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平成31(行ケ)10037審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和1年8月7日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官
原告X
法令 商標権
商標法4条1項8号25回
キーワード 審決21回
侵害1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は,平成29年5月23日,以下の商標登録出願をした(商願201 7-69467号。以下「本願商標」という。甲20)。 商標の構成:別紙のとおり 指定商品:第14類「貴金属製置物,キーホルダー,身飾品(「カフスボタ ン」を除く。),ペンダント,バングル,指輪,ブローチ,ネッ クレス,チェーン(宝飾品),ブレスレット,ピアス,貴金属製 のベルト飾り,カフスボタン,身飾品用留め金具,時計,宝飾 品用チャーム」 第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,かばん類,袋物, 財布,カード入れ,かばん用ベルト,携帯用化粧道具入れ,傘, ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,革ひも」 第25類「男性用・女性用及び子供用の被服,カフス,ガータ ー,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」 ⑵ 原告は,平成30年2月26日付けの拒絶査定(甲23)を受けたため,

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判決文

令和元年8月7日判決言渡

平成31年(行ケ)第10037号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和元年7月8日

判 決

原 告 X

訴訟代理人弁護士 高 松 薫

同 金 子 典 正

同 原 野 二 結 花

被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 庄 司 美 和

同 木 村 一 弘

同 豊 田 純 一

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2018-7529号事件について平成31年1月30日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 特許庁における手続の経緯等

⑴ 原告は,平成29年5月23日,以下の商標登録出願をした(商願2017-69467号。以下「本願商標」という。甲20)。商標の構成:別紙のとおり指定商品:第14類「貴金属製置物,キーホルダー,身飾品(「カフスボタン」を除く。,ペンダント,バングル,指輪,ブローチ,ネッ)クレス,チェーン(宝飾品),ブレスレット,ピアス,貴金属製のベルト飾り,カフスボタン,身飾品用留め金具,時計,宝飾品用チャーム」

第18類「かばん金具,がま口口金,蹄鉄,かばん類,袋物,

財布,カード入れ,かばん用ベルト,携帯用化粧道具入れ,傘,ステッキ,つえ,つえ金具,つえの柄,革ひも」

第25類「男性用・女性用及び子供用の被服,カフス,ガータ

ー,靴下止め,ズボンつり,バンド,ベルト,履物」

⑵ 原告は,平成30年2月26日付けの拒絶査定(甲23)を受けたため,同年6月1日,拒絶査定不服審判(甲13)を請求した。特許庁は,上記請求を不服2018-7529号事件として審理し,平成31年1月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年2月25日,原告に送達された。

⑶ 原告は,平成31年3月25日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,別紙審決書(写し)のとおりである。その要旨は,本願商標は,これに接する取引者,需要者をして,その構成中「KENKIKUCHI」の文字部分を,「キクチ・ケン」を読みとする氏名を「名」「姓」の順にローマ字表記したものと容易に認識させるものであり,「キクチ・ケン」と読まれる「菊池 健」という氏名の者が各地域のハローページに掲載されていることから,その構成中に他人の氏名を含む商標であるといえ,かつ,上記他人の承諾を得ているとは認められないものであるから,商標法4条1項8号に該当し,登録することができないというものである。3 取消事由商標法4条1項8号該当性の判断の誤り

第3 当事者の主張

1

(原告の主張)

⑴ 「KENKIKUCHI」の文字部分の意味

本願商標は,イーグル様の黒一色の図案の中心部に,「KENKIKUCHI」なる大文字の欧州文字10字を,簡易的な白抜きの筆記体で,同大,等間隔に横書きで配置したいわゆるロゴマークであり,文字及び図形の結合商標である。原告(氏名「X」)は,平成12年ころに本願商標に係るジュエリーブランド「ケンキクチ」を立ち上げ,安易な大量生産に走らず,1点1点,自身のハンドメイドによる高い品質を維持することにより,一般需要者の支持を受け,数多くのメディアや雑誌等に取り上げられ,正規代理店として最大で国内14店舗,海外4店舗を展開するまでに至ったものである。その結果,数多くの消費者が,本願商標を確立されたブランド「ケンキクチ」のロゴであると認識することとなったものであり,本願商標は,一定の周知性を有している(甲1~9,12,15(枝番号を含む。))。一方,英語を母国語とする世界では,氏名を英語表記する場合を含めて,固有名詞の最初は大文字であるのが一般常識であり,氏名を英語表記しようとすれば,氏と名の間に空白を入れ,頭文字を大文字で記載し,以下を小文字で記載することが必要不可欠である。しかるところ,本願商標は,「KENKIKUCHI」の大文字の欧文字10字を,氏と名の間に空白を入れることなく,整然と一列に並べるものであるから,氏と名を判別することがそもそも想定されておらず,他人の氏名として客観的に把握され,当該他人を想起・連想させるものではない。以上のとおり,本願商標はブランドとして一定の周知性を有するといえ,これに接した一般需要者は,一種の独特な個性を有する造語として認識し,ジュエリーデザイナーである「X」及びそのデザインに係る商品のみを想起するものであって,「KENKIKUCHI」の文字部分を「菊池 健」等の他人の「氏名」と理解することはあり得ない。特許庁の過去の審決例においても,同様の欧文字表記について,商標法4条1項8号の「氏名」に該当しないと認定している。

⑵ 商標法4条1項8号の「他人の氏名」

本件審決は,ローマ字による表記も商標法4条1項8号の「他人の氏名」に該当することを前提として,本願商標は「他人の氏名」を含む商標である旨判断する。しかしながら,同号は,他人の氏名…を含む商標」「 と規定するにとどまり,文理上,直ちに「他人の氏名」に「ローマ字による表記」を含んでいるとは解されない。また,ローマ字表記の氏名から漢字等表記の氏名に変換する際には,必ずしも特定の氏名に結び付くわけではない。仮に,本願商標の「KENKIKUCHI」の文字部分がローマ字表記の氏名であるとしても,「菊池 健」,「菊地 健」「菊池, 賢」等のいずれの者を指すのかを判断することはできず,特定人を指し示すものではない。特許庁の過去の審決例(甲14)でも,同号の「他人の氏名」とは,使用する者が恣意的に選択する余地がなく,特定人を指し示す法令上の正式な氏名であって,日本人の氏名の場合,戸籍簿で確定される氏名である旨判断している。

⑶ 本願商標の商標法4条1項8号該当性

ア 商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業務上の信用を図り,もって産業の発達に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とする(1条)。それ故,商標法4条1項8号の趣旨が第三者の人格権の保護であるとしても,同法は,同号の「他人の氏名」の該当性を判断するに当たり,第三者の人格権のみを考慮することは予定していないというべきであり,同法の目的である産業発展の寄与ないし需要者の利益保護の観点から,登録が拒絶されることで受ける者の不利益も十分に考慮しなければならない。自己の氏名を商標として登録出願する場合に,当該氏名が,自己のデザインする商品の出所を表示するブランドとして一定程度の周知性を獲得しているときは,産業発展の寄与の観点から,当該登録者の商標使用に排他的な権利が与えられてしかるべきであり,これに接する取引者,需要者も,本願商標について「氏名」を普通に表示したものとは認識せず,当該ブランドやそのデザイナーを想定し,独特の個性を有する造語として把握するものといえる。それ故,同号の「氏名」に該当するか否かは,特定人の同一性を認識させるに足りる表記であるか,あるいは,本願商標がブランドとして一定の周知性を有するかという観点から総合的に判断されるべきである。同様の理由により,商標法4条1項8号により,当該商標ないし商品と無関係ないし無名の第三者まで保護することは行き過ぎであって,同号の「他人」に当たるか否かは,その承諾を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足る程度の著名性・希少性等を有する者かという観点から判断すべきである。イ 前記⑴のとおり,本願商標は,ブランドとして一定の周知性を有しており,これに接した一般需要者は,ジュエリーデザイナーである「X」及びそのデザインに係る商品のみを想起するものであって,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」の文字部分から,本件審決が「他人の氏名」と認定した各地域のハローページに掲載された「菊池 健」(乙12~29)という特定人との同一性を認識させるものではないから,商標法4条1項8号の「氏名」に該当しない。また,上記「菊池 健」という特定人の氏名に著名性・希少性は全く認められず,本願商標から同人を認識することはあり得ないものであり,かかる表記に触れた同人が,自らの氏名だと認識することも同様に考え難い。そのため,かかる表記に触れて不快に感じることは凡そ想定できず,人格権を害される危険性すら存在しないのであるから,上記「菊池 健」は商標法4条1項8号の「他人」に当たらない。アメリカ合衆国,イギリスなどの諸外国においても,「他人の氏名」であれば,その全てについて,その他人の承諾がない限り商標登録を認めないという判断はしておらず,当該氏名が一定の意義を有する場合には,一般消費者にとって当該商標は他人の氏名を想起せず,造語としての意味を有することから,商標登録を認めないものではないと考えている。また,特許庁の過去の審決例においても,自己の氏名をモチーフしたと考えられる多数の商標が,登録査定を受けている。ウ 以上のとおり,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」の文字部分は,ジュエリーデザイナーである「X」(原告)及びそのデザインに係る商品を示す造語であって,商標法4条1項8号の「他人の氏名」に該当しない。

⑷ 小括

以上によれば,本願商標は商標法4条1項8号に該当しないから,これと異なる本件審決の判断は誤りであり,本件審決は,違法として取り消されるべきである。

(被告の主張)

⑴ 「KENKIKUCHI」の文字部分の意味

本願商標は,翼を広げた鷲又は鷹を黒色のシルエットで表した図形内に,「KENKIKUCHI」の欧文字を白抜きで表してなる。上記文字部分は,途中に区切りを表す空白はないものの,語頭の「K」の文字の右斜め下に向かう線が2,3文字目の「EN」の文字の下部に沿って伸びていること,他方,語尾の「I」の文字の終端から伸びた横線が4~9文字目の「KIKUCH」の文字の下部に沿って伸びていることから,視覚的に「KEN」の文字部分と「KIKUCHI」の文字部分とに分けて理解,認識される外観を呈する。そして,「KIKUCHI」は,「キクチ」「KEN」は「ケン」と読まれ,るものであって,これに接した取引者,需要者は,前者から日本人の姓氏である「菊地」や「菊池」(乙1~3)を,後者から「健」等の日本人男性の名(乙4)を連想,想起する。また,我が国では,例えば,パスポートやクレジットカード,ウェブサイトなどにおける自己の氏名の紹介,論文等には,本人の氏名がローマ字表記されるなど,氏名をローマ字表記することは社会一般に行われている。さらに,氏名を英語で表記する場合は通常「名」「姓」の順で表記し,また,パ,スポート及びクレジットカードにおいては,「名」「姓」の順で大文字の欧文,字で表記するなど,氏名をローマ字表記する場合に,「名」「姓」の順で全て,の文字を欧文字の大文字で記載することは,少なくない。以上によれば,本願商標に接する需要者等は,その構成中「KENKIKUCHI」の文字部分は,「キクチ(姓)・ケン(名)」と称される氏名をローマ字で表記したものと認識する。

⑵ 商標法4条1項8号の「他人の氏名」

読み方を同じくする氏名は,これをローマ字表記する場合に,同一のローマ字で表記せざるを得ないものであり,恣意的に選択する余地がない以上,氏名のローマ字表記は,特定人の氏名と結び付かないものとはいえない。また,前記⑴のとおり,我が国では,商取引において,氏名をローマ字表記することが社会一般に行われている。したがって,ローマ字で表示された氏名は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」に該当する。

⑶ 本願商標の商標法4条1項8号該当性

ア 前記⑴のとおり,本願商標に接する需要者等は,その構成中「KENKIKUCHI」の文字部分は,「キクチ(姓)・ケン(名)」と称される氏名をローマ字で表記したものと認識するところ,原告とは他人である「菊地健」「菊地, 研」「菊池, 賢」「菊地, 顕」等が,自らの氏名を「kenkikuchi」「Ken, Kikuchi」又は「KIKUCHI Ken」のローマ字で表記している(乙5~11)。また,原告とは他人の,自らの氏名を「KEN KIKUCHI」とローマ字で表記すると容易に想定できる「菊池 健」「菊地, 健」等が,各地域のハローページに掲載されており(乙12~29),これらの者は,いずれも本願商標の出願時から現在まで現存している者と推認できる。そして,原告は,「KEN KIKUCHI」の名称を使用する上記の者の承諾を得ていない。以上によれば,本願商標は,他人の氏名を含む商標であって,かつ,その他人の承諾を得ていないものであるから,商標法4条1項8号に該当する。イ

(原告の主張)

に対し商標法4条1項8号の趣旨は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあるところ,他人の氏名を含む商標について商標登録を受けることは,そのこと自体が,その氏名を有する他人の人格的利益の保護を害するおそれがあるものとみなすものと解されるから,本願商標の同号該当性を判断するに当たり,原告(出願人)と他人との間での商品の出所の混同のおそれの有無や,いずれかが周知著名であるかどうかといったことは考慮する必要がない。また,過去に氏名を含む商標が登録されているとしても,商標登録出願された商標は,それごとに,商標法に規定する拒絶の理由の有無について判断するものであるから,かかる事実をもって,本願商標についての個別具体的な判断が拘束されるものではない。さらに,属地主義を採用する我が国においては,我が国の商標法のもとで,本願商標の登録の可否を判断するのであって,諸外国の例を考慮して本願商標の登録の可否を判断しなければならない事情はない。

⑷ 小括

以上によれば,本願商標は商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由(商標法4条1項8号該当性の判断の誤り)について

⑴ 「KENKIKUCHI」の文字部分の意味ア 本願商標は,別紙記載のとおり,翼を広げた鷲又は鷹を黒色のシルエットで表した図形部分と,図形内に配置された「KENKIKUCHI」の文字部分とから構成された結合商標である。「KENKIKUCHI」部分は,白抜きの大文字の欧文字10字から構成され,各文字の書体及び大きさはほぼ同じで,ほぼ等間隔で1行にまとまりよく配列されている。そして,左端の「K」の文字の右斜め下に向かう線が,左から2文字目の「E」の下部に沿って,同3文字目の「N」の右端の線の下端にほぼ接する位置まで伸び,右端の「I」の文字の終端から左方向に伸びた線が,右から2文字目の「H」から同6文字目の「I」までの各下部(「IKUCH」部分の下部)に沿って,同7文字目(左から4文字目)の「K」の左端の線の下端にほぼ接する位置まで伸びている。そのため,「KENKIKUCHI」部分は,外観上,「KEN」部分と「KIKUCHI」部分に区別して認識されるものといえる。「KEN」部分,「KIKUCHI」部分は,いずれも無理なく一連に発語することができ,前者から「ケン」,後者から「キクチ」の称呼が自然に生じる。また,証拠(乙1~11)及び弁論の全趣旨によれば,我が国では,パスポートやクレジットカードなどに本人の氏名がローマ字表記されるなど,氏名をローマ字表記することは少なくないこと,氏名をローマ字表記する場合に,「名」「氏」の順で記載することが一般的であり,パスポートやク,レジットカードのように,全ての文字を欧文字の大文字で記載することも少なくないこと,「キクチ」を読みとする姓氏(「菊池」「菊地」, )及び「ケン」を読みとする名前(「健」「建」「研」「賢」等)は,日本人にとって, , ,ありふれた氏名であることが認められる。以上によれば,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は,「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであるから,本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。イ これに対し原告は,本願商標はブランド「ケンキクチ」のロゴとして一定の周知性を有しており,これに接した一般需要者は,ジュエリーデザイナーである「X」及びそのデザインに係る商品のみを想起するものであって,「KENKIKUCHI」部分を「菊地 健」等の「他人の氏名」と理解することはあり得ない旨主張する。しかしながら,前記アのとおり,本願商標の外観,我が国における一般的な氏名の表記方法等によれば,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は,「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであることが認められ,この氏名は,原告の氏名に限定されるものではない。仮に,本願商標がブランド「ケンキクチ」のロゴとして一定の周知性を有しているとしても,かかる事実は上記認定を左右するものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。

⑵ 商標法4条1項8号の「他人の氏名」原告は,商標法4条1項8号の「他人の氏名」とは,使用する者が恣意的に選択する余地がなく,特定人を指し示す法令上の正式な氏名であって,日本人の氏名の場合,戸籍簿で確定される氏名であり,ローマ字表記は含まれない旨主張する。しかしながら,同号は,他人の氏名…を含む商標」「 と規定するものであり,当該「氏名」の表記方法に特段限定を付すものではない。また,同号の趣旨は,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにあると解される(最高裁平成15年(行ヒ)第265号同16年6月8日第三小法廷判決・裁判集民事214号373頁,最高裁平成16年(行ヒ)第343号同17年7月22日第二小法廷判決・裁判集民事217号595頁参照)ところ,自己の「氏名」であれば,それがローマ字表記されたものであるとしても,本人を指し示すものとして受け入れられている以上,その「氏名」を承諾なしに商標登録されることは,同人の人格的利益を害されることになると考えられる。したがって,同号の「氏名」には,ローマ字表記された氏名も含まれると解される。

⑶ 本願商標の商標法4条1項8号該当性ア 前記⑴アのとおり,本願商標の構成中「KENKIKUCHI」部分は,「キクチ(氏)ケン(名)」を読みとする人の氏名として客観的に把握されるものであり,本願商標は人の「氏名」を含む商標であると認められる。そして,証拠(乙12~29)によれば,「キクチ ケン」を読みとすると考えられる「菊池 健」という氏名の者が,北海道小樽市に住所を有する者として,2016年(平成28年)12月版(掲載情報は同年8月24日現在)及び2018年(平成30年)12月版(掲載情報は同年8月16日現在)の「ハローページ(小樽市版)」に掲載され(乙12,13),同時期に発行された他の地域版の「ハローページ」(乙14~29)にも,当該地域に住所を有する者として,「キクチ ケン」を読みとすると考えられる「菊池 健」又は「菊地 健」という氏名の者が掲載されていると認められるところ,かかる事実によれば,これらの「菊池 健」及び「菊地 健」という氏名の者は,いずれも本願商標の登録出願時から現在まで現存している者であると推認できる。加えて,弁論の全趣旨によれば,原告と上記「菊池 健」 「菊地及び 健」とは他人であると認められるから,本願商標は,その構成中に上記「他人の氏名」を含む商標であって,かつ,上記他人の承諾を得ているものではない。したがって,本願商標は,商標法4条1項8号に該当する。イ これに対し原告は,①商標法4条1項8号の趣旨が第三者の人格権の保護であるとしても,同法は,同号の「他人の氏名」の該当性を判断するに当たり,第三者の人格権のみを考慮することは予定していないというべきであり,同法の目的である産業発展の寄与ないし需要者の利益保護の観点から,登録が拒絶されることで受ける者の不利益も十分に考慮しなければならないから,同号の「氏名」に該当するか否かは,特定人の同一性を認識させるに足りる表記であるか,あるいは,本願商標がブランドとして一定の周知性を有するかという観点から総合的に判断されるべきであり,同号の「他人」に当たるか否かは,その承諾を得ないことにより人格権の毀損が客観的に認められるに足る程度の著名性・希少性等を有する者かという観点から判断すべきである,②諸外国においても,「他人の氏名」であれば,その全てについて,その他人の承諾がない限り商標登録を認めないという判断はしておらず,特許庁の過去の審決例においても,自己の氏名をモチーフしたと考えられる多数の商標が登録査定を受けている旨主張する。しかしながら,上記①の点について,商標法4条1項8号の趣旨は,前記アのとおり,自らの承諾なしにその氏名,名称等を商標に使われることがないという人格的利益を保護することにある。そして,同号は,その規定上,雅号,芸名,筆名,略称については,「著名な雅号,芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称」として,著名なものを含む商標のみを不登録とする一方で, 他人の肖像又は他人の氏名若しくは名称」「 については,著名又は周知なものであることを要するとはしていない。また,同号は,人格的利益の侵害のおそれがあることそれ自体を要件として規定するものでもない。したがって,同号の趣旨やその規定ぶりからすると,同号の「他人の氏名」が,著名性・希少性を有するものに限られるとは解し難く,また,「他人の氏名」を含む商標である以上,当該商標がブランドとして一定の周知性を有するといったことは,考慮する必要がないというべきである。次に,上記②の点については,諸外国における他人の氏名を含む商標の登録に関する法制や取扱いが,直ちに我が国における法解釈に影響を及ぼすものではないし,特許庁の過去の審決例において,自己の氏名をモチーフしたと考えられる商標が登録査定を受けているとの事実があったとしても,本件審決における本願商標の商標法4条1項8号該当性の判断が,これに左右されるものではない。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。

⑷ 小括以上によれば,本願商標は商標法4条1項8号に該当するとした本件審決の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。結論以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,本件審決にこれを取り消すべき違法は認められない。したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。知的財産高等裁判所第3部

裁判長裁判官

鶴 岡 稔 彦

裁判官

上 田 卓 哉

裁判官

山 門 優

(別紙)

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