令和2(ネ)10039特許権侵害差止等請求控訴事件
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裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和2年12月1日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被控訴人株式会社ヨコオ
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対象物 |
アンテナ装置 |
法令 |
特許権
特許法36条6項1号2回 特許法123条1項4号2回 特許法104条の31回 特許法100条1項1回
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キーワード |
実施27回 審決17回 無効16回 特許権8回 無効審判7回 侵害3回 差止2回 損害賠償1回
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主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「アンテナ装置」とする特許(特許第5237617
号,請求項の数11。以下「本件特許」という。)の特許権者である控訴人が,
被控訴人が製造又は輸入し,販売又は販売の申出をしている原判決別紙被告製
品目録記載の製品(以下「被控訴人製品」という。)は,後記3⑴の訂正認容
審決及び無効審判請求不成立審決により訂正が認められた後の本件特許の請求
項1(以下,後記3⑴の訂正認容審決及び無効審判請求不成立審決により訂正
が認められた後の本件特許の請求項1を,単に「請求項1」という。)記載の
発明の技術的範囲に属し,その生産,譲渡又は譲渡の申出は,請求項1に係る
特許の特許権を侵害すると主張し,被控訴人製品の生産,譲渡又は譲渡の申出
の差止め(特許法100条1項),被控訴人製品の廃棄(特許法100条2項),
損害賠償4000万円(民法709条,特許法102条3項)及びこれに対す
る不法行為の後である平成30年3月2日(訴状送達日の翌日)から支払済ま
で民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
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判決文
令和2年12月1日判決言渡
令和2年(ネ)第10039号 特許権侵害差止等請求控訴事件
(原審 東京地方裁判所平成30年(ワ)第5506号)
口頭弁論終結の日 令和2年9月24日
判 決
控 訴 人 原 田 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 高 橋 雄 一 郎
同 阿 部 実 佑 季
同訴訟代理人弁理士 林 佳 輔
同補佐人弁理士 荒 井 康 行
同 福 永 健 司
被 控 訴 人 株 式 会 社 ヨ コ オ
同訴訟代理人弁護士 三 村 量 一
同 中 島 慧
同 高 橋 宗 鷹
同 福 原 裕 次 郎
同補佐人弁理士 相 田 義 明
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の製品を生産し,譲渡し,又は譲
渡の申出をしてはならない。
3 被控訴人は,原判決別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,4000万円及びこれに対する平成30年3月
2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「アンテナ装置」とする特許(特許第5237617
号,請求項の数11。以下「本件特許」という。)の特許権者である控訴人が,
被控訴人が製造又は輸入し,販売又は販売の申出をしている原判決別紙被告製
品目録記載の製品(以下「被控訴人製品」という。)は,後記3⑴の訂正認容
審決及び無効審判請求不成立審決により訂正が認められた後の本件特許の請求
項1(以下,後記3⑴の訂正認容審決及び無効審判請求不成立審決により訂正
が認められた後の本件特許の請求項1を,単に「請求項1」という。)記載の
発明の技術的範囲に属し,その生産,譲渡又は譲渡の申出は,請求項1に係る
特許の特許権を侵害すると主張し,被控訴人製品の生産,譲渡又は譲渡の申出
の差止め(特許法100条1項) 被控訴人製品の廃棄
, (特許法100条2項),
損害賠償4000万円(民法709条,特許法102条3項)及びこれに対す
る不法行為の後である平成30年3月2日(訴状送達日の翌日)から支払済ま
で民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年
5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 原判決は,請求項1に係る特許は,特許法36条6項1号(サポート要件)
を充足せず,特許無効審判により無効(特許法123条1項4号)にされるべ
きものと認められるから,控訴人は被控訴人に対して請求項1に係る特許の特
許権を行使することができないとして(特許法104条の3第1項),控訴人
の請求を棄却し,これを不服とする控訴人が控訴した。
3 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番
号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同じ)。)
⑴ 本件特許
控訴人は,本件特許につき,平成19年11月30日に特許出願をし,平
成25年4月5日にその設定登録を受けた。
本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,訂正認容審決(訂正2014-
390078)により訂正が認められ,さらに,訂正を認めた上で審判請求
を不成立とする無効審判請求不成立審決(無効2015-800040)に
より訂正が認められた(これらの訂正認容審決及び無効審判請求不成立審決
において認められた訂正は,いずれも特許請求の範囲の請求項の訂正であっ
た。)。
本件特許の特許出願の願書に添付した明細書及び図面(以下,明細書及び
図面を併せて「本件明細書」という。)は,別紙特許公報記載のとおりであ
る。
⑵ 請求項1記載の発明
請求項1を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
A 車両に取り付けられた際に,車両から約70mm以下の高さで突出する
アンテナケースと,
B 該アンテナケース内に収納されるアンテナ部
C からなるアンテナ装置であって,
D 前記アンテナ部は,面状であり,上縁が前記アンテナケースの内部空間
の形状に合わせた形状であるアンテナ素子と,該アンテナ素子により受信
されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有するアンプ基
板とからなり,
E 前記アンテナ素子の給電点が前記アンプの入力に高さ方向において前記
アンテナ素子と前記アンプ基板との間に位置するアンテナコイルを介して
接続され,
F 前記アンテナ素子と前記アンテナコイルとが接続されることによりFM
波帯で共振し,
G 前記アンテナ素子を用いてAM波帯を受信し,
H 前記アンテナコイルを介して接続される前記アンプによってFM放送及
びAM放送の信号を増幅する
I ことを特徴とするアンテナ装置。
⑶ 被控訴人の行為
被控訴人は,被控訴人製品(検乙1)を製造又は輸入し,これを日本国内
で販売又は販売の申出をしている。
4 争点及び争点に関する当事者の主張
争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正し,後記5のとおり
当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実及び理由」第2の2,
3(原判決4頁4行目から25頁23行目まで)に記載のとおりであるから,
これを引用する。
⑴ 原判決10頁22行目の「本件発明」を「本件明細書の発明の詳細な説明
に記載された発明」と改め,原判決「事実及び理由」第2の2,3(原判決
4頁4行目から25頁23行目まで)中のその余の「本件発明」を「請求項
1に記載された発明」と改める。
⑵ 原判決「事実及び理由」第2の2,3(原判決4頁4行目から25頁23
行目まで)中の「本件特許」を「請求項1に係る特許」と改める。
⑶ 原判決4頁14行目の「本件特許権」を「請求項1に係る特許の特許権」
と改める。
⑷ 原判決「事実及び理由」第2の2,3(原判決4頁4行目から25頁23
行目まで)中の「本件特許請求の範囲」を「請求項1」と改める。
5 当審における補充主張
無効理由1(請求項1に記載された発明が,アンテナ素子に加えて別のアン
テナを組み込むことや,それらの間の間隔をどの程度開けるのかについて特定
していないことに関してのサポート要件違反)の有無(争点5-1)について
⑴ 被控訴人の主張
ア 発明の詳細な説明に記載された発明
本件明細書の発明の詳細な説明の【技術分野】,【0001】,【背景
技術】【0002】,【0003】,【発明が解決しようとする課題】【0
004】~【0008】の記載によれば,発明の詳細な説明に記載された
発明の課題は,限られた空間しか有しないアンテナ装置において,アンテ
ナ素子に加えて新たにアンテナを組み入れた場合,新たに組み入れたアン
テナが既設のアンテナの影響を受けてしまい,良好な電気的特性を得られ
ないということであり,発明の詳細な説明に記載された発明は,複数のア
ンテナが組み込まれても良好な電気的特性を得ることができるアンテナ
装置を提供することを目的とするものであり,ここでいう「電気的特性」
、、、、、、、、、、
とは,専ら(アンテナ素子ではなく)平面アンテナユニットの特性を意味
している(【0008】及び【0010】参照)。
そして,発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】,
【0009】,
【発明の効果】【0010】【発明を実施するための最良の形態】 【00
, , ,
23】【0030】によれば,発明の詳細な説明に記載された発明は,上
,
記の課題を前提として,アンテナ素子の直下に平面アンテナユニットを配
置し,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットとの間隔を所定の範囲
(平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長をλとした
場合に(以下,「λ」は,これと同じ意味で用いる。)約0.25λ以上)
とすることにより,相互の影響によるアンテナ特性の低下を防止し,良好
な電気的特性を得るという発明である。
発明の詳細な説明の【0011】~【0030】によれば,発明の詳細
な説明には第1実施例と第2実施例の二つの実施例が記載されており,い
ずれの実施例も,アンテナ素子の直下に平面アンテナユニットを配置し,
アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面の間隔を約0.25λ
以上としたものである。その上で,このような寸法・位置関係とすること
により,アンテナ素子と平面アンテナユニットが相互に影響を及ぼすこと
が低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的特
性を示すことが可能となるとされている(【0023】,【0030】)。
また,発明の詳細な説明に記載されている実験結果は,いずれも,アンテ
ナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナの電気的特性に及
ぼす影響を検証したものである(【0018】~【0026】)。
イ 請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か
請求項1は,①アンテナ素子に加えて別のアンテナ(平面アンテナユニ
ット)を組み込むこと,及び,②アンテナ素子の下縁と上記別のアンテナ
の上面との間隔が約0.25λ以上であることをいずれも特定していない。
そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて別のアン
テナ(平面アンテナユニット)を組み込み,アンテナ素子の下縁と上記別
のアンテナの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に
も,①そもそもアンテナ素子以外の別のアンテナ(平面アンテナユニット)
が組み込まれていないアンテナ装置,及び②アンテナ素子に加えて別のア
ンテナ(平面アンテナユニット)が組み込まれてはいるものの,アンテナ
素子の下縁と上記別のアンテナの上面との間隔が約0.25λ未満である
アンテナ装置をいずれも包含するものである。
これに対し,発明の詳細な説明には,アンテナ素子に加えてこれとは別
のアンテナ(平面アンテナユニット)をアンテナ素子の直下に組み込み,
かつ,アンテナ素子の下縁と当該別のアンテナの上面との間隔を約0.2
5λ以上とするアンテナ装置しか記載されていない。
そうすると,請求項1に記載された発明のうち,①アンテナ素子以外の
別のアンテナ(平面アンテナユニット)が組み込まれていないアンテナ装
置,及び②アンテナ素子の下縁と上記別のアンテナ(平面アンテナユニッ
ト)の上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置に係る発明は,
発明の詳細な説明に記載された発明ではない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明であるとはいえない。
ウ 請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又
は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範
囲のものであるか
発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有しな
いアンテナ装置において,アンテナ素子に加えて新たにアンテナを組み入
れた場合,新たに組み入れたアンテナが既設のアンテナの影響を受けてし
まい,良好な電気的特性を得られないということであり,このような課題
を当業者が認識するためには,限られた空間しか有しないアンテナ装置に
おいて,アンテナ素子に加えて新たにアンテナを組み込むことが前提とな
る。しかし,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて新たに
アンテナが組み込まれていない構成の発明を含んでおり,そのような構成
の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていないから,請求項1
に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課題を認
識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識でき
る範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子の下縁と別のアンテ
ナ(平面アンテナユニット)の上面との間隔が約0.25λ未満であるア
ンテナ装置に係る発明を含むが,発明の詳細な説明には,課題を解決する
方法として,アンテナ素子の下縁と別のアンテナ(平面アンテナユニット)
の上面との間隔が約0.25λ以上とすることが記載されており,アンテ
ナ素子の下縁と別のアンテナ(平面アンテナユニット)の上面との間隔を
約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記載された課題を解
決することはできない。
したがって,請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明
に記載された課題を解決することのできない発明を含むものであり,当業
者が課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。
⑵ 控訴人の主張
ア 発明の詳細な説明に記載された発明
(ア) 発明の詳細な説明に記載された第1の課題
a 発明の詳細な説明の【0002】~【0004】,図2には,アン
テナケース内にアンテナを収納した車載用のアンテナ装置が求められ
るようになったことが記載されている。そして,アンテナケース内に
アンテナを収納するには,AM放送およびFM放送を受信するための
ロッドアンテナ,ヘリカルアンテナ等の従来のアンテナの高さを短縮
すること(道路運送車両の保安基準より70mmを超えない高さにす
ること)が必要になるが,アンテナケース内に収まるように単純に短
縮するのみでは,アンテナの受信性能が大きく劣化して実用化が困難
になるので,高さ約70mm以下のアンテナケース内に収納されなが
らも,受信性能が良好なFM・AM共用アンテナを提供するという課
題(以下「第1の課題」という。)が記載されている。
上記の第1の課題は,AM・FMラジオを受信するためのアンテナ
以外のアンテナ,例えば,衛星デジタルラジオを受信するアンテナ【0
(
005】以降に記載された課題において登場する「平面アンテナユニ
ット235」)をアンテナケース内に設けるか否かにかかわらず生じ
る課題である。
b FM波帯の周波数(76~90MHz)の波長(約3~4m)に比
して,請求項1に記載された発明が採用している「70mm以下の高
さのアンテナケース内に収納されるアンテナ素子」が超小型のアンテ
ナであり,FM波帯に共振させることが困難になることは,当業者の
技術常識である。このような技術常識を参酌して請求項1に記載され
た発明をみた当業者は,その発明において採用されている手段が,高
さ約70mm以下のアンテナケース内に収納されながらも受信性能が
良好なFM・AM共用アンテナを提供するという課題を達成するため
のものであることを当然に予想でき,当該課題は,請求項の文言上,
請求項1に係る発明の構成から明らかな課題といえる。そのため,出
願時の技術常識を考慮して把握される請求項1に記載された発明の課
題は,発明の詳細な説明に記載された第1の課題と同様である。
(イ) 発明の詳細な説明に記載された第2の課題
発明の詳細な説明の【0005】~【0008】,図24,図25に
は,アンテナ装置に,地上波ラジオ放送(AM・FMラジオ)の他に,
衛星ラジオ放送,GPS等の多種多様な用途に応じたアンテナをまとめ
て搭載することが求められるようになったことが記載され,その上で,
アンテナ装置に多種多様な用途に応じたアンテナをまとめて搭載する場
合,アンテナケース内に収まるように単純に全てのアンテナを入れ込む
だけでは良好な電気的特性を得ることができないので,衛星ラジオ放送,
GPS等の多種多様な用途に応じたアンテナをまとめて搭載しながらも,
受信性能が良好な多用途アンテナを提供するという課題(以下「第2の
課題」という。)が記載されている。
そして,【0005】には,「ところで」という別の話題を持ち出す
切り替えに使われる接続詞の後に第2の課題が記載されており,第2の
課題は第1の課題とは内容が異なるから,第2の課題は第1の課題とは
別個の課題であり,発明の詳細な説明には,第1の課題と第2の課題が
重畳的に記載されている。
(ウ) 発明の詳細な説明における第1の課題の解決手段の記載
発明の詳細な説明には,第1実施例に関する記載箇所に,⑴車両2の
ルーフに取り付けられており,車両2から突出している高さhは約75
mm以下で好適には約70mm以下のアンテナ装置1であって,アンテ
ナケースを備え極めて低姿勢とされているが,AM放送,FM放送及び
衛星ラジオ放送を受信することが可能とされているアンテナ装置1が
記載されており(【0011】,【0016】,図1~6),このアン
テナ装置1は,アンテナケース10と,このアンテナケース10内に収
納されているアンテナ素子31(【0012】,【0016】,図5),
アンプ基板34(【0012】,図4~6),アンテナコイル32(【0
017】,図6)を備えることが記載されている。また,⑵アンテナ素
子31を,面状であり,上縁がアンテナケースの内部空間の形状に合わ
せた形状とし(【0017】,【0013】,図5),アンプ基板34
を,該アンテナ素子31により受信されたFM放送及びAM放送の信号
を増幅するアンプを有するように構成し(【0017】),アンテナコ
イル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34におけるアン
プの入力との間に直列に挿入することが記載されている 【0017】
( ,
図5,6)。さらに,⑶アンテナ素子31とアンテナコイル32とが接
続されることによりFM波帯で共振し,アンテナ素子31を用いてAM
波帯を受信し,アンテナコイル32を介して接続されるアンプによって
FM放送及びAM放送の信号を増幅する(【0017】)ことが記載さ
れている。これと同様の記載は,第2実施例に関する記載箇所にも存在
する(【0027】~【0029】)。
したがって,第1の課題を解決する手段は,発明の詳細な説明に記載
されている。
イ 請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か
請求項1に記載された発明の課題は,高さ約70mm以下のアンテナケ
ース内に収納されながらも,受信性能が良好なFM・AM共用アンテナを
提供することであり,発明の詳細な説明に記載された第1の課題と同じで
ある(前記ア(ア))。そして,第1の課題の解決手段は発明の詳細な説明
に記載されている(前記ア(ウ))。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明である。
ウ 請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又
は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範
囲のものであるか
発明の詳細な説明には,請求項1に記載された発明の課題である第1の
課題とその解決手段が記載されているので(前記ア(ア),(ウ)),請求項
1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は出願時
の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲のもの
である。
エ(ア) 確定した審決(訂正2014-390078,甲3)の判断との関
係について
本件特許に係る訂正認容審決(訂正2014-390078,甲3)
においては,請求項1を含む請求項の訂正が請求され,訂正がいずれも
認められたところ,上記訂正後の請求項1には,文言上,「平面アンテ
ナユニット」,「平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端と
の間隔が約0.25λ以上とされていること」などの構成は含まれていな
い。しかし,上記訂正後の請求項1に係る発明について,上記訂正認容
審決は,「訂正後の発明1ないし7が,特許出願の際独立して持許を受
けることができないとするその他の理由も見当たらない」(甲3,10
頁34~35行目)と判断した。サポート要件を含む記載要件も特許要
件の1つであるから(特許法36条),「訂正後における特許請求の範
囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して
特許を受けることができるもの」(特許法126条7項)という判断に
はサポート要件を含む記載要件を充足するとの判断も含まれるものであ
り,したがって,請求項1に係る特許にサポート要件違反の無効理由(特
許法123条1項4号)が存在しないことは,確定した上記訂正認容審
決において判断されている。
(イ) 発明の詳細な説明に記載された課題は平面アンテナユニットの存
在を前提とするかについて
発明の詳細な説明に記載された課題は,必ずしも平面アンテナユニ
ットの存在を前提とするものではない。【0002】~【0004】に
は,アンテナケースの高さを上限とするアンテナによってもAM・FM
ラジオを良好に受信するという課題が記載されている。また,【001
7】に記載された課題及び効果と【0002】~【0004】に記載さ
れた課題とは合致していることから,当業者が,【0011】~【00
17】及び【0027】~【0029】を見たときには,アンテナケー
ス内に備えられる,アンテナケースの高さを上限とするAM・FMラジ
オのアンテナの課題として,インダクタ成分が小さくなることからFM
波帯にアンテナ素子を共振させることが困難となるという課題を把握す
ると考えるのが合理的である。この課題については,平面アンテナユニ
ット35の存在は前提になっていない。請求項1に記載された発明が採
用している「70mm以下の高さのアンテナケース内に収納されるアン
テナ素子」の大きさは,FM波帯の周波数(76~90MHz)の波長
(3~4m)に比して超小型になり,それゆえにFM波帯に共振させる
のが困難なことは,当業者の技術常識から明らかであるから,当業者の
技術常識を踏まえても,上記の課題は明らかである。
(ウ) 他の出願で既に解決済みであることから,発明の詳細な説明に記載
された発明の課題でないといえるかについて
発明の詳細な説明の【0005】に,特願2006-315297(甲
38)が,本件明細書の【0011】~【0017】,【0027】~
【0029】,図1~図6,及び図20~図22に記載された手段を提
案することによって本件明細書の【0002】~【0004】に記載さ
れた第1の課題を解決したということを記載したとしても,発明の詳細
な説明に第1の課題が記載されていることに違いはない。そのため,第
1の課題は特願2006-315297(甲38)により解決済みであ
るから発明の詳細な説明に記載された課題ではないとするのは誤りであ
る。
(エ) 出願の経過との関係について
本件明細書に記載された基礎出願である特願2006-315297
(甲38)及びその国際出願であるPCT/JP2007/07236
0(甲18)は,AM波帯を受信するのに用いられるアンテナ素子をア
ンテナコイルと接続することでFM波帯でも共振させる,高さ70mm
以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる,車両に取
り付けられるアンテナ装置を含む出願であり,請求項1に対応する内容
を含むものである。発明の詳細な説明の【0008】に記載されている
内容は,基礎出願(甲38)及び国際出願(甲18)の内容にプラスα
をしたものであり,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は,
基礎出願(甲38)及び国際出願(甲18)の内容を含む。したがって,
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は,請求項1に記載さ
れた発明を含むものである。
(オ) 発明の詳細な説明における記載の程度について
サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請求さ
れた発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,
課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解
決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足り
るのであって,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であ
ると解される。本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び技術常識に照
らせば,請求項1に記載された発明が発明の詳細な説明に記載されてい
ると合理的に認識することができ,発明の詳細な説明には,課題の解決
について合理的な期待が得られる程度の記載がある。したがって,請求
項1に係る特許はサポート要件を充足する。
第3 当裁判所の判断
1 事案に鑑み,まず,争点5-1(無効理由1(請求項1に記載された発明が,
アンテナ素子に加えて別のアンテナを組み込むことや,それらの間の間隔をど
の程度開けるのかについて特定していないことに関してのサポート要件違反)
の有無)について判断する。
⑴ サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に
記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説
明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識で
きる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出
願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のも
のであるか否かを検討して判断すべきである。
そして,サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請
求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,
課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決で
きるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであ
って,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。
なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与える
という特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が
当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することが
できれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり,
また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものである
ことも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳
密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。
⑵ 発明の詳細な説明に記載された発明
ア 課題
(ア) 発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,背景技術,発明が解決しようと
する課題について,次のような記載がある。
「【背景技術】
【0002】
車両に取り付けられる従来のアンテナ装置は,一般にAM放送とFM
放送を受信可能なアンテナ装置とされている。従来のアンテナ装置では,
AM放送およびFM放送を受信するために1m程度の長さのロッドアン
テナが用いられていた。このロッドアンテナの長さは,FM波帯におい
てはおよそ1/4波長となるが,AM波帯においては波長に対してはる
かに短い長さとなることからその感度が著しく低下する。このため,従
来は,ハイインピーダンスケーブルを用いてAM波帯に対してロッドア
ンテナをハイインピーダンス化したり,AM波帯の増幅器を用いて増幅
し感度を確保していた。また,アンテナのロッド部をヘリカル状に巻回
されたヘリカルアンテナとすることにより,アンテナの長さを約180
mm~400mmに短くするようにした車載用のアンテナ装置も用いら
れている。しかし,ロッド部を縮小化したことによる性能劣化を補うた
めにアンテナ直下に増幅器を入れるようにしている。
【0003】
ロッド部を短くした従来のアンテナ装置101を車両102に取り付
けた構成を図23に示す。図23に示すように,従来のアンテナ装置1
01は車両102のルーフに取り付けられており,車両102から突出
しているアンテナ装置101の高さh10は約200mmとされている。
アンテナ装置101のロッド部は,ヘリカル状に巻回されたヘリカルア
ンテナとされている。アンテナ装置101は,上記したように車両10
2から突出していることから車庫入れや洗車する際にロッド部が衝突し
て折損するおそれがある。そこで,アンテナ装置101のロッド部を車
両102のルーフに沿うよう倒すことができるようにしたアンテナ装置
も知られている。
【特許文献1】 特開2005-223957
【特許文献2】 特開2003-188619
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来のアンテナ装置101では,ロッド部が車体から大き
く突出しているため車両の美観・デザインを損ねると共に,車庫入れや
洗車時等に倒したロッド部を起こし忘れた場合,アンテナ性能が失われ
たままになるという問題点があった。また,アンテナ装置101は車外
に露出しているため,ロッド部が盗難にあう恐れも生じる。そこで,ア
ンテナケース内にアンテナを収納した車載用のアンテナ装置が考えられ
る。この場合,車両から突出するアンテナ装置の高さは車両外部突起規
制により所定の高さに制限されると共に,車両の美観を損ねないよう長
手方向の長さも160~220mm程度が好適とされる。すると,この
ような小型アンテナの放射抵抗Rrad は,600~800×(高さ/波
長)として表されるように高さの2乗に比例してほぼ決定されるように
なる。例えば,アンテナ高を180mmから60mmに縮小すると約1
0dBも感度が劣化するようになる。このように,単純に既存のロッド
アンテナを短縮すると性能が大きく劣化して実用化が困難になる。さら
に,アンテナを70mm以下の低姿勢とすると放射抵抗Rrad が小さく
なってしまうことから,アンテナそのものの導体損失の影響により放射
効率が低下しやすくなって,さらなる感度劣化の原因になる。
【0005】
そこで,出願人は特願2006-315297号において,70mm
以下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り
付けられるアンテナ装置を提案した。ところで,車両には地上波ラジオ
放送,衛星ラジオ放送やGPS等の多種多様な用途に応じたアンテナが
搭載されていることがある。しかし,各種メディア対応の各アンテナが
増加するに従い,車両に搭載するアンテナの数が増加し,車両の美観は
損なわれると共に,取り付けるための作業時間も増大する。そこで,ア
ンテナ装置に複数のアンテナを組み込むことが考えられる。一例として,
上記提案したアンテナ装置に,例えばSDARS(Satellite Digital
Audio Radio Service:衛星デジタルラジオサービス)を受信するアンテ
ナを組み込んだアンテナ装置の構成例を示す平面図を図24に示し,そ
のアンテナ装置の構成例を示す側面図を図25に示す。
【0006】
図24および図25に示すアンテナ装置200は,アンテナケース2
10と,このアンテナケース210内に収納されているアンテナベース
220と,アンテナベース220に取り付けられているアンテナ基板2
30およびアンプ基板234とから構成されている。アンテナケース2
10は先端に行くほど細くなる流線型の外形形状とされている。アンテ
ナケース210の下面には金属製のアンテナベース220が取り付けら
れる。アンテナケース210内に立設して収納できる大きさのアンテナ
基板230には,アンテナ素子231のパターンが形成されている。こ
のアンテナ素子231の下縁とアンテナベース220との間隔は約10
mm以上とされている。このアンテナ基板230は,アンテナベース2
20に立設して固着されていると共に,アンテナ基板230の前方にア
ンプ基板234が固着されている。そして,アンプ基板234の上に平
面アンテナユニット235が固着されている。平面アンテナユニット2
35は,摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を有している。
平面アンテナユニット235をアンプ基板234の上に固着しているの
は,アンテナ素子231の下には,平面アンテナユニット235の高さ
が高いことから配置することができず,限られた空間しか有していない
アンテナケース210内において,平面アンテナユニット235を配置
することができるのはアンプ基板234の上だけとなるからである。
【0007】
・・・なお,アンテナケース210の長手方向の長さは約200mm
とされ,横幅は約75mmとされる。また,車両から突出している高さ
は約70mmとされて低姿勢とされている。
【0008】
アンテナ装置200の水平面内の放射指向特性を図26に示す。ただ
し,仰角は20°とされている。図26に示す放射指向特性を参照する
と,無指向性とはなっておらず,特に,アンテナ素子231が存在して
いる方向(180°)において放射指向特性が落ち込んでいることが分
かる。これは,アンプ基板234の上に設置した平面アンテナユニット
235の設置高が高くなり,グランド面と平面アンテナユニット235
のパッチ素子との間隔が大きくなり,平面アンテナユニットの電気的特
性,特に放射指向特性に影響を及ぼすことになるからである。さらに,
平面アンテナユニット235の放射界において,低仰角放射範囲に平面
アンテナユニット235の動作周波数の1/2波長程度の大きな金属体
であるアンテナ素子231が存在しており,このアンテナ素子231に
よる反射・回折等の影響で,平面アンテナユニット235の放射指向特
性が大きく劣化する傾向にあるからである。このように,限られた空間
しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置にさらにアンテ
ナを組み込むと既設のアンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得る
ことができないという問題点があった。
そこで,本発明は限られた空間しか有していないアンテナケースを備
えるアンテナ装置にさらにアンテナを組み込んでも良好な電気的特性を
得ることができるアンテナ装置を提供することを目的としている。」
(イ) 発明の詳細な説明に記載された発明の課題
前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,背景技術の課題は,ア
ンテナを小型化するために単純に既存のロッドアンテナを短縮すると
性能が大きく劣化して実用化が困難になり,さらに,アンテナを70m
m以下の低姿勢とすると放射抵抗Rrad が小さくなってしまうことから,
アンテナそのものの導体損失の影響により放射効率が低下しやすくな
って,さらなる感度劣化の原因になるということであったが(【000
4】),出願人は,特願2006-315297において,70mm以
下の低姿勢としても感度劣化を極力抑制することのできる車両に取り
付けられるアンテナ装置を提案することにより,そのような課題を解決
したこと(【0005】)が記載されていると認められる。そして,そ
のような背景技術の課題が解決されても,さらに,車両には多種多様な
用途に応じたアンテナが搭載されていることがあり,車両に搭載するア
ンテナの数が増大すると車両の美観が損なわれるとともに取り付ける
ための作業時間も増大するため,アンテナ装置に複数のアンテナを組み
込むことが考えられるが(【0005】),限られた空間しか有してい
ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に,既設の立設されたアンテ
ナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他の
アンテナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないとい
う課題が示されており(【0008】),限られた空間しか有していな
いアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ
素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込んでも良好な電気
的特性を得ることができるアンテナ装置を提供するという,上記課題に
対応した,発明の詳細な説明に記載された発明の目的が記載されている
ものと認められる。
イ 発明の詳細な説明に記載された発明
(ア) 発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,課題を解決するための手段につ
いて,次のような記載がある。
「【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために,本発明は,立設されて配置され面状のア
ンテナ素子が形成されているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならな
いように配置されているアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,
前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナ
ユニットとを備え,平面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数
の波長を λ とした際に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子
の下端との間隔が約0.25λ 以上とされていることを最も主要な特徴
としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば,立設されて配置され面状のアンテナ素子が形成され
ているアンテナ基板と,アンテナ基板と重ならないように配置されてい
るアンプ基板と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面
とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを備え,平
面アンテナユニットの動作周波数帯の中心周波数の波長を λ とした際
に,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔が約0.
25λ 以上とされていることから,アンテナ素子の影響を受けることな
く平面アンテナユニットの水平面内の放射指向特性を無指向性とするこ
とができると共に,良好なゲイン特性が得られるようになる。」
(イ) 発明の内容
前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記
載された発明は,前記ア(イ)の課題を解決するために,アンテナ素子と,
アンテナ素子の直下であって,前記アンテナ素子の面とほぼ直交するよ
う配置されている平面アンテナユニットとを備えるアンテナにおいて,
平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.2
5λ 以上とするものであると認められる。そして,そのような発明によ
れば,既設のアンテナ素子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み
込んでも良好な電気的特性を得ることができるという効果が生ずること
が記載されているものと認められる。
ウ 実施例
(ア) 本件明細書の発明の詳細な説明には,実施例について,次のような
記載がある。
「【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施例にかかるアンテナ装置を取り付けた車両の構成を図1
に示す。・・・」
「【0023】
ここで,本発明にかかる第1実施例のアンテナ装置1における設計手
法について説明する。ただし,平面アンテナユニット35は,SDAR
S(Satellite Digital Audio Radio Service:衛星ディジタルラジオサ
ービス)受信用のアンテナとされ,その中心周波数は2338.75M
Hzとされている。この場合,衛星デジタルラジオの中心周波数の波長
λ は約128mmであり,波長 λ に換算した設計値として以下に表現
するものとする。
(1)アンテナ素子31の下縁と平面アンテナユニット35の上面の
間隔Dを,約0.25λ 以上とする。
・・・
この様なアンテナ素子31の寸法・位置関係とすることにより,アン
テナ素子31と平面アンテナユニット35が,相互に影響を及ぼすこと
が低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気的
特性を示すことが可能となる。」
「【0027】
次に,本発明の車載用にかかる第2実施例のアンテナ装置3の構成を
図20ないし図22に示す。・・・」
「【0030】
上記したように,本発明の第2実施例のアンテナ装置3においてもA
M/FM受信用のアンテナ素子41の直下に衛星ラジオ放送を受信する
平面アンテナユニット35が配置されている。平面アンテナユニット3
5は,摂動素子を備え円偏波を受信可能なパッチ素子を有している。ま
た,本発明の第2実施例のアンテナ装置3において,平面アンテナユニ
ット35が動作する衛星デジタルラジオの中心周波数の波長を λ とし
た際に,アンテナ素子41の下縁と平面アンテナユニット35の上面の
間隔Dを約0.25λ 以上としている。・・・
アンテナ素子41の寸法・位置関係をこのようにすることにより,ア
ンテナ素子41と平面アンテナユニット35が,相互に影響を及ぼすこ
とが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同等の電気
的特性を示すことが可能となる。」
(イ) 発明の詳細な説明に記載された実施例
前記(ア)の発明の詳細な説明の記載によれば,発明の詳細な説明に記
載された実施例(第1実施例,第2実施例)は,いずれもアンテナ素子
の下に平面アンテナユニットを配置し,アンテナ素子の下縁と平面アン
テナユニットの上面の間隔を約0.25λ 以上としたものであり,それ
により,アンテナ素子と平面アンテナユニットについて,相互に影響を
及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アンテナと同
等の電気的特性を示すことを具体的に示すものである。発明の詳細な説
明には,第1実施例のアンテナ装置を用いた実験結果が記載されている
ところ 【0018】 【0026】 図7~図12,
( ~ , 図15~図19),
これらは,アンテナ素子と平面アンテナユニットの相互干渉がアンテナ
の電気的特性に及ぼす影響を検証したものであると認められ,実施例が,
発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するという効果を生ず
るかどうかを確かめるものと認められる。
そうすると,発明の詳細な説明に記載された実施例は,前記認定の発
明の詳細な説明に記載された発明(前記イ(イ))の実施の形態を具体的
に示し,その発明の課題(前記ア(イ))を解決するという効果を生ずる
ことを示すものであると認められる。
⑶ 請求1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明か
ア 請求項1に記載された発明は,前記第2,3⑵のとおりであり,①アン
テナ素子に加えて別のアンテナである平面アンテナユニットを組み込むこ
とは構成要件とされてはおらず,また,②仮にアンテナ素子に加えて平面
アンテナユニットを組み込んだ場合に,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔が約0.25λ以上であることも構成要件とさ
れていない。そのため,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加
えて平面アンテナユニットを組み込み,アンテナ素子の下縁と平面アンテ
ナユニットの上面との間隔を約0.25λ以上とするアンテナ装置以外に
も,①そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニットが組み込まれて
いないアンテナ装置の発明を含み,また,②アンテナ素子に加えて平面ア
ンテナユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面
アンテナユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置
の発明を含むものである。
イ これに対し,発明の詳細な説明に記載された発明は,前記(2)イ(イ)のと
おりであり,アンテナ素子と,アンテナ素子の直下であって,前記アンテ
ナ素子の面とほぼ直交するよう配置されている平面アンテナユニットとを
備えるアンテナにおいて,平面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の
下端との間隔を約0.25λ以上とするものであると認められる。
ウ そうすると,請求項1に記載された発明のうち,①アンテナ素子以外に
平面アンテナユニットが組み込まれていないアンテナ装置の発明,及び②
アンテナ素子に加えて平面アンテナユニットが組み込まれてはいるもの
の,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニットの上面との間隔が約0.
25λ未満であるアンテナ装置の発明は,発明の詳細な説明に記載された
発明ではない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明以外の発明を含むものであり,発明の詳細な説明に記載された発
明であるとは認められない。
⑷ 請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は
出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるか
発明の詳細な説明に記載された発明の課題は,限られた空間しか有してい
ないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナ素子
に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテナの影
響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題であり(前記
⑵ア(イ)),このような課題を当業者が認識するためには,限られた空間し
か有しないアンテナ装置において,既設の立設されたアンテナ素子に加えて
新たに平面アンテナユニットを組み込むことが前提となる。しかし,請求項
1に記載された発明は,そもそもアンテナ素子以外に平面アンテナユニット
が組み込まれていないアンテナ装置の発明を含み(前記⑶ア),そのような
構成の発明の課題は,発明の詳細な説明には記載されていない。そのため,
請求項1に記載された発明は,当業者が発明の詳細な説明の記載によって課
題を認識できない発明を含むものであり,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲を超えたものである。
また,請求項1に記載された発明は,アンテナ素子に加えて平面アンテナ
ユニットが組み込まれてはいるものの,アンテナ素子の下縁と平面アンテナ
ユニットの上面との間隔が約0.25λ未満であるアンテナ装置の発明を含
むが(前記⑶ア),発明の詳細な説明には,課題を解決する方法として,平
面アンテナユニットの上面とアンテナ素子の下端との間隔を約0.25λ 以
上とすることが記載されており,アンテナ素子の下縁と平面アンテナユニッ
トの上面との間隔を約0.25λ未満とするならば,発明の詳細な説明に記
載された課題を解決することはできない。そのため,請求項1に記載された
発明は,この点においても当業者が発明の詳細な説明に記載された解決手段
によって課題を解決できると認識できない発明を含むものであり,当業者が
課題を解決できると認識できる範囲を超えたものである。
その他,請求項1に記載された発明が,発明の詳細な説明の記載若しくは
示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識でき
る範囲のものであることを認めるに足りる証拠はない。
したがって,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し
くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識
できる範囲のものであるとは認められない。
⑸ 控訴人の主張の検討
ア(ア)a 控訴人は,本件明細書の【0002】~【0004】,図2には,
高さ約70mm以下のアンテナケース内に収納されながらも,受信性
能が良好なFM・AM共用アンテナを提供する旨の第1の課題が記載
されており,第1の課題は,平面アンテナユニットをアンテナケース
内に設けるか否かにかかわらず生じる課題であると主張する(前記第
2,5⑵ア(ア)a)。
しかし,前記⑵ア(イ)のとおり,本件明細書の【0002】~【0
008】の記載(前記⑵ア(ア))によれば,控訴人の主張する第1の
課題は,本件特許の背景技術の課題であって,出願人が出願した特許
(特願2006-315297)においてその課題は解決されたもの
であり,発明の詳細な説明には,そのような背景技術の課題が解決さ
れてもなお生じる課題として,限られた空間しか有していないアンテ
ナケースを備えるアンテナ装置に既設の立設されたアンテナに加えて
さらに平面アンテナユニットを組み込むと,相互に他のアンテナの影
響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題(控訴
人の主張する第2の課題に相当する。)が示されているものと認めら
れる。そのため,第1の課題は,特許請求の範囲記載の発明により解
決すべき課題として発明の詳細な説明に記載された課題であるとは認
められない。したがって,控訴人の上記主張は,採用することができ
ない。
b 控訴人は,発明の詳細な説明に第1の課題が記載されていることを
前提として,出願時の技術常識を考慮して把握される請求項1に記載
された発明の課題は,発明の詳細な説明に記載された第1の課題と同
様である旨主張するが(前記第2,5⑵ア(ア)b),発明の詳細な説
明に第1の課題が記載されているとは認められないから,控訴人の上
記主張は採用することができない。
(イ) 控訴人は,発明の詳細な説明には第1の課題と第2の課題が重畳的
に記載されていると主張する(前記第2,5⑵ア(イ))。しかし,前記
(ア)aのとおり,発明の詳細な説明には第2の課題は記載されているが,
第1の課題は,特許請求の範囲記載の発明により解決すべき課題として
発明の詳細な説明に記載されているとは認められない。したがって,控
訴人の上記主張は,採用することができない。
(ウ)a 控訴人は,発明の詳細な説明の第1実施例に関する記載箇所に,
⑴AM放送,FM放送及び衛星ラジオ放送を受信することが可能とさ
れているアンテナ装置1が記載されており,このアンテナ装置1は,
アンテナケース10と,このアンテナケース10内に収納されている
アンテナ素子31,アンプ基板34,アンテナコイル32を備えるこ
とが記載されていること,⑵アンプ基板34を,アンテナ素子31に
より受信されたFM放送及びAM放送の信号を増幅するアンプを有
するように構成し,アンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点
とアンプ基板34におけるアンプの入力との間に直列に挿入するこ
とが記載されていること,さらに,⑶アンテナ素子31とアンテナコ
イル32とが接続されることによりFM波帯で共振し,アンテナ素子
31を用いてAM波帯を受信し,アンテナコイル32を介して接続さ
れるアンプによってFM放送及びAM放送の信号を増幅する(【00
17】)ことが記載され,これと同様の記載は,第2実施例に関する
記載箇所にも存在することから,第1の課題を解決する手段は,発明
の詳細な説明に記載されていると主張する(前記第2,5⑵ア(ウ))。
b しかし,第1実施例に係るアンテナ装置は,AM放送,FM放送及
び衛星ラジオ放送を受信することが可能とされているものであって,
衛星ラジオ放送を受信するための平面アンテナユニット 【0018】
( )
を備えるものであり(【0012】),アンテナ素子31の下縁と平
面アンテナユニット35の上面の間隔Dを約0.25λ以上とするこ
とにより,アンテナ素子31と平面アンテナユニット35が,相互に
影響を及ぼすことが低減され,それぞれ単独で存在する場合の各アン
テナと同等の電気的特性を示すことが可能となるものである(【00
23】)。そのため,第1実施例に係るアンテナ装置は,限られた空
間しか有していないアンテナケースを備えるアンテナ装置に既設の
アンテナに加えてさらにアンテナを組み込むと他のアンテナの影響
を受けて良好な電気的特性を得ることができないという第2の課題
を解決するものである(前記⑵ウ(イ))。
【0017】には,「超小型のアンテナ素子31とされると,イン
ダクタ成分が小さくなることからFM波帯にアンテナ素子31を共振
させることが困難となる」と記載されており,「1μH~3μH程度
のアンテナコイル32をアンテナ素子31の給電点とアンプ基板34
におけるアンプの入力との間に直列に挿入すること」により,「アン
テナ素子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部をFM波帯
付近で共振させられるようになる」こと,「これにより,アンテナ素
子31とアンテナコイル32とからなるアンテナ部がFM波帯におい
て良好に動作することができるようになる」ことが記載されている。
しかし,本件特許の無効審判(無効2015-800040)の過程
で審判官が発出した平成27年10月7日付け職権審理結果通知書
(乙60)に「アンテナを小型化する上で,共振経路長を保つためコ
イル装荷を行う技術が『アンテナ・無線ハンドブック』・・・に記載
されているように技術常識にすぎないものと認められ,当該文献の図
1.75(d)をみれば,コイルは給電側に構成されている。」と記
載されているように,小型の車載用アンテナを提供するためにアンテ
ナ素子にコイルを追加することは,本件特許の出願日(平成19年1
1月30日)には既に技術常識となっていたものと認められる(乙5
0~53,64~67,122)。そうすると,控訴人が第1の課題
を解決する手段として発明の詳細な説明に記載されていると主張する
事項である,アンテナ素子31とアンプ基板34とをアンテナコイル
32を介して接続するように構成すること,アンテナ素子31とアン
テナコイル32とが接続されることによりアンテナ素子31とアンテ
ナコイル32とからなるアンテナ部がFM波帯で共振し,アンテナ部
がFM波帯において良好に動作することができるようになることは,
技術常識にすぎず,発明の詳細な説明に記載された課題の解決手段と
は認められない。したがって,控訴人の前記aの主張は,採用するこ
とができない。
イ 控訴人は,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載され
た発明であると主張するが(前記第2,5⑵イ),前記⑶のとおり,請求
項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であるとは
認められない。
ウ 控訴人は,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若し
くは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認
識できる範囲のものであると主張するが(前記第2,5⑵ウ),前記⑷の
とおり,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明の記載若しくは
示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識で
きる範囲のものであるとは認められない。
エ(ア) 控訴人は,本件特許にサポート要件違反の無効理由(特許法123
条1項4号)が存在しないことは,確定した訂正認容審決(訂正201
4-390078,甲3)において判断されていると主張する(前記第
2,5⑵エ(ア))。
訂正認容審決(訂正2014-390078)は,同審決による訂正
後の請求項1記載の発明が特許出願の際独立して特許を受けることがで
きないとする理由は見当たらない旨説示するが(甲3,10頁),同審
決はサポート要件について具体的な判断を示していないし,そのような
訂正認容審決が確定したとしても,本件の特許権侵害訴訟において本件
特許がサポート要件違反により無効であると判断することが妨げられる
ことはない。
(イ) 控訴人は,発明の詳細な説明に記載された課題は,必ずしも平面ア
ンテナユニットの存在を前提とするものではなく,アンテナケースの高
さを上限とするアンテナによってもAM・FMラジオを良好に受信する
という課題が記載されていると主張する(前記第2,5⑵エ(イ))。
しかし,前記⑵ア(イ)のとおり,発明の詳細な説明の記載によれば,
発明の詳細な説明に記載された課題は,限られた空間しか有していない
アンテナケースを備えるアンテナ装置に,既設の立設されたアンテナ素
子に加えてさらに平面アンテナユニットを組み込むと相互に他のアンテ
ナの影響を受けて良好な電気的特性を得ることができないという課題で
あり,他方,アンテナを70mm以下の低姿勢とすると感度劣化の原因
になるという課題(第1の課題に相当する。)は,背景技術の課題とし
て,出願人の特許出願により解決されたものとされているから,控訴人
の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 控訴人は,第1の課題は特願2006-315297(甲38)に
より解決済みであるから発明の詳細な説明に記載された課題ではないと
するのは誤りである旨主張する(前記第2,5⑵エ(ウ))。
しかし,前記⑵ア(イ)のとおり,発明の詳細な説明の記載によれば,
第1の課題に相当する課題は,背景技術の課題として,出願人の特許出
願(特願2006-315297)により解決されたものとされており,
また,前記ア(ウ)bのとおり,控訴人が第1の課題を解決する手段とし
て発明の詳細な説明に記載されていると主張する技術事項である,アン
テナ素子31とアンプ基板34とをアンテナコイル32を介して接続す
るように構成すること,アンテナ素子31とアンテナコイル32とが接
続されることによりFM波帯で共振することは,技術常識にすぎないか
ら,控訴人の上記主張は,採用することができない。
(エ) 控訴人は,本件明細書に記載された基礎出願である特願2006-
315297(甲38)及びその国際出願であるPCT/JP2007
/072360(甲18)は,請求項1に対応する内容を含むものであ
るとした上で,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された発明は,基
礎出願(甲38)及び国際出願(甲18)の内容を含むから,発明の詳
細な説明に記載された発明も,請求項1に記載された発明を含むと主張
する(前記第2,5⑵エ(エ))。
しかし,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記
載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に
基づいてなされるべきである。このことは,サポート要件を充足するか
どうかの判断に際しての課題の認定に関しても同様であり,基礎出願(甲
38)及び国際出願(甲18)の内容に基づいて発明の詳細な説明に記
載された課題を認定する旨の控訴人の上記主張は,採用することができ
ない。
(オ) 控訴人は,サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,
特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば
足り,また,課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏ま
えて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載
があれば足りるのであって,厳密な科学的な証明に達する程度の記載ま
では不要であると解されるとした上で,本件明細書の発明の詳細な説明
の記載及び技術常識に照らせば,請求項1に記載された発明が発明の詳
細な説明に記載されていると合理的に認識することができ,発明の詳細
な説明には,課題の解決について合理的な期待が得られる程度の記載が
あり,請求項1に係る特許はサポート要件を充足すると主張する(前記
第2,5⑵エ(オ))。
確かに,前記⑴のとおり,サポート要件を充足するには,明細書に接
した当業者が,特許請求された発明が明細書に記載されていると合理的
に認識できれば足り,また,課題の解決についても,当業者において,
技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な期待が得ら
れる程度の記載があれば足りるのであって,厳密な科学的な証明に達す
る程度の記載までは不要である。しかし,そのような解釈を前提として
も,前記⑴~⑷のとおり,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な
説明に記載された発明であるとは認められず,発明の詳細な説明の記載
若しくは示唆又は出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決でき
ると認識できる範囲のものであるとは認められない。したがって,控訴
人の上記主張は,採用することができない。
オ その他,控訴人はるる主張するが,控訴人の主張は,いずれも採用する
ことができない。
⑹ 請求項1に係る特許のサポート要件の充足の有無
以上によれば,請求項1に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載さ
れた発明であるとは認められず,発明の詳細な説明の記載若しくは示唆又は
出願時の技術常識に照らし,当業者が課題を解決できると認識できる範囲の
ものであるとは認められないから,無効理由1は理由があり,請求項1に係
る特許は,サポート要件(特許法36条6項1号)を充足せず,特許無効審
判により無効(特許法123条1項4号)にされるべきものと認められる。
したがって,控訴人は被控訴人に対して請求項1に係る特許の特許権を行使
することができない(特許法104条の3第1項)。
2 結論
よって,その余の点につき判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも理
由がなく,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄
却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴 岡 稔 彦
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
中 平 健
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