者ではしばしば疾患が再発する。従って,より有効な治療法が開発されれば,さらに有用であろう。【0007】さらに詳しくは,抗CD20抗体が他のリンパ腫治療と併用して有効であるなら,そして新しい併用治療法が開発されて,再発の可能性または頻度が低下すれば有用であろう。またB細胞リンパ腫の現在の治療法が改良されて,他の治療法に抵抗性のリンパ腫の患者が,キメラまたは放射能標識抗CD20抗体で治療できるなら,有用であろう。また,低悪性度濾胞性非ホジキンリンパ腫以外の他のタイプのリンパ腫の治療に,抗CD20抗体による治療(特に,他の治療法との併用)が使用できるなら,有用であろう。」ウ 発明が解決しようとする課題「【0008】(発明の要約)本発明は,B細胞リンパ腫の併用療法を開示し,キメラおよび放射能標識抗CD20抗体を用いて再発性または抵抗性B細胞リンパ腫を治療する利点を報告する。特に抗CD20抗体を用いる治療は,サイトカイン,放射線治療法,骨髄機能廃絶療法,または化学療法と併用する時,有効な相乗作用を提供することがわかってい

5 る。驚くべきことに,かつて骨髄移植または幹細胞移植を受けた患者は,かつて治療を受けたことのない患者に比較して,全体の応答速度が予想外に上昇した。」エ 発明を実施するための形態「【0015】本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。患者が最初の治療法に応答して緩解または再発の可能性が低下するかどうかに関係なく,連続投与を行ってよい。…【0017】また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2-CdA,FLAG&IDA(以後のG-CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C-Weekly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。…【0020】本発明の方法はまた,低悪性度/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL),小リンパ球性(SL)NHL,中悪性度/濾胞性NHL,中悪性度びまん性NHL,高悪性度免疫芽球性NHL,高悪性度リンパ芽球性NHL,高悪性度小非切れ込み細胞NHL,巨大病変NHL,およびワルデンストレームマクログロブリン血症を含む,種々のB細胞リンパ腫を治療するのに使用される。…【0021】例えば,欧米の病理学者が最近提唱している新しい分類法は,改訂ヨーロッパアメリカリンパ腫(the Revised European American Lymphoma)(REAL)分類と

5 呼ばれる。この分類法は,マントル細胞リンパ腫と,他の末梢血B細胞腫瘍の中でも辺縁細胞リンパ腫を認めており,いくつかの分類項目は細胞診断に基づく悪性度(すなわち,小細胞,混合細胞,および巨大細胞)に分類している。このような分類のリンパ腫も,本発明の併用療法が有用であることを理解されるであろう。…【0023】非ホジキンリンパ腫はまた,「悪性度」に基づき,低悪性度,中悪性度および高悪性度リンパ腫を含む他の疾患の特性に基づき,分類されている。低悪性度リンパ腫は通常,節性リンパ腫として現れ,しばしば無痛性であるかまたは増殖が遅い。中悪性度および高悪性度病変は,大節外性巨大腫瘍を有するはるかに侵攻性の病変として現れる。中悪性度および高悪性度ならびに低悪性度病変は,本発明の併用療法が有用であろう。」オ 実施例(ア) 低悪性度又は濾胞性NHLについての実施例としては,①再発性又は抵抗性NHLによる単一薬剤試験(【0041】ないし【0054】),②ワルデンストレームマクログロブリン血症(【0055】,【0056】),③慢性リンパ性白血病(CLL)(【0057】ないし【0064】),④骨髄機能廃絶化学療法とのリツクシマブ(【0065】),⑤リツクシマブによる再発性低悪性度NHLの再治療(【0066】ないし【0068】),⑥低悪性度NHLのためのリツクシマブとCHOP化学療法との併用(【0069】ないし【0073】),⑦リツキシマブとサイトカインとの併用(【0074】,【0075】),⑧リツキシマブ+G-CSF(【0076】,【0077】),⑨リツクシマブ+IL-2(【0078】ないし【0086】),⑩再発性低悪性度NHL又は濾胞性B細胞リンパ腫の治療のためのリツクシマブ+GM-CSF(【0087】),⑪リツクシマブ+ガンマインターフェロン(【0088】)が掲げられている。上記実施例のうち,③慢性リンパ性白血病(CLL)及び⑥低悪性度NHLのためのリツクシマブとCHOP化学療法との併用については,次のとおり記載されて

5 いる。a ③慢性リンパ性白血病(CLL)「【0061】CLLの抗体治療を,CLLの治療のために有用であることが公知の他の通常の化学療法と組合せることができる。CLLの最も頻繁に使用される単一の薬剤はクロラムブシル(chlorambucil)(ロイケラン(leukeran))であり,0.1mg/kg/日または0.4~1.0mg/kg/日で4週置きに投与される。クロラムブシルは,しばしば経口プレドニソン(30~100mg/㎡/d)と併用され,これは自己免疫性血球減少の管理に有用である。シクロホスファミドは,クロラムブシルの代用となり,通常の用量は1~2g/㎡を3~4週置きにビンクリスチンやステロイド(例えば,COP治療法)とともに投与される。【0062】CLLには種々の薬剤の併用が使用され,例えばCOP(シクロホスファミド,オンコビン(Oncovin),およびプレドニソン)やCHOP(これらの3つの薬剤+ドコソルビシン)がある。…」b ⑥低悪性度NHLのためのリツクシマブとCHOP化学療法との併用「【0069】シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンによる化学療法(CHOP)は,低悪性度または濾胞性NHLの最初の有効な治療法である。初期応答率は高いが,最終的に再発し,以後の化学療法では,緩解の間隔がより短くなる。低悪性度または濾胞性NHLの作用機序は,交差耐性ではなく,リツクシマブ(登録商標)はいくつかの細胞障害性薬剤(ドコソルビシンを含む)と相乗作用を示す(5)ため,新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験を開始した。【0070】

5 38人の患者のうち29人は,先行の抗癌療法を行わなかった。CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(375mg/㎥)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイクル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。【0071】この併用試験では,治療した38人の患者の100%が応答した(CR,58%;PR,42%)。治療を完了した35人の評価可能な患者のうち,63%はCRで37%はPRであった(21)。平均DRは35.3+ヶ月であり,悪化の無い平均生存時間は,平均観察時間36.7ヶ月後に達成されなかった。36+ヶ月~53.4+ヶ月後にもまだ,20人の患者は緩解中であった(22)。最初の治療にとってもこのDRは驚くべきことであり,この試験集団の24%は化学療法後に再発した。」(なお,上記の「(21)」は,【0107】に参考文献21として挙げられている甲38文献を示す。)「【0072】GALGBが実施する試験では,低悪性度NHLの40人の患者に,リツクシマブ(登録商標)を週に1回を8回,そして8日目から開始して経口シクロホスファミドを毎日投与する。20人の患者には,リツクシマブ(登録商標)のみを8週間投与する。【0073】低悪性度NHLの患者についてECOGが実施する第III相試験は,シクロホスファミドおよびフルダラビン(アームA)と,標準的CVP療法(アームB)との併用を比較している。アームAまたはアームBへのランダム化において,患者は,年齢,腫瘍負荷量,組織染色,およびB症状により分類する。両方のアームでの応

5 答者は,リツクシマブ(登録商標)維持療法(375mg/㎡を週に1回で4回,6ヶ月毎に2年間(アームC))または観察(アームD)への第2のランダム化を受ける。」(イ) 中悪性度又は高悪性度NHLに関する実施例としては,①単一薬剤試験(【0089】),②リツクシマブとCHOP化学療法の併用(【0090】ないし【0093】),③骨髄機能廃絶化学療法再発後のリツクシマブ(【0094】)が掲げられている。上記実施例のうち,①単一薬剤試験及び②リツクシマブとCHOP化学療法の併用については,次のとおり記載されている。a ①単一薬剤試験「【0089】ヨーロッパとオーストラリアで行われた試験では,54人の再発性または抵抗性中悪性度または高悪性度NHL患者で,代替投与スケジュールを評価した(34)。リツクシマブ(登録商標)を375mg/㎡を週1回で8回,または375mg/㎡を1回と次に500mg/㎡を週1回で7回注入した。ORRは31%(CR9%,PR 22%)で,投与法の間に有意な差は観察されなかった。びまん性巨大細胞リンパ腫を有する患者(N=30)は,ORRが37%であり,マントル細胞リンパ腫を有する患者(N=12)はORRが33%であった。」b ②リツクシマブとCHOP化学療法の併用「【0090】別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人,男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。30人の評価可能な患者のうち,19人はCR(63%)で10人はPR(33%)であり,ORRは96%であった。この治療法は充分許容されると考えられ,リツクシマブ(登録商標)またはCHOP単独より高い応答を示すようである。」(なお,上記の「(35)」は,【01

5 07】に参考文献35として挙げられている乙9文献を示す。)「【0091】NCI癌治療と診断部門(NCI Division of Cancer Treatment and Diagnosis)はアイディーイーシーファーマシューチカルズ社(IDEC PharmaceuticalsCorporation))と共同して,他の適応症でのリツクシマブ(登録商標)治療を探索している。混合性のびまん性巨大細胞および免疫芽球性巨大細胞組織学的NHLを有する高齢患者(>60才)で,ECOG,CALGBおよびSWOGによりCHOP対CHOPとリツクシマブ(登録商標)の第II相試験が行われている(N=630が計画されている)。この試験は,リツクシマブ(登録商標)による維持対非維持への2次ランダム化を含む。【0092】マントル細胞リンパ腫が未治療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1~3日目に投与される。この試験の発生項目は完了している。SWOGにより行われた新に診断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第II相試験もまた,完了している。これらの2つの試験の結果は現在解析されている。【0093】AIDS悪性腫瘍協会(AIDS Malignancy Consortium)によるHIV関連NHLにおけるCHOPとリツクシマブ(登録商標)対CHOPの第II相試験が行われている。120人の患者が計画されている。」(ウ) その他の実施例として,リツクシマブと併用した 90 イットリウム標識抗CD20抗体による放射線免疫治療法(【0102】ないし【0104】)等が掲げられている。

⑵ 甲38文献及び乙9文献の内容

5 本件原出願日前である平成11年(1999年)1月に頒布された刊行物である甲38文献及び本件原出願日前である平成10年(1998年)に頒布された刊行物である乙9文献は,本件各明細書の発明の詳細な説明において参考文献21及び35として掲げられており,その内容はそれぞれ次のとおりである。ア 甲38文献について甲38文献には,M.S.Czuczmanらによって実施された臨床試験(以下,単に「Czuczmanらによる臨床試験」ということがある。)について,概要,次のとおり記載されている。また,図1は,別紙4「甲38文献の図」のとおりである(甲38,弁論の全趣旨)。「本試験は,単一治療群から成るものであった。患者に対して,リツキサン375mg/㎡を合計6回の静脈内注入と3週間毎のCHOP療法6サイクルが行われた(図1)。各CHOPサイクルの構成は,1日目にシクロホスファミド750mg/㎡,ドキソルビシン50mg/㎡およびビンクリスチン1.4mg/㎡(最大用量2.0mg)の静脈内投与,および1日目から5日目にプレドニソン100mg/㎡の経口投与であった。…リツキサン注入1および2は,8日目に開始された最初のCHOPサイクルより前の1日目および6日目に投与された。リツキサン注入3および4は3回目および5回目のCHOPサイクルの2日前にそれぞれ投与され,輸液5および6は6回目のCHOPサイクルの後,それぞれ134日目および141日目に投与された。このmAb(モノクローナル抗体)投与スケジュールは,NHLにおける既知の臨床活性に加えて,リツキサンの3つの異なる特性を活用すべく選択されたものである。」甲38文献における「輸液5および6」は,5回目及び6回目のリツキサンの投与をいうものである。イ 乙9文献について乙9文献には,B.K.Linkらによって実施された臨床試験(治療歴のない中悪性度又は高悪性度NHLの患者におけるCHOP療法と組み合わせたリツキシマブの安

5 全性及び有効性に関する予備的第Ⅱ相試験。以下,単に「Linkらによる臨床試験」ということがある。)について,概要,次のとおり記載されている(乙9)。「患者は,計測可能な疾患と共に治療歴のない中悪性度または高悪性度B-NHL(IWF D-H)に罹患していた場合に今回の試験に適格とされた。…患者に,リツキシマブ375mg/㎡を各21日サイクルの1日目に投与した後,48時間後にCHOP療法(シクロホスファミド750mg/㎡ d3,ドキソルビシン50mg/㎡ d3,ビンクリスチン1.4mg/㎡ d3,およびプレドニソン100mg d3-7)を施した。31人の患者が治療を受けた(女性19人,男性12人,年齢中央値49歳)。すべての患者に,6サイクルの治療を施した。…30人の患者が応答について評価可能であり,19人がCR(63%),10人がPR(33%),1人は悪化した。このレジメンは,重篤な有害事象の頻度が従来のCHOP単独療法で見られるのと同程度の,許容可能な治療法を示すものであり,より高い応答率をもたらし得るものである。」

⑶ 本件特許1の出願経過等後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件特許1の出願経過等に関し,次の各事実が認められる。ア 本件特許1に係る分割出願本件各特許の出願経過は,概要,別紙5「出願経過」のとおりであるところ,本件特許1の出願人であるバイオジェンは,平成29年5月2日,本件特許2に係る出願(特願2015-032737)を原出願として,本件特許1に係る分割出願(特願2017-91949)をするとともに,特許請求の範囲請求項1を,「リツキシマブを含み,低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療においてヒト患者において化学療法レジメンと組み合わせて使用するための,医薬組成物であって,治療上有効量の前記医薬組成物が,前記患者へ,シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法と同時に投与される,上記医薬組成物。」に補正する旨の手続補正書を提出した

5 (甲2,乙36,44ないし46,127)。イ 早期審査に関する事情説明書におけるバイオジェンの主張バイオジェンは,平成29年5月2日,早期審査に関する事情説明書を提出し,同説明書において,甲38文献は,CHOP療法の前後でリツキシマブを投与する治療計画を開示するものであり,リツキシマブをCHOP療法と同時に投与する治療計画を開示するものではいないと主張した(甲38,乙36)。ウ 拒絶理由通知の内容特許庁審査官は,平成29年6月8日を起案日とする拒絶理由通知書をもって,前記補正に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明に優先権主張の効果は認められないことを前提として,前記分割出願に係る明細書の【0015】,【0069】ないし【0071】の記載に照らすと,前記補正に係る特許請求の範囲請求項1の「同時に」は,治療が同時に進んでいるが薬物が同時に投与されない態様を含み,甲38文献に記載されるような,CHOP療法とリツキシマブを交互に投与する態様も含むことなどから,前記補正に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明は新規性及び進歩性を欠く旨の拒絶理由を通知した(乙36)。エ 本件意見書におけるバイオジェンの主張バイオジェンは,上記拒絶理由の通知を受けて,平成29年9月15日,特許請求の範囲請求項1の「(CHOP)による化学療法と同時に」を「(CHOP)による化学療法の最中に」に変更する旨の手続補正書を提出するとともに,本件意見書において,概要,次のとおり主張した。すなわち,①補正後の請求項1は,「前記医薬組成物が,…(CHOP)による化学療法の最中に投与される」というものであるが,この用語の意義はそれ自体から一義的に明らかとはいえないため,前記分割出願に係る明細書【0015】,【0017】,【0070】,【0090】及び【0092】等の記載を参酌して明らかにすべきであること,②【0015】は,「併用療法」の定義を示す段落であり,第一文では,「併用療法」に「治療法が同時に行なわれ」る態様が含まれることが断定的に記載されているのに対し,第

5 二文では,「本発明の抗CD20抗体はまた,他の治療の前又は後に投与されてもよい」と任意的な表現となっていることからすると,第一文の方が好ましい実施形態であると理解されること,③【0017】は,「化学療法」と抗CD20抗体の併用療法についての一般的な説明をしており,CHOP療法と抗CD20抗体の併用療法に,CHOP療法の「前,その最中,または後に」抗CD20抗体を投与する3つの態様が含まれることを記載しているから,CHOP治療の最中に抗CD20抗体を患者に投与する併用療法は,CHOP治療の前又は後に抗CD20抗体を患者に投与する併用療法と明確に区別されること,④【0070】,【0090】,【0092】には,CHOP療法と抗CD20抗体の併用療法の試験例が説明されているところ,「これらの試験例の記載を,上述した「併用療法」及び「化学療法による併用療法」に関する一般規定,並びに「CHOP療法の最中に投与する」との記載(併用療法の最中に投与するではない)から理解される一般的な意味を整合的に理解すると,CHOP療法の各サイクル中に,典型的には1日目に抗CD20抗体を投与する投与スケジュールは,CHOP療法の「最中に」抗CD抗体を投与する…に該当し,CHOP療法の各サイクルの「前」又は「後」に,抗CD20抗体を投与する投与スケジュールは,CHOP療法の「前」,または「後に」抗CD20抗体を投与するに該当すると理解するのが相当であ」ること,⑤「(CHOP)による化学療法の最中に投与される」に,CHOP療法の各サイクルの「前」又は「後」に抗CD20抗体を投与する投与スケジュールは含まれていないから,前記補正後の発明,すなわち,本件発明1は甲38文献に記載された発明と明確に区別されることなどに照らし,本件発明1は新規性及び進歩性を有すると主張した(乙36)。オ 特許査定その後,バイオジェンは,本件発明1について,特許査定を受け,平成29年10月20日,本件特許1の設定登録を受けた(甲2)。

⑷ 本件各発明の概要

5 前記第2の2⑵ア(ウ),イ(ウ),ウ(ウ)認定の本件各特許の特許請求の範囲,前記⑴認定の本件各明細書の発明の詳細な説明,前記⑶認定の本件特許1の出願経過及び弁論の全趣旨に照らすと,本件各発明は,概要,以下のとおりのものであると認められる。ア 本件各発明は,B細胞リンパ腫の治療における抗CD20抗体及びその断片の使用,特に併用療法における使用に関するものである(【0001】)。イ 従来から,リツキシマブを含む抗CD20抗体を,単独で,もしくは第2の放射能標識抗CD20抗体とともに,又は化学療法剤とともに投与する治療法があり(【0004】,【0005】),リツキシマブは,非ホジキンリンパ腫(NHL)の治療に有効であるものの,治療を受けた患者に疾患の再発があることがしばしば報告されており,より有効な治療法を開発することが有用であると考えられてきた(【0006】,【0007】)ところ,本件各発明は,このような状況に鑑みて,本件原出願日当時公知の医薬品であったリツキシマブについて,新たに有効な治療法を提供することを課題として,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期等を特定してされた用途発明である。すなわち,まず,本件発明1は,リツキシマブを含む医薬組成物について,対象疾患を「低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」(構成要件1A)とし,併用される化学療法及び投与時期を「シクロホスファミド,ドコソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与される」(構成要件1B)などとして特定したものであり,その用途は,本件意見書で示されたとおり,本件原出願日当時公知であったCzuczmanらによる臨床試験とは区別されるものである。次に,本件発明2は,いずれも,リツキシマブを含む医薬組成物について,対象疾患を「低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」(構成要件2A)とし,併用される化学療法及び投与時期を「CVPによる化学療法の間に投与される」(構成要件2B)などとして特定したものである。

5 また,本件発明3は,リツキシマブを含む医薬組成物について,対象疾患を「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」(構成要件3A)とし,併用される化学療法及び投与時期を「シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソン(CHOP)による化学療法の最中に投与され」(構成要件3B),「前記医薬組成物と,前記シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチンおよびプレドニソンとが,前記CHOPによる化学療法の各サイクルの1日目に…投与される」(構成要件3C)などとして特定したものである。

2 争点3(本件特許1は特許無効審判により無効とされるべきものか)-争点3-3(本件特許1は特許法36条6項1号に違反しているか),争点8(本件特許3は特許無効審判により無効とされるべきものか)-争点8-2(本件特許3は特許法36条6項1号に違反しているか)について事案に鑑み,本件特許1及び3が,それぞれ,特許法36条6項1号に違反しているか(争点3-3,争点8-2)について,まず判断する。⑴ 特許法36条6項1号適合性特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に適合するか否かについては,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決することができると認識し得る範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。⑵ 本件特許1及び3の特許請求の範囲の記載構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」については,次のように解するのが相当である。ア 構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」の意義前記第2の2⑷のとおり,CHOPないしCHOP療法は,シクロホスファミド,

5 ドキソルビシン,ビンクリスチン及びプレドニソン又はプレドニゾロンを併用する化学療法であり,一般に,各薬剤の投薬期間及び休薬期間を組み合わせた所定の投薬スケジュールを繰り返すことによって実施されるものと認められるところ,次のとおり,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味するものと解するのが相当である。一般に,「最中」に「物事のまっさかり。また,動作が進行中でまだ終わってないとき。」(乙37)という字義があることからすると,「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間を意味するものとも解し得る。しかしながら,前記1⑶のとおり,構成要件1Bの「最中」という文言は,本件特許1の分割出願時に「同時」という文言であったところ,「同時」はCHOP療法の各薬剤とリツキシマブを交互に投与する態様,すなわち,休薬期間中の投与を含むものであり,その態様は甲38文献に記載されており,新規性及び進歩性を欠くなどとして拒絶理由を通知され,拒絶理由を回避するために補正によって導入された文言であり,出願人であるバイオジェンによる本件意見書において,「最中」とすることにより,本件発明1は甲38文献で開示されているものとは異なる発明となることが示されている。すなわち,前記1⑵アのとおり,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試験は,非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に対して,21日間(3週間)の投薬スケジュールを6サイクル行うCHOP療法を実施しながら,リツキサン375mg/㎡を合計6回投与したものであり,①CHOP療法の各サイクルは,いずれも,1日目にシクロホスファミド,ドキソルビシン及びビンクリスチンを投与し,1日目から5日目までプレドニソンを投与するというスケジュールであり,各サイクル開始後6日目から21日目までは休薬期間であること,②リツキサンの6

5 回の投与のうち3回目及び4回目の投与(注入3および4)は,それぞれ,CHOP療法の3回目及び5回目のサイクルが開始される2日前,すなわち,2回目及び4回目のサイクル開始後20日目に行われたことが示され,上記の3回目及び4回目のリツキサンの投与は,いずれも,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に行われたものであるといえるところ,甲38文献に記載された発明は,前記1⑶のとおり,本件意見書において,「(CHOP)による化学療法の最中に投与される」に含まれないことが示されている。そうであれば,本件特許1の出願過程において,Czuczmanらによる臨床試験における3回目及び4回目のリツキサンの投与のように,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当である。したがって,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間のうち,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中を意味すると解するのが相当である。イ 被告らの主張について被告らは,「最中」の一般的な字義及び本件明細書1の記載等によれば,構成要件1Bの「(CHOP)による化学療法の最中」は,CHOPによる化学療法が進行中でまだ終わっていない段階,すなわち,CHOPによる化学療法のコースを開始してから6コース繰り返して全て終了するまでという意味に解するのが自然である旨主張しており,被告らが主張する「コース」はCHOP療法の各薬剤の投薬期間及び休薬期間の組合せに係る所定の投薬スケジュールを意味するものと解される。しかしながら,前記のとおり,本件特許1の出願経過に照らせば,CHOP療法を開始してから所定の投薬スケジュールを繰り返して全て終了するまでの期間にリツキシマブを投与するものであっても,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中に投与

5 するものは,「(CHOP)による化学療法の最中」から除外されたものと解するのが相当であるから,被告らの主張は採用することができない。⑶ 本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載ア 本件明細書1及び3の【0015】,【0017】本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載は,前記1⑴のとおりであり,発明を実施するための形態として,「本発明の併用療法は,治療法が同時に行われ,すなわち抗CD20抗体は,同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)で投与される。本発明の抗CD20抗体はまた,他の治療法の前または後に投与されてよい。」(【0015】),「また本発明には,化学療法の前,その最中,または後に,治療上有効量のキメラ抗CD20抗体を患者に投与することを含んでなる,B細胞リンパ腫の治療法が含まれる。そのような化学療法は,少なくとも,CHOP,ICE,ミトザントロン,シタラビン,DVP,ATRA,イダルビシン,ヘルツァー(hoelzer)化学療法,ララ(LaLa)化学療法,ABVD,CEOP,2-CdA,FLAG&IDA(以後のG-CSF治療有りまたは無し),VAD,M&P,C-Weekly,ABCM,MOPP,およびDHAPよりなる群から選択される。」(【0017】)と記載されている。しかしながら,上記において,抗CD20抗体ないしキメラ抗CD20抗体として示されるリツキシマブの投与時期について,【0015】では,「他の治療法の前または後」と「同時にまたは同じ時間枠(すなわち,治療は同時に進んでいるが,薬剤は全く同時に投与されるわけではない)」が併記されるにとどまり,また,【0017】では,「化学療法の前…または後」と「その最中」が併記されるにとどまっており,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る説明はされていないから,これらの記載をもって,リツキシマブをCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を認識することは困難であり,もとより,リツキシマブを含む医薬組成物と化学療法に用いられる各薬剤を化学療法の各

5 サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を認識することもできない。このことに加えて,前記のとおり,本件発明1及び3は,いずれも,リツキシマブを含む医薬組成物について,対象疾患,併用される化学療法及び投与時期を特定した用途発明であるところ,【0015】では,対象疾患及び併用される化学療法が特定されておらず,【0017】でも,対象疾患が特定されておらず,併用される化学療法であるCHOP療法も多数の選択肢の一つとして挙げられるにとどまっているから,その意味でも,これらが本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。イ 本件明細書1の【0069】ないし【0071】,【0092】(ア) また,本件明細書1の【0069】ないし【0071】及び【0092】のSWOGによる臨床試験に係る部分において,本件発明1の対象疾患である「低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,次のとおり,これらは,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものであるとは認められない。a すなわち,まず,本件明細書1の【0069】ないし【0071】には,「新に診断された再発性低悪性度NHLまたは濾胞性NHLにおけるCHOPとリツクシマブ(登録商標)との併用を評価するために第II相試験」(【0069】)について,「CHOPは,標準用量で3週間毎にリツクシマブ(登録商標)(375mg/㎥)を6回注入する6サイクルを行った。リツクシマブ(登録商標)注入1と2は,最初のCHOPサイクル(これは8日目に開始した)の前の1日目と6日目に投与した。リツクシマブ(登録商標)注入3と4は,それぞれ第3および第4のCHOPサイクルの2日前に投与し,注入5と6は,6回目のCHOPサイクル後のそれぞれ134日目と141日目に投与した。」(【0070】)と記載されており,参考文献21として甲38文献が参照されていること(【0071】)などに照らすと,これらは,甲38文献に記載されているCzuczmanらによる臨床試

5 験を記載したものと認められる(なお,【0070】の「第3および第4のCHOPサイクルの2日前」は「第3及び第5のCHOPサイクルの2日前」の誤記であると認められる。)。そうすると,【0070】の「リツクシマブ(登録商標)注入1と2」及び「注入5と6」は,CHOP療法全体の開始前及び終了後の投与であり,また,「注入3と4」も,Czuczmanらによる臨床試験の3回目及び4回目のリツキサンの投与と同様に,CHOP療法の各薬剤の休薬期間中の投与であって,当業者は,いずれについても,CHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するものではないと認識すると認められる。したがって,【0069】ないし【0071】は,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。b また,本件明細書1の【0092】には,「SWOGにより行われた新に診断された濾胞性リンパ腫でCHOPの後にリツクシマブ(登録商標)を使用する第II相試験もまた,完了している。」として,SWOGによる臨床試験について記載されているものの,同臨床試験においてリツキシマブが投与されたのは「CHOPの後」であるから,リツキシマブを含む医薬組成物をCHOP療法の各薬剤の投薬期間中に投与するという本件発明1の用途を記載又は示唆するものではない。(イ) さらに,本件明細書1の【0092】には,「マントル細胞リンパ腫が未治療の40人の患者でリツクシマブ(登録商標)とCHOPの第III相試験も,ダナファーバー研究所(Dana Farber Institute)で行われている。21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1~3日目に投与される。この試験の発生項目は完了している。」として,ダナファーバー研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書1には,同臨床試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明1の対象疾患である「低グレード/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そ

5 のように認めるに足る証拠もないから,上記の臨床試験に係る記載部分が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。ウ 本件明細書3の【0090】,【0092】(ア) また,本件明細書3の【0090】において,本件発明3の対象疾患である「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」の患者に対するリツキシマブとCHOP療法の併用療法に係る実施例が記載されているものの,その内容は,「別の試験では,中または高悪性度NHLを有する31人の患者(女性19人,男性12人,平均年齢49才)に,6回の21日サイクルのCHOPの1日目にリツクシマブ(登録商標)を投与した(35)。」というものであり,CHOP療法の各薬剤の投与時期は記載されていない。また,本件明細書3の発明の詳細な説明に,参考文献35として記載されている乙9文献においても,前記1⑵イのとおり,Linkらによる臨床試験で,1サイクル21日間(3週間)のCHOP療法を繰り返し実施するに当たり,リツキシマブはCHOP療法の各サイクルの1日目に投与されたのに対し,シクロホスファミド,ドキソルビシン及びビンクリスチンは各サイクルの3日目に投与され,プレドニソンは各サイクルの3日目から7日目まで投与されたことが認められる。したがって,【0090】は,リツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆するものとは認められない。(イ) さらに,本件明細書3の【0092】には,前記のとおり,ダナファーバー研究所による臨床試験について記載されているものの,本件明細書3には,同臨床試験の対象とされたマントル細胞リンパ腫が本件発明3の対象疾患である「中悪性度又は高悪性度の非ホジキンリンパ腫(NHL)」に含まれることは記載されておらず,そのように認めるに足る証拠もない。また,「21日毎の6サイクルで,リツクシマブ(登録商標)は1日目に投与され,CHOPは1~3日目に投与される。」というだけでは,CHOP療法の各薬

5 剤が全て各サイクルの1日目に投与されたかは必ずしも明らかでないから,いずれにしても,上記の臨床試験に係る記載部分がリツキシマブとCHOP療法の各薬剤をCHOP療法の各サイクルの1日目に投与するという本件発明3の用途を記載又は示唆するものとは認められない。⑷ 原告らの主張についてア 本件発明1原告らは,本件原出願日当時の化学療法とリツキシマブの併用療法は,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間の前又は後にリツキシマブを投与する異日投与レジメンによっていたところ,本件明細書1の【0015】,【0017】には,異日投与レジメンと区別して,化学療法の各サイクルにおける化学療法薬の投薬期間中にリツキシマブを投与する同日投与レジメンが記載されていると主張する。しかしながら,本件原出願日当時,原告らが主張する異日投与レジメンによってリツキシマブと化学療法が併用されていたとしても,前記のとおり,【0015】,【0017】には,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間や休薬期間に係る記載はなく,化学療法の開始前,終了後,化学療法に用いられる薬剤の休薬期間中にリツキシマブを投与するレジメンと区別して,化学療法に用いられる薬剤の投薬期間中にリツキシマブを投与するレジメンが記載されているとはいえないから,これらの記載が本件発明1の用途を記載又は示唆するものと認めるに足りない。イ 本件発明3また,原告らは,本件明細書3の【0015】,【0017】について,血液学用語辞典(乙3)に,CHOP療法の各薬剤を全てCHOP療法の1日目に投与するレジメンが記載されていることを踏まえて読めば,R-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの1日目に投与されるレジメンが記載されていることは明らかである旨主張する。しかしながら,血液学用語辞典(乙3)には,CHOP療法の各薬剤が各サイク

5 ルの1日目に投与されることは記載されているものの,リツキシマブの投与時期がCHOP療法の各サイクルの1日目であることは記載されていないから,これを踏まえたとしても,【0015】,【0017】に,R-CHOP療法の各薬剤が化学療法の各サイクルの1日目に投与されるレジメンが記載されているとは認められない。かえって,前記1⑵イのとおり,乙9文献に記載されたLinkらによる臨床試験では,リツキシマブはCHOP療法の各サイクルの1日目に投与され,CHOP療法の各薬剤は3日目以降に投与されたことが記載されており,その他本件全証拠によっても,本件原出願日当時,CHOP療法の各サイクルの1日目にリツキシマブとCHOP療法の各薬剤が全て投与されるのが技術常識であったと認めることはできない。したがって,本件明細書3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識によっても,当業者において,リツキシマブを含む医薬組成物及びCHOP療法の各薬剤の投与時期がCHOP療法の各サイクルの1日目であるという本件発明3の用途を認識することはできない。

⑸ 小括(争点3-3,争点8-2)以上のとおり,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明に,本件発明1及び3の用途を記載又は示唆するものはなく,本件全証拠によっても,本件明細書1及び3の発明の詳細な説明の記載及び本件原出願日当時の技術常識に基づき,リツキシマブを含む医薬組成物を本件発明1及び3の用途に使用することにより新たに有効な治療法を提供するという発明の課題を解決することができると認識し得ると認めることはできない。よって,本件発明1及び3に係る特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に適合しておらず,本件特許1及び3は,同号に違反する。

3 争点4-1(被告製剤は「CVP」(構成要件2B)を充足するか)について

5 ⑴ 「CVP」の意義ア 構成要件2Bは「前記化学療法が,CVPである」というものであり,前記

第2の2⑷のとおり,CVPないしCVP療法は,シクロホスファミド,ビンクリ

スチン及びプレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であると認められる。そして,証拠(乙15,147)によれば,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法,投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,次のとおり,本件原出願日前に発行されていた文献には,CVP療法と使用薬剤の組合せが同一の化学療法として,COPないしCOP療法という名称の化学療法も記載されていたから,CVP療法とCOP療法が,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期等によって,異なる化学療法として区別して認識されていたかについて検討する。イ 後掲各証拠及び弁論の全趣旨に照らせば,CVP療法又はCOP療法について,次の各事実が認められる。(ア) シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に発行されたHoogstratenらの文献(甲73)によって初めて報告された。その後発行された文献(甲75,乙175)において,Hoogstratenらの文献に記載された化学療法はCOP療法として記載されている。(イ) 昭和56年(1981年)9月に発行された田中公ら「進行したNon-Hodgkin’s LymphomaにおけるCVP療法-白血化例も含めて-」癌と化学療法,Vol. 8, No. 9, pp. 1441-1449(乙113,以下「乙113文献」という。)には,CVP療法について,後記(オ)②のとおり記載されているほか,「Bagleyらや,著者らのCVP療法は細胞周期を考慮してCyclophosphamideを5日間投与する点がCOP療法やCHOP療法と異なるところである。」と記載されている。(ウ) 昭和59年(1984年)1月に発行された柚木一雄「悪性リンパ腫」診断と治療,Vol. 72, No. 1, pp. 186-191(乙70,以下「乙70文献」という。)

5 には,次のとおり記載されている。「Non-Hodgkinリンパ腫に対する有効な多剤併用療法はHoogstratenら(1969)のCOP療法(cyclophosphamide,vincristine,prednisone)に始まる.その有効性は多くの追試者によって確認され,投与法,投与量などを変更し,CVP療法,VCP療法などとして発表されている.…多剤併用療法の理念は,作用機作の異なる数種の有効薬剤を合併して大量間歇投与し,毒性の回復を待ってくり返し,腫瘍細胞のtotal killを目標とするものである.比較的よく使用される治療の実施法を表4に示した.CVP療法はCOP療法を基本としたものであるが,原法に比し有効率の向上は著明である.」(なお,表4には,CVP療法について,後記(オ)①のとおり記載されている。)(エ) 本件原出願日後の平成26年(2014年)11月に発行された甲71文献には,CVP療法の基本プロトコールとして,CPA(エンドキサン)を1日目に投与するなどする投与スケジュールが示されているほか,CVP療法の概要として,次のとおり記載されている(なお,エンドキサンはシクロホスファミドの商品名である(乙3)。)。「もともと進行期のリンパ腫治療用に米国のAcute Leukemia Group BとECOGの共同研究で検討されたレジメンである.その後SWOGでも同様の組み合わせが検討され(COP療法とも呼ばれた),米国のNational Cancer Institute(NCI)ではCPAの投与量や投与方法が異なるレジメンとして用いられていたが(300~400mg/㎡をday1~5に内服),基本はECOGの治療研究で行うCPAをday1に点滴静注する方法として広まっている.」(オ) 本件原出願日前に発行された文献には,CVP療法又はCOP療法の各薬剤の投与量,投与時期,投与方法について,概要,次のとおりのものが示されている。すなわち,CVP療法については,①シクロホスファミド400mg/㎡を1日目から5日目まで経口投与し,ビンクリスチン1.4mg/㎡を1日目に静脈注射し,プレドニゾロン又はプレドニソン100mg/㎡を1日目から5日目まで経口

5 投与するもの(甲74,乙3,10,19,70,72,88,89,134ないし136,138,144,146,153ないし156,181),②各薬剤の投与方法又は投与量は示されていないか,上記①と一部異なるものの,シクロホスファミドを1日目から5日目まで,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与するもの(甲77,乙14ないし16,71,113,114,142,178,191ないし194),③シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与するもの(甲28,57ないし59,81。また,乙72も,シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与する化学療法について記載された乙132を引用の上,これについてもCVP療法としている。),④シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から4日目まで投与するもの(甲60)などがある。COP療法については,⑤シクロホスファミド800mg/㎡を1日目に静脈注射し,ビンクリスチン2mgを1日目に静脈注射し,プレドニゾロン又はプレドニソン60mg/㎡を1日目から5日目まで経口投与するもの(乙88,89,132ないし138,149。ただし,プレドニソンの投与について,乙132,133,149には,1日目から5日目まで投与した後の3日間も減量して投与するものが示されており,乙136,138には,1日目から5日目まで投与した後の9日間も減量して投与するものが示されている。また,乙88,89にも,プレドニソンを1日目から5日目まで投与し,3日間で減量するものが示されている。),⑥各薬剤の投与量は上記⑤と一部異なるものの,シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与するもの(乙151,178),⑦シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から7日目まで投与するもの(乙191ないし194),⑧シクロホスファミドを1日目から5日目まで,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾ

5 ロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与するもの(甲76,80,82)などがある。そして,⑨上記のうち,同一文献中で,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,シクロホスファミドを1日目,ビンクリスチンを1日目,プレドニゾロン又はプレドニソンを1日目から5日目まで又は1日目から7日目まで投与するものであるなどとして,シクロホスファミドの投与時期等によって両者を区別するもの(乙88,89,134ないし136,138,178,191ないし194)がある。ウ そこで,検討すると,前記イ(イ),(オ)のとおり,本件原出願日当時,各薬剤の投与量及び投与方法については若干の相違がみられるものの,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,シクロホスファミドを1日目に投与するものであるなどとして,シクロホスファミドの投与時期によって両者は区別されることが多く(乙88,89,134ないし136,138,178,191ないし194),乙113文献にも,CVP療法は,シクロホスファミドを5日間投与する点でCOP療法と異なることが示されていたほか,CVP療法又はCOP療法のいずれか一方について,各薬剤の投与時期をもって上記のとおり両者を区別することに整合する内容が多く示されていた(CVP療法について,甲74,77,乙3,10,14ないし16,19,70ないし72,114,142,144,146,153ないし156,181。COP療法について,甲82,乙132,133,137,149,151。)。これらのことに加えて,前記イ(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,乙70文献には,CVP療法は,COP療法を基本とし,投与法,投与量等を変更した化学療法として発表されるようになった化学療法であり,COP療法と比べて有効

5 率の向上が顕著であったとして,CVP療法について,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するなどする投与スケジュールが示されている。そうすると,前記イ(オ)のとおり,他方で,シクロホスファミドを1日目に投与する化学療法をCVP療法として記載する文献(甲28,57ないし60,72,81)や,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法として記載する文献(甲76,80,82)もみられたものの,これらは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,本件原出願日当時,CVP療法とCOP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するのがCVP療法であるのに対し,1日目にのみ投与するのがCOP療法であるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されており,そのようにして区別されることは技術常識であったと認めるのが相当である。このような本件原出願日当時の技術常識に照らせば,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであり,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものは含まないものと認めるのが相当である。⑵ 原告らの主張についてア 原告らは,構成要件2Bの「CVP」は,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニゾロン又はプレドニソンを併用する化学療法であり,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に,リツキシマブと併用される化学療法に使用される薬剤の投与量,投与方法及び投与時期を限定する旨の記載はないから,それらによる限定はされないものと解すべきであると主張する。しかしながら,前記のとおり,使用薬剤の組合せが同一であっても,投与量,投与方法及び投与時期等が異なる場合には,異なる化学療法として区別して認識されることがあると認められるところ,「CVP」については,本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書2に具体的な説明がされていない以上,技術常識を踏まえて,その意義,内容を解釈し得ることは当然である。

5 そして,CVP療法について,シクロホスファミドの投与時期によって,使用薬剤の組合せが同一のCOP療法と区別して認識されていたと認められることは前記のとおりであるから,「CVP」の解釈においては,このような本件原出願日当時の技術常識を考慮するのが相当である。イ また,原告らは,本件原出願日当時,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,各薬剤の投与量,投与方法及び投与時期は一義的,硬直的に定められておらず,研究機関等によって異なっていたから,前記のような技術常識を認めることはできないとし,そのことを裏付ける事情として,①甲71文献によれば,CVP療法は,COP療法とも呼ばれ,シクロホスファミドを1日目に投与することを基本とするものであり,研究機関や国によって各薬剤の投与量や投与方法が異なっていたところ,1970年代以降に様々な検討がされ,1990年代になっても,各薬剤の投与量,投与方法,投与時期について多様な検討がされていたこと,②本件原出願日前に発行された文献(甲28,57ないし60,72,76,80ないし82)に,シクロホスファミドを1日目にのみ投与する化学療法をCVP療法と記載するものや,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与する化学療法をCOP療法と記載するものがあったことに加えて,各薬剤の投与量及び投与時期が異なる化学療法を「COP1」等と記載する文献(甲78)や,投与量の異なる化学療法をCVPと記載する文献(甲79)もあったことにも照らせば,CVP療法及びCOP療法が意味するところは一義的ではなかったこと,③本件原出願日前に発行された文献(甲86ないし90,乙12,13,137,158ないし161)に,CVP療法及びCOP療法について,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,並列的,互換的に記載するものがあったこと,④本件原出願日前に実施された大規模な実験について,シクロホスファミドを1日目にのみ投与するものをCVP療法として記載する文献(甲91ないし93)があることなどを主張する。しかしながら,以下のとおり,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえても,前記の技術常識を否定することはできない。

5 (ア) ①甲71文献について前記⑴イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の基本プロトコールとして,CPAを1日目に投与することなどが記載され,CVP療法の概要として,「米国のNational Cancer Institute(NCI)ではCPAの投与量や投与方法が異なるレジメンとして用いられていたが(300~400mg/㎡をday1~5に内服),基本はECOGの治療研究で行うCPAをday1に点滴静注する方法として広まっている」と記載されているものの,甲71文献は本件原出願日の約15年後の平成26年11月に発行された文献であり,前記⑴イ(イ),(ウ),(オ)のとおりの本件原出願日前の文献の記載に照らせば,甲71文献の上記各記載は,平成26年当時のCVP療法に関するものとみるのが自然であって,本件原出願日当時の当業者の認識を示すものとは認め難い。また,前記⑴イ(エ)のとおり,甲71文献には,CVP療法の概要として,COP療法とも呼ばれていた旨記載されているものの,この点については,同(ア),(ウ)のとおり,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソンの3剤を併用する化学療法は,昭和44年(1969年)に初めて報告され,その後発行された文献でCOP療法とされていたところ,その後,投与量等を変えながらCVP療法等として発表されるようになったという研究経過と矛盾するものではなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとは認められない。(イ) ②甲28,57ないし60,72,76,78ないし82について前記のとおり,本件原出願日前に発行された多数の文献の記載に照らせば,原告らが指摘する文献の多くは,多様な化学療法が研究される中で,一般的な認識とは異なる記載がされたものとみるのが相当であって,CVP療法は,シクロホスファミドを1日目から5日目まで投与するものであるのに対し,COP療法は,1日目にのみ投与するものであるとして,シクロホスファミドの投与時期によって区別されていたと認めるのが相当である。

5 なお,原告らが指摘する文献のうち,Charles A.Coltmanら「Chemotherapy ofNon-Hodgkin’s Lymphoma: 10 Years’Experience in the Southwest OncologyGroup」Cancer Treatment Reports Vol.61, No.6, September 1977, pp. 1067-1078(甲78)では,使用薬剤,投与量,投与期間,スケジュール,投与間隔によって,COP1ないしCOP4という名称のレジメンが書き分けられているものの,COP3及びCOP4について,シクロホスファミド,ビンクリスチン,プレドニソン以外の薬剤も使用されるレジメンも記載されており,これらが一般的なCOP療法の内容を示すものとは認め難い。また,John M. Bennettら「Chemotherapy of Non-Hodgkin’s Lymphomas:Eastern Cooperative Oncology Group Experience」Cancer Treatment ReportsVol.61, No.6, September 1977, pp.1079-1083(甲79)では,各薬剤の投与量によって,「高用量CVP」と「低用量CVP」が書き分けられているものの,各薬剤の投与時期については説明されていないから,前記のとおり,CVP療法とCOP療法がシクロホスファミドの投与時期によって区別されていたことと矛盾するものとはいえない。(ウ) ③甲86ないし90,乙12,13,137,158ないし161について原告らが指摘する文献には,「COPまたはCVP」,「CVP/COP」などとして,CVP療法とCOP療法が併記されているものの,それらが互換的又は一体的なものであると積極的に記載するものはなく,CVP療法とCOP療法が区別されていなかったことを基礎付ける記載であるとはいい難い。(エ) ④甲91ないし93について原告らが指摘する文献は,いずれも本件原出願日後に発行されたものであり,本件原出願日前に実施された実験に係る記載があるものの,それらが本件原出願日当時の当業者の認識を示すものと認めることはできない。(オ) 小括以上のとおりであるから,原告らが指摘する文献の記載等を踏まえたとしても,

5 前記の技術常識を否定することはできない。⑶ 被告製剤被告製剤についてみると,前記第2の2⑸ウのとおり,被告製剤の添付文書には,用法・用量欄に「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合」が記載され,用法・用量に関連する使用上の注意として,「他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,先行バイオ医薬品の臨床試験において検討された投与間隔,投与時期等について,【臨床成績】の項の内容を熟知し,国内外の最新のガイドライン等を参考にすること。」と記載されている。また,臨床成績欄には,被告製剤の臨床成績として,未治療の進行期ろ胞性リンパ腫の患者に,被告製剤又は先行バイオ医薬品がR-CVPレジメンによって投与されたことが記載されているほか,先行バイオ医薬品の臨床成績として,国外臨床第Ⅲ相試験(PRIMA試験)において,ろ胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)の患者に,R-CVPレジメンによる寛解導入療法等が実施されたことが記載されている。そして,証拠(甲12,35)及び弁論の全趣旨によれば,被告製剤の添付文書に記載されているR-CVPレジメンは,リツキシマブを1日目に投与するとともに,シクロホスファミド(CPA)及びビンクリスチン(VCR)を1日目,プレドニゾロン又はプレドニソン(PSL)を1日目から5日目まで投与するレジメンであると認められる。そうすると,被告製剤は,添付文書に記載されたR-CVPレジメンがシクロホスファミドを1日目にのみ投与するものであり,1日目から5日目まで投与するものでない点で,構成要件2Bの「CVP」を充足するとはいえない。

4 小括以上のとおり,本件特許1及び3は特許法36条6項1号に違反しており,いずれも特許無効審判により無効とされるべきものと認められるから,同法104条の3第1項により,本件特許1及び3に係る専用実施権者である原告による権利行使は認められない。

5 また,被告製剤は本件発明2の技術的範囲に属するとはいえないから,被告製剤の製造販売等が本件専用実施権2を侵害するとはいえない。

第5 結論

以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官

山 田 真 紀

裁判官

西 山 芳 樹

裁判官棚橋知子は,転補のため,署名押印をすることができない。

裁判長裁判官

山 田 真 紀

(別紙一覧)

別紙1 当事者目録

別紙2 被告製剤目録

別紙3 本件各明細書の表

別紙4 甲38文献の図

別紙5 出願経過

(別紙1)

当事者目録原 告 ジェネンテック インコーポレイテッド

5 原告補助参加人 全 薬 工 業 株 式 会 社(以下「補助参加人全薬工業」という。)原告補助参加人 中 外 製 薬 株 式 会 社(以下「補助参加人中外製薬」といい,補助参加人全薬工業と併せて「補助参加人ら」という。)原告及び補助参加人ら訴訟代理人弁護士重 冨 貴 光同 古 庄 俊 哉原告及び補助参加人ら訴訟復代理人弁護士長 谷 部 陽 平同 廣 瀬 崇 史同 和 田 祐 以 子原告訴訟代理人兼補助参加人ら訴訟復代理人弁護士浅 村 昌 弘同 和 田 研 史原告訴訟代理人兼補助参加人ら訴訟復代理人弁理士・・・・・・・同訴訟復代理人弁理士 金 森 久 司原告及び補助参加人ら補佐人弁理士・・・・・・・同 補 佐 人 弁 理 士 井 上 洋 一被 告 サ ン ド 株 式 会 社(以下「被告サンド」という。)被 告 協和発酵キリン株式会社(以下「被告協和発酵キリン」という。)・・・・・・・被告両名訴訟代理人弁護士 松 葉 栄 治同補佐人弁理士 原 裕 子

(別紙2)

被告製剤目録1⑴ リツキシマブBS点滴静注100mg「KHK」5 ⑵ リツキシマブBS点滴静注500mg「KHK」2 添付文書の用法・用量欄の「1.<CD20陽性のB細胞性非ホジキンリンパ腫に用いる場合>」における次の内容「通常,成人には,リツキシマブ(遺伝子組換え)[リツキシマブ後続1]として1回量375mg/㎡を1週間間隔で点滴静注する。最大投与回数は8回とする。他の抗悪性腫瘍剤と併用する場合は,併用する抗悪性腫瘍剤の投与間隔に合わせて,1サイクルあたり1回投与する。」

(別紙3)

本件各明細書の表1 【表1-1】2 【表1-2】

(別紙4)

甲38文献の図

(別紙5)

出願経過H10.8.11(本件優先日)米国基礎出願60/096180H11.8.11(本件原出願日)本件原出願国際出願PCT/US99/18120特願2000-564662(拒絶審決)分割① 分割②特願2009-117445 特願2010-185374(拒絶査定) (拒絶査定)分割③特願2013-188046(拒絶査定)分割④本件特許2特願2015-032737特許第6241794号分割⑤本件特許1 分割⑥本件特許3特願2017-091949 特願2017-193157特許第6226216号 特許第6253842号

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