ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(行ケ)10108 審決取消請求事件
| 裁判所 | 審決取消 知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和1年10月2日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 被告特許庁長官豊永茂弘 原告G-8INTERNATIONA |
| 対象物 | 重金属類を含む廃棄物の処理装置およびそれを用いた重金属類を含む廃棄物の処理方法 |
| 法令 |
特許権 特許法29条2項1回 |
| キーワード | 審決25回 実施10回 進歩性2回 |
| 主文 | 1 特許庁が不服2016-15650号事件について平成30年6月12日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は,平成24年4月4日,発明の名称を「重金属類を含む廃棄物の処理 装置およびそれを用いた重金属類を含む廃棄物の処理方法」とする発明について国 際特許出願をし,その後,国内移行の手続を採った(特願2014-508992。 請求項数5。甲10)。 (2) 原告は,平成28年7月15日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月2 0日,これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,これを不服2016-156 50号事件として審理した。原告は,平成30年4月4日付け手続補正書により, 特許請求の範囲を補正した(請求項の数5。甲11)。 (3) 特許庁は,同年6月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙 審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7 月4日,原告に送達された。 (4) 原告は,同年8月1日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。 |
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令和元年10月2日判決言渡
平成30年(行ケ)第10108号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年8月21日
判 決
原 告 G-8INTERNATIONA
L TRADING株式会社
同訴訟代理人弁理士 川 崎 仁
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 中 澤 登
豊 永 茂 弘
河 本 充 雄
半 田 正 人
主 文
1 特許庁が不服2016-15650号事件について
平成30年6月12日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は,平成24年4月4日,発明の名称を「重金属類を含む廃棄物の処理装置およびそれを用いた重金属類を含む廃棄物の処理方法」とする発明について国際特許出願をし,その後,国内移行の手続を採った(特願2014-508992。請求項数5。甲10)。
(2) 原告は,平成28年7月15日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月2日,これに対する不服の審判を請求し,特許庁は,これを不服2016-156号事件として審理した。原告は,平成30年4月4日付け手続補正書により,特許請求の範囲を補正した(請求項の数5。甲11)。
(3) 特許庁は,同年6月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年7月4日,原告に送達された。
(4) 原告は,同年8月1日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載本件審決が対象とした本件特許請求の範囲の請求項2の記載は,以下のとおりである(甲11)。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す(以下同じ。。以下,)前記手続補正後の請求項2に係る発明を「本願発明」といい,その明細書を,図面を含めて,「本件明細書」という(甲12。なお,図面については甲10。。)【請求項2】 開閉自在の排出口を有するとともに閉鎖空間を有する密閉容器の内部に,固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物,および前記有機廃棄物の炭化処理中に少なくとも前記重金属類を 5CaO・SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量の Ca 成分原料および SiO2 成分原料を収容させる工程と,/前記固形状の有機系廃棄物を粉砕しながら,前記 Ca 成分原料および SiO2 成分原料と撹拌混合する工程と,/密閉容器内に収容され,前記撹拌手段により粉砕,混合されつつある前記固形状の有機系廃棄物および Ca 成分原料およびSiO2 成分原料に,高温高圧の水蒸気を噴射して処理し,前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造の層を前記有機系廃棄物の固形物上に形成するための高温高圧の水蒸気を噴出する工程と,/処理後に密閉容器内の蒸気を冷却して,前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体とするための工程と,/前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とを分離回収する工程と/を備えたことを特徴とする重金属類を含む廃棄物の処理方法。3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明及び下記イの引用例2に記載された技術に基づいて容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。ア 引用例1:国際公開第2006/126273号(甲1)イ 引用例2:特開2008-689号公報(甲2)
⑵ 本件審決が認定した引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。,)本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。ア 引用発明開閉機構を有する排出口を有するとともに閉鎖空間を有する密閉容器の内部に,有機系廃棄物を収容し,固形状の有機系廃棄物を破砕しつつ撹拌し,高温高圧の蒸気を噴出して炭化し,処理した廃棄物と液体とを分離した状態で取り出す,有機系廃棄物の液体分離回収方法。イ 一致点及び相違点(一致点)開閉自在の排出口を有するとともに閉鎖空間を有する密閉容器の内部に,固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物を収容させる工程と,/前記固形状の有機系廃棄物を粉砕しながら,撹拌混合する工程と,/密閉容器内に収容され,前記撹拌手段により粉砕,混合されつつある前記固形状の有機系廃棄物に,高温高圧の水蒸気を噴射して処理する,高温高圧の水蒸気を噴出する工程と,/処理された液体と処理された廃棄物とを分離回収する工程と/を備えた,重金属類を含む廃棄物の処理方法。(相違点1)本願発明では「有機系廃棄物」及び「前記有機系廃棄物の炭化処理中に少なくとも前記重金属類を 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量の Ca 成分原料および SiO2 成分原料」を処理するのに対して,引用発明では「(固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の)有機系廃棄物」を処理する点。(相違点2)本願発明では「固形状の有機系廃棄物および Ca 成分原料および SiO2 成分原料」から生成された「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されるのに対して,引用発明では「(固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の)有機系廃棄物」が炭化される点。(相違点3)本願発明では「高温高圧の水蒸気を噴射し」た「処理後に密閉容器内の蒸気を冷却して,前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体とするための工程」を有するのに対して,引用発明は当該工程を有するのか不明である点。(相違点4)本願発明では「前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体」と「前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物」が生じるのに対して,引用発明では「処理した廃棄物と液体」が生じる点。
(3) 本件審決が認定した引用例2に記載された技術(以下「甲2技術」という。)は,次のとおりである。「重金属を含有する廃棄物」を対象に,密閉容器内で「水熱処理」を行うことにより「トバモライトなどの結晶性カルシウムシリケート(ケイ酸カルシウム)」が生成されるように「重金属溶出抑制をはかるに十分な量」のカルシウム化合物とシリカを添加することで,「重金属は,内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる」こと,「水熱処理」は「130 ~300℃の飽和蒸気の存在下において1~48時間行う」ものであり,これにより「結晶が成長し強度の高いトバモライトを生成」し「溶出抑制効果は期待できる」こと4 取消事由進歩性判断の誤り
第3 当事者の主張
〔
(原告の主張)
〕
1 一致点・相違点の認定の誤り
本件審決は,本願発明と引用発明とは,「固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物」「重金属類を含む廃棄物の処理方法」,の点で一致すると認定した。しかし,引用発明は,対象物を有機系廃棄物のみとしており,重金属を全く考慮していないのであるから,かかる一致点の認定は誤りである。また,本件審決は,上記一致点の認定を前提に,相違点1,2において,本願発明の処理対象を「有機系廃棄物」,引用発明の処理対象を「(固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の)有機系廃棄物」としているが,それぞれ,本願発明の処理対象を「固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物」,引用発明の処理対象を「有機系廃棄物」とすべきである。
2 相違点1及び2に係る容易想到性判断の誤り
(1) 動機付けについて
ア 技術分野の関連性引用発明は,「水熱処理による廃棄物の処理」の分野に属するが,有機廃棄物の水熱処理自体に特徴があるのではなく,有機廃棄物の処理後に生成される固形物と液体の混合物の分離回収に重きを置くものであり,むしろ固液分離の技術分野に属している。これに対し,甲2技術は,廃棄物中の重金属の処理自体であるから,技術分野を異にする。イ 課題及び作用・機能の共通性引用発明は,対象物を有機系廃棄物のみとしており,重金属を全く考慮していない。引用例1の記載 【0001】 【0008】 によれば,( ~ ) 引用発明は,主として,固液分離の従来技術に問題点を見出し,それを解決することを課題とし,そのための構成を提供している。一方,引用例2からは,トバモライトの生成機序が認定できるが,引用例2の記載はそれにとどまるものである。このように,引用発明と甲2技術は,廃棄物の処理という点で軌を一にするが,その目的も作用効果も全く異なるから,甲2技術を引用発明に適用する動機付けはない。
(2) 本願発明は,撹拌により小粒化しつつ転動する固形廃棄物に,高温高圧の水
蒸気を噴射することにより,固形廃棄物粒子の全外周に均一で連続したトバモライト層を形成し,重金属類の封じ込めを行い,溶出を抑えるものである。また,トバモライト結晶構造物が「残存する重金属を含む廃棄物」を層状となって包囲することにより,仮に固形廃棄物粒子中に重金属が残ったとしても,粒子がトバモライト層に完全に取り囲まれているので,外部に流出することがない。トバモライト結晶構造物が「残存する重金属を含む廃棄物」を層状となって包囲することを開示したものはなく,この点は,本願発明者が初めて知見したものである。これに対して,引用例2では,処理物粒子を堆積させ,静止した状態,また,粒子同士が接触したままの状態で,水熱処理を行っており,処理媒体である水蒸気がまんべんなく行きわたらないため,重金属をトバモライト層で固定化しているにすぎない。したがって,甲2技術によっては,粒子を完全にトバモライト層で覆うことは望めず,処理した廃棄物粒子を埋立て用等に用いた場合には,経年により,廃棄物粒子中に残存する重金属等が溶出して,土壌汚染を引き起こすおそれがある。
(3) 小括
以上によれば,相違点1及び2に係る本願発明の方法は,引用発明及び甲2技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでなく,本件審決の判断には誤りがある。なお,相違点3及び4の容易想到性に係る判断は争わない。〔
(被告の主張)
〕
1 一致点・相違点の認定の誤りについて
原告が主張する一致点・相違点の認定の誤りについては争わないが,これを前提としても,本願発明は引用発明から容易に想到できるものである。
2 相違点1及び2に係る容易想到性判断の誤りについて
(1) 動機付けについて
ア 技術分野の関連性引用例1【0001】の記載によれば,引用発明は,水熱処理による廃棄物の処理方法に関するものといえる。他方,甲2技術は,「重金属を含有する廃棄物を対象に,密閉容器内で水熱処理を行う」ものであるから,水熱処理による廃棄物の処理方法に関するものといえる。したがって,引用発明と甲2技術は,廃棄物の水熱処理という同一の技術分野に属するものである。イ 課題の共通性引用例1及び周知例(甲3,4,6,7)の記載を総合すると,引用発明の「有機系廃棄物」に重金属が含まれ得ることは,当業者が当然に認識することといえる。廃棄物の処理にあたり,重金属が溶出しないよう処理することは法律に定められており(甲3),鉛,砒素といった重金属は「第二種特定有害物質(重金属等)」として溶出量の基準値が決められていて,それらの処理に当たり,処理する者が溶出量を基準値以下にすることが義務づけられていることからすると,廃棄物中の重金属の溶出防止が法律上義務づけられていることも,当業者において周知のことである。そうすると,重金属を含有する有機系廃棄物の処理方法といえる引用発明において,廃棄物中の重金属の溶出を防止することは,自明の課題である。他方で,甲2技術は,廃棄物中の重金属の溶出を防止することが課題であるといえる。したがって,引用発明と甲2技術とは,廃棄物中の重金属の溶出を防止するという点で,解決すべき課題が共通する。ウ 作用・機能の共通性両者の水熱処理における具体的な処理条件についてみてみると,温度圧力の条件が重複しているのであるから,両者の水熱処理は,廃棄物に対して同等の作用・機能を有するものであるということができる。したがって,引用発明と甲2技術は,同等の作用・機能を有する水熱処理により,重金属を含む廃棄物を処理するものであるので,作用・機能が共通するものといえる。
(2) 引用例1【0029】の記載によれば,引用発明においては,廃棄物は粉砕,
撹拌されながら,むらなく水熱処理を受けるものといえる。一方,引用例2には,重金属を含有する廃棄物にトバモライト原料が混合されている場合に水熱処理が行われると,トバモライトが生成して重金属を閉じこめるので,外部へ溶出しなくなるという,トバモライトの生成原理について記載されている。そうすると,引用発明に,上記甲2技術を適用すれば,引用発明における「密閉容器」内に収容された「重金属を含有する廃棄物」と「トバモライト原料」に対して,「破砕しつつ撹拌」しながら,同時に「高温高圧の蒸気」を受けることになり,水熱処理がむらなく行われることになるから,生成した造粒物の表面全体をトバモライト結晶層で緻密に覆うことになるのは当業者が十分に予測し得ることといえる。
(3) 小括
以上によれば,相違点1及び2に係る本願発明の方法は,引用発明に甲2技術を組み合わせて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 本願発明について
(1) 本件明細書の記載本願発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書の発明の詳細な説明には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図は,別紙本件明細書図面目録参照。。)ア 技術分野【0001】本発明は,下水汚泥,産業汚泥,医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等の重金属類を含む廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理して固定化された重金属類を含む廃棄物と液体とを含む混合物を排出して両者を分離する,重金属類を含む廃棄物の処理装置およびそれを用いた重金属類を含む廃棄物の処理方法に関するものである。イ 背景技術【0002】…従来の廃棄物を蒸気で処理する方法では,焼却処理する場合のように有害な窒素酸化物,硫黄酸化物等の発生がほとんどないとされており,環境汚染の問題がなく,安全な廃棄物処理を期待できるものであった。【0003】しかしながら,処理後は容器内に処理された固体物と液体とが混在する状態になっており,処理済みの廃棄物を取出した後の運搬や保管等が不便で扱いにくいという問題があり,かつ処理した後に,分離機を用いて処理された固体物と液体を分離すると,処理工程が煩雑となり多くの労力が必要がある,処理に長時間がかかる,反応容器と分離機とを別々に設置するための用地を広く確保する必要がある,などの問題が生じていた。【0004】そのため,一台の装置で,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処理できるとともに,この処理に連続して,処理された廃棄物と液体とを分離して回収できる処理装置が提案された(特許文献 2 参照)。しかしこの処理装置は,廃棄物を高温高圧の水蒸気中で処理するための密閉容器からなるリアクターと,分離した液体を回収するための,前記密閉容器からなるリアクターと連結された他の回収用密閉容器を必要とするので,設備費が高くなり,操作が複雑となるなどの問題があった。【0005】一方,例えば,下水処理施設から排出される下水汚泥は,病原微生物や重金属を含むため,それらによる環境リスクの回避のため,濃縮,消化,脱水,コンポスト,焼却,溶融など様々な方法で処理・処分が行われてきた。しかしながら,これらのいずれの処理方法も,減量・廃棄するものであり,電力や熱エネルギーを多量に投入する消費型技術であり,かつ温室効果ガスの排出源となるなど環境への影響が大きい方法であり,資源の再生原理に沿った処理ではなく,高い維持費が投入されているため,地域経済を圧迫する原因となっている。ウ 発明が解決しようとする課題【0012】…本発明の第2の目的は,重金属類を含む廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて簡便に処理して,前記重金属類を固定化して溶出を抑制した廃棄物と液体を含む混合物を排出して,両者を簡単な操作で分離して回収できる,重金属類を含む廃棄物の処理方法を提供することにある。エ 課題を解決するための手段【0014】本発明の第2の発明は,開閉自在の排出口を有するとともに閉鎖空間を有する密閉容器内で重金属類を含む廃棄物を高温高圧の蒸気を噴出しながら処理するにあたり,前記密閉容器内での処理中に少なくとも前記重金属類を 5CaO・SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための 5CaO・6SiO2・5H2O結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量の Ca 成分原料および SiO2 成分原料を存在させて前記処理を行った後に,冷却して,液化した前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とを分離回収することを特徴とする重金属類を含む廃棄物の処理方法である。オ 発明を実施するための形態【0036】図 1 に示す開閉自在の排出口 16 を有するとともに閉鎖空間 S1 を有する密閉容器 12 内に重金属類を含む廃棄物および前記重金属類を 5CaO・6SiO2・H2O 結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量の Ca 成分原料および SiO2 成分原料…を供給して高温高圧の蒸気を噴出しながら処理(120~250℃,1.1~2.1MPa で 1~8 時間)…すると,飽和水蒸気圧下で処理中に,下記式(3)により廃棄物に予め含まれる Ca成分や新たに添加した Ca 成分と廃棄物に予め含まれる SiO2 成分や新たに添加したSiO2 成分が水熱反応して,安定なケイ酸カルシウム(トバモライト:5CaO・6SiO2・H2O)と称される鉱物の結晶が形成される。【0037】6SO2+5CaO+5H2O→5CaO・6SiO2・5H2O ・・・式(3)【0038】トバモライトの結晶は図4に模式的に示すように Si-O 四面体層,Ca-O 八面体層,Si-O 四面体層が繰り返され,Si-O 四面体層と Si-O 四面体層の間にカルシウムイオンがインターカレートされた層状に成長する構造になっている。そしてこの層状結晶構造形成過程で,重金属類は前記カルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換して層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。重金属類はトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められ,そのために溶出が抑制される。【0039】前記亜臨界水反応条件(温度,圧力,時間)は重要である。廃棄物を処理してトバモライトの層状結晶構造が形成されるとともに,層状結晶構造形成過程で重金属類がカルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換してトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるような亜臨界水反応条件を使用することが重要である。【0040】図5は,重金属類としてクロムおよび鉛を含む汚染土壌を,この汚染土壌に予め含まれる SiO2 成分を利用し,前記式(3)を満足するように新たに SiO2成分および新たに Ca 成分として CaO を添加して,前記のようにして高温高圧の蒸気を噴出しながら水熱反応処理を行うと,クロムおよび鉛がトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる状態を説明する説明図である。【0041】前記のようにして高温高圧の蒸気により処理(120~250℃,1.1~.1MPa で 1~8 時間)すると,クロムおよび鉛はクロムイオンおよび鉛イオンとなって,新たに添加した CaO はカルシウムイオンとなって,そして汚染土壌に予め含まれる SiO2 成分および新たに添加した SiO2 成分はシリカイオンとなって土粒子 80の表面反応層 81 に移行して水熱反応が行われ,土粒子 80 の表面にトバモライト層状結晶層 82 が形成される。この層状結晶構造形成過程でクロムイオンおよび鉛イオンはカルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換してトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。【0049】廃棄物を前記のようにして高温高圧の蒸気を噴出しながら処理すると,大部分の重金属類は前記のようにトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるが,例えば,前記廃棄物中に陰イオンとして塩素イオン,珪酸イオン,炭酸イオン,硫酸イオン,燐酸イオンなどが存在している場合には,水蒸気に溶け込んだり,水に溶解することがある。【0050】そのために本発明は,密閉容器 12 内で廃棄物を高温高圧の蒸気を噴出しながら処理を行った後に,密閉容器 12 を冷却手段 70 により冷却して,閉鎖空間 S1 内の水蒸気を液化し,前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体とし,この液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とを分離回収する構成としている。【0090】これにより,廃棄物と同時にこの廃棄物中に含まれる細菌や悪臭成分等を含んだ状態の液体は,高温高圧の蒸気で処理させることができる。そして,処理後に分離回収される液体は,重金属類の水溶性化合物を含むが,悪臭・有害成分は分解等された状態で回収することができるので,分離回収した液体を二次処理する必要がなくなり,労力がかからず,時間短縮を図ることができる。しかし,重金属類の水溶性化合物を液体から分離する必要がある場合は二次処理する必要がある。【0091】…本実施形態に係る重金属類を含む廃棄物の処理装置の作用について,実施形態に係る液体回収方法とともに説明する。本実施形態では,処理対象の重金属類を含む廃棄物としては,例えば,病院,大学,その他の研究所等の医療関係機関から排出される血液,手術後の内臓,脱脂綿,紙おむつ,血液供給用チューブ,点滴容器,樹脂製注射器等の医療系廃棄物とする。【0092】なお,注射針等の金属類やガラス製のものは予め分別して取り除かれる。…【0093】噴出された蒸気により,密閉容器 12 内は例えば,250℃,2.1MPa 程度の高温高圧状態となる。【0094】…処理すると,廃棄物に予め含まれる Ca 成分や新たに添加した Ca成分と廃棄物に予め含まれる SiO2 成分や新たに添加した SiO2 成分が水熱反応して,安定なケイ酸カルシウム(5CaO・6SO2・5H2O トバモライト)と称される鉱物の層状構造を有する結晶が形成され,この層状結晶構造形成過程で,重金属類は層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。【0095】大部分の重金属類は前記のようにトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるが,前記廃棄物中に陰イオンが存在している場合には,水蒸気に溶け込んだり,水に溶解する。また,廃棄物に含まれる(あるいは付着している)病原体等は十分に滅菌されるとともに,悪臭成分等を分解しながら処理される。また,処理中では,廃棄物と同時に廃棄物に含まれる水分も高温高圧の蒸気で処理される。このような処理を所要時間,例えば,約 40 分間行なうと,廃棄物中の有機物は,例えば,0.3~0.8mm 程度の粒状に破砕された炭状態に処理される。【0097】処理された廃棄物は,例えば,液体が分離されており,有機物は炭となっており,重金属類が封じ込められたトバモライトおよび処理された土粒子などとなっており,運搬,管理等の際にも扱いやすい状態で回収することができる。【0103】重金属類を含む下水脱水汚泥の亜臨界水処理による重金属固化特性について試験した。…【0104】 30 検体についての原料下水脱水汚泥および液化した成分を含む液計体および前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む汚泥について,…肥料成分を含む一般有機成分と重金属類および微量化学物質の理化学分析を行った。【0115】全ての試料について,亜臨界水処理をすることにより,土壌環境基準はもとより,農用基準を下回り重金属に対し安全な有機肥料(堆肥を含む)とすることができることが判った。【0116】「亜臨界水処理技術」を下水汚泥に適用することにより,重金属を無害化レベルまで固化し溶出抑制が可能であることを示した。すなわち,農用の重金属含有基準を既往の最大濃度の下水汚泥でも満足させることができ,また短時間で安全な汚泥肥料化が直接行えることを実証的に示した。
(2) 前記(1)によれば,本願発明の概要は,以下のとおりである。ア 本願発明は,下水汚泥,医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等の重金属類を含む廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて処理し,固定化された重金属類を含む廃棄物と液体とを含む混合物を排出して両者を分離する,重金属類を含む廃棄物の処理方法に関する。【0001】( )本願発明の目的は,重金属類を含む廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて簡便に処理して,前記重金属類を固定化して溶出を抑制した廃棄物と液体を含む混合物を排出して,両者を分離して回収できる,重金属類を含む廃棄物の処理方法を提供することにある。【0012】( )イ 密閉容器 12 内に重金属類を含む廃棄物および十分な量の Ca 成分原料,SiO2成分原料を供給して高温高圧の蒸気を噴出しながら,亜臨界水反応あるいは水熱反応による処理(120~250℃,1.1~2.1MPa で 1~8 時間)を行うと,下記式(3)により安定なケイ酸カルシウム(トバモライト)の結晶が形成される。6SiO2+5CaO+5H2O → 5CaO・6SiO2・5H2O ・・・式(3)トバモライトの結晶は Si-O 四面体層,Ca-O 八面体層,Si-O 四面体層が繰り返され,Si-O 四面体層と Si-O 四面体層の間にカルシウムイオンがインターカレートされた層状に成長する構造になっており,この層状結晶構造形成過程で,重金属類は前記カルシウムイオンとイオン交換反応によりカルシウムイオンを置換して層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められる。重金属類はトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められ,そのために溶出が抑制される。【0036】~【0(】【0041】, )廃棄物を高温高圧の蒸気を噴出しながら処理すると,大部分の重金属類はトバモライトの層状結晶構造中に取り込まれて封じ込められるが,例えば,前記廃棄物中に陰イオンとして塩素イオン,珪酸イオン,炭酸イオン,硫酸イオン,燐酸イオンなどが存在している場合には,水蒸気に溶け込んだり,水に溶解することがある。本願発明は,密閉容器 12 内で廃棄物の処理を行った後に,密閉容器 12 を冷却して,閉鎖空間 S1 内の水蒸気を液化し,前記重金属類の水溶性化合物を含む処理された液体とし,この液体と前記重金属類が封じ込められたトバモライトを含む処理された廃棄物とを分離回収する。 【0049】【0050】( , )処理された廃棄物は,例えば,液体が分離されており,有機物は炭となっており,重金属類が封じ込められたトバモライトおよび処理された土粒子などとなっており,運搬,管理等の際にも扱いやすい状態で回収することができる。 【0097】( )
2 取消事由(進歩性判断の誤り)について(1) 引用発明についてア 引用例1には,おおむね,次の記載がある(下記記載中に引用する図表は,別紙引用例1図面目録参照。。)【0001】本発明は,医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理した廃棄物と液体とを分離した状態で取出せる有機系廃棄物の処理装置及び液体分離回収方法に関する。【0003】しかしながら,…廃棄物を蒸気で処理する場合には,容器中に存在する大量の蒸気の一部が液化されたり,或いは廃棄物に元々含まれている水分等が存在することにより,容器内には処理された固体物と液体とが混ざった状態で存在していた。このように液体が混在する状態では,該処理済みの廃棄物を取出した後の運搬や保管等が不便で扱いにくい。…特許文献1の処理方法では,高温高圧水蒸気で処理する反応器…とは別途に気液固分離器…を備えており,処理した後に,灰…や処理水…などを分離する必要があった。 (1)分離器等の装置が別途に必要であ…るから処理コストが高い,また,(2)処理工程が煩雑となり多くの労力が必要である…等の問題が生じていた。【0004】本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであり,その一つの目的は,一台の装置だけで,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処理できるとともに,該処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で分離して回収できる有機系廃棄物の処理装置を提供することにある。さらに,他の目的は,構造が簡単で,低コストで製造できる有機系廃棄物の処理装置を提供することにある。さらに,他の目的は,簡便に処理した廃棄物と液体を分離して回収できる液体回収方法を提供することにある。【0005】上記課題を解決するために本発明は,内部に有機系の廃棄物を収容する閉鎖空間 S1 を有する密閉容器 12 と,密閉容器 12 内に該廃棄物を炭化させうる程度の高温高圧の蒸気を噴出する蒸気噴出手段 14 と,密閉容器 12 の底側に設けられ開閉機構 26 を有する排出口 16 と,排出口 16 からの直接排出操作のみで処理された廃棄物と液体とを分離して回収する分離回収手段 18 と,を備えたことを特徴とする有機系廃棄物の処理装置 10 から構成される。…【0019】…一台の装置だけで,廃棄物を安全処理して,該処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で分離して回収できる。特に,液体と混ざった状態の扱いにくい廃棄物を外部に出す必要がなく,処理した密閉容器から直接に分離回収でき,作業を簡便に,スムーズに行える。また,装置全体が大型化せず,低コストで製造できる。また,液体と分離して回収した廃棄物は水分の少ない状態であり,取り扱いや搬送,管理等に便利であり,例えば,炭化された廃棄物を短期間で燃料や土壌改良材等に加工し得る。【0029】また,密閉容器内には,廃棄物を撹拌する撹拌手段を有する構成とすることにより,廃棄物をむらなく,早期に処理することができる。【0035】…本発明の有機系廃棄物の処理装置は,例えば,合成樹脂製の注射器,血液の付着したガーゼ,紙おむつ,手術した内臓等の医療関係機関等から廃棄された医療系廃棄物,生ごみ,プラスチック等の合成樹脂製容器等の一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物,食品加工廃棄物,農水産廃棄物,各種工業製品廃棄物,下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物を高温高圧の蒸気を介して処理する装置である。…【0040】本実施形態において,蒸気噴出手段 14 は,密閉容器 12 内に高温高圧の蒸気を噴出するとともに,該密閉容器 12 内を高温高圧状態とし,廃棄物を蒸気を介して処理させる。…蒸気噴出手段 14 から密閉容器 12 内に噴出される蒸気は,廃棄物 (主として固形状の成分)を炭化させる程度の高温高圧に設定される。本実施形態では,例えば,蒸気噴出管 28 から噴出される蒸気は,温度が 180~250℃,圧力が 15~35atm 程度に設定されている。そして,密閉容器 12 内を,温度 180~250℃,圧力 15~35atm 程度にするようになっている。…さらに,本実施形態では,蒸気噴出管 28 には,撹拌羽根 48 が取り付けられており,蒸気噴出管 28 が撹拌手段の回転軸 49 を兼用している。…【0041】撹拌手段 30 は,密閉容器内で処理される廃棄物を撹拌する手段であり,廃棄物をむらなく早期に処理できる。本実施形態では,撹拌手段 30 は…撹拌羽根 48 と,を含む。…撹拌羽根 48 は…右巻き螺旋羽根 48a と,左巻き螺旋羽根 48bと,で形成され…螺旋羽根 48a,48b は,廃棄物を中央部から両端壁側に向けて搬送しつつ,固形状の廃棄物を破砕しながら廃棄物を撹拌する。…【0042】本実施形態では,上記のように密閉容器内で高温高圧下で撹拌しながら,所要時間,例えば 30~60 分程度処理することにより,廃棄物が炭化される。なお,上記のような処理では,例えば廃棄物中に含まれる PCB の分解も期待できる。例えば,トランス油が混じった廃棄物等を処理した場合,PCB 濃度が処理前にはppm あったものが処理後には 0.005ppm 程度に減少したことが確認されている。密閉容器 12 内には,蒸気の一部が液化したり,廃棄物に含まれる水分等により液体が溜まり,処理されて炭化された廃棄物と液体とが混在した状態となる。【0049】…本実施形態では,処理対象の廃棄物としては,例えば,病院,大学,その他の研究所等の医療関係機関から排出される血液,手術後の内臓,脱脂綿,紙おむつ,血液供給用チューブ,点滴容器,樹脂製注射器等の医療系廃棄物とする。…【0052】本発明の有機系廃棄物の処理装置及び液体回収方法は,例えば,一般家庭,医療関係機関,工場,処理場等から廃棄されるプラスチック等の合成樹脂廃棄物,生ゴミ,下水汚泥等,その他種々の有機系廃棄物を処理する際に用いられる。イ 引用発明の認定以上によれば,引用例1には,本件審決が認定したとおりの引用発明(前記第2の3(2)ア)が記載されていることが認められ,この点については当事者間に争いがない。ウ 本願発明と引用発明との対比(ア) 本願発明と引用発明を対比すると,一致点及び相違点は,以下のとおりであると認められる。(一致点)開閉自在の排出口を有するとともに閉鎖空間を有する密閉容器の内部に,有機系廃棄物を収容させる工程と,/固形状の有機系廃棄物を粉砕しながら,撹拌混合する工程と,/密閉容器内に収容され,前記撹拌手段により粉砕,混合されつつある前記固形状の有機系廃棄物に,高温高圧の水蒸気を噴射して処理する,高温高圧の水蒸気を噴出する工程と,/処理された液体と処理された廃棄物とを分離回収する工程と/を備えた,有機系廃棄物の処理方法。(相違点1’)本願発明では「固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物」及び「前記有機系廃棄物の炭化処理中に少なくとも前記重金属類を 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造中に封じ込めるための 5CaO・6SiO2・H2O 結晶(トバモライト)が形成されるのに十分な量の Ca 成分原料および SiO2 成分原料」を処理するのに対して,引用発明では「有機系廃棄物」を処理する点。(相違点2’)本願発明では「固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物および Ca 成分原料および SiO2 成分原料」から生成された「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されるのに対して,引用発明では「有機系廃棄物」が炭化される点。(相違点3,4)本件審決が認定したとおり(前記第2の3(2)イ)。(イ) なお,本件審決は,引用発明の処理対象を「有機系廃棄物」と認定する一方で,本願発明との対比においては,周知技術(甲3~7)を参照して,「固形状の有機系廃棄物および重金属類を含むスラリー状または固形の有機系廃棄物」を一致点としているが,引用例1には,有機系廃棄物に重金属類を含むことを記載していない以上,この点は一致点となるものではない。以上については,当事者間に争いはなく,本件審決には,一致点の認定の誤り及びこれに伴う相違点1,2の認定の誤りがあるというべきである。もっとも,一致点・相違点の認定に誤りがあれば直ちに本件審決の結論に影響を及ぼすとはいえないから,以下,相違点1’,2’を前提に,本願発明を容易に想到できるか否かについて,さらに検討を加える。(2) 引用例2の記載についてア 引用例2には,以下の事項が記載されている。【0002】有害な重金属類が含有されている土壌や焼却灰は,雨水等の環境水と接触すると,重金属類の溶出が起こり,土壌や地下水,河川,海水等を汚染する。このため,セメント固化法,薬剤添加法,溶融固化法等によって処理して焼却飛灰中の重金属類を安定化させた後に埋め立て処分されている。【0005】 本発明はこのような事情に着目してなされたものであって,その目的は,重金属を含有する廃棄物にカルシウム化合物と水を混合し,あるいは更にシリカを混合して得られる混合物を水熱処理するに際し,水熱処理の際に発生する重金属を含有する排水を,排水処理設備を設けることなく,処理することができる廃棄物の処理方法および処理装置を提供しようとするものである。【0027】本発明に係る廃棄物の処理方法において,水熱処理工程は,重金属を含有する廃棄物にカルシウム化合物と水を混合し,あるいは更にシリカを混合して得られる混合物を水熱処理する工程である。…【0031】水熱処理工程では,水熱処理により,重金属含有廃棄物中のシリカ(SiO2)あるいは添加混合されたシリカとカルシウム化合物とを反応させ,トバモライトなどの結晶性カルシウムシリケート(ケイ酸カルシウム)を生成させる。この結晶性カルシウムシリケートによって重金属含有廃棄物中の重金属,および,重金属含有廃棄物に混合された排水(先行の水熱処理工程での水熱処理の際に発生した重金属含有排水)中の重金属は,内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる。【0034】…水熱処理条件としては,反応温度:130 ~300 ℃,反応時間:1~時間が適切である。反応温度が 130 ℃より低い場合,トバモライトの結晶成長が十分行われず,重金属の溶出の抑制効果を高水準にすることが難しくなる。反応温度が 300 ℃を越える場合,トバモライトの結晶成長が行われ,溶出抑制効果は期待できるが,処理費が高くなりすぎ,経済性の観点から好ましくない。【0037】 ここで,水熱処理容器に充填された混合物は,重金属を含有する廃棄物にカルシウム化合物と上水を混合し,あるいは更にシリカを混合したものであるとする。上記オートクレーブ内に水蒸気を入れた後,加熱すると,水熱処理容器に充填された混合物が水熱処理される。この水熱処理の際に結露した水蒸気がドレン水となり,このドレン水の一部が混合物に接触し,この混合物から重金属が溶出し,この結果,重金属含有排水(重金属を含有する排水)が発生し,この重金属含有排水は受器で受けられ,配管および減圧弁を介してオートクレーブ外に排出され,重金属含有排水用容器に入る。ドレン水の残部(混合物に接触しなかったドレン水)は上記とは別の配管および減圧弁を介してオートクレーブ外に排出され,上記とは別の容器(重金属非含有排水用容器)に入る。イ 上記アによれば,引用例2には,本件審決が認定したとおりの甲2技術(前記第2の3(3))が記載されていることが認められ,この点については当事者間に争いがない。
(3) 相違点2’の容易想到性についてア 動機付け(ア) 技術分野の関連性について引用発明は,「医療系廃棄物,家庭廃棄物,産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて処理し,処理後には,処理した廃棄物と液体とを分離した状態で取出せる…液体分離回収方法」に関するものである(甲 1【0001】。)他方,甲2技術は,「重金属を含有する土壌や焼却灰」のような「廃棄物」の「水熱処理」を行うものである(甲2【0004】【0005】 。, )そうすると,両者の技術分野はいずれも水熱反応を利用した廃棄物の処理に関するものであり,互いに関連するものといえる。(イ) 課題の共通性についてa 引用発明は,一台の装置だけで,廃棄物を高温高圧の蒸気を用いて安全に処理できるとともに,その処理に連続して処理された廃棄物と液体とを簡単な操作で分離して回収できるようにするとの課題を解決することを目的とするものであるが(甲1【0004】,引用例1には,処理の対象となる有機系廃棄物として,) 「合成樹脂製の注射器,血液の付着したガーゼ,紙おむつ,手術した内臓等の医療関係機関等から廃棄された医療系廃棄物,生ごみ,プラスチック等の合成樹脂製容器等の一般家庭から廃棄された家庭系廃棄物,食品加工廃棄物,農水産廃棄物,各種工業製品廃棄物,下水汚泥等の産業廃棄物等に含まれる有機系廃棄物」 甲1( 【0035】)が挙げられている。特開2006-55761号公報(甲3)には「有機廃棄物には,生物に有害な重金属類を含んでいることが多く重金属類を不溶化あるいは除去する必要がある。」(【0003】)との記載,特開2011-31180号公報(甲4)には「本発明によれば,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞尿,工場排水,汚泥,下水等に含まれる重金属,ダイオキシン,硝酸塩,及び農薬を効果的に分解し,無害化することができる。(」【0011】)との記載,特開2004-24969号公報(甲5)には「重金属は,これらの都市ゴミや産業廃棄物の中に混じっていることが多い。そのため,都市ゴミや産業廃棄物を焼却すると,燃焼排ガスに同伴して飛散する煤塵や焼却灰中に,都市ゴミや産業廃棄物中の揮発性金属化合物に由来する重金属,例えば,亜鉛,鉛,ニッケル,カドミウム,銅などの重金属,…が含まれている。このように,重金属の拡散による弊害が大きな社会問題として指摘されている…」(【0003】,)「従来,廃棄物の焼却時に発生する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するために加湿処理をおこなったり,セメントやアスファルトで固形化して埋め立てに用いるか又は海洋投棄するなどの方法が採られてきた。海洋投棄する場合には,セメントなどによって固定化するとともに,重金属が溶出しないように処理することが法律に定められているが,これらの方法によって煤塵や焼却灰からの有害金属の溶出を完全に抑制するには種々の問題がある。すなわち,上記の方法では,煤塵や焼却灰中に含まれる重金属は可溶態のままであるため,煤塵や焼却灰を固形化しても重金属が経時的に溶出し,二次公害が発生する恐れが残っている。…」【0004】( )との記載,特開2006-167509号公報(甲6)には「この発明は食品加工工程で廃棄される魚介類残渣,鶏糞・豚糞,牛糞などの家畜の糞尿,野菜屑などの農産廃棄物,更には生ゴミなどの動植物性食品残渣といった有機系廃棄物の処理システムに関する」【0001】,( )「…魚介類残渣にはカドミウム,水銀,砒素当の重金属類が少なからず含まれており,これが発酵後の堆肥に含まれていると,事実上農作物に使用することができなくなってしまう。…」【0005】( )との記載,特開20-155179号公報(甲7)には「…工場汚泥,工事汚泥,又は下水汚泥,生活排水汚泥等の汚泥,並びに家畜糞尿等の汚水を含む被処理物…の熱処理方法であって,…被処理物中の有機物の炭化及び/又は熱分解を介して,該被処理物中の重金属等の異物を分離貯留するとともに,…ことを特徴とした環境に優しい被処理物の熱処理方法。(」【請求項1】)との記載がある。これらの記載によれば,産業廃棄物に限らず,土壌,肥料,水,焼却灰,家畜の糞尿,工場排水,工場や工事の汚泥,下水や生活排水汚泥,都市ゴミ,魚介類残渣等の種々の廃棄物が有機系廃棄物とともに重金属を含んでいること,廃棄物に含まれる重金属を放置すると,堆肥等として使用することもできなくなるばかりか,その拡散による弊害が大きな社会問題として指摘されていること,廃棄物の焼却時に発生する煤塵や焼却灰の処分には,飛散を防止するため,加湿処理,固形化,あるいは海洋投棄が行われてきたが,海洋投棄する場合には,セメントなどによって固定化するとともに,重金属が溶出しないように処理することが法律に定められていることは,本願出願時において周知の事項であったものと認められる。そうすると,引用発明において処理の対象となる「有機系廃棄物」にも,重金属が含まれ得ること,及びその溶出を防止することは,引用発明が属する技術分野において,当業者が当然に考慮すべき課題であると認められ,処理後の廃棄物と液体との分離に焦点を当てた引用例1にそのことが明示的に記載されていなくても,引用発明の自明の課題として内在しているものというべきである。b 他方,甲2技術は,金属を含有する廃棄物の水熱処理の際に発生する重金属を含有する排水を,排水処理設備を設けることなく,処理することができる廃棄物の処理方法および処理装置を提供することを目的とするものであり(【0005】,)シリカとカルシウム化合物とを反応させ,トバモライトなどの結晶性カルシウムシリケートを発生させることによって, 重金属は,「 内部に閉じこめられ(固定化され),外部への溶出が抑制されるようになる」【0031】( )というものであるから,水熱処理後の重金属含有排水からの重金属の溶出を防止することを課題とするものである。c そうすると,引用発明と甲2技術とは,廃棄物中の重金属の溶出を防止するという点で,解決すべき課題が共通するものといえる。(ウ) 作用・機能の共通性について引用発明は,閉鎖空間を有する密閉容器内に有機系の廃棄物を収容して,固形状の有機系廃棄物を破砕しつつ撹拌し,高温高圧の蒸気を噴出して炭化させるものであるところ,水熱処理の条件として,「温度180~250℃,圧力15~35atm程度(判決注:1.5~3.5MPa)(」【0040】)との開示がある。一方,甲2技術は,水熱処理によりトバモライトなどの結晶性カルシウムシリケートを形成させるものであるところ,水熱処理の条件として,「130~300℃程度での飽和蒸気(判決注:同温度での飽和蒸気圧を計算すると0.28~9.41MPa)(」【0034】)との開示がある。そうすると,引用発明では有機物が炭化されるのに対し,甲2技術では,トバモライト結晶が形成されるのであって,水熱反応によって起こる現象が異なるから,引用発明に甲2技術を組み合わせる動機となるような,作用・機能の共通性は認められない。もっとも,水熱処理における温度・圧力の条件自体は重複している以上,組合せを阻害する要因となるものでもないと解される。(エ) 以上によれば,引用発明と甲2技術とは,廃棄物の水熱処理という技術分野において関連性があり,廃棄物から重金属の溶出を防止するという課題が共通しているということができる。イ 引用発明への甲2技術の適用しかしながら,仮に引用発明に甲2技術を適用しても,甲2には,前記有機系廃棄物の固形物上にトバモライト構造が層として形成されることの記載はないから,相違点2’に係る「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されるとの構成には至らない。この点につき,本件審決は,引用発明に甲2技術が適用されれば,「前記重金属類が閉じ込められた 5CaO・6SiO2・5H2O 結晶(トバモライト)構造」が「前記有機系廃棄物の固形物上に」いくらかでも「層」として「形成」されて,重金属の溶出抑制を図ることができるものになる旨判断し,被告は,生成した造粒物の表面全体をトバモライト結晶層で覆うことになるのは当業者が十分に予測し得ると主張する。しかしながら,特開2002-320952号公報(甲8)にトバモライト生成によって汚染土壌の表面を被覆することの開示があるとしても(【0028】,図1。図1は別紙甲8図面目録のとおり。,) かかる記載のみをもって,トバモライト構造が「前記有機系廃棄物の固形物上に」「層」として「形成」されることが周知技術であったとは認められず,被告の主張を裏付ける証拠はないから,引用発明1に甲2技術を適用して相違点2’に係る本願発明の構成に至るということはできない。ウ 小括以上によれば,引用発明に甲2技術を適用することによって相違点2’に係る構成を想到するに至らないのであるから,本件審決の理由によって,本願発明は引用発明及び甲2技術に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
3 結論よって,本件審決にはこれを取り消すべき違法があるから,原告の請求は理由があり,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 関 根 澄 子
別紙 本件明細書図面目録
【図1】【図5】
別紙 引用例1図面目録
【図1】
別紙 甲8図面目録
【図1】
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