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平成30(ワ)38585等損害賠償請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所
裁判年月日 令和3年9月1日
事件種別 民事
当事者 原告F
被告G 株式会社歯愛メディカル 株式会社デンタルフィット
法令 意匠権
民法709条2回
意匠法3条1項2回
民法719条1回
意匠法3条1項3号1回
キーワード 意匠権23回
侵害21回
損害賠償15回
新規性12回
実施12回
ライセンス11回
無効1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 主位的請求
31年4月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 予備的請求
3日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
1 事案の概要15
800万円及び弁護士費用相当額である200万円並びにこれらに対する民法
2万円,被告歯愛社に対し9029万円,被告デンタル社に対し4469万円
2 前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに後掲の
2,15)。
3 争点
1 争点1(意匠登録を受ける権利の侵害に関する被告らに対する不法行為に基
9条)に該当する。
2 争点2(創作者名誉権の侵害に関する被告Gに対する不法行為に基づく損害10
1(原告の主張)(1)イのとおり,本件意匠の創作者は原告であるから,原告は
3 争点3(損害の発生等及び損害額)について
28年9月7日)するまでに販売した本件製品の売上高の6パーセント
00万個)×本件製品1個当たりの単価(100円)×ライセンス料率
4 争点4(不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の成否)について
5 争点5(不当利得返還請求権の成否)について
28年9月7日までの6090日間,被告デンタル社は,被告Gがその代表
7日までの3017日間,本件製品を販売して利益を挙げているから,被告
6パーセントにそれぞれ相当する。
6 争点6(権利の濫用の成否)について15
2か所の二重ヒンジか3か所の一重ヒンジか(e及びe’’)という点に
1 争点1(意匠登録を受ける権利の侵害に関する被告らに対する不法行為に基
2 争点2(創作者名誉権の侵害に関する被告Gに対する不法行為に基づく損害
3 結論
事件の概要 1 事案の概要15 本件は,被告Gが自らを創作者とする入れ歯入れ容器の意匠に係る意匠登録 出願をして意匠権の設定登録(意匠登録第1124884号)を受け(以下, この登録に係る意匠権を「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本 件意匠」という。),被告G並びに同人が代表取締役を務める被告歯愛社及び被 告デンタル社(以下「被告会社ら」と総称する。)において,本件意匠の実施品20 である入れ歯入れ容器(以下「本件製品」という。)を販売したことについて, 原告が,主位的に,① 被告Gの上記意匠登録出願は原告が創作した意匠につい ての冒認出願であり,被告らが本件意匠権の実施品である本件製品を販売した 行為は原告の本件意匠の意匠登録を受ける権利を侵害するものであるから,被 告らには共同不法行為が成立すると主張して,被告らに対し,民法719条125 項前段に基づき,連帯して,意匠登録を受ける権利の対価相当額である2億2 800万円及び弁護士費用相当額である200万円並びにこれらに対する民法 (平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割 合による遅延損害金の支払を,② 被告Gによる上記冒認出願は,原告の創作者

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判決文

令和3年9月1日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成30年(ワ)第38585号 損害賠償請求事件(第1事件)

平成31年(ワ)第10171号 損害賠償請求事件(第2事件)

口頭弁論終結日 令和3年6月3日

判 決

第1・第2事件原告 F

( 以 下 「 原 告 」 と い う 。 )

同訴訟代理人弁護士 比 留 川 浩 介

同 津 江 健 太 郎

同 補 佐 人 弁 理 士 谷 水 浩 一

第 1 事 件 被 告 G

(以下「被告G」という。)

第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 歯 愛 メ デ ィ カ ル

(以下「被告歯愛社」という。)

第 2 事 件 被 告 株 式 会 社 デ ン タ ル フ ィ ッ ト

(以下「被告デンタル社」という。)

上記3名訴訟代理人弁護士 河 合 弘 之

同 大 岩 直 子

同 小 菊 喜 一

同 木 村 佐 知 子

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主位的請求

(1) 被告らは,原告に対し,連帯して,2億3000万円及びこれに対する被告Gについては平成30年7月13日から,その余の被告らについては平成31年4月19日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告Gは,原告に対し,300万円及びこれに対する平成11年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。2 予備的請求

(1) 被告Gは,原告に対し,9302万円及びこれに対する平成30年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告歯愛社は,原告に対し,9029万円及びこれに対する平成31年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3) 被告デンタル社は,原告に対し,4469万円及びこれに対する平成31年4月19日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要等

1 事案の概要本件は,被告Gが自らを創作者とする入れ歯入れ容器の意匠に係る意匠登録出願をして意匠権の設定登録(意匠登録第1124884号)を受け(以下,この登録に係る意匠権を「本件意匠権」といい,本件意匠権に係る意匠を「本件意匠」という。 ,被告G並びに同人が代表取締役を務める被告歯愛社及び被)告デンタル社(以下「被告会社ら」と総称する。)において,本件意匠の実施品である入れ歯入れ容器(以下「本件製品」という。)を販売したことについて,原告が,主位的に,① 被告Gの上記意匠登録出願は原告が創作した意匠についての冒認出願であり,被告らが本件意匠権の実施品である本件製品を販売した行為は原告の本件意匠の意匠登録を受ける権利を侵害するものであるから,被告らには共同不法行為が成立すると主張して,被告らに対し,民法719条1項前段に基づき,連帯して,意匠登録を受ける権利の対価相当額である2億2800万円及び弁護士費用相当額である200万円並びにこれらに対する民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,② 被告Gによる上記冒認出願は,原告の創作者名誉権(意匠の創作者が,出願書類,公報,登録証等に,創作者として表示記載される権利をいう。以下同じ。)を侵害するものであると主張して,被告Gに対し,民法709条に基づき,慰謝料300万円及びこれに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求め,予備的に,被告らは,上記冒認出願に係る本件意匠権の実施品である本件製品を独占的に販売して,法律上の原因なく本件意匠に係るライセンス料相当額の利益を受け,そのために原告に損失を及ぼしたとして,民法704条に基づき,被告Gに対し9302万円,被告歯愛社に対し9029万円,被告デンタル社に対し4469万円及びこれらに対する民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。2 前提事実(当事者間に争いのない事実,当裁判所に顕著な事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1) 当事者等ア 原告は,金型の作成等を業とする有限会社F製作所(以下単に「F製作所」という。)の代表者である。イ 被告歯愛社は,平成12年1月5日に設立された歯科衛生商品の製造,販売等を目的とする株式会社である(甲10,乙10)。被告デンタル社は,平成20年4月9日に設立された,医療用機械器具,医療用材料の販売等を目的とする株式会社である(甲11)。被告Gは歯科医師であり,かつ,被告会社らの代表取締役を務める者である。被告会社らが設立される以前には,個人として,歯科衛生商品の製造販売業を営んでいた。(甲10,11,乙10)。ウ 有限会社H化學工業所(以下「H化學」という。)は,プラスチック製品の製造等を業とする有限会社であり,平成30年10月29日に解散し,平成31年1月26日に清算が結了した。同社は,平成10年頃から被告Gと取引関係にあった。なお,平成6年9月12日以降のH化學の代表者はH(以下「H」という。)であった。(乙9,13)

(2) 本件意匠権ア 被告Gは,平成11年7月12日,本件意匠について意匠登録出願をし(以下「本件出願」という。 ,平成13年9月7日,次の内容により,本)件意匠権の設定登録を受けた(甲4)。なお,本件意匠に係る意匠公報は,別紙1本件意匠公報記載のとおりである。登 録 番 号 第1124884号出 願 日 平成11年7月12日登 録 日 平成13年9月7日意匠に係る物品 入れ歯入れ容器創 作 者 被告Gイ 本件意匠権は,平成28年9月7日,存続期間を満了した(甲13)。

(3) 被告Gに対する入れ歯入れ容器の納入過程ア 被告Gは,平成11年1月頃,H化學に対し,入れ歯入れ容器の製作を委託した。H化學は,上記入れ歯入れ容器の金型の製作を原告に委託することとし,原告は,その委託を受けて,本件製品の金型を製作してH化學に納入した。そして,H化學は,上記金型を用いて,本件製品を製造し,被告Gに納入した。イ なお,原告は,同年5月10日頃,「成形品寸法図」という表題の別紙2本件図面記載の図面(甲1,以下「本件図面」という。)を作成した。

(4) 本件製品の販売ア 被告Gは,本件出願をした平成11年7月12日頃から,個人として,本件製品の販売を開始した。イ 被告歯愛社は,その設立の日である平成12年1月5日頃から本件意匠権の存続期間が満了した平成28年9月7日まで,本件製品を販売した(甲5の3,5の4)。ウ 被告デンタル社は,被告Gが同社の代表取締役に就任した平成20年6月4日頃から現在まで,その管理運営するウェブサイトにおいて,「ヒンジ構造意匠登録済」と表示して,本件製品を販売している(甲5の1,5の2,15)。

(5) 原告による金銭請求ア 原告は,平成30年7月13日,「株式会社歯愛メディカル代表取締役社長G」宛てに,本件出願が冒認出願に当たるとして,不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求として2億円の支払を請求する旨記載した内容証明郵便を送付した(甲6,19)。イ 原告は,被告Gに対する訴え(第1事件)を平成30年12月13日に,被告会社らに対する訴え(第2事件)を平成31年4月19日に,それぞれ提起した。

(6) 被告らによる消滅時効の援用被告Gは,平成31年4月25日の第2回弁論準備手続期日において,被告会社らは,令和元年6月20日の第3回弁論準備手続期日において,それぞれ,原告に対し,本件訴訟の主位的請求に係る不法行為に基づく損害賠償請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。3 争点

(1) 意匠登録を受ける権利の侵害に関する被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点1)

(2) 創作者名誉権の侵害に関する被告Gに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成否(争点2)

(3) 損害の発生等及び損害額(争点3)ア 損害の発生及び相当因果関係の有無(争点3-1)イ 損害額(争点3-2)

(4) 不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の成否(争点4)

(5) 不当利得返還請求権の成否(争点5)

(6) 権利の濫用の成否(争点6)

第3 争点に関する当事者の主張

1 争点1(意匠登録を受ける権利の侵害に関する被告らに対する不法行為に基

づく損害賠償請求権の成否)について

(原告の主張)

(1) 本件意匠に係る意匠登録を受ける権利の帰属

ア 意匠登録を受ける権利は,意匠法15条2項,特許法33条に根拠を置く財産権の一種であるから,「権利又は法律上保護される利益」(民法709条)に該当する。イ 本件意匠の創作者は原告であるから,本件意匠に係る意匠登録を受ける権利は,原告に帰属する。そして,原告が本件意匠を創作するに至った経緯は,次のとおりである。すなわち,原告は,平成11年に被告GからHを通じて歯間ブラシの金型の製作を依頼された際,かねてより考えていた,使いやすく衛生的な入れ歯入れ容器の製作を被告Gに打診した。その際,原告は,被告Gに対し,デザインに関する具体的な着想を伝えていなかったが,当時市販されていた入れ歯入れ容器は大型で角張った形状の商品ばかりであったことから,小型で丸みを帯びた形状の商品の方が好評であろうと考えた。そこで,原告は,CADを用いて本件図面を作成した。その際,原告は,入れ歯入れ容器の外形の大きさは,以前に原告が扱った入れ歯の咬合器を参考にして決めた。また,原告は,上記のとおり,丸みを帯びさせた方が好評であろうと考えたものの,丸くしすぎないようにデザインしたほか,蓋を開けやすくするために指が引っかかる形状を取り入れ,安定性や衛生面を考慮して底に4つの丸いすべり止めを配置し,高齢者でもスムーズに蓋を開けられるようにするためにヒンジ部分の形状を二重構造にするなどした。本件図面が完成したのは平成11年5月10日であり,本件図面を作成して本件意匠を創作するのに1か月程度の期間を要した。この点につき,被告らは,H化學が原告に対して被告Gが手書きしたデッサン及び見本品を渡すなどして寸法等を指示したと主張するが,原告は,上記デッサン及び見本品を見たことはなく,本件製品の寸法を指示されたこともない。

(2) 被告らの共同不法行為責任

ア 前記(1)のとおり,本件意匠に係る意匠登録を受ける権利は,原告に帰属する。しかるに,被告Gは,原告に無断で本件出願をして本件意匠権の設定登録を受け,その後,存続期間満了日である平成28年9月7日まで,本件意匠の実施品である本件製品を独占的かつ排他的に販売することや,本件製品について意匠登録されたことを宣伝することを目的として,本件意匠権を維持するとともに,本件製品を販売した。この一連の行為は,原告の意匠登録を受ける権利を侵害する不法行為である。また,被告会社らは,いずれも,被告Gが原告に無断で本件出願をして本件意匠権の設定登録を受けたことを認識しながら,上記設定登録を利用して,原告に無断で,ライセンス料を支払うことなく,本件製品が意匠登録された意匠の実施品であることを宣伝しつつ,これを独占的に販売した。被告会社らの上記行為は,いずれも,原告の意匠を受ける権利を侵害する不法行為である。イ 被告Gが代表取締役を務める株式会社である被告会社らは,被告Gの冒認出願により登録された本件意匠の実施品である本件製品を販売しており,被告Gと被告会社らは,冒認出願者とその冒認出願の意匠を利用して利益を得た会社であるという関係にあることからすると,被告らの不法行為には関連共同性が認められる。ウ したがって,被告らは,前記アの各不法行為について共同不法行為責任を負う。(被告らの主張)

(1) 本件意匠に係る意匠登録を受ける権利の帰属

ア 意匠登録を受ける権利が「権利又は法律上保護される利益」に該当するとの

(原告の主張)

は争う。イ 仮に,意匠登録を受ける権利が「権利又は法律上保護される利益」に該当するとしても,本件意匠の創作者は,原告ではなく,被告Gであるから,本件意匠に係る意匠登録を受ける権利は,原告に帰属するものではない。そして,被告Gが本件意匠を創作するに至った経緯は,次のとおりである。すなわち,被告Gは,平成10年秋頃,入れ歯入れ容器を開発して販売しようと思いついた。そこで,被告Gは,Hと相談しながら,平成11年頃,当時既に株式会社ピーディーアール(以下「PDR社」という。)が販売していた入れ歯入れ容器(商品名は「デンチャーハウスプレーン」)を参考に,本件製品に係る手書きのデッサンを作成するなどした上,H化學を通じて,金型製作業者である原告に対し,本件製品の金型の製作を委託した。なお,被告Gは,このデッサンに,入れ歯入れ容器の寸法をミリ単位で書き込んだ。被告Gが上記金型の製作を原告に委託するに当たり,原告,被告G及びHの三者で打合せをする機会が設けられたが,その時点で,ヒンジ部分以外の部分の形状は既に定まっており,原告から,ヒンジを二重構造とすることを提案され,被告Gがそれを採用したことで,ヒンジ部分を含む本件意匠が完成したものである。したがって,本件意匠の意匠登録を受ける権利が原告に帰属するとの原告の主張は認められない。

(2) 被告らの共同不法行為責任

前記(1)イのとおり,原告が本件意匠の意匠登録を受ける権利を取得した事実は認められないから,被告Gが本件出願をして本件意匠権の設定登録を受け,存続期間満了まで登録を維持したことや,被告らが本件製品を販売したことが,不法行為と認められる余地はなく,関連共同性が認められるとする

(原告の主張)

にも理由がない。

2 争点2(創作者名誉権の侵害に関する被告Gに対する不法行為に基づく損害

賠償請求権の成否)について

(原告の主張)

特許においては,発明者名誉権が人格権として保護されるのであるから,同様に,創作者名誉権も人格権として保護される。したがって,創作者名誉権は,「権利又は法律上保護される利益」(民法709条)に該当する。そして,前記1

(原告の主張)

(1)イのとおり,本件意匠の創作者は原告であるから,原告は

本件意匠についての創作者名誉権を有する。しかるに,被告Gは,原告に無断で本件出願をして本件意匠権の設定登録を受けており,これは冒認出願にほかならない。被告Gの上記行為は,原告の創作者名誉権を侵害するものであって,不法行為が成立する。(被告Gの主張)創作者名誉権が「権利又は法律上保護される利益」に該当するとの原告の主張は争う。また,前記1(被告らの主張)(1)イのとおり,本件意匠の創作者は原告ではなく,被告Gであるから,原告が本件意匠についての創作者名誉権を有するとは認められない。したがって,被告Gが本件出願をし,本件意匠権の設定登録を受けたことにつき,不法行為は成立しない。

3 争点3(損害の発生等及び損害額)について

(1) 争点3-1(損害の発生及び相当因果関係の有無)について

(原告の主張)

ア 意匠登録を受ける権利の侵害関係(ア) 意匠登録を受ける権利の対価相当額の損害について被告Gは,原告が創作した本件意匠について冒認出願し,意匠登録を受け,被告らは,その実施品である本件製品を独占的に販売した。本来,被告Gが本件意匠について意匠登録を受けるためには,対価を支払って原告から意匠登録を受ける権利を譲り受けるなどする必要がある。しかるに,被告らは,上記の対価を支払っていないから,原告には,上記の対価相当額の損害が発生している。この点につき,被告らは,本件意匠は本来設定登録されるべきものではなく,ライセンス料相当額の損害と被告らの行為との間には相当因果関係がないと主張する。しかし,後記6

(原告の主張)

(1)のとおり,本

件意匠が新規性及び創作非容易性を欠いているとはいえないから,被告らの上記主張には理由がない。(イ) 弁護士費用相当額の損害について原告は,被告らの前記1及び2の不法行為に対処するために弁護士費用を支出しており,当該弁護士費用相当額の損害が発生している。イ 創作者名誉権の侵害関係原告は,被告Gの行為によって,本件意匠に関する創作者名誉権を侵害され,これにより精神的苦痛を被ったから,精神的損害が発生している。(被告らの主張)ア 意匠登録を受ける権利の侵害関係(ア) 本件意匠は,後記6(被告らの主張)(1)及び(2)のとおり,新規性及び創作非容易性を欠いており,本来設定登録されるべき意匠ではなかった。そのため,原告には,当該意匠に係る意匠登録を受ける権利は生じていなかった。そうすると,原告には損害が発生しておらず,あるいは,損害と被告らの行為との間には相当因果関係が認められないから,

(原告の主張)

には理由がない。(イ) 原告に弁護士費用相当額の損害が発生したことは否認する。イ 創作者名誉権の侵害関係本件意匠の創作者は被告Gであり,原告の本件意匠に係る創作者名誉権が侵害されたとは認められないから,原告には精神的損害は発生していない。

(2) 争点3-2(損害額)について

(原告の主張)

ア 意匠登録を受ける権利の対価相当額(ア) 本件意匠に関する意匠登録を受ける権利の対価相当額は,本件意匠のライセンス料相当額がこれに当たるというべきであるところ,この額は,本件出願(平成11年7月12日)から本件意匠権の期間が満了(平成28年9月7日)するまでに販売した本件製品の売上高の6パーセントに相当する額であると認められる。これに対し,被告らは,意匠登録を受ける権利には,意匠登録により生じる意匠権と異なり,意匠の実施についての排他的効力がないなどとして,ライセンス料相当額の損害が発生したことを否認ないし争っている。しかし,意匠登録を受ける前であっても,当該意匠についてライセンス契約を締結することも実務において見受けられるように,権利化されていない知的財産に対してライセンス料が支払われることは一般的である。したがって,被告らの主張には理由がない。(イ) そこで,本件製品のライセンス料相当額を算定すると,次の計算式のとおり,2億2800万円を下らない。(計算式)金型の個数(19個)×金型1個から製造される本件製品の個数(200万個)×本件製品1個当たりの単価(100円)×ライセンス料率(6%)=2億2800万円イ 弁護士費用原告は,本訴について弁護士費用を支出しているところ,その額は,少なくとも200万円を下らない。ウ 慰謝料被告Gの行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するために必要となる慰謝料の額は,300万円を下らない。(被告らの主張)ア 意匠登録を受ける権利の対価相当額意匠権とは異なり,意匠登録を受ける権利には意匠の実施についての排他的効力が存在しないから,原告に,意匠登録を受ける権利の対価相当額の損害が発生したとは認められない。また,被告GがH化學に製造委託した金型の個数は,合計19個ではなく,合計2個である。イ 弁護士費用及び慰謝料いずれも否認する。

4 争点4(不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の成否)について

(被告らの主張)被告Gが,本件意匠に係る意匠登録の願書に添付する図面を作成する際,H化學に金型図面の交付を依頼したところ,原告は,H化學を介することなく,被告Gに直接連絡をし,既に金型図面及び金型製作の対価を受領していたにもかかわらず,別途,図面代を請求したため,被告Gはこれを支払った。このような経緯に照らせば,原告は,平成11年5月頃,本件意匠につき被告Gが意匠登録出願をすることを認識していたものであり,同月頃には,本件訴訟の主位的請求に係る不法行為による損害及び加害者を知ったということができる。また,被告歯愛社は平成19年12月以降,被告デンタル社は平成26年3月以降,それぞれ本件製品を販売しているから,原告においても,遅くとも上記の各時期以降には本件製品の販売を極めて容易に確認できる状況にあったもので,原告がそもそも本件製品の販売を前提として金型を納入したことからすると,原告は,遅くとも平成26年末の時点において,被告会社らによる本件製品の販売の事実を知っていたと認められる。以上によれば,被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権は,いずれも,被告らが消滅時効を援用したことにより消滅した。

(原告の主張)

ア 原告は,金型を納入する際,被告Gから本件製品の販売の意図や意匠登録出願をするかどうかについて聞かされておらず,原告が本件出願等を知ったのは平成29年2月頃であって,被告らがそれ以前から本件製品を販売していたことは知らなかった。そうすると,原告が被告らに請求をした時点においては,原告が損害及び加害者を知ってからいずれも3年を経過していないこととなるから,本件訴訟の主位的請求に係る不法行為による損害賠償請求権が時効により消滅することはない。イ 被告らは,被告Gが原告に対して図面代を別途支払ったと主張するが,そのような事実はない。また,被告らは,原告が被告Gに図面代を請求したことを根拠に,原告が,被告Gが本件出願をして本件意匠の意匠登録を受けたことを知っていたと主張するが,当該主張には論理の飛躍がある。

5 争点5(不当利得返還請求権の成否)について

(原告の主張)

(1) 本件意匠は,原告によって創作されたものであるにもかかわらず,被告G

は,原告に無断で本件出願をして本件意匠権の設定登録を受け,かつ,被告らは,原告に意匠登録を受ける権利の対価を支払うことなく,本件意匠権を利用して本件製品を独占的に販売した。これにより,被告らは,本来原告に支払うべきであった意匠登録を受ける権利の対価相当額(具体的には,前記3(2)

(原告の主張)

アのとおり,ライセンス料相当額である。)の利益を受け,他方,原告は,同額の損失を受けており,受益と損失との間には因果関係がある。そうすると,被告らは,原告に対して意匠登録を受ける権利の対価相当額を支払うべき義務があるにもかかわらず,それを免れたのであるから,法律上の原因なく,上記の利益を受け,そのために原告に損失を及ぼしたものといえる。したがって,被告らが受けた上記利益は,不当利得であって,原告に返還すべきものである。

(2) 被告らが受けた前記(1)の利益の額は,それぞれ次のとおりである。

すなわち,前記3(2)

(原告の主張)

アのとおり,本件意匠の意匠登録を受ける権利の対価の額は,ライセンス料相当額である合計2億2800万円となる。そして,被告Gは,本件出願の日である平成11年7月12日から本件意匠権の存続期間が満了した平成28年9月7日までの6267日間,被告歯愛社は,同社設立の日である平成12年1月5日から上記満了日である平成28年9月7日までの6090日間,被告デンタル社は,被告Gがその代表取締役に就任した平成20年6月4日から上記満了日である平成28年9月7日までの3017日間,本件製品を販売して利益を挙げているから,被告Gの利益は上記合計額の40.8パーセントに,被告歯愛社の利益は上記合計額の39.6パーセントに,被告デンタル社の利益は上記合計額の19.6パーセントにそれぞれ相当する。したがって,被告Gの利益は9302万円,被告歯愛社の利益は9029万円,被告デンタル社の利益は4469万円となり,原告は,その合計額である2億2800万円の損失を受けたものである。(被告らの主張)原告が被告らに対する不当利得返還請求権を有するとの主張は否認ないし争う。前記1(被告らの主張)(1)イのとおり,本件意匠は被告Gが創作したものであるから,原告には損失がない。また,仮に,創作者が原告であったとしても,意匠登録を受ける権利は第三者に排他的な効力を及ぼすものではないから,被告らが本件意匠を実施したとしても,係る実施行為と因果関係がある損失が原告に生じることはない。

6 争点6(権利の濫用の成否)について

(被告らの主張)本件意匠は,後記(1)のとおり,そもそも新規性が欠如するものであるとともに,後記(2)のとおり,創作が容易なものである。加えて,後記(3)のとおり,原告は,長期にわたり,被告らによる本件製品の販売に対して何らの異議を申し立てなかった。これらの事情を総合すれば,原告が被告らに対し,本件意匠に係る意匠登録を受ける権利の侵害を根拠として損害賠償及び不当利得返還を請求することは,権利の濫用に当たる。

(1) 本件意匠の新規性の欠如

ア 本件出願日当時,入れ歯入れ容器については,PDR社による「デンチャーハウスプレーン」や株式会社サポートによる「いればこ君」などの製品が存在した。これらの製品の意匠(前者の意匠を「引用意匠1」と,後者の意匠を「引用意匠2」といい,これらを「各引用意匠」と総称する。)と本件意匠は,いずれも入れ歯入れ容器を対象物品とするものであり,意匠に係る物品が同一であることは明白である。イ 加えて,各引用意匠と本件意匠は,形態においていずれも類似する。(ア) すなわち,本件意匠の構成態様は以下のとおりである。(基本的構成態様)A 入れ歯が収納される容器本体と,その蓋から成り,蓋はヒンジにより容器本体と連結され,開閉することができる。B 平面視又は底面視すると,左右対称で丸みを帯びた台形の形状であり,正面視又は背面視すると長方形の形状である。C 容器本体の底面が入れ歯とほぼ同じ大きさである。(具体的構成態様)a 蓋の上底部に操作片が設けられている。b 容器本体の底面外側に丸い形状の滑り止めが5か所設けられている。c 前記bの滑り止めのうち,底面下底の中央1か所の形状が異なる。d 容器本体の正面側につき,指で開閉するための円弧状の指の挿入部分が存在する。e 容器本体の背面側につき,二重ヒンジが2か所設けられている。(イ) 他方,引用意匠1の構成態様は,以下のとおりである。(基本的構成態様)A’入れ歯が収納される容器本体と,その蓋から成り,蓋はヒンジにより容器本体と連結され,開閉することができる。B’平面視又は底面視すると,左右対称で丸みを帯びた台形の形状であり,正面視又は背面視すると長方形の形状である。C’容器本体の底面が入れ歯とほぼ同じ大きさである。(具体的構成態様)a’蓋の上底部に操作片が設けられている。b’容器本体の底面外側に丸い形状の滑り止めが5か所設けられている。c’前記b’の滑り止めのうち底面下底の中央1か所の形状が異なる。d’容器本体の正面側につき,指で開閉するための円弧状の指の挿入部分が存在しない。e’容器本体の背面側につき,一重ヒンジが3か所設けられている。(ウ) 以上のように,本件意匠と引用意匠1は,基本的構成態様(AないしC及びA’ないしC’)の全部が共通するところ,これらは,意匠の基調を形成し,観察する需要者に対して共通の美感を強く与えるものである。以上に加え,具体的構成態様のうちaないしcとa’ないしc’も一致しているから,需要者に与える共通の美感は一層強い。他方,本件意匠と引用意匠1は,容器本体の正面側に指で開閉するための円弧状の指の挿入部が存在するか否か(d及びd’ ,容器本体の背)面側に設けられたのが2か所の二重ヒンジか3か所の一重ヒンジか(e及びe’)という点において相違する。しかし,これらの相違点については,全体の面積に占める比率は極めて小さいことから,上記の共通点により需要者が受ける美感を凌駕することはあり得ない。(エ) また,引用意匠2の構成態様は,以下のとおりである。(基本的構成態様)A’’入れ歯が収納される容器本体と,その蓋から成り,蓋はヒンジにより容器本体と連結され,開閉することができる。B’’平面視又は底面視すると,左右対称で丸みを帯びた台形の形状であり,正面視又は背面視すると長方形の形状である。C’’容器本体の底面が入れ歯とほぼ同じ大きさである。(具体的構成態様)a’’蓋の上底部に操作片が設けられている。b’’容器本体の底面外側に,滑り止めが設けられていない。c’(本件意匠に対応する構成態様なし)’d’’容器本体の正面側につき,指で開閉するための円弧状の指の挿入部分が存在する。e’’容器本体の背面側につき,一重ヒンジが3か所設けられている。(オ) 以上のように,本件意匠と引用意匠2は,基本的構成態様の全部と,具体的構成態様のうちa及びdとa’’及びd’’が共通しており,引用意匠1と同様の理由で,需要者に共通の美感を強く与えるものである。他方,本件意匠と引用意匠2は,容器本体の底面外側に滑り止めが設けられているか否か(b及びb’)’,容器本体の背面側に設けられたのが2か所の二重ヒンジか3か所の一重ヒンジか(e及びe’ )という点に’おいて相違するが,引用意匠1と同様の理由で,これらの相違点が,上記の共通点により需要者が受ける美感を凌駕することはあり得ない。ウ 以上のとおり,本件意匠と各引用意匠は,全体として類似しており,本件意匠は新規性を欠くものであって,意匠登録を受けるべきものではなかった(意匠法3条1項3号)。

(2) 本件意匠の創作容易性

ア 本件意匠と引用意匠1の相違点について前記(1)イ(ウ)のとおり,本件意匠と引用意匠1の相違点は,d’(容器本体の正面側につき,指で開閉するための円弧状の指の挿入部分が存在しないこと)の点及びe’(容器本体の背面側につき,一重ヒンジが3か所設けられていること)の点である。まず,d’の点についてみると,引用意匠2には,上記の円弧状の指の挿入部分と同様の部分が設けられており,本件出願前において公知となっていた。したがって,本件意匠は,公知の引用意匠1に,既に公知となっていた当該円弧状の指の挿入部分に関する意匠を組み合わせて創作されたものであって,係る創作は当業者にとって容易である。次に,e’の点についてみると,その相違点は,具体的には,本件意匠では入れ歯入れ容器の背面に二重ヒンジが2か所設けられているのに対し,引用意匠1については一重ヒンジが3か所設けられているというものである。この点,ヒンジの個数を増やしたり減らしたりすることは,意匠の繰り返し連続する構成要素の単位の数を単純に増やしたり減らしたりすることにすぎず,3か所に設けていたヒンジを2か所に設けるという創作は容易である。また,一重ヒンジを二重ヒンジにすることは,本件出願前に市販されていたシャンプーの容器に二重構造のヒンジが設けられて公知の構造となっていたから,公知である引用意匠1のうちヒンジ部分を,公知である二重構造のものに単純に置換したものであるにすぎず,当業者にとって創作が容易なものである。イ 本件意匠と引用意匠2の相違点について前記(1)イ(オ)のとおり,本件意匠と引用意匠2の相違点は,b’ (容器’本体の底面外側に,すべり止めが設けられていないこと)の点及びe’’(容器本体の背面側につき,一重ヒンジが3か所設けられていること)の点である。まず,b’’の点についてみると,その相違点は,具体的には,本件意匠では入れ歯入れ容器本体の底面外側にすべり止めが設けられている一方,引用意匠2にはすべり止めが設けられていないというものである。しかし,容器の底面にすべり止めを設けるという発想をすることも,実際にすべり止めを設けることも,当業者にとっては特段困難であるとはいえないから,すべり止めを設けるという創作は容易なものである。また,e’’の点についてみると,前記アと同様の理由により,相違点に係る創作は当業者にとって容易である。ウ 以上のとおり,各引用意匠が公知となっている状況において,本件意匠を創作することは,当業者にとって容易であった。

(3) 原告の不作為

F製作所は,H化學から入れ歯入れ容器の金型の製作を受注し,これをH化學に納品したものであるが,当該金型は本件製品を製造し,販売するために用いられる物である。したがって,原告は,平成11年に上記金型をH化學に納品した時点で,本件意匠の実施品である本件製品が市場で販売されることを十分に認識していた。しかるに,原告は,平成30年7月13日付の通知書を「株式会社歯愛メディカル代表取締役社長G」宛てに送付するまでの長期間にわたって,本件意匠に関する何らの措置も採らなかった。

(4) まとめ

以上を総合すれば,原告が本件意匠に係る権利を行使するのは権利の濫用に当たる。

(原告の主張)

(1) 本件意匠の新規性及び創作非容易性

ア 各引用意匠が公知とは認められないことについてPDR社が平成29年当時に「デンチャーハウスプレーン」(乙2)という商品名の入れ歯入れ容器を販売していたことは認めるが,本件証拠上,これと同一の形態の入れ歯入れ容器が平成11年当時にも販売されており,本件出願時において引用意匠1が公知であったとの事実は認められない。また,本件証拠上,「いればこ君」(乙4)という商品名の入れ歯入れ容器と同一の形態の入れ歯入れ容器が本件出願時までに販売されており,その時点で引用意匠2が公知であったとの事実も認められない。イ 本件意匠の構成態様について被告らが主張する本件意匠の構成態様は否認ないし争う。本件意匠の基本的構成態様B並びに具体的構成態様b,c及びdについては,次のとおり認定されるべきである。(基本的構成態様)B 平面視又は底面視すると,左右対称で丸みを帯びた台形の形状であり,正面視又は背面視すると,丸みを帯びた長方形の形状である。(具体的構成態様)b 容器本体の底面外側に丸い形状のすべり止めが4か所設けられている。c 底面下底の背面側略中央には,突起部が1か所形成されている。d 蓋の下端が容器本体に接する位置に,容器本体の全周にわたって一本の線状態のリブ構造が形成されており,前記リブ構造は,容器本体の正面側において,下方に向かって円弧を描き,指で開閉するための円弧状の指の挿入部分が形成されている。ウ 本件意匠の新規性及び創作容易性について仮に,各引用意匠が本件出願時において公知であったとしても,本件意匠と各引用意匠を対比すれば,本件意匠について新規性が欠如すると認められないことは明白であり,創作が容易であるとも認められない。(ア) 本件意匠と引用意匠1との対比引用意匠1の基本的構成態様B’は,正面視又は背面視すると長方形の形状であるのに対し,本件意匠の基本的構成態様Bは,正面視又は背面視すると丸みを帯びた長方形の形状であり,蓋の形状も,やや膨らむように丸みを帯びた輪郭を有している。また,本件意匠の具体的構成態様dでは,容器本体の全周にわたって一本の線状のリブ構造が形成されており,さらに,リブ構造は,容器本体の正面側で円弧上に湾曲したデザインとなっているのに対し,引用意匠1の具体的構成態様d’にはリブ構造が存在しない。そして,このリブ構造の円弧状に湾曲したデザインは,容器本体の正面略中央に大きく表れており,注意を惹きやすい形状であることから,本件意匠と引用意匠1を総合的に観察した場合に,需要者に対して異なる美感を起こさせる。さらに,本件意匠の具体的構成態様eでは,二重ヒンジが2か所設けられているが,引用意匠1の具体的構成態様e’では,一重ヒンジが3か所設けられているところ,本件意匠のヒンジは,二重となっているだけでなく,丸みを帯びた形状であり,部分的な領域ではあるが,高い創作性を有するものである。以上を総合すれば,本件意匠に新規性が欠如するとは認められず,本件意匠の創作が容易であるとも認められない。(イ) 本件意匠と引用意匠2との対比引用意匠2の基本的構成態様B’’は,正面視又は背面視すると長方形の形状であるのに対し,本件意匠の基本的構成態様Bは,正面視又は背面視すると丸みを帯びた長方形の形状であり,蓋の形状もやや膨らむように丸みを帯びた輪郭を有している。また,本件意匠の具体的構成態様eでは,二重ヒンジが2か所設けられているが,引用意匠1の具体的構成態様e’’では,一重ヒンジが3か所設けられている。そして,本件意匠のヒンジは,二重となっているだけでなく,丸みを帯びた形状であり,部分的な領域ではあるが高い創作性を有するものである。以上を総合すれば,本件意匠に新規性が欠如するとは認められず,本件意匠の創作が容易であるとも認められない。エ 被告らは,引用意匠2と実用新案公報(乙5)に記載された容器の意匠(以下「乙5意匠」という。)が同一であることを前提に主張するようであるが,底面周囲の形状や,入れ歯入れ容器の前面の指を掛ける部分のデザイン等に差異があることなどからすれば,引用意匠2と乙5意匠が同一ではないことは明らかである。また,本件意匠と乙5意匠を対比しても,本件意匠に新規性が欠如するとは認められないことは明白であり,創作が容易であるとも認められない。

(2) 被告Gの冒認出願による独占的地位の獲得

原告は,意匠権の行使を前提とする主張をするものではなく,被告Gが本件意匠に係る冒認出願をしたことにより,原告が本件意匠に係る意匠登録出願をすることが阻害され,他方,被告Gが本件意匠の登録によって独占的地位を有するに至り,被告らがその地位に基づいて利益を得たことを前提とする主張をするものであるから,仮に,本件意匠権に何らかの無効事由があったとしても,被告Gが冒認出願をして上記の独占的地位を有するに至った事実に変わりはない。

(3) 本件出願時における被告Gの言動

被告Gは,本件意匠の出願経過において,本件意匠のうち,指を掛ける弓型の形状の部分や,二重ヒンジの部分が,先行する意匠と相違する部分であると主張して,本件意匠には新規性がある旨の意見を述べていた。

(4) まとめ

以上によれば,権利濫用についての被告らの主張には理由がない。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(意匠登録を受ける権利の侵害に関する被告らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成否)について

(1) 認定事実ア 前記前提事実並びに証拠(甲1,3,4,乙1ないし3,9,10,原告本人,被告G本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。(ア) 原告は,F製作所の代表者であり,F製作所を経営する傍ら,自ら金型の設計にも携わっていたが,同社が顧客から金型の製造を受注しても,基本的に,原告自身が製品のアイデアを出すことはなく,顧客の指示に従って金型の設計を行っていた。(イ) Hは,平成10年頃,H化學の代表取締役に就任したが,同社は,Hの先代の頃から,F製作所と取引関係にあり,同社に対し,金型の製作を頻繁に発注していた。また,H化學は,同年頃から,被告Gとも取引関係にあり,被告Gから歯間ブラシの製作を受注し,その製造に用いる金型の製作をF製作所に発注したことがあった。なお,上記歯間ブラシの金型の製作に関して,原告,被告G及びHが面会して打合せを行ったことはない。(ウ) 被告Gは,歯科医師として稼働する傍ら,被告会社らが設立される前の平成10年頃から,個人として,前記(イ)の歯間ブラシその他の歯科衛生用品を開発し,販売していた。そうした中,患者に対して入れ歯を容器に入れて保管するよう指導していた被告Gは,当時流通していた入れ歯入れ容器が高価であった上,使うにつれて不衛生な状態になってしまうため,使いやすく,安価で買い替えやすい入れ歯入れ容器を作りたいと考えた。そこで,被告Gは,同年秋頃,H化學に対し,入れ歯入れ容器の製造を発注するに至った。(エ) H化學は,前記(ウ)の発注を受けて,複数の金型製作会社から相見積もりを取った結果,入れ歯入れ容器の製造に用いる金型の製作をF製作所に発注することにした。そして,Hは,被告Gからの上記入れ歯入れ容器に関する受注内容がほぼ確定した後,被告GとF製作所との間で,直接,金型の納期と価格の交渉をさせるため,原告を被告Gに引き合わせることにした。(オ) 被告G,H及び原告は,平成11年1月ないし2月頃,上記入れ歯入れ容器の製作に関して打合せを行った。被告Gは,上記打合せの際,原告に対し,入れ歯入れ容器を描いたデッサンを交付した。このデッサンは,被告Gが,当時流通していたPDR社の「デンチャーハウスプレーン」という商品名の入れ歯入れ容器の形状を参考にしつつ,被告Gが経営する歯科医院の歯科医師や歯科衛生士等からも意見を聴取した上で,同医院の多数の患者の入れ歯のサイズをも考慮して作成したものであった。上記デッサンには,容器の高さや横幅などの寸法が詳細に書き込まれており,被告Gは,同デッサンに基づき,原告に対し,入れ歯入れ容器の寸法を指示した。原告は,この打合せの際,入れ歯入れ容器のヒンジ部分について二重構造とすることを提案し,被告Gがこれを採用したが,それ以外に原告が被告Gに対して入れ歯入れ容器のデザインに関して提案した部分はなかった。(カ) 原告は,前記(オ)の打合せの後,CADを用いて,同打合せの際に提案した二重構造のヒンジ部分の設計を行った。原告は,上記ヒンジ部分を設計するに当たり,当時存在したシャンプーの容器のキャップに用いられていた一重構造のヒンジを参考にしたが,これを更に二重にしたのは,蓋を開けるとまず少し開き,更に開くと120度くらいの角度で止まることになるため,高齢者でも容器内の水や洗浄液をこぼすことなくスムーズに開けることができるという機能を持たせることができるためであった。一方で,原告と被告Gとの間では,Hを介して,容器全体の寸法を微調整するやり取りが繰り返された。こうして,本件製品の金型が完成し,原告は,完成した金型と製品のサンプルをH化學に納品した。その際,原告は,被告Gに対し,本件図面を交付したが,金型図面は交付しなかった。また,原告は,被告Gとの間で,入れ歯入れ容器に関する事業を立ち上げた際の利益分配に関する話をしたことはなかった。(キ) 被告Gは,平成11年7月12日,弁理士を代理人として,本件意匠の意匠登録出願を行い,平成13年10月29日,その登録を受けるに至ったが,本件意匠公報に記載された図面は,原告が作成したものではない。イ 原告の供述及び陳述書(甲2,8,12,23)の記載においては,前記アの認定事実に反する部分があり,また,原告は被告Gの供述の信用性を争うので,同事実を認定した理由について補足して説明する。(ア) 原告の供述等についてa 原告は,① かねてから入れ歯入れ容器を製作したいと思っていたところ,被告Gから歯間ブラシの金型の製作を依頼された際,被告Gと協力して互いに利益を挙げようと考え,被告Gに対し,入れ歯入れ容器の製作を持ち掛けたこと,② かわいらしく,使い勝手が良い入れ歯入れ容器となるように,設計において試行錯誤を繰り返し,容器全体に丸みのある形状を持たせるとともに,蓋と本体を見分けやすくするためのつば,蓋を開けやすくするための湾曲部分,二重構造のヒンジ等を設計したものであり,外形の大きさは咬合器を使って決めた旨を供述し,陳述書(甲2,8,12,23)にも同旨の記載がある。b まず,前記a①の供述について検討すると,原告は,本人尋問において,顧客の指示に従って金型を設計製作し,基本的には自らプラスチック製品のアイデアを出すことはないと供述しており,そもそも,原告は,金型の作成等を業とするF製作所の代表取締役であって(前記前提事実(1)ア),入れ歯入れ容器として適切な形状に係る知見や意匠の創作を含む物品のデザインの経験を有していたなどの事情もうかがわれないことから,歯間ブラシの金型製作を一度受注したことがあるにすぎない被告Gに対し,入れ歯入れ容器の製作を持ち掛けるというのは,経緯として唐突かつ不自然であるといわざるを得ない。この点に関し,原告は,両親が入れ歯を茶碗やコップに入れていたことについて格好悪いとの印象を持っており,機会があれば作ってみたいと思っていたと供述するが,本件全証拠によっても,その供述内容を裏付けるに足りる事実を認めることができない上,仮に,原告が同供述のとおり機会があれば入れ歯入れ容器を製作したいと考えていたとしても,事実の経過として唐突かつ不自然であるという上記評価を左右するものではない。また,原告は,本人尋問において,被告Gとの間で利益分配の方法に関する話合いをしなかったばかりか,被告Gに対し,入れ歯入れ容器に丸みを帯びた形状を持たせることや二重構造のヒンジを取り入れることなどのデザインに関する相談をしなかった旨を供述しており,この供述は,被告Gと協力して入れ歯入れ容器を販売し,利益を挙げようと考えて話を持ち掛けたとする前記a①の供述と整合せず,同供述の信用性に疑問を抱かせるものである。c 次に,前記a②の供述についてみると,原告の発案により,入れ歯入れ容器のうちヒンジ部分を二重構造とすることとなったという点は,被告Gの供述と一致するが,その余の部分の形状を原告が決定したことを裏付ける事実を認めるに足りる証拠はない上,前記bのとおり,金型の作成を専門とする原告が,入れ歯入れ容器としてふさわしい形状について知見を有していたとは認められないし,需要者の購入意欲を高めるデザインを創作することにつき経験を有していたとも認められない。また,咬合器の大きさは一定である一方,入れ歯の大きさは患者によって大きく異なるものと認められるから(被告G本人),咬合器から入れ歯を入れるための容器の大きさを決めることは困難であると考えられ,この点に係る前記a②の供述は,不合理であるというほかはない。d 以上によれば,前記a①及び②の原告の供述等は,不自然,不合理な点があり,裏付けを欠くものでもあるから,これを採用することができない。(イ) 被告Gの供述等について原告は,平成11年に原告,H及び被告Gが行った打合せの回数や本件製品のデッサンの作成過程に関する被告Gの供述及び陳述書(乙10)の記載には変遷があると主張するが,その指摘に係る部分は,実質的にみて変遷とはいえないか,被告Gの供述等の信用性を左右するほどの重大な変遷とはいえない。また,原告は,被告Gが,デッサンを作成したと供述等しながら,実際にそのデッサンを証拠として提出していないことを理由に,被告Gの供述は信用できないと主張する。しかし,被告Gは,本人尋問において,被告Gが作成したデッサンは,寸法を含めた本件製品のデザインを原告及びHに伝えるためのものであったと供述しているところ,本件製品が完成してから20年が経過した現時点において,被告Gがそのような目的で作成したデッサンを保管していないとしても,何ら不自然なこととはいえず,被告Gの供述の信用性を覆す事情とはいい難い。むしろ,歯科医師としての経験から,使いやすく,安価で買い替えしやすい入れ歯入れ容器を作りたいと考えて,本件製品の販売を企図し,PDR社の入れ歯入れ容器等を参考とする商品として示し,詳細な寸法を記載したイラストに基づき,入れ歯入れ容器の製造を委託した旨の被告Gの供述等は,平成11年当時,歯科医師として稼働するとともに,個人として歯科衛生商品の製造販売業を営んでいたこと(前記ア(ウ)),現に,本件製品の金型の製作を発注する前にも歯間ブラシを販売するなどしていたこと(前記ア(イ),(ウ)),PDR社は,平成10年から,「デンチャーハウスプレーン」という商品名の入れ歯入れ容器を販売していたこと(乙1ないし3)といった事実と整合的であるし,供述の内容としても自然かつ合理的である。加えて,反対尋問を経ていないものではあるが,Hの陳述書(乙9)の記載内容と合致するということも,被告Gの供述等の信用性を一応基礎付け得るということができる。したがって,変遷等が存在するとして被告Gの供述等の信用性を争う原告の主張は,いずれも採用することができない。ウ 意匠の創作をした者に関する検討前記前提事実及び前記アの認定事実を踏まえ,まず,本件意匠の創作者が原告であるか否かを検討する。(ア) 意匠登録を受けるためには,意匠法3条1項柱書所定の「意匠の創作をした者」に該当する必要があるところ,「意匠の創作をした者」とは,意匠の創作に実質的に関与した者をいい,具体的には,形状の創造,作出の過程にその意思を直接的に反映し,実質上その形状の形成に参画した者をいうが,主体的意思を欠く補助者や,単に課題を指示ないし示唆に止まる命令者はこれに含まれないものと解するのが相当である。(イ)a 本件についてこれをみるに,前記ア(ウ),(オ)のとおり,被告Gは,使いやすく,安価で買い替えやすい入れ歯入れ容器を作ることを着想し,歯科医師として患者に対し入れ歯の保管に関する指導をしてきた経験を活かして,当時流通していた入れ歯入れ容器のデザインを参考にし,全体的に丸みを帯びた形状であるなどの特徴を有する本件製品の形状を形成するに至り,もって,同製品により体現された本件意匠を創造,作出したものである。しかも,被告Gは,単に本件製品のデザインのアイデアを提示したのみならず,その設計に際して,周囲の意見を参酌しつつも,詳細な寸法を書き込んだデッサンを自ら作成し,当該デッサンに基づき,原告に対して本件製品の金型の製作を指示しているから,本件製品により体現された本件意匠の創造,作出には,被告Gの意思が直接的に反映されているというべきである。これに対し,原告は,前記ア(オ)のとおり,被告Gから,入れ歯入れ容器の形状や寸法について指示を受けた上で,これに基づき,製品図面である本件図面(甲1)や金型図面を作成した上,金型を納入したものであるから,原告はいわば補助者としての立場で本件意匠の創造,作出に関与したものにすぎず,上記創造,作出の過程には,原告の意思が直接的に反映されているものとは認め難い。b なお,原告は,前記ア(オ)のとおり,入れ歯入れ容器のヒンジ部分を二重構造のものとすることを被告Gに提案し,同(カ)のとおり,その形状を具体的に設計したものである。しかし,前記ア(カ)のとおり,入れ歯入れ容器のヒンジ部分の形状は,高齢者でも容器内の水や洗浄液をこぼすことなくスムーズに蓋を開けることができるようにするため,入れ歯入れ容器の蓋を開けるとまず少し開き,更に蓋を開くと120度くらいの角度で止まるように設計されたものである。そうすると,当該部分の形状は,デザイン面から設計されたものではなく,専ら機能的な側面から設計されたものと認めるのが相当である。そして,原告が設計した当該ヒンジの形状は,蓋をスムーズに二段階で開けるのに最適な形状であることからすると(甲23),蓋に上記のような機能を持たせるためには,本件製品が有するヒンジのような形状を採用することが不可欠と認めるのが相当である。したがって,原告が設計した入れ歯入れ容器のヒンジ部分の形状は,そもそも,意匠としては保護されないというべきである。加えて,入れ歯入れ容器のヒンジ部分が明確に視認できるのは,蓋を大きく開いた際であるところ,別紙1本件意匠公報記載の図面及び本件図面のとおり,当該部分は,蓋を180度まで開いた状態であっても,その縦及び横の長さがいずれも本件製品の奥行及び幅の各6分の1程度であり,本件製品全体の形状のごく一部を占めるにすぎず,本件製品の形状の全体により視覚を通じて起こさせる美感には大きな影響を及ぼさないというべきである。そうすると,原告が入れ歯入れ容器のヒンジ部分の形状を設計したとしても,本件製品又は本件意匠の形状の創造,作出の過程に原告の意思が直接的に反映されていると認めることはできない。(ウ) 以上によれば,原告が,本件意匠の創作に実質的に関与した者とは認められず,よって,意匠法3条1項柱書所定の「意匠の創作をした者」に該当するとは認められないというべきである。エ 前記ウのとおり,原告が本件意匠の創作者であるとは認められないから,本件意匠について意匠登録を受ける権利が原告に帰属していたとは認められない。

(2) 小括以上によれば,争点1に関するその余の点について判断するまでもなく,原告の意匠登録を受ける権利の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求は理由がない。

2 争点2(創作者名誉権の侵害に関する被告Gに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の成否)及び争点5(不当利得返還請求権の成否)について前記1(1)で説示したとおり,原告は,本件意匠の創作者とは認められない。そうすると,争点2については,被告Gが原告の創作者名誉権を侵害したとは認められず,また,争点5については,被告らに法律上の原因によらない利益が生じたとも,原告に損失が生じたとも認められない。したがって,原告の創作者名誉権の侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求及び不当利得に基づく返還請求は,いずれも理由がない。

3 結論以上の次第で,その余の点を判断するまでもなく,原告の被告らに対する請求はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第29部

裁判長裁判官

國 分 隆 文

裁判官

小 川 暁

裁判官

佐 々 木 亮

(別紙1本件意匠公報 省略)

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