知財判決速報/裁判例集知的財産に関する判決速報,判決データベース

ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成31(行ケ)10055 審決取消請求事件

この記事をはてなブックマークに追加

平成31(行ケ)10055審決取消請求事件

判決文PDF

▶ 最新の判決一覧に戻る

裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和2年2月19日
事件種別 民事
当事者 被告特許庁長官樋口宗彦
原告スリーエムイノベイティブ
対象物 機械的締結具,締結装置,及び使い捨て吸収性物品
法令 特許権
特許法29条2項1回
キーワード 実施61回
審決24回
刊行物1回
優先権1回
進歩性1回
拒絶査定不服審判1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 (1) 原告は,発明の名称を「機械的締結具,締結装置,及び使い捨て吸収性物 品」とする発明について,平成24年9月13日(優先日平成23年9月1 6日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-5 30771号。以下「本願」という。)をした。

▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例

本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。

判決文

令和2年2月19日判決言渡
平成31年(行ケ)第10055号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和元年12月17日
判 決
原 告 スリーエム イノベイティブ
プロパティズ カンパニー
訴訟代理人弁理士 赤 澤 太 朗
野 村 和 歌 子
藤 井 憲
佃 誠 玄
浅 村 敬 一
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 渡 邊 豊 英
樋 口 宗 彦
久 保 克 彦
武 内 大 志
阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を
30日と定める。
事実及び理由
第1 請求
特許庁が不服2017-19482号事件について平成30年12月3日に
した審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,発明の名称を「機械的締結具,締結装置,及び使い捨て吸収性物
品」とする発明について,平成24年9月13日(優先日平成23年9月1
6日,優先権主張国米国)を国際出願日とする特許出願(特願2014-5
30771号。以下「本願」という。)をした。
原告は,平成27年9月14日,特許請求の範囲について手続補正(以下
「第1次補正」という。甲4)をした後,平成28年9月9日付けの拒絶理
由通知(甲5)を受け,平成29年8月4日,拒絶査定(甲8)を受けた。
(2) 原告は,平成29年12月28日,拒絶査定不服審判(不服2017-1
9482号事件)を請求するとともに,同日付けで,特許請求の範囲につい
て手続補正(以下「本件補正」という。甲3)をした。
その後,特許庁は,平成30年12月3日,本件補正を却下した上で,「本
件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)
をし,その謄本は,同月18日,原告に送達された。
(3) 原告は,平成31年4月16日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提
起した。
2 特許請求の範囲の記載
(1) 本件補正前(第1次補正後)
第1次補正後の特許請求の範囲の記載は,請求項1ないし6からなり,そ
の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本
願発明」という。甲4)。
【請求項1】
機械的締結具であって,
熱可塑性裏材と,
前記熱可塑性裏材に取り付けられる近位端と,柱の断面積よりも広い面積
のキャップを含む遠位端を備える柱と,を有する,複数の直立締結要素と,
を含み,
前記複数の直立締結要素は,最大300マイクロメートルの高さを有し,
前記機械的締結具の坪量は,1平方メートル当たり25グラム~1平方メー
トル当たり75グラムの範囲である,機械的締結具。
(2) 本件補正後
本件補正後の特許請求の範囲の記載は,請求項1ないし6からなり,その
請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「補正
発明」という。甲3。下線部は本件補正に係る補正箇所である。)。
【請求項1】
機械的締結具であって,
熱可塑性裏材と,
前記熱可塑性裏材に取り付けられる近位端と,柱の断面積よりも広い面積
のキャップを含む遠位端を備える柱と,を有する,複数の直立締結要素と,
を含み,
前記熱可塑性裏材は,20マイクロメートル~80マイクロメートルの範
囲の厚さを有し,
前記複数の直立締結要素は,40マイクロメートル~300マイクロメー
トルの範囲の高さを有し,
前記機械的締結具の坪量は,1平方メートル当たり25グラム~1平方メ
ートル当たり75グラムの範囲である,機械的締結具。
3 本件審決の理由の要旨
(1) 本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,①補正発明は,本願の優先日前に頒布された刊行物である特
開平11-155612号公報(以下「引用文献」という。甲1)に記載さ
れた発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特
許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることが
できないものであるから,本件補正は,同法17条の2第6項において準用
する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定にお
いて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,②本願発
明は,本願発明の発明特定事項の全てを包含し,さらに本件補正に係る構成
を付加したものに相当する補正発明と同様に,引用発明に基づいて,当業者
が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により
特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について検討
するまでもなく,本願は拒絶すべきものであるというものである。
(2) 本件審決が認定した引用文献に記載した発明(以下「引用発明」という。,

補正発明と引用発明の一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明
「オス側シート材1であって,
ポリエチレン,ポリプロピレン等のオレフィン類,ポリエチレンテレフ
タレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類等を材料とす
る基材シート2と
前記基材シート2に取り付けられる近位端と,幹部4の断面積よりも広
い面積のヘッド5を含む遠位端を備える幹部4と,を有する,複数のオス
型係合部3と,を含み,
前記基材シート2は, 02~0.
0. 4mmの範囲の厚さのものであり,
前記複数のオス型係合部3の高さは,0.2~1.2mmの範囲のもの
である,
オス型シート材1。」
(判決注・「オス型シート材1」とあるのは「オス側シート材1」の誤
記と認める。以下同じ。)
イ 補正発明と引用発明の一致点及び相違点
(一致点)
「機械的締結具であって,
熱可塑性裏材と,
前記熱可塑性裏材に取り付けられる近位端と,柱の断面積よりも広い
面積のキャップを含む遠位端を備える柱と,を有する,複数の直立締結
要素と,を含み,
前記熱可塑性裏材は,厚さを有し,
前記複数の直立締結要素は,高さを有するものであり,
前記機械的締結具は,坪量を有するものである,
機械的締結具。」 である点。
(相違点1)
補正発明の「熱可塑性裏材」は,その厚さが「20マイクロメートル
~80マイクロメートルの範囲」のものであるのに対し,引用発明の「基
材シート2」の厚さは,「0.02~0.4mmの範囲」である点。
(相違点2)
補正発明の「直立締結要素」は,その高さが「40マイクロメートル
~300マイクロメートルの範囲」のものであるのに対し,引用発明の
「オス型係合部3」の高さは,「0.2~1.2mmの範囲」のもので
ある点。
(相違点3)
補正発明の「機械的締結具」は,その坪量が「1平方メートル当たり
25グラム~1平方メートル当たり75グラムの範囲」であるのに対し,
引用発明の「オス型シート材1」の坪量について,引用文献に記載され
ていない点。
4 取消事由
補正発明の独立特許要件(進歩性)の判断の誤り
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 相違点1及び2の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,①引用文献の記載(【0016】,【0022】)から,引
用発明には「オス側シート材1」の厚さを薄くする動機付けがあるから,引
用発明の「基材シート2」の厚さ「0.02~0.4mm」,すなわち,2
0マイクロメートル~400マイクロメートルの範囲の厚さを,「20マイ
クロメートル~80マイクロメートルの範囲」(相違点1に係る補正発明の
構成)のものとすることは,引用発明の上記数値範囲において小さい方の数
値範囲を選択したに過ぎず,格別の困難性は認められない,②引用発明の「オ
ス型係合部3」の高さ「0.2~1.2mm」,すなわち200マイクロメ
ートル~1200マイクロメートルの範囲の高さを,「40マイクロメート
ル~300マイクロメートルの範囲」(相違点2に係る補正発明の構成)の
ものとすることは,上記動機付けにしたがって,引用発明の上記数値範囲に
おいて小さい方の数値範囲を選択したに過ぎず,格別の困難性は認められな
いとして,引用発明において,相違点1及び2に係る補正発明の構成を備え
たものとすることは,当業者が容易になし得た旨判断したが,以下のとおり,
本件審決の判断は誤りである。
ア 引用文献の【0016】には「上記オス型係合部3の高さ(H 1)は,
好ましくは0.1~1.5mmであり,更に好ましくは0.2~1.2m
mである。…該高さ(H1)が,1.5mmを越えると,薄くてきめ細や
かで表面滑らかなオス側シート材を得難い。」との記載があるが,上記記
載は,「オス型係合部3の高さ(H 1)」が「1.5mm」を越えなけれ
ば「薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材」を得られると述べ
ているに過ぎない。
また,引用文献の【0022】には「また更に,本実施形態のオス側シ
ート材1は,極薄手で屈曲性に優れ,縫製やウェルダー等による取り付け
加工性にも優れている。」との記載があるが,引用文献においては,「極
薄手」にいう「薄」の文言は,「オス型係合部3」についてのみ用いられ
ていることなどに照らすと,上記記載は,「1.5mm」を越えない「オ
ス型係合部3」を意図した記載である蓋然性が高い。
そうすると,引用文献の【0016】及び【0022】の記載は,引用
発明の「オス側シート材1」の厚さを薄くすることを示唆するものとはい
えず,上記記載から引用発明の「オス側シート材1」の厚さを薄くするこ
との動機付けがあるものと認定することはできない。
イ(ア) 引用文献の【0021】には,「また,上記基材シート2の厚みは,
0.01~0.5mmであることが好ましく,0.02~0.4mmで
あることが更に好ましい。該厚みが0.01mm未満だと,上記オス側
シート材1は,オス側シート材としての基材物性を満たし難く,成形性
も悪くなる。また,該厚みが0.5mmを超えると,該オス側シート材
1の屈曲性が悪くなる。」との記載がある。この記載から,当業者は,
基材シート2の厚さが,0.5mm(500マイクロメートル)を超え
ない「オス側シート材」あれば,「屈曲性が悪く」ないこと又は「屈曲
性に優れる」ことを理解できたとしても,補正発明の「熱可塑性裏材」
の厚さは「20マイクロメートル~80マイクロメートルの範囲」であ
り,その上限値は引用発明の「基材シート2」の厚さの数分の1である
ことに照らすと,「基材シート2」の厚さを補正発明の「熱可塑性裏材」
の厚さの数値範囲に積極的に設定することに格別の困難性がないという
ことはできない。
(イ) 引用文献の【0016】の記載によれば,「オス型係合部3の高さ」
が「1.2mm」(1200マイクロメートル)である「オス側シート
材」は既に「薄くて」と扱われていること,補正発明の「直立締結要素」
の高さの上限値(300マイクロメートル)は,引用発明の「オス型係
合部3」の高さの上限値の数分の1であることに照らすと, 「オス型係
合部3」の高さを補正発明の「直立締結要素」の高さの数値範囲に積極
的に設定することに格別の困難性がないということはできない。
(ウ) ましてや,引用文献記載のオス側シート材は高い係合力の発揮を主
たる課題としていること,高さが低い「オス型係合部」の係合力が低い
ことは技術常識であったことに照らすと,引用発明の「オス型係合部3」
の高さと「シート基材2」の厚みの両方についてそれぞれの上限値の数
分の1とし,相違点1及び2に係る補正発明の構成を兼ね備えた発明を
導き出すことが,当業者にとって容易であったということはできない。
この点に関し,被告は,乙1(特開2005-40231号公報)を
例示して,メカニカルファスナーは,オス型係合部の高さが1.2mm
より小さい値であっても高い係合力を発揮し得る旨主張するが,乙1は,
フックの材質について検討した文献であって,全体としてフックのサイ
ズや形状について検討したものではなく,実際に作製したフック材のフ
ックの高さ等のサイズは明らかでないから,被告の上記主張は失当であ
る。
ウ 以上のとおり,本件審決における相違点1及び2の容易想到性の判断に
は誤りがある。
(2) 相違点3の容易想到性の判断の誤り
本件審決は,仮に引用発明が基材シート2にオス型係合部3が取り付けら
れたオス側シート材1の坪量が,75g/m 2を超えるものであったとして
も,引用発明には,オス側シート材1の厚さを薄くすることの動機付けがあ
るといえるから,オス側シート材1の坪量を25g/m2~75g/m2の範
囲(相違点3に係る補正発明の構成)のものとすることに格別の困難性は認
められない旨判断したが,以下のとおり,本件審決の判断は誤りである。
ア 前記(1)アのとおり,引用文献の【0016】及び【0022】の記載か
ら引用発明の「オス側シート材1」の厚さを薄くすることの動機付けがあ
るものと認定することはできない。また,引用文献には,オス側シート材
1の坪量を25g/m2~75g/m2の範囲内のものとすることの記載や
示唆はない。
イ この点に関し被告は,引用発明のオス側シート材1の厚さを薄くすると
いう動機付けに従って,基材シート2の厚さ及びオス型係合部3の高さに
ついて,引用発明の数値範囲のうちで小さな値を選択すれば,オス側シー
ト材1の坪量も小さくなることは当然の帰結であり,坪量としてとり得る
値の中から25g/m2~75g/m2の範囲(相違点3に係る補正発明の
構成)の値を選択することに格別の困難性はない旨主張する。
しかしながら,引用文献には,オス型係合部3をどのように作製するの
かについての記載はなく,オス側シート材1を実際に作製した例やその係
合力を試験した例についての記載もないから,オス型係合部3の寸法の全
てについて,引用文献に記載されている範囲における極小値を採用したオ
ス側シート材が,実際に製造可能であるのか明らかではないし,また,高
い係合力と剥離に対する方向性という引用文献記載のシート材の課題を実
現できるのか明らかではない。
したがって,被告の上記主張は理由がない。
ウ 以上によれば,引用発明において,「前記機械的締結具の坪量は,1平
方メートル当たり25グラム~1平方メートル当たり75グラムの範囲で
ある」という構成(相違点3に係る補正発明の構成)とすることは,当業
者が容易に想到することができたものといえないから,本件審決における
相違点3の容易想到性の判断は誤りである。
(3) 小括
以上のとおり,本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断に
誤りがあり,補正発明は,当業者が引用文献に基づいて容易に発明をするこ
とができたものとはいえないから,補正発明は独立特許要件を満たしていな
いとして,本件補正を却下した本件審決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は,違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張
(1) 相違点1及び2の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
ア 引用文献の【0016】の記載は,オス型係合部3の高さが1.5mm
を越えると,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材を得難いと
いうものであり,この記載から,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側
シート材を得ることが意図されていることを理解できる。そして,オス側
シート材1の厚さは,基材シート2の厚さとオス型係合部3の高さとから
構成されるから,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材1を得
るためには,オス型係合部3の高さのみならず,基材シート2の厚さもあ
る程度以下に小さくする必要があることは当然である。
また,引用文献の【0022】の記載から,オス側シート材1について,
「極薄手」であることが,「屈曲性に優れ」るという利点をもたらすこと
を理解できる。
以上によれば,引用文献の【0016】及び【0022】の記載から,
引用文献には,屈曲性に優れたオス側シート材1を得るために,基材シー
ト2の厚み及びオス型係合部3の高さを,好ましいとされた範囲内でより
小さな値とし,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けが示唆
されているといえる。
イ(ア) 引用発明の基材シート2の厚さは,0.02~0.4mm(20~
400マイクロメートル)の範囲のものであり
(引用文献の
【0021】,

当業者は,この範囲内の値を適宜選択し得るものである。
そして,引用文献には,相違点1に係る補正発明の構成の上限値80
マイクロメートルという具体的な値の示唆はないが,前記アのオス側シ
ート材1の厚さを薄くするという動機付けに従えば,引用発明の基材シ
ート2の厚さについて,20~400マイクロメートルの範囲の中でよ
り小さい方の値を選択することがごく自然に想到されるものといえるか
ら,当業者が80マイクロメートル以下の値を選択することに格別の困
難性はないというべきである。
したがって,当業者は,引用発明において,基材シート2の厚さを2
0マイクロメートルから80マイクロメートルの範囲内の値を適宜選択
し,相違点1に係る補正発明の構成を容易に想到し得たものである。
(イ) 引用発明のオス型係合部3の高さは,0.2~1.2mm(200
~1200マイクロメートル)の範囲のものであり(引用文献の【00
16】),当業者は,この範囲内の値を適宜選択し得るものである。
そして,引用文献には,相違点2に係る補正発明の構成の上限値30
0マイクロメートルという具体的な値の示唆はないが,前記アのオス側
シート材1の厚さを薄くするという動機付けに従えば,引用発明のオス
型係合部3の高さについて,200~1200マイクロメートルの範囲
の中でより小さい方の値を選択することがごく自然に想到されるものと
いえるから,当業者が300マイクロメートル以下の値を選択すること
に格別の困難性はないというべきである。
したがって,当業者は,引用発明において,オス型係合部3の高さを
200マイクロメートルから300マイクロメートルの範囲内の値を適
宜選択し,相違点2に係る補正発明の構成を容易に想到し得たものであ
る。
(ウ) これに対し原告は,引用文献記載のオス側シート材は高い係合力の
発揮を主たる課題としていること,高さが低い「オス型係合部」の係合
力が低いことは技術常識であったことに照らすと,引用発明の「オス型
係合部3」の高さと「シート基材2」の厚みの両方について上限値をそ
れぞれ数分の1とし,相違点1及び2に係る補正発明の構成を兼ね備え
た発明を導き出すことが,当業者にとって容易であったということはで
きない旨主張する。
しかしながら,引用文献の【0016】の記載から,オス型係合部3
の高さ(H 1)が好ましいとされた範囲の下限の0.2mmである場合
であっても,幹部4の高さ(H 2 )を0.05mm以上の値を確保し,
オス型係合部3の高さと幹部4の高さとの差について0.01mm以上
の値を確保することは十分に可能であり,このような値を確保すること
によって,オス型係合部3の挿入性が悪くなく,係合力に不足すること
もないものが得られると解されるから,引用発明において,オス型係合
部3の高さを好ましいとされた範囲内でより小さな値とすることと,高
い係合力を発揮することとは両立し得るものである。そして,メカニカ
ルファスナーは,オス型係合部の高さが1.2mmより小さい値であっ
ても高い係合力を発揮し得るものである(例えば,乙1)。
また,オス型係合部の係合力は,オス型係合部の各部の形状や寸法,
オス型係合部が係合する対象の形状や寸法等に応じて,様々に変化し得
るものであって,オス型係合部の高さが低くなれば係合力も当然に低く
なるという単純な関係が成り立つものではないから(例えば,乙2),
高さが低いオス型係合部の係合力が低いことは,技術常識であるとはい
えない。
そして,前記アのとおり,引用文献には,屈曲性に優れたオス側シー
ト材1を得るために,
基材シート2の厚み及びオス型係合部3の高さを,
好ましいとされた範囲内でより小さな値とし,オス側シート材1の厚さ
を薄くするという動機付けの示唆があるから,引用発明の基材シート2
の厚さ及びオス型係合部3の高さの両方について,引用発明の数値範囲
のうちで,より小さい方の値を選択することがごく自然に想到されるも
のであり,基材シート2の厚さについて80マイクロメートル以下の値
を選択するとともに,オス型係合部3の高さについて300マイクロメ
ートル以下の値を選択することに格別の困難性はないというべきである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
ウ 以上によれば,本件審決における相違点1及び2の容易想到性の判断に
誤りはない。
(2) 相違点3の容易想到性の判断の誤りの主張に対し
ア 前記(1)アのオス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けに従って,
引用発明の基材シート2の厚さ及びオス型係合部3の高さについて,引用
発明の数値範囲のうちで小さな値を選択すれば,基材シート2の厚さ及び
オス型係合部3に使用される材料の量が減少し,オス側シート材1の単位
面積当たりの重量である坪量も当然に小さくなる。
イ 引用発明については,以下のとおり,オス側シート材1の坪量が75g
/m2を超えないものが通常想定されるものといえる。
(ア) 引用発明の基材シート2は,ポリエチレン,ポリプロピレン等のオ
レフィン類,ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレー
ト等のポリエステル類等を材料とするものであるところ(引用文献の【0
019】),このうちポリエチレン又はポリプロピレンを材料とした場
合を考える。ポリエチレン又はポリプロピレンの密度の値は,0.91
g/cm3(乙3)を用いることとする。
そして,引用発明の基材シート2の厚さを0.02mm(20マイク
ロメートル)という下限の値を選択した場合,基材シート2の坪量は,
18.2g/m2となる。
(計算式・(100cm)2×0.002cm×0.91g/cm3=
18.2g/m2)
(イ)a 引用発明では,オス型係合部3の高さ以外の寸法や単位面積当た
りのオス型係合部3の数等は特定されていないが,これらの具体的な
値についても,引用文献に記載された範囲から当業者が適宜選択し得
るものである。特に,引用発明の数値範囲のうちで小さい方の値を選
択するならば,オス型係合部3の高さ以外の寸法についても,小さい
方の値を選択することがごく自然に想到されるものである。
そこで,引用文献の記載(【0012】ないし【0015】,図1,
2)から,オス型係合部3の寸法として,「ヘッド5の第一横方向の
長さW=0.14mm」(【0015】),「ヘッド5の第二横方向
の長さC=0.12mm」(【0012】),「幹部4の第一横方向
の長さD =0.12mm」(【0013】),「幹部4の第二横方
向の長さB =0.1 mm」(【0014】)を採用する。
そして,引用発明のオス型係合部3の高さ(H1)として,0.2m
m(200マイクロメートル)という下限の値を選択した場合,オス
型係合部3の1個当たりの体積は,2.4×10-6cm3(D×B×H
1 )~3.36×10-6cm3(W×C×H1)範囲内の値となるから,
オス型係合部3の分散密度を80~800個/cm2(【0017】)
とすると,オス型係合部3の1㎡あたりの体積は,1.92~26.
88cm3となる。
(計算式・(100cm)2×80~800個/cm 2×2.4~3.
36×10-6cm = 1.92~26.88cm3)
b 上記aのオス型係合部3の体積の値を用いて,オス型係合部3の材
料の密度として上記(ア)で示した0.91g/cm3という値を用いて,
オス型係合部3の坪量を算出すると, 7~24.
1. 5g/m2となる。
(計算式・0.91g/cm3×1.92~26.88cm3≒1.7
~24.5g/m2)
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば,オス側シート材1の坪量は,約19.
9~約42.7g/m2の範囲内(前記(ア)及び(イ)bの合計額)の値と
なるから,75g/m2を超えないものである。
ウ そうすると,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けに従っ
て,引用発明の基材シート2の厚さ及びオス型係合部3の高さについて,
引用発明の数値範囲のうちで小さな値を選択すれば,オス型係合部3の高
さ以外の寸法についても,小さい方の値を選択することがごく自然に想到
されるから,オス側シート材1の坪量としてとり得る値の中から25g/
m2~75g/m2の範囲の値を選択することに格別の困難性はない。
したがって,当業者は,引用発明において,相違点3に係る補正発明の
構成を容易に想到し得たものである。
(3) 小括
以上によれば,補正発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものであるから,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,
原告主張の取消事由は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 明細書の記載事項について
(1) 本願の願書に添付した明細書(以下,図面も併せて「本願明細書」という。
甲2)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図1及び図2に
ついては別紙1を参照)。
ア 【背景技術】
【0002】
フック及びループ締結具とも呼ばれる機械的締結具は,典型的に,フッ
ク部材として有用なループ係合ヘッドを有する,複数の密接に離間配置さ
れた直立突起を含み,ループ部材は,典型的に,複数の織布,不織布,又
はニットループを含む。機械的締結具は,多数の用途において,剥離可能
な付着を提供するために有用である。例えば,機械的締結具は,消耗性の
使い捨て吸収性物品において,そのような物品を人体の周囲に締結するた
めに広く使用される。典型的な構成では,おむつ又は失禁用衣類の後側腰
区域に取り付けられた締結タブ上のフックストリップ又はパッチを,例え
ば,前側腰区域のループ材料のランディング領域に締結することができる
か,又はフックストリップ又はパッチを,前側腰区域のおむつ又は失禁用
衣類のバックシート(例えば,不織布バックシート)に締結することがで
きる。機械的締結具はまた,生理用ナプキン等の使い捨て物品にも有用で
ある。生理用ナプキンは,典型的に,着用者の下着に隣接して配置される
ことが意図されるバックシートを含む。バックシートは,生理用ナプキン
を下着に固定して付着させるためのフック締結要素を備えてもよく,フッ
ク締結要素と機械的に係合する。
【0003】
フック及びループ締結装置は,剥離強度及び剪断強度の少なくとも2つ
の係合強度特性を含むことができる。剥離強度は,1つの締結部材を他の
締結部材から上方に剥離することによって,締結部材を互いから解放する
ために必要な力に相当する。剪断強度は,締結部材の少なくとも1つを締
結部材に平行な平面において,他の締結部材から離して引っ張ることによ
って,締結部材を互いから解放するために必要な力に相当する。典型的に,
締結部材の係合強度は,剥離よりも剪断においてより高い。剥離強度は,
締結部材を故意に分離する際の一要因であり得るが,典型的には,通常の
使用中の締結部材の保持には,剪断強度が関与する。
イ 【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本開示は,従来の機械的締結具及び締結装置と比べて,比較的低坪量の
機械的締結具を提供し,また機械的締結具を備える使い捨て吸収性物品も
提供する。機械的締結具の坪量を減少させることで,製造コストが低下し,
例えば,機械的締結具を含む使い捨て吸収性物品を捨てる際に廃棄される
熱可塑性樹脂の量が有利に減少する。本明細書で開示される機械的締結具
は,低坪量であるにも関わらず,剪断及び剥離試験で測定される際,ルー
プ材料に対して,高坪量の機械的締結具と同等又はより優れた係合を有す
る。使い捨て吸収性物品における材料のコスト及び量を削減するために,
使い捨て物品により頻繁に使用されている低ロフトループ材料とさえ呼ば
れるループ材料に対しても高い係合が観察される。したがって,本明細書
で開示される機械的締結具は,材料効率が高いと考えられ得る。典型的に
は,本明細書で開示される機械的締結具は,直立締結要素を有する第1の
表面及び対向する第2の表面のどちらにおいても手触りが柔らかい。
【0005】
1つの態様では,本開示は,熱可塑性裏材と,熱可塑性裏材に取り付け
られた近位端及び柱の断面積よりも広い面積のキャップを備える遠位端を
備える柱を有する,複数の直立締結要素と,を含む,機械的締結具を提供
する。機械的締結具の坪量は,1平方メートル当たり25グラム~1平方
メートル当たり75グラムの範囲であり,複数の直立締結要素の高さは,
最大300マイクロメートルである。いくつかの実施形態では,機械的締
結具の坪量は,1平方メートル当たり40グラム(gsm)~75gsm,
50gsm~75gsm,又は55~70gsmであり得る。
ウ 【発明を実施するための形態】
【0014】
ここで,本開示の実施形態がより詳細に参照され,その1つ以上の実施
例は,図面で図示される。1つの実施形態の一部として図示又は記載され
る特徴は,他の実施形態と共に使用され,第3の実施形態を得ることもで
きる。本開示はこれらの及び他の修正及び変形を含むことが意図される。
【0015】
図1を参照すると,本開示による機械的締結具は,複数の直立締結要素
11を備える熱可塑性裏材14を含み,直立締結要素11は熱可塑性裏材
14に取り付けられている。図1で図示される実施形態において示される
ように,複数の直立締結要素11は,熱可塑性裏材14に取り付けられた
近位端10a,及び柱10の断面積よりも広い面積のキャップ12を含む
遠位端10bを備える柱10を有する。キャップ12は,オーバーハング
距離「o」だけ,柱を越えて延出する。直立締結要素の高さ「h」は,図
1に示すように,熱可塑性裏材14と直立締結要素11の遠位端10bと
の間の距離である。熱可塑性裏材14の厚さ「t」その底部の柱の幅
, 「w」,
キャップのすぐ下の柱の幅「w1」,キャップの幅「w2」もまた図1で示
される。
【0016】
様々な要因が,機械的締結具の坪量に影響を及ぼす。例えば,低密度熱
可塑性ポリマーを使用すると,機械的締結具の坪量は減少する。更には,
直立締結要素の高さ「h」及び幅「w」は,機械的締結具における材料の
量に影響を及ぼすため,機械的締結具の坪量に影響を及ぼす。図示される
実施形態において,キャップにおける材料の量は,キャップの幅「w2」
に関係し,坪量にも影響を及ぼす。裏材の厚さ「t」は,機械的締結具の
坪量に大きな影響を及ぼす傾向にある。典型的には,本明細書に開示され
る機械的締結具の裏材の厚さ「t」は,20マイクロメートル(μm)~
80μmの範囲である。いくつかの実施形態では,裏材の厚さ「t」は,
30μm~75μm,40μm~75μm,20μm~70μm,又は3
0μm~70μmの範囲である。本出願で用いるために,図1に関して及
び請求項において本明細書で記載される直立締結要素の全寸法は,光学顕
微鏡で測定される。
エ 【0017】
直立締結要素の高さ「h」は,75gsm以下の坪量を維持するのに十
分に低く,ループ材料(例えば,低ロフトループ材料)に対して良好な係
合を提供する。本開示による機械的締結具において,直立締結要素11は,
最大300μmであり,いくつかの実施形態では,最大285μm,27
5μm,又は250μmの最大高さ「h」を有する。いくつかの実施形態
では,本開示による機械的締結具は,最小高さ「h」が,少なくとも40
μmであって,いくつかの実施形態では,少なくとも50μm,100μ
m,又は140μmである直立締結要素11を有する。いくつかの実施形
態では,本開示による機械的締結具は,高さ「h」が,150μm~30
0μm,40μm~285μm,100μm~275μm,140μm~
250μm,50μm~300μm,50μm~285μm,50μm~
275μm,100μm~250μm,100μm~285μm,100
μm~300μm,140μm~275μm,又は155μm~250μ
mの範囲である直立締結要素11を有する。
【0018】
典型的には,本開示による機械的締結具における直立締結要素11は,
最大約2:1,1.5:1,又は1.2:1のアスペクト比(すなわち,
高さ「h」対最大幅寸法「w」の比)を有する。柱10は,最大幅寸法「w」
が最大250μmであって少なくとも100μmである断面を有し得る。
いくつかの実施形態では,柱10は,幅寸法「w」が125μm~200
μm又は135μm~190μmの範囲である断面を有する。用語「幅寸
法」とは,円形断面を有する柱10の直径を含むと理解されるべきである。
柱10が複数の幅寸法(例えば,矩形又は楕円形の断面形状の柱)を有す
る場合,本明細書中で記載されるアスペクト比は,高さ対最大幅寸法であ
る。
【0019】
本開示による機械的締結具において,直立締結要素11は,例えば,以
下に記載される方法のいずれかによって作成されてよく,例えば,近位端
10aから遠位端10bに向かって先細りになる柱10を有し得る。近位
端10aは,図1において幅寸法が「w 1」と示されるキャップ12と近
接する柱10よりも広い幅寸法「w」を有し得る。いくつかの実施形態で
は,柱10は,100μm~200μm,120μm~195μm,又は
130μm~185μmの範囲である,キャップのすぐ下の幅寸法「w1」
を有する。先細りになっていることで,以下に記載される方法において,
柱10を型表面から容易に外すことが可能となり得る。更に,上述のアス
ペクト比は,高さ「h」対最大幅寸法「w」である。
【0020】
本明細書に記載の機械的締結要素は,典型的には,柱の断面積よりも広
い面積のキャップを有する。いくつかの実施形態では,柱の断面積は,キ
ャップのすぐ下(例えば,幅「w1」で示される点)で測定される。更に
は,形成されたキャップの幅寸法と近位端において測定された柱の幅寸法
との比率は,典型的には,少なくとも1.01:1又は1.2:1であっ
て,最大2:1であり得る。再び図1を参照すると,キャップ12は,最
大380μmであって少なくとも150μm最大幅寸法「w 2」を有し得
る。いくつかの実施形態では,キャップ12は,150μm~350μm
又は170μm~340μmの範囲の幅寸法「w2」を有する。幅寸法「w

」は,キャップを上から見て測定する。用語「幅寸法」は,円形断面を
有するキャップ12の直径を含むと理解されるべきである。キャップ12
は,複数の幅寸法を有しており(例えば,矩形又は楕円形の断面形状のキ
ャップ),「w2」は,キャップ12の最大幅部分で測定する。
【0021】
キャップ12の幅「w 2」及び遠位端10bに向かう柱10の幅は,キ
ャップオーバーハング「o」と関連する。具体的には,図示される実施形
態におけるキャップオーバーハング「o」は,式(キャップ幅「w 2」−
遠位端における柱幅)を2で割って算出される。本開示による機械的締結
具のいくつかの実施形態では,オーバーハング距離は最大90μmである。
換言すれば,オーバーハングは,柱を越えて最大90μm延出する。いく
つかの実施形態では,オーバーハングは,最大85,84μm,82μm,
又は80μmである。オーバーハングの最少量は,例えば,本明細書に開
示される機械的締結具と係合するように選択されるループの繊維直径に基
づいて選択され得る。いくつかの実施形態では,オーバーハングは,少な
くとも5μm又は10μmである。オーバーハングは,例えば,5μm~
84μm,5μm~80μm,又は5μm~75μmの範囲であり得る。
本明細書に開示される機械的締結具がパッドの固定(例えば,以下で記載
するような成人失禁物品)に使用される実施形態において,オーバーハン
グは,例えば,5μm~65μmの範囲であり得る。
【0022】
本開示による機械的締結具は,上述で算出したオーバーハング距離と高
さ「h」との比率を有する直立締結要素を有する。この比率は,直立締結
要素が剪断力に曝される際,キャップ又は柱がどの位曲がるかに関連する
ため,本明細書中では,簡便に「曲げ指数」と呼ぶ。本明細書で開示され
る機械的締結具のいくつかの実施形態では,直立締結要素は,最大0.6,
0.50,又は0.45の曲げ指数を有する。例えば,直立締結要素は,
0.02~0.6又は0.05~0.5の曲げ指数を有し得る。0.02
未満の曲げ指数においては,機械的締結具が剪断力に曝された際,柱は曲
がり,係合強度が減少し得る。0.6を超える曲げ指数においては,機械
的締結具が剪断力に曝された際,キャップが曲がり,係合強度が減少し得
る。
オ 【0023】
多くの熱可塑性樹脂材料が,本開示による機械的締結具において有用で
ある。直立締結要素を備える熱可塑性裏材において好適な熱可塑性材料と
しては,ポリエチレン及びポリプロピレンなどのポリオレフィンホモポリ
マー,エチレン,プロピレン及び/又はブチレンのコポリマー,エチレン
酢酸ビニル及びアクリル酸エチレンなどのエチレンを含有するコポリマー,
ポリ(エチレンテレフタレート),ポリエチレンブチラート及びポリエチ
レンナフタレートなどのポリエステル,ポリ(ヘキサメチレンアジポアミ
ド)などのポリアミド,ポリウレタン,ポリカーボネート,ポリ(ビニル
アルコール),ポリエチルエチルケトンなどのケトン,ポリフェニレンス
ルフィド;ポリ(アクリロニトリル− ブタジエン− スチレン);可塑化ポ
リビニルクロリド;及びこれらの混合物が挙げられる。典型的には,熱可
塑性樹脂は,ポリオレフィンである(例えば,ポリエチレン,ポリプロピ
レン,ポリブチレン,エチレンコポリマー,プロピレンコポリマー,ブチ
レンコポリマー,並びにこれらの材料のコポリマー及びブレンド)。上述
の様々な熱可塑性材料は,所望の特性(例えば,色)を有するマスターバ
ッチに処方され得るが,染料,色素,又は他の着色料が存在するか又は存
在しないかは,本開示においては,必須ではない。
【0025】
本開示による機械的締結具において,熱可塑性裏材及び直立柱は,典型
的には一体化している(すなわち,ユニット,一体型として同時に形成さ
れている)。いくつかの実施形態で,熱可塑性裏材及び直立締結要素は,
同じ熱可塑性材料から作成されている。熱可塑性裏材は,典型的には,熱
可塑性裏材に直接取り付けられる直立締結要素を備え,実質的に均一な厚
さを有し得るシート又はウェブの形状である。裏材の直立柱はダイキャス
ト成形技術によって,例えば,従来の押出し成形によって,作成すること
ができる。いくつかの実施形態では,熱可塑性材料は,直立柱の反転形状
を有する空洞を有する連続移動金型面に供給される。柱の高さは,空洞の
深さによって測定される。熱可塑性材料は,空洞を有するロールを少なく
とも1つ有する(すなわち,ロールの少なくとも一方はツールロールであ
る)2つのロール,すなわち,ダイ表面とロール表面とのニップによって
形成されるニップ間で渡すことができる。ニップにより提供される圧力が,
樹脂を空洞に押し込む。いくつかの実施形態では,真空を使用して,空洞
へのより容易な充填のために空洞を空にすることができる。ニップは,典
型的には,コヒレントな裏材が空洞の上に形成されるように,十分に大き
な空隙を有する。金型表面及び空洞は,一体形成された裏材と直立柱をス
トリッパーロール等により金型表面から剥離する前に,任意に空冷又は水
冷されてもよい。
【0028】
裏材において有用な直立柱は,裏材上に様々な高さを有してよく,この
高さは,例えば,本明細書に記載の機械的締結具の直立締結要素を提供す
るために,以下で記載されるキャッピングプロセスの後変更され得る。例
えば,直立柱は,最大400マイクロメートル(μm)であって,いくつ
かの実施形態では,最大350μm又は300μmの最大高さ(裏材上)
を有し得る。直立柱は,少なくとも150μmであって,いくつかの実施
形態では,少なくとも160μm又は175μmの最小高さを有し得る。
本開示による有用な直立柱は,150μm〜400μm又は150μm〜
350μmの範囲の高さを有し得る。
【0036】
熱可塑性裏材は,実質的に均一な断面図を有するか,又は,熱可塑性裏
材は,例えば,上述の形成ロールのうちの少なくとも1つによって付与さ
れ得る直立締結要素によって提供されるものを超える追加の構造を有し得
る。
【0037】
いくつかの実施形態では,上述の押出成形及び注型成型プロセスにおい
て,2つのロールの間又はダイフェイスとロールとの間のニップの空隙に
よって,本明細書で開示される機械的締結具において,20μm〜80μ
mの範囲の熱可塑性裏材の厚さが得られる。無端金属ベルト又はポリマー
ベルト,若しくはポリマーコーティングされた金属ベルトが,ニップにお
いて均一な圧力を与えるのに有用であり得る。
【0038】
いくつかの実施形態では,本開示による機械的締結具は,裏材の厚さを
20μm〜80μmの範囲にするために,最初に形成される熱可塑性裏材
を延伸させる工程を含む方法によって作成される。延伸は,ウェブの二軸
方向又は一軸方向に対して行える。二軸方向の延伸は,熱可塑性裏材の平
面において,2つの異なる方向での延伸を意味する。必ずしもそうではな
いが,典型的には,1つの第1の方向は長手方向「L」であり,もう1つ
の第2の方向は幅方向「W」である。二軸方向の延伸は,例えば,第1又
は第2の方向のいずれかに,続いて第1又は第2の方向の他方に,熱可塑
性裏材を延伸することによって順次行ってもよい。二軸方向の延伸は,双
方の方向において,実質的に同時に行われてよい。一軸方向の延伸は,熱
可塑性裏材の平面において,1つの方向のみでの延伸に関する。典型的に
は,一軸方向の延伸は「L」又は「W」のうちの1つの方向に行われるが,
他の方向の延伸も可能である。
カ 【0056】
図2は,本開示による吸収性物品の1つの実施形態の概略斜視図である。
吸収性物品は,実質的に砂時計形状を有するおむつ60である。おむつは,
着用者の皮膚と接触する液体透過性トップシート61と外側に向いた液体
非透過性バックシート62との間に吸収性コア63を含む。おむつ60は,
おむつ60の2つの長手方向縁部64a,64bに配置された2つの締結
タブ70を有する後側腰区域65を有する。おむつ60は,レッグカフを
提供するために長手方向の側縁64a及び64bの少なくとも一部分に沿
った弾性素材69を含んでよい。吸収性物品(例えば,おむつ60)の長
手方向「L」は,物品がユーザーの前側から後側に延出する方向を指す。
したがって,長手方向は,後側腰区域65と前側腰区域66との間の吸収
性物品の長さを指す。吸収性物品(例えば,おむつ60)の横方向は,物
品がユーザーの左側から右側(あるいは逆もまた同様)に(即ち,図2の
実施形態では,長手方向縁部64aから長手方向縁部64bまで)延出す
る方向を指す。
【0058】
図2に示される実施形態は,締結タブが取り付けられた吸収性物品であ
るが,本明細書に開示される機械的締結具は,より広いフック領域を有す
る吸収性物品にも等しく有用であることが想定される。例えば,吸収性物
品の耳はそれ自体,本明細書で開示される機械的締結具を含むことができ
るか,又は吸収性物品は,一方の腰区域内にバックシートの長手方向縁部
に沿ったループ材料の2つの標的ゾーンと,反対の腰区域内に吸収性物品
の長手方向縁部に沿って延出する2つのフックストリップと,を有するこ
とができる。
キ 【0062】
他の実施形態では,本開示による機械的締結具は,例えば,少なくとも
1つのトップシート,吸収性コア,及び機械的締結具を含むバックシート
を有する吸収性パッドにおいても有用であり得る。バックシートは,直立
したキャップが形成された柱とともに形成され得る。他の実施形態では,
機械的締結具は,接着剤又は他の結合機構を使用してバックシートに取り
付けられるストリップ又はパッチの形態であり得る,吸収性パッドは,例
えば,図2で示されるような一般的な形状を有する解放型おむつ又はパン
ツ型おむつの形態であり得る成人用失禁物品において有用であり得る。こ
れらの実施形態では,機械的締結具は,成人用失禁物品のトップシートに
吸収性パッドを取り付けるのに有用であり,適切な剪断力は,機械的締結
具の剥離強度が使用者又は介護者によってパッドを容易に取り外すのに十
分なほど低くあるべきであるが,パッドを定位置に保持するのに有用であ
る。他の実施形態では,本開示による機械的締結具を含む吸収性パッドは,
尿を吸収するという目的において,使用者の衣類に直接取り付けられ得る。
フック密度及びフック高さを増加させることは,ループ材料との係合を増
加させるのに有用であり(例えば,国際公開第2006/101844号
(Petersenら),かかる変化は機械的係合部材の坪量を増加させ
る傾向があると従来から考えられている。本開示による機械的締結具は,
低坪量であるにもかかわらず,低ロフトループ材料に対して驚くほど高い
剪断性能及び剥離性能をもたらすことが今では判明している。以下の実施
例で示すように,本開示による機械的締結具は,低ロフトループ材料と係
合するように設計される市販のフック締結具と同等か又はそれを超えるル
ープ材料への係合を提供する。
【0063】
本明細書で開示される機械的締結具が低坪量であることで,締結具が可
撓性となる利点が提供され,これによって,機械的締結具部材がねじれる
際に機械的締結具の係合が解放されてしまう傾向が削減される。本明細書
に開示される機械的締結具は,低坪量であって,典型的には低粘度である
ために,典型的には柔らかく(例えば,布のような感触であり得る),使
用者の皮膚への刺激を少なくできる(例えば,機械的締結具が吸収性物品
上にある際)。本明細書に開示される機械的締結具は,必要とする材料が
少ないため,製造にかかる費用が少ない。
【0064】
本開示による機械的締結具と高坪量を有する機械的締結具の例との柔軟
性の比較が,以下の実施例29及び例示的実施例6で示される。ループの
柔軟性において評価すると,本開示による機械的締結具は,ベースフィル
ムがより厚く,キャップが形成された柱がより高い機械的締結具より,著
しく低かった。
【0065】
意外にも,本開示のいくつかの実施形態による機械的締結具は,同寸法
ではあるがより厚い熱可塑性裏材及びより高い密度を有する締結要素を有
する機械的締結具と比較して,剪断性能が向上していた。例えば,以下の
実施例おける例示的実施例4と実施例3との比較,及び例示的実施例5と
実施例4との比較において,直立要素の密度が半分まで削減されているに
もかかわらず,熱可塑性裏材の延伸が増加し,厚さが減少し,剪断性能が
予想外に向上していることを示している。
(2) 前記(1)の記載事項によれば,本願明細書には,「本開示による機械的締
結具」は,従来の機械的締結具及び締結装置と比べて,比較的低坪量の機械
的締結具であり,坪量を減少させることで,製造コストが低下し,例えば,
機械的締結具を含む使い捨て吸収性物品を捨てる際に廃棄される熱可塑性樹
脂の量が有利に減少し,しかも,低坪量であるにも関わらず,剪断及び剥離
試験で測定される際,ループ材料に対して,高坪量の機械的締結具と同等又
はより優れた係合を有するため,材料効率が高いことが開示されていること
が認められる。
2 引用文献の記載事項について
(1) 引用文献(甲1)には,次のような記載がある(下記記載中に引用する図
1ないし図3については別紙2を参照)。
ア 【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,メカニカルホックのオス側シート材に関
し,詳しくは,接着面の全ての方向における高い係合力を発揮しうると共
に,剥離に対する方向性を付与できるメカニカルホックのオス側シート材
に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】通常,メカニカルホック
は,オス型係合部を有するオス側シート材とループ状メス型係合部を有す
るメス側シート材とを接着・剥離させるか,またはオス側シート材どうし
を接着・剥離させることにより,止着具として機能するもので使い捨てオ
ムツや衣料等の分野に広く用いられている。このようなメカニカルホック
のオス側シート材として,特表平8− 508910号公報には,支持部(基
材シート)から突出するステム(幹部)と,支持部とは反対側のステム先
端に形成される円板状のヘッドとからなるフックを,支持部上に高密度に
複数配列したものが開示されている。しかし,これらフックのヘッド上面
の向きは接着面において方向性がないため,このオス側シート材は,接着
面における方向の違いで係合力/脱着感を変られないという欠点がある。
そのためおむつに適用される場合,このオス側シート材は,胴回り方向に
は高い係合力を与え,テープを付け剥がす方向(胴回り方向と直角の方向)
にはソフトな脱着感を持たせることができない。また,このオス側シート
材は,そのヘッドが円板状で角がなくヘッドとステム(の軸線)とのなす
角度が大きいため,接着相手材のループ状メス型係合部やオス型係合部と
の引っかかりが悪く高い係合力を付与できないという欠点もある。
【0003】また,特開平2− 5947号公報には,オス型係合部のヘッ
ドが鉤状に形成されたオス側シート材が開示されている。しかし,このオ
ス側シート材は,その鉤状のヘッドが幹部の上端を覆うように張り出して
いないため,接着面の全方向に対して十分な係合力を付与できないという
欠点がある。
【0004】更に,特開平6− 133808号公報には,断面がT状また
はL状のオス型係合部を有するオス側シート材が開示されている。しかし,
このオス側シート材も,そのヘッドがステムの全周方向に張り出してなく
ヘッドと支柱(幹部)とのなす角度も大きいため,接着面の全方向に対し
て十分な係合力を得られないという欠点がある。
【0005】従って,本発明の目的は,接着面の全ての方向における高い
係合力を発揮しうると共に,剥離に対する方向性を付与できるメカニカル
ホックのオス側シート材を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は,基材シート上にオス型係合部が
高密度に配されてなる,メカニカルホックのオス側シート材において,上
記オス型係合部は,上記基材シートから突出する幹部と,該幹部の上端に
該幹部を覆って形成された平のし屋根形状のヘッドとからなり,上記ヘッ
ドは,その上面が上記基材シートと略平行であり,上記平のし屋根形状の
ヘッドにおける軒状部分の下面と上記基材シートに対する鉛直線とのなす
角度が鋭角となるように形成されており,上記ヘッドの第一横方向の長さ
及びそれに直角な第二横方向の長さが,それぞれ,該第一横方向と平行な
上記幹部の第一横方向の長さ及びそれに直角な第二横方向の長さより長く,
上記幹部の第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異なっており,
また,
上記ヘッドの第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異なっていること
を特徴とするメカニカルホックのオス側シート材を提供することにより,
上記目的を達成したものである。
イ 【0007】
【発明の実施の形態】以下,本発明のメカニカルホックのオス側シート材
について,添付図面を参照して説明する。図1は本発明のメカニカルホッ
クのオス側シート材の一実施形態を示す拡大斜視図でオス型係合部一個の
みを示しており,図2(a)及び(b)は,それぞれ図1に示すオス型係
合部の第二横方向及び第一横方向視拡大側面図,図3は図1に示すオス型
係合部の基材シート上における配列状態の一部を基材シートを省略して示
す拡大平面図である。
【0008】図1及び図2に示すメカニカルホックのオス側シート材1は,
基材シート2上にオス型係合部3が高密度に配されてなるものである。こ
のような構成は,従来公知のメカニカルホックのオス側シート材と同様で
ある。
【0009】而して,本実施形態においては,上記オス型係合部3は,上
記基材シート2から突出する幹部4と,該幹部4の上端に該幹部4を覆っ
て形成された平のし屋根形状のヘッド5とからなり,上記ヘッド5は,そ
の上面が上記基材シート2と略平行であり,上記平のし屋根形状のヘッド
5における軒状部分6の下面と上記基材シート2に対する鉛直線とのなす
角度が鋭角となるように形成されており,上記ヘッド5の第一横方向の長
さ及びそれに直角な第二横方向の長さが,それぞれ,該第一横方向と平行
な上記幹部4の第一横方向の長さ及びそれに直角な第二横方向の長さより
長く,上記幹部4の第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異なってお
り,また,上記ヘッド5の第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異な
っている。
【0010】更に詳述すると,上記幹部4は,その横断面は長方形状で,
その軸線は上記基材シート2に対する鉛直線と平行となっている。また,
上記ヘッド5は平面視において長方形状である。
【0011】上記平のし屋根形状のヘッド5における軒状部分6の下面と
上記基材シート2に対する鉛直線とのなす角度(θ) 好ましくは90゜
は,
未満であり,更に好ましくは30~90゜未満である。該角度(θ)がこ
の範囲内にあれば,オス型係合部3は接着相手材のループ状メス型係合部
を十分に引掛け外れないようにすることができる。該角度(θ)が30゜
未満では,係合力が急増大するが,着脱時のバリバリ感を払拭し難く,ま
た接着相手材のループ状メス型係合部を破損し易く,繰り返し脱着性に劣
る。また該角度(θ)が90°以上であると,係合力が大幅に低下する。
【0012】上記ヘッド5の第一横方向及び第二横方向の長さ(W,C)
は,それぞれ,上記幹部4の第1横方向及び第2横方向の長さ(D,B)
より好ましくは0.01~1mm長く,更に好ましくは0.02~0.6
mm長い。この長さの違いが0.01mm未満では接着相手材のループ状
メス型係合部が該ヘッド5から外れ易くなり,また1.0mmを越えると,
反対に,接着相手材のループ状メス型係合部が係合過剰になり外れ難く,
一つの該ヘッド5の占めるスペースが過大で該オス型係合部3の数の不足
ともなる。
【0013】上記幹部4の第一横方向及び第二横方向の長さ(D,B)は,
好ましくは0.05~0.8mmであり,更に好ましくは0.1~0.5
mmである。それぞれの長さ(D,B)がこの範囲内にある幹部4は,剥
離方向に対し十分な厚みを有するため倒れにくく,メカニカルホックに高
い係合力を与えられる。該幹部4は,それぞれの長さ(D,B)が0.0
5mm未満だと脆弱で,また0.8mmより長いとゴツイものとなり易い。
【0014】また,上記幹部の第一横方向の長さ(D)は第二横方向の長
さ(B)より好ましくは0.01~0.5mm長く,更に好ましくは0.
02~0.3mm長い。この長さの違いが0.01mm未満であると,剥
離に対する十分な方向性を付与し難く,0.5mmを越えると,第一横方
向への剥離のとき,第二横方向に倒れ易くなり,十分な係合力が得られな
い。
【0015】上記ヘッドの第一横方向及び第二横方向の長さ(W,C)は,
自ずと規定されることだが,それぞれ好ましくは0.1~1.8mmであ
り,更に好ましくは0.1~1.1mmである。また,上記ヘッドの第一
横方向の長さ(W)は第二横方向の長さ(C)より好ましくは0.01~
0.5mm長く,更に好ましくは0.02~0.3mm長い。この長さの
違いが0.01mm未満であると,剥離に対する十分な方向性を付与し難
く,0.5mmを越えると,第一横方向への剥離のとき,第二横方向に倒
れ易くなり,ループ状メス型係合部がはずれ易くなり,十分な係合力が得
られない。
ウ 【0016】上記オス型係合部3の高さ(H1 )は,好ましくは0.1
~1.5mmであり,更に好ましくは0.2~1.2mmである。また,
上記幹部4の高さ(H 2 )は,好ましくは0.05~1.2mmであり,
更に好ましくは0.1~1mmである。該高さ(H1 )が,1.5mmを
越えると,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材を得難い。該
高さ(H2 )が,0.05mmより低いと,接着相手材のループ状メス型
係合部への該オス型係合部3の挿入性が悪くなる。該高さ(H 1 )と該高
さ(H2 )との差,即ち上記ヘッド5の中央部の厚さは,好ましくは0.
01mm以上,更に好ましくは0.02mm以上である。該厚さが0.0
1mm未満であると,該ヘッド5の中央部が薄くなり過ぎて,該オス型係
合部3は薄弱になり係合力に不足し易い。
【0017】上記オス型係合部3,3・・は,図3に示すように,上記基
材シート2上に碁盤目状態に均一に分散しており,その密度は,好ましく
は60個/cm2 以上であり,更に好ましくは80~800個/cm2 であ
る。該密度が60個/cm2未満では高い係合力を得難く,表面滑らかなオ
ス側シート材を得難い。また該密度が800個/cm2 を越えると接着相
手材のループ状メス型係合部が侵入する上記オス型係合部3間のスペース
が不足してやはり高い係合力を得難い。
【0018】また,上記ヘッド5,5・・の第一横方向及び第二横方向は,
それぞれ同一方向を向いている。そして,該ヘッド5,5間の第一横方向
の間隔(P1 )及び第二横方向の間隔(P2 )は,該ヘッド5の形状や大き
さによって異なるが,より高い係合力を得るためには,該間隔(P1)は,
0.01~5mmであることが好ましく,0.05~2mmであることが
更に好ましい。また,該間隔(P2)は,0.01~5mmであることが
好ましく,0.05~2mmであることが更に好ましい。
【0019】ここで,上記オス側シート材1を構成する材料は,特に制限
されず,従来公知のものを適宜用いることができる。例えば,ポリエチレ
ン,ポリプロピレン等のオレフィン類,ポリエチレンテレフタレート,ポ
リブチレンテレフタレート等のポリエステル類,ナイロン,ポリウレタン,
また,スチレン系,オレフィン系,ウレタン系,エステル系,ポリアミド
系等の各種の熱可塑性エラストマーなどを単独若しくは混合して用いられ
る。
【0020】また,上記オス側シート材1の製造方法は,特に制限されな
いが,例えば,上記基材シート2上に上記幹部4を押し出し成形により形
成し,該幹部4とは別体に成形された上記ヘッド5を,適当な手段で該幹
部4の上端に融着させて該オス側シート材1を形成する方法等が挙げられ
る。
エ 【0021】また,上記基材シート2の厚みは,0.01~0.5mm
であることが好ましく, 02~0.
0. 4mmであることが更に好ましい。
該厚みが0.01mm未満だと,上記オス側シート材1は,オス側シート
材としての基材物性を満たし難く,成形性も悪くなる。また,該厚みが0.
5mmを超えると,該オス側シート材1の屈曲性が悪くなる。
【0022】本実施形態のメカニカルホックのオス側シート材1によれば,
上記オス型係合部3の上記ヘッド5が角を有し,且つ該ヘッド5の軒状部
分6の下面と上記基材シート2に対する鉛直線とのなす角度が鋭角なため,
該オス型係合部3が接着相手材のループ状メス型係合部と良く係合し,高
い係合力を得ることができる。また,上記ヘッド5が上記幹部4から上記
基材シート2に平行な全方向(接着面に平行でもある)に張り出している
ので,上記オス型係合部3は方向性なく接着相手材のループ状メス型係合
部と係合し,接着面の全ての方向における高い係合力を得られると共に,
上記オス型係合部3の第一横方向及び第二横方向の長さが異なるため剥離
に対する方向性を得ることができる。更に,本実施形態のオス側シート材
1は,上記オス型係合部3が微細で高密度に上記基材シート2上に配され
ており,且つ,上記ヘッド5上面が平坦なため,きめ細かな外観・風合,
及び心地よい手触り・肌触を有する。また更に,本実施形態のオス側シー
ト材1は,極薄手で屈曲性に優れ,縫製やウェルダー等による取り付け加
工性にも優れている。
【0023】本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく,具体
的な形状や寸法等は,本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜変更可
能である。例えば,上記実施形態において,上記幹部の横断面を楕円形状
としても良く,また該幹部の軸線は,上記基材シートに対する鉛直線と平
行でなくとも良い。また,上記実施形態において,オス型係合部のヘッド
形状を丸瓦形状としても良い。更に,上記実施形態において,隣合うオス
型係合部の長手方向の向きを交互に約90゜変えて,接着面と平行な方向
に回転する力を加わえた時に,剥離し易くなるようにしても良い。また更
に,上記実施形態において,オス型係合部を基材シート上に均一に分散さ
せた状態としては,碁盤目状態に限らず,第一横方向及び第二横方向それ
ぞれにおけるオス型係合部間の間隔が均一になる状態であれば良い。
【0024】尚,本発明のメカニカルホックのオス側シート材と接着され
る接着相手材としては,通常,ループ状メス型係合部を有するメス側シー
ト材が用いられるが,本発明のオス型係合部を有するオス側シート材を接
着相手材として用いることができる。また,本発明のメカニカルホックの
オス側シート材は,使い捨てオムツの止着具等に特に好適である。
オ 【0025】
【発明の効果】本発明のメカニカルホックのオス側シート材は,接着面の
全ての方向における高い係合力を発揮しうると共に,剥離に対する方向性
を付与できる。
(2) 前記(1)の記載事項によれば,引用文献には,次のような開示があること
が認められる。
ア 支持部(基材シート)から突出するステム(幹部)と,支持部とは反対
側のステム先端に形成される円板状のヘッドとからなるフックを,支持部
上に高密度に複数配列した構成の従来のメカニカルホックのオス側シート
材には,フックのヘッド上面の向きは接着面において方向性がないため,
接着面における方向の違いで係合力/脱着感を変られず,また,そのヘッ
ドが円板状で角がなくヘッドとステム(の軸線)とのなす角度が大きいた
め,接着相手材のループ状メス型係合部やオス型係合部との引っかかりが
悪く,高い係合力を付与できないという欠点があり,オス型係合部のヘッ
ドが鉤状に形成された従来のオス側シート材及び断面がT状又はL状のオ
ス型係合部を有するオス側シート材についても,接着面の全方向に対して
十分な係合力を付与できないという欠点があった 【0002】
( ないし【0
004】)。
イ 「本発明」は,接着面の全ての方向における高い係合力を発揮しうると
共に,剥離に対する方向性を付与できるメカニカルホックのオス側シート
材を提供することを目的とし,上記目的を達成するために,基材シート上
にオス型係合部が高密度に配されてなる,メカニカルホックのオス側シー
ト材において,上記オス型係合部は,上記基材シートから突出する幹部と,
該幹部の上端に該幹部を覆って形成された平のし屋根形状のヘッドとから
なり,上記ヘッドは,その上面が上記基材シートと略平行であり,上記平
のし屋根形状のヘッドにおける軒状部分の下面と上記基材シートに対する
鉛直線とのなす角度が鋭角となるように形成され,上記ヘッドの第一横方
向の長さ及びそれに直角な第二横方向の長さが,それぞれ,該第一横方向
と平行な上記幹部の第一横方向の長さ及びそれに直角な第二横方向の長さ
より長く,上記幹部の第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異なって
おり,また,上記ヘッドの第一横方向の長さと第二横方向の長さとは異な
っていることを特徴とするメカニカルホックのオス側シート材の構成を採
用した(【0005】,【0006】)。
これにより「本発明」のメカニカルホックのオス側シート材は,接着面
の全ての方向における高い係合力を発揮しうると共に,剥離に対する方向
性を付与できるという効果を奏するものである(【0025】)。
3 相違点1及び2の容易想到性の判断の誤りについて
(1) 動機付けについて
ア 引用発明は,「ポリエチレン,ポリプロピレン等のオレフィン類,ポリ
エチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル
類等を材料」とする基材シート2と,基材シート2に取り付けられる近位
端と,幹部4の断面積よりも広い面積のヘッド5を含む遠位端を備える幹
部4と,を有する,複数のオス型係合部3とを含み,基材シート2は「0.
02~0.4mm」の範囲の厚さ,複数のオス型係合部3の高さは「0.
2~1.2mm」の範囲のオス側シート材1である(前記第2の3(2)ア)。
しかるところ,引用文献の【0016】には,「上記オス型係合部3の
高さ(H1)は,好ましくは0.1~1.5mmであり,更に好ましくは
0.2~1.2mmである。また,上記幹部4の高さ(H2 )は,好まし
くは0.05~1.2mmであり,更に好ましくは0.1~1mmである。
該高さ(H1)が,1.5mmを越えると,薄くてきめ細やかで表面滑ら
かなオス側シート材を得難い。該高さ(H 2 )が,0.05mmより低い
と,接着相手材のループ状メス型係合部への該オス型係合部3の挿入性が
悪くなる。該高さ(H1)と該高さ(H2)との差,即ち上記ヘッド5の中
央部の厚さは,好ましくは0.01mm以上,更に好ましくは0.02m
m以上である。該厚さが0.01mm未満であると,該ヘッド5の中央部
が薄くなり過ぎて,該オス型係合部3は薄弱になり係合力に不足し易い。」
(【0016】)との記載がある。上記記載中の「該高さ(H1)が,1.
5mmを越えると,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材を得
難い」との部分は,「薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材」
が望ましいことを前提とするものと理解できる。そして,オス型係合部3
は,「上記基材シート2から突出する幹部4と,該幹部4の上端に該幹部
4を覆って形成された平のし屋根形状のヘッド5とからなり」(【000
9】),オス側シート材1の厚さは,基材シート2の厚さとオス型係合部
3の高さとを合算したものであるから,引用発明において薄くてきめ細や
かで表面滑らかなオス側シート材1を得るためには,基材シート2の厚さ
及びオス型係合部3の高さのいずれをも小さくする必要があることを理解
できる。
次に,引用文献には,【0021】に「また,上記基材シート2の厚み
は,0.01~0.5mmであることが好ましく,0.02~0.4mm
であることが更に好ましい。該厚みが0.01mm未満だと,上記オス側
シート材1は,オス側シート材としての基材物性を満たし難く,成形性も
悪くなる。また,該厚みが0.5mmを超えると,該オス側シート材1の
屈曲性が悪くなる。」,【0022】に「…また更に,本実施形態のオス
側シート材1は,極薄手で屈曲性に優れ,縫製やウェルダー等による取り
付け加工性にも優れている。」との記載がある。上記記載から,基材シー
ト2の厚みが0.01mm未満であると,オス側シート材としての基材物
性を満たし難く,成形性も悪くなる一方で,その厚みが0.5mmを超え
ると,オス側シート材1の屈曲性が悪くなること,オス側シート材1は,
「極薄手」であることで「屈曲性に優れ」るという利点をもたらすことを
理解できるから,上記記載は,基材シート2の厚みは,好ましいとされる
「0.02~0.4mm」の範囲内で「極薄手」とすることにより「屈曲
性に優れ」,縫製やウェルダー等による取り付け加工性にも優れたオス側
シート材1を得られることを示唆するものといえる。
以上によれば,引用文献の上記各記載から,引用文献に接した当業者に
おいては,屈曲性に優れたオス側シート材1を得るために,基材シート2
の厚み及びオス型係合部3の高さを,それぞれの好ましいとされた範囲内
でより小さな値とし,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付け
があるものと認められる。
イ これに対し原告は,①引用文献の【0016】の「上記オス型係合部3
の高さ(H1)は,好ましくは0.1~1.5mmであり,更に好ましく
は0.2~1.2mmである。…該高さ(H 1)が,1.5mmを越える
と,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材を得難い。」の記載
は,「オス型係合部3の高さ(H1)」が「1.5mm」を越えなければ
「薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材」を得られると述べて
いるに過ぎないこと,②引用文献の【0022】には「また更に,本実施
形態のオス側シート材1は,極薄手で屈曲性に優れ,縫製やウェルダー等
による取り付け加工性にも優れている。」との記載があるが,引用文献に
おいては,「極薄手」にいう「薄」の文言は,「オス型係合部3」につい
てのみ用いられていることなどに照らすと,上記記載は,「1.5mm」
を越えない「オス型係合部3」を意図した記載である蓋然性が高いことか
らすれば,引用文献の【0016】及び【0022】の記載は,引用発明
の「オス側シート材1」の厚さを薄くすることを示唆するものとはいえな
い旨主張する。
しかしながら,前記アのとおり,引用文献の【0016】の記載は,「薄
くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材」が望ましいことを前提と
するものと理解できる。また,引用文献の【0022】の記載が,オス側
シート材1が「極薄手で屈曲性に優れ」る旨の記載であることは,その文
言から明らかである。そして,引用文献の【0016】及び【0022】
等の記載から,当業者において,引用発明の「オス側シート材1」の厚さ
を薄くするという動機付けがあるものと認められることは,前記アのとお
りである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 相違点1の容易想到性について
ア 引用発明の基材シート2の厚さは,0.02~0.4mm(20~40
0マイクロメートル)の範囲のものであり(引用文献の【0021】),
当業者は,この範囲内の値を適宜選択し得るものである。
しかるところ,引用文献には,相違点1に係る補正発明の構成の上限値
80マイクロメートルという具体的な値の示唆はないが,前記(1)ア認定の
とおり,引用文献に接した当業者においては,引用発明において,オス側
シート材1の厚さを薄くするという動機付けがあり,引用発明の基材シー
ト2の厚さについて,20~400マイクロメートルの範囲の中でより小
さい方の値を選択することが自然に想到されるといえるから,当業者が8
0マイクロメートル以下の値を選択することに格別の困難はないというべ
きである。
したがって,当業者は,引用発明において,基材シート2の厚さを20
マイクロメートルから80マイクロメートルの範囲内の値を適宜選択し,
相違点1に係る補正発明の構成の範囲の値とすることを容易に想到するこ
とができたものと認められる。
イ これに対し原告は,引用文献の【0021】の記載から,当業者は,基
材シート2の厚さが,0.5mm(500マイクロメートル)を超えない
「オス側シート材」であれば,「屈曲性が悪く」ないこと又は「屈曲性に
優れる」ことを理解できたとしても,補正発明の「熱可塑性裏材」の厚さ
は「20マイクロメートル~80マイクロメートルの範囲」であり,その
上限値は引用発明の「基材シート2」の厚さの数分の1であることに照ら
すと,「基材シート2」の厚さを補正発明の「熱可塑性裏材」の厚さの数
値範囲に積極的に設定することに格別の困難性がないということはできな
い旨主張する。
しかしながら,前記アのとおり,引用文献に接した当業者においては,
引用発明において,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けが
あり,引用発明の基材シート2の厚さについて,20~400マイクロメ
ートルの範囲の中でより小さい方の値を選択することが自然に想到される
といえるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(3) 相違点2の容易想到性について
ア 引用文献の【0016】には,「上記オス型係合部3の高さ(H1)は,
好ましくは0.1~1.5mmであり,更に好ましくは0.2~1.2m
mである。また,上記幹部4の高さ(H2)は,好ましくは0.05~1.
2mmであり,更に好ましくは0.1~1mmである。該高さ(H1)が,
1.5mmを越えると,薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材
を得難い。該高さ(H 2)が,0.05mmより低いと,接着相手材のル
ープ状メス型係合部への該オス型係合部3の挿入性が悪くなる。」との記
載がある。上記記載から,引用発明のオス型係合部3の高さが高すぎると,
薄くてきめ細やかで表面滑らかなオス側シート材を得難く,低すぎると,
オス型係合部3の挿入性が悪くなることを理解できる。
引用発明のオス型係合部3の高さは,0.2~1.2mm(200~1
200マイクロメートル)の範囲のものであり(引用文献の【0016】 ,

当業者は,この範囲内の値を適宜選択し得るものである。
しかるところ,引用文献には,相違点2に係る補正発明の構成の上限値
300マイクロメートルという具体的な値の示唆はないが,前記(1)ア認定
のとおり,引用文献に接した当業者においては,引用発明において,オス
側シート材1の厚さを薄くするという動機付けがあり,200~1200
マイクロメートルの範囲の中でより小さい方の値を選択することが自然に
想到されるといえるから,当業者が300マイクロメートル以下の値を選
択することに格別の困難はないというべきである。
したがって,当業者は,引用発明において,オス型係合部3の高さを「2
00マイクロメートルから300マイクロメートル」の範囲内で適宜選択
し,相違点2に係る補正発明の構成の範囲(「40マイクロメートル~3
00マイクロメートルの範囲」)の値とすることを容易に想到することが
できたものと認められる。
イ これに対し原告は,①引用文献の【0016】の記載によれば,「オス
型係合部3の高さ」が「1.2mm」(1200マイクロメートル)であ
る「オス側シート材」は既に「薄くて」と扱われていること,補正発明の
「直立締結要素」の高さの上限値(300マイクロメートル)は,引用発
明の「オス型係合部3」の高さの上限値の数分の1であることに照らすと,
「オス型係合部3」の高さを補正発明の「直立締結要素」の高さの数値範
囲に積極的に設定することに格別の困難性がないということはできない,
②ましてや,引用文献記載のオス側シート材は高い係合力の発揮を主たる
課題としていること,高さが低い「オス型係合部」の係合力が低いことは
技術常識であったことに照らすと,引用発明の「オス型係合部3」の高さ
と「シート基材2」の厚みの両方についてそれぞれの上限値の数分の1と
し,相違点1及び2に係る補正発明の構成を兼ね備えた発明を導き出すこ
とが,当業者にとって容易であったということはできない旨主張する。
しかしながら,前記(1)アのとおり,引用文献に接した当業者においては,
引用発明において,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けが
あり,引用発明のオス型係合部3の高さについて,200~1200マイ
クロメートルの範囲の中でより小さい方の値を選択することが自然に想到
されるといえるから,上記①の点は理由がない。
また,引用文献の【0016】の記載から,オス型係合部3の高さ(H1)
が好ましいとされる範囲の下限の0.2mmに設定したとしても,0.0
5mm以上の幹部4の高さ(H2)を確保するとともに,0.01mm以上
のヘッド5の中央部の厚さを確保することが可能であり,これによりオス
型係合部3の係合力に不足しないことを理解できること,オス型係合部の
係合力は,オス型係合部の各部の形状や寸法,オス型係合部が係合する対
象の形状や寸法等に応じて,様々に変化し得るものであることは技術常識
であると認められることに照らすと,高さが低いオス型係合部の係合力が
必ずしも低いとはいえないから,上記②の点も理由がない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上によれば,本件審決における相違点1及び2の容易想到性の判断に誤
りはない。
4 相違点3の容易想到性の判断の誤りについて
(1) 引用文献には,オス側シート材1の坪量について直接の記載はないが,坪
量は1平方メートル当たりの重さであり,オス側シート材1の材料の密度と
寸法に基づいて算出することが可能であるから,引用文献の記載に基づき,
引用発明について通常想定される坪量について検討する。
ア オス側シート材1の材料及び密度について
引用発明は,「ポリエチレン,ポリプロピレン等のオレフィン類,ポリ
エチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル
類等を材料」とする「基材シート2」と,複数の「オス型係合部3」を含
む「オス側シート材1」である。
そして,引用文献の【0019】の「上記オス側シート材1を構成する
材料は,特に制限されず,従来公知のものを適宜用いることができる。例
えば,ポリエチレン,ポリプロピレン等のオレフィン類,ポリエチレンテ
レフタレート,ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル類,ナイロ
ン,ポリウレタン,また,スチレン系,オレフィン系,ウレタン系,エス
テル系,ポリアミド系等の各種の熱可塑性エラストマーなどを単独若しく
は混合して用いられる。」との記載から,オス側シート材1を構成する材
料は,従来公知のものを適宜用いることができることを理解できる。
そして,引用文献の【0002】に引用された公知文献である乙2(特
表平8-508910号公報)には,「好ましい熱可塑性樹脂は,17.
5%のポリエチレンを含有するとともにメルトフローインデックスが30
の,テキサス州ヒューストンのシェルオイルカンパニーからSRD7-4
63として入手可能な,ポリプロピレンとポリエチレンとのランダムコポ
リマーである。」(12頁10行目~13行目)との記載があること,乙
7(特開2003-250609号公報)には,メカニカルファスナーの
フックストリップの材料として,「例えば,汎用樹脂と称される,ポリプ
ロピレン,ポリエチレン(例えば高密度ポリエチレン),ポリスチレン,
ポリ塩化ビニル…等,その他を有利に使用することができる。」(【00
26】)との記載があることに照らすと,本願の優先日当時,ポリエチレ
ン又はポリプロピレンは,メカニカルファスナーに一般的に用いられる熱
可塑性樹脂材料として知られていたことが認められる。
そこで,オス側シート材1の材料として,ポリエチレン又はポリプロピ
レンを想定する。
そして,乙3(高野菊雄「これでわかるプラスチック技術」(平成8年
刊行)71,75頁)によれば,ポリエチレンの密度は約0.91~0.
97g/cm3,ポリプロピレンの密度は0.90~0.91g/cm3で
あることは,本願の優先日当時,技術常識であったことに照らすと,ポリ
エチレン又はポリプロピレンの密度の値は,上記各数値の範囲内の0.9
1g/cm3を用いることとする。
イ オス側シート材1の坪量について
前記3(1)ア認定のとおり,引用文献に接した当業者においては,屈曲性
に優れたオス側シート材1を得るために,基材シート2の厚み及びオス型
係合部3の高さを,それぞれの好ましいとされた範囲内でより小さな値と
し,オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けがあるものと認め
られる。
また,製品に用いる材料の量を少なくして製造の費用を少なくすること
は周知の課題の一つであることに鑑みると,引用発明では,オス型係合部
3の高さ以外の寸法や単位面積当たりのオス型係合部3の数等は特定され
ていないが,これらの具体的な数値についても,当業者は,引用文献に記
載された好ましいとされる数値範囲(【0012】ないし【0015】,
【0017】等)のうちで小さい方の値を選択することを自然に想到する
ものと認められる。
以上を前提に,引用発明のオス側シート材1の通常想定される坪量を算
定すると,通常想定されるオス側シート材1の坪量は,被告主張のとおり
(前記第3の2(2)イ(ウ)),約19.9~約42.7g/m2の範囲とな
る。
(計算式)
a 基材シート2の坪量
(100cm)2×基材シート2の厚さ×0.91g/cm3=18.2
g/㎡
b オス型係合部3の坪量
(100cm)2×オス型係合部3の1個当たりの体積×オス型係合部
3の分散密度×0.91g/cm3≒約1.7~約24.5g/㎡
c オス側シート材1の坪量
a+b=約19.9~約42.7g/m2
(2)ア 前記(1)の認定事実によれば,引用文献に接した当業者は,オス側シー
ト材1の厚さを薄くするという動機付けに基づいて,引用発明の基材シー
ト2の厚み及びオス型係合部3の高さをそれぞれの好ましいとされた範囲
内でより小さな値を選択すれば,オス型係合部3の高さ以外の寸法や単位
面積当たりのオス型係合部3の数等についても,引用文献に記載された好
ましいとされる数値範囲のうちで小さい方の値を選択することを自然に想
到するものと認められるから,オス側シート材1の坪量として,約19.
9~約42.7g/m 2の範囲のいずれかの値を適宜選択することに格別
の困難はないものと認められる。
そうすると,当業者は,引用発明において,オス側シート材1の坪量に
ついて,相違点3に係る補正発明の構成の範囲(「1平方メートル当たり
25グラム~1平方メートル当たり75グラムの範囲」)の値とすること
を容易に想到することができたものと認められる。
イ これに対し原告は,①引用文献には,引用発明の「オス側シート材1」
の厚さを薄くすることの動機付けがあるものと認定することはできず,オ
ス側シート材1の坪量を25g/㎡~75g/㎡の範囲内のものとするこ
とについての記載や示唆はない,②引用文献には,オス型係合部3をどの
ように作製するのかについての記載はなく,オス側シート材1を実際に作
製した例やその係合力を試験した例についての記載もないから,オス型係
合部3の寸法の全てについて,引用文献に記載されている範囲における極
小値を採用したオス側シート材1が,実際に製造可能であるのか明らかで
はないし,また,高い係合力と剥離に対する方向性という引用文献記載の
シート材の課題を実現できるのか明らかではない旨主張する。
しかしながら,引用文献に接した当業者において,引用発明において,
オス側シート材1の厚さを薄くするという動機付けがあることは前記3(1)
アで認定したとおりである。
また,前記(1)において算定したオス側シート材1の坪量は,オス型係合
部3の高さ以外の寸法や単位面積当たりのオス型係合部3の数等について
も引用文献に記載された好ましいとされる数値範囲内の値を選択した結果
に基づくものであるから,このようなオス側シート材1の製造は可能であ
ると理解するのが自然である。他方で,本件においては,上記製造が不可
能又は著しく困難であることをうかがわせる客観的な証拠はない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
(3) 以上によれば,本件審決における相違点3の容易想到性の判断に誤りはな
い。
5 結論
以上のとおり,本件審決における相違点1ないし3の容易想到性の判断に誤
りはなく,補正発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすること
ができたものであると認められるから,補正発明は独立特許要件を充足しない
ものと認められる。
したがって,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはないから,原告主
張の取消事由は理由がない。
よって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 國 分 隆 文
裁判官 筈 井 卓 矢
(別紙1)
【図1】
【図2】
(別紙2)
【図1】
【図2】
【図3】

最新の判決一覧に戻る

法域

特許裁判例 実用新案裁判例
意匠裁判例 商標裁判例
不正競争裁判例 著作権裁判例

最高裁判例

特許判例 実用新案判例
意匠判例 商標判例
不正競争判例 著作権判例

今週の知財セミナー (2月24日~3月2日)

2月26日(水) - 東京 港区

実務に則した欧州特許の取得方法

来週の知財セミナー (3月3日~3月9日)

3月4日(火) -

特許とAI

3月6日(木) - 東京 港区

研究開発と特許

3月7日(金) - 東京 港区

知りたかったインド特許の実務

特許事務所紹介 IP Force 特許事務所紹介

あみ知的財産事務所

大阪市北区豊崎3-20-9 三栄ビル7階 特許・実用新案 意匠 商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

SAHARA特許商標事務所

大阪府大阪市中央区北浜3丁目5-19 淀屋橋ホワイトビル2階 特許・実用新案 意匠 商標 外国特許 外国意匠 外国商標 訴訟 鑑定 コンサルティング 

オーブ国際特許事務所(東京都)-ソフトウェア・電気電子分野専門

東京都千代田区飯田橋3-3-11新生ビル5階 特許・実用新案 商標 外国特許 鑑定