平成31(ワ)1270商標権侵害行為差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和1年12月3日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告梅本合同会社
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法令 |
商標権
商標法36条1項1回 商標法38条2項1回 商標法38条3項1回
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キーワード |
商標権22回 侵害16回 差止2回 ライセンス1回 損害賠償1回
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主文 |
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,原告が,被告において別紙被告標章目録記載の各標章を付した商品
を譲渡し,譲渡のために展示した行為等について,①原告が有する別紙商標権5
目録記載の商標権を侵害すると共に,②原告の商品等表示として周知の商品等
表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものであり不正競争防止法(以下
「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して,被告
に対し,商標法36条1項,2項又は不競法3条1項,2項に基づき(選択的
主張),上記商品の販売等の差止め,上記商品の廃棄等を求め(前記第1の1(1)10
ないし(3),同2(1)),また,民法709条,商標法38条3項又は2項に基づ
き,損害賠償金(主位的には16万3952円,予備的には5万0852円)
及びこれに対する平成31年2月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の1(4),
同2(2))事案である。15 |
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判決文
令和元年12月3日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成31年(ワ)第1270号 商標権侵害行為差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和元年9月3日
判 決
原 告 梅 本 合 同 会 社
被 告
10 同訴訟代理人弁護士 米 山 功 兼
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
15 第1 請求
1 主位的請求
(1) 被告は,模型玩具用サーボモーターに別紙被告標章目録記載の各標章を付
し,又は同標章を付した模型玩具用サーボモーターを販売し,若しくは販売
のために展示してはならない。
20 (2) 被告は,別紙被告標章目録記載の各標章を付した模型玩具用サーボモータ
ーを廃棄せよ。
(3) 被告は,別紙被告商品目録記載の各URLのウェブページを削除せよ。
(4) 被告は,原告に対し,16万3952円及びこれに対する平成31年2月
8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
25 2 予備的請求
(1) 上記1(1)ないし(3)と同じ
(2) 被告は,原告に対し,5万0852円及びこれに対する平成31年2月8
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告において別紙被告標章目録記載の各標章を付した商品
5 を譲渡し,譲渡のために展示した行為等について,①原告が有する別紙商標権
目録記載の商標権を侵害すると共に,②原告の商品等表示として周知の商品等
表示と同一又は類似の商品等表示を使用したものであり不正競争防止法(以下
「不競法」という。)2条1項1号の不正競争行為に該当すると主張して,被告
に対し,商標法36条1項,2項又は不競法3条1項,2項に基づき(選択的
10 主張) 上記商品の販売等の差止め,
, 上記商品の廃棄等を求め(前記第1の1(1)
ないし(3),同2(1)),また,民法709条,商標法38条3項又は2項に基づ
き,損害賠償金(主位的には16万3952円,予備的には5万0852円)
及びこれに対する平成31年2月8日(訴状送達の日の翌日)から支払済みま
で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(前記第1の1(4),
15 同2(2))事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨から認められ
る事実)
(1) 当事者
ア 原告は,ラジオコントロール式模型玩具等の用途に供する小型サーボモ
20 ーターその他の電子部品の設計,製造及び販売を行う会社である。
イ 被告は,おもちゃ等のオンライン通信販売を業として行う個人事業主で
ある。
(2) 原告の有する商標権及び原告の販売する商品
ア 原告は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「原告商標権」といい,原
25 告商標権の対象たる商標を「原告商標」という。)を有する。
(甲2,13)
イ 原告は,別紙「原告商品等表示目録」記載の標章が付され,又は形態的
特徴を有するサーボモーター(以下,同目録1-1ないし同1-3に対応
する商品を「原告商品1」 同目録2-1ないし同2-3に対応する商品を
,
「原告商品2」といい,併せて「原告各商品」という。)を販売している。
ウ 原告商品1は,別紙「原告商品等表示目録」記載1-1(以下「原告表
5 示1-1」といい,同目録記載1-2ないし同2-3の各表示をそれぞれ
「原告表示1-2」ないし「原告表示2-3」という。)の型番で,原告表
示1-2の外観を有し,筐体上部に原告表示1-3のラベルが貼付されて
いる。同ラベルは,長方形のフィルムを素材として,細い枠線で囲まれた
3行の文字列が印字され,1行目には紫色の地に銀色の文字で「Towe
10 rpro」,2行目には黒色の地に銀色の文字で原告表示1-1の型番
(「MG996R」 ,
) 3行目には紫色の地に銀色の文字で「DIGI HI
TORQUE」の各文字列が表示されている。
エ 原告商品2は,原告表示2-1の型番で,原告表示2-2の外観を有し,
筐体上部に原告表示2-3のラベルが貼付されている。同ラベルは,長方
15 形のフィルムを素材として,細い枠線で囲まれた3行の文字列が印字され,
1行目には黒色の地に金色の文字で「TowerPro」 2行目には金色
,
の地に黒色の文字で原告表示2-1の型番 「MG995」 ,
( ) 3行目には黒
色の地に金色の文字で「DIGI HI-SPEED」の各文字列が表示
されている。
20 (3) 被告による商品の展示,原告への商品販売
ア 被告は,
「プラスマジック」のストア名でインターネット上の通販サイト
に出店し,平成30年(2018年)12月21日ころまでに,同サイト
内の被告のページ(別紙被告商品目録記載1ないし4の各URLのページ。
以下「被告ウェブサイト」という。)において,同目録記載1ないし4の型
25 番が付された商品(以下「被告商品1」ないし「被告商品4」といい,併せ
て「被告各商品」という。)につき,販売の申出をした。このうち,被告商
品1及び2は,次の(ア)及び(イ)のとおり,被告ウェブサイトに掲載
され,展示されていた。(甲1,3~6,10)
(ア) 被告商品1は,別紙「被告商品等表示目録」記載1-1(以下「被
告表示1-1」といい,同目録記載1-2ないし同2-3の各表示をそ
5 れぞれ「被告表示1-2」ないし「被告表示2-3」という。 の型番で,
)
被告表示1-2の外観を有し,筐体上部に被告表示1-3のラベルが貼
付されている。同ラベルは,不鮮明であるが,長方形の形状で,細い枠
線で囲まれた3行分のスペースがあり,1行目は黒色の地に紫色で塗り
つぶされたように見えるが文字は確認できない状態であり,2行目は黒
10 色の地に白色又は黄色の文字で被告表示1-1の型番「MG996R」
( )
が表示され,3行目は紫色又は黒色の地に白色又は黄色の文字で「DI
GI HI TORQU」の文字列が表示され,
「U」に続く文字は不鮮
明である。(甲4)
(イ) 被告商品2は,被告表示2-1の型番で,被告表示2-2の外観を
15 有し,筐体上部に被告表示2-3のラベルが貼付されている。同ラベル
は,長方形の形状で,細い枠線で囲まれた3行の文字列が印字され,1
行目には黒色の地に金色で「DUSCO」及び「E」と読める文字列等,
2行目には金色の地に黒色で被告表示2-1の型番(「MG995」)を
示す文字列,3行目には黒色の地に金色で「DIGI HI-SPEE
20 D」の文字列が表示されている。(甲3)
イ 原告は,平成30年(2018年)12月21日,被告ウェブサイトに
おいて,被告各商品を注文した。(甲10,11)
ウ 被告は,インターネット上の上記アとは別個の通販サイトで,Fung
wan TECH RC Storeという名称の販売者(以下「本件仕
25 入先業者」という。 に対し,
) 納入先を原告として,被告各商品を注文した。
(乙2)
エ 被告各商品は,中国から国際郵便で原告に届けられた。原告が,これを
確認したところ,被告各商品には,別紙被告標章目録1ないし4記載の各
標章(以下,併せて「被告各標章」という。)が付されていた。(甲19~
22)
5 なお,被告各商品は,いずれも模型玩具用サーボモーターであり,原告
商標権の指定商品である第28類の「おもちゃ類」に含まれる。
2 争点
(1) 商標権侵害の成否(争点1)
ア 原告商標と被告各標章との類否(争点1-1)
10 イ 被告による商標権侵害行為の有無(争点1-2)
(2) 不競法2条1項1号所定の不正競争行為の成否(争点2)
ア 原告各商品の標章又は形態が周知な商品等表示といえるか(争点2-1)
イ 類似性及び混同のおそれの有無(争点2-2)
(3) 被告の故意又は過失の有無(争点3)
15 (4) 損害額(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1-1(原告商標と被告各標章との類否)について
[原告の主張]
原告商標の外観は「TOWER PRO」の標準文字により構成され,
「タ
20 ワープロ」との称呼を生じる。
他方,被告各標章の外観は,1段目に「Tower Pro」の文字,2
段目に「MG」の文字から始まる商品名及び3段目に「DIGI HI-T
ORQUE」又は「DIGI HI-SPEED」の文字を配し,文字の周
囲を細い線で「日」の字の形に囲われて成る。1段目,2段目及び3段目の
25 文字は,いずれもゴシック体の文字で構成される。このうち,商品名「MG
996R」及び「MG946R」の文字は,黒地に銀色の文字で構成される。
商品名「MG995」及び「MG945」の文字は,金地に黒色の文字で構
成される。また,被告各標章は,「タワープロ」との称呼を生じる。
そうすると,被告各標章(1段目の文字「Tower Pro」の部分)
と原告商標とは,外観及び呼称が同一又は類似であり,被告各標章と原告商
5 標とは同一又は類似である。
[被告の主張]
上記主張は争う。
(2) 争点1-2(被告による商標権侵害行為の有無)について
[原告の主張]
10 ア 被告は,遅くとも平成30年8月から現在に至るまで,被告各標章を付
した被告各商品を販売し,その販売のために被告商品目録記載のURLの
インターネット通販サイト(「ヤフーショッピング」)のウェブページに電
磁的方法によりに展示しているところ,これらの行為は,原告商標権を侵
害する。
15 イ 仮に,被告が,在庫を持たず,注文に応じて商品の発送を海外の業者に
委託ないし委任する営業形態を採っているものとしても,商品購入者が購
入の申込みをするに当たり,当事者として表示されるのは被告の屋号であ
り,海外業者の名前はどこにも示されていないこと,被告各商品の売買契
約は,原告と被告との間に成立しており,海外業者は当該売買契約の当事
20 者ではないことからすれば,被告が法的に侵害主体とはなり得ないという
主張は成り立たない。
[被告の主張]
ア 被告ウェブサイトに掲載された画像から,被告各標章は確認できず,被
告が「TowerPro」という文字列を使用していないことは明らかで
25 ある。
イ 被告は,被告各商品の注文を原告から受け,本件仕入先業者に対し,メ
ーカー名が「Fungwan」であり,ラベルに「FUNGWAN」とい
う文字列が付されている商品を発注し,本件仕入先業者が,被告を経由す
ることなく,商品を原告に直送した。
この点,被告の営業形態は,被告ウェブサイトで第三者からの注文を受
5 け,それを商品のメーカーや卸売業者(以下「メーカー等」という)に発
注し,発注先から直接,注文者たる第三者に商品が発送されるというもの
であるところ,かかる営業形態からすると,メーカー等から発送される商
品の内容は,メーカー等から提供される情報を基に判断するほかない。ま
た,従前,本件のように商標権侵害の指摘を受けたことはなかった。
10 そうすると,被告は「TOWER PRO」という文字列を使用した商
品を販売したとはいえない。また,たとえ,被告の本件仕入先業者に対す
る発注により原告に送付されたのだとしても,被告は法的に侵害主体とは
なり得ない。
(3) 争点2-1(原告各商品の標章又は形態が周知な商品等表示といえるか)
15 について
[原告の主張]
ア 商品等表示性
原告は,原告の輸入する商品であることを示す表示として,原告表示1
-1ないし同2-3を原告各商品に付している。これらの表示は,いずれ
20 も他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有している。
イ 周知性
原告各商品は,雑誌等の出版物及びブログ等オンラインの媒体において
頻繁に使用例が掲載されていること,インターネット上の検索サイトで,
「メタルギア サーボ」のキーワードを用いて検索すると,検索結果の上
25 位の大半を原告各商品に係る表示が占めること,オンライン通販市場で最
大の売上高を有するアマゾンジャパン合同会社に卸売りし(メーカー名と
して原告商標である「TOWER PRO」と表示),同社の運営する通販
サイト「Amazon.co.jp」の売上げランキングにおいて上位を
独占していること,秋葉原の小売店での販売実績の上位であること等から
すれば,原告表示1-1ないし同2-3は,国内の電子工作の分野の需要
5 者やオンライン通販におけるラジオコントロールサーボモーターの需要
者の間に広く認識されているといえる。
[被告の主張]
ア 商品等表示性
原告表示1-1ないし同2-3は,自他商品識別機能,出所表示機能を有
10 するものではなく,そもそも原告各商品の表示ではない。また,原告表示1
-2及び同2-2は,モーターの外観として,他の商品とは異なる顕著な特
徴を有するとはいえない。さらに,原告表示1-3及び同2-3は,商品の
外観ではなくラベルであり,そのラベルのデザインも顕著な特徴があるとは
いえない。
15 イ 周知性
原告の主張する種々の事情を考慮しても,周知性があるとは到底評価でき
ない。
(4) 争点2-2(類似性及び混同のおそれの有無)について
[原告の主張]
20 被告表示1-1ないし同2-3は,次のとおり原告表示1-1ないし同2
-3と一致ないし類似し,混同のおそれを生じさせる。また,被告商品3及
び4の画像は加工修正され,不鮮明ではあるが,枠線の形状,ラベルの色彩
が原告表示1-3及び同2-3と一致し,画像が不鮮明な部分についても原
告各商品の商品等表示に一致又は酷似する。
25 ア 被告表示1-1ないし同1-3について
被告表示1-1は原告表示1-1と一致する。また,被告表示1-2(ラ
ベル部分が被告表示1-3である。 は,
) ①ピンクないし紫色の色彩のラベ
ル,②ラベルの「MG996R」の文字,③ラベルの「DIGI HI T
ORQUE」の文字,④ラベルが貼付されている位置,⑤ラベルの枠線の
形状,3段に分かれた文字の配置,⑥黒色の筐体,⑦筐体の形状において,
5 原告表示1-2と一致又は類似する。
イ 被告表示2-1ないし同2-3について
被告表示2-1は原告表示2-1と一致する。また,被告表示2-2(ラ
ベル部分が被告表示2-3である。 は,
) ①黒色と金色で配色された商品ラ
ベル,②ラベルの「MG995」の文字,③ラベルの「DIGI HI-
10 SPEED」の文字,④ラベルが貼付されている位置,⑤ラベルの枠線の
形状,3段に分かれた文字の配置,⑥黒色の筐体,⑦筐体の形状において,
原告表示2-2と一致又は類似する。
[被告の主張]
上記主張は争う。
15 (5) 争点3(被告の故意又は過失の有無)について
[原告の主張]
被告は,原告に配送された被告各商品について,その現物を確認せず,漫
然とドロップ・シッピングを行って,商標権侵害ないし不競法違反に当たる
行為に至ったものであるところ,このような被告の行為については,契約上
20 又は条理上,営業者である被告に課される注意義務に反するものであるとい
え,故意ないし故意と同視できる程度に重大な過失が存すると評価されるも
のである。
[被告の主張]
上記主張は争う。
25 (6) 争点4(損害額)について
[原告の主張]
原告には,合計16万3952円(主位的主張)又は5万0852円(予
備的主張)の損害が発生した。
ア 商標法38条3項又は2項により推定される損害額
(ア) 主位的主張(商標法38条3項)
5 被告は,遅くとも平成30年8月から現在まで,原告商標を付した被
告各商品を販売し,同年12月21日の時点で,被告商品1を99セッ
ト(1セットあたり2個) 被告商品3及び4につき各99個を流通に置
,
いたところ,被告商品1の1セット当たりの売価が2680円,被告商
品3及び4の1個当たりの売価が各1580円であり,ライセンス料率
10 が売価の20パーセントを下らないことからすれば,原告商標の使用に
対し原告が受けるべき金銭の額は,次の計算式により11万5632円
となる。
(計算式)(2680円+1580円+1580円)×99×20%
=11万5632円
15 (イ) 予備的主張(商標法38条2項)
被告は,遅くとも平成30年8月30日から平成31年1月4日まで
の間,少なくとも被告商品2につき2個を,1個当たり1580円で販
売したところ,被告商品2の1個当たりの原価が314円であり,1個
あたりの利益額が1266円であることからすれば,被告は,被告商品
20 2の販売により2532円の利益を得た。
イ 購入費用
原告は,被告各商品の調査に当たり,被告各商品を購入し,合計832
0円を支出した。
ウ 信用毀損による損害
25 原告各商品の偽造品である被告各商品が販売されることにより,原告の
営業上の信用及び商品の信用が毀損され,又はそのおそれが生じた。この
損害は合計4万円を下らない。
[被告の主張]
上記主張は争う。
第3 当裁判所の判断
5 1 争点1(商標権侵害の成否)について
(1) 各末尾掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 被告ウェブサイトにおける被告各商品の展示等の状況
被告ウェブサイトにおいては,被告各商品が販売のために展示され,被
告各商品に係る情報として,別紙被告商品目録記載1ないし4の各型番の
10 ほか,「メタルギア・デジタルサーボ」 (海外から直送)
「 」等の文字列と,
被告各商品の外観に係る画像が表示されていたが,原告商標である「TO
WER PRO」と同一又は類似の文字列は表示されていなかった。
(甲3
~6)
イ 被告が本件仕入先業者に発注した際の状況
15 前記第2の1(3)ウのとおり,被告は,インターネット上の通販サイトで,
本件仕入先業者に対して,納入先を原告として被告各商品を注文したとこ
ろ,同通販サイトにおいては,当該商品に係る情報として,別紙被告商品
目録記載1ないし4の各型番のほか,「メタルギア」「サーボ」等の文字列
と,
「FUNGWAN」という文字列を含むラベルが貼付された商品の外観
20 に係る画像が表示されていたが,原告商標である「TOWER PRO」
と同一又は類似の文字列は表示されていなかった。(乙2~4)
(2) 本件事案に鑑み,まず,争点1-2(被告による商標権侵害行為の有無)
について判断する。
ア 上記第2の1の前提事実及び上記(1)の認定事実からすれば,被告は,被
25 告ウェブサイトにおいて,原告商標である「TOWER PRO」と同一
又は類似する文字列を使用しない状態で,被告各商品を展示して販売の申
出をしていたところ,同ウェブサイトにおいて原告から被告各商品の発注
を受けたため,別の通販サイトにおいて,本件仕入先業者による,原告商
標である「TOWER PRO」と同一又は類似する文字列を使用しない
状態で展示されていた商品を見出して,同人に対し,納入先を原告として
5 同商品を発注したものである。
そうすると,本件仕入先業者から原告に対し直送された被告各商品に原
告商標である「TOWER PRO」と同一又は類似する文字列を含む被
告各標章が付されていたとしても,本件のように本件仕入先業者から被告
を介することなく原告に商品を直送するような場合において,商品に標章
10 を付す行為について着目するときには,当該行為の性質及び内容に照らせ
ば,被告と本件仕入先業者とは別個の主体であるというべきであるから,
特段の事情がない限り,上記行為は被告による行為ではなく,本件仕入先
業者による行為として捉えられるものというべきである。しかして,本件
において,被告と本件仕入先業者との間に,通常の取引関係を超えた緊密
15 な関係が存在する状況にあったこと,または,被告が本件仕入先業者が発
送した商品の現物を認識すべき状況にあったことなど,同人の行為を被告
による行為と同視すべきことを合理的に根拠づけるような事情は何らう
かがわれず,その他,本件全証拠をみても,上記の特段の事情を認めるに
足りるものはない。
20 イ これに対し,原告は,商品購入の申込みをするに当たり当事者として表
示されるのは被告の屋号であり,本件仕入先業者の名前は何ら表示されて
いないこと,被告各商品の売買契約は原告と被告との間に成立しており,
本件仕入先業者は当該売買契約の当事者ではないこと等を主張する。
しかしながら,商品購入の申込みをするに当たり被告の屋号が表示され
25 ていたとしても,本件のように仕入業者から被告を介することなく原告に
商品を直送するような場合においては,被告各商品の売主であることから
直ちに,同商品に対し標章を付す行為を行った者であることまでもが導か
れることにはならず,上記説示のとおり,本件仕入先業者の行為を被告に
よる行為と同視すべき事情はうかがわれないところである。また,前記(1)
の認定事実によれば,原告と被告との間の売買契約は,原告商標である「T
5 OWER PRO」と同一又は類似する文字列を使用しない状態で展示さ
れていた,被告各商品を目的として成立したものであるといえ,そのよう
な売買契約の成立により直ちに原告商標権を侵害し得る具体的な危険性
が生ずるものとも認め難いことからすれば,被告が上記売買契約の当事者
であるという事実によって直ちに前記アの説示が左右されるものではな
10 いというべきである。
(3) 以上によれば,仮に,原告標章と被告各標章の類似性が肯定されて(争点
1-1),原告に対する被告各商品の販売が原告商標権の侵害行為を構成し
得るとしても,これを被告による行為と捉えることはできないし,他に商標
権侵害を構成し得る行為は見当たらない以上,被告による原告商標権の侵害
15 は認められない。
2 争点2(不競法2条1項1号所定の不正競争行為の成否)について
(1) 原告各商品の標章又は形態が周知な商品等表示といえるか(争点2-1)
について
原告は,原告表示1-1ないし同2-3につき,原告の商品等表示として
20 需要者の間に広く認識されている旨を主張する。
しかしながら,次のとおり,原告主張に係る各表示は,いずれも原告の商
品等表示として需要者の間に広く認識されているとは認められない。
ア 原告表示1-2及び同2-2について
原告主張に係る原告表示1-2及び同2-2は,いずれもサーボモータ
25 ーの外観を示したものであるところ,原告は,これらが単に原告表示1-
1及び同2-1の型番が表示され,又は原告表示1-3及び同2-3のラ
ベルが貼付された状態を説明したものにとどまるものではなく,各サーボ
モーターの形態自体が,原告の商品等表示として需要者の間に広く認識さ
れている旨を主張しているものと解される。
この点,不競法2条1項1号にいう「商品等表示」とは,人の業務に係
5 る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営
業を表示するものをいい,しかして,商品の形態は,これに付される商標
等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではな
い。そうすると,このような商品の形態自体が不競法2条1項1号の「商
品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品と
10 は異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定
の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な広告宣伝や
爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定
の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を
要するものと解するのが相当である。
15 これを本件について見るに,原告表示1-2及び同2-2のいずれにつ
いても,他のサーボモーターの形態と対比して客観的に異なる顕著な特徴
を具体的に含んでいることを的確に認めるに足りる証拠はないものであっ
て,同形態が上記①の特別顕著性を有しているとは認められないというべ
きである。
20 したがって,原告表示1-2及び同2-2はいずれも不競法2条1項1
号にいう「商品等表示」に当たるとはいえない。
イ その他の表示について
原告は,原告表示1-1ないし同2-3の表示が周知性を有することの
根拠として,原告各商品が各種媒体において頻繁に使用例が掲載されてい
25 ること,インターネット上の検索サイトで,
「メタルギア サーボ」のキー
ワードを用いて検索すると,検索結果の上位の大半を原告各商品に係る表
示が占めること,最大手のオンライン通販市場の売上げランキングにおい
て上位を独占していること,秋葉原の小売店での販売実績の上位であるこ
と等を挙げる。
しかしながら,各種媒体における掲載状況や小売店での販売実績につい
5 ては,これを具体的に認めるに足りる客観的な証拠はなく,また,検索サ
イトの検索結果についても,原告の主張する上記キーワードとは別のキー
ワードによる検索結果に係る資料(甲15,16)が提出されているにす
ぎず,さらに,オンライン通販市場での売上げランキングについても,期
間が限定された,断片的な資料(甲17,18)が提出されているにすぎ
10 ないのであって,その他本件全証拠を精査しても,原告主張に係るその他
の表示(原告表示1-1,同1-3,同2-1及び同2-3)の付された商
品を見た需要者において,商品の出所が原告であると認識する状況になる
までに至っているものと認めるには足りないというべきである。
したがって,原告主張に係るその他の表示は,いずれも原告の商品等表
15 示として需要者の間に広く認識されているとは認められず,不競法2条1
項1号にいう「他人の商品等表示(中略)として需要者の間に広く認識さ
れているもの」に当たるとはいえない。
(2) 類似性,混同のおそれの有無(争点2-2)について
以上の説示によれば,不正競争行為の成否に係る原告の主張は既に理由が
20 ないものであるが,なお念のため,原告表示1-3及び同2-3と被告表示
1-3及び同2-3との類似性及び混同のおそれの有無につき検討する。
この点,原告表示1-3は,横書き3行の文字列で構成されており,1行
目が「Towerpro」,2行目が「MG996R」,3行目が「DIGI
HI TORQUE」と表示されているのに対し,被告表示1-3は,1行
25 目に相当するスペースは黒色の地に紫色で塗りつぶされたように見えるが文
字は確認できない状態であり,2行目は原告表示1-3と同様の文字が表示
され,3行目は「DIGI HI TORQU」の文字列が表示され,「U」
に続く文字は不鮮明な状態となっている。
また,原告表示2-3は1行目が「TowerPro」,2行目が「MG9
95」3行目が
, 「DIGI HI-SPEED」と表示されているのに対し,
5 被告表示2-3は1行目には「DUSCO」及び「E」と読める文字列,2
行目及び3行目は原告表示2-3と同様の文字が表示されている。
しかして,商標の類否ないし混同のおそれの有無は,同一又は類似の商品
に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者に与える印象,
記憶,連想等を総合して,その商品に係る取引の実情を踏まえつつ全体的に
10 考察して決すべきものであるところ,原告表示1-3と被告表示1-3及び
原告表示2-3と被告表示2-3とをそれぞれ対比すると,1行目の表示が
全く異なる文字列で構成されているか(被告表示2-3)又はそもそも文字
列の表示が確認できない状態であり(被告表示1-3),この部分の外観,観
念,称呼が異なることは明らかであって,また,2行目の「MG996R」
15 及び「MG995」や3行目の「DIGI HI-SPEED」は一致し,
3行目の「DIGI HI TORQUE」は概ね一致しているが,これは,
上記各表示が使用される商品であるサーボモーターの型番や性状を示す部分
にすぎないと認められる。
以上に照らし,サーボモーターに係る取引の実情を踏まえつつ全体的に考
20 察すれば,表示全体として,原告表示1-3と被告表示1-3及び原告表示
2-3と被告表示2-3とが類似しているとは認め難いというほかなく,混
同のおそれがあるということもできない。
(3) 以上によれば,被告による被告各商品の販売行為等は,不競法2条1項1
号所定の不正競争行為に当たらない。
25 3 結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の主位的請求及び
予備的請求はいずれも理由がないから,これらをいずれも棄却することとして,
主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
5 裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 横 山 真 通
裁判官 奥 俊 彦
(別紙)
被告標章目録
1 2
3 4
(別紙)
被告商品目録
1 型番 MG996R
5 URL (URLは省略)
2 型番 MG995
URL (URLは省略)
3 型番 MG945
URL (URLは省略)
10 4 型番 MG946R
URL (URLは省略)
(別紙)
商標権目録
【登録番号】 商標登録第5781098号
5 【出願日】 平成27年4月27日
【登録日】 平成27年7月24日
【登録商標(標準文字)】 TOWER PRO
【商品及び役務の区分並びに指定商品又は指定役務】 第28類 モーターを組み
込んだ小型模型,モーターを組み込んだ小型模型の部品及び付属品,ラジオコント
10 ロール式模型おもちゃ,ラジオコントロール式模型の部品及び付属品,乗物模型お
もちゃ
(別紙)
原告商品等表示目録
1-1
1-2
1-3
2-1
2-2
2-3
(別紙)
被告商品等表示目録
1-1
1-2
1-3
2-1
2-2
2-3
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