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令和1(行ケ)10125審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和2年2月12日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官薩摩純一
原告株式会社トヨトミ山田朋彦
法令 商標権
商標法3条1項3号18回
商標法3条2項9回
商標法4条1項18号2回
商標法3条1項6号1回
キーワード 審決25回
特許権5回
商標権4回
許諾1回
実施1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,原告が出願した商標について拒絶査定を受けたことから,不服審判 請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされたので,原告がその取消し を求める事案である。

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判決文

令和2年2月12日判決言渡
令和元年(行ケ)第10125号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年12月17日
判 決
原 告 株 式 会 社 ト ヨ ト ミ
同訴訟代理人弁理士 西 浦 嗣 晴
山 田 朋 彦
髙 見 良 貴
出 山 匡
土 橋 編
小 崎 万 里 子
被 告 特許庁長官
同 指 定 代 理 人 榎 本 政 実
薩 摩 純 一
大 森 友 子
豊 田 純 一
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2018-7479号事件について令和元年8月20日にした審決
を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,原告が出願した商標について拒絶査定を受けたことから,不服審判
請求をしたところ,請求は成り立たない旨の審決がされたので,原告がその取消し
を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より認められる事実)
(1) 原告は,平成28年1月29日に,下記の位置商標について,商標登録出
願(商願2016-9831号)をした(甲23。以下,同出願を「本願」という。)
ところ,平成30年2月27日付けで拒絶査定を受けた(甲28)ので,同年6月
1日に,不服審判請求をした(甲29。不服2018-7479号)。
原告は,平成30年7月17日付けの手続補正書により,本願の指定商品につい
ては,第11類「対流形石油ストーブ」と,「商標の詳細な説明」については,「商
標登録を受けようとする商標(以下『商標』という。)は,商標を付する位置が特定
された位置商標であり,石油ストーブの燃焼部が燃焼する時に,透明な燃焼筒内部
の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状態で,反射によって現れる3つの略
輪状の炎の立体的形状からなる。図に示す黒色で示された3つの略輪状の部分が,
反射によって現れた炎の立体的形状を示しており,赤色で示された部分は石油スト
ーブの燃焼部が燃焼していることを示している。なお,青色及び赤色で示した部分
は,石油ストーブの形状等の一例を示したものであり,商標を構成する要素ではな
い。」とそれぞれ補正した(甲31。以下,同補正後の指定商品を「本件指定商品」
といい,同補正後の商標を「本願商標」という。)

(2) 特許庁は,前記(1)の不服審判請求について,令和元年8月20日に,「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,
この審決の謄本は,同月30日に原告に送達された。
3 本件審決の理由の要点
(1) 商標法3条1項3号該当性
ア 商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資することを
目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採用さ
れると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用いられ
る方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当すると
解するのが相当である。
また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として
採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,あ
る程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美感
上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有
していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,
商標法3条1項3号に該当するものというべきである。
さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等であったとして
も,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであるときには,
商標法4条1項18号の趣旨を勘案すると,同法3条1項3号に該当するというべ
きである。
イ 原告は,平成12年7月25日に存続期間が満了した特許登録第150
8319号の特許(以下「原告特許」という。)を有していたところ,原告特許に係
る特許公報の第1図には,暖房器の内側の燃焼炎の像(形状)が,点線の形で表さ
れた四つの像(形状)(以下「原告特許形状」という。)で示されており,原告特許
形状は,原告特許に係る発明の技術的範囲に含まれる。
そして,原告特許形状は,燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いたた
くさんの燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向
から届くようになり,暖房効果を高めるものであって,たくさんの燃焼炎や赤熱体
の像は非常に美しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効
果を生むものであるから,商品等の機能又は美感に資することを目的として採用さ
れたものである。
本願商標の「三つの略輪状の炎の立体的形状」(以下「本願形状」という。)は,
原告特許形状とその位置及び形状が近似するものであり,機能又は美感上の理由に
よる形状の選択と予測し得る範囲のものであるといえる。
しかも,原告特許形状は,原告特許に係る発明の技術的範囲に含まれ,特許法の
定める要件を備え,独占権が付与されたものであるから,原告特許形状と同一性を
損なわない本願形状に商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期間の更
新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等
の形状について,特許法による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占
権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反
する。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号に該当するというべきである。
(2) 商標法3条2項該当性
原告は,昭和55年に,本願形状と同一性の認められる形状がガラス部分に表示
されている石油ストーブ(以下「原告使用商品」という。)の製造,販売を開始し,
以降,途中に製造を中止していた期間はあるものの,少なくとも,平成28年まで,
通算約30年間,原告使用商品を製造,販売している。
しかし,原告使用商品を販売しているインターネットの通販サイトにおける本願
形状に対する需要者の評価は,「炎がとても綺麗」「炎が明るく,本当に綺麗なレ

インボーが出て」「炎の明かりで視覚的にも暖かさを感じる」及び「炎がガラス越

しに三段構えで映り,暖気を数倍に感じる」等,石油ストーブの機能である暖かく
することや石油ストーブの見た目の良さや美しさを評価として挙げており,単に,
本願形状を当該ストーブの機能や装飾的なものと捉えていること,原告使用商品の
カタログにおいては,実際にストーブを使用している,炎が付いた状態の画像が掲
載されており,特に本願形状を,特別目立つように表示していないことからすると,
本願形状が単独で出所識別標識としての機能を有するものと認識されるとはいえず,
本願形状のみによって,請求人の出所識別標識として理解されるものということは
できない。
そして,原告は,原告使用商品を,近年は年間約3万台生産,販売していると主
張するところ,同主張を前提としても,原告使用商品の対流形石油ストーブを含む
ストーブ全体における市場シェアは著しく低いものと推認できる。
また,原告使用商品の宣伝広告については,約30年の間に,テレビCMは平成
24年の10月から12月までの僅か3か月間放映されたのみで,報道番組には5
回程度取り上げられ,雑誌の広告や新聞記事等がそれぞれ5件程度であり,決して
多いものとはいえない。
さらに,原告使用商品は,動画,個人のブログ及び検索エンジン等で紹介され,
平成17年にグッドデザイン賞を受賞しているが,テレビCMや雑誌等の宣伝広告
を含め,これら宣伝広告等に使用されている原告使用商品は,いずれも原告使用商
品全体の画像,すなわち,石油ストーブであって,本願形状部分を特段目立つ様態
で表示している等,本願形状を自他商品の識別標識として使用している事実は認め
られない。
以上からすると,本願商標は,需要者において,商品の出所を表示するものとし
て,又は自他商品を識別するための標識として認識されるに至っているとはいい難
い。
したがって,本願商標は,商標法3条2項の商標に該当しない。
4 原告の主張する審決取消事由
(1) 商標法3条1項3号該当性の判断の誤り
ア 本願商標と同一又は類似する商標は,1980年以降の40年間,原告
のみによって使用されており,同業他社によって使用されていないから,本願商標
は,特定人による独占使用を認めるのを公益上適当としない「独占不適商標」に該
当するものではない。
また,本願商標は,透明な燃焼筒に三つの略輪状の炎の虚像を表すことに特徴が
あり,グッドデザイン賞も平成17年と平成31年に獲得していることから,自他
商品識別力を欠く「自他商品識別力欠如商標」に該当するものでもない。
イ 本願商標と「商品の形状」について
(ア) 商標法3条1項3号の「商品の形状」とは,商品そのものの具体的,物
理的な形状を意味し,位置商標における「商品の形状」とは,商品全体を構成する
各部品そのものの具体的,物理的な形状を意味するものであり,装飾目的で使用さ
れ,需要者が単に装飾や模様として認識する商標は,
「商品の形状」を表示する商標
とはいえない。このことは,特許庁の審査便覧や審査事例からも明らかである。
(イ) 本願商標は,
「反射によって現れる三つの略輪状の炎の立体的形状」で
あり,物理的な形状ではないし,石油ストーブの部品の形状でもないから,
「商品の
形状」には当たらない。本願商標は,一種の装飾的な形状,すなわち模様に近いも
のであるから,商標法3条1項6号の該当性は問題となるが,同項3号に該当する
ことはない。
(ウ) したがって,商標法3条1項3号を適用して本願を拒絶した本件審決
には「商品の形状」についての解釈の誤りがあり,違法であるから,その観点から
も取り消されるべきである。
ウ 本件審決について
本件審決は,特許を取得した形状と同一の形状についての商標登録は自由競争の
不当な制限に当たり公益に反すると判断している。
しかし,原告特許の特許権が消滅してから本願まで20年もの期間がある。特許
権の存続期間満了後20年近く経過してもなお,第三者が本願形状と同様の形状を
使用していない事情や,その後も原告が本願商標を継続して使用し,三つの略輪状
の炎の虚像が原告使用商品の特徴としてより広く需要者に認識されている事情など
から,特許権による独占があった事実とは無関係に,その登録性を判断すべきであ
る。
エ 被告の主張について
(ア) 被告は,本願形状は,石油ストーブの使用者に対し,熱の放出による
石油ストーブ本来の暖房効果に加え,視覚的にも暖房効果を高めることを目的とし
て採択されたものであると主張する。
しかし,本願形状は,現実の燃焼する炎の反射によって現れる形状であって,熱
の放射による石油ストーブ本来の暖房効果はない。
(イ) 被告は,他社メーカーの石油ストーブの使用例(乙1~5)によると,
石油ストーブの燃焼筒の中心領域である部分に,本願形状と類似する略輪状の炎の
立体的形状が出現する商品も取引されている事実も見受けられると主張する。
しかし,乙1の商品は,石油ストーブメーカーには無許諾で製作した石油ストー
ブの部品「ガラスチムニー(ガラス燃焼筒)」であり,石油ストーブではない。
乙2~4の石油ストーブは,ガラス燃焼筒の燃焼部周辺に炎の反射像がぼんやり
と表示されているにすぎず,燃焼部に実際に現れた略輪状の炎の虚像が燃焼筒内部
に上下方向に間隔をあけて複数現れるという特徴(以下「本件特徴」という。)を
有さず,略輪状の炎の立体的形状すらはっきり視認することはできない。また,乙
3,4の石油ストーブは,日本ではほぼ流通していない。
乙5の石油ストーブは,原告のOEM商品であり,そのことは,店舗の販売員を
はじめ,多くの需要者に認識されているから,
「他人」とは評価できない(甲8の1,
甲14の5,甲63の2)。
(2) 商標法3条2項該当性の判断の誤り
ア 石油暖房機器の種類
石油暖房機器は,燃焼に必要な空気の供給方法と燃焼排ガス排出方法の違いによ
って,開放式,半密閉式,密閉式に分類され,また,暖められた空気を自然に通気
させる自然通気形と内蔵された送風機などを使って強制的に通気させる強制通気形
に分けられる。そして,自然通気形開放式石油ストーブは,用途により「対流形石
油ストーブ」と「反射形(又は放射形)石油ストーブ」と呼ばれるタイプのものに
分けられる。前者は,部屋の中心(中央)に置かれて,熱を上部に放出させ,温か
い空気を自然に対流させて部屋全体を広い範囲を暖めるのに適しているのに対して,
後者は部屋の壁の近くに置かれて,熱を機器正面に放射させて,機器正面を中心に
暖めるのに適している。
上記の石油暖房機器の種類をまとめると,以下の表のとおりとなる。
また,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブとの相違の概要は以下のとおり
である。
対流形 反射形
全体から放熱(甲 4) 前面に放熱(甲 4)。
暖気
全体から放熱されるため,全体周
背面には放熱されず,前面に放熱
囲 50cm 以上離れて設置する。特
されるため,部屋の隅の方が適し
に部屋の真ん中が適している(以
ている(以下は原告商品 RC-W360
下は原告商品 KS-67H の取扱説明
の取扱説明書から。)
書から。)
設置場所
油タンクは本体と一体(以下は原 油タンクはカートリッジ式(以下
告商品 KS-67H の取扱説明書か は原告商品 RC-W360 の取扱説明
ら。) 書から。)
燃料タンク
可能だが,油タンクが,カートリ
油タンクが本体と一体のため反射
ッジ式のため慎重に運ばないとカ
持ち運び 形のような問題は無く容易に運べ
ートリッジが本体を損傷させた

り,油が漏れたりする。
イ 本願商標の使用実績について
(ア) 原告使用商品の歴史
a 原告使用商品は,平成6年~平成16年の約10年間の製造中止期
間があるが,約40年前から販売されているロングセラー商品で,一般的に「レイ
ンボー」と呼ばれている。
「対流形石油ストーブ」の多くは,円筒状の金属製燃焼筒が用いられることが多
いが,原告使用商品は,燃焼筒の内面を特殊コーティングで被覆した耐熱ガラスを
使用し,燃焼部に実際に現れた略輪状の炎の虚像が燃焼筒内部に上下方向に間隔を
あけて複数現れるという本件特徴を持った商品である。また,原告使用商品では,
現実の炎と反射された炎の虚像の輝きが約40ワットという白熱電球相当の明るさ
となっている。
b 原告使用商品をカタログやウェブサイトで紹介するときは,以下の
とおり,本件特徴を強調し,需要者に印象付けている。
(a) 原告のカタログには,本件特徴が目立つように表示されている(甲
1の1,甲1の19の2等多数)。
(b) 原告のカタログの背表紙に本件特徴のみを掲載している(甲1の
2)。
(c) 商品の説明として,本件特徴が現れることを強調している(甲1
の5の1,甲1の13等多数)。
(d) 原告が開設したウェブサイト(以下「原告ウェブサイト」という。)
において原告使用商品を紹介する際には,必ず本件特徴の説明がされている(甲3
3の1)。
(e) 原告ウェブサイトでは,敢えて背景を暗くして,本件特徴が目立
つようにしたり,当該部分を強調した画像を掲載している(甲33の2)。
(f) 後記(エ)aのテレビコマーシャルにおいても,薄暗い中で本件特
徴がクローズアップされるシーンがある(甲7の1の2)。
(イ) 出荷台数,出荷エリア
a 平成23年3月の東日本大震災においては,電気やガスなどのライ
フラインが絶たれた場合でも,暖を取ることができる石油ストーブの有用性が再認
識されたことの関係もあり,原告使用商品は,同年以降,年間平均約3万台弱が生
産され,全国に出荷されている(甲37)。
b 石油ストーブの出荷台数は以下のとおりである(甲6,38)。な
お,石油暖房機器は,消費生活用製品安全法の特定製品の対象となっており,石油
燃焼機器の製造・輸入事業者は国が定めた安全基準を満たしPSCマークを表示し
た上で販売しなければならないという規制の関係で(甲39),外国メーカーによ
り製造され,輸入された石油ストーブはほぼない。
業界全体の出荷台数 単位:千台
年度 反射形 対流形 合 計
2011 年度 2,326 139 2,465
2012 年度 1,829 169 1,998
2013 年度 1,310 141 1,451
2014 年度 1,160 127 1,287
2015 年度 949 99 1,048
2016 年度 894 103 997
2017 年度 863 115 978
2018 年度 914 135 1,049
計 10,245 1,028 11,273
c 対流形石油ストーブにおける原告使用商品のシェアは以下のとおり
であり,約22.7%を占めていることになる。
シェア
年度 業界全体 レインボー シェア
2011 年度 139,247 27,476 19.7%
2012 年度 168,827 41,710 24.7%
2013 年度 141,016 32,833 23.3%
2014 年度 127,090 30,737 24.2%
2015 年度 99,839 24,584 24.6%
2016 年度 102,317 21,656 21.2%
2017 年度 115,526 25,612 22.2%
2018 年度 135,729 29,091 21.4%
計 1,029,591 233,699 22.7%
d 原告使用商品は,全国に出荷されている(甲5の1,甲68)。
(ウ) 展示会での出品
原告は,様々な展示会において,原告使用商品を出品している(甲43の1~3)。
その際,原告は,石油ストーブを燃焼させることができなかったため,レインボー
の透明な燃焼筒の燃焼部脇に電球を入れて,複数の電球の虚像が現れることを示し
ている。
(エ) マスコミへの露出
a テレビコマーシャル
原告は,平成24年10月~12月に,全国でテレビコマーシャルを行っている。
放送時間帯は「はなまるマーケット」(TBS系) 「ビートたけしのTVタックル」

(テレビ朝日系)「報道特集」
, (TBS系)と,いずれも視聴者が多い番組における
コマーシャルでありその広告効果は絶大なものであったといえる(甲7の1の1)。
b テレビ番組での紹介
原告や原告の商品は,たびたびテレビ番組において紹介されているが,その際に
は,必ず原告使用商品の映像が流れ,本件特徴が強調されて紹介されている(甲7
の2~6〔枝番をすべて含む。以下,書証については,特に明示しない限り枝番を
すべて含む。〕)。
c 雑誌,新聞記事
雑誌や新聞等で原告使用商品が多数紹介されている(甲8の1~5)ほか,原告
代表者のインタビュー記事や家電量販店のフリーペーパー,雑誌などの広告にも,
多数,原告及び使用時の原告使用商品の紹介や広告がされている(甲8の6~14,
甲44)。
d インターネットでの広告
1日に2億の閲覧があるインターネットのポータルサイト「Yahoo!」のト
ップページ(以下「ヤフートップページ」という。)に使用時の原告使用商品が掲
載された(甲9の1・2)。
(オ) 売上げ等のランキングや評価
a 平成29年11月のインターネットの小売サイト「Rakute
n(楽天市場)」(以下「楽天サイト」という。)のストーブ・ヒーターのランキ
ングでは,原告使用商品は,注目ランキング4位,12位,売上げランキング17
位にランクされている(甲10の1)。また,楽天サイトの石油ストーブのランキ
ングでは,売上げランキングは3位,5位,12位,13位,注目ランキングは1
位,3位,7位,11位,13位,満足度ランキングは6位,8位,10位となっ
ている(甲10の2)。
また,楽天サイトの商品レビューでは,
「コンパクトでスッキリとしていて,どこ
か可愛らしいデザイン。火を着けると炎が明るく,本当に綺麗なレインボーが出て,
ちょっと感動。 甲10の3の1) 炎が綺麗でいやされます。

( ,
「 購入して満足です。」
(甲10の3の2)「早速使用しましたが優しい七色の炎がとても良い感じです。
, 」
(甲10の3の3)との記事が投稿されている。
b インターネットの小売サイト「Amazon」
(以下「Amazon
サイト」という。)の平成29年11月のランキングページでは,原告使用商品は,
石油ストーブの売れ筋ランキングの1位,3位,11位,16位,18位に,人気
ギフトランキングの2位,3位,6位,13位に,ほしい物ランキングの1位,3
位,5位,8位,15位にランクされ,また,多数の高評価のカスタマーレビュー
が付いている(甲11の1~3)。
また,Amazonサイトの商品レビューでは,
「更にいいのは,炎がガラス越し
に三段構えで映り,暖気を数倍に感じることができる。なかなかの製品。(甲11

の2の1) そして炎が本当に綺麗!炎を見てると癒されます。 甲11の2の2)

「 (
」 ,
「宣伝どおりの商品で炎も非常に綺麗で,アウトドアではランタン並みの明るさを
発揮してくれますので重宝します。 甲11の2の3)

( との記事が投稿されている。
c インターネット上の商品評価サイト「価格.com」
(以下「価格サ
イト」という。)の平成29年11月の「ヒーター・ストーブ」の満足度ランキング
1位に原告使用商品がランクされており,
「ストーブ」のランキングでは,原告使用
商品は,250製品中,1位,3位にランクされており,他に40製品以内に2種
類の原告使用商品が紹介されている(甲12の1・2)。
また,価格サイトにおいては,原告使用商品についての「レビュー評価」の数や
「クチコミ件数」も多く,
「レトロっぽくコロンとしたフォルム・コンパクトさ・着
火中のレインボーな輝きなどどこをとっても素敵です。(甲12の3の1) 「ラン
」 ,
タンのようなデザイン。七色?の炎は美しく,見とれてしまいます。(甲12の3

の1)「特殊コーティングで,火口が,三つにも,四つにも見えてレインボーがか

かり,見ていて和むのもいいです。(甲12の3の2)というものがある。

d 令和元年10月当時においても,上記a~cと同様の状況であった
(甲46)。
e 原告代理人によって令和元年10月に実施された調査(甲47)に
よっても,他の金属製燃焼筒の対流形石油ストーブと比べて圧倒的に原告使用商品
の三つ(又は複数)の略輪状の炎の虚像は需要者に強く印象付けられていることが
分かる。
(カ) 第三者の動画サイトにおける映像やブログ記事等
a インターネット上の動画サイト「YouTube」(以下「You
Tubeサイト」という。)において,平成29年11月に,「トヨトミ レイン
ボー」と検索した結果,原告使用商品が使用されている状態の映像が多数アップロ
ードされており,視聴回数が1万回を超える動画のうち,実際に使用状態がわかる
ものを合計すると,延べ20万回以上,再生がされている(甲13)。令和元年1
0月当時においても同様である(甲48の1)。
また,YouTubeサイトの動画に対して数は多くないもののコメントが付さ
れており,本件特徴に対して評価するものもある(甲48の2)。
b インターネット上の個人のブログ等においても,原告使用商品が使
用された状態の写真付きで紹介されている(甲14)。これらの記事においても,原
告使用商品の評価は高く,本件特徴の美しさについても言及されている。また,こ
れらのブログの中には,上記aのYouTubeサイト上の動画とリンクしている
ものもあり,ブログの読者がより明確に本願商標の使用状態を目にすることができ
るようになっている(甲14の9)。
なお,これらの記事は,検索エンジンのGoogleを使って「トヨトミ レイ
ンボー」のように探したものではなく,「キャンプ 石油ストーブ」 「アウトドア

石油ストーブ」「防災
, 石油ストーブ」といった需要者が実際に使い得る検索キー
ワードを用いて検索している(甲15の1~3)から,原告使用商品の認識を有し
ていない需要者においても,検索エンジンの検出された一覧から,これらのブログ
記事等を目にする可能性がある。
(キ) その他
a グッドデザイン賞
原告使用商品は,平成17年及び令和元年に,グッドデザイン賞を獲得している
(甲16,49)。受賞の理由としては,現実の炎と炎の虚像の明るさが挙げられ
ており,平成17年から14年たった今でも原告使用商品のデザインが公的にも評
価されている。
b 石油連盟
原告が加盟する業界団体である石油連盟の団体広告において,本件特徴が認識で
きる使用時の原告使用商品の写真が使用されている(甲17の1)ところ,同広告
は,日本経済新聞やビジネス誌「日経ビジネス」に掲載された(甲17の2,甲50)。
上記の石油連盟の広告は,東京メトロの霞ヶ関駅のホーム,東京メトロの大手町
駅の地下道,東京メトロの永田町駅のホームでも広告されていた(甲17の3,甲
51)。そして,これらの広告が掲示されていた正確な期間は不明であるが,少なく
とも年単位の長期間掲示されていたことは明白である。霞ヶ関,大手町,永田町と
いった非常に多くの人が通行する場所において本願商標が広告されていた事実は,
多くの人が本願商標を目にしたことを裏付けるものである。
なお,本願商標が原告の商標であることを示す記載は広告からは分からないもの
の,本願商標と同一又は類似するような三つの略輪状の炎の虚像が現れる対流形石
油ストーブは原告以外製造していないことから,広告の石油ストーブを目にした需
要者が,そのストーブの存在を確認すれば,原告の商品であることは直ちに認識で
きるものである。また,原告使用商品が石油連盟という大きな団体の広告に選ばれ
た事実は,石油連盟関係者(取引者)に広く原告使用商品が認識されているととも
に,本件特徴の美しさが需要者の目を惹くという認識があったことを裏付けるもの
である。
(ク) 他社の使用
本願商標と同様の形態を示す石油ストーブは,市場において,事実上,原告が独
占的に製造,販売してきた。原告特許の特許権が平成12年に存続期間満了により
消滅した後も,同業他社は,上記石油ストーブを販売していない。
ウ 小括
以上のとおり,原告は,本願商標又は本件特徴を,永年にわたって,独占的に使
用してきた結果,対流形石油ストーブの需要者には,本願商標又は本件特徴は何人
の業務に係る商品であるかを認識できる状態となっているから,本願商標は,商標
法3条2項の要件を具備しているといえる。
エ 本件審決について
本件審決は,本願商標は,商標法3条2項の要件を具備していないことの理由と
して,①原告が,本願形状を,特別目立つように表示していないこと,②生産台数
等の数字が不明確である上,石油ストーブ全体のシェアで評価すれば,原告商品の
市場シェアは著しく低いこと,③宣伝広告等の量が少ないこと等により周知・著名
性が不足していること,④需要者は本願形状を石油ストーブの機能や装飾的なもの
と捉え,本願形状が単独で原告の出所識別標識として理解されていないことを挙げ
ているが,以下のとおり,本件審決の上記判断は,理由がない。
(ア) 上記①について
前記イ(ア)bのとおり,原告は,原告使用商品をカタログやウェブサイトで紹介す
るときは,本件特徴を強調し,需要者に印象付けているから,本件審決の上記判断
には誤りがある。
(イ) 上記②について
a 前記アのとおり,反射形石油ストーブは前面に放熱し,前面を暖め
るのに対し,対流形石油ストーブは,全体から放熱し,部屋全体を暖めるものであ
るから,対流形石油ストーブは,設置場所において,部屋の中心に置くことが適し
ているとされているところ,部屋の中心に石油ストーブが置けるということは,あ
る程度広いスペースが求められることから,都市部のような狭い住宅では適さず,
地方の方に多く流通する傾向がある。
また,対流形石油ストーブの特徴としては本体に直接給油する仕組みになってい
る一方で,反射形石油ストーブはカートリッジタンクと呼ばれる取り出せるタンク
に給油する仕組みになっているから,自動車などに乗せて移動させる際には対流形
石油ストーブの方が適している。
そして,石油ファンヒーターが開発され,またその他の電気暖房器具等の設備が
普及した平成19年以降は,自然通気形開放式石油ストーブに占める対流形石油ス
トーブの割合は5%強から10%程度に下がったが,対流形石油ストーブが電気を
使えない状態で,自然対流式で広範囲に周囲を暖め,かつ,移動に適しているとい
う特徴から,その出荷台数は,近年は10万台前後で安定して推移している。
キャンプや災害時においては,広範囲で暖を取るためには対流形石油ストーブの
方が適しており,また,対流形石油ストーブの方が反射形石油ストーブに比べて,
そのデザイン性も自由度が高いため,一般家庭の狭い一室とは異なり開放的なスペ
ースを有するカフェなど店舗に置かれることも多く,そういった需要も一定数ある。
なお,原告は,自衛隊に石油ストーブを納品している唯一の業者である(甲66の
1)。
このように,対流形石油ストーブは,その用途・機能,さらにはデザイン性から,
「石油ストーブなら反射形でも対流形でもよい」ではなくて「対流形石油ストーブ
が必要」という需要者が確実に存在していることは明らかである。
したがって,需要者層を特定するに当たり,
「対流形石油ストーブ」は「反射形石
油ストーブ」とは分けて考えるべきである。
b 前記イ(イ)のとおり,対流形石油ストーブに占める原告使用商品の出
荷台数の割合は,約22.7%である。
c したがって,需要者を石油ストーブ全体の需要者であることを前提
として,原告使用商品の市場シェアが著しく低いとした本件審決の判断は誤りであ
る。
(ウ) 上記③について
石油ストーブのような季節商品が他の食料品や化粧品と同等に頻繁に宣伝広告さ
れることはない。
近年はインターネットの情報が需要者の購買決定を左右する重要な要因となって
いるが,前記イ(オ)のとおり,インターネット上の各種サイトにおける原告使用商品
の評価は著しく高い。そして,石油ストーブの需要者は,上記各サイトにおいて上
位にランクインしている原告使用商品の情報を必ず目にする以上,原告使用商品の
本件特徴は,需要者に印象付けられている。
したがって,この点についての本件審決の判断には誤りがある。
(エ) 上記④について
前記イ(ア)a,(ク)のとおり,原告は,約40年(製造販売期間であれば通算約3
0年)の間,継続して,独占的に,三つの略輪状の炎の虚像が現れるという極めて
特徴的な対流形石油ストーブを販売し続けているところ,前記イ(ア)b,(ウ)~(キ)のと
おり,原告使用商品が宣伝,紹介されており,その際には,本件特徴が強調されて
紹介されている。
したがって,対流形石油ストーブの需要者は,本願商標又は本件特徴から,原告
使用商品が何人の業務に係る商品であるかを認識できるというべきであり,本件審
決の上記判断は誤りである。
オ 被告の主張について
(ア) 被告は,各種のインターネットの通販サイトのランキングは,その日1
日のランキングが記載され,石油ストーブの実際の年間のランキングにつながる訳
ではないと主張する。
しかし,インターネットの通販サイトのランキングは,ある程度の期間を集約し
たものである。例えば,楽天サイトでは,週間で統計を取っている(甲76)。
また,甲10~12は,平成29年11月の結果であり,甲46は令和元年10
月の結果であり,約2年間の開きがあるが,それにもかかわらず,原告使用商品は,
常に上位にランクされているのであるから,原告使用商品は,2年間恒常的に上位
にランクされているといえる。
(イ) 被告は,原告代理人による調査(甲47)の対象となった四つの石油ス
トーブの選定基準が明確ではないと主張する。
しかし,上記調査の対象は,改造した商品,輸入された商品で,現在は不適法と
なり得る商品,ほとんど市場に流通していない商品を除き,現在,合法に市場に流
通している対流形石油ストーブのうち,コメント数が最も多いものを選んだもので
ある。
5 被告の主張
(1) 取消事由1について
ア 立体的形状からなる商標の商標法3条1項3号該当性の判断基準
商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果的に発揮させ
たり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選択されるものであって,
商品の出所を表示し,自他商品を識別する標識として用いられるものは少ない。商
品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場合,それ自体
において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するもの,すなわち,商標とし
ての機能を有するものとして採用するものではない。
また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商品等の形状は,文字,図
形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能や美感を際立た
せるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択されたものとは認
識しない場合が多い。
そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感に資するこ
とを目的として採用されるものであり,客観的に見て,そのような目的のために採
用されると認められる形状は,特段の事情のない限り,商品等の形状を普通に用い
られる方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該当す
ると解するべきである。
また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資することを目的として
採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく制約の下で,通常は,あ
る程度の選択の幅があるといえる。しかし,同種の商品等について,機能又は美感
上の理由による形状の選択と予測し得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有
していたとしても,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,
商標法3条1項3号に該当するものというべきである。なぜなら,商品等の機能又
は美感に資することを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を
使用することを欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当
該形状を特定の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないからである。
さらに,商品等に,需要者において予測し得ないような斬新な形状が用いられた
場合であっても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択されたものであ
るときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案し,同法3条1項3号に該当する
というべきである。なぜなら,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有
する場合に,商品等の機能の観点からは発明又は考案として,商品等の美感の観点
からは意匠として,それぞれ特許法,実用新案法又は意匠法の定める要件を備えれ
ば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得るが,これらの法の保護の対
象になり得る形状について,商標権によって保護を与えることは,商標権は存続期
間の更新を繰り返すことにより半永久的に保有することができる点を踏まえると,
特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の者に独占権を認
める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するか
らである。
イ 本願商標の商標法3条1項3号該当性について
(ア) 本願形状は,
「商標の詳細な説明」において,
「図に示す黒色で示された
3つの略輪状の部分が,反射によって現れた炎の立体的形状を示しており」と記載
されているものの,石油ストーブの燃焼部が燃焼していない状態では,当該石油ス
トーブの透明な燃焼筒内部の中心領域に,出現しないものであり,石油ストーブの
燃焼部が燃焼している状態,すなわち,当該石油ストーブから熱が放出される状態
で,当該石油ストーブの透明な燃焼筒内部の中心領域に出現するのであるから,当
該黒色で表示された三つの略輪状の部分は,暖色であるオレンジに着色された3段
の炎の立体的形状,あるいは,青及びオレンジで着色された3段の炎の立体的形状
であるといえる。
本願形状は,当該石油ストーブの透明な燃焼筒内部の中心領域に出現する条件は,
当該石油ストーブが燃焼中であることからすると,本願形状は,当該石油ストーブ
が使用(燃焼)中であることを示すものでもあるから,当該石油ストーブの使用者
に対し,熱の放出による石油ストーブ本来の暖房効果に加え,視覚的にも暖房効果
を高めることを目的として採択されたものであるといえる。
原告の提出による同業他社の商品カタログ(甲2の1~6,甲2の8~10,甲
14,甲63の3)を参照すると,当該石油ストーブの使用者に対し,熱の放出に
よる石油ストーブ本来の暖房効果に加え,視覚的にも暖房効果を高めることを目的
として採択されたものと容易に想定し得るような,当該石油ストーブの燃焼筒の部
分を,暖色であるオレンジに着色されているもの,あるいは,当該石油ストーブの
燃焼筒の部分から青色の炎が見えるように表示している商品が多数存在しているこ
とが確認できる。
また,他社メーカーの石油ストーブの使用例(乙1~5)によると,石油ストー
ブの燃焼筒の中心領域である部分に,本願形状と類似する略輪状の炎の立体的形状
が出現する商品も取引されている事実も見受けられる。
さらに,暖房機器の業界においては,熱が放出されることによる暖房効果に加え,
商品の前方に炎の立体的形状を映し出す視覚上の暖房効果を高めるようなセラミッ
クヒーター,ファンヒーター及び電気暖炉が実際に販売されている事情があること
も確認できる(乙6~8)。
以上からすると,本願商標は,需要者及び取引者に,熱の放出による石油ストー
ブ本来の暖房効果に加え,視覚的にも暖房効果を高めることを目的として採択され
商品の立体的形状の一類型を表示したものと認識させるものであると判断するのが
相当である。
また,本願形状は,当該石油ストーブが使用(燃焼)中であることを示す一面も
有している。
そうすると,本願形状は,需要者及び取引者において,商品の機能又は美感上の
理由により採用されたものと予測し得る範囲のものであって,同種の商品に関与す
る者が当該形状を使用することを欲するものと判断するのが相当であり,本願商標
をその指定商品に使用しても,これに接する需要者及び取引者は,単に商品の機能
又は美感を発揮するために採用されたものと理解するにとどまり,単に商品の形状
を普通に用いられる方法で表示するものであるから,本願商標は,商標法3条1項
3号に該当するものである。
(イ) また,本願形状は,原告の有する原告特許に係る発明の技術的範囲
に含まれる原告特許形状とその位置及び形状が近似するから,本願商標の登録を認
めることは,特許権を,その存続期間を超えて,半永久的に特定の者に独占させる
結果を生じさせることになるため,自由競争の不当な制限に当たり公益に反するも
のであるといえる。
(ウ) したがって,本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした本件
審決の判断に誤りはない。
ウ 原告の主張について
原告は,本願商標は,
「反射によって現れる三つの略輪状の炎の立体的形状」であ
り,物理的な形状でないし,石油ストーブの部品の形状でもないから,商品の形状」

には当たらないと主張する。
しかし,本願商標は,「商標の詳細な説明」の記載から,「石油ストーブの燃焼部
が燃焼する時に,透明な燃焼筒内部の中心領域に上下方向に間隔をあけて浮いた状
態で,反射によって現れる三つの略輪状の炎の立体的形状」からなる位置商標であ
って,「対流形石油ストーブ」の全体形状中の一部の立体的形状,すなわち,「対流
形石油ストーブ」の透明な燃焼筒内部の中心領域に出現する「三つの略輪状の炎の
立体的形状」からなるものといえる。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(2) 取消事由2について
ア 以下のとおり,本願商標が付された原告使用商品が,その使用の結果,
本願商標が,原告の業務に係る商品を表示するものとして,需要者の間に広く認識
されているに至ったものということはできないから,商標法3条2項の要件を具備
するものといえない。
(ア) 本願商標は,対流形石油ストーブの需要者,取引者に,石油ストーブ
本来の暖房効果に加え,視覚的な暖房効果を高めることを目的として採択された「対
流形石油ストーブ」の一部の立体的形状を表示したものと認識されるものであるか
ら,商品の出所識別標識としては認識されない。
(イ) 原告使用商品の出荷台数及び出荷台数ベースでの市場占有率(シェア)
一般に石油ストーブと呼ばれるものは「自然通気形開放式石油ストーブ」であり,
これは,「反射形石油ストーブ」と「対流形石油ストーブ」を合わせたものである。
両者は同じ目的や用途に使用され,形式の相違によって利用者が異なる事情は見受
けられないから,石油ストーブの出荷数ベースの市場占有率を判断する場合,反射
形石油ストーブと対流形石油ストーブの出荷総数における原告使用商品の出荷数の
割合で判断するのが相当である。
そこで,
「反射形石油ストーブ」及び「対流形石油ストーブ」の総出荷数に対する
原告使用商品の出荷数ベースでの市場占有率(シェア)をみるに,平成24年度は
約2%,平成25年度は約2%,平成26年度は約2%,平成27年度は約2%,
平成28年度は約2%であることからすると,
「石油ストーブ」の総出荷数に対する
原告使用商品の出荷数ベースでの市場占有率(シェア)は決して高いとはいえない。
しかも,原告が提出した雑誌の記載(甲59~61)によると,石油ストーブの
中でも対流形石油ストーブの割合は少ないと推認できる。
(ウ) 原告使用商品の宣伝広告や展示会の方法,回数及び規模等
a 原告使用商品の宣伝広告については,約30年の間に,テレビCM
は平成24年10月~12月の僅か3か月間放映されたのみであるため,テレビC
Mによる原告使用商品の広告効果は大きいとはいえない(甲7の1の1・2)。
b 報道番組には5回程度取り上げられているが,その回数及び時期が
限定されている(甲7の2~6)。
c 新聞記事は15件(甲8の1~7,甲44)で,本願商標が明瞭に
表示されているのは6件にすぎない。
d 雑誌の広告は7件(甲8の8~14)で,本願商標が明瞭に表示さ
れているのは3件にすぎない。
e 原告の主張する展示会について記事(甲43の1)は1件のみで,
その記事には,原告のことや本願商標について何も記載されていない。原告は,こ
の展示会に出品した写真(甲43の2・3)を証拠として提出しているが,これら
の証拠はいつ,どこで,誰が撮影したものか不明である。
f 原告使用商品は,昭和57年~昭和60年,昭和62年~平成3年,
平成5年及び平成17年~平成28年に作成されたカタログに掲載されているが
(甲1の1~9・11~23),カタログの頒布方法,頒布地域及び頒布数量は,不
明である。
g 各種のインターネットの通販サイトにおいて,原告使用商品のラン
キングが記載されているのみである。楽天サイト,Amazonサイト,価格サイ
トのランキングは,その日1日のランキングが記載され,石油ストーブの実際の年
間のランキングにつながる訳ではない。また,上記各サイトに記載されているスト
ーブには,本願商標が使用されていることが確認できない。
(エ) 原告代理人による調査
原告代理人によって行われた調査(甲47)は,
「Amazon.com」を調査
対象サイトとし,
「対流形石油ストーブについての需要者レビューの分析調査」であ
るが,調査対象とした対流形石油ストーブは4商品であり,その4商品の選定基準
は明確ではない。
また,調査結果として記載されている需要者のレビューは,原告使用商品の外見
上の炎の輝きや炎の光に対して評価しているにすぎず,本願商標が,原告使用商品
の出所標識として,需要者の間に広く認識されていることを証明するものとはいえ
ない。
(オ) 第三者の動画サイト,個人のブログ,検索エンジン等
第三者の動画サイト,個人ブログ,検索エンジン等においては,必ずしも,原告
使用商品が燃焼しているところが写っているものではなく,また,他社のストーブ
が写っている場合もある。さらに,検索エンジンの検索結果には,他社の商品も混
在しており,すべてが,原告の商品を検索しているものではない。
(カ) グッドデザイン賞
平成17年のグッドデザイン賞の受賞対象名は,石油ストーブであり,本願商標
である三つの略輪状の炎の立体的形状が受賞の対象となった訳ではない。また,令
和元年のグッドデザイン賞の受賞は本件審決後である。
(キ) 石油連盟の広告
原告が主張する石油連盟の団体広告からは,同広告に使用されている写真の石油
ストーブが原告の商品であることは確認できず,どのメーカーの石油ストーブを使
用しているのか不明である(甲17,50)。
(ク) 他社の使用
原告使用商品の石油ストーブのカタログにおいては,実際にストーブを使用して
いるように炎が燃焼した状態の画像を掲載しており,他社製品のストーブのカタロ
グにおいても,同様に使用している状態で画像を掲載している(甲2)。
また,原告は,株式会社スノーピークにレインボーストーブのOEM生産をして
いる(甲63,乙5)。
(ケ) 小括
以上からすると,原告は,本願商標と同一性を損なわない炎の立体的形状を対流
形石油ストーブの透明な燃焼筒部分に表した原告使用商品を通算約30年間,製造,
販売していたことは確認できるとしても,①「反射形石油ストーブ」及び「対流形
石油ストーブ」の総出荷数に対する原告使用商品の出荷数ベースでの市場占有率は,
平成24年度から平成28年度が約2%で推移しており,市場占有率が高いとはい
えないこと,②広告宣伝は,各媒体により広く行われているものの,テレビCMや
報道番組での原告使用商品の宣伝広告は提供期間や回数が限定されていること,③
原告使用商品に関する記事が掲載された新聞や雑誌の販売部数や原告使用商品が掲
載されたカタログの頒布期間,範囲,数量等は不明であること,④新聞,雑誌,イ
ンターネットの通販サイト等に掲載された原告使用商品に本願商標が使用されてい
ることが確認できないこと,⑤原告の代理人による「対流形石油ストーブについて
の需要者レビューの分析調査」や「グッドデザイン賞」の受賞は,原告使用商品の
外見上の美しさを評価するものであり,本願商標の周知性を証明するものとはいえ
ないこと等を総合的に判断すると,本願商標が,原告の業務に係る商品の形状であ
ると需要者に広く認識されているとはいえない。
したがって,本願商標が,商標法3条2項の要件を具備しないとした本件審決の
認定,判断に誤りはない。
イ 原告の主張について
原告は,原告使用商品をカタログやウェブサイトで紹介するときは,本件特徴を
強調し,需要者に印象付けていると主張する。
しかし,本願商標は,当該石油ストーブを使用(燃焼)しない状態では,視覚的
に確認できないものである。
また,原告提出の商品カタログを参照すると,原告使用商品の画像が掲載されて
いることは確認できるが,当該石油ストーブの本体の画像とともに,原告の名称を
表示する「株式会社トヨトミ」の文字,原告の略称を表示する「TOYOTOMI」
の文字,原告が製造したストーブであることを理解させる「TOYOSTOVE」
及び「トヨストーブ」の文字,当該石油ストーブの商品名を表示する「RAinB
OW」「レインボー」や「虹」等の文字も掲載されている。

さらに,新聞記事や雑誌記事等の原告使用商品の紹介記事等には,原告使用商品
に本願形状が使用されているのかが確認できないものも多数存在する。
そうすると,原告は,原告使用商品に,本願形状を,特別目立つように表示して
いるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
第3 当裁判所の判断
1 取消事由1について
(1) 商標法3条1項3号は,その商品の産地,販売地,品質,原材料,効能,
用途,形状(包装の形状を含む。・・・),生産若しくは使用の方法若しくは時期そ
の他の特徴,数量若しくは価格又はその役務の提供の場所,質,提供の用に供する
物,効能,用途,態様,提供の方法若しくは時期その他の特徴,数量若しくは価格
を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は,商標登録を受けるこ
とができない旨を規定しているが,これは,同号掲記の標章は,商品の産地,販売
地その他の特性を表示,記述する標章であって,取引に際し必要な表示として誰も
がその使用を欲するものであるから,特定人によるその独占使用を認めるのを公益
上適当としないものであるとともに,一般的に使用される標章であって,多くの場
合,自他商品識別力を欠き,商標としての機能を果たし得ないことから,登録を許
さないとしたものである。
同号掲記の標章のうち商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能を
より効果的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で選
択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務を識別する標
識として用いられるものは少ないといえるのであり,需要者としても,商品等の形
状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは異なり,商品の機能
や美感を際立たせるために選択されたものと認識し,出所表示識別のために選択さ
れたものとは認識しない場合が多いといえる。また,商品等の機能又は美感に資す
ることを目的とする形状は,同種の商品等に関与する者が当該形状を使用すること
を欲するものであるから,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定
の者に独占させることは,公益上の観点から適切でないといえる。
したがって,商品等の形状は,同種の商品が,その機能又は美感上の理由から採
用すると予測される範囲を超えた形状である等の特段の事情のない限り,普通に用
いられる方法で使用する標章のみからなる商標として,同号に該当すると解するの
が相当である。
(2) 本願商標は,前記第2の2(1)に記載の商標であり,「三つの略輪状の炎
の立体的形状」(本願形状)を付する位置が特定された位置商標である。
そして,本願形状を採用することにより,対流形石油ストーブの燃焼筒内の輪状
の炎が四つあるように見え,これにより対流形石油ストーブの美感が向上するから,
本願形状は,美感を向上するために採用された形状であると認められる。また,原
告特許は,特許請求の範囲を「1 燃焼室や赤熱体を囲繞する様に位置せしめ,か
つ燃焼室の外殻を構成する燃焼筒をリング状の表面凸凹部を形成するとともに耐熱
性の透明もしくは半透明物質で造製し,この燃焼筒の表面にTi,Zr,Fe等の
金属もしくは金属化合物被膜を付着きせてなる暖房器。2 燃焼炎や赤熱体から発
する光が,金属被膜による干渉と屈折特性により多重かつ虹状に見ることが出来る
特許請求範囲第1項記載の暖房器。」とするものであって,「また燃焼筒をリング状
の表面凸凹部を形成せしめたから,前記発熱・発熱部が多段に見えるのを,凸凹部
がレンズ状に拡大して観者に対して大きな炎の輪を多段に確実に詔めさせる効果が
ある。この様にこの発明は透明もしくは半透明燃焼筒に金属被膜もしくは金属化合
物被膜を形成する簡単な構造によって暖房に最も適する波長の熱線を良好に透過せ
しめると共に,該被膜によって燃焼炎より発生する光を干渉させて各色に色付いた
沢山の燃焼炎や赤熱体の像を形成して燃焼炎や赤熱体から発生する熱線が多方向か
ら届く様になり,見せると共にリング状の凹凸部によるレンズ効果により,暖房効
果を高めるものであり,更に各色に色付いた沢山の燃焼炎や赤熱体の像は非常に美
しく,視覚的な暖房効果を高め,光の交差による優れたデザイン効果を生むもので
ある。(4段落の8行~24行)との効果を生じさせるものであり,特許公報には

別紙図面が第1図として付けられているから,本願形状は,暖房効果を高めるとい
う機能を有するものと認められる。
そうすると,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると予測される
範囲を超えているものということはできず,本願形状からなる位置商標である本願
商標は,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからなる商標で
あると認められる。
したがって,本願商標は,商標法3条1項3号の商標に該当するというべきであ
る。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,本願商標と同一又は類似する商標が同業他社によって使用され
ていないことやグッドデザイン賞を獲得していることなどから,本願商標は,
「独占
不許商標」や「自他商品識別力欠如商標」に該当しないと主張する。
しかし,本願商標が商標法3条1項3号の商標に該当することは,前記(2)のとお
りであって,原告が主張する事実は,同号に該当するとの上記判断を左右するもの
ではない。
イ 原告は,本願商標は,物理的な形状ではなく,石油ストーブの部品の形
状でもないから,模様に近いものであり,商標法3条1項3号の「商品の形状」に
は当たらないと主張する。
しかし,前記(2)のとおり,本願商標は,三つの略輪状の炎からなる立体的形状の
位置商標であることは明らかである。そして,立体的形状は,商標法3条1項3号
の「商品の形状」に当たるから,本願商標の立体的形状も同号の「商品の形状」に
当たるというべきである。
(4) 以上のとおり,商標法3条1項3号該当性についての本件審決の判断に誤
りはないから,原告の取消事由1についての主張は理由がない。
2 取消事由2について
(1) 前記1のとおり,本願形状は,その機能又は美感上の理由から採用すると
予想される範囲を超えるものではないから,本願商標は,商品等の形状を普通に用
いられる方法で使用する標章のみからなる商標というべきであるが,このような商
標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合は,商標法3条
2項により,商標登録を受けることができる。
そして,本願商標のように立体的形状からなる位置商標が使用により自他商品識
別力を獲得したといえるかどうかは,当該商標の形状,その使用期間及び使用地域,
当該商標が付された商品の販売数量やその広告の期間及び規模並びに当該商標の
形状に類似した形状を有する他の商品の存否などの事情を総合考慮して判断する
のが相当である。
(2) そこで,本願商標が使用により自他商品識別力を獲得したか否かについて,
以下検討する。
ア 前記第2の2の前提事実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,以下の
各事実が認められる。なお,本件において判断の基準時は,本件審決時であるので,
その時点までの事実を認定した。
(ア) 石油ストーブは,燃焼に必要な空気の供給方法と燃焼排ガス排出方法
の違いによって,開放式,半密閉式,密閉式に分類され,半密閉式及び密閉式の石
油ストーブは,固定されており,持ち運びが可能な開放式石油ストーブとは区別さ
れる。
開放式石油ストーブは,暖められた空気を自然に通気させる自然通気形石油スト
ーブと,内蔵された送風機などを使って強制的に通気させる強制通気形石油ストー
ブとに分けられるが,強制通気形石油ストーブは電源が必要であり,この点で自然
通気形石油ストーブと異なる。自然通気形石油ストーブは,対流形石油ストーブと
反射形石油ストーブとに分けられ,対流形石油ストーブは,部屋の中央に置き,熱
を上部に放出させ,温かい空気を自然に対流させて部屋の広い範囲を暖めるのに適
しているのに対して,反射形石油ストーブは部屋の壁の近くに置き,熱を機器正面
に放射させて,機器正面を中心に暖めるのに適している。
(甲3の1・2,甲34~36,甲60の1・2)
(イ) 本願商標は,「三つの略輪状の炎の立体的形状」
(本願形状)を,対流
形石油ストーブの燃焼筒内の中心部の炎の上方に付したものである。
原告使用商品は,使用時に本願形状が現れる対流形石油ストーブであり,使用時
には,本願形状を認識することはできるが,使用していないときは,本願形状を認
識することはできない。
(ウ) 原告使用商品は,商品名を「レインボー」として昭和55年から製造
販売されており,平成6年から平成16年までの間の製造中止期間はあるものの,
本件審決時に至るまで製造販売が継続されている。これまで,原告使用商品以外に,
本願形状を有する商品は,原告がOEM生産し,株式会社スノーピークが販売して
いる「スノーピークレインボーストーブ」という商品以外には存在しない。
なお,上記の「スノーピークレインボーストーブ」のインターネット上の広告に
おいては,同商品が原告によって製造されたものであることの記載はないが,同商
品の銘板部には,「TOYOTOMI」の表示がある。
平成29年2月9日付けの産経新聞には,「大阪市の家電量販店ヨドバシカメラ
マルチメディア梅田では,昨秋発売されたアウトドアブランド「スノーピーク」の
限定版石油ストーブ「レインボーストーブ」が1日に7台売れた日もあるほどの人
気だ。」,「レインボーストーブを販売するトヨトミ(略)」との記載がある。
(甲1,甲8の1,甲33の2の3,甲63,乙5)
(エ) 原告使用商品は,全国に出荷されており,その出荷台数は,平成19
年度~平成22年度の間は,年間5642台~7574台であったが,平成23年
度以降は,年間2万7476台~4万1710台の間を推移しており,平成23年
度から平成28年度までの年平均出荷台数は約2万9000台である(甲5,37,
68)。
対流形石油ストーブの出荷台数は,平成22年度は7万170台であったが,平
成23年度は13万9247台に急増し,平成24年度以降は,年間9万9839
台~16万8827台の間を推移しており,平成23年度から平成30年度までの
年平均出荷台数は約12万9000台である一方,反射形石油ストーブの出荷台数
は,平成22年度は123万6036台であったが,平成23年度は232万62
76台に急増し,平成24年度以降は,年間86万2969台~182万9664
台の間を推移しており,平成23年度から平成30年度までの間の年平均出荷台数
は約128万1000台である(甲6,38)。
したがって,原告使用商品の平成23年度以降の販売台数の平均シェアは,対流
形石油ストーブの中では約22.5%であるが,自然通気形開放式ストーブ(対流
形石油ストーブと反射形石油ストーブ)の中では約2%である。
(オ)a 原告が作成した暖房機器のカタログ(昭和57年~平成5年,平成
17年~平成28年のもの。以下「原告カタログ」という。)には,原告使用商品
が,使用時の写真とともに掲載され,同写真においては,本件特徴を十分に認識す
ることができる。
原告カタログでは,業務用のものを除いた石油ストーブが対応する部屋の広さの
上限について,木造建物においては,対流形石油ストーブの場合は概ね7畳~17
畳とされており,一方,反射形石油ストーブの場合は,概ね5畳~10畳とされて
いる。
また,昭和57年の原告カタログ(甲1の1)には,暖房のめやす早見表が記載
されており,同早見表では,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブとが掲載さ
れていて,両種類のストーブを比較できるようになっている。さらに,平成19年
の原告カタログ(甲1の14)には,対流形石油ストーブ,反射形石油ストーブ及
び石油コンロの機能一覧表が掲載されていて,上記各種類の商品の機能の比較がで
きるようになっており,平成24年の原告カタログ(甲1の19の1)には,ポー
タブル石油ストーブというカテゴリーの中に,対流形石油ストーブと反射形石油ス
トーブが記載されている。
(甲1)
b 他社の暖房機器のカタログには,対流形石油ストーブと反射形石油
ストーブとを一緒にした仕様一覧表を掲載しているもの,対流形石油ストーブと反
射形石油ストーブとを一緒にした仕様一覧表とファンヒーター(強制通気形開放式
石油ストーブ)の仕様一覧表を別の一覧表として掲載しているもの,「石油ストー
ブ(反射型/対流型)・石油こんろ」や「石油ストーブ(反射型)・石油ストーブ
(対流型)・石油こんろ」との表題を付して,反射形石油ストーブ,対流形石油ス
トーブ及び石油こんろを記載しているものがある(甲2の1~3・5・9・10・
13~15・17・20・23・26・28~30・33)。
(カ) 原告ウェブサイトにおいて,原告使用商品が広告されており,同広告
部分では原告使用商品の使用時の写真が掲載されており,同写真においては,本件
特徴を十分に認識することができる(甲33)。
(キ) 原告使用商品のテレビコマーシャルは,平成24年10月~12月の
間,「はなまるマーケット」(TBS),「ビートたけしのTVタックル」(テレ
ビ朝日)及び「報道特集」(TBS)の各番組においてされ,同コマーシャルでは,
本件特徴がクローズアップされるシーンもあった(甲7の1の1・2)。
(ク) 原告使用商品は,平成23年11月にテレビ番組である「ワールドビ
ジネスサテライト」(テレビ東京)及び「ほっとイブニング」(NHK)で,平成
26年10月にテレビ番組である「イッポウ」(CBC)で,同年12月にテレビ
番組である「工場へ行こう」(テレビ愛知)及び「ジョシばな」(名古屋テレビ)
でそれぞれ紹介され,その際には,本件特徴を十分に認識できる映像が流れた(甲
7の2~6)。
(ケ) 原告使用商品は,平成23年8月10日及び平成24年9月25日の
中部経済新聞で紹介されたが,同記事には,使用時の写真(白黒)が掲載され,記
事中に,炎の輪が七色に輝くことが説明されている(甲8の4・5)ほか,産経新
聞,日経MJ及び北海道新聞において,原告使用商品が紹介され,幾重にも見える
炎の輪が特徴であるとの説明がされている(甲8の1~3)。
また,原告使用商品は,名古屋市内で発行されている情報誌「瑞穂フリモ」平成
26年12月号,雑誌「AUTO CAMPER」平成24年12月号,雑誌「ダ
イヤモンドホームセンター」平成23年9月号及び平成25年9月号,雑誌「大人
の逸品」平成25年冬号,碧海信用金庫が発行した「Hekikai Repor
t」平成27年夏号に,使用時の写真と共に紹介された(甲8の8~13)。
さらに,原告使用商品の広告は,平成27年12月1日のヤフートップページに
使用時の写真とともに掲載されたが,ヤフートップページの1日の閲覧数は,2億
を超えている(甲9)。
(コ)a 原告使用商品は,平成29年11月7日付けの楽天サイトの「スト
ーブ・ヒーター」のランキングでは,売上げランキングは17位,注目ランキング
は4位,12位にランクされ(甲10の1),「石油ストーブ」のランキングでは,
売上げランキングは3位,5位,12位,13位,注目ランキングは1位,3位,
7位,11位,13位,満足度ランキングは6位,8位,10位にランクされた(甲
10の2)。
b 原告使用商品は,平成29年11月9日付けのAmazonサイト
の「石油ストーブ」のランキングでは,売れ筋ランキングの1位,3位,11位,
16位,18位に,人気ギフトランキングの2位,3位,6位,13位に,ほしい
物ランキングの1位,3位,5位,8位,15位にランクされた(甲11の1の1
~3)。
c 原告使用商品は,平成29年11月7日付けの価格サイトの「ヒー
ター・ストーブ」の満足度ランキングの1位にランクされ,
「ストーブ」の売れ筋ラ
ンキングの1位,3位にランクされた(甲12の1・2)。
d 上記a~cの各サイトのランキングページにランクされた各商品の
欄の商品名等が同商品の詳細ページへのリンクボタンとなっており,原告使用商品
についてのリンクボタンをクリックすると,原告使用商品の詳細ページに移ること
ができ,同ページには,原告使用商品の使用時の写真が掲載され,また,原告使用
商品についての高評価のレビューが多数掲載されている。(甲10~12,47)
(サ) 平成29年11月8日に,検索エンジンのGoogleにより,
「キャ
ンプ 石油ストーブ」「アウトドア
, 石油ストーブ」「防災
, 石油ストーブ」とい
う文言で検索をした結果,原告使用商品をその使用時の写真と共に紹介した記事が
九つ検索された(甲14,15)。
(シ) YouTubeサイトにおいて,平成29年11月10日に,「トヨ
トミ レインボー」という文字で検索した結果,原告使用商品が使用されている状
態の映像が多数検索され,それらの視聴回数は,1万0396回~6万4639回
であり,また,令和元年10月23日に同様の検索をした結果,原告使用商品が使
用されている状態の映像が1年以上前から掲載されているものが多数検索された
(甲13,48)。
(ス) 石油連盟の広告には,本件特徴が認識できる使用時の原告使用商品の
写真が使用されているところ,同広告は,平成24年9月19日付けの日本経済新
聞,同年12月10日発行の「日経ビジネス」に掲載されたほか,東京メトロの霞
ヶ関駅のホーム,東京メトロの大手町駅の地下道,東京メトロの永田町駅のホーム
でも掲示された(甲17,50,51)。
上記広告において,上記写真の商品が原告使用商品であるとの説明はされていな
い。
(セ) 原告使用商品は,平成17年に,グッドデザイン賞を受賞した(甲1
6)。
イ 前記アの認定を前提に以下検討する。
(ア) まず,開放式石油ストーブは持ち運びが可能であるのに対し,半密閉
式及び密閉式石油ストーブは持ち運びが不可能であること,開放式石油ストーブの
うち,自然通気形石油ストーブと強制通気形石油ストーブとでは,送風機が内蔵さ
れているか否か,電源が必要か否かという点で異なることからすると,開放式石油
ストーブと半密閉式及び密閉式石油ストーブとの間,自然通気形石油ストーブと強
制通気形石油ストーブとの間で需要者は必ずしも同一であるということはできない。
もっとも,それらは,いずれもストーブに変わりはないのであるから,需要者が全
く異なるとまではいい難い。東日本大震災の発生直後の平成23年度は,自然通気
形石油ストーブの出荷台数は前年度の約2倍となったことからすると,自然通気形
石油ストーブと強制通気形石油ストーブとは,同一の需要者による需要がある場合
もあり得ると認められる。
そして,自然通気形石油ストーブにおいては,対流形石油ストーブは,周囲全体
を温めるのに対して,反射形石油ストーブは機器正面を中心に暖めることから,対
流形石油ストーブは,比較的狭い部屋に適しているのに対し,反射形石油ストーブ
は,比較的広い部屋に適しており,キャンプや災害時にも適しているということが
できるから,これらの点で,両者には違いがあるということができる。しかし,い
ずれもストーブであることには変わりがなく,対流形石油ストーブの中にも,比較
的狭い部屋に対応する型もあり,両ストーブは,対応する部屋の広さにおいて重な
る部分もある。また,原告カタログでは,対流形石油ストーブと反射形石油ストー
ブの機能等を比較できる一覧表が掲載され,ポータブル石油ストーブというカテゴ
リーの中に対流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが記載されているなど,対
流形石油ストーブ及び反射形石油ストーブが同一のカテゴリーとして扱われてい
る。さらに,他社の暖房機器のカタログにおいても,対流形石油ストーブ及び反射
形石油ストーブを一緒にした仕様一覧表とファンヒーター(強制通気形開放式石油
ストーブ)の仕様一覧表を別の一覧表として掲載したり,
「石油ストーブ(反射型)

石油ストーブ(対流型)・石油こんろ」との表題を付して,反射形石油ストーブ,
対流形石油ストーブ及び石油こんろを記載するなど,対流形石油ストーブと反射形
石油ストーブとが同一のカテゴリーとして扱われている。
以上からすると,対流形石油ストーブと反射形石油ストーブの需要者は全く同一
ではないものの,かなりの程度重なり合うものと認められる。
(イ) そこで,自然通気形開放式ストーブ(対流形石油ストーブと反射形石
油ストーブ)に占める原告使用商品の販売シェアを見るに,平成23年度以降の平
均シェアは2%程度であり,石油ストーブ全体から見ると,そのシェアはさらに低
いものとなる。また,原告使用商品の出荷台数も,平成24年度以降の平均は約2
万9000台と決して多いとはいえない。
本願形状は,原告使用商品を使用していないときは現れないのであるから,店頭
で石油ストーブを選び,購入しようとして来店した者は,展示されている原告使用
商品を見ただけでは本願形状を認識することはできず,このような本願商標の特殊
な事情から,需要者が本願商標を認識する機会は限定されるということができる。
また,前記1で判示したことからすると,本願形状は,美感や機能の観点から採
用されたと認識され,そのような点に着目されるものといえる。
(ウ) 原告使用商品のテレビでの広告は,平成24年10月~12月までの
間に三つの番組で広告されたのみであって,極めて少なく,原告使用商品がテレビ
番組で取り上げられたのも5回だけであり,新聞や雑誌等で紹介されたのも前記ア
(ケ)の程度であって,多いとはいい難い。
また,平成27年12月1日には,原告使用商品の広告がヤフートップページに
掲載されたが,同広告が継続的にされたと認めるに足りる証拠はない。
さらに,原告カタログの頒布方法,頒布地域及び頒布枚数は不明であり,原告ウ
ェブサイトにおける原告使用商品の広告も,他の石油ストーブの同種広告に比較し
て規模が大きかったり,注目を集めるような特別な工夫がされているなどの事情は
認められないから,同広告に大きな効果があるということもできない。
(エ) 原告使用商品は,楽天サイト,Amazonサイト及び価格サイトの
各種ランキングにおいて上位にランクインしており,また,同ページの原告使用商
品の欄の商品名等は,原告使用商品の使用時の写真や原告使用商品についてのレビ
ューが掲載されているページに移ることができるリンクボタンとなっていること
から,同ランキングページで商品を検索した者には,本願形状の詳細や高評価のレ
ビューを認識する機会があったといえるが,同ランキングページを閲覧したとして
も,原告使用商品に興味を持たなければ,リンクボタンを押して本願形状の詳細や
高評価のレビューを認識することはない。そして,リンクボタンを押してそれらを
認識した者の数は不明である。
また,原告使用商品は,インターネットの記事で取り上げられ,その際,使用時
の写真も掲載されているが,それらの数は前記ア(サ)のとおりであり,多いとはい
えない。
さらに,原告使用商品の使用時の写真が石油連盟の広告に使用され,同広告は,
新聞や雑誌に掲載され,また,地下鉄の駅のホーム等で掲示されていたが,同広告
には,同写真の商品が原告使用商品であることの説明はないから,同写真を見た者
が同写真に写っている本願形状の出所を認識することはできない。そうすると,同
広告が本願商標の自他商品識別力の獲得に格別寄与するということはできない。
なお,YouTubeサイトにおいて,「トヨトミ レインボー」という文字で
検索した結果,原告使用商品が使用されている状態の映像が多数検索されたことか
ら,同サイトには,原告使用商品の使用状況の動画が多数掲載されていることが認
められるが,「トヨトミ レインボー」という文字以外で検索した場合にどの程度
上記各動画を閲覧することができたかは明らかでないから,上記各動画は,原告使
用商品を知らない者に対して本願商標を認識させる効果が高かったということはで
きないし,また,それらの動画の再生回数が多数回に及んでいるとしても,それら
の再生が,その動画の商品が原告の商品として識別されることにどの程度結び付い
ているかは明らかでない。
(オ) 以上の事情からすると,本願形状を有する商品である原告使用商品が
約30年もの長期間販売されており,OEM商品を除いて本願形状を有する他の商
品は存在しないこと,本願形状は,比較的特徴的であるといえること,原告使用商
品は,グッドデザイン賞を受賞したことを考慮しても,本願商標について原告の事
業に係る商品であることを認識することができるとまで認めることはできないと
いうべきである。
(3) 以上のとおり,商標法3条2項該当性についての本件審決の判断に誤りは
ないから,原告の取消事由2についての主張は理由がない。
第4 結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
佐 野 信
裁判官
熊 谷 大 輔
図面

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