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平成31(行ウ)118特許出願公開及び審査請求義務付け等請求事件

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裁判所 一部認容 東京地方裁判所
裁判年月日 令和1年10月24日
事件種別 民事
当事者 被告
原告
法令 特許権
特許法18条の28回
実用新案法10条3項7回
特許法46条の24回
特許法47条1項2回
特許法47条2回
特許法64条1項2回
特許法41条1項1回
特許法29条の21回
実用新案法10条1項1回
キーワード 無効18回
実施3回
実用新案権3回
拒絶査定不服審判2回
特許権1回
優先権1回
主文 1 原告の訴えのうち,主位的請求の趣旨に係る各訴え並びに予備的請求の趣旨第1項,第3項,第4項及び第5項に係る訴えをいずれも却下する。20
2 原告の中間確認の訴えをいずれも却下する。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 主文と同旨

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判決文

令和元年10月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成31年(行ウ)第118号 特許出願公開及び審査請求義務付け等請求事件
口頭弁論終結日 令和元年7月9日
判 決
原 告 A
被 告 国
10 処 分 行 政 庁 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 小 野 本 敦
同 進 藤 晶 子
同 近 野 智 香 子
15 同 木 原 理 沙
同 尾 﨑 友 美
主 文
1 原告の訴えのうち,主位的請求の趣旨に係る各訴え並びに予備的
請求の趣旨第1項,第3項,第4項及び第5項に係る訴えをいずれ
20 も却下する。
2 原告の中間確認の訴えをいずれも却下する。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
25 第1 請求の趣旨
(主位的請求)
1 特許庁長官が平成30年11月26日付けでした原告申請の特願2018-
157886に対する特許法18条の2第2項に基づく 2回目の却下理由通
知処分(発送番号158369)は無効であることを確認する。
2 特許庁長官が平成31年2月5日付けでした原告申請の特願2018-15
5 7886に対する出願却下の処分は無効であることを確認する。
3 特許庁長官は原告が申請した特願2018-157886を特許法64条1
項により出願公開せよ。
4 特許庁長官は特許法47条1項により審査官に対して特願2018-157
886の審査を実際の出願日平成30年8月27日を限度とする優先日によ
10 りさせ,本訴口頭弁論終結の日から起算して3か月以内に特許法49条に基づ
く拒絶理由を発見できないときは,特許法51条により特許査定をさせ,特許
庁長官がその特許査定を特許法52条2項により原告に送達せよ。
(予備的請求)
1 特許庁長官が平成30年11月26日付けでした原告申請の特願2018-
15 157886に対する特許法18条の2第2項に基づく 2回目の却下理由通
知処分(発送番号158369)を取り消す。
2 特許庁長官が平成31年2月5日付けでした原告申請の特願2018-15
7886に対する出願却下の処分を取り消す。
3 特許庁長官が平成30年8月28日付けでした却下理由通知書(発送番号1
20 15052)に対して原告の平成30年11月5日までの弁明書(発送番号1
15052)に応答する処分をしないことが違法であることを確認する。
4 特許庁長官は原告が申請した特願2018-157886を特許法64条1
項により出願公開せよ。
5 特許庁長官は特許法47条1項により審査官に対して特願2018-157
25 886の審査を平成30年8月27日を限度とする優先日としてさせ,本訴口
頭弁論終結の日から起算して3か月以内に特許法49条に 基づく拒絶理由を
発見できないときは,特許法51条により特許査定をさせ,特許庁長官がその
特許査定を特許法52条2項により原告に送達せよ。
(中間確認の訴え)
1 特願2013-162348の拒絶査定理由は特願2018-157886
5 の拒絶理由として援用は成り立たない。
2 特願2014-158626の拒絶査定理由は特願2018-157886
の拒絶理由として援用は成り立たない。
第2 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨
10 第3 事案の概要
1 特許庁長官は,発明の名称を「公開報道される世論調査支持率から過去デー
タ嶺谷区間逆転ないなだらか な3次回帰式適用によりバンドワゴン効果アン
ダードッグ効果を包括したアナウンス効果を反映した選挙得票率予測(pre
diction)装置」とする発明に係る原告の特許出願(特願2018-1
15 57886。以下「本件特許出願」という。)につき,本件特許出願は考案の名
称を「情勢調査が公表される選挙事前標本調査に基く母集団得票率予測と党派
別議席数予測を組み合わせた予測装置」とする考案に係る実用新案登録に基づ
くものであるところ,上記実用新案登録は平成26年8月4日にされた特許出
願を変更して出願されたものであり,実用新案法10条3項により,上記実用
20 新案登録の出願は同日にされたものとみなされるから,本件特許出願は特許法
46条の2第1項1号所定の期間内にされたものではないとして,本件特許出
願は却下すべきものである旨の通知を2度行った上で同出願を却下した。
本件は,原告が,本件特許出願には平成26年8月4日にされた特許出願に
係る発明及び上記実用新案登録に係る考案とは異なる発明が新たに追加され
25 ているから,特許法46条の2第2項ただし書及び実用新案法10条3項ただ
し書により,出願日遡及の効果は及ばないなどと主張して,前記第1記載の各
請求をする事案である。
2 前提事実(末尾の証拠及び弁論の全趣旨により認められる。)
(1) 原告は,平成25年8月5日,発明の名称を「国会議員選挙事前調査政
党別議席数予測システム」とする発明につき,特許出願(特願2013-1
5 62348。以下「本件最初の特許出願」という。)をした(乙1)。
(2) 特許庁の審査官は,平成26年3月3日付けで,本件最初の特許出願に
つき拒絶査定をした(乙2)。
(3) 原告は,平成26年7月1日,上記(2)の拒絶査定に対する拒絶査定
不服審判請求(不服2014-12580)をしたが,特許庁長官は,平成
10 27年2月27日付けで,同審判請求を却下した(乙2ないし4)。
(4) 原告は,平成26年8月4日,発明の名称を「国会議員選挙事前調査政
党別議席数予測システム」とする発明につき,本件最初の特許出願に基づき,
特許法41条1項の規定による優先権主張を伴う特許出願(特願2014-
158626。以下「本件2度目の特許出願」という。)をした(乙5)。
15 (5) 特許庁の審査官は,平成27年6月11日付で,本件2度目の特許出願
につき拒絶査定をした(乙6)。
(6) 原告は,平成27年10月26日,上記(5)の拒絶査定に対する拒絶査
定不服審判請求をした(乙7)。
(7) 原告は,平成27年10月26日,本件2度目の特許出願を基に,考案
20 の名称を「情勢調査が公表される選挙事前標本調査に基く母集団得票率予測
と党派別議席数予測を組み合わせた予測装置」とする考案につき,実用新案
法10条1項による特許出願に基づく実用新案登録出願(実願2015-0
05421。以下「本件実用新案登録出願」という。)をした(乙8)。
(8) 本件実用新案登録出願につき,平成28年2月17日,実用新案権の設
25 定登録(実用新案登録第3203049号。以下「本件実用新案登録」とい
う。)がされた(乙9)。
(9) 原告は,平成30年8月27日,本件実用新案登録を基に,発明の名称
を「公開報道される世論調査支持率から過去データ嶺谷区間逆転ないなだら
かな3次回帰式適用によりバンドワゴン効果アンダードッグ効果を包括し
たアナウンス効果を反映した選挙得票率予測(prediction)装置」
5 とする発明につき,特許法46条の2第1項による実用新案登録に基づく特
許出願(本件特許出願)をするとともに,出願審査請求書及び出願公開請求
書を提出した(乙10ないし12)。
(10) 特許庁長官は,平成30年8月28日付けで,原告に対し,本件特許
出願の基礎とした本件実用新案登録に係る出願日は,実用新案法10条3項
10 本文の規定により平成26年8月4日にされたものとみなされ,本件特許出
願は,特許法46条の2第1項1号所定の期間内にされたものではないから,
特許法18条の2第1項本文の規定により却下すべきものである旨の通知
(以下「本件最初の却下理由通知」という。)をした(乙13)。
(11) 原告は,平成30年9月4日,同月11日,同年10月8日,同月3
15 0日,同年11月2日及び同月5日,特許庁長官に対し,弁明書を提出した
(乙14の1ないし14の6)。
(12) 特許庁長官は,平成30年11月26日付けで,原告に対し,本件最
初の却下理由通知における注意書きの記載中の誤記を訂正した上で,再度本
件特許出願は却下すべきものである旨の通知(以下「本件2度目の却下理由
20 通知」という。)をした(乙15)。
(13) 原告は,平成30年11月30日,特許庁長官に対し,弁明書を提出
した(乙16)。
(14) 特許庁長官は,平成31年2月5日付けで,本件2度目の却下理由通
知に記載した理由により,本件特許出願を却下(以下「本件却下処分」とい
25 う。)した(乙17)。
3 当事者の主張
(1) 原告の主張
別紙「訴状」 「第一準備書面兼中間確認の訴え追加的変更申立」 「中間確
, ,
認の訴え追加的変更申立(請求の趣旨再提出)兼第二準備書面」 「第三準備

書面」 「第四準備書面」 「第五準備書面」の各写しに記載のとおりである。
, ,
5 (2) 被告の主張
ア 主位的請求に係る各訴え並びに予備的請求の趣旨第1,第3,第4及び
第5項に係る各訴えが不適法であること
(ア) 主位的請求の趣旨第1項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第1項に
係る訴えについて
10 主位的請求の趣旨第1項に係る訴えは,本件2度目の却下理由通知が
無効であることの確認を求める無効等確認の訴え(行政事件訴訟法(以
下「行訴法」という。)3条4項),予備的請求の趣旨第1項に係る訴え
は,同通知の取消しを求める処分の取消しの訴え(同条2項)であると
解されるが,特許法18条の2第2項の規定による手続却下の理由の通
15 知は,無効等確認の訴え及び取消の訴えの対象となる「処分」には該当
しないから,本件2度目の却下理由通知の無効確認を求める訴え及び同
通知の取消しを求める訴えはいずれも不適法である。
(イ) 主位的請求の趣旨第2項に係る訴えについて
主位的請求の趣旨第2項に係る訴えは,本件却下処分が無効であるこ
20 との確認を求める無効等確認の訴え(行訴法3条4項)であると解され
るが,本件却下処分の効力を争うには,本件却下処分の取消しの訴えと
いう,より適切な手段が存在するから,本件却下処分についての無効等
確認の訴えは,訴えの利益を欠き不適法である。
(ウ) 主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に
25 係る訴えについて
主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に係
る訴えは,原告が本件特許出願の出願公開請求をしたことに対して,出
願公開がされないことから,その義務付けを求める申請不作為型の義務
付けの訴え(行訴法3条6項2号,37条の3第1項1号)であると解
されるが,特許出願の出願公開は,義務付けの訴えの対象となる「処分」
5 には該当しないから,本件特許出願の出願公開の義務付けの訴えは不適
法である。
(エ) 主位的請求の趣旨第4項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第5項に
係る訴えについて
主位的請求の趣旨第4項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第5項に係
10 る訴えは,原告が本件特許出願の審査請求をしたにもかかわらず,特許
庁長官が審査官に対して本件特許出願の実体審査をさせないことから,
その義務付けを求める申請不作為型の義務付けの訴えと解されるが,特
許庁長官が審査官に特許出願の審査(特許法47条)を開始させる行為
は,義務付けの訴えの対象となる「処分」に該当しないから,当該行為
15 の義務付けの訴えは不適法である。
(オ) 予備的請求の趣旨第3項に係る訴えについて
予備的請求の趣旨第3項に係る訴えは,原告が提出した本件各弁明書
に対する応答がされないことについて,違法であることの確認を求める
不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項)と解されるが,特許法18
20 条の2第2項の規定に基づき弁明書を提出する行為は,特許庁長官の処
分又は裁決を求める行為ではなく,また,弁明書が提出されたからとい
って特許庁長官は何らかの処分又は裁決をすべき義務を負うものでもな
い。したがって,弁明書を提出する行為は行訴法3条5項の「法令に基
づく申請」に該当しないから,本件各弁明書に対する応答がされないこ
25 とに係る不作為の違法確認の訴えは不適法である。
イ 中間確認の訴えについて
原告の中間確認の訴えは,本件特許出願について,本件最初の特許出願
及び本件2度目の特許出願の各拒絶査定の際の理由による拒絶査定を禁止
することを求めるものと解され,法律関係の成立又は不成立に係るものと
いえないことは明らかである。また,原告の中間確認の訴えはいずれも,
5 本件却下処分が不適法であることを前提としたものであり,原告の訴えの
うち適法なものである予備的請求の趣旨第2項についての判断,すなわち,
本件却下処分の適法性の判断との関係において,先決的関係にあるといえ
ないことも明らかである。したがって,原告の中間確認の訴えはいずれも
不適法である。
10 ウ 予備的請求の趣旨第2項に係る原告の請求は理由がないこと
本件実用新案登録出願の出願手続は,平成27年10月26日にされて
いるが,本件実用新案登録出願は,本件2度目の特許出願を基にしてされ
た変更出願であり,特許出願を実用新案登録出願に変更した場合,その特
許出願の時に出願がされたものとみなされるから,本件実用新案登録出願
15 は,本件2度目の特許出願がされた平成26年8月4日にされたものとみ
なされる。そして,本件実用新案登録を基にした本件特許出願がされたの
は平成30年8月27日であるから,本件特許出願は,もとの実用新案登
録に係る出願である本件実用新案登録出願の日である平成26年8月4日
から3年を経過した後にされたものであり,特許法46条の2第1項所定
20 の期間を徒過してされた不適法なものであって,その補正をすることがで
きないものである。したがって,特許庁長官が,特許法18条の2第1項
に基づき,本件特許出願を却下したことには誤りはなく,適法である。
第4 当裁判所の判断
1 主位的請求の趣旨第1項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第1項に係る訴え
25 について
主位的請求の趣旨第1項に係る訴えは,本件2度目の却下理由通知が無効で
あることの確認を求める無効等確認の訴え(行訴法3条4項)であり,予備的
請求の趣旨第1項に係る訴えは,同通知の取消しを求める処分の取消しの訴え
(同条2項)であると解されるところ,これらの訴えが適法であるためには,
同通知が「処分」に該当することが必要である。
5 「処分」とは,公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち,その行
為によって,直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律
上認められているものをいうと解される(最高裁昭和30年2月24日第一小
法廷判決・民集9巻2号217頁,最高裁昭和39年10月29日第一小法廷
判決・民集18巻8号1809頁)。
10 しかして,本件2度目の却下理由通知は,特許法18条の2第2項の規定に
よる手続却下の理由の通知であるところ,この通知は,特許出願,請求その他
特許に関する手続が不適法なものであって,その補正をすることができないも
のを同条1項の規定により却下する場合に,当該手続をした者に対して事前に
意見陳述の機会を付与するためのものにすぎず,同人その他国民の権利義務に
15 直接影響を及ぼすとはいえないものである。そうすると,同通知は,直接国民
の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではなく,
「処分」には該当し
ないというほかない。
したがって,主位的請求の趣旨第1項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第1
項に係る訴えはいずれも不適法である。
20 2 主位的請求の趣旨第2項に係る訴えについて
主位的請求の趣旨第2項に係る訴えは,本件却下処分が無効であることの確
認を求める無効等確認の訴え(行訴法3条4項)であると解されるところ,処
分の無効等確認の訴えは,当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現
在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り,
25 提起することができる(行訴法36条)。
本件においては,原告は予備的請求の趣旨第2項において本件却下処分の取
消しを求めており,この訴えを不適法であるとする理由は見当たらない。そし
て,上記についての取消原因となる処分の瑕疵は,主位的請求の趣旨第2項に
係る訴えについての無効原因となる当該処分の瑕疵を包含するものであり,か
つ,処分を取り消す判決が確定すれば,処分時にさかのぼって当該処分の効力
5 は失われ,無効等確認の訴えの場合と同様に,処分をした行政庁その他の関係
行政庁は当該判決に拘束されるのであるから,本件却下処分の取消訴訟により,
本件却下処分が無効であることの確認を求める無効等確認の訴え の目的を達
することができるものというべきである。
したがって,主位的請求の趣旨第2項に係る訴えは不適法である。
10 3 主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に係る訴え
について
主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4項に係る訴
えは,原告が本件特許出願の出願公開請求をしたことに対して,出願公開がさ
れないことから,その義務付けを求める申請不作為型の義務付けの訴え(行訴
15 法3条6項2号,37条の3第1項1号)であると解されるところ,この訴え
が適法であるためには,特許出願の出願公開が「処分又は裁決」に該当する必
要がある。
特許出願が出願公開されると,公開された特許出願の願書に最初に添付した
明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明(拡大先願)と同一の発明
20 について,第三者がした後の特許出願(後願)は拒絶され(特許法29条の2),
出願公開された発明の特許出願人には,特許権の設定登録前に業としてその発
明を実施した者に対する補償金請求権が付与される(同法65条1項)ほか,
出願公開後にその特許出願に係る発明を第三者が実施している場合において
必要があるときは,審査官にその特許出願を他の特許出願に優先して審査させ
25 ることができる(同法48条の6)といった法的効果が生じる。しかし,拡大
先願は,出願公開を条件として公知を擬制し,同一の後願一般を排除するもの
であって,もとよりその効果が特定の者を対象として生ずるものではない。ま
た,補償金請求権や優先審査についても,出願公開に加えてそれぞれ他の要件
を満たさなければ法的効果は生じず,その効果も出願公開後に特許出願に係る
発明と同一の発明を業として実施する不特定の第三者一般に及ぶものであ っ
5 て,特定の者を対象として生ずるものではない。
そうすると,上記法的効果はいずれも,出願公開を条件として特許法が特別
に規定した一般的な効果であるというべきであり,出願公開は,それ自体によ
って直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定するものではないから,
「処分」には該当しないというほかない。
10 また,
「裁決」とは行政庁の処分その他公権力の行使に関し相手方その他の利
害関係人が提起した審査請求その他の不服申立てに対し,行政庁が義務として
審理判定する行為であるから,特許出願の出願公開が「裁決」に該当しないこ
とは明らかである。
したがって,主位的請求の趣旨第3項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第4
15 項に係る訴えはいずれも不適法である。
4 主位的請求の趣旨第4項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第5項に係る訴え
について
主位的請求の趣旨第4項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第5項に係る訴
えは,原告が本件特許出願の審査請求をしたにもかかわらず,特許庁長官が審
20 査官に対して本件特許出願の実体審査をさせないことから,その義務付けを求
める申請不作為型の義務付けの訴えと解されるところ,この訴えが適法である
ためには,特許庁長官が審査官に特許出願の審査をさせることが「処分又は裁
決」に該当する必要がある(なお,主位的請求の趣旨第4項及び予備的請求の
趣旨第5項には,特許庁長官が審査官に実体審査をさせ,拒絶の理由を発見で
25 きないときは特許査定をしてその送達をすることとの旨の記載があるが,同記
載内容に照らすと,原告は,上記のとおり,特許庁長官が審査官に対して本件
特許出願の実体審査をさせることを求めているものと解される。 。

しかし,特許庁長官が審査官に特許出願の審査(特許法47条)を開始させ
ることは,事柄の性質上,特許出願人その他国民の権利義務に直接影響を及ぼ
すとはいえないものであって,上記は,直接国民の権利義務を形成し又はその
5 範囲を確定するものではなく,「処分」には該当しないというほかない。
また,特許庁長官が審査官に特許出願の審査を開始させることが「裁決」に
該当しないことは明らかである。
したがって,主位的請求の趣旨第4項に係る訴え及び予備的請求の趣旨第5
項に係る訴えはいずれも不適法である。
10 5 予備的請求の趣旨第3項に係る訴えについて
予備的請求の趣旨第3項に係る訴えは,本件最初の却下理由通知に対する原
告の弁明書に対する応答がされないことについて,違法であることの確認を求
める不作為の違法確認の訴え(行訴法3条5項)であると解される。
不作為の違法確認の訴えは,行政庁が「法令に基づく申請」に対し,相当の
15 期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず,これをしない
ことについての違法の確認を求めるものであるから,この訴えが適法となるた
めには,原告が本件最初の却下理由通知を受けた後に特許法18条の2第2項
の規定に基づき弁明書を提出したことが,行訴法3条5項の「法令に基づく申
請」に該当する必要がある。
20 「法令に基づく申請」とは,行政庁の処分又は裁決を求める行為であって,
当該行為に対して行政庁が何らかの処分又は裁決をすべき義務を負うものを
いう。しかし,特許法18条の2第2項の規定に基づき弁明書を提出する行為
は,不適法な手続であってその補正をすることができないものについて,特許
庁長官が同条1項の規定により却下する場合に,当該不適法な手続をした者が,
25 却下理由の通知を踏まえ,自らの意見を陳述する行為であるにすぎない。そう
すると,弁明書を提出する行為自体は,特許庁長官の処分又は裁決を求める行
為ではなく,また,弁明書が提出されたからといって特許庁長官は何らかの処
分又は裁決をすべき義務を負うものでもないから,原告の上記行為は,行訴法
3条5項の「法令に基づく申請」には該当しないというほかない。
したがって,予備的請求の趣旨第3項に係る訴えは不適法である。
5 6 中間確認の訴えについて
中間確認の訴え(民訴法145条)とは,裁判が訴訟の進行中に争いとなっ
ている法律関係の成立又は不成立に係るときは,当事者は,請求を拡張して,
その法律関係の確認の判決を求めることができるというものである。
しかし,原告の中間確認の訴えは,本件特許出願について,本件最初の特許
10 出願及び本件2度目の特許出願の各拒絶査定の際の理由による拒絶査定を禁
止することを求めるものと解されるところ,このような禁止の求めは,事柄の
性質上,いずれも法律関係の成立又は不成立に係るものとはいえないというほ
かない。
したがって,原告の中間確認の訴えはいずれも不適法である。
15 7 予備的請求の趣旨第2項に係る請求について
前記前提事実(9)記載のとおり,本件特許出願は,本件実用新案登録に基づ
く特許出願であるから,特許法46条の2第1項1号により,本件実用新案登
録の出願日から3年を経過したときは不適法となる。
しかして,前記前提事実(7)記載のとおり,本件実用新案登録出願は本件2
20 度目の特許出願を変更したものであるから,実用新案法10条3項により,そ
の出願日は本件2度目の特許出願の出願日である平成26年8月4日である。
一方,本件特許出願がされたのは平成30年8月27日であるから,本件実用
新案登録の出願日より既に3年が経過しており,本件特許出願は不適法である。
そうすると,特許庁長官が,本件特許出願は特許法46条の2第1項1号の要
25 件を満たさないとして,本件特許出願を却下したことは適法であるといえる。
したがって,原告の予備的請求の趣旨第2項に係る請求は,理由がないとい
うべきである。
これに対し,原告は,要するに,本件特許出願には,本件2度目の特許出願
に係る発明又は本件実用新案登録に係る考案とは異なる発明が新たに追加さ
れており,本件特許発明又は本件実用新案登録は,特許法46条の2第2項た
5 だし書又は実用新案法10条3項ただし書の「他の特許出願」 「他の実用新案

登録出願」に該当するから,出願日遡及の効果は及ばないと主張するものと解
される。
実用新案法10条3項ただし書は,特許出願又は意匠登録出願に基づく実用
新案登録出願が実用新案法3条の2に規定する他の実用新案権登録出願又は
10 特許法29条の2に規定する他の特許出願に該当する場合におけるこ れらの
規定の適用については,出願日が遡及しないことを定めているところ,この規
定の趣旨は,変更による新たな出願において,その考案を説明するために新し
い技術的事項が明細書や図面に入ることがあり,この場合,変更による新たな
出願の出願日がその基となった出願の出願日に遡るため,そのまま実用新案法
15 3条の2や特許法29条の2の規定を適用すると,変更出願がされた時に初め
て明細書に記載された考案まで出願日遡及の効果を受けて後願を拒絶できる
ことになるという不都合な結果を回避するものであり,特許法46条の2第2
項ただし書も同様の趣旨である。
そうすると,実用新案法10条3項ただし書は,特許法29条の2や実用新
20 案法3条の2の適用場面において,特許出願又は意匠登録出願に基づく実用新
案登録出願が実用新案法3条の2に規定する他の実用新案権登録出願又は特
許法29条の2に規定する他の特許出願に該当する場合に,出願日遡及の効果
を否定するものであるから,そもそも本件却下処分の理由となった特許法46
条の2第1項1号の要件該当性を検討する場面においてはその適用の前提を
25 欠いているものというべきであり,この理は特許法46条の2第2項ただし書
についても同様に当てはまるものといえる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
8 結論
その他,原告は縷々主張するが,各主張内容を精査しても,いずれも上記説
示を左右するものではない。
5 以上によれば,原告の主位的請求の趣旨に係る各訴え及び予備的請求の趣旨
第1項,第3項,第4項及び第5項に係る訴え並びに中間確認の訴えはいずれ
も不適法であるから,これらを却下することとし,その余の請求は理由がない
から,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
10 東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 奥 俊 彦
20 裁判官 本 井 修 平
(別紙)省略

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