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平成30(ワ)19441損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年1月28日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社旭テクノス
被告株式会社ニチネン
対象物 ガスコンロ装置
法令 特許権
特許法134条の21回
特許法102条3項1回
特許法102条1回
キーワード 無効21回
実施10回
特許権5回
無効審判5回
進歩性3回
損害賠償2回
審決2回
侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 本件は,原告が,被告による別紙被告製品目録記載1から3の各製品(以下, 番号に応じて「被告製品1」等といい,併せて「各被告製品」という。)の製 造,販売,販売の申出は,原告の有する特許第2908792号の特許権(以5 下「本件特許権」という。)を侵害し,原告は損害を被ったと主張して,不法 行為による損害賠償請求権に基づき,9637万3591円及びこれに対する 不法行為より後の日である平成30年7月7日(訴状送達の日の翌日)から支 払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求める事案である。10

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判決文

令和3年1月28日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成30年(ワ)第19441号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和2年10月8日
判 決
原 告 株 式 会社 旭 テ ク ノ ス
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 奥 川 貴 弥
川 口 里 香
10 山 﨑 郁
鈴 木 惠 美
伊 藤 尚
同 補 佐 人 弁 理 士 上 西 浩 史
15 被 告 株 式 会 社 ニ チ ネ ン
同 訴 訟 代 理 人 弁 護士 細 田 英 明
菅 田 文 明
中 島 徹 也
20 主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求等
25 1 被告は,原告に対し,9637万3591円及びこれに対する平成30年7
月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,原告が,被告による別紙被告製品目録記載1から3の各製品(以下,
番号に応じて「被告製品1」等といい,併せて「各被告製品」という。)の製
5 造,販売,販売の申出は,原告の有する特許第2908792号の特許権(以
下「本件特許権」という。)を侵害し,原告は損害を被ったと主張して,不法
行為による損害賠償請求権に基づき,9637万3591円及びこれに対する
不法行為より後の日である平成30年7月7日(訴状送達の日の翌日)から支
払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合に
10 よる遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証
拠は文末に括弧で付記した。なお,書証は特記しない限り枝番を全て含む。以
下同じ。)
⑴ 当事者
15 原告は,高圧ガスにかかわる機器の研究,開発,設計,製造,販売等を目
的とする株式会社である。(甲1)
被告は,高圧ガス保安法に基づく各種コンロ,ボンベの製造,販売等を目
的とする株式会社である。(甲2)
⑵ 本件特許権
20 原告は,以下の本件特許権を有する。(甲3)
特許番号 第2908792号
出願日 平成10年6月5日(特願平10-173999号)
登録日 平成11年4月2日
発明の名称 ガス機具
25 ⑶ 特許請求の範囲の記載
本件特許権に係る特許(以下「本件特許」といい,本件特許の願書に添付
した明細書及び図面(別紙本件発明図面記載のとおり)を「本件明細書」と
いう。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
【請求項1】器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容
器を使用するガス器具であって,一定の構造と内容量を有する
5 標準型ガス容器と,それよりも内容量が小さい小型ガス容器と
を使用可能であり,標準型ガス容器を器具本体にセットしたと
きに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体
壁面に有しており,上記開口を含む空気導入口から器具本体内
へ空気を導入し,導入された空気を器具本体側の排出部から排
10 出する空冷機構を具備したことを特徴とするガス器具。
請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)を構成要件に分説する
と,次のとおりである(以下,符号に応じて「構成要件A」などという。)。
A 器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容
器を使用するガス器具であって,
15 B 一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と,それよりも内
容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり,
C 標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器
の端部を器具本体外へ出す開口を器具本体壁面に有しており,
D 上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し,
20 E 導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を
具備した
F ことを特徴とするガス器具。
⑷ 被告の行為等
被告は,遅くとも平成27年6月から,各被告製品を,製造,販売し,販
25 売の申出をしている。
ア 被告製品1は,別紙被告製品図記載の被告製品1のとおり,器具本体に
一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用するガスこ
んろであり,標準型ガス容器と小型ガス容器を使用可能であって,被告
製品1は本件発明の構成要件A,B及びFを充足する。
被告製品1は,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガ
5 ス容器の端部を器具本体外へ出す開口(以下「側面開口」ということが
ある。被告製品2及び3について同じ。)を器具本体側面に有する。ま
た,ガス容器収容部に取り付けられた開閉可能な容器カバー及びセット
されるガス容器の大きさに応じてスライド可能な容器端部カバーを具備
しており,これらのカバーは,小型ガス容器をセットしたときには底端
10 部を含む小型ガス容器の全体を覆い,標準型ガス容器をセットしたとき
には器具本体外にはみ出した部分の上側と底端部を含む標準型ガス容器
の大部分を覆う。ガス容器収容部底面には一つの長細い穴(以下「底面
穴」ということがある。被告製品2及び3について同じ。)が,ガス容
器収容部上部の容器カバーには,一つの円形の穴(以下「カバー穴」と
15 いうことがある。被告製品2及び3について同じ。)が設けられている。
器具本体の作動部とガス容器収容部の境界部分には,上辺及びガス容器
端部側の一部に仕切板が設置されているほかは,基本的に仕切板は設け
られていない。
(本項につき,争いがない事実のほか,甲6,9,弁論の全趣旨)
20 イ 被告製品2及び3は,別紙被告製品図記載の被告製品2及び3のとおり,
いずれも,器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス
容器を使用する卓上グリルであり,本体バーナー部分の上に調理用プレ
ート等を乗せて使用する構成となっていて,本体部分の構造は同一であ
り,上に乗せる調理用器具が異なっている(被告製品2は焼肉用の焼き
25 網枠及び焼き網,被告製品3はたこやき用のたこやきプレート。)。被
告製品2及び3は,標準型ガス容器に加え,少なくとも物理的には小型
ガス容器を使用可能である。したがって,被告製品2及び3は本件発明
の構成要件A,B及びFを充足する。
被告製品2及び3は,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標
準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口(側面開口)を器具本体側
5 面に有する。また,ガス容器収容部に取り付けられた開閉可能な容器カ
バー及びセットされるガス容器の大きさに応じてスライド可能な容器端
部カバーを具備しており,これらのカバーは,小型ガス容器をセットし
たときには底端部を含む小型ガス容器の全体を覆い,標準型ガス容器を
セットしたときには器具本体外にはみ出した部分の上側と底端部を含む
10 標準型ガス容器の大部分を覆う。ガス容器収容部底面には一つの長細い
穴(底面穴)が,ガス容器収容部上部の容器カバーには一つの円形の穴
(カバー穴)が設けられている。
器具本体の作動部とガス容器収容部の境界部分には,境界の上辺とガス
容器の端部側に熱伝導性を有する仕切板が設置されており,また,ガス
15 容器収容部底面には,作動部側にまたがってヒートパネル(容器加温装
置)が設置され,燃焼中の作動部からの熱伝導によりガス容器を加温す
る。
(本項につき,争いがない事実のほか,甲7,8,11~14,弁論の
全趣旨)
20 ⑸ 引用例等
ア 次の各文献が存在する。
昭和58年12月3日公開の実開昭58-181100号公開実用
新案公報(乙5。以下,同公報を「乙5公報」という。)
平成7年8月29日発行の実用新案第3015222号登録実用新
25 案公報(乙6。以下,同公報を「乙6公報」という。)
イ 平成10年4月30日,発明の名称を「ガスコンロ装置」とする特許出
願(特願平10-121072号)がされ,平成11年11月9日,同特
許出願について出願公開(特開平11-311417号)がされた(乙
4)。以下,同願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲及び図面に
記載された発明を「乙4発明」という。
5 ⑹ 訂正の請求等
ア 被告は,本件特許について,特許無効審判を請求し(無効2018-8
00152号),原告は,平成31年2月14日頃,特許請求の範囲
(請求項1)の記載の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。
(甲43,弁論の全趣旨)
10 訂正後の請求項1(以下「訂正後請求項1」という。)の記載は次のと
おりである(下線部が訂正部分)。
【訂正後請求項1】器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形
のガス容器を使用するガス器具であって,一定の構造と内容量
を有する標準型ガス容器と,それよりも内容量が小さい小型ガ
15 ス容器とを使用可能であり,標準型ガス容器を器具本体にセッ
トしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を
器具本体壁面に有しており,小型ガス容器を器具本体にセット
したときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を
導入し,導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空
20 冷機構を具備したことを特徴とするガス器具。
訂正後請求項1に係る発明(以下「本件訂正後発明」という。)は,構
成要件AからF(以下,符号に応じて「訂正後構成要件A」などとい
う。)に分説され,訂正後構成要件AからC,E及びFは構成要件Aか
らC,E及びFと同じであり,訂正後構成要件Dは次のとおりである。
25 D 小型ガス容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空
気導入口から器具本体内へ空気を導入し,
イ 特許庁は,令和元年8月22日,前記特許無効審判事件について,本件
訂正のとおり訂正することを認める,審判の請求は成り立たない旨の審
決をした。(甲74)
被告は上記審決に対する訴えを提起したが,知的財産高等裁判所は,令
5 和2年7月29日,被告の請求を棄却する旨の判決をした(同裁判所令
和元年(行ケ)第10129号)。(甲75)
ウ 被告製品1は,訂正後構成要件A,B及びFを充足し,被告製品2及び
3は,訂正後構成要件A及びFを充足する。(争いがない)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
10 本件の争点は,
①各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。
②本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか。
無効理由1 拡大先願違反
無効理由2 乙5公報及び乙6公報に記載された周知技術からの進歩性欠
15 如
③訂正の請求の適法性及びこれにより無効理由が解消するか。
④各被告製品が本件訂正後発明の技術的範囲に属するか。
⑤損害の発生及び額
である。
20 ⑴ 争点①(各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。)について
(原告の主張)
各被告製品は,次のとおり本件発明の構成要件D及びEを充足するもので
あり,その他本件発明の各構成要件を充足し,その技術的範囲に属する。
ア 各被告製品において,側面開口と底面穴は,器具本体内へ空気を導入す
25 る空気導入口として機能し,ガス容器収容部内へ空気を導入するから,構
成要件Dを充足する。また,導入された空気は排出部であるカバー穴から
排出され,カバー穴からの空気の排出と側面開口と底面穴からの空気の導
入が繰り返されることにより空冷機構として機能するから,構成要件Eを
充足する。
すなわち,各被告製品においてガス容器を使用してガスを燃焼させた場
5 合,熱はバーナー部分で発生するため,器具本体のガス容器収容部にお
いてもその底部の空気より上部の空気の方が高温になる。高温になった
空気は上昇し,カバー穴から排出され,これに伴いガス容器収容部内の
底部の空気が上昇し,その際,側面開口及び底面穴から空気がガス容器
収容部内に流入することになる。このようにして,各被告製品において,
10 側面開口及び底面穴は,ガス容器収容部と外部を連通して空気導入口と
して機能する。そして,高温になった空気が排出部であるカバー穴から
排出され,側面開口と底面穴から熱せられていない空気が流入すること
が繰り返されることにより,ガス容器収容部内の空気が冷やされること
になる。このようにして,各被告製品においては,カバー穴が空気排出
15 部として,側面開口と底面穴が空気導入口として,器具本体のガス容器
収容部内の空冷機構として機能する。
被告は,「排出部」は複数孔から構成されるなどとして各被告製品の構
成要件の充足を争うが,構成要件に被告主張のような限定はなく,被告
の主張には理由がない。
20 イ 小型ガス器具を安全に使用するためには,ガス容器に対する加温機構と
ガス容器及びガス容器収容部に対する空冷機構のいずれもが必要である。
すなわち,燃料ガスの燃焼の初期は,液化石油ガスの気化熱によりガス
容器,特に,液化石油ガス層は低温になることから加温機構が機能する
が,燃焼が進むと,ガス容器の周囲の空気の温度が高くなり,これによ
25 りガス容器,特に,燃料ガス層の温度が高くなるため,これが高くなり
すぎないように空冷機構を機能させ,ガス容器周辺の空気の温度を一定
に維持する必要がある。
なお,ガス容器の温度が過度に上昇すると,ガス容器の変形,破損,
ひいては破損したガス容器から漏出したガスに引火することによるガス
爆発などの害が生じ得る。具体的には,概ね43度でガス容器内の圧力
5 が0.4メガパスカルを超えることから,ガス容器の温度が40度を超
える場合は危険な状態であるというべきである。また,ガス容器収容部
の温度が過度に上昇すると,使用者の火傷,ガス器具の破損などの害が
生じ得る。
ウ 原告の行った各実験においても,各被告製品において,側面開口を含む
10 空気導入口から器具本体内へ空気を導入すること,導入された空気が器具
本体側の排出部であるカバー穴から排出されていること,これにより,空
気導入口と空気排出部がない場合と比較して,ガス容器収容部内の温度上
昇が抑制されていること,すなわち,空気導入口と空気排出部が空冷機構
として機能していることが明らかである。
15 (被告の主張)
各被告製品は,本件発明の構成要件CからEを充足しない。
ア 本件明細書の記載によれば,本件発明の技術思想は,側面開口を空気導
入口とし,器具本体内に十分な空気の流れを生じさせて冷却性能の向上を
図るというものであり,したがって,「開口を含む空気導入口」(構成要
20 件D)とは,多量の空気を流入させることにより,器具本体内に十分な空
気の流れを生じさせて冷却性能を向上させるような機能を有するものをい
い,「排出部」(構成要件E)とは,空気導入口から流入された多量の空
気を排出することにより器具本体内に十分な空気の流れを生じさせるよう
な機能を有するものをいい,排出「口」ではなく排出「部」との文言が用
25 いられていることからすれば複数孔から構成される排気システムをいうと
解される。
各被告製品において,側面開口,底面穴及びカバー穴は,ガス容器を冷
却するための空気流通口ではないし,空冷機構として機能してもいない。
底面穴は,万が一ガス容器からガスが漏出した場合にこれを外部に排出
する通風口の機能を果たすものであり,カバー穴は,ガス容器先端のセ
5 ット状態確認のためののぞき口及び容器端部カバーのスライド時の把手
の機能を果たすものである。各被告製品には,本件発明において空気導
入口として想定している多量の空気が流入可能な多数の小開口は設けら
れていない。
したがって,各被告製品は,構成要件D及びEを充足せず,側面開口は
10 空冷機構として機能していないから構成要件Cも充足しない。
イ 各被告製品を含む小型ガス器具においては過冷却が問題になることはあ
っても,加熱が問題になることはない。
被告製品1は,器具本体の作動部とガス容器収容部の間に仕切板が部分
的に設置され,また,熱伝導性の高い容器カバー及び容器端部カバーが
15 ガス容器の全部又は大部分を覆い,作動部側の燃焼炎の熱によりガス容
器を加温し,被告製品2及び3は,器具本体の作動部とガス容器収容部
の間に熱伝導性を有する仕切板が部分的に設置され,また,熱伝導性の
高い容器カバー及び容器端部カバーがガス容器の全部又は大部分を覆い,
ガス容器収容部底面に作動部側にまたがってヒートパネルが設置され,
20 作動部側の燃焼炎の熱によりガス容器を加温する。各被告製品において
は,このような加温装置を具備することにより,気化熱によるガス容器
の過冷却を防止するとともに,ガス容器内の液化石油ガスの気化を促進
して作動部の高火力を維持し,ガス容器内のガスを使い切るという,本
件発明とは全く反対の構成が採用されている。
25 気化熱によるガス容器の過冷却及び各被告製品の具備する加温機構をす
れば,側面開口,底面穴及びカバー穴は,空気の出入りを考慮しても本
件発明に係る空冷機構としては全く機能していないというべきである。
なお,ガス容器内の圧力が0.4メガパスカルを超える温度は50度前
後である。また,ガス容器収容部の温度が,直ちに使用者の火傷,ガス
器具の破損などの害の原因になるほど高温になるとはいえない。
5 ウ 原告が行った各実験について,その条件設定や実施方法が適切ではない
という点を措くとしても,側面開口からカバー穴,底面穴からカバー穴へ
の空気の対流があること,空気の対流が空冷機構として機能していること
等が実験結果によって明らかにされているとはいえない。なお,原告が行
った各実験を前提としても,ガス容器収容部の温度は最高でも60度程度
10 であり,直ちに使用者の火傷,ガス器具の破損を惹起するとはいえない。
⑵ 争点②(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められ
るか。)について
(被告の主張)
本件特許には,次のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効にさ
15 れるべきものである。
ア 無効理由1(拡大先願違反)
本件発明は,本件特許出願の日前に特許出願がされ,本件特許出願後に
出願公開がされた乙4発明と同一である。
イ 無効理由2(乙5公報及び乙6公報に記載された周知技術からの進歩性
20 欠如)
本件発明は,当業者が,乙5公報に記載された周知技術に乙6公報に記
載された周知技術を組み合わせることにより,又は,これら及びその他周
知技術を寄せ集めることにより,容易に想到することができたものであり,
しかも,これらの周知技術に比して格別に有利な効果も認められないから,
25 進歩性を欠く。
乙5公報に記載された考案の実施例である周知技術と本件発明には,同
周知技術は,「一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と,それより
も内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能」(構成要件B)ではなく,
ガス容器収容部の後方にガス容器の後端部分の突出口となり得る開口を有
するが,「標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す」(構成要件C)た
5 めに設けられたものではないのに対し,本件発明は構成要件B及びCの構
成を有するという相違点がある。しかし,乙6公報には,考案の実施例と
して,一定の構造と内容量を有するガス容器と,それよりも内容量が小さ
い小型ガス容器とを使用可能とするガス器具の技術,すなわち本件発明の
構成要件Bの構成が開示されており,本件特許出願前には,ガスこんろの
10 小型化の要求が高まっていた一方,標準型ガス容器には小型ガス容器に対
する優位性が認められるというガス機器業界の状況があり,乙5公報に記
載された周知技術に乙6公報に記載された周知技術を組み合わせることに
ついての動機付けがあった。また,本件発明と各周知技術とは技術分野が
共通しており,乙5公報及び乙6公報には示唆が存在する一方,阻害要因
15 は存在しない。
(原告の主張)
ア 無効理由1について
本件訂正により無効理由1は解消する(後記⑶(原告の主張))。
イ 無効理由2について
20 乙5公報及び乙6公報に記載された各周知技術は,ガス容器を使用する
ガス器具であるという共通点を除けば,構造や,ガス容器の接続方法など
使用の態様が全く異なり,本件発明が各周知技術から容易に想到すること
ができたとはいえない。また,標準型ガス容器及び小型ガス容器の両方を
使用可能とし,熱害の危険のないガス器具を提供するという本件発明の効
25 果は,各周知技術からは予測し得ないものである。
⑶ 争点③(訂正の請求の適法性及びこれにより無効理由が解消するか。)に
ついて
(原告の主張)
ア 本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 乙4発明は,明細書等の記載によれば,専用小型ガス容器がガス容器装
5 填部に装填された状態ではガス容器装填部の背面部の開口が閉塞されてい
るものであるのに対し,本件訂正後発明は,「小型ガス容器を器具本体に
セットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入」
する(訂正後構成要件D)というものであって,乙4発明と同一ではない。
したがって,訂正の請求が認められ,これにより無効理由1が解消する。
10 (被告の主張)
ア 本件訂正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,特許法
134条の2第1項各号所定のその他の事項を目的とするものでもない。
すなわち,請求項1には「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに
標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を…有しており,上記開口
15 を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し,導入された空気を器具
本体側の排出部から排出する空冷機構を具備した」と記載されているから,
「上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入し…」という記
載の趣旨は「標準型ガス容器をセットしたときに」「上記開口を含む空気
導入口から器具本体内へ空気を導入し…」というものであると理解するの
20 が自然である。そうすると,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更す
るものである。
イ 本件訂正後発明も乙4発明と同一であり,訂正請求によっても無効理由
1は解消しない。
専用小型ガス容器がガス容器装填部に装填された状態でガス容器装填部
25 の背面部の開口が閉塞されているという構成は乙4発明の実施形態の1つ
にすぎない。乙4発明はガス容器装填部の背面部を開閉自在にしたことに
特徴があるから,背面部を開口した状態で使用可能な構成,すなわち,本
件訂正後発明をも含むものである。
また,仮に,乙4発明が,専用小型ガス容器がガス容器装填部に装填さ
れた状態でガス容器装填部の背面部の開口が閉塞されていると原告が指摘
5 する構成に限定されるものであるとしても,図面等の記載によれば,上記
の場合にも背面部にはわずかな隙間があり開口が確保されているから,背
面部は閉塞されているとはいえない。
⑷ 争点④(各被告製品が本件訂正後発明の技術的範囲に属するか。)につい

10 (原告の主張)
ア 各被告製品は,小型ガス容器をセットしたときにも側面開口を含む導入
口から器具本体内へ空気を導入し,訂正後構成要件Dを充足するものであ
り,その他本件発明の各構成要件を充足し(前記⑴(原告の主張)),そ
の技術的範囲に属する。
15 イ なお,被告は,被告製品2及び3について構成要件Bを充足することを
認めており(前記1⑷イ),構成要件Bは本件訂正により訂正されていな
いから,この点については自白が成立しており,被告製品1から3につい
て訂正後構成要件Bを充足することは当事者間に争いがない。
この点を措くとしても,被告製品2及び3において小型ガス容器を物理
20 的に使用可能である以上,法的に使用可能か否かは訂正後構成要件Bの充
足性に関わらない。
(被告の主張)
ア 各被告製品は訂正後構成要件CからEを充足せず(前記⑴(被告の主
張)),被告製品2及び3は,ガス容器収容部に収まる程度の大きさの小
25 型ガス容器を使用することは法的に不可能であり,製品設計上も排除して
いるから,訂正後構成要件Bを充足しない。
イ 訂正後構成要件の充足性についての認否が,訂正の請求の前にされた訂
正前構成要件の充足性に係る認否に拘束される理由はなく,また,特許請
求の範囲の記載は特許発明の技術的範囲を確定するための資料として意味
を有するのであるから,訂正により特許発明の技術的範囲自体が変更され
5 る以上,その訂正が構成要件の一部についてのものであったとしても,構
成要件全体が変更されたものとして訂正後構成要件について争うことが許
される。仮にそうでないとしても,被告は,本件発明は日本工業規格で統
一化された規格の標準型ガス容器の使用を前提とするものと理解していた
が,本件訂正により「ガス容器収容部に収まる程度の大きさの」小型ガス
10 容器の使用を前提とするものであることとされたところ,被告製品2及び
3が訂正後構成要件Bを充足するということは真実に反し,また,被告は,
原告が構成要件Bの具体的意味を明らかにしていなかったために錯誤によ
り上記のとおり真実に反する認否をしたものであって,自白の撤回が認め
られるべきである。
15 ⑸ 争点⑤(損害の発生及び額)について
(原告の主張)
原告は,被告による各被告製品の製造,販売等により次のとおり損害を受
けた。
ア 被告製品1の製造,販売等について 956万0137円
20 被告製品1の工場出荷価格は2150円を下らず,被告は,平成29年
1月1日から同年12月13日までの間に,少なくとも1万5000台
の被告製品1を製造,販売した。本件発明の実施料率は売上高の10%
を下らない。したがって,被告製品1の1年間の製造,販売に対し受け
るべき金員の額は322万5000円を下らず,平成27年6月19日
25 から平成30年6月5日まで(2年352日)の製造,販売に対し受け
るべき金員の額に相当する標記額が少なくとも原告の損害額であると推
定される(特許法102条3項)。
【計算式】2,150×15,000×10%×(2+352/365)≒9,560,137
イ 被告製品2の製造,販売等について 7393万1726円
被告製品2の工場出荷価格は2900円を下らず,被告は,平成29年
5 1月1日から同年12月13日までの間に,少なくとも8万6000台の
被告製品2を製造,販売した。本件発明の実施料率は売上高の10%を下
らない。したがって,被告製品2の1年間の製造,販売に対し受けるべき
金員の額は2494万円を下らず,平成27年6月19日から平成30年
6月5日まで(2年352日)の製造,販売に対し受けるべき金員の額に
10 相当する標記額が少なくとも原告の損害額であると推定される(特許法1
02条3項)。
【計算式】2,900×86,000×10%×(2+352/365)≒73,931,726
ウ 被告製品3の製造,販売等について 412万0493円
被告製品3の工場出荷価格は2780円を下らず,被告は,平成29年
15 1月1日から同年12月13日までの間に,少なくとも5000台の被告
製品3を製造,販売した。本件発明の実施料率は売上高の10%を下らな
い。したがって,被告製品3の1年間の製造,販売に対し受けるべき金員
の額は139万円を下らず,平成27年6月19日から平成30年6月5
日まで(2年352日)の製造,販売に対し受けるべき金員に相当する標
20 記額が少なくとも原告の損害額であると推定される(特許法102条3
項)。
【計算式】2,780×5,000×10%×(2+352/356)≒4,120,493
エ 弁護士費用 876万1235円
原告が本件訴訟追行に要した弁護士費用のうち上記額は,被告の不法行
25 為と相当因果関係のある損害として原告が負担すべきである。
オ 合計 9637万3591円
(被告の主張)
否認ないし争う。
第3 当裁判所の判断
1 本件発明について
5 ⑴ 本件明細書の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある(本件訂正
による訂正前のもの。以下同じ。)。なお,図面は別紙本件発明図面記載の
とおりである。(甲3)
【発明の詳細な説明】【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,器
具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器を使用す
10 るガス器具に関し,特に小型のガス容器を使用するガス器具に関するも
のである。
【0002】【従来の技術】円筒形の小型のガス容器を使用するガス器具は
扱いが簡便で安価であるため広く普及しつつある。特にガス配管を必要
としないので移動の自由度が高く,卓上型こんろは業務目的から家庭用
15 途にまで使用されている。ところが従来のガス器具を卓上でなく狭いカ
ウンターで使用するような場合,ガス器具が大き過ぎるという指摘があ
った。
【0003】そこで上記のガス器具よりも小型のガス容器の開発が進行して
いる。新たな小型のガス容器とガス器具は,単に小型であるだけではな
20 く,従来のガス容器(以下標準型ガス容器という。)及びガス器具と要
部において共通していることが望ましい。例えば,ノズル周りのフラン
ジに設ける位置決め手段を従来と共通とすることにより,誤ったガス容
器の装填を減らすことができるからである。しかし一方では器具の小型
化が発熱の問題をもたらすことも予想される。
25 【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明は前記の点に着目して
なされたものであり,その課題は標準型ガス容器と細部において共通し
た小型ガス容器を使用可能な安全性の高い小型ガス器具を提供すること
である。
【0005】本発明の他の課題は,小型ガス容器のほかに標準型ガス容器を
も使用可能とすることである。
5 【0006】また本発明の他の課題は,標準型ガス容器によるガス器具とほ
ぼ同等の熱量を発生可能であるにも拘らず,熱害の心配のない小型ガス
器具を提供することである。
【0007】【課題を解決するための手段】前記課題を解決するため本発明
は,一定の構造と内容量を有する標準型ガス容器と,それよりも内容量
10 が小さい小型ガス容器とを使用可能であり,標準型ガス容器を器具本体
にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外へ出す開口を器
具本体壁面に有しており,上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ
空気を導入し,導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷
機構を具備するという手段を講じたものである。
15 【0008】【発明の実施の形態】本発明に係るガス器具は,器具本体10
に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス容器11を使用する
タイプのものである。
【0009】上記のガス容器11は,一定の構造と内容量を有する標準型の
ガス容器12と,それよりも内容量が小さい小型ガス容器13とを含む。
20 小型ガス容器13は,標準型ガス容器12と同様に,円筒状容器構造の
先端に,常閉の弁機構を内蔵したノズル14を有し,それを取り囲むフ
ランジ部15に,位置決め手段16の一方として係合部17を有する。
ガス器具側には上記係合部17と係合してガス容器12,13を一定の
姿勢にする係合相手18が備わる。
25 【0012】器具本体10にガス容器11をセットすることによりガスは噴
出可能な状態になり…燃焼可能な状態とされる。例示された小型ガス容
器13は,器具本体10にセットしたときに,容器ほぼ全体が器具本体
に収まる。…
【0013】このような小型ガス容器13の容量は標準型ガス容器12のほ
ぼ半分というのが一つの目安となる。…
5 【0014】…器具本体10は,上記寸法の小型ガス容器13をセットする
ための容器収め部26を作動部25に隣接して設けられる程度の大きさ
(縦,横)を有することができる。しかし高さについては,良好な燃焼
を得るためにある程度の寸法が必要である,という観点から判断する場
合,標準型ガス容器12を用いる従来のガス器具と同程度が良い。
10 【0015】小型ガス容器13を使用する小型ガス器具であって,標準型ガ
ス容器12を使用できるものはより歓迎されるであろう。また本発明の
ガス器具は,長さ以外は共通の構成を有する小型ガス容器13を使用す
るので,標準型ガス容器12の収め方を工夫することによりそれをその
まま使用することができる。そこで本発明では,標準型ガス容器12を
15 セットしたときに標準型ガス容器12の,器具本体10を超える端部を
器具本体外へはみ出させるために,開口27を器具本体10の壁面を貫
通するように設ける。
【0016】つまりこのガス器具は,小型ガス容器13をセットすると,そ
の後端が開口27から見えるけれども全体が内部に収まるミニこんろと
20 なる。他方,標準型ガス容器12をセットすると,その端部が開口27
から器具本体外へはみ出すけれどもミニこんろとして全く同様に使用で
きるものとなる。…例示の開口27は器具本体10の壁面に大部分が位
置し,上部は後述する容器カバー30で囲まれる。故に開口27は器具
本体10に設けてあるとも,それと容器カバー30の双方にわたって設
25 けてあるとも言うことができる。
【0017】本発明では上記の開口27を,器具本体10内へ空気を導入す
る空気導入口28としても利用し,冷却性能を向上させるための空冷機
構を構成する。本発明のガス器具は,既に述べたように,標準型ガス容
器を使用する従来のガス器具よりも一周り乃至二周りほど小型のものと
されるが,作動部25での熱量を特に変更しない場合,調理能力は従来
5 のガス器具と同等とすることができる。従って,相対的に大きな熱量を
扱うことになる本発明の小型ガス器具では,その分冷却性能の向上を図
ることが好ましいのに対して,前記の開口27を空冷機構の一部として
活用することができるという特徴を発揮する。
【0018】空気導入口28として,多数の小開口29を容器収め部26の
10 底部や器具本体10の底板等に,上記開口27とは別に設けることがで
きる。また,作動部25側からの燃焼熱でガス容器11が加熱されない
ために,ガス容器11を囲む容器カバー30に断熱構造を持たせる。
【0019】…例では,容器カバー30を間に空気断熱層31を有する多重
構造として外部からの熱の影響を遮断する。一方,開口27や小開口2
15 9よりなる空気導入口28等から内部へ進入し,加熱された空気は同カ
バー30に設けた排出部32から外部へ排出する。断熱構造はガス容器
部のみならず減圧器部をもカバーするよう,容器カバー30のほぼ全体
を占めている。…
【0020】さらに,作動部25側の熱についても,同様に外気導入口34
20 及び導出口35を冷却及び発熱の遮断等のために設け,作動部25と容
器収め部26との間に仕切り板36を設ける。仕切り板36は下部で本
体底部に取りつけられており,上部には外方(容器収め部側)へ傾斜し
たガイド部37を有し,バーナ等によって加熱された気流を外部へ強制
的に排気することで,作動部側の熱が容器収め部26側へ伝わるのを遮
25 断する。例示の導出口35はバーナを囲む汁受け皿38の縁に設けた土
手状の隆起部39の面に設けてある。この隆起部39は熱の誘導と汁止
めの機能を果たす。
【0021】作動部25であるバーナの取り付け台部40は他の部分よりも
上方へ高められた位置にある。これにより発熱部が卓上等から離れるた
め熱の影響が減少し,また良好な燃焼を得ることができる。…
5 【0022】このガス器具を使用するには…ガス容器11が小型(13)か
標準型(12)かによってセット方法が変わる点はなく,着火操作,取
り外し方法及び他の取扱い方法全般も共通している。
【0023】作動中,バーナの燃焼炎等によって器具本体10と関連部品及
びガス容器11が熱の影響下に置かれる。そのとき,作動部25の側で
10 は底板に適宜開けられた空気導入口や壁面の外気導入口34から空気が
器内に随時流入し,加熱されるとバーナ周辺の隙間及び導出口35から
外部へ排気されて作動部外への熱の伝達を遮断する。また容器収め部2
6の側も鍋底等から輻射される熱を受けるが,2重の容器カバー30が
輻射熱を遮断し,かつ後部開口27や小開口29よりなる空気導入口2
15 8から流入する多量の空気が排出部32へ抜けるので,この部分でも熱
の問題は生じない。
【0024】【発明の効果】本発明は以上の如く構成されかつ作用するもの
であるから,標準型ガス容器と細部において共通し,長さだけが異なる
小型のガス容器を用い,それにより標準型ガス容器を用いるガス器具よ
20 りも著しく小型のガス器具を得ることができ,しかも小型ガス容器と標
準型ガス容器とを共用可能とするために設けた開口を空気導入口として
も活用した空冷機構を有するものであるから,標準型ガス容器によるガ
ス器具とほぼ同等の熱量を発生可能であるにも拘ず,熱害の心配のない
小型ガス器具を提供することができる。
25 【0025】特に本発明のガス器具は,標準型ガス容器を用いるガス器具と
同等の火力が得られ,かつまた小型ガス容器のほかに標準型ガス容器を
も使用可能であるので,より広い場所では従来のガス器具と全く同様に
使用することができる等,顕著な効果を奏する。
⑵ 本件明細書の記載によれば,本件発明は,次のような技術的意義を有する
と認められる。
5 本件発明は,器具本体に一定の姿勢で横たえてセットされる円筒形のガス
容器を使用するガス器具に関するものである(段落【0001】)。従来の
ガス器具を卓上でなく狭いカウンターで使用するような場合,ガス器具が大
きすぎるという問題があり,小型のガス容器の開発が進行しているところ,
小型のガス容器とガス器具は,従来のガス容器及びガス器具と要部において
10 共通していることが望ましい一方で,器具の小型化が発熱の問題をもたらす
ことも予想される(段落【0002】【0003】)。このような課題を解
決するため,本件発明は,一定の構造と内容量を有する従来の標準型ガス容
器と,それよりも内容量が小さい小型ガス容器とを使用可能であり,標準型
ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具本体外
15 へ出す開口(以下,この開口を「端部開口」ということがある。)を器具本
体壁面に有しており,端部開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導
入し,導入された空気を器具本体側の排出部から排出する空冷機構を具備す
るという手段を講じたものである(段落【0007】)。
本件発明により,標準型ガス容器を用いるガス器具よりも著しく小型のガ
20 ス器具を用いることができ,しかも小型ガス容器と標準型ガス容器とを共用
可能とするために設けた端部開口を空気導入口としても活用した空冷機構を
有するものであるから,標準型ガス容器によるガス器具とほぼ同等の熱量を
発生可能であるにもかかわらず,熱害の心配のない小型ガス器具を提供する
ことができる上,より広い場所では従来のガス器具と全く同様に使用するこ
25 とができる等の効果がある(段落【0024】【0025】)。
2 争点①(各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するか。)
⑴ 構成要件D及びEの技術的意義
本件発明は,「上記開口を含む空気導入口から器具本体内へ空気を導入
し,」(構成要件D),「導入された空気を器具本体側の排出部から排出す
る空冷機構を具備」(構成要件E)したガス器具である。
5 本件発明は,前記1⑵のとおりの技術的意義を有するものであるところ,
本件発明の空冷機構についての本件明細書の記載を見ると,本件発明の空冷
機構とは,「空気導入口」から器具本体内に「空気」を導入し,導入された
「空気」を「排出部」から排出することにより機能して,冷却の効果を奏し,
ガス器具の小型化に伴う熱害の発生を防ぐ(段落【0003】【0006】
10 【0024】)ものである。熱の影響と空冷機構について,本件明細書には,
燃焼中は,燃焼炎等により器具本体,関連部品及びガス容器が熱の影響下に
置かれることが記載された上で,ガス容器収納部側について,鍋底等から輻
射される熱を受けるが,容器カバーが輻射熱を遮断するほか「空気導入口2
8から流入する多量の空気が排出部32に抜けるので,この部分でも熱の問
15 題は生じない。」(段落【0023】)と記載されている。これによれば,
本件発明の空冷機構は,空気導入口から空気を導入してその空気を排出部か
ら排出することにより,ガス容器収容部における熱の問題を解消するという
ものであり,上記の空気の流れにより,ガス容器収容部,ガス容器における
熱害の発生を防ぐものであると解される。そして,端部開口が空気導入口と
20 なるものである(構成要件D)。なお,本件明細書には,熱害の発生を防ぐ
空冷機構以外の方策として,容器カバーを断熱構造を有するものとすること
により,作動部からの燃焼熱によりガス容器が加熱されないようにする構成
(段落【0018】【0019】),作動部とガス容器収容部の境界部分に
仕切板を設けることにより作動部からの熱がガス容器収容部に伝達すること
25 を遮断する構成(段落【0020】),作動部における空気の導入と排出に
より作動部の熱が作動部外すなわちガス容器収容部に伝達することを遮断す
る構成(段落【0023】)が開示されており,いずれもガス容器収容部又
はガス容器に対する熱害の発生を問題としている。
以上によれば,本件発明は,構成要件Dの端部開口を含む「空気導入口」
から空気が導入されてその空気が構成要件Eの排出部から排出され,その空
5 気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機構を備
え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐというものである
といえる。
この点に関係し,被告は,各被告製品には,「空気導入口」(構成要件D)
として想定している多量の空気が導入可能な多数の小開口が設けられておら
10 ず,また,「排出部」(構成要件E)とは複数孔から構成される排気システ
ムをいうと主張する。本件明細書の実施の形態には,「空気導入口」として,
「標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器
具本体外へ出す開口」に加えてガス容器収容部や器具本体の底部に多数の小
開口を設ける構成(段落【0018】【0023】【図1】)が開示され,
15 「排出部」として,容器カバーに複数の開口を設ける構成(段落【0023】
【図1】【図3】)が開示されているが,これらは実施態様の一例である。
特許請求の範囲の記載をみても,空気導入口及び排出部がそれぞれ複数の開
口等に限定されることの限定はなく,本件明細書をみても,上記で述べたと
おりの機序で空冷機構の機能を果たすのであれば,その「空気導入口」,
20 「排出部」が複数の開口等で構成されなければならないとは解されない。被
告の上記主張は採用できない。
⑵ 認定事実
前提事実,証拠(各項末尾に掲記)及び弁論の全趣旨によれば,次の各事
実が認められる。
25 ア ガス器具等に関する一般的知見
液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律(以下「液
化石油ガス法」という。)47条1項所定の経済産業大臣の登録を受け
た一般社団法人日本ガス機器検査協会(JIA)は,同条所定の適合性
検査の方法として「カートリッジガスこんろの技術的内容及び検査の方
法」(以下「適合性検査方法」という。)を定めるところ,液化石油ガ
5 スを充填したガス容器が組み込まれる構造のこんろ(組込型こんろ)に
ついて,ガス容器が組み込まれる部分に液化石油ガスが滞留しないこと,
すなわち,容器が組み込まれる部分の側面又は下面に通風口があり,か
つ,下面が床面に直接触れないことを要求している。(乙11)
小型ガス器具に液化石油ガスを充填したガス容器をセットしてバー
10 ナー等を作動させると,ガス容器内の液化石油ガスが気化し,その際に
気化熱(液体が気化する際に外部から吸収する熱量)が発生する。これ
により,ガス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下し,
蒸気圧も低下する。そうすると,液化石油ガスの気化が妨げられ,ガス
容器内に液化石油ガスが残留することになり,不経済であるばかりでな
15 く,残留ガスによる火災発生の危険性が生じることになる。(争いがな
い)
そのため,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があるとさ
れており,原告の関連会社である株式会社旭製作所(以下「旭製作所」
という。),同社の製品納入先である岩谷産業株式会社及び被告等が加
20 入する一般社団法人日本ガス石油機器工業会は,平成18年4月に「カ
セットこんろ加温装置(ヒートパネル等)基準」を定め,さらに,平成
19年4月には,会員に対し,1時間当たりのガス消費量が2000キ
ロカロリー以上のカセットこんろについてヒートパネルを搭載すること
を義務付けた。(争いがない事実のほか,甲20,乙2,3)
25 なお,小型ガス器具には液化石油ガスを充填したガス容器を横たえて
セットすることから,ガス容器内部では,ガス容器下部に液化石油ガス
層が存在し,液化石油ガス層の上に気化した燃料ガス層が存在すること
になる。(争いがない)
液化石油ガス法46条1項,液化石油ガス器具等の技術上の基準等
に関する省令11条,別表第3の1⑵ロは,液化石油ガス器具等の技術
5 上の基準として,設計に係る措置のみによってはその安全性の確保が困
難であると認められるときは,当該液化石油ガス器具等の安全性を確保
するために必要な情報及び使用上の注意について,当該液化石油ガス器
具等又はこれに附属する取扱説明書等への表示又は記載がされるものと
することを定める。(乙13)
10 平成30年法律第33号による改正前の工業標準化法に基づき,日本
工業標準調査会は,カセットこんろ及びカセットこんろ用燃料容器につ
いて日本工業規格(JIS)を制定し,カセットこんろの適合性審査に
おける製品試験には日本工業規格に定めるカセットこんろ用燃料容器又
は使用すべき容器として機器に表示しているものを用いることを定める。
15 (乙12,弁論の全趣旨)
ガス容器が過度に高温になった場合には,容器内の圧力が上昇し,ガ
ス容器の変形,破損,ひいては,漏出したガスに引火することによるガ
ス事故などの害が発生し得る。(争いがない)
適合性検査方法においては,液化石油ガスを充填した容器が組み込ま
20 れる構造の組込型こんろについて,容器と燃焼器との接合部から器具ガ
バナーまでの間の液化石油ガスの通る高圧部の中の圧力が0.4メガパ
スカル以上0.6メガパスカル以下の圧力になったときに液化石油ガス
の供給が停止されること,容器内の圧力は,点火後から測定を開始し消
火後圧力が安定するまでの間測定した最高値である測定値が,0.4メ
25 ガパスカルを超えないことを要求している。(争いがない事実のほか,
乙11)
イ 被告製品1は,作動部とガス容器収容部によって構成され,その境界部
分には,上辺及びガス容器端部側の一部に仕切板が設置されているほか
は,基本的に仕切板は設けられておらず,1時間当たりのガス消費量が
1800キロカロリーのカセットこんろであることからヒートパネルは
5 設置されていないものの,小型かつ単純な構造であるため,燃焼炎の熱
や輻射熱が作動部からガス容器収容部に伝わりガス容器を加温し,気化
熱によるガス容器の過冷却を防止するとともに液化ガスの気化を促進す
る加温機構を具備している。(争いがない事実のほか,甲56,57,
乙9)
10 被告製品1には,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに器具本
体からはみ出る標準型ガス容器の端部(尻部)を器具本体外へ出す側面
開口が器具本体側面に設けられており,側面開口は,標準型ガス容器を
セットした状態で,横たえた標準型ガス容器の概ね下側3分の2程度の
側面に沿って隙間ができた状態のものである(甲9の4及び同5)。
15 また,ガス容器収容部底面には,長楕円形の底面穴が設けられている
(甲9の6)。ガス容器収容部には,開閉可能な容器カバー及びガス容
器の大きさに応じてスライド可能な容器端部カバーが取り付けられてお
り,容器カバーには,ガス容器接合部の上部に相当する箇所に円形のカ
バー穴が設けられており(甲9の7),被告製品1の取扱説明書中の図
20 面においては,カバー穴について「のぞき口」と記載されている。
被告製品1の取扱説明書には,「使用容器(容量)」として「マイ・ボ
ンベL(250g)/マイ・ボンベS(120g)」と記載され,注意
として「使用する容器(ボンベ)は専用の容器(ボンベ)『マイ・ボン
ベL』『マイ・ボンベS』を使用し,それ以外のものは使用しないでく
25 ださい。容器(ボンベ)が違いますとガス漏れなどの原因となります。」
と記載されており,被告製品1の包装にも同様の注意の記載がある。
(本項につき,甲6,乙14)
ウ 被告製品2及び3は,作動部とガス容器収容部によって構成され,その
境界部分には,境界の上辺とガス容器の端部側に熱伝導性を有する仕切板
があるが,その部分以外には仕切板は設けられず,また,ガス容器収容部
5 底面には,作動部側にまたがってヒートパネル(容器加温装置)が設置さ
れており,燃焼炎の熱や輻射熱が作動部からガス容器収容部に伝わりガス
容器を加温する機構を具備している。(争いがない事実のほか,甲11,
13,35~37,41,67,73)
被告製品2及び3には,標準型ガス容器を器具本体にセットしたときに
10 器具本体からはみ出る標準型ガス容器の端部(尻部)を器具本体外へ出す
側面開口が器具本体側面に設けられており,側面開口は,標準型ガス容器
をセットした状態で,横たえた標準型ガス容器の下側左右に側面に略三角
形の隙間ができた状態のものである(甲14の4及び同5)。
また,ガス容器収容部底面には,ヒートパネル設置箇所に相当する部分
15 に長楕円形の底面穴が設けられている(甲14の6)。ガス容器収容部に
は,開閉可能な容器カバー及びガス容器の大きさに応じてスライド可能な
容器端部カバーが取り付けられており,容器カバーには,ガス容器接合部
の上部に相当する箇所に円形のカバー穴が設けられている(甲14の7)。
被告製品2及び3の取扱説明書には,「使用容器(容量)」として「マ
20 イ・ボンベL,マイ・ボンベα(250g)」と記載され,注意として
「使用する容器(ボンベ)は,専用の容器(ボンベ)『マイ・ボンベL』
『マイ・ボンベα』を使用し,それ以外のものは使用しないでください。
違う容器(ボンベ)を使用しますとガス漏れなどの原因となります。」
と記載されており,被告製品2及び3の包装にも同様の注意の記載があ
25 る。(甲7,8,11,13)
エ 被告が製造販売する「マイ・ボンベL」及び「マイ・ボンベα」は,い
ずれも直径68mm,高さ198mm,重さ250gのガス容器であり,
「マイ・ボンベS」は,直径66mm,高さ128mm,重さ120g
のガス容器である。(乙15,16)
オ 原告は,関連会社である旭製作所をして,被告製品1を用いて次の各実
5 験を行った。
原告実験1-1(甲25~28)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品1,②底面
穴,カバー穴及び作動部とガス容器収容部の境界部分の上部の隙間を塞
いだ状態の被告製品1について,それぞれ,新しい標準型ガス容器(た
10 だし被告製造,販売に係るものではない。)をセットして水を入れた土
鍋を設置し,着火後10分間は全開火力で,その後は中火で,ガス容器
内のガスを使い切る①173分経過後又は②174分経過後まで燃焼し
た際の,㋐横たえてセットしたガス容器上側側面,㋑横たえてセットし
たガス容器下側側面,㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近
15 の空気,㋔ガス容器収容部の作動部との境界部分側の側面開口付近の空
気の各温度変化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね1度程度高温で推移し
た。
20 ①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,23.8度から45.
3度の間で,97分経過後以降は概ね40度以上,低くても39度前後
で推移した。また,㋑ガス容器下側側面は,16.6度から43.3度
の間で,163分経過後からの急激な温度上昇を除き,概ね室温以下,
高くても27度前後で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー
25 穴の上付近の空気及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,
48.1度,57.0度,52.4度であった。
②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,24.4度か
ら47.4度の間で,76分経過後以降は概ね40度以上で推移した。
また,㋑ガス容器下側側面は,19.0度から44.7度の間で,16
3分経過後からの急激な温度上昇を除き,概ね室温以下,高くても28
5 度前後で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の
空気及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,59.3度,
52.0度,53.8度であった。
また,①②いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス
容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近の
10 空気の温度より,概ね低温で推移した。
原告実験1-2(甲44~47)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品1,②底面
穴,カバー穴を塞いだ状態の被告製品1について,それぞれ,新しい小
型ガス容器(ただし被告製造,販売に係るものではない。)をセットし
15 て水を入れた土鍋を設置し,着火後10分間は全開火力で,その後は中
火で,ガス容器内のガスを使い切る①101分経過後又は②127分経
過後まで燃焼した際の,㋐横たえてセットしたガス容器上側側面,㋑横
たえてセットしたガス容器下側側面,㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カ
バー穴の上付近の空気,㋔ガス容器収容部の作動部との境界部分側の側
20 面開口付近の空気の各温度変化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面の空気につい
ては,①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね1度程度高温で
推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,20.3度から42.
25 9度の間で,77分経過後から84分経過後の間を除き40度未満で推
移した。また,㋑ガス容器下側側面は,10.6度から44.4度の間
で,75分経過後からの急激な温度上昇を除き,概ね室温以下で推移し
た。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側面
開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,47.4度,52.2度,5
0.3度であった。
5 ②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,21.1度か
ら45.2度の間で,75分経過後から86分経過後の間を除き40度
未満で推移した。また,㋑ガス容器下側側面は,11.3度から46.
6度の間で,74分経過後からの急激な温度上昇を除き,概ね室温以下
で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及
10 び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,51.5度,56.
0度,52.9度であった。
原告実験1-3(甲61,62,68)
室温約25度の実験室において,通常の状態の被告製品1に,新しい
小型ガス容器をセットして水を入れた土鍋を設置し,着火後10分間は
15 全開火力で,その後は中火で,ガス容器内のガスを使い切るまで燃焼し,
その模様を1時間十数分撮影した。
そして,上記に際し,煙発生装置(製品名PS-2006)を用いてガス容
器収容部付近に空気の流れに追随して挙動するスモーク粒子を間欠的に
散布し,粒子画像流速測定法(Particle Image Velocimetry)に係る
20 装置(カトウ光研株式会社製造に係る製品名PIV Laser G2000)を用
いてシート光源を照射してスモーク粒子を発光させ,それによりスモー
ク粒子の動きを観察することができる。
この実験でスモーク粒子の動きを観察できる場合について,カバー穴
についてみると,カバー穴から空気がガス容器収容部の外に流出してい
25 るように見えるときが相当に多い。他方,側面開口についてみると,そ
の周辺の流れが不明確なときも多いが,その流れを観察できる場合には,
基本的には,側面開口から,ガス容器収容部外に一定程度継続的に空気
が流出しているように見える(【0:13:23】【0:14:12】
【0:26:03】【0:37:07】【0:48:18】【0:56
:05】等)。その流出の途中など,一瞬その流出の動きが止まったり
5 空気が逆流して内部に吸い込まれるように見えることもあるが(【0:
32:44】等),その場合もその前に流出の動きがあり,また,その
後すぐに側面開口から空気がガス容器収容部外部に流れるように見える
動きに戻ることが多く,その吸い込みは流出している中の一瞬の動きと
いえるものが多い。その他,作動部の下部から空気が流入していくよう
10 に見える流れも多く観察できた。
カ 被告は,被告製品1を用いて次の各実験を行った。
被告実験1-1(乙9)
①通常の状態の被告製品1,②底面穴及びカバー穴を塞いだ状態の被
告製品1について,それぞれ,新しい標準型ガス容器(被告販売に係る
15 マイ・ボンベL)をセットして水を入れた土鍋を設置し,着火後10分
間は全開火力で,その後は中火で,60分経過後まで燃焼した際の,㋐
横たえてセットしたガス容器上側側面,㋑横たえてセットしたガス容器
下側側面,㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,㋓容器カバーのカバー
穴付近の上面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口付近の上面の各温度変
20 化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね1から2度程度高温で
推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,18.7度から22.
25 3度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,13.3度から22.7度
の間で推移した。㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,㋓容器カバーの
カバー穴付近の上面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口付近の上面の最
高温度は,それぞれ,48.2度,54.8度,28.2度であった。
②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,18.8度か
ら22.0度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,13.5度から2
5 1.9度の間で推移した。㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,㋓容器
カバーのカバー穴付近の上面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口付近の
上面の最高温度は,それぞれ,43.4度,49.4度,22.1度で
あった。
被告実験1-2(乙17)
10 ①通常の状態の被告製品1,②側面開口,底面穴及びカバー穴を塞い
だ状態の被告製品1について,それぞれ,新しい小型ガス容器(被告販
売に係るマイ・ボンベS)をセットして水を入れた土鍋を設置し,着火
後10分間は全開火力で,その後は中火で,ガス容器内のガスを使い切
る①70分経過後又は②76分30秒経過後まで燃焼した際の,㋐横た
15 えてセットしたガス容器上側側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側
側面,㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴上付近の空気,㋔ガス容
器収容部の作動部との境界部分側の側面開口付近の空気の各温度変化を
測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
20 ①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね1から2度程度低温で
推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,15.9度から26.
4度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,9.1度から24.2度の
間で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気
25 及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,46.4度,44.
3度,25.8度であった。
②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,15.7度か
ら25.7度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,2.8度から25.
7度の間で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近
の空気及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,41.7度,
5 49.7度,25.3度であった。
また,①②いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス
容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近の
空気の温度より,概ね低温で推移した。
キ 原告は,旭製作所をして,被告製品2を用いて次の各実験を行った。
10 原告実験2-1(甲29~34)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品2,②側面
開口,カバー穴及び作動部とガス容器収容部の境界部分の隙間を塞いだ
状態の被告製品2,③カバー穴及び上記の隙間を塞いだ状態の被告製品
2について,それぞれ,新しい標準型ガス容器(ただし被告製造,販売
15 に係るものではない。)をセットして焼き網の上に肉に見立てたステレ
ンス板を16枚並べ,着火後30分は全開火力で,その後は中火で,ガ
ス容器内のガスを使い切る①133分経過後,②128分経過後又は③
129分経過後まで燃焼した際の,㋐横たえてセットしたガス容器上側
側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側側面,㋒カバー穴の下付近の
20 空気,㋓カバー穴の上付近の空気,㋔ガス容器収容部の作動部との境界
部分側の側面開口付近の空気の各温度変化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面については,①通常の状態より②③作
為を施した状態の方が概ね数度程度高温で推移し,㋑ガス容器下側側面
については,①通常の状態より②3か所に作為を施した状態の方が概ね
25 数度程度高温で推移した一方,③2か所に作為を施した状態の方は概ね
同程度かやや低温で推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,23.0度から41.
8度の間で,124分経過後から128分経過後の間を除き40度未満
で推移した。また,㋑ガス容器下側側面は,11.6度から39.2度
の間で,122分経過後以降の急激な温度上昇を除き,概ね室温以下で
5 推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び
㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,52.1度,42.9
度,66.3度であった。
②3か所に作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,23.
8度から47.2度の間で,109分経過後及び112分経過後以降を
10 除き40度未満で推移した。また,㋑ガス容器下側側面は,12.1度
から43.4度の間で,118分経過後以降の急激な温度上昇を除き,
概ね室温以下で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上
付近の空気及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,62.
7度,33.3度,66.1度であった。
15 ③2か所に作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,21.
5度から44.0度の間で,120分経過後から125分経過後の間を
除き40度未満で推移した。また,㋑ガス容器下側側面は,8度から4
0.4度の間で,119分経過後の急激な温度上昇を除き,概ね室温以
下で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気
20 及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,61.6度,36.
8度,66.7度であった。
また,①②③いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガ
ス容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近
の空気の温度より,概ね低温で推移した。
25 原告実験2-2(甲48~51)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品2,②側面
開口及びカバー穴を塞いだ状態の被告製品2について,それぞれ,新し
い小型ガス容器(ただし,被告製造,販売に係るものではない。)をセ
ットして焼き網の上に肉に見立てたステレンス板を16枚並べ,着火後
30分は全開火力で,その後は中火で,ガス容器内のガスを使い切る①
5 62分経過後又は②63分経過後まで燃焼した際の,㋐横たえてセット
したガス容器上側側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側側面,㋒カ
バー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気,㋔ガス容器収容部
の作動部との境界部分側の側面開口付近の空気の各温度変化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
10 ①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね数度程度高温で推移し
た。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,19.7度から43.
5度の間で,58分経過後以降を除き40度未満で推移した。また,㋑
ガス容器下側側面は,12.8度から44.3度の間で,57分経過後
15 以降の急激な温度上昇を除き,概ね室温以下で推移した。㋒カバー穴の
下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側面開口付近の空気の
最高温度は,それぞれ,51.3度,46.3度,68.6度であった。
②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,21.9度か
ら46.7度の間で,56分経過後以降を除き40度未満で推移した。
20 また,㋑ガス容器下側側面は,14.9度から48.3度の間で,57
分経過後以降の急激な温度上昇を除き,概ね室温以下で推移した。㋒カ
バー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側面開口付近
の空気の最高温度は,それぞれ,65.1度,42.2度,75.8度
であった。
25 また,①②いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス
容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近の
空気の温度より,概ね低温で推移した。
原告実験2-3(甲63,64)
室温約25度の実験室において,通常の状態の被告製品2に,新しい
小型ガス容器をセットして焼き網の上に肉に見立てたステレンス板を1
5 6枚並べ,着火後30分は全開火力で,その後は中火で,ガス容器内の
ガスを使い切るまで燃焼し,その模様を50数分間撮影した。そして,
上記に際し,原告実験1-3と同様の方法で,間欠的にスモーク粒子を
散布し,それを発光させた。
このようにしてスモーク粒子の動きを観察できる場合について,カバ
10 ー穴についてみると,カバー穴から空気がガス容器収容部の外に流出し
ているように見えるときが多いが,カバー穴から空気がガス容器収容部
内部に流入しているように見えるときもある(【04:52】【35:
33】等)。側面開口からは,基本的にガス容器収容部内部に空気が流
入しているように見える。側面開口とカバー穴の双方からガス容器収容
15 部に空気が流入しているように見えるときもある(【04:26】【0
4:52】等)。なお,側面開口から空気が流入しカバー穴から空気が
流出しているように見えるときもあるが,上記の発光したスモーク粒子
で見ると,その空気の流入と流出が均衡しているといえるかが必ずしも
明らかではないように見える時点もある(【11:35】【11:49
20 等】)。
ク 被告は,被告製品2を用いて次の被告実験2を行った。(乙10)
①通常の状態の被告製品2,②底面穴及びカバー穴を塞いだ状態の被
告製品2,③側面開口,底面穴及びカバー穴を塞いだ状態の被告製品2
について,それぞれ,新しい標準型ガス容器(被告販売に係るマイ・ボ
25 ンベL)をセットして水を入れた土鍋を設置し,着火後10分間は全開
火力で,その後は中火で,60分経過後まで燃焼した際の,㋐横たえて
セットしたガス容器上側側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側側面,
㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,㋓容器カバーのカバー穴付近の上
面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口付近の上面の各温度変化を測定し
た。
5 その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
①通常の状態より②2か所作為を施した状態の方が概ね数度程度高温で,
③3か所に作為を施した状態は概ね更にその1から2度高温で推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,14.9度から19.
1度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,12.3度から19.4度
10 の間で推移した。㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,㋓容器カバーの
カバー穴付近の上面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口付近の上面の最
高温度は,それぞれ,41.8度,36.2度,33.3度であった。
②2か所に作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,20.
1度から25.1度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,18.2度
15 から25.7度の間で推移した。㋒容器カバーのカバー穴付近の下面,
㋓容器カバーのカバー穴付近の上面,㋔ガス容器収容部底面の側面開口
付近の上面の最高温度は,それぞれ,42.8度,39.3度,35.
0度であった。
ケ 原告は,旭製作所をして,被告製品3を用いて次の各実験を行った。
20 原告実験3-1(甲35~40)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品3,②側面
開口,カバー穴及び作動部とガス容器収容部の境界部分の隙間を塞いだ
状態の被告製品3,③カバー穴及び上記の隙間を塞いだ状態の被告製品
3について,それぞれ,新しい標準型ガス容器(ただし被告製造,販売
25 に係るものではない。)をセットしてたこやきプレートの生地を入れる
くぼみの部分に水を入れ,着火後30分は全開火力で,その後は中火で,
ガス容器内のガスを使い切る①129分経過後,②128分経過後又は
③122分経過後まで燃焼した際の,㋐横たえてセットしたガス容器上
側側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側側面,㋒カバー穴の下付近
の空気,㋓カバー穴の上付近の空気,㋔ガス容器収容部の作動部との境
5 界部分側の側面開口付近の空気の各温度変化を測定した。
その結果,㋐ガス容器上側側面については,①通常の状態より②③作
為を施した状態の方が概ね数度程度高温で推移し,㋑ガス容器下側側面
については,①通常の状態より②3か所に作為を施した状態の方が概ね
やや低温で推移した一方,③2か所に作為を施した状態の方は概ね数度
10 程度高温で推移した。
①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,17.6度から29.
1度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,3.5度から28.1度の
間で,114分経過後以降を除き,概ね室温以下で推移した。㋒カバー
穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側面開口付近の空
15 気の最高温度は,それぞれ,34.9度,29.1度,38.4度であ
った。
②3か所に作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,19.
2度から30.3度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,3.3度か
ら29.0度の間で,114分経過後以降を除き,概ね室温以下で推移
20 した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側
面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,38.5度,30.3度,
39.6度であった。
③2か所に作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,18.
5度から30.1度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,5.5度か
25 ら29.0度の間で,113分経過後を除き,概ね室温以下で推移した。
㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔側面開口
付近の空気の最高温度は,それぞれ,38.8度,31.0度,35.
8度であった。
また,①②③いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガ
ス容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近
5 の空気の温度より,概ね低温で推移した。
原告実験3-2(甲52~55)
室温約25度の実験室において,①通常の状態の被告製品3,②側面
開口及びカバー穴を塞いだ状態の被告製品3について,それぞれ,新し
い小型ガス容器(ただし,被告製造,販売に係るものではない。)をセ
10 ットしてたこやきプレートの生地を入れるくぼみの部分に水を入れ,着
火後30分は全開火力で,その後は中火で,ガス容器内のガスを使い切
る①62分経過後又は②63分経過後まで燃焼した際の,㋐横たえてセ
ットしたガス容器上側側面,㋑横たえてセットしたガス容器下側側面,
㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気,㋔ガス容器収
15 容部の作動部との境界部分側の側面開口付近の空気の各温度変化を測定
した。
その結果,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス容器下側側面については,
①通常の状態より②作為を施した状態の方が概ね数度程度高温で推移し
た。
20 ①通常の状態において,㋐ガス容器上側側面は,11.6度から29.
1度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,-2.1度から29.6度
の間で,53分経過後以降の急激な温度上昇を除き,概ね室温以下で推
移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空気及び㋔
側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,34.1度,31.6度,
25 41.8度であった。
②作為を施した状態において,㋐ガス容器上側側面は,12.9度か
ら30.5度の間で推移し,㋑ガス容器下側側面は,-0.2度から3
0.9度の間で,54分経過後以降の急激な温度上昇を除き,概ね室温
以下で推移した。㋒カバー穴の下付近の空気,㋓カバー穴の上付近の空
気及び㋔側面開口付近の空気の最高温度は,それぞれ,38.6度,3
5 3.2度,45.5度であった。
また,①②いずれの場合においても,㋐ガス容器上側側面及び㋑ガス
容器下側側面の温度は,㋒カバー穴下付近の空気及び㋔側面開口付近の
空気の温度より,概ね低温で推移した。
原告実験3-3(甲65,66)
10 室温約25度の実験室において,通常の状態の被告製品3に,新しい
小型ガス容器をセットしてたこやきプレートの生地を入れるくぼみの部
分に水を入れ,着火後30分は全開火力で,その後は中火で,ガス容器
内のガスを使い切るまで燃焼し,その模様を50数分間撮影した。そし
て,上記に際し,原告実験1-3と同様の方法で,間欠的にスモーク粒
15 子を散布し,それを発光させた。
このようにしてスモーク粒子の動きを観察できる場合について,カバ
ー穴についてみると,カバー穴から空気がガス容器収容部の外に流出し
ているように見えるときも多いが,他方,カバー穴から空気がガス容器
収容部内部に流入しているように見えるときも多い。側面開口付近は,
20 空気の流れがはっきりしないときもあるが,ガス容器収容部内部に空気
が流入しているように見えるときが多い。側面開口とカバー穴の双方か
らガス容器収容部に空気が流入しているように見えるときも多い(【0
8:17】【11:07】【22:02】【32:16】【42:10】
【50:25】等)。
25 コ 被告が,被告製品1及び2の側面開口付近において線香を燃焼したとこ
ろ,その煙が側面開口から器具本体内へ流入する様子はうかがわれなかっ
た。(乙20)
⑶ 各被告製品が本件発明の技術的範囲に属するかについて
ア 構成要件AからC及びFについて
各被告製品は,いずれも,構成要件A,B及びFを充足し,また,標準
5 型ガス容器を器具本体にセットしたときに標準型ガス容器の端部を器具
本体外へ出す側面開口を器具本体側面に有し(前記第2の1⑷),各被
告製品の側面開口は端部開口といえるから,構成要件Cを充足する。
イ 構成要件D及びEについて
本件発明は,端部開口を含む「空気導入口」(構成要件D)から空気
10 が導入されてその空気が「排出部」(構成要件E)から排出され,その
空気の流れによってガス容器収容部,ガス容器を冷却するという空冷機
構を備え,ガス容器収容部,ガス容器に対する熱害の発生を防ぐという
ものである(前記⑴)。
原告は,各被告製品の側面開口と底面穴が「空気導入口」であり,カ
15 バー穴が「排出部」であると主張する。
原告は,原告実験1-1から1-3,2-1から2-3,3-1,3
-2,3-3(前記⑵オ,キ,ケ)を,被告は被告実験1-1,1-2,
2(同カ,ク)を行った(このうち,原告実験1-1,2-1,3-1,
被告実験1-1,2が標準ガス容器に関する実験であり,原告実験1-
20 2,1-3,2-2,2-3,3-2,3-3,被告実験1-2が小型
ガス容器に関する実験である。)。そして,これらの実験において,燃
焼中のガス容器上側側面,下側側面等の温度が測定されるほか,スモー
ク粒子を用いて,器具周辺の空気の流れを示すことが試された。
25 は,各被告製品について,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,
側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された
空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。
被告製品1については,スモーク粒子を用いた原告実験1-3(前
記⑵オ において,カバー穴から空気がガス容器収容部外に流出して
いるように見えるときが多いものの,そうでないときがあるほか,側面
5 開口においては,基本的にガス容器収容部から空気が流出しているよう
に見え,側面開口から空気がガス容器収容部内部に流入する動きは観察
できるとしても,少しの間しか観察できない。また,被告製品1には,
作動部とガス容器収容部の間には仕切板が一部に設けられているにすぎ
ない。作動部においては,空気が取り込まれて燃焼炎等の影響を受けて
10 熱せられるところ,本件各証拠によっても,作動部で燃焼炎の影響を受
けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足りず,作動
部において燃焼炎等の影響を受けて熱せられた空気がガス容器収容部側
のカバー穴,側面開口から流出することがないことを認めるに足りる証
拠はない。
15 他方,燃焼の際には,ガス容器内の液化石油ガスの気化に伴い,ガ
ス容器は気化冷却され,ガス容器内のガスの温度は低下する(前記⑵ア
そして,気化冷却により液化石油ガスの気化が妨げられることか
ら,ガス器具にはガス容器の加温機構を備える必要があり(同前),被
告製品1においても,燃焼炎の熱や輻射熱を作動部からガス容器収容部
20 に伝達してガス容器を加温するための加温機構が備えられている(同
イ)。したがって,ガス容器の気化冷却の程度や,燃焼熱や輻射熱の影
響は,ガス容器収容部及びガス容器の温度に影響を与え得る要因である
と認められる。このうち,気化冷却に関して,原告が行った各実験のう
ちガス容器内のガスを使い切るまで燃焼したものにおいて,いずれも,
25 ガス容器上側側面及び下側側面の温度がガスを使い切る直前から急激に
上昇しており(同オ ,
終段階まで継続しており,かつ,ガス容器下側側面の温度は,開口等の
一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,概ね室温以下で推移しているので
あって(同前),その燃焼中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却
に及ぼす影響は相当に大きいものと認められる。
5 以上のとおりの原告実験1-3における側面開口付近の空気の流れ,
被告製品1の構造に照らしてカバー穴等から流出する空気と燃焼炎の影
響を受けた作動部側の空気との関係が不明なこと,燃焼中のガス容器,
ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,ガス容器収容部,
ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が
10 導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されていることを認
めるに足りない。
原告実験1-1,原告実験1-2,被告実験1-1
,通常の状態(開口等を塞がない状態)に比べ,開口
等を塞ぐ作為を施した状態では,ガス容器上側側面及び下側側面の温度
15 は,概ね1度又は1ないし2度程度高温で推移した。しかし,上記で検
討したところに照らせば,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,
側面開口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された
空気がカバー穴から排出されていることを認めるに足りない。上記の温
度に関する結果については,開口等を塞ぐ作為を施した場合とそうでな
20 い場合との上記の差が仮に本件発明の熱害の影響を防ぐための冷却機構
の有無によるといい得るだけの差であるとしても,その差の理由につい
て,開口等を塞ぐ作為を施したことにより側面開口から空気が流出しな
かったことや,作動部側の熱せられた空気が上記の作為によってカバー
穴,側面開口から流出しなくなったなどの可能性もあるのであり,上記
25 の結果によって,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口
及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気がカ
バー穴から排出されていることを認めるに足りない。また,上記実験で
は,ガス容器上側側面及び下側側面の温度は,概ね1度又は1度ないし
2度程度高温で推移するという結果が認められるところ,側面開口付近
の空気の流れに照らせば,その結果は,原告が主張する冷却機構とは別
5 の要因によることをうかがわせるともいえるものである。
被告製品2については,スモーク粒子を用いた原告実験2-3(前
記⑵キ )において,カバー穴から空気がガス容器収容部の外に流出し
ているように見えるときが多いが,カバー穴から空気がガス容器収容部
内部に流入しているように見えるときもある。側面開口からは,基本的
10 にガス容器収容部内部に空気が流入しているように見える。側面開口と
カバー穴の双方からガス容器収容部に空気が流入しているように見える
ときもある。
被告製品2では,作動部において空気が取り込まれて燃焼炎等の影響
を受けて熱せられるところ,その作動部とガス容器収容部の間には一部
15 にしか仕切板が設けられていない。そして,本件各証拠によっても,ガ
ス容器収容部側の空気が作動部に流入しないことや,作動部で燃焼炎の
影響を受けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足り
ない。原告は,被告製品2で側面開口と底面穴を空気導入口と主張し,
カバー穴を排出部と主張するが,側面開口から流入する空気が作動部側
20 に流れることがないことや,作動部において燃焼炎等の影響を受けて熱
せられた空気がガス容器収容部側のカバー穴等から流出することがない
ことについて,これらを認めるに足りる証拠はない。
他方,被告製品2において,加温機能が備えられているほか,気化
冷却は,ガス容器を用いた燃焼の最終段階まで継続しており,かつ,ガ
25 ス容器下側側面の温度は,開口等の一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,
概ね室温以下で推移しているのであって(同キ ),これらが燃焼
中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却に及ぼす影響は相当に大き
いものがあると認められる。
以上のとおりの原告実験2-3において観察される空気の流れや,被
告製品2の構造に照らしてカバー穴,側面開口から流出,流入している
5 空気がどのように流れているものであるかが不明であること,燃焼中の
ガス容器,ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,被告
製品2において,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口
及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気がカ
バー穴から排出されていることを認めるに足りない。
10 原告実験2-1,原告実験2-2,被告実験2( ,ク)
によれば,通常の状態(開口等を塞がない状態)に比べ,開口等を塞ぐ
作為を施した状態では,ガス容器上側側面及び下側側面の温度は,一部
の例外を除き,概ね数度程度高温で推移した。しかし,上記で検討した
ところに照らせば,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開
15 口及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気が
カバー穴から排出されていることを認めるに足りない。上記の温度に関
する結果については,開口等を塞ぐ作為を施した場合とそうでない場合
とを比べた上記の差が仮に本件発明の熱害の影響を防ぐための冷却機構
の有無によるといい得るだけの差であるといえるとしても,その差の理
20 由については,作動部側の熱せられた空気が上記の作為によってカバー
穴等から流出しなくなったなどの可能性もあるのであり,上記の結果に
よって,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面
穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気がカバー穴か
ら排出されていることを認めるに足りない。
25 被告製品3については,スモーク粒子を用いた原告実験3-3(前記
⑵ )において,カバー穴から空気がガス容器収容部の外に流出して
いるように見えるときも多いが,カバー穴から空気がガス容器収容部内
部に流入しているように見えるときも多い。側面開口からは,基本的に
ガス容器収容部内部に空気が流入しているように見える。側面開口とカ
バー穴の双方からガス容器収容部に空気が流入しているように見えると
5 きも多い。
被告製品3では,作動部において空気が取り込まれて燃焼炎等の影響
を受けて熱せられるところ,その作動部とガス容器収容部の間には一部
にしか仕切板が設けられていない。そして,本件各証拠によっても,ガ
ス容器収容部側の空気が作動部に流入しないことや,作動部で燃焼炎の
10 影響を受けて熱せられた空気がどのような動きをするかを認めるに足り
ない。原告は,被告製品3で側面開口と底面穴を空気導入口と主張し,
カバー穴を排出部と主張するが,側面開口から流入する空気が作動部側
に流れることがないことや,作動部において燃焼炎等の影響を受けて熱
せられた空気が,ガス容器収容部側のカバー穴等から流出することがな
15 いことについて,これらを認めるに足りる証拠はない。
他方,被告製品3において,加温機能が備えられているほか,気化
冷却は,ガス容器を用いた燃焼の最終段階まで継続しており,かつ,ガ
ス容器下側側面の温度は,開口等の一部を塞ぐ作為の有無にかかわらず,
概ね室温以下で推移しているのであって(同ケ これらが燃焼
20 中のガス容器ひいてはガス容器収容部の冷却に及ぼす影響は相当に大き
いものがあると認められる。
以上のとおりの原告実験3-3において観察される空気の流れや,被
告製品3の構造に照らしてカバー穴,側面開口から流出,流入している
空気がどのように流れているものであるかが不明であること,燃焼中の
25 ガス容器,ガス容器収容部に影響を与え得る諸要因を考慮すると,被告
製品3において,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口
及び底面穴から器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気がカ
バー穴から排出されていることを認めるに足りない。
原告実験3-1,原告実験3-2(前記⑵ケ )によれば,通常
の状態(開口等を塞がない状態)に比べ,開口等を塞ぐ作為を施した状
5 態では,ガス容器上側側面及び下側側面の温度は,一部の例外を除き,
概ね数度程度高温で推移した。しかし,上記で検討したところに照らせ
ば,ガス容器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴か
ら器具本体内へ空気が導入され,その導入された空気がカバー穴から排
出されていることを認めるに足りない。上記の温度に関する結果につい
10 ては,開口等を塞ぐ作為を施した場合とそうでない場合とを比べた上記
の差が仮に本件発明の熱害の影響を防ぐための冷却機構の有無によると
いい得るだけの差であるといえるとしても,その差の理由については,
作動部側の熱せられた空気が上記の作為によってカバー穴等から流出し
なくなったなどの可能性もあるのであり,上記の結果によって,ガス容
15 器収容部,ガス容器を冷却するよう,側面開口及び底面穴から器具本体
内へ空気が導入され,その導入された空気がカバー穴から排出されてい
ることを認めるに足りない。
以上から,本件各証拠によっては,各被告製品において,本件発明の
構成要件D及びEを充足するとは認めるに足りない。
20 ウ したがって,各被告製品は本件発明の技術的範囲に属するとは認められ
ない。
なお,本件訂正後発明は,本件発明の構成要件Dについて,「小型ガス
容器を器具本体にセットしたときに上記開口を含む空気導入口から器具
本体内へ空気を導入し,」として,その技術的範囲を小型ガス容器を器
25 具本体にセットしたときに限定したものである。小型ガス容器を器具本
体にセットしたときの実験結果である原告実験1-2,1-3,2-2,
2-3,3-2,3-3,被告実験1-2(前記
)について,前記イと同様に判断することができ,各
被告製品が,訂正後構成要件D及びEを,充足することもない。
第4 結論
5 以上のとおり,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はい
ずれも理由がないから,棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第46部
裁判長裁判官 柴 田 義 明
裁判官 佐 伯 良 子
裁判官 佐 藤 雅 浩
別紙
被告製品目録
1 ガスこんろ
製品名 マイコンロミニ
5 品番 KC-302
2 卓上グリル
製品名 焼きまへんか
品番 KC-102,KC-105
3 卓上グリル
10 製品名 たこやき名人
品番 KC-107
以 上

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