令和1(行ケ)10121審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和2年3月11日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告一般社団法人日本ハオルシア協会 被告特許庁長官
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法令 |
商標権
商標法4条1項14号14回 商標法4条1項11号1回 商標法25条1回
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キーワード |
審決15回 拒絶査定不服審判1回
|
主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成28年12月22日,「粉雪」の文字を標準文字で表してな
る商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を第31類「植物,
草,苗,種子」として,商標登録出願(商願2016-143501号。以
下「本件出願」という。)をした(甲5,乙2)。
原告は,平成29年10月27日付けの拒絶理由通知(甲7)を受けたた
め,同年12月28日付けで指定商品を第31類「ハオルシア,ハオルシア
の苗,ハオルシアの種子」とする手続補正(甲6,乙3)をしたが,平成3
0年3月9日付けで拒絶査定(甲9)を受けた。
(2) 原告は,平成30年6月9日,拒絶査定不服審判を請求した(甲10)。
特許庁は,上記請求を不服2018-7967号事件として審理し,令和
元年7月24日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし,その謄本は,同年8月31日,原告に送達された。
(3) 原告は,令和元年9月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。 |
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判決文
令和2年3月11日判決言渡
令和元年(行ケ)第10121号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和2年1月29日
判 決
原 告 一般社団法人日本ハオルシア協会
被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 有 水 玲 子
金 子 尚 人
豊 田 純 一
阿 曾 裕 樹
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2018-7967号事件について令和元年7月24日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
(1) 原告は,平成28年12月22日,「粉雪」の文字を標準文字で表してな
る商標(以下「本願商標」という。)について,指定役務を第31類「植物,
草,苗,種子」として,商標登録出願(商願2016-143501号。以
下「本件出願」という。)をした(甲5,乙2)。
原告は,平成29年10月27日付けの拒絶理由通知(甲7)を受けたた
め,同年12月28日付けで指定商品を第31類「ハオルシア,ハオルシア
の苗,ハオルシアの種子」とする手続補正(甲6,乙3)をしたが,平成3
0年3月9日付けで拒絶査定(甲9)を受けた。
(2) 原告は,平成30年6月9日,拒絶査定不服審判を請求した(甲10)。
特許庁は,上記請求を不服2018-7967号事件として審理し,令和
元年7月24日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし,その謄本は,同年8月31日,原告に送達された。
(3) 原告は,令和元年9月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起
した。
2 本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。
その要旨は,本願商標は,種苗法18条1項の規定により品種登録(登録番
号第21865号,登録日平成24年7月26日。以下「引用登録品種」とい
う。乙4)を受けた「Solanum tuberosum L.」(ばれい
しょ種)の品種の名称である「コナユキ」と類似の商標であって,その品種の
種苗に類似する商品に使用をするものであるから,商標法4条1項14号に該
当し,登録することができないというものである。
3 取消事由
本願商標の商標法4条1項14号該当性の判断の誤り
なお,原告は,本願商標と引用登録品種の名称が類似のものであることを認
めている。
第3 当事者の主張
1 原告の主張
(1) 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否判断の誤り
本件審決は,①商標法における商品又は役務の類否は,取引の実情を総合
的に考慮し,取引者,需要者が,商品又は役務の出所について誤認混同を生
じるおそれがあるか否かによって判断されるべきものである,②本願商標の
指定商品第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオルシアの種子」は,
商標法施行規則別表に例示された「十二 種子類」及び「十三 木 草 芝
ドライフラワー 苗 苗木 花 牧草 盆栽」の範疇に属する商品であり,
「種苗」とは,「植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるもの」(種苗
法2条3項)であるから,その形態は,上記商品の範疇に属する商品が該当
するといえるものであり,このことは,引用登録品種である「ばれいしょ種」
の種苗についても同様である,③したがって,本願商標をその指定商品に使
用するときには,取引者,需要者をして,引用登録品種と商品の出所につい
て誤認混同を生じさせるおそれがあるから,本願商標の指定商品は,引用登
録品種の種苗に類似する商品である旨判断した。
しかしながら,本件審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
ア 商品の類否判断の手法の誤り
(ア) 植物の品種は,その品質を容易には変えられず,品種名は,どのよ
うな色,形,大きさの花が咲くか等品質表示そのものであり,一方で,
誰でも容易に品種の正確なコピーを作ることができることから,品種名
に出所表示機能はほとんどない。
また,国際栽培植物命名規約や種苗法においても,種苗の属が異なれ
ば同じ名称の使用が認められている。そして,園芸植物では,属が異
なるが,同一又は類似の名称の種苗が多数流通し,それらが同一の店舗
やコーナーで販売され,外見の大きな違いによって極めて容易に識別さ
れており,市場において商品の誤認混同は生じていないという取引の実
情がある。このような誰も混同しない他属の種苗を類似商品として取り
扱うのは,国際常識上及び社会通念上著しく妥当性を欠くものといえる。
さらに,日本の優れた農園芸品種が無断で,海外に持ち出され,そこ
で大量繁殖されて日本に逆輸出され,あるいは海外での日本の輸出機会
を奪われるなど,大きな国家的損失となっている例は数知れない状況に
あるところ,品種登録は,非常に時間がかかり,手続も煩雑なうえ,未
譲渡性などの要件も厳しいのに対し,商標登録は,比較的迅速にするこ
とができ,手続も簡便であるため,植物新品種の迅速な保護を図るうえ
で強力な武器になるから,商標法における商品(植物)の類似は,種苗
法と同様に,属が異なる種苗については非類似とすべきである。
(イ) 以上によれば,指定商品が「品種の種苗に類似する商品」(商標法
4条1項14号)であるかどうかの判断は,取引者,需要者が,商品の
出所について誤認混同を生じるおそれがあるか否かではなく,商品の品
質について誤認混同を生じるおそれがあるか否かを基準に判断すべきで
ある。
また,被告が挙げる最高裁判所昭和33年(オ)第1104号同36
年6月27日第三小法廷判決(以下「昭和36年最高裁判決」という。)
は,本件には適切ではない。
したがって,本件審決における商品の類否判断の手法には誤りがある。
イ 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
前記ア(ア)で述べた諸事情に照らせば,商標法4条1項14号の「その
品種の種苗に類似する商品」とは,その品種の種苗に類似する同属の商品
(種苗)をいうと解すべきである。
本願商標の指定商品は,「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオルシアの
種子」であり,ハオルシアは,南アフリカ原産の小型多肉植物であるとこ
ろ,植物では属が違えば外見が大きく異なる。また,ハオルシアの種子は,
ゴマの種子のように黒くて小さなものであり,これをばれいしょの種芋と
誤認混同することなどあり得ない。
また,現実に同じ又は類似の商品名(品種名)の多くの商品が同一営業
主(店舗)で売られているが,何ら誤認混同は起こっていない。
したがって,本願商標を指定商品「ハオルシア」に使用したとしても,
取引者,需要者において,それが引用登録品種のばれいしょの種苗に類似
する同属の種苗の商品であると誤認混同するおそれはないから,本願商標
の指定商品は引用登録品種の種苗に類似する商品(商標法4条1項14号)
に該当しない。
(2) 小括
以上のとおり,本願商標の指定商品は引用登録品種の種苗に類似する商品
に該当しないから,本願商標が商標法4条1項14号に該当するとした本件
審決の判断は誤りである。
したがって,本件審決は,違法として取り消されるべきである。
2 被告の主張
(1) 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否判断の誤りの主張に
対し
ア 商品の類否判断の手法について
(ア) 指定商品が類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混
同のおそれがあるかどうかにより判定すべきものではなく,それらの商
品が通常同一営業主により製造又は販売されている等の事情により,そ
れらの商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一営業主の製造又
は販売に係る商品と誤認されるおそれがあると認められる関係にある場
合には,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであって
も,それらの商品は商標法4条1項11号にいう「類似の商品」に当た
ると解するのが相当である(昭和36年最高裁判決参照) そうすると,
。
商品の類否判断の手法は,同一営業主の製造又は販売に係る商品と誤認
されるおそれがあると判断すべき取引の実情,すなわち,商品の生産部
門,販売部門,原材料及び品質,用途,需要者の範囲が一致するかどう
か,完成品と部品との関係にあるかどうか等を総合的に考慮して行うべ
きである。
そして,種苗法は,農産物や園芸植物の新品種を保護するために制定
された法律であり,種苗法において登録された品種の名称は,当該品種
の類似する範囲を品種の名称の禁止権とする法律であるが,本願商標は,
商標法に基づき,商標登録を受けようとする商標として出願されたもの
であるから,本願商標の商標登録の適否の判断は,商標法の規定により
判断すべきである。また,「種苗」は,商標法施行規則別表の第31類
の「苗」及び「種子類」に該当する商品であり,これらの商品の譲渡等
は,普通に,生産者から市場に流通され,販売店等で取引されるもので
ある。
そうすると,種苗に関する商品の類否の判断を行うに当たり,取引の
実情を考慮せずに行わなければならない特別な事情は存在しないから,
本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否(商標法4条1項1
4号)については,上記の商品の類否判断の手法により行うべきである。
(イ) これに対し原告は,植物の品種の種苗に関する商品の類否判断は,
取引者,需要者が,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがある
か否かではなく,商品の品質について誤認混同を生じるおそれがあるか
否かを基準に判断すべきである旨主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,「苗」及び「種子類」の譲渡等は,
普通に,生産者から市場に流通され,販売店等で取引されるものである
から,植物の品種の種苗に関する商品の類否について,「商品の出所に
ついて誤認混同を生じるおそれ」ではなく,「商品の品質について誤認
を生じさせるおそれ」により判断しなければならない特別な事情は存在
しない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(ウ) また,原告は,日本の優れた農園芸品種が無断で,海外に持ち出さ
れ,そこで大量繁殖されて日本に逆輸出され,あるいは海外での日本の
輸出機会を奪われるなど,大きな国家的損失となっている例は数知れな
いところ,商標登録は植物新品種の迅速な保護を図るうえで強力な武器
になるから,商標法における商品(植物)の類似は,種苗法と同様に,
属が異なる種苗については非類似とすべきである旨主張する。
しかしながら,原告主張のとおり,商標法における商品の類似基準と
種苗法における商品の類似基準とに齟齬が生じている事実があるとして
も,本願商標は,商標法に基づき,商標登録を受けようとする商標とし
て出願されたものであるから,本願商標の登録の適否の判断は,商標法
の規定により判断すべきものである。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
本願商標の指定商品は,第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオ
ルシアの種子」であるのに対し,引用登録品種の種苗は,「ばれいしょ種」
の種苗であり,その種苗の形態は「種芋」である。本願商標の指定商品中
の「ハオルシアの種子」と引用登録品種の種苗は,その種類において,「ハ
オルシア」のものか,「ばれいしょ種」のものかで異なるものの,いずれ
も「種子類」である。
また,本願商標の指定商品「ハオルシア」は,観賞用の多肉植物であり,
ハオルシア属の多年生草本であるところ,多肉植物の種子類は,例えば,
園芸店,インターネット販売店等で販売され(乙6,8),その用途は観
賞用であって,主な需要者は観葉植物等を栽培する一般の消費者である。
他方,引用登録品種の種苗「ばれいしょ種」は,ナス科の一年生作物であ
って,野菜の一種であるところ,野菜の種子類は,例えば,園芸店,イン
ターネット販売店等で販売され(乙7,8),用途は食用であって,主な
需要者は野菜を生産する農家のほか,家庭菜園等を行う一般の消費者であ
る。
そうすると,多肉植物の種子類と野菜の種子類は,用途において観賞用
と食用の違いがあるものの,いずれも植物の種子類であって,例えば,園
芸店,インターネット販売店等で販売されるものであり,需要者が一般の
消費者である点において共通にするものといえるから,「ハオルシアの種
子」 「ばれいしょ種」
及び の種苗に同一又は類似の商標を使用するときは,
これに接する取引者,需要者が,同一営業主の製造又は販売に係る商品で
あると,商品の出所について誤認混同を生じるおそれがある。
してみれば,本願商標の指定商品中の「ハオルシアの種子」は,引用登
録品種の「ばれいしょ種」の種苗の「種芋」と類似する商品に該当する。
これに反する原告の主張は理由がない。
(2) 小括
以上によれば,本願商標は,引用登録品種の名称と類似する商標であって,
前記(1)のとおり,その品種の種苗に類似する商品に使用するものであるから,
商標法4条1項14号に該当する。
したがって,これと同旨の本件審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消
事由は理由がない。
第4 当裁判所の判断
1 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
(1) 商品の類否判断の手法について
ア 商標法4条1項14号は,種苗法18条1項の規定による品種登録を受
けた品種の名称と同一又は類似の商標であって,その品種の種苗又はこれ
に類似する商品若しくは役務について使用をするものについては,商標登
録を受けることができない旨を規定する。この規定の趣旨は,種苗法にお
いては,出願品種に名称を付与することを登録要件とし(同法5条3号),
登録品種の種苗を業として譲渡する場合の登録品種の名称の使用義務(同
法22条1項)及び登録品種又はこれに類似する品種以外の種苗を業とし
て譲渡する場合の登録品種の名称の使用禁止(同条2項)を規定している
ことから,登録品種の名称をその品種の種苗又はこれに類似する商品若し
くは役務について使用する商標を商標登録の対象から除外し,当該名称に
ついては,特定の者に登録商標を独占的排他的に使用することができる専
用権(商標法25条)及び登録商標と類似する商標を指定商品又は指定役
務に類似する商品若しくは役務について使用する行為を排除する禁止権
(同法37条1号)が生ずることを防止することにあるものと解される。
次に,商標法は,商標を保護することにより,商標の使用をする者の業
務上の信用の維持を図り,もって産業の発展に寄与し,あわせて需要者の
利益を保護することを目的とすること(同法1条)に鑑みると,商標の本
質は,商標の使用をする者の自己の商品又は役務と他人の商品又は役務と
を識別する機能を有することにあると解されるから,同法4条1項14号
が「その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用を
するもの」を要件とし,品種の種苗に類似する商品若しくは役務について
使用をする場合であっても同号に該当するものとした趣旨は,それらの商
品が通常同一の営業主により生産又は販売されている等の事情により,商
品又は役務の出所の誤認混同を生じさせることを防止する趣旨をも含むも
のと解される。
そうすると,本願商標の指定商品が登録品種の種苗と類似のものである
かどうかは,商品自体が取引上誤認混同のおそれがあるかどうかにより判
断すべきものではなく,上記事情により,指定商品及び登録品種の種苗の
商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の生産又は販売
に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められる関係にある場合に
は,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがないものであっ
ても,類似の商品に当たると解するのが相当である(最高裁判所昭和33
年(オ)第1104号同36年6月27日第三小法廷判決・民集15巻6
号1730頁,最高裁判所昭和39年(行ツ)第54号同43年11月1
5日第二小法廷判決・民集22巻12号2559頁)。
イ これに対し原告は,①植物の品種は,その品質を容易には変えられず,
品種名は,どのような色,形,大きさの花が咲くか等品質表示そのもので
あり,一方で,誰でも容易に品種の正確なコピーを作ることができること
から,品種名に出所表示機能はほとんどなく,出所はもっぱら生産業者の
屋号等で表されること,②国際栽培植物命名規約や種苗法においても,属
が異なれば同じ名称の使用が認められており,園芸植物では,属が異なる
が,同一又は類似の名称の種苗が多数流通し,それらが同一の店舗やコー
ナーで販売され,外見の大きな違いによって極めて容易に識別されており,
市場において商品の誤認混同は生じていないという取引の実情があること,
③誰も混同しない他属の種苗を類似商品として取り扱うのは,国際常識上
及び社会通念上著しく妥当性を欠くこと,④日本の優れた農園芸品種が無
断で,海外に持ち出され,そこで大量繁殖されて日本に逆輸出され,ある
いは海外での日本の輸出機会を奪われるなど,大きな国家的損失となって
いる例は数知れない状況にあるところ,品種登録は非常に時間がかかり,
手続も煩雑なうえ,未譲渡性などの要件も厳しいのに対し,商標登録は,
比較的迅速にすることができ,手続も簡便であるため,植物新品種の迅速
な保護を図るうえで強力な武器になるから,商標法における商品(植物)
の類似は,種苗法と同様に,属が異なる種苗については非類似とすべきで
あることなどの事情によれば,指定商品が「品種の種苗に類似する商品」
(商標法4条1項14号)であるかどうかの判断は,取引者,需要者が,
商品の出所について誤認混同を生じるおそれがあるか否かではなく,商品
の品質について誤認混同を生じるおそれがあるか否かを基準に判断すべき
である旨主張する。
しかしながら,上記①の点については,植物の品種については,その品
質を容易には変えられないという事情があるとしても,需要者である一般
消費者においては,通常は,品種の名称から直ちにどのような色,形,大
きさの花が咲くか等を認識するものではなく,品種の名称は,品質表示そ
のものとはいえないし,また,品種の名称が商品に付された場合に出所表
示機能がほとんどないとはいえない。
上記②及び③の点については,前記アのとおり,商標法4条1項14
号が「その品種の種苗又はこれに類似する商品若しくは役務について使用
をするもの」を要件とし,品種の種苗に類似する商品若しくは役務につい
て使用をする場合であっても同号に該当するものとした趣旨は,商品又は
役務の出所の誤認混同を生じさせることを防止する趣旨をも含むものと解
されるから,属が異なるが同一又は類似の名称の種苗は,外見の違いによ
って商品自体の誤認混同が生じない場合であっても,同一の営業主の生産
又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められる関係にあ
る場合には,類似の商品に当たると解するのが相当である。そして,この
ように解することが国際常識上及び社会通念上著しく妥当性を欠くものと
はいえない。
上記④の点については,前記アのとおり,商標法は,商標を保護するこ
とにより,商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り,もって産業
の発展に寄与し,あわせて需要者の利益を保護することを目的とするもの
であって,原告が主張するような植物新品種の迅速な保護を図ることは,
商標法の目的であるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 本願商標の指定商品と引用登録品種の種苗との類否について
ア 本願商標の指定商品は,第31類「ハオルシア,ハオルシアの苗,ハオ
ルシアの種子」であるところ,「ハオルシア」は,ハオルシア属の多年生
草本であり,観賞用の小型多肉植物(甲1)であると認められる。そして,
園芸店の通信販売を行うウェブサイトにおいて,「ハオルチア・クーペリ
ーの種」,「マザーリーフの種」といった多肉植物の種子類が販売されて
いること(乙8)からすれば,多肉植物の種子類は,園芸店の店舗や,園
芸店の通信販売を行うウェブサイトを通じても販売されているものと認め
られるから,多肉植物の種子類の主な需要者は,家庭において観賞用の植
物を育てる一般の消費者であると認められる。
一方,引用登録品種の農林水産植物の種類は,「ばれいしょ種」であり,
作物区分は「食用作物」(乙4)であり,野菜の一種であると認められる。
そして,「種苗」とは,「植物体の全部又は一部で繁殖の用に供されるも
の」(種苗法2条3項)であるから,引用登録品種の種苗は,「ばれいし
ょ種」の種芋であると認められる。そして,園芸店の通信販売を行うウェ
ブサイト(乙7,8)には,「国華園が厳選!オススメ じゃがいも種イ
モ」として,複数の種類のじゃがいも種芋が販売されているように,野菜
の種子類は,園芸店の店舗や,園芸店の通信販売を行うウェブサイトを通
じても販売されているものと認められるから,野菜の種子類の主な需要者
には,野菜を生産する農業関係者に加え,家庭において園芸を行う一般の
消費者も含まれるものと認められる。
そうすると,多肉植物の種子類と野菜の種子類は,用途において観賞用
と食用の違いがあるものの,いずれも植物の種子類であって,園芸店やそ
の通信販売用のウェブサイト等で販売され,家庭における園芸に用いられ,
需要者が一般の消費者である点において共通する。
以上によれば,本願商標の指定商品「ハオルシアの種子」及び引用登録
品種の「ばれいしょ種の種芋」に本願商標を使用した場合には,これに接
する取引者,需要者は,同一の営業主の生産又は販売に係る商品であると
誤認混同されるおそれがあるものと認められる。
したがって,本願商標の指定商品中「ハオルシアの種子」は,引用登録
品種の種苗である「ばれいしょ種の種苗」と類似の商品に当たるものと認
められる。
イ これに対し原告は,商標法4条1項14号の「その品種の種苗に類似す
る商品」とは,その品種の種苗に類似する同属の商品(種苗)をいうと解
すべきであり,本願商標の指定商品は,「ハオルシア,ハオルシアの苗,
ハオルシアの種子」であり,引用登録品種のばれいしょの種苗(種芋)と
は属が異なり,外見が大きく異なるから,本願商標を指定商品「ハオルシ
ア」に使用したとしても,取引者,需要者において,それが引用登録品種
のばれいしょの種苗に類似する同属の種苗の商品であると誤認混同するお
それはないから,本願商標の指定商品は引用登録品種の種苗に類似する商
品(商標法4条1項14号)に該当しない旨主張する。
しかしながら,前記(1)アで説示したとおり,本願商標の指定商品が登録
品種の種苗と類似のものであるかどうかは,商品自体が取引上誤認混同の
おそれがあるかどうかにより判断すべきものではなく,指定商品及び登録
品種の種苗の商品に同一又は類似の商標を使用するときは同一の営業主の
生産又は販売に係る商品と誤認混同されるおそれがあると認められる関係
にある場合には,たとえ,商品自体が互いに誤認混同を生ずるおそれがな
いものであっても,類似の商品に当たると解するのが相当であるから,原
告の上記主張は,その前提において理由がない。
(3) 小括
以上によれば,本願商標は,引用登録品種の名称と類似する商標であって,
その品種の種苗に類似する商品に使用をするものと認められるから,商標法
4条1項14号に該当するものと認められる。
2 結論
以上のとおり,本願商標が商標法4条1項14号に該当するとした本件審決
の判断に誤りはないから,原告主張の取消事由は理由がない。
したがって,原告の請求は棄却されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官 大 鷹 一 郎
裁判官 國 分 隆 文
裁判官 筈 井 卓 矢
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