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令和2(行ウ)423手続却下処分取消等請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年7月7日
事件種別 民事
当事者 原告ザリージェンツオブザユニバーシティオブカリフォルニア
被告
法令 特許権
キーワード 無効4回
審決1回
侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
1 特許庁長官が,原告のした国際特許出願(特願2018-531203)に
6月14日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。
2 特許庁長官が,令和2年5月13日付けで原告に対してした,令和元年1025
1 本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約
4第1項が定める優先日から2年6月の国内書面提出期間内に同項に規定する
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
2月8日にされた特許出願(本件国際特許出願)とみなされた。25
5)を提出した。
25),同年11月9日,当裁判所に対し,本件処分及び本件裁決の取消
1日改訂版(甲28)であった(以下「本件ガイドライン」という。)。
3 争点
1 争点1(本件処分の取消事由の有無)について25
2 争点2(本件裁決の取消事由の有無)について25
1 争点1(本件処分の取消事由の有無)について
2 争点2(本件裁決の取消事由の有無)について
557頁参照)。本件訴訟は,本件処分の取消請求と本件処分を維持した本
3 結論
事件の概要 1 本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約 (以下「特許協力条約」という。)に基づき国際特許出願(以下「本件国際特 許出願」という。)をした原告が,特許法(以下「法」という。)184条の5 4第1項が定める優先日から2年6月の国内書面提出期間内に同項に規定する 明細書等の翻訳文(以下,「本件明細書等翻訳文」という。)を提出すること ができなかったことについて,同条4項の正当な理由があるにもかかわらず, 特許庁長官(処分行政庁)が令和元年7月17日付けで原告に対して国内書面 に係る手続を却下する処分(以下「本件処分」という。)をするとともに,特10 許庁長官(裁決行政庁)が令和2年5月13日付けで原告に対してした本件処 分の取消しを求める審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。) をしたことが違法であるとして,その各取消しを求める事案である。

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判決文

令和3年7月7日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(行ウ)第423号 手続却下処分取消等請求事件
口頭弁論終結日 令和3年5月12日
判 決
5 原 告 ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
同特許管理人弁護士 山 口 裕 司
同補佐人弁理士 A
被 告 国
処分行政庁兼裁決行政庁 特 許 庁 長 官
10 糟 谷 敏 秀
同指定代理人 奧 江 隆 太
丸 山 貴 紀
大 江 摩 弥 子
今 福 智 文
15 尾 﨑 友 美
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。
20 事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 特許庁長官が,原告のした国際特許出願(特願2018-531203)に
係る手続について,令和元年7月17日付けで原告に対してした,平成30年
6月14日付け提出の国内書面に係る手続の却下の処分を取り消す。
25 2 特許庁長官が,令和2年5月13日付けで原告に対してした,令和元年10
月25日付けでした行政不服審査法による審査請求について,審査請求を棄却
するとの裁決を取り消す。
第2 事案の概要
1 本件は,千九百七十年六月十九日にワシントンで作成された特許協力条約
(以下「特許協力条約」という。)に基づき国際特許出願(以下「本件国際特
5 許出願」という。)をした原告が,特許法(以下「法」という。)184条の
4第1項が定める優先日から2年6月の国内書面提出期間内に同項に規定する
明細書等の翻訳文(以下,「本件明細書等翻訳文」という。)を提出すること
ができなかったことについて,同条4項の正当な理由があるにもかかわらず,
特許庁長官(処分行政庁)が令和元年7月17日付けで原告に対して国内書面
10 に係る手続を却下する処分(以下「本件処分」という。)をするとともに,特
許庁長官(裁決行政庁)が令和2年5月13日付けで原告に対してした本件処
分の取消しを求める審査請求を棄却する旨の裁決(以下「本件裁決」という。)
をしたことが違法であるとして,その各取消しを求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
15 により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に
断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1) 本件処分及び本件裁決に至る経緯
ア 本件国際特許出願
原告は,米国の州立大学を運営する外国法人である。原告は,平成28
20 年12月8日,特許協力条約に基づき,米国特許商標庁を受理官庁として,
外国語(英語)による国際出願(PCT/US2016/065653)
をした(以下「本件国際出願」という。)。(甲1)
本件国際出願は,特許協力条約4条(1)(ⅱ)の指定国に日本国を含むも
のであり,法184条の3第1項により,国際出願日である平成28年1
25 2月8日にされた特許出願(本件国際特許出願)とみなされた。
原告は,平成30年6月5日,本件訴訟の原告補佐人となる弁理士(以
下「担当弁理士」という。)に対し,本件国際出願の国内移行に係る手続
をすること(以下「本件案件」という。)を依頼し,担当弁理士は,同日,
原告に対し,当該手続に係る法184条の4第1項所定の書面及び本件明
細書等翻訳文(以下,国内移行に伴い提出することを要する書面を総称し
5 て「国内書面」という。)の提出期限が同月9日であるとの理解を前提に,
これを受任する旨の返信をした(実際には,同日が金曜日であったことか
ら,その提出期限は同月11日であった。)。(甲5・証拠1,12)
イ 国内書面の提出期限の徒過
担当弁理士の事務所では,技術担当の補助者(以下「技術担当補助者」
10 という。)を通じ,事務担当の補助者(以下「事務担当補助者」とい
う。)に国際出願の国内移行に必要な書面の作成・提出を指示するのが
通常の業務の進め方であったが,本件案件については,担当弁理士が,
平成30年6月7日,事務担当補助者に対し,案件ファイルの作成及び
国内書面の作成を指示するとともに,技術担当補助者に対し,本件国際
15 特許出願に係る国内移行手続を担当するように指示した。
事務担当補助者は,同日,本件案件のファイルを作成するとともに,未
提出の国内書面の印刷物を添付し,技術担当補助者に渡したが,技術担
当補助者は,受領した印刷物を特許庁に提出済みと誤認し,自らの机の
中に収納したまま何らの手続を行わなかった。このため,本件明細書等
20 翻訳文の提出期限は徒過した(以下「本件期間徒過」という。)。
担当弁理士は,平成30年6月14日になり,ようやく本件明細書等
翻訳文がその期限までに提出されていないことを認識するに至った。
ウ 本件国際特許出願は,平成30年6月11日までに本件明細書等翻訳文
が特許庁に提出されなかったことから,法184条の4第3項の規定に
25 より,取り下げられたものとみなされた。
このため,原告は,平成30年6月14日付けで,特許庁長官に対し,
本件国際特許出願について,本件明細書等翻訳文を含む国内書面を提出し
(以下「本件提出手続」という。),更に,同月15日付けで,手続補正
書を提出した。(甲2,3)
原告は,平成30年7月20日付けで,特許庁長官に対し,本件期間徒
5 過には法184条の4第4項の「正当な理由」がある旨の回復理由書(甲
5)を提出した。
エ 特許庁長官は,平成30年12月27日付けで,原告に対し,本件期間
徒過には「正当な理由」があるとは認められず,本件提出手続を却下すべ
きものと認められる旨の却下理由通知書(甲6)を送付した。
10 これに対し,原告は,特許庁長官に対し,平成31年3月8日付け弁明
書(甲7)及び同月27日付け上申書(甲8)を提出し,担当弁理士は,
同年5月15日,特許庁担当官と面接した(甲9)。
特許庁長官は,令和元年7月7日付けで,原告に対し,前記却下理由通
知書に記載した却下理由は解消されておらず,本件提出手続は不適法な手
15 続であるとして,これを却下する旨の本件処分をした(甲10)。
オ 原告は,令和元年10月25日付けで,特許庁長官に対し,本件処分の
取消しを求め,行政不服審査法2条の審査請求をしたが(甲11,12),
特許庁長官は,審理員意見書(甲20)の提出及び行政不服審査会の答申
(甲24)を受けた上,令和2年5月13日,当該審査請求を棄却する旨
20 の本件裁決をした(甲25)。
原告は,令和2年5月14日,本件裁決に係る裁決書謄本を受領し(甲
25),同年11月9日,当裁判所に対し,本件処分及び本件裁決の取消
しを求め,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
(2) 本件処分及び本件裁決の要旨
25 ア 原告は,本件処分及び本件裁決に係る手続において,本件期間徒過の原
因となった以下の事象について,これが予測不可能なものであり,担当弁
理士は,本件期間徒過を避けるため,「相応の措置」を講じていたなどと
主張した(甲5,7,12,23)。
(ア) 担当弁理士の事務所では,技術担当補助者を通じ,事務担当補助者に
国内書面の作成・提出を指示するのが通常の業務の進め方であったが,
5 本件期間徒過に係る案件は,担当弁理士が,自ら事務担当補助者に国内
書面の作成を指示していたこともあって,技術担当補助者が,事務担当
補助者から提出された未提出の国内書面を提出済みのものであると誤認
した(以下「本件事象①」という。)。
(イ) 同事務所では,通常であれば,担当弁理士が,期限管理システムにア
10 クセスし,書面が提出されているかを確認し,本件事象①のような予想
外の事象による期間徒過を回避していたが,その頃,担当弁理士は,他
の案件に多忙を極め,平常時の精神・身体状態を失い,突発的な適応障
害を発症していた可能性も高い状態にあり,期限管理システムにアクセ
スすることができなかった(以下「本件事象②」という。)。
15 イ これに対し,本件処分は,本件事象①について,「補助者が様々な要因
により人為的ミスを犯す可能性があることは事前に十分に予測することが
できるため,代理人においては,補助者の業務をチェックする体制を講じ
ていなければ,補助者に対し十分な管理・監督を行っていたとは認められ
ません。」,同②について,担当弁理士が「期限管理システムへのアクセ
20 スを行うこともできないほどの状態であったことに関して,弁明書におい
ても,診断書等の当該事実を裏付ける客観的資料が提出されていません。
また,担当弁理士の当時の案件数や労働時間については,当該事実を裏付
ける客観的証拠が提出されていません。さらに,担当弁理士は,当時,病
気により通院したり休んだりしていたわけではなく,通常どおり業務を行
25 っていたのであり,他の案件については適切に業務処理を行っていたこと
が認められます。」,仮に,症状が相当重篤であったことが認められると
しても「他の者に期間管理業務を担わせる等の措置を事前に講じていなけ
れば,期間徒過を回避するための相応の措置を講じていたとは認められま
せん。」などと説示して,本件期限徒過について「正当な理由」があった
ということはできないと判断した。(甲10)
5 ウ 本件裁決の裁決書は,法184条の4第4項が,「第三者の監視負担に
配慮しつつ実効的な救済を確保できる要件として,特許法条約12条の
「Due Care」(相当な注意)基準を採用したものであることを考
慮すると」,「「正当な理由」があるときとは,特段の事情のない限り,
出願人(代理人を含む。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわ
10 らず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出すること
ができなかったときをいうと解される」などとした上,本件期間徒過につ
いて,①担当弁理士は,通常と業務の進め方とは異なる方法をとっていた
ほか,期限管理システムの確認もしなかったのであるから「相当な注意を
尽くしていたとはいえない」,②審査請求の手続で提出された診断書は
15 「当時から約1年4か月後の傷病に関するものであり,その他の証拠も含
め,当時,本件担当弁理士が」期限管理システムの「確認作業すらできな
い状態であったと認めるに足りる証拠はな(い)」などと説示して,本件
処分は適法であると判断した。(甲25)
(3) 特許庁のガイドラインの記載(甲28)
20 ア 特許庁は,法の規定する期間徒過に係る救済規定に関し,「期間徒過後
の救済規定に係るガイドライン」と題するガイドラインを公開していると
ころ,本件処分の時期に適用されるガイドラインは,その平成28年4月
1日改訂版(甲28)であった(以下「本件ガイドライン」という。)。
イ 本件ガイドラインは,「手続をするために出願人等が講じていた措置が,
25 状況に応じて必要とされるしかるべき措置(以下「相応の措置」という。)
であったといえる場合に,それにもかかわらず,何らかの理由により期間
徒過に至ったときには,期間内に手続をすることができなかったことにつ
いて「正当な理由」がある」(3.1.1)とした上で,「相応の措置」
について以下のとおり説明している。
(ア) 出願人等が特許庁に対する手続を代理人に委任している場合,…出願
5 人等が手続をするために講じた措置(…)については,原則として,出
願人等だけでなく当該代理人に対しても相応の措置を講じていたか否か
が判断されます。(3.1.5(3))
(イ) 出願人等が補助者を使用し業務を行っている…場合,当該期間徒過の
原因となった事象の発生前に講じた措置が相応の措置といえるか否かに
10 ついては,当該補助者を使用する出願人等が以下のaからcの要件を満
たしているか否かによって判断されます…。(3.1.5(5))
a 補助者として業務の遂行に適任な者を選任していること
b 補助者に対し的確な指導及び指示を行っていること
c 補助者に対し十分な管理・監督を行っていること
15 ウ なお,本件ガイドラインは,「救済規定の適用を受けようとする出願人
等は,回復理由書に記載した事項を裏付ける証拠書類を提出しなければな
りません。」(2.2)とするが,特許庁は,令和2年4月24日,この
ガイドラインによる運用を前提に,「新型コロナウイルス感染症により影
響を受けた手続における救済については,当面の間,証拠書類の提出を必
20 須としない等…柔軟な対応を行う」旨を公表している(甲33)。
3 争点
(1) 本件処分の取消事由の有無(争点1)
(2) 本件裁決の取消事由の有無(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
25 1 争点1(本件処分の取消事由の有無)について
(原告の主張)
(1) 本件期間徒過には,法184条の4第4項所定の「正当な理由」がある。
それにもかかわらず本件提出手続を却下した本件処分は,特許法条約の趣旨
に反した違法無効な処分であり,取り消されるべきである。
ア 本件期間徒過が生じ,担当弁理士が平成30年6月14日付けで本件提
5 出手続をしたのには,以下のような経緯があった。
担当弁理士は,同月7日,事務担当補助者に対し,本件国際特許出願に
係る国内書面の作成を指示し,弁理士たる技術担当補助者に対し,本件国
際特許出願に係る国内移行手続を担当するように指示した。
事務担当補助者は,同日,技術担当補助者に対し,作成した国内書面の
10 印刷物を渡したが,技術担当補助者は,当該書面を提出済みであると誤認
し,これを自分の机の引出しに収納した。
担当弁理士は,同月8日から同月13日まで,クライアントの急な来訪
や別件の処理などに追われ,期限管理システムを確認し,国内書面が提出
されていないことに気付くことができなかった。
15 イ 法184条の4第4項の「正当な理由」という文言は,特許法条約12
条の「Due Care」の基準を採用したものである。当該基準につい
て,世界知的所有権機関の定める「受理官庁ガイドライン」(甲35)は,
代理人の職員による人為的過誤が単独の人為的過誤であった場合にはその
責任が出願人又は代理人に帰せられることはないと説明しており,その際
20 の考慮要素として,「当該アシスタントがその特定の業務を任されていた
年数」を挙げている。
これを本件期間徒過についてみるに,技術担当補助者は,特許庁勤務経
験を有する弁理士であるから,担当弁理士は,その人選に相当な注意を払
ったということができる。そして,技術担当補助者は,特許事務所の業務
25 に従事し始めてから2か月ほどの時期にあったので,事務担当補助者から
渡された書類を提出済みと誤認したこと(本件事象①)は,人為的過誤と
評価すべきである。
これに対し,被告は,担当弁理士が,技術担当補助者及び事務担当補助
者に対し,通常の業務の進め方と異なる指示をしていたのに,この点に係
る注意喚起をしていなかったことを問題とするが,担当弁理士は両補助者
5 の面前で前記の指示をしていたのであり,それ以上の注意喚起をしなけれ
ばならない状況にはなかった。
ウ 本件事象②が生じたことは,担当弁理士にも予期せぬ事態であったから,
期限管理の監督を代替してもらうなどの対策を取ることも不可能であった。
したがって,担当弁理士には,期限管理システムにアクセスし得ない「特
10 段の事情」があったといえる。本件処分は,担当弁理士の事務所の職員に
よる人為的過誤の事情を十分に考慮せず,特許法条約の趣旨に反し,期間
徒過の救済を拒否したのであるから,違法な処分というべきである。
なお,本件処分は,本件事象②に係る客観的証拠が欠如していることを
理由とするが,突発的な精神・身体の不調について,医師が事後的に診断
15 書を出すことは不可能であるから,そもそも,そのような資料は提出のし
ようがない。原告は,それに代わる客観的資料を提出していた。
(2) 本件処分は,行政規則たる本件ガイドラインの規定に基づいてされたもの
であったが,当該規定は,特許法条約及び法の趣旨に反する違法無効なもの
であるから,この観点からも本件処分は違法である。
20 ア 本件ガイドラインは,前提事実(3)イ(ア)のとおり,手続を代理人に委任
した場合に,出願人と代理人の双方について,「相応の措置」の有無の判
断を行うとしており,救済のハードルを高く設定している。しかし,外国
の出願人にとって,日本の特許庁に対する手続を代理人に委任することは
不可欠なことであり,出願人が,一定の実績のある特許事務所の代理人に
25 委任したのであれば,それは「相応の措置」であったというべきである。
また,本件ガイドラインは,前提事実(3)イ(イ)のとおり,補助者が選任
されていた場合に,補助者の選任,指導及び指示,管理及び監督に係る要
件を満たしていたかという基準を定める。確かに,出願人が,補助者の選
任等に関与していたのであれば,出願人に対し,その補助者が生じさせた
期間徒過の不利益を負わせることも正当化されようが,実際上,出願人が,
5 補助者の選任等に関与することはない。
このように,本件ガイドラインの規定は,何ら過失のない出願人が,一
定の実績のある特許事務所の代理人に委任したにもかかわらず,その代理
人や補助者の人為的なミスをもって,特許を受ける権利を喪失させるもの
であり,財産権(憲法29条1項)の重大な侵害となるものである。
10 イ 特許庁は,本件ガイドラインを改訂し,又は「正当な理由」の判断に係
る運用の改善をするべきであったが,そのような改定等が行うことなく,
本件ガイドラインに基づいて本件処分をしたのであるから,取り消される
べきである。
すなわち,特許庁が令和2年3月に公表した「各国における権利回復等
15 の救済措置の基準及び運⽤実態に関する調査研究報告書」(甲32)には,
ユーザーから「現状の運用では,手続をする側に管理上のミスがあれば認
められないようになっており,全ての業務の過程に完璧な管理を求められ
ている。JPOが言う『正当な理由』とは,Due Careと違うのではないか」
などの指摘があったと記載されている。
20 特許庁は,このような調査研究の結果を受け,遅くとも令和元年5月ま
でには,我が国の権利回復等の救済措置の基準や運用が厳格に過ぎること
を認識しており,本件ガイドラインを改訂し,又は運用の改善を図るなど
の措置をとるべきであった。実際,特許庁は,令和2年4月24日,新型
コロナウイルス感染症により影響を受けた手続において,証拠書類の提出
25 を必須としない取扱いを始め(甲33),令和3年2月,産業構造審議会
知的財産分科会特許制度小委員会において,従前の運用には「条約趣旨と
の齟齬」があったとの報告をするに至っている(甲40)。さらに,この
報告を受け,法184条の4第4項の「正当な理由」という文言を「故意
でない」に緩和する法改正が予定されている。
しかるに,特許庁は,本件ガイドラインを改訂し,又は運用の改善を図
5 ることを怠り,そのために特許法条約の趣旨から乖離した本件処分がされ
るに至ったのであるから,本件処分は取り消されるべきである。
(3) 特許庁長官が,証拠資料の提出を原告に促すなどの措置をとらないまま,
客観的証拠が存在しないことを理由に本件提出手続を却下したことには,公
正な手続保障を欠いた違法がある。
10 すなわち,担当弁理士が,令和元年5月10日,「追加説明が許可された
ということは,これまでに提出した書面による主張・立証では回復は認めら
れないということか」で質問したのに対し,特許庁の担当官は「そうではな
い。」と回答した(甲42)。担当弁理士は,このような回答を受けたため,
追加の主張立証が必要であるという認識に至らなかったのであるから,本件
15 処分は不意打ちであり,取り消されるべき違法がある。
また,担当弁理士は,その後の面接手続においても,単に面接記録に丸を
付けるだけの形式的な弁明の機会しか与えられず,証拠が不足している旨の
指摘を受けることはなかった。特許庁長官は,行政手続法上の聴聞手続と同
様に,この面接を通じて証拠書類等の提出を促すなどの公正な手続を保障す
20 るための対応をとるべきであった(行政手続法20条4項参照)。かかる公
正な手続保障を欠く本件処分は違法であり,取り消されるべきである。
(被告の主張)
(1) 本件期間徒過について法184条の4第4項の規定する「正当な理由」が
あるとは認められないので,本件提出手続を却下した本件処分は適法である。
25 ア 担当弁理士の事務所の通常の業務の進め方に従えば,技術担当補助者は,
事務担当補助者に国内書面の作成を指示し,その後,事務担当補助者から
渡された国内書面の内容を確認・修正した上で,自ら又は事務担当補助者
に指示して,これを特許庁長官に提出すべきであったことになる。ところ
が,技術担当補助者は,事務担当補助者が作成した本件国際特許出願の国
内書面を提出済みのものであると誤認し,上記の通常の業務の進め方に従
5 った措置を講じなかった。
イ また,原告の説明によれば,担当弁理士は,本件国際特許出願に係る手
続を技術担当補助者に担当させながら,その国内書面の作成を事務担当補
助者に指示していたとのことである。そうすると,担当弁理士は,自ら通
常の業務の進め方とは異なる方法を取りながら,技術担当補助者及び事務
10 担当補助者に対し,その旨の注意喚起をしなかったことになる。しかも,
担当弁理士は,期限管理システムによって,提出手続が期限内に完了して
いることを確認するのが通常の業務の進め方であったにもかかわらず,平
成30年6月7日から同月11日まで,その確認を怠った。
ウ 原告は,本件事象①が生じることは,担当弁理士には想定し得ない事態
15 であり,業務の繁忙度も相まって,これに対処することは不可能であった
と主張するが,いかに多忙でも,前記の注意喚起や期限管理システムの確
認をすることが不可能であったとは考え難い。補助者の何らかの人的過誤
による期限の看過は想定し得る事態であり,そうであるからこそ,期限管
理システムの確認をすることが必要となる。本件事象①も,このような想
20 定を逸脱するものではなかったから,期限管理システムの確認によって,
本件期間徒過を防ぐことはできたと考えられる。
(2) これに対し,原告は,本件ガイドラインの法規範性を前提として本件処分
が違法であるなどと主張するが,以下のとおり,失当である。
ア 原告は,本件ガイドラインが,特許法条約及び法の趣旨に反するもので
25 あるから,本件処分が違法であるなどと主張するが,本件ガイドラインは
法規範性を有さず,本件処分の根拠規定となったものではない。特許庁長
官は,諸般の事情を総合考慮し,本件期間徒過につき法184条の4第4
項所定の「正当な理由」がないものと判断し,法18条の2第1項本文の
規定に基づき本件処分をしたのであるから,原告の主張は失当である。
なお,原告は,本件ガイドラインによれば,代理人を選任すると,救済
5 のハードルが高くなってしまうと主張するが,代理人を選任した出願人と
代理人を選任しない出願人とでは,期間徒過を回避するために払うべき注
意の内容が異なるのであるから,前者の場合に救済のハードルが上がると
しても不合理ではない。
イ 原告は,特許庁が本件ガイドラインの改訂や運用の改善をしないまま本
10 件処分をしたことが違法であるとも主張するが,本件ガイドラインが法規
範性を有さず,本件処分の根拠規定となったものではないことは前記のと
おりであり,原告指摘の調査報告書の存在をもって,直ちに本件ガイドラ
インの改訂や運用の改善をする法的義務が生じるということもできない。
(3) 原告は,特許庁長官が,行政手続法における聴聞手続と同様に,原告に対
15 して証拠書類等の提出を促す必要があったのに,そのような手続保障を怠っ
たと主張する。
しかし,行政手続法第3章の「不利益処分」の規定が本件処分に適用され
ないことは,法195条の3の規定から明らかであって,その聴聞手続と同
様の手続保障を要するものではない。特許庁長官は,原告に対し,却下理由
20 を明示して却下理由通知書を送付し,原告から弁明書の提出を受けた上で本
件処分をしているのであるから,何ら手続保障に欠けるところはない。
原告は,特許庁の担当官との面接も問題とするが,当該面接は,法律上の
根拠を有する手続ではない。担当官は,担当弁理士の要請を受け,当該面接
に応じたのであり,この点でも手続保障に欠けるところはない。
25 2 争点2(本件裁決の取消事由の有無)について
(原告の主張)
(1) 原告は,審査請求の手続において,本件処分における「正当な理由」の解
釈について,法を改正した立法趣旨に沿う運用がされていない点を指摘し,
本件事象②に係る認定について,原告に証拠の提出を指示するなどしないま
ま,証拠の不存在を理由に却下したことなどを指摘した。
5 しかるに,本件裁決は,原告の指摘に答えることなく,「正当な理由」に
ついての過度に厳格な解釈を繰り返し,原告の審査請求に理由がないと結論
付けたのであるから,理由付記不備や審理不尽があるものとして,取り消さ
れるべきである。
(2) 本件期間徒過は,技術担当補助者が,事務担当補助者から渡された国内書
10 面を提出済みのものであると誤認し,これを机の引出しに保管したままにし
てたことから生じたことである。技術担当補助者は,特許庁の勤務経験を有
し,十分な知識と判断力を有する弁理士であり,担当弁理士は,かかる経歴
及び知識等を有する者を本件国際特許出願に係る担当者に選任した上,両補
助者の面前で作業の指示をしていたのであるから,本件事象①のような異常
15 事態が生じることは想定し得なかった。
また,本件期間徒過は,期限管理システムを確認する立場にあった担当弁
理士が,多忙を極めていたため,前記のような異常事態を想定・対処するこ
とが不可能であったという事情も競合して生じたものである。
原告としては,本件国際特許出願の国内移行手続のため,米国の代理人経
20 由で日本の代理人を選任し,その期限を明記した上で手続を進めるように指
示していたのであるから,委任先である日本の特許事務所の内部事情により
本件期間徒過が生じることを防止するための措置を講じようがなかった。
しかるに,本件裁決の裁決書は,「正当な理由」についての相当な注意を
尽くすべき主体を「出願人(代理人を含む。)」としながら,代理人に係る
25 事情のみを判断しているのであり,その判断には,理由付記不備,審理不尽
の瑕疵がある。
(被告の主張)
(1) 本件裁決は,行政不服審査法の規定に適合した手続で行われ,本件裁決書
は,同法50条1項各号所定の事項を記載し,審査請求がされた行政庁であ
る特許庁長官が記名押印したものであり,裁決主体,審理手続,裁決の形式
5 など形式面の瑕疵はない。そのほか,本件裁決固有の瑕疵を基礎付けるよう
な事情は何もないのであるから,本件裁決は適法である。
(2) 原告の主張は,要するに,本件裁決が「正当な理由」の判断を誤ったと
して,本件処分の違法事由をいうものである。しかし,法は,審決等に対す
る訴えを除き,いわゆる裁決主義を採用していないから,本件裁決の取消し
10 を求める訴えには行政事件訴訟法10条2項が適用され,本件処分に係る違
法事由を主張することは許されない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件処分の取消事由の有無)について
(1) 「正当な理由」の意義
15 法184条の4第3項により取り下げられたものとみなされた国際特許出
願の出願人は,国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができ
なかったことについて「正当な理由」があるときは,その理由がなくなった
日から2月以内で国内書面提出期間の経過後1年以内に限り,明細書等翻訳
文等を特許庁長官に提出することができる(法184条の4第4項,同法施
20 行規則38条の2第2項)。そして,ここにいう「正当な理由」があるとき
とは,特段の事情のない限り,国際特許出願を行う出願人(代理人を含
む。)として,相当な注意を尽くしていたにもかかわらず,客観的にみて国
内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出することができなかったときをい
うものと解するのが相当である(知的財産高等裁判所平成29年3月7日判
25 決・判例タイムズ1445号135頁参照)。
(2) 「正当な理由」の有無
ア 技術担当補助者について
前記前提事実(1)イのとおり,本件期限徒過は,出願人から本件国際特
許出願の国内移行手続の委任を受けた担当弁理士事務所の技術担当補助者
が,事務担当補助者から受け取った未提出の国内書面の印刷物を提出済み
5 と誤認し,自らの机の中に収納したまま放置したことに起因するものであ
る。
原告は,担当弁理士の特許事務所における通常の業務の流れは,技術担
当補助者を通じて事務担当補助者に対し国内書面の作成・提出を指示する
というものであったが,本件国際特許出願については,担当弁理士が,両
10 補助者の面前において,事務担当補助者に対し国内書面の作成を指示する
とともに,技術担当補助者に本件案件を担当することを指示したと説明す
る。
しかし,いずれの業務の流れにおいても,技術担当補助者は,事務担当
補助者の作成した書面の正確性等を確認した上で,特許庁への提出を行う
15 ことになるのであるから,事務担当補助者から受け取った書面を十分に確
認することなく,特許庁に提出済みであると誤認することは,補助者とし
ての基本的かつ初歩的な業務を怠ったものといわざるを得ず,事務担当補
助者に対し当該書面が提出済みかどうかを口頭で確認することが困難であ
ったことをうかがわせる事情も存在しない。
20 イ 担当弁理士について
(ア) 補助者に対する管理・監督について
原告は,担当弁理士は,特許庁勤務経験を有する弁理士を技術担当補
助者に選任するなどして,法の規定する期限徒過が生じないようにする
ために相当な注意を払っていたなどと主張する。
25 しかし,担当弁理士が,一定の知識や経歴を有する者を技術担当補助
者として選任したとしても,それのみで相当な注意を尽くしたというこ
とはできない。特に,本件案件を担当した技術担当補助者は,担当弁理
士の特許事務所の業務に従事し始めてから2か月しか経っていなかった
のであり,また,本件案件については通常の業務の流れと異なる方法で
両補助者に指示をしたというのであるから,担当弁理士としては,必要
5 な注意喚起をした上で,本件国際特許出願に係る国内書面の作成の進捗
状況を確認し,提出期限を徒過することがないように事前に技術担当補
助者又は事務担当補助者に確認すべきであったというべきである。そし
て,かかる確認を行うことは容易であったと考えられるが,担当弁理士
がかかる確認作業を行ったと認めるに足りる証拠はない。
10 そうすると,担当弁理士が,本件事象①の発生の防止のため相当な注
意を尽くしていたということはできず,同事象の発生をもって技術担当
補助者の単独の人為的過誤によるものと評価することもできない。
(イ) 期限管理システムの確認について
前記前提事実(1)ア及びイのとおり,本件国際特許出願の国内移行に
15 係る国内書面の提出期限は平成30年6月11日(担当弁理士は同月9
日と認識していた。)であったが,担当弁理士は,提出期限に至るまで
期限管理システムを確認しておらず,ようやく同月14日になって本件
本件期間徒過に気付いたとの事実が認められる。
原告は,担当弁理士が期限管理システムにアクセスしなかった理由に
20 ついて,担当弁理士がその当時繁忙を極め,平常時の精神・身体状態を
失い,突発的な適応障害を発症していた可能性も高い状態にあったこと
が原因であり,本件期間徒過を救済すべき「特段の事情」があったと主
張する。
しかし,担当弁理士が,本件期間徒過の生じた当時,多数の案件を担
25 当していたことは認め得る(甲12の1)としても,その頃に適応障害
を発症して,通常の業務を遂行し得ない状態にあったと認めるに足りる
証拠はなく,これらの症状により本件案件以外の業務に支障が生じてい
たことを具体的に示す証拠もない。まして,期限管理システムにアクセ
スし,提出期限に遵守状況を確認するという作業は,労力や時間をそれ
ほど要するものではなく,かかる作業も行うことができないような心身
5 の異常を来している状態にあったとは認め難い。
そうすると,本件期間徒過について,それがやむを得なかったと認め
得るような「特段の事情」があったということはできない。
ウ 原告の主張について
原告は,外国の出願人が日本国内における手続について一定の実績のあ
10 る特許事務所の代理人に委任したことをもって「相応の措置」を尽くした
というべきであり,出願人と代理人の双方について「相応の措置」の有無
の判断を行うのは不合理であると主張する。
しかし,出願人が手続を代理人に委任している場合において,出願人と
代理人の双方について「相応の措置」の有無の判断を行うことは当然であ
15 り,出願人が一定の実績のある特許事務所の代理人に委任しさえすれば,
委任を受けた代理人が相当な注意を尽くしたかを問わず「正当な理由」が
あると解することはできない。本件のように,出願人である原告が担当弁
理士に手続を委任し,その管理監督のための措置を特に講じていなかった
ところ,当該弁理士及びその補助者が手続の期限を徒過し,それについて
20 相当な注意を尽くしていたと認められない場合には,原告についても相応
の措置を尽くしたということはできないというべきである。
エ 以上によれば,原告及び担当弁理士が,相当な注意を尽くしていたにも
かかわらず,客観的にみて国内書面提出期間内に明細書等翻訳文を提出す
ることができなかったということはできない。
25 (3) 原告の主張について
ア 原告は,本件処分は,行政規則たる本件ガイドラインの規定に基づいて
されたものであったが,当該ガイドラインの規定は違法無効なものである
から,本件処分は違法であると主張するが,本件ガイドラインは法規範性
のある行政規則ではないのであるから,かかる前提に基づく主張はいずれ
も理由がない。
5 イ 原告は,特許庁長官が,証拠資料の提出を原告に促すなどの措置をとら
ないまま本件処分をしたことは,原告に対する不意打ちであり,公正な手
続保障を欠くと主張する。
しかし,特許庁長官は,原告に対し,「診断書等の客観的資料が提出さ
れておらず,当該事実を認めるに足りる立証がなされていない」などの理
10 由を記載した却下理由通知書(甲6)を送付し,同法18条の2第2項に
基づいて原告に弁明の機会を与え,原告が,これに応じ,原告は追加の証
拠資料を添付した弁明書及び上申書(甲7,8)を提出したとの事実が認
められる。
そうすると,本件処分が,不意打ちであり,公正な手続保障を欠くもの
15 であるということはできない。
ウ 原告は,行政手続法20条4項の趣旨に照らし,特許庁長官は,同庁担
当官の面接手続を通じ,原告に対し,積極的に証拠資料の提出を促すべき
であったと主張するが,行政手続法第3章の「不利益処分」の規定は本件
処分に適用されない(法195条の3)。特許庁担当官による面接は,担
20 当弁理士の要請を踏まえ,これに任意に応じる形で行われたものにすぎず,
同庁担当官の面接を通じて特許庁長官が原告に証拠資料の提出を促す義務
を負っていたと解すべき理由はない。
(4) 小括
以上のとおり,本件処分が違法の瑕疵を有し,又は無効なものであるとし
25 てその取消しを求める原告の請求は理由がない。
2 争点2(本件裁決の取消事由の有無)について
(1) 理由付記不備の違法
原告は,本件裁決が,「正当な理由」の解釈を含め,原告が問題とする審
査請求の理由に答えないまま,原告の審査請求に理由がないと結論付けてい
ることが,理由付記不備の違法を構成すると主張する。
5 しかし,原処分と原処分を維持した裁決の取消しとを同時に求める訴えに
おいて,原処分の取消請求を棄却すべき場合には,裁決の理由付記不備の違
法は,当該裁決の取消事由とならないと解すべきである(最高裁昭和36年
(オ)第409号37年12月26日第二小法廷判決・民集16巻12号2
557頁参照)。本件訴訟は,本件処分の取消請求と本件処分を維持した本
10 件裁決の取消請求とを併合提起したものであり,前記1のとおり,本件処分
は適法であって,本件処分に対する取消請求は棄却されるべきであるから,
原告の主張する理由付記不備の違法は,本件裁決の取消事由とならない。
(2) 審理不尽の違法
原告は,審理不尽の違法も言及するが,その趣旨は,前記(1)にいう不備
15 のある理由を解消するに足る審理を尽くすべきであったというものと理解さ
れる。しかし,原告の主張する理由付記不備の違法が本件裁決の取消事由と
ならないことは前記(1)のとおりであり,他に裁決手続に審理不尽の違法が
あると認めるに足りる証拠はない。
(3) 小括
20 以上のとおり,本件裁決に取消事由があるとして,その取消しを求める原
告の請求は理由がない。
3 結論
よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これらを棄却することと
し,主文のとおり判決する。
25 東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
? 野 俊 太 郎
裁判官
小 田 誉 太 郎

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