平成29(ワ)15518損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和1年6月26日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告IPsoftJapan
|
対象物 |
会話処理装置および方法,並びに記録媒体 |
法令 |
特許権
特許法101条1号2回 特許法100条1項1回 特許法112条3項1回
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キーワード |
新規性64回 実施50回 無効35回 進歩性31回 無効審判15回 特許権11回 侵害10回 間接侵害7回 差止3回 損害賠償2回
|
主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。20
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,原告が,原告の有する特許権に係る特許発明の技術的範囲に属する別5
紙1記載の製品(以下「本件製品」という。)を被告が製造販売等する行為が同
特許権の直接侵害又は間接侵害に当たるなどと主張して,被告に対し,特許法1
00条1項に基づく本件製品の製造,譲渡等の差止めと,民法709条,特許法
102条3項に基づく損害賠償として4500万円及びこれに対する不法行為
の後の日である平成29年5月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで10
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和元年6月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成29年(ワ)第15518号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成31年4月19日
判 決
5 原 告 X
同訴訟代理人弁護士 石 下 雅 樹
江 間 布 実 子
江 間 由 実 子
渡 辺 知 博
10 永 野 真 理 子
益 弘 圭
被 告 IPsoft Japa n
株式会社
同訴訟代理人弁護士 荻 原 雄 二
15 忠 津 充
同補佐人弁理士 小 菅 一 弘
林 浩
渡 邉 聡
主 文
20 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,4500万円及びこれに対する平成29年5月18日か
25 ら支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は,別紙1製品目録記載の製品を製造し,使用し,譲渡し,貸し渡し,輸
入し,若しくは輸出し,又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
5 1 本件は,原告が,原告の有する特許権に係る特許発明の技術的範囲に属する別
紙1記載の製品(以下「本件製品」という。)を被告が製造販売等する行為が同
特許権の直接侵害又は間接侵害に当たるなどと主張して,被告に対し,特許法1
00条1項に基づく本件製品の製造,譲渡等の差止めと,民法709条,特許法
102条3項に基づく損害賠償として4500万円及びこれに対する不法行為
10 の後の日である平成29年5月18日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで
民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実又は文中掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により認定することができる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合に
は,特に断らない限り,枝番を含むものとする。)
15 (1) 当事者
ア 原告は,人工知能技術開発等を目的とする訴外株式会社オメガ・レゾンの
代表取締役である。
イ 被告は,米国法人IPsoft Incorporated(以下「米I
Psoft社」という。)の関連会社であり,ITシステムのサポートサー
20 ビス事業等を営む株式会社である。(乙4)
(2) 原告の特許権
ア 原告は,以下の各特許権(以下,それぞれ符号に従い「本件特許権1」な
どといい,併せて「本件各特許権」という。)を有している(以下,本件各
特許権に係る特許を,それぞれ符号に従い「本件特許1」などといい,併せ
25 て「本件各特許」という。)。
(ア) 本件特許権1(甲5,8)
特許番号:特許第5737641号
発明の名称:自律型思考パターン生成機
出願日:平成26年5月24日
登録日:平成27年5月1日
5 (イ) 本件特許権2(甲6,9)
特許番号:特許第5737642号
発明の名称:自律型知識向上装置
出願日:平成26年8月15日
登録日:平成27年5月1日
10 (ウ) 本件特許権3(甲7,10)
特許番号:特許第5807829号
発明の名称:自律型知識分析器
出願日:平成27年2月2日
登録日:平成27年9月18日
15 イ 本件特許1の特許請求の範囲の請求項1の記載は別紙3の特許請求の範
囲の同請求項のとおりであるところ,同請求項を分説すると,以下のとおり
である(以下,同請求項に係る発明を「本件発明1」という。また,本件各
特許の願書に添付した明細書及び図面を,特許の符号に従って「本件明細書
等1」などという。)。(甲8)
20 1A 画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換するパタ
ーン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,
1B パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成
するパターン制御器と,
1C 入力した情報の価値を分析する情報分析器を備え,
25 1D 有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考パターン
生成機。
ウ 本件特許2の特許請求の範囲の請求項1,3及び6の記載は別紙4の特許
請求の範囲同各請求項記載のとおりであるところ,同各請求項を分説すると,
以下のとおりである(以下,同各請求項に係る発明を,符号に従い「本件発
明2-1」などという。)。(甲9)
5 (ア) 本件発明2-1
2A 言語情報をパターンに変換するパターン変換器と,パターンおよび
パターン間の関係を記録するパターン記録器と,
2B 処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と,パターン
保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパターン間
10 処理器を備え,
2C 入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価
し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させる人工知能装置。
(イ) 本件発明2-3
2A 言語情報をパターンに変換するパターン変換器と,パターンおよび
15 パターン間の関係を記録するパターン記録器と,
2B 処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と,パターン
保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパターン間
処理器を備え,
2C’入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価
20 し,自律的に知識を構築し,
2D 不明な点があれば質問を提示し,質問に対し人間等が回答した場合
はその回答を元に知識を更新していく人工知能装置。
(ウ) 本件発明2-6
2A 言語情報をパターンに変換するパターン変換器と,パターンおよび
25 パターン間の関係を記録するパターン記録器と,
2B’処理を行うためにパターンを保持するパターン保持器と,パターン
保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパターン間
処理器と,
2E パターンを変換し制御出力を生成するパターン逆変換器を備え,
2C”入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価
5 し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させ,
2F その知能に基づき機械の制御を行う人工知能装置。
エ 本件特許3の特許請求の範囲の請求項7~12の記載は別紙5の特許請
求の範囲の各請求項記載のとおりであるところ,同各請求項を分説すると,
以下のとおりである(以下,同各請求項に係る発明を,符号に従い「本件発
10 明3-7」などという。)。(甲10)
(ア) 本件発明3-7
3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
15 3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
に登録および変更するパターン登録器と,
3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
換するパターン逆変換器と,
3E パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器を備
20 え,
3F 人間の指示および学習により情報および情報の構造を分析・記録す
る処理を実施し,情報間の関係をパターン間の接続関係およびパター
ン間の処理により自律的に構築していく人工知能として機能させる
ためのソフトウェア。
25 (イ) 本件発明3-8
3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
に登録および変更するパターン登録器と,
5 3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
換するパターン逆変換器と,
3E パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器を備
え,
3G 人間の指示および学習により情報および情報の構造を分析・記録す
10 る処理を実施し,情報の処理において追加および変更が生じた場合に
おいてもプログラムの追加および変更をすることなく,パターンおよ
びパターン間の接続関係を追加および変更することにより対応する
ことが可能な人工知能として機能させるためのソフトウェア。
(ウ) 本件発明3-9
15 3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
に登録および変更するパターン登録器と,
20 3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
換するパターン逆変換器と,
3E’パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器と,
3H パターンおよびパターン間の分析結果に応じて適切な処理を実行
するパターン処理器を備え,人間の指示および学習により情報および
25 情報の構造を分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をパターン
間の接続関係およびパターン間の処理により自律的に構築するとと
もに,入力された質問,命令および問題・課題に対して適切な処理を
実行する人工知能として機能させるためのソフトウェア。
(エ) 本件発明3-10
3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
5 3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
に登録および変更するパターン登録器と,
3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
10 換するパターン逆変換器と,
3E’パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器と,
3I パターンおよびパターン間の分析結果に応じて適切な処理を実行
するパターン処理器を備え,人間の指示および学習により情報および
情報の構造を分析・記録する処理を実施し,入力された質問,命令お
15 よび問題・課題に対して適切な処理を実行するとともに,情報の処理
に関して追加および変更が生じた場合においてもプログラムの追加
および変更をすることなく,パターンおよびパターン間の接続関係を
追加および変更することにより対応することが可能な人工知能とし
て機能させるためのソフトウェア。
20 (オ) 本件発明3-11
3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
25 に登録および変更するパターン登録器と,
3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
換するパターン逆変換器と,
3E’パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器と,
3J パターンおよびパターン間の分析結果に応じて適切な処理を実行
するパターン処理器を備え,
5 3K 入力した情報の価値を評価し,真理,真実,事実,定義,規則,常
識,説明,仮説,予測,意見,感想に識別,分類し自律的に知識体系
を構築する人工知能として機能させるためのソフトウェア。
(カ) 本件発明3-12
3A 情報をパターンに変換するパターン変換器と,
10 3B パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係およびパター
ンの励起の履歴を記録するパターン記録器と,
3C パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示または自律的
に登録および変更するパターン登録器と,
3D パターンの処理を制御するパターン制御器と,パターンを情報に変
15 換するパターン逆変換器と,
3E’パターンおよびパターン間の関係を分析するパターン分析器と,
3J パターンおよびパターン間の分析結果に応じて適切な処理を実行
するパターン処理器を備え,
3K’入力した情報の価値を評価し,真理,真実,事実,定義,規則,常
20 識,説明,仮説,予測,意見,感想に識別,分類し自律的に知識体系
を構築するとともに,入力した情報を構築した知識体系と照合し,真
理,真実,事実,規則および常識に沿った行動を実施する人工知能と
して機能させるためのソフトウェア。
(3) 本件製品
25 本件製品は,米IPsoft社が開発した人工知能プラットフォームである。
(甲11)
(4) 先行文献
本件各特許の各出願日より前に,以下の文献が存在した。
ア 発明の名称を「会話処理装置および方法,並びに記録媒体」とする公開特
許公報(特開2001-188784号,平成13年7月10日公開。乙7。
5 以下「乙7公報」といい,同公報に記載された発明を「乙7発明」という。)
イ 発明の名称を「知識ベースシステム」とする公開特許公報(特開平11-
327910号,平成11年11月30日公開。乙8。以下「乙8公報」と
いう。)
ウ 発明の名称を「知識ベース構築システム」とする公開特許公報(特開平9
10 -50377号,平成9年2月18日公開。乙9。 「乙9公報」
以下 という。)
エ 発明の名称を「原因探索装置」とする公開特許公報(特開平1-2511
59号,平成元年10月6日公開。乙10。以下「乙10公報」という。)
オ 発明の名称を「概念獲得装置及びその方法,並びにロボット装置及びその
行動制御方法」とする公開特許公報(特開2006-12082号,平成1
15 8年1月12日公開。乙11。以下「乙11公報」といい,同公報に記載さ
れた発明を「乙11発明」という。)
カ 「WHO IS AMELIA?」と題するパンフレット(米IPsoft社作成,平成
26年9月公開。乙12。以下「乙12文献」という。)
3 争点
20 (1) 被告による本件製品の製造販売等の有無(争点1)
(2) 本件製品をインストールした装置(以下「アメリア」という。)が本件発明
1の技術的範囲に属するか(争点2)
ア 構成要件1Aの充足性(争点2-1)
イ 構成要件1Bの充足性(争点2-2)
25 ウ 構成要件1Cの充足性(争点2-3)
エ 構成要件1Dの充足性(争点2-4)
(3) アメリアが本件発明2の技術的範囲に属するか(争点3)
構成要件2C(2C’,2C”)の充足性(争点3-1)
(4) 本件製品が本件発明3の技術的範囲に属するか(争点4)
ア 構成要件3Bの充足性(争点4-1)
5 イ 構成要件3Cの充足性(争点4-2)
ウ 構成要件3E(3E’)の充足性(争点4-3)
エ 構成要件3K(3K’)の充足性(争点4-4)
(5) 本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争
点5)
10 (6) 本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争
点6)
(7) 本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか(争
点7)
(8) 差止めの必要性(争点8)
15 (9) 原告の損害額(争点9)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告による本件製品の製造販売等の有無)について
(原告の主張)
被告は,平成27年9月頃から本件製品を日本国内で販売しており,少なくと
20 も,展示及び譲渡の申出を行っている。
すなわち,①本件製品を紹介するパンフレットの裏表紙に被告の電話番号,会
社名及び住所が英語で表記され,米IPsoftの連絡先は記載されていないの
で,取引業者は,被告に連絡すれば本件製品を購入することが可能であると理解
するのが通常であること(甲11の2),②本件製品の公式ウェブサイトの「お
25 問い合わせ」ページの「Preferred IPsoft Office」をクリックすると被告の電
話番号が表示されるようになっていること(甲29),③日本オラクル株式会社
(以下「日本オラクル」という。)は,平成28年8月12日,被告と提携し,
同社のクラウドサービスと本件製品を組み合わせて,消費者での電話での問合せ
に自動で応答するサービスを同年内に国内で提供すると発表し(甲14),その
ウェブサイトにおいて,被告の当時の代表者のA(以下「A」という。)による
5 本件製品の特徴や機能についての説明が引用されていること(甲26),④平成
28年7月27日に開催された日本オラクル主催のイベント「Oracle Modern
Business Experiences 2016」(以下「本件イベント」という。)において,A
が,米IPsoft社のチーフ・コマーシャル・オフィサーとともに「新しいA
I(人工知能)Amelia(アメリア)とサービスクラウドによる新しいカス
10 タマー・エクスペリエンスの創造」と題する講演を行い,また,同イベントにお
いて,本件製品が被告の社名の下に展示され,Aが日本オラクルからのインタビ
ューに応じて本件製品の特徴について語り,そのPRをしていること(甲27,
28),⑤日本オラクルは,平成29年8月16日,原告からの照会に対し,「ア
メリアとOracle Service Cloudとの連携は既に検証済みである」と回答している
15 こと(甲33),⑥被告が本訴提起前の原告との交渉の際,実施行為の有無につ
いて特に主張をしていなかったことなどによれば,被告は,少なくとも,本件製
品の展示及び譲渡の申出を行ったということができる。
(被告の主張)
被告は,本件製品の製造販売や販売の申出等の実施行為を行っていないから,
20 本件製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否かにかかわらず,被告に対する
原告の請求は理由がない。
本件製品は,米IPsoft社が開発した人工知能プラットフォーム製品であ
る。被告は,米IPsoft社の関連会社であるが,その具体的な業務は,
「IPcenter」というIT運用自動化を支援するIT統合運用プラットフォーム製
25 品のサポートサービスである。被告は,日本国内において本件製品に関する事業
を展開しておらず,本件製品を製造又は購入して顧客に販売したことはなく,本
件製品に関する契約の締結や,見積書,発注書及び請書等のやり取りも一切行っ
ていない。現に,被告の組織上も,
「IPcenter Sales & Operation」というIPcenter
の業務部門しか存在していない(乙1)。
本件製品の公式ウェブサイト(甲11,12)は,被告が運営・管理するウェ
5 ブサイトではなく,本件製品の紹介動画も被告が作成したものではない。同ウェ
ブサイト内に被告の電話番号,会社名及び住所が表示されているのは,日本国内
の潜在的顧客が連絡を取る際の便宜的な窓口となるためであり,仮に顧客から問
合せがあっても,被告は,関連会社の担当者を紹介するだけで,具体的な対応は
行っていない。
10 米IPsoft社と米国のオラクル・コーポレーションとの間に,両社の製品
の提携が企画されている事実は存するが,被告が日本オラクルと共同で本件製品
に関するサービスを顧客に販売しているものではなく(乙4),日本オラクルの
ウェブサイト上の記載は,被告が本件製品を販売していることを内容とするもの
でもない。
15 本件イベントは,日本オラクルのクライアントを対象として,同社取扱製品の
販売促進を目的として開催されたイベントであり,被告の営業やマーケティング
を目的とするものではない。被告代表者が講演を行い,被告のブースにおいて本
件製品が紹介されたのは,日本オラクルからの依頼によるものであり,本件イベ
ントでの被告の活動は,いずれも米IPsoft社を含めたグループとしての会
20 社紹介や技術力の高さを示すための活動にすぎない。
被告訴訟代理人が本訴提起前に実施行為の有無等に関する回答をしなかった
(甲21,乙2の1)のは,原告の指摘事項が不明確であり,被告訴訟代理人が
米IPsoft社の代理人でもあったことによるのであり,本訴提起前の被告の
対応が被告による実施行為の存在を裏付けるものではない。
25 以上のとおり,被告は,本件製品を販売したことがなく,本件製品を取り扱う
事業上の人的・物的基盤を有しないのであり,譲渡の申出に当たる具体的な行為
を行ったこともないから,被告は本件製品の販売又は譲渡の申出に該当する行為
をしていない。
2 争点2(アメリアが本件発明1の技術的範囲に属するか)について
以下のとおり,原告は,本件製品を組み込んだ装置(以下「本件装置」という。)
5 は構成要件1A~1Dを充足するから,本件発明1の技術的範囲に属し,ソフト
ウェアである本件製品は,本件発明1の生産にのみ用いる物であるから,その譲
渡の申出行為は特許法101条1号の間接侵害に該当すると主張するのに対し,
被告は構成要件の充足性及び間接侵害の成否を争う。
(1) 争点2-1(構成要件1Aの充足性)について
10 (原告の主張)
本件装置は,構成要件1Aの「画像情報,音声情報および言語を対応するパ
ターンに変換するパターン変換器」 「パターンを記録するパターン記録器」
及び
を有しているので,同構成要件を充足する。
ア 本件明細書等1によれば,パターンとは,対応する事象の特徴を検出器が
15 識別する信号の組合せにより表現したものであり(段落【0017】),画
像,音声又は言語の情報を,計算機で処理ができるような信号の組合せに変
換したものである。
上記「信号」とは,画像,音声又は言語の情報の要素(例えば「1」 「0」
や )
を意味しており,異なった事象や概念は,要素の組合せが異なった「パター
20 ン」となるので,「パターン」を比較することにより,同じ事象や概念かど
うかを識別することができる。
イ 本件製品のパンフレットには,「アメリアは,人間の同僚と同じ研修資料
を読んで理解することができます」(甲11の2・3頁)とあり,この「研
修資料」には言語が含まれることが明らかであるから,本件装置には,言語
25 を取り込む機能がある。
また,本件製品は,「感情的な対応力」を有しているとされ,アメリアの
表情(甲11の2・5頁)は,「EQ(共感指数)」により変化させられ,
ユーザがアメリアの感情を画像にて確認できるようになっている(甲11の
2・10頁)。このこと及び本件製品の動画(甲34)からすれば,アメリ
アがその感情(喜怒哀楽)に対応した画像情報を計算機で処理できるデータ
5 の形態に変換して,処理を行う機能を有していることが明らかである。
さらに,本件製品は「人間の同僚と顧客の間で行われるやりとりを観察し
て仕事を覚えること」ができるとされているから(甲11の2・3頁),本
件装置は,音声情報を取り込む機能も備えている。
そして,本件製品も電子計算機で処理されるソフトウェア製品であるから,
10 本件装置は,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに変換す
るパターン変換器」を備えている。
また,電子計算機において,信号の組合せであるデータの処理のために,
これを記録することは当然であるから,本件装置は「パターンを記録するパ
ターン記録器」を備えている。
15 ウ 被告は,本件装置が,その感情に対応した画像を予め保有しており,状況
に応じてその場に適した表情の画像を表示可能な構成を備えているにすぎ
ないと主張するが,その場合であっても,構成要件1Aを充足する。
本件明細書等1における「画像パターン」とは,画像情報から生成された
一塊のデータを意味し,ビットマップ情報を含むが,これに限らず,画像情
20 報から生成され,人工知能を構成するソフトウェアが利用できる「一塊のデ
ータ」の全てを含む。
本件製品は,状況に応じてその場に適した表情の画像を表示させることが
できるところ(甲34),このような処理をするため,本件製品は,①アメ
リアの様々な表情(うれしい,悲しい,怒っている等)に対応する複数の画
25 像を作成し,アメリアを構成するソフトウェアが処理できるデータ形式で,
各表情に対応した「一塊のデータ」(画像パターン)を記録し,②会話の状
況に応じた感情を示す指数を計算し,指数に対応した表情のアメリアの画像
を,①で記録した画像パターンの中から選択し,表示するという処理を行っ
ていることが想定される。
上記のとおり,構成要件1Aにいう「画像情報…を対応するパターンに変
5 換する」とは,「各表情に対応した一塊のデータを計算機で処理可能な形態
に変換すること」を意味するので,人工知能がアメリアの感情に対応する画
像を表示する際に,画像作成時のデータ形式(例えば,STL)から別のデ
ータ形式(例えば,BMP)に変換する場合も同構成要件を充足することに
なる。
10 本件製品は,感情に対応する画像データの作成を行っていると考えられる
が,仮にアメリアとは別の画像処理用のコンピュータにより画像データを作
成したとしても,「アメリアの感情に対応した画像を計算機で処理可能な形
態(パターン)に変換する」という工程を実施していることになるから,本
件装置が構成要件1Aを充足することに変わりはない。
15 (被告の主張)
本件装置は,少なくとも画像情報をパターンに変換するパターン変換器,画
像情報のパターンを記録するパターン記録器を有していないから,構成要件1
Aを充足しない。
ア 本件発明1は,人間の思考パターンを学習し,人間が考える一連の思考パ
20 ターンと同様の思考パターンを生成する知能機械に関するものであり,構成
要件1Aは,本件発明1が画像検出器,音声検出器及び言語入力器で検出さ
れた画像情報,音声情報及び言語を,それぞれ対応するパターン変換器でパ
ターンに変換し,これらのパターンを記録する構成を有することを特定した
ものである。
25 それゆえ,構成要件1Aを充足するためには,知識を取得するために画像
検出器等から得られた画像情報をパターン化してこれを記録器に蓄積する
構成を有することを要する。仮に,本件装置がアメリアの感情に対応した画
像を予め保有しており,状況に応じてその場に適した画像を表示可能な構成
を備えているとしても,それをもって構成要件Aを充足するものではない。
本件装置は,画像検出器で画像情報を取得し,パターン変換する画像パタ
5 ーン変換器を有しておらず,これを有することを裏付ける証拠もない。
イ これに対し,原告は,アメリアがその感情に対応した画像を予め保有して
おり,状況に応じてその場に適した表情の画像を表示可能な構成を備えてい
ることをもって,本件装置が構成要件1Aを充足すると主張する。
しかし,本件発明1は,有用と判断した情報を自律的に記録し,自律して
10 思考パターンを生成する機械に関するものであり,ここで記録の対象となる
情報とは,パターン変換器でパターンに変換された画像情報等である。アメ
リアが感情に対応した画像パターンを表示する機能を有するとしても,単に
画像を表示するための構成と,本件発明1における画像情報を知識として蓄
えるためにパターン変換器でパターンに変換する構成とは全く異なる。
15 また,通常,画像データは,予め他の画像処理用のコンピュータなどで作
成してパターン変換した後に,製品に組み込むことが多いと考えられるから,
感情に対応した画像を表示できることから直ちに画像情報をパターンに変
換するパターン変換器を有するということはできない。
(2) 争点2-2(構成要件1Bの充足性)について
20 (原告の主張)
本件装置は,構成要件1B(「パターンの設定,変更およびパターンとパタ
ーンの結合関係を生成するパターン制御器と,」)を充足する。
本件発明1の「パターン」は,「人間の思考」や「文」を表現することがで
きるので,「概念」を包含するものであるところ(本件明細書等1の段落【0
25 005】,【0055】~【0059】),本件発明1では,この概念や概念
間の結合関係を設定し又は変更する手段として「パターンの設定,変更および
結合関係を生成する」と規定されている。このように,構成要件1Bでは,概
念間の結合関係の変更の機能が特定されているところ,概念間の結合関係は,
組合せを変えることにより容易に変更することが可能である。
本件製品は,思考プロセスをつなぐ概念や関係を把握して,マインドマップ
5 を構築するものであり(甲12・図4,図5,図7及び図8),また,「起こ
っている出来事に関する処理マップを自分で作成」し,「その知識を保存・応
用し,似たような状況を解決するための方法を自分自身で決定」し,「このよ
うに観察・理解し,その知識を自動的に応用できる能力」(いずれも甲11の
2・3頁)を備えているとされている。
10 こうしたマインドマップや処理マップを構築するためには,概念の設定,変
更及び概念間の結合関係を生成する機能が必須であるから,本件装置は,「パ
ターンの設定,変更およびパターンとパターンの結合関係を生成するパターン
制御器」を備えており,構成要件Bを充足する。
(被告の主張)
15 本件装置は,少なくとも「パターンの設定,変更…するパターン制御器」で
はないので,構成要件1Bを充足しない。
ア 本件発明1にいうパターンとは,アメリアにおいては,入力されて保存す
る各情報に対応して変換された,コンピュータ内に記録されている一塊の信
号(ビットの組合せ等)を含むものと考えられるが,アメリアに既に記録さ
20 れている一塊の信号は,それ自身が何らかの情報と対応付けられた信号であ
るから,この信号に対して改めて何らかの「設定」を行い,又は「変更」を
する必要はない。
例えば,「犬」として認識されていた画像パターンが実は「猫」であった
場合,「犬」として認識されていた画像パターンを「猫」の言語パターンに
25 結合し直すために「結合関係を生成する」動作は必要となるとしても,パタ
ーン自体の変更がされるわけではない。
したがって,本件装置が「パターンの設定,変更」機能を備えているとは
考え難く,実際のところ,本件装置が同機能を有することを裏付ける証拠は
ない。
イ 原告は,本件装置がマインドマップを構築する機能を有していることから,
5 パターンを設定,変更し,パターン間の結合関係を生成する機能が必須であ
ると主張するが,同製品がマインドマップを構築する機能を有するとしても,
パターンの設定,変更を行うパターン制御器を有することにはならない。
また,原告は,「パターン」という語を「概念」に置き換えた上で,マイ
ンドマップを構築するためには概念の設定,変更及び概念間の結合関係を生
10 成する機能が必須であるから,同製品が構成要件1Bを充足するとも主張す
るが,本件発明1の構成要件上,「概念」という語は使用されておらず,「パ
ターン」と特定されているのであり,「パターン」と「概念」は同一ではな
い。原告の主張は,請求項の文言から離れた独自の解釈である。
(3) 争点2-3(構成要件1Cの充足性)について
15 (原告の主張)
本件装置は,本件発明1の構成要件1C(「入力した情報の価値を分析する
情報分析器を備え,」)を充足する。
ア 本件製品のパンフレットや紹介記事等には,以下の記載がある。
・ 「自然言語を読み取り,文脈を理解し,論理を適用し,暗示されている
20 内容を推定し,経験を通して学び,感情すらも察知します。」(甲11の
2・3頁)
・ 「アメリアは何を言われたかだけでなく,それが何を意味しているかも
理解します。彼女は同じ言葉の異なる用法を見分けるために文脈をあては
めることで,暗示されている意味を完全に理解します」(甲11の2・3
25 頁)
・ 「アメリアは人間の同僚と顧客の間で行われるやりとりを観察して仕事
を覚えることもでき,起こっている出来事に関する処理マップを自分で作
成します。彼女はその知識を保存・応用し,似たような状況を解決するた
めの方法を自分自身で決定します。」(甲11の2・3頁)
・ 「仕事を与えられたあらゆる分野で瞬く間にエキスパートになることが
5 できます。」(甲11の2・3頁)
・ 「どのような役割を与えられた場合でも,彼女は学習することで,人間
の同僚や顧客の双方に対して価値のある提案やソリューションを提供で
きます。」(甲11の2・5頁)
・ 「アメリアは顧客の質問を受け付け,顧客が求めていることを理解し,
10 問題を明らかにするために必要な質問を投げかけることで,答えを提示す
ることができます。」(甲11の2・6頁)
・ 「伝えられていることの文脈や意図を理解していることを証明していま
す。」(甲11の2・11頁)
・ 「彼女は自分の知識の限界も認識しており,自力で問題に対処できない
15 場合,人間の同僚にその問題を引き渡します。アメリアは,賢い従業員と
同様に,同僚の様子を見て特定時の状況に対する最善の手順を見つけます。
自分の知能を用いることで,彼女は観察したやりとりのナレッジマップを
作成し,将来似たような場面に遭遇したとき人間が介入しなくともそのマ
ップを応用できるようにします。」(甲11の2・9頁)
20 ・ 「アメリアは人間と自然言語でコミュニケーションする。ことばの意味
や文脈を理解し,論理の応用や含意の推測を行う。また多くの時間と労力
を要するプログラミングを必要とせず,自分で与えられた情報の処理マッ
プを作成し,解決しなければならない問題に応じて,どういう手段を講じ
たら良いか自分で判断する。そして,人ができる現場の作業を学習し自動
25 化するが,業務に特化した情報を学習するため,業務に不要な情報での不
必要な学習や成長はしない。」(甲31・1頁)
・ 「アメリアは,それぞれの環境で既存のマニュアルや状況の前後関係や
背景から学習するだけでなく,人間の同僚を観察したり,その同僚と一緒
に行ったりする業務を通じて学習し,最適なビジネスプロセスの処理マッ
プを自身で判別します。そして人間の同僚や顧客に,価値のある情報を提
5 供します。」(甲34の1・3枚目)
イ 上記記載によれば,本件製品を組み込んだ本件装置は,①人間の同僚と顧
客を識別するなど,誰から得た情報かを識別すること,②どの分野に関する
情報かを識別し,あらゆる分野の業務を対象とした上で,その分野及び業務
への必要性の識別をすること,③「似たような状況」を識別し,「記録され
10 た情報との関係を分析すること,④多種多様な質問や要求に対して対応する
こと,⑤顧客と同僚のやりとりから「価値のある情報」を識別して記録し,
将来似たような場面に遭遇したときに応用することができるということが
できる。
本件装置が上記各行為を行うためには,「自然言語」に含まれる意味を読
15 み取り,情報の種類や価値を分析する能力を有することが必須であるので,
同製品は,入力した情報の価値を分析する情報分析器を備えているというこ
とができる。
したがって,本件装置は,構成要件1Cを充足する。
(被告の主張)
20 本件装置は,情報の価値を分析する情報分析器を有しているということはで
きないので,構成要件1Cを充足しない。
ア 構成要件1Cは,取得した情報を取得先,分野,記録された情報との関係,
情報の種類等の観点から情報の価値を分析することを定めたものであるが,
本件装置がこうした情報の価値を分析していることを裏付ける証拠はない。
25 イ ソフトウェアで構成される人工知能が真の意味で人間と同様に自然言語
に含まれる意味を理解したり,文脈や意図を理解したりできるかはともかく,
そのような応答を行っていると感じさせるためには,情報間の関係性が把握
されている必要はあるものの,個々の情報の価値まで分析する必要は必ずし
もない。例えば,自然言語で提供された話題について応答する場合,当該話
題に関連する情報について結合関係が締結されていれば,締結された情報を
5 出力することで会話は進行する。本件装置が,自然言語の情報を理解してい
るように応答する能力を有するとしても,構成要件1C所定の情報分析器を
備えることを意味しない。
また,原告は,本件装置が価値ある情報を提供する機能を有しているから,
情報の価値を分析する機能を有していると主張するが,価値ある情報を提供
10 するからといって,情報の価値を分析していることにはならない。例えば,
情報の価値を分析しなくとも,入力されたそれぞれの情報について結合関係
を生成しつつ知識体系を構築することは可能であり,ある質問事項について
結合関係の高い情報を回答として提示することができれば,質問者にとって
は価値ある情報の提供を受けたことになる可能性が高い。
15 したがって,本件製品の紹介記事やパンフレットに価値のある情報を提供
する旨の記載があるとしても,本件装置が情報の価値を分析する情報分析器
を備えていることにはならない。
(4) 争点2-4(構成要件1Dの充足性)について
(原告の主張)
20 本件装置は,構成要件1D(「有用と判断した情報を自律的に記録していく
自律型思考パターン生成機。」)を充足する。
ア 本件製品は,「人間の同僚と顧客の間で行われるやりとりを観察して仕事
を覚えることもでき,起こっている出来事に関する処理マップを自分で作成
します。彼女はその知識を保存・応用し,似たような状況を解決するための
25 方法を自分自身で決定します。」(甲11の2・3頁)とされているが,こ
こに記載されているように「仕事を覚える」,「処理マップを自分で作成す
る」,「知識を保存・応用する」,「知識を自動的に応用する」などの行為
を行うには,「有用と判断した情報を自律的に記録していく」ことが必須で
あり,上記記載は,同製品が,情報を分析し,有用な情報を記録しているこ
とを示している。
5 また,前記のとおり,本件製品は,「顧客との同僚のやり取り」を「有用
な情報」であると識別して自律的に記録し,全ての質疑応答に関する情報も
「有用な情報」としてその知識や経験として自律的に記録している。
さらに,本件製品は,「人ができる現場の作業を学習し自動化するが,業
務に特化した情報を学習するため,業務に不要な情報での不必要な学習や成
10 長はしない。」(甲31・1頁)とされ,業務に不要な情報での不必要な学
習や成長はせず,有用と判断した情報を自律的に記録している。
したがって,本件製品を組み込んだ本件装置は,「有用と判断した情報を
自律的に記録していく自律型思考パターン生成機」との構成を備えている。
イ 有用性の判断方法に関し,信頼性のある情報源からの「平常文」は,真実
15 や事実について述べている可能性が高いので,情報として価値が高いと考え
られる(実施例につき段落【0046】,【0058】,【0059】)。
また,「疑問文」は,「質問に対する回答」が「パターンとパターンの結合」
として関係づけられている場合,「質問」を発すると,「質問に対する回答」
として有用な情報を得ることができる(質問とその回答の結合例につき段落
20 【0043】)。このように,文の種類を分析し,蓄積された知識は有用な
ものであるといえる。
また,情報源が信頼できるかどうかについての判断は,システムの構築時
(システム内の知識がゼロの状態)においては,システム管理者が指定した
分野における基本的な知識(事実,規則,業務フロー,マニュアル,質問と
25 その回答,研修資料等)を入力し,知識を構築するが,この時点で入力され
た情報は,信頼性のある情報と位置付けることができる。システム運用時に
おいては,例えば,システム管理者が指定した「人物」 「文献」 「雑誌」
, , ,
「パンフレット」,「マニュアル」,「研修資料」等からの情報は信頼度が
高いと判断する等の方法が考えられる。
(被告の主張)
5 本件装置は,有用と判断した情報を自律的に記録する機能を有していないか
ら,構成要件1Dを充足しない。
ア 構成要件1Dは,自律型思考パターン生成機が,情報分析器による分析に
基づき情報の価値が評価され,価値が高く有用と判断された情報がパターン
記録器に構成されていく機能を有することを特定したものである。
10 しかし,本件装置は,情報分析器を有しないから,当然,情報分析器によ
って分析された有用な情報のみを記録する機能を有していることもできず,
そのような機能を有することを裏付ける証拠もない。
イ また,知識を保存し,保存した知識を応用するために,情報として得た知
識を保存する機能,関連する情報の接続関係を把握する機能を有する必要が
15 あるとしても,例えば,ある事例についての解を得る際に,問題となってい
る事例と関連・類似する事例を情報の結合関係から特定し,当該関連・類似
事例の解として結合されている情報を提示することができれば,知識を自動
的に応用したことになる。そうすると,このような過程を行う場合に,わざ
わざ有用性を判断した上で,有用な情報のみを記録する必要はないので,ア
20 メリアが知識を保存し応用する能力を有するとしても,有用と判断した情報
を自律的に記録する機能を有するということはできない。
また,構成要件1Dで特定されているのは,「有用と判断した情報を自律
的に記録していく」ことであるが,記録していく情報中に有用な情報が含ま
れていたり,その結果としてエキスパートになったり適切な解を得ることが
25 できたとしても,有用と判断した情報を自律的に記録していることにはなら
ない。そして,本件装置が,情報について価値を判断し,有用と判断したも
のを記録する機能を有することを裏付ける証拠はない。
3 争点3(構成要件2C(2C’,2C”)の充足性)について
原告は,本件装置は本件発明2-1,2-3,2-6の各構成要件を充足し,
ソフトウェアである本件製品は,同各発明の生産にのみ用いる物であるから,そ
5 の譲渡の申出行為は特許法101条1号の間接侵害に該当すると主張するのに
対し,被告は,構成要件の充足性及び間接侵害の成否を争う。
(原告の主張)
本件装置は,本件発明2-1の構成要件2C,本件発明2-3の構成要件2C’
及び本件発明2-6の構成要件2C”(「 入力した言語情報の意味,新規性,真
10 偽および論理の妥当性を評価し,自律的に知識を獲得(構築)し,」)を充足す
る。
(1)ア 本件製品の言語情報の意味を評価する機能に関し,そのパンフレットには,
「アメリアは自然言語を読み取り,文脈を理解し,論理を適用し,暗示され
ている内容を推定し,経験を通して学び,感情すらも察知します。」(甲1
15 1の2・3頁),「アメリアの記憶は人間の記憶と全く同じように,エピソ
ード記憶と意味記憶によって構成されています。アメリアはエピソード記憶
によって,さまざまな経験や事象を認知することができます。また,意味記
憶は,アメリアに顧客の世界に関する事実,概念,知識の体系的な記録をも
たらします。」(甲11の2・10頁),「アメリアに命を吹き込むために
20 意味役割の理解を実装したことで,彼女は文章をパーツに分解して,各単語
の役割と,他の単語との関係を解釈できるようになりました。」(甲11の
2・11頁),「問題の根本を見極めるための的確な質問ができる」(甲1
1の2・6頁),「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより,ア
メリアは問題を解決することもできます。」(甲11の2・11頁)と記載
25 されている。
イ このように,「問題の根本を見極める」,「経験を通して学ぶ」,「知識
に対して積極的に論理を当てはめる」などの行為をするためには,「言語情
報の新規性,真偽および論理の妥当性を評価」する必要があるから,本件装
置は,「入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価
し」ているということができる。
5 また,本件製品の紹介ビデオ(甲12)の図5には「Every query adds to
Amelia's experience and knowledge」(全ての質疑応答がアメリアの経験
と知識に加えられる)とあり,本件製品のパンフレットには「彼女はその知
識を保存・応用し,似たような状況を解決するための方法を自分自身で決定
します。」(甲11の2・3頁)とあることからして,本件装置は,「自律
10 的に知識を獲得し,知能を向上させ」,「自律的に知識を構築し」ていると
いうことができる。
ウ 構成要件2C,2C',2C”の「入力した言語情報の意味,新規性,真偽
および論理の妥当性を評価し」と「知識を獲得し」又は「知識を構築し」と
は,並列の関係にある。
15 すなわち,本件明細書等2の段落【0038】に,「自律型知識向上装置
は入力情報と既に記録している知識との整合・不整合,論理の妥当性を評価
した際に,不整合または論理の飛躍が検出されると,入力された情報が正し
いか否か,正しいならその根拠について質問を提示する。既に記録している
知識との整合・不整合の確認は,入力された情報を検索キーとして記録され
20 ている関連情報が検索される。検索された関連情報と入力情報の整合・不整
合の確認が実施され,不整合が検出された場合には,入力された情報が正し
いのか質問を提示する。」とあるように,「入力した言語情報の意味,新規
性,真偽および論理の妥当性の評価」は,単に「記録」の目的のみに使用し
ているわけではなく,問題とする概念や状況と記録している知識とを照らし
25 合わせて,どのような対応を行うのか決めることにも使用している(上記の
例では「質問を提示」している)のであるから,上記の「評価」と「知識の
獲得(構築)」とは,並列の関係にある。
エ したがって,本件装置は,本件発明2-1の構成要件2C,本件発明2-
3の構成要件2C’及び本件発明2-6の構成要件2C”を充足する。
(2) 意味の評価について
5 本件製品のパンフレット等において,「アメリアは人間の同僚と同じように
自然言語のマニュアルを使って学習しますが,その所要時間はわずか数秒です。
読み取った内容を個別の単語として認識するのではなく,その意味を完全に理
解します。」(甲34の1・2頁),「情報を引き出すためにクエリーに使わ
れている言葉を探知して適合させるだけの他のテクノロジーとは異なり,アメ
10 リアは何を言われたかだけでなく,それが何を意味しているかも理解します。」
(甲11の2・3頁)とあるように,本件装置は,意味の評価を実施する機能
を有している。
(3) 新規性の評価について
本件明細書等2によれば,本件発明2において,新規性を評価する目的は,
15 問題とする概念や状況と記録している知識とを照らし合わせて,どのような対
応を行うかを決めるためであり(段落【0037】 【0038】 【図19】 ,
, , )
単に,新規に獲得した情報が有益であると判断した場合に知識に順次追加する
ためだけのものではない。
本件製品のパンフレット上,「アメリアは,プロセスの中核ナレッジを1度
20 学習すれば,対応する顧客の言語でやりとりできます。 (甲11の2・9頁)
」
とされており,これは,遭遇した課題に対し,過去に学習したナレッジを適用
できるか否か識別する能力を有していることを示している。そして,「過去に
学習したナレッジを適用できない」と判断することは,過去の事例ではないと
識別することを意味する。
25 また,本件製品は,「アメリアは人間の同僚と顧客の間で行われるやりとり
を観察して仕事を覚えることもでき,起こっている出来事に関する処理マップ
を自分で作成します。彼女はその知識を保存・応用し,似たような状況を解決
するための方法を自分自身で決定します。 (甲11の2・3頁)
」 とされるが,
これは,遭遇した状況に対し,似たような状況のナレッジを適用できるか否か
を識別する能力を有していることを示すものであり,
「似たような状況でない」
5 と判断することは,過去の事例ではないと識別することである。
「アメリアは顧客の質問を受け付け,顧客が求めていることを理解し,問題
を明らかにするために必要な質問を投げかけることで,答えを提示することが
できます。」(甲11の2・6頁)とあるのも,本件製品が,顧客の質問に対
し答えを生成する際,自己の知識と照らし合わせ不明な点があれば,問題を明
10 らかにするために必要な質問を顧客に対し投げかけ,顧客からの回答に応じて,
適切な回答を示すことができることを意味するものであるから,この動作は,
本件発明2の実施例(段落【0037】,【0038】,【図19】)の動作
と同じである。
さらに,「彼女は自分の知識の限界も認識しており,自力で問題に対処でき
15 ない場合,人間の同僚にその問題を引き渡します。アメリアは,賢い従業員と
同様に,同僚の様子を見て特定の状況に対する最善の手順を見つけます。自分
の知能を用いることで,彼女は観察したやりとりのナレッジマップを作成し,
将来似たような場面に遭遇したとき人間が介入しなくともそのマップを応用
できるようにします。」(甲11の2・9頁)とされているが,これは,問題
20 とされる概念や状況と記録している知識とを照らし合わせて,記録している知
識と照合しない(新たな状況=新規である)と判断した場合,人間の同僚にそ
の問題を引き渡すという対応を実施していることを示している。
これらは,本件装置が,まさに「新規性を評価する機能」を有していること
を示している。
25 (4) 真偽の評価について
本件製品のパンフレットによれば,「意味記憶は,アメリアに顧客の世界に
関する事実,概念,知識の体系的な記録をもたらします。」(甲11の2・1
0頁)とされているが,これは,アメリアが,顧客の世界に関する事実,概念,
知識を有しており,何が正しく(真),何が正しくない(偽)かを識別する機
能を有することを示している。
5 また,「知識に対して積極的に論理を当てはめることにより,アメリアは問
題を解決することもできます。」(甲11の2・11頁)とされているが,こ
れは,本件装置が,事実,概念,知識を論理的に展開していく(論理を当ては
める)ことにより,新たな事実,概念,知識を導出する能力を有していること
を示すもので,正しい情報(事実,概念,知識)に対し,正しい論理を適用し
10 て導出した情報も正しいと考えられるから,このようにして導出された情報は
真偽が評価されていると考えられる。
さらに,「彼女が知っている情報の本体に立ち返ることで,自然言語で述べ
られた質問を元に事実を明らかにするための明確な質問を発し,人間と同じよ
うに問題の明確な性質を顕在化させることができるのです。」(甲11の2・
15 11頁)とされているが,これは,本件製品が,知っている情報の本体(事実,
概念,知識)と照らし合わせ,何が正しいかを明確にする(事実を明らかにす
る)能力及び不明な点を明らかにするために質問する能力を有することを示し
ている。
そうすると,本件装置は,入力された情報の真偽を評価する機能を有してい
20 るということができる。
(5) 論理の妥当性評価について
本件明細書等2の段落【0026】は,「論理:A⇒B」(AならばB)が,
言語パターンAから言語パターンBに向けて接続関係を生成することにより
構成できること,すなわち,情報間で構築された関係性を基に,論理矛盾のな
25 い応答を行うことが可能であることを示している。そして,本件発明2におけ
る「論理の妥当性評価」は,本件明細書等2(段落【0027】 【0028】
, ,
【図11】)の記載内容からしても,被告が主張するような,単に「入力した
言語情報について既に蓄積している知識との整合を基に論理の妥当性を評価
し,論理の飛躍が解消されると有益な情報として知識に順次追加するための構
成」であるというだけではなく,段落【0027】に記載されているような内
5 部で行う処理にも適用されている。
本件パンフレットに,「アメリアは自然言語を読み取り,文脈を理解し,論
理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験を通して学び,感情すらも察
知します。」(甲11の2・3頁),「知識に対して積極的に論理を当てはめ
ることにより,アメリアは問題を解決することもできます。」(甲11の2・
10 11頁)とあることは,本件装置が,情報間で構築された関係性を基に,論理
矛盾のない適切な回答をする能力を有していること,すなわち「論理の妥当性
評価」を実施する機能を有していることを示すものである。
(6) 自律的に知識を獲得する機能について
本件製品のパンフレットにおける前記(1)ア及び(3)の各記載によれば,本件
15 装置は「自律的に知識を獲得する」機能を有しているということができる。
(被告の主張)
本件装置は,入力された情報の新規性,真偽及び論理の妥当性のいずれの評価
もしているとはいえず,これらの評価に基づいて知識を獲得するという構成も有
しないから,本件発明2-1の構成要件2C,本件発明2-3の構成要件2C’
20 及び本件発明2-6の構成要件2C”をいずれも充足しない。
(1) 新規性の評価について
ア 本件発明2は,新規性検出器により入力された言語パターンが既にパター
ン記録器に既存情報として記録されているか否かを判断することにより,当
該言語パターンを評価している(段落【0033】,【0034】)。この
25 主な目的は,新規な情報だけをパターン記録器に記録していくことにより,
記録領域量や情報の処理量を抑えることにあると考えられる。
しかし,アメリアが新規性検出器のようなものを備え,入力された情報に
ついて新規性を評価する構成を有することを裏付ける証拠はない。近年のコ
ンピュータが有する記憶領域量は膨大であり,処理能力も非常に高速化して
いるため,わざわざ入力された情報ごとに新規性を評価しなくとも,入力さ
5 れた情報を随時入力して知識を構築すれば十分であり,仮にその容量を超過
しそうになった場合も,単に記憶相違を大容量のものに入れ替えるなどすれ
ば足りる。そのような状況下で,わざわざ「情報の新規性を評価する」とい
った特別な技術を採用することは合理的でない。
イ 原告は,アメリアは,遭遇した課題に対し,過去に学習したナレッジを適
10 用できるか否かを識別する能力を有していると主張するが,顧客とのやりと
りは,一度でも学習して顧客からの質問事項と回答事項に結合関係が生成さ
れ,知識として保有されていれば顧客に応答することができるのであるから,
質問事項に結合している回答事項を検索する処理は「新規性の評価」に当た
らない。
15 また,原告が指摘する「彼女はその知識を保存・応用し,似たような状況
を解決するための方法を自分自身で決定します。」(甲11の2・3頁)と
の記載は,人間同士の質疑応答を観察して情報間に結合関係を生成すること
により知識を蓄積し,その知識を類似状況に対する質問事項についての回答
として検索可能としたことを意味するにすぎず,そのような処理を行うため
20 に,新規性の評価,すなわち,過去の事例でないことを識別する処理は必要
とされない。
原告は,アメリアは,現在の状況が問題解決の知識として記録している状
況と似ているのかを識別する機能を有すると主張するが,上記のとおり,質
問事項等に対応するには,情報をカテゴライズして知識として蓄積していく
25 ことにより,質問事項に対して積極的により近い回答事項を選択することが
最も簡便かつ適切な方法であり,そのための処理に新規性の評価は不要であ
る。
したがって,アメリアは,「入力した言語情報の新規性を評価し,自律的
に知識を構築し,」との構成を有しない。
(2) 真偽の評価について
5 本件発明2は,言語情報の接続関係を処理して記録する際に,入力された情
報が正しいか否かを判断することにより真偽の評価を行っており,この評価の
ためにパターン記録器には真実等についての知識が記録され,これらの知識と
の照合により,入力された言語情報の真偽の評価がなされる(段落【0019】 。
)
この主な目的は,真と判断される情報だけをパターン記録器に記録していくこ
10 とにより,正しい情報に基づく知識体系を構築し,質問等に対して正しい応答
を行うことができるようにするためと考えられる。
しかし,本件製品のパンフレット等には,同製品が真実等についてのデータ
ベースを備えており,入力された情報をこのデータベースと付き合わせて真偽
を判断し,真実と判断されたものを新たな知識として習得するように作動する
15 ことをうかがわせる記載は存在しない。
そもそも,入力された言語情報について,自律的に知識を獲得するため,本
件発明2のように,いちいち真偽を評価しなくとも,入力された情報間で構築
された関係性に基づき,より多く強固な関係性を有する情報を抽出することに
より,真に近い情報を引き出し,より正しい応答をさせれば足りるのであり,
20 仮に構築されている情報の関係性が少なく,偽の情報に基づいた応答がされる
おそれがあるときは,人間に判断を委ねることでこれを避けることができる。
こうした手段によれば,その際に人間の行った判断内容を学ぶことで,次回同
様な事態が生じた場合に正しい応答ができるようになる。
本件製品も,「単独で顧客を助けられない場合,彼女はその問題を人間のス
25 タッフに引き渡し,問題解決を補助しながら,将来の状況に備えて問題解決の
仕方を学習します。」(甲11の2・6頁)とされているとおり,まさにその
ような手段を採用している。
(3) 論理の妥当性評価について
本件発明2における論理の妥当性評価は,言語情報の接続関係を処理して記
録する際に行われるものであり,入力された情報が既に記録されている情報と
5 の不整合がなく,論理の飛躍が解消されたものを知識として追加するよう構成
されている(段落【0019】)。この主な目的は,論理に飛躍や矛盾のない
情報だけをパターン記録器に記録していくことにより,妥当性が確認された情
報を知識として蓄積して系統だった知識を構築し(段落【0011】,【00
38】),質問等に対して矛盾のない応答を行うことができるようにするため
10 と考えられる。
しかし,本件製品のパンフレット等には,同製品が論理の妥当性を評価し,
自律的に知識を獲得し,知能を向上させていることについての記載は存在しな
い。
また,入力される様々な言語情報について逐一論理の妥当性を評価する処理
15 を行うのは負担となり,その必要がない。そのような手間をかけずとも,入力
された情報間で構築された関係性を基に,より多く強固な関係性を有する情報
を抽出することにより,論理矛盾のない適切な応答をさせることが可能である。
本件装置は,知識として蓄積した情報間の結合関係からより適切な回答を検
索していると思われるが,それは同製品内部で行われている処理にすぎず,結
20 果として論理矛盾のない適切な回答となる可能性が高いとしても,それをもっ
て,入力した言語情報の論理の妥当性や論理の飛躍の有無を評価するような処
理を行っているということはできない。
(4) 評価と知識の獲得の関係について
本件明細書等2の段落【0001】,【0017】,【0019】,【00
25 23】,【0024】,【図1】等の記載によれば,本件発明2は,新規性,
真偽,論理の妥当性の評価に基づいて自律的に知識を獲得することにより知能
を向上させる人工知能装置の発明である。
これに対し,本件装置は,例えば,真実などに関する知識を予め有し,入力
された言語情報をこのような知識と比較して真偽を評価するような構成を有
しておらず,そのような評価に基づいて知識を獲得するといった構成も有しな
5 い。
原告は,「評価」と「知識の獲得」が並列の関係にあると主張するが,本件
明細書等2において,「評価」はあくまでも有用な情報と判断して系統立った
知識を獲得するための手段とされており,「評価」のみを遊離させた構成とは
されておらず,そもそも「評価」のみをさせても知能の向上に結びつかないか
10 ら,原告の上記主張は失当である。
4 争点4(本件製品が本件発明3の技術的範囲に属するか)について
(1) 争点4-1(構成要件3Bの充足性)について
(原告の主張)
本件製品は,本件発明3の構成要件3B(「パターン,パターン間の接続関
15 係,パターン間の関係およびパターンの励起の履歴を記録するパターン記録器
と,」)を充足する。
ア 本件製品は「パターン変換器」(構成要件3A)を備えているところ,電
子計算機において,信号の組合せであるデータの処理のために,これを記録
することは当然であるから,同製品は,「パターンを記録するパターン記録
20 器」を備えている。
本件製品がマインドマップや処理マップを構築するためには,概念や関係
の把握が必要であり,電子計算機が処理可能な形態としての処理のためには,
パターン,パターン間の接続関係,パターン間の関係を記録する機能が必須
である。
25 また,「励起」とは,記録モジュールが情報の照合等により活性化した状
態のことを指すところ(段落【0025】),例えば,パターン登録器が,
入力した情報をパターン記録器の記録モジュールと照合し,入力した情報と
同一のパターンが記録されているか確認し,記録されていれば該当のパター
ンを励起し,記録されていなければ新規パターンとして記録モジュールに記
録し励起するという処理に関係する。
5 本件製品が,処理マップを作成して保存応用し,「似たような状況を解決
するための方法を自分で決定する」(甲11の2・3頁)には,入力された
情報を,記録器に記録されたパターン又はその組合せと照合することが必須
であり,かつ,「似たような状況」の認識のためには,あるパターンが励起
したことを記録しておくことも必須である。
10 したがって,本件製品は「パターン,パターン間の接続関係,パターン間
の関係およびパターンの励起の履歴を記録するパターン記録器」を備えてい
るということができる。
イ 「パターン間の接続関係」とは,パターン間の結合に関する情報という意
味であり,「パターン間の関係」とは,パターン間の関わりがどのようなも
15 のであるかに関する情報という意味である。「接続関係(=結合)」は,様々
な「関係」の一形態であるから,「パターン間の関係」は,「パターン間の
接続関係」を包含する。これらの両者をともに記載したのは,思考パターン
を生成するためには概念間の「接続関係(=結合)」が特に重要であり,そ
の記録が必要であることによる。また,概念間の「関係」には,「接続関係
20 (=結合)」と正反対の意味を有する「無関係」も含まれ得るので,そのよ
うな誤解を生じないためにも,両者を併記する必要があったのである。
(被告の主張)
本件製品は,パターン間の接続関係とパターン間の関係の両方のデータを記
録しているとはいえず,パターンの励起の履歴を記録しているともいえないか
25 ら,本件発明3の構成要件3Bを充足しない。
ア 本件発明3では,情報を知識体系として構築するために,情報と情報の関
係を示すパターンとパターンの接続関係を記録するとともに,例えば,ある
パターンを等価なパターンに変換するために用いられるために,パターン間
の関係が記録される(段落【0017】,【0023】,【0026】,【図
5】,【図6】)。パターン間の接続関係を記録するのは情報を知識体系と
5 して構築するためであり,パターン間の関係を記録するのは同じ意味のパタ
ーンを等価変換して記録領域を抑えたり,反対の意味を持つパターンを整理
したりして情報の処理を効率的に行うためであると考えられる。
しかし,近年のコンピュータが有する記録領域は膨大であり,処理能力も
非常に高速化しているから,パターン間の接続関係を記録して情報を知識体
10 系として構築すれば足り,これに加えてパターン間の関係をパターン記録器
に記録する必要はない。原告は,「パターン間の接続関係」が「パターン間
の関係」に包含されると主張するが,両者は明らかに別個の概念である。
本件製品がパターン間の接続関係を記録するとともにパターン間の関係
を記録することを裏付ける証拠はなく,同製品が,これらをともに記録して
15 いるということはできない。
イ 本件発明3においてパターンの励起の履歴を記録するのは,これを記録し,
あるパターンが励起するごとにそのパターンが励起する前の励起履歴をそ
のパターンの接続情報記録部に転写することにより,あるパターンと,その
パターンが励起に到るまでのシナリオを記録するためと考えられる(段落
20 【0025】)。
しかし,生じた問題等に人工知能が自律して対応するために,情報間の接
続関係が整理されて知識体系が構築される必要はあるかもしれないが,その
ためにパターンの励起の履歴を記録する必要はない。パターン間の接続関係
を記録し,関連性の強い情報を追っていけば,シナリオに沿ったと感じられ
25 るような応答は可能であって,そのためにパターンの励起の履歴を記録する
必要はない。
本件製品がパターンの励起の履歴を記録することを裏付ける証拠はなく,
同製品がこれを記録しているということはできない。
(2) 争点4-2(構成要件3Cの充足性)について
(原告の主張)
5 本件製品は,本件発明3の構成要件3C(「パターンおよびパターン間の接
続関係を人間の指示または自律的に登録および変更するパターン登録器と, )
」
を充足する。
ア 言語で表現された「概念A」や「概念B」は,計算機が処理できるように
「パターン(概念A)」や「パターン(概念B)」に変換され,マインドマ
10 ップを構築する際に,概念や概念間の結合関係を「登録」したり「変更」し
たりする必要が生じるが,この概念や概念間の結合関係を登録したり変更し
たりする手段として,本件発明3は,構成要件3Cを規定している。
アメリアがマインドマップや処理マップを構築するためには,概念や関係
を把握して登録する機能が必須であるから,アメリアは,「パターンおよび
15 パターン間の接続関係を人間の指示または自律的に登録および変更するパ
ターン登録器」を備えている。
イ 前記のとおり,「パターン」や「パターン間の接続関係」の「変更」とは,
「概念」や「概念間の接続関係」の「変更」を意味する。様々な「概念」や
「概念間の接続関係」を設定して動作を確認している場面を想定すると,全
20 てが思いどおりの動作をすれば,当初の設定どおりでよいが,場合によって
は,一部を変更したいことも生じ得るので,このような場合に,既に登録し
ている「概念」の内容を変更したり,「概念間の接続関係」を変更したりす
ることがあり得る。
(被告の主張)
25 本件製品は,少なくともパターンの変更を行うパターン登録器を有していな
いから,本件発明3の構成要件3Cを充足しない。
構成要件3Cの「パターン」とは,アメリアにおいては,入力されて保存す
る各情報に対応して変換された,コンピュータ内に記録されている一塊の信号
(ビットの組合せ等)に相当する概念を含むものと考えられる。
しかし,前記2(2)(被告の主張)で述べたとおり,パターンに変換されて記
5 録されたパターンに対して,改めて「変更」する必要はなく,アメリアがこう
した機能を有することを裏付ける証拠はない。
したがって,本件製品は,構成要件3Cを充足しない。
(3) 争点4-3(構成要件3E(3E’)の充足性)について
(原告の主張)
10 本件製品は,本件発明3-7及び3-8の構成要件E並びに本件発明3-9
~3-12の構成要件E’の「パターンおよびパターン間の関係を分析するパ
ターン分析器と,」との構成を充足する。
ア 本件製品のパンフレット上,「アメリアは自然言語を読み取り,文脈を理
解し,論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験を通して学び,感
15 情すらも察知します。…アメリアは何を言われたかだけでなく,それが何を
意味しているかも理解します。彼女は同じ言葉の異なる用法を見分けるため
に文脈をあてはめることで,暗示されている意味を完全に理解します。 (甲
」
11の2・3頁),「伝えられていることの文脈や意図を理解していること
を証明しています。」(甲11の2・11頁)とされているが,こうした行
20 為を行うためには,文脈に含まれる意味を読み取り,その関係を分析するこ
とは必須であるから,本件製品は,「パターンおよびパターン間の関係を分
析するパターン分析器」を備えている。
イ 「パターン」とは,「情報」を計算機が処理できるようにした形態のもの
であるから,「パターンを分析する」とは,「情報を分析する」という処理
25 を,計算機での処理として表現したものである。
本件製品のパンフレット等によれば,「アメリアは思考プロセスをつなぐ
概念や関係を把握して,マインドマップを構築します。」(甲34の1・3
頁),「アメリアに命を吹き込むために意味役割の理解を実装したことで,
彼女は文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語の関係を解釈す
ることができるようになりました。」(甲11の2・11頁),「アメリア
5 は人間の同僚と顧客の間で行われるやりとりを観察して仕事を覚えること
もでき,起こっている出来事に関する処理マップを自分で作成します。彼女
はその知識を保存・応用し,似たような状況を解決するための方法を自分自
身で決定します。」(甲11の2・3頁)とされているが,「概念や関係を
把握」,「文章をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語の関係を解
10 釈する」,「人間の同僚と顧客の間で行われるやり取りを観察」するという
行為は,まさしく「情報を分析する」という行為であるから,本件製品は「パ
ターンを分析する」機能を有する。
(被告の主張)
本件製品は,少なくともパターンを分析するパターン分析器を有していない
15 から,本件発明3-7及び3-8の構成要件3E並びに本件発明3-9~3-
12の構成要件3E’を充足しない。
構成要件3E(3E’)は,本件発明3の人工知能がパターン分析器を備え
ていることを特定したものであり,このパターン分析器は,パターンを分析す
る機能と,パターン間の関係を分断する機能を有するものとして特定されてい
20 る。ここでいうパターンとは,本件製品においては,保存する各情報に対応し
て変換された,コンピュータ内に記録されている一塊の信号(ビットの組合せ
等)に相当する概念を含むものであると考えられるところ,本件製品はコンピ
ュータ内に記録されている一塊の信号を元の情報に戻すためのパターン逆変
換器は有するかもしれないが,記録されている一塊の信号は,入力された情報
25 と対応しているのだから,これ(パターン)を改めて分析する必要はないし,
同製品がパターン分析器を具備することを裏付ける証拠もない。
したがって,本件製品は,構成要件3E及び3E’のいずれも充足しない。
(4) 争点4-4(構成要件3K(3K’)の充足性)について
(原告の主張)
本件製品は,本件発明3-11の構成要件3K(「入力した情報の価値を評
5 価し,真理,真実,事実,定義,規則,常識,説明,仮説,予測,意見,感想
に識別,分類し自律的に知識体系を構築する人工知能として機能させるための
ソフトウェア」)及び本件発明3-12の構成要件3K’(上記3Kの構成に
「入力した情報を構築した知識体系と照合し,真理,真実,事実,規則および
常識に沿った行動を実施する」との構成が付加されたもの)を充足する。
10 ア 本件製品のパンフレットによれば,「アメリアは自然言語を読み取り,文
脈を理解し,論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験を通して学
び,感情すら察知します」(甲11の2・3頁),「アメリアの記憶は人間
の記憶と全く同じように,エピソード記憶と意味記憶によって構成されてい
ます。アメリアはエピソード記憶によって,さまざまな経験や事象を認知す
15 ることができます。また,意味記憶は,アメリアに顧客の世界に関する事実,
概念,知識の体系的な記録をもたらします。」(甲11の2・10頁),「ア
メリアに命を吹き込むために意味役割の理解を実装したことで,彼女は文章
をパーツに分解して,各単語の役割と,他の単語との関係を解釈できるよう
になりました。」(甲11の2・11頁)と記載されているところ,以上の
20 ような「暗示されている内容を推定」,「感情すら察知」,「事実,概念,
知識の体系的な記録」,「問題の根本を見極める」,「経験を通して学ぶ」,
「知識に対して積極的に論理を当てはめる」といった行為をするためには,
「情報の価値を評価し,真理,真実,事実,定義,規則,常識,説明,仮説,
予測,意見,感想に識別,分類し自律的に知識体系を構築」することは必須
25 である。
したがって,本件製品は,構成要件3Kを充足する。
イ さらに,本件製品のパンフレットによれば,「アメリアは…起こっている
出来事に関する処理マップを自分で作成します。彼女はその知識を保存・応
用し,似たような状況を解決するための方法を自分自身で決定します。 (甲
」
11の2・3頁),「彼女は新たな従業員と同じように学習し,事実上どの
5 ような産業でも,従業員や顧客の助けとなるために自分の知識を応用し,
様々なビジネスの課題に取り組みます。」(甲11の2・5頁)とされてお
り,これは,「入力した情報を構築した知識体系と照合し,真理,真実,事
実,規則および常識に沿った行動を実施する」ことを意味している。
したがって,本件製品は,構成要件3K’を充足する。
10 (被告の主張)
アメリアないし本件製品は,少なくとも,入力した情報の価値を評価してお
らず,入力された情報について,真理,真実,事実,定義,規則,常識,説明,
仮説,予測,意見,感想に識別,分類していないから,本件発明3-11の構
成要件3K及び本件発明3-12の構成要件3K’を充足しない。
15 ア 構成要件3K及び3K’は,本件発明3-11及び3-12の人工知能が
入力された情報について情報の価値を評価する機能を有することを特定し
たものであり,例えば,入力情報の源泉に信頼性があるか,情報が新規であ
るかなどを基に情報の価値を評価するものであるが,アメリアが,情報の価
値を評価していることを裏付ける証拠はないから,アメリアがこうした機能
20 を有するとはいえない。
ソフトウェアで構成される人工知能が真の意味で人間のように暗示され
ている内容を推定したり,知識に対して積極的に論理を当てはめたりできる
かはともかく,そのように感じられる応答を行うために,情報間の関係性が
把握されている必要はあるが,個々の情報の価値まで評価する必要はない。
25 例えば,提示された質問に対して応答する場合,当該質問に関連する情報に
ついて接続関係が締結されていれば,締結された情報を出力することで,知
識に対して論理を当てはめたように感じる応答が可能であるから,アメリア
が暗示されている内容を推定したり,論理を当てはめたように応答する能力
を有するとされていても,入力された個々の情報の価値を評価していること
にはならない。
5 イ 構成要件3K及び3K’は,本件発明3-11及び3-12の人工知能が
入力された情報について真理,真実,事実,定義,規則,常識,説明,仮説,
予測,意見,感想に識別し,これらを分類する機能を有することを特定した
ものであり,入力された情報が上記11項目のいずれであるかを識別し,分
類するものであるが,本件製品が,情報をこのような11項目に識別し,分
10 類していることを裏付ける証拠はない。
5 争点5(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)について
別紙2の1記載のとおり。
6 争点6(本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
15 か)について
別紙2の2記載のとおり。
7 争点7(本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)について
別紙2の3記載のとおり。
20 8 争点8(差止めの必要性)について
(原告の主張)
被告は,少なくとも本件製品の譲渡の申出を行っており,既に譲渡等をしてい
るか,今後譲渡等をする具体的なおそれがある。
(被告の主張)
25 被告は,本件製品の販売はおろか,譲渡の申出すらしておらず,平成29年2
月頃以降は本件製品に関する何らの問合せも受けていない。また,被告は,本件
製品の譲渡の前提となる営業基盤,人材その他の経営資源を有しないから,本件
製品の譲渡の申出をする余地はなく,被告が,近い将来,本件各特許権を侵害し,
又は侵害するおそれが生じることはおよそ想定することができない。
9 争点9(原告の損害額)について
5 (原告の主張)
被告は,平成27年9月頃から本件製品を日本国内で販売していると考えられ,
その売上げは,年間1億円を下ることはない(甲13~16)。ソフトウェア製
品における実施料率は,一般にハードウェア製品に比して高率であり,50%を
超えるものも少なくないが(甲23),被告が日本における販売会社であること
10 も考え併せると,原告が特許法112条3項に基づき本件各発明の実施に対し受
けるべき金銭の額は,本件製品の売上げに対する30%を下回らない。
したがって,平成27年9月から平成29年3月までの1年6か月間の被告の
損害額は,4500万円(=1億円/年×1.5年×30%)となる。
(被告の主張)
15 否認し争う。被告は本件製品を販売しておらず,その売上げは一切ない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(被告による本件製品の製造販売等の有無)について
(1) 前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めるこ
とができる。
20 ア 米IPsoft社は,平成26年9月,本件製品のパンフレット(英語版。
乙12文献)を発行した。
イ ビジネスワイヤ社がそのウェブサイトに平成26年10月2日に掲載し
た本件製品の紹介記事には,本件製品につき,この技術は既に多数のフォー
チュン1000企業によって試験運用されており,米IPsoft社は同年
25 内に新規顧客や業界をリードする提携企業を発表する予定である旨が記載
されていた。
ウ 平成27年頃に発行された本件製品の日本語のパンフレットには,「Am
elia 2.0」が同年秋にリリースされた旨が記載され,その裏表紙に
は,被告の会社名,住所及び電話番号が記載されている。(甲11の2)
エ 被告の当時の代表取締役であったAは,平成28年7月27日,米IPs
5 oft社のチーフ・コマーシャル・オフィサーと共に,日本オラクルが開催
したセミナー「Oracle Modern Business Experiences 2016」において「新
しいAI(人工知能)Amelia(アメリア)とサービスクラウドによる
新しいカスタマー・エクスペリエンスの創造」と題する講演を行った。その
セミナー会場には,アメリアを展示した被告のブースが設けられた。
10 また,日本オラクルのウェブサイトには,「AI(人工知能)「アメリア」
がコールセンターを変える日」と題する記事が掲載されているが,これには,
本件製品の説明やAのコメントが記載され,上記インタビューの動画のリン
クが設定されているほか,被告と日本オラクルが平成29年春を目標にして
共同で実証実験を進め,英語など日本語以外の言語へも対応させながら金融
15 機関を始めとする幅広い業種への導入を図っていく考えである旨の記載が
ある。(甲27,28,30,31,38)
オ 平成28年8月12日の日本経済新聞電子版に,日本オラクルが,米IP
soft社と組んで,日本オラクルのクラウドサービスとAI「アメリア」
を組み合わせ,消費者の電話での問合せに自動で応答するサービスを年内に
20 も国内で提供する旨の記事が掲載された。そして,日本オラクルのウェブサ
イトにおける本件製品の説明記事中には,本件製品の特徴や日本オラクルと
の提携についてのAのコメントが掲載されている。(甲14,26)
カ アクセンチュア株式会社は,平成28年10月24日,NTTコミュニケ
ーションズ株式会社が同月31日に提供を開始する人工知能サービス「CO
25 TOHA」の国内展開において,同社と協業した旨のニュースリリースを発
表した。「COTOHA」には,最新の日本語処理技術と米IPsoft社
が持つ世界先端の人工知能プラットフォームであるアメリアが組み合わさ
れている旨の記載がある。
また,NTTコミュニケーションズが同月24日に発表したニュースリリ
ースには,同社が同月31日より「COTOHA」の提供を開始したこと,
5 「COTOHA」は膨大な日本語データベースや日本語処理技術と,米IP
soft社のAIエンジンとを融合させたものである旨の記載があるほか,
アクセンチュアの執行役員のコメントとして,「アメリア」の導入支援を開
始しており,日本国内の顧客に対しても最適なAIソリューションの導入を
支援していく旨の記載がある。(甲15,16)
10 キ 日本オラクルは,平成29年8月16日,原告からの照会に対し,「アメ
リアとOracle Service Cloudとの連携は既に検証済みである」と回答した。
(甲33)
ク 米IPsoft社のウェブサイトの本件製品の日本語の紹介ページには,
「アメリアは,いま市場で提供されているもっとも包括的なAIプラットフ
15 ォームです。」との記載があり,少なくとも平成29年10月30日時点に
おいて,被告が問合せ先として表示されていた。(甲29)
(2) 上記(1)の認定事実によれば,米IPsoft社が開発した本件製品につい
て,その関連会社である被告は,平成27年頃以降には本件製品の日本語版の
パンフレットに本件製品の問合せ先として表示されるようになり,平成28年
20 7月に日本オラクル開催のセミナー会場に本件製品を展示するなどしてその
PRを行い,その後実際に本件製品を含む商品の提供が発表されたことなどが
認められる。こうした事実に照らすと,被告は,遅くとも平成27年頃に上記
パンフレットが発行されて以降,本件製品の譲渡又は貸渡しの申出を行ってい
たものと認めるのが相当である。
25 これに対して,被告は,被告が本件製品に係る単なる便宜的な窓口にすぎな
いと主張するが,被告の代表取締役であったAが本件製品の具体的な特徴につ
いて説明し,日本オラクルとの提携などの事業内容についても言及しているこ
とや,被告が本件製品の日本国内における問合せ先として表示されている一方,
米IPsoft社が日本国内で直接営業活動をしていたことはうかがわれな
いことなどに照らすと,被告が本件製品に係る単なる便宜的な窓口であるとい
5 うことはできない。
したがって,被告の上記主張は採用し得ない。
2 争点2(アメリアが本件発明1の技術的範囲に属するか)について
(1) 本件発明1の内容
本件特許1の特許請求の範囲及び本件明細書等1の記載によれば,本件発明
10 1は,①自律型思考パターン生成機に関する発明であり,②従来,機械に動作
を行わせる場合,人間が,計算機に専用のプログラム言語により作成した種々
のプログラムを作成し,適切に条件を検出し,動作させるためにプログラムの
修正をする必要があり,また,逐次,情報の価値を判断し,有用と判断した情
報を機械に入力する必要があって,これらを行うには多大な時間を要する等の
15 課題を解決するため,③画像情報,音声情報及び言語を対応するパターンに変
換して記録し,パターンの設定,変更やパターンとパターンの間に結合関係を
生成する等の制御をするなどの構成を備えることにより,④機械に動作を行わ
せる場合に逐次人間がプログラムを設定する必要がないようにし,入力した情
報の価値を分析し,有用と判断した情報を自律的に記録することを可能にした
20 発明であると認められる。
(2) 争点2-1(構成要件1Aの充足性)について
以下のとおり,本件装置が「画像情報を対応するパターンに変換するパター
ン変換器」を有すると認めることはできないので,同装置は構成要件1Aを充
足しない。
25 ア 構成要件1Aは,「画像情報,音声情報および言語を対応するパターンに
変換するパターン変換器と,パターンを記録するパターン記録器と,」であ
るところ,本件特許1の特許請求の範囲の記載によれば,「パターン」は,
本件発明1の自律型思考パターン生成機を構成する「パターン変換器」によ
り画像等の情報から変換され,「パターン記録器」に記録され,「パターン
制御器」において設定,変更がされ,あるいはパターン同士の結合関係が生
5 成されるものであるから,これらにより処理可能なものであると解すること
ができる。
次に,本件明細書等1の記載を参酌すると,「パターン」は,「対応する
事象の特徴を検出器が識別する信号の組合せにより表現したもの」であり
(段落【0017】),例えば,画像情報として「犬」を入力すると,犬の
10 画像パターンが生成され,パターン記録器に犬の画像パターンとして記録さ
れることとなる(段落【0018】)。そして,本件発明の実施形態1につ
いて説明した段落【0039】においては,画像,音声及び言語の情報をそ
れぞれ識別する信号の組合せに変換したものをパターンと呼び,パターンの
要素を「ON」,「OFF」又は「1」,「0」で表現することにするとさ
15 れ,【図2】には,画像パターンの例として「IG=[0.0.1. ・ ・]
1. ・
T,とのパターン例が例示されている。
これらの記載によれば,本件発明1における「パターン」とは,画像,音
声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検出器が識別することができる
「1」,「0」等の何らかの信号の組合せに変換したものを意味し,構成要
20 件1Aは,少なくとも,「画像情報・・・を対応するパターンに変換するパ
ターン変換器」,すなわち,画像情報を上記信号の組合せに変換する変換器
を有することを特定したものであるということができる。
イ 原告は,本件製品のパンフレットや動画において,アメリアが「感情的な
対応力」を有するとされ,アメリアの表情が「EQ(共感指数)」により変
25 化させられ,ユーザがアメリアの感情を画像で確認できるようになっている
ことなどを根拠として,本件装置は「画像情報・・・を対応するパターンに
変換するパターン変換器」を有していると主張する。
しかし,被告は,本件装置がアメリアの感情に対応した画像を予め保有し
ており,状況に応じてその場に適した表情の画像を表示可能であるとしても,
画像情報を対応するパターンに変換する機能は備えていないと主張すると
5 ころ,原告が指摘する本件パンフレットの記載や動画を総合すると,本件装
置が様々な感情に対応する表情のアメリアの画像を保有し表示することが
できるとは認められるものの,本件装置が,外部から入力された表情等に関
する画像をパターンに変換する機能を有していると認めるに足りる証拠は
ない。
10 ウ 原告は,本件装置が,その感情に対応した画像を予め保有しており,状況
に応じてその場に適した表情の画像を表示可能な構成を備えているにすぎ
ないとしても,構成要件1Aの「画像パターン」とは,画像情報から生成さ
れ,人工知能を構成するソフトウェアが利用できる「一塊のデータ」の全て
を含むのであるから,人工知能がアメリアの感情に対応する画像を表示する
15 際に,画像作成時のデータ形式から別のデータ形式に変換する場合も同構成
要件を充足すると主張する。
しかし,原告の主張する「パターン」の意義は,特許請求の範囲及び本件
明細書等の根拠を欠くものである上,本件装置がアメリアの感情に対応した
画像を予め保有しているのであれば,それは既にアメリアが利用できるデー
20 タ形式で保有しているものと解するのが自然であり,更に異なるデータ形式
に変換する必要があるとは考え難い。そうすると,本件装置が様々な表情の
アメリアの画像を表示し得ることをもって,本件装置が入力された画像情報
からパターンに変換する機能を有するということはできず,他に本件装置に
おいて,かかる変換をする変換器が存在することを認めるに足りる証拠はな
25 い。
なお,原告は,アメリアとは別の画像処理用のコンピュータにより画像デ
ータを作成したとしても,「アメリアの感情に対応した画像を計算機で処理
可能な形態(パターン)に変換する」という工程を実施していることになる
から,アメリアが構成要件1Aを充足することに変わりはないとの主張もす
るが,アメリアとは別のコンピュータが,アメリアが利用できるデータ形式
5 の画像データを作成する場合に,本件装置が上記工程を実施しているといえ
ないことは明らかである。
エ 以上のとおり,本件装置は構成要件1Aを充足しない。
(3) 争点2-2(構成要件1Bの充足性)について
以下に述べるとおり,アメリアが「パターンの変更」をする「パターン制御
10 器」を有すると認めることはできないので,アメリアが構成要件1Bを充足す
るとは認められない。
ア 構成要件1Bは,「パターンの設定,変更およびパターンとパターンの結
合関係を生成するパターン制御器と,」であるところ,「パターン」とは,
前記(2)アのとおり,画像,音声及び言語に係る事象の特徴を,計算機たる検
15 出器が識別することができる信号の組合せに変換したものであるから,「パ
ターンの変更」とは,かかる信号の組合せ自体を変更することを意味すると
解するのが相当である。
本件明細書等1を参酌しても,「パターンの変更」の意義について上記解
釈と異なる解釈を示唆する記載は存在しない。
20 イ 原告は,本件装置が「パターンの変更」をする「パターン制御器」を有す
ると主張するが,本件装置に既に記録されているパターンとしての信号は,
それ自身が何らかの情報と対応付けられた信号であるから,この信号に対し
て改めて何らかの変更をする必要性は乏しいと考えるのが相当であり,本件
製品のパンフレット等の記載を総合しても,本件装置が「パターンの変更」
25 をする「パターン制御器」を有すると認めるに足りる証拠は存在しない。
ウ これに対し,原告は,本件発明1の「パターン」は概念を包含するもので
あるとした上で,構成要件1Bは,概念間の結合関係の変更の機能を特定し
ていると主張する。
しかし,原告の上記主張は,特許請求の範囲及び本件明細書等1の記載か
ら明らかということはできない上,構成要件1Bの「パターン制御器」はそ
5 の文言に照らし,「パターンの変更」をするものであって,「パターンの結
合関係の変更」をするものではないので,構成要件1Bが概念間の結合関係
の変更の機能を特定しているということもできない。
また,原告は,マインドマップや処理マップを構築するためには,概念の
設定,変更及び概念間の結合関係を生成する機能が必須であると主張すると
10 ころ,証拠(甲11の2・3頁及び9頁,甲12・図4,図5,図7及び図
8,甲34の1)によれば,本件装置は,思考プロセスをつなぐ概念や関係
を把握してマインドマップを構築し,起こっている出来事に関する処理マッ
プを自分で作成するものであることはうかがわれるが,仮に概念がパターン
に相当するとしても,マインドマップ等を構築することから,パターンを変
15 更することが必須であると当然にいうことはできない。
エ したがって,本件装置が構成要件1Bを充足すると認めることはできない。
(4) 争点2-4(構成要件1Dの充足性)について
以下のとおり,本件装置が「有用と判断した情報」のみを「自律的に記録」
していると認めることはできないので,本件装置は構成要件1Dを充足しない。
20 ア 構成要件1Dは「有用と判断した情報を自律的に記録していく自律型思考
パターン生成機。」であるところ,本件特許1の特許請求の範囲の記載によ
れば,自律型思考パターン生成機が自律的に記録していくのは,情報分析機
により入力した情報の価値を分析した結果,有用と判断された情報であるの
で,本件発明1に係る自律型思考パターン生成機が自律的に記録するのは,
25 情報分析器が有用と判断した情報に限られると解するのが自然である。
そして,本件明細書等1には,「入力した情報の価値を分析し,有益と判
断した情報を記録して,有用と判断した情報を自律的に拡大していく機械は
従来無い」(段落【0006】),「この発明における思考パターン生成機
は入力した情報の価値を分析する。…分析の結果,有用と判断した情報は,
識別した分野に分析結果を追加して,パターン記録器に記録していく。 (段
」
5 落【0022】),「以上の▲1▼から▲5▼の分析により入力した情報は
分析され,情報としての価値が評価される。・・・価値の高い情報は言語パ
ターンとしてパターン記録器に記録し,価値の低い情報(判決注:誤記を修
正)は記録しないこととする。これにより,有用な情報が逐次蓄積され,膨
大な知識がパターン記録器に構成されていくことになる。」(段落【003
10 0】,【0046】,【0053】)などの記載があり,発明の効果の項に
も「第2の発明によれば機械に情報を記録する場合,人間が逐次,情報の価
値を判断し有用と判断した情報を逐次,機械に入力し記録する等の作業を実
施する必要がない。」(段落【0065】)と記載されていることからすれ
ば,本件発明1は,有用と判断した情報のみを記録することが前提とされて
15 いると解するのが相当である。
そうすると,本件発明1に係る自律型思考パターン生成機が自律的に記録
するのは,情報分析器が有用と判断した情報に限られると認めるのが相当で
ある。
イ 原告は,本件製品のパンフレットの記載などに基づき,
「仕事を覚える」,
20 「処理マップを自分で作成する」,「知識を保存・応用する」,「知識を自
動的に応用する」などの行為を行うには,「有用と判断した情報を自律的に
記録していく」ことが必須であると主張する。
しかし,情報として得た知識を保存し,関連する情報の接続関係を把握す
る機能を有していれば,問題となっている事例と関連・類似する事例を情報
25 の結合関係から特定し,その解として結合されている情報を提示することが
でき,これにより上記の機能を発揮することは可能であるから,必ずしも,
入力する情報の有用性について判断し,有用な情報のみを記録するとの機能
を備えている必要はないというべきである。
かえって,本件製品のビデオ(甲12・図5)には,全ての質疑応答がア
メリアの経験と知識に加えられる旨の記載があり,これによれば,仮にアメ
5 リアが情報分析器を備えているとしても,あらゆる情報をいったん記録しつ
つ,その中から有用な情報を抽出等する構成を採用しているとも考えられる
ところ,本件製品のパンフレット等には,本件装置が入力された情報の入力
性について判断し,有用な情報のみを記録するとの機能を備えていることを
示す記載は存在しない。
10 そうすると,本件装置が「仕事を覚える」などの上記行為を行うことがで
きることから,直ちに,同装置が入力された情報の有用性を判断し,有用と
判断された情報のみを記録する機能を有するということはできない。
したがって,本件装置は,構成要件1Dを充足しない。
(5) 小括
15 以上によれば,本件装置が本件発明1の技術的範囲に属するとは認められな
いから,本件製品につき間接侵害が成立するとの原告の主張は理由がない。
3 争点3(アメリアが本件発明2の技術的範囲に属するか)について
(1) 本件発明2の内容
本件特許2の特許請求の範囲及び本件明細書等2(甲9)の記載によれば,
20 本件発明2-1は,①自律型知識向上装置に関する発明であり,②従来の人工
知能では予めプログラムで設定された処理以外の実施はできず,入力された言
語情報により機械自ら自律的に知識を獲得し,処理を改善,高度化することが
困難であったという課題を解決するため,③パターンを保持するパターン保持
器と,パターン保持器を制御する制御器と,パターン間の関係を処理するパタ
25 ーン間処理器を備え,入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥
当性を評価し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させることにより,④人間
の思考をパターンとして逐次学習し,状況に応じた動作を学習したとおりに実
行するとともに,機械に構築した知識により新規に獲得した情報を評価し,機
械内部に系統立った知識を構築することなどを可能にする人工知能に関する
発明であると認められる。
5 そして,本件発明2-3は,自律的に知識を構築するに当たり,不明な点を
人間等に質問して,その回答を元に知識を更新していくことを特徴とする発明
であり,本件発明2-6は,パターンを変換し制御出力を生成するパターン逆
変換器を備え,獲得した知識に基づいて機械の制御を行うことができることを
特徴とする発明であると認められる。
10 (2) 争点3-2(構成要件2C(2C’,2C”)の充足性)について
以下のとおり,本件装置は,「入力した言語情報・・・を評価」したことに
基づいて「自律的に知識を獲得」ないし「自律的に知識を構築」するものと認
めることはできないので,本件発明2-1の構成要件2C,本件発明2-3の
構成要件2C’及び本件発明2-6の構成要件2C”を充足しない。
15 ア 構成要件2Cは「入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥
当性を評価し,自律的に知識を獲得し,知能を向上させる人工知能装置。 ,
」
構成要件2C’は「入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当
性を評価し,自律的に知識を構築し,」,構成要件2C”は「入力した言語情
報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価し,自律的に知識を獲得
20 し,知能を向上させ,」というものである(以下,構成要件2C,2C’ 及
び2C”を併せて「構成要件2C等」という。)。
上記各記載によれば,構成要件2C等は,本件発明2の人工知能装置が,
「入力した言語情報の意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価」した
ことに基づいて,「自律的に知識を獲得」ないし「自律的に知識を構築」す
25 ることを特定したものと解するのが相当である。
本件明細書等2においても,「この発明における自律型知識向上装置は…
入力された言語情報の新規性,既に記録している知識との整合・不整合,論
理の妥当性等を評価し,有益な情報であると判断した場合には知識に逐次追
加していく。これにより,自律型知識向上装置は有益な知識を蓄積し,知識
の向上を実現することができる」(段落【0017】,【0019】,【0
5 021】,【0022】)との記載があるが,これは,入力した言語情報を
評価したことに基づいて,有益な上記言語情報を知識に加えていくことを示
すものであるといえる。
また,本件明細書等2には,本件発明2-3の実施例に係る発明の実施の
形態3について,「装置が自律的に言語情報の評価(新規性,真偽,論理の
10 妥当性)を実施し,知識を自律的に構築していく。」,「自律型知識向上装
置は入力情報と既に記録している知識との整合・不整合,論理の妥当性を評
価した際に,不整合または論理の飛躍が検出されると,入力された情報が正
しいか否か,正しいならその根拠について質問を提示する…自律型知識向上
装置が提示した質問に対し,人間等が回答すると,その回答内容は追加情報
15 として入力され,再度評価される。追加された情報により,論理の飛躍が解
消されると,新しく知識が追加,更新される…新規入力された情報は逐次,
妥当性の確認を実施し,妥当性が確認された情報は知識として蓄積され,知
識の拡大が実現される。」(段落【0038】)と記載されているが,これ
も,入力した言語情報を評価したことに基づいて,自律的に知識を構築する
20 ことを示すものであるということができる。
そうすると,構成要件2C(2C’,2C”)は,「入力した言語情報の
意味,新規性,真偽および論理の妥当性を評価」し,その評価の結果に基づ
いて「自律的に知識を獲得」ないし「自律的に知識を構築」することを特定
したものと認められる。
25 イ これに対して,原告は,本件明細書等2の段落【0038】などを根拠と
して,新規性等の「評価」と「知識の獲得(構築)」との関係は並列であり,
上記「評価」は,単に「記録」の目的のみに使用しているわけではなく,問
題とする概念や状況と記録している知識とを照らし合わせ,どのような対応
を行うのかを決めることにも使用している(例えば,同段落に記載されてい
る質問の提示等)と主張する。
5 しかし,前記のとおり,構成要件2C等は,「入力した言語情報の意味,
新規性,真偽および論理の妥当性を評価し,自律的に知識を獲得し」と規定
し,
「評価し又は自律的に知識を獲得し, とはされていないのであるから,
」
その文言の通常の意味に照らすと,入力した言語情報の意味等の妥当性を評
価した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報を知識として自律
10 的に獲得すると解するのが自然である。
また,本件明細書等2の段落【0038】には,入力された情報と知識と
の整合・不整合,論理の妥当性を評価した際に,不整合等又は論理の飛躍が
検出されると,質問が提示される旨の記載があるが,同段落には,さらに,
同装置は上記質問に対する人間の回答を踏まえて再評価を行い,論理の飛躍
15 が解消されると新たに知識が追加等されると記載されており,これによれば,
入力した情報の意味等の妥当性の評価自体が使用されることにより知能が
向上するのではなく,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報について
自律的に知識として獲得されることにより知能が向上させるものというべ
きである。
20 ウ 以上の解釈を踏まえ,本件装置が構成要件2C等を充足するかを検討する
と,本件製品等のパンフレット等には,本件製品が入力した言語情報の意味
等の妥当性を評価した上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報に
ついて自律的に知識として獲得していることを示す記載は存在しない。
これに対して,原告は,本件製品のパンフレット等の記載を根拠として,
25 「問題の根本を見極める」,「経験を通して学ぶ」,「知識に対して積極的
に論理を当てはめる」などの行為をするためには,「言語情報の新規性,真
偽および論理の妥当性を評価」する必要があるから,本件装置は,構成要件
2C等を充足すると主張する。
しかし,本件装置が原告主張に係る機能を有するとしても,これらの機能
を有することは,必ずしも,本件装置が入力した言語情報の新規性等の「評
5 価」をした上で,その評価を踏まえて妥当性が確認された情報について自律
的に知識として獲得するとの構成を備えることを意味するものではない。本
件発明2と異なり,入力された情報ごとに新規性等を評価することなく,入
力された情報を随時入力し,情報間に結合関係を生成することにより,知識
を蓄積し,質問事項に対して積極的により近い回答事項を選択することを可
10 能にするという構成も考えられるところであり,前記のとおり,本件製品の
ビデオ(甲12・図5)には,全ての質疑応答がアメリアの経験と知識に加
えられる旨の記載が存在することも考慮すると,原告の指摘する本件製品の
パンフレット等の記載から,本件装置が構成要件2C等を充足すると認める
ことはできず,他に同構成要件を充足していると認めるに足りる証拠はない。
15 (3) 以上のとおり,本件装置が構成要件2C等を充足するとは認められないから,
同装置が本件発明2の技術的範囲に属するとは認められず,本件製品につき間
接侵害が成立するとの原告の主張は理由がない。
4 争点4(本件製品が本件発明3の技術的範囲に属するか)について
(1) 本件発明3の内容
20 本件特許3の特許請求の範囲及び本件明細書等3(甲10)の記載によれば,
本件発明3-7は,①自律型知識分析機に関するソフトウェアの発明であり,
②従来の人工知能では予めプログラムを設定する必要があり,知識の拡大及び
構築を自律的機械に実施させることが困難であったという課題を解決するた
め,③情報をパターンに変換するパターン変換器,パターン等を記録するパタ
25 ーン記録器,パターン等を自律的に登録・変更するパターン登録器,パターン
の処理を制御するパターン制御器,パターンを情報に変換するパターン逆変換
器,パターン等を分析するパターン分析器を備え,人間の指示及び学習により
情報及び情報の構造を分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をパターン
間の接続関係及びパターン間の処理により自律的に構築していく人工知能と
して機能させることにより,④プログラム等の設計を要することなく,情報及
5 び情報の構造を分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をパターン間の接
続関係及びパターン間の処理により知識の拡大及び体系化を自律的に実施す
ることを可能にする発明であると認められる。
そして,本件発明3-8~3-12は,いずれもソフトウェアの発明であり,
本件発明3-7の特徴に加え,①本件発明3-8は,情報の処理において追加・
10 変更が生じた場合でもプログラムの追加・変更をすることなく対応することが
できることを特徴とするもの,②本件発明3-9は,入力された質問,命令,
問題・課題に対して適切な処理を実行することができることを特徴とするもの,
③本件発明3-10は,入力された質問,命令,問題・課題に対して適切な処
理を実行することができるとともに,情報の処理において追加・変更が生じた
15 場合でもプログラムの追加・変更をすることなく対応することができることを
特徴とするもの,④本件発明3-11は,入力した情報の価値を評価し,真理,
真実,事実,定義,規則,常識,説明,仮説,予測,意見,感想に識別,分類
し自律的に知識体系を構築することを特徴とするもの,⑤本件発明3-12は,
同3-11に加え,入力した情報を上記知識体系と照合し,真理,真実,事実,
20 規則及び常識に沿った行動を実施することを特徴とするものであると認めら
れる。
(2) 争点4-2(構成要件3Cの充足性)について
構成要件3Cは,「パターンおよびパターン間の接続関係を人間の指示また
は自律的に登録および変更するパターン登録器と,」であるところ,本件発明
25 3の「パターン」の意義が本件発明1と同一であることについては,当事者間
に争いがない。
また,本件特許3の特許請求の範囲及び本件明細書等3の記載に照らすと,
「パターンの変更」の意義についても,本件発明1と異なるものではないと認
められるところ,前記2(3)で判示したとおり,本件製品に既に記録されてい
るパターンとしての信号は,それ自身が何らかの情報と対応付けられた信号で
5 あるから,この信号に対して改めて何らかの変更をする必要性は乏しく,本件
製品のパンフレット等に記載を総合しても,「パターンの変更」をする「パタ
ーン登録機」を有すると認めるに足りる証拠は存在しない。
そうすると,本件発明1の構成要件1Bについて判示したのと同様の理由か
ら,本件製品が「パターンの変更」をする機能を有しているとは認められない
10 ので,同製品は構成要件3Cを充足しない。
(3) 以上のとおり,本件製品ないしアメリアが構成要件3Cを充足するとは認め
られないから,本件製品が本件発明3の技術的範囲に属するとは認められない。
5 結論
以上のとおり,本件装置又は本件製品は本件発明1ないし3の技術的範囲に属
15 するとは認められないので,その余の点につき判断するまでもなく,原告の請求
はいずれも理由がないから,これらを棄却することとし,よって,主文のとおり
判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
三 井 大 有
裁判官
今 野 智 紀
別紙1
製品目録
コンピュータ用ソフトウェア製品「アメリア」又は「Amelia」
別紙2
無効事由の存否に関する当事者の主張
5 1 争点5(本件特許1が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)について
(被告の主張)
本件発明1は,乙7発明と同一の発明であるから,新規性を欠き,本件特許1
は,特許無効審判により無効にされるべきものである。
10 (1) 乙7発明の内容
乙7発明は,ユーザと会話を行うロボットなどに用いて好適な会話処理装置
に関するものである(乙7公報の明細書段落【0001】)。
ア 乙7公報の明細書(段落【0031】~【0036】,【0047】)及
び図面(【図2】,【図3】,【図5】)の記載によれば,乙7発明では,
15 CPU10A,メモリ10B等から構成されるコントローラ10が音声認識
部31Aを有し,「歩け」,「伏せ」等の指示内容を理解して行動するとと
もに,認識結果を,言語情報抽出機能を有する会話処理部38にも出力する
ようになっている。また,CCDカメラ16から与えられる画像信号を用い
て画像認識処理を行う画像認識部31Bも備えており,これらの認識結果は
20 メモリに累積される構成となっている。そして,これらの認識結果は,CP
U10Aが扱うことができるように信号化されていることは自明である。
そうすると,乙7発明は,画像情報,音声情報および会話処理を行う等の
ために言語を所定の信号(パターン)に変換し,この所定の信号(パターン)
を記録するための構成を有している。
25 そうすると,乙7発明は構成要件1Aの構成を備えているということがで
きる。
イ 乙7公報の明細書(段落【0021】,【0065】,【0079】~【0
081】)及び図面(【図7】,【図8】等)の記載によれば,乙7発明の
コントローラ10で全体制御されているロボット1は,通信で取得し話題メ
モリ76に記憶された最新の情報nを基にユーザと会話をすることが可能
5 なように構成されており,その会話は話題管理部74内に作成されたロボッ
ト用フレーム141とユーザ用フレーム142で管理されている。このフレ
ームには”いつ”,”どこで”,”だれが”,”どうした”,”なぜ”とい
う5項目が用意されており,例えば”昨日,成田で,事故があったんだって”
という話題を提供できるようになっている。そうすると,乙7発明のロボッ
10 ト1は,情報nについて,いつ,どこで,だれが等についての結合関係を生
成し,話題メモリ76に設定や変更して記憶するするとともに,フレームに
この情報やその結合関係を設定したり変更したりする機能を有している。こ
の話題メモリやフレームに記憶される情報はコントローラ10のCPU1
0Aで扱う事が可能な信号,すなわち「パターン」であるから,乙7発明の
15 ロボット1は,パターンの設定,変更及びパターンとパターンの結合関係を
生成するパターン制御器を有しているといえる。
そうすると,乙7発明は構成要件1Bの構成を備えているということがで
きる。
ウ 乙7公報の明細書(段落【0069】,【0072】,【0079】)及
20 び図面 【図9】
( 等)によれば,取得する情報が全てのユーザに対して有効,
すなわち価値がある情報とは限らないことから,乙7発明のロボット1はユ
ーザの趣向などの情報をプロファイルとして記憶しており,取得する情報が
プロファイルに適した情報であるか否かを分析し,ユーザの趣向に合った情
報のみを記憶する構成を備えている。
25 そうすると,乙7発明のロボット1は,入力した情報の有効性,すなわち
価値を分析し,有効と判断した情報を自律的に記録する機能を有していると
いうことができるので,構成要件C及びDの構成を備えている。
(2) 本件発明1と乙7発明の対比
乙7発明の前記(1)アないしウ記載の各構成は,それぞれ,本件発明1の構
成要件1A,同1B並びに同1C及び1Dと同一であるので,本件発明1は新
5 規性を欠く。
(原告の主張)
乙7発明は,構成要件1B及び1Dを開示するものでないから,本件発明1は,
乙7発明と相違しており,新規性を欠くものではなく,本件特許1は,無効審判
により無効にされるべきものと認められない。
10 (1) 本件発明1と乙7発明の本質的な相違
本件発明1は,入力される情報の価値を評価し記録することにより,自律的
に知識を拡大していくことができ,人間が思考遷移させながら情報を処理する
という動作を,逐次,プログラミングすることなく実現することができるもの
で,情報の処理において,人間の思考や思考過程を真の意味で模擬しようとし
15 た情報システムである(本件明細書等1段落【0001】,【0003】~【0
005】,【0021】,【0044】,【0064】)。
これに対し,乙7発明は,トップダウン的に「人らしさ」のモデルを作り込
むことで「人らしさ」を作り出そうとする立場で作られたシステム・モデル・
ソフトウェアであって,基本的に「会話の内容について本質的に理解する」と
20 いう課題を解決することを目的とした発明ではない(乙7公報の明細書段落
【0004】~【0006】,【0056】)。
また,本件発明1は,「人間の思考を学習する」発明であって,その手法に
ついて開示するものであるが,乙7発明は,かかる機能について開示するもの
ではなく,「ユーザとの自然な会話を行うため,話題を遷移させる方法」につ
25 き開示するものである。
このように,本件発明1と乙7発明は,本質的な技術思想において相違して
いる。
(2) 構成要件Bについて
乙7発明は,「パターンとパターンの結合関係を生成する」ことに関する開
示はない。乙7公報の【図21】は,マインドマップを表したものではなく,
5 概念間の結合関係を生成していることを示すものではない。
したがって,乙7発明は構成要件Bを備えていない。
(3) 構成要件Dについて
本件発明1は,「自律型思考パターン生成機」に関するものであり,①人間
の思考パターンに沿って,条件及び対応する動作を言語で入力してパターンを
10 設定し,パターンとパターンの間に結合関係を生成していく機能,②励起した
パターンは関連するパターンを逐次,励起するとともに,パターン記録機に記
録したパターンと照合を行い,検索したい情報を得ることにより処理を進め,
人間と同様の制御を「言語を使用した」パターンを使って実現する機能,③思
考パターンは固定ではなく,パターンとパターンの結合関係を変えることによ
15 り,容易に新しい思考パターンを学習することができる機能(人間が思考する
ように情報を処理するという動作を逐次,プログラミングすることなく実現す
る機能)を有する(本件明細書等1段落【0001】,【0021】,【00
44】,【0064】)。
これに対し,乙7発明は,「会話処理装置および方法,並びに記録媒体」に
20 関するものであって,上記機能のいずれも有していないから,構成要件Dを備
えていない。
2 争点6(本件特許2が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)について
(被告の主張)
25 本件発明2は,いずれも,乙7発明と同一であるから新規性を欠き,本件発明
2に係る本件特許2は特許無効審判により無効にされるべきものである。
仮に,本件発明2が新規性を有するとしても,本件発明2は,いずれも,乙7
発明に乙8~10公報記載の周知技術を組み合わせることで,容易に想到し得た
ものであるから,進歩性を欠き,本件発明2に係る本件特許2は,特許無効審判
により無効にされるべきものである。
5 (1) 引用発明の内容
ア 乙7発明の内容
(ア) 乙7公報の明細書(段落【0031】~【0036】,【0047】)
及び図面(【図2】,【図3】,【図5】)によれば,乙7発明では,C
PU10A,メモリ10B等から構成されるコントローラ10が音声認識
10 部31Aを有し,「歩け」,「伏せ」等の指示内容を理解して行動すると
ともに,認識結果を,言語情報抽出機能を有する会話処理部38にも出力
するようになっている。この会話処理部38では,解析用文法データベー
ス73に記憶されているデータ等を基に,単語間の関係を解析している。
このような認識結果はメモリに累積される構成となっており,認識結果が,
15 CPU10Aが扱うことができるように信号化されていることは自明で
ある。
そうすると,乙7発明は,言語情報を所定の信号(パターン)に変換し,
この所定の信号(パターン)および信号(パターン)間の関係を記録する
ための構成要件2Aを有している。
20 (イ) 乙7公報の明細書(段落【0024】,【0032】,【0034】)
及び図面(【図2】,【図3】)によれば,乙7発明では,マイク15で
集音された音声信号がコントローラ10のセンサ入力処理部31送出さ
れて保持され,制御プログラムが実行されることによりCPU10Aがセ
ンサ入力処理部31を制御し,音声認識部31Aで音声信号を処理して
25 「ボールを」「追いかけろ」のようにパターン間の関係を処理している。
そうすると,乙7発明は,処理を行うために音声信号(パターン)を保持
し,保持している処理部を制御し,音声信号(パターン)間の関係を処理
するための構成要件2Bを有している。
(ウ)a 乙7公報の明細書(段落【0034】,【0043】)によれば,乙
7発明は,辞書データベースや文法データベースなどを参照しながら入
5 力された音声を認識し,「歩け」,「伏せ」等の入力された言語の意味
を評価している。
b 乙7公報の明細書(段落【0064】,【0065】)によれば,乙
7発明は,ユーザに話題を提供するために古い情報ばかりでなく最新の
情報を記憶する必要性があることから,最新の情報を取得するための機
10 能,構成を備えており,最新の情報,すなわち新規性があると評価され
る情報を取得する構成を備えている。
c 乙7公報の明細書(段落【0047】)によれば,乙7発明は,会話
処理部38に辞書データベース72を保有し,入力された言語情報をこ
れに突き合わせる処理を行っている。辞書には「真」とされている事項
15 について,場合によっては「偽」とされている事項についても掲載され
ているから,この辞書との突合せ及び評価抽出作業は,入力した言語情
報について「真偽の評価」を行っていることを意味する。
なお,乙7発明は,顧客の世界に関する事実の知識を有しており,知
識に対して論理を当てはめており,質問を発して事実を明らかにする能
20 力を有していること(乙7明細書段落【0071】,【0079】,【0
172】)からしても,入力した言語情報について真偽の評価を行って
いるといえる。
d 乙7公報の明細書(段落【0122】,【0127】)によれば,キ
ーワード間の関連度からテーブルを作成して入力し,このテーブルを利
25 用して会話を進めており,このテーブルは,シソーラス(Thesaurus)
(語
句を意味により分類し,配列したもの。分類語彙表)を参考に,大量の
コーパス(言語学において,自然言語処理の研究に用いるため,自然言
語の文章を構造化し大規模に集積したもの)から統計的に同じ文脈に現
れやすい言葉の関連度を取得するなどして作成されるとされている。大
量のコーパスから言葉の関連度を取得するのであれば,当然に論理の妥
5 当性があると評価される言語情報がテーブルに入力されることになる。
なお,乙7発明に係る装置は,情報間で構築された関係性を基に,論
理矛盾のない応答を行う能力を有していること(乙7公報明細書段落
【0071】,【0079】,【0172】)からしても,論理の妥当
性の評価を行っているということができる。
10 e 乙7公報の明細書(段落【0003】,【0004】,【0006】,
【0030】,【0161】)及び図面(【図26】)によれば,乙7
発明は,人間との会話内容を殆ど理解していなかったというコンピュー
タと人間との会話システムの課題を解決するもので,ユーザと自然な会
話を行うことを目的とするものである。この会話システムを搭載したロ
15 ボットは,自律的に行動することができ,未知の話題に接するとユーザ
に対して質問をすることで話題に関する情報を記憶していくことで新
たな話題に対応することができるようにしている。
そうすると,このロボットが搭載している会話システムは,自律的に
知識(情報)を獲得し,知能を向上させる人工知能装置であるというこ
20 とができる。
f 以上のとおり,乙7発明は構成要件2Cの構成を備えている。
(エ) 乙7公報の明細書(段落【0161】)によれば,乙7発明のロボット
が搭載している会話システムは,不明な点があれば質問を提示し,質問に
対してユーザである人間が回答した場合はその回答を基に情報を記憶し,
25 話題に関するテーブルを更新させることのできる人工知能であるので,構
成要件2Dの構成を備えている。
(オ) 乙7公報の明細書(段落【0057】,【0058】,【0060】)
及び図面(【図6】)によれば,乙7発明は,音声情報を基にCPUで処
理するためにテキストデータとして変換されている信号(パターン)を,
規則合成部94において再び音声として出力するための音声データを生
5 成しているから,パターンを変換し制御出力(音声データ)を生成するパ
ターン逆変換器(規則合成部)を備えている。そうすると,乙7発明は構
成要件2Eの構成を備えている。
(カ) 乙7公報の明細書(段落【0028】,【0029】)によれば,乙7
発明では,判断結果(知能)に基づいて,歩行させたり音声を発したりの
10 機械制御が行われるので,構成要件2Fの構成を有している。
イ 乙8公報
乙8公報の明細書(段落【0002】,【0012】,【0026】には,
自然言語による入力情報を解析し,その内容によって知識ベースを検索し検
索結果を出力する知識ベースシステムにおいて,知識ベースの整合性を確認
15 して矛盾がないときのみ新規追加,修正,削除等により更新することが記載
されている。
ウ 乙9公報
乙9公報の明細書(段落【0006】,【0009】)には,知識ベース
の構築過程で,知識入力の都度,その論理的な誤りや正当性をチェックし,
20 不正当な知識の入力があったときに,その旨を知識ベース構築者に警告する
ことが記載されている。
エ 乙10公報
乙10公報の明細書(1頁右下欄)には,従来の技術として,質問事項を
発生させて知識ベースを参照して真偽の判定を行っていることが記載され
25 ている。
(2) 本件発明2-1と乙7発明の対比
ア 乙7発明の前記(1)ア(ア)ないし(ウ)記載の各構成は,それぞれ,本件発明
2-1の構成要件2A,2B及び2Cと同一であるので,本件発明2-1は
新規性を欠く。
イ 仮に,乙7発明が,構成要件2Cを備えていないとしても,乙8~乙10
5 公報に記載のように,知識データベースの構築に際して,言語情報の意味,
新規性,真偽及び論理の妥当性を評価することは,従来から普通に行われて
いる周知技術である。
そうすると,乙7発明に上記周知技術を適用することで,構成要件2Cに
関する構成は,当業者が容易に想到し得るものであるといえるので,本件発
10 明2-1は進歩性を欠く。
(3) 本件発明2-3と乙7発明の対比
ア 乙7発明の前記(1)ア(ア)ないし(エ)記載の各構成は,それぞれ,本件発明
2-3の構成要件2A,2B,2C’及び2Dと同一であるので,本件発明
2-3は新規性を欠く。
15 イ 仮に,乙7発明が,構成要件2C’を備えていないとしても,前記(2)イと
同様の理由により,本件発明2-3は進歩性を欠く。
(4) 本件発明2-6と乙7発明の対比
ア 乙7発明の前記(1)ア(ア)ないし(カ)記載の各構成は,それぞれ,本件発明
2-6の構成要件2A,2B’,2C”,2E及び2Fと同一であるので,
20 本件発明2-6は新規性を欠く。
イ 仮に,乙7発明が,構成要件2C”を備えていないとしても,前記(2)イと
同様の理由により,本件発明2-6は進歩性を欠く。
(原告の主張)
乙7発明は,構成要件2C(2C’,2C”)を開示するものでないから,本
25 件発明2は,乙7発明と相違しており,新規性を欠くものではなく,これに乙8
~乙10公報に記載の事項を組み合わせても本件発明2に想到し得ないから,進
歩性を欠くものでもない。
(1) 本件発明2と乙7発明の本質的な相違
本件発明2は,入力された言語情報の意味,新規性,真偽,論理の妥当性を
評価し,自律的に知識を獲得し,問題解決のための知能を向上させる人工知能
5 に関するものであり,プログラムの変更を要することなく,装置が自律的に言
語情報の評価(新規性,真偽,論理の妥当性)を実施し,機械内部に系統立っ
た知識を構築することを可能としたものである(本件明細書等2段落【000
1】,【0004】,【0005】,【0017】,【0024】,【004
5】)。
10 これに対し,乙7発明は,「会話処理装置および方法,並びに記録媒体」に
関するものであって,
「会話の内容について本質的に理解する」という機能も,
「人間の思考を学習する」という機能も開示していない。
このように,本件発明2と乙7発明は,本質的に相違している。
(2) 構成要件2C(2C’,2C”)について
15 乙7発明は,構成要件2C(2C’,2C”)のうちの「真偽および論理の
妥当性」の評価の機能や「自律的に知識を獲得し,知能を向上させる」機能を
有するものではない。
ア 「真偽」の評価について
被告が主張する乙7公報の明細書の記載は,いずれも「真偽の評価」を実
20 施する機能について開示するものではなく,乙7発明は,かかる機能を有し
ていない。
イ 「論理の妥当性」の評価について
被告が主張する乙7公報の明細書の記載は,いずれも「論理の妥当性の評
価」を実施する機能について開示するものではなく,乙7発明は,かかる機
25 能を有していない。
ウ 「自律的に知識を獲得し,知能を向上させる」について
乙7発明は,①人間の思考をパターンとして表現し,思考の遷移をパター
ンからパターンへの変化として表現する機能,②パターン及びパターン間の
接続関係はパターン記録器に記録され,状況に応じて対応するパターンが呼
び出され,対応する処理が実行される機能,③思考パターンの変更はパター
5 ン記録器に記録したパターン及びパターン間の接続関係を変更することに
より実現できるため,プログラムを変更することなく処理の変更を可能とす
る機能,④自律的に言語情報の評価(新規性,真偽,論理の妥当性)を実施
し,機械内部に系統立った知識を構築する機能を有していない。
(3) 進歩性について
10 乙7発明は,前記アないしウの構成を開示しておらず,乙7発明に乙8~乙
10公報記載の事項を組み合わせても,これらの機能に想到し得ないので,本
件発明2は進歩性を欠くものではない。
3 争点7(本件特許3が特許無効審判により無効にされるべきものと認められる
か)について
15 (被告の主張)
(1) 乙11発明を主引例とする無効について
本件発明3-7~3-10は,乙11発明と同一であるから,新規性を欠き,
仮に,新規性を有するとしても,乙11発明に乙7発明を適用することにより,
当業者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠く。
20 また,本件発明3-11,3-12は,乙11発明に本件明細書等1に記載
の発明を適用し,あるいはこれに加えて乙7発明を適用することにより,当業
者が容易に想到し得たものであるから進歩性を欠く。
したがって,本件発明3に係る本件特許3は,特許無効審判により無効にさ
れるべきものと認められる。
25 ア 引用発明の内容
(ア) 乙11発明
乙11発明は,外界から得られた情報と装置内部に記憶されている知識
とに基づいて新しい概念を獲得し,その概念に基づいて行動,会話をする
ロボットに関連する技術についてのものであり,乙11発明のロボットは,
CCDカメラで撮像された画像情報から認識した人物に関する情報と,当
5 該人物との会話を通じて得られた好悪などの情報の関連性に関する認識
から,事実などに関する新規の概念を自律的に獲得し,あるいは修正し,
獲得した概念に基づいて対象人物に適した会話をしたり,行動をしたりす
るものである(乙11公報の明細書段落【0001】,【0033】~【0
041】)。
10 a 乙11公報の明細書(段落【0021】 【0023】 及び図面 【図
~ ) (
3】)によれば,乙11発明は,思考制御モジュール200を有し,こ
の思考制御モジュール200は,画像入力装置251から入力される画
像データや音声入力装置252から入力される音声データなど,外界か
らの刺激などに従って,ロボット装置1の現在の感情や意思を決定する
15 機能を有しており,思考制御モジュール200は,情緒判断や感情表現
に関する演算処理を実行するCPU211や,RAM212,ROM2
13,及び外部記憶装置214で構成され,モジュール内で自己完結し
た処理を行うことができる独立駆動型の情報処理装置である。乙11発
明におけるロボット装置1は,画像データや音声データ等を,CPU2
20 11を用いて情報処理するものであるが,CPUは電子回路であって画
像や音声をそのまま処理することはできないから,各入力装置251,
252において画像情報や音声情報を,CPUでデータを処理すること
が可能なようにパターン化した信号に変換して送信することは技術常
識である。そうすると,乙11発明は,画像情報や音声情報をパターン
25 に変換する変換器を備えている。
そうすると,乙11発明は構成要件3Aの構成を備えているというこ
とができる。
b 乙11公報の明細書(段落【0034】 【0037】 【0042】
~ , ,
【0043】)によれば,乙11発明におけるロボット装置1は,CC
Dカメラ41で撮像された人物の特徴を示す属性情報と人物IDを顔
5 認識器42から出力するとともに,
「わたしはらーめんがすきです」等,
対象人物の発話内容を音声認識器44から出力し,Fact生成器45
で関連付けて記録しているところ,ここで,属性情報,人物ID等は信
号(パターン)化されている情報であるから,乙11発明は「パターン
を記録」しており,対象となった人物の情報と,らーめん好きという情
10 報とを接続することにより人物についての知識体系を構築しているか
ら,「パターン間の接続関係」を記録しており,属性情報と人物IDは
同じ対象人物を意味する等価な情報であり,これらの関係を記録してい
るから,乙11発明は「パターン間の関係」を記録している。また,乙
11のロボット装置1は,例えば人がCCDカメラ41の前で「私はラ
15 ーメンが好きです。」と話しかけると,人物を特定し,髭が生えている
か否か,眼鏡をかけているか否かの属性情報をテーブル形式で出力する
ところ,これは,人物についてのIDを励起し,その後髭の状態に関す
る情報を励起し,更に眼鏡に関する情報を励起して,励起の関係につい
てテーブル形式で出力して概念を獲得しているといえるから,乙11発
20 明はID,髭,眼鏡の情報(パターン)について励起の履歴を記録して
いる。
なお,乙11発明は,概念や単語(パターン)間の関係について識別
する能力を有しており,先行するパターンの励起により後行のパターン
が励起しやすくなる機能を有していること(段落【0039】,【00
25 67】)からしても,パターンについての励起の履歴を記録していると
いえる。
そうすると,乙11発明は,構成要件3Bの構成を備えているという
ことができる。
c 乙11公報の明細書(段落【0035】~【0040】,【0043】
~【0050】 によれば,
) 乙11発明の思考制御モジュール200は,
5 目標概念決定器47を有しており,目標概念データベース48に格納さ
れた目標概念決定ルールに基づき目標概念を決定し,最も多くの事例が
成り立つ仮説から概念を獲得している。この目標概念データベース48
とは人間が設定したルールであり,例えば「わたしはらーめんがすきで
す」と入力されたテキストに対しては,likeを目標概念とするように規
10 定されているものである。目標概念決定器47はこのルールに従いlike
を目標概念として決定し,認識された人物の属性情報および人物IDに
関する情報と「らーめんがすき」という関係から獲得した概念を知識記
憶器51に登録している。その実例として,認識した人物が「髭」を生
やしているか否か,と「ラーメンが好き」か否かの関係について挙げて
15 おり,髭を生やしていない人の大部分が,ラーメンが好きであった場合
には,「髭を生やしていない人はラーメンが好きである」という概念を
獲得して知識記憶器51に登録することが記載されている。
このように,乙11の思考制御モジュール200は,知識記憶器51
に人物の属性情報等のパターンを登録し,また目標概念決定ルールに従
20 い髭を生やしていない人がラーメン好きであるというような情報(パタ
ーン)間の接続関係を登録しており,また,人物の属性情報を等価な人
物ID(パターン)に変更すること,あるいは髭を生やしていない人が,
ラーメンが好きと登録されていたものを,逆の経験の結果として髭を生
やしている人がラーメン好きであるという情報(パターン)間の接続関
25 係を変更することなどを行うものである。
そうすると,乙11発明は,構成要件3Cの構成を備えているという
ことができる。
d 乙11公報の明細書(段落【0023】,【0059】)によれば,
乙11発明におけるロボット装置1は,画像データや音声データなどか
ら得たパターンの処理を,思考制御モジュール200が統合して制御し
5 ており,また,乙11発明は,例えば音声合成器67を備えており,行
動制御における行動選択器65にて発話行動が選択された場合,テキス
ト文章などを音声波形に合成し,合成された音声波形はスピーカ68か
ら出力されるよう構成されているから,パターンの処理を制御する制御
器(思考制御モジュール)と,テキスト文章に対応する信号パターンを
10 音声情報に変換する逆変換器(音声合成器)を備えている。
そうすると,乙11発明は,構成要件3Dの構成を備えているという
ことができる。
e 乙11公報の明細書(段落【0035】)によれば,乙11発明は,
CCDカメラ41から入力された画像(パターン)について,髭が生え
15 ているか,眼鏡をかけているか等の分析を行い,抽出した属性情報と人
物IDの関係を分析しているとされているから,画像(パターン)の分
析,属性情報と人物ID(パターン)間の関係の分析を行っている。
そうすると,乙11発明は,構成要件3Eの構成を備えているという
ことができる。
20 f 乙11公報の明細書(段落【0022】 【0039】 【0041】
, ~ )
によれば,乙11発明の概念獲得装置やロボット装置に用いられる思考
制御モジュール200は,CPU等情報処理装置から成るもので,目標
概念決定器47を有しており,目標概念データベース48に格納された
人間の指示による目標概念決定ルールに基づき目標概念を決定し,入力
25 された情報から最も多くの事例が成り立つ仮説を作り出し,情報間の関
係からなる概念(例えば「髭を生やしていない人はラーメンが好きであ
る」等)を自律的に獲得し,獲得した概念は知識記憶器51に登録して
整理し,ロボット装置1の行動に反映させている。
このように,乙11発明は,人間の指示及び学習により,入力された
情報について分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をCPUで取
5 り扱うことが可能なパターンの処理により自律的に構築する人工知能
であるということができる。
そうすると,乙11発明は,構成要件3Fの構成を備えているという
ことができる。
g 乙11公報の明細書(段落【0004】,【0022】,【0039】
10 ~【0041】,【0060】,【0061】)によれば,乙11発明
は概念や知識などの獲得をプログラムにより与えていた従来システム
の課題を解決するためのものであり,概念獲得装置やロボット装置に用
いられる思考制御モジュール200は,CPU等情報処理装置から構成
されるもので,目標概念決定器47を有しており,目標概念データベー
15 ス48に格納された人間の指示による目標概念決定ルールに基づき目
標概念を決定し,入力された情報から最も多くの事例が成り立つ仮説を
作り出し,情報間の関係からなる概念(例えば「髭を生やしていない人
はラーメンが好きである」等)を自律的に獲得,変更している。また,
これまで会ったことのない人物に遭遇したような場合は情報を追加し,
20 獲得した概念は,知識記憶器51に登録して整理し,ロボット装置1の
行動に反映される。
そうすると,乙11発明は,人間の指示及び学習により入力された情
報について分析・記録する処理を実施し,プログラムの追加変更するこ
となく,情報間の関係をCPUで取り扱うことが可能なパターンの追
25 加・変更処理により自律的に構築して対応する人工知能であるというこ
とができるので,構成要件3Gの構成を備えている。
h 乙11公報の明細書(段落【0009】,【0022】,【0039】
~【0041】,【0064】)によれば,乙11発明の概念獲得装置
やロボット装置に用いられる思考制御モジュール200は,CPU等情
報処理装置から構成されるもので,目標概念決定器47を有しており,
5 目標概念データベース48に格納された人間の指示による目標概念決
定ルールに基づき目標概念を決定し,入力された情報から最も多くの事
例が成り立つ仮説を作り出し,情報間の関係からなる概念(例えば「髭
を生やしていない人はラーメンが好きである」等)を自律的に獲得,変
更している。獲得した概念は知識記憶器51に登録して整理され,ロボ
10 ット装置1の行動に反映させている。
そのために,真であると識別された概念を反映させる行動を選択する
行動選択手段を有し,例えばラーメンが好きと認識した人に対してその
ように話しかける,あるいはダンスが好きと判断した人にダンスをして
みせる行動が選択されるなど,適切な行動を取るという命令あるいは課
15 題等に対して適切な処理を実行するように構成されている。そして,当
然ながらこのロボット装置1は,質問や問題があれば適切な回答等を行
うことも想定されていると解される。
そうすると,乙11発明は,人間の指示及び学習により,入力された
情報について分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をCPUで取
20 り扱うことが可能なパターンの処理により自律的に構築して対応する
人工知能であり,入力された質問,命令および問題・課題に対して適切
な処理を実行する機能を有しているということができるので,構成要件
3Hの構成を備えている。
i 乙11公報の明細書(段落【0004】 【0009】 【0022】
, , ,
25 【0039】~【0041】,【0060】,【0061】,【006
4】)によれば,乙11発明は,概念や知識などの獲得をプログラムに
より与えていた従来システムの課題を解決するためのものであり,概念
獲得装置やロボット装置に用いられる思考制御モジュール200は,C
PU等情報処理装置から構成されるもので,目標概念決定器47を有し
ており,目標概念データベース48に格納された人間の指示による目標
5 概念決定ルールに基づき目標概念を決定し,入力された情報から最も多
くの事例が成り立つ仮説を作り出し,情報間の関係からなる概念(例え
ば「髭を生やしていない人はラーメンが好きである」等)を自律的に獲
得,変更している。また,これまで会ったことのない人物に遭遇したよ
うな場合は情報を追加している。獲得した概念は知識記憶器51に登録
10 して整理され,ロボット装置1の行動に反映させている。
そのために,真であると識別された概念を反映させる行動を選択する
行動選択手段を有し,例えばラーメンが好きと認識した人に対してその
ように話しかける,あるいはダンスが好きと判断した人にダンスをして
みせる行動が選択される等,適切な行動を取るという命令あるいは課題
15 等に対して適切な処理を実行するように構成されている。当然ながらこ
のロボット装置1は,質問や問題があれば適切な回答等を行うことも想
定されていると解される。
そうすると,乙11発明は,人間の指示及び学習により,入力された
情報について分析・記録する処理を実施し,プログラムの追加変更する
20 ことなく情報間の関係をCPUで取り扱うことが可能なパターンの追
加・変更処理により自律的に構築して対応する人工知能であり,入力さ
れた質問,命令および問題・課題に対して適切な処理を実行する機能を
有しているということができるので,構成要件3Iを備えている。
j 乙11公報の明細書(段落【0009】,【0022】,【0039】
25 ~【0041】,【0064】)によれば,乙11発明の概念獲得装置
やロボット装置に用いられる思考制御モジュール200は,CPU等情
報処理装置から構成されるもので,入力された情報を分析して最も多く
の事例が成り立つ仮説を作り出し,情報間の関係からなる概念(例えば
「髭を生やしていない人はラーメンが好きである」等)を自律的に獲得
し,獲得した概念は,知識記憶器51に登録して整理され,ロボット装
5 置1の行動に反映される。
そのために,真であると識別された概念を反映させる行動を選択する
行動選択手段を有し,例えばラーメンが好きと認識した人に対してその
ように話しかける,あるいはダンスが好きと判断した人にダンスをして
みせる行動が選択される等,適切な処理を実行するように構成されてい
10 る。
そうすると,乙11発明は,CPUで取り扱うことが可能なパターン
とした情報間の関係についての分析結果に応じて適切な処理を実行す
る機能を有しているということができるので,構成要件3Jを備えてい
る。
15 k 乙11公報の明細書(段落【0006】 【0009】 【0040】
, , ,
【0050】)によれば,乙11発明は,外界から得られた情報と装置
内部に記憶されている知識とに基づいて新しい概念を獲得する(【00
06】)ものであり,獲得した概念の真偽を識別する(【0009】),
仮説を作り出す(【0040】),髭を生やしていない人はラーメンが
20 好きというような定義,規則,説明を作り出す(【0050】)ことな
どを行っている。
そうすると,乙11発明は,入力した情報の価値を評価し,真偽を識
別できるように真理,真実,事実,常識に分類し,また定義,規則,説
明,仮説を判断して自律的に知識体系を構築する人工知能であるが,情
25 報を予測,意見,感想に識別,分類しているとまではいえないので,構
成要件Kの一部を備えているということができる。
l 乙11公報の明細書(段落【0009】,【0013】)によれば,
乙11発明のロボット装置は,概念識別手段にて真であると識別された
概念を反映させる行動を選択する行動選択手段を有するとともに,人間
が行う基本的な動作を表出できるロボットである。そして,真と識別さ
5 れるのは,真理,真実,事実,常識に沿った行動であるし,人間が行う
基本的な動作は,規則,常識に沿った行動である。
そうすると,乙11公報は,構成要件3K‘のうち,構成要件3Kに
付加された構成を有するということができる。
(イ) 乙7発明
10 乙7公報の明細書(段落【0081】,【0121】,【0134】,
【0141】,【0143】,【0144】)によれば,乙7発明のロボ
ットは,ユーザの発話や画像を認識し,話題を遷移させるための処理とし
て,自分用のフレームとユーザ用のフレームの各フレームで,「いつ」,
「どこで」,「だれが」,「どうした」,「なぜ」という5項目について
15 既知の度合いを記憶し,また,現在の話題の情報と話題メモリ内の話題情
報の関連度を計算し,新たな話題に遷移し会話の自然性を増し,以前の話
題遷移の評価の妥当性を判断して関連度テーブルの更新を行うものであ
るが,このロボットは,適切に話題を遷移するための話題管理部74を有
しており,同じ話題が繰り返されるという不自然さを防ぐために,会話履
20 歴メモリ75を調査し,最近話した話題ではないと判断された場合に選択
した話題に遷移するよう構成されている。すなわち,話題とされたという
ことが当該情報が励起されたことを意味し,話題が繰り返されないように
励起されたことが会話履歴メモリに記録されることを意味するから,乙7
発明は,「励起の履歴を記録する」構成を有している。
25 (ウ) 本件明細書等1
本件明細書等1に記載されているのは,人工知能である自律型思考パタ
ーン生成機に関するものであるが,その段落【0053】には,情報を推
測,噂,感嘆文に分析することが記載されている。推測は予測の一種であ
り,噂は意見の一種であり,感嘆文は感想の一種であるから,情報を予測,
意見,感想に識別,分類することが示されている。
5 イ 本件発明3-7と乙11発明の対比
(ア) 乙11発明の前記ア(ア)a~fの構成は,それぞれ本件発明3-7の構
成要件3A~3Fと同一であるので,本件発明3-7は新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-7の構成要件3Bの「パターンの励
起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,乙11発明と乙7発明は,
10 共にユーザと会話が可能なロボット装置に関する技術であり,会話の不自
然さを防ぐ必要があるという乙7発明の課題は,乙11発明においても妥
当する。そうすると,会話の不自然さを防ぐために,励起された情報であ
る話題となった情報に関する履歴を記録するという,乙7発明に開示され
た会話履歴メモリ75に関する技術を適用することは,当業者であれば容
15 易になし得る事項である。
したがって,「励起の履歴を記録する」という乙7発明に記載された事
項を乙11発明に適用して,本件発明3-7を行うことは,当業者にとっ
て容易になし得たことであるので,本件発明3-7は進歩性を欠く。
ウ 本件発明3-8と乙11発明の対比
20 (ア) 乙11発明の前記ア(ア)a~e及びgの各構成は,それぞれ本件発明3
-2の構成要件3A~3E及び3Gと同一であるので,本件発明3-8は
新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-8の構成要件3Bの「パターンの励
起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,前記イ(イ)と同様の理由
25 により,本件発明3-8は進歩性を欠く。
エ 本件発明3-9と乙11発明の対比
(ア) 乙11発明の前記ア(ア)a~e及びhの各構成は,それぞれ本件発明3
-2の構成要件3A~3E’及び3Hと同一であるので,本件発明3-9
は新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-9の構成要件3Bの「パターンの励
5 起の履歴を記録する」構成,あるいは構成要件3Hにおける「質問,命令
および問題・課題」の全てに対して適切な処理を行う機能を有しないとし
ても,これらの構成は乙7発明が有しており,乙11発明に乙7発明を適
用することにより,本件発明3-9を容易に想到し得たものであるので,
本件発明3-9は進歩性を欠く。
10 オ 本件発明3-10と乙11発明の対比
(ア) 乙11発明の前記ア(ア)a~e及びiの各構成は,それぞれ本件発明3
-10の構成要件3A~3E’及び3Iと同一であるので,本件発明3-
10は新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-10の構成要件3Bの「パターンの
15 励起の履歴を記録する」構成,あるいは構成要件3Iに係る構成を有しな
いとしても,これらの構成は乙7発明が有しており,乙11発明に乙7発
明を適用することにより,本件発明3-10を容易に想到し得たものであ
るので,本件発明3-10は進歩性を欠く。
カ 本件発明3-11と乙11発明の対比
20 (ア)a 一致点
乙11発明の前記ア(ア)a~e及びjの各構成は,それぞれ本件発明
3-11の構成要件3A~3E’及び3Jと同一であり,また,乙11
発明と本件発明3-11は,入力した情報の価値を評価し,真偽を識別
できるように真実,真実,事実,常識に分類し,また定義,規則,説明,
25 仮説を判断して自律的に知識体系を構築する人工知能である点(構成要
件Kの一部)において一致する。
b 相違点
乙11発明は,情報を予測,意見,感想に識別,分類しているとはい
えない点で,本件発明3-11と相違する。
c 容易想到性
5 前記相違点は,乙11発明と同じ技術分野に属する本件明細書等1に
記載されているから,当業者は,乙11発明に本件明細書等1に記載の
発明を組み合わせることにより,容易に本件発明3-11に想到するこ
とができたものであるので,本件発明3-11は進歩性を欠く。
(イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-11の構成要件3Bの「パターンの
10 励起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は乙7発明
が有しており,乙11発明に乙7発明を適用することにより,本件発明3
-11を容易に想到し得たものであるので,本件発明3-11は進歩性を
欠く。
キ 本件発明3-12と乙11発明の対比
15 (ア)a 一致点
乙11発明の前記ア(ア)a~e及びjの各構成は,それぞれ本件発明
3-12の構成要件3A~3E’及び3Jと同一である。また,乙11
発明と本件発明3-12は,入力した情報の価値を評価し,真偽を識別
できるように真実,真実,事実,常識に分類し,また定義,規則,説明,
20 仮説を判断して自律的に知識体系と照合し,真理,真実,事実,規則及
び常識に沿った行動を実施する人工知能である点(構成要件3K’の一
部)において一致する。
b 相違点
乙11発明は,情報を予測,意見,感想に識別,分類しているとはい
25 えない点(構成要件3K’の一部)で,本件発明3-12と相違する。
c 容易想到性
前記相違点は,乙11発明と同じ技術分野に属する本件明細書等1に
記載されているから,当業者は,乙11発明に本件明細書等1に記載の
発明を組み合わせることにより,容易に本件発明3-12に想到するこ
とができたものであるので,本件発明3-12は進歩性を欠く。
5 (イ) 仮に,乙11発明が,本件発明3-12の構成要件3Bの「パターンの
励起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は乙7発明
が有しており,乙11発明に乙7発明を適用することにより,本件発明3
-12を容易に想到し得たものであるので,本件発明3-12は進歩性を
欠く。
10 (2) 乙12発明を主引例とする無効について
本件発明3-7~3-10は,乙12発明と同一であるから新規性を欠き,
仮に新規性を有するとしても,乙12発明に乙7発明を適用することにより,
当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠く。
本件発明3-11,3-12は,乙12発明に乙11公報や本件明細書等1
15 に記載の発明を適用し,あるいはこれに加えて乙7発明を適用することにより,
当業者が容易に想到し得たものであるから,進歩性を欠く。
ア 引用発明の内容
(ア) 乙12発明
a 乙12文献の3頁には,「アメリアは,人間の同僚と同じ研修資料を
20 読んで理解することができます」との記載があるが,これは,乙12発
明が構成要件3Aと同一の構成を有することを意味する。
b 乙12文献の3頁等には,「起こっている出来事に関する処理マップ
を自分で作成します。彼女はその知識を保存・忘用し,似たような状況
を解決するための方法を自分自身で決定します。このように観察・理解
25 し,その知識を自動的に応用できる能力(がある)」との記載があるが,
これは,乙12発明が構成要件3Bと同一の構成を有することを意味す
る。
c 乙12文献の3頁等には,前記bの記載があるが,これは,乙12発
明が構成要件3Cと同一の構成を有することを意味する。
d 乙12文献の3,6,9,11頁には,前記bの記載のほか,「アメ
5 リアは顧客の質問を受け付け,顧客が求めていることを理解し,問題を
明らかにするために必要な質問を投げかけることで,答えを提示するこ
とができます。」,「知っている情報の本体に立ち返ることで,自然言
語で述べられた質問を元に事実を明らかにするための的確な質問を発
し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができる」
10 との記載があるが,これらは,乙12発明が構成要件3Dと同一の構成
を有することを意味する。
e 乙12文献の3,11頁には,「アメリアは,自然言語を読み取り,
文脈を理解し,論理を適用し,暗示されている内容を推定し,経験を通
して学び,感情すらも察知します。…アメリアは何を言われたかだけで
15 なく,それが何を意味しているかも理解します。彼女は同じ言葉の異な
る用法を見分けるために文脈をあてはめることで,暗示されている意味
を完全に理解します。」,「伝えられていることの文脈や意図を理解し
ていることを証明しています。」との記載があるが,これは,本件発明
12が構成要件3E(3E’)と同一の構成を有することを意味する。
20 f 乙12文献の3,9頁には,「人間の同僚と同じ研修資料を読んで理
解することができます…人間の同僚と顧客の間で行われるやりとりを
観察して仕事を覚えることもでき,起こっている出来事に関する処理マ
ップを自分で作成します。彼女はその知識を保存・応用し,似たような
状況を解決するための方法を自分自身で決定します。このように観察・
25 理解し,その知識を自動的に応用できる能力と,その学習スピードによ
り,彼女は仕事を与えられたあらゆる分野で瞬く間にエキスパートにな
ることができます。」,「アメリアは,時間がかかるプログラミングを
介さずに,与えられた情報の処理マップを自分で作成します。・・・自
分の知能を用いることで,彼女は観察したやりとりのナレッジマップを
作成し,将来似たような場面に遭遇したとき人間が介入しなくともその
5 マップを応用できるようにします。」との記載があるが,これらは,乙
12発明が構成要件3Fと同一の構成を有することを意味する。
g 乙12文献の3,9頁には,前記fの記載があるが,これらは,乙1
2発明が構成要件3Gと同一の構成を有することを意味する。
h 乙12文献の3,6,9頁には,前記b,fの記載があるが,これら
10 は,乙12発明が構成要件3Hと同一の構成を有することを意味する。
i 乙12文献の3,6,9頁には,前記b,fの記載があるが,これら
は,乙12発明が構成要件3Iと同一の構成を有することを意味する。
j 乙12文献の3,9頁には,前記bの記載があるが,これは,乙12
発明が構成要件3Jと同一の構成を有することを意味する。
15 k 乙12文献の3,5,9,11頁には,「アメリアは自然言語を読み
取り,文脈を理解し,論理を理解し,暗示されている内容を推定し,経
験を通して学び,感情すらも察知します」,「アメリアに命を吹き込む
ために意味役割の理解を実装したことで,彼女の文章をパーツに分析し
て,各単語の役割と,他の単語との関係を解釈できるようになりまし
20 た。」,「彼女は仕事を与えられたあらゆる分野で瞬く間にエキスパー
トになることができます。」,「コンプライアンスが重要な産業では,
企業はガバナンスルールを的確に守るうえでアメリアを利用すること
ができます。」,「彼女が知っている情報の本体に立ち返ることで,自
然言語で述べられた質問を元に事実を明らかにするために的確な質問
25 を発し,人間と同じように問題の明確な性質を顕在化させることができ
るのです。」,「どのような役割を与えられた場合でも,彼女は学習す
ることで,人間の同僚や顧客の双方に対して価値のある提案やソリュー
ションを提供できます。」との記載があるが,これらからすれば,乙1
2発明は,「定義,規則,説明,仮説,予測,感想に識別,分類」する
構成を備える。
5 l 乙12文献の3,5頁には,前記bのほか,「彼女は新たな従業員と
同じように学習し,事実上どのような産業でも,従業員や顧客の助けと
なるために自分の知識を応用し,様々なビジネスの課題に取り組みま
す。」との記載があるが,これらは,乙12発明が,構成要件3Lと同
一の構成を有することを意味する。
10 (イ) 本件明細書等1に記載の発明
本件明細書等1の段落【0029】には,方法の種類を真実,事実等に
分析することが記載されている。
イ 本件発明3-7と乙12発明の対比
(ア) 乙12発明の前記ア(ア)a~f記載の各構成は,それぞれ本件発明3-
15 7の構成要件3A~3Fと同一であるから,本件発明3-7は新規性を欠
く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-7の構成要件3Bの「パターンの励
起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)ア
(イ)のとおり乙7発明が有しており,乙12発明に乙7発明を適用するこ
20 とにより,本件発明3-7を容易に想到し得たものであるから,本件発明
3-7は進歩性を欠く。
ウ 本件発明3-8と乙12発明の対比
(ア) 乙12発明の前記ア(ア)a~e及びgの構成は,それぞれ本件発明3-
8の構成要件3A~3E及び3Gと同一であるから,本件発明3-8は新
25 規性を欠く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-8の構成要件3Bの「パターンの励
起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)ア
(イ)のとおり乙7発明が有しており,乙12発明に乙7発明を適用するこ
とにより,本件発明3-8を容易に想到し得たものであるから,本件発明
3-8は進歩性を欠く。
5 エ 本件発明3-9と乙12発明の対比
(ア) 乙12発明の前記ア(ア)a~e及びhの構成は,それぞれ本件発明3-
9の構成要件3A~3E’及び3Hと同一であるから,本件発明3-9は
新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-9の構成要件3Bの「パターンの励
10 起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)ア
(イ)のとおり乙7発明が有しており,乙12発明に乙7発明を適用するこ
とにより,本件発明3-9を容易に想到し得たものであるから,本件発明
3-9は進歩性を欠く。
オ 本件発明3-10と乙12発明の対比
15 (ア) 乙12発明の前記ア(ア)a~e及びiの構成は,それぞれ本件発明3-
9の構成要件3A~3E’及び3Iと同一であるから,本件発明3-10
は新規性を欠く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-10の構成要件3Bの「パターンの
励起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)
20 ア(イ)のとおり乙7発明が有しており,乙12発明に乙7発明を適用する
ことにより,本件発明3-10を容易に想到し得たものであるから,本件
発明3-10は,少なくとも進歩性を欠く。
カ 本件発明3-11と乙12発明の対比
(ア)a 一致点
25 乙12発明の前記ア(ア)a~e及びjの各構成は,それぞれ本件発明
3-11の構成要件3A~3E’及び3Jと同一であり,また,乙12
発明と本件発明3-11は,「定義,規則,説明,仮説,予測,感想に
識別,分類」する構成(構成要件3Kの一部)を備える点で一致する。
b 相違点
乙12発明は,「真理,真実,事実,常識」の識別,分類に関する構
5 成を有しない点で,本件発明3-11と相違する。
c 容易想到性
乙11発明は,前記(1)ア(ア)kのとおり,入力した情報の価値を評価
し,真偽を識別できるように真理,真実,事実,常識に分類し,また定
義,規則,説明,仮説を判断して自律的に知識体系を構築する人工知能
10 に関するものであり,また,人工知能である自律型思考パターン生成機
に関する本件明細書等1に記載の発明には,前記ア(イ)のとおり,情報
の種類を真実,事実等に分析することが記載されているから,これらを
乙12発明に適用することは,当業者が適宜選択する程度の事項にすぎ
ず,当業者は,本件発明3-11発明を容易に想到し得たものである。
15 したがって,本件発明3-11は,進歩性を欠く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-11の構成要件3Bの「パターンの
励起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)
ア(イ)のとおり乙7発明が有しているから,これを乙11発明に適用すれ
ば,本件発明3-11発明を容易に想到し得たものであるから,本件発明
20 3-11は,いずれにしても進歩性を欠く。
キ 本件発明3-12と乙12発明の対比
(ア)a 一致点
乙12発明の前記ア(ア)a~e及びjの各構成は,それぞれ本件発明
3-12の構成要件3A~3E’及び3Jと同一である。また,乙12
25 発明と本件発明3-12は,「定義,規則,説明,仮説,予測,感想に
識別,分類」する構成及び「入力した情報を構築した知識体系と照合し,
真理,真実,事実,規則および常識に沿った行動を実施する人工知能と
して機能させるためのソフトウェアである構成(構成要件3Kの一部)
を備える点で一致する。
b 相違点
5 乙12発明は,「真理,真実,事実,常識」の識別,分類に関する構
成を有しない点で,本件発明3-11と相違する。
c 容易想到性
前記カ(ア)cのとおり,乙11発明及び本件明細書等1に記載の発明
を乙12発明に適用することは,当業者が適宜選択する程度の事項にす
10 ぎず,当業者は,本件発明3-12を容易に想到し得たものである。
したがって,本件発明3-12は進歩性を欠く。
(イ) 仮に,乙12発明が,本件発明3-12の構成要件3Bの「パターンの
励起の履歴を記録する」構成を有しないとしても,かかる構成は,前記(1)
ア(イ)のとおり乙7発明が有しているから,これを乙11発明に適用すれ
15 ば,本件発明3-11発明を容易に想到し得たものであるから,本件発明
3-12は,いずれにしても進歩性を欠く。
(原告の主張)
本件発明3は,新規性,進歩性のいずれも欠くものでないから,本件発明3に
係る本件特許3は,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。
20 (1) 乙11発明を主引例とする無効について
乙11発明は,本件発明3の構成要件3B,本件発明3-7の構成要件3F,
本件発明3-8の構成要件3G,本件発明3-9の構成要件3H,本件発明3
-10の構成要件3I,本件発明3-11及び3-12の構成要件3J,本件
発明3-11の構成要件3K,本件発明3-12の構成要件3K’を開示する
25 ものではないから,本件発明3は,乙11発明と相違しており,新規性を欠く
ものではないし,これに乙7発明を組み合わせても本件発明3のいずれにも想
到し得ないから,進歩性を欠くものでもない。
ア 本件発明3と乙11発明の本質的な相違
本件発明3は,①人間の思考を表現する言語をパターンに変換し,パター
ン及びパターン間の関係を分析し,文の種類(平常文,疑問文,命令文等)
5 および特徴(真理,真実,事実,定義,規則,常識,説明,仮説,予測,意
見,感想)に識別する機能,②人間の指示および学習により情報及び情報の
構造を分析・記録する処理を実施し,情報間の関係をパターン間の接続関係
及びパターン間の処理により生成し,知識の拡大及び知識の体系化を自律的
に実施する機能,③パターンは文を表現し,文の構成要素間の関係(位置づ
10 け)を表現し,さらに文と文の関係(論理関係,原因と結果,目的と手段等,
論理関係以外の様々な関係を含む)を表現する機能,④励起したパターンの
履歴を記録し,あるパターンが励起する毎に,そのパターンが励起する前の
励起履歴をそのパターンの接続情報記録部に転写することにより,あるパタ
ーンと,そのパターンが励起に到るまでのシナリオが記録される機能,⑤文
15 脈(コンテキスト)を考慮して思考を遷移させる機能,⑥構文分析,5W1
Hの整理,文の種類及び構造に対応したパターン間接続を実施し,人間の思
考遷移に対応する動作を模擬する機能,⑦情報の処理において追加及び変更
が生じた場合においてもプログラムの追加及び変更することなく,パターン
及びパターン間の接続関係を追加及び変更することにより対応する機能,⑧
20 平常文であれば情報の価値が評価され,重要な情報又は興味のある分野,テ
ーマの情報であれば,整理して知識体系に記録する機能,⑨質問文であれば,
質問の意味を分析し,知識体系から情報を検索する。回答の候補となる可能
性がある関連情報が検索されると,その情報の特徴,属性等につき分析し,
回答として適切であるか否かを判断し,回答を生成する機能,⑩命令文であ
25 れば,その命令の意味を分析し,どのような処置が要求されているのかを分
析する。その処置の実施の可否,実施した場合の影響および実施の可否を評
価して判断する機能を有している(本件明細書等3段落【0001】,【0
004】,【0017】,【0021】,【0025】,【0027】~【0
029】,【0031】)。
これに対し,乙11発明は,上記①~⑩のいずれの機能も有しないから,
5 両者は本質的に相違している。
イ 構成要件3Bについて
(ア) 被告が指摘する乙11公報の明細書の記載は,乙11発明がパターンの
励起の履歴を記録していることの根拠とはならず,乙11公報にこの構成
を開示する記載はないから,乙11発明は,構成要件Bを開示していない。
10 したがって,乙11発明は,本件発明3と同一の発明ではない。
(イ) 本件発明3における「励起の履歴の記録」は,文脈の理解を実現するた
めに必要な構成要件であるが(本件明細書等3段落【0025】),乙7
発明における「会話履歴」は文脈理解に関して使用されているものではな
いから,乙7発明は,「励起の履歴の記録」について開示するものではな
15 い。
したがって,乙11発明に乙7発明を組み合わせても,構成要件3Bに
想到し得ないから,本件発明3は,いずれも進歩性を欠くものではない。
ウ 構成要件3Fについて
乙11発明は,構成要件Fを開示していないから,この点でも本件発明3
20 -7と相違する。
エ 構成要件3Gについて
乙11発明は,「入力した情報から概念を獲得する」又は「これまでにあ
ったことがない人物に関する情報を追加する」機能について開示するのみで
あって,「情報の処理において追加および変更が生じた場合においてもプロ
25 グラミングの追加および変更することが可能」とする機能については全く開
示していないから,この点でも本件発明3-8と相違する。
オ 構成要件3Hについて
乙11発明が開示するのは「真と識別された概念に対応した行動が選択さ
れる」という機能であり(乙11公報の明細書段落【0032】,【005
8】),「マインドマップや処理マップを構築する」機能について開示して
5 おらず,構成要件3Hについても全く開示していないから,乙11発明は,
この点でも本件発明3-9と相違する。
また,乙7発明も「マインドマップや処理マップを構築する」機能につい
て開示をするものではないから,乙11発明に乙7発明を適用しても,構成
要件3Hを想到し得ない。
10 カ 構成要件3Iについて
乙11発明が開示するのは前記オの機能に限られており,「マインドマッ
プや処理マップを構築する」機能について開示しておらず,構成要件3Iに
ついても全く開示していないから,乙11発明は,この点でも本件発明3-
10と相違する。
15 また,乙7発明も「マインドマップや処理マップを構築する」機能につい
て開示をするものではないから,乙11発明に乙7発明を適用しても,構成
要件3Iを想到し得ない。
キ 構成要件3Jについて
乙11発明が開示するのは前記オの機能に限られており,「マインドマッ
20 プや処理マップを構築する」機能について開示しておらず,構成要件3Jに
ついても全く開示していないから,乙11発明は,この点でも本件発明3-
10と相違する。
ク 構成要件3K(3K’)について
乙11発明は,構成要件3K(3K’)について開示していないから,こ
25 の点でも本件発明3-11,3-12と相違する。
(2) 乙12発明を主引例とする無効について
ア 本件発明3と乙12発明の本質的な相違
本件発明3は,前記(1)アの①~⑩の機能を有するが,乙12発明は,この
うち③~⑩の機能を有しないから,両者は本質的に相違している。
イ 構成要件3Bについて
5 乙12発明は,「パターンの励起の履歴を記録する」という機能が全く開
示されていないから,本件発明3と同一ではない。
また,前記(1)イのとおり,乙7発明もかかる構成を開示するものではな
く,乙12発明に乙7発明を適用しても構成要件3Bに想到し得ないから,
本件発明3は,進歩性を欠くものではない。
10 ウ 構成要件3K(K’)について
乙12発明は,構成要件3K(3K’)について開示していないから,こ
の点でも本件発明3-11,3-12と相違する。
別紙3ないし5(省略)
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