令和2(行ケ)10014審決取消請求事件
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裁判所 |
請求棄却 知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和2年9月23日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告X 被告富山県
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法令 |
商標権
商標法4条1項11号4回 商標法38条4項1回
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キーワード |
審決15回 無効4回 商標権2回 無効審判1回
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主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,
商標の類似性(商標法4条1項11号)の有無である。 |
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判決文
令和2年9月23日判決言渡
令和2年(行ケ)第10014号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和2年8月24日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁護士 小 山 智 弘
玉 井 信 人
同訴訟代理人弁理士 三 田 大 智
被 告 富 山 県
同訴訟代理人弁護士 小 倉 秀 夫
橋 本 勇
同 指 定 代 理 人 杉 田 聡
伴 義 人
島 田 俊 之
大 川 内 康 郎
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2019-890028号事件について令和元年12月25日にし
た審決を取り消す。
第2 事案の概要
本件は,商標登録無効審判請求に対する不成立審決の取消訴訟である。争点は,
商標の類似性(商標法4条1項11号)の有無である。
1 本件商標
被告は,別紙本件商標目録記載の商標(以下「本件商標」という。)の商標権者
である(甲1の1・2)。
2 特許庁における手続の経緯
原告は,平成31年4月23日,自らが商標権者である別紙引用商標目録記載の
商標(甲2の1・2。以下「引用商標」という。)と本件商標が類似するなどとし
て,本件商標の登録を無効とするとの審決を求める審判請求(無効2019-89
0028号。甲23。以下「本件審判請求」という。)をしたところ,特許庁は,
令和元年12月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本
件審決」という。)をし,その謄本は,同年1月9日頃,原告に送達された。
3 本件審決の理由の要点
(1) 本件商標は,「富富富」の漢字を横書きして成るところ,「富」の音読み
に相応し「フフフ」の称呼を,又は,訓読みに相応し「トミトミトミ」の称呼を生
じる。そして,「富」の文字は,「とむ。物がゆたかにある。とみ。財産。」を意
味する極めて平易な漢字であるから,本件商標は,「三つのとみ(富)」ほどの漠
然とした意味合いを想起させる場合があるとしても,具体的な観念を有するとまで
はいえない。したがって,本件商標は,「フフフ」又は「トミトミトミ」の称呼を
生じ,特定の観念を生じないものである。
(2) 引用商標は,「ふふふ」の平仮名を横書きして成るところ,その構成文字
に相応して「フフフ」の称呼を生じる。そして,当該文字は,一般的な国語辞典等
の掲載内容を踏まえると,「人が軽く笑う声」の観念を生じるものである。したが
って,引用商標は,「フフフ」の称呼を生じ,「人が軽く笑う声」の観念を生じる
ものである。
(3) 本件商標と引用商標は,外観において,その構成文字における漢字と平仮
名という文字種の明らかな差異を有するから,明確に区別でき,また,観念におい
て,本件商標は,特定の観念を生じないものであるのに対し,引用商標は,「人が
軽く笑う声」の観念を生じるものであるから,両者は明らかに異なり,観念上相紛
れるおそれのないものである。本件商標と引用商標とは,称呼を共通にする場合が
あるとしても,その外観における相違が顕著であることから,称呼の共通性が外観
における差異を凌駕するものとはいい難く,外観,称呼及び観念を総合して考察す
ると,両商標は,相紛れるおそれのない非類似の商標というべきものである。
(4) 本件商標の指定商品と引用商標の指定役務との類否についてみると,飲食
料品の商品の製造,販売と,その商品を取り扱う小売等役務の提供とが同一の事業
者によって行われることは,商取引上,しばしば見受けられるものであり,そのよ
うな場合,当該商品の販売場所や需要者の範囲が,当該役務の提供場所や需要者の
範囲と一致することから,本件商標の指定商品中,第30類,第31類のうち「あ
わ,きび,ごま,そば(穀物),とうもろこし(穀物),ひえ,麦,籾米,もろこ
し」及び第33類は,引用商標の指定役務である第35類「飲食料品の小売又は卸
売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」とは,類似するものといえる。
(5) 上記(3)のとおり,本件商標と引用商標とは非類似の商標であるから,上記
(4)のとおり,本件商標の指定商品と引用商標の指定役務が類似するものであると
しても,本件商標は,商標法4条1項11号に該当しない。
4 原告の主張する審決取消事由
本件審決は,次のとおり,考慮されるべき取引の実情や本件商標及び引用商標か
ら生ずる各観念についての認定判断を誤り,本件商標が引用商標と類似し商標法4
条1項11号に該当するにもかかわらず,その判断を誤ったものである。
(1) 考慮されるべき取引の実情について
ア 特許庁は,自らが定める商標審査基準(以下, 「審査基準」
単に という。)
において,類否判断における総合的観察に当たり,一般的・恒常的な取引の実情は
考慮するが,特殊的・限定的な取引の実情は考慮しない旨を定めている。
イ 原告は,本件審判請求において,①食品分野での「ふふふ」の語に対す
る取引者・需要者の認識といった一般的・恒常的な取引の実情を主張した上で,②
被告による本件商標の使用態様及び本件商標に対する需要者の認識といった特殊
的・限定的な取引の実情について主張したが,本件審決においては,上記①が除外
され,上記②のみが取引の実情として認定された。そのような不当な認定が,本件
商標と引用商標との類否の判断に大きく影響を与えたものである。
(2) 本件商標及び引用商標から生ずる観念について
取引の実情を考慮すると,次のとおり,本件商標及び引用商標は,いずれも,「人
が軽く笑う様子」,ひいては「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるもの
である。
ア 「ふふふ」の語について
引用商標でもある「ふふふ」の語は,「口を開かずに軽く笑う声」,「口を閉じ
ぎみにして低く笑うときの笑い声の様子」,「かすかな笑い声」,「いたずらっぽ
く,少々ふざけて,含み笑いをする時などの様子」,「人が含み笑いをする声」を
表す語として一般的であり(甲3の1~5),「人が軽く笑う様子」に関する観念
を生ずる。
加えて,「ふふふ」の語は,食品分野においては,上記の一般的観念に基づいて,
「おいしさ」や「満足感」を想起させる語として取引者・需要者に浸透しており(甲
4の1~11),「おいしさ」や「満足感」に関する観念をも生ずる。人が食品を
食べたときに軽く笑うのは,その食品に「おいしさ」や「満足感」を感じたときで
あるということを,誰もが容易に想像できるから,食品分野においては,間接的に
又は暗喩的に「ふふふ」と表現すれば,人は「おいしさ」や「満足感」を想起する
のである(甲12の2~6・8・11)。
なお,擬態語等は文脈依存度が高いということから,擬態語等が単体で特定の観
念を生じないなどということはできない。
イ(ア) 本件商標から生ずる観念について
a 被告及び本件商標の使用権者である株式会社JAライフ富山による
本件商標の使用態様(甲5の2・3,甲6の1~4,甲7~9,甲10の1・2,
甲11の1・2)や,被告が策定した「富富富デザインマニュアル」において「食
べた人が思わず『ふふふ』と微笑み,しあわせな気持ちになってもらいたいという
想いも込めました」と公言していること(甲16)は,被告においても,上記アの
取引の実情を前提として,本件商標が「フフフ」の称呼を生じ,「人が軽く笑う様
子」,ひいては,「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずることを自認して
いることを示している。
上記に関し,漢字が用いられている表現においては用いられている漢字を基準と
してその意味を把握しようとするのが通例であるとしても,言葉の意味を漢字の「読
み方」から把握しようとする場合もあり,本件商標については,「トミトミトミ」
と呼んでみても,そのような言葉はないことから読み手にはピンと来ず,
「フフフ」
と呼んでみて初めて,人が軽く笑う様子を意味する「ふふふ」であることに気づい
て納得するのである。
b 本件商標に接した需要者も,上記アの取引の実情を前提として,本
件商標から「フフフ」の称呼及び「人が軽く笑う様子」や「おいしさ」に関する観
念を生ずることを認識している(甲11の2,甲12の1~11)。
(イ) 引用商標から生ずる観念について
上記アで指摘したように,引用商標である「ふふふ」の語は,単なる「笑い声」
でなく,その「笑いの様子」まで想起させるもので,そのため,上記アの取引の実
情が確立しているところ,原告も,それを把握しているからこそ,カタログ等に引
用商標を使用するに際し,「箱を開けたとき,お湯を注ぐ時,食べる時,思わず『ふ
ふふ』と笑顔がこぼれます。」のようなキャッチフレーズを用いている(甲15)。
(3) 本件商標及び引用商標の類否の判断について
上記(2)の点からして,本件商標と引用商標とは,観念において共通する。本件商
標と引用商標とが称呼において共通することは,本件審決も認定するとおりであり,
本件商標と引用商標とは,称呼及び観念において共通し,外観においてのみ異なる。
しかし,外観が異なるのは,引用商標「ふふふ」に富山県の「富」で当て字をし
たからに他ならず,単に文字種が異なるにすぎない。本件商標は,引用商標から生
ずる称呼及び観念に基づいて,引用商標に当て字をして考案されたもので(甲5の
1・2),いわば引用商標の称呼及び観念を利用した商標である。本件商標と引用
商標の関係について,外観における相違は顕著というよりは,むしろ,商標法にお
いて社会通念上同一の商標として例示されている「平仮名,片仮名及びローマ字の
文字の表示を相互に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」(商
標法38条5項括弧書き)に近いものである。本件商標と引用商標とは,取引者・
需要者が混同を生ずるほど類似しており,現に,それらを同一のものと認識してい
る需要者もいる(甲11の2,甲12の2・5・7~9)。
以上の点のほか,前記(2)アの一般的・恒常的な取引の実情を考慮すると,本件商
標と引用商標とが取引者・需要者に与える印象,記憶,連想等も共通する。
したがって,本願商標と引用商標とは,商品・役務の出所について誤認混同を生
じるおそれのある,類似の商標ということができる。
(4) 本件商標の指定商品と引用商標の指定役務の類否について
被告は,本件商標の指定商品と引用商標の指定役務の類否について主張するが,
その点は,本件訴訟における審決取消事由として審理されるべき対象とはなってい
ない。なお,上記の類否についての本件審決の判断は,正当である。
5 被告の主張
(1) 考慮されるべき取引の実情について
審査基準においては,商標の類否判断に当たっては,指定商品又は指定役務にお
ける一般的・恒常的な取引の実情を考慮するが,当該商標が現在使用されている商
品又は役務についてのみの特殊的・限定的な取引の実情は考慮しない旨が定められ
ている。
そして,原告の提出する甲4の1~11は,「ふふふ」という文字列の具体的な
用法を示すにすぎず,指定商品又は指定役務における取引慣行など,一般的・恒常
的な取引の実情を原告が主張立証するものではない。
(2) 本件商標及び引用商標から生ずる観念について
ア 「ふふふ」の語について
甲3の1~4で示されているのは,「ふふふ」の語の擬態語や擬音語としての用
法であるところ,日本語における擬態語等は文脈依存性が高く(乙1),それ単体
で特定の観念を生ずるものではなく,文脈によりその意味内容は様々である。
甲4の1~11について,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関する
観念を生じさせているものはない。食品分野においても,「ふふふ」の語の意味内
容は様々である(甲29,33,43,45)。
イ(ア) 本件商標から生ずる観念について
a 本件商標は,特段の観念を生ずるものではない。審査基準によると,
「観念とは,商標に接する需要者が,取引上自然に想起する意味又は意味合いをい
う」ところ,本件商標は,単一の造語から成るものであるから,「取引上自然に想
起する意味又は意味合い」が生じ得ない。また,日本語においては,漢字が用いら
れている表現においては,用いられている漢字を基準としてその意味を把握しよう
とするのが通例であるから,
「富」という漢字が三つ並んでいる本件商標について,
「富」に関する意味合いがあるのだろうという漠然とした認識を需要者が持つこと
はあっても,それは,具体的な観念にまでは至らないものである。
この点,原告が主張する本件商標の使用態様(甲5の2・3,甲6の1~4,甲
7~9,甲10の1・2,甲11の1・2)は,商標の類否の判断に当たって考慮
しないとされる,本件商標が現在使用されている商品又は役務についてのみの特殊
的・限定的な取引の実情にすぎない。また,当該使用態様において,「富富富」の
語や「ふふふ」の語は,富山の新しい米の品種名を示すものとして用いられたり,
当該品種名と掛け合わせただじゃれとして用いられたりしているにすぎず,「おい
しさ」や「満足感」を想起させる語としては使用されていない。さらに,当該使用
態様の中には,そもそも被告が行うものでない業務に係るものや,飲食料品の小売
又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供について用いられている
ものではないものや,強く支配的な印象を与える「要部」としての使用ではないも
のが含まれている。ある表現に主観的にある思いを込めること(甲16)と,ある
表現からその思いに係る観念が客観的に想起されるか否かは全く別物であり,被告
が原告の主張するような自認をしているということもない。
b 本件商標に接した需要者において,本件商標が「ふふふ」という擬
態語や擬音語と同じ観念を生起させるものと認識したり,「おいしさ」等の観念を
有していると認識しているといったことはない。
(イ) 引用商標から生ずる観念について
「ふふふ」の語は,「おいしさ」や「満足感」という観念を想起させるものでは
ない。原告が指摘する用例(甲15)においても,「ふふふ」の語は,笑い声等に
関する擬音語等として用いられているにとどまる。
(3) 本件商標及び引用商標の類否の判断について
本件商標が特段の観念を生起させるものでない以上,引用商標と本件商標とが観
念において共通することはあり得ない。また,原告の提出する使用例等をみても,
本件商標が取引者・需要者に与える印象,記憶,連想(「富山県」の「富」,豊か
さを意味する「富」が三つ並んでいる。)と,引用商標が取引者・需要者に与える
印象,記憶,連想(笑い声又は息を吹きかけて熱を冷ます様子などを表す擬態語や
擬音語)との間には,全く共通点がない。
本件商標は,富山が誇る水,大地,人の三つの「富」を並べたものであり(甲5
の1),かつ,「富」が被告である富山県の「富」を意識したものであることも明
らかであり,本件商標は「ふふふ」の当て字ではない。
なお,商標法38条4項括弧書きに,漢字表記に係る変更が含められていないの
は,平仮名,片仮名及びローマ字がいずれも表音文字であって各文字自体に意味が
ないのに対し,漢字は表意文字であって各文字に意味があるからである。
(4) 本件商標の指定商品と引用商標の指定役務の類否について
本件審決では,本件商標の指定商品の一部と引用商標の指定役務とが類似してい
ると認定されたが,①当該指定商品の一部の製造・販売とそれに係る小売等役務に
ついて,同一業者により行われるのが一般的であるとはいえないこと,②当該指定
商品の一部の用途と小売等役務の用途が一致するとはいえないこと,③当該指定商
品の一部の販売場所と小売等役務の提供場所は一部重なるものの一致はしないこと,
④当該指定商品の一部の需要者と小売等役務の需要者も一部重なるものの一致はし
ないことなどに照らすと,需要者において,本件商標の指定商品とその指定商品を
対象とする小売等役務を混同するおそれはなく,本件商標の指定商品と引用商標の
指定役務は類似していないというべきである。
第3 当裁判所の判断
1 商標の類否は,対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された場合に,
商品の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,
それには,そのような商品に使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取
引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべきであり,
かつ,その商品の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づ
いて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月
27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁参照)。
2 本件商標と引用商標の類否について
(1) 外観について
本件商標は,「富富富」の漢字を横書きした構成から成るものであり,引用商標
は,「ふふふ」の平仮名を横書きした構成から成るものであって,本件商標と引用
商標は,外観において著しく異なっている。
(2) 観念について
ア 本件商標は,「富」を三つ並べたものであるところ,「富」の文字は,「物
が満ちたりること。豊かにすること。とむこと。とみ。」,「集積した財貨」など
を意味する(「広辞苑 第六版」株式会社岩波書店2033頁・2414頁)平易
な漢字であるから,本件商標は,「三つのとみ(富)」など,豊かであることや財
産(及びそれが複数あること)に関連する漠然とした意味合いを想起させるもので
あるといえる。また,本件商標が「フフフ」と称呼されるときには,下記イの引用
商標と同様の特定の態様の「笑い」という観念を生ずることがあるということがで
きる。
イ 引用商標を構成する平仮名である「ふふふ」の語は,「口を開かずに軽
く笑う声」(甲3の1),「口を閉じ気味にして低く笑うときの笑い声」(甲3の
2),「かすかな笑い声」(甲3の3),「含み笑いをする声」(甲3の5)など,
特定の笑い声を示し,また,「含み笑いをするときなどの様子」(甲3の4)を示
すものと認められる。したがって,引用商標は,上記のような特定の態様の「笑い」
という観念を生ずることがあるものといえる。
(3) 称呼について
本件商標は,「富」の漢字の音読みによると「フフフ」の称呼を,訓読みによる
と「トミトミトミ」の称呼を生じるといえる。もっとも,「富」の漢字には「フウ」
という音読みや「ト」(む)という訓読みもあり(甲13),本件商標の称呼が,
必ずしも上記に限定されるものとはいえない。
他方,引用商標が,「フフフ」の称呼を生ずることは,明らかである。
(4) 検討
上記(1)~(3)によると,本件商標と引用商標は,外観において著しく異なってお
り,また,称呼や観念を共通にする場合があるものの,それは,本件商標を「フフ
フ」と称呼した限られた場合のみである。そして,上記のような差異があるにもか
かわらず,本件商標と引用商標が類似しているものと認めるべき取引の実情その他
の事情は認められない。
したがって,本件商標は,引用商標と類似するものとは認められない。
3 原告の主張について
(1) 原告は,本件商標と引用商標からいずれも「おいしさ」や「満足感」に関
する観念を生ずる旨主張するが,以下のとおり,この主張を採用することはできな
い。
ア 「ふふふ」の語について
原告は,人が食品を食べたときに軽く笑うのは,その食品に「おいしさ」や「満
足感」を感じたときであるということを,誰もが容易に想像できるから,食品分野
においては,「ふふふ」の語が,「おいしさ」や「満足感」に関する観念をも生ず
ると主張する。
しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が,特定の態様の笑い声や笑う様子
といった観念を生ずることを前提として,食品について「おいしさ」といった肯定
的な評価を示す直接的な表現として用いられている例(「食卓にふふふな時間を」
(甲4の5),「ふふふ~なオヤツ」(甲4の7),「ふふふなモノたち」(甲4
の8),「ふふふなレアチーズ」(甲4の9),「ふふふな食べ比べ」(甲4の1
0)といった用例)があることは認められるものの,それを超えて,「ふふふ」の
語が,食品について,「おいしさ」や「満足感」を示すものとして一般的に用いら
れているものというべき事情を認めるに足りる証拠はない。「ふふふ」の語が,食
品について,必ずしも「おいしさ」や「満足感」に関する観念を示すものと直ちに
認められない形で用いられている例(甲28~33,36,37,42,43,4
5)や,一定の態様の「笑い声」や「笑う様子」を示すものとして用いられている
にとどまるというべき例(甲4の1~4・11,甲12の2・4・11)も認めら
れるところである。この点,原告が証拠として提出する辞典(甲3の4・5)にお
いても,「ふふふ」の語については,「いたずらっぽく,少々ふざけて,含み笑い
をする時などの様子」(甲3の4)を示すものとされたり,「いたずらっぽい笑い,
または不敵な笑いを示すことが多い。」(甲3の5)とされたりしているのであっ
て,一般的に,必ずしも常に肯定的な意味合いを示すものとはみられない。
上記のように,食品分野においては,「ふふふ」の語が肯定的な意味合いで用い
られることが相応にあるということは認められるものの,それを超えて,「おいし
さ」や「満足感」に関する観念が一般的に生ずるとまでいうことはできない。
イ 本件商標から生ずる観念について
(ア) 原告は,本件商標の使用態様(甲5の2・3,甲6の1~4,甲7~
9,甲10の1・2,甲11の1・2)や被告が策定したマニュアルの記載(甲1
6)から,本件商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるものである
ことを被告が自認している旨を主張する。
しかし,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関す
る観念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。
証拠(甲5の2・3,甲6の1~4,甲7~9,甲10の1・2,甲11の1・2)
から認められる本件商標の使用態様や被告の「富富富デザインマニュアル」(甲1
6)の記載を考慮しても,被告が本件商標に係る「フフフ」という称呼を,そこか
ら生ずる特定の態様の「笑い」という観念を積極的な評価と結びつける形で用いる
ことを超えて,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずるよう
な形で用いているとは認められない。
(イ) 原告は,本件商標に接した需要者の認識についても主張するが,証拠
(甲11の2,甲12の1~11)から認めることができる事実は,本件商標が「フ
フフ」の称呼を生ずることがあることと,「フフフ」の称呼を生じた場合には,本
件商標が特定の態様の「笑い」という観念を生じることがあることの各事実にとど
まり,本件商標から「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずると認めること
はできない。
ウ 引用商標から生ずる観念について
原告は,引用商標が「おいしさ」や「満足感」に関する観念を生ずる旨を主張す
るが,食品分野において,「ふふふ」の語が「おいしさ」や「満足感」に関する観
念を生ずるという一般的な事情が認められないことは,上記アのとおりである。原
告が指摘する原告のカタログの記載(甲15)についても,あくまで「ふふふ」の
語を笑い声や笑う様子を示すものとして用いるものにすぎないということができ,
引用商標から上記観念が生ずることを上記記載が裏付けるものとはいえない。
エ したがって,本件商標と引用商標とからいずれも「おいしさ」や「満足
感」に関する観念が生ずるとの原告の主張を採用することはできない。
(2) 原告は,本件商標は,引用商標に富山県の「富」で当て字をしたものにす
ぎないと主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。原告の主張は,
引用商標と一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語を同一視するものであっ
て相当でない。一般的な擬音語・擬態語である「ふふふ」の語が有する意味を踏ま
えて被告がそのような称呼を有する商標を登録することが,引用商標が存すること
で直ちに妨げられるものではない。
また,本件商標と引用商標が「平仮名,片仮名及びローマ字の文字の表示を相互
に変更するものであって同一の称呼及び観念を生ずる商標」(商標法38条5項括
弧書き)に当たらないことも明らかである。
(3) 原告は,需要者は,本件商標と引用商標を同一のものと認識していると主
張し,事例(甲11の2,甲12の2・5・7~9)を指摘するが,これらの事例
は,本件商標が「フフフ」という称呼又は笑い声や笑う様子と結びつけられている
ことを示すものにとどまり,本件商標と引用商標とが同一のものであるのと誤認等
がされた事実があることを示すものではなく,需要者が本件商標と引用商標を同一
のものと認識していると認めることはできない。
(4) よって,原告の主張は,いずれも本件商標と引用商標とが類似しないとの
上記2の判断を左右するものではない。
4 結論
以上によると,本件商標が商標法4条1項11号に該当しないとした本件審決の
判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は認められない。
第4 結論
以上の次第で,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文
のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
森 義 之
裁判官
佐 野 信
裁判官
中 島 朋 宏
(別紙)
本 件 商 標 目 録
1 登録商標
2 登録番号 第6007642号
3 出願日 平成29年3月8日
4 査定日 平成29年10月26日
5 登録日 平成30年1月5日
6 指定商品
第30類 茶,菓子,パン,サンドイッチ,中華まんじゅう,ハンバーガ
ー,ピザ,ホットドッグ,ミートパイ,みそ,穀物の加工品,食
用酒かす,米,脱穀済みのえん麦,脱穀済みの大麦,食用粉類
第31類 あわ,きび,ごま,そば(穀物),とうもろこし(穀物),ひ
え,麦,籾米,もろこし,飼料,種子類,木,草,芝,ドライフ
ラワー,苗,苗木,花,牧草,盆栽
第33類 泡盛,合成清酒,焼酎,白酒,清酒,直し,洋酒,果実酒,酎ハ
イ,中国酒,薬味酒
(別紙)
引 用 商 標 目 録
1 登録商標
2 登録番号 第5458965号
3 出願日 平成23年6月14日
4 登録日 平成23年12月22日
5 指定役務
第35類 飲食料品の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便
益の提供
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