令和1(ネ)10036特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和2年1月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
控訴人コーリョー建販株式会社 被控訴人センクシア株式会社松山智恵
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対象物 |
梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造 |
法令 |
民事訴訟
特許法102条2項8回 特許法102条3項1回 特許法102条1項1回
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キーワード |
侵害42回 特許権19回 実施12回 差止6回 損害賠償4回 無効2回 進歩性1回 無効審判1回 新規性1回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造」
とする特許権を有する被控訴人が,控訴人に対し,被告各製品が本件発明1,2及
び5の,被告製品8~13が本件発明4の技術的範囲にそれぞれ属し,控訴人によ
る被告各製品の製造,使用及び販売等が,本件特許権を侵害する旨主張して,被告
各製品の生産,使用,譲渡等の差止め及び同各製品の廃棄並びに不法行為に基づく
損害賠償金1377万2088円及びこれに対する不法行為の後の日である平成3
0年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。 |
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判決文
令和2年1月21日判決言渡
令和元年(ネ)第10036号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第26468号)
口頭弁論終結日 令和元年12月4日
判 決
控 訴 人 コーリョー建販株式会社
同訴訟代理人弁護士 飯 田 圭
同訴訟代理人弁理士 奥 山 尚 一
小 川 護 晃
同補佐人弁理士 徳 本 浩 一
被 控 訴 人 セ ン ク シ ア 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 齊 藤 拓 史
松 山 智 恵
高 梨 義 幸
小 勝 有 紀
同補佐人弁理士 澤 井 光 一
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
第2 事案の概要(略称は,原判決に従う。)
1 本件は,発明の名称を「梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造」
とする特許権を有する被控訴人が,控訴人に対し,被告各製品が本件発明1,2及
び5の,被告製品8~13が本件発明4の技術的範囲にそれぞれ属し,控訴人によ
る被告各製品の製造,使用及び販売等が,本件特許権を侵害する旨主張して,被告
各製品の生産,使用,譲渡等の差止め及び同各製品の廃棄並びに不法行為に基づく
損害賠償金1377万2088円及びこれに対する不法行為の後の日である平成3
0年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支
払を求める事案である。
原判決は,被控訴人の控訴人に対する差止め及び廃棄請求を認容するとともに,
損害賠償請求のうち,156万2345円及びこれに対する遅延損害金の支払請求
を認容し,その余の請求を棄却したため,控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実
原判決7頁24行目から8頁3行目を下記のとおり補正するほかは,原判決「事
実及び理由」第2の2に記載のとおりであるから,これを引用する。
「ウ 被告各製品は,本件発明1の構成要件1-B,1-C及び1-D,本件発
明2の構成要件2-A,本件発明5の構成要件5-A,本件訂正発明1の構成要件
1-B,1-C’-1,1-C’-2及び1-D,本件訂正発明2の構成要件2-A,
本件訂正発明5の構成要件5-Aをそれぞれ充足する。
また,被告製品8~13は,本件発明4の構成要件4-A及び4-B,本件訂正
発明4の構成要件4-A’及び4-Bをそれぞれ充足する。」
3 争点
原判決「事実及び理由」第2の3に記載のとおりであるから,これを引用する。
第3 当事者の主張
1 原判決の引用
以下のとおり補正をし,下記2のとおり,当審における当事者の主張を付加する
ほかは,原判決「事実及び理由」の第3記載のとおりであるから,これを引用する。
(1) 原判決27頁11行目末尾に「。」を付加する。
(2) 原判決53頁18行目冒頭から20行目「構成要件1-C」の前までを次の
とおり改める。
「被告は,本件各発明や本件各訂正発明(以下,両者を併せて「本件各発明等」
という。)の寄与度は30%を上回らないと主張するが,被告各製品は,本件各発明
等の構成要件を全て充足しているから,」
(3) 原判決54頁10行目の「実施利用率」を「実施料率」と改める。
2 当審における当事者の主張
(1) 争点3-3-1(乙19発明に基づく新規性又は進歩性の欠如)について
〔当審における控訴人の主張〕
乙19においては,厚肉鋼管2の外周部の「ほぼ中央部」が「溶接部3」により
「ウェブ1a」に「固着」されるよう,
「ウェブ1aの左面」への「当接」用の裏当
て体3aそれ自体は,厚肉鋼管2の外周部の軸方向の中央部より有意に左方側に形
成されていることが明らかである。
「外周部の軸方向の片面側に形成」することは,本来,
「外周部の軸方向の片面側
の端部に形成」することをも含み得る概念である。また,「フランジ部」は,「外周
部の軸方向の片面側に形成」しようが,
「外周部の軸方向の片面側の端部に形成」し
ようが,同様にウェブ面への当接という機能を果たすことができるものである。乙
19には,ウェブ1aの左面への当接用の裏当て体3aを厚肉鋼管2の外周部の軸
方向の片面側に形成することが開示されている以上,ウェブ1aの左面への当接用
の裏当て体3aを厚肉鋼管2の外周部の軸方向の片面側の端部に形成することも,
実質的に開示されているか示唆されている。
フランジ部を接続・固定用に,管の軸方向の片面側の端部に端面部を面一に形成
することは,周知・慣用技術ないし技術常識であり(乙33~39,44~46,
49~51,甲6~8),梁補強構造分野においても,当業者により広く参酌され得
るものである。
そうすると,乙19の開示ないし示唆に基づき,梁補強構造分野における当業者
は,フランジ部を接続・固定用に管の軸方向の片面側の端部に端面部を面一に形成
するという周知・慣用技術ないし技術常識を参酌することにより,ウェブ1aの左
面への当接用の裏当て体3aの形成位置を厚肉鋼管2の外周部の軸方向の片面側に
おける中央寄りから端部へ適宜変更するとともに,その端面部を同変更のまま面一
にしておくことを,容易に想到し得たはずである。
本件明細書等には,相違点2に係る本件訂正事項1によって,訂正前の本件発明
1が奏する作用効果とは異なる特有の作用効果が奏されること及び独自の技術的意
義を有することは,何ら記載も示唆もされていないことからも,相違点2に係る構
成は単なる設計事項にすぎない。
〔当審における被控訴人の主張〕
乙19には,「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の
片面側の端部に形成し, との構成及び
」 「前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面
は,前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フラ
ンジ部の外周まで平面である」との構成のいずれについても,開示や示唆はない。
乙19からは,厚肉鋼管と一体の裏当て体3aを当接した,ウェブ1aの一方面の
みの個所を溶接して従来よりも溶接長及び溶接量を少なくするという技術的事項が
理解し得るのみで,裏当て体3aを厚肉鋼管2の外周部の軸方向の片面側に形成す
ることや,片面側の端部に形成することが開示又は示唆されているとはいえない。
また,控訴人が周知例として挙げる文献に基づいて,相違点2に係る構成が当業
者にとって容易に想到し得るものであるとはいえない。
(2) 争点4(損害額)について
〔当審における控訴人の主張〕
特許権等の侵害者が受けた利益を特許権者等の損害と推定する特許法102条2
項の推定の覆滅事由の判断に際しては,侵害製品全体に対する特許発明の実施部分
の価値の割合,すなわち特許発明の寄与度を考慮すべきである。
原判決が,特許発明の寄与度の考慮それ自体を否定したのであれば,明らかな誤
りであるし,考慮したのであれば,材料費割合その他の事情を考慮して然るべく特
許発明の寄与度を認定すべきであって,推定覆滅をゼロとする合理的理由はない。
侵害品であれば特許発明の作用効果を奏することは当然であるので,特許発明の
寄与度を考慮する場合に,侵害品が特許発明の作用効果を奏することは考慮される
べきものではない。考慮されるべきなのは,特許発明特有の作用効果が侵害品の宣
伝広告において需要者に訴求されたかどうかであるが,控訴人のウェブサイトや被
告各製品のカタログにおいては,本件発明の「フランジ部」の機能・作用効果等は
何ら説明 強調されておらず,
・ この点が需要者に訴求されたということはできない。
控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては,「つば状の出っ張り
部の外周部」のみを溶接固定するため,
「[梁の反転が不要]となり施工性が大幅にア
ップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これは,控訴人により工夫
された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって,本件発明の作用効果で
はない。
〔当審における被控訴人の主張〕
損害額に関する控訴人の主張については,いずれも理由はなく,原判決の認定に
誤りはない。
第4 当裁判所の判断
当裁判所は,本件控訴を棄却すべきものと判断する。
1 本件特許権の侵害の成否(争点1ないし3)について
当裁判所も,被告各製品は,本件発明1,2及び5並びに本件訂正発明1,2及
び5の,被告製品8~13は,本件発明4及び本件訂正発明4の技術的範囲にそれ
ぞれ属し,また,本件各訂正は適法で,訂正後の本件特許は特許無効審判により無
効にされるべきものとは認められないと判断する。その理由は,以下のとおり原判
決を補正するほかは,原判決「事実及び理由」の第4の1ないし6に記載のとおり
であるから,これを引用する。
(1) 原判決77頁10行目から78頁11行目を次のとおり改める。
「ア 本件各発明の構成要件充足性
(ア) 被告各製品について
被告各製品は本件発明1の構成要件1-Aを充足するところ,被告各製品が本件
発明1の構成要件1-B,1-C及び1-Dを充足することについては当事者間に
争いがないから,被告各製品は,本件発明1の構成要件を全て充足し,その技術的
範囲に属する。
また,被告各製品が本件発明2の構成要件2-A及び本件発明5の構成要件5-
Aをそれぞれ充足することについては当事者間に争いはなく,被告各製品が本件発
明1の技術的範囲に属することにより,本件発明2の構成要件2-B及び本件発明
5-Bを充足するから,被告各製品は,本件発明2及び5の構成要件を全て充足し,
その技術的範囲に属する。
(イ) 被告製品8~13について
被告製品8~13が本件発明4の構成要件4-A及び4-Bを充足することにつ
いては当事者間に争いがなく,被告製品8~13は本件発明1の技術的範囲に属す
ることにより,本件発明4の構成要件4-Cを充足するから,被告製品8~13は,
本件発明4の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属する。
イ 本件各訂正発明の構成要件充足性
(ア) 被告各製品について
被告各製品が本件訂正発明1の構成要件1-B,1-C'-1,1-C'-2及び1
-Dを充足することについては当事者間に争いがないから,被告各製品は,本件訂
正発明1の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属する。
また,被告各製品が本件訂正発明2の構成要件2-A及び本件訂正発明5の構成
要件5-Aを充足することについては当事者間に争いはなく,被告各製品が本件発
明1の技術的範囲に属することにより,本件訂正発明2の構成要件2-B及び本件
訂正発明5の構成要件5-Bを充足するから,被告各製品は,本件訂正発明2及び
5の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属する。
(イ) 被告製品8~13について
被告製品8~13が本件訂正発明4の構成要件4-A’及び4-Bを充足するこ
とについては当事者間に争いがなく,被告製品8~13は本件訂正発明1の技術的
範囲に属することにより,本件訂正発明4の構成要件4-Cを充足するから,被告
製品8~13は,本件訂正発明4の構成要件を全て充足し,その技術的範囲に属す
る。」
(2) 原判決85頁12行目末尾を改行し,以下のとおり付加する。
「オ 乙49
乙49文献には,以下の記載がある(下記記載中に引用する第1,2図は別紙図
面目録参照。。
)
(ア) まず,補強作業に用いられる各部材の構成について説明すると,1はH型鋼
よりなる既設の梁である。そして,その側面の適所には一対の補強部材2,2が,
この側面を挟み付けるようにして装着されている。両補強部材2は鋳造によって一
体成形されたものが用いられる。また,補強部材2は設備配管3を挿通可能なサポ
ート部4とこのサポート部4の基部から外方に張出し形成された円盤状のフランジ
部5とからなっている。さらに,このフランジ部5には図示90°間隔毎にボルト
孔6が貫通してある。
さて,設備配管3に対する支持作業の実際は,まず梁1の側面の作業予定箇所に
おいて,補強部材2の各ボルト孔6に対応した位置に孔明けを行なう。そして,孔
明けを行なった各位置と,各ボルト孔6とを適合させながら,梁1を挟んで両補強
部材2を向かい合せる。しかる後に,各ボルト孔6にいわゆるハイテンションボル
ト7を差込んでナット8にて締付けてやる。この後,梁1の側面をサポート部4の
内周縁に沿ってガス切断によって焼き切る。こうすることで,連絡孔9が開口され,
両補強部材2のサポート部4が連通するため,ここへ設備配管3を通して作業が完
了する。(4頁12行目~5頁14行目)
」
(イ) 第1図及び第2図に,補強部材2が,筒状のサポート部4と,このサポート
部4の軸方向の片側端部から外方に張り出し形成されたフランジ部5とを有し,補
強部材2における軸方向の片側端部側の面が,サポート部4の内周からフランジ部
5の外周まで平面となっている点が看て取れる。
カ 乙50
乙50文献には,以下の記載がある(下記記載中に引用する第1,2,3,5,
6図は別紙図面目録参照。。
)
(ア) 第1図に示すように,梁1にそれの巾方向で貫通する孔(A)を形成して,該
貫通孔(A)に各種の配管2…を挿通できるようにしてある。
前記貫通孔(A)を形成するに,第2図及び第3図に示すように,横架設置され
る梁鉄骨3のウエブ3aに予め貫通孔4を形成しておき,他方,外周面にねじ(a)が
形成された合成樹脂(塩化ビニル等)製の梁貫通孔形成用のスリーブ5と,該スリ
ーブ5のねじ(a)に螺合するフランジ6付きの筒状回転体から成る一対の固定具7,
7を用意して,そのうちの1個の固定具7を前記スリーブ5の所定位置に螺合させ
ておき,そして,前記固定具7のフランジ6を前記ウエブ3aの一側面に当接させ
る状態で,前記貫通孔4にスリーブ5を挿通させると共に,そのスリーブ5の挿通
側に残りの固定具7を螺合させ,該固定具7の締込みにより,前記ウエブ3aをそ
の両側面から前記フランジ6,6によつて挟持させるのである。
(3頁10行目~4
頁7行目)
(イ) 第5図及び第6図は,スリーブ取付構造の別実施例を示し,第5図に示すも
のは,前記ウエブ3aを挟持するための固定具7,7として,これを前記スリーブ
5に外嵌合するフランジ6付きの筒体から構成し,かつ,該筒体に半径方向で貫通
するねじ式止め具10を備えさせたもので,前記ウエブ3aの貫通孔4にスリーブ
5を挿通させると共に,前記ウエブ3aにフランジ6,6を当接させる状態で固定
具7,7をスリーブ5に外嵌合させ,かつ,前記止め具10を締め込んで,その先
端をスリーブ外周面に押圧接させるをもつて,梁貫通孔形成用スリーブ5を梁鉄骨
3に取付けるものである。
第6図に示すものは,スリーブ5の外周面の所定箇所にリブ状体から成る固定具
7を連設しておき,この固定具7の近傍にねじ(a)を形成すると共に,該ねじ(a)部
分以外のスリーブ外径をやや小径と成し,そして前記ねじ(a)に螺合するフランジ
6付きの回転式固定具7を用意して,前記ウエブ3aの貫通孔4にスリーブ5を挿
通させると共に,該スリーブ5のねじ(a)に固定具7を螺着させるをもつて,前記ウ
エブ3aを挟持させるものである。(5頁6行目~6頁7行目)
(ウ) 第2図,第3図,第5図及び第6図に,筒状回転体(固定具7)が,筒状部
分と,この筒状部分の軸方向の片側端部から外方に張り出し形成されたフランジ6
とを有し,筒状回転体における軸方向の片側端部側の面が,筒状部分の内周からフ
ランジ6の外周まで平面となっている点が看て取れる。
キ 乙51
乙51文献には,以下の記載がある(下記記載中に引用する図1は別紙図面目録
参照。。
)
(ア) 【0007】
【実施例】図1に本発明の一実施例を示す。図中1は鉄骨梁(大
梁,小梁),2は鉄骨梁1のウエブ1aに設けたウエブ開口又はウエブ開口部,5は
オネジ付き筒部5aを一体的に突設したリング状の補強プレート,6はメネジ付き
筒部6aを一体的に突設したリング状の補強プレート,7はワッシャー,8は補強
プレート5,6の本体部の外側に突設した突起であり,図示の実施例は,リング状
の補強プレート5の中心穴部に突設したオネジ付き筒部5aを鉄骨梁1のウエブ開
口2に嵌挿して,他のリング状の補強プレート6の中心穴部に突設したメネジ付き
筒部6aをウエブ開口2に他側から嵌挿してオネジ付き筒部5aに螺合し,鉄骨梁
1のウエブ開口部2の両面に両補強プレート5,6を締め付け挟着して補強した鉄
骨梁のウエブ開口部補強法になつている。
(イ) 図1に,補強プレート5が,筒部5aと,この筒部5aの軸方向の片側端部
から外方に張り出すようにフランジ状に形成された部分(フランジ部)とを有し,
補強プレート5における軸方向の片側端部側の面が,筒部5aの内周からフランジ
部の外周まで平面となっている点が看て取れる。」
(3) 原判決86頁19行目の「本件発明1」を「本件訂正発明1」に改める。
(4) 原判決86頁23行目から87頁1行目末尾までを次のとおり改める。
「貫通孔より外径が大きいフランジ部を,本件訂正発明1では,外周部の軸方向
の片面側の端部に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補
強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周
まで平面であるのに対して,乙19発明では,外周部のほぼ中央部に形成している
点。」
(5) 原判決88頁11行目から89頁2行目までを次のとおり改める。
「しかし,乙19発明は,薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入し
て溶接により固着し,貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着
する従来技術において,溶接量と部品点数を少なくし,加工や品質管理をしやすく
することを目的として,貫通孔を貫通する厚肉鋼管2の外周部の中央部をウェブ1
aに溶接固着する際に,その片面からリング状の裏当て体3aを一体形成して当接
する構成を採用したものである。乙19発明の裏当て体3a(フランジ部)が厚肉
鋼管2と一体に形成される部位は,溶接部位である厚肉鋼管2のほぼ中央部であり,
乙19には,これを端部に設けることについて記載も示唆もないのであるから,乙
19発明について,裏当て体3aを外周部の軸方向の片面側の端部に設ける構成を
採用する動機付けはないというべきである。
また,乙20,21は,梁補強金具の外周にフランジ部を設ける構成であるが,
フランジ部を端部に設けることの記載はなく,甲6~8,乙33~39,44~4
6の各文献にも,梁補強金具においてフランジ部を管の軸方向の端部に設ける構成
の記載はないから,梁補強金具においてフランジ部を端部に形成することが周知技
術であったとは認められない。乙49~51は,いずれも梁に配管を通すための構
造において,それぞれ対となる2つの部材を用いた梁の補強やスリーブ材の固定に
関する技術を開示したものであって,一体的な構成を有する1つの金具を用いて梁
の補強等を行う乙19発明とは,技術分野が異なる。
したがって,本件特許の出願当時,乙19発明の技術分野において,当業者が,
乙19発明の厚肉鋼管の外周部のほぼ中央部に形成している裏当て体3a(フラン
ジ部)を,梁補強金具の外周部の軸方向の片面側の端部に形成することが容易であ
ったとはいえず,乙19発明に周知技術を組み合わせることにより,相違点2に係
る構成に容易に想到し得たということができない。」
(6) 原判決94頁10行目から16行目までを次のとおり改める。
「仮に,乙19~21文献に記載された事項を乙3発明に適用してフランジ部を
設けたとしても,同各文献に記載されたフランジ部は,いずれも,梁補強金具の中
央部に設けられたものであるから,相違点3に係る構成を想到することはできない。」
2 損害額(争点4)について
(1) 特許法102条2項について
特許法102条2項は,「特許権者…が故意又は過失により自己の特許権…を侵
害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,
その者がその侵害の行為により利益を受けているときは,その利益の額は,特許権
者…が受けた損害の額と推定する。」と規定する。特許法102条2項は,民法の原
則の下では,特許権侵害によって特許権者が被った損害の賠償を求めるためには,
特許権者において,損害の発生及び額,これと特許権侵害行為との間の因果関係を
主張,立証しなければならないところ,その立証等には困難が伴い,その結果,妥
当な損害の填補がされないという不都合が生じ得ることに照らして,侵害者が侵害
行為によって利益を受けているときは,その利益の額を特許権者の損害額と推定す
るとして,立証の困難性の軽減を図った規定である。そして,特許権者に,侵害者
による特許権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在
する場合には,特許法102条2項の適用が認められると解すべきである。
特許法102条2項の上記趣旨からすると,同項所定の侵害行為により侵害者が
受けた利益の額とは,原則として,侵害者が得た利益全額であると解するのが相当
であって,このような利益全額について同項による推定が及ぶと解すべきである。
もっとも,上記規定は推定規定であるから,侵害者の側で,侵害者が得た利益の一
部又は全部について,特許権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張
立証した場合には,その限度で上記推定は覆滅されるものということができる。
(2) 侵害行為により侵害者が受けた利益の額
特許法102条2項所定の侵害行為により侵害者が受けた利益の額は,侵害者の
侵害品の売上高から,侵害者において侵害品を製造販売することによりその製造販
売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であるところ,
控訴人が平成28年7月15日から平成30年10月10日頃までの間に,被告各
製品を販売したことにより受けた利益の額が,142万0314円であることにつ
いては,当事者間に争いがない(引用に係る原判決「事実及び理由」第2の2(4))。
(3) 推定覆滅事由について
ア 推定覆滅の事情
特許法102条2項における推定の覆滅については,同条1項ただし書の事情と
同様に,侵害者が主張立証責任を負うものであり,侵害者が得た利益と特許権者が
受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解される。例えば,
①特許権者と侵害者の業務態様等に相違が存在すること(市場の非同一性) ②市場
,
における競合品の存在,③侵害者の営業努力(ブランド力,宣伝広告),④侵害品の
性能(機能,デザイン等特許発明以外の特徴)などの事情について,特許法102
条1項ただし書の事情と同様,同条2項についても,これらの事情を推定覆滅の事
情として考慮することができるものと解される。また,特許発明が侵害品の部分の
みに実施されている場合においても,推定覆滅の事情として考慮することができる
が,特許発明が侵害品の部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅
が認められるのではなく,特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置
付け,当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的に考慮してこれを決するのが相
当である。
イ 控訴人の主張について
(ア) 控訴人は,本件各発明等は,その全体が被告各製品の全体を対象とするもの
の,特徴部分は,梁補強金具の外周部の軸方向の「片面側の端部に形成」した「フ
ランジ部」であり,被告各製品においては,ダイヤリングの外周部の軸方向の「片
面側の端部に形成」 「つば状の出っ張り部の外周部」
した がこれに該当するところ,
侵害製品全体に対する特許発明の実施部分の価値の割合,すなわち特許発明の寄与
度を考慮すべきであり,上記推定は,少なくとも70%の割合で覆滅されるべきで
あると主張する。
前記認定の本件明細書等の記載(引用に係る原判決「事実及び理由」第4の1(1))
によれば,本件各発明等は,各種建築構造物を構成する梁に形成された貫通孔に固
定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関し
(【0001】 ,梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高める
)
とともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補
強することができ,柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする
梁補強金具と,前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供するために 【0
(
010】,梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁
)
補強金具であって,その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍~10.0倍と
し,前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成
し(訂正前の請求項1),さらに,フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部
に形成し,前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は,前記梁補強金具の内周か
ら前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である
という構成を採用したものであって(訂正後の請求項1) 梁に外力が加わったとき
,
貫通孔の周縁部に生じる応力は,ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従
って徐々に小さくなることから,梁補強金具の軸方向長さを必要以上に長くしない
ように規制することにより,大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつ
つ必要な強度まで補強することができ(【0012】,また,フランジ部により軸方
)
向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるという効果を奏するものである
(【0048】。
)
このように,本件各発明等の特徴部分が,フランジ部のみにあるということはで
きない。
(イ) また,控訴人は,本件各発明等の特徴部分であるフランジ部に特有の効果
は,軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができる」
「 というものにとどまり,
同効果は,被告各製品の宣伝広告において,需要者に何ら積極的に訴求されていな
いなどと主張する。
しかし,控訴人のウェブサイト(甲3)や被告各製品のカタログ(甲4)におい
て,被告各製品のフランジ状の部分も図示され,被告各製品の特徴として,鉄骨梁
ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部の外周部)のみを
全周溶接することにより,取付けの際に梁の回転が不要となり施工性が大幅にアッ
プするという点が挙げられている。このような施工が可能となるのも,梁補強金具
にフランジ部に該当するつば状の出っ張り部を設けたからであると考えられ,被告
各製品の特徴は本件各発明等の構成に由来するものであると考えられる。
この点,控訴人は,控訴人のウェブサイトや被告各製品のカタログにおいては,
「つば状の出っ張り部の外周部」のみを溶接固定するため,
「[梁の反転が不要]とな
り施工性が大幅にアップ」する作用効果が需要者に訴求されているところ,これら
は,控訴人により工夫された独自の工法により奏される顕著な作用効果であって,
本件各発明等の作用効果ではない旨主張する。
しかし,本件各発明等は,梁に形成された貫通孔にリング状の梁補強金具をはめ
込んで,フランジ部を含む外周部が溶接固定される梁補強金具であるところ,被告
各製品の,鉄骨梁ウェブ開口に被告各製品をはめ込み,片面(つば状の出っ張り部
の外周部)のみを全周溶接するという取付方法は,本件各発明等に係る梁補強金具
の取付方法として通常想定される態様の1つにすぎず,控訴人により工夫された独
自の工法とはいえないから,控訴人の主張は採用できない。
ウ 推定覆滅の事情は,侵害者が主張立証責任を負うものであるところ,以上に
よれば,本件においては,損害額の推定を覆滅すべき事情があるとは認められない。
(4) 損害額
ア よって,控訴人の侵害行為により被控訴人が受けた損害の額(特許法102
条2項)は,142万0314円と認められる。
なお,平成28年7月15日から平成30年10月10日頃までの間の被告各製
品の売上高が472万6353円であること(引用に係る原判決「事実及び理由」
第2の2(4))及び被控訴人が本件発明の実施料率が10%を下らない旨主張してい
ることに照らすと,特許法102条3項に基づく損害額が上記金額を超えないこと
は,明らかである。
イ 本件事案の難易度,差止請求及び廃棄請求が認容されていること,請求額及
び認容額等の諸事情を考慮すると,控訴人の侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用は,20万円と認めるのが相当である。
3 結語
以上によれば,被控訴人の控訴人に対する請求のうち,被告各製品の生産,使用,
譲渡等及びその申出の差止め並びに被告各製品の廃棄請求と,損害賠償として16
2万0314円及びこれに対する不法行為の後の日である平成30年10月11日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は
理由があり,その余の請求は理由がない。
ところで,差止請求,廃棄請求に加えて,損害賠償請求として156万2345
円及びこれに対する遅延損害金の支払請求を認容した原判決は,これと結論を異に
するが,控訴人のみが控訴した本訴においては,原判決を控訴人の不利益に変更す
ることは許されない。
よって,控訴人の本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第1部
裁判長裁判官 高 部 眞 規 子
裁判官 小 林 康 彦
裁判官 関 根 澄 子
別紙 図面目録
乙49
第1図 第2図
乙50
第1図 第2図
第3図 第5図 第6図
乙51
図1
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