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令和1(行ケ)10129審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和2年7月29日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社ニチネン
被告株式会社旭テクノス
対象物 ガス器具
法令 特許権
特許法29条の22回
特許法134条の22回
キーワード 審決15回
実施7回
無効6回
無効審判2回
進歩性1回
特許権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,拡大 先願違反の有無である。

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判決文

令和2年7月29日判決言渡
令和元年(行ケ)第10129号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和2年7月29日
判 決

原 告 株 式 会 社 ニ チ ネ ン

同訴訟代理人弁理士 河 野 誠
河 野 生 吾
楠 和 也

被 告 株 式 会 社 旭 テ ク ノ ス

同訴訟代理人弁護士 奥 川 貴 弥
川 口 里 香
山 﨑 郁
鈴 木 惠 美
伊 藤 尚
同訴訟代理人弁理士 伊 東 秀 明
三 橋 史 生
蜂 谷 浩 久
上 西 浩 史
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由


第1 請求
特許庁が無効2018-800152号事件について令和元年8月22日にした
審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,拡大
先願違反の有無である。
1 手続の経緯
被告は,名称を「ガス器具」とする発明について,平成10年6月5日(以下「本
件出願日」という。,特許出願をし,平成11年4月2日,その特許権の設定登録

(特許第2908792号)を受けた(請求項の数8。以下「本件特許」という。。

原告は,平成30年12月20日に本件特許の請求項1,6,7に記載された発
明についての特許に対し,無効審判請求(無効2018-800152号)をした
ところ,被告は,平成31年2月14日付けで一群の請求項である本件特許の請求
項1~8及び明細書について訂正請求(以下「本件訂正」といい,本件訂正後の明
細書及び図面を「本件明細書」という。)をした。
特許庁は,令和元年8月22日,本件訂正を認めた上で,
「本件審判の請求は,成
り立たない。」との審決をし,同審決の謄本は,同月30日に原告に送達された。
2 本件発明の要旨(甲8-2,甲9)
本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,各
請求項に係る発明を,それぞれ請求項の番号に応じて,「本件発明1」などといい,
これらを併せて「本件発明」という。。

【請求項1】 器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器
を使用するガス器具であって,一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と,そ
れよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり,標準型ガス容器を器具
本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体
壁面に有しており,小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空


気導入口から器具本体内へ空気を導入し,導入された空気を器具本体側の排出部か
ら排出する空冷機構を具備したことを特徴とするガス器具。
【請求項2】 開口は器具本体にセットされるガス容器の直径よりもやや大径の
円形開口である請求項1記載のガス器具。
【請求項3】 ガス容器をセットする容器収め部を開閉可能に覆う容器カバーを
有し,当該容器カバーは断熱構造を有し,かつ空気導入部から導入された空気の排
出部を有している請求項1記載のガス器具。
【請求項4】 器具本体にはガス容器の収め部と,ガスを燃焼させる作動部とが
隣接して配置されており,その境界部分に仕切り板を有し,加熱された器内の気流
を外部へ強制的に排気するためのガイド部を仕切り板上部に設けた構成を有する請
求項1記載のガス器具。
【請求項5】 仕切り板上部へ誘導される気流の排気のための導出口が汁受け皿
に設けた隆起部の面に開口されている請求項4記載のガス器具。
【請求項6】 標準型ガス容器のほぼ半分の内容量を有する小型ガス容器を使用
する請求項1記載のガス器具。
【請求項7】 小型ガス容器を器具本体にセットしたときは小型ガス容器のほぼ
全体が器具本体内に収まる請求項1記載のガス器具。
【請求項8】 小型ガス容器及び標準型ガス容器をノズル周囲のフランジ部に磁
気吸着して保持する磁気保持手段を有する請求項1記載のガス器具。
3 審決の理由の要点
以下,審決の理由中,本件の争点に関連する部分の要点について摘示する。
(1) 請求項2~5及び8の独立特許要件について
本件発明1は,進歩性を欠くものではないし,後記(2)のとおり拡大先願に違反す
るものでもない。また,本件発明2~5及び8は,本件発明1の発明特定事項を全
て含むものである。
したがって,本件発明2~5及び8は,独立して特許を受けることができないも


のではない。
よって,本件訂正は,特許法134条の2第9項において読み替えて準用する同
法126条7項に適合する。
(2) 無効理由1(拡大先願違反)について
ア 甲1(特開平11-311417号公報)に記載された発明(以下「甲
1発明」という。)の認定
本件出願日前の他の特許出願であって,本件出願日後に出願公開がされたものの
願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面である甲1には,以下の甲
1発明が記載されている。
「一方領域が燃焼部7として構成されるとともに他方領域がボンベ装填部8とし
て構成されてなり,前記ボンベ装填部8に横向きに装填される円筒形のガスボンベ
2を使用するガスコンロ装置1であって,
ガスコンロ装置1は,前記ボンベ装填部8の背面部に,ガスコンロ装置1のシャ
ーシ3に対して回動自在に支持される背面カバー部材6又は前記シャーシ3に対し
て着脱自在に組み合わされる背面カバー部材31を備えており,
前記ボンベ装填部8の天井部と側面部とを構成するカバー部材5には,当該カバ
ー部材5の側面部20に溜まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が
形成され,
従来一般に用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2Bと,専用小型ガスボン
ベ2Aとを使用可能であり,
前記標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には,開放されたボンベ装填部8の
背面部から前記標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされる,
ガスコンロ装置1。」
イ 本件発明1と甲1発明との対比及び判断
(ア) 対比
(一致点)


器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガス
器具であって,
一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と,それよりも内容量が小さい小型
ガス容器とを使用可能であり,
標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体
外へ出す開口を器具本体壁面に有するガス器具。
(相違点)
本件発明1においては,「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口
を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し,導入された空気を器具本体側の
排出部から排出する空冷機構を具備」するのに対し,甲1発明においては,
「ガスコ
ンロ装置1は,前記ボンベ装填部8の背面部に,ガスコンロ装置1のシャーシ3に
対して回動自在に支持される背面カバー部材6又は前記シャーシ3に対して着脱自
在に組み合わされる背面カバー部材31を備えており」 「前記ボンベ装填部8の天

井部と側面部とを構成するカバー部材5には,当該カバー部材5の側面部20に溜
まった熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成されている」点(以下
「相違点1」という。。

(イ) 判断
a 甲1の段落【0034】【0038】の記載並びに【図2】~【図

4】で示される専用小型ガスボンベ2Aがボンベ装填部8に装填されている態様を
踏まえると,甲1発明において,
「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標
準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口」は,専用小型ガスボンベ2Aを使用
するときには,背面カバー部材6又は背面カバー部材31により閉塞された状態に
なると認められ,甲1発明は,
「小型ガス容器を器具本体にセットしたときに」「器

具本体内へ空気を導入」する「上記開口を含む空気導入口」を有するものとは認め
られない。
したがって,相違点1は実質的な相違点であり,本件発明1は甲1発明と同一で


あるとはいえない。
b 原告の主張についての判断
甲1発明において,「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス
容器の端部を器具本体外へ出す開口」は,専用小型ガスボンベ2Aを使用するとき
には,背面カバー部材6又は背面カバー部材31により閉塞された状態となるもの
であり,仮に,原告が主張するとおり,甲1の【図6】等において,
「隙間」がある
ことが看取できたとしても,その「隙間」が「標準型ガス容器を器具本体にセット
したときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口」
「を含む」ものであると
はいえない。
また,原告は,甲1発明において,専用小型ガスボンベ2Aの使用時,背面カバ
ー部材31によってボンベ装填部8の背面側を開放した状態で保持させておくこと
や,背面カバー部材31を取り外した状態で保持させておくことは当然に想定され
ているものと解されるか,そうでなくても,本件出願日において周知・慣用技術で
あった旨主張するが,上記aのとおり,甲1発明においては,専用小型ガスボンベ
2Aを使用するときには,背面カバー部材6が閉じられる又は背面カバー部材31
が取り付けた状態とされるものであり,甲1における他の記載を勘案しても,甲1
発明において,専用小型ガスボンベ2Aの使用時,背面カバー部材31によってボ
ンベ装填部8の背面側を開放した状態で保持させておくことや,背面カバー部材3
1を取り外した状態で保持させておくことが当然に想定されているとはいえないし,
原告が上記周知・慣用技術を裏付けるものとして提出する証拠(甲5,6)は,周
知・慣用技術を裏付ける証拠とはいえない。
ウ 本件発明6及び7について
本件発明6及び7は,本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから,本
件発明1と同様の理由により,甲1発明と同一であるとはいえない。
エ 以上のとおり,本件発明1,6,7は,甲1発明と同一であるとはいえ
ないから,その特許は,特許法29条の2に違反してされたものとはいえない。


第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(訂正要件についての認定判断の誤り)
後記2のとおり,本件発明1は,拡大先願違反であるから,本件発明2~5及び
8も拡大先願違反として独立特許要件を満たさない。したがって,本件訂正は認め
られない。
2 取消事由2(拡大先願違反についての認定判断の誤り)
(1) 主張1
ア 本件明細書の段落【0017】の「本発明では上記の開口27を,器具
本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させ
るための空冷機構を構成する。」との記載や段落【0019】の「開口27・・・よ
りなる空気導入口28等から内部へ侵入し,加熱された空気は同カバー30に設け
た排出部32から外部へ排出する。」との記載及び本件特許の請求項1中に空気導
入口28や排出部32に要求される形状・寸法等を特定する記載がなく,本件明細
書中にも,これらの記載や冷却ファン等の記載がないことからすると,本件発明1
にいう「空冷機構」は,空気を内部に流入させる部分と,外部に流出させる部分と
があれば足りるものである。
イ(ア) 以下の各図にある赤で示した甲1発明の「ボンベ装填部8の背面部
における開放された部分」は,本件発明にいう「開口」に相当するものである。


(イ) 甲1の段落【0019】,【0021】,【0025】及び【図
6】によると,ボンベ装填部8の内側側方を覆う仕切板9と,その直上を覆うカバ
ー部材5の天井部19と,その外側側方を覆うカバー部材5の側面部20とによっ
て,背面視で下方が開放されたコの字状をなす縁部と,背面カバー部材6との間に
「間隙」が形成されている(以下「隙間1」という。前記【図6】参照)。
また,甲1の【図8】にあるとおり,シャーシ3に対して着脱自在な背面カバー
部材31におけるボンベ装填部8に接する側の面と,係合凸部32の上端部と,仕
切板9の後端部とによって,前後と下方がカバーされ,かつ,少なくとも上方が開
放された間隙が形成されている(以下「隙間2」という。前記【図8】参照)。
上記二つの隙間は,いずれも前記「ボンベ装填部8の背面部における開放された
部分」に含まれるものである上,専用小型ガスボンベ2Aが装着されて背面カバー
部材6又は背面カバー部材31によって背面部が閉塞された場合でも完全に閉塞さ
れず,そこから空気が導入されて冷却がされるから,前記アの「空冷機構」の意義
も踏まえると,甲1発明は,本件発明1にいう「小型ガス容器を器具本体にセット
したときに上記開口を含む空気導入口」を備えていることになり,本件発明1と甲
1発明は同一である。
(ウ) 仮に,隙間1, 「ボンベ装填部8の背面部の開放された部分」
2が (本
件発明1にいう「開口」)に含まれないと解釈した場合でも,隙間1,2が外部か
らボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有することは技術的に明らかであ
るから,本件発明1と甲1発明は同一の発明であることに変わりはない。
ウ 審決は,隙間1,2が,本件発明1にいう「開口」を含むものではない
とした。しかし,甲1発明において,開口が背面カバー部材6又は背面カバー部材
31によってカバーされている状態でも開口が完全に閉塞されずに隙間1,2が形
成されていて,かつ,開口が隙間1,2を含むことは,前記イのとおり客観的に明
らかである。
また,本件発明では,「開口」の方向が特定されていたり,「開口」が小型ガス容


器を器具本体にセットしたときに全開とされ,一部でもカバーされていないと特定
されたりしているわけではないことからしても,審決の認定は相当ではない。
エ 被告の主張に関し,甲1の段落【0037】に記載された図示されてい
ない支持柱部材の係合溝が形成された部分が,
「係合凸部32の間の空間」の全ての
範囲を占めるように設けられるのかは甲1では不明である。支持柱部材の係合溝が
形成された部分が,
「係合凸部32の間の空間」の直上近傍における全範囲を占めて
いないと,
「係合凸部32の間の空間」の一部が,外部に向かって上方に開放される
状態になり,被告が主張するような状態にはならない。したがって,被告の主張す
るように,「係合凸部32の間の空間」を,「高さ方向において,係合溝内に入り込
んだ係合凸部32の先端面と係合溝の底面との間に挟まれた空間」と解することは
できない。
また,甲1の【図8】によると,
「係合凸部32の間の空間」は標準型ガス容器を
通過している。
(2) 主張2
本件発明1は物の発明であり,請求項1に記載された使用形態を採用し得る機械
的構成を甲1発明が備えている場合には,甲1発明は,本件発明1と同一又は実質
的に同一と認定すべきである。
甲1の段落【0019】【0021】【0025】【0026】【0028】【0
, , , , ,
031】【0034】【図5】に開示された実施形態によると,甲1発明では,背
, ,
面カバー部材がトーションスプリング等によってボンベ装填部8を閉塞する方向に
付勢されない形態が想定されているといえ,そのような形態における機械的構成で
は,ガスボンベ2の非装填状態又は専用小型ガスボンベ2Aが装填されている状態
において,作業者が背面カバー部材6から手を離した状態時において,背面カバー
部材6をボンベ装填部8の背面側を開放した姿勢で保持させることが可能となって
いる。
また,甲1の段落【0037】及び【図8】によると,甲1発明では,ガスボン


ベ2の非装填状態又は専用小型ガスボンベ2Aが装填されている状態において,背
面カバー部材31を装着せずに,ボンベ装填部8の背面側を開放することも可能に
なっている。
以上のように,甲1発明は,本件特許の請求項1に記載された使用形態を採用し
得る機械的構成を備えているものである上,そのような使用形態は本件出願日にお
いて周知・慣用技術であったから,甲1発明は本件発明1と同一又は実質的に同一
である。
(3) 前記(1),(2)で検討したところからすると,本件発明6,7も本件発明1と
同様に甲1発明と同一又は実質的に同一である。そうすると,本件発明1,6,7
は,特許法29条の2により無効とされるべきものである。
第4 被告の主張
1 取消事由1(訂正要件についての認定判断の誤り)に対して
後記2のとおり,本件発明1は拡大先願に違反するものではないから,本件発明
2~5及び8は独立特許要件を満たしており,本件訂正を認めた審決の判断に誤り
はない。
2 取消事由2(拡大先願違反の認定判断の誤り)に対して
(1) 主張1に対して
ア 原告は,甲1発明の「ボンベ装填部8の背面部における開放された部分」
が,本件発明1にいう「開口」に相当し,同部分に隙間1,2が含まれていると主
張する。
しかし,甲1発明において,隙間1,2が形成されるのは,専用小型ガスボンベ
2Aをボンベ装填部8にセットしてボンベ装填部8の背面部が背面カバー部材6又
は背面カバー部材31によって閉塞されている状態であるところ,この状態では,
ボンベ装填部8の背面部は開放されていないので,「ボンベ装填部8の背面部にお
ける開放された部分」は,そもそも存在しない。したがって,隙間1,2が形成さ
れる状況では,甲1発明において本件発明1の「開口」に相当する部分は存在しな


いから,この部分に「隙間」が含まれる余地はない。
イ また,原告の主張する隙間1,2は,以下のとおり,本件発明1の「開
口を含む空気導入口」に該当しない。
(ア) 本件発明1の「開口」は,標準型ガス容器を器具本体にセットしたと
きに標準型ガス容器の端部と同じ向きにあり,かつ,器具本体側面において標準型
ガス容器の端部が横切る(通過する)位置に存在するものであって,甲1の段落【0
028】の記載からして,開放されたボンベ装填部8の後端部こそが「開口」に相
当する。
しかし,隙間1,2は,ボンベ装填部8の上方や側方に位置するのであって,開
放されたボンベ装填部8の後端部とは明らかに異なる位置に存在するため,隙間1,
2は,本件発明1の「開口を含む空気導入口」に該当しない。
(イ) 隙間2は,以下の図のとおり,高さ方向において,係合溝内に入り込
んだ係合凸部32の先端面と係合溝の底面との間に挟まれた空間であるから,器具
本体側面において標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の
端部と同じ向き,かつ,器具本体側面において標準型ガス容器の端部が横切る(通
過する)位置に存在するものではない。したがって,隙間2は本件発明1の「開口
を含む空気導入口」に当たらない。


ウ 原告は,隙間1,2が「開口」に含まれないとしても,隙間1,2は外
部からボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有するから,甲1発明と本件
発明1とは同一の発明であると主張する。
しかし,本件発明1の「小型ガス容器を器具本体にセットしたときには,上記の
開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入」するという構成について,
「上
記の開口」が,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端
部を器具本体へ出す開口を意味することは明らかである。また,小型ガス容器を器
具本体にセットしたときに,
「上記の開口」は,空気導入口として空気を導入するも
のである。


他方,甲1発明では,専用小型ガスボンベ2Aをボンベ装填部8にセットしてボ
ンベ装填部8の背面部を背面カバー部材6又は背面カバー部材31によって閉塞し
た状態では,隙間が形成されるものの,「開口」が存在しない。したがって,仮に,
隙間から空気が導入されたとしても,甲1発明は,小型ガス容器を器具本体にセッ
トしたときに「開口」から空気を導入するものであるとはいえないから,本件発明
1とは同一ではない。
(2) 主張2に対して
ア 審決が認定したように,甲1には,専用小型ガスボンベ2Aの使用時,
背面カバー部材6によってボンベ装填部8の背面側を開放した状態で保持させてお
くことや,背面カバー部材31を取り外した状態で保持させておくことで,
「上記開
口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入」することについて,何らの記載
も示唆もない。そのような使用形態を採用し得る機械的構成を備えているという理
由だけで,甲1発明が本件発明1と同一であるとはいえない。
イ また,甲1の段落【0026】や【図5】のみから,背面カバー部材6
が閉塞側に付勢されていないとはいえない。
仮に,
【図5】で背面カバー部材6が付勢されていないものであるとしても,ガス
ボンベ2の非装填時又は専用小型ガスボンベ2Bが装填されている状態で背面カバ
ー部材6をボンベ装填部8の背面側を開放した姿勢で保持させておくことについて,
甲1には何らの記載も示唆もない。
したがって,甲1発明において,専用小型ガスボンベ2Bが装填されている状態
で,ボンベ装填部8の背面側が開放された状態に背面カバー部材6の姿勢を保持す
ることが想定されているとはいえない。
第5 当裁判所の判断
1 本件発明について
(1) 本件特許の特許請求の範囲は第2の2記載のとおりであるところ,本件明
細書には,以下のような記載がある(甲8-1,甲9)。


【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使
用するガス器具に関し,特に小型のガス容器を使用するガス器具に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】
円筒形の小型のガス容器を使用するガス器具は扱いが簡便で安価であるため広く
普及しつつある。特にガス配管を必要としないので移動の自由度が高く,卓上型こ
んろは業務目的から家庭用途にまで使用されている。ところが従来のガス器具を卓
上でなく狭いカウンターで使用するような場合,ガス器具が大き過ぎるという指摘
があった。
【0003】
そこで上記のガス器具よりも小型のガス容器の開発が進行している。新たな小型
のガス容器とガス器具は,単に小型であるだけではなく,従来のガス容器(以下標
準型ガス容器という。)及びガス器具と要部において共通していることが望ましい。
例えば,ノズル周りのフランジに設ける位置決め手段を従来と共通とすることによ
り,誤ったガス容器の装填を減らすことができるからである。しかし一方では器具
の小型化が発熱の問題をもたらすことも予想される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は前記の点に着目してなされたものであり,その課題は標準型ガス容器と
細部において共通した小型ガス容器を使用可能な安全性の高い小型ガス器具を提供
することである。
【0005】
本発明の他の課題は,小型ガス容器のほかに標準型ガス容器をも使用可能とする


ことである。
【0006】
また本発明の他の課題は,標準型ガス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発
生可能であるにも拘らず,熱害の心配のない小型ガス器具を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため本発明は,一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器
と,それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり,標準型ガス容器
を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器
具本体壁面に有しており,小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を
含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し,導入された空気を器具本体側の排
出部から排出する空冷機構を具備するという手段を講じたものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に係るガス器具は,器具本体10に一定の姿勢で横たえてセットされる円
筒形のガス容器11を使用するタイプのものである。
【0009】
上記のガス容器11は,一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器12と,そ
れよりも内容量が小さい小型ガス容器13とを含む。小型ガス容器13は,標準型
ガス容器12と同様に,円筒状容器構造の先端に,常閉の弁機構を内蔵したノズル
14を有し,それを取り囲むフランジ部15に,位置決め手段16の一方として係
合部17を有する。ガス器具側には上記係合部17と係合してガス容器12,13
を一定の姿勢にする係合相手18が備わる。
【0012】
器具本体10にガス容器11をセットすることによりガスは噴出可能な状態に
なり(弁機構が開弁し),減圧器23にて圧力調整され,操作部24で操作される器


具栓等を経てバーナなどの作動部25に送給され,燃焼可能な状態とされる。例示
された小型ガス容器13は,器具本体10にセットしたときに,容器ほぼ全体が器
具本体に収まる。図3の破線参照。
【0013】
このような小型ガス容器13の容量は標準型ガス容器12のほぼ半分というの
が一つの目安となる。しかしながら小型ガス容器13イコール標準型ガス容器12
の半分の容量という訳ではなく,標準型ガス容器12よりも容量の小さいもの全部
が小型ガス容器13であり,何種も存在し得る。
【0015】
小型ガス容器13を使用する小型ガス器具であって,標準型ガス容器12を使用
できるものはより歓迎されるであろう。また本発明のガス器具は,長さ以外は共通
の構成を有する小型ガス容器13を使用するので,標準型ガス容器12の収め方を
工夫することによりそれをそのまま使用することができる。そこで本発明では,標
準型ガス容器12をセットしたときに標準型ガス容器12の,器具本体10を越え
る端部を器具本体外へはみ出させるために,開口27を器具本体10の壁面を貫通
するように設ける。
【0016】
つまりこのガス器具は,小型ガス容器13をセットすると,その後端が開口27
から見えるけれども全体が内部に収まるミニこんろとなる。他方,標準型ガス容器
12をセットすると,その端部が開口27から器具本体外へはみ出すけれどもミニ
こんろとして全く同様に使用できるものとなる。図3鎖線図示参照。例示の開口2
7は器具本体10の壁面に大部分が位置し,上部は後述する容器カバー30で囲ま
れる。故に開口27は器具本体10に設けてあるとも,それと容器カバー30の双
方にわたって設けてあるとも言うことができる。
【0017】
本発明では上記の開口27を,器具本体10内へ空気を導入する空気導入口28


としても利用し,冷却性能を向上させるための空冷機構を構成する。本発明のガス
器具は,既に述べたように,標準型ガス容器を使用する従来のガス器具よりも一周
り乃至二周りほど小型のものとされるが,作動部25での熱量を特に変更しない場
合,調理能力は従来のガス器具と同等とすることができる。従って,相対的に大き
な熱量を扱うことになる本発明の小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図る
ことが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として活用すること
ができるという特徴を発揮する。
【0018】
空気導入口28として,多数の小開口29を容器収め部26の底部や器具本体1
0の底板等に,上記開口27とは別に設けることができる。また,作動部25側か
らの燃焼熱でガス容器11が加熱されないために,ガス容器11を囲む容器カバー
30に断熱構造を持たせる。
【0019】
図示の例では,容器カバー30を間に空気断熱層31を有する多重構造として外
部からの熱の影響を遮断する。一方,開口27や小開口29よりなる空気導入口2
8等から内部へ進入し,加熱された空気は同カバー30に設けた排出部32から外
部へ排出する。断熱構造はガス容器部のみならず減圧器部をもカバーするよう,容
器カバー30のほぼ全体を占めている。33は同カバー30の開閉のための取り付
け軸を示す。
【0020】
さらに,作動部25側の熱についても,同様に外気導入口34及び導出口35を
冷却及び発熱の遮断等のために設け,作動部25と容器収め部26との間に仕切り
板36を設ける。仕切り板36は下部で本体底部に取りつけられており,上部には
外方(容器収め部側)へ傾斜したガイド部37を有し,バーナ等によって加熱され
た気流を外部へ強制的に排気することで,作動部側の熱が容器収め部26側へ伝わ
るのを遮断する。例示の導出口35はバーナを囲む汁受け皿38の縁に設けた土手


状の隆起部39の面に設けてある。この隆起部39は熱の誘導と汁止めの機能を果
たす。
【0023】
作動中,バーナの燃焼炎等によって器具本体10と関連部品及びガス容器11が
熱の影響下に置かれる。そのとき,作動部25の側では底板に適宜開けられた空気
導入口や壁面の外気導入口34から空気が器内に随時流入し,加熱されるとバーナ
周辺の隙間及び導出口35から外部へ排気されて作動部外への熱の伝達を遮断する。
また容器収め部26の側も鍋底等から輻射される熱を受けるが,2重の容器カバー
30が輻射熱を遮断し,かつ後部開口27や小開口29よりなる空気導入口28か
ら流入する多量の空気が排出部32へ抜けるので,この部分でも熱の問題は生じな
い。
【0024】
【発明の効果】
本発明は以上の如く構成されかつ作用するものであるから,標準型ガス容器と細
部において共通し,長さだけが異なる小型のガス容器を用い,それにより標準型ガ
ス容器を用いるガス器具よりも著しく小型のガス器具を得ることができ,しかも小
型ガス容器と標準型ガス容器とを共用可能とするために設けた開口を空気導入口と
しても活用した空冷機構を有するものであるから,標準型ガス容器によるガス器具
とほぼ同等の熱量を発生可能であるにも拘ず,熱害の心配のない小型ガス器具を提
供することができる。
【0025】
特に本発明のガス器具は,標準型ガス容器を用いるガス器具と同等の火力が得ら
れ,かつまた小型ガス容器のほかに標準型ガス容器をも使用可能であるので,より
広い場所では従来のガス器具と全く同様に使用することができる等,顕著な効果を
奏する。


【図1】


【図3】


【図6】


(2) 本件発明の概要
前記(1)によると,本件発明の概要は,以下のとおりであると認められる。
ア 発明の属する技術分野
本件発明は,器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を
使用するガス器具に関するものである(段落【0001】。

イ 従来技術
従来のガス器具を卓上でなく狭いカウンターで使用するような場合,ガス器具が
大きすぎるという問題があり,小型のガス容器の開発が進行しているところ,小型
のガス容器とガス器具は,従来のガス容器及びガス器具と要部において共通してい
ることが望ましい一方で,器具の小型化が発熱の問題をもたらすことも予想される
(段落【0002】【0003】。
, )
ウ 課題を解決するための手段
上記のような課題を解決するため,本件発明は,一定の構造と内容量を有する従
来の標準型ガス容器と,それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であ
り,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本
体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており,小型ガス容器を器具本体にセットし
たときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し,導入された空
気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備するという手段を講じたもの


である(段落【0007】。

エ 発明の効果
標準型ガス容器を用いるガス器具よりも著しく小型のガス器具を得ることがで
き,しかも小型ガス容器と標準型ガス容器とを共用可能とするために設けた開口を
空気導入口としても活用した空冷機構を有するものであるから,標準型ガス容器に
よるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能であるにもかかわらず,熱害の心配のな
い小型ガス器具を提供することができる上,より広い場所では従来のガス器具と全
く同様に使用することができる等の効果がある(段落【0024】【0025】。
, )
2 取消事由1(訂正要件についての認定判断の誤り)について
本件発明2~5及び8は,本件発明1の発明特定事項を全て含むものである。3
で後述するとおり,本件発明1と甲1発明は同一又は実質的に同一であるとはいえ
ないから,本件発明1と同様の理由により,本件発明2~5及び8も甲1発明とは
同一又は実質的に同一であるとはいえない。よって,本件訂正が特許法134条の
2第9項において読み替えて準用する同法126条に適合するとした審決の判断に
誤りはない。
したがって,原告が主張する取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(拡大先願違反の認定判断の誤り)について
(1) 本件発明1について
ア 甲1の記載事項(甲1)
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,ガスボンベが装填されテーブル等に載置され
て使用される小型のガスコンロ装置に関する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ガスコンロ装置には,一般に缶本体の直径が約6
6mm,ステムを含む全長が約185mmの外形仕様を以って構成されたガスボン
ベが標準汎用品として供給されている。また,ガスコンロ装置は,燃焼部が土鍋等


の被加熱容器を安定した状態で五徳上に載置するに足る大きさを有するとともに,
ボンベ装填部がガバナ機構やボンベチャッキング機構とともに上述したガスボンベ
を装填するに足る大きさを以って構成されている。したがって,ガスコンロ装置は,
ごく標準的なものであっても,例えば横寸法が約350mm,奥行き寸法が約25
0mm以上の外形寸法を以った大きさに構成されていた。
【0006】ところで,一般家庭等においては,核家族化,少人数化等に伴って,
食卓等も比較的小さなものが使用されるようになっているためにテーブル上に上述
した大きな外形寸法のガスコンロ装置を設置するスペースを確保することが困難と
なる場合が多い。また,一般家庭等においては,上述した標準汎用品のような大容
量のガスボンベを不要とする場合が多い。一方,飲食店や旅館等においても,提供
する鍋物等を加熱,保温ために(判決注:「保温のために」の誤記と認める。)テー
ブルやお膳上に大きなガスコンロ装置を設置すると,他の料理等を並べることが困
難となってしまう。飲食店等においては,長時間テーブル上にガスコンロ装置が置
かれていると他の料理の注文がとどこおり,また大きなテーブルの設置が店内スペ
ースの効率化を妨げて売り上げに重大な影響を及ぼすといった問題があった。さら
に,ガスコンロ装置は,アウトドア用にも使用されるが比較的大型であるために持
ち運びに不便であるといった問題があった。
【0007】ガスコンロ装置は,上述した事情からさほど大きな設置スペースを必
要とすることが無い小型化の要求が高まっているが,標準汎用品のガスボンベの外
形仕様によって制限されるためにその実現が困難となっている。ガスコンロ装置は,
例えば専用の小型ガスボンベを用いることによって小型化を図ることが可能である
が,使用途中でガス切れ等の事態が生じた場合や贈答用でもらい受けた場合等にお
いてこの小型ガスボンベを標準汎用品のガスボンベのように手軽に入手することが
困難であるといった問題が生じる。
【0008】したがって,本発明は,専用の小型ガスボンベを用いることで全体が
小型に構成されるとともに,入手が容易な標準汎用型のガスボンベの使用も可能と


したガスコンロ装置を提供することを目的に提案されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
・・・本発明にかかるガスコンロ装置によれば,全体小型に構成されて
おり,ボンベ装填部内に専用の小型ガスボンベが装填される。卓上ガスコンロ装置
は,入手が容易な標準汎用型のガスボンベを使用する場合には,このガスボンベが
背面部を開放されたボンベ装填部内に後端部分を背面側へと飛び出させた状態で装
填される。
【0011】
【発明の実施の形態】以下,本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説
明する。実施の形態として示すガスコンロ装置1には,詳細を後述するように,ガ
スボンベ2として好適に使用される専用小型ガスボンベ2Aとともに,従来一般に
用いられている大型の標準汎用ガスボンベ2Bも使用することが可能とされる。ガ
スコンロ装置1は,シャーシ3に対して一方側面を開放したコ字状の化粧枠部材4
が取り付けられるとともに,この化粧枠部材4の開放部位に詳細を後述するカバー
部材5及び背面カバー部材6とが組み合わされて全体略箱型に構成されてなる。
【0012】ガスコンロ装置1は,図1及び図2に示すように,一方領域が燃焼部
7として構成されるとともに,化粧枠部材4の開放部位側の他方領域が仕切板9を
介してボンベ装填部8として構成されてなる。ガスコンロ装置1には,ボンベ装填
部8に対応する化粧枠部材4の前方側面4aにダイヤルツマミ10が配設されると
ともに,シャーシ3の底面の四隅近傍に位置してそれぞれ設置用の脚部11が設け
られている。ガスコンロ装置1は,例えば横寸法が約263mm,奥行き寸法が最
大約211mm(背面カバー部材6から化粧枠部材4の前面4aに設けたダイヤル
ツマミ10の先端までの寸法。なお,本体部位は約200mmである。)の外形仕様
を以って構成されている。
【0019】ボンベ装填部8は,シャーシ3の一方側に,上述したように化粧枠部
材4の前面4aと仕切板9及びカバー部材5と背面カバー部材6とによって閉塞さ


れる奥行き方向の矩形空間部として構成されてなる。ボンベ装填部8には,ガスボ
ンベ2からバーナ12への燃料ガスの供給量を調整するガバナ機構17と,装填さ
れたガスボンベ2をチャッキングするチャッキング機構18とが設けられている。
【0021】カバー部材5は,金属薄板を素材とし,ボンベ装填部8の天井部と側
面部とを構成する天井部19と側面部20とが一体に形成されることによって断面
L字状を呈している。カバー部材5には,詳細を省略するが側面部21の下端部に
軸穴を有するヒンジ部21が一体に形成されている。カバー部材5は,ヒンジ部2
1の軸穴にシャーシ3に支架した支軸22が挿通されており,この支軸22を支点
としてシャーシ3に対して回動自在に支持されている。
【0022】カバー部材5には,その天井部19に,後述するようにボンベ装着部
8に装填されたガスボンベ2とガバナ機構17との結合状態を視認可能とする開口
23が設けられている。開口23は,例えばカバー部材5を開放操作するに際して
指が差し込まれる指掛け穴としても機能する。カバー部材5には,使用時にボンベ
装填部8内が所定の温度以上にならないようにするために,側面部20に溜まった
熱を放熱するための多数条の放熱スリット24が形成されている。
【0025】背面カバー部材6は,金属薄板やポリカーボネート樹脂等の合成樹脂
を素材として,ボンベ装填部8の開放された背面部を閉塞するに足る外形寸法を有
する全体略板状に形成されている。背面カバー部材6には,図2及び図3に示すよ
うに,下端部の両側に位置して軸穴を有するヒンジ部25(25a,25b)が一
体に折曲形成されている。背面カバー部材6は,ヒンジ部25の軸穴にシャーシ3
に支架した支軸26が挿通され,この支軸26を支点としてシャーシ3に対して回
動自在に支持されている。
【0026】なお,背面カバー部材6は,例えばヒンジ部25と支軸26との間に
トーションスプリングを装着することによってボンベ装填部8を閉塞する方向に付
勢するように構成されてもよい。また,背面カバー部材6は,ボンベ装填部8を閉
塞した状態において,図2に示すように上端部に前方側へと折曲形成したフランジ


部6aがカバー部材5の天井部19に支えられる。さらに,背面カバー部材6は,
シャーシ3との間に例えばクリック凸部とクリック凹部とからなるクリック機構を
設けて,ボンベ装填部8を閉塞した状態が安定した状態で保持されるようにしても
よい。
【0027】背面カバー部材6は,支軸26に代えてヒンジ部25の軸穴を貫通す
るとともにシャーシ3に形成した取付部にねじ止めされる止めねじによって回動自
在に支持するように構成してもよい。また,背面カバー部材6は,合成樹脂材料に
よって成形する際に,例えば下端部をシャーシ3に固定するとともに,ボンベ装填
部8の背面部を構成する立上り部位を薄肉部を介して連設するようにしてもよい。
薄肉部は,その材料特性によって可撓性を有することから,支軸26を不要として
ヒンジ機構を構成する。
【0028】以上のように構成された背面カバー部材6は,通常ボンベ装填部8の
背面部を閉塞しているが,後述するように大型の標準汎用ガスボンベ2Bを使用す
る場合には支軸26を支点として回動操作されることによって,ボンベ装填部8の
背面部を開放する。ガスコンロ装置1は,後述するように開放されたボンベ装填部
8の背面部から標準汎用ガスボンベ2Bの後端部が突出された状態とされることに
よりこの標準汎用ガスボンベ2Bの使用を可能とする。
【0034】ガスコンロ装置1は,ボンベ装填部8に専用小型ガスボンベ2Aが装
填される場合には,カバー部材5のみが支軸22を支点として回動操作されてボン
ベ装填部8がその天井部と側面部とを開放される。ガスコンロ装置1には,開放さ
れたボンベ装填部8に専用小型ガスボンベ2Aが装填されてカバー部材5が閉じら
れる。ガスコンロ装置1は,これによって,図4に示すように専用小型ガスボンベ
2Aが装填されたボンベ装填部8がカバー部材5と背面カバー部材6とによって閉
塞された状態で使用される。ガスコンロ装置1は,上述したように全体小型に構成
されていることから,テーブル等に載置して使用した場合にも大きな面積をとらず
にスペース効率を向上させる。


【0035】ガスコンロ装置1は,ボンベ装填部8に標準汎用ガスボンベ2Bが装
填される場合には,カバー部材5とともに,図6矢印で示すように背面カバー部材
6が支軸26を支点として回動操作される。ガスコンロ装置1には,開放されたボ
ンベ装填部8に大型の標準汎用ガスボンベ2Bが装填されてカバー部材5が閉じら
れる。ガスコンロ装置1は,図5及び図6鎖線で示すように背面カバー部材6が回
動操作した状態のまま保持される。ガスコンロ装置1は,これによって標準汎用ガ
スボンベ2Bがその後端部を開放されたボンベ装填部8の背面部から後方へと突出
露呈した状態で使用される。ガスコンロ装置1は,このように専用小型ガスボンベ
2Aとともに大型の標準汎用ガスボンベ2Bの使用が可能とされる。
【0037】上述したガスコンロ装置1においては,背面カバー部材6がシャーシ
3に対して支軸26によって回動自在に支持されたが,かかる構成に限定されるも
のでは無い。図8に示したガスコンロ装置30は,背面カバー部材31がシャーシ
3に対して着脱自在に組み合わされた構成を特徴とする。背面カバー部材31は,
例えば合成樹脂材料によってボンベ装填部8の背面部を閉塞するに足る外形寸法を
有する板状に形成されてなる。背面カバー部材31には,その両側縁に係合凸部3
2が形成されており,この係合凸部32が仕切板9及びシャーシ3に立設した図示
しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝に相対係合される。
【0038】ガスコンロ装置30は,専用小型ガスボンベ2Aを使用する場合には,
背面カバー部材31を取り付けた状態のままとされる。また,ガスコンロ装置30
は,標準汎用ガスボンベ2Bを使用する場合には,背面カバー部材31がボンベ装
填部8から抜き取られる。したがって,ガスコンロ装置30は,図8において鎖線
で示すように,標準汎用ガスボンベ2Bがその後端部を開放された背面部から突出
した状態でボンベ装填部8に装填される。


【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図8】


イ 甲1発明の認定
前記アの甲1の記載によると,甲1には審決が認定した前記第2の3(2)ア記載
の甲1発明が記載されていると認められる。
ウ 本件発明1と甲1発明との対比及び判断
(ア) 原告は,甲1発明には,隙間1,2が存在し,隙間1,2は,甲1発明
において,本件発明1にいう「開口」に相当する部分(ボンベ装填部8の背面部の
開放された部分)の一部をなしているから,甲1発明は,「専用小型ガスボンベ2
A」を器具本体にセットしたときに「上記開口を含む空気導入口」を備えており,
仮に,隙間1,2が本件発明1いう「開口」に含まれないものであるとしても,隙
間1,2は,外部からボンベ装填部8の内部に空気を導入する機能を有するから,
本件発明1と甲1発明が同一である旨主張する(原告の主張1)ので,まず,この


点について判断する。
a 前記1(2)で認定したとおり,本件発明は,小型ガス容器を器具本体
にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を,空気導入口
として活用し,そのような開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入する
空冷機構を備えることで,ガス器具の小型化に伴う発熱の問題を解決し,標準型ガ
ス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を発生可能で,熱害の心配のない安全性の
高い小型ガス器具を提供するというものである。
また,本件明細書の【発明の実施の形態】には「・・・上記の開口27を,器具
本体10内へ空気を導入する空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させ
るための空冷機構を構成する。
・・・小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図
ることが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として活用するこ
とができるという特徴を発揮する。(段落【0017】,
」 )「・・・後部開口27や小
開口29よりなる空気導入口28から流入する多量の空気が排出部32へ抜け
る・・・」(段落【0023】)との記載がある。
以上からすると,標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口を,小型
ガス容器を器具本体にセットしたときには,空気導入口として活用し,器具本体内
に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能の向上を図るというのが本件発明の技術
思想であると認められる。そうすると,本件発明にいう「開口」とは,小型ガス容
器を器具本体にセットしたときに,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷
却性能を向上させるような「空気導入口」として機能し得る程度のものである必要
があるというべきである。
b 上記aを踏まえて,甲1について検討するに,確かに甲1の【図6】
や【図8】には,原告の主張する隙間1,2らしきものが記載されている。しかし,
特許公報に添付された図面は,発明の技術内容を理解しやすくするためのものにす
ぎず,部材の大きさや位置関係が正確に記載されているとは限らないものであると
ころ,甲1の【発明の詳細な説明】には,カバー部材5・仕切板9と背面カバー部


材6又は背面カバー部材31との間に隙間1,2を設けることを明示又は示唆する
記載は,全く存在しない。
特に,隙間2に関しては,甲1の段落【0037】の「・・・背面カバー部材3
1には,その両側縁に係合凸部32が形成されており,この係合凸部32が仕切板
9及びシャーシ3に立設した図示しない支持柱部材とに形成した高さ方向の係合溝
に相対係合される。」との記載及び【図8】からすると,被告が主張するように係合
凸部32と図示されていない支持柱部材に形成された係合溝により,ボンベ装填部
8の背面部が閉塞され,隙間2は生じないとも考えられる。
そうすると,甲1の【図6】及び【図8】から直ちに原告が主張するような隙間
1,2の存在を認めることはできないというべきであるから,原告の主張1はその
点からして採用することができない。
c 仮に,甲1の【図6】や【図8】から隙間1,2の存在が認められ
るとしても,甲1には,隙間1,2から空気を導入して冷却性能の向上を図るとい
う技術思想については全く記載も示唆もない上,
【図6】や【図8】に描かれた隙間
1,2はいずれもごく小さいものであるから,それらに接した当業者が,隙間1,
2から空気を導入することで,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性
能の向上を図ることができると認識すると認めることはできない。したがって,隙
間1,2が,原告が主張する本件発明1にいう「開口」に相当する部分(甲1発明
におけるボンベ装填部8の背面部における開放された部分)に含まれるかどうかに
かかわらず,原告の主張1を採用することはできない。
(イ) 原告は,甲1発明は,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用
形態が可能な機械的構成を備えているから,本件発明1と甲1発明は同一又は実質
的に同一であると主張する(原告の主張2)。
しかし,前記アの甲1の記載事項からすると,甲1発明には,標準型ガス容器を
器具本体にセットするときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出すための開口
を,小型ガス容器を器具本体にセットした際に空気導入口として活用し,器具本体


内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能の向上を図るという技術思想は存在せ
ず,かえって,甲1発明では,専用小型ガスボンベ2Aの使用中にボンベ装填部8
の背面部を閉塞するために,敢えて部品点数を増やしてまで背面カバー部材6又は
背面カバー部材31を設けている(甲1の段落【0019】【0025】~【00

28】【0034】【0037】【0038】
, , , )のであり,甲1には,専用小型ガス
ボンベ2Aの使用中に背面カバー部材を開放することについては何ら記載されてお
らず,そのことは全く想定されていないというべきである。このことは,甲1にお
いて,背面カバー部材6にトーションスプリング等を使わない態様が記載されてい
るとしても変わるものではない。
また,甲1発明のうち,背面カバー部材6がシャーシ3に取り付けられている実
施形態の場合,背面カバー部材6を開放すると,背面カバー部材6分だけガスコン
ロ装置の設置スペースが増大することになり,大きな設置スペースを必要としない
小型のガスコンロ装置を提供するという甲1発明の目的(甲1の段落【0005】
~【0008】)とも反することになる。
そうすると,甲1発明が,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
可能な機械的構成を備えているとしても,そのことをもって,本件発明1と甲1発
明が同一又は実質的に同一であるということはできず,原告の主張2は採用するこ
とができない。このことは,ボンベ装填部8の背面側を開放するという使用形態が
周知・慣用技術であったとしても変わるものではない。
(ウ) 以上の検討及び弁論の全趣旨からすると,本件発明1と甲1発明と
の間には,審決が認定した前記第2の3(2)イ記載の一致点及び相違点1があるこ
とが認められる上,相違点1は実質的な相違点であって,本件発明1と甲1発明は
同一又は実質的に同一とはいえない。
(2) 本件発明6,7について
本件発明6,7は,本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから,前記
(1)の本件発明1と同様の理由により,甲1発明と同一又は実質的に同一であると


はいえない。
(3) 小括
以上からすると,原告が主張する取消事由2は理由がない。
第6 結論
よって,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとして,主文のとお
り判決する。

知的財産高等裁判所第2部


裁判長裁判官
森 義 之


裁判官
眞 鍋 美 穂 子


裁判官
熊 谷 大 輔


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