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令和2(ワ)12113発信者情報開示請求事件

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裁判所 認容 東京地方裁判所
裁判年月日 令和2年12月9日
事件種別 民事
当事者 原告創価学会
被告株式会社TOKAIコミュニケーションズ
法令 著作権
著作権法32条1項4回
著作権法21条1回
キーワード 侵害47回
損害賠償2回
主文 1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事件の概要 1 本件は,原告が,別紙投稿記事目録記載のIPアドレス(以下「本件IPア ドレス」という。)を利用している被告に対し,氏名不詳者(以下「本件発信 者」という。)が,ツイッター上に写真を含む投稿(以下「本件投稿」とい う。)をし,別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)に対する 原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして,特定電気 通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以 下「法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報(以 下「本件情報」という。)の開示を求める事案である。

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判決文

令和2年12月9日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第12113号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和2年10月16日
判 決
原 告 創 価 学 会
同訴訟代理人弁護士 西 口 伸 良
堀 田 正 明
甲 斐 伸 明
大 原 良 明
被 告 株式会社TOKAIコミュニケーションズ
同訴訟代理人弁護士 松 尾 栄 蔵
村 上 諭 志
星 野 公 紀
主 文
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,原告が,別紙投稿記事目録記載のIPアドレス(以下「本件IPア
ドレス」という。)を利用している被告に対し,氏名不詳者(以下「本件発信
者」という。)が,ツイッター上に写真を含む投稿(以下「本件投稿」とい
う。)をし,別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)に対する
原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことが明らかであるとして,特定電気
通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以
下「法」という。)4条1項に基づき,別紙発信者情報目録記載の各情報(以
下「本件情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨によ
り認められる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断ら
ない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 当事者
ア 原告は,宗教法人である。
イ 被告は,電気通信事業を営む株式会社である。
(2) 本件写真
本件写真(甲5)は,原告の職員が職務上撮影し,原告が発行する平成3
0年8月22日付け聖教新聞(甲6)において,「池田先生ご夫妻が信越の
友のもとへ。小説『新・人間革命』の執筆開始から25周年の今月6日,長
野研修道場で」とのキャプションを付して掲載された写真であり,原告が著
作権を有する著作物である(甲7,甲8)。
(3) 本件投稿
本件発信者は,ツイッター上にアカウント(以下「本件アカウント」とい
う。)を開設し,別紙投稿記事目録記載アカウント名を用いるなどしていた
者であるが,同記載の投稿日時欄記載の日時に同記載「本文」以下の文書に
写真(以下「本件投稿写真」という。)を付して投稿した(甲1,乙8)。
本件投稿写真は,本件写真の一部をトリミングするなどしたものであった。
(4) 本件IPアドレス
ア 東京地方裁判所は,原告の申立てに基づき,令和元年10月11日,ツ
イッターを運営するツイッターインターナショナルカンパニー(以下「ツ
イッター社」という。)に対し,本件アカウントにログインがあった際の
情報(IPアドレス並びに年月日及び時刻)であって,当該決定がツイッ
ター社に送達された日の正午(日本標準時)時点から遡って3か月以内
(ただし,本件投稿の直前のログイン時以降)のものすべてについて,仮
の開示を命じる仮処分決定をした(甲2)。
イ ツイッター社は,前記仮処分決定に基づき,令和元年10月31日,原
告に対し,本件アカウントに係る各ログインの際のIPアドレス並びに年
月日及び時刻の情報を開示した(甲3)。これによれば,本件投稿の直前
にされたログイン(以下「本件ログイン」という。)は,被告が利用する
本件IPアドレス(甲4の1,2)を通じ,同年8月23日午前8時19
分58秒にされたものであった。ただし,その余のログインには,被告の
利用しないIPアドレス(乙5)を経由するものも含まれていた。
ウ 被告は,本件訴訟提起後の令和2年3月26日付けで,本件IPアドレ
スの割り当てを受けていた被告サービスの加入者に宛てて,法4条2項所
定の意見を聴取する書面を送付したが,本件発信者は,同年4月7日付け
で,被告に対し,「加入者のご家族・同居人」として,著作権法32条1
項に該当する事由があるため,「侵害情報の流通によって当該開示の請求
をする者の権利が侵害されたことがあるとき」とはいえないとして,発信
者情報の開示に同意しない旨の回答(乙8)を返送した。
3 争点
(1) 本件情報の発信者情報該当性(争点1)
(2) 被告の開示関係役務提供者該当性(争点2)
(3) 本件投稿による権利侵害の明白性(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件情報の発信者情報該当性)について
〔原告の主張〕
(1) 本件発信者は,被告が,本件ログインをした者に対してした意見照会に対
し,「私が発信した情報です」と印字された回答書を用い,「発信者は…コ
メントを付して投稿した」として,本件投稿をしたことを認めた上,引用の
抗弁を主張している。したがって,本件ログインをした者が,本件投稿をし
た本件発信者であることは明らかである。
(2) このように,本件ログインは,本件投稿のためにされたログインであるか
ら,本件ログインに係る情報は,法4条1項の「発信者情報」に当たる。本
件ログインのように,侵害に係る投稿の直前のログインであれば,当該ログ
インのまま,当該投稿がされたと考えることができるから,当該ログインに
係る情報こそが,同項の「侵害情報」に当たると理解すべきである。
(3) ツイッター社は,投稿の際のアクセスログを保存しておらず,ログインの
際のアクセスログしか開示しない。被告が主張するように,ログインの際の
情報であれば,およそ開示の対象とならないというのは,硬直した法解釈で
あり,妥当ではない。
〔被告の主張〕
(1) 本件情報のようなログインの際の情報は「発信者情報」に当たらない。
ア 法4条1項及び同条の委任を受けた総務省令が発信者情報の開示請求の
対象を定める趣旨は,発信者のプライバシーや表現の自由,通信の秘密等
に配慮し,発信者情報と権利侵害の強い関連性を厳格に求めることとした
ものにあると解される。これらの法令の「侵害に係る」「侵害情報の送信
に係る」という文言に照らすと,法4条1項の「発信者情報」は,権利を
侵害したとされる情報の発信行為を行った際の発信者にかかる情報に限ら
れると解されるのが相当である。
イ これに対し,本件情報のようなログインの際の情報は,侵害情報の発信
者以外の第三者によるログインの際のものである可能性を否定し得ず,法
令等が許容する範囲を超えて個人のプライバシーや表現の自由が制約され
るおそれがあること,また,ログイン自体は何らの侵害行為も構成しない
ことからすれば,仮に,その発信者情報が開示されることにより侵害情報
の発信者が特定される可能性があるとしても,発信者情報開示請求の対象
にはならないというべきである。したがって,本件情報は,法4条1項に
定める「発信者情報」に当たらず,開示の対象とはならない。
(2) 本件ログインをした者が本件発信者であるとは限らないこと
ア 仮に,ログインの際の情報が開示の対象とされる場合であっても,前記
の法令の趣旨を踏まえれば,当該ログインの機会に,権利を侵害したとす
る情報が投稿されたことが立証される必要があるというべきである。そし
て,ツイッターは,その仕様上,同時に一人しかログインできないわけで
はなく,パスワードを知っていれば,複数の者が同一のアカウントに二重
にログインし,別人が同時にツイートすることも可能である。
イ これを本件についてみるに,本件投稿に近接し,複数のIPアドレスか
らログインが行われ,その中には被告以外のプロバイダを経由したアクセ
スも含まれていることなどからすれば,本件アカウントが複数のユーザー
の共有であり,また,本件ログイン以前のログインによって,本件各記事
の投稿が行われた可能性も十分にある。したがって,本件情報は,法4条
1項の「発信者情報」に当たらず,開示の対象とはならない。
2 争点2(被告の開示関係役務提供者該当性)について
〔原告の主張〕
前記のとおり,被告の提供する通信サービスを利用し,かつ,被告からの意
見照会に回答した者が,本件投稿をしたことを認めているのであるから,本件
投稿が,被告の管理するサーバを経由したものであることは明らかである。
したがって,被告は,法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たる。
〔被告の主張〕
仮に,本件ログインをした者と本件発信者とが同一人であったとしても,本
件投稿が,被告のサーバを経由して行われたとは限らない。実際,本件投稿と
近接する令和元年8月21日午後7時47分のログインは,被告が利用しない
エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社に割り当てられたIPアド
レスを経由している。被告が,本件投稿の用に供された特定電気通信設備を用
いる「特定電気通信役務提供者」であると断定することはできない。
したがって,被告が,法4条1項の「開示関係役務提供者」であるというこ
ともできない。
3 争点3(本件投稿による権利侵害の明白性)について
〔原告の主張〕
(1) 複製に当たること
ア 本件写真は,池田名誉会長夫妻が激励のために原告の長野研修道場に訪
れた際,原告の職員が,会長夫妻を拍手で歓迎する信越地方の会員の歓喜
の笑顔を捉え,その感動の様子が全国の会員にも伝わるよう,カメラマン
としての経験を活かし,撮影方向,構図,シャッタースピード,タイミン
グ,絞りなどに工夫を凝らし,的確なタイミングを捉えて撮影したもので
あり,その思想,感情を表現する創作性を有する。
イ 本件投稿写真は,会員が拍手をして会長夫妻を歓迎している様子が分か
るものであり,人物の位置,服装,手の位置,背景,撮影アングルなどに
本件写真との明らかな同一性を有し,本件写真の内容及び形式を覚知させ
るに足り,その部分に創作性を看取することができるものであるから,本
件写真の複製物である。
したがって,原告に無断でされた本件投稿は,原告の本件写真に対する
公衆送信権を侵害する。
(2) 引用に当たらないこと
ア 被告は,引用の抗弁を主張するが,本件投稿に係る記事は,投稿者の実
名も示さず,その大部分を本件投稿写真が占め,写真に対する論評もない
のであるから,量・質の両面において,文章部分が主であり,写真部分が
従であるという関係にはない。また,出所も明示されていない。
イ 被告は,本件投稿に係る記事が,写真に写された自動車がレンタカーで
あるか否かという批評・感想を述べるものであるとするが,写真自体に対
する批評は何らなされていない上,本件写真を引用したところでレンタカ
ーであるか否かの結論が出るわけでもないから,その引用の必要性は乏し
かったといえる。また,そのような感想を述べるためだけであれば,自動
車の部分だけを示せば十分であり,会員が拍手をして池田名誉会長夫妻を
歓迎している様子が分かる範囲まで掲載する必要性もない。
ウ 加えて,本件投稿写真は,著作者名が付記されていない点,本件写真の
周囲の部分を削除し,縦横比を変更したものである点において,明らかに
著作者人格権(氏名表示権,同一性保持権)を侵害する態様で掲載された
ものであり,本件投稿に係る記事は,著作権法32条1項にいう「公正な
慣行に合致」し,かつ,「引用の目的上正当な範囲内」において「引用」
をしたものということはできない。
〔被告の主張〕
(1) 複製に当たらないこと
本件投稿写真は,「車もレンタル?!」というコメントとともに投稿され
たように,「車」に焦点を置いて本件写真を利用したものにすぎず,原告が
本件写真の創作性のポイントとする会員の歓喜の笑顔,感動の様子を伝える
ものではない。その画質も粗いため,カメラマンとしての経験が活かしたと
いう細部の表現は感得できない。このように,本件投稿写真は,本件写真の
創作性があるとされる部分を再製したものではないから,複製権侵害は成立
せず,少なくとも,それが明らかであるとはいえない。
(2) 引用に当たること
ア 本件投稿は,「池田名誉会長が乗っていた車は,レンタルしたものなの
か,学会員に姿を見せるためにわざわざ購入したものなのか。」という点
を問題とし,創価学会という日本有数の宗教法人の象徴的な存在である池
田名誉会長が,その業務として行った長野研修道場への訪問に際しての費
用のあり方について,一般市民に議論の題材を提示するものであり,「報
道,批評」等の目的によることは明らかである。このようにして批評・感
想を述べることは,表現の自由として保護され,社会通念上も妥当とされ
るものであって,「公正な慣行」に合致する。
イ そして,その目的を達成するためにも,本件投稿写真を利用した方が閲
覧者にとって具体的なイメージが付きやすく,有用であることは明らかで
あるから,本件投稿において,本件写真を引用する必要性はあったものと
いうべきである。まして,本件投稿写真は,写り込んでいた学会員のプラ
イバシーにも配慮し,主眼となる「車」に絞って,一部をトリミングして
いるのであるから,必要最小限度の範囲に限って引用されているというこ
とができる。他方,これによって,原告に経済的損害が生じることもない
のであるから,本件投稿は「正当な範囲」にある。
ウ 原告は,写真と記事の量的な主従を問題とするが,ツイッターというサ
ービスの性質上,写真と記事の投稿スペースについてはあらかじめ決まっ
ており,投稿者が自らの意思でこれを左右できるものではないから,本件
投稿において,量的な主従関係を議論することに意味はない。むしろ,上
記のように,本件投稿のコメント部分は,一般市民に議論の題材を提示す
るという報道・批評等の目的によるものであること,コメント部分が,本
件発信者の意見・主張であり,メインの部分であるのに対し,本件投稿写
真は,これを補足するため,必要最小限度の範囲に抑えて引用されている
ことを重視すべきである。
エ 以上によれば,本件投稿写真を掲載したことは,著作権法32条1項の
「引用」として,適法なものということができるので,原告が主張する権
利侵害が明白なものであるということはできない。なお,原告は,本件写
真がトリミングされていることについて,著作者人格権の侵害に当たると
主張するが,上記のとおり,本件投稿写真は,適法と認められる引用にお
いて,本件写真のうち,必要な範囲の画像部分をトリミングしたにすぎな
いので,著作者人格権との関係においても,違法性が阻却される。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件情報の発信者情報該当性)について
(1) 被告は,法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは,権利を侵害
したとされる情報の発信行為を行った際の発信者に係る情報に限られるとの
解釈を前提とした上で,本件情報は,本件ログインの際の情報にすぎず,本
件投稿が行われた際の情報ではないから,本件情報は,同条項にいう「権利
の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
ア 確かに,前提事実記載のとおり,本件投稿は,令和元年8月23日午前
8時49分,本件アカウントに投稿されたものであるのに対し,本件IP
アドレスは,ツイッター社が,同月23日午前8時19分,本件アカウン
トに本件ログインが行われた際に使用されたIPアドレスとして開示され
たものであるから,本件情報は,本件ログインの際のIPアドレス等から
把握される発信者情報であり,本件投稿の発信行為が行われた際のIPア
ドレス等から把握される発信者情報として特定されるものではない。
イ しかし,法4条1項は,「権利侵害時の発信者情報」あるいは「権利が
侵害された際の発信者情報」など,権利を侵害する行為の際に使用された
情報に限定した規定をせず,「権利の侵害に係る発信者情報」と規定して
いる。「係る」という語が,「関係する」又は「かかわる」との意味を有
することに照らすと,同条項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは,侵
害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発
信者情報に限らず,権利侵害との結びつきがあり,権利侵害者の特定に資
する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
ウ また,法4条の趣旨は,特定電気通信による情報の流通によって権利の
侵害を受けた者が,情報の発信者のプライバシー,表現の自由,通信の秘
密に配慮した厳格な要件の下で,当該特定電気通信の用に供される特定電
気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を
請求することができるものとすることにより,加害者の特定を可能にして
被害者の権利の救済を図ることにあると解されるところ(最高裁平成21
年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号
676頁),侵害情報そのものの発信時点ではなく,その前後に割り当て
られたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても,それが当該
侵害情報の発信者のものと認められる場合には,当該発信者のプライバシ
ー,通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ,当該侵害情報の被害者の
権利の救済を図る必要性がより高いというべきである。
エ さらに,ツイッター社は,個々の投稿に係るIPアドレス等のログを保
存していないことがうかがわれるが,侵害情報そのものの発信時点に割り
当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報でなければ,法4条
1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとすれば,権利を侵
害されたことは明白であるにもかかわらず,サイト運営者のログの保存方
法等によって,発信者情報開示請求の成否が左右されることになり,侵害
情報が発信された時点のIPアドレス等が保存されていない場合,被害者
は権利行使を断念せざるを得なくなる。法4条が,このようにサイト運営
者のログの保存方法等によって,被害者の権利救済の可否が左右されるこ
とを想定し,これを容認しているとは考え難い。
オ 以上によれば,本件情報のように,侵害情報が送信される直前のログイ
ンの際のIPアドレス等から把握される発信者情報であっても,それが侵
害情報の発信者のものと認められるのであれば,法4条1項にいう「権利
の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当である。
(2) 被告は,ログインの際の情報が,発信者情報開示請求の対象になり得ると
しても,ツイッターの仕様上,複数の者が同一のアカウントに二重にログイ
ンすることも可能であるから,本件ログインをした者が本件発信者であると
は限らないとして,本件ログインの際のIPアドレス等から把握される発信
者情報が,本件発信者のものであることを争う。
ア しかし,本件アカウントのプロフィールの記述や本件投稿の内容などを
見ても(甲1),本件アカウントが,複数の者の共用であることをうかが
わせるような部分は見当たらない。また,本件発信者が,法4条2項の意
見聴取に対してした回答(乙8)にも,そのような事情をうかがわせるよ
うな記載はない。むしろ,前提事実のとおり,本件ログインが,本件投稿
の約30分前にされたものであることからすれば,本件投稿は,本件ログ
インをした者が,そのログイン状態を利用してしたものと推認するのが自
然であり,この推認を妨げる事情は見当たらない。
イ なお,ツイッター社の開示情報によれば,本件アカウントに対する18
2回(約2か月間)のログインのうち,本件IPアドレスによらないもの
は77件に上る(甲3の2)。しかし,被告が,他社の保有するものであ
ると立証するIPアドレス(乙5)は,そのうちの2件にすぎない。同一
人であっても,固定回線の外,加入する携帯電話会社の回線や旅行先のホ
テルの回線等を通じ,インターネットにアクセスをすることは通常のこと
であるから,前記の事実をもって,本件アカウントが共用のものであると
推認することもできない。
(3) 以上によれば,この点に関する被告の主張は採用することができない。
2 争点2(被告の開示関係役務提供者該当性)について
被告は,本件投稿が,被告の特定電気通信設備を経由して行われたとは限ら
ないとして,開示関係役務提供者該当性を争うが,本件投稿が,本件ログイン
によるログイン状態を利用してされたものであることは,争点1で認定したと
おりであるから,本件投稿は,被告の特定電気通信設備を経由したものであっ
たと認められる。
3 争点3(本件投稿による権利侵害の明白性)について
(1) 本件投稿写真が,本件写真をトリミングするなどした上,これに依拠して
再製されたものであることは特に争いがない。
そして,本件写真は,原告の名誉会長夫妻が,原告の施設を訪れた際,多
数の会員らが拍手で迎え,同夫妻らが車中から応じる様子を撮影した報道写
真であり,その場面を効果的に表現するため,撮影方法等に工夫がされたも
のであると認められるものであるのに対し,本件投稿写真は,本件写真の相
当部分を切り出し,本件写真が表現する前記の場面のうち,同夫妻ら及び同
会員らの相当数の様子を十分に覚知し得るものである。
そうすると,本件投稿写真は,本件写真の創作性がある部分を再製したも
のであり,これを「複製」(著作権法21条)したものであるということが
できる。
(2) 被告は,本件投稿に際し本件投稿写真を掲載したことが適法な引用(著作
権法32条1項)に当たるから,その権利を侵害したことが明白なものであ
るとはいえないと主張するが,他人の著作物を引用した利用が許されるため
には,その方法や態様が,報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会
通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用すること
が公正な慣行に合致することが必要である。
本件投稿に係る記事の文章部分は,別紙投稿記事目録「本文」欄記載のと
おりであり,本件投稿写真中の「車」に言及するものであるとは認められる
が,その趣旨は明確でない。本件発信者は,被告に対し,当該文章は,「車
はレンタルなのか,買ったものなのかどちらかなのだろう。」という批評又
は感想を述べる意図であったと回答するが(乙8),そのような単なる感想
を述べるために本件投稿写真を掲載する必要性が高いともいえない。
これに加え,本件投稿写真が,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大き
さであるのに対し,前記の文章部分は,別紙投稿記事目録「本文」欄記載の
短い3文(28文字)にすぎないこと,本件写真の出所が何ら記載されてい
ないことからすれば,その引用の方法及び態様が,引用目的との関係で社会
通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできない。また,
それが公正な慣行に合致すると認めるに足りる事情も存在しない。
なお,被告は,ツイッターの性質上,投稿スペースが決まっており,量的
な主従関係を議論することに意味はないと主張するが,前記した文章部分の
分量が,ツイッターの仕様に制約された結果であると認めるに足りる証拠は
なく,また,仮にその分量がツイッターの仕様に制約された結果であるとし
ても,本件掲載写真を掲載する必要性に乏しいこと,本件写真の出所が明示
されていないことなどに照らすと,そのような事情は上記結論を左右するも
のではない。
(3) 以上のとおり,本件投稿写真の掲載は,適法な引用であるということはで
きず,その他に権利制限事由が存在することもうかがわれないから,本件発
信者が,本件写真を複製した本件投稿写真を掲載したことにより,本件写真
に対する原告の著作権(公衆送信権)を侵害したことは明らかである。
4 結論
以上によれば,原告は,本件発信者に対し,著作権(公衆送信権)を理由と
する不法行為に基づく損害賠償請求権等を有し,その権利を行使するため,本
件情報(なお,先に認定したところによれば,別紙発信者情報目録記載の「別
紙投稿記事目録「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを同目録「ログイン日
時」欄記載の日時頃に使用して送信された同目録「本文」欄記載の侵害情報の
送信に係る者」は,「別紙投稿記事目録「IPアドレス」欄記載のIPアドレ
スを同目録記載のログイン日時頃に被告から割り当てられていた契約者」を意
味することになる。)の開示が必要である。
よって,本訴請求は理由があるから,これらを認容することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
三 井 大 有
裁判官
? 野 俊 太 郎
(別紙)
発 信 者 情 報 目 録
別紙投稿記事目録「IPアドレス」欄記載のIPアドレスを同目録「ログイン日
時」欄記載の日時頃に使用して送信された同目録「本文」欄記載の侵害情報の送信
に係る者に関する情報であって,次に掲げるもの
1 氏名又は名称
2 住所
(別紙)
投 稿 記 事 目 録
URL (URLは省略)
投稿日時 (日本標準時)2019 年 8 月 23 日 08:48
名前 A
アカウント名 B
ログイン日時 (協定世界時)2019 年 8 月 22 日 23:19:58
(日本標準時)2019 年 8 月 23 日 08:19:58
IPアドレス 27.95.231.206
本文
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和(なごみ)特許事務所

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