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令和2(行ケ)10003審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年6月28日
事件種別 民事
当事者 原告高砂工業株式会社
被告株式会社IHI 株式会社IHI機械システム
対象物 真空洗浄装置および真空洗浄方法
法令 特許権
特許法36条4項1号12回
特許法36条6項1号9回
特許法29条1項3号6回
特許法123条1項2号4回
キーワード 審決277回
実施108回
無効55回
進歩性38回
分割19回
優先権9回
無効審判7回
特許権5回
刊行物5回
新規性3回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 特許庁における手続の経緯等 被告らは,発明の名称を「真空洗浄装置および真空洗浄方法」とする発明に 係る特許(特許第6043888号。以下「本件特許」という。)の特許権者で ある。本件特許の請求項1~5に係る発明についての特許出願は,平成24年 (2012年)11月20日を国際出願日(優先権主張 平成23年(201

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判決文

令和3年6月28日判決言渡
令和2年(行ケ)第10003号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年4月19日
判 決
原 告 高 砂 工 業 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 小 野 寺 良 文
同 佐 々 木 奏
同 平 田 憲 人
同 位 田 陽 平
訴訟代理人弁理士 大 塚 康 徳
同 大 塚 康 弘
同 木 村 秀 二
被 告 株 式 会 社 I H I
被 告 株式会社IHI機械システム
被告ら訴訟代理人弁護士 牧 野 知 彦
同 加 治 梓 子
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2018-800151号事件について令和元年12月4日
にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
被告らは,発明の名称を「真空洗浄装置および真空洗浄方法」とする発明に
係る特許(特許第6043888号。以下「本件特許」という。)の特許権者で
ある。本件特許の請求項1~5に係る発明についての特許出願は,平成24年
(2012年)11月20日を国際出願日(優先権主張 平成23年(201
1年)11月25日)とする特願2013-545937号(以下「原々々出
願」という。)の一部を平成27年(2015年)2月6日に新たな特許出願と
し(特願2015-22618号,原々出願),更にその一部を平成28年(2
016年)7月20日に新たな特許出願とし(特願2016-142767号,
以下「原出願」という。,更にその一部を平成28年7月26日に新たな特許

出願としたもの(特願2016-146784号)であり,平成28年11月
18日に本件特許の設定登録(請求項の数5)がされたものである。
(なお,本
件特許の特許請求の範囲,明細書及び図面は,平成28年7月26日の出願か
らその後の登録まで変更はない。以下,本件特許の特許請求の範囲を「本件特
許請求の範囲」,明細書を「本件特許明細書」といい,本件特許請求の範囲,本
件特許明細書及び図面を併せて「本件特許明細書等」という。)
原告(請求人)は,平成30年12月19日,特許庁に対し,本件特許(請
求項1~5の発明に係る特許)につき無効審判請求をし(無効2018-80
0151号),特許庁は,令和元年12月4日,結論を「本件審判の請求は,成
り立たない。審判費用は,請求人の負担とする。」との審決(以下「本件審決」
という。)をし,その謄本は,令和元年12月13日に原告に送達された。
原告は,令和2年1月10日,本件審決の取消しを求めて本件訴訟を提起し
た。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許請求の範囲の請求項1~5の記載は,以下のとおりである(以下,
各請求項記載の発明は,請求項の番号に応じて,例えば請求項1に係る発明を
「本件特許発明1」などという。各構成要件の記号は本件審決により付された
ものであり,記号の付加について当事者間に争いはない。甲1)(本件審決3
~4頁)。
【請求項1】
(本件特許発明1)
A 真空ポンプと,
B 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
C 前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸気生成
手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と,
D 前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮室と,
E 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と,
F 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮断する開閉
バルブと,を備え,
G 前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バルブに
よって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連
通させてワークを乾燥させる
H ことを特徴とする真空洗浄装置。
【請求項2】
(本件特許発明2)
I 前記温度保持手段は,
前記凝縮室の温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴と
する請求項1記載の真空洗浄装置。
【請求項3】
(本件特許発明3)
J 前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した石油系溶剤を,前記凝縮室
から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備えることを特徴とする請求
項2記載の真空洗浄装置。
【請求項4】
(本件特許発明4)
K 前記洗浄室に接続され,前記石油系溶剤が貯留されるとともに当該石油系
溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室をさらに備えることを特徴とする請求項1
~3のいずれかに記載の真空洗浄装置。
【請求項5】
(本件特許発明5)
L 真空ポンプを用いることにより,ワークが搬入された洗浄室および凝縮室
を減圧する工程と,
M 石油系溶剤の蒸気を生成し,当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給し
て前記ワークを洗浄する工程と,
N 減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と,
O 前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後,開閉バルブを開弁すること
により前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連
通させてワークを乾燥させる工程と,
P を含む真空洗浄方法。
3 本件審決の理由の要旨
⑴ 無効理由
本件審決において原告(請求人)が主張した無効理由は,次のとおりであ
る(本件審決3~4頁)。
ア 無効理由1
本件特許発明1,2,3,5は,甲10に記載された発明を主引例とし,
甲11~14に記載されるような周知技術との組み合わせにより,その優
先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法2
9条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その発明
に係る特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであ
る。
本件特許発明4は,甲10に記載された発明を主引例とし,甲11~1
4に記載されるような周知技術,及び甲13,甲15,甲16の1,甲1
7に記載されるような周知技術との組み合わせにより,その優先日前に当
業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の
規定により特許を受けることができないものであり,その発明に係る特許
は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
イ 無効理由2
本件特許発明1,2,3,5は,甲18に記載された発明を主引例とし,
甲11~14に記載されるような周知技術との組み合わせにより,その優
先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法2
9条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その発明
に係る特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものであ
る。
本件特許発明4は,甲18に記載された発明を主引例とし,甲11~1
4に記載されるような周知技術,及び甲13,甲15,甲16の1,甲1
7に記載されるような周知技術との組み合わせにより,その優先日前に当
業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の
規定により特許を受けることができないものであり,その発明に係る特許
は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
ウ 無効理由3
本件特許出願は特許法44条1項の規定に違反するから,その出願日は
遡及せず,現実の出願日である平成28年7月26日となる結果,本件特
許発明1~5は原々々出願が国際公開された甲7に記載された発明であ
って,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができないもの
であり,その発明に係る特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効
とすべきものであり,又は甲7に記載された発明に基づいて当業者が容易
に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により
特許を受けることができないものであり,その発明に係る特許は,特許法
123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。
エ 無効理由4
本件特許は,本件特許発明1~5について,発明の詳細な説明の記載が,
当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したも
のでないため,特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていないも
のであり,その発明に係る特許は,特許法123条1項4号に該当し,無
効とすべきものである。
オ 無効理由5
本件特許は,本件特許発明1~5が発明の詳細な説明に記載したもので
ないため,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていないもので
あり,その発明に係る特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効と
すべきものである。
⑵ 主引用例に記載された発明の認定
ア 甲10記載の発明
甲10には,次の発明が記載されている(次の発明は,それぞれ本件特
許発明1~5に対応するものである。本件審決63~64頁)
(当事者間に
争いがない。。

(ア) 甲10発明1
バキュームポンプ14と,
洗浄液7を蒸気化する蒸気発生部4と,
前記蒸気発生部4との連通状態で,前記バキュームポンプ14が作動
して減圧され,この減圧によって前記洗浄液7の沸点が低下して前記蒸
気発生部4で発生した洗浄蒸気が流動し,被洗浄物5と接触して凝縮す
る事により減圧蒸気洗浄が行われる蒸気洗浄部3と,
前記減圧蒸気洗浄が行われる際,前記蒸気発生部4と前記蒸気洗浄部
3とともに,前記バキュームポンプ14により減圧され,また,乾燥処
理を行う際,前記蒸気洗浄部3とともに,前記バキュームポンプ14に
より減圧され,前記蒸気洗浄部3内に残留していた洗浄蒸気が移動し,
凝縮液化する凝縮器15と,
冷却水が流通するとともに,前記凝縮器15の内部に挿通され,前記
凝縮器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能にする冷却パイプ9と,
前記凝縮器15と前記蒸気洗浄部3との間に介在する第1電磁弁17
と,を備え,
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し,前記被洗浄物5を減圧蒸気洗
浄した後,前記バキュームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁
して,前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5
に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ,その際,前記蒸気洗浄部3
内に残留していた洗浄蒸気が,前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器
15に移動し,凝縮液化する
洗浄装置。
(イ) 甲10発明2
前記冷却パイプ9の温度は,前記冷却パイプ9が挿通された前記凝縮
器15に導入された洗浄蒸気を凝縮可能なものである甲10発明1の洗
浄装置。
(ウ) 甲10発明3
前記蒸気洗浄部3から前記凝縮器15に導入されて凝縮された凝縮液
を,前記凝縮器15から第2電磁弁35を介して前記蒸気発生部4に移
送する甲10発明2の洗浄装置。
(エ) 甲10発明4
前記蒸気洗浄部3に,前記洗浄液7を充填した洗浄液槽20から前記
洗浄液7を導入して,前記被洗浄物5の浸漬洗浄処理を行う甲10発明
1,甲10発明2又は甲10発明3の洗浄装置。
(オ) 甲10発明5
蒸気発生部4と蒸気洗浄部3との連通状態でバキュームポンプ14を
作動させて,被洗浄物5が載置台6に載置された蒸気洗浄部3を,第1
電磁弁17及び凝縮器15を介して減圧する工程と,
洗浄液7を蒸気化し,洗浄蒸気が減圧の状態の前記蒸気洗浄部3に流
動して前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄する工程と,
凝縮器15の内部に挿通された冷却パイプ9に冷却水を流通させる工
程と,
洗浄蒸気が前記蒸気洗浄部3に流動し,前記被洗浄物5を減圧蒸気洗
浄した後,前記バキュームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁
して,前記蒸気洗浄部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5
に付着した前記洗浄液7を急速に乾燥させ,その際,前記蒸気洗浄部3
内に残留していた洗浄蒸気が,前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器
15に移動し,凝縮液化する工程と,
を含む洗浄方法。
イ 甲18記載の発明
甲18には,次の発明が記載されている(次の発明は,それぞれ本件特
許発明1~5に対応するものである。本件審決73~74頁)
(当事者間に
争いがない。。

(ア) 甲18発明1
真空ポンプ26及び真空ポンプ36と,
溶剤が貯蔵されており,ヒータ60が起動されて前記溶剤の蒸気を発
生させる蒸留タンク58と,
前記真空ポンプ26により負のゲージ圧が印加され,前記蒸留タンク
58内の溶剤の蒸気が流入され物品20を洗浄する室12と,
前記真空ポンプ36が作動し,前記室12内の蒸気が引き出される際,
蒸気を凝縮する凝縮器34と,
前記凝縮器34に冷却剤を供給するのに使用される冷却器ユニット4
8と,
前記凝縮器34と前記室12との間に介在するバルブ32と,を備え,
溶剤の蒸気が前記室12に流入し,前記物品20を洗浄した後,前記
バルブ32が開放した状態で,前記真空ポンプ36を作動させ,前記室
12内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ,蒸気を前記凝縮
器34で凝縮させる
改良型密閉回路溶剤洗浄システム。
(イ) 甲18発明2
前記冷却器ユニット48が供給する前記冷却剤の温度は,前記冷却剤
が供給される前記凝縮器34に流入する蒸気を凝縮可能なものである甲
18発明1の改良型密閉回路溶剤洗浄システム。
(ウ) 甲18発明3
前記室12内の蒸気が引き出されて前記凝縮器34で凝縮した溶剤が,
保管タンク38へ送達され,それから清浄な溶剤が再利用のためバルブ
42,バルブ72を通って前記蒸留タンク58へ戻される甲18発明2
の改良型密閉回路溶剤洗浄システム。
(エ) 甲18発明4
溶剤を前記室12に充填して,液体洗浄のため物品20を水面下に置
く甲18発明1,甲18発明2又は甲18発明3の改良型密閉回路溶剤
洗浄システム。
(オ) 甲18発明5
真空ポンプ26を作動させ,物品20が支持体22に載置された室1
2に負のゲージ圧を印加する工程と,
溶剤の蒸気を発生させ,当該蒸気を前記室12に流入させ前記物品2
0を洗浄する工程と,
冷却器ユニット48が凝縮器34に冷却剤を供給する工程と,
溶剤の蒸気が前記室12に流入し,前記物品20を洗浄した後,前記
バルブ32が開放した状態で,真空ポンプ36を作動させ,前記室12
内の蒸気が引き出されて前記物品20を乾燥させ,蒸気を前記凝縮器3
4で凝縮させる工程と,
を含む改良型密閉回路溶剤洗浄方法。
⑶ 本件特許発明1~5と主引用例に記載された発明の対比
ア 本件特許発明1~5と甲10発明1~5の対比
(ア) 本件特許発明1と甲10発明1との対比(本件審決81頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点1-1]
真空ポンプと,
溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸
気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と,
前記真空ポンプによって減圧される凝縮室と,
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と,
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮断す
る開閉バルブと,を備え,
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バ
ルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前
記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。
b 相違点
(a) [相違点1-1](当事者間に争いがない。)
溶剤について,本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対し,
甲10発明1の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。
(b) [相違点1-2](相違点1-2の存在については当事者間に争
いがある。)
ワークの乾燥について,本件特許発明1は「当該減圧の状態が保
持される」凝縮室を備え,開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮
室と連通させて」乾燥させているのに対し,甲10発明1は,バキ
ュームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5
に付着した洗浄液7を乾燥させており,第1電磁弁17によって蒸
気洗浄部3を減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させて乾
燥させているとはいえない点。
(イ) 本件特許発明2と甲10発明2との対比(本件審決85頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点1-1](前記(ア)a)
[一致点1-2]
「前記温度保持手段は,
前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」点。
b 相違点
[相違点1-1][相違点1-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(ウ) 本件特許発明3と甲10発明3との対比(本件審決85~86頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点1-1][一致点1-2]
, (前記(ア)a,(イ)a)
[一致点1-3]
「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を,前記凝
縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」点。
b 相違点
[相違点1-1][相違点1-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(エ) 本件特許発明4と甲10発明4との対比(本件審決86頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点1-1][一致点1-2][一致点1-3]
, , (前記(ア)a,
(イ)a,(ウ)a)
[一致点1-4]
「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」であ
る点。
b 相違点
(a) [相違点1-1][相違点1-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(b) [相違点1-3](当事者間に争いがない。)
ワークの浸漬について,本件特許発明4は「前記洗浄室に接続さ
れ」た「浸漬室をさらに備える」のに対し,甲10発明4は,蒸気
洗浄部3に洗浄液7を充填して浸漬させる点。
(オ) 本件特許発明5と甲10発明5との対比(本件審決89頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点1-5]
真空ポンプを用いることにより,ワークが搬入された洗浄室および
凝縮室を減圧する工程と,
溶剤の蒸気を生成し,当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給し
て前記ワークを洗浄する工程と,
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と,
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後,開閉バルブが開弁さ
れ前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と
連通させた状態でワークを乾燥させる工程と,を含む真空洗浄方法。
b 相違点
(a) [相違点1-4](当事者間に争いがない。)
溶剤について,本件特許発明5は「石油系溶剤」であるのに対し,
甲10発明5の洗浄液7は石油系のものであるか不明である点。
(b) [相違点1-5](相違点1-5の存在については当事者間に争
いがある。)
ワークの乾燥について,本件特許発明5は「減圧下にある」凝縮
室を洗浄室よりも低い温度に保持する工程を備え,「開閉バルブを
開弁することにより」洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥さ
せているのに対し,甲10発明5は,バキュームポンプ14を稼働
し,第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾
燥させており,第1電磁弁17を開弁することにより蒸気洗浄部3
を減圧下にある凝縮器15と連通させて乾燥させているとはいえ
ない点。
イ 本件特許発明1~5と甲18発明1~5の対比
(ア) 本件特許発明1と甲18発明1との対比(本件審決92~93頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点2-1]
真空ポンプと,
溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸
気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する洗浄室と,
前記真空ポンプによって減圧される凝縮室と,
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段と,
前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮断す
る開閉バルブと,を備え,
前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バ
ルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前
記凝縮室と連通させた状態でワークを乾燥させる真空洗浄装置。
b 相違点
(a) [相違点2-1](当事者間に争いがない。)
溶剤について,本件特許発明1は「石油系溶剤」であるのに対し,
甲18発明1の溶剤は石油系のものであるか不明である点。
(b) [相違点2-2](相違点2-2の存在については当事者間に争
いがある。)
ワークの乾燥について,本件特許発明1は「当該減圧の状態が保
持される」凝縮室を備え,開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮
室と連通させて」乾燥させているのに対し,甲18発明1は,バル
ブ32が開放した状態で,真空ポンプ36を作動させ,室12内の
蒸気が引き出されて物品20を乾燥させており,バルブ32によっ
て室12を減圧の状態が保持された凝縮器34と連通させて乾燥
させているとはいえない点。
(イ) 本件特許発明2と甲18発明2との対比(本件審決96頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点2-1](前記(ア)a)
[一致点2-2]
「前記温度保持手段は,
前記凝縮室の温度を前記溶剤の凝縮点以下に保持する」点。
b 相違点
[相違点2-1][相違点2-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(ウ) 本件特許発明3と甲18発明3との対比(本件審決97頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点2-1][一致点2-2]
, (前記(ア)a,(イ)a)
[一致点2-3]
「前記洗浄室から前記凝縮室に導かれて凝縮した前記溶剤を,前記凝
縮室から前記蒸気生成手段に導く回収手段をさらに備える」点。
b 相違点
[相違点2-1][相違点2-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(エ) 本件特許発明4と甲18発明4との対比(本件審決98頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点2-1][一致点2-2][一致点2-3]
, , (前記(ア)a,
(イ)a,(ウ)a)
[一致点2-4]
「前記溶剤が貯留されるとともに当該溶剤にワークを浸漬可能」であ
る点。
b 相違点
(a) [相違点2-1][相違点2-2]
, (前記(ア)b(a),(b))
(b) [相違点2-3](当事者間に争いがない。)
ワークの浸漬について,本件特許発明4は「前記洗浄室に接続さ
れ」た「浸漬室をさらに備える」のに対し,甲18発明4は,室1
2に溶剤を充填して浸漬させる点。
(オ) 本件特許発明5と甲18発明5との対比(本件審決100~101
頁)
a 一致点(当事者間に争いがない。)
[一致点2-5]
真空ポンプを用いることにより,ワークが搬入された洗浄室を減圧
する工程と,
溶剤の蒸気を生成し,当該蒸気を減圧下にある前記洗浄室に供給し
て前記ワークを洗浄する工程と,
前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と,
前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後,開閉バルブが開弁さ
れ前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と
連通させた状態でワークを乾燥させる工程と,を含む真空洗浄方法。
b 相違点
(a) [相違点2-4](当事者間に争いがない。)
溶剤について,本件特許発明5は「石油系溶剤」であるのに対し,
甲18発明5の溶剤は石油系のものであるか不明である点。
(b) [相違点2-5](相違点2-5の存在については当事者間に争
いがある。)
ワークの乾燥について,本件特許発明5は「凝縮室」を減圧する
工程と,
「減圧下にある」凝縮室を洗浄室よりも低い温度に保持する
工程を備え,
「開閉バルブを開弁することにより」洗浄室を「前記凝
縮室と連通させて」乾燥させているのに対し,甲18発明5は,真
空ポンプ36を作動させ,室12内の蒸気が引き出されて物品20
を乾燥させており,バルブ32を開弁することにより室12を減圧
下にある凝縮器34と連通させて乾燥させているとはいえない点。
⑷ 無効理由についての本件審決の判断の要旨
ア 無効理由1について
(ア) 本件特許発明1について(本件審決82~84頁)
本件特許発明1の相違点1-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明1は,甲10発明1と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(イ) 本件特許発明2について(本件審決85頁)
本件特許発明2の相違点1-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明2は,甲10発明2と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(ウ) 本件特許発明3について(本件審決86頁)
本件特許発明3の相違点1-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明3は,甲10発明3と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(エ) 本件特許発明4について(本件審決86~87頁)
本件特許発明4の相違点1-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明4は,甲10発明4と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(オ) 本件特許発明5について(本件審決89~90頁)
本件特許発明5の相違点1-5に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明5は,甲10発明5と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(カ) 無効理由の成否
本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかったから,本件
特許発明1~5に係る特許は無効とすべきものではない。
イ 無効理由2について
(ア) 本件特許発明1について(本件審決93~96頁)
本件特許発明1の相違点2-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明1は,甲18発明1と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(イ) 本件特許発明2について(本件審決96~97頁)
本件特許発明2の相違点2-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明2は,甲18発明2と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(ウ) 本件特許発明3について(本件審決97頁)
本件特許発明3の相違点2-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明3は,甲18発明3と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(エ) 本件特許発明4について(本件審決98~99頁)
本件特許発明4の相違点2-2に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明4は,甲18発明4と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(オ) 本件特許発明5について(本件審決101~102頁)
本件特許発明5の相違点2-5に係る構成は甲11~17のいずれに
も開示されていないから,本件特許発明5は,甲18発明5と甲11~
17に基づいて容易に想到することはできなかった。
(カ) 無効理由の成否
本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかったから,本件
特許発明1~5に係る特許は無効とすべきものではない。
ウ 無効理由3について(本件審決55頁)
本件特許明細書等に記載された事項は,原出願の願書に最初に添付され
た特許請求の範囲,明細書及び図面(以下,原出願の願書に最初に添付さ
れた特許請求の範囲,明細書を「原出願の当初の特許請求の範囲」「原出

願の当初明細書」といい,これらを図面と併せて「原出願の当初明細書等」
という。甲6)に記載された事項の範囲内のものであり,その他,本件特
許出願が,分割要件を満たさない理由は見当たらず,本件特許出願は分割
要件を満たさないものとはいえない。
本件特許出願は分割要件を満たすものであるから,特許法44条2項に
より,本件特許出願は原々々出願の時(平成24年11月20日(優先権
主張 平成23年11月25日) にしたものとみなされ,
) 原々々出願の公
開公報である甲7(平成25年(2013年)5月30日国際公開)に記
載された発明は特許法29条1項3号の発明に該当せず,本件特許は無効
ではなく,無効理由3は理由がない。
エ 無効理由4について(本件審決108頁)
本件特許発明1~5について,発明の詳細な説明の記載は,当業者がそ
の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されたものであり,
特許法36条4項1号に規定する要件を満たすものであるから,本件特許
は無効ではなく,無効理由4は理由がない。
オ 無効理由5について(本件審決113頁)
本件特許発明1~5は,発明の詳細な説明に記載したものであり,特許
法36条6項1号に規定する要件を満たすものであるから,無効理由5は
理由がない。
4 原告主張の取消事由
⑴ 取消事由1(甲10を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由1関係))
ア 取消事由1-1
相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤

イ 取消事由1-2
本件審決が認定する相違点(相違点1-2,1-5)の存在を前提とす
る進歩性判断の誤り
⑵ 取消事由2(甲18を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由2関係))
ア 取消事由2-1
相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の
誤り
イ 取消事由2-2
本件審決が認定する相違点(相違点2-2,2-5)の存在を前提とす
る進歩性判断の誤り
⑶ 取消事由3
分割要件に関する判断の誤り(無効理由3関係)
⑷ 取消事由4
実施可能要件に関する判断の誤り(無効理由4関係)
⑸ 取消事由5
サポート要件に関する判断の誤り(無効理由5関係)
第3 当事者の主張
1 取消事由1(甲10を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由1関係))
⑴ 取消事由1-1(相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする
進歩性判断の誤り)
ア 原告の主張
(ア) 本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
a 本件審決は,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-2として,
本件特許発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲10発明1は,開閉バル
ブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される点を認定
する(前記第2,3⑶ア(ア)b(b))。しかし,本件特許発明1は,開閉
バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されている構成のみならず,
開閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される
(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)という甲10発明1と同様の
構成を文言上含むものであるから,本件特許発明1と甲10発明1と
の間には,相違点1-2は存在せず,本件審決が相違点1-2を本件
特許発明1と甲10発明1の相違点として認定したのは誤りである。
b 本件特許発明1が,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧さ
れている構成のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプに
よって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)と
いう甲10発明1と同様の構成を文言上含むと解される理由は,次の
とおりである。
(a) 凝縮室の減圧のタイミングが文言上限定されていないこと
本件特許発明1を定める本件特許の特許請求の範囲の請求項1に
は,構成要件D(前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状
態が保持される凝縮室と,)に「減圧の状態が保持される」凝縮室と
記載され,構成要件G(前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを
洗浄した後,前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄室より
も低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させ
る)に「低い温度に保持された」前記凝縮室と記載されているのみ
であり,凝縮室の減圧のタイミングは,文言上,何ら限定されてい
ない。請求項1の記載は,一義的に明確に理解でき,かつ誤記もな
いから,リパーゼ事件最高裁判決のいう特段の事情は何ら存在して
おらず,特許請求の範囲の記載に基づいて発明の要旨が認定されな
ければならない。そのため,本件特許発明1は,開閉バルブの連通
の前に事前に凝縮室が減圧されている構成のみならず,開閉バルブ
による連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される(同時に
洗浄室内の蒸気が排出される)という甲10発明1と同様の構成を
文言上含むものである。
(b) 凝縮室の減圧が,低い温度に保持することよりも先に行われてい
ることの要否
(i) 本件審決は,「また,『前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温
度に保持する温度保持手段』
(構成要件E)という発明特定事項に
おける『前記凝縮室』とは,構成要件Dとして前記された『前記
真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮
室』であるといえる。 (本件審決46頁)として,何の理由もな

しに,構成要件Eの「前記凝縮室」は,構成要件Dで規定する「前
記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持」という
工程が既に行われた凝縮室であると解釈しているが,この点に飛
躍がある。構成要件Dの「前記真空ポンプによって減圧され,当
該減圧の状態が保持される凝縮室と」と構成要件Eの「前記凝縮
室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手段」とは,
それぞれ別個独立した構成であり,本件特許発明1は,構成要件
D所定の「凝縮室」と構成要件E所定の「温度保持手段」という
構成をそれぞれ別個に備えていればよいのであり,凝縮室につい
て行われる「減圧」
(構成要件D)と,温度保持手段により行われ
る「温度の保持」
(構成要件E)について,審決がいうように「減
圧」が必ずしも「温度の保持」よりも先に行われている必要はな
い。構成要件Dは,あくまでも「凝縮室」で実施される工程の内
容説明をしたにすぎないのであり,実施済みの工程を説明するも
のではない。もし,構成要件Eの「前記凝縮室」が当該減圧・保
持が既に行われている凝縮室を意味することにしたいのであれば,
出願人である被告ら(被請求人ら)は,構成要件Eを,例えば,
「前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持され
た前記凝縮室を」等と記載したはずであり,そうではなく現状の
構成要件D,Eのように記載した以上,上記で主張したように先
後関係を問わないものとして要旨認定されるべきである。
(ii) 上記解釈は,
「凝縮室」と同様に,本件特許発明1の「真空洗
浄装置」を構成する部材である「(前記)洗浄室」に関する記載の
解釈からも裏付けられるところである。すなわち,構成要件Cで
は,
「前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において
前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄する
洗浄室と」規定されているが,構成要件E,F,Gにある「前記
洗浄室」は文字どおり,何らの限定のない「洗浄室」
(洗浄する部
屋)を意味しており,構成要件Cに記載の工程を経た「前記真空
ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において前記蒸気生成
手段から供給される蒸気によってワークを洗浄した洗浄室」を意
味するものではない。一方,構成要件Gでは「前記蒸気を前記洗
浄室に供給してワークを洗浄した後…」と規定しており,構成要
件Cに含まれる「蒸気によってワークを洗浄する」という工程を
敢えて記載していることからしても,構成要件Gの「前記洗浄室」
が「前記真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において
前記蒸気生成手段から供給される蒸気によってワークを洗浄した
洗浄室」を意味するものではなく(そのように解釈しないと同じ
意味を重ねることになる),何らの限定のない「洗浄室」を意味す
ると解釈すべきである。そして,同じ文言は同じ意味に解釈すべ
きことからすれば,構成要件E,Fにある「前記洗浄室」も同様
に何ら工程の先後について限定のない「洗浄室」と解釈すべきで
ある。「洗浄室」は,「凝縮室」と同様に,本件特許発明1の「真
空洗浄装置」を構成する部材であるから,(前記)洗浄室」に関

する上記の解釈との平仄からも「前記凝縮室」は,工程の前後に
ついて何らの限定のない「凝縮室」と解釈すべきであって,
「前記
真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態が保持」という工
程が既に行われた凝縮室であると解釈すべきではない。以上のと
おり,構成要件Eにおける「前記凝縮室」は文字どおり何らの限
定のない「凝縮室」
(凝縮する部屋)を意味するものであって,構
成要件Eから,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧され
ていると解釈すべき根拠はない。
(c) 発明の詳細な説明の記載
本件審決は,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載との関係
に関し,本件審決による本件特許発明1の解釈(凝縮室が,開閉バ
ルブによって洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され,洗浄
室よりも低い温度に保持され,洗浄室を前記凝縮室と連通させるこ
とによりワークの乾燥を生じさせるもの)は,発明の詳細な説明の
記載とも整合するものであると判断している(本件審決46~47
頁)。しかし,本件審決の認定は,本件特許明細書に開示された実施
形態が本件特許発明1に包含されるものであったことを確認した
ものに過ぎず,審決の解釈が正しいことを裏付けるものではない。
上記(a)のとおり,まず特許発明の要旨の認定は,原則として特許請
求の範囲の記載に基づいて行わなければならないのであり,本件特
許発明につき発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事由が
ないことは既に述べたとおりである。したがって,発明の詳細な説
明の記載に基づく本件審決の解釈も誤りである。
(d) 原告の主張に関する本件審決の判断
本件審決は,原告の主張に関して,原告のように解釈したならば,
「本件特許発明1が,本件特許明細書に従来技術として記載されて
いる,乾燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引
きして減圧するものを含むことになり,前述した本件特許発明が解
決しようとする課題を解決できないものとなる。すると,請求人の
主張する本件特許発明1の解釈は,不自然な解釈といわざるを得な
い。(本件審決47頁)と指摘する。しかし,本件特許発明1が課

題を解決できない従来技術を包含していることは,特許請求の範囲
の記載に不備があることが原因であり,その責は不備のある特許請
求の範囲の記載を行った出願人,特許権者である被告らが負うべき
であって,審決が,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載を敢え
て無視して,従来技術と区別できるように要旨を認定したことは背
理である。現に,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧され
ているのが本件特許発明1の要旨であるというのであれば,出願人
であった被告らは,文字通りそのように特許請求の範囲を記載すれ
ばよかったのである。このような記載は,前記(b)(i)にも例示した
とおり,特段困難なものでもない。それにもかかわらず,事前に凝
縮室が減圧されるという限定のない広範な記載を出願人が敢えて
選択したのであるから,無効審判においてもその記載の文言通りに
要旨が認定されるべきである。
(イ) 本件特許発明2と甲10発明2の相違点として相違点1-2を認定
した誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2, 【請

求項2】,甲10発明2は甲10発明1を含むものであるところ(前記

第2,3⑵ア(イ)) 本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10

発明1の相違点として認定したのは誤りであるから(前記(ア)) 本件審

決が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が認
定されることを前提として,本件特許発明2と甲10発明2の相違点と
して相違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(イ)b)は誤りで
ある。
(ウ) 本件特許発明3と甲10発明3の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2, 【請求項3】,
2 )
本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2,【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲10発明3は甲
10発明2を含み(前記第2,3⑵ア(ウ)),甲10発明2は甲10発明
1を含むから(前記第2,3⑵ア(イ)),甲10発明3は甲10発明1を
含むものであるところ,本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲
10発明1の相違点として認定したのは誤りであるから(前記(ア)) 本

件審決が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2
が認定されることを前提として,本件特許発明3と甲10発明3の相違
点として相違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(ウ)b)は誤
りである。
(エ) 本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2, 【請求項4】,
2 )
甲10発明4は甲10発明1を含む(前記第2,3⑵ア(エ))ところ,
本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明1の相違点とし
て認定したのは誤りであるから(前記(ア)),本件審決が,本件特許発明
1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が認定されることを前提
として,本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を
認定したこと(前記第2,3⑶ア(エ)b(a))は誤りである。
(オ) 本件特許発明5と甲10発明5の相違点として相違点1-5を認
定した誤り
a 本件審決は,本件特許発明5と甲10発明5の相違点1-5として,
本件特許発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲10発明5は,開閉バル
ブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される点を相違
点として認定する(前記第2,3⑶ア(オ)b(b))。しかし,本件特許発
明5は,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されている構成
のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室
が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)という甲10発
明5と同様の構成を文言上含むものであるから,本件特許発明5と甲
10発明5との間には,相違点1-5は存在せず,本件審決が相違点
1-5を本件特許発明5と甲10発明5の相違点として認定したのは
誤りである。
b 本件特許発明5が,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧さ
れている構成のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプに
よって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)と
いう甲10発明5と同様の構成を文言上含むと解される理由は,次の
とおりである。
(a) 凝縮室の減圧のタイミングが文言上限定されていないこと
本件特許発明5を定める本件特許の特許請求の範囲の請求項5に
は,
「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後,開閉バルブを開
弁することにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持さ
れた前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と,(構成要

件O)と記載されているのみであり,凝縮室の減圧のタイミングは,
文言上,何ら限定されていない。請求項5の記載は,一義的に明確
に理解でき,かつ誤記もないから,リパーゼ事件最高裁判決のいう
特段の事情は何ら存在しておらず,特許請求の範囲の記載に基づい
て発明の要旨が認定されなければならない。そのため,本件特許発
明5は,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されている構
成のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝
縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)という甲
10発明5と同様の構成を文言上含むものである。
(b) 凝縮室の減圧が,低い温度に保持することよりも先に行われてい
ることの要否
本件審決は,「本件特許発明5において,凝縮室に関する各工程
(構成要件L,N,O)は,凝縮室を減圧する工程(構成要件L),
減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する
工程(構成要件N) 前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持

された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程(構成要件
O)の順に実行されるものと解される。」
(本件審決48頁)とする。
そして,請求項5には,減圧する工程(構成要件L),洗浄する工程
(構成要件M),保持する工程(構成要件N),乾燥させる工程(構
成要件O)の4工程が,この順に列挙されている。しかし,本件特
許明細書の第1実施形態,第2実施形態では,構成要件Mの工程(S
400)が構成要件Nの工程(S100又はS101)より後にな
っており,請求項5に示されたのとは逆であるから,本件特許発明
5の各工程は,その実行順序の限定のないものと解すべきである。
さらに,構成要件Oの文言は,開閉バルブを開弁することにより洗
浄室を洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と連通させて,そ
の後,凝縮室を減圧してワークを乾燥させる態様を包含しており,
そのように解釈したとしても,構成要件Nの「減圧下にある前記凝
縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」は満たされるこ
とになる。
(c) 発明の詳細な説明の記載
本件審決は,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載との関係
に関し,本件審決による本件特許発明5の解釈(凝縮室が,開閉バ
ルブによって洗浄室と連通される前に減圧下とされ,洗浄室よりも
低い温度に保持され,洗浄室を前記凝縮室と連通させることにより
ワークの乾燥を生じさせるもの)は,発明の詳細な説明の記載とも
整合するものであると判断している(本件審決49頁)。しかし,本
件審決の認定は,本件特許明細書に開示された実施形態が本件特許
発明5に包含されるものであったことを確認したものに過ぎず,審
決の解釈が正しいことを裏付けるものではない。前記(a)のとおり,
まず特許発明の要旨の認定は,原則として特許請求の範囲の記載に
基づいて行わなければならないのであり,本件特許発明につき発明
の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事由がないことは既に述
べたとおりである。したがって,発明の詳細な説明の記載に基づく
本件審決の解釈も誤りである。
(d) 原告の主張に関する本件審決の判断
本件審決は,原告の主張に関して,原告のように解釈したならば,
「本件特許発明5が,本件特許明細書に従来技術として記載されて
いる,乾燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引
きして減圧するものを含むことになり,前述した本件特許発明が解
決しようとする課題を解決できないものとなる。すると,請求人の
主張する本件特許発明5の解釈は,不自然な解釈といわざるを得な
い。(本件審決50頁)と指摘する。しかし,本件特許発明5が課

題を解決できない従来技術を包含していることは,特許請求の範囲
の記載に不備があることが原因であり,その責は不備のある特許請
求の範囲の記載を行った出願人,特許権者である被告らが負うべき
であって,審決が,本件特許発明5の特許請求の範囲の記載を敢え
て無視して,従来技術と区別できるように要旨を認定したことは背
理である。現に,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧され
ているのが本件特許発明5の要旨であるというのであれば,出願人
であった被告らは,文字通りそのように特許請求の範囲を記載すれ
ばよかったのである。このような記載は,前記(ア)b(b)(i)にも例
示したとおり一文追加する程度で足り,特段困難なものでもない。
それにもかかわらず,事前に凝縮室が減圧されるという限定のない
広範な記載を出願人が敢えて選択したのであるから,無効審判にお
いてもその記載の文言通りに要旨が認定されるべきである。
(カ) 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
a 本件特許発明1の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明1と甲10発明1は,相違点1-1及び
相違点1-2において相違すると認定したが(前記第2,3⑶ア(ア)
b) 前記(ア)のとおり,
, 相違点1-2は本件特許発明1と甲10発明
1の相違点ではなく,また,相違点1-1に係る本件特許発明1の構
成は,甲11~14に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に
想到し得るものであった(本件審決81~82頁)。そのため,本件特
許発明1は,甲10発明1及び甲11~14に記載された周知技術に
基づいて当業者が容易に想到することができたものであって,この点
について,本件特許発明1は,甲10発明1と甲11~17に基づい
て容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第
2,3⑷ア(ア))は誤りである。
b 本件特許発明2の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明2と甲10発明2は,相違点1-1及び
相違点1-2において相違すると認定した(前記第2,3⑶ア(イ)b)
が,aと同様の理由により,相違点1-2は相違点ではなく,また,
相違点1-1に係る構成は,甲11~14に記載された周知技術に基
づいて当業者が容易に想到し得るものであった(本件審決81~82
頁)から,本件特許発明2は,甲10発明2と甲11~17に基づい
て容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第
2,3⑷ア(イ))は誤りである。
c 本件特許発明3の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明3と甲10発明3は,相違点1-1及び
相違点1-2において相違すると認定した(前記第2,3⑶ア(ウ)b)
が,aと同様の理由により,相違点1-2は相違点ではなく,また,
相違点1-1に係る構成は,甲11~14に記載された周知技術に基
づいて当業者が容易に想到し得るものであった(本件審決81~82
頁)から,本件特許発明3は,甲10発明3と甲11~17に基づい
て容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第
2,3⑷ア(ウ))は誤りである。
d 本件特許発明4の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明4と甲10発明4は,相違点1-1,相
違点1-2及び相違点1-3において相違すると認定した(前記第2,
3⑶ア(エ)b)
。しかし,相違点1-2は相違点ではなく,また,相違
点1-1に係る構成は,甲11~14に記載された周知技術に基づい
て当業者が容易に想到し得るものである(本件審決81~82頁)こ
とはaと同様であり,相違点1-3に係る本件特許発明4の構成は,
甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づいて当業
者が容易に想到し得るものであった(本件審決87頁)。そのため,本
件特許発明4は,甲10発明4並びに甲11~14に記載された周知
技術及び甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に発明をすることができたものであって,この点に
ついて,本件特許発明4は,甲10発明4と甲11~17に基づいて
容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第2,
3⑷ア(エ))は誤りである。
e 本件特許発明5の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明5と甲10発明5は,相違点1-4及び
相違点1-5において相違すると認定した(前記第2,3⑶ア(オ)b)。
前記(オ)のとおり,相違点1-5は本件特許発明5と甲10発明5の
相違点ではない。また,相違点1-4と相違点1-1は同じ内容であ
り,相違点1-4に係る本件特許発明5の構成(石油系溶剤)は,相
違点1-1に係る本件特許発明1の構成(石油系溶剤)と同じであっ
て,相違点1-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記
載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるか
ら(本件審決81~82頁) 相違点1-4に係る本件特許発明5の構

成も,甲11~14に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に
想到し得るものであった(本件審決89頁)。そのため,本件特許発明
5は,甲10発明5及び甲11~14に記載された周知技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであって,この点につ
いて,本件特許発明5は,甲10発明5と甲11~17に基づいて容
易に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第2,
3⑷ア(オ))は誤りである。
イ 被告らの主張
原告の主張は争う。
(ア) 本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明1の相違点
として認定したことに誤りはない。
本件審決の認定の趣旨は,凝縮室と洗浄室とを連通させる前の段階で
凝縮室の減圧と冷却が行われているということであり,特許請求の範囲,
明細書,本件特許発明の仕組みに照らして相当な認定である。原告によ
る解釈は,特許請求の範囲に従来技術を含むものであり,そのような不
自然な解釈をあえて採用する合理的な理由はない。
(イ) 本件特許発明2と甲10発明2の相違点として相違点1-2を認定
した誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2, 【請

求項2】,甲10発明2は甲10発明1を含むものであるところ(前記

第2,3⑵ア(イ)) 本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10

発明1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記(ア)) 本件

審決が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が
認定されることを前提として,本件特許発明2と甲10発明2の相違点
として相違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(イ)b)にも誤
りはない。
(ウ) 本件特許発明3と甲10発明3の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2, 【請求項3】,
2 )
本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2,【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲10発明3は甲
10発明2を含み(前記第2,3⑵ア(ウ)),甲10発明2は甲10発明
1を含むから(前記第2,3⑵ア(イ)),甲10発明3は甲10発明1を
含むものであるところ,本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲
10発明1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記(ア)),
本件審決が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-
2が認定されることを前提として,本件特許発明3と甲10発明3の相
違点として相違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(ウ)b)に
も誤りはない。
(エ) 本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を認
定した誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2, 【請求項4】,
2 )
甲10発明4は甲10発明1を含む(前記第2,3⑵ア(エ))ところ,
本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明1の違点として
認定したことに誤りはないから(前記(ア)),本件審決が,本件特許発明
1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が認定されることを前提
として,本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を
認定したこと(前記第2,3⑶ア(エ)b)にも誤りはない。
(オ) 本件特許発明5と甲10発明5の相違点として相違点1-5を認
定した誤り
本件審決が相違点1-5を本件特許発明5と甲10発明5の相違点と
して認定したことに誤りはない。
この点に関する被告らの主張は,相違点1-2に関する主張(前記(ア))
と同じである。
(カ) 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
原告は,本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明1の
相違点として認定したことが誤りであるとの主張を前提に,本件特許発
明1~4について,甲10発明1~4と甲11~17に基づいて当業者
が容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断は誤りであ
ると主張する。しかし,前記(ア)のとおり,本件審決が相違点1-2を
本件特許発明1と甲10発明1の相違点として認定したことに誤りはな
いから,原告の上記主張は理由がない。
また,原告は,本件審決が相違点1-5を本件特許発明5と甲10発
明5の相違点として認定したことが誤りであるとの主張を前提に,本件
特許発明5について,甲10発明5と甲11~17に基づいて当業者が
容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断は誤りである
と主張する。しかし,前記(オ)のとおり,本件審決が相違点1-5を本
件特許発明5と甲10発明5の相違点として認定したことに誤りはない
から,原告の上記主張は理由がない。
⑵ 取消事由1-2(本件審決が認定する相違点(相違点1-2,1-5)の
存在を前提とする進歩性判断の誤り)
ア 原告の主張
(ア) 本件審決の判断
本件審決は,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1
-2を認定し,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~1
7のいずれにも開示されていないから,本件特許発明1は容易に想到す
ることはできなかったとした(本件審決82~84頁)。また,本件特許
発明2~4(いずれも本件特許発明1を含む。)と甲10発明2~4(い
ずれも甲10発明1を含む。 の相違点として相違点1-2を認定し,
) 上
記と同様に,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~17
のいずれにも開示されていないから,本件特許発明2~4は容易に想到
することはできなかったとした(本件審決84~87頁)。さらに,本件
審決は,本件特許発明5と甲10発明5の相違点として相違点1-5を
認定し,相違点1-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のい
ずれにも開示されていないから,本件特許発明5は容易に想到すること
はできなかったとした(本件審決89~90頁)。
(イ) 甲14に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
しかし,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-
5に係る本件特許発明5の構成は,次のとおり,甲14に開示されて
いる。
(a) 甲14(特開2000-51802,2000年2月22日公開)
には,石油系溶剤により真空蒸気洗浄及び乾燥処理を行う蒸気洗浄
装置に関する発明が記載されている(甲14【0001】。甲14

の図1には,甲14の特許請求の範囲に記載された発明の実施例が
記載されており,図1に記載された蒸気洗浄装置は,減圧タンク1
で溶剤蒸気Bによりワークの真空蒸気洗浄を行う装置である【00

25】【0026】。図1に示された「1減圧タンク」は本件特許
, )
発明1,5の洗浄室に当たり,15加熱コイル」
「 は本件特許発明1,
5の「蒸気生成手段」に当たり,
「6冷却タンク」は本件特許発明1,
5の「凝縮室」に当たり,
「2冷却コイル」は本件特許発明1,5の
「温度保持手段」に当たり,
「29バルブ」は本件特許発明1,5の
「開閉バルブ」に当たり,
「10真空ポンプ」は本件特許発明1,5
の「真空ポンプ」に当たる。
(b) 甲14には,次の記載がある。
「【0027】ワークの蒸気洗浄終了前において,真空ポンプ10を
駆動し,またバルブ42を開弁して,ライン43を介してサブタン
ク7内を予め真空状態に成す。而して,ワークの蒸気洗浄終了後に
おいては,ワークの乾燥処理に先立って,バルブ23,36を開弁
し,ライン25に作用する大気圧とライン37に作用する負圧との
差圧を利用して,減圧タンク1内の加熱された溶剤Aを,該タンク
1外へ導出して,この溶剤Aをサブタンク7内に一時貯溜する。
【0028】減圧タンク1内の溶剤Aをサブタンク7内に吸引完了
した時点で,上述の各バルブ23,36を閉弁する。次に真空ポン
プ10を駆動すると共に,バルブ49を開弁して冷却タンク6内を
予め真空状態に成し,その後,バルブ29を開いて減圧タンク1内
に残存する溶剤蒸気Bを,ライン30を介して冷却タンク6に差圧
吸引する。この場合,ライン30からのインレットポート3を介し
て冷却タンク6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝
縮されると共に,仕切板5による区画構成により,溶剤蒸気Bがア
ウトレットポート4からライン50および真空ポンプ10側に直
接吸込まれるのを防止することができる。
【0029】このような条件下において減圧タンク1内のワークを
乾燥処理する。つまり,バルブ14を開いて加熱コイル13に加熱
オイルを流通させ,この熱媒により減圧タンク1内およびワークを
加熱して,該ワークを乾燥させる。
【0030】ところで,プールタンク9には真空蒸溜機12にて蒸
溜された溶剤Aを貯溜し,送液ポンプ31の駆動によりエゼクタ2
6を含む循環ライン58を循環する蒸溜溶剤Aの流動で,エゼクタ
26の負圧形成部26aに負圧が形成され,ライン28,バルブ2
7,ポート18を介して上述の減圧タンク1内を真空状態に維持す
る。
【0031】上述のワークに対する蒸気洗浄および乾燥の一連の処
理終了後において,バルブ32,33を開弁し,各要素32,34,
33,20を介して蒸溜溶剤Aを減圧タンク1の溶剤貯溜部1aに
供給して,次のワークの蒸気洗浄および乾燥処理に備える。」
「【0033】このように上記構成の蒸気洗浄装置によれば,上述の
ワークは減圧乃至真空状態下において減圧タンク1内部で蒸気洗浄
されるので,上述の導出手段(ライン37参照)はワークの蒸気洗浄
後つまりワークの乾燥に先立って減圧タンク1内の溶剤Aを減圧タ
ンク1外へ導出するので,ワークの乾燥時において減圧タンク1内
の溶剤Aが気化してワークの乾燥が妨げられることがなく,良好な
ワーク乾燥を実行することができる効果がある。」
(c) 前記(b)に記載されたように,甲14発明では,「凝縮室」である
冷却タンク6が真空ポンプ10によって事前に減圧され,「温度保
持手段」である冷却コイル2によって低温状態に保持される。その
後,「開閉バルブ」であるバルブ29を開くことで,「洗浄室」であ
る減圧タンク1と冷却タンク6との圧力差によって溶剤蒸気が冷却
タンク6へ移動する。上記の記載から,冷却タンク6に移動した溶
剤蒸気が凝縮することにより,冷却タンク6の圧力を上昇させず,
溶剤蒸気の移動が継続することは当業者に明らかである。そして,
【0029】に「このような条件下において減圧タンク1内のワー
クを乾燥処理する。つまり,バルブ14を開いて加熱コイル13に
加熱オイルを流通させ,この熱媒により減圧タンク1内およびワー
クを加熱して,該ワークを乾燥させる。」とあるから,減圧タンク
1から冷却タンク6に溶剤蒸気Bを差圧吸引する工程は,加熱コイ
ル13によりワークを加熱する間も継続されており,ワークの乾燥
処理の一部を構成しているということができる。また,本件特許発
明は,「連通による乾燥」に際し,加熱コイルなどの他の乾燥手段
の併用を排除しているわけでもない。
以上のとおり,甲14には,凝縮室(冷却タンク6)が事前に減
圧され,開閉バルブ(バルブ29)によって洗浄室(減圧タンク1)
を凝縮室(冷却タンク6)と連通させてワーク乾燥する点,つまり,
相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係
る本件特許発明5の構成が開示されている。
b 容易想到性
甲10発明1~5と甲14に記載された構成は,同じ技術分野に属
し,同種の装置に関する技術であるから,甲14に記載された構成を
甲10発明1~5に適用することは容易に想到することができた。
そして,前記⑴ア(カ)a~dのとおり,本件特許発明2,本件特許発
明3及び本件特許発明4はいずれも本件特許発明1を含むものであり,
本件特許発明1と甲10発明1,本件特許発明2と甲10発明2,本
件特許発明3と甲10発明3,本件特許発明4と甲10発明4との間
の相違点1-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載
された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
また,前記⑴ア(カ)dのとおり,相違点1-3に係る本件特許発明4の
構成は,甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得るものであり,前記⑴ア(カ)eのとおり,
相違点1-4に係る本件特許発明5の構成も,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
そのため,本件特許発明1~5は,甲10発明1~5に甲14に記
載された技術事項及び周知技術を適用することにより,容易に想到す
ることができた。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
1-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできな
かったとした本件審決の判断は誤りである。
(ウ) 周知技術に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る
本件特許発明5の構成は,次のとおり,複数の文献に開示された周知
技術である。
(a) 甲49(特開平3-26383:1991年2月4日公開)
(i) 甲49の記載
① 技術分野
甲49に記載された発明(以下「甲49発明」という。)は,
フロン等の有機溶剤を用いて各種物品の洗浄をする技術に関
するものであり(産業上の利用分野欄,従来技術欄参照),蒸気
洗浄後の乾燥に関する技術である。なお,蒸気洗浄の内容につ
いては,甲49の2頁4欄~6欄に説明されている。
② 課題
甲49の2頁6欄~3頁8欄には,従来の課題として,従来
は,洗浄後の溶剤蒸気の排出,つまり,ワークの乾燥を速く行
わせるためには,真空ポンプの能力に依存し,その改善が必要
であったことが記載されており,本件特許発明1と同じ課題が
示されている。
③ 課題の解決手段
前記②の課題を解決するための解決手段として甲49の3
頁8欄17行目~10欄14行目には次の記載がある。
「更に,本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置に於いては,上
記洗浄槽と上記再生回収手段との間に,内部に冷却手段を有す
る密閉容器を設けると共に,この密閉容器と上記洗浄槽とを,
途中に第一の開閉弁を有する第一の接続管により,密閉容器と
上記再生回収手段の内部とを,途中に第二の開閉弁を有する第
二の接続管により,それぞれ接続している。
(作 用)
上述の様に構成される,本発明の有機溶剤を使用する洗浄装
置により,被洗浄物を洗浄する場合の作用自体は,前述した先
発明の洗浄装置と同様である。
但し,本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の場合,洗浄槽
内からの気体の排出を迅速に行ない,しかも必要とすれば,洗
浄槽内の真空度を高める事が出来る。
即ち,本発明の洗浄装置に於いて,洗浄槽内の気体を排出す
る場合には,先ず,第一の開閉弁を閉じ,洗浄槽と密閉容器と
の連通を断った状態のまま,第二の開閉弁を開き,再生回収手
段の内部に存在する有機溶剤蒸気を,上記密閉容器内に導入す
る。
密閉容器内に有機溶剤蒸気を導入したならば,第一,第二の
開閉弁を何れも閉じ,上記密閉容器内に設けた冷却手段を運転
する事により,密閉容器内の有機溶剤蒸気を凝縮液化する。
この結果,密閉容器内の圧力が低下する為,第二の開閉弁を
閉じたまま,それ迄閉じていた第一の開閉弁を開けば,洗浄槽
内に存在する気体が密閉容器内に吸引され,洗浄槽内の圧力が
急激に低下する。
密閉容器内に吸引された気体の内に有機溶剤蒸気が含まれる
場合,この有機溶剤蒸気は,この密閉容器内の冷却手段により
次々に凝縮液化され,密閉容器内の圧力が低下する為,洗浄槽
から密閉容器への有機溶剤蒸気を含む気体の吸引は,その後も
継続して行なわれる。」
ここに示された解決手段は,本件特許発明1と全く同じ乾燥
原理である。すなわち,
「凝縮室」である密閉容器を事前に減圧
しておき,その後,
「開閉バルブ」である第一の開閉弁を開くこ
とで,洗浄槽と密閉容器との圧力差によって溶剤蒸気が密閉容
器へ移動し,しかも,密閉容器に移動した溶剤蒸気は凝縮され
るので密閉容器の圧力を上昇させず,溶剤蒸気の移動が継続す
るものである。
④ 実施例
甲49発明の実施例を参照すると,この乾燥原理が更に明ら
かになる。第1図に甲49発明の実施例が開示されている。第
1図に示された「2洗浄槽」は本件特許発明1,5の洗浄室に
当たり,
「10ヒータ」は本件特許発明1,5の「蒸気生成手段」
に当たり,「26密閉容器」は本件特許発明1,5の「凝縮室」
に当たり,
「27冷却パイプ」は本件特許発明1,5の「温度保
持手段」に当たり,
「28第一の開閉弁」は本件特許発明1,5
の「開閉バルブ」に当たり,
「13真空ポンプ」は本件特許発明
1,5の「真空ポンプ」に当たる。
実施例について,甲49の4頁12欄16行目~16欄8行
目に次の記載がある。
「上述の様に構成される,本発明の有機溶剤を使用する洗浄装
置の他の構成部分,及び洗浄槽2内に収納した被洗浄物を洗浄
する際の作用自体は,前述した先発明の洗浄装置と同様であ
る。
但し,本発明の有機溶剤を使用する洗浄装置の場合,洗浄糟
2内の気体を排出する為の真空ポンプ13の性能を特に向上さ
せなくても,液状の有機溶剤を使用して被洗浄物を洗浄した後,
この液状の有機溶剤を洗浄槽2から排出する作業を迅速に行な
い,しかも洗浄槽2内の真空度を高める事が出来る。
即ち,本発明の洗浄装置に於いて,洗浄後に洗浄槽2内に残
留する有機溶剤蒸気を排出する場合には,先ず,第一の接続管
29の途中に設けた第一の開閉弁28を閉じ,洗浄槽2と密閉
容器26との連通を断った状態のまま,第二の開閉弁30を開
き,再生回収手段である蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気
を,第二の接続管31を通じて,上記密閉容器26内に導入す
る。この際,第一の接続管29の途中の三方弁34は,第一の
接続管29をそのまま連通する状態に(第一の接続管29と吸
入管35とは連通させない状態に),切り換えておく。
この様にして,密閉容器26内に有機溶剤蒸気を導入したな
らば,第一,第二,第三の開閉弁28,30,32を何れも閉
じ,上記密閉容器26内に設けた,冷却手段である冷却パイプ
27内に冷媒を流通させる事により,密閉容器26内の有機溶
剤蒸気を凝縮液化する。
密閉容器26内で有機溶剤蒸気が凝縮液化する結果,密閉容
器26内の圧力が低下する。
そこで,第二,第三の,開閉弁30,32を閉じたまま,そ
れ迄閉じていた第一の開閉弁28を開き,前記洗浄槽2内に残
留していた有機溶剤蒸気を上記密閉容器26内に吸引する。
第一の接続管29を通じ,洗浄槽2内の有機溶剤蒸気が密閉
容器26内に吸引されるのは,極く短時間の間に行なわれる為,
洗浄槽2内の圧力が急激に低下し,この洗浄槽2内に収納され
た被洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し,この被洗浄物
の表面に付着した汚れを吹き飛ばして,続いて行なわれる洗浄
作業による洗浄効果を向上させる。
第一の接続管29を通じて密閉容器26内に吸引された有機
溶剤蒸気は,この密閉容器26内に設けられた冷却パイプ27
により冷却されて,次々に凝縮液化される為,洗浄槽2から密
閉容器26に有機溶剤蒸気が吸引されても,密閉容器26内の
圧力は殆ど上昇せず,洗浄槽2から密閉容器26への有機溶剤
の吸引は,その後も継続して行なわれ,洗浄槽2内の圧力が低
下する。
上述の様に,密閉容器26内で有機溶剤蒸気を凝縮液化する
事で,洗浄槽2内の圧力を相当に低下させる事が出来るが,こ
の凝縮液化による圧力低下のみでは,洗浄槽2内の真空度が不
十分である場合は,第一の接続管29の途中の三方弁34を,
第一の接続管29と真空ポンプ13の吸入管35とを通じさせ
る状態に切り換え,この真空ポンプ13を運転する。
この様にして真空ポンプ13を運転した場合,洗浄槽2内の
有機溶剤蒸気が,第一の接続管29,吸入管35,真空ポンプ
13,吐出管36を通じて,密閉容器26内に送り込まれ,こ
の密閉容器26内で凝縮液化する。
この様にして真空ポンプ26(判決注:
「13」の誤記)によ
る蒸気排出を行なう際,真空ポンプ13の吐出口は密閉容器2
6内に,吸入口は洗浄槽2内に,それぞれ連通するが,この際
には密閉容器26内の圧力も相当に低くなっている為,真空ポ
ンプの吸入側と吐出側との圧力差を小さくする事が出来,真空
ポンプ13として格別高性能のもの(高真空型のもの)を使用
しなくても,洗浄槽2内の真空度を十分に高める事が出来る。」
このようにこの実施例では,真空ポンプ13は用いないが,
「凝縮室」である密閉容器26が事前に減圧され,
「温度保持手
段」である冷却パイプ27によって低温状態に保持される。そ
の後,
「開閉バルブ」である第一の開閉弁28を開くことで,
「洗
浄室」である洗浄槽2と密閉容器26との圧力差によって溶剤
蒸気が密閉容器へ移動する。密閉容器26に移動した溶剤蒸気
は冷却パイプ27の冷却によって凝縮されるので密閉容器2
6の圧力を上昇させず,溶剤蒸気の移動が継続する。
洗浄槽2内の圧力が急激に低下して,被洗浄物に付着した
溶剤が突沸するとあるが,これは被洗浄物の乾燥に他ならな
い。なお,この実施例では,「この洗浄槽2内に収納された被
洗浄物に付着した有機溶剤の液滴が突沸し,この被洗浄物の
表面に付着した汚れを吹き飛ばして,続いて行なわれる洗浄
作業による洗浄効果を向上させる。」とあり,本洗浄前の粗洗
浄を想定していると思われるが,本洗浄においても同様の乾
燥手法が適用可能であることは明らかである。
上記の記載には,真空ポンプ13を併用してもよいことも開
示されている。本件特許発明1,5は,凝縮室を真空ポンプで
減圧することを特徴とする発明ではなく,甲49において密閉
容器26の減圧に際し真空ポンプを用いても,甲49が開示す
る乾燥手法には何ら変わりはない。
(ii) 甲49に示されている技術事項
以上のとおり,甲49には,凝縮室(密閉容器26)が事前
に減圧され,その後,開閉バルブ(第一の開閉弁28)によっ
て洗浄室(洗浄槽2)と連通されることによってワーク乾燥す
る点,すなわち,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-
2,本件特許発明5と甲10発明5の相違点1-5が開示され
ている。
(b) 甲50(仏国特許公開2698558:1994年6月3日公開)
(i) 甲50の記載
① 技術分野,従来技術
甲50の1頁には技術分野,従来技術に関して次の記載があ
る(1頁9行目~30行目)。


(訳)
この発明は特に塩素系溶剤を用いる機械部品のクリーニング
機械であって,一般的には制御下の温度の液状溶剤を含む主要
槽で形成される機械に関わるものであり,主要槽内には,洗浄
すべき部品と,この槽に隣接させて,沸騰した溶剤を含む槽と
を導入する。上方に向けて開口するこれら二つの槽の上には溶
剤で飽和する蒸気の領域がある。
溶剤の消費と,そして同時に汚染とを低減するため,前記洗
浄チャンバーおよび/または処理チャンバーが密封されるよう
に閉鎖され,乾燥は負圧状態で実行される諸機械が既に提案さ
れている。
(例えば特許GB‐A‐1.135.181,EP‐A2‐
0.289.982,EP‐A1‐0.276.876で詳述
された機械のような)周知の機械はこの同じ作用原理を用いる
ものであり,作用図式は異なるものの,これらの機械は全て,
真空ポンプを使って溶剤蒸気を吸い込むことで洗浄チャンバー
を負圧にし,かつ,その後,凝縮を生じさせるためにポンプの
下流に位置する冷却バッテリにこの同じ蒸気を移動することを
予定する。
以上の記載から,甲50に記載の発明(以下「甲50発明」
という。)は,塩素系溶剤を用いる機械部品の洗浄・乾燥機械に
関する技術である。
② 実施例
図1,図2に甲50発明の実施例が開示されている。図1
は全体を,図2は凝縮器4の内部構造を示している。
図1に示された「1チャンバー」は本件特許発明1,5の洗
浄室に当たり,
「13蒸留器」は本件特許発明1,5の「蒸気生
成手段」に当たり,
「4凝縮器」は本件特許発明1,5の「凝縮
室」に当たり,
「3バルブ」は本件特許発明1,5の「開閉バル
ブ」に当たり,
「PV真空ポンプ」は本件特許発明1,5の「真
空ポンプ」に当たり,図2の「21冷却用蛇管」は本件特許発
明1,5の「温度保持手段」に当たる。
③ チャンバー1におけるワークの洗浄
甲50の4頁19行目~23行目には次の記載がある。


(訳)
チャンバー1は,使用される溶剤の凍結温度を下回る温度で
(同様に図示されていない)適切な冷凍コンプレッサにより冷
却される凝縮器4と,バルブ3を備える配管2を介して連通す
る。
また,4頁28行目~5頁9行目には,次の記載がある。


(訳)
次いで第二配管7が,制御バルブ8を介して凝縮器4を真空
ポンプPVに連通する。もう一つの別のバルブ10が配管7を
大気と連通する。所望であれば,大気の方への流出が場合によ
っては活性炭フィルタFFを介して実行されることができる。
洗浄機械は他方で溶剤のための貯蔵タンクを包含し,貯蔵タ
ンクは二つの槽12Aおよび12Bで構成され,この槽12B
は槽12Aに溢流口と蒸留器13とによりつながれる。
チャンバー1の漏斗底は,バルブ15を備える排出ホース1
5Aにより貯蔵タンクの槽12Aにつながれる。
槽12Aの基部には二つのポンプP1およびP2がつなが
れ,二つのポンプP1およびP2はそれぞれ,一方で洗浄チャ
ンバー1の方へ,他方で蒸留器13の方へ溶剤を送る。槽12
Bの基部につながれる第三ポンプP3は,チャンバー1内にあ
る噴霧ノズル1Bに溶剤を送る。
以上の記載と,その前提である従来技術に関する前記①の
記載により,チャンバー1内では,噴霧ノズル1B等から供
給される液状の溶剤と,蒸留器13から供給される溶剤蒸気
とにより,ワークの洗浄が行われることが理解される。
④ 凝縮器4
凝縮器4に関し,甲50の5頁13行目~25行目には次の
記載がある。


(訳)
本発明によると,凝縮器4は図2に図式的に図解されるよう
に実現される。壁4の内側には円筒状タンク20が組み立てら
れる。このタンクの外側表面と壁4の内部表面との間には,ポ
ンプPVを使って真空に維持される中間ボリュームVが設けら
れた。
円筒状タンク20は,流体質量であって,‐例えば-30℃
の温度で液体状態のままであるブライン‐を含み,流体質量内
には冷却用蛇管21が浸る。この蛇管は,前記流体質量の温度
を測定するのに適したサーモスタットにより制御される(図示
されていない)冷凍コンプレッサにつながれる。
上記のとおり,「ポンプPVを使って真空に維持される中間
ボリュームVが設けられた」とあるから,凝縮器4の内部の
空間は,洗浄後のバルブ3の開弁前から真空に維持されてい
ることが理解される。このことは甲50の従来技術の欄の説
明からも裏付けられる。
すなわち,甲50の2頁10行目~30行目に次の記載があ
る。


(訳)
‐第二にポンプは,大抵200リットルを上回るボリュームの,
洗浄チャンバー内に存在する全ての溶剤蒸気と,洗浄された部
品の表面に残った液状溶剤により生成される蒸気との吸出し作
業を実行しなければならず,このことは,大きなサイズの真空
ポンプがあったとしても,比較的長い時間を必要とし,それは
いずれにせよアイドルタイムとなる。
これらの欠点を回避するために,洗浄チャンバーの下流に真
空低温凝縮器を包含し,この凝縮器の下流に前記凝縮器を負圧
にするための真空ポンプを包含する機械が既に提案されてい
る。溶剤蒸気が真空凝縮器内に吸い込まれるときに,この凝縮
器の内側に行き渡る低温により溶剤蒸気は瞬時に凝縮されるの
で,この機械により洗浄チャンバーの排出アイドルタイムを著
しく低減することが可能となる。このことにより,比較的低減
されたサイズの吸い込みポンプを予定することが可能となり,
それによって,周知の技術の機械よりも経済的であると同時に
効率的な機械を予定することが可能となる。
上記の記載は,凝縮器の容積を利用して溶剤蒸気を吸い込む
ことにより,低容量のポンプで足りることを説明しているか
ら,凝縮器が溶剤蒸気を吸い込む前に,真空ポンプで凝縮器が
減圧されていることを前提とした記載である。こうした従来技
術を前提として,甲50発明がなされている点を踏まえれば,
上記のとおり,甲50発明の凝縮器4の内部の空間は,洗浄後
のバルブ3の開弁前から真空に維持されていると理解するこ
とができる。
凝縮器4の機能に関して甲50の6頁27行目~35行目
には次の記載がある。


(訳)
本発明による凝縮器の作用は明白である。ダクト2を介して
洗浄チャンバー1から来る溶剤蒸気は,真空空間V内に吸い込
まれ,タンク20の冷たい壁と接触して凝縮する。凝縮液はこ
の同じ壁を伝って流れ,凍結される前に底に落ちて蓄積される。
上記の記載が洗浄後にバルブ3を開弁したときの作用を説
明していることは明らかである。そして,上記のとおり,凝縮
器4内は真空に維持されているから,バルブ3の開弁により,
チャンバー1から溶剤蒸気が凝縮器4に吸い込まれ,凝縮され
ることが理解される。
(ii) 甲50に示されている技術事項
以上によれば,甲50には,凝縮室(凝縮器4)が事前に減圧
され,その後,開閉バルブ(バルブ3)によって洗浄室(チャン
バー1)と連通されることによってワーク乾燥する点,すなわ
ち,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-2,本件特許発
明5と甲10発明5の相違点1-5が開示されている。
(c) 甲51(欧州特許公開1249263:2002年10月16日
公開)
(i) 甲51の記載
① 技術分野
甲51に記載の発明(以下「甲51発明」という。)は,石油
系等の溶剤により蒸気洗浄及び乾燥処理を行う洗浄設備に関
する([0001]~[0005])。
② 実施例
図1に甲51発明の実施例が開示されている。
図1に示された「4作業チャンバ」は本件特許発明1,5の
洗浄室に当たり,
「8a部分」は本件特許発明1, 「凝縮室」
5の
に当たり,
「39」は本件特許発明1,5の「温度保持手段」に
当たり,
「15弁」は本件特許発明1,5の「開閉バルブ」に当
たり,
「10真空ポンプ」は本件特許発明1, 「真空ポンプ」
5の
に当たる。
この洗浄設備は,蒸気発生器1で発生した溶剤蒸気を作業チ
ャンバ4に導入してワークの洗浄を行い,洗浄後の溶剤蒸気を
凝縮器8に吸引する設備である。
③ 凝縮器
甲51の[0010]には次の記載がある。


(訳)
[0010] 概略的に図示した洗浄設備は,蒸気発生器1を有
している。この蒸気発生器1内では,液状の溶剤が加熱されて,
飽和した溶剤蒸気が発生させられる。蒸気発生器1から,遮断
弁3が内部に配置された第1の蒸気管路2が,圧力密に閉鎖可
能な作業チャンバ4に通じている。この作業チャンバ4内には,
洗浄すべき部材が洗浄工程中に収納されている。作業チャンバ
4には,通気弁5が配置されている。蒸気発生器1から,蒸気
圧弁7を備えた第2の蒸気管路6が,空冷式または水冷式の凝
縮器8の第1の部分8aに通じている。作業チャンバ4は,第
1の吸引管路9を介して第1の真空ポンプ10に接続されてい
る。第1の吸引管路9内には,弁11が配置されている。さら
に,第1の真空ポンプ10は,第2の吸引管路12を介して凝
縮器8に接続されている。第2の吸引管路12内には,別の弁
13が介装されている。さらに,作業チャンバ4から,弁15
を備えた第1の分岐管路14が凝縮器8の第1の部分に通じて
いる。さらに,作業チャンバ4には,第2の分岐管路16が接
続されている。この第2の分岐管路16は,弁17を介して第
2の真空ポンプ18に通じている。この第2の真空ポンプ18
の出口は,別の弁19を介して圧縮機20の入口に接続されて
いる。この圧縮機20の出口は,凝縮器8の第2の部分8bに
接続されている。
ここでは,凝縮器8が空冷又は水冷式であること,及び,
凝縮器8が部分8aと部分8bとを有していることが説明さ
れている。また,部分8aが弁13を介して真空ポンプ10
に接続されていること,及び,作業チャンバ4が弁11を介
して真空ポンプに接続されていることが説明されており,そ
れぞれ独立して減圧可能な構成であることが理解される。
④ 洗浄
甲51の[0013]~[0016]には洗浄開始時の動作が
説明されている。


(訳)
[0013]本来の洗浄運転前に,まず,真空ポンプ10を介し
て,システム内に存在する空気が吸引される。システムから空
気がなくなると,真空ポンプ10を引き続き作動させることな
く,連続的な蒸留を行うことができる。この場合,蒸気発生器
1内で発生させられた溶剤蒸気が,弁3を閉鎖したまま,管路
6を介して凝縮器8の部分8aに流れ,そこで,液化される。
凝縮器8から流出した凝縮物が水分離器22内に達する。そこ
で水から分離された蒸留物が,ポンプ25によって管路27を
介して再び蓄え容器28内に導入される。余剰の溶剤は,オー
バフロー管路37を介して蒸気圧容器1内に導出させることが
できる。連続的な蒸留によって,不変の洗浄クオリティを保証
することができ,溶剤へのオイルおよびグリースの添加を阻止
することができる。
[0014]作業チャンバ4が,洗浄すべき部材で満たされ,閉
鎖され,真空ポンプ10によって管路9を介して,1mbar
を下回る圧力にまで排気された後,弁11が閉鎖され,選択可
能な洗浄プログラムに応じた部材の本来の洗浄を行うことがで
きる。
[0015]部材を洗浄浴内で洗うために,弁29が開放される。
これによって,作業チャンバ4に,蓄え容器28内で加熱され
た溶剤を送り込むことができる。浴洗浄の終了後,溶剤が,こ
の場合に開放された弁33,34とフィルタ32とを介して流
出させられ,ポンプ25を介して再び蓄え容器28内に返送さ
れるようになっている。
[0016]蒸気脱脂を実施するために,弁3が開放される。こ
れによって,蒸気発生器1内に存在する溶剤飽和蒸気が,管路
2を介して作業チャンバ内に流れる。この作業チャンバ1内で
は,溶剤蒸気によって,洗浄すべき物品から,付着しているグ
リースまたはオイルが除去される。
上記の記載によれば,[0013]の段階で凝縮器8が減圧
され,[0014]の段階で作業チャンバ4が減圧されること
が理解される。その後,ワークの蒸気洗浄が作業チャンバ4
内で行われることが理解される。
⑤ 乾燥
洗浄後のワークの乾燥に関し[0017]~[0018]に次
の記載がある。


(訳)
[0017]この洗浄ステップの終了時には,弁15が開放され
る。これによって,空冷式または水冷式の凝縮器8の凝縮圧に
近似の圧力が達成されるまで,飽和蒸気が作業チャンバ4から
凝縮器の部分8aに流れ,そこで,液化される。凝縮器8から
流出した凝縮物は,水分離器22とポンプ25とを介して再び
蓄え容器28に供給される。
[0018]作業チャンバ4と凝縮器8の部分8aとの間で圧力
補償が生じると,弁15が閉鎖され,弁17が開放される。第
2の真空ポンプ18を介して,まだ作業チャンバ4内に存在し
ている残りの溶剤蒸気が吸引され,圧縮機20によって圧縮さ
れる。この圧縮機20を介して圧力が増加させられ,こうして,
残りの溶剤蒸気を空冷または水冷によって完全に凝縮させるこ
とができる。(後略)
(ii) 甲51に示されている技術事項
前記(i)の①~⑤の甲51の記載から,凝縮器8の部分8aが
事前に独立して減圧されており,弁15が開弁されると,部分8
aと作業チャンバ4との差圧によって,溶剤蒸気が作業チャンバ
4から部分8aに吸引されることが理解される。
そうすると,甲51には,凝縮室(凝縮器8)が事前に減圧さ
れ,その後,開閉バルブ(バルブ15)によって洗浄室(作業チ
ャンバ4)と連通されることによってワーク乾燥する点,すなわ
ち,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-2,本件特許発
明5と甲10発明5の相違点1-5が開示されている。
(d) 甲52(特開2000-334402:2000年12月5日公
開)
(i) 甲52の記載
① 技術分野
甲52に記載の発明(以下「甲52発明」という。)は,石油
系溶剤等により減圧蒸気洗浄を行う減圧蒸気洗浄装置に関す
る(【0001】。

② 実施例
甲52の図1に甲52発明の実施例が開示されている。減圧
蒸気洗浄装置1Aは,蒸気洗浄槽1で溶剤蒸気によりワークの
減圧蒸気洗浄を行い,その後,真空乾燥を行う装置である(【0
032】~【0039】。

図1に示された「1蒸気洗浄槽」は本件特許発明1,5の洗
浄室に当たり,
「3蒸発器用熱交換器」は本件特許発明1,5の
「蒸気生成手段」に当たり,
「4凝縮室」は本件特許発明1,5
の「凝縮室」に当たり,
「冷却水」は本件特許発明1,5の「温
度保持手段」に当たり,
「18蒸気洗浄槽真空引きバルブ」は本
件特許発明1,5の「開閉バルブ」に当たり,
「6真空ポンプ」
は本件特許発明1,5の「真空ポンプ」に当たる。
③ 凝縮器
甲52には凝縮器4に関し,次の記載がある。
「【0029】蒸気洗浄槽1は,蒸気洗浄槽真空引きバルブ18
と凝縮器4を介して,真空ポンプ6に接続されており,これで
真空引きされる。凝縮器4は冷却水で冷却されており,真空引
きされた溶剤蒸気は凝縮器4で凝縮し,溶剤に戻る。また蒸気
洗浄槽1には,真空度を測定する真空計8と真空状態を解除す
るための大気ベントバルブ16とサイレンサー17がつけてあ
る。」
そして,真空乾燥時の動作として次の記載がある。
「【0037】所定の時間,減圧蒸気洗浄を行った後,溶剤供給
バルブ10を閉じ,その後蒸気洗浄槽排液バルブ15を閉じ,
真空ポンプ6を作動させ,蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開
いて,真空乾燥を行う。この過程でも,被洗浄物,洗浄バスケ
ット2,蒸気洗浄槽1,蒸発器用熱交換器3に付着している溶
剤が気化し溶剤蒸気が発生するので,凝縮器4で凝縮回収を行
う。」
ここでは,減圧蒸気洗浄後の真空乾燥時の動作は,真空ポ
ンプ6を作動させて凝縮器4を減圧させた後,蒸気洗浄槽真
空引きバルブ18が開弁されて蒸気洗浄槽1内の溶剤蒸気が
凝縮器4に吸引され,凝縮されることが説明されている。
(ii) 甲52に示されている技術事項
以上より,甲52には,凝縮室(凝縮器4)が事前に減圧され,
開閉バルブ(蒸気洗浄槽真空引きバルブ18)によって洗浄室(蒸
気洗浄槽1)を凝縮室(凝縮器4)と連通させてワーク乾燥する
点,すなわち,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-2,
本件特許発明5と甲10発明5の相違点1-5が開示されている。
(e) 甲53(米国特許5045117:1991年9月3日公開)
(i) 甲53の記載
① 技術分野
甲53に記載の発明(以下「甲53発明」という。)は,プリ
ント配線アセンブリからロジンフラックス残渣を溶剤により
洗浄する方法及び装置に関する(要約欄) 図1に甲53発明の

実施例が開示されている。
② 実施例
図1に示された「12処理チャンバ」は本件特許発明1,5
の洗浄室に当たり,「20コールドトラップ」は本件特許発明
1,5の「凝縮室」に当たり,「35バルブ」は本件特許発明
1,5の「開閉バルブ」に当たり,「16真空ポンプ」は本件
特許発明1,5の「真空ポンプ」に当たる。
③ コールドトラップ20
甲53の3欄には次の記載がある。


(訳)
真空ポンプ16は,チャンバ12を約1mm水銀の部分真空
まで排気するのに十分な種類の従来の真空ポンプを含む。真空
保持タンク18は,真空ポンプ16に対する負荷を均等化し且
つ処理チャンバ12内の減圧を加速するように,実質的な蓄圧
器を提供するのに十分なサイズを有する。コールドトラップ2
0は冷却コイル76を含む。冷却コイル76は液体窒素により
冷却され,溶剤を凝縮するように動作可能な非常に低い温度に
トラップ20を維持するように構成される。
上記の記載から,コールドトラップ20が凝縮器であること
が説明されている。
④ コールドトラップ20の減圧
甲53の5欄には,甲53発明の実施例の動作に関し,次の
記載がある。


(訳)
システム10の動作を更に詳細に検討すると,SMDを含む
プリント配線アセンブリは,はんだ付けの直後であってフラッ
クス残渣が硬化する前に処理チャンバ12内のラック72に
載置される。次に,チャンバ12内に真空を生成するためにチ
ャンバ12が十分に密閉されるように,蓋70が所定の位置に
固定され,全てのバルブが閉じられる。次に,処理動作を開始
するためにシーケンサ/タイマ26が操作者により作動され,
以降,処理動作はシーケンサ/タイマ26の制御下で進む。真
空ポンプ16とチャンバ12との間に経路を提供するために,
バルブ31,33及び35が開かれる。真空ポンプ16がオン
にされ,1mm水銀に近い部分真空が達成されて真空計64に
より信号が送信されるまでチャンバ12から空気が抜き出さ
れ,チャンバ12を密閉するためにバルブ33及び35が閉じ
られる。この時点で,フラックス残渣は,処理チャンバ12内
のラック72上の配線アセンブリ上の閉じ込め空間から移動
している。
ここでは,洗浄前の準備として真空ポンプ16により処理チ
ャンバ12の真空引きがなされることが説明されている。処理
チャンバ12の真空引きの際,凝縮器であるコールドトラップ
20の両側のバルブ33,35が開弁されるので,コールドト
ラップ20も真空引きされる。その後,バルブ33,35が閉
弁されることが記載されているので,コールドトラップ20内
は真空引きされた状態が維持される。
⑤ 処理チャンバ12内での浸漬洗浄後の溶剤の排出
甲53には,前記④の記載に続いて次の記載がある。


(訳)
次に,バルブ51が開かれ,溶剤がタンク14から処理チャ
ンバ12に流れ込み,チャンバが溶剤で再加圧されて,アセン
ブリ及びラック72が全方向に溶剤で満たされる。これにより,
溶剤は,圧力差と毛管力の影響を受けて,他の状況ではアクセ
スできない閉じ込め領域に進入し,アセンブリ上のフラックス
残渣を更に溶解して洗い流すことができる。尚,洗浄作用を促
進するために溶剤を加熱してもよいが,これは必ずしも必要で
はなく,実際,一部の溶剤は加熱が望ましくない場合がある。
処理チャンバ12が溶剤で満たされた後,バルブ51が閉じら
れ,ポンプ22及び24がオンにされるとバルブ53,43及
び45が開かれる。溶剤は,ポンプ22によりチャンバ12に
送り出され,管74に溢れ出し,更にポンプ24によりタンク
14に送り戻されるため,タンク14とチャンバ12との間で
循環される。それにより,溶剤は,ラック72上のアセンブリ
を通過して処理チャンバ12内で流動し,そのため,フラック
ス残渣の除去に有効な更なる洗浄作用を提供する。次に,ポン
プ22の動作が停止すると,バルブ43が閉じられ,バルブ4
7が開かれる。流動溶剤は全て,ポンプ24により処理チャン
バ12から保持タンク14に吸い出される。
ここでは,処理チャンバ12内で浸漬洗浄が行われた後,
溶剤が処理チャンバ12から排出されることが説明されてい
る。
⑥ 処理チャンバ12から排出された溶剤蒸気のコールドトラッ
プ20での凝縮
甲53には,前記⑤の記載に続いて次の記載がある。


(訳)
その後,バルブ33及び35が再び開かれると,バルブ53,
45及び47が閉じられる。このように,チャンバ12内で1
mm水銀に近い部分真空が再度達成されたと真空計64により
検出されるまで,真空ポンプ16により処理チャンバから空気
が再度吸い出される。これにより,溶剤が蒸発して処理室12
から排出され,ラック72上の配線アセンブリに溶剤物質が存
在しなくなる。
同時に,チャンバ12から吸い出された気相溶剤物質は,コ
ールドトラップ20を通過し,そこで再利用のために凝縮及び
収集される。(後略)
ここでは,コールドトラップ20の両側のバルブ33,3
5が開弁され,処理チャンバ12内の溶剤蒸気が排出される
ことが説明されている。上記のとおり,コールドトラップ2
0は真空引きされた状態が維持されていたから,コールドト
ラップ20の両側のバルブ33,35を開弁した時に,コー
ルドトラップ20内に溶剤蒸気が吸い込まれることは自明で
ある。そして,溶剤蒸気の排出によりワーク(配線アセンブ
リ)に溶剤物質が存在しなくなると説明されているから,こ
れはワークの乾燥に他ならない。また,処理チャンバ12か
ら排出された溶剤蒸気がコールドトラップ20で凝縮される
ことも説明されている。
(ii) 甲53に示されている技術事項
前記(i)①~⑥によれば,甲53には,凝縮室(コールドトラ
ップ20)が事前に減圧され,その後,開閉バルブ(バルブ3
3)によって洗浄室(処理チャンバ12)と連通されることによ
ってワーク乾燥する点,すなわち,本件特許発明1と甲10発明
1の相違点1-2,本件特許発明5と甲10発明5の相違点1-
5が開示されている。
b 容易想到性
前記aのとおり,甲49~53には,凝縮室が事前に減圧され,そ
の後,開閉バルブによって洗浄室と連通されることによってワーク乾
燥する点,すなわち,本件特許発明1と甲10発明1の相違点1-2
に係る本件特許発明1の構成,本件特許発明5と甲10発明5の相違
点1-5に係る本件特許発明5の構成の構成が開示されており,これ
は周知技術であった。そして甲10発明1~5と甲49~53に記載
された周知技術は,同じ技術分野に属し,同種の装置に関する技術で
あって,これを甲10発明1~5に適用することに阻害事由はないか
ら,甲49~53に開示された上記の周知技術を甲10発明1~5に
適用することは容易に想到することができた。
そして,前記⑴ア(カ)a~dのとおり,本件特許発明2,本件特許発
明3及び本件特許発明4はいずれも本件特許発明1を含むものであり,
本件特許発明1と甲10発明1,本件特許発明2と甲10発明2,本
件特許発明3と甲10発明3,本件特許発明4と甲10発明4との間
の相違点1-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載
された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
また,前記⑴ア(カ)dのとおり,相違点1-3に係る本件特許発明4の
構成は,甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得るものであり,前記⑴ア(カ)eのとおり,
相違点1-4に係る本件特許発明5の構成も,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
そのため,本件特許発明1~5は,甲10発明1~5に周知技術を
適用することにより,容易に想到することができた。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
1-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできな
かったとした本件審決の判断は誤りである。
イ 被告らの主張
(ア) 本件審決の判断
本件審決が原告主張のような判断をしたことは争わない。
(イ) 甲14に基づく容易想到性
原告の主張は争う。
原告は,甲14の記載のうち,冷却タンク6が真空ポンプ10によっ
て事前に減圧され,冷却コイル2によって低温状態に保持され,その後,
バルブ29を開くことで,減圧タンク1と冷却タンク6との圧力差によ
って溶剤蒸気が冷却タンク6へ移動する旨の記載に基づいて,甲14に
相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件
特許発明5の構成が開示されていると主張する。原告が指摘する甲14
の上記記載は,甲14の【0028】に示されている。しかし,甲14
において,乾燥工程は【0029】に示されており,
【0028】に記載
されているのは,乾燥工程の前段階の工程であって,乾燥工程自体では
ない。そのため,甲14に,乾燥工程である相違点1-2に係る本件特
許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構成が開示さ
れているということはできない。
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1
-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示され
ていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかった
とした本件審決の判断に誤りはない。
(ウ) 周知技術に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
甲49~53に原告主張の記載箇所があることは争わないが,その
余の原告の主張は争う。
(a) 甲49
甲49における有機溶剤の凝縮は,有害物質である有機溶剤を回
収する手段であると同時に,洗浄工程における手段であって,甲4
9には,乾燥工程に凝縮作用を用いるという技術はまったく開示さ
れていない。有機溶剤の回収・洗浄工程と乾燥工程とは相互に異な
る工程であるから,甲49に乾燥工程にかかる構成である相違点1
-2の構成が開示されているとはいえない。甲49には,真空ポン
プを用いて密閉容器26を減圧することの開示もない。したがって,
甲49には,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
1-5に係る本件特許発明5の構成は開示されていない。
(b) 甲50
甲50に記載された技術は,フロン等の回収工程に関するもので
あり,本件特許発明における従来技術や主引例である甲10と同様
に,真空ポンプによる吸引を行う技術であり,図1からも明らかな
とおり,真空ポンプ(PV),凝縮器4及び処理チャンバー1は直列
に繋がっており,凝縮器4と処理チャンバー1とを独立に減圧する
ことはできない構造である。したがって,甲50には,相違点1-
2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許
発明5の構成は開示されていない。
(c) 甲51
甲51に記載された技術は,フロン等の回収工程に関するもので
あり,洗浄液の蒸留工程の前に真空ポンプを用いてシステム内の空
気を除去することは記載されているが 【0013】,
( ) 蒸留工程後に
行われる洗浄工程においてシステム内の空気がどのような状態に
なっているかについての記載はなく,その詳細は不明である。また,
甲51の課題は,比較的高価で保守の頻度が高い冷凍ユニットを省
略すること,溶剤排出を少なくして手間のかかる濾過・回収システ
ムなしでも洗浄を実施することにあり,そのために凝縮を利用して
いるのに対し,本件特許発明の課題は,熱処理部品のワーク(金属
部品類)の洗浄時の乾燥時間の短縮化にあるから,甲51は本件特
許発明とは技術的な課題が異なる。したがって,甲51には,相違
点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本
件特許発明5の構成は開示されていない。
(d) 甲52
甲52に記載された技術は,図1から明らかなとおり,洗浄室(1)
と凝縮器(4)及び真空ポンプ6が直列に接続されており,洗浄室
と凝縮器とを独立して減圧できる構造にはなっておらず,また,甲
52の乾燥工程は,真空ポンプによる乾燥であって(甲52の【0
037】,甲10などと同様の技術である。したがって,甲52に

は,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成は開示されていない。
(e) 甲53
甲53に記載された技術は,プリント配線アセンブリからロジン
フラックス残渣を洗浄するシステムに関する技術であり,石油系溶
剤を用いる本件特許発明の洗浄装置とは技術分野が異なる。また,
甲53に記載された装置は,真空ポンプ16,コールドトラップ2
0及び処理チャンバ12が直列に接続されて独立に減圧できない構
造になっており,また,チャンバ12内の溶液の回収は,本件特許
明細書の従来技術と同じく真空ポンプによるものである。したがっ
て,甲53には,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相
違点1-5に係る本件特許発明5の構成は開示されていない。
b 容易想到性
原告の主張は争う。
特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟においては,審判で審理
判断されなかった公知事実を主張することは許されず(最高裁昭和4
2年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2
号79頁)審判の手続には現れていなかった資料に基づいて当業者の

特許出願当時における技術常識又は周知技術を認定し,これによって
審判の手続で審理判断された公知の発明又は刊行物記載の発明のもつ
意義を明らかにすることが許されるにとどまる。ところが,本件にお
いて,甲49~53に示されていると原告が主張する相違点1-2に
係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の
構成について,これらが当業者の本件特許の優先権主張日前の技術常
識又は周知技術であったことは何ら立証されていないから,甲49~
53に示されていると原告が主張する上記構成と刊行物記載の発明
(甲10発明1~5)の組み合わせに基づく容易想到性を主張するこ
とは許されない。また,仮に容易想到性を検討し得るとしても,本件
特許発明1,5の容易想到性は認められない。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
1-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできな
かったとした本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(甲18を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由2関係))
⑴ 取消事由2-1(相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする
進歩性判断の誤り)
ア 原告の主張
(ア) 本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
a 本件審決は,本件特許発明1と甲18発明1の相違点2-2として,
本件特許発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲18発明1は,開閉バル
ブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される点を相違
点として認定する(前記第2,3⑶イ(ア)b(b))。しかし,本件特許発
明1は,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されている構成
のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室
が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)という甲18発
明1と同様の構成を文言上含むものであるから,本件特許発明1と甲
18発明1との間には,相違点2-2は存在せず,本件審決が相違点
2-2を本件特許発明1と甲18発明1の相違点として認定したのは
誤りである。
b 本件特許発明1が,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧さ
れている構成のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプに
よって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)と
いう甲18発明1と同様の構成を文言上含むと解される理由は,前記
1⑴ア(ア)において相違点1-2について述べたのと同じである(た
だし,「甲10」は「甲18」に改める。。

(イ) 本件特許発明2と甲18発明2の相違点として相違点2-2を認定
した誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2, 【請

求項2】,甲18発明2は甲18発明1を含むものであるところ(前記

第2,3⑵イ(イ)) 本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18

発明1の相違点として認定したのは誤りであるから(前記(ア)) 本件審

決が,本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2が認
定されることを前提として,本件特許発明2と甲18発明2の相違点と
して相違点2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(イ)b)は誤りで
ある。
(ウ) 本件特許発明3と甲18発明3の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2, 【請求項3】,
2 )
本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2,【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲18発明3は甲
18発明2を含み(前記第2,3⑵イ(ウ)),甲18発明2は甲18発明
1を含むから(前記第2,3⑵イ(イ)),甲18発明3は甲18発明1を
含むものであるところ,本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲
18発明1の相違点として認定したのは誤りであるから(前記(ア)) 本

件審決が,本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2
が認定されることを前提として,本件特許発明3と甲18発明3の相違
点として相違点2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(ウ)b)は誤
りである。
(エ) 本件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2, 【請求項4】,
2 )
甲18発明4は甲18発明1を含むところ(前記第2,3⑵イ(エ)),本
件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明1の相違点として
認定したのは誤りであるから(前記(ア)),本件審決が,本件特許発明1
と甲18発明1の相違点として相違点2-2が認定されることを前提と
して,本件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を認
定したこと(前記第2,3⑶イ(エ)b(a))は誤りである。
(オ) 本件特許発明5と甲18発明5の相違点として相違点2-5を認
定した誤り
a 本件審決は,本件特許発明5と甲18発明5の相違点2-5として,
本件特許発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲18発明5は,開閉バル
ブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される点を認定
する(前記第2,3⑶イ(オ)b(b))。しかし,本件特許発明5は,開閉
バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されている構成のみならず,
開閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧される
(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)という甲18発明5と同様の
構成を文言上含むものであるから,本件特許発明5と甲18発明5と
の間には,相違点2-5は存在せず,本件審決が相違点2-5を本件
特許発明5と甲18発明5の相違点として認定したのは誤りである。
b 本件特許発明5が,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧さ
れている構成のみならず,開閉バルブによる連通の後に真空ポンプに
よって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)と
いう甲18発明5と同様の構成を文言上含むと解される理由は,前記
1⑴ア(オ)において相違点1-5について述べたのと同じである(た
だし,「甲10」は「甲18」に改める。。

(カ) 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
a 本件特許発明1の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明1と甲18発明1は,相違点2-1及び
相違点2-2において相違すると認定したが(前記第2,3⑶イ(ア)
b) 前記(ア)のとおり,
, 相違点2-2は本件特許発明1と甲18発明
1の相違点ではなく,また,相違点2-1に係る本件特許発明1の構
成は,甲11~14に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に
想到し得るものであった(本件審決93頁)。そのため,本件特許発明
1は,甲18発明1及び甲11~14に記載された周知技術に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであって,この点につ
いて,本件特許発明1は甲18発明1と甲11~17に基づいて容易
に想到することはできなかったとした本件審決の判断(前記第2,3
⑷イ(ア))は誤りである。
b 本件特許発明2の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明2と甲18発明2は,相違点2-1及び
相違点2-2において相違すると認定した(前記第2,3⑶イ(イ)b)
が,aと同様の理由により,相違点2-2は相違点ではなく,また,
相違点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった(本
件審決93頁)から,本件特許発明2は甲18発明2と甲11~17
に基づいて容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断
(前記第2,3⑷イ(イ))は誤りである。
c 本件特許発明3の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明3と甲18発明3は,相違点2-1及び
相違点2-2において相違すると認定した(前記第2,3⑶イ(ウ)b)
が,aと同様の理由により,相違点2-2は相違点ではなく,また,
相違点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった(本
件審決93頁)から,本件特許発明3は甲18発明3と甲11~17
に基づいて容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断
(前記第2,3⑷イ(ウ))は誤りである。
d 本件特許発明4の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明4と甲18発明4は,相違点2-1,相
違点2-2及び相違点2-3において相違すると認定した(前記第2,
3⑶イ(エ)b)。しかし,相違点2-2は相違点ではなく,また,相違
点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載された
周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであることはaと
同様であり(本件審決93頁) 相違点2-3に係る本件特許発明4の

構成は,甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得るものであった(本件審決98~99頁)。
そのため,本件特許発明4は,甲18発明4並びに甲11~14に記
載された周知技術及び甲13,15,16の1,17に記載された周
知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであっ
て,この点について,本件特許発明4は甲18発明4と甲11~17
に基づいて容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断
(前記第2,3⑷イ(エ))は誤りである。
e 本件特許発明5の進歩性判断の誤り
本件審決は,本件特許発明5と甲18発明5は,相違点2-4及び
相違点2-5において相違すると認定した(前記第2,3⑶イ(オ)b)。
前記(オ)のとおり,相違点2-5は本件特許発明5と甲18発明5の
相違点ではない。また,相違点2-4と相違点2-1は同じ内容であ
り,相違点2-4に係る本件特許発明5の構成(石油系溶剤)は,相
違点2-1に係る本件特許発明1の構成(石油系溶剤)と同じであっ
て,相違点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記
載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであるか
ら(本件審決93頁),相違点2-4に係る本件特許発明5の構成も,
甲11~14に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し
得るものであった(本件審決101頁)そのため,
。 本件特許発明5は,
甲18発明5及び甲11~14に記載された周知技術に基づいて当業
者が容易に発明をすることができたものであって,この点について,
本件特許発明5は甲18発明5と甲11~17に基づいて容易に想到
することはできなかったとした本件審決の判断(前記第2,3⑷イ(オ))
は誤りである。
イ 被告らの主張
原告の主張は争う。
(ア) 本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明1の相違点
として認定したことに誤りはない。
本件審決の認定の趣旨は,凝縮室と洗浄室とを連通させる前の段階で
凝縮室の減圧と冷却が行われているということであり,本件特許明細書
等の記載や本件特許発明の仕組みに照らして相当な認定である。原告に
よる解釈は,特許請求の範囲に従来技術を含むものであり,そのような
不自然な解釈をあえて採用する合理的な理由はない。
(イ) 本件特許発明2と甲18発明2の相違点として相違点2-2を認定
した誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2, 【請

求項2】,甲18発明2は甲18発明1を含むものであるところ(前記

第2,3⑵イ(イ)) 本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18

発明1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記(ア)) 本件

審決が,本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2が
認定されることを前提として,本件特許発明2と甲18発明2の相違点
として相違点2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(イ)b)にも誤
りはない。
(ウ) 本件特許発明3と甲18発明3の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2, 【請求項3】,
2 )
本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2,【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲18発明3は甲
18発明2を含み(前記第2,3⑵イ(ウ)),甲18発明2は甲18発明
1を含むから(前記第2,3⑵イ(イ)),甲18発明3は甲18発明1を
含むものであるところ,本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲
18発明1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記(ア)),
本件審決が,本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-
2が認定されることを前提として,本件特許発明3と甲18発明3の相
違点として相違点2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(ウ)b)に
も誤りはない。
(エ) 本件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を認
定した誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2, 【請求項4】,
2 )
甲18発明4は甲18発明1を含むところ(前記第2,3⑵イ(エ)),本
件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明1の相違点として
認定したことに誤りはないから(前記(ア)),本件審決が,本件特許発明
1と甲18発明1の相違点として相違点2-2が認定されることを前提
として,本件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を
認定したこと(前記第2,3⑶イ(エ)b(a))にも誤りはない。
(オ) 本件特許発明5と甲18発明5の相違点として相違点2-5を認
定した誤り
本件審決が相違点2-5を本件特許発明5と甲18発明5の相違点と
して認定したことに誤りはない。
この点に関する被告らの主張は,相違点2-2に関する主張(前記(ア))
と同じである。
(カ) 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
原告は,本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明1の
相違点として認定したことが誤りであるとの主張を前提に,本件特許発
明1~4について,甲18発明1~4と甲11~17に基づいて容易に
想到することはできなかったとした本件審決の判断は誤りであると主張
する。しかし,前記(ア)のとおり,本件審決が相違点2-2を本件特許
発明1と甲18発明1の相違点として認定したことに誤りはないから,
原告の上記主張は理由がない。
また,原告は,本件審決が相違点2-5を本件特許発明5と甲18発
明5の相違点として認定したことが誤りであるとの主張を前提に,本件
特許発明5について,甲18発明5と甲11~17に基づいて容易に想
到することはできなかったとした本件審決の判断は誤りであると主張す
る。しかし,前記(オ)のとおり,本件審決が相違点2-5を本件特許発
明5と甲18発明5の相違点として認定したことに誤りはないから,原
告の上記主張は理由がない。
⑵ 取消事由2-2(本件審決が認定する相違点(相違点2-2,2-5)の
存在を前提とする進歩性判断の誤り)
ア 原告の主張
(ア) 本件審決の判断
本件審決は,本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2
-2を認定し,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~1
7のいずれにも開示されていないから,本件特許発明1は容易に想到す
ることはできなかったとした(本件審決93~96頁)。また,本件特許
発明2~4(いずれも本件特許発明1を含む。)と甲18発明2~4(い
ずれも甲18発明1を含む。 の相違点として相違点2-2を認定し,
) 上
記と同様に,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~17
のいずれにも開示されていないから,本件特許発明2~4は容易に想到
することはできなかったとした(本件審決96~99頁)。さらに,本件
審決は,本件特許発明5と甲18発明5の相違点として相違点2-5を
認定し,相違点2-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のい
ずれにも開示されていないから,本件特許発明5は容易に想到すること
はできなかったとした(本件審決99~102頁)。
(イ) 甲14に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
しかし,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-
5に係る本件特許発明5の構成は,前記1⑵ア(イ)aのとおり,甲1
4に開示されている。
b 容易想到性
甲18発明1~5と甲14に記載された構成は,同じ技術分野に属
し,同種の装置に関する技術であるから,甲14に記載された構成を
甲18発明1~5に適用することは容易に想到することができた。
そして,前記⑴ア(カ)a~dのとおり,本件特許発明2,本件特許発
明3及び本件特許発明4はいずれも本件特許発明1を含むものであり,
本件特許発明1と甲18発明1,本件特許発明2と甲18発明2,本
件特許発明3と甲18発明3,本件特許発明4と甲18発明4との間
の相違点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載
された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
また,前記⑴ア(カ)dのとおり,相違点2-3に係る本件特許発明4の
構成は,甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得るものであり,前記⑴ア(カ)eのとおり,
相違点2-4に係る本件特許発明5の構成も,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
そのため,本件特許発明1~5は,甲18発明1~5に甲14に記
載された技術事項及び周知技術を適用することにより,容易に想到す
ることができた。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
2-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできな
かったとした本件審決の判断は誤りである。
(ウ) 周知技術に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5に係る
本件特許発明5の構成は,前記1⑵ア(ウ)aのとおり,複数の文献(甲
49~53)に開示された周知技術である。
b 容易想到性
前記aのとおり,本件特許発明1と甲18発明1の相違点2-2に
係る本件特許発明1の構成,本件特許発明5と甲18発明5の相違点
2-5に係る本件特許発明5の構成が開示されているところ,甲18
発明1~5と甲49~53に記載された周知技術は,同じ技術分野に
属し,同種の装置に関する技術であって,これを甲18発明1~5に
適用することに阻害事由はないから,甲49~53に開示された上記
の周知技術を甲18発明1~5に適用することは容易に想到すること
ができた。
そして,前記⑴ア(カ)a~dのとおり,本件特許発明2,本件特許発
明3及び本件特許発明4はいずれも本件特許発明1を含むものであり,
本件特許発明1と甲18発明1,本件特許発明2と甲18発明2,本
件特許発明3と甲18発明3,本件特許発明4と甲18発明4との間
の相違点2-1に係る本件特許発明1の構成は,甲11~14に記載
された周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
また,前記⑴ア(カ)dのとおり,相違点2-3に係る本件特許発明4の
構成は,甲13,15,16の1,17に記載された周知技術に基づ
いて当業者が容易に想到し得るものであり,前記⑴ア(カ)eのとおり,
相違点2-4に係る本件特許発明5の構成も,甲11~14に記載さ
れた周知技術に基づいて当業者が容易に想到し得るものであった。
そのため,本件特許発明1~5は,甲18発明1~5に周知技術を
適用することにより,容易に想到することができた。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
2-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することができな
かったとした本件審決の判断は誤りである。
イ 被告らの主張
(ア) 本件審決の判断
本件審決が原告主張のような判断をしたことは争わない。
(イ) 甲14に基づく容易想到性
原告の主張は争う。
前記1⑵イ(イ)において述べたのと同様の理由により,相違点2-2
に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5に係る本件特許発明5の
構成は甲11~17のいずれにも開示されていないから本件特許発明1
~5は容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断に誤り
はない。
(ウ) 周知技術に基づく容易想到性
a 相違点に係る構成の開示
甲49~53に原告主張の記載箇所があることは争わないが,その
余の原告の主張は争う。
前記1⑵イ(ウ)a(a)~(e)において述べたのと同様の理由により,甲
49~53には,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違
点2-5に係る本件特許発明5の構成は開示されていない。
b 容易想到性
原告の主張は争う。
前記1⑵イ(ウ)bにおいて述べたのと同様の理由により,甲49~
53に示されていると原告が主張する構成と刊行物記載の発明(甲1
8発明1~5)の組み合わせに基づく容易想到性を主張することは許
されない。また,仮に容易想到性を検討し得るとしても,本件特許発
明1,5の容易想到性は認められない。
c 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点
2-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできな
かったとした本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(分割要件に関する判断の誤り(無効理由3関係))
⑴ 原告の主張
ア 原出願に示されていた技術的事項
(ア) 原出願の当初明細書等(甲6)には,洗浄後に凝縮室を減圧しない
こと,及び真空ポンプを用いずにワークを乾燥させることのみが開示さ
れていた。その理由は,次の(イ)のとおりである。
(イ)a 原出願の当初の特許請求の範囲には,「洗浄後に前記凝縮室を減
圧することなく」
(請求項1及び3),
「真空ポンプを寄与させることな
く」(請求項2及び4)との記載があった。
b 原出願の当初明細書の【0005】【0006】には,従来技術で

は,洗浄後の乾燥工程において,真空ポンプの排気によって洗浄室を
減圧し,洗浄室内の溶剤蒸気を真空ポンプで吸引してワークの乾燥を
行っていたところ,これでは乾燥時間が長くなるということが,発明
の課題として示されている。
このような課題の解決手段として,原出願の当初明細書等には,
【図
1】に第1実施形態として装置の構成例が開示され,
【0021】【0

022】【0024】において,凝縮室21が準備工程において1回

だけ真空ポンプ10により減圧され,減圧の状態が維持されることが
示されている。
そして,
【0028】【0029】【0039】に乾燥工程が示され
, ,
ているところ,真空ポンプ10は,上記の準備工程における減圧にの
み用いられているだけであり,凝縮室21を洗浄室2と連通させて洗
浄室2内の溶剤蒸気を吸引させるという乾燥工程においては,真空ポ
ンプ10が使用されることはない。また,
【0039】では,乾燥工程
に真空ポンプ10を用いないことから,真空ポンプが多量の蒸気を吸
引することはなく,多量の蒸気の吸引に対応した特殊仕様の真空ポン
プを用いることがないことが強調されている。
原出願の当初明細書等には,
【図7】に第2実施形態として装置の構
成例が開示されている。そして,0044】 0045】 0046】
【 【
, 【
, ,
【0051】には,第2実施形態の装置の動作について記載されてい
るところ,第2実施形態においても,真空ポンプ10は,準備工程に
おける減圧にのみ用いられているだけであり,凝縮室21を洗浄室2
と連通させて洗浄室2内の溶剤蒸気を吸引させるという乾燥工程にお
いては,真空ポンプ10が使用されることはない。
原出願の当初明細書等の上記記載や【図3】~【図6】の実験デー
タによれば,原出願の当初明細書等における課題の解決原理は,大容
量の凝縮室を予め減圧しておき,その凝縮室の負圧吸引力によって洗
浄室内の溶剤蒸気の排出を一気に行い,凝縮室の冷却により溶剤蒸気
を凝縮させることによって凝縮室の負圧吸引力を継続させ,真空ポン
プによる排気,すなわち乾燥工程における凝縮室の減圧を不要とした
ものであった。
原出願の当初明細書等(甲6)には,乾燥工程において凝縮室を減
圧することや乾燥工程において真空ポンプを使用することについて
の記載や示唆はまったくない。
イ 本件特許の特許請求の範囲に示されている技術事項
本件特許請求の範囲(本件特許の特許請求の範囲は,平成28年7月2
6日の本件特許の出願当初から変更がない。 においては,
) 原出願の当初の
特許請求の範囲に記載されていた「洗浄後に前記凝縮室を減圧することな
く」(請求項1及び3)及び「真空ポンプを寄与させることなく」(請求項
2及び4)という要件が削除されており,洗浄後に凝縮室を減圧すること,
及び真空ポンプを用いてワークを乾燥させることを含む発明が記載され
ている。
ウ 新規事項の追加
本件特許請求の範囲に記載された発明は,分割により,原出願の当初の
特許請求の範囲の「洗浄後に前記凝縮室を減圧することなく」
(請求項1及
び3)及び「真空ポンプを寄与させることなく」
(請求項2及び4)という
要件を削除して,原出願の当初の特許請求の範囲に記載されていた発明を
上位概念化し,原出願の当初明細書等に記載されていなかった,洗浄後に
凝縮室を減圧することによりワークを乾燥させる構成,及び真空ポンプを
用いてワークを乾燥させる構成を含むようにしたものである。そのため,
本件特許請求の範囲に記載された発明は,原出願の当初明細書等に記載さ
れた事項の範囲内にはなく,分割により新規事項が追加されたものである。
エ 新規性,進歩性の欠如
本件特許出願には分割要件違反があるから,その出願日は原々々出願の
出願日である平成24年11月20日(優先権主張 平成23年11月2
5日)に遡及せず,本件特許の出願日は,現実の出願日である平成28年
7月26日である。本件特許発明1~5は,原々々出願の公開公報である
甲7(平成25年(2013年)5月30日国際公開)に記載されており,
又は甲7に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたも
のであり,新規性を欠き,特許法29条1項3号の規定により特許を受け
ることができず,又は進歩性を欠き,同条2項の規定により特許を受ける
ことができない。
したがって,本件特許出願に分割要件違反がないとしてその出願日が
原々々出願の出願日である平成24年11月20日(優先権主張 平成2
3年11月25日)に遡及するとし,甲7に記載された発明は特許法29
条1項3号の発明に該当しないとした本件審決の判断は誤りである。
⑵ 被告らの主張
原告の主張は争う。
原告は,原出願の当初明細書等には,洗浄後に凝縮室を減圧しないこと,
及び真空ポンプを用いずにワークを乾燥させることのみが開示されていたと
主張する。しかし,原出願の当初明細書等には,真空ポンプにより減圧して
低い温度に保持した凝縮室を洗浄後に洗浄室と連通してワークを乾燥させる
ことは記載されていたが,それに加えて蒸気洗浄工程後に凝縮室を減圧する
ことや,蒸気洗浄工程後の乾燥工程で真空ポンプを寄与させることについて
は,そのようなことをするか否かについて何らの限定もされていなかった。
そのため,原告の上記主張は理由がない。
本件特許出願は,分割により新規事項を追加するものではなく,分割の要
件を充足するものであるから,本件特許発明1~5は,本件特許出願が分割
の要件を充足しないことにより新規性,進歩性を欠くことはない。そのため,
本件特許出願に分割要件違反がないとしてその出願日が原々々出願の出願日
である平成24年11月20日(優先権主張 平成23年11月25日)に
遡及するとし,甲7に記載された発明は特許法29条1項3号の発明に該当
しないとした本件審決の判断に誤りはない。
4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り(無効理由4関係))
⑴ 原告の主張
ア 本件特許発明1
(ア) 本件特許発明1の構成要件Gの「前記開閉バルブによって前記洗浄
室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワ
ークを乾燥させる」について,発明の詳細な説明には本件特許発明1に
含まれる特定の実施形態のみが開示されているものの,次の(イ)のとお
り,他の実施形態は不明である。そのため,本件特許発明1に係る特許
は特許法36条4項1号の実施可能要件を充足しない。
(イ)a 本件特許明細書には,乾燥前にどの程度の圧力差を作っておけば
ワークの乾燥に要する時間を短縮することができるのか例示されて
いない。
b 本件特許発明1の構成要件Gの「前記開閉バルブによって前記洗浄
室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させて
ワークを乾燥させる」という程度の記載では,乾燥の際に,洗浄室と
凝縮室との差圧が微差であり,ワークの乾燥時間を短縮させる程の溶
剤蒸気の移動を生じない態様も含んでいるだけでなく,乾燥の際に,
洗浄室が凝縮室よりも低圧の場合,つまり,溶剤蒸気を洗浄室が吸い
込むという課題解決に矛盾する態様もその発明の範囲に含んでいるが,
その場合に,どのような形態であれば,ワークの乾燥時間を短縮させ
ることができるのかという実施形態は実施可能に開示されていない。
c 加えて,請求項1の上記記載では,開弁後に作動される真空ポンプ
で真空引きして乾燥する態様も包含しているが,真空ポンプをどのよ
うに用いれば,ワークの乾燥時間を短縮させることができるのかとい
う実施形態も実施可能に開示されていない。
d また,請求項1には,「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に
保持する温度保持手段」「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前

記凝縮室と連通させて」としか規定されておらず,本件特許発明1に
は凝縮室が溶剤の凝縮点温度よりも高い温度に維持される態様が含ま
れるが,凝縮室が凝縮点温度よりも高い温度の場合,十分な凝縮は行
われないのであり,それにもかかわらずどのようにしてワークの乾燥
時間を短縮させることができるのかという実施形態も実施可能に開示
されていない。
e さらに,本件特許の請求項1の記載では,洗浄室と凝縮室との間の
容積の関係も規定されていないため,凝縮室の容積が小さく,洗浄室
内の溶剤蒸気をわずかに吸い込んだだけで凝縮室内が溶剤蒸気で満杯
になり,凝縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ,溶剤蒸気の移
動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでおり,その場合に,どの
ようにしてワークの乾燥時間を短縮させることができるのかという実
施形態も実施可能に開示されていない。
(ウ) したがって,本件特許発明1に係る特許は特許法36条4項1号の
実施可能要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
イ 本件特許発明2~4
本件特許発明2~4は本件特許発明1を含み,前記アのとおり本件特許
発明1に係る特許は特許法36条4項1号の実施可能要件に違反してい
るから,本件特許発明2~4に係る特許も実施可能要件に違反している。
したがって,本件特許発明2~4に係る特許は特許法36条4項1号の
実施可能要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
ウ 本件特許発明5
本件特許発明5の構成要件Oの「開閉バルブを開弁することにより前記
洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させ
てワークを乾燥させる工程」についても,本件特許発明1の構成要件Gと
同様に,発明の詳細な説明には特定の実施形態のみが開示されているもの
の,本件特許発明1におけるのと同様に他の実施形態は不明である。その
ため,本件特許発明5に係る特許は特許法36条4項1号の実施可能要件
に違反している。
したがって,本件特許発明5に係る特許は特許法36条4項1号の実施
可能要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
⑵ 被告らの主張
原告の主張は争う。
本件特許発明は,洗浄室と凝縮室に圧力差・温度差を設けて乾燥させる技
術であるから,乾燥ができる圧力差・温度差があれば足り,容積や伝熱面積
等の具体的な条件は当業者が適宜設定すれば足りる事項である。そのため,
そのような条件の開示がないとしても,実施可能要件違反になるはずがなく,
本件特許発明1~5に係る特許は特許法36条4項1号の実施可能要件を充
足する。
したがって,本件特許発明1~5に係る特許は特許法36条4項1号の実
施可能要件を満たすとした本件審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5(サポート要件に関する判断の誤り(無効理由5関係))
⑴ 原告の主張
ア 本件特許発明1
(ア) 本件特許の請求項1の構成要件Gにおける「前記開閉バルブによ
って前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室
と連通させてワークを乾燥させる」との記載は,発明の詳細な説明に
記載された,発明の課題を解決するための手段が反映されたものでは
なく,次の(イ)のとおり,発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特
許を請求するものであり,特許法36条6項1号のサポート要件を充
足しない。
(イ)a 本件特許発明1は,凝縮室について「前記真空ポンプによって減
圧され,当該減圧の状態が保持される凝縮室」
(構成要件D)と規定し,
減圧の程度が規定されておらず,乾燥の際の洗浄室と凝縮室との差圧
は不明である。
b 本件特許発明1の構成要件Gの「前記開閉バルブによって前記洗浄
室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させて
ワークを乾燥させる」という程度の記載では,乾燥の際に,洗浄室と
凝縮室との差圧が微差であり,ワークの乾燥時間を短縮させる程の溶
剤蒸気の移動を生じない態様も含んでいるだけでなく,乾燥の際に,
洗浄室が凝縮室よりも低圧の場合,つまり,溶剤蒸気を洗浄室が吸い
込むという課題解決に矛盾する態様もその発明の範囲に含んでいる。
c 加えて,請求項1の上記記載では,開弁後に作動される真空ポン
プで真空引きして乾燥する態様も包含しているが,これは本件特許
発明が従来技術として位置付ける態様である(甲1【0005】。

d また,請求項1には,
「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保
持する温度保持手段」「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記

凝縮室と連通させて」としか規定されておらず,凝縮室が洗浄室より
も低い温度であることを要求するのみで,溶剤の凝縮に必須となる溶
剤の凝縮点温度との関係も規定されていない。
e さらに,請求項1の記載では,洗浄室と凝縮室との間の容積の関係
も規定されていないため,凝縮室の容積が小さく,洗浄室内の溶剤蒸
気をわずかに吸い込んだだけで凝縮室内が溶剤蒸気で満杯になり,凝
縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ,溶剤蒸気の移動が直ぐに
停止する場合もその範囲に含んでいる。
(ウ) したがって,本件特許発明1に係る特許は特許法36条6項1号の
サポート要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
イ 本件特許発明2~4
本件特許発明2~4は本件特許発明1を含み,前記アのとおり本件特許
発明1に係る特許は特許法36条6項1号のサポート要件を充足しない
から,本件特許発明2~4に係る特許もサポート要件を充足しない。
したがって,本件特許発明2~4に係る特許は特許法36条6項1号の
サポート要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
ウ 本件特許発明5
本件特許発明5の構成要件Oの「開閉バルブを開弁することにより前
記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通さ
せてワークを乾燥させる工程」との記載は,本件特許発明1の構成要件
Gと同様に,発明の詳細な説明に記載された,発明の課題を解決するた
めの手段が反映されたものではなく,発明の詳細な説明に記載した範囲
を超えて特許を請求するものであり,特許法36条6項1号のサポート
要件を充足しない。
したがって,本件特許発明5に係る特許は特許法36条6項1号のサポ
ート要件を満たすとした本件審決の判断は誤りである。
⑵ 被告らの主張
原告の主張は争う。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には,ワークの乾燥に要する時間を短
縮して全体の処理能力を向上するという課題を解決するための手段として,
真空洗浄装置の一連の処理工程が具体的に開示されているから,特許請求の
範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明に記載されており,発明の詳細
な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲
のものであるといえる。したがって,本件特許発明1~5に係る特許はサポ
ート要件を充足している。
したがって,本件特許発明1~5に係る特許は特許法36条6項1号のサ
ポート要件を満たすとした本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(甲10を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由1関係))
⑴ 取消事由1-1(相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする
進歩性判断の誤り)について
ア 本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2を認定し
た誤り
(ア) 本件審決が認定した相違点1-2(前記第2,3⑶ア(ア)b(b))の
趣旨は,本件特許発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通
の前に事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲10発明1は,開閉
バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されることで
あると認められる(この点は原告の主張にも合致する。前記第3,1⑴
ア(ア)) 当裁判所は,
。 本件審決が本件特許発明1と甲10発明1の相違
点として相違点1-2を認定したことに誤りはないものと判断する。そ
の理由は,次の(イ),(ウ)のとおりである。
(イ)a 本件特許発明1の乾燥の手順
本件特許発明1の構成要件Gは「前記蒸気を前記洗浄室に供給して
ワークを洗浄した後,前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該洗浄
室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥
させる」であり,その記載によれば,本件特許発明1は,洗浄室と凝
縮室を連通させてワークを乾燥させているものと認められるところ,
本件特許の請求項1(本件特許発明1)のうち,凝縮室について言及
しているのは,構成要件D~Gである。
このうち構成要件Dは,
「前記真空ポンプによって減圧され,当該減
圧の状態が保持される凝縮室と,」であり,
「保持」とは,
「たもちつづ
けること」
(広辞苑第7版)を意味するから,構成要件Dには,真空ポ
ンプによって減圧され,減圧の状態がたもちつづけられる凝縮室が示
されている。構成要件Eは,
「前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度
に保持する温度保持手段と,」であり,「前記凝縮室」とは,その前に
記載された,構成要件Dの凝縮室(真空ポンプによって減圧され,減
圧の状態がたもちつづけられる凝縮室)を指すものと認められるから,
構成要件Eは,真空ポンプによって減圧された状態をたもちつづける
凝縮室を洗浄室よりも低い温度にたもちつづける温度保持手段を示す
ものと認められる。構成要件Fは,
「前記凝縮室と前記洗浄室とを連通
させ,または,その連通を遮断する開閉バルブと,を備え,」であり,
凝縮室と洗浄室とを連通させ又はその連通を遮断する開閉バルブを備
えることが示されている。
構成要件Gは,その記載からして,本件特許発明1の真空洗浄装置
において,乾燥がどのような手順で行われるかを示すものと認められ,
「前記蒸気を前記洗浄室に供給してワークを洗浄した後,前記開閉バ
ルブによって前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前
記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる」との文言であることから,
ワークを洗浄した後,洗浄室を凝縮室と連通させてワークを乾燥させ
ることが記載されているものと認められる。そして,構成要件Gには,
「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室」と記載されて
いるところ,上記のとおり,構成要件Dには,真空ポンプによって減
圧され,減圧の状態がたもちつづけられる凝縮室が示されており,構
成要件Eには,真空ポンプによって減圧された状態をたもちつづける
凝縮室を洗浄室よりも低い温度にたもちつづける温度保持手段が示さ
れていることからすると,構成要件Gの「当該洗浄室よりも低い温度
に保持された前記凝縮室」とは,真空ポンプによって減圧されて減圧
の状態をたもちつづけられ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもちつ
づけられた凝縮室を意味するものと認められる。そうすると,構成要
件Gは,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプによって
減圧されて減圧の状態をたもちつづけており,かつ,洗浄室よりも低
い温度にたもちつづけられており,そのような凝縮室が,洗浄終了後
に,開閉バルブによって洗浄室と連通されることによりワークを乾燥
させることが記載されているものと認められる。したがって,ワーク
の乾燥について,本件特許発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バ
ルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されているものであり,本件審
決が認定した相違点1-2の文言によれば,当該減圧の状態が保持さ

れる」凝縮室を備え,開閉バルブによって洗浄室を「前記凝縮室と連
通させて」乾燥させている,との構成を備えるものであると認められ
る。
b 甲10発明1における乾燥の手順
他方,甲10発明1は,乾燥の手順に関し,
「洗浄蒸気が前記蒸気洗
浄部3に流動し,前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後,前記バキュ
ームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁して,前記蒸気洗浄
部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗
浄液7を急速に乾燥させ,その際,前記蒸気洗浄部3内に残留してい
た洗浄蒸気が,前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し,
凝縮液化する洗浄装置。(前記第2,3⑵ア(ア),当事者間に争いが

ない。 であり,
) 本件審決が認定した相違点1-2の文言によれば,
「バ
キュームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁して被洗浄物5
に付着した洗浄液7を乾燥させており,第1電磁弁17によって蒸気
洗浄部3を減圧の状態が保持された凝縮器15と連通させて乾燥させ
ているとはいえない」というものであり,ワークの乾燥について,開
閉バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されるも
のであると認められる。
c 相違点1-2の存在
そうすると,本件特許発明1と甲10発明1との間には,本件特許
発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に事前に凝
縮室が減圧されているのに対し,甲10発明1は,開閉バルブによる
連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されるという相違点1-
2が存在するものと認められる。
(ウ) 原告の主張に対する判断
a 凝縮室の減圧のタイミングが文言上限定されていないこと,及び凝
縮室の減圧と,低い温度に保持することの先後関係に関する主張につ
いて
原告は,本件特許発明1の特許請求の範囲の請求項1には,凝縮室
の減圧のタイミングは文言上何ら限定されていない旨(前記第3,1
⑴ア(ア)b(a)),及び,本件特許発明1は,構成要件D所定の「凝縮
室」と構成要件E所定の「温度保持手段」という構成をそれぞれ別個
に備えていればよいのであり,凝縮室について行われる「減圧」
(構成
要件D) 温度保持手段により行われる
と, 「温度の保持」
(構成要件E)
について,審決がいうように「減圧」が必ずしも「温度の保持」より
も先に行われている必要はない旨(前記第3,1⑴ア(ア)b(b)(i))
を主張する。
しかし,前記(イ)aのとおり,構成要件Eの「前記凝縮室」とは,構
成要件Dに記載された凝縮室(真空ポンプによって減圧され,減圧の
状態がたもちつづけられる凝縮室)を指すものと認められるのである
から,当業者であれば,構成要件Eは,真空ポンプによって減圧され
た状態をたもちつづける凝縮室を洗浄室よりも低い温度にたもちつづ
ける温度保持手段を示すものと理解するのが自然である。この点につ
いて原告は,構成要件Eの「前記凝縮室」が当該減圧・保持が既に行
われている凝縮室を意味することにしたいのであれば,出願人である
被告ら(被請求人ら)は,構成要件Eを,例えば,
「前記真空ポンプに
よって減圧され,当該減圧の状態が保持された前記凝縮室を」等と記
載したはずであり,そうではなく現状の構成要件D及びEのように記
載した以上,上記で主張したように先後関係を問わないものとして要
旨認定されるべきであると主張する(前記第3,1⑴ア(ア)b(b)(i))。
しかし,構成要件Eにおいて,
「前記凝縮室」と,構成要件Dに記載さ
れた凝縮室を指す文言が使用されていることからすると,構成要件E
は,真空ポンプによって減圧された状態をたもちつづける凝縮室を洗
浄室よりも低い温度にたもちつづける温度保持手段を示すものと解す
るのが,文言に即した自然な解釈であるものと認められるのであるか
ら,それ以上の限定文言を付け加える必要は認められない。加えて,
構成要件Dにおいては,
「減圧の状態が保持される凝縮室」とされ,構
成要件Eにおいては,凝縮室を「低い温度に保持する」とされ,凝縮
室を減圧して低い温度にある程度の時間たもちつづけることが示され
ており,構成要件Gにおいては,
「当該洗浄室よりも低い温度に保持さ
れた前記凝縮室」として,連通前に凝縮室が既にある程度の時間低い
温度にたもちつづけられていることが記載されていることからしても,
洗浄室との連通による乾燥の前に,凝縮室は減圧され,低い温度にた
もちつづけられているものと認められる。原告は,構成要件E,F,
Gの「洗浄室」は,工程の前後について何らの限定のない「洗浄室」
を意味すると解釈すべきであるとし,構成要件D,E,F,Gの「凝
縮室」も工程の前後について何らの限定のない「凝縮室」と解釈すべ
きであると主張するが(前記第3,1⑴ア(ア)b(b)(ii)) このような

原告の主張は,構成要件D,Eに「保持される」「保持する」という

文言が使用され,構成要件Gにおいて「保持された前記凝縮室」とい
う文言が使用されていることを考慮しないものであり,特許請求の範
囲の解釈として採用することができない。
b 発明の詳細な説明の記載について
原告は,本件審決が,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載と
の関係に関し,本件審決による本件特許発明1の解釈は,発明の詳細
な説明の記載とも整合するものであると判断したこと(本件審決46
~47頁)について,特許発明の要旨の認定は,原則として特許請求
の範囲の記載に基づいて行わなければならず,本件特許発明につき発
明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事由はないから,発明の詳
細な説明の記載との関係に関する本件審決の判断は誤りである旨主張
する(前記第3,1⑴ア(ア)b(c))。
しかし,前記(イ)aのとおり,特許請求の範囲の解釈に基づき,構
成要件Gには,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプに
よって減圧されて減圧の状態にたもちつづけられ,かつ,洗浄室より
も低い温度にたもちつづけられており,洗浄終了後に,開閉バルブに
よって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを乾燥させることが記載さ
れているものと認められ,言い換えれば,凝縮室は,開閉バルブによ
って洗浄室と連通される前に減圧の状態に保持され,洗浄室よりも低
い温度に保持され,洗浄室を前記凝縮室と連通させることによりワー
クの乾燥を生じさせるものであると解される。そして,本件審決が述
べるとおり,本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0005】,
【0006】によると,本件特許発明が解決しようとする課題は,乾
燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧
する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄方法では,乾燥工程に長時間を
要するところ,ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力
を向上することができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供すると
いうものであり,その課題を解決するために,発明の詳細な説明の段
落【0023】~【0031】には,準備工程で減圧され,減圧状態
で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と,搬入工程でワ
ークWが搬入され,減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充
満された洗浄室2とを,乾燥工程において,開閉バルブ20を開弁し
て連通させることによって,洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室
21に移動して凝縮し,ワークWを乾燥させるという真空洗浄装置の
一連の処理工程が記載されている。そのため,上記の本件特許発明1
の解釈は,本件特許明細書の発明の詳細な説明と整合するものと認め
られ,この点に関する本件審決の判断は相当であるものと認められる。
本件審決は,請求の範囲の正当な解釈から導かれる結論が,本件特許
明細書の発明の詳細な説明の記載からも裏付けられることを示したの
にとどまり,同明細書記載の実施例によって特許請求の範囲の解釈を
限定するようなものではないから,原告の上記主張は,採用すること
ができない。
c 原告の主張に関する本件審決の判断について
原告は,本件審決が,原告の主張に関して,原告のように解釈した
ならば,
「本件特許発明1が,本件特許明細書に従来技術として記載さ
れている,乾燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空
引きして減圧するものを含むことになり,前述した本件特許発明が解
決しようとする課題を解決できないものとなる。すると,請求人の主
張する本件特許発明1の解釈は,不自然な解釈といわざるを得ない。」
(本件審決47頁)と判断したことについて,本件特許発明1が課題
を解決できない従来技術を包含していることは,特許請求の範囲の記
載に不備があることが原因であり,その責は不備のある特許請求の範
囲の記載を行った出願人,特許権者である被告らが負うべきであって,
審決が,本件特許発明1の特許請求の範囲の記載を敢えて無視して,
従来技術と区別できるように要旨を認定したことは背理であるとし,
現に,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されているのが本
件特許発明1の要旨であるというのであれば,出願人であった被告ら
は,文字通りそのように特許請求の範囲を記載すればよかったのであ
り,それが特段困難なものでもないにもかかわらず,事前に凝縮室が
減圧されるという限定のない広範な記載を出願人が敢えて選択したの
であるから,無効審判においても文言通りに要旨が認定されるべきで
あると主張する(前記第3,1⑴ア(ア)b(d))。
しかし,前記(イ)aのとおり,本件特許の特許請求の範囲の請求項
1の記載によれば,本件特許発明1は,ワークの洗浄が終わる前に,
凝縮室が,真空ポンプによって減圧されて減圧の状態にたもちつづけ
られ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもちつづけられており,洗浄
終了後に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを
乾燥させるものである(構成要件G)と認められる。請求項1の記載
によれば,本件特許発明1は,開閉バルブによる連通の後に真空ポン
プによって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)
という甲10発明1と同様の構成を含むと解釈することはできないか
ら(すなわち,前記aのとおり,原告主張の文言解釈は採用できない。,

原告の上記主張は,採用することができない。原告が指摘する本件審
決の判断(本件審決47頁)は,本件特許発明が従来技術を含むとす
れば,本件特許発明は,乾燥工程に長時間を要するという従来技術の
課題を解決することができなくなることを述べたものであり,その判
断に誤りがあるとは認められず,原告の上記主張を採用することはで
きない。
イ 本件特許発明2と甲10発明2の相違点として相違点1-2を認定した
誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2,2【請
求項2】,甲10発明2は甲10発明1を含むものであるところ(前記第

2,3⑵ア(イ)) 本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明

1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記ア(ア)) 本件審決

が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が認定さ
れることを前提として,本件特許発明2と甲10発明2の相違点として相
違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(イ)b)に誤りはない。
ウ 本件特許発明3と甲10発明3の相違点として相違点1-2を認定した
誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2,2【請求項3】,

本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2, 【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲10発明3は甲1
0発明2を含み(前記第2,3⑵ア(ウ)),甲10発明2は甲10発明1を
含むから(前記第2,3⑵ア(イ)),甲10発明3は甲10発明1を含むも
のであるところ,本件審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明
1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記ア(ア)) 本件審決

が,本件特許発明1と甲10発明1の相違点として相違点1-2が認定さ
れることを前提として,本件特許発明3と甲10発明3の相違点として相
違点1-2を認定したこと(前記第2,3⑶ア(ウ)b)に誤りはない。
エ 本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を認定した
誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2,2【請求項4】,

甲10発明4は甲10発明1を含むところ(前記第2,3⑵ア(エ)),本件
審決が相違点1-2を本件特許発明1と甲10発明1の相違点として認定
したことに誤りはないから(前記ア(ア)),本件審決が,本件特許発明1と
甲10発明1の相違点として相違点1-2が認定されることを前提として,
本件特許発明4と甲10発明4の相違点として相違点1-2を認定したこ
と(前記第2,3⑶ア(エ)b(a))に誤りはない。
オ 本件特許発明5と甲10発明5の相違点として相違点1-5を認定した
誤り
(ア) 本件審決が認定した相違点1-5(前記第2,3⑶ア(オ)b(b))の
趣旨は,本件特許発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通
の前に事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲10発明5は,開閉
バルブによる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されることで
あると認められる(この点は原告の主張にも合致する。前記第3,1⑴
ア(オ))。当裁判所は,本件審決が本件特許発明5と甲10発明5の相違
点として相違点1-5を認定したことに誤りはないものと判断する。そ
の理由は,次の(イ),(ウ)のとおりである。
(イ)a 本件特許発明5の乾燥の手順
本件特許発明5の構成要件Oによれば,本件特許発明5は,洗浄室
と凝縮室を連通させてワークを乾燥させているものと認められるとこ
ろ,本件特許の請求項5(本件特許発明5)のうち,凝縮室について
言及されているのは,構成要件L,N,Oである。
このうち構成要件Lは,「真空ポンプを用いることにより,(中略)
凝縮室を減圧する工程と,」であり,構成要件Nは,「減圧下にある前
記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と, である。
」 構
成要件Nの「前記凝縮室」は,構成要件Lの凝縮室を受けており,し
かも,その凝縮室は,
「減圧下にある」のであるから,構成要件Nには,
真空ポンプを用いることにより減圧された凝縮室を洗浄室よりも低い
温度にたもちつづける工程が記載されている。そして,構成要件Nは,
真空ポンプを用いることによって減圧された状態をたもちつづける凝
縮室を洗浄室よりも低い温度にたもちつづける工程を示すものと認め
られる。
構成要件Oは,その記載からして,本件特許発明5の真空洗浄方法
において,乾燥がどのような手順で行われるかを示すものと認められ,
「前記洗浄室において前記ワークを洗浄した後,開閉バルブを開弁す
ることにより前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に保持された前
記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程と,との文言であるこ

とから,ワークを洗浄した後,洗浄室を凝縮室と連通させてワークを
乾燥させることが記載されているものと認められる。そして,構成要
件Oには,
「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室」と記
載されているところ,上記のとおり,構成要件Lには,真空ポンプを
用いることにより凝縮室を減圧する工程が記載され,構成要件Nには,
真空ポンプを用いることによって減圧された状態をたもちつづける凝
縮室を洗浄室よりも低い温度にたもちつづける工程が示されているこ
とからすると,構成要件Oの「当該洗浄室よりも低い温度に保持され
た前記凝縮室」とは,真空ポンプを用いることによって減圧されて減
圧の状態にたもちつづけられ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもち
つづけられた凝縮室を意味するものと認められる。そうすると,構成
要件Oは,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプを用い
ることによって減圧されて減圧の状態にたもちつづけられ,かつ,洗
浄室よりも低い温度にたもちつづけられており,洗浄終了後に,開閉
バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを乾燥させること
が記載されているものと認められる。したがって,ワークの乾燥につ
いて,本件特許発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通
の前に事前に凝縮室が減圧されているものであり,本件審決が認定し
た相違点1-5の文言によれば,
「減圧下にある」凝縮室を洗浄室より
も低い温度に保持する工程を備え,開閉バルブを開弁することにより」

洗浄室を「前記凝縮室と連通させて」乾燥させている,との構成を備
えるものであると認められる。
b 甲10発明5における乾燥の手順
他方,甲10発明5は,乾燥の手順に関し,
「洗浄蒸気が前記蒸気洗
浄部3に流動し,前記被洗浄物5を減圧蒸気洗浄した後,前記バキュ
ームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁して,前記蒸気洗浄
部3内を急速に減圧することにより前記被洗浄物5に付着した前記洗
浄液7を急速に乾燥させ,その際,前記蒸気洗浄部3内に残留してい
た洗浄蒸気が,前記第1電磁弁17を介して前記凝縮器15に移動し,
凝縮液化する工程と,を含む洗浄方法。(前記第2,3⑵ア(オ),当事

者間に争いがない。 であり,
) 本件審決が認定した相違点1-5の文言
によれば,
「バキュームポンプ14を稼働し,第1電磁弁17を開弁し
て被洗浄物5に付着した洗浄液7を乾燥させており,第1電磁弁17
を開弁することにより蒸気洗浄部3を減圧下にある凝縮器15と連通
させて乾燥させているとはいえない」ものであると認められる。
c 相違点1-5の存在
そうすると,本件特許発明5と甲10発明5との間には,本件特許
発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に事前に凝
縮室が減圧されているのに対し,甲10発明5は,開閉バルブによる
連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されるという相違点1-
5が存在するものと認められる。
(ウ) 原告の主張に対する判断
a 凝縮室の減圧のタイミングが文言上限定されていないことについて
原告は,本件特許発明5の特許請求の範囲の請求項5には,凝縮室
の減圧のタイミングは文言上何ら限定されていない旨(前記第3,1
⑴ア(オ)b(a))主張する。
しかし,前記(イ)aのとおり,構成要件Nは,
「減圧下にある前記凝
縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程と,」であり,「前記
凝縮室」とは,その前に記載された,構成要件Lに記載された凝縮室
(真空ポンプを用いることにより減圧する工程により減圧された凝縮
室)を指すものと認められ,構成要件Nは,真空ポンプを用いること
によって減圧された凝縮室を,減圧の状態にたもちつづけ,かつ,洗
浄室よりも低い温度にたもちつづけることを示すものと認められ,当
業者もそのように理解するものと認められる。したがって,本件特許
発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に事前に凝
縮室が減圧されているものであると認められる。
b 減縮室の減圧と,低い温度に保持することの先後関係に関する主張
について
(a) 原告は,本件審決が,
「本件特許発明5において,凝縮室に関する
各工程(構成要件L,N,O)は,凝縮室を減圧する工程(構成要
件L)減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持

する工程(構成要件N) 前記洗浄室を当該洗浄室よりも低い温度に

保持された前記凝縮室と連通させてワークを乾燥させる工程(構成
要件O)の順に実行されるものと解される。(本件審決48頁)と

判断した点について,本件特許明細書の第1実施形態,第2実施形
態では,構成要件Mの工程(S400)が構成要件Nの工程(S1
00又はS101)より後になっており,請求項5に示されたのと
は逆であるから,本件特許発明5の各工程は,その実行順序の限定
のないものと解すべきであると主張する。
しかし,本件特許請求の範囲及び本件特許明細書の【0005】,
【0006】の記載によれば,本件特許発明は,乾燥工程に関する
ものであり,構成要件L,N,Oの記載によれば,本件特許発明5
は,乾燥について,真空ポンプを用いることによって凝縮室を減圧
し,減圧の状態をたもちつづける凝縮室を洗浄室よりも低い温度に
たもちつづけ,洗浄後に凝縮室を洗浄室と連通して乾燥するという
順序で乾燥が行われることが認められる。そして,このような解釈
は,各構成要件の意味内容や,その関係に基づくものであって,単
なる構成要件の順序に基づくものではないのであるから,仮に実施
形態の中に,構成要件の順序とは異なる順序の工程を示すものがあ
ったとしても,それによって左右されるものではない。したがって,
原告の上記主張を採用することはできない。
(b) また,原告は,構成要件Oの文言は,開閉バルブを開弁すること
により洗浄室を洗浄室よりも低い温度に保持された凝縮室と連通さ
せて,その後,凝縮室を減圧してワークを乾燥させる態様を包含し
ており,そのように解釈したとしても,構成要件Nの「減圧下にあ
る前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する工程」は満た
されることになると主張する(前記第3,1⑴ア(オ)b(b))。
しかし,構成要件Nは,
「減圧下にある前記凝縮室を(中略)低い
温度に保持する工程と, とされ,
」 凝縮室を減圧して低い温度にある
程度の時間たもちつづけることが示されており,構成要件Oにおい
ては,
「当該洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室」として,
凝縮室との連通前に凝縮室が既にある程度の時間低い温度にたも
ちつづけられていることが記載され,その凝縮室が洗浄室と連通さ
れることが記載されていることからすると,洗浄室との連通による
乾燥の前に,凝縮室は減圧され,低い温度にたもちつづけられてい
るものと認められる。原告の上記主張は,構成要件Nに「低い温度
に保持する」という文言が使用され,構成要件Oに「低い温度に保
持された前記凝縮室」という文言が使用されていることを考慮しな
いものであり,特許請求の範囲の解釈として採用することができな
い。
c 発明の詳細な説明の記載について
原告は,本件審決が,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載と
の関係に関し,本件審決による本件特許発明5の解釈は,発明の詳細
な説明の記載とも整合するものであると判断したこと(本件審決49
頁)について,特許発明の要旨の認定は,原則として特許請求の範囲
の記載に基づいて行わなければならず,本件特許発明につき発明の詳
細な説明の記載を参酌すべき特段の事由はないから,発明の詳細な説
明の記載との関係に関する本件審決の判断は誤りである旨主張する
(前記第3,1⑴ア(オ)b(c))。
しかし,前記(イ)aのとおり,特許請求の範囲の解釈に基づき,構
成要件Oには,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプに
よって減圧されて減圧の状態をたもちつづけられ,かつ,洗浄室より
も低い温度にたもちつづけられており,洗浄終了後に,開閉バルブに
よって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを乾燥させることが記載さ
れているものと認められ,言い換えれば,凝縮室は,開閉バルブによ
って洗浄室と連通される前に真空ポンプにより減圧され,洗浄室より
も低い温度に保持されて,減圧の状態が保持され,洗浄室を前記凝縮
室と連通させることによりワークの乾燥を生じさせるものであると解
される。そして,本件審決の述べるとおり,本件特許明細書の発明の
詳細な説明の段落【0005】【0006】によると,本件特許発明

が解決しようとする課題は,乾燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を
真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真空洗浄装置及び真空洗浄
方法では,乾燥工程に長時間を要するところ,ワークの乾燥に要する
時間を短縮して全体の処理能力を向上することができる真空洗浄装置
及び真空洗浄方法を提供するというものであり,その課題を解決する
ために,発明の詳細な説明の段落【0023】~【0031】には,
準備工程で減圧され,減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持され
た凝縮室21と,搬入工程でワークWが搬入され,減圧工程及び蒸気
洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを,乾燥工程にお
いて,開閉バルブ20を開弁して連通させることによって,洗浄室2
内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し,ワークWを乾
燥させるという真空洗浄装置の一連の処理工程が記載されている。そ
のため,上記の本件特許発明5の解釈は,本件特許明細書の発明の詳
細な説明と整合するものと認められ,この点に関する本件審決の判断
は相当であるものと認められる。本件審決は,請求の範囲の正当な解
釈から導かれる結論が,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載か
らも裏付けられることを示したのにとどまり,同明細書記載の実施例
によって特許請求の範囲の解釈を限定するようなものではないから,
原告の上記主張は,採用することができない。
d 原告の主張に関する本件審決の判断について
原告は,本件審決が,原告の主張に関して,原告のように解釈した
ならば,
「本件特許発明5が,本件特許明細書に従来技術として記載さ
れている,乾燥工程において,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空
引きして減圧するものを含むことになり,前述した本件特許発明が解
決しようとする課題を解決できないものとなる。すると,請求人の主
張する本件特許発明5の解釈は,不自然な解釈といわざるを得ない。」
(本件審決50頁)と判断したことについて,本件特許発明5が課題
を解決できない従来技術を包含していることは,特許請求の範囲の記
載に不備があることが原因であり,その責は不備のある特許請求の範
囲の記載を行った出願人,特許権者である被告らが負うべきであって,
審決が,本件特許発明5の特許請求の範囲の記載を敢えて無視して,
従来技術と区別できるように要旨を認定したことは背理であるとし,
現に,開閉バルブの連通の前に事前に凝縮室が減圧されているのが本
件特許発明5の要旨であるというのであれば,出願人であった被告ら
は,文字通りそのように特許請求の範囲を記載すればよかったのであ
り,それが特段困難なものでもないにもかかわらず,事前に凝縮室が
減圧されるという限定のない広範な記載を出願人が敢えて選択したの
であるから,無効審判においても文言通りに要旨が認定されるべきで
あると主張する(前記第3,1⑴ア(オ)b(d))。
しかし,前記(イ)aのとおり,本件特許の特許請求の範囲の請求項
5の記載によれば,本件特許発明5は,ワークの洗浄が終わる前に,
凝縮室が,真空ポンプによって減圧され,減圧の状態をたもちつづけ
られ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもちつづけられており,洗浄
終了後に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを
乾燥させるものである(構成要件O)と認められる。請求項5の記載
によれば,本件特許発明5は,開閉バルブによる連通の後に真空ポン
プによって凝縮室が減圧される(同時に洗浄室内の蒸気が排出される)
という甲10発明5と同様の構成を含むと解釈することはできないか
ら(すなわち,前記bのとおり,原告主張の文言解釈は採用できない。,

原告の上記主張は,採用することができない。原告が指摘する本件審
決の判断(本件審決50頁)は,本件特許発明が従来技術を含むとす
れば,本件特許発明は,乾燥工程に長時間を要するという従来技術の
課題を解決することができなくなることを述べたものであり,その判
断に誤りがあるとは認められず,原告の上記主張を採用することはで
きない。
カ 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
原告は,相違点1-2は本件特許発明1と甲10発明1の相違点ではな
く,これを相違点とした本件審決の認定は誤りであるとの主張を前提とし
て,本件特許発明1~4は容易に想到することができないとした本件審決
の判断は誤りであると主張し(前記第3,1⑴ア(カ)a~d),また,相違
点1-5は本件特許発明5と甲10発明5の相違点ではなく,これを相違
点とした本件審決の認定は誤りであるとの主張を前提として,本件特許発
明5は容易に想到することができないとした本件審決の判断は誤りであ
ると主張する(前記第3,1⑴ア(カ)e)。しかし,相違点1-2を本件特
許発明1と甲10発明1の相違点とした本件審決の認定に誤りはなく,ま
た,相違点1-5を本件特許発明5と甲10発明5の相違点とした本件審
決の認定に誤りはないから,これらの相違点が存在しないことを前提とす
る原告の上記主張は,採用することができない。
⑵ 取消事由1-2(本件審決が認定する相違点(相違点1-2,1-5)の
存在を前提とする進歩性判断の誤り)について
ア 甲14に基づく容易想到性
(ア) 相違点に係る構成の開示
a 甲14には,次の記載がある。
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は,例えばHC(ハイドロカーボ
ン,炭化水素系溶剤の一つ)などの蒸気によりワークを減圧乃至真空
状態下において蒸気洗浄および乾燥処理するような蒸気洗浄装置に関
する。
【0002】
【従来の技術】従来,蒸気洗浄装置としては例えば実開平1-179
784号公報に記載の装置がある。すなわち,洗浄槽内の溶剤をヒー
タにより加熱気化させて,この気化蒸気により被洗浄物(ワーク)を
脱脂洗浄する蒸気洗浄器において,上述の洗浄槽内の雰囲気圧力を下
げる減圧手段を設けた蒸気洗浄装置である。
【0003】この従来装置によれば,上述の減圧手段の駆動により洗
浄槽内部の圧力を下げると,溶剤の沸点が低下するので,溶剤を低温
条件下にて気化させることができ,これにより上述のヒータによる消
費電力の低減(消費エネルギの低減)を達成することができる利点が
ある反面,ワークの気化溶剤による蒸気洗浄の後に,ワークを乾燥さ
せる場合,洗浄槽内の溶剤貯溜部に存在する溶剤の一部が気化して,
ワークの乾燥が阻害される問題点があった。」
「【0027】ワークの蒸気洗浄終了前において,真空ポンプ10を駆
動し,またバルブ42を開弁して,ライン43を介してサブタンク7
内を予め真空状態に成す。而して,ワークの蒸気洗浄終了後において
は,ワークの乾燥処理に先立って,バルブ23,36を開弁し,ライ
ン25に作用する大気圧とライン37に作用する負圧との差圧を利用
して,減圧タンク1内の加熱された溶剤Aを,該タンク1外へ導出し
て,この溶剤Aをサブタンク7内に一時貯溜する。
【0028】減圧タンク1内の溶剤Aをサブタンク7内に吸引完了し
た時点で,上述の各バルブ23,36を閉弁する。次に真空ポンプ1
0を駆動すると共に,バルブ49を開弁して冷却タンク6内を予め真
空状態に成し,その後,バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存す
る溶剤蒸気Bを,ライン30を介して冷却タンク6に差圧吸引する。
この場合,ライン30からのインレットポート3を介して冷却タンク
6に吸引された溶剤蒸気Bは冷却コイル2により凝縮されると共に,
仕切板5による区画構成により,溶剤蒸気Bがアウトレットポート4
からライン50および真空ポンプ10側に直接吸込まれるのを防止す
ることができる。
【0029】このような条件下において減圧タンク1内のワークを乾
燥処理する。つまり,バルブ14を開いて加熱コイル13に加熱オイ
ルを流通させ,この熱媒により減圧タンク1内およびワークを加熱し
て,該ワークを乾燥させる。」
b 前記aの甲14の記載によれば,甲14に記載された発明は,例え
ばHC(ハイドロカーボン,炭化水素系溶剤の一つ)などの蒸気によ
りワークを減圧ないし真空状態下において蒸気洗浄及び乾燥処理する
ような蒸気洗浄装置に関するものであり 【0001】,
( ) ①ワークの蒸
気洗浄終了前において,真空ポンプ10を駆動し,サブタンク7内を
予め真空状態にすること,②ワークの蒸気洗浄終了後においては,ワ
ークの乾燥処理に先立って,バルブ23,36を開弁し,減圧タンク
1内の加熱された溶剤Aを,該タンク1外へ導出して,この溶剤Aを
サブタンク7内に一時貯溜し 【0027】,
( ) 減圧タンク1内の溶剤A
をサブタンク7内に吸引完了した時点で,上述のバルブ23,36を
閉弁すること【0028】,③バルブ23,36を閉弁した後に真空ポ
ンプ10を駆動して冷却タンク6内を予め真空状態に成し,その後,
バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気Bを冷却タン
ク6に差圧吸引すること【0028】,④このような条件下において,
減圧タンク1内およびワークを加熱して,該ワークを乾燥させること
【0029】が記載されている。
上記のうち,ワークの蒸気洗浄終了後において,減圧タンク1内の
加熱された溶剤Aを,該タンク1外へ導出して,この溶剤Aをサブタ
ンク7内に一時貯溜すること(②) 【0002】
は, ,
【0003】 【0

027】の記載を合わせてみれば,洗浄槽内の溶剤貯留部に存在する
溶剤によってワークの乾燥が妨げられないようにするめに,溶剤Aを
サブタンク7に一時退避させるものであって,溶剤Aは当該サブタン
クにて凝縮されることはないから,相違点1-2に係る本件特許発明
1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構成のうち,開閉
バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させて溶剤蒸気を凝縮室に導く
ことには相当しない。また,上記のうち,バルブ23,36を閉弁し
た後に真空ポンプ10を駆動して冷却タンク6内を予め真空状態に成
し,その後,バルブ29を開いて減圧タンク1内に残存する溶剤蒸気
Bを冷却タンク6に差圧吸引すること(③)は,ワークの蒸気洗浄終
了後において,減圧タンク1内の加熱された溶剤Aを,該タンク1外
へ導出して,この溶剤Aをサブタンク7内に一時貯溜すること(②)
の次の工程であって,ワークの蒸気洗浄終了後においてなされるもの
であるから,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1
-5に係る本件特許発明5の構成のうち,ワークの洗浄が終わる前に,
凝縮室が,真空ポンプによって減圧され,洗浄終了後に,開閉バルブ
によって洗浄室と凝縮室を連通させて溶剤蒸気を凝縮室に導くという
ことには相当しないと認められる。そうすると,甲14には,甲14
から抽出して他の発明と組み合わせるべき技術事項として,相違点1
-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発
明5の構成が記載されているとは認められない。
その他,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-
5に係る本件特許発明5の構成が,甲11~17に開示されているも
のとは認められない。
(イ) 容易想到性
そうすると,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~1
7のいずれにも開示されていないから,本件特許発明1は,甲10と甲
11~17に基づいて容易に想到することができたものとは認められず,
前記⑴イ~エのとおり,本件特許発明2~4はいずれも本件特許発明1
を含むものであるから,本件特許発明2~4も甲10と甲11~17に
基づいて容易に想到することができたものとは認められない。また,相
違点1-5に係る本件特許発明5の構成は甲10と甲11~17のいず
れにも開示されていないから,本件特許発明5は,甲10と甲11~1
7に基づいて容易に想到することができたものとは認められない。
(ウ) 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1
-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示され
ていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかった
とした本件審決の判断に誤りはない。
イ 周知技術に基づく容易想到性
(ア) 相違点に係る構成の開示
a 甲49
(a) 甲49の記載
① 作用
甲49には,(作用)
「 」の項に,洗浄槽内の気体を排出する場合
について,次のとおり記載されている。
「先ず,第一の開閉弁を閉じ,洗浄槽と密閉容器との連通を断っ
た状態のまま,第二の開閉弁を開き,再生回収手段の内部に存在
する有機溶剤蒸気を,上記密閉容器内に導入する。密閉容器内に
有機溶剤蒸気を導入したならば,第一,第二の開閉弁を何れも閉
じ,上記密閉容器内に設けた冷却手段を運転する事により,密閉
容器内の有機溶剤蒸気を凝縮液化する。この結果,密閉容器内の
圧力が低下する」(9欄15行目~10欄4行目)
「第二の開閉弁を閉じたまま,それ迄閉じていた第一の開閉弁を
開けば,洗浄槽内に存在する気体が密閉容器内に吸引され,洗浄
槽内の圧力が急激に低下する。(10欄4行目~8行目)

② 実施例
また,甲49には,実施例について,次のとおり記載されてい
る。
「即ち,本発明の洗浄装置に於いて,洗浄後に洗浄槽2内に残留
する有機溶剤蒸気を排出する場合には,先ず,第一の接続管29
の途中に設けた第一の開閉弁28を閉じ,洗浄槽2と密閉容器2
6との連通を断った状態のまま,第二の開閉弁30を開き,再生
回収手段である蒸留器12内に存在する有機溶剤蒸気を,第二の
接続管31を通じて,上記密閉容器26内に導入する。この際,
第一の接続管29の途中の三方弁34は,第一の接続管29をそ
のまま連通する状態に(第一の接続管29と吸入管35とは連通
させない状態に),切り換えておく。この様にして,密閉容器26
内に有機溶剤蒸気を導入したならば,第一,第二,第三の開閉弁
28,30,32を何れも閉じ,上記密閉容器26内に設けた,
冷却手段である冷却パイプ27内に冷媒を流通させる事により,
密閉容器26内の有機溶剤蒸気を凝縮液化する。密閉容器26内
で有機溶剤蒸気が凝縮液化する結果,密閉容器26内の圧力が低
下する。(13欄7行目~14頁6行目)

「そこで,第二,第三の開閉弁30,32を閉じたまま,それ迄
閉じていた第一の開閉弁28を開き,前記洗浄槽2内に残留して
いた有機溶剤蒸気を上記密閉容器26内に吸引する。(14欄7

行目~10行目)
(b) 相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成の開示の有無
(i) 前記(a)の記載によれば,甲49には,密閉容器26内を冷却
して減圧し,その後,洗浄槽2内に在留した有機溶剤蒸気を密閉
容器26内に吸引することが記載されていると認められる。
(ii) しかし,本件特許発明1は,ワークの洗浄が終わる前に,凝
縮室が,真空ポンプによって減圧されて減圧の状態をたもちつづ
けられ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもちつづけられており,
洗浄終了後に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させて
ワークを乾燥させるものであり(構成要件G)
(前記⑴ア(イ)a),
開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させるのは洗浄後であ
るから,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成(洗浄室と凝
縮室との間の開閉バルブの連通前に事前に凝縮室が減圧されてい
る)において,凝縮室は洗浄が終わる前に減圧されている。甲4
9に記載された発明は,前記の実施例(前記(a)②)に関し,
「洗浄
後に洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を排出する場合には」と
記載されていることから,洗浄槽2内に残留する有機溶剤蒸気を
排出するのは,洗浄後であることが認められるものの,洗浄槽2
内に残留する有機溶剤蒸気を排出するのに先立って密閉容器26
内を冷却して減圧する作業が行われるのが,洗浄終了前であるの
か,洗浄終了後であるのかは,甲49の全体を見ても明らかでは
ない。そのため,洗浄終了前に凝縮室が減圧されている相違点1
-2に係る本件特許発明1の構成は,甲49に示されていると認
めることはできない。
また,甲49に記載された発明は,密閉容器26を冷却により
減圧することとされており,真空ポンプを用いて減圧するもので
はないから,凝縮室が真空ポンプによって減圧される(構成要件
D)ことを前提とする相違点1-2に係る本件特許発明1の構成
が甲49に示されていると認めることはできない。
そうすると,甲49には,相違点1-2に係る本件特許発明1
の構成が開示されていると認めることはできない。同様に,相違
点1-5に係る本件特許発明5の構成が開示されていると認める
こともできない。
b 甲50
(a) 甲50の記載
甲50には,次のとおり記載されている。
①「Cette invention concerne plus particulièrement les machines
de nettoyage de pièces mécaniques utilisant des solvants
chlorés, machines formées généralement d'un bac principal
contenant du solvant liquide à température contrôlée, dans
lequel on introduit les pièces à laver et, accolé à ce bac, un bac
contenant du solvant en ébullition.Au-dessus de ces deux bacs,
ouverts vers le haut, se trouve une zone de vapeur saturée de
solvant.」(1頁9~16行)
(訳)この発明は特に塩素系溶剤を用いる機械部品のクリーニング
機械であって,一般的には制御下の温度の液状溶剤を含む主要槽で
形成される機械に関わるものであり,主要槽内には,洗浄すべき部
品と,この槽に隣接させて,沸騰した溶剤を含む槽とを導入する。
上方に向けて開口するこれら二つの槽の上には溶剤で飽和する蒸
気の領域がある。
②「Pour éviter ces inconvénients, a été déjà proposé une machine
qui comprend, en aval de la chambre de lavage, un condenseur
sous vide à basse température et, en aval de ce dernier une
pompe à vide destinée à mettre en dépression ledit condenseur.
Cette machine permet de réduire considérablement le temps
mort de vidange de la chambre de lavage, car au moment où les
vapeurs de solvant sont aspirées dans le condenseur sous vide
elles sont immédiatement condensées par la basse température
règnant à l'intérieur de celui-ci. Ceci permet de prévoir une
pompe d'aspiration de dimension relativement réduite, d'où
une machine plus économique et en même temps plus efficace
que celles de la technique connue.」(2頁18~30行)
(訳)これらの欠点を回避するために,洗浄チャンバーの下流に
真空低温凝縮器を包含し,この凝縮器の下流に前記凝縮器を負圧
にするための真空ポンプを包含する機械が既に提案されている。
溶剤蒸気が真空凝縮器内に吸い込まれるときに,この凝縮器の内
側に行き渡る低温により溶剤蒸気は瞬時に凝縮されるので,この
機械により洗浄チャンバーの排出アイドルタイムを著しく低減す
ることが可能となる。このことにより,比較的低減されたサイズ
の吸い込みポンプを予定することが可能となり,それによって,
周知の技術の機械よりも経済的であると同時に効率的な機械を予
定することが可能となる。
(b) 相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成の開示の有無
前記(a)の記載によれば,甲50には,塩素系溶剤を用いる洗浄機
械において,洗浄チャンバーの下流に真空低温凝縮器を設け,該凝
縮器の下流に該凝縮器を負圧(減圧)にするための真空ポンプを設
け,該凝縮器内に溶剤蒸気が吸い込まれるときに,該凝縮器内が低
温であるために溶剤蒸気は瞬時に凝縮され,洗浄チャンバーの排出
アイドルタイムを著しく低減することが記載されていると認めら
れる。
ところで,前記a(b)(ii)のとおり,相違点1-2に係る本件特許
発明1の構成(洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通前に事前
に凝縮室が減圧されている)において,凝縮室は洗浄が終わる前に
減圧されている。しかし,甲50の記載において,凝縮器を負圧(減
圧)にすることが,洗浄終了前に行われるのか,洗浄終了後である
のかは,甲50の全体を見ても明らかではない。そのため,洗浄終
了前に凝縮室が減圧されている相違点1-2に係る本件特許発明
1の構成は,甲50に示されていると認めることはできない。同様
に,相違点1-5に係る本件特許発明5の構成が開示されていると
認めることはできない。
c 甲51
(a) 甲51の記載
甲51には,次のとおり記載されている。
① [0001]~[0008]


(訳)
[0001]
本発明は,洗浄設備を運転するための方法に関する。
[0002]
このような設備は,閉鎖可能な作業チャンバ内で溶剤によって被
加工物を洗浄するために用いられる。溶剤として,通常,炭化水素
,塩素化炭化水素およびアルコールが使用される。
[0003]
公知の洗浄設備(Pero-Reinigungsanlage 2500)では,洗浄すべ
き被加工物を作業チャンバ内にもたらした後,作業チャンバが閉鎖
され,作業チャンバに負圧が加えられ,これによって,作業チャン
バ内に存在する空気が十分に除去される。次いで,予め設定された
洗浄プログラムが実行される。この洗浄プログラムでは蒸気脱脂も
行われる。このために,作業チャンバと蒸気容器との間に接続路が
形成される。これによって,溶剤蒸気が作業チャンバ内に流れる。
洗浄プログラムの終了後,乾燥プロセスが開始される。この乾燥プ
ロセスでは,ブロワが溶剤蒸気を処理チャンバから凝縮器に圧送す
る。この凝縮器は,極低温で作動する冷凍ユニットから成っている
。この冷凍ユニットは,使用される溶剤に応じて-40℃~-60
℃の温度を有している。これによって,溶剤蒸気が凝縮する。作業
チャンバから最後の溶剤残分を除去するために,作業チャンバ内に
存在する溶剤含有の空気が,高い負圧を加えることによって吸引さ
れ,凝縮器に供給される。この凝縮器から空気がガス集合容器に達
する。このガス集合容器内の空気は,溶剤蒸気の残分をまだ含んで
いる。いま,通気弁が開放される。これによって,作業チャンバ内
に新気が流入することができる。この作業チャンバ内に正常圧が形
成されると,作業チャンバが開放され,洗浄された被加工物が取り
出される。
[0004]
この洗浄設備における装置上の手間は,特に冷凍ユニットとして
形成された凝縮器のため多大である。この凝縮器は極低温で作動す
るにもかかわらず,乾燥プロセス時に処理チャンバ内に導入された
溶剤含有の空気から,この空気の吸引後に溶剤を完全に除去するこ
とが不可能であり,これによって,付加的な手間として,ガス集合
容器が必要になってしまう。
[0005]
独国特許出願公開第19527317号明細書に基づき,作業チ
ャンバの排気後に溶剤蒸気を作業チャンバに供給し,洗浄工程後に
真空ポンプによって再生のために凝縮器内に到達させ,発生させら
れた溶剤凝縮物を蓄え容器に供給し,作業チャンバにおいて通気を
行って,洗浄物を取り出す洗浄法がすでに公知である。
[0006]
凝縮器として空冷式または水冷式の凝縮器を使用することがで
きるような方法を提供するという課題がある。
[0007]
この課題は請求項1の特徴によって解決される。有利な構成は従
属請求項から知ることができる。
[0008]
本発明に係る方法の主要な利点は,比較的高価で保守の頻度が高
い冷凍ユニットを省略することができる点にある。方法を実施する
ためには,より簡単に構成された僅かな構成部材しか必要とならな
い。これによって,保守の手間を減らすことができ,運転コストを
削減することができる。本発明に係る方法によって,低い温度範囲
で,例えばプラスチックを洗浄することも可能となり,これによっ
て,クロロフルオロカーボンを代替することができる。溶剤排出が
少ないことに基づき,手間のかかる濾過・回収システムなしでも,
方法を実施することができる。
② [0016]~[0018]


(訳)
[0016]
蒸気脱脂を実施するために,弁3が開放される。これによって,
蒸気発生器1内に存在する溶剤飽和蒸気が,管路2を介して作業チ
ャンバ内に流れる。この作業チャンバ1内では,溶剤蒸気によって
,洗浄すべき物品から,付着しているグリースまたはオイルが除去
される。
[0017]
この洗浄ステップの終了時には,弁15が開放される。これによ
って,空冷式または水冷式の凝縮器8の凝縮圧に近似の圧力が達成
されるまで,飽和蒸気が作業チャンバ4から凝縮器の部分8aに流
れ,そこで,液化される。凝縮器8から流出した凝縮物は,水分離
器22とポンプ25とを介して再び蓄え容器28に供給される。
[0018]
作業チャンバ4と凝縮器8の部分8aとの間で圧力補償が生じ
ると,弁15が閉鎖され,弁17が開放される。第2の真空ポンプ
18を介して,まだ作業チャンバ4内に存在している残りの溶剤蒸
気が吸引され,圧縮機20によって圧縮される。この圧縮機20を
介して圧力が増加させられ,こうして,残りの溶剤蒸気を空冷また
は水冷によって完全に凝縮させることができる。増圧は,使用され
る溶剤に左右される。溶剤として,例えばトリクロロエチレンまた
はパークロロエチレンが使用される場合には,圧力が,1barを
上回る圧力に増加させられる。クロロメタンの使用時には,圧力が
,2barよりも高い圧力に増加させられる。これによって,溶剤
蒸気が,空冷または水冷により容易に凝縮可能となる程度に温めら
れる。こうして,圧縮機20を介して圧縮された蒸気が,凝縮器8
の部分8b内で液化され,凝縮物が,凝縮物分離器39と水分離器
22とを介して再び蓄え容器28に供給されるようになっている。
(b) 相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成の開示の有無
(i) 前記(a)①の甲51の[0001]~[0008]の記載によれば,
従来の技術では,凝縮室が冷凍ユニットであり,比較的高価で保
守の頻度が高く,このような凝縮器は極低温で作動するにもかか
わらず,乾燥工程で処理チャンバから空気を吸引した後に処理チ
ャンバ内から溶剤を完全に除去することが不可能であり,そのた
め,溶剤を濾過・回収するために別にガス集合容器を設けること
が必要になってしまうという課題があったことが認められる。そ
して,甲51に記載された発明は,空冷式又は水冷式の凝縮器を
使用することによって,凝縮器の価格を抑え,凝縮器の保守の手
間を減らして運転コストを削減し,また,乾燥工程で処理チャン
バから空気を吸引した後に処理チャンバ内から溶剤を完全に除去
することにより,溶剤を濾過・回収するためのシステムを設ける
必要をなくし,上記の課題を解決するものであると認められる。
(ii) 前記(a)②の甲51の[0016]~[0018]には実施例が記
載されており,❶弁3を開放して,蒸気発生器1から作業チャン
バ4内に溶剤蒸気を導入して洗浄を行うこと(前記(a)②[001
6]),❷上記❶の洗浄の終了時に弁15が開放され,空冷式又は
水冷式の凝縮器8との圧力差が解消されるまで,溶剤蒸気が作業
チャンバ4から凝縮器8の部分8aに流れ,液化されること(前
記(a)②[0017]),❸上記圧力差が解消されると,弁15が閉鎖
され,弁17が開放されて,第2の真空ポンプ18と圧縮機20
を介して,残りの溶剤蒸気が凝縮器8の部分8bに送られて液化
されること((a)②[0018])が記載されている。上記❷の工程
においては,凝縮器8の圧力は,洗浄の終了時までに減圧されて
おり,終了時に弁15が開放されることにより,溶剤蒸気が作業
チャンバ4から凝縮器8の部分8aに流れ,液化されることが認
められ,この部分のみをとらえれば,凝縮室が洗浄が終わる前に
減圧されている相違点1-2に係る本件特許発明1の構成(洗浄
室と凝縮室との間の開閉バルブの連通前に事前に凝縮室が減圧さ
れている)が示されているものと解する余地はある。
しかし,甲51発明の課題は,乾燥工程で処理チャンバから空
気を吸引した後に処理チャンバ内から溶剤を完全に除去すること
により,溶剤を濾過・回収するためのシステムを設ける必要をな
くすことも含んでいるところ(前記(i)),上記の❷の工程は,そ
れのみでは上記の課題を解決できないものであり,上記の課題を
達成するための工程は,上記の❸の工程であるものと認められ,
当業者にとって,甲51に示された乾燥工程は,上記❷と❸の工
程により成り立っていると認識されるものと認められる。そして,
甲51に接した当業者が,他の発明と組み合わせるべき技術事項
として,課題を達成できない上記❷の工程のみを取り出すことは,
甲51に課題が記載され,その課題を解決する手段として上記の
❷と❸の工程が記載されていることに照らし,考え難いものと認
められる。そのため,甲51には,甲51から抽出して他の発明
と組み合わせる技術事項として,相違点1-2に係る本件特許発
明1の構成が示されていたものとは認められない。同様に,相違
点1-5に係る本件特許発明5の構成が示されていたものとも認
められない。
なお,甲10発明1,5と甲51発明は課題等が異なり,甲5
1発明を甲10発明1,5に適用する動機づけはないから,甲5
1発明を甲10発明1,5に適用して本件特許発明1,5が容易
想到であるということはできない。
d 甲52
(a) 甲52の記載
甲52には,次の記載がある。
①「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,電子部品,機
械部品,プリント基板等の被洗浄物を,炭化水素系溶剤,アルコ
ール溶剤等の可燃性溶剤を用いて減圧蒸気洗浄するための減圧蒸
気洗浄装置に関するものである。」
② 【0029】
「 蒸気洗浄槽1は,蒸気洗浄槽真空引きバルブ18と
凝縮器4を介して,真空ポンプ6に接続されており,これで真空
引きされる。凝縮器4は冷却水で冷却されており,真空引きされ
た溶剤蒸気は凝縮器4で凝縮し,溶剤に戻る。また蒸気洗浄槽1
には,真空度を測定する真空計8と真空状態を解除するための大
気ベントバルブ16とサイレンサー17がつけてある。」
③「【0037】所定の時間,減圧蒸気洗浄を行った後,溶剤供給バ
ルブ10を閉じ,その後蒸気洗浄槽排液バルブ15を閉じ,真空
ポンプ6を作動させ,蒸気洗浄槽真空引きバルブ18を開いて,
真空乾燥を行う。この過程でも,被洗浄物,洗浄バスケット2,
蒸気洗浄槽1,蒸発器用熱交換器3に付着している溶剤が気化し
溶剤蒸気が発生するので,凝縮器4で凝縮回収を行う。」
(b) 相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成の開示の有無
前記(a)の甲52の記載によれば,甲52には,炭化水素系溶剤等
の可燃性溶剤を用いる減圧蒸気洗浄装置において(前記(a)①【00
01】,減圧蒸気洗浄の終了後に,真空ポンプ6を作動させ,蒸気

洗浄槽真空引きバルブ18を開いて真空乾燥を行うこと(前記(a)③
【0037】)が記載されている。しかし,凝縮器4は,真空引きさ
れた溶剤蒸気を凝縮して溶剤として回収するものであると認めら
れるものの(前記(a)②【0029】,減圧蒸気洗浄の終了前に凝縮

器4を減圧して,その減圧の状態をたもちつづけることは,何ら記
載されていない。そのため,甲52には,凝縮室が洗浄が終わる前
に減圧されている相違点1-2に係る本件特許発明1の構成(洗浄
室と凝縮室との間の開閉バルブの連通前に事前に凝縮室が減圧さ
れている)が示されていたものとは認められない。同様に,相違点
1-5に係る本件特許発明5の構成が示されていたものとも認め
られない。
e 甲53
(a) 甲53の記載
① 甲53の「ABSTRACT」 要約)
( には, A method and apparatus

are provided for cleaning rosin flux residues off of printed
wiring assemblies.」
((訳)プリント配線アセンブリからロジンフ
ラックス残渣を洗浄する方法及び装置が提供される。と記載され

ていることから,甲53発明は,プリント配線アセンブリからロ
ジンフラックス残差を溶剤により洗浄する方法及び装置に関する
ものである。
② 甲53の3欄には次の記載がある。


(訳)
真空ポンプ16は,チャンバ12を約1mm水銀の部分真空ま
で排気するのに十分な種類の従来の真空ポンプを含む。真空保持
タンク18は,真空ポンプ16に対する負荷を均等化し且つ処理
チャンバ12内の減圧を加速するように,実質的な蓄圧器を提供
するのに十分なサイズを有する。コールドトラップ20は冷却コ
イル76を含む。冷却コイル76は液体窒素により冷却され,溶
剤を凝縮するように動作可能な非常に低い温度にトラップ20を
維持するように構成される。
上記の記載によれば,コールドトラップ20は,液体窒素によ
り冷却される冷却コイル76を備え,溶剤を凝縮するために非常
に低い温度に維持されることが認められる。
③ 甲53発明の実施例の動作に関し,5欄に次の記載がある。


(訳)
システム10の動作を更に詳細に検討すると,SMDを含むプ
リント配線アセンブリは,はんだ付けの直後であってフラックス
残渣が硬化する前に処理チャンバ12内のラック72に載置され
る。次に,チャンバ12内に真空を生成するためにチャンバ12
が十分に密閉されるように,蓋70が所定の位置に固定され,全
てのバルブが閉じられる。次に,処理動作を開始するためにシー
ケンサ/タイマ26が操作者により作動され,以降,処理動作は
シーケンサ/タイマ26の制御下で進む。真空ポンプ16とチャ
ンバ12との間に経路を提供するために,バルブ31,33及び
35が開かれる。真空ポンプ16がオンにされ,1mm水銀に近
い部分真空が達成されて真空計64により信号が送信されるまで
チャンバ12から空気が抜き出され,チャンバ12を密閉するた
めにバルブ33及び35が閉じられる。この時点で,フラックス
残渣は,処理チャンバ12内のラック72上の配線アセンブリ上
の閉じ込め空間から移動している。
上記の記載においては,洗浄前に真空ポンプ16により処理チ
ャンバ12の真空引きがなされることが説明されており,処理チ
ャンバ12の真空引きの際,処理チャンバ12とコールドトラッ
プ20との間のバルブ35,コールドトラップ20と真空保持タ
ンク18との間のバルブ33,真空保持タンク18と真空ポンプ
16との間のバルブ31が開かれるので,処理チャンバ12の真
空引きとともにコールドトラップ20も真空引きされる。チャン
バ12内について1mm水銀に近い真空が達成されると,チャン
バ12を密閉するために,コールドトラップ20の両端のバルブ
33及び35が閉じられるので,コールドトラップ20は真空引
きされ減圧されている。
④ 甲53の5欄には,次の記載がある。


(訳)
次に,バルブ51が開かれ,溶剤がタンク14から処理チャン
バ12に流れ込み,チャンバが溶剤で再加圧されて,アセンブリ
及びラック72が全方向に溶剤で満たされる。これにより,溶剤
は,圧力差と毛管力の影響を受けて,他の状況ではアクセスでき
ない閉じ込め領域に進入し,アセンブリ上のフラックス残渣を更
に溶解して洗い流すことができる。尚,洗浄作用を促進するため
に溶剤を加熱してもよいが,これは必ずしも必要ではなく,実際,
一部の溶剤は加熱が望ましくない場合がある。処理チャンバ12
が溶剤で満たされた後,バルブ51が閉じられ,ポンプ22及び
24がオンにされるとバルブ53,43及び45が開かれる。溶
剤は,ポンプ22によりチャンバ12に送り出され,管74に溢
れ出し,更にポンプ24によりタンク14に送り戻されるため,
タンク14とチャンバ12との間で循環される。それにより,溶
剤は,ラック72上のアセンブリを通過して処理チャンバ12内
で流動し,そのため,フラックス残渣の除去に有効な更なる洗浄
作用を提供する。
上記記載によれば,バルブ51を開けてチャンバ12に溶剤を
流し込み,チャンバ12を溶剤で満たした後, バルブ51を閉じ,
ポンプ22及び24をオンとし,バルブ53,43及び45を開
き,溶剤をタンク14とチャンバ12の間で循環させることで,
溶剤はチャンバ12内を流動してアセンブリを洗浄するとされて
おり,これは,洗浄の対象となるワーク(甲53では「アセンブ
リ」 を液体状の溶剤に浸漬し,
) その状態で溶剤を流動させること
で洗浄を行うものであると認められる。
⑤ 甲53の5欄には,前記④の記載に続いて次の記載がある。
「The valve 43 is then closed and the valve 47 is opened as
operation of the pump 22 is shut down. All of the free standing
solvent is pumped out of the processing chamber 12 into the
holding tank 14 by the pump 24.」
(訳)
次に,ポンプ22の動作が停止すると,バルブ43が閉じられ,
バルブ47が開かれる。流動溶剤は全て,ポンプ24により処理
チャンバ12から保持タンク14に吸い出される。
上記の記載によれば,洗浄を行った後,ポンプ22の動作が停
止すると,バルブ43が閉じられ,バルブ47が開かれ,流動溶
剤は全て,ポンプ24により処理チャンバ12から保持タンク1
4に吸い出される。
⑥ 甲53の5欄には,前記⑤の記載に続いて次の記載がある。


(訳)
その後,バルブ33及び35が再び開かれると,バルブ53,
45及び47が閉じられる。このように,チャンバ12内で1m
m水銀に近い部分真空が再度達成されたと真空計64により検出
されるまで,真空ポンプ16により処理チャンバから空気が再度
吸い出される。これにより,溶剤が蒸発して処理室12から排出
され,ラック72上の配線アセンブリに溶剤物質が存在しなくな
る。
同時に,チャンバ12から吸い出された気相溶剤物質は,コー
ルドトラップ20を通過し,そこで再利用のために凝縮及び収集
される。
上記には,チャンバ12内に1mm水銀に近い部分真空が再度
達成されるまで真空ポンプ16によりチャンバ12から空気を吸
い出すことが記載されているが,上記の工程の最初の時点では,
バルブ33及び35が再び開かれ(それによってチャンバ12と
コールドトラップが接続される。,バルブ53,45及び47が

閉じられることとされているから,その時点までコールドトラッ
プ20は真空引きされて,減圧されているものの,他方で,溶剤
の排出のために,真空ポンプ16によりチャンバ12から空気を
再度吸い出しているのであるから,溶剤をチャンバから排出し,
洗浄の対象となるワーク(甲53では「アセンブリ」)を乾燥する
ことに寄与しているのは真空ポンプ16であると認められる。
(b) 相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に
係る本件特許発明5の構成の開示の有無
前記(a)の②,③,⑥によれば,甲53には,コールドトラップ2
0が,洗浄(前記(a)④)の前に真空引きにより減圧され,洗浄(前
記(a)④)の後,チャンバ12と接続されるとともに,溶剤の排出の
ために,真空ポンプ16によりチャンバ12から空気を再度吸い出
すことにより,チャンバ12から溶剤蒸気が吸引され,ワーク(甲
53では「アセンブリ」)が乾燥されることが記載されている。そう
すると,甲53には,真空ポンプにより溶剤を吸引することにより
乾燥する技術事項が記載されているものであって,ワークの洗浄が
終わる前に,凝縮室が,真空ポンプによって減圧され,減圧の状態
をたもちつづけ,かつ,洗浄室よりも低い温度にたもちつづけられ
ており,洗浄終了後に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通
させてワークを乾燥させるという,相違点1-2に係る本件特許発
明1の構成や相違点1-5に係る本件特許発明5の構成が示され
ているとは認められない。
なお,前記(a)の③によれば,甲53に記載された発明は,コー
ルドトラップ20が真空引きされた状態で,チャンバ12を密閉
するために,コールドトラップ20の両端のバルブ33及び35
が閉じられるので,コールドトラップ20の真空引きした後の低
圧の状態が維持されており,そのため,洗浄(前記(a)④)の後,
チャンバ12とコールドトラップ20が接続されたときに(前記
(a)⑥),チャンバ12から空気が吸い出されるものであり,これを
とらえて,溶剤の乾燥が行われているというのであれば,相違点
1-2に係る本件特許発明1の構成や相違点1-5に係る本件特
許発明5の構成が甲53に示されているということになる。しか
し,甲53において,コールドトラップ20との接続によってチ
ャンバ12内のワーク(甲53では「アセンブリ」)が乾燥される
ことを示す記載はなく,むしろ,前記(a)のとおり,甲53発明で
は,乾燥に寄与しているのは真空ポンプ16であることに照らす
と,甲53には,真空ポンプ16によりチャンバ12から空気を
再度吸い出すことにより乾燥を行う技術事項が記載されているも
のと認められ,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成や相違
点1-5に係る本件特許発明5の構成が示されているとは認めら
れない。
(イ) 容易想到性
a 前記(ア)a~eのとおり,甲49~53には,相違点1-2に係る
本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構成
が示されているものとは認められないが,念のため,仮に,甲53に
おいて,洗浄(前記(a)④)の後,チャンバ12とコールドトラップ2
0が接続されたときに(前記(a)⑥)チャンバ12から空気が吸い出さ
れことにより溶剤の乾燥が行われているとして(前記(ア)e(b)),こ
の点をもって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成や相違点1
-5に係る本件特許発明5の構成が甲53に示されているとした場合
に,容易想到性が認められるかについて検討する。
b 特許無効審判の審決に対する審決取消訴訟においては,審判で審理
判断されなかった公知事実を主張することは許されず(最高裁昭和4
2年(行ツ)第28号同51年3月10日大法廷判決・民集30巻2
号79頁)審判の手続で審理判断された刊行物記載の発明との対比に

おける進歩性の有無を認定して審決の適法,違法を判断するに当たり,
審判の手続には現れていなかった資料に基づき当業者の特許出願当時
における技術常識又は周知技術を認定し,これによって同発明のもつ
意義を明らかにすることが許されるにとどまる(最高裁昭和54年(行
ツ)第2号同55年1月24日第一小法廷判決・民集34巻1号80
頁参照)。ところが,本件において,甲53に示された相違点1-2に
係る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の
構成が,当業者の本件特許の優先権主張日前の技術常識又は周知技術
であったことについては,これを認めるに足りる証拠はなく,甲53
に示された上記構成は,審判で審理判断されなかった公知事実に該当
するものと認められる。したがって,甲53に示された上記構成と刊
行物記載の発明(甲10発明1~5)の組み合わせに基づく容易想到
性を主張することは許されないものと認められる。
c また,仮に,甲53に示された相違点1-2に係る本件特許発明1
の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構成(前記(ア)e(b))
と公知の発明(甲10発明1,5)との組み合わせに基づく容易想到
性を検討するとしても,次のとおり,それらの組み合わせには阻害事
由があり,動機づけもないから,容易想到性は認められない。
すなわち,甲10発明1,甲10発明5は(前記第2,3⑵ア(ア),
(オ)),洗浄室において,減圧下でワークに気体状の蒸気である溶剤を
供給することにより洗浄を行うものであるのに対し,甲53に記載さ
れた洗浄装置は,洗浄の対象となるワーク(甲53では「アセンブリ」

を液体状の溶剤に浸漬し,その状態で溶剤を流動させることにより洗
浄を行うものであるから,両者は洗浄の原理が異なる。このことにも
伴い,甲53では洗浄後に,まず,流動溶剤は全て,処理チャンバ1
2から保持タンク14に吸い出される工程があり,これを経た後で溶
剤を除去して乾燥するものである。そして,相違点1-2に係る本件
特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構成は,
洗浄の直後に行われる乾燥に関する事柄であるから,その直前の洗浄
の工程と密接な関連があるものと考えられるところ,液体状の溶剤と
気体状の溶剤とでは,洗浄に用いられる溶剤の量や温度等が異なり,
その結果,それらの溶剤を除去して乾燥する方法にも違いが生ずると
推認されるから,液体の溶剤を用いる洗浄方法について採用されてい
る乾燥工程を,洗浄の原理が異なる気体の溶剤を用いる洗浄方法の乾
燥工程として適用することについては,洗浄の原理が異なることによ
り阻害事由があるものと認められるし,これを適用する動機づけがあ
るものとは認められない。そうすると,甲53に,相違点1-2に係
る本件特許発明1の構成及び相違点1-5に係る本件特許発明5の構
成が示されているとしても,それを,甲53に記載された洗浄装置と
は洗浄の原理の異なる甲10発明1,5の洗浄装置に組み合わせるこ
とについては阻害事由があるし,動機づけがないものと認められる。
したがって,甲10発明1に,甲53に示された相違点1-2に係る
本件特許発明1の構成を適用して本件特許発明1を容易に想到するこ
とはできなかったし,甲10発明5に,甲53に示された相違点1-
5に係る本件特許発明5の構成を適用して本件特許発明5を容易に想
到することはできなかったものと認められる。なお,本件特許発明2
~4は本件特許発明1を含むものであり,甲10発明2~4は甲10
発明1を含むものであるから(前記⑴イ~エ),甲10発明2~4に,
甲53に示された相違点1-2に係る本件特許発明1の構成を適用し
て本件特許発明2~4を容易に想到することもできなかった。
(ウ) 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点1-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点1
-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示され
ていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかった
とした本件審決の判断に誤りはない。
2 取消事由2(甲18を主引用例とする進歩性判断の誤り(無効理由2関係))
⑴ 取消事由2-1(相違点の認定の誤り及び原告主張の相違点を前提とする
進歩性判断の誤り)について
ア 本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2を認定した
誤り
本件審決が認定した相違点2-2(前記第2,3⑶イ(ア)b(b))の趣旨
は,本件特許発明1は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲18発明1は,開閉バルブに
よる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されることであると認
められる(この点は原告の主張にも合致する。前記第3,2⑴ア(ア))。当
裁判所は,本件審決が本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違
点2-2を認定したことに誤りはないものと判断する。その理由は,前記
1⑴ア(イ),(ウ)において相違点1-2について述べたのと同じである(た
だし,「甲10」は「甲18」に読み替える。。

イ 本件特許発明2と甲18発明2の相違点として相違点2-2を認定した
誤り
本件特許発明2は本件特許発明1を含むものであり(前記第2,2【請
求項2】,甲18発明2は甲18発明1を含むものであるところ(前記第

2,3⑵イ(イ)) 本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明

1の相違点として認定したことには誤りはないから(前記ア)本件審決が,

本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2が認定される
ことを前提として,本件特許発明2と甲18発明2の相違点として相違点
2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(イ)b)に誤りはない。
ウ 本件特許発明3と甲18発明3の相違点として相違点2-2を認定した
誤り
本件特許発明3は本件特許発明2を含み(前記第2,2【請求項3】,

本件特許発明2は本件特許発明1を含むから(前記第2, 【請求項2】,
2 )
本件特許発明3は本件特許発明1を含むものであり,甲18発明3は甲1
8発明2を含み(前記第2,3⑵イ(ウ)),甲18発明2は甲18発明1を
含むから(前記第2,3⑵イ(イ)),甲18発明3は甲18発明1を含むも
のであるところ,本件審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明
1の相違点として認定したことに誤りはないから(前記ア),本件審決が,
本件特許発明1と甲18発明1の相違点として相違点2-2が認定される
ことを前提として,本件特許発明3と甲18発明3の相違点として相違点
2-2を認定したこと(前記第2,3⑶イ(ウ)b)に誤りはない。
エ 本件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を認定した
誤り
本件特許発明4は本件特許発明1を含み(前記第2,2【請求項4】,

甲18発明4は甲18発明1を含むところ(前記第2,3⑵イ(エ)),本件
審決が相違点2-2を本件特許発明1と甲18発明1の相違点として認定
したことに誤りはないから(前記ア),本件審決が,本件特許発明1と甲1
8発明1の相違点として相違点2-2が認定されることを前提として,本
件特許発明4と甲18発明4の相違点として相違点2-2を認定したこと
(前記第2,3⑶イ(エ)b(a))に誤りはない。
オ 本件特許発明5と甲18発明5の相違点として相違点2-5を認定した
誤り
本件審決が認定した相違点2-5(前記第2,3⑶イ(オ)b(b))の趣旨
は,本件特許発明5は,洗浄室と凝縮室との間の開閉バルブの連通の前に
事前に凝縮室が減圧されているのに対し,甲18発明5は,開閉バルブに
よる連通の後に真空ポンプによって凝縮室が減圧されることであると認
められる(この点は原告の主張にも合致する。前記第3,2⑴ア(オ))。当
裁判所は,本件審決が本件特許発明5と甲18発明5の相違点として相違
点2-5を認定したこと(前記第2,3⑶イ(オ)b(b))に誤りはないもの
と判断する。その理由は,前記1⑴オ(イ),(ウ)において相違点1-5につ
いて述べたのと同じである(ただし, 甲10」 「甲18」
「 は に読み替える。。

カ 原告主張の相違点を前提とする進歩性判断の誤り
原告は,相違点2-2は本件特許発明1と甲18発明1の相違点ではな
く,これを相違点とした本件審決の認定は誤りであるとの主張を前提とし
て,本件特許発明1~4は容易に想到することはできなかったとした本件
審決の判断は誤りであると主張し(前記第3,2⑴ア(カ)a~d),また,
相違点2-5は本件特許発明5と甲18発明5の相違点ではなく,これを
相違点とした本件審決の認定は誤りであるとの主張を前提として,本件特
許発明5は容易に想到することはできなかったとした本件審決の判断は
誤りであると主張する(前記第3,2⑴ア(カ)e)。しかし,相違点2-2
を本件特許発明1と甲18発明1の相違点とした本件審決の認定に誤り
はなく,相違点2-5を本件特許発明5と甲18発明5の相違点とした本
件審決の認定にも誤りはない。したがって,これらの相違点が存在しない
ことを前提とする原告の上記主張は,採用することができない。
⑵ 取消事由2-2(本件審決が認定する相違点(相違点2-2,2-5)の
存在を前提とする進歩性判断の誤り)について
ア 甲14に基づく容易想到性
(ア) 相違点に係る構成の開示
甲14には,甲14から抽出して他の発明と組み合わせるべき技術事
項として,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5
に係る本件特許発明5の構成が記載されているとは認められず,その他,
相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5に係る本件
特許発明5の構成が,甲11~17に開示されているものとは認められ
ない。その理由は,前記1⑵ア(ア)に記載したとおりである。
(イ) 容易想到性
そうすると,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成は甲11~1
7のいずれにも開示されておらず,本件特許発明1は,甲18と甲11
~17に基づいて容易に想到することができたものとは認められず,前
記⑴イ~エのとおり,本件特許発明2~4はいずれも本件特許発明1を
含むものであるから,本件特許発明1~4は甲18と甲11~17に基
づいて容易に想到することができたものとは認められない。また,相違
点2-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示
されておらず,本件特許発明5は,甲18と甲11~17に基づいて容
易に想到することができたものとは認められない。
(ウ) 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2
-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示され
ていないから本件特許発明1~5は容易に想到することができなかった
とした本件審決の判断に誤りはない。
イ 周知技術に基づく容易想到性
(ア) 相違点に係る構成の開示
前記1⑵イ(ア)のとおり,甲49~53には,相違点2-2に係る本
件特許発明1の構成及び相違点2-5に係る本件特許発明5の構成が示
されているものとは認められない。
(イ) 容易想到性
前記1⑵イ(イ)aのとおり,仮に,相違点2-2に係る本件特許発明1
の構成及び相違点2-5に係る本件特許発明5の構成が甲53に示され
ているとしても,前記1⑵イ(イ)bで述べたのと同様に,甲53に示さ
れた相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5に係る
本件特許発明5の構成が,当業者の本件特許の優先権主張日前の技術常
識であったことについては,これを認めるに足りる証拠はなく,甲53
に示された上記構成は,審判で審理判断されなかった公知事実に該当す
るものと認められ,したがって,甲53に示された上記構成と公知の発
明(甲18発明1,5)の組み合わせに基づく容易想到性を主張するこ
とは許されないものというべきである。
また,前記1⑵イ(イ)cで述べたのと同様の理由により,仮に,甲53
に示された相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2-5
に係る本件特許発明5の構成と公知の発明(甲18発明1,5)との組
み合わせに基づく容易想到性を検討するとしても,それらの組み合わせ
には阻害事由があり,動機づけもないから,容易想到性は認められない。
なお,本件特許発明2~4は本件特許発明1を含むものであり,甲18
発明2~4は甲18発明1を含むものであるから(前記⑴イ~エ) 甲1

8発明2~4に,甲53に示された相違点2-2に係る本件特許発明1
の構成を適用して本件特許発明2~4を容易に想到することもできなか
った。
(ウ) 審決の判断の誤りの有無
したがって,相違点2-2に係る本件特許発明1の構成及び相違点2
-5に係る本件特許発明5の構成は甲11~17のいずれにも開示され
ていないから本件特許発明1~5は容易に想到することはできなかった
とした本件審決の判断に誤りはない。
3 取消事由3(分割要件に関する判断の誤り(無効理由3関係))
⑴ 新規事項追加
分割において新規事項の追加があるかどうかは,原出願の当初明細書等の
すべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,
新たな技術事項を導入するものであるか否かにより判断すべきである。
⑵ 原出願の当初明細書等と本件特許出願の当初明細書等の比較
ア 特許請求の範囲
(ア) 原出願の当初の特許請求の範囲
原出願の当初の特許請求の範囲は次のとおりである(下線は,本件審
決51~62頁による。符号は,本判決において付した。以下,各請求
項記載の発明は,請求項の番号に応じて,例えば請求項1に係る発明を
「原出願発明1」などという。。

【請求項1】
b-1 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
c-1 前記蒸気生成手段から供給される蒸気によって減圧下でワーク
を洗浄可能な洗浄室と,
d-1 前記洗浄室に隣接し,減圧状態に保持される凝縮室と,
e-1 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手
段と,
f-1 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮
断する開閉バルブと,を備え,
g-1 前記ワークの洗浄後に前記凝縮室を減圧することなく,前記開
閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることに
よって洗浄後の前記ワークを乾燥させることを特徴とする真空洗
浄装置。
【請求項2】
b-2 石油系溶剤の蒸気を生成する蒸気生成手段と,
c-2 前記蒸気生成手段から供給される蒸気によって減圧下でワーク
を洗浄可能な洗浄室と,
d-2 前記洗浄室に隣接し,減圧状態に保持される凝縮室と,
e-2 前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持する温度保持手
段と,
f-2 前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させ,または,その連通を遮
断する開閉バルブと,を備え,
g-2 洗浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを寄与させることなく,
前記開閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させる
ことによって洗浄後の前記ワークを乾燥させることを特徴とする
真空洗浄装置。
【請求項3】
l-3 ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮室
を減圧する工程と,
m-3 石油系溶剤の蒸気を生成し,当該蒸気を減圧下にある前記洗浄
室に供給して前記ワークを洗浄する工程と,
n-3 減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持す
る工程と,
o-3 前記ワークの洗浄後に前記凝縮室を減圧することなく,開閉バ
ルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させることによ
って洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程と
p-3 を含む真空洗浄方法。
【請求項4】
l-4 ワークが搬入された洗浄室および当該洗浄室に隣接した凝縮
室を減圧する工程と,
m-4 石油系溶剤の蒸気を生成し,当該蒸気を減圧下にある前記洗浄
室に供給して前記ワークを洗浄する工程と,
n-4 減圧下にある前記凝縮室を前記洗浄室よりも低い温度に保持
する工程と,
o-4 洗浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを寄与させることな
く,開閉バルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させ
ることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程と
p-4 を含む真空洗浄方法。
(イ) 原出願の当初の特許請求の範囲と本件特許請求の範囲との対比
a 本件特許発明1と原出願発明1,2とを比較すると,次の点で異な
る。
① 本件特許発明1は構成要件A 「真空ポンプと,)
( 」 を有するのに対
し,原出願発明1,2はそのような構成要件を有しない。
② 本件特許発明1の構成要件Cが「前記真空ポンプによって減圧さ
れ,当該減圧の状態において前記蒸気生成手段から供給される蒸気
によってワークを洗浄する洗浄室と」であるのに対し,原出願発明
1のc-1及び原出願発明2のc-2は「前記蒸気生成手段から供
給される蒸気によって減圧下でワークを洗浄可能な洗浄室と」であ
り,原出願発明1のc-1及び原出願発明2のc-2には,洗浄室
が真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において洗浄する
ことが記載されていない。
③ 本件特許発明1の構成要件Dが「前記真空ポンプによって減圧さ
れ,当該減圧の状態が保持される凝縮室と」であるのに対し,原出
願発明1のd-1及び原出願発明2のd-2は「前記洗浄室に隣接
し,減圧状態に保持される凝縮室と」であり,原出願発明1のd-
1及び原出願発明2のd-2には,凝縮室が真空ポンプによって減
圧されることは記載されておらず,他方,本件件発明1の構成要件
Dには,凝縮室が洗浄室に隣接していることが記載されていない。
④ 本件特許発明1の構成要件Gが「前記蒸気を前記洗浄室に供給し
てワークを洗浄した後,前記開閉バルブによって前記洗浄室を当該
洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワーク
を乾燥させる」であるのに対し,原出願発明1のg-1は「前記ワ
ークの洗浄後に前記凝縮室を減圧することなく,前記開閉バルブに
よって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることによって洗浄後
の前記ワークを乾燥させる」であり,原出願発明2のg-2は「洗
浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを寄与させることなく,前記
開閉バルブによって前記凝縮室と前記洗浄室とを連通させることに
よって洗浄後の前記ワークを乾燥させる」であり,原出願発明1の
g-1及び原出願発明2のg-2には,蒸気を前記洗浄室に供給し
てワークを洗浄した後にワークを乾燥させることの記載はなく,他
方,構成要件Gには,原出願発明1のg-1の「前記ワークの洗浄
後に前記凝縮室を減圧することなく, ということの記載はなく,
」 原
出願発明2のg-2は「洗浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを
寄与させることなく,」という記載もない。
b 本件特許発明5と原出願発明3,4とを比較すると,次の点で異
なる。
① 本件特許発明5の構成要件Lには,真空ポンプを用いることによ
り,洗浄室及び凝縮室を減圧することが記載されているのに対し,
原出願発明3のl-3及び原出願発明4のl-4には,真空ポンプ
を用いて減圧することは記載されていない。
② 原出願発明3のl-3及び原出願発明4のl-4には,凝縮室が
洗浄室に隣接していることが記載されているが,本件特許発明5の
構成要件Lには記載されていない。
③ 本件特許発明5の構成要件Oが「前記洗浄室において前記ワーク
を洗浄した後,開閉バルブを開弁することにより前記洗浄室を当該
洗浄室よりも低い温度に保持された前記凝縮室と連通させてワーク
を乾燥させる工程と,」であるのに対し,原出願発明3のo-3は,
「前記ワークの洗浄後に前記凝縮室を減圧することなく,開閉バル
ブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通させることによって
洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程と」であり,原出願発明4の
o-4は,洗浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを寄与させるこ

となく,開閉バルブを開弁して前記洗浄室と前記凝縮室とを連通さ
せることによって洗浄後の前記ワークを乾燥させる工程と」であり,
構成要件Oには,原出願発明3のo-3の「前記ワークの洗浄後に
前記凝縮室を減圧することなく, ということの記載はなく,
」 原出願
発明4のo-4の「洗浄後の前記ワークの乾燥に真空ポンプを寄与
させることなく,」という記載もない。
c 本件特許発明2の構成要件I,本件特許発明3の構成要件J及び本
件特許発明4の構成要件Kは,分割による本件特許の出願に際して,
発明の構成要件として新たに追加されたものである。
イ 明細書及び図面の対比
本件特許明細書及び図面に記載された事項と,原出願の当初明細書及び
図面に記載された事項とを比較すると,両者は,本件特許明細書と原出願
の当初明細書の特許請求の範囲の記載に対応する【課題を解決するための
手段】の記載(本件特許明細書の【0007】~【0011】,原出願の当
初明細書の【0007】~【0010】)は異なるものの,それ以外の【発
明が解決しようとする課題】,
【発明の効果】,
【発明を実施するための形態】
等の記載は共通している。
⑶ 新規事項追加の有無
ア 本件特許明細書等と原出願の当初明細書等を比べると,前記⑵アのとお
り,本件特許請求の範囲と原出願の当初の特許請求の範囲に相違がある一
方,前記⑵イのとおり,明細書及び図面には,特許請求の範囲に対応する
部分に相違があるにとどまるから,本件特許請求の範囲と原出願の当初の
特許請求の範囲の相違点に係る本件特許請求の範囲に記載された事項が,
原出願の当初明細書,図面に記載されていたか否かを検討することにより,
分割による新規事項追加の有無を検討する。
イ 真空ポンプを用いて洗浄室及び凝縮室を減圧すること(前記⑵ア(イ)a
①,b①)について
(ア) 原出願の当初明細書には,次のとおり記載されている。
「【0016】
また,洗浄室2には,配管9を介して,真空ポンプ10が接続され
ている。この真空ポンプ10は,ワークWの洗浄を開始する前の減圧
工程において,真空容器3内を真空引き(初期真空)によって減圧す
る。さらに,洗浄室2には,この洗浄室2を大気開放するための配管
11が接続されている,この配管11は,ワークWの洗浄工程および
乾燥工程が終了した後の搬出工程において,洗浄室2を大気開放して
大気圧に復帰させる。
【0017】
そして,洗浄室2には,開閉手段である開閉バルブ20を介して,
凝縮室21が接続されている。開閉バルブ20を開弁すると,洗浄室
2と凝縮室21とが連通し,開閉バルブ20を閉弁すると,洗浄室2
と凝縮室21との連通が遮断される。この凝縮室21も,洗浄室2と
同様に,配管9から分岐する分岐管25を介して真空ポンプ10に接
続されており,減圧状態を保持することが可能である。また,この凝
縮室21には,熱交換器等からなる温度保持装置22(温度保持手段)
が設けられており,凝縮室21内の温度が洗浄室2内の温度よりも低
い一定温度(5℃~50℃,より好ましくは15℃~約25℃)に保持
することが可能である。」
(イ) 前記(ア)のとおり,原出願の当初明細書には,真空ポンプを用いて
洗浄室及び凝縮室を減圧することが記載されていたから,本件特許発明
1が構成要件A(「真空ポンプと,)を有し,本件特許発明5の構成要件

Lに,真空ポンプを用いることにより洗浄室及び凝縮室を減圧すること
が記載されていても,それらは原出願の当初明細書に記載されていた事
項であった。
ウ 洗浄室が真空ポンプによって減圧され,当該減圧の状態において洗浄す
ること(前記⑵ア(イ)a②)について
(ア) 原出願の当初明細書には,次のとおり記載されている。
「【0021】
図2は,真空洗浄装置1の処理工程を説明するフローチャートである。
真空洗浄装置1を利用するにあたっては,まず,準備工程(ステップS
100)を1回行う。その後,1つのワークWに対して,搬入工程(ス
テップS200),減圧工程(ステップS300),蒸気洗浄工程(ステ
ップS400),乾燥工程(ステップS500),搬出工程(ステップS
600)を行う。そして,以後,順次搬入されるワークWに対して,ス
テップS200~ステップS600の工程が行われる。以下に,図1を
参照しながら,上記の各工程について説明する。
【0022】
(準備工程:ステップS100)
まず,真空洗浄装置1を稼働させる。そのために,開閉バルブ20お
よび切換バルブV1~V3を閉弁するとともに,切換バルブV4を開弁
して真空ポンプ10を駆動する。これにより,凝縮室21を真空引きし
て,この凝縮室21の内部を10kPa以下に減圧する。そして,温度
保持装置22を駆動して,減圧状態にある凝縮室21を,洗浄室2より
も低い温度,より詳細には,使用する石油系溶剤の凝縮点以下の温度
(5℃~50℃,より好ましくは15℃~約25℃)に保持する。
【0023】
また,ヒータ8aを駆動して蒸気発生室8に貯留されている石油系溶
剤を加温し,蒸気を生成させる。なお,このとき,蒸気発生室8は飽和
蒸気圧となっており,かつ切換バルブV1が閉じられているため,蒸気
発生室8で生成された蒸気は,この蒸気発生室8内に充満している。こ
れにより,真空洗浄装置1の準備工程が終了し,真空洗浄装置1による
ワークWの洗浄が可能となる。
【0024】
(搬入工程:ステップS200)
真空洗浄装置1によってワークWの洗浄を行う際には,まず,開閉扉
4を開放し,開口3aから洗浄室2にワークWを搬入して載置部5に載
置する。このとき,開閉バルブ20は閉弁したままであり,凝縮室21
が減圧状態に維持されている。そして,ワークWの搬入が完了したら,
開閉扉4を閉じて洗浄室2を密閉状態にする。このとき,ワークWの温
度は,常温(15~40℃程度)となっている。
【0025】
(減圧工程:ステップS300)
次に,真空ポンプ10を駆動して,真空引きにより洗浄室2を凝縮室
21と同じ10kPa以下に減圧する。
【0026】
(蒸気洗浄工程:ステップS400)
次に,切換バルブVIを開弁して,蒸気発生室8によって生成された
蒸気を洗浄室2に供給する。このとき,蒸気の温度は,70~150℃
(より好ましくは115~125℃)に制御されており,高温の蒸気が洗
浄室2に充満する。
【0027】
このように,洗浄室2に供給された蒸気がワークWの表面に付着する
と,ワークWの温度が蒸気の温度に比べて低いことから,蒸気がワーク
Wの表面で凝縮する。その結果,ワークWの表面に付着していた油脂類
が,凝縮された石油系溶剤によって溶解,流下され,ワークWが洗浄さ
れる。この蒸気洗浄工程は,ワークWの温度が,蒸気の温度(石油系溶
剤の沸点)である70~150℃(115~125℃)に到達するまで
行われるとともに,ワークWの温度が蒸気の温度に到達したときに切換
バルブV1を閉弁する。こうして,蒸気洗浄工程が,終了する。
【0028】
(乾燥工程:ステップS500)
上記ステップS400の蒸気洗浄工程が終了すると,次に,洗浄の際
にワークWに付着した石油系溶剤を乾燥させる乾燥工程が行われる。こ
の乾燥工程は,開閉バルブ20を開弁して,洗浄室2と凝縮室21とを
連通させることによって行われる。具体的には,乾燥工程の開始時には,
洗浄室2の温度が蒸気の温度である70~150℃となっているが,凝
縮室21の温度は,温度保持装置22によって5~50℃ (より好まし
くは15~25℃)に維持されている。
【0029】
したがって,開閉バルブ20を開弁すると,洗浄室2内に充満してい
る蒸気は,凝縮室21に移動して凝縮する。これにより,洗浄室2が減
圧されることから,ワークWに付着している石油系溶剤および洗浄室2
内の石油系溶剤が,全て気化して,凝縮室21に移動する。その結果,
従来に比べて極めて短時間で,洗浄室2(ワークW)を乾燥させること
が可能となる。なお,第1実施形態の真空洗浄装置1における乾燥時間
については,後で詳細に説明する。
【0030】
(搬出工程:ステップS600)
上記のように,洗浄室2およびワークWの乾燥が完了したら,開閉バ
ルブ20を閉弁して,洗浄室2と凝縮室21とを遮断する。そして,切
換バルブV3を開弁して洗浄室2を大気開放し,洗浄室2が大気圧まで
復圧したときに,開閉扉4を開放して開口3aからワークWを搬出する。
こうして,ワークWに対する全工程が,終了する。このとき,凝縮室2
1は,所望の圧力に維持されていることから,以後は,上記ステップS
200~ステップS600を繰り返すことで,次々とワークWを洗浄す
ることができる。」
(イ) 前記(ア)の【0025】~【0027】のとおり,原出願の当初明細
書においては,真空ポンプによって洗浄室が減圧され,減圧の状態にお
いて溶剤蒸気が洗浄室に供給されて洗浄が行われることが記載されてい
るから,本件特許発明1の構成要件Cに,洗浄室が真空ポンプによって
減圧され,当該減圧の状態において洗浄することが記載されていても,
それらは原出願の当初明細書に記載されていた事項であった。
エ 凝縮室が洗浄室に隣接していること(前記⑵ア(イ)a③,b②)について
原出願の当初明細書等には,洗浄室2と凝縮室21との配置関係につい
て,
【0017】に「洗浄室2には,開閉手段である開閉バルブ20を介し
て,凝縮室21が接続されている。(前記イ(ア))と記載されているもの

の,凝縮室21が洗浄室に隣接しているという直接的な文言は記載されて
おらず,隣接していることによる技術的な意義についても記載されていな
い。一方,原出願の当初明細書の発明の詳細な説明には,
【0022】 【0

030】
(前記ウ(ア))に,準備工程で減圧され,減圧状態で洗浄室2より
も低い温度に保持された凝縮室21と,搬入工程でワークWが搬入され,
減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の蒸気が充満された洗浄室2とを,
乾燥工程において,開閉バルブ20を開弁して連通させることによって,
洗浄室2内に充満している蒸気が凝縮室21に移動して凝縮し,ワークW
を乾燥させることが記載されている。そして,当業者が,凝縮乾燥技術に
関する上記の【0022】~【0030】
(前記ウ(ア))の記載に触れたと
しても,上記のとおり,原出願の当初明細書等には,凝縮室21が洗浄室
に隣接しているという直接的な文言は記載されていないし,隣接している
ことによる技術的な意義についても何ら記載されていないから,凝縮乾燥
技術を実現する上で,凝縮室が洗浄室に隣接するということが必須の事項
であると把握するとは認められない。したがって,原出願の当初明細書等
には,凝縮乾燥技術として,凝縮室が洗浄室に隣接するという限定を含ま
ない発明が記載されていたものと認められる。そうすると,本件特許発明
1の構成要件D,本件特許発明5の構成要件Lに,凝縮室が洗浄室に隣接
することが記載されておらず,本件特許発明1,5が,凝縮室が洗浄室に
隣接するという構成を必須のものとして含まない発明であるとしても,そ
のような発明は,原出願の当初明細書に記載されていた事項であった。
オ ワークの洗浄後に凝縮室を減圧しないこと,洗浄後のワークの乾燥に真
空ポンプを寄与させることがないこと(前記⑵ア(イ)a④,b③)について
原出願の当初明細書の【0022】~【0030】
(前記ウ(ア))には,
凝縮乾燥技術が記載されているところ,そこでは,蒸気洗浄工程後に凝縮
室を減圧することや,蒸気洗浄工程後の乾燥工程で真空ポンプを寄与させ
ることには言及されていない。しかし,そこに記載された凝縮乾燥技術は,
その内容に照らすと,予め真空ポンプにより減圧して低い温度にたもちつ
づけられた凝縮室を,洗浄後に洗浄室と連通してワークを乾燥させた上で,
更にそれに加えて,蒸気洗浄工程後に凝縮室を減圧することや,蒸気洗浄
工程後の乾燥工程で真空ポンプを寄与させることを付け加えたとしても,
凝縮乾燥の実施が困難となるようなものではなく,むしろそれらを付け加
えることは可能であり,それらを排除するものとは認められない。そして,
原出願の当初明細書等には,上記の部分以外の部分においても,蒸気洗浄
工程後に凝縮室を減圧することや,蒸気洗浄工程後の乾燥工程で真空ポン
プを寄与させることを付け加えることを排除する記載や示唆があるとは
認められない。そうすると,原出願の当初明細書においては,乾燥凝縮に
おいて,蒸気洗浄工程後に凝縮室を減圧することや,蒸気洗浄工程後の乾
燥工程で真空ポンプを寄与させる構成を付け加えることは排除されてお
らず,それらを付け加える余地があり,それらを含み得る発明が記載され
ていたものと認められる。
そうであるとすれば,本件特許発明1の構成要件G,本件特許発明5の
構成要件Oに,洗浄後に凝縮室を減圧しないことや,洗浄後のワークの乾
燥に真空ポンプを寄与させないことが記載されておらず,本件特許発明1,
5が,予め真空ポンプにより減圧して低い温度にたもちつづけられた凝縮
室を,洗浄後に洗浄室と連通してワークを乾燥させた後,更にそれに加え
て,蒸気洗浄工程後に凝縮室を減圧することや,蒸気洗浄工程後の乾燥工
程で真空ポンプを寄与させることを含み得る発明であったとしても,その
ような発明は,原出願の当初明細書に記載されていた。
カ 本件特許発明2の構成要件I,本件特許発明3の構成要件J,本件特許
発明4の構成要件Kについて
(ア) 本件特許発明2の構成要件I
本件特許発明2の構成要件Iは,
「前記温度保持手段は,前記凝縮室の
温度を前記石油系溶剤の凝縮点以下に保持することを特徴とする」とい
う構成を備えるところ,原出願の当初明細書の【0022】前記ウ(ア))

には,凝縮室に設けられた温度保持装置を駆動して,減圧状態にある凝
縮室を,使用する石油系溶剤の凝縮点以下の温度に保持することが記載
れているから,本件特許発明2の構成要件Iの上記構成が開示されてい
る。
(イ) 本件特許発明3の構成要件J
a 原出願の当初明細書の【0018】には,
【0017】
(前記イ(ア))
に続けて次のとおり記載されている。
「【0018】
さらに,凝縮室21の底部には,リターン配管23を介して,リザ
ーバタンク24が接続されている。凝縮室21で凝縮した石油系溶剤
をリターン配管23からリザーバタンク24に導くとともに,このリ
ザーバタンク24に一時的に貯留することが可能である。このリザー
バタンク24は,蒸気発生室8に接続されており,一定量以上の石油
系溶剤が貯留されると,リザーバタンク24から蒸気発生室8に石油
系溶剤が導かれる。つまり,リターン配管23およびリザーバタンク
24は,石油系溶剤を回収する回収手段として機能する。こうした回
収手段によって回収された石油系溶剤は,蒸気発生室8に還流して再
度気化されて洗浄室2に供給される。」
b 本件特許発明3の構成要件Jは,前記洗浄室から前記凝縮室に導か

れて凝縮した石油系溶剤を,前記凝縮室から前記蒸気生成手段に導く
回収手段をさらに備えることを特徴とする」との構成を備えるところ,
原出願の当初明細書の【0017】【0018】及び図1によれば,

原出願の当初明細書には,洗浄室から凝縮室に導かれて凝縮した石油
系溶剤を凝縮室から蒸気発生室に導く回収手段であるリターン配管及
びリザーバタンクが記載されていることが認められるから,本件特許
発明3の構成要件Jの上記構成が開示されている。
(ウ) 本件特許発明4の構成要件K
a 原出願の当初明細書の【0042】には,原出願に係る発明の第2
実施形態について次のとおり記載されており,図7に第2実施形態が
示されている。
「【0042】
また,真空容器52内には,洗浄室2の下方に配置された浸漬室5
3が設けられている。この浸漬室53には,ワークWが完全に浸漬可
能な量の石油系溶剤が貯留されており,この石油系溶剤を加熱するた
めのヒータ53aが設けられている。また,洗浄室2と浸漬室53と
の間には中間扉54が設けられており,この中間扉54によって,洗
浄室2と浸責室53とが連通され,あるいはその連通が遮断される。」
b 本件特許発明4の構成要件Kは,
「前記洗浄室に接続され,前記石油
系溶剤が貯留されるとともに当該石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸
漬室をさらに備えることを特徴とする」という構成を備えるところ,
原出願の当初明細書の【0042】及び図7によれば,原出願の当初
明細書には,洗浄室に接続され,石油系溶剤が貯留されるとともに,
その石油系溶剤にワークを浸漬可能な浸漬室を備えることが記載され
ているから,本件特許発明4の構成要件Kの上記構成が開示されてい
る。
(エ) 前記イ~オのとおり,本件特許発明1,5が原出願の当初の特許請
求の範囲に記載された発明と相違するところは,いずれも原出願の当初
明細書等に記載されていたものであり,また,前記(ア)~(ウ)のとおり,
本件特許発明2の構成要件I,本件特許発明3の構成要件J,本件特許
発明4の構成要件Kの構成は,原出願の当初明細書に記載されていたも
のであるから,本件特許発明2~4も,いずれも原出願の当初明細書等
に記載されていたものであった。
キ そうすると,分割による本件特許の出願は,原出願の当初明細書等のす
べての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,
新たな技術事項を導入するものではないから,新規事項の追加に当たるも
のではない。
⑷ 審決の判断の誤りの有無
以上によれば,本件特許出願は分割要件を満たすから,原々々出願の時(平
成24年11月20日)にしたものとみなされ,原々々出願の公開公報であ
る甲7(平成25年(2013年)5月30日国際公開)に記載された発明
は特許法29条1項3号の発明に該当せず,本件特許は無効ではないとした
本件審決の判断(前記第2,3⑷ウ)に誤りはなく,取消事由3は理由がな
い。
4 取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り(無効理由4関係))
⑴ 実施可能要件
特許法36条4項1号には,発明の詳細な説明の記載は,その発明の属す
る技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることが
できる程度に明確かつ十分に記載したものであること(実施可能要件)が規
定されている。物の発明について実施可能要件を充足するためには,当業者
が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて,
過度の試行錯誤を要することなく,その物を製造し,使用することができる
程度の記載があることを要する。また,方法の発明について実施可能要件を
充足するためには,当業者が,明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当
時の技術常識に基づいて,過度の試行錯誤を要することなく,その方法の使
用をすることができる程度の記載があることを要する。
⑵ア 本件特許発明1
(ア) 原告は,本件特許発明1の構成要件Gに関して,実施可能要件が充
足されていないことを主張するので,その点について検討する。
a 本件特許発明1の構成要件Gには,ワークの洗浄が終わる前に,凝
縮室が,真空ポンプによって減圧され,減圧の状態をたもちつづける
ために洗浄室よりも低い温度にたもちつづけられており,洗浄終了後
に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを乾燥さ
せることが記載されているものと認められる(前記1⑴ア(イ)a)。
b 本件特許明細書の発明の詳細な説明には,【0005】【0006】

において,本件特許発明が解決しようとする課題は,乾燥工程におい
て,蒸気洗浄・乾燥室を真空ポンプで真空引きして減圧する従来の真
空洗浄装置及び真空洗浄方法では,乾燥工程に長時間を要するところ,
ワークの乾燥に要する時間を短縮して全体の処理能力を向上すること
ができる真空洗浄装置及び真空洗浄方法を提供することであると記載
されており,
【0007】~【0011】において,課題を解決するた
めの手段が本件特許発明であることが記載されている。そして,本件
特許発明の実施例として,第1実施形態 【0015】 【0040】,
( ~ )
第2実施形態(【0041】~【0052】)が記載され,第1実施形
態について,【0023】~【0031】には,準備工程で減圧され,
減圧状態で洗浄室2よりも低い温度に保持された凝縮室21と,搬入
工程でワークWが搬入され,減圧工程及び蒸気洗浄工程を経て高温の
蒸気が充満された洗浄室2とを,乾燥工程において,開閉バルブ20
を開弁して連通させることによって,洗浄室2内に充満している蒸気
が凝縮室21に移動して凝縮し,ワークWを乾燥させるという真空洗
浄装置の一連の処理工程が記載されており,当業者が,これらの記載
を参酌すれば,本件特許発明1の真空洗浄装置で行われる具体的な処
理を把握することができる。また,その効果について,発明の詳細な
説明の【0032】~【0038】及び図3~図6に,試験において
測定された蒸気発生室の蒸気温度・液温,及び洗浄室圧力の時間に伴
う変化が具体的な数値をもって記載され,それに基づいて,乾燥工程
で真空ポンプによる真空引き行う従来の真空洗浄装置との比較が記載
されており,本件特許発明1の真空洗浄装置がこの従来の真空洗浄装
置よりも乾燥工程に要する時間が短縮化されることが具体的に示され
ている。
c そうすると,当業者は,本件特許明細書の発明の詳細な説明によっ
て,本件特許発明1の真空洗浄装置が,ワークの乾燥に要する時間を
短縮して全体の処理能力を向上するとの課題を解決するものであるこ
とを理解し,その装置で行われる処理の工程や効果を具体的に把握す
ることができるから,凝縮室の熱容量,溶剤の種類,凝縮室内の温度
や圧力等の種々の条件を最適化し,ワークの乾燥時間が所望のものと
なるように,本件特許発明1を実施することができるものと認められ,
その実施には過度の試行錯誤は要しないものと推認される。そうする
と,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件特許発明1
を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているという
ことができ,本件特許発明1は実施可能要件を充足するものと認めら
れる。
(イ) その他の原告の主張について検討する。
a 原告は,発明の詳細な説明には本件特許発明1の構成要件Gに関し,
それに含まれる特定の実施形態のみが開示されているものの,他の実
施形態は不明であり,そのため,本件特許発明1に係る特許は特許法
36条4項1号の実施可能要件を充足しないと主張する(前記第3,
4⑴ア(ア))。
しかし,本件特許明細書の発明の詳細な説明には,本件特許発明1
の実施形態が記載されているから,本件特許発明1は実施可能である
と認められる。発明の詳細な説明に,請求項記載の発明のあらゆる実
施形態を記載することは不可能であり,そのようなことをしなくても,
当業者は,実施例の記載や,その他の明細書の記載,技術常識等を参
酌し,適宜条件を調整することにより本件特許発明1を実施すること
ができると認められることは既に説示したとおりであるから,原告の
上記主張は,採用できない。
b 原告は,本件特許明細書には,乾燥前にどの程度の圧力差を作って
おけばワークの乾燥に要する時間を短縮することができるのか例示さ
れていない旨(前記第3,4⑴ア(イ)a),本件特許発明1の構成要件
Gの記載には,乾燥の際に,洗浄室と凝縮室との差圧が微差であり,
ワークの乾燥時間を短縮させる程の溶剤蒸気の移動を生じない態様も
含んでいる旨(前記第3,4⑴ア(イ)b)主張する。しかし,前記(ア)
のとおり,本件特許明細書は,その記載内容に照らして,当業者が過
度の試行錯誤を要することなく本件特許発明1を実施することができ
るように記載されているものと認められ,乾燥時間を短縮させるため
に必要な圧力差を,特許請求の範囲において具体的な数値により特定
していないことをもって,実施可能要件を充足していないということ
はできない。また,上記圧力差が具体的な数値によって特定されてい
ないとしても,それは,本件特許発明1の効果を生じる程度の圧力差
であることが当然の前提となっており,結果に影響を与えないような
僅かな微差まで含んでいるものとは認められない。
c また,原告は,本件特許発明1の構成要件Gは,乾燥の際に,洗浄
室が凝縮室よりも低圧の場合,つまり,溶剤蒸気を洗浄室が吸い込む
という課題解決に矛盾する態様もその発明の範囲に含んでいると主張
するが(前記第3,4⑴ア(イ)b)
,前記(ア)aのとおり,構成要件G
には,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプによって減
圧され,減圧の状態をたもちつづけるために洗浄室よりも低い温度に
たもちつづけられており,洗浄終了後に,開閉バルブによって洗浄室
と凝縮室を連通させてワークを乾燥させることが記載されているから,
洗浄室が凝縮室よりも低圧の場合は,構成要件Gに記載されていると
は認められず,原告の上記主張は,採用することはできない。
d 原告は,本件特許の請求項1の記載によれば,本件特許発明1は,
開弁後に作動される真空ポンプで真空引きして乾燥する態様も包含し
ているところ,その場合に,開弁後に作動させる真空ポンプをどのよ
うに用いればワークの乾燥時間を短縮させることができるのかという
ことを示す実施形態の記載はないから,本件特許発明1は実施可能要
件を充足しないと主張する(前記第3,4⑴ア(イ)c)。
しかし,本件特許の請求項1には,構成要件Gが示すとおり,ワー
クの洗浄が終わる前に,凝縮室が,真空ポンプによって減圧され,減
圧の状態をたもちつづけるために洗浄室よりも低い温度にたもちつ
づけられており,洗浄終了後に,開閉バルブによって洗浄室と凝縮室
を連通させてワークを乾燥させることにより,ワークの乾燥に要する
時間を短縮するという発明が記載されており,開弁後に作動させる真
空ポンプを用いることを排除するものではないとしても,開弁後に真
空ポンプを作動させることは本件特許の構成要件ではないから,その
点について実施形態の記載がないことをもって,実施可能要件を充足
しないということはできない。
e 原告は,本件特許の請求項1には,
「前記凝縮室を前記洗浄室よりも
低い温度に保持する温度保持手段」「当該洗浄室よりも低い温度に保

持された前記凝縮室と連通させて」としか規定されておらず,本件特
許発明1には凝縮室が溶剤の凝縮点温度よりも高い温度に維持される
態様が含まれるが,凝縮室が凝縮点温度よりも高い温度の場合,十分
な凝縮は行われないのであり,それにもかかわらず,どのようにして
ワークの乾燥時間を短縮させることができるのかという実施形態も実
施可能に開示されていないと主張する(前記第3,4⑴ア(イ)d)。
しかし,本件特許の請求項 1 の記載からは,石油系溶剤の蒸気を凝
縮室で凝縮させることは明らかであり,当業者であれば,凝縮室が石
油系溶剤の凝縮点温度よりも低いことは当然に読み取ることができる
から,原告の上記主張は,採用することはできない。
f 原告は,本件特許の請求項1の記載では,洗浄室と凝縮室との間の
容積の関係も規定されていないため,凝縮室の容積が小さく,洗浄室
内の溶剤蒸気をわずかに吸い込んだだけで凝縮室内が溶剤蒸気で満杯
になり,凝縮が間に合わずに凝縮室の圧力を上昇させ,溶剤蒸気の移
動が直ぐに停止する場合もその範囲に含んでおり,それにもかかわら
ず,どのようにしてワークの乾燥時間を短縮させることができるのか
という実施形態も実施可能に開示されていないと主張する(前記第3,
4⑴ア(イ)e)。
しかし,前記(ア)のとおり,本件特許明細書の記載を把握した当業
者であれば,本件特許発明1の真空洗浄装置における,凝縮室の熱容
量,溶剤の種類,凝縮室内の温度や圧力等の種々の条件を最適化し,
ワークの乾燥時間が所望のものとなるように本件特許発明1を実施す
ることに過度の試行錯誤は要しないと推認される。原告が主張する例
は,そのような最適化が不可能な極端な例であって,そのようなもの
まで本件特許発明1が含んでいるものとは考えられないから,原告の
上記主張は,採用することができない。
イ 本件特許発明2~4
原告は,本件特許発明1の構成要件Gに関して実施可能要件が充足され
ていないことを主張し,そのため本件特許発明2~4も実施可能要件を充
足しない旨主張するが(前記第3,4⑴イ),本件特許発明1について実施
可能要件は充足されているから,原告の上記主張は理由がない。
ウ 本件特許発明5
原告は,本件特許発明5の構成要件Oに関して,実施可能要件が充足さ
れていないことを主張するので(前記第3,4⑴ウ),その点について検討
する。
本件特許発明5の構成要件Oは,ワークの洗浄が終わる前に,凝縮室が,
真空ポンプによって減圧され,減圧の状態をたもちつづけるために洗浄室
よりも低い温度にたもちつづけられており,洗浄終了後に,開閉バルブに
よって洗浄室と凝縮室を連通させてワークを乾燥させる工程が記載され
ているものと認められる(前記1⑴オ(イ)a)。そして,本件特許発明1に
ついて述べたのと同様に,本件特許明細書の発明の詳細な説明は,当業者
が本件特許発明5を実施することができる程度に明確かつ十分に記載さ
れているということができ,本件特許発明5は実施可能要件を充足してい
る。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
⑶ 審決の判断の誤りの有無
以上によれば,本件特許発明1~5は実施可能要件を満たすという本件審
決の判断(前記第2,3⑷エ)に誤りはなく,取消事由4は理由がない。
5 取消事由5(サポート要件に関する判断の誤り(無効理由5関係))
⑴ サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許
請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に
記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説
明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識で
きる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が優
先権主張日前の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる
範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
そして,サポート要件を充足するには,明細書に接した当業者が,特許請
求された発明が明細書に記載されていると合理的に認識できれば足り,また,
課題の解決についても,当業者において,技術常識も踏まえて課題が解決で
きるであろうとの合理的な期待が得られる程度の記載があれば足りるのであ
って,厳密な科学的な証明に達する程度の記載までは不要であると解される。
なぜなら,まず,サポート要件は,発明の公開の代償として独占権を与える
という特許制度の本質に由来するものであるから,明細書に接した当業者が
当該発明の追試や分析をすることによって更なる技術の発展に資することが
できれば,サポート要件を課したことの目的は一応達せられるからであり,
また,明細書が,先願主義の下での時間的制約の中で作成されるものである
ことも考慮すれば,その記載内容が,科学論文において要求されるほどの厳
密さをもって論証されることまで要求するのは相当ではないからである。
⑵ サポート要件の具備
ア 本件特許発明1
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は前記4⑵ア(ア)bのとおり
であり,それによれば,本件特許発明1は,発明の詳細な説明に記載され
た発明で,発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件特許
発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるものと認められ
る。
原告は,実施可能要件に関して主張したのと同様な主張を,サポート要
件違反の主張としてもするが,前記⑴のとおり,サポート要件を充足する
には,明細書に接した当業者が,特許請求された発明が明細書に記載され
ていると合理的に認識できれば足り,また,課題の解決についても,当業
者において,技術常識も踏まえて課題が解決できるであろうとの合理的な
期待が得られる程度の記載があれば足りるから,原告の主張は,そのいず
れも,上記の判断を左右するに足りるものではなく,したがって,本件特
許発明1に係る特許はサポート要件を充足する。
イ 本件特許発明2~4
原告は,本件特許発明1の構成要件Gに関してサポート要件が充足され
ていないことを主張し,そのため本件特許発明2~4もサポート要件を充
足しない旨主張するが,本件特許発明1についてサポート要件は充足され
ているから,原告の上記主張は理由がない。
ウ 本件特許発明5
原告は,本件特許発明5の構成要件Oに関して,サポート要件が充足さ
れていないことを主張する。しかし,本件特許発明5は,本件特許発明1
について述べたのと同様に,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明
の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が本件特許発明の課題を
解決できると認識できる範囲のものであるものと認められるから,原告の
上記主張は理由がない。
⑶ 審決の判断の誤りの有無
以上によれば,本件特許発明1~5はサポート要件を満たすという本件審
決の判断(前記第2,3⑷オ)に誤りはなく,取消事由5は理由がない。
6 結論
以上によれば,本件審決に取り消すべき事由はなく,原告の請求は理由がな
い。よって,原告の請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
中 平 健
裁判長裁判官鶴岡稔彦は退官のため署名押印できない。
裁判官
上 田 卓 哉

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