知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(行ケ)10170 特許取消決定取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成30(行ケ)10170特許取消決定取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 却下 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和2年1月29日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官小川進
原告三菱ケミカル株式会社岩瀬吉和
対象物 フルオロスルホン酸リチウム,非水系電解液,及び非水系電解液二次電池
法令 特許権
特許法36条6項1号1回
民事訴訟法61条1回
キーワード 実施111回
特許権2回
主文 1 特許庁が異議2017-700208号事件について平成30年10月22日にした決定のうち,特許第5987431号の請求項1,2,4ないし22に係る部分を取り消す。
2 本訴請求中,前項の決定のうち,特許第5987431号の請求項3に係る部分の取消しを求める請求に係る訴えを却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 三菱化学株式会社(以下「三菱化学」という。)は,平成24年4月13 日,発明の名称を「フルオロスルホン酸リチウム,非水系電解液,及び非水 系電解液二次電池」とする発明について,特許出願(優先日平成23年4月 13日。以下「本件出願」という。),平成28年8月19日,特許権の設 定登録(特許第5987431号。請求項の数22。以下,この特許を「本 件特許」という。)を受けた(甲21,53)。 原告は,平成29年4月1日,三菱化学を吸収合併し,本件特許の特許権 を一般承継し,その旨の移転登録(受付日同年9月6日)を経由した(甲5 3)。 (2) 本件特許について,平成29年3月1日,Aから特許異議の申立て(異議 2017-700208号事件)がされた(甲22)。 原告は,同年10月30日付けの取消理由通知(決定の予告)(甲29) を受けたため,平成30年1月5日付けで,特許請求の範囲の請求項1,2, 4,6ないし22を訂正し,請求項3及び5を削除する旨の訂正請求(請求

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和2年1月29日判決言渡
平成30年(行ケ)第10170号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年11月12日
判 決

原 告 三菱ケミカル株式会社

訴訟代理人弁護士 城 山 康 文
岩 瀬 吉 和
小 島 諒 万
出 野 智 之
訴訟代理人弁理士 金 山 賢 教

被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 池 渕 立
小 川 進
原 賢 一
中 澤 登
阿 曾 裕 樹
主 文
1 特許庁が異議2017-700208号事件について平成30年1
0月22日にした決定のうち,特許第5987431号の請求項1,
2,4ないし22に係る部分を取り消す。
2 本訴請求中,前項の決定のうち,特許第5987431号の請求項
3に係る部分の取消しを求める請求に係る訴えを却下する。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が異議2017-700208号事件について平成30年10月22
日にした決定を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 三菱化学株式会社(以下「三菱化学」という。)は,平成24年4月13
日,発明の名称を「フルオロスルホン酸リチウム,非水系電解液,及び非水
系電解液二次電池」とする発明について,特許出願(優先日平成23年4月
13日。以下「本件出願」という。),平成28年8月19日,特許権の設
定登録(特許第5987431号。請求項の数22。以下,この特許を「本
件特許」という。)を受けた(甲21,53)。
原告は,平成29年4月1日,三菱化学を吸収合併し,本件特許の特許権
を一般承継し,その旨の移転登録(受付日同年9月6日)を経由した(甲5
3)。
(2) 本件特許について,平成29年3月1日,Aから特許異議の申立て(異議
2017-700208号事件)がされた(甲22)。
原告は,同年10月30日付けの取消理由通知(決定の予告)(甲29)
を受けたため,平成30年1月5日付けで,特許請求の範囲の請求項1,2,
4,6ないし22を訂正し,請求項3及び5を削除する旨の訂正請求(請求
項4~22は一群の請求項として訂正。以下「本件訂正」という。甲32の
1,2)をした。
その後,特許庁は,同年10月22日,本件訂正を認めた上で,「本件特
許の請求項1,2,4,6~22に係る特許を取り消す。本件特許の請求項
3,5に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。」との決定(以
下「本件決定」という。)をし,その謄本は,同年11月2日,原告に送達

された。
(3) 原告は,平成30年11月29日,本件決定の取消しを求める本件訴訟を
提起した。
2 本件訂正後の特許請求の範囲の記載
本件訂正後の請求項1,2,4,6ないし22の記載は,次のとおりである
(以下,請求項の番号に応じて,「本件訂正発明1」などという。下線部は本
件訂正に係る訂正箇所である。甲32の1,2)。
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極及び正極を備えた非水系電解液電池に
用いられる非水系電解液であって,
該非水系電解液は,フルオロスルホン酸リチウム,LiPF6,及び非水系
溶媒を含有し,
該非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が,0.00
05mol/L以上0.5mol/L以下であり,該非水系電解液中のカルボ
ン酸イオンの含有量が,1.0×10-7mol/L以上4.0×10-3mol
/L以下であり,該非水系電解液中のLiPF6の含有量が0.7mol/L
以上1.5mol/L以下であり,かつ,
該非水系溶媒として炭素数2~4のアルキレン基を有する飽和環状カーボネ
ート及び炭素数3~7の鎖状カーボネートを含む非水系電解液。
【請求項2】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極及び正極を備えた非水系電解液電池に
用いられる非水系電解液であって,
該非水系電解液は,フルオロスルホン酸リチウム,LiPF6,及び非水系
溶媒を含有し,
該非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が,0.00
05mol/L以上0.5mol/L以下であり,該非水系電解液中のフッ化

物イオンを除いたハロゲン化物イオンの含有量が,1.0×10-7mol/L
以上3.0×10-5mol/L以下であり,該非水系電解液中のLiPF6の
含有量が0.7mol/L以上1.5mol/L以下であり,かつ,
該非水系溶媒として炭素数2~4のアルキレン基を有する飽和環状カーボネ
ート及び炭素数3~7の鎖状カーボネートを含む非水系電解液。
【請求項4】
リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極及び正極を備えた非水系電解液電池に
用いられる非水系電解液であって,
該非水系電解液は,フルオロスルホン酸リチウム,LiPF6,及び非水系
溶媒を含有し,
該非水系電解液中のフルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が,0.00
05mol/L以上0.5mol/L以下であり,該非水系電解液中の硫酸イ
オン分のモル含有量が1.0×10-7mol/L以上1.0×10-2mol/
L以下であり,該非水系電解液中のLiPF 6の含有量が0.7mol/L以
上1.5mol/L以下であり,かつ,
該非水系溶媒として炭素数2~4のアルキレン基を有する飽和環状カーボネ
ート及び炭素数3~7の鎖状カーボネートを含む非水系電解液。
【請求項6】
非水系電解液が,フッ素原子を有する環状カーボネートを含有する請求項4
に記載の非水系電解液。
【請求項7】
前記フッ素原子を有する環状カーボネートが,非水系電解液中に0.001
質量%以上85質量%以下含有されている請求項6に記載の非水系電解液。
【請求項8】
炭素‐炭素不飽和結合を有する環状カーボネートを含有する請求項4,6及
び7の何れか1項に記載の非水系電解液。

【請求項9】
前記炭素-炭素不飽和結合を有する環状カーボネートが,非水系電解液中に
0.001質量%以上10質量%以下含有されている請求項8に記載の非水系
電解液。
【請求項10】
環状スルホン酸エステルを含有する請求項4及び6~9の何れか1項に記載
の非水系電解液。
【請求項11】
前記環状スルホン酸エステルの非水系電解液中における含有量が0.001
質量%以上10質量%以下である請求項10に記載の非水系電解液。
【請求項12】
シアノ基を有する化合物を含有する請求項4及び6~11のいずれか1項に
記載の非水系電解液。
【請求項13】
前記シアノ基を有する化合物の非水系電解液中における含有量が0.001
質量%以上10質量%以下である請求項12に記載の非水系電解液。
【請求項14】
ジイソシアネート化合物を含有する請求項4及び6~13の何れか1項に記
載の非水系電解液。
【請求項15】
前記ジイソシアネート化合物の非水系電解液中における含有量が0.001
質量%以上5質量%以下である請求項14に記載の非水系電解液。
【請求項16】
リチウムオキサラート塩類を含有する請求項4及び6~15の何れか1項に
記載の非水系電解液。
【請求項17】

リチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極及び正極,並びに請求項4及び6~
16のいずれか1項に記載の非水系電解液を含む非水系電解液二次電池。
【請求項18】
前記負極は,集電体上に負極活物質層を有し,前記負極活物質層は,ケイ素
の単体金属,合金及び化合物,並びにスズの単体金属,合金及び化合物のうち
の少なくとも1種を含有する負極活物質を含む請求項17に記載の非水系電解
液二次電池。
【請求項19】
前記負極は,集電体上に負極活物質層を有し,前記負極活物質層は,炭素質
材料を含有する負極活物質を含む請求項17に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項20】
前記負極は,集電体上に負極活物質層を有し,前記負極活物質層は,リチウ
ムチタン複合酸化物を含有する負極活物質を含む請求項17に記載の非水系電
解液二次電池。
【請求項21】
前記正極は,集電体上に正極活物質層を有し,前記正極活物質層は,リチウ
ム・コバルト複合酸化物,リチウム・コバルト・ニッケル複合酸化物,リチウ
ム・マンガン複合酸化物,リチウム・コバルト・マンガン複合酸化物,リチウ
ム・ニッケル複合酸化物,リチウム・コバルト・ニッケル複合酸化物,リチウ
ム・ニッケル・マンガン複合酸化物,及びリチウム・ニッケル・コバルト・マ
ンガン複合酸化物,からなる群より選ばれた少なくとも一種を含有する請求項
17~20のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
【請求項22】
前記正極は,集電体上に正極活物質層を有し,前記正極活物質層は,Lix
MPO4(Mは周期表の第4周期の第4族~第11族の遷移金属からなる群よ
り選ばれた少なくとも一種の元素,xは0<x<1.2)を含有する請求項1

7~20のいずれか1項に記載の非水系電解液二次電池。
3 本件決定の理由の要旨
本件決定の理由は,別紙異議の決定書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,①発明の詳細な説明の記載に基づき「本発明」の課題を確認す
ると,「本発明」は,「初期放電容量が改善され,容量維持率および/または
ガス発生量が改善された非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系
電解液を提供すること」と,「この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電
池を提供すること」とを発明が解決しようとする課題にしている,②「本発明」
の上記課題について,発明の詳細な説明の記載に基づき出願時(本件出願の優
先日当時)の技術常識に照らして当業者が当該課題を解決できると認識できる
範囲(以下「発明の詳細な説明の記載に基づく発明の範囲」という。)は,実
施例に記載された「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネー
ト(EMC)との混合物(体積比30:70)にLiPF6を1mol/Lの
割合となるように溶解して調整した基本電解液にフルオロスルホン酸リチウム
を2.98×10-3mol/L以上0.596mol/L以下の範囲内で含有
している非水系電解液であって,カルボン酸イオンの含有量が1.00×10
-6
mol/L以上4.00×10-3mol/L以下である,または,フッ化物
イオンを除いたハロゲン化物イオンの含有量が1.00×10-6mol/L以
上3.00×10-5mol/L以下である,または,硫酸イオンの含有量が1.
00×10-7mol/L以上1.00×10-2mol/L以下である,非水系
電解液」であり,また,「非水系電解液二次電池」としては,その非水系電解
液を備えるものである,③本件訂正発明1,2及び4の特許請求の範囲の記載
には,「発明の詳細な説明の記載に基づく発明の範囲」以外の非水系電解液も
包含されているが,発明の詳細な説明には,本件出願の優先日当時の技術常識
に照らしても,「本発明」の上記課題を,本件訂正発明1,2及び4によって,
解決し得るまでの開示がされているとはいえないから,本件訂正発明1,2及

び4は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,また,本件訂正発明4
を引用する本件訂正発明6ないし22も,本件訂正発明4と同様に,発明の詳
細な説明に記載したものでないから,本件訂正発明1,2,4及び6ないし2
2は,特許法36条6項1号に規定する要件(以下「サポート要件」という。)
を満たしていない,④本件訂正により,請求項3及び5は削除され,本件訂正
発明3及び5は存在しないものとなったとして,本件訂正後の請求項1,2,
4及び6ないし22に係る本件特許を取り消し,同請求項3及び5に係る本件
特許についての特許異議の申立てを却下するというものである。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(本件訂正発明4,6ないし22のサポート要件の判断の誤り)
について
(1) 原告の主張
ア 本件訂正発明4の課題
(ア)a 本件出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。
甲21)の【0002】ないし【0005】の「背景技術」の記載に
よれば,本件訂正発明4は,近年の非水系電解液二次電池に対する高
性能化の要求の高まりを受け,各種の電池特性を高い水準で達成する
ことが求められていることを発明の背景としたものであるから,本件
訂正発明4は,「電池性能の一般的な向上」を図ることを究極的な課
題とするものである。
また,本件明細書には,本件発明の背景技術として,「文献1には,
LiFSO3を電解質とすると,60℃充放電サイクル評価時の放電
容量が高い電池が得られることが記載されている。」(【0005】)
との記載があるが,ここで挙げられている背景技術は,フルオロスル
ホン酸リチウム(LiFSO3)を電解液の電解質そのものとするも
のであり,フルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液への添加剤と

して用いた公知技術は,本件訂正発明4の発明以前には存在しなかっ
たものである。
しかるところ,本件訂正発明4は,微量の硫酸イオン分を含有する
フルオロスルホン酸リチウムを非水系電解液の添加剤として用いるこ
とにより電池性能を改善させることができることを見出し,フルオロ
スルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系
電解液に対して,改善を図ったものである。
b 本件明細書の【0007】には,「本発明の課題は,初期充電容量,
入出力特性およびインピーダンス特性が改善されることで,初期の電
池特性と耐久性のみならず,耐久後も高い入出力特性およびインピー
ダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもたらすことができ
る非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液を提供することにあ
り,また,この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供す
ること」との記載がある。
この記載は,【0002】ないし【0005】記載の「背景技術」
を受けた記載であること,個々の電池性能の評価項目のうち,一つで
も「改善」が得られるものがあれば,当業者は,それをもって「電池
性能の一般的な向上」を図り得ると認識することからすると,本件明
細書に接した当業者は,【0007】の記載から,【0007】に「改
善」の対象として挙げられている「初期充電容量」,「入出力特性」
及び「インピーダンス特性」は,「初期の電池特性」を具体的に記載
したものにすぎず,少なくともこれらの一つを改善させることで,
「初
期の電池特性」を向上させることができ,「初期の電池特性」の評価
項目の少なくとも一つを改善することが「本発明」の課題として記載
されているものと理解するものといえる。
そして,個々の電池性能の評価項目は,相互に関連しており,「初

期充電容量」(初期において電池が安定した状態で電池に蓄えられる
電気量)は「初期充電容量」(初期において電池が安定した状態で電
池から取り出せる電気量)とほぼ等価であり,「初期充電容量」が向
上していれば,「インピーダンス特性」が向上しているとの傾向を把
握することができ,「インピーダンス特性」が向上していれば,「入
出力特性」が向上しているとの傾向を把握することができるから,
「初
期放電容量」の向上は,「初期の電池特性」が総合的にみて向上して
いることの重要な指標となり得る。
c さらには,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤と
して新たに用いるという着想自体が本件訂正発明4の基本的な技術思
想であるから,「改善」を「もたらすことができる」(【0007】)
といえるためには,二次電池の用途において当業者が設定し得る合理
的な条件下で改善がされるものであれば足り,あらゆる条件下で必ず
改善が実現されることまで意味するものではない。
d 以上によれば,本件訂正発明4の課題は,「フルオロスルホン酸リ
チウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対し
て,初期放電容量等を改善することを二次電池の用途における合理的
な条件下で可能とすること」にあるというべきである。
これと異なる本件決定における本件訂正発明4の課題(「本発明」
の課題)の認定は誤りである。
(イ) これに対し被告は,本件訂正発明4の課題は,「初期放電容量が改
善され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された非水系電解
液二次電池をもたらすことができる非水系電解液を提供すること」にあ
り,また,本件明細書の試験例B(【0253】~【0256】)にお
いて,添加剤を含有しない非水系電解液(比較例2)と添加剤の含有量
が本件特許において特定された範囲外にある非水系電解液(比較例3)

とを用いていること,比較例2の非水系電解液についてはガス発生量を
評価していないため,ガス発生量に関し,比較例2の非水系電解液を比
較の対象としたときに,実施例1ないし7の非水系電解液が改善された
かどうかを把握できないことなどを根拠に,「改善」は,フルオロスル
ホン酸リチウムと硫酸イオン等とを含有しない非水系電解液に対する「
改善」を意味するものではなく,非水系電解液がフルオロスルホン酸リ
チウムと硫酸イオンとを含有することを所与の前提として,フルオロス
ルホン酸リチウムと硫酸イオンの含有量が本件訂正発明4の数値範囲の
外にあるものに対する改善を意味する旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明4は,これまでフルオロスルホン酸リチ
ウムを非水系電解液への添加剤として用いた公知技術がなかったことを
背景としてされた新規の添加剤に関する発明であって,添加剤の含有量
の数値範囲に特徴を有する発明ではない。また,本件明細書には,「改
善」の比較対象がフルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含有す
る非水系電解液であることを所与の前提であることを示すような記載や
示唆がない以上,新規の添加剤に関する本件訂正発明4について,「改
善」の比較対象から,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含
有しないものを,殊更に除外することはありえない。
そして,前記(ア)のとおり,本件訂正発明4は,フルオロスルホン酸
リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対し
て,初期放電容量等を改善することを課題とするものであり,本件明細
書では,添加剤を含有しない非水系電解液である比較例2との関係で「
初期放電容量」が改善されていることをもって,電池性能の一般的な向
上と評価している。その上で,総合的・補助的な視点を加味して,実施
例では,「容量維持率および/またはガス発生量」についても追加的に
確認したものである。

したがって,被告の上記主張は失当である。
イ 本件訂正発明4のサポート要件の適合性
(ア) 一般的な電解液との互換性
a 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記載によれば,本
件訂正発明4の非水系電解液は,電解質として「0.7mol/L以
上1.5mol/L以下」の「LiPF6」を,非水系溶媒として「炭
素数2~4のアルキレン基を有する飽和環状カーボネート」及び「炭
素数3~7の鎖状カーボネート」を含有するものとして特定されてい
る。もっとも,請求項4には,「LiPF6」が電解質であることの
記載はないが,リチウムイオン二次電池に用いられる電解質の中でも
「LiPF6」は高い伝導率を有するから(甲1,15),電解質の
役割を担っていることを理解できる。
本件明細書の実施例記載の基本電解液 「エチレンカーボネート
( (E
C)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:
70)にLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整
した基本電解液」)は,電解液として一般的なものであり,特殊のも
のではない(甲9,15,36)。本件訂正発明4における「LiP
F6」の含有量及び非水系溶媒の組成は,本件明細書記載の実施例の
基本電解液の組成と大きく異なるものではなく(【0253】),二
次電池を用途として一般的に用いられる電解液の範囲に含まれる。
b 本件明細書には,二次電池に微量のフルオロスルホン酸リチウムと
微量の硫酸イオンとを含有させることの効果として,ガス発生量が抑
制されることが記載されている(【0252】,【0256】)。一
般にガスは電極表面付近で生成されるものであることは技術常識であ
り(甲11,14),そのガス発生量が抑制されていることから,当
業者であれば,本件訂正発明4によって電極表面の状態変化が引き起

されていること,すなわち,電極表面に被膜が形成されていることを
推測することが可能である。
そして,電極表面に被膜(電極表面の改質を含む。)が形成される
ことによって,電極表面が保護されることとなり,溶媒分解が抑制さ
れてガス発生量が抑制されるとともに,電極表面のリチウムイオン濃
度が高まり,これにより電極と電解液間のリチウムイオンの移動が補
助され,インピーダンスの低下が図れることとなり,インピーダンス
の低下は,初期放電容量等の様々な電池特性の向上に寄与するものと
いえる。
一方,添加剤を用いた電極表面に対する被膜の形成は,添加剤と電
極表面との相互作用によるものであって,特定の電解液との相互作用
によって生じるものではないことは,技術常識であり(甲20),ま
た,従来から知られていた添加剤を用いて電極表面に被膜を形成する
場合にも,一般的な電解液の間で互換性があること,すなわち基本電
解液の組成にかかわらず一般的に効果が得られる蓋然性が高いことは,
当業者によく知られていたことである(甲11,36,37)。
そうすると,当業者は,本件明細書の記載から,添加剤を用いて電
極表面に被膜を形成することによる本件訂正発明4の効果が,特定の
電解液との相互作用によって生じるものではなく,実施例記載の二次
電池を用途として一般的に用いられる電解液の組成に変更可能である
ことを読み取ることができる。
さらに,前記アのとおり,本件訂正発明4は,フルオロスルホン酸
リチウムと硫酸イオンとを添加剤として備えない非水系電解液に対し
て,改善を図ることを課題とするものであって,実施例と同等の性能
の二次電池を得ることを課題とするものではなく,また,電極表面に
対する被膜の形成は,特定の電解液との関係によって生じるものでは

ないから,当業者は,本件明細書の記載から,二次電池を用途として
一般的に用いられている電解液(基本電解液)の組成を用いた場合に,
微量のフルオロスルホン酸リチウムと微量の硫酸イオンとを含有させ
ることの効果として,そのような改善を図ることができることを読み
取ることができる。
そして,前記aのとおり,本件訂正発明4は,二次電池を用途とし
て一般的に用いられる電解液の範囲に含まれるから,当業者は,本件
明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識から,本件訂正発明4
は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として備え
ない非水系電解液に対して改善を図るという効果を奏することを認識
できるから,本件訂正発明4の課題を解決できると認識できるものと
いえる。
このように一般的な基本電解液を用いれば本件訂正発明4の効果を
奏することは,平成29年8月23日付け上申書(甲27)記載の追
試及び平成31年1月8日付け実験報告書(甲38)記載の追試の結
果からも裏付けられる。
c(a) これに対し被告は,非水系電解液は,添加剤だけでなく,非水系
溶媒やLiPF6等の支持電解質も含有されて一体となっている液
体であるところ,ECなどの誘電率の大きな溶媒とEMCなどの低
沸点の低粘度溶媒とLiPF6などの支持電解質の組合せや使用量
比の変動に伴う,電解液組成の変動によって非水系電解液二次電池
の電池特性も変動するという本件出願の優先日当時の技術常識(乙
1等)に照らすと,上記組合せや使用量比の最適化がされなければ,
満足な電池特性が得られず,本件明細書記載の比較例3のような非
水系電解液が含まれてしまうから,当業者は,本件明細書の実施例
において用いられている基本電解液(ECとEMCとの混合物(体

積比30:70)にLiPF6を1mol/Lの割合となるように
溶解して調整した基本電解液)以外の基本電解液では,本件訂正発
明4の課題を解決できると認識しない旨主張する。
しかしながら,本件訂正発明4の課題は,非水系電解液における
添加剤の有無以外の条件を同一とした場合に,添加剤を含有させる
ことにより,添加剤を含有しないものに対して,電池性能を向上さ
せることを「改善」と捉えており,本件訂正発明4は,最終的な製
品として,そのまま実用化できるか否かを問題としているのではな
く,新規の添加剤を添加することによる応答性(効果の発現可能性)
を問題としている。
したがって,被告の上記主張は,その前提において,失当である。
⒝ また,被告は,「ECとLiPF6の組合せは炭素負極上に良好
な被膜を形成する」との本件出願の優先日当時の技術常識(甲15)
に照らせば,本件訂正発明4においては,ECとLiPF6の組合
せに由来する被膜が形成されるとするのが妥当であるから,フルオ
ロスルホン酸と硫酸イオンとを含有する被膜が現実に形成されるの
か否かは定かでない旨主張する。
しかしながら,甲15は,炭素等の負極が有機電解液と反応して
形成される固体電解質層(Solid Electrolyte Interphase:SEI)に
関するものであり,このSEIは,少なくとも,形成過程にフルオ
ロスルホン酸を含まない点で,本件訂正発明4と異なるものである
から,フルオロスルホン酸の存在下では,「ECとLiPF6の組
合せは炭素負極上に良好な被膜を形成する」ことが技術常識である
とはいえない。
また,本件訂正発明4においては,フルオロスルホン酸リチウム
を添加剤として用いることにより,電極表面の高活性点(ヒドロキ

シル基やカルボキシル基等の酸素原子を含む官能基)を置換し,電
極表面の被覆を可能にすること,フルオロスルホン酸リチウムは,
ECよりも貴な還元電位を有すること(甲51)からすると,当業
者は,フルオロスルホン酸と硫酸イオンの含有が,ガス発生量の抑
制に寄与し,被膜にフルオロスルホン酸と硫酸イオンとが含有され
ていると理解する。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
d 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願
の優先日当時の技術常識に照らせば,当業者は,本件訂正発明4で規
定する非水系電解液が二次電池を用途として一般的に用いられる電解
液の範囲に含まれるものであり,本件訂正発明4の課題を解決できる
と認識することができるものといえる。
したがって,これと異なる本件決定の認定判断は誤りである。
(イ) フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値
a 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記載によれば,本
件訂正発明4の非水系電解液中の「フルオロスルホン酸リチウムのモ
ル含有量」は,「0.0005mol/L以上0.5mol/L以下」
である。
本件明細書記載の実施例1ないし15記載の非水系電解液の「フル
オロスルホン酸リチウムのモル含有量」は,「0.025質量%以上
5質量%以下」であるから,この範囲をmol/L単位の濃度範囲に
換算すると,「2.98×10-3(0.00298)mol/L以上
0.596mol/L以下」となる(本件決定の34頁)。
フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含有する実施例1~
7は,いずれもフルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含有し
ない比較例2に対して,「初期放電容量」が改善されていることを示

しているから,実施例1~7のフルオロスルホン酸リチウムのモル含
有量の数値範囲,すなわち,2.98×10-3(0.00298)m
ol/L以上0.596mol/L以下の範囲において,本件訂正発
明4の課題が解決されることを認識できる。
一方で,本件明細書には,本件訂正発明4の「フルオロスルホン酸
リチウム」の下限値0.0005mol/Lから2.98×10-3m
ol/L未満の範囲のものについては,実施例で示されていない。
しかし,別紙2のグラフが示すとおり,実施例1ないし7から,フ
ルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が少ないほど,初期放電容量
が向上する傾向があることを理解できる。例えば,硫酸イオンを同程
度含有する実施例1(硫酸イオン:7.27×10-3mol/L)と
実施例2(硫酸イオン:8.23×10-3mol/L)とを比較して
も,フルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が少ない方が,初期放
電容量が向上している。実施例1~7に示される上記傾向からすれば,
フルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が,実施例に記載された範
囲を外れて,2.98×10-3mol/Lより小さい値をとったとし
ても,初期放電容量がより向上する蓋然性が高く,下限を0.000
5mol/Lと定めても,当業者は,本件訂正発明4の課題を解決で
きると認識できるものといえる。
また,前記(ア)bのとおり,本件訂正発明4は,フルオロスルホン
酸リチウムを非水系電解液の添加剤として用いて電極に被膜を形成す
るものであることは,当業者が本件明細書の記載から認識し得ること
であり,電極に被膜を形成する際,インピーダンス特性を向上させる
上では可及的に薄い被膜を形成すべきであって,厚い被膜が形成され
るとインピーダンス特性の悪化を招くおそれが生じることは当業者が
当然に想定し得る。そのため,添加剤を用いて電極に被膜を形成する

場合には,通常は,添加剤の含有量の上限を定めることにこそ技術的
な意味があり,インピーダンス特性を向上させる観点からは,なるべ
く薄い被膜によって電極全面が覆われることが望ましく,添加剤の含
有量が少ないことが望ましい。本件訂正発明4においては,フルオロ
スルホン酸リチウムの含有量の数値範囲について下限を定めたのは,
単に実質的に添加剤が存在しないとみられるようなものを除外する趣
旨でしかなく,いかにフルオロスルホン酸リチウムの含有量が極少量
であったとしても,すなわち,たとえ電極全面を覆うに足りる含有量
でなかったとしても,少なくとも電極の一部の表面改質がされ,その
部分的な表面改質に応じて幾らかの電極性能の改善の効果が生じるこ
とは,当業者にとって明らかである(甲20)。
さらに,仮に実施例1~7の条件を前提として,フルオロスルホン
酸リチウムのモル含有量を,0.0005mol/Lとした場合,電
極の大きさ次第では電池性能の改善が実現されない場合があるとして
も,これと異なる条件,例えば,電極をより小さくした条件下で,電
池性能の改善を図ることが可能であると認識できることは明らかであ
る。
b(a) これに対し被告は,添加剤による被膜が電極表面に形成されるこ
とを前提とすると,硫酸イオン等の含有量が実施例1~7よりも過
剰になっている比較例3の方が,過剰な分だけ,電極表面がより保
護され,ガス発生量は抑制されるはずであり,これと異なる試験結
果からは,添加剤により被膜が形成されることを合理的に説明でき
ない旨主張する。
しかしながら,添加剤が過剰である場合には,被膜が過剰に厚く
なることに伴い,電極と電解液間の移動が妨げられたリチウムイオ
ンが電極表面に金属リチウムとして析出し,これに起因するリチウ

ムの分解作用によりガス発生量が増加することがあることは本件出
願の優先日当時の技術常識であること(甲51)に照らすと,被告
の上記主張は,失当である。
⒝ また,被告は,フルオロスルホン酸リチウムのモル含有量が少な
いほど初期放電容量が向上する傾向があるとすると,フルオロスル
ホン酸リチウムの含有量が0である比較例2の非水系電解液の初期
放電容量が最大となるべきところ,比較例2の非水系電解液は実施
例1~7よりも初期放電容量が低下していることから,上記の傾向
があるとはいえない旨主張する。
しかしながら,添加剤を含有させることによって,初期放電容量
を改善するという添加剤の効果が発現するのであるから,フルオロ
スルホン酸リチウムの含有量が0であれば効果が発現しない(初期
放電容量が最大とならない)ことは当然のことである。
原告の主張は,フルオロスルホン酸リチウムを含有させることに
よる効果が最大となるフルオロスルホン酸リチウムの含有量は,0
に極めて近い値となるとの趣旨であり,フルオロスルホン酸リチウ
ムの含有量が0である比較例2の非水系電解液の初期放電容量が最
大でないことは,原告の主張と何ら矛盾するものではない。
したがって,被告の上記主張は失当である。
c 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願
の優先日当時の技術常識に照らせば,当業者は,フルオロスルホン酸
リチウムを含有させることによる効果が最大となるフルオロスルホン
酸リチウムの含有量は,0に極めて近い値となると理解できるから,
フルオロスルホン酸リチウムを0.0005mol/L以上2.98
×10 -3mol/L未満の範囲内で含有する非水系電解液において
も,当業者は,本件訂正発明4の課題を解決できると認識することが

できる。
(ウ) まとめ
前記(ア)及び(イ)によれば,本件訂正発明4はサポート要件に適合す
るというべきであるから,これと異なる本件決定の判断は誤りである。
ウ 小括
以上のとおり,本件訂正発明4はサポート要件に適合しないとした本件
決定の判断は誤りである。また,本件訂正発明4を引用する本件訂正発明
6ないし22についてもサポート要件に適合しないとした本件決定の判断
は,本件訂正発明4についての誤った判断を前提とするものであるから,
誤りである。
(2) 被告の主張
ア 本件訂正発明4の課題の主張に対し
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,非水系電解液に係る発明につ
いて,「背景技術」(【0002】~【0004】)の「現在の非水系
電解液二次電池には,初期の容量と入出力特性が高く,電池内部インピ
ーダンスが低いこと,高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後
の容量維持率が高いこと,耐久試験後でも入出力性能とインピーダンス
特性に優れること,といった項目が,極めて高いレベルで要求される」
との現状を受け,「発明が解決しようとする課題」として,「本発明の
課題は,初期充電容量,入出力特性およびインピーダンス特性が改善さ
れることで,初期の電池特性と耐久性のみならず,耐久後も高い入出力
特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をも
たらすことができる非水系電解液を提供すること」(【0007】)に
あるとの記載がある。
しかし,本件明細書の実施例(【0244】~【0272】)には,
試験例A~Fのいずれの試験例においても,初期充電容量,入出力特性

及び電池内部インピーダンス特性について具体的評価を行ったことにつ
いての記載も示唆もない。一方で,本件明細書の実施例の記載によると,
試験例A~Fにおいては初期容量評価試験から求められる初期放電容量,
高温保存特性の評価試験から求められる容量維持率および/または高温
保存膨れ評価試験から求まるガス発生量に基づいて,電池特性の優劣を
評価しているところ,このような電池特性の優劣の評価は,上記「背景
技術」記載の現状を受けたものであるから,評価項目との対応関係の中
で,本件訂正発明4の課題を発明の詳細な説明の実施例の記載に基づい
て認定することは可能である。
そこで,本件決定は,本件明細書の【0007】の記載ぶりを可能な
限り採用して,本件訂正発明4(「本発明」)は,「初期放電容量が改
善され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された非水系電解
液二次電池をもたらすことができる非水系電解液を提供すること」を課
題にしていると認定したものである。
(イ) これに対し原告は,①本件訂正発明4の課題は,「フルオロスルホ
ン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に
対して,初期放電容量等を改善することを二次電池の用途における合理
的な条件下で可能とすること」にある,②この「改善」は,フルオロス
ルホン酸リチウムを添加剤として含有せず,硫酸イオン等も含有しない
非水系電解液に対する「改善」を意味するものであって,これらの添加
剤を含有することを所与の前提として,添加剤の含有量が数値範囲の外
にあるものに対する「改善」を意味するものではない,③この「改善」
は,「初期の電池特性」の評価項目の少なくとも一つを改善することで
足り,また,改善ができるといえるためには,二次電池の用途において
当業者が設定し得る合理的な条件下で良好な結果がもたらされるもので
あれば足り,あらゆる条件下で必ず良好な結果がもたらされることまで

意味するものではないなどと主張する。
a しかしながら,本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)の記
載及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても,本件訂正
発明4の非水系電解液において,いずれの成分が添加剤であるかにつ
いての明記は見当たらないし,たとえ,本件訂正発明4の非水系電解
液が何らかの添加剤を含有しているとしても,非水系電解液は,その
添加剤だけではなく,非水系溶媒やLiPF 6等の支持電解質も含有
されて一体となっている液体であるから,添加剤を非水系溶媒や支持
電解質とは別々に考えることはできず,それらが一体となった非水系
電解液について「改善」されたのか否かを検討しなければならない。
また,本件明細書の実施例においては,例えば,試験例Bでは,初
期放電容量について,実施例1~7の非水系電解液と比較例2~3の
非水系電解液との対比により,ガス発生量について,実施例1~7の
非水系電解液と比較例3の非水系電解液との対比により,電池特性の
優劣を評価しているところ,比較例2の非水系電解液については,初
期放電容量のみの評価であって,ガス発生量は評価していないのであ
るから,比較例2の非水系電解液を比較の対象としたときに,ガス発
生量に関して,実施例1~7の非水系電解液が「改善」されたのか否
かを把握することはできないのに対して,比較例3の非水系電解液に
ついては,初期放電容量とガス発生量の両方を評価しているのである
から,比較例3の非水系電解液を比較の対象とすると,初期放電容量
とガス発生量の両方に関して,実施例1~7の非水系電解液が「改善」
されたのか否かを把握することができる。このため,「本発明」の課
題における「初期放電容量と容量維持率および/またはガス発生量」
についての「改善」は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオン等
とを含有しない非水系電解液に対する「改善」を意味するものではな

く,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含有することを所
与の前提として,添加剤の含有量が本件訂正発明4の数値範囲の外に
あるものに対する「改善」を意味するものである。
b 高容量,高出力,高温保存特性,サイクル特性といった電池特性は,
相互に関連し,単に高容量化しただけでは,高温保存特性やサイクル
特性が低下してしまうことは本件出願の優先日当時の技術常識である
こと(乙2ないし4)に照らすと,個々の電池性能の評価項目のうち,
一つでも「改善」が得られるものであれば,それをもって電池性能の
一般的な向上を図り得ると当業者が認識することはあり得ないし,
個々の電池性能の評価項目の一つにおいて「改善」されただけでは,
近年の非水系電解液二次電池に対する高性能化の要求(本件明細書記
載の「背景技術」の現状)に対応したことになるものではない。
また,「初期充電容量」,「入出力特性」,「インピーダンス特性」
という電池特性が,それらの電池特性とは異なる,「初期放電容量」,
「ガス発生量」,「容量維持率」といった電池特性で評価がされるこ
ともあり得ないことである。
さらには,本件明細書には,「改善」は,「二次電池の用途におい
て当業者が設定し得る合理的な条件下」で良好な結果がもたらされる
ものであれば足りる旨の記載はない。
c 以上によれば,原告の上記主張は失当である。
イ 本件訂正発明4のサポート要件の適合性の主張に対し
(ア) 一般的な電解液との互換性の主張に対し
a 本件明細書の実施例の記載から,発明の詳細な説明には,「ECと
EMCとの混合物(体積比30:70)にLiPF 6を1mol/L
の割合となるように溶解して調整した基本電解液」に,「フルオロス
ルホン酸リチウムを2.98×10-3mol/L以上0.596mo

l/L以下の範囲内で含有し,硫酸イオンの含有量が1.00×10
-7
mol/L以上1.00×10-2mol/L以下の範囲内」の非水
系電解液であれば,前記アの本件訂正発明4の課題を解決し得ること
が裏付けられているといえるが,本件明細書の発明の詳細な説明を前
提としてみても,上記基本電解液以外の基本電解液を用いた場合に,
初期放電容量等が改善されることについての開示はない。
次に,本件出願の優先日当時には,実用電池においては電解液の最
適化は極めて重要なプロセスであり,電解液組成が電池の基本性能を
決定づけることも多く(甲15),非水系電解液は,ECなどの誘電
率の大きな溶媒とEMCなどの低沸点の低粘度溶媒とLiPF6など
の支持電解質とから主に構成され,これら3種類の組合せやそれらの
使用量比などにより最適化することによって,電池特性が水溶液系電
池と同等以上の非水系電解液二次電池が得られているとの実情があっ
た(甲4)。
そして,①ECなどの誘電率の大きな溶媒とEMCなどの低沸点の
低粘度溶媒とLiPF6などの支持電解質の組合せやそれらの使用量
比の変動に伴う,電解液組成の変動によって,非水系電解液二次電池
の電池特性も変動するため,電池特性評価試験の結果に基づいて,満
足な電池特性が得られない電解液組成を選別するという最適化を行わ
なければ,満足な電池特性の非水系電解液二次電池をもたらす電解液
組成が得られないこと(乙1等) ②非水系電解液の導電性について,

電解質伝導度は電池の放電容量などに密接に関係し,電池性能に大き
な影響を及ぼすこと(甲15)は,本件出願の優先日当時,技術常識
であった。
これらの技術常識に照らすと,ECとEMCとの混合物にLiPF
6 を溶解して調整した本件訂正発明4の非水系電解液に限ってみても,

ECとEMCとの体積比やLiPF 6の濃度が実施例の範囲内のもの
と異なる非水系電解液については,電池特性評価試験の結果に基づく
電解液組成の選別を行わないと,比較例3のような満足な電池特性が
得られない非水系電解液が含まれてしまうことになる。
したがって,当業者は,本件明細書の実施例において用いられてい
る基本電解液(ECとEMCとの混合物(体積比30:70)にLi
PF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解
液)を他の一般的な電解液に変更したとしても,本件訂正発明4の課
題を解決できるとは認識しない。
b(a) この点に関し原告は,本件訂正発明4では,電極表面に被膜(電
極表面の改質を含む。)が形成されることによって,電極表面が保
護されることとなり,初期放電容量等の様々な電池特性の向上に寄
与するものといえるが,電極表面に対する被膜の形成は,特定の電
解液との関係によって生じるものではないから,当業者は,本件明
細書の記載から,二次電池を用途として一般的に用いられている電
解液(基本電解液)の組成を用いた場合に,微量のフルオロスルホ
ン酸リチウムと微量の硫酸イオンとを含有させることの効果として,
そのような改善を図ることができることを読み取ることができる旨
主張する。
しかしながら,「ECとLiPF6の組合せは炭素負極上に良好
な被膜を形成する」との本件出願の優先日当時の技術常識(甲15)
に照らせば,本件訂正発明4においては,ECとLiPF6の組合
せに由来する被膜が形成されるとするのが妥当であるから,フルオ
ロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを含有する被膜が現実に形成
されるのか否かは定かでない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。

⒝ また,原告は,一般的な基本電解液を用いれば本件訂正発明4の
効果を奏することは,平成29年8月23日付け上申書(甲27)
記載の追試及び平成31年1月8日付け実験報告書(甲38)記載
の追試の結果からも裏付けられる旨主張する。
しかしながら,追試の対象とされた非水系電解液は,本件出願後
に見出された非水系電解液であるから,これに基づく主張は,特許
制度の趣旨に反するものであり,追試の結果を参酌することは許さ
れない。
また,追試の対象とされた非水系電解液から,本件訂正発明4の
非水系溶媒の数値範囲の全体を補足することもできない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(イ) フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値の主張に対し
a 本件明細書には,本件訂正発明4の「フルオロスルホン酸リチウム」
の下限値0.0005mol/Lから2.98×10-3mol未満の
範囲のものについては,初期放電容量等が改善されることについての
開示はない。
したがって,上記範囲のものは,本件明細書の発明の詳細な説明に
記載されたものであるとはいえない。
b この点に関し原告は,①本件訂正発明4は,フルオロスルホン酸リ
チウムを非水系電解液の添加剤として用いて電極に被膜を形成するも
のであって,電極に被膜を形成する際には,インピーダンス特性を向
上させる上では可及的に薄い被膜を形成すべきであるため,添加剤を
用いて電極に被膜を形成する場合には,通常は,添加剤の含有量の上
限を定めることにこそ技術的な意味がある,②別紙2のグラフに示す
とおり,実施例1~7からは,フルオロスルホン酸リチウムのモル含
有量が少ないほど初期放電容量及びガス発生量が改善する傾向がある

こともみてとれる旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,前記(ア)b(a)のとおり,E
CとLiPF6の組合せは炭素負極上に良好な被膜を形成するとの技
術常識(甲15)に照らし,当該実施例の非水系電解液の主要成分で
ある,ECとLiPF6の組合せに由来する被膜が形成されるとする
のが妥当であり,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオン等とを含
有する被膜が現実に形成されているのか否かは定かではない。また,
そもそも,本件明細書の発明の詳細な説明では,インピーダンスの評
価は行っておらず,被膜の厚さも評価を行っていないことに照らすと,
添加剤によって被膜が形成されるとの原告の主張は,本件明細書の発
明の詳細な説明の記載に基づくものではない。
次に,上記②の点については,別紙2のグラフは,実施例1~7の
非水系電解液においては,硫酸イオンの含有量(mol/L)に,8.
23×10-3~9.21×10-7という,4桁の変動があるにもかか
わらず,そのような硫酸イオンの含有量の変動を無視して,縦軸を初
期放電容量(mAh/g)とし,横軸をFSO 3Li濃度(wt%)
としたグラフである。
そして,本件明細書の表2によれば,比較例3の非水系電解液は,
FSO3Liの含有量は実施例1の非水系電解液と同じであるものの,
硫酸イオンの含有量(mol/L)が,実施例1の非水系電解液より
も,「1.67×10-2-7.27×10-3=9.43×10-3」だ
け過剰であり,その初期放電容量(mAh/g)は143.4で,実
施例1の非水系電解液を用いた場合の146.5よりも,初期放電容
量が劣るという非水系電解液であるから,非水系電解液における,硫
酸イオンの含有量が,初期放電容量に影響することは明らかである。
さらに,本件明細書の表2によれば,初期放電容量(mAh/g)は,

FSO3Liの含有量(質量%)が1である,実施例5の148.8
が最大で,同含有量(質量%)が0.2の実施例6や,同含有量(質
量%)が0.025の実施例7では,当該実施例5よりも初期放電容
量が低下しているのであるから,フルオロスルホン酸リチウムのモル
含有量が少ないほど,初期放電容量が向上する客観的な傾向があると
はいえない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明4は,サポート要件に適合するとはいえな
いから,これと同旨の本件決定の判断に誤りはなく,また,同様に,本件
訂正発明6ないし22がサポート要件に適合しないとした本件決定の判断
に誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(本件訂正発明1のサポート要件の判断の誤り)について
(1) 原告の主張
ア 本件訂正発明1の課題
前記1(1)アの原告の主張と同様に,本件訂正発明1の課題は,フルオロ
スルホン酸リチウムとカルボン酸イオンを添加剤として含有しない非水系
電解液に対して,初期放電容量等を改善することを二次電池の用途におけ
る合理的な条件下で可能とすることにあるというべきである。
これと異なる本件決定における本件訂正発明1の課題の認定は誤りであ
る。
イ 本件訂正発明1のサポート要件の適合性
(ア) 「一般的な電解液との互換性」及び「フルオロスルホン酸リチウム
の含有量の下限値」については,前記1(1)イ(ア)及び(イ)の原告の主張
と同様である。
(イ) 本件訂正発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本

件訂正発明1の非水系電解液中の「カルボン酸イオンの含有量」 「1.
は,
0×10-7mol/L以上4.0×10-3mol/L以下」である。
本件明細書には,本件訂正発明1の「カルボン酸イオン」の下限値の
ものについては,実施例で示されていない。
しかし,実施例8~12及び比較例4の記載から,添加剤のモル含有
量が少ないほど,初期放電容量が向上することが一般的傾向としてみて
とれる。実施例9~12から窺えるカルボン酸イオンのモル含有量と初
期放電容量との相関についても,このような一般的傾向と整合的に理解
できる。また,実施例8及び比較例4並びに実施例9~12からは,カ
ルボン酸イオンのモル含有量が少ないほど,容量維持率やガス発生量が
向上する傾向があることもみてとれる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優
先日当時の技術常識に照らせば,当業者は,本件訂正発明1の「カルボ
ン酸イオン」を「1.0×10-7mol/L以上4.0×10-3mol
/L以下」の範囲内で含有する非水系電解液において,本件訂正発明1
の課題を解決できると認識することができる。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明1はサポート要件に適合するというべきで
あるから,これと異なる本件決定の判断は誤りである。
(2) 被告の主張
ア 本件訂正発明1の課題の主張に対し
本件訂正発明4の課題に関する前記1(2)アの被告の主張と同様である。
イ 本件訂正発明1のサポート要件の適合性の主張に対し
(ア) 原告の「一般的な電解液との互換性」及び「フルオロスルホン酸リ
チウムの含有量の下限値」の主張に対する反論は,本件訂正発明4に関
する前記1(2)イ(ア)及び(イ)の被告の主張と同様である。

(イ) 基本電解液にカルボン酸イオンを1.00×10-6mol/L以上
4.00×10-3mol/L以下の範囲内で含有しているのが,本件明
細書の実施例記載の非水系電解液である 【0256】 【0264】 。
( ~ )
そして,本件訂正発明1は,添加剤としてフルオロスルホン酸リチウ
ムとカルボン酸イオンとを含有するものであり,カルボン酸イオンのモ
ル含有量が,1.0×10-7mol/L以上4.0×10-3mol/L
以下との発明特定事項を備えているものであるから,本件訂正発明1は,
上記の範囲と比べて広範囲である。
そして,前記1(2)イ(イ)の被告の主張と同様に,カルボン酸イオンの
モル含有量の数値範囲の下限を1.0×10-7mol/Lと定めても効
果が発現する蓋然性が高い旨の原告の主張は,具体的かつ客観的な証拠
に基づかない主張であって,失当である。
したがって,本件訂正発明4のカルボン酸イオンの含有量は,本件明
細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるとはいえない。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明1は,サポート要件に適合するとはいえな
いから,これと同旨の本件決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由
2は理由がない。
3 取消事由3(本件訂正発明2のサポート要件の判断の誤り)について
(1) 原告の主張
ア 本件訂正発明2の課題
前記1(1)アの原告の主張と同様に,本件訂正発明2の課題は,フルオロ
スルホン酸リチウムとフッ化物を除いたハロゲン化物イオンを添加剤とし
て含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等を改善することを二
次電池の用途における合理的な条件下で可能とすることにあるというべき
である。

これと異なる本件決定における本件訂正発明2の課題の認定は誤りであ
る。
イ 本件訂正発明2のサポート要件の適合性
(ア) 「一般的な電解液との互換性」及び「フルオロスルホン酸リチウム
の含有量の下限値」については,前記1(1)イ(ア)及び(イ)の原告の主張
と同様である。
(イ) 本件訂正発明2の特許請求の範囲(請求項2)の記載によれば,本
件訂正発明2の非水系電解液中の「フッ化物イオンを除いたハロゲン化
物イオンの含有量」は,「1.0×10-7mol/L以上3.0×10
-5
mol/L以下」である。
本件明細書には,本件訂正発明2の「フッ化物イオンを除いたハロゲ
ン化物イオン」の下限値のものについては,実施例で示されていない。
しかし,実施例13~15及び比較例7,9の記載から,添加剤のモ
ル含有量が少ないほど,初期放電容量が向上することが一般的傾向とし
てみてとれる。実施例13及び比較例7並びに実施例14~15及び比
較例9から窺える塩化物イオンのモル含有量と初期放電容量との相関に
ついても,当該一般的傾向と整合的に理解できる。
したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優
先日当時の技術常識に照らせば,当業者は,本件訂正発明2の「フッ化
物イオンを除いたハロゲン化物イオン」を「1.0×10-7mol/L
以上3.0×10-5mol/L以下」の範囲で含有する非水系電解液に
おいて,本件訂正発明2の課題を解決できると認識することができる。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明2はサポート要件に適合するというべきで
あるから,これと異なる本件決定の判断は誤りである。
(2) 被告の主張

ア 本件訂正発明2の課題の主張に対し
本件訂正発明4の課題に関する前記1(2)アの被告の主張と同様である。
イ 本件訂正発明2のサポート要件の適合性の主張に対し
(ア) 原告の「一般的な電解液との互換性」及び「フルオロスルホン酸リ
チウムの含有量の下限値」の主張に対する反論は,本件訂正発明4に関
する前記1(2)イ(ア)及び(イ)の被告の主張と同様である。
(イ) 基本電解液にフッ化物を除いたハロゲン化物イオンを1.00×1
0-6mol/L以上3.00×10-5mol/L以下の範囲内で含有し
ているのが,本件明細書に記載された実施例13ないし15の非水系電
解液である(【0264】~【0272】)。
そして,本件訂正発明2は,添加剤としてフルオロスルホン酸リチウ
ムとフッ化物を除いたハロゲン化物イオンとを含有するものであり,フ
ッ化物を除いたハロゲン化物イオンのモル含有量が,1.0×10-7m
ol/L以上3.0×10-5mol/L以下との発明特定事項を備えて
いるものであるから,本件訂正発明2は,上記の範囲と比べて広範囲で
ある。
そして,前記1(2)イ(イ)の被告の主張と同様に,フッ化物を除いたハ
ロゲン化物イオンのモル含有量の数値範囲の下限を1.0×10-7mo
l/Lと定めても効果が発現する蓋然性が高い旨の原告の主張は,具体
的かつ客観的な証拠に基づかない主張であって,失当である。
したがって,本件訂正発明2のフッ化物を除いたハロゲン化物イオン
の含有量は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであると
はいえない。
ウ 小括
以上によれば,本件訂正発明2は,サポート要件に適合するとはいえな
いから,これと同旨の本件決定の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由

3は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本件明細書の記載事項について
本件明細書の発明の詳細な説明には,次のような記載がある(甲21。下記
記載中に引用する表1ないし表6については別紙1を参照)。
(1) 【技術分野】
【0001】
本発明は,特定量のカルボン酸が含まれるフルオロスルホン酸リチウム,
特定量のハロゲン元素が含まれるフルオロスルホン酸リチウム,特定量の硫
酸イオン分が含まれるフルオロスルホン酸リチウム,これらフルオロスルホ
ン酸リチウムを含有する非水系電解液,及び非水系電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話,ノートパソコン等のいわゆる民生用の電源から自動車用等の駆
動用車載電源や定置用大型電源等の広範な用途にリチウム二次電池等の非水
系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら,近年の非水系電解
液二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており,電池特性,
例えば高容量,高出力,高温保存特性,サイクル特性等を高い水準で達成す
ることが求められている。
【0003】
特に電気自動車用電源としてリチウム二次電池を使用する場合,電気自動
車は発進,加速時に大きなエネルギーを要し,また,減速時に発生する大き
なエネルギーを効率よく回生させなければならないため,リチウム二次電池
には,高い出力特性,入力特性が要求される。また,電気自動車は屋外で使
用されるため,寒冷時期においても電気自動車が速やかに発進,加速できる
ためには,リチウム二次電池には,特に,-30℃のような低温における高

い入出力特性(電池内部インピーダンスが低いこと)が要求される。加えて,
高温環境下で繰り返し充放電させた場合においてもその容量の劣化が少なく,
電池内部インピーダンスの増加が少ない必要がある。
【0004】
また,電気自動車用途のみならず,各種バックアップ用途や,電力供給の
負荷平準化用途,自然エネルギー発電の出力安定化用途等の定置用大型電源
としてリチウム二次電池を使用する際には,単電池が大型化されるだけでな
く,多数の単電池が直並列接続される。このため,個々の単電池の放電特性
のばらつきや,単電池間における温度のばらつき,個々の単電池の容量や充
電状態のばらつきといった各種の非一様性に起因する信頼性や安全性の問題
が生じやすい。電池設計や管理が不適切であると,上記のような組電池を構
成する単電池の一部だけが高い充電状態のまま保持されたり,あるいは電池
内部の温度が上昇して高温状態に陥るというような問題を生じる。
即ち,現在の非水系電解液二次電池には,初期の容量と入出力特性が高く,
電池内部インピーダンスが低いこと,高温保存試験やサイクル試験といった
耐久試験後の容量維持率が高いこと,耐久試験後でも入出力性能とインピー
ダンス特性に優れること,といった項目が,極めて高いレベルで要求される。
【0005】
これまで,非水系電解液二次電池の入出力特性,インピーダンス特性,高
温サイクル特性,高温保存特性を改善するための手段として,正極や負極の
活物質や,非水系電解液を始めとする様々な電池の構成要素について,数多
くの技術が検討されている。例えば特許文献1には,LiFSO 3を電解質
とすると,60℃充放電サイクル評価時の放電容量が高い電池が得られるこ
とが記載されている。特許文献1によると,電解質にLiClO 4を用いた
場合,正極活物質の貴な電位によりLiClO4が分解し活性酸素が生成し,
この活性酸素が溶媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させる。また,電解質

にCF3SO3Li,LiBF4およびLiPF6を用いた場合は,正極活物質
の貴な電位により電解質の分解が進行してフッ素が生成し,このフッ素が溶
媒を攻撃して溶媒の分解反応を促進させると記載されている。
【0006】
【特許文献1】 特開平7−296849号公報
(2) 【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は,初期充電容量,入出力特性およびインピーダンス特性が
改善されることで,初期の電池特性と耐久性のみならず,耐久後も高い入出
力特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をもた
らすことができる非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液を提供する
ことにあり,また,この非水系電解液を用いた非水系電解液二次電池を提供
することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは,上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果,特定量の
カルボン酸,ハロゲン元素,硫酸イオンを含有するフルオロスルホン酸リチ
ウムを非水系電解液に加えた場合,初期充電容量,及び容量維持率が改善さ
れた非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液が実現でき
ることを見出し,本発明を完成させるに至った。
(3) 発明の効果
【発明の効果】
【0009】
発明者らは,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチウ
ムを,非水系電解液中に含有させることにより,電池内部インピーダンスが
低下し,低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されることを見出

し,更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特性が持続
するとの知見を得て,本発明を完成させた。詳細は詳らかではないが,フル
オロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより
相乗効果が発現されていると考えられる。
【0010】
すなわち,本発明の非水系電解液によれば,初期充電容量,入出力特性,
電池内部インピーダンス特性が改善された非水系電解液二次電池をもたらす
ことができる非水系電解液が提供される。また,本発明の非水系電解液によ
れば,高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後においても,容量維
持率が高く,入出力性能に優れ,また,インピーダンス特性にも優れた非水
系電解液電池が提供できることになる。よって,産業上の観点では,上記の
携帯機器用途や,電気自動車用途,定置用大型電源用途等,各方面に適用可
能な優れた電池を供給することが可能となる。
(4) 【発明を実施するための形態】
【0011】
以下,本発明の実施の形態について詳細に説明するが,本発明はこれらに
限定されるものではなく,任意に変形して実施することができる。
【0012】
<フルオロスルホン酸リチウム>
フルオロスルホン酸リチウムを電池等に用いた場合により高い性能を示す
為に,純度は高いことが好ましい。
その中でも,例えばカルボン酸リチウムを用いて製造した場合,電池内で
容易に酸化されるカルボン酸イオンが電解液中に溶解しないように除去され
ていることが電池特性を制御する上で望ましい。これは,水に溶かした際の
カルボン酸イオン量を測定することで確認が出来る。
上限値としては, 5×10-2mol/kg以下であり,
2. 好ましくは2.

0×10-2mol/kg以下,より好ましくは1.5×10-2mol/kg
以下である。一方で,下限値としては,1.0×10-5mol/kg以上で
あり,好ましくは5.0×10-5mol/kg以上,より好ましくは1.0
×10-4mol/kg以上である。
【0013】
また,フルオロスルホン酸リチウムを電解液中に含有する場合,非水系電
解液中のカルボン酸イオンの含有量は,上限値としては,4.0×10−3m
ol/L以下であり,好ましくは2.0×10−3mol/L以下,より好ま
しくは1.5×10−3mol/L以下,更に好ましくは1.0×10−3mo
l/L以下,最も好ましくは5.0×10−4mol/L以下である。一方で,
下限値としては,1.0×10−7mol/L以上であり,好ましくは5.0
×10−7mol/L以上,より好ましくは1.0×10−6mol/L以上で
ある。カルボン酸イオンのモル濃度が上記範囲内であると,電池内部インピ
ーダンスが低くなり入出力特性や耐久性がより発現し易くなる。また,上記
値は,添加量から算出される値及び電解液を分析して,電解液中に含まれる
含有量から適宜算出される値のうち少なくとも一方である。
【0014】
また,電池内で容易に酸化されるハロゲン化物イオン,電池内に混入する
微量の水で容易にハロゲン化物イオンを生成する化学種,又は,電池内の反
応によってハロゲン化物イオンを生成する可能性のある,ハロゲン元素を有
する化合物が電解液中に溶解しないように除去されていることが電池特性を
制御する上で望ましい。これは,水に溶かした際のハロゲン化物イオン量を
測定することで確認が出来る。一方,極微量のハロゲン化物塩を混入させる
と電池の性能が向上することも知られている。
【0015】
フルオロスルホン酸リチウムのハロゲン元素の含有量は,上限値としては,

1.5×10-3mol/kg以下であり,好ましくは1.0×10-3mol
/kg以下,より好ましくは5.0×10-4mol/kg以下,更に好まし
くは3.0×10-4mol/kg以下である。一方で,下限値としては,1.
0×10―5mol/kg以上であり,好ましくは5.0×10-5mol/k
g以上,より好ましくは1.0×10-4mol/kg以上である。
【0016】
また,フルオロスルホン酸リチウムを電解液中に含有する場合,非水系電
解液中のフッ化物イオンを除いたハロゲン化物イオンの含有量は,上限値と
しては,1.0×10-3mol/L以下であり,好ましくは5.0×10-

mol/L以下,より好ましくは1.0×10-4mol/L以下,更に好
ましくは5.0×10-5mol/L以下,最も好ましくは3.0×10-5
mol/L以下である。一方で,下限値としては,1.0×10-7mol/
L以上であり,好ましくは5.0×10-7mol/L以上,より好ましくは
1.0×10-6mol/L以上である。フッ化物イオンを除いたハロゲン化
物イオンのモル濃度が上記範囲内であると,電池内部インピーダンスが低く
なり入出力特性や耐久性がより発現し易くなる。また,上記値は,添加量か
ら算出される値及び電解液を分析して,電解液中に含まれる含有量から適宜
算出される値のうち少なくとも一方である。
【0017】
また,本発明は,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リ
チウムに関する。硫酸イオンは,例えば,上記ハロゲン化リチウムを用いて
フルオロスルホン酸リチウムを製造する際に副生することがある。硫酸イオ
ンは,硫酸リチウム,硫酸水素リチウム,硫酸のいずれの形態で含有してい
てもよい。本発明のフルオロスルホン酸リチウムは,硫酸イオン分のモル含
有量が,フルオロスルホン酸リチウムの重量に対して下限値として,1.0
×10-5mol/kg以上であり,好ましくは5.0×10-5mol/kg

以上,より好ましくは1.0×10-4mol/kg以上である。また,フル
オロスルホン酸リチウム中に含有する硫酸イオン分のモル含有量が,上限値
として,2.5×10-1mol/kg以下であり,好ましくは2.0×10
-1
mol/kg以下,より好ましくは1.5×10-1mol/kg以下であ
る。硫酸イオン分のモル含有量が上記範囲内にあることにより,電解液に加
えた際の電池内での硫酸イオン分の効果が十分に発現し,また,副反応によ
る抵抗の増加を抑制する。
【0018】
また,フルオロスルホン酸リチウムを電解液中に含有する場合,非水系電
解液中の硫酸イオンの含有量は,上限値としては,1.0×10-2mol/
L以下であり,好ましくは8.0×10-3mol/L以下,より好ましくは
5.0×10-3mol/L以下,更に好ましくは1.0×10-3mol/L
以下,最も好ましくは5.0×10-4mol/L以下である。一方で,下限
値としては,1.0×10-7mol/L以上であり,好ましくは5.0×1
0-7mol/L以上,より好ましくは8.0×10-7mol/L以上である。
硫酸イオンのモル濃度が上記範囲内であると,電池内部インピーダンスが低
くなり入出力特性や耐久性がより発現し易くなる。また,上記値は,添加量
から算出される値及び電解液を分析して,電解液中に含まれる含有量から適
宜算出される値のうち少なくとも一方である。
【0019】
本発明のフルオロスルホン酸リチウムの合成及び入手の方法は,特に制限
されず,いかなる方法を用いて合成されたものであっても,又は入手された
ものであっても使用することができる。
ここで,フルオロスルホン酸リチウムの合成方法としては,例えば,フッ
化リチウムやリチウムフッ化ケイ素化合物と三酸化硫黄やフルオロスルホン
酸を反応させてフルオロスルホン酸リチウムを得る方法や,フルオロスルホ

ン酸とリチウムを反応させてフルオロスルホン酸リチウムを得る方法,フル
オロスルホン酸のアンモニウム塩とリチウムとを反応させてフルオロスルホ
ン酸リチウムを得る方法,フルオロスルホン酸とカルボン酸リチウムとを反
応させて,塩交換することによりフルオロスルホン酸リチウムを得る方法,
フルオロスルホン酸とハロゲン化リチウムとを反応させて塩交換することに
よりフルオロスルホン酸リチウムを得る方法,クロロスルホン酸等の他のハ
ロスルホン酸のように,容易にフッ素に置換される官能基を持つ置換スルホ
ン酸リチウムをフッ素,フッ酸,フッ化カリウム等のフッ化物塩酸性フッ化
カリウム等の酸性フッ化物塩,非金属無機フッ化物や有機フッ素化剤等でフ
ッ素置換して得る方法,等が挙げられる。
【0020】
これらの反応において,溶媒使用の有無は特に限定はされないが,用いら
れる場合は,反応試剤に合わせて,各種有機溶媒や水以外の無機溶媒から選
ぶ事が出来る。この際,残存しにくく,残存した場合でも影響が小さい溶媒
を用いることが好ましく,有機溶媒では炭酸エステル等の非プロトン性溶媒,
無機溶媒では無水フッ酸などをあげることが出来る。
(5) 【0021】
<1.非水系電解液>
本発明の非水系電解液は,少なくとも,フルオロスルホン酸リチウム,フ
ルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩,及びこれらを溶解する非水系
溶媒を含有するものである。
【0022】
本発明の非水系電解液においては,非水系電解液中のフルオロスルホン酸
リチウムのモル含有量が,下限値として,0.0005mol/L以上であ
り,0.01mol/L以上であることが好ましく,0.02mol/L以
上であることがより好ましい。また,上限値として,0.5mol/L以下

であり,0.45mol/L以下であることが好ましく,0.4mol/L
以下であることがより好ましい。フルオロスルホン酸リチウムの濃度の範囲
としては,0.0005mol/L以上0.5mol/L以下であり,0.
01mol/L以上0.5mol/L以下が好ましく,0.01mol/L
以上0.45mol/L以下がより好ましく,0.01mol/L以上0.
40mol/L以下が特に好ましい。フルオロスルホン酸リチウムのモル濃
度が上記範囲内であると,電池内部インピーダンスが低くなり,入出力特性
や耐久性に優れる。
【0023】
また,上記値は,添加量から算出される値及び電解液を分析して,電解液
中に含まれる含有量から適宜算出される値のうち少なくとも一方である。
また,本発明の非水系電解液においては,非水系電解液中のフルオロスル
ホン酸リチウムの対アニオン種FSO3-のモル含有量が,下限値としては,
0.0005mol/L以上であることが好ましく,0.01mol/L以
上であることがより好ましく,0.02mol/L以上であることが特に好
ましい。また,上限値としては,0.5mol/L以下であることが好まし
く,0.45mol/L以下であることがより好ましく,0.4mol/L
以下であることが特に好ましい。対アニオン種FSO3―の濃度が上記範囲内
であると,電池内部インピーダンスが低くなり入出力特性や耐久性がより発
現し易くなる。対アニオン種FSO3―の濃度の範囲としては,0.0005
mol/L以上0.5mol/L以下が好ましく,0.01mol/L以上
0.5mol/L以下が好ましく,0.01mol/L以上0.45mol
/L以下が更に好ましく,0.01mol/L以上0.40mol/L以下
が特に好ましい。また,上記値は,添加量から算出される値及び電解液を分
析して,電解液中に含まれる含有量から適宜算出される値のうち少なくとも
一方である。

なお,非水系電解液中の,対アニオン種FSO3―のモル含有量は,例えば,
非水系電解液を調製するにあたって使用したフルオロスルホン酸リチウムの
量によって決定することができる。
【0024】
<1‐2.フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩>
本発明における非水系電解液は,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオ
ロ硫酸リチウムを含有するが,さらにその他のリチウム塩を1種以上含有す
ることが好ましい。
その他のリチウム塩としては,この用途に用いることが知られているもの
であれば,特に制限はなく,具体的には以下のものが挙げられる。
【0025】
例えば,LiPF6,LiBF4,LiClO4,LiAlF4,LiSbF
6,LiTaF6,LiWF7等の無機リチウム塩;
LiPO3F,LiPO2F2等のLiPF6以外のフルオロリン酸リチウム
塩類;
LiWOF5等のタングステン酸リチウム塩類;
HCO2Li,CH3CO2Li,CH2FCO2Li,CHF2CO2Li,
CF3CO2Li,CF3CH2CO2Li,CF3CF2CO2Li,CF3CF
2 CF2CO2Li,CF3CF2CF2CF2CO2Li等のカルボン酸リチウ
ム塩類;
CH3SO3Li,CH2FSO3Li,CHF2SO3Li,CF3SO3L
i,CF3CF2SO3Li,CF3CF2CF2SO3Li,CF3CF2CF2
CF2SO3Li等のスルホン酸リチウム塩類;
【0026】
LiN(FCO2)2,LiN(FCO)(FSO2),LiN(FSO2)
2,LiN(FSO2)(CF3SO2),LiN(CF3SO2)2,LiN(C

2F5SO2)2,リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミ
ド,リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド,LiN
(CF3SO2)(C4F9SO2)等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO2)3,LiC(CF3SO2)3,LiC(C2F5SO2)3
等のリチウムメチド塩類;
【0027】
リチウムジフルオロオキサラトボレート,リチウムビス(オキサラト)ボ
レート,リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート,リチウムジフ
ルオロビス(オキサラト)フォスフェート,リチウムトリス(オキサラト)
フォスフェート等のリチウムオキサラート塩類;
その他,LiPF4(CF3)2,LiPF4(C2F5)2,LiPF4(C
F3SO2)2,LiPF4(C2F5SO2)2,LiBF3CF3,LiBF3
C2F5,LiBF3C3F7,LiBF2(CF3)2,LiBF2(C2F5)2,
LiBF2(CF3SO2)2,LiBF2(C2F5SO2)2等の含フッ素有機
リチウム塩類;等が挙げられる。
【0028】
以上のなかでも,LiPF6,LiBF4,LiSbF6,LiTaF6,L
iPO2F2,CF3SO3Li,LiN(FSO2)2,LiN(FSO2)(C
F3SO2),LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2,リチウム
環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド,リチウム環状1,3−
パーフルオロプロパンジスルホニルイミド,LiC(FSO2) ,
3 LiC(C
F3SO2) ,
3 LiC(C2F5SO2) ,
3 リチウムビスオキサラトボレート,

リチウムジフルオロオキサラトボレート,リチウムテトラフルオロオキサラ
トホスフェート,リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート,Li
BF3CF3,LiBF3C2F5,LiPF3(CF3)3,LiPF3(C2F5)
3 等が好ましい。さらに,これらの中でも,LiPF 6,LiBF4が好まし

く,LiPF6が最も好ましい。
【0029】
本発明の非水系電解液においては,非水系電解液中のフルオロスルホン酸
リチウム以外のリチウム塩の対アニオン種(例えば,フルオロスルホン酸リ
チウム以外のリチウム塩がLiPF6の場合のPF6-)のモル含有量が,下
限値としては,0.5mol/L以上であることが好ましく,0.6mol
/L以上であることがより好ましく,0.7mol/L以上であることが特
に好ましい。また,上限値としては,3.0mol/L以下であることが好
ましく,2.0mol/L以下であることがより好ましく,1.5mol/
L以下であることが特に好ましい。フルオロスルホン酸リチウム以外のリチ
ウム塩の対アニオン種の濃度範囲としては,0.5mol/L以上3.0m
ol/L以下であることが好ましく,0.5mol/L以上2.0mol/
L以下であることがより好ましく,0.5mol/L以上1.5mol/L
以下であることが更に好ましい。フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウ
ム塩の対アニオン種の濃度が上記範囲内であると,非水系電解液中の総イオ
ン含有量が存在量と電解液の粘性が適度なバランスとなるため,イオン伝導
度が低下することなく電池内部インピーダンスが低くなり,入出力特性の効
果発現し易くなる。
(6) 【0035】
<1-3.非水系溶媒>
本発明において,フルオロスルホン酸リチウム,フルオロスルホン酸リチ
ウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶媒の代表的な具体例を以下に
列挙する。本発明においては,これらの非水系溶媒は単独或いは複数の溶媒
を任意の割合で混合した混合液として使用されるが,本発明の効果を著しく
損なわない限りこれらの例示に限定されない。
【0036】

<飽和環状カーボネート>
本発明において非水系溶媒として用いることができる飽和環状カーボネー
トとしては,炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられる。
具体的には,炭素数2~4の飽和環状カーボネートとしては,エチレンカ
ーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート等が挙げられ
る。中でも,エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイ
オン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
飽和環状カーボネートは,1種を単独で用いてもよく,2種以上を任意の
組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0037】
飽和環状カーボネートの配合量は,特に制限されず,本発明の効果を著し
く損なわない限り任意であるが,1種を単独で用いる場合の配合量の下限は,
非水系溶媒100体積%中,3体積%以上,より好ましくは5体積%以上で
ある。この範囲とすることで,非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気
伝導率の低下を回避し,非水系電解液二次電池の大電流放電特性,負極に対
する安定性,サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また上限は,90
体積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積%
以下である。この範囲とすることで,非水系電解液の粘度を適切な範囲とし,
イオン伝導度の低下を抑制し,ひいては非水系電解液二次電池の負荷特性を
良好な範囲としやすくなる。
【0038】
また,飽和環状カーボネートを2種類以上の任意の組み合わせで用いるこ
ともできる。好ましい組合せの一つは,エチレンカーボネートとプロピレン
カーボネートとの組み合わせである。この場合のエチレンカーボネートとプ
ロピレンカーボネートの体積比は,99:1~40:60が好ましく,特に
好ましくは95:5~50:50である。更に,非水系溶媒全体に占めるプ

ロピレンカーボネートの量は,1体積%以上,好ましくは2体積%以上,よ
り好ましくは3体積%以上,また上限は,通常20体積%以下,好ましくは
8体積%以下,より好ましくは5体積%以下である。この範囲でプロピレン
カーボネートを含有すると,エチレンカーボネートとジアルキルカーボネー
ト類との組み合わせの特性を維持したまま,更に低温特性が優れるので好ま
しい。
【0039】
<鎖状カーボネート>
本発明において非水系溶媒として用いることができる鎖状カーボネートと
しては,炭素数3~7のものが挙げられる。
具体的には,炭素数3~7の鎖状カーボネートとしては,ジメチルカーボ
ネート,ジエチルカーボネート,ジ-n‐プロピルカーボネート,ジイソプ
ロピルカーボネート,n‐プロピルイソプロピルカーボネート,エチルメチ
ルカーボネート,メチル-n‐プロピルカーボネート,n‐ブチルメチルカ
ーボネート,イソブチルメチルカーボネート,t‐ブチルメチルカーボネー
ト,エチル-n‐プロピルカーボネート,n‐ブチルエチルカーボネート,
イソブチルエチルカーボネート,t‐ブチルエチルカーボネート等が挙げら
れる。
【0040】
中でも,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,ジ-n‐プロピ
ルカーボネート,ジイソプロピルカーボネート,n‐プロピルイソプロピル
カーボネート,エチルメチルカーボネート,メチル-n‐プロピルカーボネ
ートが好ましく,特に好ましくはジメチルカーボネート,ジエチルカーボネ
ート,エチルメチルカーボネートである。
また,フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下,「フッ素化鎖状カ
ーボネート」と略記する場合がある)も好適に用いることができる。フッ素

化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は,1以上であれば特に制限さ
れないが,通常6以下であり,好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カー
ボネートが複数のフッ素原子を有する場合,それらは互いに同一の炭素に結
合していてもよく,異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボ
ネートとしては,フッ素化ジメチルカーボネート誘導体,フッ素化エチルメ
チルカーボネート誘導体,フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げら
れる。
【0043】
鎖状カーボネートは,1種を単独で用いてもよく,2種以上を任意の組み
合わせ及び比率で併用してもよい。
鎖状カーボネートは,非水系溶媒100体積%中,15体積%以上である
ことが好ましい。15体積%以上とすることにより,非水系電解液の粘度を
適切な範囲とし,イオン伝導度の低下を抑制し,ひいては非水系電解液二次
電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。また,鎖状カーボネー
トは,非水系溶媒100体積%中,90体積%以下であることが好ましい。
90体積%以下とすることにより,非水系電解液の誘電率の低下に由来する
電気伝導率の低下を回避し,非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好
な範囲としやすくなる。鎖状カーボネートの配合量は,より好ましくは20
体積%以上,さらに好ましくは25体積%以上であり,また,より好ましく
は85体積%以下,さらに好ましくは80体積%以下である。
(7) 【実施例】
【0244】
<実施例1~15,比較例1~9>
[試験例A]
[硫酸イオン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれる硫酸イオンをイオンクロマトグラ

フィーで測定した。測定結果を表1に示す。
【0247】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを5質量%含
有するように混合した。
【0248】
[リチウム二次電池の製造]
上記の正極,負極,及びポリエチレン製のセパレータを,負極,セパレー
タ,正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム
(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋
内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後,表に記載の化合物を混
合した電解液をそれぞれ袋内に注入し,真空封止を行い,シート状電池を作
製し,それぞれ実施例1及び比較例1に用いる電池とした。
【0249】
[初期容量評価]
リチウム二次電池を,電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状
態で,25℃において0.2Cに相当する定電流で4.1Vまで充電した後,
0.2Cの定電流で3.0Vまで放電した。これを2サイクル行って電池を
安定させ,3サイクル目は,0.2Cの定電流で4.2Vまで充電後,4.
2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電を実施し,0.2Cの定
電流で3.0Vまで放電した。その後,4サイクル目に0.2Cの定電流で
4.2Vまで充電後,4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充
電を実施し,0.2Cの定電流で3.0Vまで放電して,初期放電容量を求

めた。評価結果を表1に示す。尚,1Cとは電池の基準容量を1時間で放電
する電流値を表し,2Cとはその2倍の電流値を,また0.2Cとはその1
/5の電流値を表す。
【0250】
[高温保存膨れ評価]
初期放電容量評価試験の終了した電池を,0.2Cの定電流で4.2Vま
で充電後,4.2Vの定電圧で電流値が0.005Cになるまで充電した。
これを85℃で24時間保存し,電池を冷却させた後,エタノール浴中に浸
して体積を測定し,高温保存前後の体積変化から発生したガス量を求めた。
評価結果を表1に示す。
【0252】
表1より,同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた
電池においては,フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる硫酸イオンの量
が少ない方が,初期放電容量が高く,かつ高温保存時のガス発生量が低いこ
とから,電池特性に優れることが分かる。
(8) 【0253】
[試験例B]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,硫酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表2に記載
の割合となるように混合した。
【0254】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1及び比較例1と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量

評価及び高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表2に示す。
(9) 【0256】
表2より,製造された電解液の硫酸イオンの量が1.00×10-7×mo
l/L~1.00×10-2mol/Lの範囲内であれば,初期放電容量が向
上し,高温保存時のガス発生量が低下することから,電池特性が向上するこ
とが分かる。
[試験例C]
[カルボン酸イオン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれる酢酸イオンをイオンクロマトグラ
フィーで測定した。測定結果を表3に示す。
【0257】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを1質量%含
有するように混合した。
【0258】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1~7及び比較例1~3と同様の方法にてシート状電池を作製し,
高温保存膨れ評価を行った。評価結果を表3に示す。
【0260】
表3より,同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた
電池においては,酢酸イオンの量が少ない方が高温保存時のガス発生量が少
なく,電池特性に優れることが分かる。
(10) 【0261】

[試験例D]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,酢酸イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表に記載の
割合となるように混合した。
【0262】
[リチウム二次電池の製造]
上記負極,正極並びに上記電解液を使用した以外,実施例1~8及び比較
例1~4と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温保
存膨れ評価を行った。評価結果を表4に示す。
(11) 【0264】
表4より,製造された電解液の酢酸イオンの量が1.00×10-6mol
/L~4.00×10-3mol/Lの範囲内であれば,初期放電容量が高く,
かつ高温保存時のガス発生量が低下することから,電池特性が向上すること
が分かる。
[試験例E]
[ハロゲン分の測定]
フルオロスルホン酸リチウムに含まれるハロゲン化物イオンをイオンクロ
マトグラフィーで測定した。測定結果を表5に示す。尚,フッ化物イオン,
塩化物イオン以外のハロゲン化物イオンは検出されなかった。
【0265】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF

6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを2.5質
量%含有するように混合した。
【0266】
[リチウム二次電池の製造]
実施例1~12及び比較例1~6と同様の方法にてシート状電池を作製し
て初期容量評価を行った。評価結果を表5に示す。
[高温保存特性の評価]
初期放電容量評価試験の終了した電池を,0.2Cの定電流で4.2Vま
で充電後,4.2Vの定電圧で電流値が0.05Cになるまで充電した。こ
れを85℃で24時間保存し,電池を冷却させた後,25℃において0.2
Cの定電流で3Vまで放電させて残存容量を求めた。(残存容量/充電容量)
×100より容量維持率を求めた。評価結果を表5に示す。
【0268】
表5より,同量のフルオロスルホン酸リチウムを含有する電解液を用いた
電池においては,フルオロスルホン酸リチウム中に含まれる塩化物イオンの
量が少ない方が,初期放電容量と容量維持率が明らかに高く,電池特性に優
れることが分かる。
(12) 【0269】
[試験例F]
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下,エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この
基本電解液に,塩化物イオンを含むフルオロスルホン酸リチウムを表6に記
載の割合となるように混合した。

【0270】
[リチウム二次電池の製造]
上記負極,正極並びに上記電解液を使用した以外,実施例1~13及び比
較例1~7と同様の方法にてシート状電池を作製して初期容量評価及び高温
保存特性評価を行った。評価結果を表6に示す。
【0272】
表6より,製造された電解液の塩化物イオンの量が1.00×10-6mo
l/L~1.00×10-3mol/Lの範囲内であれば,初期放電容量や高
温保存特性といった電池特性が向上することが分かる。
【0273】
上記のとおり,本発明の非水系電解液によれば,非水系電解液二次電池の
初期充電容量及び容量維持率を改善できる。本発明の非水系電解液を用いた
非水系電解液二次電池は,高温保存試験やサイクル試験といった耐久試験後
においても,容量維持率が高く,入出力性能に優れ,また,低温での入出力
特性にも優れる。
本発明を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが,本発明の精神
と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは,
当業者にとって明らかである。
【0274】
本発明の非水系電解液及びこれを用いた非非水系電解液二次電池は,公知
の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては,例えば,ノート
パソコン,ペン入力パソコン,モバイルパソコン,電子ブックプレーヤー,
携帯電話,携帯ファックス,携帯コピー,携帯プリンター,ヘッドフォンス
テレオ,ビデオムービー,液晶テレビ,ハンディークリーナー,ポータブル
CD,ミニディスク,トランシーバー,電子手帳,電卓,メモリーカード,
携帯テープレコーダー,ラジオ,バックアップ電源,モーター,自動車,バ

イク,原動機付自転車,自転車,照明器具,玩具,ゲーム機器,時計,電動
工具,ストロボ,カメラ,負荷平準化用電源,自然エネルギー貯蔵電源等が
挙げられる。
2 取消事由1(本件訂正発明4,6ないし22のサポート要件の判断の誤り)
について
(1) 本件訂正発明4の課題の認定の誤りの有無について
原告は,本件決定は,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき,本
件訂正発明4(本件決定にいう「本発明」)の課題は「初期放電容量が改善
され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された非水系電解液二次
電池をもたらすことができる非水系電解液を提供すること」にあると認定し,
これを前提に,本件訂正発明4のサポート要件の適合性を判断したが,本件
訂正発明4の課題は,「フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加
剤として含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等を改善すること
を二次電池の用途における合理的な条件下で可能とすること」にあるという
べきであるから,本件決定における上記課題の認定に誤りがある旨主張する
ので,以下において判断する。
ア(ア) 前記1の本件明細書の記載事項によれば,本件明細書には,本件訂
正発明4に関し,「発明が解決しようとする課題」として,「本発明の
課題は,初期充電容量,入出力特性およびインピーダンス特性が改善さ
れることで,初期の電池特性と耐久性のみならず,耐久後も高い入出力
特性およびインピーダンス特性が維持される非水系電解液二次電池をも
たらすことができる非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液を提
供することにあり,また,この非水系電解液を用いた非水系電解液二次
電池を提供することにある。」(【0007】)との記載がある。この
記載は,「本発明」の課題は,「初期の電池特性と耐久性」,「耐久後
も高い入出力特性およびインピーダンス特性」が維持される非水系電解

液二次電池をもたらすことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに
非水系電解液」を提供することにあることを示したものと理解できる。
また,本件明細書には,「背景技術」として,「近年の非水系電解液
二次電池に対する高性能化の要求はますます高くなっており,電池特性,
例えば高容量,高出力,高温保存特性,サイクル特性等を高い水準で達
成することが求められている。」(【0002】),「即ち,現在の非
水系電解液二次電池には,初期の容量と入出力特性が高く,電池内部イ
ンピーダンスが低いこと,高温保存試験やサイクル試験といった耐久試
験後の容量維持率が高いこと,耐久試験後でも入出力性能とインピーダ
ンス特性に優れること,といった項目が,極めて高いレベルで要求され
る。」(【0004】)と記載し,「近年の非水系電解液二次電池」は
「電池特性」が高い水準で達成することが求められていることを一般的
に述べた上で,「電池特性」の具体的な項目として,「初期の容量と入
出力特性,電池内部インピーダンス」,「高温保存試験やサイクル試験
といった耐久試験後の容量維持率,入出力性能,インピーダンス特性」
などを挙げ,これらの項目を改善する従来技術の例として,「特許文献
1」(特開平7-296849号公報)において,「電解質」に「Li
FSO3」を用いた場合,60℃充放電サイクル評価時の放電容量が高
い電池が得られること,「電解質」に「LiClO4」,「CF3SO3
Li」,「LiBF4」及び「LiPF6」を用いた場合,溶媒の分解反
応を促進させること(【0005】)が記載されている。
(イ) 一方で,本件明細書には,従来技術における具体的な問題点を指摘
した記載はなく,【0007】記載の「初期の電池特性と耐久性」,「耐
久後も高い入出力特性およびインピーダンス特性」といった項目につい
ても,従来技術に具体的な問題点があることを指摘する記載はない。
また,本件明細書には,本件訂正発明4に関し,「エチレンカーボネ

ート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積
比30:70)に乾燥したLiPF 6を1mol/Lの割合」となるよ
うに溶解して」調製した「基本電解液」に「フルオロスルホン酸リチウ
ム」(FSO3Li)及び「硫酸イオン」を本件訂正発明4の数値範囲
内の所定の割合で含有させた電解液(実施例2ないし7),「FSO 3
Li」及び「硫酸イオン」をいずれも含有しない電解液(比較例2),
「FSO3Li」及び「硫酸イオン」を含有するが,その含有量がいず
れも本件訂正発明4の数値範囲外である電解液(比較例3)について,
「電池特性」である「初期放電容量」及び「高温保存時のガス発生量」
を測定し,それぞれの評価をした「試験例B」(【0253】ないし【0
256】,表2)の記載がある。この「試験例B」の「初期放電容量」
は【0007】の「初期の電池特性」に,「高温保存時のガス発生量」
は【0007】の「耐久性」にそれぞれ該当するものと理解できるが,
他方で,本件明細書全体をみても,【0007】の「耐久後も高い入出
力特性およびインピーダンス特性」について評価試験を行ったことにつ
いての記載はない。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件明細書の【0007】の「本発明」
の課題は,「初期の電池特性と耐久性」,「耐久後も高い入出力特性お
よびインピーダンス特性」が維持される非水系電解液二次電池をもたら
すことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液」を提
供することにあるとの記載は,従来技術においてこれらの電池特性の項
目に具体的な問題点があることを踏まえて,それらを解決することを課
題とし,あるいはこれらの項目のすべてを向上又は改善することを課題
とすることを開示したものではなく,少なくともこれらの項目のいずれ
かを向上又は改善することにより,電池特性を向上させることを課題と
して開示したものと理解できる。

イ 次に,本件明細書には,本件訂正発明4に関し,「発明の効果」として,
「発明者らは,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロスルホン酸リチ
ウムを,非水系電解液中に含有させることにより,電池内部インピーダン
スが低下し,低温出力特性が向上するという優れた特徴が発現されること
を見出し,更に耐久後にも初期の電池内部インピーダンス特性や高出力特
性が持続するとの知見を得て,本発明を完成させた。詳細は詳らかではな
いが,フルオロスルホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させ
ることにより相乗効果が発現されていると考えられる。」(【0009】)
との記載がある。上記記載から,「特定量の硫酸イオン分を含有するフル
オロスルホン酸リチウムを,非水系電解液中に含有させることにより」,
「優れた特徴が発現されることを見出し」 「本発明」
, を完成させたこと,
「本発明」の「発明者ら」は,「詳細は詳らかではないが,フルオロスル
ホン酸リチウムに特定の割合で硫酸イオンを含有させることにより相乗
効果が発現されていると考え」ていたことを理解できる。
また,本件明細書には,前記アの試験例Bの試験結果として,表2にお
いて,「基本電解液」に「フルオロスルホン酸リチウム」(FSO3Li)
及び「硫酸イオン」を本件訂正発明4の数値範囲内の所定の割合で含有さ
せた電解液(実施例2ないし7)の「初期放電容量」(147.4~14
8.8(mAh/g))が「FSO3Li」及び「硫酸イオン」をいずれ
も含有しない電解液(比較例2)の「初期放電容量」(145.8(mA
h/g))よりも優れていることが示されている。
さらに,本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,本件訂正
発明4の「非水系電解液」は,「フルオロスルホン酸リチウム,LiPF
6 ,及び非水系溶媒」を含有すること,「該非水系電解液中のフルオロス
ルホン酸リチウムのモル含有量が,0.0005mol/L以上0.5m
ol/L以下」であり,「該非水系電解液中の硫酸イオン分のモル含有量

が1.0×10-7mol/L以上1.0×10 -2mol/L以下」であ
り,
「該非水系電解液中のLiPF6の含有量が0.7mol/L以上1.
5mol/L以下」であるとの記載があるところ,本件明細書には,電池
特性を改善する従来技術の例として,「電解質」に「LiPF6」を用い
た技術が記載されていること(【0005】)に照らすと,本件訂正発明
4の「非水系電解液」において,「LiPF6」は「電解質」として用い
られ,「フルオロスルホン酸リチウム」及び「硫酸イオン分」(硫酸イオ
ン分を含むフルオロスルホン酸リチウム)は添加剤として用いられている
とみるのが自然である。
ウ 以上によれば,本件明細書には,本件訂正発明4の課題は,フルオロス
ルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液
に対して,初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を提供する
ことにあることが開示されているものと認められる。
したがって,本件決定における本件訂正発明4の課題の認定に誤りがあ
る。
エ これに対し被告は,①本件明細書の【0007】の記載ぶりを可能な限
り採用して解釈すると,本件訂正発明4は,「初期放電容量が改善され,
容量維持率および/またはガス発生量が改善された非水系電解液二次電池
をもたらすことができる非水系電解液を提供すること」を課題とするもの
である,②本件訂正発明4の特許の請求の範囲(請求項4)の記載及び本
件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照しても,本件訂正発明4の非水
系電解液において,いずれの成分が添加剤であるかについての明記は見当
たらないし,たとえ,本件訂正発明4の非水系電解液が何らかの添加剤を
含有しているとしても,非水系電解液は,その添加剤だけではなく,非水
系溶媒やLiPF6等の支持電解質も含有されて一体となっている液体で
あるから,添加剤を非水系溶媒や支持電解質とは別々に考えることはでき

ない,③個々の電池性能の評価項目のうち,一つでも「改善」が得られる
ものであれば,それをもって電池性能の一般的な向上を図り得ると当業者
が認識することはあり得ないし,個々の電池性能の評価項目の一つにおい
て「改善」されただけでは,近年の非水系電解液二次電池に対する高性能
化の要求(本件明細書記載の「背景技術」の現状)に対応したことになる
ものではないなどと主張する。
しかしながら,前記ア(ウ)認定のとおり,本件明細書の【0007】の
「本発明」の課題は,「初期の電池特性と耐久性」,「耐久後も高い入出
力特性およびインピーダンス特性」が維持される非水系電解液二次電池を
もたらすことができる「非水系電解液用の添加剤ならびに非水系電解液」
を提供することにあるとの記載は,従来技術においてこれらの電池特性の
項目に具体的な問題点があることを踏まえて,それらを解決することを課
題とし,あるいはこれらの項目のすべてを向上又は改善することを課題と
することを開示したものではなく,少なくともこれらの項目のいずれかを
向上又は改善することにより,電池特性を向上させることを課題として開
示したものと理解できるから,上記①及び③の点は,採用することができ
ない。
また,前記イ認定のとおり,本件訂正発明4の「非水系電解液」におい
て,「LiPF6」は「電解質」として用いられ,「フルオロスルホン酸
リチウム」及び「硫酸イオン分」(硫酸イオン分を含むフルオロスルホン
酸リチウム)は添加剤として用いられているとみるのが自然であるから,
上記②の点は,採用することができない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
(2) 本件訂正発明4のサポート要件の適合性について
本件決定は,①本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき出願時(本
件出願の優先日当時)の技術常識に照らして,当業者が,本件訂正発明4の

課題を解決できる範囲は,実施例に記載された「エチレンカーボネート(E
C)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)
にLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解
液にフルオロスルホン酸リチウムを2.98×10-3mol/L以上0.5
96mol/L以下の範囲内で含有している非水系電解液であって,硫酸イ
オンの含有量が1.00×10-7mol/L以上1.00×10-2mol/
L以下である,非水系電解液」である,②本件訂正発明1の特許請求の範囲
の記載には,実施例に記載された上記非水系電解液以外の非水系電解液も包
含されているが,本件出願の優先日当時の技術常識に照らしても,本件明細
書の発明の詳細な説明には,本件訂正発明4の課題を,本件訂正発明4によ
って解決し得るまでの開示がされているとはいえないから,本件訂正発明4
は,発明の詳細な説明に記載したものとはいえず,サポート要件に適合しな
い旨判断した。
原告は,本件決定の上記判断は,当業者が本件訂正発明4の課題を解決で
きると認識できる範囲は本件明細書の実施例記載の非水系電解液に限定され
ることを前提とするものであるが,「基本電解液」を「エチレンカーボネー
ト(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:
70)とLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基
本電解液」以外の一般的な基本電解液とし,フルオロスルホン酸リチウムの
含有量を本件訂正発明4の下限値の0.0005mol/L以上2.98×
10-3mol/L未満の範囲内のものとした場合であっても,本件訂正発明
4の課題を解決できると認識できるものといえるから,本件決定の上記判断
は誤りである旨主張するので,以下において判断する。
ア 本件明細書記載の実施例について
本件明細書には,実施例1ないし7に係る「試験例B」として,「エチ
レンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混

合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF 6を1mol/Lの割合と
なるように溶解して」調整した「基本電解液」に,「硫酸イオンを含むフ
ルオロスルホン酸リチウムを表2に記載の割合となるように混合」して電
解液を製造し(【0253】) ,表2記載の電解液を用いたシート状電池
を作製して,「初期放電容量評価」及び「高温保存膨れ保存評価」(高温
保存前後の体積変化から発生したガス発生量の評価)を行ったこと(【0
254】,【0249】,【0250】)が記載されている。
表2には,実施例1ないし7は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウ
ムの含有量が「0.025~5質量%」(「2.98×10-3mol/L
~0.596mol/L」)及び硫酸イオンの含有量が「9.21×10
-7
mol/L~7.27×10-3mol/L」の範囲内の電解液であり,
比較例2は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオンをい
ずれも含有しない電解液,比較例3は,電解液中のフルオロスルホン酸リ
チウムの含有量が「5質量%」(「0.596mol/L」)及び硫酸イ
オンの含有量が「1.67×10-2mol/L」の電解液であることが示
されている。このうち,実施例2ないし7は,本件訂正発明4(フルオロ
スルホン酸リチウムのモル含有量が「0.0005mol/L以上0.5
mol/L以下」,硫酸イオン分のモル含有量が「1.0×10-7mol
/L以上1.0×10-2mol/L以下」)に含まれる電解液である。
そして,本件明細書には,「表2より,製造された電解液の硫酸イオン
の量が1.00×10-7×mol/L~1.00×10-2mol/Lの範
囲内であれば,初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下す
ることから,電池特性が向上することが分かる。」(【0256】)との
記載がある。
また,表2の記載から,実施例2ないし7は,比較例2及び3よりも,
初期放電容量が向上し,高温保存時のガス発生量が低下し,電池特性が向

上していることを理解できる。
一方で,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホ
ン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.98×10
-3
mol/L(0.00298mol/L未満)」の電解液については,
実施例の記載がない。
イ 実施例記載の基本電解液と他の電解液との互換性について
(ア) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)には,本件訂正発明
4の非水系電解液の含有する非水系溶媒として「炭素数2~4のいずれ
か1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネート」及び「炭素
数3~7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含むことが記載さ
れているが,飽和環状カーボネートと鎖状カーボネートの具体的な組成
及び混合割合を特定する記載はない。
次に,本件明細書には,①「飽和環状カーボネート」について,「本
発明において非水系溶媒として用いることができる飽和環状カーボネー
トとしては,炭素数2~4のアルキレン基を有するものが挙げられる。
具体的には,炭素数2~4の飽和環状カーボネートとしては,エチレン
カーボネート,プロピレンカーボネート,ブチレンカーボネート等が挙
げられる。」(【0036】),「飽和環状カーボネートの配合量は,
特に制限されず,本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが,
1種を単独で用いる場合の配合量の下限は,非水系溶媒100体積%中,
3体積%以上,より好ましくは5体積%以上である。…また上限は,9
0体積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80
体積%以下である。」(【0036】),②「鎖状カーボネート」につ
いて,「本発明において非水系溶媒として用いることができる鎖状カー
ボネートとしては,炭素数3~7のものが挙げられる。具体的には,炭
素数3~7の鎖状カーボネートとしては,ジメチルカーボネート,ジエ

チルカーボネート,ジ-n‐プロピルカーボネート,ジイソプロピルカ
ーボネート,n‐プロピルイソプロピルカーボネート,エチルメチルカ
ーボネート…等が挙げられる。」(【0039】),「 鎖状カーボネー
トは,1種を単独で用いてもよく,2種以上を任意の組み合わせ及び比
率で併用してもよい。…鎖状カーボネートの配合量は,より好ましくは
20体積%以上,さらに好ましくは25体積%以上であり,また,より
好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積%以下である。」
(【0043】),③「本発明において,フルオロスルホン酸リチウム,
フルオロスルホン酸リチウム以外のリチウム塩を溶解する為の非水系溶
媒の代表的な具体例を以下に列挙する。本発明においては,これらの非
水系溶媒は単独或いは複数の溶媒を任意の割合で混合した混合液として
使用されるが,本発明の効果を著しく損なわない限りこれらの例示に限
定されない。」(【0035】)との記載がある。これらの記載によれ
ば,本件明細書には,「本発明において非水系溶媒として用いることが
できる飽和環状カーボネート」の配合量は,「非水系溶媒100体積%
中,3体積%以上,より好ましくは5体積%以上」,「上限は,90体
積%以下,より好ましくは85体積%以下,さらに好ましくは80体積%
以下」であること,「本発明において非水系溶媒として用いることがで
きる鎖状カーボネート」の配合量は,
「より好ましくは20体積%以上,
さらに好ましくは25体積%以上」「より好ましくは85体積%以下,

さらに好ましくは80体積%以下」であること,「鎖状カーボネート」
と「飽和環状カーボネート」の混合割合は,本発明の効果を著しく損な
わない限り,実施例記載のものに限定されないことの開示があるものと
認められる。
そうすると,本件明細書の上記記載から,「試験例B」で用いられた
「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)

との混合物(体積比30:70)」以外の組成及び混合割合の「炭素数
2~4のいずれか1種以上のアルキレン基を有する飽和環状カーボネー
ト」及び「炭素数3~7のいずれか1種以上の鎖状カーボネート」を含
む混合物であっても,本件訂正発明の非水系溶媒として用いることがで
きるものと理解できる。
(イ) 本件訂正発明4の特許請求の範囲(請求項4)は,本件訂正発明4
の非水系電解液中のLiPF6の含有量は「0.7mol/L以上1.
5mol/L以下」であることを規定している。
次に,本件明細書には,「LiPF6」の含有量について,「本発明
における非水系電解液は,特定量の硫酸イオン分を含有するフルオロ硫
酸リチウムを含有するが,さらにその他のリチウム塩を1種以上含有す
ることが好ましい。その他のリチウム塩としては,この用途に用いるこ
とが知られているものであれば,特に制限はなく,具体的には以下のも
のが挙げられる。」(【0024】),「例えば,LiPF6,LiB
F4,LiClO4,LiAlF4,LiSbF6,LiTaF6,LiW
F7等の無機リチウム塩」(【0025】),「…さらに,これらの中
でも,LiPF6,LiBF4が好ましく,LiPF6が最も好ましい。」
(【0028】)との記載があるが,「LiPF6」の含有量について
一般的に述べた記載はなく,「試験例B」で用いられた基本電解液中の
LiPF6の含有量(1mol/L)以外であっても,本件訂正発明4
に用いることができることについて述べた記載もない。
一方で,①甲37(特開2000-195546号公報)には,「本
発明で使用される非水溶媒としては,高誘電率溶媒と低粘度溶媒とから
なるものが好ましい。高誘電率溶媒としては,例えば,エチレンカーボ
ネート(EC),プロピレンカーボネート(PC),ブチレンカーボネ
ート(BC)などの環状カーボネート類が好適に挙げられる。これらの

高誘電率溶媒は,1種類で使用してもよく,また2種類以上組み合わせ
て使用してもよい。」(【0015】),「本発明で使用される電解質
としては,例えば,LiPF6,LiBF4…などが挙げられる。これら
の電解質は,1種類で使用してもよく,2種類以上組み合わせて使用し
てもよい。これら電解質は,前記の非水溶媒に通常0.1~3M,好ま
しくは0.5~1.5Mの濃度で溶解されて使用される。」(【001
7】),②甲13(特開2011-054503号公報)には,「非水
電解液としては,リチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液が用いられる。
リチウム塩としては,溶媒中で解離してLi +イオンを形成し,電池と
して使用される電圧範囲で分解などの副反応を起こしにくいものであれ
ば特に制限はない。例えば,LiClO4,LiPF6,LiBF4 ,L
iAsF6 ,LiSbF6 などの無機リチウム塩…などを用いることが
できる。」(【0084】),「このリチウム塩の電解液中の濃度とし
ては,0.5~1.5mol/lとすることが好ましく,0.9~1.
25mol/lとすることがより好ましい。」(【0086】)との記
載がある。上記記載によれば,本件出願の優先日当時,高誘電率溶媒と
低粘度溶媒とからなる非水系溶媒に電解質として用いる「LiPF6」
の濃度は,0.5~1.5mol/Lの範囲とすることが好ましいこと
は技術常識であったものと認められる。
そして,上記技術上常識に照らすと,本件訂正発明4の非水系電解液
中のLiPF6の含有量 「0.
( 7mol/L以上1.5mol/L以下」)
は,LiPF6を「炭素数2~4のいずれか1種以上のアルキレン基を有
する飽和環状カーボネート」及び「炭素数3~7のいずれか1種以上の
鎖状カーボネート」を含む非水系溶媒に電解質として用いる場合におい
て好ましい濃度範囲であることを理解できる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載

及び本件出願の優先日当時の技術常識から,当業者は,試験例Bに用い
られた基本電解液(「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカ
ーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLi
PF6を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整した「基本電
解液」)以外の組成及び混合割合の本件訂正発明4に含まれる基本電解
液を用いた場合であっても,試験例Bに示されたように,フルオロスル
ホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液
に対して,「初期放電容量」を改善できるものと理解し,本件訂正発明
4の課題を解決できると認識できるものと認められる。
(エ) これに対し被告は,本件出願の優先日当時の技術常識(①ECなど
の誘電率の大きな溶媒とEMCなどの低沸点の低粘度溶媒とLiPF6
などの支持電解質の組合せやそれらの使用量比の変動に伴う,電解液組
成の変動によって,非水系電解液二次電池の電池特性も変動するため,
電池特性評価試験の結果に基づいて,満足な電池特性が得られない電解
液組成を選別するという最適化を行わなければ,満足な電池特性の非水
系電解液二次電池をもたらす電解液組成が得られないこと(乙1等),
②非水系電解液の導電性について,電解質伝導度は電池の放電容量など
に密接に関係し,電池性能に大きな影響を及ぼすこと(甲15))に照
らすと,ECとEMCとの体積比やLiPF6の濃度が実施例の範囲内
のもの(試験例B)と異なる非水系電解液については,電池特性評価試
験の結果に基づく電解液組成の選別を行わないと,比較例3のような満
足な電池特性が得られない非水系電解液が含まれてしまうことになるか
ら,当業者は,試験例Bに用いられている基本電解液を他の一般的な電
解液に変更したとしても,本件訂正発明4の課題を解決できるとは認識
しない旨主張する。
しかしながら,まず,被告の主張は本件訂正発明4の課題が「初期放

電容量が改善され,容量維持率および/またはガス発生量が改善された
非水系電解液二次電池をもたらすことができる非水系電解液を提供する
こと」にあるというものであるが,前記(1)ウのとおり,本件訂正発明4
の課題は,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として
含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量等の電池特性を改善す
る非水系電解液を提供することにあると認定すべきであるから,その前
提を欠くものである。
また,本件出願の優先日当時,非水電解液は,PC,ECなどの誘電
率の大きな溶媒とジメチルカーボネートなどの低沸点の低粘度溶媒とL
iPF6などの支持電解質とから主に構成され,これら3種類の組合せ
やそれらの使用量比などにより最適化されることは,技術常識であった
こと(甲15(「電池ハンドブック」平成22年2月刊行)の373頁
等)に照らすと,当業者は,本件明細書の記載に基づいて最適化を行う
ことにより,試験例Bに用いられた基本電解液以外の組成及び混合割合
の本件訂正発明4に含まれる基本電解液を用いた場合であっても,本件
訂正発明4の課題を解決できると認識できるものと認めるのが相当であ
る。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
ウ フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値について
前記アのとおり,本件明細書には,本件訂正発明4に含まれる「フルオ
ロスルホン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.9
8×10-3(0.00298)mol/L未満」の電解液については,実
施例の記載がない。
しかるところ,本件明細書には,試験例Bの結果を示した表2において,
本件訂正発明4に含まれる実施例2ないし7(電解液中のフルオロスルホ
ン酸リチウムの含有量が「0.025~2.5質量%」(「2.98×1

0-3mol/L~2.98×10-1mol/L」)及び硫酸イオンの含有
量が「9.21×10-7mol/L~8.23×10-3mol/L」の範
囲内の電解液)が電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び硫酸イオン
をいずれも含有しない比較例2の電解液よりも,初期発電容量が向上して
いること,実施例2ないし7のうち,電解液中のフルオロスルホン酸リチ
ウムの含有量が最も少ない実施例7(フルオロスルホン酸リチウムの含有
量2.98×10-3 mol/L,硫酸イオンの含有量9.21×10-7
mol/L)の初期発電容量は148.7mAh/g,比較例2の初期発
電容量は145.8mAh/gであることが開示されている。この開示事
項から,フルオロスルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として添加
した非水系電解液は,これらをいずれも添加剤として含有しない非水系電
解液に対して,初期放電容量が改善できるものと理解できる。
そして,本件訂正発明4に含まれる「フルオロスルホン酸リチウムのモ
ル含有量の下限値0.0005mol/Lは,実施例7のフルオロスルホ
ン酸リチウムの含有量2.98×10-3mol/L(0.00298mo
l/L)の約6分の1程度であり,実施例7よりも顕著に少ないとまでは
いえないことに照らすと,当業者は,フルオロスルホン酸リチウムの含有
量が0.0005mol/Lの電解液を用いた場合であっても,フルオロ
スルホン酸リチウムと硫酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解
液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明4の課題を解決で
きると認識できるものと認められる。
これに反する被告の主張は理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先
日当時の技術常識に基づいて,当業者が,本件訂正発明4の発明特定事項の
全体にわたり,本件訂正発明4の課題を解決できると認識できると認められ

るから,本件訂正発明4は発明の詳細な説明に記載したものであることが認
められる。
したがって,本件訂正発明4は,サポート要件に適合するものと認められ
る。
そうすると,本件訂正発明4がサポート要件に適合せず,本件訂正発明4
を直接的又は間接的に引用して発明特定事項に含む本件訂正発明6ないし2
2も,本件訂正発明4がサポート要件に適合しない以上,サポート要件に適
合しないとした本件決定の判断は誤りである。
よって,原告主張の取消事由1は理由がある。
3 取消事由2(本件訂正発明1のサポート要件の判断の誤り)について
(1) 本件訂正発明1の課題の認定の誤りの有無について
前記2(1)の認定事実に鑑みると,本件明細書には,本件訂正発明4の課題
と同様に,本件訂正発明1の課題は,フルオロスルホン酸リチウムとカルボ
ン酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液に対して,初期放電容
量等の電池特性を改善する非水系電解液を提供することにあることが開示さ
れているものと認められる。
したがって,本件決定における本件訂正発明1の課題の認定に誤りがある。
(2) 本件訂正発明1のサポート要件の適合性について
原告は,本件決定は,①本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき出
願時(本件出願の優先日当時)の技術常識に照らして,当業者が,本件訂正
発明1の課題を解決できる範囲は,実施例に記載された「エチレンカーボネ
ート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比3
0:70)にLiPF 6を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整
した基本電解液にフルオロスルホン酸リチウムを2.98×10-3mol/
L以上0.596mol/L以下の範囲内で含有している非水系電解液であ
って,カルボン酸イオンの含有量が1.00×10-6mol/L以上4.0

0×10-3mol/L以下である,非水系電解液」に限定されることを前提
とするものであるが,「基本電解液」を「エチレンカーボネート(EC)と
エチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)とL
iPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整した基本電解液」
以外の一般的な基本電解液とし,フルオロスルホン酸リチウムの含有量を本
件訂正発明1の下限値の0.0005mol/L以上2.98×10-3mo
l/L未満の範囲内のものとし,カルボン酸イオンの含有量を本件訂正発明
1の下限値の1.0×10-7mol/L以上1.00×10-6mol/L未
満の範囲内のものとした場合であっても,本件訂正発明1の課題を解決でき
ると認識できるものといえるから,本件決定の上記判断は誤りである旨主張
するので,以下において判断する。
ア 本件明細書記載の実施例について
本件明細書には,実施例9ないし12に係る「試験例D」として,「エ
チレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との
混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF 6を1mol/Lの割合
となるように溶解して」調整した「基本電解液」に,「酢酸イオンを含む
フルオロスルホン酸リチウムを表4に記載の割合となるように混合」して
電解液を製造し(【0261】),表4記載の電解液を用いたシート状電
池を作製して,「初期放電容量評価」及び「高温保存膨れ評価」を行った
こと(【0262】)が記載されている。
表4には,実施例9ないし12は,電解液中のフルオロスルホン酸リチ
ウムの含有量が「0.025~2質量%」及び酢酸イオンの含有量が「4.
13×10-6mol/L~1.26×10-3mol/L」の範囲内の電解
液であり,比較例5は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び酢酸
イオンをいずれも含有しない電解液,比較例6は,電解液中のフルオロス
ルホン酸リチウムの含有量が「5質量%」(「0.596mol/L」)

及び酢酸イオンの含有量が「5.27×10-3mol/L」の電解液であ
ることが示されている。酢酸イオンはカルボン酸イオンに相当するから,
実施例9ないし12は,本件訂正発明1(フルオロスルホン酸のモル含有
量が「0.0005mol/L以上0.5mol/L以下」,カルボン酸
イオンのモル含有量が「1.0×10-7mol/L以上4.0×10 -3
mol/L以下」)に含まれる電解液である。
そして,本件明細書には,「表4より,製造された電解液の酢酸イオン
の量が1.00×10−6mol/L~4.00×10−3mol/Lの範囲
内であれば,初期放電容量が高く,かつ高温保存時のガス発生量が低下す
ることから,電池特性が向上することが分かる。」(【0264】)との
記載がある。
また,表4の記載から,実施例9ないし12は,比較例5よりも,初期
放電容量が向上し,比較例6よりも,初期放電容量及び容量維持率が向上
し,高温保存時のガス発生量が低下し,電池特性が向上していることを理
解できる。
一方で,本件明細書には,本件訂正発明1に含まれる「フルオロスルホ
ン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.98×10
-3
(0.00298)mol/L未満」,「カルボン酸イオンのモル含有
量が1.00×10-7mol/L以上1.00×10-6mol/L未満」
の電解液については,実施例の記載がない。
イ 実施例記載の基本電解液と他の電解液との互換性について
前記2(2)イで説示したのと同様に,本件明細書の発明の詳細な説明の記
載及び本件出願の優先日当時の技術常識から,当業者は,試験例Dに用い
られた基本電解液(「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカー
ボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整した「基本電解液」)

以外の組成及び混合割合の本件訂正発明1に含まれる基本電解液を用いた
場合であっても,試験例Dに示されたように,フルオロスルホン酸リチウ
ムとカルボン酸イオン(酢酸イオン)とを添加剤として含有しない非水系
電解液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明1の課題を解
決できると認識できるものと認められる。
ウ フルオロスルホン酸リチウムの含有量の下限値について
前記アのとおり,本件明細書には,本件訂正発明1に含まれる「フルオ
ロスルホン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.9
8×10-3mol/L(0.00298mol/L未満)」の電解液につ
いては,実施例の記載がない。
しかるところ,前記2(2)ウで説示したのと同様に,当業者は,フルオロ
スルホン酸リチウムの含有量が0.0005mol/Lの電解液を用いた
場合であっても,フルオロスルホン酸リチウムと酢酸イオンとを添加剤と
して含有しない非水系電解液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件
訂正発明1の課題を解決できると認識できるものと認められる。
エ カルボン酸イオンの含有量の下限値について
本件明細書には,試験例Dの結果を示した表4において,本件訂正発明
1に含まれる実施例9ないし12(電解液中の酢酸イオンの含有量が「4.
13×10-6mol/L~1.26×10-3mol/L」の範囲内の電解
液)が電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び酢酸イオンをいずれも
含有しない比較例5の電解液よりも,初期発電容量が向上していること,
実施例9ないし12のうち,電解液中の酢酸イオンの含有量が最も少ない
実施例12(フルオロスルホン酸リチウムの含有量2.98×10-3mo
l/L,酢酸イオンの含有量4.13×10-6mol/L)の初期発電容
量は148.7mAh/g,比較例5の初期発電容量は145.8mAh
/gであることが開示されている。この開示事項から,フルオロスルホン

酸リチウムと酢酸イオンとを添加剤として添加した非水系電解液は,これ
らをいずれも添加剤として含有しない非水系電解液に対して,初期放電容
量が改善できるものと理解できる。
そして,本件訂正発明1に含まれる「カルボン酸イオンのモル含有量の
下限値1.00×10-7mol/L」は,実施例12のカルボン酸イオン
のモル含有量4.13×10-6mol/Lよりも顕著に少ないとまではい
えないことに照らすと,当業者は,カルボン酸イオンの含有量が1.00
×10-7mol/Lの電解液を用いた場合であっても,フルオロスルホン
酸リチウムとカルボン酸イオンとを添加剤として含有しない非水系電解液
に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明1の課題を解決でき
ると認識できるものと認められる。
(3) 小括
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先
日当時の技術常識に基づいて,当業者が,本件訂正発明1の発明特定事項の
全体にわたり,本件訂正発明1の課題を解決できると認識できると認められ
るから,本件訂正発明1は,発明の詳細な説明に記載したものであることが
認められる。
したがって,本件訂正発明1はサポート要件に適合するものと認められる
から,これを否定した本件決定の判断は誤りである。
よって,原告主張の取消事由2は理由がある。
4 取消事由3(本件訂正発明2のサポート要件の判断の誤り)について
(1) 本件訂正発明2の課題の認定の誤りの有無について
前記2(1)の認定事実に鑑みると,本件明細書には,本件訂正発明2の課題
は,本件訂正発明4の課題と同様に,フルオロスルホン酸リチウムとフッ化
物イオンを除いたハロゲン化物イオンとを添加剤として含有しない非水系電
解液に対して,初期放電容量等の電池特性を改善する非水系電解液を提供す

ることが開示されているものと認められる。
したがって,本件決定における本件訂正発明2の課題の認定に誤りがある。
(2) 本件訂正発明2のサポート要件の適合性について
原告は,本件決定は,①本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づき出
願時(本件出願の優先日当時)の技術常識に照らして,当業者が,本件訂正
発明2の課題を解決できる範囲は,実施例に記載された「エチレンカーボネ
ート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比3
0:70)にLiPF 6を1mol/Lの割合となるように溶解して調整し
た基本電解液にフルオロスルホン酸リチウムを2.98×10-3mol/L
以上0.596mol/L以下の範囲内で含有している非水系電解液であっ
て,フッ化物イオンを除いたハロゲン化物イオンの含有量が1.00×10
-6
mol/L以上3.00×10-5mol/L以下である,非水系電解液」
に限定されることを前提とするものであるが,「基本電解液」を「エチレン
カーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体
積比30:70)とLiPF6を1mol/Lの割合となるように溶解して
調整した基本電解液」以外の一般的な基本電解液とし,フルオロスルホン酸
リチウムの含有量を本件訂正発明1の下限値の0.0005mol/L以上
2.98×10-3mol/L未満の範囲内のものとし,フッ化物イオンを除
いたハロゲン化物イオンの含有量を本件訂正発明2の下限値の1.0×10
-7
mol/L以上1.00×10-6mol/L未満の範囲内のものとした場
合であっても,本件訂正発明2の課題を解決できると認識できるものといえ
るから,本件決定の上記判断は誤りである旨主張するので,以下において判
断する。
ア 本件明細書記載の実施例について
本件明細書には,実施例14及び15に係る「試験例F」として,「エ
チレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との

混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF 6を1mol/Lの割合
となるように溶解して」調整した「基本電解液」に,「塩化物イオンを含
むフルオロスルホン酸リチウムを表6に記載の割合となるように混合」し
て電解液を製造し(【0269】),表6記載の電解液を用いたシート状
電池を作製して,「初期放電容量評価」及び「高温保存特性評価」を行っ
たこと(【0270】)が記載されている。
表6には,実施例14及び15は,電解液中のフルオロスルホン酸リチ
ウムの含有量が「1質量%」(「0.1192mol/L」)及び塩化物
イオンの含有量が「4.77×10-6mol/L~1.91×10-5mo
l/L」の範囲内の電解液であり,比較例8は,電解液中のフルオロスル
ホン酸リチウム及び塩化物イオンをいずれも含有しない電解液であり,比
較例9は,電解液中のフルオロスルホン酸リチウムの含有量が「5質量%」
(「0.596mol/L」)及び塩化物イオンの含有量が「3.03×
10-3mol/L」の電解液であることが示されている。実施例14及び
15は,本件訂正発明2(フルオロスルホン酸のモル含有量が「0.00
05mol/L以上0.5mol/L以下」,フッ化物を除いたハロゲン
化物イオンの含有量が「1.0×10-7mol/L以上3.0×10-5
mol/L以下」)に含まれる電解液である。
そして,本件明細書には,「表6より,製造された電解液の塩化物イオ
ンの量が1.00×10−6mol/L~1.00×10−3mol/Lの範
囲内であれば,初期放電容量や高温保存特性といった電池特性が向上する
ことが分かる。」(【0272】)との記載がある。
また,表6の記載から,実施例14及び15は,比較例8よりも,初期
放電容量が向上し,比較例9よりも,初期放電容量及び容量維持率が向上
し,電池特性が向上していることを理解できる。
一方で,本件明細書には,本件訂正発明2に含まれる「フルオロスルホ

ン酸リチウムのモル含有量が0.0005mol/L以上2.98×10
-3
mol/L(0.00298mol/L未満)」,「フッ化物イオンを
除いたハロゲン化物イオンのモル含有量が1.00×10-7mol/L以
上1.00×10-6mol/L未満」の電解液については,実施例の記載
がない。
イ 実施例記載の基本電解液と他の電解液との互換性について
前記2(2)イで説示したのと同様に,本件明細書の発明の詳細な説明の記
載及び本件出願の優先日当時の技術常識から,当業者は,試験例Fに用い
られた基本電解液(「エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカー
ボネート(EMC)との混合物(体積比30:70)に乾燥したLiPF
6 を1mol/Lの割合となるように溶解して」調整した「基本電解液」)
以外の組成及び混合割合の本件訂正発明2に含まれる基本電解液を用いた
場合であっても,試験例Fに示されたように,フルオロスルホン酸リチウ
ムとフッ化物イオンを除いたハロゲン化物イオンとを添加剤として含有し
ない非水系電解液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明2
の課題を解決できると認識できるものと認められる。
ウ フッ化物イオンを除いたハロゲン化物イオンの含有量の下限値について
本件明細書には,試験例Fの結果を示した表6において,本件訂正発明
2に含まれる実施例14及び15(電解液中の塩化物イオンの含有量が「4.
77×10-6mol/L~1.91×10-5mol/L」の範囲内の電解
液)が電解液中のフルオロスルホン酸リチウム及び塩化物イオンをいずれ
も含有しない比較例8の電解液よりも,初期発電容量が向上していること,
実施例14及び15のうち,電解液中の塩化物イオンの含有量が少ない実
施例15(フルオロスルホン酸リチウムの含有量0.1192mol/L,
塩化物イオンの含有量4.77×10-5mol/L)の初期発電容量は1
48.4mAh/g,比較例8の初期発電容量は145.8mAh/gで

あることが開示されている。この開示事項から,フルオロスルホン酸リチ
ウムと塩化物イオンとを添加剤として添加した非水系電解液は,これらを
いずれも添加剤として含有しない非水系電解液に対して,初期放電容量が
改善できるものと理解できる。
そして,本件訂正発明2に含まれる「フッ化物イオンを除いたハロゲン
化物イオンのモル含有量の下限値1.00×10-7mol/L」は,実施
例15の塩化物イオンのモル含有量4.77×10-6mol/Lよりも顕
著に少ないとまではいえないことに照らすと,当業者は,フッ化物イオン
を除いたハロゲン化物イオンの含有量が1.00×10-7mol/Lの電
解液を用いた場合であっても,フルオロスルホン酸リチウムとフッ化物イ
オンを除いたハロゲン化物イオンとを添加剤として含有しない非水系電解
液に対して,「初期放電容量」が改善し,本件訂正発明2の課題を解決で
きると認識できるものと認められる。
(3) 小括
以上によれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願の優先
日当時の技術常識に基づいて,当業者が,本件訂正発明2の発明特定事項の
全体にわたり,本件訂正発明2の課題を解決できると認識できるものと認め
られるから,本件訂正発明2は,発明の詳細な説明に記載したものであるこ
とが認められる。
したがって,本件訂正発明2はサポート要件に適合するものと認められる
から,これを否定した本件決定の判断は誤りである。
よって,原告主張の取消事由3は理由がある。
5 結論
以上のとおり,本件訂正発明1,2,4,6ないし22がサポート要件に適
合しないとした本件決定の判断は誤りであるから,原告主張の取消事由1ない
し3はいずれも理由があり,また,本件訂正は請求項4ないし22を一群の請

求項として訂正するものであり,本件訂正により削除訂正された請求項5はそ
の一群の請求項の一部であるから,本件決定のうち,本件特許の請求項1,2,
4ないし22に係る部分は取り消されるべきである。
また,本件訂正前の請求項3は,一群の請求項を構成するものではなく,本
件訂正により削除訂正がされ,その削除訂正の効果が発生しているから,本件
決定のうち,本件特許の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却
下した部分に係る取消しを求める訴えは,訴えの利益を欠く不適法なものとし
て却下されるべきである。
よって,訴訟費用については民事訴訟法61条,64条ただし書を適用して
被告に全部負担させることとし,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官 大 鷹 一 郎


裁判官 國 分 隆 文


裁判官 筈 井 卓 矢


(別紙1)


(別紙2)

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (6月1日~6月7日)

来週の知財セミナー (6月8日~6月14日)

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

福井特許事務所

〒166-0003 東京都杉並区高円寺南2-50-2 YSビル3F 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

七星特許事務所

東京都外神田4-14-2 東京タイムズタワー2703号室 特許・実用新案 鑑定 

浅村合同事務所

東京都品川区東品川2丁目2番24号 天王洲セントラルタワー 22階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング