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平成30(行ケ)10161審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和1年10月2日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官河本充雄
原告パラマウントベッド株式会社
対象物 ベッド操作装置及びプログラム
法令 特許権
特許法29条1項3号1回
キーワード 審決22回
実施11回
新規性4回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は,平成25年4月12日,発明の名称を「ベッド操作装置及びプログ ラム」とする特許の出願をした(特願2013-084215。甲1)。 ⑵ 原告は,平成29年5月22日付けで拒絶査定を受けたことから(甲8),同 年8月30日,これに対する不服審判の請求をし(甲9),特許庁は,上記請求を不 服2017-12815号事件として審理した。

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判決文

令和元年10月2日判決言渡
平成30年(行ケ)第10161号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年8月21日
判 決
原 告 パラマウントベッド株式会社
同訴訟代理人弁護士 藤 本 英 介
同訴訟代理人弁理士 馬 場 信 幸
神 田 正 義
宮 尾 明 茂
堀 口 浩
石 川 隆 史
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 氏 原 康 宏
河 本 充 雄
岡 﨑 潤
半 田 正 人
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2017-12815号事件について平成30年9月26日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は,平成25年4月12日,発明の名称を「ベッド操作装置及びプログ
ラム」とする特許の出願をした(特願2013-084215。甲1)。
⑵ 原告は,平成29年5月22日付けで拒絶査定を受けたことから(甲8),同
年8月30日,これに対する不服審判の請求をし(甲9),特許庁は,上記請求を不
服2017-12815号事件として審理した。
⑶ 特許庁は,平成30年9月26日,本件審判請求は成り立たないとする別紙
審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年1
0月9日,原告に送達された。
⑷ 原告は,同年11月6日,本件審決の取消しを求める本件訴えを提起した。
2 特許請求の範囲の記載
本件審決が対象とした特許請求の範囲の請求項1(平成28年11月7日付け手
続補正書による補正後のもの)の記載は,以下のとおりである(以下,上記請求項1
に記載された発明を「本願発明」といい,この出願に係る明細書(甲1,4)を,図
面を含めて「本願明細書」という。。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所を示す

(以下同じ)。
【請求項1】
背上げ動作,足上げ動作,昇降動作といった少なくとも何れか一つのベッド動作
を,駆動装置を制御することにより実行させるベッド装置に接続されるベッド操作
装置において,/前記ベッド操作装置は,通電されると待機状態となり,/操作入
力を行う為の複数の操作入力手段と,/前記操作入力手段が選択されている状態を
検出する選択状態検出手段と,/前記選択状態検出手段により選択された状態が解
除されたことを検出する選択解除検出手段と,/前記選択解除検出手段により選択
された状態が解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前記待機状
態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段と,/前記ベッド操作装置が操作可能
状態のときに,前記操作入力手段による操作入力に基づいて,前記駆動装置を制御
することにより,ベッド動作の制御を行うベッド動作制御手段と,/を備えること
を特徴とするベッド操作装置。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,本願
発明は,特開2002-99303号公報(甲12。以下「引用例」という。)に記
載された発明(以下「引用発明」という。)であるから,特許法29条1項3号に該
当し,特許を受けることができない,というものである。
⑵ 本件審決は,引用発明等を以下のとおり認定した(引用発明に係る装置の各
部位を特定するために付された番号は,別紙1「引用例図面目録」の図2の記載に
対応している。。

ア 引用発明
中央部で屈曲可能なベッド本体2と,このベッド本体2の下部に設けられた足部
3内に配置され,ベッド本体2の昇降動作,あるいは,ベッド本体2の上半身部の
昇降動作させるアクチュエータ4と,このアクチュエータ4にケーブル5によって
接続され,アクチュエータ4の動作を操作,制御するリモコン6等で構成されてい
る介護用ベッド1のリモコン6において,/電源を投入した後に,リモコン6の任
意のキー6aが押されたか確認し(STEP1),/リモコン6のキー6aが押され
た時は,その後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認し(STEP2),/キ
ー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放されるまで待機し,/リモコ
ン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押したときに,アクチュエー
タ4を起動する(STEP3),/リモコン6。
イ 本願発明と引用発明との対比
(ア) 引用発明の「中央部で屈曲可能なベッド本体2と,このベッド本体2の下部
に設けられた足部3内に配置され,ベッド本体2の昇降動作,あるいは,ベッド本
体2の上半身部の昇降動作させるアクチュエータ4と,このアクチュエータ4にケ
ーブル5によって接続され,アクチュエータ4の動作を操作,制御するリモコン6
等で構成されている介護用ベッド1のリモコン6」は,本願発明の「背上げ動作,足
上げ動作,昇降動作といった少なくとも何れか一つのベッド動作を,駆動装置を制
御することにより実行させるベッド装置に接続されるベッド操作装置」に相当する。
(イ) 引用発明の「STEP1」の「リモコン6の任意のキー6a」は,本願発明
の「操作入力を行う為の複数の操作入力手段」に相当する。
(ウ) 引用発明の「STEP1」の「リモコン6の任意のキー6aが押された」状
態は,本願発明の「前記操作入力手段が選択されている状態」に相当し,
「リモコン
6の任意のキー6aが押されたか確認」することは,本願発明の「前記操作入力手
段が選択されている状態を検出する」ことに相当するから,引用発明の当該「押さ
れたか確認」する構成は,本願発明の「選択状態検出手段」に相当する。
(エ) 引用発明の「STEP2」の「リモコン6のキー6aが押された時は,その
後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認」することは,本願発明の「前記選択
状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する」ことに相当し,
引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は,本願発明の「選択解除検出手段」
に相当する。
(オ) 引用発明の「リモコン6」が,
「電源を投入した後」,STEP1及び2を経
て,「リモコン6のキー6aが解放され」るまでの間は,「アクチュエータ4を起動
する」ことができない状態であることは,本願発明の「ベッド操作装置は,通電され
ると待機状態とな」ることに相当する。
(カ) 引用発明の「リモコン6」は,「リモコン6のキー6aが解放され」たとき
に,
「リモコン6」を待機状態から操作可能状態に遷移させているといえ,引用発明
の「リモコン6のキー6aが解放され」たときは,本願発明の「前記選択解除検出手
段により選択された状態が解除されたことを検出したとき」に相当するから,引用
発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときに,
「リモコン6」を待機状態か
ら操作可能状態に遷移させる構成は,本願発明の「前記選択解除検出手段により選
択された状態が解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前記待機
状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段」に相当する。
(キ) 引用発明の「リモコン6」が操作可能状態のときに,「さらに任意のキー6
aを押」して,
「アクチュエータ4を起動する」ことで,ベッド動作の制御を行う構
成は,本願発明の「前記ベッド操作装置が操作可能状態のときに,前記操作入力手
段による操作入力に基づいて,前記駆動装置を制御することにより,ベッド動作の
制御を行うベッド動作制御手段」に相当する。
(ク) したがって,本願発明と引用発明との間に相違点は存在しない。
4 取消事由
新規性に関する判断の誤り
第3 当事者の主張
〔原告の主張〕
1 引用発明の認定の誤りについて
本件審決の引用発明の認定は,引用文献の発明をひとまとまりの技術的思想とし
て把握せず,一部の記載のみから根拠なく引用発明を認定し,また,開示されてい
ない発明を認定する点において,以下の誤りがある。
⑴ 引用例から「電源を投入した後に,リモコン6の任意のキー6aが押された
かを確認する。(STEP1)」を認定することはできないこと
引用発明が解決すべき課題(【0007】)は,
「リモコンのキー上に物が誤って置
かれ,ボタンが押された状態になった場合,このときに電源が投入され」たときの
安全性の確保にあり,引用例の発明の把握はこの課題に沿ってすべきである。被告
は,引用発明の課題はより広範なものであり,上記の場合はその例示にすぎないと
主張するが,そのような広範な課題は引用例に開示されていない。
そうすると,引用発明のSTEP1(【0011】)について,
「電源を投入する際
に」の部分を考慮せず,別紙1「引用例図面目録」の図1のみから,電源を投入した
後にリモコンの任意のキーが押されたか確認すると抽出することは相当でない。
よって,引用例から「電源を投入した後に,リモコン6の任意のキー6aが押さ
れたかを確認する。(STEP1)」を認定することはできない。
⑵ 「リモコン6のキー6aが解放されてもアクチェータ4は起動せずに,さら
に任意のキー6aを押したときに,アクチェータ4が起動する」ことを前提として
認定したこと
引用例の【0002】ないし【0006】には,リモコンの任意のキーが押された
状態ではアクチュエータを作動させず,キーを解放した時にアクチュエータを起動
させるという技術的思想が記載されている。
このような技術的思想を踏まえると,同別紙の図1のSTEP3の記載は,
「一旦
アクチュエータが起動した後に,さらにキー6aを押すことによりアクチュエータ
を起動する」という動作を説明し,
【0013】の「キー6aが解放されず押し続け
られている場合は,解放されるまで待機する」との記載は,電源を投入した際にリ
モコン6のキー6aが押されている場合であっても,一度キー6aが解放されれば,
アクチュエータ4が起動することを意味し,
【0013】の「任意のキー6aを押し
たときに,アクチュエータ4を起動する。」は,動作の説明として,一度キー6aが
解放された後に,リモコン6のキー6aを再度押せばアクチュエータ4を再度起動
させることができる旨を述べているにすぎない。
よって,本件審決が「リモコン6のキー6aが解放されてもアクチェータ4は起
動せずに,さらに任意のキー6aを押したときに,アクチェータ4が起動する」こ
とを前提として認定したことは誤りである。
2 本願発明と引用発明との対比判断の誤りについて
⑴ 引用発明の「押されたか確認」する構成は本願発明の「選択状態検出手段」に
該当しないこと(前記第2の3⑵イ(ウ))
引用例の【0002】は,同別紙の図3がアクチュエータの制御方法であると説
明しており,図3に示されるSTEP1~STEP3の動作の主体はアクチュエー
タであるから,STEP1の「リモコン6の任意のキー6aが押されているか,あ
るいは押されたか確認する」のはアクチュエータである。そうだとすると,引用発
明が「押されたか確認」するための構成を有しているとしても,その構成がリモコ
ン6にあるのかどうかは明らかでない。
これに対し,本願発明では,ベッド操作装置が「選択状態検出手段」を有している
から,本願発明の「選択状態検出手段」と引用発明の「押されたか確認」
(STEP
1)する手段とは異なる。
よって,引用発明の「押されたか確認」する構成は本願発明の「選択状態検出手
段」に該当しない。
⑵ 引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選択解除検出
手段」に該当しないこと(前記第2の3⑵イ(エ))
前記⑴と同様に,STEP2において「リモコン6のキー6aが押された時は,
その後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認」する動作の主体はアクチュエ
ータであるから,引用発明が「解放されたか確認」するための構成を有していると
しても,その構成がリモコン6にあるのかどうかは明らかでない。
これに対し,本願発明では,ベッド操作装置が「選択解除検出手段」を有している
から,本願発明の「選択解除検出手段」と引用発明の「解放されたか確認」
(STE
P2)する手段とは異なる。
よって,引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選択解除検
出手段」に該当しない。
⑶ 引用例には本願発明の「待機状態」の開示がないこと(前記第2の3⑵イ(オ))
引用発明の技術的思想に鑑みれば,STEP3の「さらに任意のキー6aを押し
たときに,アクチュエータ4を起動する」という記載は,あくまでアクチュエータ
4が再度起動することを意味し,引用発明では,一度任意のキー6aが押され解放
されると,アクチュエータ4が起動するから,引用発明の任意のキー6aを押して
解放する操作は,アクチュエータ4が起動するための操作に該当し,本願発明の「待
機状態」には相当しない。
これに対し,本願発明の「待機状態」は,ベッド操作装置の操作入力手段の操作入
力があっても,ベッド動作が制限されている状態を示しているが,引用発明の同別
紙の図1のSTEP1のNoを経るループは,単にリモコン6のいずれのキー6a
も押されていない,いわゆるスタンバイの状態を示すにすぎず,本願発明の「待機
状態」に相当しない。同様に,その押された任意の「キー6a」が「解放されず押し
続けられている場合は,解放されるまで待機し」している間(同別紙の図1のST
EP2のNoを経るループ)も,キー6aが解放されるとアクチュエータ4が起動
するから,本願発明の「待機状態」には相当しない。
よって,引用例には本願発明の「待機状態」の開示がない。
⑷ 引用例から本願発明の「遷移手段」を認定できないこと(前記第2の3⑵イ
(カ))
引用例の【0013】の「さらに任意のキー6aを押したときに,アクチュエータ
4を起動する」というのは,アクチュエータ4が再度起動すること,つまり,引用例
は,電源投入時から任意のキー6aを押せばベッド動作をすることを開示している
にすぎず,電源投入時から常に操作可能状態であったといえる。したがって,
「待機
状態」の開示がない以上,
「待機状態」から「操作可能状態」に『遷移』することも
観念できず,
『遷移』を実行するための構成の開示もないから,引用例から本願発明
の「遷移手段」に相当する構成を認定することはできない。
また,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放された」におけるときに,
「リモ
コン6」を待機状態から操作可能状態に遷移させることは,かかるキー6aの解放
は,操作可能状態での操作入力の一部にすぎないから,本願発明に係るベッド操作
装置を「待機状態」から「操作可能状態」に遷移することに相当しない。
仮に,引用例に,リモコンのボタンが押されている状態で電源が投入された場合
について開示があったとしても,リモコンのボタンが押されていない状態で電源が
投入された場合について本願発明の待機状態の開示があるとはいえない。
かかる観点からも,待機状態の開示がない以上,本願発明に係るベッド操作装置
を「待機状態」から「操作可能状態」に遷移することも観念できない。
よって,引用例から本願発明の「遷移手段」を認定することはできない。
〔被告の主張〕
1 引用発明の認定の誤りをいう原告の主張について
⑴ 引用例から「電源を投入した後に,リモコン6の任意のキー6aが押された
かを確認する。(STEP1)」を認定することはできないとの主張について
【0007】から把握される引用例の課題は,従来のアクチュエータの制御方法
において,電源投入の前後にわたってリモコンのキーが押されている,あるいは電
源投入後にリモコンのキーが押された際に,ベッド等,アクチュエータによって稼
働されている装置に人や物が挟まれる等の危険性が生じることである。原告のいう
「リモコンのキー上に物が誤って置かれ,ボタンが押された状態になった場合」と
は,文頭に「例えば」の記載があることから明らかなように,一例として記載されて
いるにすぎない。また,STEP1に係る【0011】の記載をみれば,そもそもキ
ー6aが押されているか,あるいは押されたかの確認がリモコン6で行われている
以上,その確認は,リモコンの電源を投入した後でなければできず,そうすると,
「電源を投入する際に」の解釈として「電源を投入した後」も含まれることは,明ら
かである。
⑵ 「リモコン6のキー6aが解放されてもアクチェータ4は起動せずに,さら
に任意のキー6aを押したときに,アクチェータ4が起動する」ことを前提として
認定したとの主張について
STEP3に係る【0013】には,アクチュエータ4を起動する場面として,①
リモコン6のキー6aが解放されたときと,②リモコン6のキー6aが解放され,
さらに任意のキー6aを押したときとが,選択的に記載されている。
原告の主張するように, キー6aが解放され」 「任意のキー6aを押したとき」
「 と
の間にアクチュエータ4が起動するのだとすると,【0013】の「(STEP3)」
の記載は,
「キー6aが解放され,」に続いて記載されるべきである。ところが,
「任
意のキー6aを押したときに,アクチュエータ4を起動する。」に続いて記載されて
いることからすると,このアクチュエータ4の起動とは,電源投入後最初のアクチ
ュエータの起動であると解するのが自然である。
⑶ よって,原告の主張は,いずれも理由がない。
2 本願発明と引用発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
⑴ 引用発明の「押されたか確認」する構成は本願発明の「選択状態検出手段」に
該当しない,及び,引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選
択解除検出手段」に該当しないとの各主張について
アクチュエータ4の動作を操作,制御するのはリモコン6である。
原告の上記各主張は,これとは異なり,STEP1のリモコン6の任意のキー6
aが押されているか,あるいは押されたか確認するのはアクチュエータであるとの
理解を前提としているから,いずれも理由がない。
⑵ 引用例には本願発明の「待機状態」の開示がないとの主張について
「任意のキー6aを押したときにアクチェータ4を起動する」というときのアク
チェータ4の起動が,電源投入後最初のアクチェータの起動に相当すると理解する
ことが自然である。引用発明においては,電源投入,すなわち,通電された後キー6
aが解放されるまでの間は,アクチェータ4を起動できない,すなわち,操作でき
る状態になっているとはいえず,このとき,リモコン6は実質的に待機状態にある。
⑶ 引用例から本願発明の「遷移手段」を認定できないとの主張について
上記⑵で述べたとおり,引用例には実質的に「待機状態」が開示されている。
引用発明においては,STEP1~2を経て,キー6aが解放された後に,任意
のキー6aを押せば,アクチェータ4を起動することができる状態,すなわち,ベ
ッドの操作が可能な状態になるものであるから,キー6aの解放の前後で「待機状
態」から「操作可能状態」に遷移しているということができる。
⑷ よって,原告の主張は,いずれも理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本願発明について
⑴ 本願明細書の記載事項(甲1,4)
ア 技術分野
背上げ動作,足上げ動作,昇降動作といったベッド動作を,駆動装置を制御する
ことにより実行させる,ベッド装置に接続される,ベッド操作装置等に関する(【0
001】。

イ 背景技術
患者や介護者等の利用者が利用するベッドには,病院等において治療の目的に用
いる病院用ベッドと,介護施設や自宅等において介護の目的に用いる介護用ベッド
とがある(【0002】。

介護用ベッドのベッド装置については,利用者の移乗がしやすいように低い位置
にし,利用者の介護等がしやすいように高い位置にするなど,高さを変えられる技
術が知られている(例えば,特開2009-207642号公報)【0004】。
( )
介護用ベッドの操作は,利用者自身又は介護者によってされるが,いずれも操作
に不慣れな場合があり,不用意な誤操作を予防するために,手元スイッチに電源ボ
タンを搭載するベッド装置が知られており,例えば,電源ボタンを操作することに
より,待機状態のときは,操作入力手段である操作ボタンによる操作が禁止される
装置がある(例えば,文献「楽匠Sシリーズカタログ」p.14。パラマウントベッ
ド株式会社)【0005】。
( )
ウ 発明が解決しようとする課題
利用者は,安全のために一度電源ボタンを操作しなければならないが,その都度
電源ボタンの位置を探し,電源ボタンを操作してから,他の動作ボタンを操作する
ことを強いるという問題があった。特に,可動域が制限される利用者にとって,操
作が加わることは,大きな負担となる(【0008】。

本願発明の目的は,ベッドを操作するベッド操作装置において,操作入力手段で
ある操作ボタンの操作のみで,ベッド装置の状態を操作できる,安全性に優れ,か
つ,利便性の高いベッド操作装置等を提供することである(【0009】。

エ 課題を解決するための手段
本願発明のベッド操作装置は,/背上げ動作,足上げ動作,昇降動作といった少
なくとも何れか一つのベッド動作を,駆動装置を制御することにより実行させるベ
ッド装置に接続されるベッド操作装置において,/前記ベッド操作装置は,通電さ
れると待機状態となり,/操作入力を行う為の複数の操作入力手段と,/前記操作
入力手段が選択されている状態を検出する選択状態検出手段と,/前記選択状態検
出手段により選択された状態が解除されたことを検出する選択解除検出手段と,/
前記選択解除検出手段により選択された状態が解除されたことを検出したときに,
前記ベッド操作装置を待機状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段と,/前
記ベッド操作装置が操作可能状態のときに,前記操作入力手段による操作入力に基
づいて,前記駆動装置を制御することにより,ベッド動作の制御を行うベッド動作
制御手段と,/を備えることを特徴とする(【0010】。

オ 発明の効果
操作入力に基づいて,駆動装置を制御することにより,ベッド動作の制御を行う
ベッド動作制御手段と,操作入力手段が選択されている状態を検出する選択状態検
出手段と,選択状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する選
択解除検出手段と,を備えたベッド装置において,ベッド動作制御手段は,前記一
の操作入力手段が選択され,選択された状態が解除された後に,前記操作入力手段
の操作入力に基づいたベッド動作の機能を実行させることとなる。
したがって,操作入力手段の何れを選択したとしても動作が可能な利便性の高い
ベッド装置を提供可能であり,かつ,選択された状態が解除された後にベッドの動
作の機能を実行させることとなるため,安全性の高いベッド装置を提供可能とする
(【0012】。

カ 発明を実施するための形態
(ア) 全体概要
本願発明に係るベッド装置の全体は,別紙2「本願明細書図面目録」の図1のと
おりであり,ベッド装置1においては,ベッド装置本体3にベッド操作装置5が接
続されている。なお,本実施形態において,ベッド操作装置5はベッド装置本体3
に設けられたコントロールユニット(非図示)に有線で接続されているが,無線で
接続されていてもよい(【0015】。

ベッド装置本体3においてボトムが搭載されるフレームの全体は,同別紙の図2
のとおりであり,ベッド装置は,主に,頭側及び足側に端部が向く長手方向が短手
方向(幅方向)よりも長い概略ラダー状構造の上部フレーム10と,上部フレーム
10上に載置されるボトムと,この上部フレーム10の頭側及び足側の下部にそれ
ぞれ設けられた,フロア面上に対して前記上部フレームを昇降可能に支持する昇降
部14(頭側昇降部14H及び足側昇降部14F)とを備えている(【0016】,
【0018】。

昇降部14H及び14Fにはそれぞれ駆動装置(例えば,アクチュエータ)が設
けられ,各アクチュエータの駆動力が別々に制御する構成である。各アクチュエー
タの駆動制御によって,上部レームが頭側及び足側同士の上下位置に差がつく傾動
動作をさせることができる(【0021】。

(イ) 機能構成
ベッド装置の機能構成の概略は,同別紙の図3のとおりであり,ベッド装置は,
制御部100に,駆動制御部200と,状態検出部300と,記憶部400と,操作
表示部500とがそれぞれ接続されている(【0022】【0023】。
, )
制御部100は,ベッド装置の全体を制御するための機能部であり,記憶部40
0に記憶されている各種プログラムを読み出して実行することにより各種機能を実
現し,例えばCPU等により構成されている(【0024】。

駆動制御部200は,ベッド装置に設けられた駆動部(駆動装置。本実施形態の
場合はアクチュエータ)を制御するための機能部であり,例えばコントロールユニ
ット等としてベッド装置に設けられている(【0025】。

駆動制御部200は,同別紙の図4記載のとおり,ボトムを動作させることによ
り,背上げ,膝上げ(足下げ)機能等を制御するためのボトム制御部210と,ベッ
ド装置の高さを制御する高さ制御部220との機能が実現される(【0026】。

ボトム制御部210には,背上げ機能を実現するために,背ボトム駆動部212
と膝ボトム駆動部214とが接続されている。
背ボトム駆動部212は,同別紙の図2におけるアクチュエータ36であり,リ
ンク機構を介して背上げ用のリンク20と連結されており,背ボトム駆動部212
の制御により,リンク20により載置された背ボトム42が動作し,背上げ・背下
げ制御が行われる(【0027】。

膝ボトム駆動部214は,同別紙の図2におけるアクチュエータ38であり,リ
ンク機構を介して膝上げ用のリンク22と連結されており,膝ボトム駆動部214
の制御により,リンク22に載置された膝ボトム46と,更に連結された足ボトム
48とが動作し,膝上げ・膝下げ(足下げ・足上げ)制御が行われる(【0028】。

利用者Pは,背ボトム42により上体が支持され,腰ボトム44により,腰部が
支持される(【0029】。

高さ制御部220は,ベッドの高さを制御し,頭側駆動部222と足側駆動部2
24とが接続されている。頭側駆動部222は,同別紙の図2におけるアクチュエ
ータ32であり,昇降部14Hの昇降機能を実現する。足側駆動部224は,図2
におけるアクチュエータ34であり,昇降部14Fの昇降機能を実現する(【003
0】。

状態検出部300は,ベッド装置全体の状態を検出するための機能部であり,ベ
ッド装置の状態(背上げが行われているか否か等),現在のベッド装置の高さ,利用
者が現在ベッド装置上に居るか否か等を検出することができる(【0032】。

なお,各種状態の検出を状態検出部300が行うこととして説明しているが,制
御部100がすべてを行ってもよい(【0035】。

記憶部400は,ベッド装置の動作に必要な各種プログラムや,各種データが記
憶されている機能部であり,半導体メモリや,HDD等により構成されている(【0
036】。

操作表示部500は,ベッド装置1(ベッド装置本体3)に対して操作入力を行
う機能部であり,背上げ・膝上げ(足上げ)の機能やボトムの高さを調整する機能が
実現される。また,現在のベッド装置本体3の状態として,背上げ角度や,ベッドの
高さ,現在の動作モード等が表示される。操作表示部500は,同別紙の図1にお
けるベッド操作装置5である(【0037】。

ベッド操作装置5(操作表示部500)は,同別紙の図5のとおり,表示部510
と,操作入力手段である操作ボタン520とを含んで構成されている 【0038】。
( )
表示部510は,現在の動作状況,ベッドの状態等各種情報が表示され,液晶パ
ネル,有機ELパネル等により構成されている(【0039】。

操作ボタン520は,ベッド装置本体3に対して各種動作を操作指示するための
機能部(操作入力手段)である(【0040】。

利用者は,背上げ動作を行いたい場合には,ボタン522を選択(押圧)し,背下
げ動作を行いたい場合には,ボタン524を選択(押圧)する(【0041】。

更に,本実施形態においては,電源ランプ530が設けられている。電源ランプ
530が点灯している場合には,電源が投入されている状態,すなわちボタン52
2を選択することによりベッド装置の操作ができる状態となっている 【0042】。
( )
この電源が投入される状態とは,通電され,ベッド装置本体を動作させることが
できる状態である。なお,これにより「ベッドが操作できる状態」と「ベッドが操作
できない状態」との制御ができればよい。すなわち,電源の投入だけに限らず,操作
ロック等により,各種動作の制限を実現してもよい(【0043】。

(ウ) 処理の流れ
本実施形態における処理は,同別紙の図6のとおりである(【0044】。

まず,電源は,待機状態となっている(ステップS102)。
待機状態とは,例えば,電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる
ようになっていない状態をいい,利用者によりベッド動作の制限が行われている状
態である(【0045】。

続いて,ボタンが選択されたか否かを検出する(ステップS104)。
具体的には,ボタン522のいずれかが選択されたことを検出する 【0046】。
( )
続いて,ボタンの選択状態が解除されたことを検出したときに(ステップS10
6;Yes),電源がON状態となる(ステップS108)。
すなわち,ボタン522が選択され,そのボタン522の選択が解除されたタイ
ミングで電源がON状態(すなわち,操作可能状態)となる。このときに電源ランプ
530が点灯することにより,又は表示部510の表示を行うことにより,電源が
ONになったことを利用者に報知する(【0047】。

続いて,この状態からボタンが選択されたことを検出すると,選択されたボタン
に対応した動作が実行される(ステップS110;Yes→ステップS112)
(【0
048】。

ボタンが選択されていない状態(ステップS110;No)又は動作が終了した
状態で,所定時間が経過したか否かを判定する(ステップS114)
(【0049】。

ここで所定時間が経過していない場合には,再度ステップS110から処理を繰
り返し実行し,所定時間が経過した場合には,電源を待機状態に遷移させる(ステ
ップS114;Yes→ステップS102)【0050】。
( )
⑵ 本願発明の特徴
上記⑴の本願明細書の記載によれば,本願発明の特徴は次のとおり認められる。
ア 病院等において治療の目的に用いる病院用ベッドと,介護施設や自宅等にお
いて介護の目的に用いる介護用ベッドのうち,特に介護用ベッドでは,利用者・介
護者ともに操作に不慣れな場合がある。不用意な誤操作を予防するため,手元スイ
ッチに電源ボタンを搭載するベッド装置が知られ,そのようなベッド装置では,電
源ボタンを操作することにより,待機状態の場合における操作をロック(禁止)し,
操作入力手段(操作ボタン)による操作が禁止される(【0002】【0005】。
, )
イ しかし,安全性のため,利用者は一度電源ボタンを操作しなければならず,
その都度電源ボタンの位置を探し,電源ボタンを操作してから,他の動作ボタンを
操作させることは,特に,可動域が制限される利用者にとって,大きな負担となる
場合があった(【0008】。

本願発明の目的は,ベッドを操作するベッド操作装置において,操作入力手段で
ある操作ボタンの操作のみで,ベッド装置の状態を操作できる,安全性に優れ,か
つ,利便性の高いベッド操作装置等を提供することである(【0009】。

本願発明のベッド操作装置は,①通電されると待機状態となり,②操作入力を行
う為の複数の操作入力手段,②前記操作入力手段が選択されている状態を検出する
選択状態検出手段,③前記選択状態検出手段により選択された状態が解除されたこ
とを検出する選択解除検出手段,④前記選択解除検出手段により選択された状態が
解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前記待機状態から操作可
能状態に遷移させる遷移手段及び⑤前記ベッド操作装置が操作可能状態のときに,
前記操作入力手段による操作入力に基づいて,前記駆動装置を制御することにより,
ベッド動作の制御を行うベッド動作制御手段を備えるという本願明細書の【001
0】に記載された構成を有する。
ウ 本願発明のベッド操作装置によれば,操作入力手段の何れを選択したとして
も動作が可能な利便性の高いベッド装置を提供可能であり,かつ,選択された状態
が解除された後にベッドの動作の機能を実行させるので,安全性の高いベッド装置
が提供可能となる(【0012】。

⑶ 構成要件の分説
本願発明は,以下のとおり分説することができる。
A 背上げ動作,足上げ動作,昇降動作といった少なくとも何れか一つのベッド
動作を,駆動装置を制御することにより実行させるベッド装置に接続されるベッド
操作装置において,
B 前記ベッド操作装置は,通電されると待機状態となり,
C 操作入力を行う為の複数の操作入力手段と,
D 前記操作入力手段が選択されている状態を検出する選択状態検出手段と,
E 前記選択状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する選
択解除検出手段と,
F 前記選択解除検出手段により選択された状態が解除されたことを検出したと
きに,前記ベッド操作装置を前記待機状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手
段と,
G 前記ベッド操作装置が操作可能状態のときに,前記操作入力手段による操作
入力に基づいて,前記駆動装置を制御することにより,ベッド動作の制御を行うベ
ッド動作制御手段と,
H を備えることを特徴とするベッド操作装置。
2 取消事由(新規性に関する判断の誤り)について
⑴ 引用例(甲12)の記載
引用例には,発明の詳細な説明として,次のような記載がある。
ア 発明の属する技術分野
アクチュエータに電源を投入する際の制御方法に関する(【0001】。

イ 従来の技術
アクチュエータに電源を投入する際の従来の制御方法について,介護用ベッドに
使用されるアクチュエータを例として説明する。別紙1「引用例図面目録」の図2
は,介護用ベッドとリモコン部の簡略図であり,同別紙の図3は,従来における電
源投入からアクチュエータの起動までのフローチャート図である(【0002】。

同別紙の図2において,介護用ベッド1は,中央部で屈曲可能なベッド本体2と,
このベッド本体2の下部に設けられた足部3内に配置され,ベッド本体2の昇降動
作,あるいは,ベッド本体2の上半身部の昇降動作させるアクチュエータ4と,こ
のアクチュエータ4にケーブル5によって接続され,アクチュエータ4の動作を操
作,制御するリモコン6等で構成されている(【0003】。

電源を投入した直後に,アクチュエータ4を起動して突然にベッド本体2を稼働
させると,稼働している箇所に挟まれる可能性がある(【0004】。

そこで,同別紙の図3のように,電源が投入される際に,リモコン6の任意のキ
ー6aが押されているか,あるいは押されたか確認する。
(STEP1)
(【0005】)
押されていなければ,アクチュエータ4を起動しないように設定し,押されてい
る,あるいは押された場合は,アクチュエータ4が起動するように設定する。
(ST
EP2)【0006】
( )
ウ 発明が解決しようとする課題
従来のアクチュエータの制御方法において,例えばリモコンのキー上に物が誤っ
て置かれ,ボタンが押された状態になった場合,このときに電源が投入されると,
アクチュエータが作動する。この結果,ベッド等,アクチュエータによって稼働さ
れている装置に人や物が挟まれる等の危険性が生じる。すなわち,安全上,問題が
生じる(【0007】。

エ 課題を解決するための手段
本発明は,電源を投入した際,あるいは投入した後に,リモコンの任意のキーが
押された状態にし,その後このキーを解放した時に,アクチュエータを起動するよ
うに設定したことを特徴とするアクチュエータの制御方法を提供する 【0008】。
( )
オ 作用
電源を投入する際に,まず,リモコンのキーが押されているか確認する。押され
ている場合,その後,キーが解放されたか確認し,解放された場合にアクチュエー
タを起動する(【0009】。

カ 発明の実施の形態
本発明における実施例を,介護用ベッドに使用されるアクチュエータの制御方法
を例として説明する。同別紙の図1は,本発明における電源投入からアクチュエー
タの起動までのフローチャート図である(【0010】。

同別紙の図1及び図2において,電源を投入する際にリモコン6の任意のキー6
aが押されているか,あるいはキー6aが押されたか確認する。
(STEP1)【0

011】)
次に,リモコン6のキー6aが押されている時,あるいは押された時は,その後,
リモコン6のキー6aが解放されたか確認する。(STEP2) 【0012】
( )
キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放されるまで待機する。そ
して,リモコン6のキー6aが解放されたときに,アクチュエータ4を起動する。
あるいは,キー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押したときに,アクチュ
エータ4を起動する。(STEP3) 【0013】
( )
以上の方法により,誤ってリモコンのキーの上に物が置いてあっても,アクチュ
エータが起動することがなく,安全性を向上させることができる(【0014】。

キ 発明の効果
本発明の制御方法を用いることによって,電源を投入する時の介護用ベッド等の
機器の安全性を向上させることができる(【0015】。

⑵ 引用発明の認定及び本願発明との対比について
ア 前記⑴の記載によれば,引用例には,本件審決が認定したとおりの引用発明
(前記第2の3⑵ア)が記載されているものと認められる。そして,引用発明が,本
願発明の構成要件A,C及びGを備えることは,原告も認めるところである。
イ 構成要件D(選択状態検出手段)について
(ア) 引用例【0003】には,
「アクチュエータ4」の「動作を操作,制御する」
のは「リモコン6」であり,
「リモコン6」は,
「アクチュエータ4」の動作を操作,
制御する側のもの,
「アクチュエータ4」は,
「リモコン6」によって操作,制御され
る側のもの,として記載されている。
そうすると,リモコン6の任意のキー6aが押されたかの確認は,アクチュエー
タ4の動作の操作,制御の内容を構成するものであるから,上記確認動作を行うの
は,
「リモコン6」であり,
「リモコン6」は,上記「押されたか確認」
(STEP1)
するための構成を有しているものといえる。
したがって,引用発明の「STEP1」の「リモコン6の任意のキー6aが押され
たか確認」することは,本願発明の「前記操作入力手段が選択されている状態を検
出する」ことに相当し,引用発明の当該「押されたか確認」する構成は,本願発明の
「選択状態検出手段」に相当する。
(イ) 引用発明の認定の誤りをいう原告の主張について
a 原告は,引用例からは,引用発明の「電源を投入した後に,リモコン6の任意
のキー6aが押されたかを確認する(STEP1) を認定することができないので,

本件審決のした引用発明の認定には誤りがあると主張する。
そこで検討するに,引用発明の実施例(【0010】以下)に係る引用例の記載を
みると,
「STEP1」に係る【0011】の記載は,前記⑴カのとおりであり,確
認すべき事柄として,任意のキー6aが「押されているか」と「押されたか」とに分
けて記載されている。
【0011】において引用する同別紙の図1は,引用発明における「電源投入」か
ら「アクチュエータの起動」までの流れを示すフローチャート(【0010】)であ
る。同フローチャートには,
「電源ON」の後に「キー入力されているか?」を判断
する処理(STEP1)を行い,
「キー入力されている」
(Yes)と判断される場合
には「STEP2」の処理に進み,
「キー入力されていない」
(No)と判断される場
合には,
「キー入力されている」
(Yes)と判断されるまで,上記「キー入力されて
いるか?」を判断する処理(STEP1)を繰り返すことが示されている。
このような同別紙の図1のフローチャートの記載を踏まえると, 【0011】
上記
にいう任意のキー6aが「押されているか」を確認することとは,
「電源ON」の後
に最初に「キー入力されているか?」を判断する処理に対応して,任意のキー6a
が電源の投入時に既に押されているかを確認することを意味し,他方,任意のキー
6aが「押されたか」を確認することとは,
「キー入力されているか?」の判断を繰
り返し行っている場合の処理に対応して,電源の投入時には押されていなかった任
意のキー6aが電源の投入後に押されたかを確認することを意味しているものと理
解するのが相当である。このような理解は,引用発明の課題を解決するための手段

【0008】)に係る引用例の記載が,
「電源を投入した際」と「投入した後」とに
分けた説明をしていることとも整合する。
このように【0008】【0011】及び同別紙の図1のフローチャートの記載

に鑑みると,引用例には,STEP1として,電源投入時に既にリモコン6の任意
のキー6aが押されているかを確認することと,電源を投入した後にリモコン6の
任意のキー6aが押されたかを確認することの双方が記載されているものと解され
るから,本件審決のSTEP1に関する引用発明の認定には誤りはない。
b 原告は,引用発明が解決すべき課題(【0007】)が,
「リモコンのキー上に
物が誤って置かれ,ボタンが押された状態になった場合,このときに電源が投入さ
れ」たときの安全性の確保にあり,引用例に記載された発明の把握はこの課題に沿
ってすべきであるとも主張する。
しかしながら,
【0008】【0011】及び同別紙の図1のフローチャートの記

載によれば,引用例に「電源を投入した後にリモコン6の任意のキー6aが押され
たかを確認する(STEP1)」ことが記載されていることは明らかである。
また,
【0007】の「従来のアクチュエータの制御方法において,例えばリモコ
ンのキー上に物が誤って置かれ,ボタンが押された状態になった場合,このときに
電源が投入されると,アクチュエータが作動する。この結果,ベッド等,アクチュエ
ータによって稼働されている装置に人や物が挟まれる等の危険性が生じる。すなわ
ち,安全上,問題が生じる。」との記載に接した当業者であれば,電源投入前にリモ
コンのキー上に物が誤って置かれている場合に限らず,電源投入後にリモコンのキ
ー上に物が誤って置かれた場合にも「ベッド等,アクチュエータによって稼働され
ている装置に人や物が挟まれる等の危険性が生じる」ことを理解し,その点も見据
えて,「課題を解決するための手段」を見い出そうとするものと認められる。
そうすると,
【0007】の記載をもって,引用例には「電源を投入した後に,リ
モコンの任意のキー6aが押されたか確認する(STEP1)」ことが記載されてい
ないということはできず,原告の上記主張も理由がない。
(ウ) 本願発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用発明の「押されたか確認」する構成が本願発明の「選択状態検出手
段」に該当しないと主張する。
そこで検討するに,引用発明の従来の技術(【0002】以下)に係る引用例の記
載は,前記⑴イのとおりであり,このうち【0003】においては,同別紙の図2に
基づき,引用発明のリモコン6が,ベッド本体2の上半身部の昇降動作させるアク
チュエータ4にケーブル5によって接続され,アクチュエータ4の動作を操作,制
御するものであることが記載されている。このように,引用例には,リモコン6が
アクチュエータ4の動作を操作,制御するものであり,アクチュエータ4がリモコ
ン6によって操作,制御されるものであることが記載されている。
また,同別紙の図2は,引用例の実施例の説明においても参照されている(【00
10】
【0011】)ところ,そこでいう,リモコン6の任意のキー6aが押されたか
の確認とは,アクチュエータ4の動作の操作,制御の内容を構成するものであるか
ら,上記確認動作を行うものはリモコン6であり,そうすると,リモコン6は「押さ
れたか確認」(STEP1)するための構成を有しているものということができる。
そして,本願発明のベッド操作装置における「選択状態検出手段」とは,操作入力
手段が選択されている状態を検出するための構成であることからすれば,本願発明
の「選択状態検出手段」と引用発明の「押されたか確認」
(STEP1)する手段と
が異なることはない。
よって,原告の主張は理由がないというべきである。
ウ 構成要件E(選択解除検出手段)について
(ア) 引用発明の「STEP2」の「リモコン6のキー6aが押された時は,その
後,リモコン6のキー6aが解放されたか確認」することは,本願発明の「前記選択
状態検出手段により選択された状態が解除されたことを検出する」ことに相当し,
引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は,本願発明の「選択解除検出手段」
(構成要件E)に相当する。
(イ) 本願発明と引用発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用発明の当該「解放されたか確認」する構成は本願発明の「選択解除検
出手段」に該当しないと主張する。
しかしながら,リモコン6は,前記イ(ウ)で述べたのと同様の理由により,
「解放
されたか確認」する構成を有しているということができる。
したがって,本願発明の「選択解除検出手段」と引用発明の「解放されたか確認」
(STEP2)する手段とが異なることはなく,原告の主張は理由がない。
エ 構成要件F(遷移手段)について
(ア) 引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放され
るまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押した
ときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成においては,電源を投入
した後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状
態」に相当する。
そして,引用発明は,
「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばア
クチュエータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるか
ら,キー6aの解放の前後で,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するものと
いうことができる。
その上で,本願発明の「遷移手段」が,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移
することを手段として記載したものといえることを踏まえると,引用発明は,キー
6aの解放の前後で,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移しているといえるか
ら,引用発明の「リモコン6」は,
「遷移手段」に相当する構成も当然に備えている
ということができる。
以上によれば,引用発明の「リモコン6」 「リモコン6のキー6aが解放され」
は,
たときに,
「リモコン6」を待機状態から操作可能状態に遷移させているといえると
ころ,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときは,本願発明の「前記
選択解除検出手段により選択された状態が解除されたことを検出したとき」に相当
し,引用発明の「リモコン6のキー6aが解放され」たときに「リモコン6」を待機
状態から操作可能状態に遷移させる構成は,本願発明の「前記選択解除検出手段に
より選択された状態が解除されたことを検出したときに,前記ベッド操作装置を前
記待機状態から,操作可能状態に遷移させる遷移手段」(構成要件F)に相当する。
(イ) 引用発明の認定の誤りをいう原告の主張について
原告は,本件審決が「リモコン6のキー6aが解放されてもアクチェータ4は起
動せずに,さらに任意のキー6aを押したときに,アクチェータ4が起動する」こ
とを前提とした認定をしたことが誤りであると主張する。
そこで検討するに,引用発明の実施例(【0010】以下)に係る引用例の記載の
うち,
「STEP2」及び「STEP3」に係る【0012】及び【0013】の記
載は,前記⑴カのとおりである。
このうち【0012】の記載では,任意のキー6aが解放されたかを確認する時
点として,同キーが「押されている時」と「押された時」とを分けており,また,
【0
013】の記載では,アクチュエータ4を起動する場面として,任意のキー6aが
「解放されたとき」と「解放され,さらに任意のキー6aを押したとき」とを分けて
いる。
これらの実施例の記載を同別紙の図1のフローチャートの記載と併せ読めば,S
TEP3に係る【0013】の記載のうち,リモコン6のキー6aが「解放されたと
き」にアクチュエータ4を起動することとは,上記フローチャートにおける「キー
は開放されたか?」を判断する処理(STEP2)において,
「キーは開放されてい
ない」
(No)と判断される場合には,
「キーは開放されたか?」を判断する処理(S
TEP2)を繰り返し行い,
「キーは開放された」
(Yes)と判断される場合には,
「アクチュエータ起動」処理(STEP3)を行うことに対応しているものと解さ
れる。
他方,キー6aが「解放され,さらに任意のキー6aを押したとき」にアクチュエ
ータ4を起動することとは,上記と選択的な態様について記載していると解するの
が自然であるから,この記載は,上記フローチャートにおける「キーは開放された
か?」を判断する処理(STEP2)において,
「キーは開放された」
(Yes)と判
断されたとしても,直ちに「アクチュエータ起動」処理(STEP3)を行うのでは
なく,
「さらに任意のキー6aを押したときに」「アクチュエータ起動」処理(ST

EP3)を行うことを意味しているというべきである。
また,引用発明の課題(【0007】)は,従来のアクチュエータの制御方法におけ
る誤作動のおそれ,より具体的には,電源投入の前後にわたってリモコンのキーが
押され,又は,電源投入後にリモコンのキーが押された際に,アクチュエータによ
って稼働されるベッド等の装置に人や物が挟まれることなどの危険を可及的に少な
くすることにある。そうだとすると,当業者においては,引用発明の課題(【000
7】)にいう「リモコンのキー上に物が誤って置かれ,ボタンが押された状態になっ
た場合」が,操作ボタンが意図せずに押されることによって誤作動が生じる場合の
例示にすぎないと理解するものというべきである。
以上によれば,
【0007】【0012】【0013】及び同別紙の図1のフロー
, ,
チャートの記載に鑑みると,引用例には,STEP3として,リモコン6のキー6
aが解放され,さらに任意のキー6aを押したときに,アクチュエータ4を起動す
ることが記載されているものと認められる。
したがって,本件審決のSTEP3に関する引用発明の認定には誤りはなく,原
告のこの点に関する主張にも理由がない。
(ウ) 本願発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用例から,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移することは観念で
きず,遷移を実行するための構成の開示もないから,本願発明に係る「遷移手段」を
認定することはできないと主張する。
そこで判断するに,本願明細書の【0045】の記載によれば,本願発明の「待機
状態」とは,
「例えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態と
はなっていない場合」 又は,
, 「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」
であると解される。
そして,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,解放さ
れるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6aを押し
たときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源を投入
した後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,本願発明の「待機状
態」に相当するということができる。
引用発明は,
「キー6aが解放され」た後に,任意のキー6aを押せばアクチュエ
ータ4を起動できる状態,すなわち,ベッドの操作が可能な状態になるから,キー
6aの解放の前後で,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移するということがで
きる。また,本願発明の「遷移手段」は,
「待機状態」から「操作可能状態」に遷移
することを手段として記載したものということができる。
したがって,引用発明が,キー6aの解放の前後で,
「待機状態」から「操作可能
状態」に遷移しているということができ,引用発明のリモコン6は,
「遷移手段」に
相当する構成も当然に備えている。
以上によれば,引用例には,本願発明における「待機状態から,操作可能状態に遷
移させる遷移手段」の開示があることになるので,引用例から本願発明の「遷移手
段」を認定することができる。これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
オ 構成要件B(待機状態)について
(ア) 引用発明の「リモコン6」が,
「電源を投入した後」,STEP1及び2を経
て,「リモコン6のキー6aが解放され」るまでの間は,「アクチュエータ4を起動
する」ことができない状態であることは,本願発明の「ベッド操作装置は,通電され
ると待機状態とな」ることに相当する。
(イ) 本願発明との対比判断の誤りをいう原告の主張について
原告は,引用例には本願発明の「待機状態」の開示がないと主張する。
しかしながら,本願発明の「待機状態」とは,前記エ(ウ)で説示したとおり,
「例
えば電源ケーブルを介して通電されているが,操作ができる状態とはなっていない
場合」,又は,「利用者によりベッド動作の制限が行われている状態」であると解さ
れる。これまでに説示したとおり,本件審決の引用発明の認定には誤りがないと認
められるところ,引用発明の「キー6aが解放されず押し続けられている場合は,
解放されるまで待機し,リモコン6のキー6aが解放され,さらに任意のキー6a
を押したときに,アクチュエータ4を起動する(STEP3)」構成によれば,電源
を投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」,その後「さらに任意のキー6
aを押」すまでの間は,アクチュエータ4の動作を行うことができない。このよう
に,電源を投入した後,STEP2で「キー6aが解放され」るまでの間は,アクチ
ュエータ4の操作ができる状態にないのであるから,この間,リモコン6は「待機
状態」にあるということができる。
したがって,引用例には,本願発明における「待機状態」の開示があるものと認め
られ,これと異なる旨をいう原告の主張は理由がない。
カ その余の原告の主張について
原告は,本件審決の引用発明の認定は,引用例の発明をひとまとまりの技術的思
想として把握せず,一部の記載のみから根拠なく引用発明を認定し,また,開示さ
れていない発明を認定するとも主張するが,本件審決の引用発明の認定に特に不合
理な点の認められないことは既に検討したとおりであるから,原告の主張は理由が
ない。
⑶ 小括
以上のとおり,引用発明は,本願発明の構成を全て備えているから,本願発明は,
新規性を欠くので,本件審決のした本願発明の新規性判断に誤りがあるということ
はできない。
3 結論
以上によれば,原告の主張に係る取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 関 根 澄 子
別紙1(引用例図面目録)
【図1】
【図2】
【図3】
別紙2(本願明細書図面目録)
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】

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