平成30(ワ)3461特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
一部認容 大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和3年2月18日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告株式会社タカゾノ 被告日進医療器株式会社
株式会社セイエー
OHU株式会社
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法令 |
特許権
特許法102条2項6回 特許法101条1号5回 特許法36条6項1号2回
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キーワード |
特許権17回 侵害14回 進歩性12回 無効11回 間接侵害11回 損害賠償8回 実施5回 審決4回 無効審判3回 訂正審判1回 差止1回
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主文 |
1 被告らは,原告に対し,連帯して,2161万4983円及びこれに対する
2 原告のその余の請求を棄却する。25
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告らの各負担とす
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。 |
事件の概要 |
本件は,薬剤分包用ロールペーパに関する特許権を有していた原告が,被告らに
対し,被告らが共同して分包紙ロールを製造,販売することは,原告の特許権に対10
する間接侵害(特許法101条1号)に当たるとして,共同不法行為による損害賠
償(特許法102条2項,民法709条,719条1項)として3899万319
9円及びこれに対する本件訴状送達の日(被告日進及び被告OHUについて平成3
0年5月7日,被告セイエーについて同月9日)の翌日から支払済みまで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。15 |
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判決文
令和3年2月18日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
平成30年(ワ)第3461号 特許権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和2年12月8日
判 決
5 原 告 株式会社タカゾノ
同訴訟代理人弁護士 岩 井 泉
同 關 健 一
同 補 佐 人 弁 理 士 藤 本 昇
同 北 田 明
10 被 告 日進医療器株式会社
(以下「被告日進」という。)
被 告 株式会社セイエー
(以下「被告セイエー」という。)
被 告 O H U 株 式 会 社
15 (以下「被告OHU」という。)
被告ら訴訟代理人弁護士 山 本 健 策
同 福 永 聡
同 難 波 早 登 至
同 補 佐 人 弁 理 士 石 川 大 輔
20 同 橋 本 卓 行
主 文
1 被告らは,原告に対し,連帯して,2161万4983円及びこれに対する
平成30年5月8日(被告セイエーについては同月10日)から支払済みまで年5
分の割合による金員を支払え。
25 2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の,その余を被告らの各負担とす
る。
4 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
5 被告らは,原告に対し,連帯して,3899万3199円及びこれに対する平成
30年5月8日(被告セイエーについては同月10日)から支払済みまで年5分の
割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,薬剤分包用ロールペーパに関する特許権を有していた原告が,被告らに
10 対し,被告らが共同して分包紙ロールを製造,販売することは,原告の特許権に対
する間接侵害(特許法101条1号)に当たるとして,共同不法行為による損害賠
償(特許法102条2項,民法709条,719条1項)として3899万319
9円及びこれに対する本件訴状送達の日(被告日進及び被告OHUについて平成3
0年5月7日,被告セイエーについて同月9日)の翌日から支払済みまで民法所定
15 の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
⑴ 当事者(甲8(書証は枝番号を含む。以下同じ。))
原告は,医療機器・医療システムの規格・開発・製造・販売等を目的とする株式
20 会社である。
被告日進は,医療衛生用品,医科器械,衛生材料,計量器,医薬品,理科学器械
の製造販売等を目的とする株式会社である。
被告セイエーは,整袋加工及び販売,梱包資材の販売,包装業務等を目的とする
株式会社であり,被告OHUの子会社である。
25 被告OHUは,包装・梱包用資材製品の企画並びに製造販売等を目的とする株式
会社である。
⑵ 原告の有していた特許権(甲1,2,27,30,31)
ア 訂正前の特許
原告は,以下の特許(以下「本件特許権」という。)を有していた。同特許の設
定登録時の特許請求の範囲及び明細書(以下まとめて「本件明細書」という。)の
5 記載は,本判決添付の特許公報のとおりである。本件特許権は,令和元年8月26
日をもって存続期間満了により消滅した。
登録番号 特許第5467126号
発明の名称 薬剤分包装置,薬剤分包装置の制御方法,分包紙及び分包紙用
紙管
10 出願日 平成24年6月26日
(原出願日 平成11年8月26日)
優先日 平成11年2月3日
出願番号 特願2012-142821
登録日 平成26年1月31日
15 イ 本件訂正
原告は,令和元年6月26日,本件特許権の請求項2項及び明細書の記載につ
き訂正することを求める訂正審判を請求し(訂正2019-390072事件。以
下「本件訂正」という。),同年10月8日,上記請求を認容する旨の審決(甲3
0。以下「本件訂正審決」という。)がなされ,同審決は確定した(以下,本件訂
20 正後の請求項2にかかる特許を「本件特許」,本件特許に係る発明を「本件発明」
という。)。本件訂正後の請求項2は以下の内容であり,下線部分が訂正箇所であ
る。
「磁気検出手段を備える薬剤包装装置に装着可能な分包紙ロールであって,紙
管と,紙管に巻き回される分包紙とを有し,前記紙管は,軸方向一端側と他端側と
25 に前記磁気検出手段で検出されるための磁石が複数個ずつ設けられ,しかも軸方向
一端側と他端側とで前記磁石の取付角度が異なることを特徴とする分包紙ロー
ル。」
ウ 本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件は,次のとおり分説される。
X 磁気検出手段を備える薬剤包装装置に装着可能な分包紙ロールであって,
5 A 紙管と,
B 紙管に巻き回される分包紙とを有し,
C 前記紙管は,軸方向一端側と他端側とに前記磁気検出手段で検出されるため
の磁石が複数個ずつ設けられ,しかも軸方向一端側と他端側とで前記磁石の取付角
度が異なることを特徴とする
10 D 分包紙ロール。
⑶ 被告らの行為(甲5,乙1)
被告日進は,薬剤分包装置に用いる分包紙である別紙「被告製品目録」記載1及
び2の製品(以下,それぞれ「被告製品1」及び「被告製品2」といい,合わせて
「被告製品」という。)を,遅くとも平成27年7月ころからインターネット上の
15 ウェブサイトに掲載し,また,発注に応じて調剤薬局等に対して販売した。
被告セイエーは,被告OHUの委託を受けて被告製品を製造してこれを被告OH
Uに販売し,被告OHUはこれを被告日進に販売した。
被告製品の構成,寸法等は,別紙「被告製品説明書」記載のとおりである。
⑷ 原告製品等(甲3,4,25)
20 原告は,薬剤を1回の服用分ごとに自動で分包する薬剤分包装置(以下「原告装
置」という。)と,その支持軸に装着して使用するための分包紙ロール(以下「原
告製品」という。)を製造・販売している。
原告製品は,筒状の中空紙管とそれに巻き回された分包紙から成る。分包紙には,
①グラシンにポリエチレンをラミネートしたもの(以下「グラシン紙」という。)
25 と,②セロファンにポリエチレンをラミネートしたもの(以下「セロポリ紙」とい
う。)の2種類があり,いずれも長手方向に2つ折りされた状態で,①グラシン紙
は2つ折りした折り目が紙管の軸方向の一端側に位置するように,②セロポリ紙は
折り目が他端側に位置するように,それぞれ紙管に巻き回されている。
原告製品の中空紙管の軸方向の一端側には90度の取付角度で,他端側には18
0度の取付角度で,それぞれ磁石が2つずつ取り付けられている。
5 原告装置の支持軸に原告製品を正しく装着して作動させると,分包紙の長手方向
の縁部(2つ折りした折り目の反対側)と,短手方向を一定間隔ごとに熱圧着する
ことにより,1回の服用分の薬剤を収容した包装袋を形成することができる。
⑸ 一体化製品(甲5の2,甲6)
被告製品は,プラスチック製の筒部(芯材)にグラシン紙(被告製品1)もしく
10 はセロポリ紙(被告製品2)からなる分包紙を巻き回したものであり,原告製品を
購入して当初巻き回された分包紙を使い切り,中空芯管(以下「使用済み紙管」と
いう。)のみを保有する利用者が,被告製品を入手して,その筒部の軸芯中空部分
(内径52㎜)に,使用済み紙管に輪ゴムを巻いたものを挿入することにより,両
者を一体化することができる(以下,一体化したものを「一体化製品」という。)。
15 一体化製品の構成は,以下のとおりである。
a 外径51㎜,軸方向長さ70㎜の筒状の紙管(使用済み紙管)と,
b 該紙管の外周に,輪ゴムを介して装着された芯材に巻き回された分包紙から
なり,
c 使用済み紙管は,軸方向一端側及び軸方向他端側に,磁石が2つずつ設けら
20 れ,軸方向一端側においては,2つの磁石が互いに周方向に90度離れて配置され,
軸方向他端側においては,2つの磁石が互いに周方向に180度離れて配置されて
なる,
d 分包紙ロール。
2 本件の争点
25 ⑴ 一体化製品は,本件発明の技術的範囲に属するか(争点⑴)
ア 一体化製品は,構成要件Bの「分包紙」を充足するか(争点⑴ア)
イ 一体化製品は,構成要件Cの「前記磁気検出手段で検出されるための磁石」
及び「軸方向一端側と他端側とで前記磁石の取付角度が異なること」を充足するか
(争点⑴イ)
⑵ 被告製品は,一体化製品の生産に「のみ」用いる物か(争点⑵)
5 ⑶ 間接侵害(特許法101条1号)の成否(争点⑶)
⑷ 本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか
ア 乙4を主引例とする進歩性欠如(争点⑷ア)
イ 乙7を主引例とする進歩性欠如(争点⑷イ)
ウ サポート要件違反(争点⑷ウ)
10 エ 明確性要件違反(争点⑷エ)
⑸ 原告の損害額(争点⑸)
⑹ 被告らの共同不法行為と認められるか(争点⑹)
3 争点についての当事者の主張
ア 争点⑴(一体化製品は,本件発明の技術的範囲に属するか)
15 【原告の主張】
一体化製品は,本件発明の構成要件をすべて充足するから,利用者が,被告製品
を購入し,その芯材内に使用済み紙管を挿入して一体化製品とすることは,本件発
明の技術的範囲に属する物を生産する行為に当たる。
【被告らの主張】
20 一体化製品は,下記イ及びウのとおり,本件発明の構成要件B,Cをいずれも充
足しないから,利用者が使用済み紙管と被告製品とを一体化製品としても,本件発
明の技術的範囲に属する物を生産することにはならない。
イ 争点⑴ア(一体化製品は,構成要件Bの「分包紙」を充足するか)
【原告の主張】
25 構成要件Bは,「紙管に巻き回される分包紙とを有し」というものであり,
一体化製品の構成bは,「該紙管の外周に,輪ゴムを介して装着された芯材に巻き
回された分包紙からなり」というものである。
輪ゴムは単に空転防止のための部材であって,全体としてみれば,紙管に分包紙
が巻き回されていることには異ならないので,一体化製品は構成要件Bを充足する。
被告らは,構成要件Bの「分包紙」は「構成要件Cによって特定された分包
5 紙」,すなわち「構成要件Cにおける紙管に設けられた磁石が読取手段によって読
み取られる検出パターンに応じて,その種類の特定される分包紙」でなければなら
ず,一体化製品には,薬剤分包装置に使用した時に,分包紙の種類を正しく認識で
きないものが含まれるから,構成要件Bを充足しないと主張する。
しかしながら,構成要件Bは「紙管に巻き回される分包紙」であって,それ以上
10 に限定すべき理由はない。
本件発明は,従来,人によって認識していた分包紙情報を,薬剤分包装置で自動
認識することを課題とし,この課題に対し,紙管の一端側と他端側に,複数個ずつ,
しかも両端で取付角度が異なるように磁石が設けられ,薬剤分包装置に複数パター
ンの情報を読み取らせて複数の分包紙情報を認識させることで,当該課題の解決を
15 図った発明である。すなわち,本件発明は,薬剤分包装置の読取手段が読み取るた
めの磁石が紙管に配置されていれば足りるのであり,磁石の配置と分包紙の種類と
が正しく対応することは,技術的範囲を画するための要素とはならないのである。
【被告らの主張】
構成要件Bにおける「紙管に巻き回される分包紙」とは,構成要件Cに開示
20 される「紙管」に設けられた磁石が磁気検出手段で検出されるパターンに応じて,
その種類が特定される分包紙でなければならない。なぜなら,構成要件Cにおける
「紙管」に設けられた磁石によって薬剤分包装置に与える分包紙の情報が,構成要
件Bにおける「分包紙」とは異なる種類のものである場合,薬剤分包装置は分包紙
の種類を正しく認識することができず,本件発明の技術的課題は解決できないから
25 である。
被告製品1はグラシン紙を,被告製品2はセロポリ紙を使用したものである
ところ,被告製品のユーザーが,被告製品1又は2を任意に選択した上で,使用済
み紙管の磁石の配置にこだわらず,適宜挿入して使用した場合,分包紙の種類に対
し,磁石の配置が左右逆となる一体化製品が生じることがあり,これを使用した場
合,原告装置は分包紙の種類を正しく認識することができない。
5 そうすると,一体化製品の分包紙が,紙管の磁石配置との関係で特定された
分包紙であるということはできないから,一体化製品は構成要件Bを充足しない。
ウ 争点⑴イ(一体化製品は,構成要件Cの「前記磁気検出手段で検出されるた
めの磁石」及び「軸方向一端側と他端側とで前記磁石の取付角度が異なること」を
充足するか)
10 【原告の主張】
構成要件Cは「前記紙管は,軸方向一端側と他端側とに前記磁気検出手段で
検出されるための磁石が複数個ずつ設けられ,しかも軸方向一端側と他端側とで前
記磁石の取付角度が異なることを特徴とする」というものであるところ,一体化製
品の構成cは「使用済み紙管は,軸方向一端側及び軸方向他端側に,磁石が2つず
15 つ設けられ,軸方向一端側においては,2つの磁石が互いに周方向に90度離れて
配置され,軸方向他端側においては,2つの磁石が互いに周方向に180度離れて
配置されてなる」というものであり,紙管の軸方向一端側と他端側とに磁石が複数
個ずつ設けられ,しかも軸方向一端側と他端側とで磁石の取付角度が異なっている
ことは明らかである。
20 また,原告装置は,支持軸の先端側及び基端側のいずれもに磁気センサを備
えており,支持軸の先端側に設置されているセンサは,支持軸によって支持されて
いる分包紙ロールの紙管において支持軸の先端側に配置されている磁石を検出し,
支持軸の基端側に設置されているセンサは,同様に紙管において支持軸の基端側に
配置されている磁石を検出する。その上で,原告装置は,分包紙ロールの紙管にお
25 ける軸方向一端側と他端側とに設けられている磁石の取付角度の異なりに基づいて,
分包紙を識別する。
したがって,一体化製品の紙管の軸方向一端側と他端側とに配置されている磁石
は,原告装置の磁気センサ,すなわち「磁気検出手段」で検出されるものであり,
「前記磁気検出手段で検出されるための磁石」であることも明らかである。
なお,被告は,一体化製品の軸方向一端側もしくは他端側の2個の磁石は,
5 「前記磁気検出手段で検出されるための磁石」に当たらないと主張し,その根拠と
して,被告の実験結果によれば,上記いずれか2個の磁石を取り外しても,原告装
置において適切に分包作業が行われたことを挙げる。
しかしながら,原告装置は,分包紙を識別するために,分包紙ロールを取り付け
た後しばらくは暫定的なヒートシール温度で一定数の分包を行うのであり,片側の
10 2個の磁石を取り外した状態の使用済み紙管を用いて,その一定数を超える分包を
行わせると,一体化製品の作出の仕方によっては分包紙の種類に適さないヒートシ
ール温度で分包が行われ,融着不良を生じる。上記実験が,その段階に至るまで行
われたかどうかは不明であり,正確性に疑問がある。
また,本件発明は,「薬剤分包装置において分包紙を識別すること」と課題とし,
15 この課題を解決すべく「紙管の軸方向一端側と他端側とに,磁気検出手段で検出さ
れるための磁石が,取付角度を異ならせて複数個ずつ設けられている」(構成要件
C)という構成が特定され,これにより,薬剤分包装置の磁気検出手段で磁石を検
出することによって,分包紙を識別することができる分包紙ロールの発明であるか
ら,構成要件Cは,薬剤分包装置において,紙管の両端に存する磁石のうち,両側
20 の磁石を検出しているのか,片側の磁石のみを検出するかを特定するものではない。
以上によれば,一体化製品は,構成要件Cを充足する。
【被告らの主張】
被告らが,実験(乙32)として,使用済み紙管の一端側の2個の磁石(1
80度の取付角度)を取り外した紙管に被告製品1を巻き回した一体化製品,及び
25 他端側の2個の磁石(90度の取付角度)を取り外した紙管に被告製品2を巻き回
した一体化製品を用いて,原告装置で分包作業を行ったところ,いずれも適切に融
着が行われ,薬剤が分包された。
そうすると,使用済み紙管から取り外された上記各2個の磁石は,原告装置にお
いて分包作業に行うに当たり,特に機能しておらず,磁気検出手段で検出されるも
のではない。
5 したがって,被告製品1を装着した一体化製品の磁石のうち取付角度が180度
になっている2個の磁石,及び被告製品2を装着した一体化製品の磁石のうち取付
角度が90度になっている2個の磁石は,いずれも「前記磁気検出手段で検出され
るための磁石」ではないから,一体化製品は,構成要件Cの「前記磁気検出手段で
検出されるための磁石」との要件を充足しない。
10 本件発明は,紙管の両端側に設けられている複数個の磁石が磁気検出手段で
検出され,薬剤分包装置が紙管の両端の磁石の取付角度が異なることを検知するこ
とにより,分包紙を識別する発明である。そうすると,構成要件Cの「軸方向一端
側と他端側とで前記取付角度が異なること」とは,単に両端の磁石の取付角度が異
なるものを意味するのではなく,その両端の磁石が磁気検出手段で検出されること
15 で薬剤分包装置に両端の磁石の取付角度の異なりを認識させ,薬剤分包装置にこの
両端の磁石の取付角度の異なりに基づいて分包装置を識別させるという構成要件で
ある。
のとおり,グラシン紙を装着した一体化製品のうち取付角度が180度と
なっている2個の磁石と,セロポリ紙を装着した一体化製品のうち取付角度が90
20 度となっている2個の磁石は,磁気検出手段で検出されないから,一体化製品の両
端の磁石は,磁気検出手段で検出されることで両端の磁石の取付角度の異なりに基
づいて薬剤分包装置に分包紙を識別させるものではない。
原告は,原告装置の支持軸の先端側と基端側との両方に磁気検出手段が備え
られていると主張するところ,原告製品には,グラシン分包紙(折り目が紙管の軸
25 方向一端側に位置する。)とセロファン分包紙(折り目が紙管の軸方向他端側に位
置する。)の2種類があり,これを識別するためには,支持軸の先端側または基端
側のいずれか一方の磁気検出手段による検出で十分に足りるはずである。そうする
と,先端側と基端側の両方に磁気検出手段のようなものが配置されているとしても,
実際にはそれを用いて両端の磁石を検出していない蓋然性が高い。
したがって,原告は,一体化製品が構成要件Cの「軸方向一端側と多端側とで前
5 記磁石の取付角度が異なること」との要件の充足性を立証できていない。
以上によれば,一体化製品は構成要件Cを充足しない。
エ 争点⑵(被告製品は,一体化製品の生産に「のみ」用いる物か)
【原告の主張】
被告製品は,以下
10 ことを目的として,原告製品を購入して使用済み紙管を保有する者に販売すること
を予定したものであり,経済的,社会的に意味のある他の用途は存しないから,一
体化製品の生産に「のみ」用いる物である。
被告らのチラシ(甲5の2)に,「分包紙Bタイプ(TK機適合品)の使用
方法」と記載されているところ,「TK機」とは原告装置のことを指し,同チラシ
15 に掲載された紙管の写真は,原告製の使用済み紙管のものである。
別のチラシ(甲12)には,「他社分包機での使用参考例」と記載されており,
そこに掲載された紙管の図面は,磁石の配置から,原告製の使用済み紙管であるこ
とが明らかである。
被告製品の挿入部分の口径は52㎜であり,輪ゴムを巻くことで外径51㎜の使
20 用済み紙管に的確に挿入着することができる。
被告製品の分包紙の芯材の軸方向一端側には,分包紙より突出するフランジ上の
ストッパーが形成されているところ,これにより,使用済み紙管(長さ70㎜)を
被告製品の分包紙(長さ70㎜)内に正確に挿入着することができる。
薬剤分包装置の国内市場では,ユーザーの約9割が原告を含めた大手3社の
25 いずれかの装置を使用しているところ,3社の分包紙ロールは紙管の形状や寸法が
異なるため互換性がないから,被告製品を,原告以外の大手2社の紙管に挿入着し
て使用することはできない。
被告らは,被告製品は,被告日進が製造販売する薬剤分包装置用に設計され製造
されたものであると主張するが,上記装置の販売及び貸出数量はいずれも僅少であ
り,その専用品として被告製品が製造販売されてきたとは評価し難い。
5 被告らは,被告製品は,株式会社ウエダ製作所製の薬剤分包装置(以下「ウエダ
製分包装置」という。)に使用することも可能であると主張するが,被告日進の顧
客の使用例によっても,独自に製作した支持軸に取り換える必要があるとされ,正
常な動作をするかも不明であり,実用的な使用とはいえない。
【被告らの主張】
10 一体化製品には,本件発明の技術的範囲に属しないものが含まれるほか,被
告製品には,以下 のとおり,一体製品として原告装置において使用する以
外の用途があるから,一体化製品の生産に「のみ」用いる物には当たらない。
被告製品は,被告日進が製造販売する薬剤自動分包機「N-21B」(甲5
の1)及びその後継機である「BEETA V-PLUS 21MT」(乙1。以
15 下,合わせて「被告装置」という。)に使用される専用品として製造販売され,当
該装置の芯管に装着して使用するよう設計されており,その場合には,使用済み紙
管に装着する場合と異なり,芯管に輪ゴム等をはめる必要はない。また,被告製品
に設けられているフランジ状ストッパーは,被告装置に使用する際に位置決めのた
めに機能する一方で,原告装置に使用する際には機能することがない。
20 被告装置は被告日進のウェブサイトにおいて宣伝広告されており,「BEETA
V-PLURS 21MT」の販売数量は9台,貸出(リース)数量は13台であ
り,「N-21B」の貸出数量は1台である。
したがって,被告製品は,被告装置に使用するための専用品であるということが
できる。
25 被告製品は,支持軸を独自に製作したものに変更することで,ウエダ製分包
装置に使用することもでき,実際に被告の顧客が使用している。また,被告の顧客
の中には,その他の薬剤分包装置の芯管にスポンジやOリングを巻くなどして被告
製品を使用している者もいる。したがって,被告製品には,一体化製品に使用する
以外に,社会通念上,経済的,商業的ないし実用的と認められる用途がある。
オ 争点⑶(間接侵害の成否)
5 【原告の主張】
被告製品は,本件発明の技術的範囲に属する一体化製品を新たに生産するた
めにのみ用いられる物であるから,業としてこれを製造,販売することは,特許法
101条1号の間接侵害に当たる。
被告らは,原告製品を購入した利用者に対し,原告は,本件特許権に基づく権利
10 行使をすることは
とおり,被告らの主張には理由がない。
所有権留保
原告は,原告製品を使用する分包機である原告装置の購入者に対し,「お客様登
録カード」を交付し,ユーザー登録を行っているところ,同カードには,「当社製
15 純正分包紙の紙管につきましては,お客様への一時貸し出し品(当社所有権留保品)
とさせていただいています。ご利用後の紙管は必ず返却いただきます」との記載が
あり,購入者は,「純正分包紙の紙管については一時貸し出し品であることを了承
し,利用後は返却いたします。」との記載の横に押印をするという運用を行ってい
る。
20 また,原告装置の取扱説明書,原告製品のカタログ,原告製品の納品時の梱包ケ
ース,原告製品の包装及び使用済み紙管本体にも,紙管の所有権は原告に属する旨
の記載がある。
原告は,原告製品を販売する際に,使用後の紙管回収のための「紙管回収袋」を
同封しており,実際に,使用済み紙管については,平成27年度90.2%,平成
25 28年度92.8%,平成29年度90.4%が回収されている。
原告製品は,紙管部分と分包紙部分に分けることが可能であり,原告は,購入者
に対して分包紙部分を譲渡しているが,紙管部分については譲渡しておらず,原告
に所有権が留保され,利用者はこれを了知した上で利用しているから,紙管につい
ては消尽の前提を欠き,被告らの主張には理由がない。
新たな製造
5 特許製品である分包紙ロールは,医薬品を分包するための製品であって,分包紙
部分には一定の品質管理が要求され,分包紙部分の品質及び溶着の程度が重要とな
る。また,分包紙を費消した後の紙管に,ユーザーが自ら分包紙を巻き回すなどし
て再利用することはできないし,前述のとおり,紙管の所有権は原告に留保されて
いる。よって,ユーザーにとって原告製品の経済的価値のほとんどは分包紙が占め
10 ているといえる。
また,分包紙ロールは,分包紙を費消した後は,新たに分包紙を紙管に巻き回す
ことがない限り,製品として使用することができないが,原告製品自体は使い切り
のものであり,使用済み紙管や,それに適合する芯材に,一般のユーザー自らが新
たに分包紙を巻き回す行為は予定されておらず,実施することも困難である。
15 そうすると,使用済み紙管に被告製品を一体化させて新たな分包紙ロールを作出
する行為は,製品の主要な部材を交換し,いったん製品としての本来の効用を終え
た製品について新たに製品化する行為であって,原告製品とは同一性を欠く特許製
品の「新たな製造(生産)」に当たる。
【被告らの主張】
20 構成要件を充足しない,あるいは作用効果を奏しないこと
一体化製品の利用者は,被告製品の芯材に使用済み紙管を挿入する際に,本来予
定されているのとは逆の方向に挿入することがあり,この場合,原告装置の磁気検
出手段は,分包紙の種類を正しく認識することができない。
このような一体化製品は,前述のとおり,構成要件Cによって特定された分包紙
25 が存しないという意味で,構成要件Bを充足しないし,本件発明の作用効果も奏し
ないことになる。
そうすると,一体化製品に,本件発明の技術的範囲に属しないもの,本件発明の
作用効果を奏しないものが含まれる以上,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属
する物の生産にのみ用いられるということはできず,間接侵害は成立しない。
消尽
5 a 原告製品の販売により本件特許権は消尽しているので,一体化製品の製造は,
本件特許権の侵害に当たらない。原告は,原告製品の紙管について所有権留保の合
意があること,及び一体化製品の作出が特許製品の「新たな製造」に当たると主張
するが,以下b及びcのとおり,いずれの主張も認められない。
b 紙管の所有権留保について
10 原告は,お客様登録カードその他の記載により,原告製品の購入者との間で紙管
の所有権留保の合意が成立していると主張する。
しかし,原告製品の購入者は,原告製品を購入した後でなければ,紙管が非売品
であるなどの記載を目にすることはできず,原告装置の購入者が,取扱説明書やカ
タログに記載された所有権留保の記載を読むことを裏付ける証拠もない。また,原
15 告製品を扱う一般的な通信販売ウェブサイトには,紙管の所有権留保についての表
示はない。さらに,使用済み紙管が回収されることから,所有権留保の合意を推認
することはできないし,実際には,未回収の使用済み紙管は相当数存すると考えら
れる。
以上より,購入者との合意により,使用済み紙管の所有権が原告に留保されてい
20 るとは認められない。
c 「新たな製造(生産)」に当たらないことについて
原告製品は,原告装置に装着されて使用され,当初巻き回された分包紙がすべて
費消された場合には,それ以上の分包をすることができない。このとき,使用済み
紙管は,構成要件Cの構成を含めて物理的な変更は加えられておらず,分包紙を改
25 めて巻き回せば,新たな分包紙ロールとして,原告装置における分包に供すること
は可能である。本件発明の技術的思想の中核をなす特徴的部分は,構成要件Cの,
軸方向の一端側と他端側との磁石が取付角度を異にして複数個ずつ設けられた紙管
であるのに対し,分包紙は,一般に広く流通している材料で製造されるものであり,
分包装置に分包紙の種類を認識・識別させることを可能とするという作用効果を奏
する構成を有していない。
5 そうすると,消耗部材である分包紙が費消されたことをもって,原告製品が製品
としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えることはない。
原告製品は,その分包紙部分を費消した後も,本件発明の本質的部分である紙管
それ自体に変化はなく,分包紙費消後の使用済み紙管に被告製品を嵌め込み一体化
する行為は,通常の用法の下における消耗部材の交換にすぎず,本件発明の本質的
10 部分を構成する部材を一切変更することのない行為であるから,同一性を欠く特許
製品の新たな製造には当たらない。
まとめ
以上より,使用済み紙管の所有権が原告に留保されるとは認められず,一体化製
品を作出することは,同一性を欠く特許製品の新たな製造に当たらないから,原告
15 製品を購入して使用済み紙管を保有する者に対し,原告は本件特許権を行使するこ
とはできず,直接の行為者に特許権侵害が成立しない以上,被告らに間接侵害は成
立しない。
一体化製品について,本件発明の構成要件を充足せず,作用効果を奏しないもの
があること,原告装置以外の分包機にも使用可能であることも,間接侵害の成立を
20 否定するものである。
カ 争点⑷(本件特許は無効にされるべきものか)
争点⑷ア(乙4を主引用例とする進歩性欠如)
【被告らの主張】
a 一致点
25 本件発明は薬剤分包装置において用いられる分包紙ロールに関するものであるの
に対し,乙4に記載されている発明(以下「乙4発明」という。)も分包装置にお
いて用いられるロールペーパに関し,分包する対象が薬剤であることは開示されて
いるから,技術分野は共通している。
そうすると,本件発明と乙4発明には,「磁気検出手段を備える薬剤包装装置に
装着可能な分包紙ロールであって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙とを有し,
5 前記紙管の軸方向他端側には複数個の磁石が設けられている分包紙ロール。」とい
う一致点がある。
b 相違点
本件発明と乙4発明の相違点は,以下のとおりである。
① 本件発明の紙管の軸方向一端側には複数個の磁石が設けられているのに対
10 し,乙4発明の芯管の軸方向一端側には円周に沿って円環状の強磁性体が設けられ
ている。
② 本件発明の紙管の一端側と他端側の複数の磁石の取付角度が異なるのに対
し,乙4発明はそのような構成を有していない。
③ 本件発明の紙管において,軸方向一端側と他端側とに磁気検出手段で検出さ
15 れるための磁石が備えられているのに対して,乙4発明では一端側の磁石は磁気検
出手段で検出されるためのものであるものの,他端側の磁石はそのような目的のも
のではない。
c 容易想到性
相違点①について
20 乙4発明において,紙管の強磁性体17を磁石16に,シート張力調整装置の磁
石16を強磁性体17をそれぞれ置き換え,紙管とシート張力調整装置とを固定す
ることは単なる設計変更にすぎない。
乙6の記載によれば,分包紙ロールを装置に結合させる手段として,芯管又は装
置にそれぞれ取り付けられた強磁性体と永久磁石を用いて磁力結合させる場合,強
25 磁性体と永久磁石の芯管又は装置における取付位置を互いに置き換えることは,分
包紙ロールの当業者にとって従来公知の技術であった。
乙4に接した当業者が,乙4発明に乙6に記載の上記公知技術を組み合わせ,紙
管の強磁性体17を磁石に,シート張力調整装置の磁石16を強磁性体17にそれ
ぞれ置き換えることは,単なる設計変更であって,何らの困難も認められない。
⒝ 相違点②について
5 乙4発明の紙管の強磁性体17を磁石16に置き換えた分包紙ロールは,紙管の
両端側にそれぞれ複数個の磁石が配置されており,紙管の一端側と他端側の複数の
磁石の取付角度が異なる。
⒞ 相違点③について
本件発明の分包紙ロールの紙管に備えられる磁石が磁気検出手段で検出される
10 ためのものであることは,本件発明における磁石を乙4発明の他端側磁石(磁気検
出手段で検出されることを目的とするのではない磁石)と,磁石の構成として相違
させるものではない。また,乙4発明において,紙管の強磁性体17と置き換えら
れた磁石16も,磁気検出手段で検出することができる磁石である。そうすると,
分包紙ロールという物の発明において,相違点③は,構成としての相違点にはなら
15 ず,乙4発明から容易に想到し得るものであることになる。
d まとめ
したがって,本件発明には,乙4を主引例とする進歩性欠如の無効理由が存在す
る。
【原告の主張】
20 a 一致点
本件発明と乙4発明は,本件発明は,紙管に分包紙が巻き回されているのに対し,
乙4発明は,芯管にロールペーパが巻き回されている点において,一致する。
b 相違点
本件発明は,紙管の軸方向一端側と他端側とに,取付角度を異ならせて複数
25 の磁石を配置することで,紙管の軸方向一端側を薬剤包装装置側に向けた場合と軸
方向他端側を薬剤包装装置側に向けた場合とで異なる磁石の配置パターンを創出し,
これにより,薬剤包装装置において分包紙を識別する。これに対し,乙4発明は,
芯管の軸方向一端側に薬剤分包装置への固定用の強磁性体を配置し,軸方向他端側
に回転角度センサとなる磁石を配置することで,芯管を軸方向一端側の強磁性体で
薬剤分包機に固定して,軸方向他端側の磁石で回転角度情報を得て,ロールペー パ
5 の直径に応じたブレーキ力に調整してシート張力を調整する。このように,乙4発
明は,「シート張力調整装置」に関する発明であり,「芯管の軸方向一端側の強磁
性体でロールペーパを薬剤分包機へ固定し,軸方向他端側の磁石を回転角度センサ
として回転角度を検出し,この検出結果からブレーキ力を調整して張力調整する発
明」であって,強磁性体17は,あくまで,芯管とロールペーパを中空軸に固定す
10 るための手段にすぎない。
したがって,本件特許発明と乙4発明とは,技術分野・課題・解決手段・作用・
効果の全てにおいて異なる全く別の技術的思想であり,全く異なる発明である。
これを踏まえて,本件発明と乙4発明には,以下の相違点が存在する。
⒝ 相違点1
15 本件発明は,磁気検出手段で検出されるための磁石が紙管の軸方向一端側と他端
側の両方に設けられているのに対し,乙4発明は,ホール素子センサで検出される
磁石は芯管の軸方向他端側にのみ設けられており,軸方向一端側には,吸着固定用
磁石と吸着する強磁性体が設けられている。
⒞ 相違点2
20 本件発明は,紙管の軸方向一端側と他端側とで,磁気検出手段で検出されるため
の複数の磁石の取付角度が異なるのに対し,乙4発明はそのような構成を備えてい
ない。なお乙4発明は,芯管の軸方向一端側には円環状の強磁性体が設けられてい
るため,軸方向他端側の磁石との間で取付角度の異同を想定することができない。
c 相違点についての評価
25 吸着固定用の強磁性体を「磁気検出されるための磁石」とする動機付けの不
存在
乙6には,薬剤分包装置の支持軸に回転可能に嵌め合わされる筒体の端面に固定
された円盤に複数個の磁力結合用磁石が配置され,該筒体に外嵌する巻芯の端面に,
前記磁力結合用磁石と磁力結合するための1つの円環状の強磁性板が設けられた支
持装置が記載されており,磁力結合用磁石と強磁性板について,「あるいは永久磁
5 石7と強磁性板8との取付位置を逆としてもよい」と記載されている。
なお,乙6に記載された上記の巻芯の端面に設けられた円環状の強磁性板と薬剤
分包装置の磁力結合用磁石と磁力結合する構成と,乙4発明の,芯管の軸方向一端
側の吸着固定についての構成は同一である。
しかし,乙4発明においても,乙6に記載された考案においても,強磁性体は,
10 吸着固定用磁石と吸着して芯管を薬剤分包装置に固定するためのものであって,磁
気検出されることを目的としたものではなく,乙4や乙6にはそのような用法を示
唆する記載もない。
したがって,乙4,6発明において,吸着固定用の強磁性体を,磁気検出手段で
検出されるような「磁気検出されるための磁石」とすることの動機付けはない。
15 仮に,乙4発明において,芯管に設けられている「強磁性体」を,薬剤分包装置
に設けられている「吸着固定用磁石」に置換したとしても,芯管に設けられる磁石
は「吸着固定するための磁石」にしかならず,上記相違点1,2は解消しない。
⒝ 「磁気検出されるための磁石」を芯管の両端に設ける動機付けの不存在
乙4発明において,芯管の軸方向他端側に,ホール素子センサで検出される少な
20 くとも1個の磁石が設けられているところ,この磁石は,ホール素子センサと共に
芯管の回転を検出する角度センサとして機能するものであるから,ホール素子セン
サに対する配置が重要であり,1つの芯管に1つあれば足りる。乙4には,角度セ
ンサを芯管の両端に設ける旨の開示や示唆は存在せず,乙4において,ホール素子
センサで検出される磁石を芯管の両端に設ける動機付けはない。
25 仮に,ホール素子センサで検出される磁石を芯管の両端に配置したとしても,芯
管が所定角度回転するごとに1つのパルス信号を発するようにホール素子センサに
対して配置した構成をとることしかできず,本件発明のように,軸方向一端側と他
端側に取付角度の異なる磁石をそれぞれ複数個ずつ設ける構成を採ることはできな
いから,相違点2は解消しない。
⒞ 強磁性体を「磁気検出されるための磁石」に置換することの阻害要因
5 乙4発明において,吸着固定するための「強磁性体」を「磁気検出されるための
磁石」に置換すると,吸着固定の構成がなくなり,芯管が薬剤分包装置に固定でき
なくなるため,乙4発明が成立しなくなり,上記置換には阻害要因がある。
また,乙4発明において,「強磁性体」を「吸着固定用の磁石」と置換した場合
には,吸着固定の構成は維持されるが,芯管に配置された「吸着固定用の磁石」は,
10 磁気検出されるための磁石として機能することができないため,上記置換にも阻害
要因がある。
d まとめ
以上より,本件発明は,乙4及び6に記載の発明から当業者が容易に想到し得る
ものではなく,進歩性を有する。
15 争点⑷イ(乙7を主引例とする進歩性欠如)
【被告らの主張】
a 一致点
本件発明と乙7に記載された発明(以下「乙7発明」という。)には,「磁気検
出手段を備える装置に装着可能な紙ロールであって,紙管と,紙管に巻き回される
20 紙とを有し,前記紙管の軸方向一端側には磁気検出手段で検出されるための複数個
の磁石が設けられている紙ロール。」という一致点がある。
b 相違点
本件発明と乙7発明の相違点は,以下のとおりである。
④ 本件発明は分包紙ロールであるのに対し,乙7発明の紙は記録紙ロールであ
25 る。
⑤ 本件発明の紙管の一端側と他端側の複数の磁石の取付角度が異なるのに対し,
乙7発明は一端側には複数の磁石を有しているが他端側には磁石を有していない。
⑥ 本件発明の紙管において,軸方向一端側と他端側とに磁気検出手段で検出さ
れるための磁石が備えられているのに対して,乙7発明では一端側の磁石は磁気検
出手段で検出されるためのものであるものの他端側には磁石を有していない。
5 また,原告の主張する相違点3,4の存在について,積極的に争わない。
c 容易想到性
相違点④について
乙7発明の記録紙ロールも,分包紙ロールも,いずれも紙管に巻き回されたロー
ルである点,及び複数の種類の紙を装置に装着する際に識別するという課題が共通
10 する。したがって,乙7発明の技術を分包紙ロールに適用することは,当業者にと
って容易想到である。
⒝ 相違点⑤及び⑥について
① 乙7発明の構成
乙7発明では,巻き芯の軸方向一端側に複数の磁石のチップ(永久磁石1b及び
15 1c)が埋め込まれている。
② 乙8及び乙9の記載
乙8及び乙9には,インクリボン(記録媒体紙)を識別するための「つば」や「巻
芯蓋」などの識別子を,記録媒体紙を巻き回した巻き芯(紙管)の両端に設けるこ
とにより,一端だけに設ける場合に比べて識別できる記録媒体紙の種類を増加させ
20 る技術思想が開示されている。
乙7発明と,乙8及び乙9に開示された技術は,巻き回された印刷用の記録媒体
紙の種類を識別するために巻き芯の軸方向の端側に「磁石」,「つば」又は「巻芯
蓋」といった識別子を設ける点で技術分野を共通にしている。
そうすると,乙7発明に接した当業者が,より多くの記録媒体紙を識別するため
25 に両端に識別子を設けるという乙8及び乙9に開示された技術的思想を参酌して,
巻き芯の両端に永久磁石を設けようとするに当たって,多種多様な記録紙を識別す
るという周知の課題を解決するため,その両端の永久磁石の取付角度を異ならせる
ことは,ごく自然に想到し得る。
したがって,乙7発明に乙8及び乙9の記載事項を組み合わせることで本件発明
に容易に想到することができる。
5 ③ 乙7発明に乙8及び乙9を適用する動機付けがあること
乙8及び乙9は,両端に取り付けられる部材の有無のパターンのみを記載してい
るのではなく,上記のとおり,記録媒体紙を識別するための識別子を紙管の両端に
設けることにより,一端だけに識別子を設ける場合と比べて識別できる記録媒体紙
の種類を増加させるという技術思想を開示している。
10 そうすると,乙8及び乙9と同様,多種多様な識別子を識別するという周知の課
題を有する乙7発明に,乙8及び乙9の記載事項を組み合わせることには動機付け
がある。
④ 乙33及び乙34の記載
乙33及び乙34には,1枚のカードの両側に互いに異なる配置や構造の回路(識
15 別子の機能を果たす)を設けることにより,カードの一方の向きから装置に挿入し
た場合と,カードの他方の向きから装置に挿入する場合によって,装置が挿入され
たカードの回路の位置や構造を検知することで,1枚のカードでそれぞれ異なる機
能のカードとして識別することが開示されている。そうすると,1つの部材の両側
に,互いに異なる配置や構造を設け,装置に異なる機能を有することを検知させる
20 ことの識別機能を持たせることは,周知の技術的事項である。
また,乙33には,カードの両側に非対称な「異なる位置」に識別子の機能を果
たす回路を設けることが開示されているところ,この技術を乙7発明に採用した場
合,乙7発明の一方側にある識別用の磁石に対して,他方側に設ける識別用の磁石
の位置を非対称,すなわち異なる角度の位置に設けるようにすることは,当業者が
25 容易に想到し得る。
d まとめ
以上より,本件発明には,乙7発明を主引例とする進歩性欠如の無効理由が存在
する。
【原告の主張】
a 相違点
5 本件発明は,分包紙が巻き回される紙管に,磁気検出手段で検出されるため
の磁石が,軸方向一端側と他端側とに取付角度が異なるように複数個ずつ設けられ,
該磁石が磁気検出手段で検出されることで,磁石の取付角度に基づいて,薬剤分包
装置において分包紙を識別するのに対し,乙7発明は,巻き芯の軸方向一端側に着
脱自在となっている複数の磁石(1b,1c)が,カラー静電プロッタの各スイッ
10 チ(SWA,SWB)に対向して取り付けられているか否か(つまり,磁石の取付
有無)によって記録紙を判別する点で,両発明はその技術思想のみならずその課題
や構成,作用・効果が明らかに相違するものである。
これを踏まえて,本件発明と乙7発明には,以下の相違点が存在する。
⒝ 相違点3
15 本件発明は,磁気検出手段で検出されるための磁石が紙管の軸方向一端側と他端
側の両方に設けられているのに対し,乙7発明は,スイッチで有無が検出されるた
めの磁石が巻き芯の軸方向一端側にのみ着脱自在に取り付けられている。
⒞ 相違点4
本件発明は,紙管の軸方向一端側と他端側とで,磁気検出手段で検出されるため
20 の複数の磁石の取付角度が異なるのに対し,乙7発明は,複数のスイッチで有無が
検出されるための複数の磁石が,巻き芯の軸方向一端側にのみ各スイッチに対向す
るように着脱自在に取り付けられている。
b 相違点についての評価
本件発明は,磁気検出手段で検出された磁石の取付角度の異なりに基づいて,薬
25 剤分包装置において分包紙を識別することができる点に技術上の意義がある。
他方で,乙7発明は,複数の磁石の取付け有無の組合せによって記録紙を判別す
る点に技術上の意義がある。また,乙8及び9には,巻き芯の両端に設けられる部
材の有無によってインクリボンの種類を判別する発明が記載されている。
したがって,乙7ないし9には,巻き芯の一端又は両端に設けられた,磁石その
他の部材の有無が検出されることによって,記録やインクリボンの種類を識別する
5 発明が記載されているが,これらの発明と,紙管の軸方向一端側と他端側とに異な
る角度で取り付けられた複数個の磁石を薬剤分包装置の磁気検出手段で検出し,磁
石の取付角度の異なりに基づいて分包紙の種類を識別するという本件発明とは,根
本的に技術思想が異なるから,仮に,乙7発明に乙8及び9記載の発明を適用した
としても,相違点3,4は解消されない。
10 また,乙7発明は,スイッチで有無を検出される磁石を巻き芯の軸方向一端側に
のみ設け,乙8及び9に記載の発明は,センサで有無が検出されるための部材を巻
き芯の両端に設けるにすぎず,これらを組み合わせても,磁気検出手段で検出され
るための磁石を紙管の軸方向両端に複数個設け(相違点3),しかも,複数個の磁
石の取付角度を異ならせる構成(相違点4)は得られない。
15 さらに,乙7発明では,巻き芯の軸方向一端側の磁石の数を増やせば識別のため
の情報の数を増やすことができるのに対し,乙8及び9記載の発明では,巻き芯の
両端に取り付けられる部材の有無の組合せのパターンにしか対応しておらず,情報
の数を増やすことに限りがあるから,乙7発明に乙8及び9記載の発明を適用する
動機付けはない。
20 以上より,本件発明は,乙7ないし9に記載の発明から当業者が容易に想到し得
るものではなく,進歩性を有する。
争点⑷ウ(サポート要件違反)
【被告らの主張】
本件発明においては,薬剤分包装置に備えられる磁気検出手段が,分包紙ロール
25 装着時に,一端側と他端側の両方の磁石を検出するものであることは特定されてい
ない。よって,本件発明は,一端側と他端側とで異なる取付角度で磁石が取り付け
られ,かつ,薬剤分包装置へ装着時にそのいずれかの端部の磁石のみが磁気検出手
段によって検出される態様をも包含していると解釈できる。
しかし,本件明細書の段落【0040】は,「一端側21aでは,例えば,0度
と60度,他端側21bでは0度と90度というように取付角度φを変えて設定す
5 る等して読取パターンの情報量を多くし,」と記載しており,読取パターンの情報
量が多くない場合には,分包紙情報を表すには情報量が足りないのだと当業者は理
解する。そして,両側の磁石の取付角度を変えることにより「読取パターンの情報
量を多く」するためには,両側の磁石を検出しなければならないのは自明である。
よって,本件発明のうち,紙管の両側の磁石のうち片側の磁石しか検出していな
10 い構成については少なくとも,紙管ドラムが分包紙情報を表すに足る情報量を有し
ていないのであるから,「薬剤分包装置において分包紙を識別する」という課題が
解決できないと当業者は認識する。
したがって,本件特許はサポート要件を充足しない。
【原告の主張】
15 本件発明は,薬剤分包装置において,①磁気検出時に紙管の両端に設けられた磁
石のうち両側の磁石を検出するか,②紙管の両端に設けられた磁石のうち片側の磁
石を検出するかに関係なく,課題を解決することができる発明である。
そして,本件明細書の段落【0040】には,「紙管9の両端面に永久磁石21
を複数個設けるものとし」,「一端側21aでは,例えば,0度と60度,他端側
20 21bでは0度と90度というように取付角度ψを変えて設定する」ことで,「読
取パターンの情報量を多くし,分包紙情報を表すに足る情報量を紙管ドラム7に設
定し得るので,部品コストの上昇を最低限にして分包紙情報を設定できる」ことが
記載されており,薬剤分包装置において分包紙を識別するとの課題は,本件発明の
「紙管の軸方向一端側と他端側とに,磁気検出手段で検出されるための磁石が,取
25 付角度を異ならせて複数個ずつ設けられている」との構成によって解決できること
が当業者にとって明らかである。
よって,本件発明は本件明細書の発明の詳細な発明に記載されたものであるから,
本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に規定する要件に適
合する。
争点⑷エ(明確性要件違反)
5 【被告らの主張】
前述のとおり,本件発明は,紙管の一端側と他端側において,磁気検出手段で検
出されるための磁石を備えるものであるところ,紙管の薬剤分包装置への装着時に,
一端側と他端側とのいずれか一方に取り付けられた磁石だけが磁気検出手段によっ
て検出される態様を包含している。
10 しかし,本件明細書の段落【0040】の記載からは,両端の磁石を検出し,そ
の読取パターンによって分包紙を識別する態様しか導き出すことができないし,本
件訂正審決における新規事項やサポート要件違反の判断も,両端の磁石を検出し,
その読取パターンによって分包紙を識別する態様に基づいた判断である。
そうすると,本件発明における他方の端部に取り付けられた磁石は,「磁気検出
15 手段で検出されるための」ものでありながら,装着時には磁気検出手段によっては
検出されないこととなるから,「磁気検出手段で検出されるための磁石」との記載
により特定される事項の技術的意義が不明確である。
したがって,本件発明は明確性要件を欠如している。
【原告の主張】
20 本件発明の構成及び磁石の技術的意義は明確である。
仮に,本件発明において,被告らの主張する,薬剤分包装置において紙管の両端
の磁石のうち片側の磁石は検出しない態様を想定する余地があるとしても,紙管の
一端側を,薬剤分包装置における磁気検出手段が設けられている方へ向けて装着し
た場合には一端側の磁石が検出され,他端側を向けて装着した場合には他端側の磁
25 石が検出されるのであるから,いずれの端の磁石も,やはり磁気検出手段によって
検出されるための磁石である。
よって,本件発明は発明として明確である。
キ 争点⑸(原告の損害額)
【原告の主張】
原告は,被告らが被告製品の販売によって得た利益が,原告の損害と推定される
5 旨を主張する(特許法102条2項)。
被告日進が被告製品を販売した個数及びその売上金額(合計5952万45
36円)については,被告らの主張を争わない。
控除費用
a 被告日進が被告OHUに支払った被告製品の仕入原価(4203万8700
10 円)及び被告日進が負担した被告製品の運送料(132万8400円)については,
被告らの主張を争わない。
b 返品費用
被告日進が,返品費用と主張する返品された製品やサンプル品の製造原価は,販
売個数及び販売総額から既に控除されている金額である。また,不良品等であれば,
15 被告日進が被告OHUに対して返品して追完を求めれば足りるのであるから,同金
額を被告日進の利益額の計上に当たって控除すべきではない。
c 人件費等
人件費は,本来固定費と評価されるべきものである。仮に,人件費のうち,被告
製品の販売等に直接関連して追加的に必要となった金額があるとしても,被告日進
20 の従業員である訴外P1らの業務の具体的内容や被告製品の販売等に関する従事状
況は明らかでないから,同金額を被告日進の利益額の計上に当たって控除すべきで
はない。
d 車両リース料等
上記のとおり,訴外P1らの営業販売活動が被告製品の販売等に直接関連してい
25 るか不明であるところ,訴外P1らが使用したとされる車両リース料等が,被告製
品の販売等に直接関連し追加的に必要となったものであることの立証がない。
e 宣伝広告費
被告日進の発行するパンフレット冊子(乙48,84)は,被告日進の取扱商品
全般に関する顧客向けパンフレットであり,被告製品に関する宣伝広告は裏表紙の
一部に掲載されているにすぎない。また,リーフレットチラシ(甲5),インター
5 ネット広告(乙49)についても,被告製品に関連するものなのかどうか判然とし
ない。
したがって,これらの費用は,被告日進が被告製品の販売に直接関連して追加的
に必要になった費用と評価できるものではない。
f まとめ
10 以上より,被告日進の利益より控除すべき費用の合計は,4336万7100円
(4203万8700円+132万8400円)である。
被告らの利益額
a 被告日進
前記 , より,被告日進の利益額は,1615万7436円(5952万45
15 36円-4336万7100円)を下回らない。
b 被告OHU
被告日進は,販売する被告製品の全量を被告OHUより仕入れており,被告OH
Uの被告日進に対する売上額は,4203万8700円である。
被告OHUの利益率は,被告日進の利益率27%(1615万7436円÷59
20 52万4536円)と同程度と推認され,被告OHUの被告製品の販売による利益
は,1135万0449円(4203万8700円×27%)を下回らない。
c 被告セイエー
被告OHUは,被告日進に納入する被告製品の全量を被告セイエーより仕入れて
おり,被告セイエーから被告OHUへの納入価格は不明であるが,被告OHUから
25 被告日進に供給する被告製品の原価率が70%(4203万8700円÷5952
万4536円)であることから,被告セイエーから被告OHUに供給する際の原価
率もこれと同様と推認され,被告セイエーの被告OHUに対する販売額は,294
2万7090円(4203万8700円×70%)となる。
また,被告セイエーの利益率も,上記と同様に27%であるとすれば,被告セイ
エーの被告製品の販売による利益は,794万5314円(2942万7090円
5 ×27%)を下回らない。
d 被告OHU及び被告セイエーの利益率についての被告らの主張に対する反論
被告らは,被告OHU及び被告セイエーの利益額が被告日進の売上高のそれぞれ
3%である178万0576円であることについて,原告の自白が成立しており,
同金額に争いはないと主張する。
10 しかし,原告は,従前,被告OHU及び被告セイエーの各々が少なくとも被告日
進の被告製品の売上高の3%相当の利益を有していると主張したのであり,この主
張は,損害論において被告らが開示する資料等を踏まえて,その割合を超える利益
があると主張することを想定していたものであるから,原告は,被告OHU及び被
告セイエーの利益額が各178万0576円であることを争わない趣旨ではない。
15 推定覆滅
争う。
弁護士費用
原告は,被告らの行為によって本件の提起を余儀なくされたのであり,被告らの
行為と相当因果関係が認められる弁護士費用相当額は,少なくとも354万円であ
20 る。
原告の損害
よって,原告が,民法709条,特許法102条2項に基づき,請求し得る損害
額は,3899万3199円(1615万7436円+1135万0449円+7
94万5314円+354万円)である。
25 【被告らの主張】
被告製品の販売個数及び売上金額
被告日進による,平成27年7月から令和元年8月26日までの被告製品1の販
売個数は3166個,売上金額は1012万9080円,被告製品2の販売個数は
1万0258個,売上金額は4939万5456円(合計5952万4536円)
である。
5 控除費用
a 仕入原価
被告日進が被告OHUに支払う仕入金額は,被告製品1について1巻当たり21
00円,被告製品2について1巻当たり3450円であるから,仕入原価は,被告
製品1につき664万8660円,被告製品2につき3539万0100円(合計
10 4203万8700円)となる。
b 返品費用
被告製品の返品や無償サンプル品の提供等のためには,それぞれ,当該個数分の
被告製品の製造費用が生じているところ,これらの費用は,被告製品を販売するた
めに直接必要な費用に当たる。
15 したがって,被告製品1につき5万8800円,被告製品2につき16万905
0円(合計22万7850円)は,返品費用として控除されるべきである。
c 運送料
被告日進がユーザーに被告製品を運ぶ際には,複数の運送会社の宅配サービスを
利用しており,発送先の地域や,発送する被告製品の数により運賃が異なるところ,
20 被告日進が負担した運送料は,少なくとも132万8400円である。
d 人件費等
被告製品は,使用済み紙管と組み合わせて一体化製品を作成するために輪ゴムを
使用する必要があること,分包紙の種類によって原告装置に一体化製品を差し込む
方向が決まっていること,空回りやずれが生じる可能性があることなどから,被告
25 日進が被告製品を新規顧客に販売する際には,担当者が当該顧客を訪問し,原告装
置の機種を確認したり,顧客先で発生する不具合に対処したりする必要がある。
そのため,被告日進は,従業員2名(訴外P1及び訴外P2)を,上記のような
業務に専門的に従事させている。訴外P1は,被告日進の分包紙の販売に専従して
いるところ,分包紙販売の売上のうち約74%が被告製品の売上である。また,訴
外P2は,分包紙以外の営業活動にも従事しているが,その業務量のうち約50%
5 が分包紙販売に関するものである。
そうすると,訴外P1の人件費(1673万5000円)のうち74%である1
238万3900円,及び訴外P2の人件費(2134万1500円)のうち37%
(50%×74%)である789万6355円(合計2028万0255円)は,
被告製品を販売するために追加的に必要となった費用として,被告日進の売上高か
10 ら控除されるべきである。
e 車両リース代,ガソリン代・駐車場代,高速代
被告日進は,平成30年8月,訴外P1の業務のために車両(以下「本件車両」
という。)をリースし,本件車両の使用に係るガソリン代,駐車場代,高速代を負
担した。
15 同月から令和元年8月までの間の本件車両のリース費用は41万5800円であ
り,そのうちの74%である30万7692円は,被告製品を販売するために追加
的に必要となった費用である。
令和元年11月から令和2年2月の4か月分の本件車両のガソリン・駐車場代は
7万4523円(1月当たり1万8630円)であることから,平成27年7月か
20 ら令和元年8月までのガソリン代・駐車場代は,93万1500円と推認され,そ
のうちの74%である68万9310円は,被告製品を販売するために追加的に必
要となった費用である。
平成31年1月から同年10月までの間に必要となった,本件車両のための高速
代は47万8200円(1月当たり4万7280円)であることから,平成27年
25 7月から令和元年8月までに必要となった高速代は,239万1000円と推認さ
れ,そのうちの74%である176万9340円は,被告製品を販売するために追
加的に必要となった費用である。
f 宣伝広告費
① パンフレット
被告日進は,被告製品を販売するために毎月パンフレット冊子(乙48,84な
5 ど)を制作し顧客に配布しており,その20頁のうちの1頁が被告製品の掲載にあ
てられているところ,1冊の製造費用は約10万円である。
したがって,平成27年7月から令和元年8月までの間に,被告製品を販売する
ために追加で必要となったパンフレット制作費は,25万円(10万×1/20×
50月)である。
10 ② リーフレットチラシ
被告日進は,分包紙や分包装置の販売のためにリーフレットチラシ(甲5の1な
ど)を制作しているところ,その制作費は5万5340円であり,そのうちの約4
分の1が被告製品の掲載にあてられている。
したがって,上記リーフレットチラシの製造費用のうち1万3835円が,被告
15 製品を販売するために追加的に必要となった費用である。
③ インターネット広告
被告日進は,被告製品の販売のために,インターネット広告(乙49など)を利
用しており,その費用は合計34万8098円であるところ,そのうち74%であ
る25万7592円が,被告製品を販売するために追加的に必要となった費用であ
20 る。
g まとめ
以上より,被告日進は,平成27年7月1日から令和元年8月26日までの間に,
被告製品を販売するための諸経費として,合計2512万4274円を支出した。
被告らの利益額
25 a 被告日進
上記の諸経費(2512万4274円)及び仕入原価(4203万8700円)
は,被告日進の被告製品の売上金額(5952万4536円)から差し引かれるべ
きところ,控除額が売上金額を上回るため,被告日進の利益額は0円となる。
b 被告OHU及び被告セイエー
同様に,被告OHU及び被告セイエーの利益額も0円となる。
5 仮に,原告に何らかの損害額が認められ,特許法102条2項の推定が認められ
る場合,原告が従前主張していたとおり,被告OHUの利益は被告日進の売上高の
3%である。
したがって,被告OHUの利益は,178万0576円となる。
同様に,被告セイエーの利益は被告日進の売上高の3%であり,178万057
10 6円となる。
c 被告OHU及び被告セイエーの利益率について
原告は,訴状及び令和元年1月27日付けの訴えの変更申立書において,被告O
HU及び被告セイエーの利益額は,被告日進の売上高の3%であると主張し,被告
らはこれを認めているから,自白が成立している。
15 これに対し,原告の主張における,被告OHUの利益率が27%であること,被
告セイエーから被告OHUへの被告製品の販売価格が2942万7090円である
こと,及び被告セイエーの利益率が27%であることのいずれについても証拠はな
い。
むしろ,自ら分包紙ロールの販売を行っておりその利益率について熟知する原告
20 は,従前,被告製品の売上げに関する被告らの利益率を合計26%(被告日進20%
+被告OHU3%+被告セイエー3%)であると主張していたのであり,これは,
大阪府の製造企業の売上げ営業利益率(乙86)が4%を下回っていることからし
ても極めて高い利益率であるといえるから,被告らの利益率の合計が26%を超え
ることはない。
25 そして,原告の主張によれば,被告日進の利益率は26%を超えて27%となっ
ているから,本来,被告OHU及び被告セイエーの利益率は0%とされてしかるべ
きである。
推定の覆滅
a 被告製品は,分包紙をプラスチック筒部に巻き回したものであって,被告日
進は,被告製品と使用済み紙管をセットで販売していないところ,本件発明の課題
5 を解決するための構成は,使用済み紙管にあり,被告製品それ自体は,本件発明と
の間で何らの作用効果も奏しない。
よって,本件発明は,被告らが被告製品を販売することによって得た利益には寄
与していない。
b 被告製品は,原告製品に比べて約30%安価であることから,仮に被告らが
10 被告製品を販売していなかった場合,被告らの需要者は,高額な原告の製品を購入
することはなかったと考えられる。
よって,被告らが被告製品を販売することによって得た利益を原告の損害と推定
することはできない。
c まとめ
15 以上より,特許法102条2項の推定は覆滅されるから,被告らによる被告製品
の製造・販売による原告の損害は推定されない。
ク 争点⑹(被告らの共同不法行為と認められるか)
【原告の主張】
被告らは,被告日進がユーザーからの発注に応じて被告製品を販売し,被告
20 OHUが被告日進からの発注を受けて被告製品の全量を納品し,被告セイエーは被
告OHUからの発注を受けて被告製品の全量を製造販売していた。また,被告セイ
エーは被告OHUの子会社であり,役員も共通している。よって,被告らは,一体
となって,被告製品を製造・供給・販売していたものであるから,密接な客観的関
連共同性が認められ,共同不法行為が成立し,原告が被った損害全額について,不
25 真正連帯債務として連帯して損害賠償責任を負う。
仮に,被告らにおいてそれぞれが得た利益額の範囲内で原告に対する損害賠
償責任を負うとしても,被告らは,それぞれ前記アないしウの金額の範囲において
個々に損害賠償義務を負い,重なり合う範囲でそれぞれ連帯して損害賠償義務を負
うものである。
請求のまとめ
5 よって,原告は,被告らに対し,連帯して3899万2199円及びこれに対す
る訴状送達の日の翌日からの遅延損害金を支払うよう求める。
【被告らの主張】
被告OHUは,被告日進の外注先に過ぎず,被告日進は被告OHUと販売先情報
を共有したりする関係にないから,直ちに共同不法行為責任は成立しない。
10 また,被告OHUと被告セイエーも,単に役員が共通しており親子会社にあると
いうだけであり,直ちに共同不法行為責任は成立せず,損害賠償責任には重なり合
う範囲はない。
他方で,被告製品は,被告日進の発注に応じて被告OHUが被告製品を販売し,
被告OHUの発注に応じて被告セイエーが被告製品を納入するという関係にあり,
15 被告日進及び被告OHUは,その販売する被告製品の全量について,それぞれ被告
OHU又は被告セイエーから納入を受けているという関係にあるから,被告らは,
それぞれが得た利益の範囲において損害賠償を負い,他の2社とは,重なり合う範
囲で不真正連帯債務の関係に立つ。
第3 当裁判所の判断
20 1 本件発明について
本件明細書には,以下の記載及び図がある。
(背景技術)
従来,薬剤を包装する薬剤包装装置として,薬剤を投入するホッパーと,筒状体
に巻回された分包紙を引き込み,熱シールするヒートローラ又は熱圧着装置とが設
25 けられ,薬剤を分包紙に投入し,該薬剤が投入された分包紙をヒートローラで熱溶
着又は熱圧着等することにより,薬剤を分包するものが用いられている(【000
02】)。
(発明の概要)
(発明が解決しようとする課題)
しかし,前記従来の薬剤包装装置によれば,分包紙の材質や厚さの判別は,人手
5 によって行われており,分包紙を交換する際,その材質や厚さが交換前の分包紙と
同一か否か等は,人が確認しなければならない。
また,前記従来の薬剤包装装置によれば,分包紙の材質や厚さによって熱溶着す
る温度が異なるが,分包紙の材質や厚さに適合していないヒートローラの温度に設
定されると,分包紙が正しく溶着されないという問題がある。
10 本発明は,以上のような問題点を解決するためになされたもので,薬剤包装装置
において分包紙を識別することを課題とする(【0003】,【0004】,【0
006】)。
(発明の効果)
本発明に係る薬剤包装装置によれば,読取手段によって分包紙の種類を認識する
15 ことができる(【0011】)。
(発明を実施するための形態)
図1に示す薬剤包装装置には,略円筒状の紙管9に巻回された分包紙10の略中
央部に設けられた略円筒形の空洞部10a に挿入されており,分包紙10を排出
すべく回転可能な紙管ドラム7と,分包紙10の排出される速度を制御する分包紙
20 制御手段としてのブレーキ板8 と,分包紙10をホッパー1まで導出するための
ローラ6と,薬剤を分包紙10に投入するための薬剤投入手段としてのホッパー1
と,熱溶着手段(熱圧着手段)としてのヒータ2と,操作盤(図示せず)とが設けられ
ている。分包紙は,グラシン紙やセロハン等の一面にポリエチレン等の合成樹脂が
塗工されたもの等が用いられる。
25 また,分包紙10の一側面,即ち図1及び図2においては右側の側面に分包紙の
材質や厚さ,或いは溶着のために適切に設定されるべき温度等の分包紙情報を示す
識別子の一例としての記号11(図2においては,小文字のアルファベットの組み
合わせで表現されている)が印刷されており,該記号11の印刷には,波長が30
0~400nm程度の近紫外線を照射した場合にのみ発光して視認可能となる,例
えば蛍光塗料が用いられている(【0014】,【0015】)。
5 また,さらに,識別子を設ける形態として,図7の(b)に示したように,永久磁
石21を紙管9の端面に設けるとともに,読取手段としてのホールセンサ等の磁気
検出手段22を,前記永久磁石21による磁界を検出し得るべく紙管9に対向する
ように配設して本薬剤包装装置を構成することもできる。この場合,分包紙10の
種類等ごとに永久磁石21の個数や極性,磁力の大小,間隔等の組合せを前記バー
10 コード(「磁力の大小」が線分の太細に対応,「間隔」が空白部に対応)のように設
定し,その各組が各識別子に一対一対応するようにして,その設定に従って永久磁
石21を紙管9の側面や端面(円周曲面の一端部分)に配設することにより,ホール
センサが前記磁界をディジタル的に読み取って,読取パターンとして検出できるの
で,その読取パターンによって分包紙の種類等を識別させることができる。かかる
15 永久磁石21を紙管9に設けるには,紙管9に埋め込むようにしたり,いわゆるシ
ート状マグネットを利用したりすることができる。例えば,図7の(b)に示したよ
うに紙管9の両端面に永久磁石21を複数個ずつ設けるものとし,しかも,一端側
21aと他端側21bとでその個数,磁力の大小及び取付角度ψを異ならせるよう
に設定することもできる。即ち,一端側21aでは,例えば,0度と60度,他端
20 側21bでは0度と90度というように取付角度ψを変えて設定する等して読取パ
ターンの情報量を多くし,分包紙情報を表すに足る情報量を紙管ドラム7に設定し
得るので,部品コストの上昇を最低限にして分包紙情報を設定できる。このように,
両端面を利用すると,識別子の配設によって設定できる情報量が多くなり,種々の
分包紙の種類に対応できる。そして,紙管9を紙管ドラム7に装着したとき,本薬
25 剤包装装置に適合した紙管を識別でき,適正な分包紙を識別できるとともに,適正
な装着状態を確認できるという利点がある。また,このような永久磁石21に対し
て,読取手段4としての磁気検出手段22は,その磁気情報を読取るものとしてイ
メージセンサの場合と同様に紙管9に近接して設けられる(【0040】)。
ここで,分包紙情報とは,例えば分包紙の種類,グラシン紙,セロハン等の分包
紙の材質に関わる情報,及び分包紙の厚さに関わる情報等の分包紙に関わる情報を
5 意味する。このように読取手段4が設けられていると,分包紙10の種類等を読取
手段4で読み取り,分包紙10を特定することができる(【0045】)。
【図1】 【図2】
【図7】
2 争点⑴(一体化製品は本件発明の技術的範囲に属するか。)
⑴ 争点⑴ア(一体化製品は構成要件Bを充足するか。)
ア 前記前提事実のとおり,本件発明の構成要件Bは「紙管に巻き回される分包
5 紙」であるところ,一体化製品の構成bは「該紙管の外周に,輪ゴムを介して装着
された芯材に巻き回された分包紙」である。
一体化製品においては,分包紙は紙管に直接巻き回されるのではなく,輪ゴム及
び被告製品の芯材を介して巻き回される形になるが,被告らはこの点を非充足の理
由としては主張していない。
10 イ 被告らは,構成要件Bの「分包紙」は,構成要件Cとの関係で特定された分
包紙でなければならないと主張するが,その趣旨とするところは,原告製品を購入
して当初の分包紙を費消し,使用済み紙管を保有する利用者が被告製品を購入し,
被告製品の芯材内に使用済み紙管を挿入する際に,分包紙の種類に対応する方向で
も,その逆の方向でも挿入することができることから,後者の場合には,原告装置
15 の磁気検出装置において,装着された分包紙の種類を正しく認識することができな
いから,一体化製品は構成要件Bを充足しない,あるいは本件発明の作用効果を奏
しない旨主張するものと解される。
そこで検討するに, 構成要件Bの記載はそれ自体不明なところはなく,その記載
のとおり理解できるものである。
5 確かに,本件明細書には,「紙管9を紙管ドラム7に装着したとき,本薬剤包装
装置に適合した紙管を識別でき,適正な分包紙を識別できる」(【0040】),
「このように読取手段4が設けられていると,分包紙10の種類等を読取手段4で
読み取り,分包紙10を特定することができる。」(【0045】)などと記載さ
れているものの,これは本件発明を採用した薬剤分包装置の好適な一実施形態につ
10 いて述べたものにすぎない。
被告らは,読取手段により認識される分包紙の種類と実際に紙管に装着されてい
る分包紙の種類とを一致させることが本件発明の課題であるかのように主張するが,
前記1のとおり,本件発明は,従来は人手で行っていた分包紙の種類の識別を,薬
剤分包装置において行うことを課題とするものであるから,被告の主張はその前提
15 において失当である。
また,薬剤分包装置の実際の使用に当たり,紙管に巻き回されている分包紙の種
類は,当該紙管の磁石の配置から読み取られる分包紙の種類と一致することが望ま
しく,被告らにおいても,被告製品の使用方法説明文や注意書き(甲5の2,甲1
2)等により,利用者が一体化製品を作る際に,使用済み紙管の挿入方向に注意す
20 るよう促しているとしても,本件発明は,特定の薬剤分包装置の使用態様を前提と
するものではないから,当該事情は前記結論を左右しない。
ウ 以上によれば,構成要件Bは,「紙管に巻き回された分包紙」という文言ど
おりのものとして理解すべきものであり,使用済み紙管に直接ではなく,輪ゴム及
び被告製品の芯材を介して巻き回されることは,格別の相違を生じさせるものでは
25 ないから(被告らもこの点を争っていない。),一体化製品の構成bは,本件発明
の構成要件Bを充足すると認められる。
利用者が一体化製品を作出する際に,装着された分包紙に対応しない方向で使用
済み紙管を挿入する可能性があるとしても,そのことを理由に構成要件Bを充足し
ない,あるいは一体化製品が本件発明の作用効果を奏しないということはできない。
⑵ 争点⑴イ(一体化製品は構成要件Cを充足するか)
5 ア 前記前提事実のとおり,本件発明の構成要件Cは「前記紙管は,軸方向一端
側と他端側とに前記磁気検出手段で検出されるための磁石が複数個ずつ設けられ,
しかも軸方向一端側と他端側とで前記磁石の取付角度が異なることを特徴とする 」
であるところ,一体化製品の構成cは「使用済み紙管は,軸方向一端側及び軸方向
他端側に,磁石が2つずつ設けられ,軸方向一端側においては,2つの磁石が互い
10 に周方向に90度離れて配置され,軸方向他端側においては,2つの磁石が互いに
周方向に180度離れて配置されてなる」である。
イ 被告らは,構成要件Cの「軸方向一端と他端側とに前記磁気検出手段で検出
されるための磁石」との文言について,紙管の一端側及び他端側に取り付けられた
複数個の磁石の全てが,薬剤分包装置の磁気検出手段に検出されるとの意味である,
15 換言すれば紙管の両端の磁石が同時に磁気検出手段に検出されるのでなければ構成
要件Cを充足しない旨を主張するものと解される。
そして,被告らは,自ら行った実験(乙32)によれば,一端側又は他端側の磁
石を取り外した使用済み紙管を原告装置に使用した場合であっても,適切に圧着が
なされ,このことは,原告装置において,紙管の一端側又は他端側の磁石が,磁気
20 検出手段により検出されていないことを示すとして,原告装置に使用される一体化
製品は,構成要件Cを充足しない旨を主張する趣旨と解される。
ウ しかしながら,原告が提出した証拠(甲28,29)によれば,原告装置に
は,分包紙ロールの紙管を支持する支持軸の先端側及び基端側の両方に,それぞれ
2個の磁気検出手段が設けられ,紙管の一端側と他端側との双方の磁石を検出する
25 とされているのであって,被告らの前記実験が,これを覆すとまでは認められず,
被告らの主張は,そもそもにおいて前提を欠くといわざるを得ない。
また,本件発明は,「分包紙ロール」に係る発明であり,前記1のとおり,紙管
に巻き回された分包紙の種類の判別を,従来の人手によるのではなく薬剤分包装置
に行わせることを課題として,これを解決するため,紙管に識別子として磁石を設
け,薬剤分包装置の磁気検出手段で検出されるための磁石を,紙管の一端側と他端
5 側の両方に複数個ずつ設け,一端側と他端側とで取付角度を変えて読取パターンの
情報量を多くするとの構成を採ったものである。
そうすると,ある特定の薬剤分包装置に分包紙ロールが装着された場合,その薬
剤分包装置が,紙管の一端側及び他端側に設けられた複数の磁石をすべて同時に検
出するか,一端側又は他端側のいずれかの磁石のみを検出するかは,本件発明の技
10 術的範囲の属否には無関係であり,分包紙ロールにおいて,紙管の軸方向一端側及
び他端側に,磁気検出手段で検出されるための磁石が取付角度を異ならせて複数個
ずつ設けられていれば,本件発明の構成要件Cを充足すると解するのが相当である。
エ 以上によれば,一体化製品の構成cは,本件発明の構成要件Cを充足すると
認められる。
15 ⑶ まとめ
これまで検討してきたところによれば,一体化製品は,本件発明の構成要件B及
びCを充足し,その余の構成要件については争いがないから,被告製品に使用済み
紙管を合わせた一体化製品は,本件特許の技術的範囲に属するということができる。
3 争点⑵(被告製品は,一体化製品の生産に「のみ」用いる物か)
20 ⑴ 認定事実(後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
ア 別紙「被告製品説明書」のとおり,被告製品の長さは70㎜,挿入部分の内
径は52㎜であり,芯材の軸方向一端側には,挿入部分の内径よりも一回り狭い径
の,軸方向外側に3㎜突出する円環状のストッパーが形成されている。
原告製の使用済み紙管の長さは70㎜,外径は51㎜であることから,使用済み
25 紙管の外周に輪ゴムを巻くことにより,被告製品にぴったりと挿入着し,空回りす
ることなく原告装置において使用することができる。
イ 被告日進作成のチラシ(甲5の1,2)には,被告日進の販売する分包紙ロ
ールについて,「複数メーカー機にも装着可能!!」との記載があり,「A111
グラシン無地70W」,「A112セロポリ薄口無地70W」,「A113セロポ
リ薄口白帯70W」,「B121グラシン無地70W」(被告製品1),「B12
5 2セロポリ薄口無地70W」(被告製品2)の5種類の製品が掲載され,「分包紙
Bタイプ」には,「TK機適合品」との記載がなされ,その使用方法として,原告
製の使用済み紙管の写真と,「※挿入方向注意 挿入方向を間違えると,機械のシ
ール温度が上がらず圧着不良による薬こぼれが発生します。」,「基本は,磁石配
置が左180°:右90°」といった注意書きがあり,被告製品を正しく装着した
10 写真が掲載されている。
また,別のチラシ(甲12)には,「※本製品は当社分包機の専用分包紙であり,
各社分包機メーカー及びお客様ご使用の分包機メーカーとは無関係で,承認を受け
た製品ではありません。」という記載の下に,「他社分包機での使用参考例」とし
て,「お手持ちの『使用済み分包機メーカー製芯管』に輪ゴム等で空回りを防止し
15 て,当社分包紙を挿入すればお客様ご使用の分包機に装着することができます。」
との記載と,挿入方法のイメージ図が掲載されており,「Bタイプ使用例」として,
原告製の使用済み紙管の模式図及び上記と同様の注意書きが記載されている。
ウ 全国の調剤薬局及び病院を対象とした平成27年の調査(甲11)によれば,
現在使用している薬科機器のメーカー及び主に使用している薬科機器のメーカーの
20 シェアのいずれも9割近くを,原告を含む3社が占めているが,原告以外の2社の
製造・販売する分包紙ロールの紙管は,長さは原告製品と同様の70㎜であるもの
の,外径はそれぞれ66㎜と55㎜であり,外観もそれぞれ異なっていることが認
められる(甲7)。
エ 以上によれば,被告日進のチラシにある「TK機適合品」の「TK」は,原
25 告の商号(タカゾノ)を略したもの,商品番号にBが付され,あるいはBタイプと
して紹介されているものは,原告製品の利用者が保有する使用済み紙管に合わせて
一体化製品とし,原告装置に使用することを予定したものと解するのが相当である
から,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いる物と解するのが相当である。
⑵ 被告らの主張について
ア 被告らは,一体化製品には,本件発明の技術的範囲に属しないものがあるほ
5 か,被告日進製の薬剤分包装置及びウエダ製の薬剤分包装置にも使用可能であると
して,一体化製品の生産にのみ用いる物には当たらないと主張する。
イ 被告装置について
後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実
被告日進は,被告製品を含む被告日進の販売する分包紙ロール(前記⑴イ)を専
10 用分包紙とする被告装置を販売しているところ,平成27年に作成したチラシ(甲
5の1)には「N-21B」が,平成29年ころに作成した製品カタログ(乙28)
及び平成30年に作成したパンフレット(乙1)には,その後継機である「BEE
TA V-PLUS 21MT」が掲載されている。また,被告日進が顧客に配布
するチラシ(乙30,31)には,被告日進の販売する分包紙ロールの対応機種と
15 して,同機種が掲載されている。
「BEETA V-PLUS 21MT」の販売数量は,平成29年から令和2
年の間に9台(平成29年に1台,令和元年に2台,令和2年に8台が販売され,
そのうち2台が返品された。),貸出(リース)数量は13台,「N-21B」の
販売数量は0台,貸出数量は1台である(乙21,22,87)。
20 前記認定したところによれば,被告装置は,平成27年ころからチラシに掲
載されているものの,実際に顧客へ販売されたことが認められるのは平成29年か
らであり,販売総数11台(返品2台を含む。)のうち8台が令和2年に販売され
たものである。また,貸出についても,平成30年以前に顧客の元へリースされた
ことを示す証拠はない。
25 他方,被告製品は平成27年7月ころから販売されているところ,平成29年1
2月,原告から被告日進に対して本件特許権に関する警告書が送付され,平成30
年1月,被告日進から原告に対して回答書が送付された後(甲9,10),同年4
月に本訴が提起されたことが認められる。
そうすると,被告製品の販売が開始された時点では,被告装置を保有するユーザ
ーがいたとは認められないことから,被告製品が被告装置に装着されることはおよ
5 そ予定されておらず,むしろ,本件特許権に関する紛争が顕在化したころ以降に,
販売 貸出合わせて22台の被告装置がユーザーの手元に届いたものと認められる。
・
また,後記6で認定するとおり,被告製品は,平成27年7月から令和元年8月
までの間に総計1万3000個以上販売されているのであるから,被告装置を保有
する者が被告製品を購入することがあったとしても,ごく少数の例外と位置付けら
10 れる。
ウ ウエダ製分包装置について
証拠(甲24,乙2,3)によれば,被告日進の顧客の動物病院において,ウエ
ダ製分包装置の支持軸に,被告製品を直接装着して分包作業を行っていること,上
記支持軸は,ウエダ製分包装置に元から備わっていた支持軸ではなく,顧客が自ら
15 製作した支持軸であること,同支持軸と被告製品の内径との間に広い隙間があるこ
と,実際の分包作業において,粉末の一部が最終包の後に残ることが認められる と
ころ,このような使用方法は,現実的に意味のあるものとは認められない。
エ まとめ
以上検討したところによれば,被告製品を使用する被告装置については,紛争の
20 顕在化後にごく少数流通に置かれたにすぎず,ウエダ製分包装置に使用する方法は
現実的でないから,被告製品においては,原告製の使用済み紙管と合わせ一体化製
品として使用する以外の用途は,実質的に意味あるものとしては存在しなかったと
認めるのが相当である。また,一体化製品は構成要件を充足しないので,本件発明
の技術的範囲に属する物の生産に用いる物ではないとの主張は,前記2で述べたと
25 おり理由がない。
4 争点⑶(間接侵害の成否)
ア これまで検討したところによれば,原告製の使用済み紙管を保有する者は,
被告製品と合わせることで一体化製品を生産できること,一体化製品は本件特許の
技術的範囲に属すること,被告製品は,一体化製品の生産にのみ用いられる物であ
ることが認められるから,業として被告製品を製造,販売することは,特許法10
5 1条1号の間接侵害に当たるというべきである。
この点について被告らは,原告製品の購入者は,紙管に分包紙を合わせて買い受
けたものであるところ,本件発明の本質は紙管部分にあるから,分包紙を費消した
としても原告製品の効用は終了せず,分包紙の交換は,製品としての同一性を保っ
たまま,通常の用法における消耗部材を交換することにすぎないから,原告は, 原
10 告製品の購入者に対し,本件特許権に基づく権利行使をすることができない旨を主
張する(消尽の法理)。
これに対し原告は,使用済み紙管については原告が所有権を留保しており,一体
化製品の生産は特許製品の新たな製造に当たるとして,消尽を否定し,間接侵害の
成立を主張する。
15 イ そこで検討するに,本件発明の実施品である原告製品を原告より取得した利
用者がこれに何らかの加工を加えて利用した場合に,当初製品の同一性の範囲内で
の利用にとどまり,改めて本件特許権行使の対象にはならないとすべきか,特許製
品の新たな製造にあたり,本件特許権行使の対象となるとすべきかは,当該特許製
品の属性,特許発明の内容,加工及び部材の交換の態様のほか,取引の実情等も総
20 合考慮して判断すべきものである(最高裁判所平成19年11月8日第一小法廷判
決・民集61巻8号2989頁参照)。
本件発明は,分包紙ロールの発明であって,紙管と,紙管に巻き回される分包紙
から成るものであり,紙管についてはこれに設ける磁石の取付方法に限定があるの
に対し,分包紙については,紙管に巻き回す以上の限定がないことは,既に述べた
25 ところから明らかである。
しかしながら,証拠(甲5の1,2,甲23,乙11,12)及び弁論の全趣旨
によれば,分包紙ロールの価格は分包紙の種類によって決められていること,原告
製の使用済み紙管については,相当数が回収されていることが認められるのである
から,本件特許の特徴は紙管の構造にあるとしても,原告製品を購入する利用者が
原告に支払う対価は,基本的に分包紙に対するものであると解されるし,調剤薬局
5 や医院等で薬剤を分包するために使用されるという性質上,当初の分包紙を費消し
た場合に,利用者自らが分包紙を巻き回すなどして使用済み紙管を繰り返し利用す
るといったことは通常予定されておらず,被告製品を利用するといった特別な場合
を除けば,原告より新たな分包紙ロールを購入するというのが,一般的な取引のあ
り方であると解される。
10 また,一体化製品を利用するためには,利用者は,使用済み紙管の外周に輪ゴム
を巻いた上で,これを被告製品の芯材内に挿入しなければならないが,これは,使
用済み紙管を一体化製品として使用し得るよう,一部改造することにほかならない。
そうすると,分包紙ロールは,分包紙を費消した時点で,製品としての効用をい
ったん喪失すると解するのが相当であり,使用済み紙管を被告製品と合わせ一体化
15 製品を作出する行為は,当初製品とは同一性を欠く新たな特許製品の製造に当たる
というべきであり,消尽の法理を適用すべき場合には当たらない。
ウ なお, 原告は,利用者との合意により,使用済み紙管の所有権は原告に留保
されていると主張するところ,証拠(甲3,17ないし21,23,25)によっ
ても,使用済み紙管を原告に返還すべきこととされている取引の実情が認めるにと
20 どまり,利用者との間で所有権留保についての明確な合意が存在するとまでは認め
られないが,前記イで検討したところによれば,使用済み紙管の所有権の所在は,
上記結論を左右するものではない。
エ 以上検討したところによれば,使用済み紙管と被告製品を合わせて一体化製
品を作出すれば,新たな特許製品の製造に当たり,一体化製品の生産にのみ用いる
25 被告製品を業として製造,販売することは,特許法101条1号の間接侵害に当た
るというべきである。
5 争点⑷(本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか。)
⑴ 争点⑷ア(乙4発明を主引例とする進歩性欠如)
ア 乙4発明について
乙4発明は,薬剤分包機においてロールペーパから引き出されるシートの張
5 力をロールペーパ径の変化に応じて段階的に調整するシート張力装置に関する発明
であり(【0001】),実用新案公報(乙4)には,要旨以下の記載がある。
図2のとおり,支持軸1に芯管Pとこれに巻回されたロールペーパRが装着され
ると中空軸1cにより回転自在に支持されると共に,フランジ部15の内径面に適
宜間隔に配置された複数個の磁石16とこれに対向して予め芯管Pの端面円周に沿
10 って配設された強磁性体(鉄部)17に対する吸着力により,装着された芯管Pと
ロールペーパRが中空軸1cに着脱自在に固定される(【0021】)。
図7のとおり,この第2実施形態の芯管Pの内周沿いと支持軸1の片端にそれぞ
れ設けられる磁石24とホール素子センサ25は,4つの磁石24が1つの基点か
ら67.5°ずつ位置が異なる各4点に配置され,4つのホール素子センサ25は
15 上記基点を通る中心線とこれに直交する中心線上の4つの位置に配置されている
(【0044】)。
図6は図2の矢視 VI-VI から見た側面図であり,主として上記包装シートのず
れ検出センサの配置を示すためのものである。この例では支持板11に1つの近接
スイッチ26が設けられ,支持軸1の回転する中空軸1c端のフランジ部15に1
20 6ケの突起27が形成されている。このずれ検出センサは,前述したホール素子セ
ンサ25による回転角度センサの信号を基準として,その基準信号と同一ピッチの
信号が検出されないことにより包装シートの繰出しずれの有無を検出しようとする
ものである(【0048】,【0049】)。
前記各記載事項を整理すると,前記実用新案公報には,以下の発明が記載さ
25 れていると認められる(甲30)。
「ホール素子センサを備える薬剤分包機に装着可能な芯管に薬剤分包用のシート
をロール状に巻いたロールペーパであって,芯管と,芯管に巻き回される薬剤分包
用のシートとを有し,前記芯管は,軸方向一端側に前記ホール素子センサで検出さ
れるための磁石が複数個設けられ,軸方向他端側に強磁性体(鉄部)が複数個設け
られ,しかも軸方向一端側の前記磁石の取付角度が67.5°であり,軸方向他端
5 側の前記強磁性体(鉄部)の取付角度が90°である,芯管と当該芯管に薬剤分包
用のシートをロール状に巻いたロールペーパ。」
【図2】
【図6】 【図7】
イ 乙4発明から容易想到でないこと
本件発明と乙4発明には,本件発明において,軸方向他端側には,薬剤分包装置
に備えられる磁気検出手段により検出されるための磁石が設けられているのに対し,
乙4発明においては,強磁性体(鉄部)が設けられており,薬剤分包装置に備えら
5 れる磁気検出手段により検出されるものではない,という相違点がある。
乙4発明の強磁性体は,分包紙ロールを薬剤分包装置に着脱自在に固定するため
に,薬剤分包装置側に配置された磁石との間で吸着力を生じさせるために配設され
ているものであって,薬剤分包装置に備えられる磁気検出手段により検出されるも
のではない。
10 この点に関し,乙6には,薬剤分包紙などのペーパを巻き取った巻き芯の支持装
置に関する考案として,薬剤分包装置の支持軸に取り付けられた円板の片面に複数
の永久磁石を環状に設け,巻き芯の端面に鉄板などの強磁性板を取り付ける構成が
示され,永久磁石と強磁性板の取付け位置を逆にしてもよい,との記載がある。
被告らは,この記載から,乙4発明における強磁性体17と磁石16とを互いに
15 置き換えることは,単なる設計変更にすぎず,当業者にとって容易想到であると主
張する。
しかし,上記のとおり,乙4発明における強磁性体は,薬剤分包装置側に備えら
れた磁石との間で吸着力を生じさせるために配設されているものであって,これを
磁気検出手段により検出されるための磁石とすることの動機付けはなく,乙6の記
20 載によっても,吸着手段としての強磁性体と磁石の配置を互いに置き換えた上で,
その磁石を磁気検出手段により検出されるための磁石とすることに関する開示や示
唆があるということはできない。
ウ まとめ
したがって,乙4発明を主引例とする進歩性欠如による無効の抗弁は理由がない。
25 ⑵ 争点⑷イ(乙7発明を主引例とする進歩性欠如)
ア 乙7発明について
乙7発明は,ロール巻記録媒体残量検出装置に関する発明であり,特許公報
(乙7)には,要旨以下の記載がある。
ロール状に巻かれた記録媒体の種類に応じて残量を検出するために,下の図6に
示すように,記録巻き芯1aにはその片方の端部の端面に永久磁石によるチップ1
5 b,1cが埋め込まれている。埋め込こまれる位置と数は当該記録紙巻き芯1aに
巻かれた記録紙の種別により,決められている。受け部41aには記録紙巻き芯1
aと係合する側の面にスイッチSWA,SWBが設けられている。このスイッチS
WA,SWBは記録紙ロール1の巻き芯1aに取り付けられている磁石のチップ1
b,1cの有無を検出するものであり,リードスイッチになっている。
10 従って,記録紙ロール1の巻き芯1aに,記録紙の種類に応じて磁石のチップを
つける/つけないを決めておき,スイッチSWA,SWBの検出出力を元に種別を,
マシンの制御部35で判別させるようにする。スイッチSWA,SWBの検出出力
にて2ビットの信号を構成するから,この2ビットの信号により4種類の記録紙を
判別することができる。(【0095】ないし【0097】)。
【図6】
前記各記載事項を整理すると,前記特許公報には,以下の発明が記載されて
いると認められる(甲30)。
5 「磁石のチップの有無を検出するスイッチを備えるカラー静電プロッタに装着可
能な記録紙ロールであって,紙管と,紙管に巻き回される記録紙とを有し,前記紙
管は,片方の端部に前記磁石のチップの有無を検出するスイッチで検出されるため
の永久磁石によるチップが2個設けられる記録紙ロール。」
イ 乙7発明から容易想到でないこと
10 本件発明と乙7発明には,本件発明においては,磁石が軸方向他端側にも複数個
設けられ,しかも軸方向一端側と他端側とで取付角度が異なるのに対して,乙7発
明においては,磁石が軸方向他端側には設けられていない,という相違点がある。
この点に関し,乙8には,インクリボンの供給側コアの両側に嵌め込まれたスプ
ールのそれぞれのつばの有無をセンサで検出し,その検出の有無によってインクリ
ボンの種類を特定する技術事項が記載されており(【0006】),乙9には,イ
ンクリボンロールの巻心の両側の蓋の有無をセンサで検出し,その検出の有無によ
5 ってインクリボンタイプを特定する技術的事項が記載されている(【0016】な
いし【0019】)。
また,乙33には,1枚のカードの同一平面上に,互いに異なる規格に準拠した
配置でICチップを1つずつ設けることにより,カードの挿入方向を変えることで,
違う規格に対応できるようにする技術事項(請求項3の発明),及び1枚のカード
10 の表面及び裏面上に,それぞれ異なる規格に準拠した位置にICチップを1つずつ
設けることにより,カードを挿入する際の面を変えることで,違う規格に対応でき
るようにする技術事項が開示されており(請求項4の発明)が,乙34には,1枚
のカードにおいて,長手方向の一端側と他端側の点対称となる位置に,それぞれ配
線構造の異なる接点群を設けることにより,外部端末装置への挿入方向を変えるこ
15 とで,互いに異なる複数の機能を得られるようにする技術事項が開示されている。
しかし,上記乙8及び9の記載は,いずれも,芯材の各端部に,センサで検出さ
れるための複数の識別子が,取付角度を異ならせて設けられるものではないから,
乙7発明に乙8及び9の技術事項を組み合わせたとしても,上記相違点に係る構成
を想到することはできない。上記乙7の記載事項からすれば,乙7発明は,ある角
20 度をなして配置される複数の磁気検出手段に対向して紙管端部に複数の磁石を配置
し,その検出の有無で記録紙の種類を特定するものであるので,仮に,乙8及び9
の技術事項を組み合わせて,紙管の他端側にも複数の磁石を設けることまでは容易
に想到することができるとしても,その場合は該他端側についても,ある角度をな
して配置される複数の磁気検出手段に対向して複数の磁石を配置し,その有無を検
25 出することになるだけであり,あえて両端側で磁石のなす角度を相互に異ならせる
ことに技術的意義がない。
また,乙33,34の記載は,いずれも,磁気検出手段により検出されるための
互いに異なる識別子をカードの両端又は両面に配設するものであるが,各端部に設
けられた複数の識別子の取付角度を異ならせてカードの種類を判別するものではな
いから,乙7発明に乙33,34の技術事項を組み合わせたとしても,上記相違点
5 に係る構成を想到することはできない。
そして,乙8,9,33,34のいずれにも,両端部に複数個設けた識別子の取
付角度を異なる角度にすることについての開示や示唆は存在しない。
ウ まとめ
したがって,乙7発明を主引例とする進歩性欠如による無効の抗弁は理由がない。
10 ⑶ 争点⑷ウ(サポート要件違反)
前記1のとおり,本件発明の課題は,従来,人手によって行われていた分包紙の
種類の識別を,薬剤分包装置において行うことである。
そのために,本件発明においては,「軸方向一端側と他端側とに前記磁気検出手
段で検出されるための磁石が複数個ずつ設けられ,しかも軸方向一端側と他端側と
15 で前記磁石の取付角度が異なる」構成(構成要件C)が特定されている。
また,本件明細書には,「紙管9の両端面に永久磁石21を複数個ずつ設けるも
のとし,しかも,一端側21aと他端側21bとでその個数,磁力の大小及び取付
角度ψを異ならせるように設定することもできる。即ち,一端側21aでは,例え
ば,0度と60度,他端側21bでは0度と90度というように取付角度ψを変え
20 て設定する等して読取パターンの情報量を多くし,分包紙情報を表すに足る情報量
を紙管ドラム 7 に設定し得るので,部品コストの上昇を最低限にして分包紙情報を
設定できる。」(【0040】)ことが記載されており,薬剤分包装置において分
包紙を識別するという上記課題が,本件発明において上記構成を採用することによ
り解決されることは,当業者にとって明らかである。このことは,薬剤分包装置に
25 おいて,磁気検出時に紙管の両端に設けられた磁石のすべてを同時に検出する態 様
であるか,一端側又は他端側の一方の磁石を検出する態様であるかにかかわらない
ことは,前記2⑵のとおりである。
そうすると,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであ
るといえるから,本件訂正後の特許請求の範囲の記載は,特許法36条6項1号に
定める要件に適合する。
5 ⑷ 争点⑷エ(明確性要件違反)
被告らは,本件発明において,磁気検出手段により検出される磁石が,紙管の一
端側の磁石のみである場合,他端部に取り付けられた磁石は,「磁気検出手段で検
出されるためのもの」でありながら,装着時には磁気検出手段によっては検出され
ないこととなるから,「磁気検出手段で検出されるための磁石」との記載により特
10 定される事項の技術的意義が不明確である旨主張する。
しかし,本件発明の技術的範囲は,薬剤分包装置において,磁気検出時に紙管の
両端に設けられた磁石のすべてを同時に検出する態様であるか,一端側又は他端側
の一方の磁石を検出する態様であるかとは無関係であることは,前記⑶及び2⑵の
とおりである。
15 そうすると,「磁気検出手段で検出されるための磁石」との記載により特定され
る事項の技術的意義は,紙管に設けられた磁石が,磁気検出手段により検出される
目的のものであることであって,特定の薬剤分包装置に装着された際に磁気検出手
段により検出される磁石という意味でないことは,当業者にとっても明らかである。
したがって,「磁気検出手段で検出されるための磁石」との記載により特定され
20 る事項の技術的意義が不明確であるとはいえない。
⑸ 争点⑷についてのまとめ
以上によれば,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものとは認め
られない。
6 争点⑸(原告の損害額)について
25 ⑴ 被告製品の売上金額及び控除すべき費用
ア 被告製品の販売個数及び売上金額(争いなし)
被告日進による,平成27年7月から令和元年8月26日までの被告製品の販売
個数は,被告製品1につき3166個,被告製品2につき1万0258個(合計1
万3424個)であり,同期間の売上金額は,被告製品1につき1012万908
0円,被告製品2につき4939万5456円(合計5952万4536円)であ
5 る。
イ 控除費用について
仕入原価及び運送料(争いなし)
被告日進が被告OHUに支払った仕入原価は,被告製品1につき664万860
0円,被告製品2につき3539万0100円(合計4203万8700円)であ
10 る。
また,被告日進が被告製品をユーザーに配達する際に必要とした運送料の額は,
132万8400円と認められる。
返品・サンプル品等の製造費用
被告らは,返品された被告製品及び顧客に無償提供されたサンプル品等の製造費
15 用(合計22万7850円)は,被告製品を販売するために必要な費用に当たると
主張する。
被告らは,被告セイエーが製造し,被告OHU,被告日進を経て顧客に渡った被
告製品のうち,返品,サンプル提供の名目で対価を得ることができなかったものに
ついて,被告日進の被告OHUへの支払額(1個2100円又は3450円)を控
20 除すべき旨主張するが,返品等が生じた被告製品について,被告日進が被告OHU
に対し,良品と同額の上記金額を支払った旨の主張,立証はないから,この部分に
ついて被告日進に費用の負担は生じていない。
そして,返品等が生じた部分については,製造原価を支払った被告セイエーの負
担になると解するのが合理的であるところ,その額は明らかにされていないため,
25 被告日進の仕入原価の2分の1と推認し,11万3925円を,被告セイエーの利
益から控除するのが相当である。
人件費,車両リース料,ガソリン代,駐車場代及び高速代
被告らは,被告日進において分包紙の販売業務に従事していた従業員2名の人件
費のうち,被告製品の販売に対応する分,及び,上記のうち,分包紙の販売業務に
専従していた従業員1名が使用していた業務用の車両のリース代,ガソリン代,駐
5 車場代及び高速代のうち,被告製品の販売に対応する分(分包紙全体の売上に対す
る被告製品の売上の割合である74%)についても,売上金額から控除すべきであ
ると主張する。
しかし,被告日進は,被告製品以外の製品(被告製品以外の分包紙,被告装置,
一般的な医薬品,医療品等)の販売も行っており,上記2名の従業員が,被告製品
10 の販売以外の業務にも従事していたことを被告らも認めるところであるから,上記
人件費及び車両のリース代等については,被告製品の販売がなくとも必要であった
と認めるのが相当である。
宣伝広告費
被告らは,被告日進が顧客に頒布するパンフレット冊子,リーフレットチラシ,
15 インターネット広告の費用のうち,被告製品が掲載されている部分の割合に相当す
る金額は,被告製品の販売のために追加的に必要となった費用であると主張する 。
他方で,被告らも認めるとおり,上記冊子等には,被告日進の販売する被告製品以
外の製品が多数掲載されている。よって,これらの作成,送付及び掲載に係る費用
については,被告製品の販売がなくとも必要であったものと認められる。
20 まとめ
したがって,被告らの利益から控除することが相当である金額は,仕入原価42
03万8700円,運送料132万8400円,返品等分の製造費用11万392
5円と認めるのが相当である。
⑵ 被告らの利益額
25 ア 被告日進
以上より,被告日進が被告製品の販売によって得た利益の額は,1615万74
36円(5952万4536円-4203万8700円-132万8400円)と
認められる。
イ 被告OHU及び被告セイエー
原告は,前記認定した被告日進の利益率が約27%であることから,被告O
5 HUと被告セイエーの利益率も同程度と推認されること,被告日進の原価率が約7
0%(被告OHUより4203万8700円で仕入れ,5952万4536円で販
売。)であることから,被告OHUの原価率も同程度と推認されること(被告日進
に4203万8700円で売った物は,被告セイエーより2942万7090円で
仕入れた。その27%が被告セイエーの利益。)と主張する。
10 しかしながら,原告において共同不法行為が成立すると主張する被告らの関係に
おいて,被告セイエー,被告OHU,被告日進,顧客と被告製品が流通する過程に
おいて,各段階で高い利益を確保することができる場合もあれば,最終の被告日進
から顧客に至る段階で利益を確保しようとする場合もあり得るところ,本件におい
て,前者の取引形態であったことを示す証拠,あるいはそれを示唆するような事実
15 は何ら示されていない。
原告が推認する利益率,原価率をあてはめた場合,被告日進の販売額の約6割の
金額を,グループとしての被告らは利益として確保したことになり,高額に過ぎる
と解されると同時に,被告セイエーが負担した製造原価以外には,被告OHUも被
告日進も,控除すべき費用をほとんど負担していないことになる。
20 以上によれば,被告らの利益率がすべて27%であり,被告OHUの原価率は被
告日進と同様に70%と推認される旨の原告の主張は採用できないというべきであ
る。
本件において,被告セイエーが負担した製造原価等の経費,被告OHUの被
告セイエーからの仕入額,被告OHUが負担した経費については,主張,証拠共に
25 開示されていないが,これは被告らが開示するよう求められつつこれを拒んだので
はなく,原告が,訴状(平成30年4月20日付け)の段階では,被告セイエー及
び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%の利益を有する旨を主張し,損
害論の審理に入る際の訴えの変更申立書(令和2年1月27日付け)においても,
被告セイエー及び被告OHUは,いずれも被告日進の売上高の3%相当の利益を有
していると主張したため,被告らにおいてこれを争わず,被告セイエーらの経費等
5 に関する主張,証拠を提出しないままに終わったという審理の経緯によるものであ
る。
原告は,被告らが被告日進の売上及び経費に関する主張,証拠を提出した後の訴
えの変更申立書⑵(同年11月13日付け)に
の推認を主張したところ,被告らは,被告セイエー及び被告OHUの利益が被告日
10 進の売上の3%であることについては,裁判上の自白が成立している旨を主張した
ものである。
以上の経緯を前提に検討すると,原告の訴状,訴えの変更申立書の主張は,
被告日進の売上高が確定する前になしたものであるから,具体的な金額についての
ものではなく,裁判上の自白が成立するとはいい難い。
15 他方,被告らの利益率をいずれも27%,被告セイエーの原価率を70%と推認
することについては,具体的な根拠に乏しく,被告セイエー及び被告OHUが負担
した経費等が開示されておらず,これに基づいて被告らの利益を算定できないこと
について,被告らを責めるべき事情は存しない。
以上の審理の経過を踏まえ,原告が訴状の段階から訴訟の最終の段階に至るまで,
20 被告セイエー及び被告OHUの利益は被告日進の売上の3%とする主張を維持し,
被告らもこれを争わずに来たこと,他に依拠すべき算定方法がないことを考慮し,
弁論の全趣旨により,被告セイエー及び被告OHUが被告製品の製造,販売によっ
て得た利益は,被告OHUにつき被告日進の売上の3%である178万5736円,
被告セイエーにつき,同金額から, のとおり,返品等分の製造原価とし
25 て11万3925円を控除した167万1811円と認めるのが相当である。
⑶ 推定の覆滅
これまで検討したところによれば,薬剤分包装置を業務上使用するためには薬剤
分包紙が必須であるから,同装置の利用者は,定期的に自己の保有する薬剤分包装
置に適合した分包紙ロールを購入することとなる。そして,被告製品は,使用済み
紙管の外径とほぼ一致する内径を持つ分包紙ロールであり,被告らが一体化製品を
5 作出して原告装置において使用できることを明示していたこと,市場に存在する原
告製品又は被告製品以外の主な分包紙ロールがこれと異なる寸法の内径を持つもの
であることは前記3⑴ウのとおりであるから,需要者は,原告製の分包紙の代替と
して被告製品を購入していたものと考えられる。
原告は,本件発明の技術的範囲に属する原告製品の製造,販売を独占できる立場
10 にあり,被告製品が市場に存在しない場合には,需要者は値段にかかわらず原告製
品を購入したものと考えられるから,被告製品の価格がこれに比べて有利であるこ
とは,特許法102条2項に基づく前記⑴の推定を覆滅するものではない。
⑷ まとめ(弁護士費用相当額及び原告の損害総額)
以上より,特許法102条2項による原告の損害額は,1961万4983円(1
15 615万7436円+178万5736円+167万1811円)と認められる。
また,これと相当因果関係を有する弁護士費用の額は,200万円と認めるのが
相当である。
したがって,原告に生じた損害の総額は,2161万4983円と認められる。
7 争点⑹(被告らの共同不法行為の成否)
20 被告らは,前記のとおり,被告日進がユーザーに販売する被告製品の全量を被告
OHUに発注し,被告OHUはその被告製品の全量の製造を被告セイエーに委託し,
被告セイエーが被告日進に被告製品を供給するという関係にあり,一体となって被
告製品を製造及び販売していたことが認められる。
また,被告セイエーは,被告OHUの子会社であり,平成30年4月の時点で,
25 被告セイエー及び被告OHUの取締役各3名のうち2名は共通であり,そのうち各
1名がそれぞれの代表者となっており,被告セイエーの監査役は,被告OHUの取
締役を兼任していた(裁判所に顕著な事実)。
これらの事情から,被告らは,少なくとも被告製品の製造・販売事業に関して,
関連会社として一体的な関係にあるものというべきであり,客観的な関連共同性が
存在すると認めるのが相当である。
5 したがって,被告製品の製造・販売につき,原告に対する共同不法行為の成立を
認めるのが相当であり,被告らは,被告製品に関し原告が被った損害額全額(21
61万4983円)について,連帯して損害賠償責任を負う。
8 結論
以上より,原告の請求は主文第1項の限度で理由があるからこれを認容し,その
10 余は棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
谷 有 恒
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
島 村 陽 子
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