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平成30(ネ)1670育成者権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事件

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裁判所 確認 大阪高等裁判所
裁判年月日 令和1年12月19日
事件種別 民事
当事者 被告)P1
控訴人兼被 (一審原告)ブルージー・プロ株式会社
被控訴人兼控訴人(一審被告)P1
対象物 トットリフジタ1号
法令 その他
キーワード 無効30回
実施18回
差止10回
侵害7回
新規性6回
進歩性5回
損害賠償4回
許諾2回
主文 1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告の請求の減縮に基づき,原判決主文第1項及び第2項を次のとおり変更する。(1) 原判決別紙「原告製品目録1」及び原判決別紙「原告製品目録2」記載の製品に使用する原判決別紙「種苗目録1」及び本判決別紙「種苗目録2-2」記載の種苗を,一審原告が生産し,調整し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行為をする目的をもって保管する行為につき,一審被告が,品種登録第15866号及び品種登録第15867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。(2) 原判決別紙「種苗目録1」及び本判決別紙「種苗目録2-2」記載の種苗を使用した原判決別紙「原告製品目録1」及び原判決別紙「原告製品目録2」記載の製品を,一審原告が販売する行為につき,一審被告が,品種登録第15866号及び品種登録第15867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確認する。
3 控訴費用は,各自の負担とする。
事件の概要 (以下,略称は,特に断らない限り,原判決の例に従う。)

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判決文

令和元年12月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成30年(ネ)第1670号 育成者権に基づく差止請求権不存在確認請求控訴事

(原審 大阪地方裁判所平成26年(ワ)第12573号)
口頭弁論終結日 令和元年9月5日
判 決
控訴人兼被控訴人(一審原告) ブルージー・プロ株式会社
(以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 溝 上 哲 也
同 河 原 秀 樹
同 早 川 光 俊
同 井 垣 敏 生
同 髙 須 賀 彦 人
同 中 谷 彩
被控訴人兼控訴人(一審被告) P1
(以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 松 本 司
同 井 上 裕 史
同 田 上 洋 平
同 上 田 雅 稔
同 冨 田 信 雄
主 文
1 一審原告の控訴及び一審被告の控訴をいずれも棄却する。
2 一審原告の請求の減縮に基づき,原判決主文第1項及び第2項を
次のとおり変更する。
(1) 原判決別紙「原告製品目録1」及び原判決別紙「原告製品目録
2」記載の製品に使用する原判決別紙「種苗目録1」及び本判決
別紙「種苗目録2-2」記載の種苗を,一審原告が生産し,調整
し,譲渡の申出をし,譲渡し,輸出し,輸入し,又はこれらの行
為をする目的をもって保管する行為につき,一審被告が,品種登
録第15866号及び品種登録第15867号の各育成者権に基
づく差止請求権を有しないことを確認する。
(2) 原判決別紙「種苗目録1」及び本判決別紙「種苗目録2-2」
記載の種苗を使用した原判決別紙「原告製品目録1」及び原判決
別紙「原告製品目録2」記載の製品を,一審原告が販売する行為
につき,一審被告が,品種登録第15866号及び品種登録第1
5867号の各育成者権に基づく差止請求権を有しないことを確
認する。
3 控訴費用は,各自の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 当事者の求めた裁判
1 一審原告
(1) 原判決中,一審原告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分について,原判決別紙「種苗目録3」記載の種苗を使用し
た原判決別紙「原告製品目録3」記載の製品を,一審原告が南海辰村建設株
式会社に販売した行為につき,一審被告が,品種登録第15866号の育成
者権を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権を有しないことを確認す
る。
(3) (当審における請求の減縮後の確認請求)
主文第2項(1),(2)と同旨
(4) 訴訟費用は,第1,2審とも一審被告の負担とする。
2 一審被告
(1) 原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分について,請求の減縮後の一審原告の差止請求権不存在確
認請求に係る訴えをいずれも却下する。
(3) 訴訟費用は,第1,2審とも一審原告の負担とする。
第2 事案の概要
(以下,略称は,特に断らない限り,原判決の例に従う。)
1 一審原告の請求及び訴訟の経過
(1) 一審原告の請求
一審原告は,登録品種の名称を「トットリフジタ1号」,「トットリフジ
タ2号」とする各登録種苗について育成者権(本件育成者権)を有する一審
被告に対し,① 原判決別紙「種苗目録1」記載の種苗(本件種苗1)及び
原判決別紙「種苗目録2」記載の種苗(本件種苗2)を生産等する行為,並
びにこれらを使用した原判決別紙「原告製品目録1」記載の製品(原告製品
1)及び「原告製品目録2」記載の製品(原告製品2)を販売する行為につ
いて,本件育成者権に基づく差止請求権が存在しないことの確認をそれぞれ
求めるとともに,② 原判決別紙「種苗目録3」記載の種苗(本件被疑種
苗)を使用した原判決別紙「原告製品目録3」記載の製品(原告製品3)を
販売した行為につき,一審被告のトットリフジタ1号に係る育成者権(本件
育成者権1)を侵害した不法行為に基づく損害賠償請求権が存在しないこと
の確認を求めていた。
(2) 訴訟の経過
原審は,一審原告の請求について,上記(1)①の育成者権に基づく差止請
求権が存在しないことの確認請求をいずれも認容し,同②の損害賠償請求権
が存在しないことの確認請求は,棄却した。
これに対し,一審原告及び一審被告が,それぞれ,その敗訴部分を不服と
して,控訴を提起した。
(3) 請求の減縮
一審原告は,前記(1)①のとおりの確認を求めていたが,当審において,
原判決別紙「種苗目録2」を,本判決別紙「種苗目録2-2」(以下「本件
種苗2-2」という。)に変更し,上記各行為に関する一審被告の育成者権
に基づく差止請求権不存在確認請求に係る訴えを変更した(この変更に係る
本判決別紙「種苗目録2-2」は,一審原告が使用する種苗の範囲を,原判
決別紙「種苗目録2」よりも限定するものであるから,請求の減縮であると
解される。以下,原判決別紙「原告製品目録1」及び「原告製品目録2」を
含めて,原判決を引用する場合,「本件種苗2」を「本件種苗2-2」と読
み替える。)。
2 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
できる事実。なお,書証の枝番号を掲記しないときは,その全てを含む。以
下同じ)
(1) 当事者等
ア 一審原告は,緑化事業の設計,施工,維持管理及びコンサルタント等を
目的として,平成16年12月24日に設立された会社である。
P2は,一審原告からの委託を受け,兵庫県洲本市所在の畑等(以下
「P2の農場」という。)において,植物の栽培等を行っていた。また,
P2は,兵庫県南あわじ市所在のP5らの農家に対し,栽培を下請けさせ
ていた。
イ 一審被告は,後記登録品種の育成者権者であり,鳥取県岩美郡<以下略
>所在の株式会社フジタの監査役の地位にある。P3は,一審被告の夫
で,フジタの代表取締役であり,P4は,フジタの専務取締役であり,一
審被告とP3夫婦の長男である。
ウ 本件出願
P3は,平成16年2月10日,出願者を一審被告として,農林水産大
臣に対し,農林水産植物の種類について「ベンケイソウ科 (キリンソ
ウ)」学名「Sedum Kamtschaticum Fischer」,出願品種の名称「常緑キ
リンソウフジタ1号」,育成者「P3」,対照品種と区別される特性とし
て,対照品種名「カランコエ」,区別される特性「常緑であること」,出
願品種の育成の経過として,母親「新潟県柏崎市鯨波鶴ヶ鼻に自生の野生
種」,父親「不明」,「平成6年7月新潟県柏崎市でキリンソウ苗を採
取,当捕場で栽培し自然交雑により平成8年11月採種し同時に播種し
た。(120粒)」等と記載した品種登録願(以下「本件品種登録願1」
という。)を,対照品種の名称(野生種キリンソウ)として,出願品種の
特性値と対照品種の佐渡キリンソウ及び富山キリンソウの特性値を掲載し
た特性表等を添付して提出した(甲1)。
P3は,平成16年2月10日,出願者を一審被告として,出願品種の
名称「常緑キリンソウフジタ2号」についても,上記各項目について同内
容の記載をした品種登録願を提出した(甲2)。
(以下,これらの提出による一審被告の品種登録出願を「本件出願」とい
う。)
(2) 一審被告の育成者権
一審被告は,次の育成者権(本件育成者権)を有している(甲8~1
3)。
ア 本件品種登録1に係る本件育成者権1
出願番号 第16646号
出願年月日 平成16年2月10日
出願者 P1
出願品種の名称(出願時)常緑キリンソウフジタ1号
品種登録の番号 第15866号
登録年月日 平成19年12月17日
農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart
(和名:エゾノキリンソウ種)
登録品種の名称 トットリフジタ1号
品種育成をした者の氏名 P3
育成者権者 P1
イ 本件品種登録2に係る本件育成者権2
出願番号 第16647号
出願年月日 平成16年2月10日
出願者 P1
出願品種の名称(出願時)常緑キリンソウフジタ2号
品種登録の番号 第15867号
登録年月日 平成19年12月17日
農林水産植物の種類 Phedimus kamtschaticus (Fisch.) 't Hart
(和名:エゾノキリンソウ種)
登録品種の名称 トットリフジタ2号
品種育成をした者の氏名 P3
育成者権者 P1
(3) 本件特性審査と本件審査基準
本件出願に対し,出願品種の特性審査(以下「本件特性審査」という。)
に用いられた審査基準(本件審査基準)は,原判決別紙「審査基準」のとお
りである。本件審査基準は,後記の種類別審査基準に相当するものであり,
その対象植物の範囲について,次のとおり記載していた(甲16)。
「本基準案はベンケイソウ科(Crassulaceae)マンネングサ属( Sedum
L.)の「きりんそう」(和名でキリンソウ,ホソバノキリンソウ及び産地名
を付して呼ばれるエゾキリンソウ等)と呼ばれているアイゾーン種
( S.aizoon L. ) と カ ム チ ャ テ ィ カ ム 種 ( S.kamtschaticum Fisch.et
C.A.Mey.)を対象植物とする。」
(4) トットリフジタ1号の重要な形質に係る特性等
本件特性審査によって確認されたトットリフジタ1号の品種登録簿に記載
された重要な形質に係る特性は,別紙「トットリフジタ1号の特性」(本件
特性表)のとおりである(甲8)。
トットリフジタ1号は,農林水産省において,繁殖の方法について「栄養
繁殖」,出願品種の育成の経過の概要について「この品種は,平成8年に育
成者の温室(鳥取県岩美郡<以下略>)において,新潟県在来種の自然交雑
種子をは種し,その実生の中から選抜,以後,増殖を行いながら特性の調査
を継続し,15年にその特性が安定していることを確認して育成を完了した
ものである。」,特性の概要について「この品種は,新潟県在来種の自然交
雑実生から選抜して育成されたものであり,葉の色は緑色で冬期の茎の伸長
程度が強く地上部が枯死しないグランドカバー向きの品種である。」,区別
性について「「新潟在来」及び「佐渡在来」と比較して,冬期の茎の伸長程
度が強く,萌芽が早いこと等で区別性が認められる。」等と認定されて,登
録が認められた(甲92)。
トットリフジタ2号についても,農林水産省において,繁殖の方法,出願
品種の育成の経過の概要及び出願品種の植物体の特性の概要について,トッ
トリフジタ1号と同様の認定を受けた上,区別性について,「「新潟在来」
及び「佐渡在来」と比較して,冬期の茎の伸長程度が強く,萌芽が早いこと
等で,「トットリフジタ1号」と比較して,冬期の茎の長さが短いこと等
で,区別性が認められる。」として,登録が認められた(甲93)。
(5) 一審原告とフジタとの取引関係
ア フジタは,一審被告の許諾を得て,鳥取県岩美郡<以下略>所在の自
社の圃場のビニールハウスでトットリフジタ1号を栽培し,カット苗
(挿し木用に茎の先端の3cm から4cm 程度を切った苗),プラグ苗
(カット苗を少量の土に植えて少し根を生やした状態の株),ポット苗
(円状のポットに植えられ相当程度に育った株)の形で,「常緑キリン
ソウ」として販売していた(甲110,乙14〔3頁〕)。
イ 一審原告は,平成20年6月23日,フジタ及びユアサ商事株式会社
との間でトットリフジタ1号(流通名常緑麒麟草1号)及びトットリフ
ジタ2号(流通名常緑麒麟草2号)について,一審原告が,施工現場に
おいて生育した麒麟草をカットした補植を除いて,増殖を行わないこと
等をユアサ商事及びフジタに対し確約すること等を内容とする覚書(甲
38,以下「本件覚書」という。)を取り交わし,その頃から,フジタ
が生産したトットリフジタ1号のカット苗等を,ユアサ商事を介して購
入し,これをP2らに栽培させて,屋上緑化商品を製作,販売等した。
一審原告が販売していた屋上緑化商品には,メキシコマンネングサを使
用した「てまいらず」,トットリフジタ1号4株とメキシコマンネング
サ5株をトレイ(50cm×50cm のもの。以下同じ)に植えた「みずいら
ず」(原告製品3はこれに該当する。),トットリフジタ1号の5株
(場合により9株)をトレイに植えた「みずいらずスーパー」の3種類
があった(乙11)。
ウ フジタ側は,平成24年1月31日付けのユアサ商事宛の文書によっ
て,一審原告に対するトットリフジタ1号のカット苗の販売を同年3月
31日限りで中止することを通知した(甲40)。
(6) 原告製品の本件料金所等への出荷
一審原告は,平成24年9月2日,南海辰村建設株式会社(以下「南海辰
村建設」という。)から,阪神高速大和川線の●●入口・出口料金所(本件
料金所)の屋上緑化工事を請け負った。一審原告は,平成25年2月,P2
がP5に下請させて栽培していた「みずいらず」453トレイ(これに使用
された本件被疑種苗がトットリフジタ1号であるか否かについては争いがあ
る。)を,上記工事のために出荷した(乙15の添付資料)。
(7) 本件刑事事件
ア P4は,平成25年4月23日,P2の農場に赴き,P2がトットリ
フジタ1号又はトットリフジタ2号の違法増殖をしていると考え,同年
5月,鳥取警察署に被害相談をした(乙33,35)。
イ 一審原告,一審原告代表者及びP2は,平成27年2月15日,公訴
事実の要旨を次のとおりとする種苗法違反被告事件につき鳥取地方裁判
所に起訴され(乙1,本件刑事事件),平成30年1月24日,いずれ
も有罪判決を受けた(甲171)。
「一審原告代表者及びP2は,共謀の上,一審原告の業務に関して育成
者権者の承諾なく平成24年8月下旬頃から平成25年2月6日頃まで
の間,兵庫県南あわじ市所在のP5の畑で,情を知らないP5に,トッ
トリフジタ1号約8000株を育成させて生産した上,同月6日頃,一
審原告が南海辰村建設から請け負った本件料金所新築その他工事に伴う
屋根工事に関し,P5の畑から前記生産に係るトットリフジタ1号約1
812株をトレイに植え込んだ「みずいらず」453トレイ(設置工費
込み代金127万9720円)を,本件料金所新築その他工事現場に発
送し,同月8日頃にこれを同所に到達させて南海辰村建設に譲渡し,
もって育成者権を侵害した。」
一審原告及び一審原告代表者が控訴したところ,広島高等裁判所松江
支部は,同年11月9日,原判決を破棄し,事件を鳥取地方裁判所に差
し戻した(甲173)。
(8) 本件比較栽培試験
鳥取警察署は,本件刑事事件の捜査のために,平成25年8月22日及び
同年9月6日,種苗管理センターに対し,本件料金所の建物屋上から採取し
た本件被疑種苗と,P3及びP4が「トットリフジタ1号」であるとして捜
査機関に提出した植物体について,比較栽培による品種類似性試験を内容と
する鑑定を嘱託した。この嘱託に基づき,本件比較栽培試験が実施された
(甲100,101,乙49~51)。
本件比較栽培試験の鑑定試料のうち,P4が平成25年8月20日に提
出した植物体は,鑑定時「トットリフジタ1号(2年生株)」と呼称され
(鑑定フジタ2年生),P3が平成25年9月5日に提出した植物体(甲1
31~133)は,鑑定時に「トットリフジタ1号(1年生株)」と呼称さ
れた(鑑定フジタ1年生)。本件比較栽培試験鑑定では,鑑定フジタ1年生
と本件被疑種苗とは特性において明確に区別されると判定され(甲100,
101),鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗とは,特性において明確に区別
されないと判定された(乙50,51)。
(9) 本件DNA鑑定
本件刑事事件において,鳥取大学乾燥地研究センターのP6教授は,平成
26年1月30日付け及び同年2月19日付けの鳥取警察署からの鑑定嘱託
に応じて,フジタ側が提出したトットリフジタ1号及びトットリフジタ2号
と,本件料金所から採取した本件被疑種苗とのDNA情報の同一性につい
て,10マーカーを用いた鑑定を行い,トットリフジタ1号と本件被疑種苗
とのDNA情報は同一であるが,トットリフジタ2号と本件被疑種苗とのD
NA情報は異なると判定した(本件DNA鑑定1,乙53~60)。
また,P6教授は,平成27年1月27日付け及び同年4月1日付けの鳥
取警察署からの鑑定嘱託に応じて,トットリフジタ1号と本件被疑種苗との
DNAの同一性について,20マーカーを用いた鑑定を行い,両者のDNA
情報は同一であると判定した(本件DNA鑑定2,甲106)。
(10) 一審原告のカタログ等の記載
一審原告の平成26年4月発行の屋上緑化総合カタログ(甲27)では,
一審原告が販売する屋上緑化用商品として,
① みずいらず:「常緑キリンソウ」とメキシコマンネングサの混植
② みずいらずスーパー:「常緑キリンソウ」100%
とされ,「ブルージー・プロが現在使用している常緑キリンソウは,191
9年東京大学のP7教授により,その存在が確認されたタケシマキリンソウ
を採用しています」と記載されている。また,平成26年12月4日時点の
一審原告のウェブサイトにおいても,同様の記載がある(甲24)。
3 品種登録出願及び出願品種の特性審査に関する法令等の定め
(1) 品種登録願の記載事項
種苗法(以下,単に「法」と略すことがある。)は,品種登録を受けよう
とする者(出願者)は,願書(品種登録出願)に「出願品種の属する農林水
産植物の種類」を記載しなければならない旨規定し(5条1項2号),種苗
法施行規則(以下「施行規則」という。)は,出願品種の属する農林水産植
物の種類について,「別表第二に掲げる出願品種の属する種又は属の学名及
び和名を記載するものとする。ただし,同表に出願品種の属する種又は属が
掲げられていない場合にあっては,その属する種又は属を特定することがで
きる学名及び和名を記載するものとする。」と規定する(5条1項)。
(2) 品種の定義等
法は,品種について「重要な形質に係る特性の全部又は一部によって他の
植物体の集合と区別することができ,かつ,その特性の全部を保持しつつ繁
殖させることができる一の植物体の集合をいう」と定義し(2条2項),こ
の「重要な形質」について,農林水産大臣は,農業資材審議会の意見を聴い
て,農林水産植物について農林水産省令で定める区分ごとに定めて,これを
公示するものとするとしている(同条7項)。これを受けて,施行規則は,
上記区分及び各区分に属する農林水産植物について,別表第一に掲げている
(1条)。
(3) 出願品種の特性審査
農林水産大臣は,出願品種の審査をするに当たっては,その職員に現地調
査を行わせ,又は種苗管理センターに栽培試験を行わせる( 法15条2
項)。栽培試験の項目,試験方法その他栽培試験の実施に関して必要な事項
は,農林水産省令で定めるとされ(同条4項),これを受けて,施行規則1
1条の2第1項は,栽培試験は,① 出願品種及び対照品種の植物体の特
性,② 出願品種に係る法3条1項各号の要件について調査するものとし,
適切な対照品種を選定し,出願品種及び対照品種の試験区を設け,並びにこ
れらを比較する方法により行う旨規定している。
特性審査は,「登録出願品種審査要領 平成10年12月24日付け10
農産第9422号」(以下「審査要領」という。甲99の2)に基づき,農
林水産植物の種類ごとに作成された種類別審査基準(種類別審査基準が定め
られるまでの間は,種苗特性分類調査の報告書。以下,単に「種類別審査基
準」という。)に従って実施される(審査要領第4の2(1))。種類別審査
基準の内容は,法2条2項に基づき農林水産大臣が定めた重要な形質(平成
20年農林水産省告示第534号「種苗法の規定に基づく重要な形質」)に
即して定めるものとされている(甲174の7)。
4 争点
(1) 請求第1項及び第2項関係
確認の利益の有無(争点1)
(2) 請求第3項関係
ア 本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に区別さ
れない品種か(争点2)
イ 一審被告の本件育成者権1に基づく請求は,本件品種登録1に無効・取
消事由があることにより,権利濫用として許されないか
(ア) 原始的瑕疵1・育成者性の欠如(争点3-1)
(イ) 原始的瑕疵2・区別性の欠如(争点3-2)
(ウ) 原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如(争点3-3)
(エ) 後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失(争点3-4)
(オ) 後発的瑕疵2・均一性の喪失(争点3-5)
(カ) 当審における争点
本件特性審査の瑕疵による登録無効の成否(争点3-6)
ウ 消尽の成否(争点4)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点に関する当事者の主張は,後記(2)のとおり,当審における争点(争
点3-6)に関する当事者の主張,後記(3)のとおり,その余の争点に関す
る当事者の補充主張をそれぞれ付加するほかは,原判決「事実及び理由」第
2の4(8頁18行目~38頁の21行目)に記載のとおりであるから,こ
れを引用する。ただし,原判決を次のとおり補正する。なお,タケシマキリ
ンソウ種に属する品種を,単に「タケシマキリンソウ」と称することがある
(以下同じ)。
(原判決の補正)
ア 原判決10頁18行目冒頭から11頁8行目末尾までを次のとおり改め
る。
「本件被疑種苗とトットリフジタ1号に関し,鳥取大学のP6教授による
本件DNA鑑定1では,これらのDNA情報は同一であると結論づけられ
た(乙54,56,58,60)。本件DNA鑑定1(マーカー数10)
は,DNA鑑定学会により妥当性が検証されたDNA鑑定(マーカー数1
8,乙67参照)と比較すると,マーカー数の相違から精度が落ちること
は否定できない。しかし,DNA鑑定学会により妥当性が検証された鑑定
手法に対しては,若干の問題点が指摘されているものの,「提供されたマ
ニュアルは,今回の検証に用いられたサンプルを対象とする限り,検査対
象がトットリフジタ1号またはトットリフジタ2号であるか否かは正確に
識別可能なマニュアルであると言える」(乙67〔21頁の表13〕)と
評価されている。したがって,精度に差はあるものの,鑑定人を同じくす
る本件DNA鑑定1の正確性を否定する理由はない。」
イ 原判決12頁5行目の「乙108の1」を「甲108の1」に改める。
ウ 原判決12頁15行目,18行目の「甲93の2」を,いずれも「甲9
2の2」に,各改める。
エ 原判決12頁22行目の「乙50及び51の試験」を「本件比較栽培試
験(甲100,101,乙50,51)」に改める。
オ 原判決14頁24行目の「明らかであって,」の次に「冬を経験してい
ないものが1年生株であり,冬を経験したものが2年生株であると定義を
した上で,」を加える。
カ 原判決15頁23行目の「具体的には,」の次に「本件審査基準(甲1
6)の」を加える。
キ 原判決17頁16行目の「三宅西出口料金所」を「三宅西入口料金所」
に改める。
ク 原判決19頁22,23行目の「階級値7」を「階級値4」に改める。
ケ 原判決23頁11行目の「農林水産省が」から12行目の「従って」ま
でを「妥当性確認ガイドライン(甲129)に従って」に改める。
コ 原判決23頁23行目の「妥当性検証報告書」の次に「(乙67)」を
加える。
サ 原判決24頁6行目の「バンドパターン判別表」の次に「(乙67〔1
3頁の表7〕)」を加える。
シ 原判決24頁7行目の「トットリフジタ1号と」の次に「トットリフジ
タ2号と」を加える。
ス 原判決24頁10行目の「タケシマキリンソウ1」の次に「(アルペン
ガーデンやまくさで購入したもの(甲135,137))」を加える。
セ 原判決24頁13行目,18行目,22行目及び26行目の「鑑定意見
書」の次に,いずれも「(甲138)」を加える。
ソ 原判決25頁2行目の「タケシマキリンソウ2」の次に「(平成22年
ころ入手,桐蔭横浜大学で保管されていたもの(甲141))」を加える。
タ 原判決25頁6行目,10行目及び14行目の「鑑定意見書」の次に,
いずれも「(甲142)」を加える。
チ 原判決25頁16行目の「タケシマキリンソウ3」の次に「(田島ルー
フィング株式会社で保管されていたもの(甲136))」を加える。
ツ 原判決25頁20行目の「鑑定意見書」の次に,「(甲136)」を加
える。
テ 原判決25頁22行目の「タケシマキリンソウ6ないし8」の次に
「(順に,平成27年2月3日付鑑定嘱託書(鳥取刑(鑑)発第68号,
甲143)により鑑定に供試されたP916,P917及びP918)」
を加える。
ト 原判決25頁25行目,26頁4行目,10行目,15行目及び20行
目の「鑑定意見書」の次に,いずれも「(甲144)」を加える。
ナ 原判決28頁7行目の「P8准教授の」から8行目の「一致しており
(甲140,141)」までを「P8准教授のタケシマキリンソウ(鉾葉,
平成11年頃入手,桐蔭横浜大学で保管されていたもの)とトットリフジ
タ1号は,P6教授のDNA鑑定において一致しており(甲139,14
0)」に改める。
ニ 原判決28頁15行目の「甲149」を「甲148」に,18行目の
「甲148」を「甲147」に,それぞれ改める。
ヌ 原判決30頁13行目の「6 茎の伸長程度」を「6 冬期の茎の伸長程
度」に改める。
ネ 原判決31頁25行目の「20株中4株」を「20株中5株」に改める。
(2) 当審における争点(本件特性審査の瑕疵による登録無効の成否,争点
3-6)に関する当事者の主張
【一審原告の主張】
ア 種苗法における出願品種の特性審査(特に区別性)の在り方等
(ア) 対照品種
登録出願品種が属する種の認定によって,当該出願品種に対し,どの
種類別審査基準が適用されるかが確定されるところ,品種登録出願願に
は,「出願品種の属する農林水産植物の種類」の記載が義務づけられて
いるから,出願者がその記載を誤らない限り,審査官において「登録品
種が属する種」の判断を誤ることは考えにくい。また,「区別性」の有
無の判断対象たる「重要な形質」も法定されており,個々の審査官の判
断によるものではない。
そして,法は,品種登録要件具備の審査において,「適切な対照品種
を選定し」て行う(施行規則11条の2第1項)栽培試験等を実施する
としている。この特性審査は,種類別審査基準等に従って実施されると
ころ,出願品種との関係でどの品種が「適切な対照品種」かについて,
農林水産省は「出願品種と最も類似する品種として選定された品種」と
説明する(甲174の9)。育種の趣旨からすれば,この「適切な対照
品種」に新品種の元となった既存品種が含まれることは明らかである。
(イ) 特許法との対比(種苗法の特性審査の在り方と重大な瑕疵)
特許法では,進歩性の判断基準や判断方法について,法令に具体的な
定めはなく,審査基準はあるが,法の規定を受けて策定されたものでは
なく,裁判所を拘束しない。これに対し,種苗法における区別性の判断
では,法令の規定を受けて,審査要領が策定されており,区別性審査に
当該出願品種が属する種に適用される種類別審査基準を用いるものとさ
れている。その意味において,審査官の判断の幅は特許法の場合よりも
狭いと解される。
そして,特許法では,引用発明が本願発明の属する技術分野に属さな
いものであっても,そのことのみによって特許が無効になるとは解され
ない。これに対し,種苗法における「対照品種」は,出願品種が属する
種に属するものでなければならないと指定されており,品種の定義から
すれば,「対照品種」は当該最下位の植物学上の一の分類群に属する品
種,すなわち当該出願品種が属する種の植物の集合である必要がある。
各種類別審査基準にはその適用対象となる植物が明示されているから,
出願品種の特性審査では,当該出願品種が当該種類別審査基準の対象植
物とする種に属する植物体であることが必要である。仮に,出願品種が
属する種以外の種が誤って審査官に認定され,出願品種が属する種以外
の種の種類別審査基準を用いて特性審査がされた場合は,その審査には
何の意味もなく,全く審査していないことと同じことになる。農林水産
省も同旨の見解を述べている(甲174の7)。
また,特許法では,本願発明の進歩性判断において,審査官が主引用
発明の選定を誤っても,それのみで特許は無効とはならず,無効を主張
する者は,同じ技術分野に属する他の引用発明を選定し,本願発明との
一致点と相違点を検討して進歩性がないと主張することになる。種苗法
の栽培審査において,「対照品種」として選定された植物体が適切でな
かったとしても,出願品種が属する種に含まれる既存品種であれば,す
なわち種類別審査基準の適用自体に誤りがなかった場合は,特許法の場
合と同様に,登録無効を主張する者は,出願品種が属する種に属する他
の既存品種を「対照品種」として,両者の相違点を検討して区別性がな
いと主張することができる。この場合は既存の種類別審査基準を用いて
区別性がないことを立証することが可能である。しかし,そもそも,種
類別審査基準の適用を誤って,出願品種が属する種ではない既存品種と
比較することは,種苗法が予定する審査とはいえない。
さらに,特許は「発明」すなわち「技術的思想の創作」に対して付与
され,進歩性判断について,本願発明及び引用発明は文献に記載されて
いるから,両者の一致点・相違点の検討は,書面審査によって行われる。
それゆえ特許査定の後であっても,引用発明が記載された文献さえ存在
すれば,改めて進歩性の有無を判断することは容易である。これに対し,
種苗法による育成者権は,「植物体」という現物に付与される。した
がって,一度品種登録がされた後,改めて区別性の有無が問題になると,
栽培試験等により出願品種と対照品種を比較して判断する必要があり,
結論を得るまでに時間がかかる上,無効を主張する者に過度の負担を強
いることになる。
また,登録時における「対照品種」がそもそも出願品種の属する種に
属する既存品種でない場合は,無効主張者に「区別性がないこと」の立
証の負担を課すことは,不可能を強いるのと同様となる。なぜなら,出
願品種がそれまで出願されたことのない新規植物であった場合,農林水
産省の見解では,出願公表後,新規植物の出願品種を審査するための審
査基準を作成することとなるから(甲174の3),当該登録品種につ
いて「区別性がない」と主張する者は,審査基準(種類別審査基準)が
ない状態で「区別性がない」ことを立証しなければならないからである。
以上によれば,種類別審査基準の適用を誤って,そもそも出願品種が
属する種ではない既存品種と比較することは,種苗法において予定され
ておらず,そのような審査には意味がないから,法に基づく審査がされ
ていないものとして,区別性の有無を問題とするまでもなく,登録を無
効とすべき重大な瑕疵があるというべきである。
イ 本件特性審査の重大な瑕疵
(ア) 本件審査基準の対象植物の記載は,前提事実のとおりであって,タケ
シマキリンソウ種は対象植物とされていない。農林水産省も,タケシマ
キリンソウ種に属する品種の審査には,審査基準を新たに作成するか,
本件審査基準の対象植物にタケシマキリンソウ種を含めるかの検討が必
要となるとしている(甲174の7)。
(イ) トットリフジタ1号は,後記のとおり,エゾノキリンソウ種に属する
品種ではなく,タケシマキリンソウ種に属する品種であるから,区別性
の有無は,タケシマキリンソウ種に属する対照品種と比較検討して判断
されなければならず,対照品種には,少なくともトットリフジタ1号の
元となった既存品種である,平成12年にP8准教授がP3に譲り渡し
たタケシマキリンソウ種の植物体(以下「P8准教授が譲渡したタケシ
マキリンソウ」という。)が含まれるべきであった。
(ウ) しかるに,本件特性審査は,トットリフジタ1号の特性審査に使えな
い本件審査基準を用いている上,トットリフジタ1号の属するタケシマ
キリンソウ種に属する他の既存品種との比較検討は全く行われずにされ
ており,このような審査に全く意味がないことは明らかである。
したがって,本件特性審査の瑕疵は,そのことのみで登録を無効とす
る重大な瑕疵に当たる。
ウ 瑕疵の明白性等について
(ア) 本件特性審査の瑕疵が明白な瑕疵であること
本件特性審査の瑕疵は,審査官において,トットリフジタ1号が属す
る種の判断を誤ったことが原因であるが,トットリフジタ1号が属する
種であると誤って判断されたエゾノキリンソウ種と,タケシマキリンソ
ウ種は別の種であり,このことは,出願時,登録時にも明らかである。
文献(甲41,53~58,71)やイエリト社からのメール(甲15
4,155)など,審査官において適切な調査を行っていれば,トット
リフジタ1号がタケシマキリンソウ種であると判断できた。また,P8
准教授も,トットリフジタ1号もしくはタケシマキリンソウ種は,落葉
種であるエゾノキリンソウ種とはかなり異質との印象があるとした上,
自身が種苗特性調査基準作成委員を経験した観点から,本件審査基準の
特性表で比較する植物に,タケシマキリンソウ種が入っていなかったこ
とについて,率直に疑問に思う旨証言している(乙74〔48頁〕)。
したがって,本件特性審査の瑕疵は,一見して明白な瑕疵といえる。
(イ) 瑕疵の明白性の要件が不要であること
一般に行政処分が無効とされるためには,瑕疵の重大性及び明白性が
必要とされているが,明白性の要件については行政法上の解釈でも異論
がある上,品種登録の無効事由としては,これを不要とすべきである。
また,本件では,仮に本件特性審査の瑕疵が明白とはいえなくても,
次のとおり,育成者権を保護する必要もなければ,第三者の信頼保護や
行政運営の安定性という観点を考慮する必要もないから,登録を無効と
すべきである。
すなわち,P3は,本件出願に際し,トットリフジタ1号が,P8准
教授が譲渡したタケシマキリンソウであるか少なくともそれに由来する
ことを秘匿するため,すなわちトットリフジタ1号がタケシマキリンソ
ウ種の品種であることを秘匿するため,後記のとおり,出願書類に様々
な虚偽を記載した。その結果,審査官は,トットリフジタ1号が,エゾ
ノキリンソウ種ではなく,タケシマキリンソウ種であることを看過して
全く無意味な審査をした。このように瑕疵が生じた原因は,出願者自身
の虚偽記載という刑事罰(種苗法68条)の対象となる重大な違法行為
にあるから,その権利を保護する必要は全くない。
また,本件品種登録1という行政処分を元に新たな行政処分が積み重
ねられているということはないし,処分が有効であることを前提に行為
した第三者もいないから,本件では,行政運営の安定性を確保する必要
性もなければ,第三者の信頼保護を図る必要も全くない。むしろ,登録
されるべきでない品種が登録されてしまったことによって,本来であれ
ば,自由に利用できる品種の利用が制限されてしまうおそれがあるので
あり,本件においても,本件品種登録によって,タケシマキリンソウ種
の品種の自由な利用が制限されるおそれがある。そのような異常な状態
を解消するために,登録を無効とした方が,品種の育成の振興と種苗の
流通の適正化を図るという法の目的に合致し,公益を図ることとなる。
エ トットリフジタ1号の由来等
後記(3)【一審原告の主張】ア(原始的瑕疵1)でも主張するとおり,
トットリフジタ1号は,P8准教授が譲渡したタケシマキリンソウそのも
のか,少なくとも,それに由来するものであることは明らかである。
【一審被告の主張】
ア 種苗法における区別審査の在り方等について
審査要領及び種類別審査基準のいずれも法令の規定を受けて策定された
ものではない。特許法及び種苗法のいずれにおいても,審査官は,法律に
基づいて特許要件又は品種登録要件該当性を判断するものであり,その審
査の幅に差異はない。
対照品種について,施行規則11条の2は,対照品種が適切であること
を要求しているが,同一の種であることを要求していないし,種類別審査
基準においても,複数の「種」にまたがる審査に同一の標準品種を用いた
り(乙89),「種」より上位の分類である「科」の枠内で審査がされた
りしている(乙90)。
そして,農林水産大臣において栽培試験に供した対照品種が適切ではな
かったことや「種」において異なっていたことのみをもって,登録を無効
とする重大かつ明白な瑕疵に当たるとは解されない。そのような場合に無
効を認めると,出願人の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず,権利
が剥奪され,かつ,当該品種が出願時に品種登録要件を充足していたにも
かかわらず,権利取得が事実上不可能となる(無効とされた後に,再度品
種登録出願を行っても,通常,当該品種は未譲渡性(法4条2項)の要件
を充足しなくなっている。)からである。
また,特許法との対比に照らし,無効事由の主張立証責任を転換すべき
であるとの一審原告の主張も,一度審査を受けた育成者権者に過度の負担
を課すものといえ,相当でない。
イ 本件特性審査に瑕疵がないこと
本件審査基準は,本件出願を受けて,専門家の意見を聴いて作成された
種類別審査基準であり,これを本件特性審査に用いることができないとす
る理由は全くない。
ウ 明白性の要件等について
行政処分の無効事由として明白性の要件を不要とし得るとの一審原告の
主張は独自の見解である。
また,一審原告の主張は,トットリフジタ1号がタケシマキリンソウ種
であることを前提とするが,トットリフジタ1号はエゾノキリンソウ種で
あり,タケシマキリンソウ種であると解する余地はない。仮にタケシマキ
リンソウ種の疑いがあるとしても,あくまで「疑い」に過ぎず,何人に
よってもタケシマキリンソウ種であると判断される理由はないから,本件
特性審査に明白な瑕疵がないことは明らかである。
また,P3が本件品種登録願1に虚偽を記載したとの主張は否認する。
(3) その余の争点に関する当事者の補充主張
【一審原告の主張】
ア 原始的瑕疵1・育成者性の欠如(争点3-1)について
育成者性の立証責任は,育成者権を主張する一審被告が負うべきである
が,出願品種であるトットリフジタ1号は,P8准教授が譲渡したタケシ
マキリンソウである可能性が極めて高く,P3がその育成者でないことは
明らかである。
なお,「タケシマキリンソウ」は公知の植物体であるから,品種登録は
できないが,その育成者はP8准教授と認定されるべきである。
それらの理由を補説すると,次のとおりである。
(ア) DNA情報
a P6教授による10マーカーによるDNA鑑定では,① P8准教
授が提出したタケシマキリンソウとトットリフジタ1号のDNA情
報が一致しており(甲140),② P9が保有していたイエリト社
から購入した「タケシマキリンソウ」(P91~5)とトットリフ
ジタ1号とのDNA情報も一致している(甲149,150)。
b 日本食品分析センターの試験報告書(甲63)によれば,トット
リフジタ1号とタケシマキリンソウ(イエリト社及びP2が栽培し
ていたタケシマキリンソウ)のDNAがITS領域1では100%,
ITS領域2では99%で一致している。他方で,キリンソウ(Phe
dimus aizoon var. floribundus:同科Phedimus 属キリンソウ)と
の相同性は95~96%であり,キリンソウに由来する可能性は,
タケシマキリンソウに由来する可能性と比較して低いとされている。
c P6教授が行ったトットリフジタ1号と日本DNAデータバンク
(DDBJ)に登録事実のあるタケシマキリンソウとのDNA鑑定
においても,ITS領域1では同一であり,ITS領域2では1塩
基だけ異なるとの結果になっている(甲169)。
d P6教授は,a①の結果について,同一の植物,クローンだと思
うと述べ,また,cの結果について,トットリフジタ1号はキリン
ソウ種の植物ではなくタケシマキリンソウ種の植物(少なくともキ
リンソウ種よりはタケシマキリンソウ種の植物に近縁の植物)であ
るとしている(甲102の2〔91~94頁〕・添付資料「ブルー
ジー・プロからの常緑キリンソウフジタ1号の異議申し立てを読ん
だ感想」)
(イ) P8准教授によるタケシマキリンソウの譲渡及び本件出願の経緯に関
する供述等
a P8准教授は,タケシマキリンソウの譲渡経過等について,平成
11年頃,P3と知り合い,同人の圃場やハウス等を見学したとき,
そこにはセダム類の植物はなかった,平成12年頃,P3と一緒に
富山あるいは佐渡方面に行き,同年頃,「常緑キリンソウ」と呼ん
でいた「タケシマキリンソウ」をP3に譲渡し,普及を呼び掛けた,
その後,P3から品種登録の共同出願を誘われたが,自身がP3に
譲り渡した「原種」である「タケシマキリンソウ」を品種登録する
ことはあり得ないと考え,誘いを断ったと供述する(乙74〔2~
15頁〕)。
b これに対し,P3は,本件出願の経過について,平成6年頃,P
8准教授と新潟県にある佐渡島に植物の探求に行き,採取したキリ
ンソウをフジタに持ち帰り,敷地内で育てていたところ,冬場の新
芽がよく成長した,そのキリンソウの近くに置いていた箱に種子が
落ちていたのを見つけ,佐渡島から持ち帰ったキリンソウが自然交
雑して種子を作ったのだと思い,その種子を育てた,平成13年頃,
採取した種子が成長し,佐渡島のキリンソウよりも新芽を大きく成
長させる特性を持ったキリンソウができ,後にトットリフジタ1号
として登録した等と供述する(乙63〔3,4頁〕)。
しかし,上記P3の供述は,本件品種登録願1(甲1)の記載と
重要事項において矛盾する。すなわち,品種登録願では,① 常緑性
を発見できた時期について「平成10年4月」と記載され,② 出願
品種の「母親」について「新潟県柏崎市鯨波鶴ヶ鼻に自生の野生種」
とされている。加えて,P3は,刑事事件の捜査段階では,トット
リフジタ1号の親がタケシマキリンソウや他のキリンソウであるこ
とは否定できないことを認め(乙30〔6頁〕),また,その公判
廷では「自然交雑であるので親が特定できません」等と述べ(乙7
0〔40頁〕),曖昧な説明に終始している。
また,本件出願当時,出願品種以外に常緑性のキリンソウはタケ
シマキリンソウしかなく,P3は,刑事事件において,出願品種は,
P8准教授から譲り受けたタケシマキリンソウよりも緑の量が多
かったと供述する(乙70〔36頁〕)。しかし,そうであるなら,
本件品種登録願1の「対照品種」としてタケシマキリンソウを記載
できたはずであるが,P3は,その存在を農林水産省に秘匿し,属
のレベルで異なる植物である「カランコエ」を記載している。
c 以上によれば,トットリフジタ1号の育成経緯に関するP3の供
述は到底信用できない。
(ウ) トットリフジタ1号とタケシマキリンソウの特性の一致
P3及びP8准教授は,トットリフジタ1号とタケシマキリンソウは,
常緑性という特性を有しており,キリンソウはそのような特性を有して
いないと述べ(乙70〔36~37頁〕,乙74〔12~13頁〕),
P9も同旨の供述をする(甲148)。また,P6教授のDNA鑑定の
妥当性検証(乙67)において,比較対象となった「トットリフジタ1
号」と見た目で識別することが困難な植物体も,そのほとんどがタケシ
マキリンソウ種とされている(乙67〔9頁表3,添付資料2の1~2
頁〕)。
イ 原始的瑕疵2・区別性の欠如(争点3-2)について
上記アのとおり,トットリフジタ1号は,P8准教授が譲渡したタケシ
マキリンソウそのものか又はそれに由来するものであるから,公知の品種
である「タケシマキリンソウ」と明確区別性がない。また,前記(2)【一
審原告の主張】イのとおり,適切に明確区別性が審査されておらず,区別
性の要件を欠如している。
ウ 原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如(争点3-3)について
上記のとおり育成者と認定されるべきP8准教授は,タケシマキリンソ
ウを,P3だけでなく緑化関係の企業数社に配り,守秘義務を課すことな
く「業として」タケシマキリンソウを譲渡していた。したがって,未譲渡
性(新規性)の要件を欠く。
エ 後発的瑕疵1・安定性,均一性の喪失(争点3-4)について
本件比較栽培試験における鑑定フジタ1年生の特性と,同鑑定フジタ2
年生の特性は,本件特性表記載のトットリフジタ1号の特性と,明確に区
別されるから,遅くとも平成24年8月頃にはトットリフジタ1号は,均
一性,安定性を欠くに至った。この点に関し,原判決は,本件比較栽培試
験には,量的形質についての判定過程に問題があり,その階級幅の設定及
びそれに基づく階級値の判定を直ちに採用することはできないとする。し
かし,そのような不備や問題点があるのであれば,そのような不備や問題
点のない比較栽培試験をすべきであったといえ,上記認定は事実誤認とい
うほかない。
オ 後発的瑕疵2・均一性の喪失(争点3-5)について
本件比較栽培試験に供試された鑑定フジタ1年生及び鑑定フジタ2年
生の各20株について,形質ごとの平均値から1階級値以上異なった株が
多くあることから,遅くとも平成24年8月頃にはトットリフジタ1号が
均一性を欠くに至った。なお,原判決が採用した鑑定フジタ2号を用いた
量的形質の階級幅の設定方法は,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の齢
が同一であることを前提とするが,その点はP4の供述等によっても証明
されていないから,合理性がない。結局,均一性の有無は,本件比較栽培
試験で採用された階級幅を使用した判断と,原判決が採用した階級幅を使
用した判断を総合して,判断するほかないところ,トットリフジタ1号
は,本件比較栽培試験で採用された階級幅を使用した場合は形質番号5及
び10において,原審が採用した階級幅を使用した場合は形質番号5にお
いて,均一性を喪失していると判断される。
【一審被告の主張】
(確認の利益の有無(争点1)について)
確認の利益があるとの根拠とされた事情は,いずれも,本件口頭弁論の終
結時から相当前に遡る平成27年11月までの事情であり,そのような事情
をもって,確認の利益があるということはできない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(確認の利益の有無)について
(1) 当裁判所も,一審原告が本件種苗1及び本件種苗2-2を生産等する行
為並びに一審原告が本件種苗1及び本件種苗2-2を使用した原告製品1及
び原告製品2を販売する行為について,一審被告が本件育成者権に基づく各
差止請求権を有しないことの確認を求める利益が存在し,また,これらの確
認請求は理由があるものと判断する。
その理由は,原判決「事実及び理由」第3の1(38頁23行目~43頁
7行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を次
のとおり補正する。
(原判決の補正)
ア 原判決39頁18行目の「なお,」から19行目の末尾までを次のと
おり改める。
「なお,フジタパラダイスパークの代表者は,フジタの代表者であるP
3であり,その本店所在地もフジタと同じである(甲36)。また,田
中緑化研究所及び緑化計画研究所は,いずれもフジタから仕入れたトッ
トリフジタ1号を使用して行う緑化工事の施工業者である。フジタの専
務取締役であるP4は,田中緑化研究所の代表者であるP10及び緑化
計画研究所の代表者であるP11と共に,トットリフジタ1号を普及さ
せるため常緑きりんそう緑化協会を立ち上げてPR活動等を行っており,
P10及びP11らと共に,平成25年4月23日,P2の農場を訪れ
る等した際,一審原告がトットリフジタ1号を違法に増殖しているとの
疑いを抱き,その後,鳥取警察署に被害相談をするなどした(乙2,3
3)。」
イ 原判決41頁7行目の「原告は」から17行目末尾までを次のとおり
改める。
「一審原告は,平成24年2月頃以降,商品に用いるトットリフジタ1
号をタケシマキリンソウ種のうち公知のものに切り換えるべく,P2を
して,埼玉県所在の株式会社アルペンガーデンやまくさ(以下「やまく
さ」という。)等から購入したタケシマキリンソウを 増殖させ(乙1
6),同年10月の営業会議では,タケシマキリンソウ種のうち公知の
ものを本格採用する方針とし(甲134),平成25年5月には,P2
に指示してトットリフジタ1号を使用したみずいらずの在庫を処分させ
た(乙25)から,それ以降,P2において,みずいらず等の商品の製
作にトットリフジタ1号を使うことはなくなったことが認められる。ま
た,P12のP9も,一審原告が長野県所在のグリーンマーケットで購
入し,平成24年11月29日にP9に送られたタケシマキリンソウの
苗を増殖するとともに,平成24年12月初旬に一審原告の指示で購入
したイエリト社の種子(甲31の2)も発芽させて併せて育苗し,平成
25年4月19日に1万6000株を一審原告の下請生産農家に出荷し
たほか,平成25年夏以降,これらのタケシマキリンソウの苗を一審原
告やその下請生産農家に出荷し ていたことが認められる(乙41,4
2)。そうすると,遅くとも平成26年4月以降,一審原告が販売する
「みずいらず」及び「みずいらずスーパー」は,いずれもタケシマキリ
ンソウ種である本件種苗1又は本件種苗2-2が用いられた商品,すな
わち,原告製品1及び原告製品2であると認めるのが相当である。」
ウ 原判決41頁22行目の「原告が」から23行目末尾までを「一審原
告が,タケシマキリンソウ種である本件種苗1,タケシマキリンソウ種
であってトットリフジタ1号及び2号ではない本件種苗2-2を,いず
れも「常緑キリンソウ」と呼んで,生産,販売することは何ら妨げられ
るものではない。」に改める。
エ 原判決42頁18行目「原告の権利」から末尾までを「一審原告がタ
ケシマキリンソウ種である本件種苗1並びにタケシマキリンソウ種で
あってトットリフジタ1号及び2号ではない本件種苗2-2を生産等し
た上,これらの種苗を用いた原告製品1及び原告製品2をその顧客に販
売できるという法的地位に不安が生じているというべきである。」に改
める。
オ 原判決43頁6行目冒頭から末尾までを「タケシマキリンソウ種であ
る本件種苗1及び本件種苗2-2が一審被告の有する本件育成者権を侵
害するものではないこと自体は,当事者間に争いがないことから,」に
改める。
(2) 一審被告の補充主張について
一審被告は,前記第2の5(3)【一審被告の主張】のとおり主張する。
しかし,原判決を引用して説示したとおり,一審被告の関係者は,一審原
告の取引相手を含む緑化工事の施工業者に対し,「常緑キリンソウ」として
認められているものは,トットリフジタ1号及び2号のみであるとの誤解を
生じさせるような通知,宣伝を行っていたから,取引者に常緑キリンソウと
通常認識されるような種苗については,一審原告においては,一切,生産販
売し得ないのではないかという不安が生じていたところ,そのような不安が
本件口頭弁論終結時までに払拭されたといえるような事情の変化は認められ
ない。
加えて,本件においては,一審原告は,常緑性はタケシマキリンソウ種の
特性であり,同様の特性を有するトットリフジタ1号も,タケシマキリンソ
ウ種に属すると主張するのに対し,一審被告は,前記第2の5(2)【一審被
告の主張】ウのとおり,トットリフジタ1号は,エゾノキリンソウ種に属す
る植物体であるとして,これを争っていることを考慮すれば,なお,一審原
告が,トットリフジタ1号及び2号とは異なるものとして,常緑性を有する
タケシマキリンソウ種の種苗を生産等し,また,それらの種苗を使用した製
品を販売等することが,本件育成者権を侵害するものではないことを,その
権利者である一審被告との間で明確にすることが,一審原告の上記不安の除
去として有効適切であるというべきである。したがって,一審被告の主張は
採用できない。
2 争点2(本件被疑種苗がトットリフジタ1号又はそれと特性により明確に
区別されない品種か)について
当裁判所も,本件被疑種苗はトットリフジタ1号を違法に増殖したもので
あり,一審原告がこれを南海辰村建設に販売した行為は,本件育成者権1を
侵害するものと判断する。その理由は,原判決「 事実及び理由」第3の2
(43頁8行目~80頁17行目)に記載のとおりであるから,これを引用
する。ただし,原判決を次のとおり補正する。
(原判決の補正)
(1) 原判決43頁12行目の「原告は」から13行目の「作成して」までを,
「一審原告は,平成20年6月23日,フジタ及びユアサ商事と本件覚書を
取り交わして」に改める。
(2) 原判決43頁24行目から25行目の「乙108の2p53」を「甲1
08の1〔109頁〕,乙78〔13頁〕」に改める。
(3) 原判決44頁10行目から45頁13行目までを次のとおり改める。
「(エ) 一審原告代表者は,平成22年から平成23年頃に,造園業を営むP
13から,常緑性のキリンソウであるとして,タケシマキリンソウの紹介を
受け(乙16,43),平成23年11月にグリーンマーケットからタケシ
マキリンソウとして6株と5株の合計11株購入し,後者5株についてはP
12のP9に直送し,前者6株については,自分で育ててポット苗30株か
ら40株ほどに殖やし,これを平成24年1月頃,P2に渡した。また,一
審原告代表者は,平成23年12月にやまくさからタケシマキリンソウとし
て4株を購入し,それをP2に直送して,増殖するよう指示した(乙16~
18,23,78〔82頁〕)。
なお,一審原告代表者は,本件刑事事件の公判において,P2に対し,上
記グリーンマーケットから購入して育てた苗を渡したときに,併せて,P1
3からサンプルをもらって育てたタケシマキリンソウの苗も渡した旨供述す
る(甲108の1〔23~26頁〕)。
しかし,一審原告代表者は,捜査段階では,P13からタケシマキリンソ
ウの紹介を受けたときサンプルはもらっていない(乙16〔2頁〕),P1
3から時期も回数もはっきりしないがタケシマキリンソウのサンプルをも
らった記憶があるが,これをP2のところで増やしたことはない(乙18
〔6頁〕)等と述べ,その供述内容に変遷がみられるところ,その変遷につ
いて合理的な説明はない。また,P13は,自身が育てていたタケシマキリ
ンソウを平成22年4月から平成23年11月までの間に一審原告代表者に
サンプルとして渡したことはない,平成25年2月5日のメールに一審原告
代表者からキリンソウ(エゾノキリンソウ種)のサンプルを求められて送っ
た旨記載しているが,これはオオミエゾ3号のサンプルのことであり,1年
も2年も昔のことではないと供述しており(乙43),このP13の供述の
信用性を疑うべき事情は見当たらない。
そうすると,一審原告代表者の公判供述のうち,P13からもらったサン
プルを育てたタケシマキリンソウも,P2に対し,併せて渡したとの部分は
信用できず,P2が一審原告代表者の指示によって増殖したタケシマキリン
ソウは,やまくさ及びグリーンマーケットのものと認められる。」
(4) 原判決45頁18行目の「(甲140)」を「(甲134)」に改める。
(5) 原判決47頁1行目の「このように」から2行目末尾までを,「しかし,
併せて作られたタケシマキリンソウのトレイ(タケシマキリンソウ種を使用
した商品)の数については,育苗報告書に記載されなかった(乙23)。」
に改める。
(6) 原判決47頁3行目の「それ以前に」から6行目の「あった」までを,
「P2の農場には,以前,一審原告が正規に購入したトットリフジタ1号の
カット苗を栽培して製作したみずいらずの在庫品532トレイのほか,P2
が上記在庫品やその他の商品に使われているトットリフジタ1号からカット
苗を切り出して,本件覚書に反する態様で増殖させたトットリフジタ1号の
苗があった」に改める。
(7) 原判決47頁19行目の「乙28及びその添付資料」を「乙22,28
〔各添付資料を含む。〕」に改める。
(8) 原判決47頁20行目の「平成24年9月19日」を「平成24年10
月19日」に改める。
(9) 原判決48頁3行目の「甲17」を「乙17」に改める。
(10) 原判決48頁7行目の「甲140」を「甲134」に改める。
(11) 原判決53頁6行目の「行いて」を「行い,」に改める。
(12) 原判決54頁5行目以下に「本件鑑定1」とあるのをいずれも「本件D
NA鑑定1」に改め,同頁6行目以下に「本件鑑定2」とあるのをいずれも
「本件DNA鑑定2」に改める。
(13) 原判決60頁11行目の「それらが全てにおいて」を「サンプルがトッ
トリフジタ1号とは別品種でありながら,それらのマーカー全てにおいて」
に改める。
(14) 原判決68頁8行目の「甲100の1,」の次に「甲101の1,」を
加える。
(15) 原判決69頁2行目の「全て」を削除する。
(16) 原判決71頁14行目の「大雪山」を「大雪山等」に改める。
(17) 原判決72頁21行目の「甲100の2」を「甲100の1」に,同頁
26行目の「甲100の1」を「甲101の1」に,それぞれ改める。
(18) 原判決74頁10行目の「同一の方法」の次に「(ただし,後記cのと
おり,栽培開始時期は耕種概要記載の時期と合致しない。)」を加える。
(19) 原判決75頁2行目の「大きいとはいえない」から7,8行目の「これ
らのことを考慮すると」までを「大きいとはいえず」に改める。
(20) 原判決75頁23行目の「同供述は採用できない。」を「同供述をもっ
て,鑑定フジタ1年生として提出されたもの全てが「冬を経験していない」
ものとは認められない。」に改める。
(21) 原判決76頁4行目末尾に「そうすると,本件比較栽培試験鑑定のうち
鑑定フジタ1年生を比較対照品種とした鑑定(甲100,101)について
は,これを本件被疑種苗がトットリフジタ1号を増殖したものか否かの認定
に用いるのは相当でないというべきである。そこで,以下では,鑑定フジタ
2年生を比較対照品種として実施された比較栽培試験鑑定(乙50,51)
の信頼性について,検討する。」を加える。
(22) 原判決76頁19行目の末尾に「そして,鑑定フジタ2年生と本件被疑
種苗との間では,質的形質及び疑似の質的形質については,階級値の相違は
認められなかった(乙50,51の各特性表)。」を加える。
(23) 原判決80頁4行目の「認められるから,」から5行目末尾までを,
「認められる。そうすると,鑑定フジタ2年生と本件被疑種苗との間では,
量的形質である複数の形質で階級値が異なるが,1階級の幅以上に異なるも
のではないとして明確な区別性が認められないとした本件比較栽培試験鑑定
(乙50,51)の結論が誤りであるとはいえない。また,鑑定フジタ2年
生と本件被疑種苗との間では,前記のとおり,質的形質及び疑似の質的形質
については区別性が認められず,区別性が認められた形質はいずれも量的形
質であり,量的形質については,前述のとおり,栽培環境等の影響を受けて
変化することが想定されている。以上によれば,本件比較栽培試験鑑定に
よって,本件被疑種苗がトットリフジタ1号であるとの前記認定が妨げられ
るものではない。」に改める。
3 争点3-1(原始的瑕疵1・育成者性の欠如),争点3-2(原始的瑕疵
2・区別性の欠如),争点3-3(原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠
如)について
(1) 当裁判所も,本件登録品種1に係る品種登録に,育成者性の欠如,区別
性の欠如及び未譲渡性(新規性)の欠如という原始的瑕疵が存するという一
審原告の主張は,いずれも理由がないと判断する。
その理由は,原判決「事実及び理由」第3の3(80頁18行目~89頁
10行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決を
次のとおり補正する。
(原判決の補正)
ア 原判決84頁24行目の「比較栽培事件」を「比較栽培試験」に改め
る。
イ 原判決86頁8行目の「前記2(2)オ」を「前記2(2)カ」に改める。
ウ 原判決87頁13行目の冒頭から21行目末尾までを削除する。
(2) 一審原告の補充主張について
ア 原始的瑕疵1・育成者権の欠如(争点3-1)について
一審原告は,前記第2の5(3)【一審原告の主張】アのとおり,トット
リフジタ1号は,P8准教授が譲渡したタケシマキリンソウである可能
性が極めて高いから,育成者はP8准教授であり,P3でないことは明
らかであると主張する。
(ア) DNA鑑定の結果等について
一審原告は,上記主張の根拠の一つとして,P6教授の10マーカー
によるDNA鑑定(甲140)の結果を挙げる。
しかし,平成25年10月に鑑定嘱託された上記鑑定は,その信頼性
についてひとまず措くとしても,これに供試されたタケシマキリンソウ
(甲139)は,P8准教授が,平成11年頃,愛好家から譲り受けて
入手し,平成12年頃,P3に譲渡したタケシマキリンソウを株分け等
したものではなく,P8准教授の手元に保管されていたタケシマキリン
ソウの管理に不安があったことから,平成25年に上記入手元である愛
好家から再度同じものを入手しようとしたところ,同愛好家が別の者に
譲渡していたことから,その譲渡先に依頼して改めて入手したものであ
る(乙74〔18,19,33,34頁〕)。そうすると,上記鑑定に
供試されたタケシマキリンソウが,平成12年頃,P3に対し,P8准
教授が譲渡したというタケシマキリンソウと同じ植物といえるかは明ら
かとはいえない。したがって,トットリフジタ1号が,P8准教授が譲
渡したタケシマキリンソウである可能性が高いと認めることもできな
い。
また,一審原告は,日本食品分析センターによる試験結果やP6教授
が行ったDDBJのタケシマキリンソウとのDNA鑑定の結果(甲6
3,169)も根拠に挙げるが,核リボゾームDNA塩基配列解析は,
品種 の識 別 では なく ,種 まで の 識別 を目 的と した 試 験で あ る し ( 乙
6),上記試験等に供試されたタケシマキリンソウとの類似性が高い
(これに対して,エゾノキリンソウ種との類似性は高くはない。)から
といって,登録出願に係るトットリフジタ1号が,P8准教授が譲渡し
たタケシマキリンソウであるとは直ちに推認されない。
(イ) 登録出願の経緯等に関する関係者の供述について
また,P8准教授の供述(乙74)をもってしても,P3が,P8准
教授が譲渡したタケシマキリンソウを,共同で登録出願をすることを
誘ったという事実までは認められず,他の証拠をもってしても,P8准
教授が常緑キリンソウの普及を呼びかけて第三者に譲渡した植物が ,
トットリフジタ1号そのものであるとの事実を認めるに足りないこと
は,原判決を引用して説示したとおりである。
そして,本件出願の経緯等に関するP3の本件刑事事件における供述
(甲170〔2,3頁〕,乙30〔4~6頁〕,乙70〔40~47
頁〕等)について,確かに,① 出願品種の常緑性を発見できた時期及
び,② 出願品種の「母親」について,本件品種登録願1(甲1)の記
載内容(前提事実(1)ウ)と齟齬する部分があることが認められる。
しかし,出願経緯に関する供述の根幹部分が,本件品種登録願1の記
載内容と矛盾するとまではいえないし,特に不自然な内容であるという
こともできない。P3は,トットリフジタ1号の親がタケシマキリンソ
ウや他のキリンソウであることは否定できないとか(乙30),トット
リフジタ1号の親が特定できない等と述べるが(乙70),タケシマキ
リンソウの種子が微小・軽量であること(甲30,153参照)から,
飛散等して交雑した可能性を想定しているもので(乙70〔40
頁〕),本件品種登録願(甲1)にも父親については「不明」と記載し
ているから,P3の説明が直ちに不合理であるとは評価できない。
その一方で,P3は,P8准教授からタケシマキリンソウの譲渡を受
けた後,数年間にわたって,栽培を続けてきた一方,P8准教授は,P
3に譲渡した後,トットリフジタ1号の育成に関し,何らかの関与をし
たというわけでもない。P8准教授がタケシマキリンソウを入手し,P
3に譲渡するまでの期間は短期間(約1年)であり(乙74),P8准
教授自身,一審被告が冒認出願をしたとは思っていないという趣旨の供
述をしていることや(乙74),後述するとおり,トットリフジタ1号
とP8准教授が譲渡したタケシマキリンソウとの間に明確区別性が認め
られることなどを併せ考えると,上記の齟齬をもって,P8准教授が
トットリフジタ1号の育成を行った事実を認めることはできないし,P
3がトットリフジタ1号の育成を行った事実を否定するものともいえな
い。
(ウ) 特性の比較
タケシマキリンソウ種が常緑性という特性を有しており(甲64,1
30,176,乙3),一見するとトットリフジタ1号と似ているとい
う点(甲148)がうかがえるも,前記引用にかかる原判決「事実及び
理由」第3の3(3)アに記載のとおり,タケシマキリンソウ種がトット
リフジタ1号の有する形質における重要な特性を具備しているか明らか
とはいえず,P8准教授が栽培していたタケシマキリンソウの葉の形状
に変異が多く出ることなどと相違していることなどから,登録出願に係
るトットリフジタ1号が,P8准教授が譲渡したタケシマキリンソウそ
のものであるとの事実を推認させるものとはいえない。
なお,控訴人は,当審において,P8准教授が譲渡したタケシマキリ
ンソウ及びそれ以外のタケシマキリンソウ種との明確区分性の有無に関
する比較栽培試験による鑑定を申し立てた。しかし,P8准教授が譲渡
したタケシマキリンソウ以外のタケシマキリンソウ種のうちいずれの品
種を試験の対象とするかについて特定することなく比較栽培試験を求め
るもので相当とはいえない。また,上述したとおり,P8准教授が譲渡
したタケシマキリンソウとの明確区分性が認められる以上,改めて比較
栽培試験を実施する必要はないと考える。
(エ) 小括
以上によれば,登録出願に係るトットリフジタ1号が,P8准教授が
譲渡したタケシマキリンソウそのものであると認めることはできない。
仮に,P8准教授が譲渡したタケシマキリンソウに由来する可能性を否
定できないとしても(これをP3が認識していたと認めるに足りる証拠
があるわけではない。),譲渡された後,明確区別性を獲得するまでの
育成に関与しているわけではないことからすると,トットリフジタ1号
の育成者がP8准教授であるとの一審原告の主張は採用できず,育成者
性欠如の原始的瑕疵があるということはできない。
イ 原始的瑕疵2・区別性の欠如(争点3-2)について
一審原告は,前記第2の5(3)【一審原告の主張】イのとおり,トット
リフジタ1号はP8准教授が譲渡したタケシマキリンソウそのものか又
はそれに由来するものであるから,公知の品種である「タケシマキリン
ソウ」と明確区別性がないと主張する。
しかし,トットリフジタ1号はP8准教授が譲渡したタケシマキリン
ソウそのものであるとの主張は,上記アに説示したとおり採用できな
い。
また,P6教授のDNA鑑定の結果(甲140,142,150),
DNA塩基配列解析試験の結果等(甲63,169)によっても,タケ
シマキリンソウとトットリフジタ1号とが特性において明確区別性がな
いとはいえず,かえって,20マーカーによる甲144のDNA鑑定の
結果によれば,タケシマキリンソウ種には複数の系統が存在することが
うかがわれる。しかし,一審原告は,P8准教授が譲渡したタケシマキ
リンソウを除く,タケシマキリンソウ種のうちどの既存品種との間で明
確区別性がないと主張するのか特定しない(甲14)。
一審原告の主張はいずれも理由がない。
ウ 原始的瑕疵3・未譲渡性(新規性)の欠如(争点3-3)について
一審原告は,トットリフジタ1号は,P8准教授が譲渡したタケシマ
キリンソウそのものであり,これを育成者であるP8准教授が第三者に
譲渡しているから,未譲渡性を欠くと主張する。しかし,上記アに説示
したとおり,トットリフジタ1号が,P8准教授の譲渡したタケシマキ
リンソウそのものであると認めることはできない。したがって,そのこ
とを前提とした一審原告の上記主張は,採用できない。
4 争点3-4(後発的瑕疵1・均一性,安定性の喪失)について
(1) 当裁判所も,一審原告の後発的瑕疵1に関する主張は理由がないと判断
する。その理由は,原判決「事実及び理由」第3の4(89頁11行目~9
1頁6行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 一審原告は,本件比較栽培試験には,量的形質に係る特性に関し,階級
幅の設定及びそれに基づく階級値の判定に不備があるのであれば,かかる不
備がない比較栽培試験をすべきであり,原判決には事実誤認があると主張す
る。
しかし,本件比較栽培試験は,そもそも,本件被疑種苗と登録品種である
トットリフジタ1号の区別性のみを確認するために実施されたものであり,
トットリフジタ1号の均一性及び安定性の判定を目的として実施されたもの
ではない(乙71〔109,110頁〕)。
したがって,一審原告の主張は,上記(1)の判断を左右するものとはいえ
ず,採用できない。
5 争点3-5(後発的瑕疵2・均一性の喪失)について
(1) 当裁判所も,一審原告の後発的瑕疵2に関する主張は理由がないと判断
する。その理由は,原判決「事実及び理由」第3の5(91頁7行目~93
頁17行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決
92頁12行目「甲118」の次に「〔特性調査野帳〕」を加える。
(2) 一審原告は,原判決が採用した鑑定フジタ2号を用いた量的形質の階級
幅の設定方法は,鑑定フジタ2年生と鑑定フジタ2号の齢が同一であること
を前提とするが,その点は証明されていないから,合理性がない等と主張す
る。しかし,上記前提の存否につき検討するまでもなく,本件比較栽培試験
における鑑定試料の測定値・平均値を用いて,量的形質の階級幅を適正に設
定することはできず,その結果に基づき均一性喪失の有無を判定することは
できないことは,原判決を引用して説示したとおりである。
したがって,一審原告の主張は採用できない。
6 争点3-6(当審における争点:本件特性審査の瑕疵による登録無効の成
否)について
(1) 特性審査の実務及び本件特性審査の経緯等
前提事実,証拠(甲99の2,甲104,甲174の3,後掲の書証)及
び弁論の全趣旨によれば,品種登録における出願品種に係る特性審査の実務
及び本件審査の経緯等について,次のとおり認められる。
ア 特性審査の実務
栽培試験又は現地調査によって実施される特性審査の審査基準として,
一般基準や種類別審査基準が定められている。種類別審査基準には,対
象とする植物について,植物分類学上の何属何種を対象とするか,調査
対象とする形質,調査の方法等が定められている。
品種登録願の対照品種の記載は,対照品種の選定に当たって参考とさ
れ得るものの,審査官は,出願書類の添付写真等も参考にするなどして,
形質に係る特性を総合的に検討し,出願品種と最も類似度が高いと判断
したものを対照品種として選択する。
それまで同種類の植物の出願がされたことがなかった新規植物につい
て,出願がされた場合は,出願公表後,先ず種類別審査基準の策定の要
否等が検討され,これを策定する場合は,種苗管理センターに出願品種
に係る植物の特性情報について調査が依頼され,種苗管理センターでは,
入手可能な品種を入手して調査をし,種苗特性分類調査の報告書及び審
査基準案を作成する。農林水産省は,種苗管理センターから提出された
上記報告書等に基づいて,審査官が現地調査又は栽培試験を実施する過
程において,上記報告書等の調査結果の妥当性を検証し,種類別審査基
準を策定する。
種類別審査基準は,複数の種にわたる品種を対象として作成されたり
(例えば,乙89),科に含まれる品種の全てを対象として作成された
りすることがある(例えば,乙90)。
イ 本件特性審査の経緯
(ア) P3は,平成16年2月10日,本件品種登録願1に前記第2の2
(1)ウのとおり記載して本件出願をした。本件品種登録願1の対照品種
には,出願品種とは属レベルで異なる植物である「カランコエ」が記載
され,添付された特性表の対照品種が「野生種キリンソウ」となってい
ることと整合性がなかったが,出願品種について種レベルの学名が記載
されていたことから,記載の補正が求められなかった可能性がある。
(イ) 本件出願当時,キリンソウとして出願されたトットリフジタ1号の特
性審査に適用することが可能な種類別審査基準は存在しなかった。その
ため,まず,種類別審査基準を策定する必要があり,種苗管理センター
に対し,調査が依頼され,平成18年3月に種苗管理センターから「種
苗特性分類調査報告書 きりんそう」が提出され,同報告書に基づいて,
農林水産省の担当審査官が平成19年1月12日にP3の圃場にて現地
調査を実施し,出願品種(トットリフジタ1号)及び対照品種(佐渡在
来,新潟在来)の特性を調査し(甲92の3),その結果を踏まえて,
同年8月に本件審査基準が策定された。
(ウ) 本件審査基準は,セダムアイゾーンとセダムカムチャティカムの二つ
の種(以下,和名により「エゾノキリンソウ種」という。)に適用され
る種類別審査基準として策定され,タケシマキリンソウ種を対象植物と
して策定されたものではない(甲174の7〔9頁〕)。
(エ) 本件審査基準に基づく特性審査の結果を踏まえて,平成19年9月2
1日,トットリフジタ1号は,種苗法所定の登録要件をすべて満たして
いると認定され(甲92の2),品種登録に至った。
(2) 検討(本件特性審査の瑕疵の有無について)
ア はじめに
一審原告は,前記第2の5(2)【一審原告の主張】イのとおり,本件品
種登録に際して,トットリフジタ1号が含まれるタケシマキリンソウ種
を対象としない本件審査基準に基づいて,対照品種にタケシマキリンソ
ウ種を選定せずに行った本件特性審査は,種苗法の予定する審査を全く
行っていないことに等しく,重大な瑕疵に該当すると主張する。
その主張の趣旨は,種苗法49条に規定する取消事由(例えば,原始
的瑕疵2の事由)の存否にかかわらず,それ自体で,重大な瑕疵に該当
し,無効であるというものと解される。
そこで,以下,本件特性審査の瑕疵の有無,程度について検討する。
イ 審査の存在(本件審査基準の適否)
(ア) 一審原告は,本件特性審査においては,タケシマキリンソウ種が対象
植物とされるべきであるのに,対象植物をエゾノキリンソウ種と誤った
ため,適切な審査基準を策定することができず,また,適切な対照品種
を選択することもできなかったと主張する。
(イ) 確かに,出願品種が属する種に適用される種類別審査基準が用いられ
ることなく,出願品種とは異なる種の既存品種を対照品種として比較す
ることは,種苗法が予定する審査とはいえない(出願品種の属する対象
植物を誤ると,適切な対照品種を選択することはできない。)。
しかし,タケシマキリンソウ種とエゾノキリンソウ種とは異なる種で
あるとしても,比較的最近までは同じものと考えられており,その後,
この二つの種との間で多くの異種交配が行われていることが認められ,
その分類は容易ではない(甲154,155,乙74の46頁以下)。
また,審査基準を策定するに当たり,どの程度の範囲の種を対象植物と
するかが決まっているわけでもない。
(ウ) そして,前記(1)イのとおり,本件出願時には,出願品種であるトッ
トリフジタ1号の特性審査に適用しうる種類別審査基準がなかったこと
から,種苗管理センターにおいて調査が実施され,その調査結果を基に,
農林水産省の担当審査官がP3の圃場にて出願品種と対照品種の特性を
調査し,農林水産省において本件審査基準を策定した。本件特性審査は,
審査官が本件審査基準に基づいて,区別性審査を含む審査として行われ
たことが認められる。
すなわち,本件出願に際し,農林水産省の担当審査官が,調査の結果,
本件審査基準を策定し,同基準中において「ベンケイソウ科マンネング
サ属の「きりんそう」(和名でキリンソウ,ホソバノキリンソウ及び産
地名を付して呼ばれるエゾノキリンソウ等)と呼ばれているアイゾーン
種とカムチャティカム種を対象植物とする」とし,対照品種も農林水産
省審査官によって選定された。
(エ) なお,本件刑事事件の手続において,トットリフジタ1号がタケシマ
キリンソウ種に属する可能性があるとして,DNA鑑定が実施されたり
したが,それまで,そのような議論がされた形跡はうかがえない。
(オ) 以上のような事実経過に加え,仮に,出願品種が対象植物に属さない
からといって,品種登録の要件(種苗法3条1項)を満たしている以上,
上記の誤りが登録の取消事由となるわけではないことを併せ考えると,
出願品種が対象植物に属していないということのみを理由に,本件特性
審査が実施されなかったものと同視することはできず,直ちに,明白か
つ重大な瑕疵があったとして,登録処分を無効とすることはできない。
ウ 原始的瑕疵の主張,立証の負担
この点につき,一審原告は,特許法との違いを指摘した上で,出願登
録の有効性を争う者にとって,対象植物を誤って,出願登録された事例
においては,そのこと自体を主張,立証するだけでなく,さらに取消事
由の存在の主張,立証を求められるのは酷であると主張する(前記第2
の5(2)【一審原告の主張】ア)。
しかし,審査基準の策定の制度が法定されているからといって,品種
登録の出願者に特段の落度がないにもかかわらず,審査官が対象植物の
選択を誤ったというだけで,当然無効とするのは,かえって,出願者に
とって酷というべきである。刑事事件における立証責任の考え方との違
いはあるとしても,一審原告の主張を採用することはできない。
エ 瑕疵の明白性の要否(その1)
品種登録は,農林水産大臣を処分庁とする行政処分であるところ,行
政処分が当然無効であるというためには,処分に重大かつ明白な瑕疵が
なければならないと解される(最高裁判所昭和36年3月7日判決・民
集15巻3号381頁参照)。
この点について,一審原告は,前記第2の3のとおり,品種登録の要
件である明確区別性を含む出願品種の特性審査は,法令により適切な対
照品種を選定して栽培試験等を実施して行うことが定められ,特性を調
査すべき重要な形質も農林水産植物の区分ごとに法令で定められている
ことを理由に,明白性の要件は不要であると主張する。
しかし,このような栽培試験等の実施は,品種登録の対象が,経時的
又は栽培環境の違いによってその形質を変化させる生きた植物体であり,
そのような植物体の重要な形質に係る特性が他の植物体とは明確に区別
されることが確認されなければならないとの要請に基づくものであり,
品種登録処分の無効事由について,栽培試験等の実施が法令に定められ
ていることをもって,直ちに他の行政処分の無効の場合と異なる解釈を
採るべき理由は見出し難く,無効事由として瑕疵の明白性を不要とすべ
きとの一審原告の主張は採用できない。
オ 瑕疵の明白性の要否(その2)
一審原告は,前記第2の5(2)【一審原告の主張】ウ(イ)のとおり,本
件特性審査の瑕疵は,刑事罰の対象となるような出願者の行為によって
生じたものであり,そのような出願をして品種登録を受けた者を保護す
べき理由はないこと等から,本件における登録無効の主張には,瑕疵の
明白性の要件は不要となる旨主張する。
しかし,本件出願に際し,P3が対照品種の記載等について,殊更虚
偽を記載したとは考えにくい。また,前記(1)の特性審査の実務及び本件
特性審査の経緯に照らせば,P3が対照品種について「カランコエ」と
記載したことによって,審査官が栽培試験等に供試すべき適切な対照品
種の選定を誤ったとの経過を認めることもできない。
以上のとおり,一審被告が,故意に出願書類に虚偽を記載したと認め
ることはできず,一審原告の主張は,前提を欠くものであり,採用でき
ない。
カ まとめ
以上に検討したとおり,本件品種登録における出願品種の特性審査に
ついて,本件品種登録を無効とすべき明白かつ重大な瑕疵があると認め
ることはできない。
7 争点4(消尽の成否)について
当裁判所も,1審原告が1審被告から入手した登録種苗であるトットリフ
ジタ1号を無許諾で増殖して,販売した行為は,登録種苗を「生産」する場
合に該当し,消尽することはないと判断する。その理由は,原判決「事実及
び理由」第3の6(93頁18行目~94頁6行目)に記載のとおりである
から,これを引用する。
第4 結論
以上の次第で,一審原告の本件請求のうち,当審における請求の減縮後の
本件種苗1及び本件種苗2-2の生産等並びにこれらの種苗を使用した原告
製品1及び原告製品2の販売について,一審被告が本件育成者権に基づく差
止請求権を有しないことの確認請求は理由があるが,本件被疑種苗を使用し
た原告製品3の販売について,一審被告の本件育成者権1侵害による不法行
為に基づく損害賠償請求権を有しないことの確認請求は理由がない。よって,
原判決は相当であり,一審原告及び一審被告の各控訴は,いずれも理由がな
いから棄却し,上記一審原告の請求の減縮後の差止請求権不存在確認請求が
認容される旨を付記することとして,主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第8民事部

裁判長裁判官 山 田 陽 三


裁判官 久 保 井 恵 子


裁判官 三 井 教 匡

(別紙)
種苗目録2-2

農林水産植物の種類 タケシマキリンソウ種
(学名:Sedum takesimense Nakai)
当該種苗の由来 国内で市販されているタケシマキリンソウの種苗(ただ
し,トットリフジタ1号〔登録番号:第15866号〕
及びトットリフジタ2号〔登録番号:第15867号〕
を除く。)を購入または譲り受けして生産した種苗
以上

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