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平成30(ワ)28211商標権移転登録手続等請求事件

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裁判所 東京地方裁判所
裁判年月日 令和1年10月9日
事件種別 民事
法令 商標権
民法130条5回
キーワード 商標権30回
ライセンス8回
許諾1回
主文
事件の概要 1 事案の要旨 本件は,原告が,被告の有する別紙1商標権目録記載の各登録番号の各商標権 (以下,併せて「本件商標権」という。)について,被告との間で締結した買戻契約 に定める買戻権を行使する意思表示をしたとして,被告に対して,上記買戻契約に5 よる移転登録請求権に基づき,原告への本件商標権の移転登録手続を求める事案で ある。 後記3及び4のとおり,上記買戻契約による移転登録請求権が発生するための条 件の成就の有無について当事者間に争いがあり,被告は,原告の上記請求権は発生 していない旨主張している。10 2 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記し ない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1) 当事者 ア 原告 原告は,1889年に創業した,服飾品,装飾品及び香料の製造・販売を国際的15 に行う株式会社である。

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判決文

令和元年10月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成30年(ワ)第28211号 商標権移転登録手続等請求事件

口頭弁論終結日 令和元年7月17日

判 決

原 告 ジャンヌ ランバン ソシエテ アノニム

同訴訟代理人弁護士 小 笠 原 耕 司

同 菊 地 鈴 華

同 在 原 一 志

同訴訟復代理人弁護士 菊 池 僚 太

被 告 伊 藤 忠 商 事 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 藤 枝 純

同 柳 澤 宏 輝

同 西 村 修 一

同訴訟復代理人弁護士 福 原 裕 次 郎

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求

被告は,原告に対し,別紙1商標権目録記載の各登録番号の各商標権の移転登録手続をせよ。

第2 事案の概要

1 事案の要旨本件は,原告が,被告の有する別紙1商標権目録記載の各登録番号の各商標権(以下,併せて「本件商標権」という。)について,被告との間で締結した買戻契約

5 に定める買戻権を行使する意思表示をしたとして,被告に対して,上記買戻契約による移転登録請求権に基づき,原告への本件商標権の移転登録手続を求める事案である。後記3及び4のとおり,上記買戻契約による移転登録請求権が発生するための条件の成就の有無について当事者間に争いがあり,被告は,原告の上記請求権は発生していない旨主張している。2 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲の証拠(以下,書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者ア 原告原告は,1889年に創業した,服飾品,装飾品及び香料の製造・販売を国際的に行う株式会社である。イ 被告被告は,大手総合商社である。

(2) 本件商標権本件商標権は,いずれも後記(3)から(5)までの経緯により,被告に権利が帰属するようになったものである。本件商標権には,原告が商標権を取得した上で被告への権利移転がされたもののほか,原告から出願人の地位の譲渡を受けて被告が商標権を取得したものが含まれる(甲1,9,10)。

(3) 平成13年の独占販売契約の締結原告は,平成13年11月14日,被告との間で,被告に対し,原告が保有していた本件商標権(当時成立していたもの)に係る商標などを使用した服飾品等の日本における製造及び販売を独占的に許諾するとの内容の独占販売契約を締結した。

(4) 金銭消費貸借契約等の締結原告は,平成15年6月30日,被告との間で,被告から20億円を借り入れる旨の金銭消費貸借契約及びこの借入金の弁済を怠った場合には,本件商標権を被告

5 に移転する旨の譲渡担保権設定契約を締結した。

(5) 代物弁済契約による本件商標権の譲渡原告は,平成16年1月14日,被告との間で,上記(4)の借入金を含む原告の被告に対する債務について,被告に本件商標権(当時出願中であったものについては出願人の地位)を譲渡することで代物弁済する旨の契約(以下「本件代物弁済契約」という。)を締結し,これに基づいて,原告は,被告に対し,上記債務への弁済として本件商標権(当時出願中であったものについては出願人の地位)を譲渡した(甲1)。

(6) 買戻契約の締結ア 原告は,平成16年1月14日,被告との間で,原告があらかじめ定められた時期に定められた対価にて本件商標権を買い戻す権利(以下「本件買戻権」という。)を有する旨を定める買戻契約(以下「本件買戻契約」という。)を締結した(甲2)。イ 本件買戻権の行使条件は,原告が所定の行使時期に買戻権を行使しなかったたびに改定され,平成25年10月27日の改定の結果,次の(ア)及び(イ)の内容で合意された(甲2,3)。(ア) 第3オプション行使時期:平成27年12月31日(第3行使日)行使価格:50億7000万円から400万米ドル及び400万ユーロを差し引いた額(イ) 第4オプション行使時期:平成29年12月31日(第4行使日)行使価格:50億7000万円から400万米ドル及び875万ユーロを差し引いた額ウ 本件買戻契約(前記イの改定後のもの)には,前記イの規定のほか,別紙2本件買戻契約(抜粋)記載の内容の規定(第8条(c)で引用されている別紙Aの条件

5 概要書(以下「本件条件概要書」という。)は省略する。)が存在する(甲2,3,乙1)。本件買戻契約第4条(a)(iii),第7条(b)及び第8条(c)の規定によれば,本件買戻権の行使による原告の移転登録請求権が発生するためには,買戻後の本件商標権の被告による使用等について,本件条件概要書に基づいて独占ライセンス・販売店契約(以下「新規独占販売契約」という。)が締結されることが条件(以下「本件条件」という。)とされていた(本件条件の存在については,当事者間に争いがない。。)また,本件代物弁済契約(第14条)及び本件買戻契約(第10条)においては,準拠法を日本法とすることが合意されていた(甲1,2)。

(7) 本件買戻権行使の意思表示原告は,平成27年10月21日,被告に対して,本件買戻権を行使する旨の意思表示を書面で行った(甲5)。

(8) 新規独占販売契約の締結を巡る交渉等上記(7)の後,原告と被告との間では,新規独占販売契約の締結についての交渉が行われた。また,原告は,平成29年1月27日,被告を相手方として,新規独占販売契約の締結を求めて調停の申立てをしたが,同申立てに係る調停事件(以下「本件調停」という。)は,平成30年1月16日に不成立で終了した(乙18,弁論の全趣旨)。3 争点

⑴ 原告と被告との間で新規独占販売契約が締結されたか(争点1)

⑵ 本件条件(新規独占販売契約の締結)の成就が擬制されるか(争点2)ア 平成27年12月31日時点での条件成就が擬制されるか(争点2-1)イ 本件調停終了時点(平成30年1月16日)での条件成就が擬制されるか(争点2-2)

⑶ 原告による弁済の提供の有無(争点3)4 争点に対する当事者の主張

5 (1) 争点1(原告と被告との間で新規独占販売契約が締結されたか)について【原告の主張】原告は,平成27年11月11日頃,被告に新規独占販売契約の第1草案を提示した。これに対して,被告より,同月25日頃に新規独占販売契約に対応する内容を含む契約書草案が提示された。その後も原告被告間でのやりとりがあり,同年12月4日頃,原告は,改訂した新規独占販売契約の草案を被告に再度提示している。このように新規独占販売契約の草案交換を通じて,原告被告間で,少なくとも本件条件概要書に沿った内容で新規独占販売契約を締結する旨の意思表示がある以上,遅くともクロージング日として合意された同年12月31日の時点で,新規独占販売契約は,少なくとも本件条件概要書記載の基本事項に沿った内容でクロージング条件を満たす程度には締結されていたといえる。【被告の主張】原告の主張は否認する。新規独占販売契約は締結されていない。そもそも,ライセンス契約や独占販売契約のような様々な契約条件を含む企業間の取引契約が,草案の交換のみによって締結されたというのは現実的ではなく,また,原告と被告とが互いに提示した草案の内容は基本的な条項について大きくかい離していたため,これらの交換を通じて,新規独占販売契約が締結されたとはいえない。原告が平成27年12月4日頃に被告に送付した草案は,本件条件概要書の内容からかけ離れたものであり,被告が繰り返し指摘したにも関わらず,原告は,これを本件条件概要書の基本事項に沿ったものに修正しようとしなかった。したがって,原告と被告との間で,同月31日の時点で,本件条件概要書の記載に沿った内容で新規独占販売契約が締結されていたとはいえない。

(2) 争点2(本件条件(新規独占販売契約の締結)の成就が擬制されるか)について

5 ア 争点2-1(平成27年12月31日時点での条件成就が擬制されるか)について【原告の主張】仮に,新規独占販売契約の締結の事実がなかったとしても,同契約の締結という本件条件については,以下のとおり,条件成就によって本件商標権を失うという不利益を受ける被告が故意にその成就を妨げたものであるから,民法130条により,遅くとも,当事者間で交渉をまとめるに合理的な期間が経過した当初のクロージング日(平成27年12月31日)には成就したとみなされる。(ア) 被告は,平成27年10月9日に原告に対して本件買戻権の行使を見送るように要請し,同日付けの書面で,本件買戻権の行使の撤回を狙って,原告が本件買戻権を行使する場合には,原告の子会社であるランバンジャパン株式会社(以下「ランバンジャパン」という。)と被告との間で10年近く継続していたブランドプロモーション等に関する契約(以下「本件PR契約」という。)を延長しない旨の通知を行った。(イ) 被告は,同年12月11日には,本件買戻権の行使を撤回させるため,新規独占販売契約締結後に被告がサブライセンシーから受けるロイヤルティ料率を8パーセントから2パーセントに大幅減額する旨を原告に通知した。本件条件概要書の規定(第1条第3文及び第3条第2文)によれば,新規独占販売契約においては,被告がサブライセンシーから受け取るロイヤルティ料率を0パーセントにすることによって,原告が被告から受け取るロイヤルティ料率も0パーセントにすることが可能となっており,原告による更新拒絶が制限されていることと併せると,原告に本件商標権のロイヤルティが全く入らない状態を半永久的に継続させることが可能な条項となっていた。被告は上記通知の際に,ロイヤルティ料率を0パーセントにするとは明言しなかったものの,上記の規定からすれば,原告に支払うロイヤルティを半永久的にゼロにすることも可能であるとの趣旨の主張をして,原告に本件買戻権行使の撤回を迫

5 ったものといえる。(ウ) 被告は,本件商標権が原告に移転することを妨害するため,一方的なロイヤルティの減額を突如として原告に突きつけることなどにより,被告との関係継続に対して大きな不安を抱かせる程度に原告を困惑させ,いたずらに新規独占販売契約の締結を遅延させ,クロージング日を経過させた。(エ) 本件買戻契約第8条(c)では,「条件の詳細についても別途協議し決定する」とされており,本件条件概要書に記載がない規定については,原告と被告との協議が予定されていたところ,被告は,原告の提案について,本件条件概要書に記載がないことを理由に誠実に対応しなかったのであり,新規独占販売契約の締結に向けた協議・交渉を遅延させた。【被告の主張】原告の主張は争う。本件条件は,民法130条に基づき条件成就が擬制され得る条件ではなく,そもそも同条の適用はないと解すべきである。また,仮に同条の適用があるとしても,以下のとおり,同条の要件は満たされておらず,本件条件の成就は擬制されない。(ア) 被告は,契約上認められたタイミングで本件PR契約を終了させたものであり,また,本件買戻権が行使された際の本件商標権に係る利害関係の変動に起因して本件PR契約を終了させたにすぎないから,新規独占販売契約の締結の妨害又は本件買戻権の行使の撤回を狙って本件PR契約を延長しないと申し入れたものではない。(イ) 原告が指摘する本件条件概要書の規定(第1条第3文及び第3条第2文)は,いずれも他のライセンス契約においても通常用いられる一般的な条項であり,合理的な理由があって設けられた条項である。半永久的にサブライセンスのロイヤルティ料率を0パーセントとすることは被告にとっても経済合理性がなく,被告が上記規定をそのように利用するおそれはないし,被告が,半永久的に原告に支払うロイ

5 ヤルティをゼロにすることが可能との趣旨の主張をして本件買戻権の行使の撤回を迫ったという事実はない。平成27年12月11日にロイヤルティ料率の引下げ予定があることを原告に通知した当時,被告の子会社ないし関連会社である一部のライセンシーが多額の営業損失を計上し,被告に対してロイヤルティ料率の大幅な引下げを求めていたのは事実であった。また,上記通知の後も,原告は,新規独占販売契約の締結に向けての交渉を継続しており,被告は,同月28日に,原告に対して,原告が本件条件概要書の内容を尊重するならば,ロイヤルティ料率の引下げについても原告との協議の対象とする用意がある旨を原告に伝え,原告に対して譲歩する態度を示した。したがって,ロイヤルティ料率の引下げ予定の通知によって新規独占販売契約の締結が妨害されたとの事実はない。(ウ) 新規独占販売契約の締結に向けた協議・交渉は平成27年12月31日をもって打ち切られたのではなく,平成28年1月以降も平成30年9月末頃に中止するまで継続したのであり,被告の行為によって新規独占販売契約の締結又は締結に向けた原告被告間の協議・交渉が妨害されたことはない。新規独占販売契約の締結に向けた協議・交渉が長引いた原因は,専ら,本件条件概要書からかい離した提案をし続けた原告にあり,被告がこれを妨害したということはない。イ 争点2-2(本件調停終了時点(平成30年1月16日)での条件成就が擬制されるか)について【原告の主張】仮に,平成27年12月31日時点で本件条件の成就が擬制されないとしても,本件条件は,以下のとおり,本件買戻権の行使により本件商標権を失う被告が,その成就を故意に妨げたものであるから,遅くとも平成30年1月16日に原告と被告との間の本件調停が不成立となった時点で成就したものとみなされる。

5 (ア) 原告と被告は,平成27年12月31日の後も,新規独占販売契約の締結に向けて任意交渉と調停を継続しており,原告被告間には,同日に設定された当初のクロージング日を,少なくとも調停終了時まで延長する旨の合意があった。(イ) 被告は,被告の意向次第で,半永久的に原告に支払うロイヤルティをゼロにできる条項が本件条件概要書に定められていることを奇貨として,明らかに商慣習に反する主張をするばかりで,本件調停においても,新規独占販売契約に係る何ら具体的な条項案を提示することなく,いたずらにその締結を遅延させ,本件条件の成就を妨げた。【被告の主張】原告の主張は争う。本件条件に,民法130条の適用はない上,以下のとおり,同条の要件は満たされておらず,本件条件の成就は擬制されない。(ア) そもそも,原告と被告との間で,平成27年12月31日を当初のクロージング日として設定したという事実はないから,クロージング日を本件調停終了日まで延長するとの合意をしたとの事実もない。(イ) 被告は,本件調停が終了するまでの期間に加え,本件調停終了後も,本件訴訟が提起された直後の平成30年9月末頃まで,一貫して誠実に原告との間で協議・交渉を行った。新規独占販売契約の締結に向けた協議・交渉が長引いた原因は,原告が,本件条件概要書の内容に反した提案を修正せず,維持し続けたことにあり,被告がこれを妨害したということはない。

(3) 争点3(原告による弁済の提供の有無)について【原告の主張】原告は,本件買戻権行使の意思表示に合わせて,行使価格の支払を行う旨を伝えたところ,被告は,平成27年10月9日付けの電子メールで買戻権行使に応じることができない旨の返答をして,弁済の受領拒絶の意思を明らかにし,振込先とな

5 る指定口座を教えることもなかったため,原告は行使価格の支払ができなかった。このように,本件買戻権の行使に際して,被告は明確に受領しない意思を表明しているから,弁済の提供は要せず,仮に弁済の提供を要するとしても原告は口頭の提供によってこれを行っている。【被告の主張】原告の主張は否認する。被告は,本件買戻権の行使に応じないとの返答をしたことはなく,買戻権の正式な行使がされる前の段階で,従前同様に買戻権を行使しないでほしいという要望を伝えたに過ぎない。また,クロージングの条件を満たしていない段階では,原告の代金支払義務は発生していないものであるから,原告の弁済の提供と評価されるべき行為も認められず,被告による弁済の受領拒絶の意思表示もない。

第3 当裁判所の判断

1 新規独占販売契約の締結に関する交渉経過等

前記の前提事実に証拠(甲4,5,11~13,15,16,乙1,4~11,13~19)及び弁論の全趣旨を総合すれば,新規独占販売契約の締結に関する交渉経過等について,以下の事実が認められる(認定事実の末尾に,当該事実の認定に用いた主な証拠を掲記する。。)

(1) 原告は,平成27年10月2日,被告との会議の際に,本件買戻権を行使す

る意向がある旨を被告に伝えた(甲4)。

(2) 被告は,平成27年10月9日,原告に対して,過去において本件買戻権を

行使しなかったのと同様に,今回も,本件買戻権の行使日を修正し,本件買戻権の行使を見送ってもらいたい旨の電子メールを送信した(甲4)。

(3) 本件PR契約は,被告がランバンジャパンに対して本件商標権に関するプロ

モーション業務等の対価として一定額を支払うとの内容であったところ,本件PR契約は平成27年9月30日に契約期間満了によって終了しており,同年10月初

5 めの時点では,その後の延長についての正式な合意はされていなかった(甲15,

16,乙6)。被告は,同年10月9日付けの書面によって,本件PR契約の延長について,本件買戻権が実際に行使された場合には,平成28年1月1日以降の延長の意思はなく,平成27年12月31日までに限って延長する予定である旨を原告に通知した(甲16)。

(4) 原告は,平成27年10月21日,被告に対して,書面によって本件買戻権

の行使の意思表示を行った(甲5)。

(5) 原告と被告は,新規独占販売契約の締結に向けた協議をするために平成27

年11月12日に会議を設定し,原告は,同月10日頃に新規独占販売契約の草案(以下「原告第1草案」という。)を被告に送付した(甲11)。

(6) 原告は,平成27年12月12日の会議の場において,新規独占販売契約の

草案を作成するよう被告に要請し,これを受けて,被告は,同月25日に被告作成の草案(乙4。以下「被告第1草案」という。)を原告に送付した(甲11)。

(7) 原告は,平成27年12月4日,原告第1草案を修正した草案(甲12の2。

以下「原告第2草案」という。)を被告に送付した。原告第2草案は,原告第1草案同様,被告の売上目標やロイヤルティ額の下限を設けるなどの規定を含んでいた(甲12)。

(8) 被告は,平成27年12月11日頃,被告第1草案に対する修正案(以下

「被告第2草案」という。)を送付するとともに,原告第2草案の内容のうち被告が受け入れられない部分等について記載した書面を送付した(乙7)。

(9) 被告は,平成27年12月11日頃,同日付の書面によって,新規独占販売

契約の締結後に被告が被告の子会社及び関連会社に対してサブライセンスする際のロイヤルティ料率について,これらの会社に営業損失が生じていることなどを理由として,当時適用されていた8パーセントから2パーセントへの引下げを予定している旨を原告に通知した(甲13)。

5 (10) 本件条件概要書第3条第2文においては,新規独占販売契約の締結後は,

被告がサブライセンシーから受領するロイヤルティの50パーセントに相当するロイヤルティを被告が原告に支払うことが予定されていたところ,原告は,平成27年12月14日,上記(9)のロイヤルティ料率の引下げ予定に反対し,新規独占販売契約の条項についての被告の上記(8)の意見についても反対した上で,被告の対応が変わらない場合には被告に対する訴訟を提起することを示唆する電子メールを被告に送信した(乙8)。

(11) 被告は,上記(10)の電子メールに対する返答として,同月15日頃,原告

第2草案は本件条件概要書からかい離した内容を含んでいるとして,その相違点を

具体的に指摘した上で,被告第2草案の方が本件条件概要書に合致した内容であるから,被告第2草案を基にした協議が今後行われるべきであるとの意見を記載した書面を原告に送付した(乙10)。

(12) 原告は,同月26日,再度,被告の対応を非難し,被告に対する訴訟を提

起する旨の電子メールを被告に送信した(乙9)。

(13) 被告は,同月28日頃,サブライセンシーへのロイヤルティ料率を8パー

セントから引き下げてはならないとの規定は本件条件概要書には記載がないとしつつ,原告が本件条件概要書の内容を尊重するならば,子会社や関連会社へのサブライセンスのロイヤルティ料率の引下げの問題について原告と協議する用意がある旨の書面を原告に送付した(乙5)。

(14) 原告と被告は,平成28年に入ってからも,それぞれ弁護士を代理人とす

るなどして,新規独占販売契約の締結に向けた交渉を継続した。同年中の交渉においても,新規独占販売契約の内容について,原告は平成27年中に原告が送付した草案に沿った新規独占販売契約の締結を求める旨の対応をし,これに対して,被告は,当該草案は本件条件概要書に沿っていないとして,本件条件概要書に沿った内容への修正をするように求めるなどしており,平成27年中の草案に存在していた相違点の解消には至らなかった(乙11,13~18)。

5 (15) 被告は,平成28年2月2日までにランバンジャパンとの間で,本件PR

契約を平成27年10月1日から同年12月31日まで延長する旨を合意し,平成28年2月2日に,合意した内容を記載した覚書を作成した(乙6)。

(16) 原告は,平成29年1月27日,被告を相手方とし,新規独占販売契約の

内容を巡って最終的な合意に至っていないとして,原告と被告間で新規独占販売契約を締結することを申立ての趣旨とする調停の申立てをしたが,本件調停は平成30年1月16日に不成立により終了した(乙18)。

(17) 本件調停終了後,原告の株式の過半数を保有する会社(以下「原告親会社」

という。)と被告との面談が行われ,その際,原告親会社は,原告と被告との間で合弁会社を設立し,当該会社に本件商標権を保有させることを提案した(乙19)。その後,被告と原告親会社との間で合弁会社設立に関する協議・交渉が行われていたところ,原告は平成30年8月31日に本件訴訟を提起し,これを受けて被告は同年9月28日に原告に対して合弁会社に関する協議・交渉を中止する旨を連絡した。

2 争点1(原告と被告との間で新規独占販売契約が締結されたか)について

(1) 前記1で検討した両者間の交渉経緯等からすれば,原告と被告との間では,

平成27年12月31日までに,新規独占販売契約の締結に向けての交渉が行われてそれぞれが作成した草案が交換されているものの,交換された原告と被告の草案には相違点が存在し,それを巡って両者間に対立が生じていたのであって,同年中にこれが解消することはなかったというべきである。さらに,前記1(14)ないし

(17)のとおり,平成28年以降も新規独占販売契約の締結に向けた交渉が継続され

ていたのであり,平成27年12月31日までに原告と被告との間に新規独占販売契約が成立していたとは認め難く,その他,新規独占販売契約の成立を認めるに足りる証拠はない。

(2) 原告は,本件条件概要書に沿った内容で新規独占販売契約を締結する旨の原

告と被告の意思表示の合致がある以上,本件条件概要書の基本事項の限度では新規

5 独占販売契約が成立していたとも主張するが,同年中にやりとりがされていた原告

と被告の草案は,被告が原告に支払うべきロイヤルティの額に下限を設けるかどうかなどの実質的な点で相違するものであり(甲12,乙4,7),前記1(11)のとおり,それぞれの草案が本件条件概要書に沿ったものであるかどうかについても互いに認識の一致が見られない状況であったことからすれば,原告の上記主張は採用できない。

3 争点2(本件条件(新規独占販売契約の締結)の成就が擬制されるか)につ

いて

(1) 争点2-1(平成27年12月31日時点での条件成就が擬制されるか)に

ついてア 被告は,平成27年10月9日に本件買戻権の行使の見送りを求める電子メールを送っているが(前記1(2) ,原告が本件買戻権の書面による正式な行使(前)記 1(4))をする前にされたものであり,これによって本件買戻権行使後の新規独占販売契約の締結を妨害したとはいえない。また,被告は,上記電子メールと同日付けの書面で,本件PR契約を平成28年以降延長しない旨を通知しているが(前記1(3)),本件買戻権の行使によって本件商標権が被告から原告に移転することが見込まれる状況であったことからすれば,買戻権行使後の本件商標権に関するプロモーション業務について,被告が本件PR契約の見直しを希望することは特段不合理とはいえず,実際に本件PR契約を平成27年末で終了させたこと(前記1(15))を含め,新規独占販売契約の締結の妨害に当たるとはいえない。イ 原告は,被告において,新規独占販売契約の更新拒絶が制限されている上で,被告のサブライセンシーから受けるロイヤルティ料率に下限を設けていないとの本件条件概要書の規定内容を利用して,サブライセンスのロイヤルティ料率の引下げ見込みを通知し(前記1(9)),原告に支払うロイヤルティを半永久的にゼロにできる旨を示唆して,原告に本件買戻権の撤回を迫った旨主張する。

5 しかしながら,被告が通知した内容(甲13)には,本件条件概要書の規定内容

を利用して,原告に支払われるべきロイヤルティを半永久的にゼロにできるとの趣旨の主張をしたことをうかがわせる記載はなく,また,被告が引下げの理由について殊更に虚偽の説明をしたと認めるに足りる証拠もない。そして,被告が,ロイヤルティ料率の引下げに反対する原告の意見(前記1(10),(12))を受けて,この問題について原告との協議に応じる用意がある旨の意見を述べていたこと(前記1

(13)),原告と被告とが平成28年以降も新規独占販売契約の締結に向けて協議を継

続していたこと(前記1(14))も考慮すれば,ロイヤルティ料率の引下げ見込みの通知に係る被告の対応が新規独占販売契約の締結を妨害するものであったとは認められないというべきである。ウ 原告は,本件買戻契約第8条(c)では「条件の詳細についても別途協議し決定する」とされており,本件条件概要書に記載がない規定については,原告と被告との協議が予定されていたにもかかわらず,被告は,原告の提案について本件条件概要書に記載がないことを理由に誠実に対応しなかったと主張する。しかしながら,前記1(7)のとおり,原告第2草案においても含まれていた被告の売上目標に関する規定やロイヤルティ額の下限に関する規定等は,単に形式的・手続的な事項に留まらず,新規独占販売契約における原告及び被告の収支に直接的に影響しうる条項を含むものであったということができ,このような内容についても本件買戻契約第8条(c)で定められている協議の対象として許容されていたといえるかについては疑問があるところである。そして,被告は,前記1(11)のとおり,原告第2草案が本件条件概要書からかい離した内容を含むと具体的に指摘した上で,本件条件概要書に記載のない原告第2草案の規定を削除等するように求めていたのであるから,本件条件概要書に記載がないことを理由としてこれらの条項の追加に応じなかった被告の態度をもって本件買戻契約第8条(c)の規定に反するものであったとはいえず,新規独占販売契約の締結を妨害したものともいえない。このことは,被告第2草案に被告から原告へのロイヤルティの支払時期について本件条件概要書

5 の記載を変更する提案が含まれていたこと(乙4,10)を考慮しても同様である。

エ 以上によれば,原告の指摘する各点を考慮しても,平成27年12月31日までに新規独占販売契約が締結されなかったことについて,その締結を被告が故意に妨害したとはいえず,その他,この点を認めるに足りる証拠はない。したがって,本件条件の成就について民法130条の適用があるとした場合でも,平成27年12月31日の時点で本件条件の成就が擬制されるとはいえない。

(2) 争点2-2(本件調停終了時点(平成30年1月16日)での条件成就が擬

制されるか)についてア 前記(1)で検討したとおり,平成27年中に双方が提示した草案には相違点があり,原告が提示した草案に対して,被告が本件条件概要書に記載がない条項の追加に応じないとの対応をしたことをもって,被告が新規独占販売契約の締結を妨害したものとは認められない。前記1(14)及び(16)の経緯からすれば,平成28年以降も,原告と被告との間においては,新規独占販売契約に向けた交渉や調停手続が継続していたものであるが,原告と被告は,互いに平成27年中に自らが提示した草案から大きく主張を変更することはなく,そのために本件調停を経ても新規独占販売契約の締結に至らなかったものと認められる。また,被告は,前記1(17)のとおり,本件調停終了後も原告が本件訴訟を提起する直後まで原告親会社との間での協議に応じていたものであり,本件証拠上,平成28年以降,被告が新規独占販売契約の締結に向けた協議を殊更に拒絶したとの事情は認められない。そうすると,前記(1)で検討した平成27年12月31日までの事情に加え,平成28年以後の協議等の状況を考慮しても,本件調停が終了した平成30年1月16日までに新規独占販売契約が締結されなかったことについて,その締結を被告が故意に妨害したとはいえず,その他,この点を認めるに足りる証拠はない。イ したがって,本件条件の成就について民法130条の適用があるとした場合

5 でも,本件調停が終了した平成30年1月16日で本件条件の成就が擬制されると

はいえない。

4 結論

以上によれば,新規独占販売契約の締結という本件条件が成就したとは認められず,また,その成就が擬制されるとも認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。よって,原告の請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部裁判長裁判官山 田 真 紀裁判官矢 野 紀 夫裁判官西 山 芳 樹別紙1 商標権目録省略別紙2 本件買戻契約(抜粋)

第3条(行使方法)

原告は,書面による行使通知(以下「行使通知」という。)を被告に送付することにより,第3オプション又は第4オプションを行使することができる。ただし,行

5 使通知は第3行使日又は第4行使日,あるいは各々の60日前に被告によって受領

されなくてはならない。

第4条(クロージングの条件)

(a) 第3条の規定に従い行使通知が送付され本件オプション(本件買戻権)が行

使された後,本契約で予定される取引を完了させる被告の義務は,以下の各条件が満たされること,又はこれらに対する権利を被告が放棄することを条件とする。

(ii) 被告から原告に移転する登録済みの本件商標及び事後登録商標(本件商標

権)の譲渡登録を日本特許庁に申請済みであること。

(iii) 本契約に定める原告の表明及び保証は全て,クロージング日においてあら

ゆる重要な点で真実かつ正確であること。

第5条(クロージングの手続)

(a) クロージング日

本契約で予定される取引のクロージングは,第4条に定める条件の達成又は放棄後に可能な限り速やかに東京時間の午前10時あるいは原告と被告が合意する別の日時に,東京にある被告の本社にて,あるいは原告と被告が合意する別の場所・日時にて完了するものとする。本契約において,かかるクロージングが行われる日時は「クロージング日」と言及される。

(b) クロージング時における原告の提供物

原告は,第4条(b)に定める条件の達成又は原告による放棄を条件として,クロージング時に購入価格(行使価格)を被告に支払うものとし,即時利用可能な資金として電信送金により被告が書面で指定する口座に送金する。

(c) クロージング時における被告の提供物

被告は,第4条(a)に定める条件の達成又は被告による放棄を条件として,クロージングの時点で,第4条(a)(ii)で言及される本件商標及び事後登録商標(本件商標

5 権)の譲渡登録申請の写しを原告に交付し,日本特許庁の申請受領書を提示する。

第7条(原告の表明及び保証)

原告は,被告に対し,本契約の締結日及びクロージング日の時点で,以下の表明及び保証が真実かつ正確であることを表明し保証する。

(b) 原告は,本契約に基づき,その履行及び遵守が求められる全ての約束,条件,

合意をクロージング日以前又はクロージング日に履行及び遵守していること。

第8条(プレクロージングの約束)

(i)クロージング日(本件オプションが行使される場合)又は(ii)第4行使日(本

件オプションが行使されない場合)まで,

(c) 両当事者は,別紙Aとして添付される条件概要書(本件条件概要書)に基づ

き,相互に合意する日付において,独占ライセンス・販売店契約を締結する。両当事者は,条件の詳細についても別途協議し決定する。以 上

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