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平成29(ワ)30619販売差止等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和1年9月27日
事件種別 民事
対象物 生鮮海産物の鮮度保持方法
法令 不正競争
不正競争防止法2条1項7号4回
不正競争防止法3条1項1回
キーワード 特許権18回
差止5回
損害賠償3回
無効3回
実施2回
侵害1回
抵触1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 事案の概要 本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間における新商品の共同開発に25 係る契約について債務不履行に基づく損害賠償及び被告製品の販売の差止めな どを求めるとともに,被告が不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為を行っ たなどと主張して同法3条1項及び2項に基づく被告製品の製造,販売等の差止 め,半製品及びカタログ等の廃棄,被告のホームページからの被告製品に関する 掲載情報の削除,原告営業秘密の第三者への開示の禁止及び原告営業秘密が記録 された媒体の廃棄等並びに同法4条に基づく損害賠償を求める事案である。5 2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容 易に認められる事実) 原告は,冷凍,冷蔵,解凍機器及び冷熱,断熱装置を活用した設備ないしシ ステムによるエネルギー事業を行うこと等を目的とする株式会社であり,代表 取締役はA(以下「A」という。)である。Aは,平成27年7月3日にブラン10 テック株式会社の商号で人工造雪システムの設計,製作,施工,工事,監理及 び販売等を目的とした株式会社を設立していたところ,平成28年2月29日,

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判決文

令和元年9月27日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成29年(ワ)第30619号 販売差止等請求事件

口頭弁論終結日 令和元年9月26日

判 決

当事者の表示 別紙1当事者目録記載のとおり

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告は,別紙2製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)を製造,販売又は販売の申出をしてはならない。2 被告は,被告製品並びにその試作品及び半製品を廃棄せよ。3 被告は,被告製品のカタログ及び広告を全て廃棄せよ。4 被告は,被告のホームページから被告製品に関係する掲載情報を全て削除せよ。5 被告は,別紙3営業秘密目録記載の原告の営業秘密(以下「原告営業秘密」という。)の全部又は一部を第三者に開示してはならない。6 被告は,原告営業秘密の全部又は一部を記録したEメール及びコンピュータのファイル並びにこれらが記録された磁気媒体及びこれらを印字した紙媒体その他一切の媒体を廃棄せよ。7 被告は,原告に対し,6000万円及びこれに対する平成29年9月20日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

1 事案の概要本件は,原告が,被告に対し,原告と被告との間における新商品の共同開発に係る契約について債務不履行に基づく損害賠償及び被告製品の販売の差止めなどを求めるとともに,被告が不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為を行ったなどと主張して同法3条1項及び2項に基づく被告製品の製造,販売等の差止め,半製品及びカタログ等の廃棄,被告のホームページからの被告製品に関する掲載情報の削除,原告営業秘密の第三者への開示の禁止及び原告営業秘密が記録

5 された媒体の廃棄等並びに同法4条に基づく損害賠償を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)原告は,冷凍,冷蔵,解凍機器及び冷熱,断熱装置を活用した設備ないしシステムによるエネルギー事業を行うこと等を目的とする株式会社であり,代表取締役はA(以下「A」という。)である。Aは,平成27年7月3日にブランテック株式会社の商号で人工造雪システムの設計,製作,施工,工事,監理及び販売等を目的とした株式会社を設立していたところ,平成28年2月29日,同社の商号をブランパルク株式会社(以下,商号変更の前後を問わず同社を「ブランパルク」と表記する。)に変更した上で,新たに原告を設立した。(甲3の1及び2)被告は,製氷機,溶液製氷機,氷貯蔵搬送設備,冷凍装置の製造,販売等を目的とする株式会社であり,代表取締役はB(以下「B」という。)である。ブランパルクと被告は,平成27年11月11日,「ブランテック株式会社(以下,「甲」という。)とアイスマン株式会社(以下,「乙」という。)は,甲の持つノウハウ・実験データ・アイデアと乙の持つ技術を活用した新商品 (仮「称)海水(飽和食塩水)瞬間冷凍設備」を共同して開発するにあたり,以下の通りに合意する(以下,「本協定書」という。」という前文を有する「共同開発)にかかる協定書」(以下「甲5協定書」という。 を作成した。) 甲5協定書には,以下の定めがある。(甲5)(目的)

第1条 甲及び乙は,本協定書に基づき,共同で新しい「(仮称)海水(飽和食

塩水)瞬間冷凍設備」(以下,「新商品」という。)を開発するものとし,可及的速やかに知的財産権の出願等を行うものとする。(期間)

第2条 本協定書の有効期間は,平成27年11月 日(判決注:原文ママ)

5 から1年間とする。(新商品の生産・販売にかかる双方の独占権)

第6条 甲及び乙は,本協定書に基づく新商品は共同して開発するものであり,

お互いに生産・販売の独占権を持つことを前提としていることを,ここに確認する。2 甲は,乙の事前承諾がある場合を除き,本件特許権もしくはノウハウを使用した機械を乙以外のものに生産させたり,類似する機械を購入しないものとする。3 乙は,甲の事前承諾がある場合を除き,本件特許権もしくはノウハウを活用した機械を,甲以外の第三者に販売したり,類似する商品を生産・販売しないものとする。ブランパルクと被告は,平成27年11月19日,発明の名称を「生鮮海産物の鮮度保持方法」とする特許(以下「甲8特許」という。)を出願した。甲8特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と,塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラリーを製造する工程と,前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し,該生鮮海産物を瞬間凍結させる工程とを備えることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法」というものである。(甲8)ブランパルクと被告は,平成27年12月14日,「ブランテック株式会社(以下,「甲」という。)とアイスマン株式会社(以下,「乙」という。)は,甲の持つノウハウ・実験データ・アイデアと乙の持つ技術を活用した「溶液フレークアイス製氷機」を共同して開発するにあたり,以下の通りに合意する(以下,「本協定書」という。」) という前文を有する「共同開発にかかる協定書」(以下「甲6協定書」という。)を作成した。甲6協定書には,以下の定めがある。(甲6)(目的)

5 第1条 甲及び乙は,本協定書に基づき,共同で新しい「溶液フレークアイス製氷機」(以下,「新商品」という。)を開発するものとし,可及的速やかに知的財産権の出願等を行うものとする。(期間)

第2条 本協定書の有効期間は,平成27年12月14日から1年間とする。

(新商品の生産・販売にかかる双方の独占権)

第6条 甲及び乙は,本協定書に基づく新商品は共同して開発するものであり,

お互いに生産・販売の独占権を持つことを前提としていることを,ここに確認する。2 甲は,乙の事前承諾がある場合を除き,本件特許権もしくはノウハウを使用した機械を乙以外のものに生産させたり,類似する機械を購入しないものとする。3 乙は,甲の事前承諾がある場合を除き,本件特許権もしくはノウハウを活用した機械を,甲以外の第三者に販売したり,類似する商品を生産・販売しないものとする。Aは,平成28年2月29日,飽和食塩水を凍結させた氷(以下「濃塩水氷」という。)の製氷装置及び生鮮海産物の鮮度保持方法等を開発するための法人として,新たに原告を設立し,その開発に関する事業や資産等をブランパルクから原告に移転させた。(甲55)被告は,平成28年3月頃,株式会社KIYORAきくちに対し,濃塩水氷の製氷装置1台(試作品)を販売するとともに,平成29年6月頃,株式会社三陽に対し,濃塩水氷の製氷装置2台(デモ機及び試作機)を販売した。これらの販売について,原告の承諾はなかった。(甲34,57)被告は,平成29年8月23日から開催された一般社団法人大日本水産会主催のジャパン・インターナショナル・シーフードショーに濃塩水氷の製氷装置を出展した。(甲13ないし15)

5 3 争点原告は,被告製品の販売が,「生鮮海産物の鮮度保持方法として「塩分濃度が13.6~23.1パーセントである塩水を凍結させた氷」を用いること」(以下「本件ノウハウ①」という。 及び) 「ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること」(以下「本件ノウハウ②」という。なお,本件ノウハウ②は原告営業秘密と同内容である。)を活用した機械の販売であり甲5協定書に違反するものであると主張するとともに,本件ノウハウ②を使用するものであるから不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為であるなどと主張する。本件の争点は以下のとおりである。債務不履行に基づく請求についてア 本件ノウハウ①は,甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウ」に該当するか(争点1-1)イ 被告製品は,甲5協定書の第6条第3項にいう本件ノウハウ①及び②を「活用した機械」であるといえるか(争点1-2)ウ 甲5協定書に基づく契約上の地位がブランパルクから原告に移転しているか(争点1-3)エ 甲5協定書の有効期間は1年間であり,同協定書は平成28年11月10日をもって失効しているか(争点1-4)オ 甲5協定書の第6条が平成28年11月10日以降も有効に存続しているとした場合,甲5協定書は錯誤により無効になるか(争点1-5)カ 損害の発生及び損害額(争点1-6)不正競争防止法に基づく請求についてア 本件ノウハウ②が原告の「営業秘密」であるといえるか(争点2-1)イ 原告から被告に対して本件ノウハウ②が「示された」といえるか(争点2-2)ウ 被告が本件ノウハウ②を「使用」又は「開示」したか(争点2-3)

5 エ 被告に「不正の利益を得る目的」又は「原告に損害を加える目的」があるといえるか(争点2-4)オ 損害の発生及び損害額(争点2-5)4 争点に対する当事者の主張債務不履行に基づく請求についてア 本件ノウハウ①は,甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウ」に該当するか(争点1-1)(原告の主張)ブランパルクは,薄塩水(塩分濃度が1パーセント程度の塩水をいう。 を)凍結させた氷(以下「薄塩水氷」という。)の安定的な製造やその使用方法について開発を進めていたところ,平成27年10月30日に実施した実験において飽和食塩水を凍結してみると,薄塩水氷とは異なる,真白なマイナス21.2度の氷になった。そして,この氷を用いたスラリー(固体と液体の混合物をいう。)の中に魚を浸漬すると瞬間的に凍結した。同年11月3日に実施した実験においても濃塩水氷を用いたスラリーに魚を浸漬させ,瞬間凍結した魚を取り出して真水で水洗いしたところ,魚の表面が氷結し,魚が氷でコーティングされた状態になり,それを解凍して試食したところ,鮮度も味も非常に良好であった。このように,本件ノウハウ①は,ブランパルクが平成27年11月3日頃に完成させたものである。ブランパルクは,濃塩水氷を作る製氷機や冷凍設備を開発する必要があったことなどから,被告に対して共同開発を提案することにした。Aは,平成27年11月11日に被告事務所を訪れ,甲5協定書に係る契約の締結を求め,Bはその場で甲5協定書に押印した。ブランパルクは,平成27年11月16日,濃塩水氷を用いたスラリーによる生鮮海産物の鮮度保持方法についての特許を出願するため,被告事務所において弁理士C(以下「C弁理士」という。)と打合せを行い,C弁理士に

5 対し,模倣されるリスクに備えて凍結温度に幅を持たせて権利をカバーしたいと相談したところ,同弁理士から凍結温度に幅を持たせることは可能であるとの回答を得たため,ブランパルクにおいて有効性を確認できていたマイナス10度が凝固点となる塩分濃度に近い数字として13.6パーセントという塩分濃度を選択した。上記の事情に照らせば,甲5協定書の前文に記載された「甲の持つノウハウ・実験データ・アイデア」には本件ノウハウ①が含まれ,本件ノウハウ①は,甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウ」に該当する。(被告の主張)本件ノウハウ①の塩分濃度は0.1パーセントの範囲で細かく数値が限定されたものであるから,本件ノウハウ①をAが開発したのであれば,この数値に行きつくまでの試行錯誤の過程が記録として残っているはずである。しかし,BやC弁理士と特許出願について打合せをした平成27年11月16日以前の記録には,13.6パーセントや23.1パーセントという数値は記録されていない。すなわち,原告が平成27年11月3日頃に本件ノウハウ①を完成させたことを裏付ける証拠は存在しない。AとBは,平成27年11月16日に特許出願についての打合せをした際,双方協議の上で,凍結温度について下限をマイナス21.2度,上限をマイナス9.8度とすることを定めた。そして,Bは,その凍結温度に対応する塩分濃度として23.1パーセント及び13.6パーセントという数値を割り出した。このように,本件ノウハウ①の塩分濃度はBが決定したものであって,ブランパルクないしAの決定によるものではない。被告は,遅くとも平成24年頃には塩分濃度23パーセントの塩水を凍結させてマイナス20.8度の氷を作ることが可能な製氷機を販売しており,その説明書には高濃度の塩水を凍結させた氷の溶液に魚を浸漬するという凍結方法が記載さ

5 れていたという事情等に照らせば,本件ノウハウ①は,甲5協定書が作成された時点で,ブランパルクと被告との間で共有されていたというべきである。甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウ」とは甲5協定書に基づく共同開発によって生み出された特許権やノウハウをいうと解すべきであり,そうであれば,本件ノウハウ①は,上記「本件特許権もしくはノウハウ」に該当しない。イ 被告製品は,本件ノウハウ①及び②を「活用した機械」(甲5協定書の第6条第3項)であるといえるか(争点1-2)(原告の主張)本件ノウハウ①について被告のウェブサイトには,「ソルトアイシング凍結技術」の説明として「Nacl 23%,-21℃の塩水を凍結させた溶液で生鮮食品を凍結します。」との記載があり,上記のソルトアイシング凍結技術は本件ノウハウ①そのものである。そして,被告のウェブサイトでは,ソルトアイシング凍結技術を使用した製品の型式として,被告製品の型式(SF-021,SF-060,SF-180,SF-300,SF-600及びSF-1500)が記載されている(以下,これらの型式を有する製氷機を「型式「SF」の製氷機」と総称する。。したがって,被告製品は,甲5協定)書の第6条第3項にいう本件ノウハウ①を「活用した機械」であるといえる。被告は,甲5協定書が作成される以前から上記の製品を製造販売してきたと主張するが,型式「SF-180」の見積書の「品名及び仕様」の欄には,「超低温域及び重耐塩害仕様」というように凝固点が低く塩分濃度が高い飽和食塩水に対応した特別仕様であることを示す文言が使われていることや,「ソルトアイシング凍結機制御盤」というように制御盤が「ソルトアイシング凍結機」専用であることを示す文言が使われていることに

5 照らせば,型式「SF」の製氷機は,被告が従来から製造販売していた真水用のWB-100,WB-300などの型式を有する製氷機(以下,これらの型式を有する製品を「型式「WB」の製氷機」と総称する。)とは異なるものである。本件ノウハウ②について被告は,株式会社三陽に対して濃塩水氷の製氷機を2台販売しているところ,●(省略)●になる。これらの事実に照らせば,被告製品が本件ノウハウ②を活用したものであることは明らかである。(被告の主張)本件ノウハウ①について被告製品は,甲5協定書が作成される以前から被告が販売をしてきた製品であり,その機能や構成等は本件ノウハウ①の開示を受けたとされる時期の前後で変化していない。したがって,従前から被告が販売をしてきた製品によって本件ノウハウ①の塩分濃度を有する塩水を凍結させた氷を作ることができるにすぎず,被告製品は甲5協定書の第6条第3項にいう本件ノウハウ①を「活用した機械」ではない。また,生鮮海産物の鮮度保持方法として塩分濃度が13.6パーセントから23.1パーセントである塩水を凍結させた氷を用いることは,顧客であるエンドユーザーが行うものであり,被告が自ら塩分濃度の設定をすることはないから,被告製品は甲5協定書の第6条第3項にいう本件ノウハウ①を「活用した機械」であるとはいえない。本件ノウハウ②について被告製品である製氷機は,冷凍機とは別の機械であって製造元も異なっており,顧客は製氷機のみを被告から購入し,冷凍機については顧客自身で選定して購入することが多いのであるから,冷凍機の冷媒使用条件によって,被告製品の販売が不正競争防止法に抵触することはない。

5 また,本件ノウハウ②は,製氷機を購入して製氷を行う者(エンドユーザー)が行う行為であって,製氷機メーカーである被告が本件ノウハウ②を用いることはない。ウ 甲5協定書に基づく契約上の地位がブランパルクから原告に移転しているか(争点1-3)(原告の主張)Aは,平成28年2月29日に原告を設立し,その際,甲5協定書に基づく契約上の地位はブランパルクから原告に移転した。また,AがBに対して原告の設立について明確に伝えていること,被告が甲8特許についての特許を受ける権利の持分をブランパルクから原告に譲渡することについて平成28年3月25日付け同意書を特許庁に提出していること,原告と被告は同年3月から7月頃にかけて複数の特許を共同出願し,その後,被告は同年10月20日に甲5協定書の第5条の定めに従ってこれらの特許を受ける権利の持分を原告に譲渡していること,原告は被告に対して平成29年4月28日に「HybridICE製造に関して」という添付ファイルなどをメールで送信しており,これは甲5協定書に基づく共同開発が同日時点でも行われていることを示すものであることなどに照らせば,被告は,遅くとも平成28年3月25日までに,甲5協定書に基づく契約上の地位がブランパルクから原告に移転することについて承諾していた。(被告の主張)契約上の地位の移転には当事者の合意と当初の契約の相手方の承諾が必要であるところ,被告は,甲5協定書に基づく契約上の地位がブランパルクから原告に移転することについて承諾していない。エ 甲5協定書の有効期間は1年間であり,同協定書は平成28年11月10日をもって失効しているか(争点1-4)(被告の主張)

5 甲5協定書の第2条は,明確に「本協定書の有効期間」という文言を用いてその有効期間を契約締結日から1年間と定めるものであるところ,甲5協定書において,上記の第2条が甲5協定書の一部についてのみ適用されるとか,甲5協定書の一部については有効期間が経過した後も残存するなどといった定めはない。したがって,甲5協定書は,平成28年11月10日をもって失効している。(原告の主張)甲5協定書には,共同開発についての条項と共同開発された結果としての新商品の生産及び販売という将来的な体制についての条項という適用場面の異なる条項があるところ,甲5協定書の第2条の効力が第6条にも及ぶか否かは契約当事者であるブランパルクと被告の合理的意思を踏まえて解釈されるべきである。そして,甲5協定書が締結された経緯や,甲5協定書の

第2条の有効期間の定めが第6条にも及ぶとした場合に生じる結果の不合

理性などに照らせば,有効期間を1年とするとの第2条の定めは第6条には及ばないとすることが当事者の合理的意思であるといえる。したがって,甲5協定書の第6条は,平成28年11月10日以降も有効に存続している。オ 甲5協定書の第6条が平成28年11月10日以降も有効に存続しているとした場合に,甲5協定書は錯誤により無効になるか(争点1-5)(被告の主張)Bは,甲5協定書を見た際に,有効期間が1年に限定されており,自動更新の定めもなかったため,1年であれば大きな問題にはならないだろうと考えて押印した。甲5協定書の一部について有効期間が残存するという内容の契約であれば,Bは,甲5協定書に押印し,契約を締結することはなかった。上記の錯誤は要素の錯誤であるといえるから,甲5協定書の第6条が平成28年11月10日以降も有効に存続している場合は,甲5協定書は錯誤により無効となる。

5 (原告の主張)否認ないし争う。カ 損害の発生及び損害額(争点1-6)(原告の主張)被告は,平成28年春頃,株式会社KIYORAきくちに被告製品を1台販売し,平成29年6月頃,株式会社三陽に被告製品を2台販売した。原告は被告が被告製品を1台販売するごとに少なくとも2000万円の損害を被るから,原告は,上記の被告の行為により少なくとも6000万円の損害を被った。(被告の主張)否認する。損害の算定根拠が不明である。不正競争防止法に基づく請求についてア 本件ノウハウ②が原告の「営業秘密」であるといえるか(争点2-1)(原告の主張)原告は,濃塩水氷についての製氷機の開発と,飽和食塩水以外の溶液を凍結させた氷についての製氷機の開発を並行して進めていたところ,後者の開発過程においては凍結点がマイナス50度にもなり得るエチレングリコールに着目し,平成28年6月頃,被告から「超低温塩水凍結システム」を購入し,同システムを使用して,エチレングリコールを凍結させる実験を繰り返した。●(省略)●その後,原告は,上記のような性質を有する氷を製造する条件を得るために実験を重ね,本件ノウハウ②を得た。本件ノウハウ②に関する情報は,原告が収集したデータに基づくものであり,公知にはなっていない。また,これらの情報は,原告の技術者が管理者となって秘密として厳重に管理されており,秘密保持義務契約等を締結した相手方以外に開示又は漏洩することがないように厳重な注意が払われていた。

5 したがって,本件ノウハウ②は,原告の営業秘密であるといえる。(被告の主張)本件ノウハウ②が不存在ないし不特定であることについて原告は,本件ノウハウ②について,●(省略)●となる条件で冷媒を用いることと主張を変遷させているところ,ノウハウの内容それ自体が変わることはあり得ないのであるから,上記のような主張の変遷は,本件ノウハウ②が存在していないことを示している。被告製品において,●(省略)●これらを前提とすると,本件ノウハウ

②の意味内容は不明確である。また,本件ノウハウ②は,内容に「近傍」という語を含むが「近傍」の幅が不明確であるから,ノウハウとして特定されているとはいえない。本件ノウハウ②が非公知性,有用性の要件を欠くことについて原告が被告に対して本件ノウハウ②を伝えたとする平成29年4月28日時点では,原告と被告との間に有効な秘密保持契約は存在していなかったから,原告は守秘義務を負わない被告に対して本件ノウハウ②を開示したことになる。また,原告は,守秘義務を負っていないと考えられる東京大学教授やケンスイという会社に対しても,本件ノウハウ②の内容やそれに関連する実験結果を開示している可能性が高い。これらの事情に照らせば,本件ノウハウ②は非公知性の要件を欠く。本件ノウハウ②は,飽和食塩水の塩分濃度が23パーセント程度であるという公知の事実を基に,被告が第三者にも販売している製氷機に飽和食塩水を投入し,●(省略)●それにより有用な効果を生み出すものともいえない。イ 原告から被告に対して本件ノウハウ②が「示された」といえるか(争点2-2)(原告の主張)

5 原告は,平成28年7月頃,被告に対し,本件ノウハウ②を開示した。また,遅くとも,原告の被告に対する平成29年4月28日付けメールによって本件ノウハウ②を被告に伝えた。(被告の主張)被告は,原告から本件ノウハウ②を開示されたことはない。また,原告が被告に本件ノウハウ②を伝えた根拠としている平成29年4月28日付けメールでも,本件ノウハウ②の内容は明記されていない。原告が上記のメールによって被告に伝えた内容は,●(省略)●ウ 被告が本件ノウハウ②を「使用」又は「開示」したか(争点2-3)(原告の主張)被告は,平成29年6月頃,株式会社三陽に対して被告製品2台を販売した。これらの製品における●(省略)●であった。被告は,株式会社三陽に対して製氷機と冷凍機をセットで販売しており,このような販売形態で冷媒条件を設定するのは被告である。したがって,被告は,本件ノウハウ②を使用した。(被告の主張)被告製品は,製氷機であって「ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること」を使用した機械ではないし,それを販売する際に本件ノウハウ②を顧客に伝えることもない。また,「ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること」は,製氷機を購入して製氷をするエンドユーザーが行う行為であって,製氷機メーカーにすぎない被告が本件ノウハウ②を自ら使用することはない。エ 被告に「不正の利益を得る目的」又は「原告に損害を加える目的」があるといえるか(争点2-4)

5 (原告の主張)被告は,原告の承諾を得ずに,本件ノウハウ②を使用して,株式会社三陽に対して被告製品を2台販売している。被告に「不正の利益を得る目的」があったことは明らかである。(被告の主張)被告製品は被告において自由に販売できるものである。仮に,甲5協定書又は甲6協定書によって販売についての制約を受ける製品があったとしても,被告が株式会社三陽に被告製品を販売した平成29年6月頃にはそれらの有効期間は満了していたのであるから,被告としては上記の販売について原告の承諾を得なければならない義務はなく,また,そのような認識もなかった。したがって,被告に「不正の利益を得る目的」があったとは認められない。オ 損害の発生及び損害額(争点2-5)(原告の主張)被告は,平成29年6月頃,株式会社三陽に本件ノウハウ②を使用した被告製品を2台販売した。原告は被告が被告製品を1台販売するごとに少なくとも2000万円の損害を被るから,原告は,上記の被告の行為により少なくとも4000万円の損害を被った。(被告の主張)否認する。損害の算定根拠が不明である。

第3 争点に対する判断

1 後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

Aは,平成6年ないし8年当時,スキー場の設計及び開発事業を行う会社を経営しており,その頃,被告に対してスキー場に使用する人工降雪機のドラムを発注した。(甲55,乙31,弁論の全趣旨)Aは,雪がない季節に空気で膨らませたエアードーム内などに人工造雪機で

5 作った雪を敷き詰め,雪遊びができるようにするスノーパーク事業を行うこと

として,同事業を行うための法人としてブランパルクを設立し,また,同事業で用いる人工造雪機の製造を被告に発注することとして,ブランパルクと被告との間で,平成27年8月18日,被告が製造する製氷機及び降雪機をブランパルクのスノーパーク事業に組み合わせて集客施設に提供することなどを目的とした取引基本契約を締結した。(甲30,55)被告は,スキー場で使用する人工降雪機の製造,販売や,鮮魚保存に用いる氷を作成するための製氷機などを製造,販売しており,また,一定の塩分濃度を有するシャーベット状の氷を製造する製氷機の開発をしていた。被告における製品の開発の状況や被告が具体的に販売等していた製品には,後記 のとおりのものがあった。(乙31)Aは,平成27年6月22日,人工造雪機についての打合せをするために被告の工場を視察し,その際,被告が製造販売する製氷機を見学した。Aは,魚の保存には塩分濃度1パーセント,マイナス1度の氷が適しているという情報を得ていて,被告が製造販売する製氷機を使用して,ブランパルクにおいて,薄塩水氷を使用した生鮮海産物の鮮度保持方法についての開発等をすることにした。ブランパルクは,平成27年9月頃,被告から,海水を適用とする小型製氷機1台を購入し,その引渡しを受けた。(甲33,55,乙2,31,証人D〔1頁〕,原告代表者〔1ないし4頁〕,被告代表者〔10,11頁〕)ブランパルクは,平成27年10月20日,同月30日及び同年11月3日に,薄塩水氷の温度,生鮮海産物の種類,保存部材,保存期間などを様々に設定し,生鮮海産物の鮮度,身の色,味などを確認するという実験を行った。(甲31(枝番を含む。,32,54,55,56,証人D〔1,2,9ないし1)2頁〕)ブランパルクは,平成27年10月30日の実験において,飽和食塩水を製氷機に投入したところ,これまで作ってきた薄塩水氷とは異なる真白なマイナ

5 ス21.2度の氷ができた。その氷のスラリーの中に生きた魚を1尾浸漬して

みたところ,瞬間的に凍結して動かなくなった。その後,その瞬間凍結した魚を,塩分を洗い流すために真水で水洗いをすると,魚の表面が氷で覆われた状態になり,その魚を解凍して試食したところ,鮮度や味が良好であった。(甲31の2,33,54,55,証人D〔1,2頁〕,原告代表者〔5,6頁〕)ブランパルクは,被告に対し,飽和食塩水を凍結させるための冷凍設備等についての共同開発を提案した。(甲55,原告代表者〔6,7頁〕)Aは,甲5協定書の文案を作成し,平成27年11月11日に被告の事務所を訪れ,Bに対して濃塩水氷を用いた生鮮海産物の鮮度保持方法について説明し,Bは甲5協定書に押印した。(甲55,乙31,原告代表者〔7頁〕,被告代表者〔20頁〕)Bは,平成19年頃から被告が特許を出願する際に依頼していたC弁理士をAに紹介し,平成27年11月11日,C弁理士に対し,濃塩水氷を用いた魚の鮮度保持方法などについて特許出願をするための打合せをしたいという内容のメールをした。(甲20,55,乙31,証人C〔2,21頁〕)C弁理士は,平成27年11月16日,被告の事務所を訪れ,AやBらとともに,上記特許出願についての打合せをした。(乙8,証人C〔4頁〕)C弁理士は,塩分濃度について,特許侵害に対抗するためには一定の幅を持たせる必要があると説明した。そこで,AとBは,協議の上,用いる塩水の温度について下限をマイナス21.2度,上限をマイナス9.8度とそれぞれ定め,また,Bは,それらのマイナス21.9度とマイナス9.8度に対応する塩分濃度として,23.1パーセントと13.6パーセントを割り出した。(乙8,証人C〔7ないし9頁(上記認定に反する部分を除く。〕))ブランパルクと被告は,平成27年11月19日,発明の名称を「生鮮海産物の鮮度保持方法」とし,「塩分濃度が13.6~23.1%である塩水を凍結させた氷と,塩分濃度が13.6~23.1%である塩水とを混合して氷スラ

5 リーを製造する工程と,前記氷スラリーに生鮮海産物を浸漬し,該生鮮海産物

を瞬間凍結させる工程とを備えることを特徴とする生鮮海産物の鮮度保持方法」の発明等についての甲8特許を出願したAは,平成28年2月29日,濃塩水氷を作る製氷装置及び生鮮海産物の鮮度保持方法等を開発するための法人として新たに原告を設立し,それらに関するブランパルクの事業や資産等を原告に移転させた。原告の取締役で実務の管理監督を担当しているD(以下「D」という。)は,平成28年2月29日,Bに対し,原告を設立し,その登記が完了したことについてメールをした。(甲22の1,証人D〔5頁〕)ブランパルクは,平成28年3月25日,甲8特許についての特許を受ける権利の持分を原告に譲渡し,被告は,同日,ブランパルクに対し,上記の譲渡について承諾した。(甲23,28)原告と被告は,平成28年3月から7月頃にかけて,製氷装置及び製氷方法並びにそれらに関連するシステム等について複数の特許を共同で出願し,被告は,同年10月20日,それらの特許に関する全ての権利関係について,被告の持分を原告に譲渡した。(甲47,48(枝番を含む。,49の1及び2))原告と被告は,平成29年4月27日頃,製氷機の製造スケジュール等についての打合せを行い,原告の取締役で技術を担当するE(以下「E」という。)は,同月28日,その打合せの結果をまとめた資料等をBに対してメールで送信した。(甲9,12)ブランパルクは,飽和食塩水ではなく,塩化カルシウム水溶液等の他の溶液を凍結させることにより,更に凝固点(凍結点)の低い氷を製造することができることから,塩水以外の溶液を凍結させる製造技術を実用化するための製氷機を開発することにして,被告との間で甲6協定書を作成した。(弁論の全趣旨)原告と被告は,濃塩水氷についての実験と並行して,●(省略)●原告は,

5 平成28年6月頃,その実験のために,被告から型式「WB-100」の製氷

機をベースにした「超低温塩水凍結システム」を購入した。(甲22の1,24,弁論の全趣旨)原告は,上記の実験の過程において,エチレングリコールと同じ条件によって飽和食塩水を凍結させたらどうなるかという実験をしたところ,その実験によって得られた氷は,これまでの実験で得られた氷と比較して手触りや質感などが異なっており,しかも融解しにくいという特徴を有していた。(甲25ないし27,55,証人D〔20,21頁〕,弁論の全趣旨)原告は,その後,電力消費量や外気温,得られる氷の質感などの諸要素を踏まえ,製氷機の運転条件についての実験をするなどした。(証人D〔7,20,21頁〕)Eは,平成29年4月28日,Bに対し,「昨日のお打ち合わせ内容をまとめたものを添付いたしますので,ご確認の上,各スケジュールをご連絡ください。」と記載したメールを送信した。上記メールには「HB-100F(ケンスイ広島牡蠣用)運転データ」と題する一覧表(以下,その記載内容を「甲10データ」という。)の電子ファイル及び「HybridICE製造に関して」と題する文書の電子ファイル等が添付されており,上記一覧表及び文書には赤字で「Confidential」と記載されていた。(甲9,10,12)甲10データは,型式「HB-100F」の製氷機(なお,型式「HB」の製氷機の性能や構造は,型式「WB-S」の製氷機(被告が製造,販売するWB-100S,WB-300Sなどの製氷機をいう。 と同じである。) 被告代表者〔23,24頁〕)を使用して●(省略)●上記メールの本文やその添付フ。ァイルに,甲10データの意味や内容,本件ノウハウ②との関連性などを説明した記載はなかった。(甲9,10,12,証人D〔6,15頁〕)被告は,製氷機に関して以下のような開発,販売を行っていた。ア 被告は,昭和45年頃からスラリー状の氷を生産する製氷機の製造販売を

5 開始した。これらの製氷機の基本的な性能及び構造は,円筒形のステンレス

シリンダ内面に薄く氷の膜を作り,これを連続的にブレードでかき落とすというものであり,原水の自動供給,シリンダ面への散水,製氷,氷の剥離を連続したサイクルで行うものである。(甲40,42,46,乙18ないし22,31)イ 被告は,塩分を有する水を用いて氷を製造することができる機械の開発も行っていて,平成27年10月9日には,C弁理士らを代理人として,「製氷機」の発明を特許出願した。上記発明は,海産物の鮮度保持のために海水をシャーベット状にした氷を用いることについて,製氷部と貯氷部との間で塩水を循環させる従来の技術では製氷に一定の時間を有することなどの課題があり,一定の塩分濃度を有するシャーベット状の氷を支障なく製造することを可能とするための発明である。上記発明に係る製氷機は,冷媒により内周面が冷却される竪型ドラム,回転軸,回転軸とともに回転して同ドラムの内周面に向けて塩水を噴射する噴射手段,同ドラムの内周面に生成したシャーベット状の氷を掻き取るブレード,ブレードによって掻き取られたシャーベット状の氷を排出する排出口などを有するものであった。(乙4,8)ウ 被告は,平成25年12月頃から,型式「WB-S」の製氷機の販売を開始した。型式「WB-S」の製氷機は,氷を作るために海水を使用することができ,凍結可能な塩分濃度は0パーセントから23パーセントであった。被告は,従前,型式「WB」の製氷機を販売していたところ,型式「WB-S」の末尾のSは,「SALT」(塩)を表し,また,同製品は,回転軸を通じて水又は塩水を供給し,ドラム内側に生成した氷をブレードで掻き取るものであった。(乙18ないし20,弁論の全趣旨)。エ 被告は,平成27年10月31日頃から,型式「SF」の製氷機の販売を開始した。型式「SF」の製氷機は,氷を作るために海水を使用することが

5 でき,凍結可能な塩分濃度は0パーセントから23パーセントであった。型

式「SF」のSFは,「SEAWATER FLAKE」又は「SALT FLAKE」を示す。(甲18,34,乙18(上記認定に反する部分を除く。,)被告代表者〔48頁〕,弁論の全趣旨)。型式「SF」の製氷機と「WB-S」の製氷機の性能や構造は基本的には同じであるが,型式「SF」の製氷機には新たな装置が付加される場合や,使用される液体によってポンプやノズルの形状が異なる場合等がある。型式「SF」の製氷機を新たに展開したのは,型式の後に示されている数字が製氷能力を示しているところ,飽和食塩水を使用した場合には薄塩水の場合と比較して製氷能力が約60パーセントになるため(型式「WB-300S」と型式「SF-180」は性能や構造は,基本的に同じであるが,型式「SF-180」の製氷能力は約60パーセントである。,それを顧客に対して)明確に示すことができるようにするためであった。(甲34,乙18ないし20,被告代表者〔48ないし50頁(上記認定に反する部分を除く。〕),弁論の全趣旨)。

2 債務不履行に基づく請求について

本件ノウハウ①は,「生鮮海産物の鮮度保持方法として塩分濃度が13.6~23.1パーセントである塩水を凍結させた氷を用いること」というものである。本件ノウハウ①は,前記 によれば,Aのアイデアないし発案に基づき,ブランパルクにおいて濃塩水氷を用いて魚を凍結させるなどの実験等をした上で,A,B及びC弁理士らが塩水を凍結させた氷を用いる鮮度保持方法についての発明に係る甲8特許を出願するために行った平成27年11月16日の打合せにおいて,用いる塩水の塩分濃度などの内容が確定したといえるものである。これらの経緯に照らせば,本件ノウハウ①は,甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウ」に該当すると認めるのが相当である(争点1-1)。

5 被告製品は,本件ノウハウ①及び②を「活用した機械」

(甲5協定書の第6条

第3項)であるといえるか(争点1-2)

ア 本件ノウハウ①は,方法に関するノウハウであるところ, 前記1 のとおりの甲5協定書が締結されるに至る経緯,甲5協定書の第6条の表題 (新商品の生産・販売にかかる双方の独占権),「 」 同条第3項の「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」という文言等に照らせば,本件ノウハウ①を前提として,その方法を使用するために新たに開発されて完成した機械は同条第3項の「機械」に該当し得るといえるが,本件ノウハウ①の完成前から存在する機械やそれと同じ性能・機能の機械において本件ノウハウ①に係る方法を使用することができるとしても,当該機械は,甲5協定書第6条3項の「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」には該当しないというべきである。別紙2製品目録記載1の製品は,型式「SF」の製氷機であり,前記1エのとおり,本件ノウハウ①が最終的に確定した平成27年11月16日より前である同年10月31日頃から販売が開始されたものであるから,本件ノウハウ①の完成前から存在する機械であり,本件ノウハウ①を使用するために新たに開発された機械であるとは直ちにはいえない。また, 「SF」型式の製氷機は,ポンプやノズルなどの形状が異なるものがあるとしても,基本的な性能は,平成25年12月頃から販売された型式「WB-S」の製氷機と同じであり,その型式「WB-S」の製氷機は,本件ノウハウ①の方法で使用される塩分濃度の塩水で製氷をすることができ,本件ノウハウ①に係る方法を使用することができたのであるから,この点からも,型式「SF」の製氷機が,甲5協定書の第6条第3項にいう「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」に該当するとはいえない。なお,型式「SF」の製氷機は,「ソルトアイシング凍結機制御盤」などを有する場合もあるが(甲34・添付資料12) 型式, 「WB-S」の製氷機が上記のような性能を有していたこ

5 とに照らせば,そのような仕様があり得ることをもって,直ちに当該製氷機

について本件ノウハウ①を活用した製氷機であるということはできない。別紙2製品目録記載2の製品についても,上記のとおりの本件事情に照らせば,被告が本件ノウハウ①を「活用した機械」であると解される製氷機を新たに製造,販売するおそれがあるとは認められない。イ 原告は,被告製品は本件ノウハウ②を活用した機械であるから,それらについての被告の販売行為等は甲5協定書に違反していると主張する。上記アと同様の理由から,本件ノウハウ②の完成前から存在する機械において本件ノウハウ②に係る方法を使用することができた場合には,当該機械やそれと同じ性能・機能を有する機械は,甲5協定書第6条第3項の「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」には該当しないと解するのが相当であるところ,の製氷機を用いてマイナス50度程度の条件で冷媒を用いて濃塩水氷を製氷することは可能であったことや,冷媒蒸発温度がマイナス65度にもなる冷凍機が一般に流通していること(乙10)などの事情に照らせば,技術的には本件ノウハウ②の完成前から本件ノウハウ②に係る方法を用いて濃塩水氷を製氷することができたといえるから,被告製品は,本件ノウハウ②について,「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」に該当しない。また,後記3 被告に対して示されたことや被告が本件ノウハウ②を使用したことも認められないのであって,この点からも,被告製品は,本件ノウハウ②について「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」には該当しない。したがって,別紙2製品目録記載1及び2の製品は,いずれも本件ノウハウ②を活用した機械には該当しない。以上によれば,被告製品は,いずれも甲5協定書の第6条第3項の「本件特許権もしくはノウハウを活用した機械」であるとはいえない。したがって,そ

5 の余を判断するまでもなく,甲5協定書の第6条第3項について債務不履行に

基づく損害賠償や被告製品の販売の差止めなどを求める原告の請求にはいずれも理由がない。

3 不正競争防止法に基づく請求について

本件ノウハウ②は,「ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること」である。このノウハウは,飽和食塩水の理論的な凍結点はマイナス21.2度であるところ(甲35の段落【0010】,製氷機の●(省略)●Dは,本件ノウハウ)

②についての実験をする際に使用していた数値の計測器が小数点第2位まで

になっていることから,おおむねプラスマイナス0.5度の範囲であると考えていた(証人D〔6頁〕。)なお,原告は,本件ノウハウ②の内容について,当初,「●(省略)●の冷媒を用いること」であると主張し,その後,平成30年1月12日付け第1準備書面で (省略)「● ●の条件となるように冷媒を用いること」であると訂正し,さらに,平成30年8月31日付け第6準備書面で「ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること」であると訂正した。原告から被告に対して本件ノウハウ②が「示された」といえるか(争点2-2)原告は,被告に対し,平成28年7月頃に本件ノウハウ②を開示し,遅くとも,原告の被告に対する平成29年4月28日付けメールによって本件ノウハウ②を被告に伝えたと主張する。まず,原告が,平成28年7月頃,被告に対し,本件ノウハウ②を開示したか否かを検討すると,原告が平成28年7月頃に被告に対して本件ノウハウ②を開示したことを認めるに足りる証拠はない。また,同月頃までに,具体的なノウハウである本件ノウハウ②が完成していたことを認めるに足りる客観的

5 な証拠もない。

次に,原告が,平成29年4月28日付けメールにより,被告に対して本件ノウハウ②を開示したか否かを検討する。前記ルに添付された一覧表に記載されていた甲10データは,型式「HB-100F」の製氷機を使用して●(省略)●についての項目や数値は記載されていなかった。上記メールの本文やその他の添付ファイルにおいても甲10データと●(省略)●や本件ノウハウ②の関連性を説明する記載はなかった。そして,そのように説明がない状況で,●(省略)●に着目し,上記メールには添付されていない冷媒の特性表(甲11)や計算式を用いて,被告が,このデータにより,●(省略)●が開示されたと受け取ったと認めるに足りる証拠はない。外気温によっても●(省略)●は左右される(証人D〔20,21頁〕,被告代表者〔24頁〕)ところ,甲10データには,外気温の項目,数値もあることから,甲10データは,各種の項目に加えて,外気温にも着目したデータであると受け取られる可能性も否定できない。これらの事情に照らせば,上記メールや甲10データによって,●(省略)●に関する情報が被告に開示されたとは直ちには認められない。また,仮に,被告において,甲10データについて,●(省略)●になるという情報に着目することができたとしても,その●(省略)●が具体的にどのような意味を有しているのかは上記メールや甲10データには何ら記載がなく,その意味が必ずしも明らかでないから,本件ノウハウ②という具体的に特定された情報まで認識することはできなかったというべきである。したがって,原告が,平成29年4月28日付けメールにより,被告に対して本件ノウハウ②を開示したとは認められない。その他,原告から被告に対して本件ノウハウ②に関する情報が示されたことを認めるに足りる証拠はない。被告が本件ノウハウ②を「使用」又は「開示」したか(争点2-3)ア

5 められず,被告は本件ノウハウ②の内容を認識していたとは認めることはで

きないから,被告が,原告から示されたとされる本件ノウハウ②を使用又は開示した事実を認めることはできない。原告は,被告が株式会社三陽ないし株式会社ウエストジャパンフーヅ(以下,これらを「三陽グループ」と総称する。)に販売した機械において本件ノウハウ②を使用したと主張するが,後記イのとおり,理由がない。なお,仮に,原告から被告に対して本件ノウハウ②が示されたことが認められるとしても,被告のホームページや被告が製氷機の販売のために作成した資料によれば,被告が販売する「ソルトアイシング凍結技術」に関する製氷機における冷媒蒸発温度の標準仕様はマイナス40度に設定されていると記載されている(甲18,34・添付資料1)。マイナス40度という温度は原告の認識によっても「●(省略)●」の範囲に含まれないのであり(前記 ) 被告が,, 製氷機の販売等に当たって,本件ノウハウ②を使用又は開示した事実を認めることはできない。イ 原告は,被告が平成29年6月頃に販売した製氷機を使用して濃塩水氷を製氷している際の冷媒の使用条件を確認したところ,その●(省略)●であり,被告は本件ノウハウ②を使用したと主張する。上記主張に関係して以下の事実が認められる。被告は,平成28年6月頃,三陽グループに対し,被告が開発した新規技術として,「ソルトアイシング」と称する飽和食塩水を使用した生鮮食品の凍結方法について説明し,三陽グループと共同開発したいと申し出た。三陽グループは,その申出を承諾するとともに,水産物を凍結する生産ラインについての専門性が高い西日本イシダ株式会社に対しても共同開発を打診して同意を得た。その後,被告と三陽グループは,「ソルトアイシング」を活用した水産物輸出に関する実証事業に共同で取り組み,その共同開発の結果,平成29年6月頃,新たな製氷機の試作機(型式「SF-1

5 80」の製氷機)が完成した。もっとも,平成29年8月以降,被告は,

三陽グループとの共同開発に取り組むことはなくなり,三陽グループとの窓口であった被告社員も同月頃までに被告を退社した。(甲34,弁論の全趣旨)原告の取締役は,平成30年6月20日,株式会社ウエストジャパンフーヅの加工工場を訪問した。同工場では,同日,で飽和食塩水の氷を製氷しており,そこで用いられていた冷媒はR404Aであり,上記製氷機に係る●(省略)●となる。(甲51,弁論の全趣旨)以上によれば,株式会社ウエストジャパンフーヅの加工工場において,平成30年6月20日,被告から納入された製氷機を用いて製氷するに当たり,●(省略)●となる条件で冷媒が用いられていたことが認められる。しかし, 被告と三陽グループらは,「ソルトアイシング」について共同開発を行い,平成29年6月頃にその試作機(型式「SF-180」の製氷機)が完成したが,同年8月以降は上記共同開発が中断して没交渉になっており,また,被告の製氷機の仕様等は顧客の要望によってそれぞれ異なり得ること(被告代表者〔5頁〕 などに照らせば,) 平成30年6月20日における上記製氷機の運転や使用条件に対する被告の関与の態様等が証拠上明らかであるとはいえない。そのことに加えて,●(省略)●に関する被告に対する開示が必ずしも明確なものでないこと,被告は冷媒蒸発温度として標準仕様がマイナス40度の機械を販売していることなどに照らせば,上記 事実によって,被告が,原告から本件ノウハウ②を開示され,それを使用又は開示したとは認められない。氷機を用いてマイナス50度程度の条件で冷媒を用いて濃塩水氷を製氷することは可能であったことや,冷媒蒸発温度がマイナス65度にもなる冷凍機が一般に流通していること(乙10)などの事情に照らせば,本件ノウハ

5 ウ②に係る方法を使用できる機械の販売自体は,本件ノウハウ②を実現する

ものであるとか,それと同視し得るものであるなどとはいえず,不正競争防止法2条1項7号にいう「使用」には当たらないというべきである。したがって,原告の上記主張は採用できない。以上によれば,その余を判断するまでもなく,本件ノウハウ②について,被告の不正競争行為(不正競争防止法2条1項7号)を認めることはできない。したがって,不正競争防止法3条1項及び2項並びに同法4条に基づき,被告製品の製造等や原告営業秘密の開示の差止めなどを求める原告の請求にはいずれも理由がない。

第4 結論

よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第46部裁判長裁判官 柴 田 義 明裁判官 佐 藤 雅 浩裁判官 古 川 善 敬(別紙1)当 事 者 目 録

5 原 告 ブ ラ ン テ ッ ク 株 式 会 社

上記訴訟代理人弁護士 松 本 卓 也同 渡 邊 大 祐同 阿 部 奈 穂 子同 紺 野 夏 海被 告 ア イ ス マ ン 株 式 会 社上記訴訟代理人弁護士 八 谷 戦 太同 内 田 文 浩同 大 神 朋 子同 田 中 雅 敏同 髙 山 大 地同 鶴 利 絵同 宇 加 治 恭 子同 石 井 靖 子同 早 崎 裕 子同 小 栁 美 佳同 池 辺 健 太同 堀 田 明 希同 安 田 裕 明同 山 腰 健 一同 杉 山 真 一同 富 越 和 厚同 横 山 佳 枝同 橋 本 陽 介同 倉 田 梨 恵同 三 田 直 輝(別紙2)製 品 目 録

1 以下の型式の飽和塩水氷製造機

5 SF-021

SF-060SF-180SF-300SF-600SF-1500

2 1以外の飽和塩水氷製造機であって,以下の技術情報のいずれかを用いた飽和塩

水氷製造機

① 生鮮海産物の鮮度保持方法として「塩分濃度が13.6~23.1パーセント

である塩水を凍結させた氷」を用いること

② ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●

(省略)●となる条件で冷媒を用いること(別紙3)営 業 秘 密 目 録ドラム型の製氷機において飽和食塩水を瞬間凍結させて製氷するにあたり,●(省略)●となる条件で冷媒を用いること

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