平成30(行ケ)10150審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和1年9月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告アンセルヘルスケアプロダクツ 原告株式会社東和コーポレーション市川泰央
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対象物 |
手袋に対するテクスチャード加工表面被覆および製造方法 |
法令 |
特許権
特許法36条4項1号2回
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キーワード |
実施37回 審決9回 無効4回 特許権1回 進歩性1回 無効審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は,平成16年6月30日,発明の名称を「手袋に対するテクスチャー
ド加工表面被覆および製造方法」とする特許(以下「本件特許」という。)の出願を
し,平成23年6月17日に特許権の設定登録を受けた(特許第4762896号。
請求項の数6)。
⑵ 原告は,平成29年8月31日,本件特許について無効審判の請求をし,特
許庁は,同請求を無効2017-800121号事件として審理した。 |
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判決文
令和元年9月18日判決言渡
平成30年(行ケ)第10150号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年8月21日
判 決
原 告 株式会社東和コーポレーション
同訴訟代理人弁理士 松 尾 憲 一 郎
市 川 泰 央
同訴訟復代理人弁理士 水 原 博 久
被 告 アンセル ヘルスケア プロダクツ
エルエルシー
同訴訟代理人弁護士 栁 本 高 廣
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
吉 住 和 之
酒 巻 順 一 郎
熊 谷 祥 平
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が無効2017-800121号事件について平成30年9月19日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 被告は,平成16年6月30日,発明の名称を「手袋に対するテクスチャー
ド加工表面被覆および製造方法」とする特許(以下「本件特許」という。)の出願を
し,平成23年6月17日に特許権の設定登録を受けた(特許第4762896号。
請求項の数6)。
⑵ 原告は,平成29年8月31日,本件特許について無効審判の請求をし,特
許庁は,同請求を無効2017-800121号事件として審理した。
⑶ 特許庁は,平成30年9月19日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との
別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月28日にそ
の謄本が原告に送達された。
⑷ 原告は,同年10月23日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6の記載は,次のとおりである(以
下,各請求項に記載された発明の全部を併せて「本件各発明」といい,本件特許の明
細書を「本件明細書」という。)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以
下同じ)。
【請求項1】
テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって,/(i)型を凝固剤
で処理すること;/(ⅱ)型を水性ラテックスエマルジョン中で浸漬被覆すること
によりラテックスの第一層を形成すること;/(ⅲ)該凝固剤による該ラテックス
エマルジョンの不安定化によりラテックスの第一層をゲル化すること;/(ⅳ)型
を水性ラテックスエマルジョン中で浸漬被覆することによりラテックスの第一層の
上にラテックスの第二層を形成すること;/(v)ラテックスの第二層に離散した
多面的な塩の粒子を塗布すること;/(ⅵ)塩の粒子の形状を模写する多面的な痕
がラテックスの第二層に形成されるように,塩の粒子との接触時にラテックスの第
二層をゲル化し,ラテックスの第二層の中の塩の粒子の形状を固定すること;/(ⅶ)
ラテックスの第二層を熱硬化させる前に,ラテックスの第二層から離散した多面的
な塩の粒子を溶解すること;/(ⅷ)離散粒子を溶解する工程の後,形成した層を熱
硬化させ,硬化した第二層を形成すること;ならびに/(ⅸ)型から硬化したテクス
チャード加工手袋を外すこと/を含み,該ラテックスが塩との接触時に即座に不安
定化して湿潤ゲルを形成するものである,方法。
【請求項2】
テクスチャード加工表面被覆手袋を製造する方法であって,/(ⅰ)型に非ラテ
ックス材料の織布第一層,またはメリヤス第一層を塗布すること;/(ⅱ)型を水性
ラテックスエマルジョン中で浸漬被覆することにより織布第一層,またはメリヤス
第一層の上にラテックス第二層を形成すること;/(ⅲ)ラテックス第二層に離散
した多面的な塩の粒子を塗布すること;/(ⅳ)塩の粒子の形状を模写する多面的
な痕がラテックスの第二層に形成されるように,塩の粒子との接触時にラテックス
第二層をゲル化し,ラテックスの第二層の中の塩の粒子の形状を固定すること;/
(v)ラテックスの第二層を熱硬化させる前に,ラテックスの第二層から離散した
多面的な塩の粒子を溶解すること;/(ⅵ)離散粒子を溶解する工程の後,ラテック
ス第二層を熱硬化させ,硬化した第二層を形成すること;ならびに/(ⅶ)型から硬
化したテクスチャード加工手袋を外すこと/を含み,該ラテックスが塩との接触時
に即座に不安定化して湿潤ゲルを形成するものである,方法。
【請求項3】
ラテックス第二層が発泡体である,請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
離散粒子が,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウ
ム,塩化亜鉛,硝酸カルシウム,硝酸亜鉛,およびそれらの組み合わせから選択され
る塩を含む,請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
塩の流動床の中に型を浸漬することにより,塩の離散粒子をラテックスの第二層
に塗布する,請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
水性ラテックスエマルジョンが,天然ゴムラテックス,ポリウレタンラテックス,
ニトリルラテックス,ポリクロロプレンラテックス,またはこれらの組み合わせを
含む,請求項1または2に記載の方法。
3 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本件明細
書の発明の詳細な説明の記載は,特許法36条4項1号に規定する記載要件(以下
「実施可能要件」という。)を満たしているから,本件特許を無効にすることはでき
ない,というものである。
4 取消事由
実施可能要件の判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
本件各発明に係るテクスチャード加工表面被覆手袋の生産方法については,グリ
ップの改良が課題とされていながら,公知の従来技術として示された手袋と比較し,
グリップの改良された手袋を生産することができていないという問題がある。
これを本件明細書の記載についていえば,特許第2639415号公報(甲1),
特開2002-20913号公報(甲2)及び特開2002-249909号公報
(甲7)に記載された従来技術よりも優れた作用効果を有する手袋の生産をするこ
とができるように記載されていないということになる。
本件明細書には,発明の実施形態を具体的に説明するものとして実施例1が記載
され,同実施例において製造された手袋のグリップ力を評価するために,つまみ力
試験を実施し,従来の被告の自社製品等と比較したことが記載されているが(【00
40】,記載されたつまみ力試験は,摩擦係数の値を求めない点においてその方法
)
が技術的に適切でなく,このようなつまみ力試験ではグリップ力の改良を適切に試
験することはできない。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件各発明を実
施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないというべきであり,
実施可能要件に適合しない。
〔被告の主張〕
本件明細書の記載が実施可能要件を満たしているか否かは,本件各発明がテクス
チャード加工による表面被覆がされた手袋を製造する方法であることを踏まえて検
討されるべき事柄であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者
が本件各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
本件各発明の方法により製造される手袋が,原告の引用する手袋(甲1,甲2及
び甲7)よりも優れたグリップ力を有するか否かは,本件明細書の発明の詳細な説
明の記載が実施可能要件を満たしているか否かとは関係がない。
また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者において本件各発明を実
施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであることは前記のとおり
であることからすれば,当業者において改めてつまみ力試験を行ってグリップ力を
確認するまでもなく,したがって,記載されたつまみ力試験でグリップ力の測定が
できるか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たして
いるか否かを左右しない。
第4 当裁判所の判断
1 本件各発明について
⑴ 本件明細書の記載事項
本件明細書(甲16)の発明の詳細な説明には,次のアないしキの記載がある。
ア 技術分野
本件各発明は,テクスチャード加工表面を伴う手袋及び該手袋を製造する方法に
関する(【0001】。
)
イ 背景技術
無保護(Unsupported)手袋は,手のような形状の手袋の型を液体ラテックス及び
混合化学薬品のタンクの中に浸漬することにより製造され(【0002】 ,保護
)
(Supported)手袋は,保護(supporting)裏地を発泡ラテックス材料の層で浸漬被覆
することにより製造される(【0003】。
)
ラテックスの滑らかな層は,特に湿っている場合には,着用者の物体グリップ能
力に問題をもたらすところ,先行技術には,グリップを改良するための幾つかの方
法があるものの,そのためには手袋製造コストを増大させ,さらなる機械を必要と
する(【0004】。
)
保護又は無保護のどちらの手袋の外側の発泡材料も,湿潤又は滑りやすい物体を
グリップする能力をほとんど高めない閉細胞型の表面層を有している 【0006】。
( )
ウ 発明が解決しようとする課題
通常の手袋製造において簡単に製造することのできるテクスチャード加工表面被
覆を伴う手袋を得ることが望まれ,具体的には,テクスチャード加工表面に,開細
胞型の構造の発泡材料層を得ることが課題となる(【0007】。
)
エ 課題を解決するための手段
本件各発明の原理に基づき,一般的な塩のような離散粒子の層を,被覆したラテ
ックスフィルムの液体表面に包埋し,浸漬したラテックス層をゲル化又は乾燥し,
テクスチャード加工表面を残すように離散粒子を溶解し,その後に浸出,乾燥及び
硬化し,最後に型から手袋を取り除くことにより製造した,テクスチャード加工表
面被覆を有する手袋が提供される(【0008】。
)
オ 発明を実施するための最良の形態
本件各発明は,非ゲル化ラテックスの層に離散粒子を包埋することにより製造し
た無発泡ラテックス又は発泡ラテックスのいずれかにより製造されたテクスチャー
ド加工表面被覆を伴う手袋に関する。ラテックス層は,理想的には離散粒子に接触
することでゲル化している。プロセスは手袋を乾燥及び硬化することにより完了す
る。離散粒子は,粒子を適当な溶媒中に溶解させることにより,ゲル化又は硬化後
のいずれかに層から除去され得る。このプロセスは,離散粒子が包埋していた箇所
に痕(impression)を残し,グリップ,より少ない直の皮膚の接触を伴う手袋内の空
気循環及び吸汗性の程度を改良し得るテクスチャード加工表面被覆となる。例えば,
湿潤/油グリップは,本件各発明のテクスチャード加工手袋において改良される。
発泡材料は,テクスチャード加工表面層を製造するために無発泡ラテックスの代わ
りに使用されてもよく,優れたグリップ,より高い吸汗性及び絶縁体(insulation)の
柔軟な層を提供する(【0009】。
)
用いられる離散粒子には,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化
マグネシウム,塩化亜鉛,硝酸カルシウム,硝酸亜鉛を含む様々な塩,又は糖(スク
ロース)のような他の可溶性化合物が挙げられ,また,これらに限定されないが,水
のような溶媒に十分可溶性のある塩が好ましい。好ましい塩は,塩化ナトリウムで
ある。有用な平均粒子サイズは,約50ミクロンから約6000ミクロンの範囲に
及び得るが,好ましい平均粒子サイズの範囲は,約50ミクロンから約2000ミ
クロンである。これらの塩は,すべて同様の物理的なテクスチャード加工に用いる
ことができ,塩化物は,本件各発明のテクスチャード加工表面の湿潤/油グリップ
及び化学薬品耐性における明確な改良を提供する(【0010】。
)
例えば,塩化ナトリウムのような塩は,本件各発明において用いられる液体ラテ
ックスと接触すると,湿潤ゲルを形成するようにラテックスを即座に不安定化し,
それゆえにゴムの表面に塩粒子の形を「固定する」。塩が取り除かれる時に表面テク
スチャーがもたらされる。この表面テクスチャーは,塩粒子の逆像(reverse image)
である(【0011】。
)
所望のテクスチャーは,離散粒子を選択することにより調節される。例えば,多
数の棘のある結晶をもつ樹状塩(dendritic salt)を選択すれば,多面的な痕(impression)
を残すことができ,破砕した塩(crushed salt)は様々なサイズの痕を残し,食卓塩の
微細粒子は,緻密な,より一様な分布の小さな痕を残すことになろう。粒子サイズ
の混合又は併用が用いられ得る。離散粒子を溶解するのに用いられる溶媒は,粒子
の溶解度に依存し得,そして水,酸性又はアルカリ性化合物であり得る 【0012】。
( )
好ましい実施態様によれば,手袋は,非常に多数の手袋が連続して,速やかにそ
して常に製造される大量製造ラインにおいて製造される。このような方法は,多数
の手袋の型を,手袋を製造するための一連の化学薬品溶液及びプロセスステップを
経て運搬及び操作する。該型は,陶材,スチール又はプラスチックで作られる。標準
の製造プロセスによれば,手袋は,1つの場所から次に運搬される型上で直接製造
されてもよい。例えば,所望の特性の層を得るために,型を界面活性剤,ワックス,
凝固剤及び天然又は合成エラストマーに浸漬する。該方法は,手袋の層を製造する
成分の組成,添加の順序,及び添加方法を変化させてもよい(【0013】。
)
手袋は,様々な物質中への多重浸漬により作り上げてもよい。例えば,型は最初
にパウダーフリー剥離剤及び凝固剤の組成物中に浸漬してもよい。この剥離剤及び
凝固剤浸漬は,その後に続く型からの完成した手袋の除去のための剥離材料を放出
する。さらに,凝固剤材料はラテックス型エラストマーのようなその後に続く液体
層を不安定化するであろう(【0014】。
)
剥離剤/凝固剤浸漬がなされた後,型は好ましくは,ラミネート層が型に塗布さ
れる製造ラインにおける次の場所に運搬される。ラミネート層は,天然又はポリウ
レタン,ニトリル又はポリクロロプレンのような合成ゴムラテックスのようなラテ
ックスエラストマー浸漬から成ってもよい。例えば,ラテックスの様々な組合せ及
び調合が用いられ得る。本件各発明のラテックスは,任意で発泡させてもよい。
REVENEX 99G43 (Synthomer Ltd., United Kingdom)は,有用なニトリルラテックスの
一つである。ラテックス材料の選択及び組成を変化させることにより,ラミネート
層は異なる程度の強度,快適性,柔軟性及び化学薬品耐性を提供するように変化し
得る。いずれにしても,型に塗布されるラテックスの内容は,好ましくは切断及び
磨耗からの保護,液体撥水性及び化学薬品耐性を提供するように調節される(【00
15】。
)
一又はそれ以上のラミネート層の塗布の後,型は,好ましくは乾燥及び硬化並び
に最終製品の提供のために,上昇した温度の炉を通過する。手袋はその後,手で又
は自動化手法により取り除かれる(【0016】。
)
本件各発明の一実施態様において,ラテックスの第一層を形成するために型を浸
漬する。このラテックスの第一層はその後ゲル化し,非ゲル化ラテックスの第二層
を形成するために型を再び浸漬する。第二層の発泡又は無発泡ラテックスの粘度は,
約100cpsから約2000cpsの範囲に及び得る。型を離散粒子の流動床に
浸漬することにより又は離散粒子を包埋する他の機械的手段,例えば,噴霧するこ
とにより,離散粒子をその後非ゲル化ラテックスの第二層に塗布する。流動床プロ
セスは,粒子が液体と同様の方法でふるまうように,気流中の塩粒子(NaCl)浮遊
物を活用する。離散粒子は,実質的に手袋の表面を覆うテクスチャード加工表面被
覆を残すように,離散粒子を塗布した後又は手袋のゲル化又は硬化の後に,適切な
溶媒に溶解することで除去する。例えば,塩粒子は,水による洗浄又は噴霧により,
ゲル化した表面から除去され得る。ラテックスの粘度は,所望のテクスチャード加
工効果を得るために変化させ得る1つのパラメーターである。テクスチャード加工
無発泡層は,最適な耐久性及び湿潤/油グリップの組合せを提供する 【0018】。
( )
本件各発明の別の実施態様には,ラテックス被浸(overdip)の外側の層に離散粒
子を包埋することにより製造されたテクスチャード加工表面被覆を伴う非ラテック
ス材料の断片が含まれる。この実施態様のために,型は,土台として適用された非
ラテックス材料の層,例えば織布又は綿くずを有し,発泡又は無発泡ラテックスの
層に浸漬され得る。有用な織布の例は,メリヤス裏地である。ラテックス被覆がメ
リヤス裏地の上になされる保護(supported)手袋の実施態様において,第一又は次
のラテックス層に,テクスチャー化(texturing)がなされ得る(【0022】。
)
カ 実施例1
(ア) ステップ1;以下の凝固剤溶液を調合する:
硝酸カルシウム 水溶液濃度35容量%
TRITON X 100 約0.1容量%
DEFOAMER 1512M 約0.5容量%
凝固剤溶液を30から40℃に加熱する。清浄な陶材の手袋の型は,凝固剤溶液
中に浸漬することによりその表面を均一に被覆する。浸漬速度はおよそ1.5cm
/秒,滞留時間は5から10秒,そして抽出速度はおよそ0.75cm/秒である
(【0026】。
)
(イ) ステップ2;凝固剤を被覆した型は,指を立てた状態に反転しそして暖かく
穏やかな気流中(30から40℃)で2から2.5分間乾燥する(【0027】。
)
(ウ) ステップ3;乾燥した凝固剤被覆型は,指を下に向けた状態に再反転しそし
てニトリルラテックス化合物に浸漬する:
REVENEX 99G43 100phr
硫黄 0.5phr
酸化亜鉛 3.0phr
ZMBT 0.7phr
pHを9.0に調節する(アンモニア又は水酸化カリウムを用いて)。ラテックス
の粘度は通常20から40cps(ブルックフィールド粘度計モデル DV1+,スピン
ドル# 2 @ 30 rpm)である。ラテックスは20から25℃に保持する。浸漬速度はお
よそ1.5cm/秒,ラテックス中の滞留時間は所望の壁厚に依存し30から90
秒,そして抽出速度はおよそ1.2cm/秒である(【0028】。
)
(エ) ステップ4;ゲル化ニトリルラテックス被覆型は,指先の滴の分散を助ける
ために指を立てた状態に反転する(滞留時間周囲温度で最低30秒)
(【0029】。
)
(オ) ステップ5;ゲル化ニトリルラテックス被覆型(ここでは,ニトリル手袋殻
(shell))は,指を下に向けた状態に再反転し,残余の表面シネレシス生成物を除去
するために40から60℃に加熱した水中に浸漬する(滞留時間60から80秒)
(【0030】。
)
(カ) ステップ6;ニトリル手袋殻(shell)は,指の滴の分散を助けるために指を
立てた状態に反転し,その後ゲルの表面及び指先の残余の水を除去するために部分
的に乾燥する(【0031】。
)
(キ) ステップ7;ニトリル手袋殻(shell)は,指を下に向けた状態に反転し,以
下のニトリルラテックスの第二層で手首まで(又はあるいは腕周りまで完全に)過
浸漬する:
REVENEX 99G43 100phr
硫黄 0.5phr
酸化亜鉛 3.0phr
ZMBT 0.7phr
このラテックスのpHは9.0に調節されており(アンモニア又は水酸化カリウ
ムを用いて) ラテックスの粘度はポリアクリル酸アンモニウムを用いて500cp
,
s(ブルックフィールド粘度計モデル DV1+,スピンドル# 2 @ 30 rpm)に調節され
ている。ラテックスは20から25℃に保持する。浸漬速度はおよそ1から3cm
/秒,ラテックス中の滞留時間はおよそ10から30秒,そして抽出速度はおよそ
2cm/秒である(【0032】。
)
(ク) ステップ8;ニトリルラテックス過浸漬の液体第二層を有するニトリル手袋
殻(shell)は,指の滴を分散するために指を立てた状態に反転し,その後即座に再反
転して指を下に向けた状態に戻す。塩化ナトリウムの粒子(純度99%,平均粒子
サイズ400ミクロン)を,流動床装置中でラテックスの第二層に塗布する。手袋
殻(shell)は常温に保持する。流動床への浸漬速度はおよそ2cm/秒,流動床中の
滞留時間は5から10秒,そして抽出速度はおよそ2cm/秒である。ステップ8
の別形において,滞留時間の間流動床は,ラテックス層の中によりはっきりとした
/より深い痕を得るために止めてもよい。型の抽出の間,流動床を再び作動する 【0
(
033】。
)
(ケ) ステップ9;塩被覆殻(shell)は,ここで,ゲル化表面に残っている塩化ナ
トリウムを除去するために常温にて水で洗浄する(【0034】。
)
(コ) ステップ10;ゲル化手袋製品は,その後およそ40℃の温水中でおよそ1
5分間溶脱する(【0035】。
)
(サ) ステップ11;ゲル化手袋製品は,130℃の従来の循環熱風炉内でおよそ
60分間乾燥及び硬化処理する(【0036】。
)
(シ) ステップ12;硬化した手袋を冷却した後,裏返しに型を剥ぎ取る。同ステ
ップの別形として,内側の裏地(例えば綿くず粉)を付着してもよい 【0037】。
( )
(ス) ステップ13;硬化し,完成した手袋は,テクスチャード加工表面が手袋の
外側になるよう,裏返しにする(【0038】。
)
キ つまみ力試験
(ア) 磨き上げた表面を有し油圧オイル及び潤滑油の混合物で覆われたスチール
の重量を持ち上げるのに必要なグリップ力を測定するために,つまみ力試験が開発
され,実施例1により調製した手袋(「テクスチャード加工手袋」)及び同様の構成
の既知のニトリル手袋(テクスチャード加工表面被覆を有していないもの,すなわ
ち Ansell SOLVEX 37-676 及び Ansell SOLKNIT 39-122)を含む様々な手袋が試験さ
れた(【0039】。
)
(イ) 試験装置は,質量秤(Applied Instruments Ltd.,United Kingdom より入手した
モデル PPS-6 Kg)を,直接秤の平らなステンレススチール負荷皿の反対側に,ステ
ンレススチールの細長い一片をその下側に取り付けて改変したものを使用した。装
置全体は,床の方を向いている間重力の力に逆らって手袋をした手でグリップでき
るように,試験のための側面を向ける。ステンレススチール表面は,以下の試験の
ために油圧オイル及び潤滑油の混合物で覆った。
(ウ) つまみ力試験は以下のように実行した(【0040】。
)
a ボランティアの試験者が試験手袋を着用する。
b 試験者は,親指及び第一指(又は第二指)のみを用いて,各向かい合った表面
上の1本の指は床に向かって表面に沿っておよそ4cmの点で,接触点として指及
び親指の指腹の先のみを用いて,表面に対して直角に装置をグリップする。
c 試験者は,装置を強く握り持ち上げようと試み,それから滑らずに静止して
保持するのに十分な力で装置を保持する。
d 即時グリップ力が,質量秤を読み取った質量単位で記録される。
e 最初のグリップ及び持ち上げの後,定常グリップ力がおよそ5から10秒後
に記録される。
f グリップは,装置がグリップからすべるように徐々に緩められる。
g 最小グリップ力がすべりの時点で記録される。
h さらなる重量が続いて装置に加えられ,ステップa-gが繰り返される。
(エ) 別紙の表に示される試験データは,テクスチャード加工表面は,実施例1で
調製されたようなニトリル手袋(又は任意のラテックス手袋)の表面として用いら
れ,それから湿潤又は油の付いた物体を扱うのに用いる場合,非常に優れた使用者
のグリップ及びコントロール結果を提供するということを示す。
実施例1により製造したテクスチャード加工手袋は,グリップコントロールの改
良とすべりが起った場合の信頼を示す。テクスチャード加工手袋は,従来のニトリ
ル手袋と比較して,装置によって確定した3つの重量を持ち上げるために要するグ
リップ力が最も低い(【0041】~【0043】。
)
⑵ 本件各発明の特徴
上記⑴によれば,本件各発明の特徴は,次のとおりであると認められる。
ア 本件各発明は,物(手袋)を生産する方法の発明である。
イ 手袋の外側に滑らかなラテックスの層がある場合,湿潤または滑りやすい物
体のグリップ能力に問題をもたらすが,模様の型押しや洗浄又は表面処理による手
袋の後加工といった従来の方法では,グリップ能力の改良はわずかである一方,製
造コストが増大してしまうため,通常の手袋製造において簡単に製造されるテクス
チャード加工表面被覆を施した手袋を得ることが望まれていた。
ウ そこで,①ラテックスの第二層に離散した多面的な塩の粒子を塗布すること
により,ラテックスの第二層をゲル化し,ラテックスの第二層の中の塩の粒子の形
状を固定した上,②ラテックスの第二層を熱硬化させる前に,ラテックスの第二層
から離散した多面的な塩の粒子を溶解し,③上記①の工程の後に,形成した層を熱
硬化させ,硬化した第二層を形成するという構成を採用した。
エ この方法によれば,ラテックスの第二層に離散粒子(塩)の逆像が多面的な
痕となって残るので,このような痕のあるラテックスの第二層を手袋の外側に用い
れば,湿潤/油グリップが向上したテクスチャード加工表面被覆を有する手袋を製
造することができる。
2 取消事由(実施可能要件の判断の誤り)について
⑴ 特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間にわたり発明者に当該発
明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,特許請求の
範囲に記載された当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければな
らない。特許法36条4項1号が「その発明の属する技術の分野における通常の知
識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したもので
あること」という実施可能要件を定める趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当
業者がその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合に
は,実質において発明が公開されていないことになり,発明者に対して特許法の規
定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
本件各発明のような物を生産する方法の発明についての実施とは,その方法を使
用する行為及びその方法により生産した物を使用等する行為をいう(同法2条3項
3号)から,物を生産する方法について上記実施可能要件を充足するためには,明
細書の発明の詳細な説明において,当業者が,発明の詳細な説明の記載内容及び出
願時の技術常識に基づき,過度の試行錯誤を要することなく,その方法を使用し,
かつ,その方法により生産した物を使用できる程度の記載があることを要し,また,
その程度の記載のあることをもって足りるものと解される。
⑵ 実施可能要件の充足性
ア 本件各発明の方法は,①ラテックスの第一層(請求項1)や織布又はメリヤ
スの第一層(請求項2)が形成された型を,水性ラテックスエマルジョン中で浸漬
被覆することによりラテックスの第二層を形成し,②ラテックスの第二層に離散し
た多面的な塩の粒子を塗布することでラテックスの第二層をゲル化し,ラテックス
の第二層の中の塩の粒子の形状を固定した上,③ラテックスの第二層を熱硬化させ
る前にラテックスの第二層から離散した多面的な塩の粒子を溶解し,④その後,形
成した層を熱硬化させ,硬化した第二層を形成し,⑤型から硬化したテクスチャー
ド加工手袋を外すというものである。
そして,本件各発明の方法に用いられる「型」【0013】,
( )「凝固剤」【001
(
4】
【0026】,
)「水性ラテックスエマルジョン」ないし「発泡体」に相当するもの
(【0015】【0028】【0032】,
)「塩」ないし「離散粒子」に相当するもの
(【0010】~【0012】
【0018】
【0033】,
)「織布」ないし「メリヤス」
(【0022】)については,いずれも本件明細書に具体的にその意義(使用目的),
材料名,調合方法又は入手方法等が記載されている。
また,本件各発明の方法に係る具体的手法は,離散した塩粒子のサイズ及び塗布
方法(【0010】
【0012】
【0018】
【0033】)や,塩の粒子の溶解がラテ
ックスの第二層の熱硬化の前に行われること(【0009】【0018】【0034】
~【0036】)を含めて,いずれも本件明細書に実施例を交えて詳細に記載されて
いる(【0009】~【0016】【0018】【0022】【0026】~【003
8】。
)
よって,本件明細書の発明の詳細な説明には,これに接した当業者が,本件各発
明の方法の使用を可能とする具体的な記載がある。
イ また,本件各発明により生産されるのは,テクスチャード加工表面被覆を有
する手袋であるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,テクスチャード加工
表面被覆は,離散粒子(塩)の逆像が多面的な痕となって残ったものであり,手袋の
外側又は内側のいずれかに取り入れられることが記載されている(【0007】【0
009】【0011】。
)
ウ このように,本件明細書には,その具体的な実施の形態の記載もあることか
らすれば,当業者において,発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に
基づき,その製造方法を使用し,かつ,その製造方法により生産した手袋を使用す
ることができる程度の記載があるということができ,使用のために当業者に試行錯
誤を要するものともいえない。
よって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に適合するもの
と認められる。
⑶ 原告の主張について
ア 原告は,本件各発明に係る手袋の生産方法が,甲1,甲2及び甲7に記載さ
れた手袋の生産方法よりも優れた作用効果を有する手袋の生産をすることができる
ように記載されていないとし,また,本件明細書に記載されたつまみ力試験ではグ
リップ力の測定はできず,そこでされている従来の被告の自社製品等との比較も適
切なものでないとして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が本件各
発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないと主張す
る。
イ 甲1,甲2及び甲7には,次の各記載がある。
(ア) 甲1
発明の名称を「樹脂表皮への凹凸付形法」とする発明に係る特許公報(第263
9415号。甲1)には,未固化状態にある樹脂エマルジョンラテックスの表面に
塩化ナトリウム等の水溶性の固体粉粒物を付着させ,樹脂エマルジョンラテックス
を固化させ,その後,水等を用いて固体粉粒物を洗浄除去し,樹脂表皮に凹凸を付
する方法及び同方法の産業上の利用分野としてゴム手袋等の製品が挙げられること
が記載されている。
(イ) 甲2
発明の名称を「手袋およびその製造方法」とする発明に係る公開特許公報(特開
2002-20913。甲2)には,ゴム製の手袋のグリップ力を高めるため,手袋
本体の表面に設けられた滑り止め層に塩化ナトリウムのような溶解微粒子を埋め込
んだ後に溶解・抽出することによって多数の微小凹部を形成する方法が記載されて
いる。
(ウ) 甲7
発明の名称を「凹表面構造の手袋及びその製造方法」とする発明に係る公開特許
公報(特開2002-249909。甲7)には,滑り止め効果を有する手袋の製造
方法として,手袋基材の表面をポリ塩化ビニル樹脂材料又はゴム材料で被覆し,被
覆した材料が半ゲル化した時にワックスを散布し,その後に加熱処理をして成膜し,
膜面のワックスを洗浄除去することにより,微細な凹部を表面に有した皮膜を手袋
基材上に形成する方法が記載されている。
ウ しかしながら,本件各発明の方法により製造される手袋が,原告の引用する
手袋(甲1,甲2及び甲7)よりも優れたグリップ力を有するか否か,及び,つまみ
力試験でグリップ力の測定ができるか否かは,本件明細書の発明の詳細な説明の記
載が実施可能要件を満たしているか否かとは関係がない。
なお,証拠(甲18)によれば,原告の主張は,本件各発明が,甲1,甲2及び甲
7等の従来技術よりも手袋のグリップ力を向上させることを課題とするにもかかわ
らず,その課題の達成が追試可能な形で示されていないという趣旨のものと理解で
きないわけではない。しかし,そうであれば,結局のところ,本件各発明の上記従来
技術に対する進歩性を問題とするものであり,発明の公開の程度を問題とするもの
ではないから,いずれにせよ実施可能要件の充足を争う主張としては失当というほ
かない。
⑷ 小括
以上によれば,原告の主張する取消事由は理由がない。
3 結論
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 関 根 澄 子
別紙(本件明細書の表1)
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