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令和1(ワ)8916 商標権

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裁判所 請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和2年9月17日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社マシンツール中央
被告フィード株式会社
法令 商標権
商標法26条1項2号5回
商標法3条1項3号4回
商標法3条1項1号3回
商標法36条1項2回
商標法26条1項6号2回
商標法2条3項1号2回
特許法104条の31回
商標法38条2項1回
商標法2条3項8号1回
キーワード 商標権22回
無効12回
侵害6回
差止5回
損害賠償2回
無効審判1回
審決1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。15
事件の概要 本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,本件商標権 に係る商標を「本件商標」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告標章25 目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した歯科技工用切削,研磨用品 を製造・販売等し,また,被告の商品についてインターネット上の広告又は商品説 明画面において被告標章を付して提供する行為が本件商標権の侵害に当たるとして, 商標法36条1項,2項,37条1号に基づき,歯科技工用切削,研磨用品等の医 療用機械器具に被告標章を付すこと及び被告標章を付した医療用機械器具の販売等 の差止め,並びに同商品の廃棄を求めるとともに,同法38条2項,民法709条5 に基づく損害賠償として,2200万円及びこれに対する令和元年10月30日(本 件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害 金の支払を求める事案である。

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判決文

令和2年9月17日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官
令和元年(ワ)第8916号 商標権侵害差止等請求事件
口頭弁論終結日 令和2年7月28日
判 決
5 原 告 株式会社マシンツール中央
同訴訟代理人弁護士 彌 田 晋 介
同 小 野 俊 介
同 塩 路 涼
被 告 フ ィ ー ド 株 式 会 社
10 同訴訟代理人弁護士 葛 西 悠 吾
同 榎 木 智 浩
同 大 塚 和 成
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
15 2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求の趣旨
1 被告は,医療用機械器具に別紙被告標章目録記載の標章を付し,または同標
章を付した医療用機械器具を販売し,もしくは販売のために展示してはならない。
20 2 被告は,別紙被告標章目録記載の標章を付した医療用機械器具を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2200万円及びこれに対する令和元年10月30日
から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,別紙商標権目録記載の商標権(以下「本件商標権」といい,本件商標権
25 に係る商標を「本件商標」という。)を有する原告が,被告に対し,別紙被告標章
目録記載の標章(以下「被告標章」という。)を付した歯科技工用切削,研磨用品
を製造・販売等し,また,被告の商品についてインターネット上の広告又は商品説
明画面において被告標章を付して提供する行為が本件商標権の侵害に当たるとして,
商標法36条1項,2項,37条1号に基づき,歯科技工用切削,研磨用品等の医
療用機械器具に被告標章を付すこと及び被告標章を付した医療用機械器具の販売等
5 の差止め,並びに同商品の廃棄を求めるとともに,同法38条2項,民法709条
に基づく損害賠償として,2200万円及びこれに対する令和元年10月30日(本
件訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実又は後掲の各証拠及び弁論の全趣旨に
10 より容易に認められる事実)
⑴ 当事者
原告は,医療用品の輸入及び販売,歯科技工,歯科補綴物の製造,販売等を目的
とする株式会社である。
被告は,歯科用,動物用を含む医療機器全般の輸出入及び売買並びに修理及び保
15 守点検等を目的とする株式会社である。
⑵ 原告の登録商標(甲1,4)
原告は,本件商標の登録商標権者である。本件商標の出願日,登録日,指定商品
等は,別紙商標権目録各記載のとおりである。
⑶ 原告の商品
20 原告は,平成27年3月から,商品名を,「歯科技工用カーバイド切削器具 ハ
ーディアロイバー」とする歯科技工用切削,研磨用品(以下「原告商品」という。)
を輸入及び販売し,そのパンフレットやウェブサイト(甲3,乙9の2)には,「ジ
ルコニアバー」と表示している。
⑷ 被告の行為等
25 被告は,歯科技工用切削,研磨用品を自らのウェブサイトにおいて販売しており,
少なくとも平成30年10月末の時点では,販売する商品の分類名又は販売名とし
て,被告標章を同ウェブサイトに表示していた(甲2,被告標章により分類又は販
売される被告の商品を以下「被告商品」という。)。
原告は,同月3日付けの通知書(乙1)により,被告に対し,被告のウェブサイ
トにおいて被告標章を表示する行為が本件商標権の侵害に当たる旨を通知し,被告
5 は,同月25日付けの回答書(乙3)により,原告に対し,同年11月上旬を目途
に被告商品の名称変更を行い,被告標章を使用して被告商品の販売を行わない旨を
通知した。
2 争点
⑴ 被告標章の使用,本件商標及び指定商品との対比
10 ⑵ 被告標章は,商標権の効力が及ばない範囲の表示と認められるか。
ア 商品の普通名称,原材料,形状等を普通に用いられる方法で表示する商標と
認められるか(商標法26条1項2号)。
イ 需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができ
る態様により使用(商標的使用)されていない商標と認められるか(商標法26条
15 1項6号)。
⑶ 本件商標は,商標無効の審判により無効とされるべきものと認められるか(商
標法39条,特許法104条の3第1項)。
ア 商標法3条1項1号の無効事由(普通名称)があるか。
イ 商標法3条1項3号の無効事由(記述的表示)があるか。
20 ⑷ 本件商標権の行使は,権利の濫用に当たるか。
⑸ 差止の必要性
⑹ 損害の発生及びその額
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点⑴(被告標章の使用,本件商標及び指定商品との対比)について
25 【原告の主張】
⑴ 被告標章の使用
被告は,遅くとも平成27年6月1月以降,被告標章を付した被告商品を製造又
は輸入し,販売又は販売のために展示し,もしくはインターネット上の被告商品の
広告に,被告標章を付して提供している(商標法2条3項1号,2号,8号)。
⑵ 本件商標と被告標章の類似
5 ア 本件商標の外観は,「ZIRCONIA BAR」及び「ジルコニアバー」の文字を,
上下2段に並べたものである。
本件商標の称呼は,上下段とも,「じるこにあばー」である。
本件商標は,ジルコニアという材質が使用された棒状のものであるとの観念を生
じる。
10 イ 被告標章の外観は,「ジルコニアバー」というカタカナで構成され,「じる
こにあばー」との称呼を生じる。
被告標章は,ジルコニアという材質が使用された棒状のものであるとの観念を生
じる。
ウ 本件商標と被告標章とは,外観,称呼及び観念が同一であるから,類似する。
15 ⑶ 指定商品との対比
被告商品である歯科技工用切削,研磨用品は,いずれも本件商標の指定商品であ
る第10類の「医療用機械器具」に含まれる。
【被告の主張】
争う。
20 被告は,被告標章を,医療機器,具体的には歯科技工用切削,研磨用品に付した
ことはなく,被告標章の付された商品の製造又は輸入,販売又は販売のための展示
をしたこともない。原告は,被告が,被告商品の「商品又は商品の包装」に標章を
付していたという事実を立証しておらず,被告が商標法2条3項1号,2号による
「使用」を行った事実は存しない。
25 2 争点⑵(被告標章は,商標権の効力が及ばない範囲の表示と認められるか。)
について
⑴ 商標法26条1項2号の関係
【被告の主張】
「ジルコニア」(zirconia)は,ジルコニウム(Zr)が酸化した二酸化ジルコニウ
ム(ZrO₂)の通称であり,「バー」(bar)は,棒,棒状のものを意味するから,被
5 告標章は,二酸化ジルコニウムを意味する「ジルコニア」(zirconia)と棒状のもの
を意味する「バー」(bar)との結合語であることが明らかで,ジルコニアを原材料
とする棒状のものに対してこの商標を用いることは,単にその商品の原材料,形状
を示すものにほかならない。
したがって,被告標章は,その商品の普通名称,原材料,形状を普通に用いられ
10 る方法で表示する標章のみからなる商標であるから,商標法26条1項2号に該当
し,本件商標権の効力が及ばない。
【原告の主張】
争う。
⑵ 商標法26条1項6号の関係
15 【被告の主張】
上記のとおり,本件において,被告標章は,ジルコニアを原材料とする棒状のも
のという,単にその商品の普通名称,原材料,形状を示すものとして用いられてい
るにすぎず,商標的に使用されていない。
【原告の主張】
20 被告標章は普通名称の結合語ではなく造語であり,自他識別力を有しているから,
これを使用することは商標としての使用に当たる。
3 争点⑶(本件商標は,商標無効の審判により無効とされるべきものと認めら
れるか。)について
⑴ 争点⑶ア(商標法3条1項1号の無効事由(普通名称)があるか。)につい
25 て
【被告の主張】
本件商標は,英語で「zirconia bar」に相当するものであるところ,「ジルコニア」
(zirconia)は,ジルコニウム(Zr)が酸化した二酸化ジルコニウム(ZrO₂)の通
称を意味し,「バー」(bar)は,棒,棒状のものを意味する。
そうすると「ジルコニアバー」は,それぞれ普通名称である単語の結合語である
5 ことを容易に理解することができるもので,取引者間においても,「ジルコニアと
いう材質が使用された棒状のもの」という意味を有することは明らかである。
また,原告や被告の他にも,歯科業界やネイル業界において,「ジルコニアバー」
という標章を用いている例が複数あり,出所表示力のない一般的な名称であるとい
うことができる。
10 したがって,本件商標は,商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したに
すぎない標章のみからなる標章であり,商標法3条1項1号に該当するから,同法
46条1項の無効事由がある。
【原告の主張】
医療用器具業界において,本件商標が登録された平成27年2月6日当時,「ジ
15 ルコニアバー」が,歯科技工用切削,研磨用品の一般的な名称,略称,俗称と広く
認識され,使用されていたと認められるに足りる証拠はない。
原告商品と同様の医療用切削,研磨器具の名称としては,「○○カッター」,「○○
バー」,「○○ポリッシャー」,「○○ポイント」,「○○スティック」,「○○ブラシ」,
「○○ドリル」等の名称が使用されており,二酸化ジルコニウムを材質とする切削,
20 研磨器具であっても,「スマートシェイピングバー」,「コメット MI セラバー」
等の名称も存在している。
さらに,本件商標と指定商品は異なるものの,「ジルコニア」という商標が登録
された例や,本件商標と同じ指定商品について,「ジルコニアメタルバー」,「ブ
ラックバー」,「ホワイトバー」,「ダイヤバー」等という商標が登録された例も
25 ある。
以上より,医療用切削,研磨器具の業界においては,材質や色等の名称に「バー」
を合わせた名称は普通名称となっていないということができ,本件商標には自他識
別力が認められる。
⑵ 争点⑶イ(商標法3条1項3号に定める無効事由(記述的表示)があるか。)
について
5 【被告の主張】
前述のとおり,本件商標は,二酸化ジルコニウム(ZrO₂)を意味する「ジルコニ
ア」(zirconia)と棒状のものを意味する「バー」(bar)との結合語である。
原告に「ジルコニアバー」という名称を独占させると,ジルコニアを原材料とす
る棒状のものについて,原材料を示すものとして用いられるべき標章の使用が制限
10 されてしまうことになるが,歯科技工業界においては,切削に用いられる棒状器具
については,その原材料と,棒状のものを意味する「バー」という単語を組み合わ
せて表現されるのが通常であるから,適切ではない。
本件商標は,その商品の原材料,形状を普通に用いられる方法で表示する標章の
みからなる商標であり,商標法3条1項3号に該当するから,同法46条1号の無
15 効事由がある。
【原告の主張】
本件商標は,「ジルコニア」と「バー」を結合した造語であるところ,「ジルコ
ニア」という言葉は二酸化ジルコニウムの通称であり,原材料の名称そのものでは
ない。そして,一般取引者にとって,「ジルコニア」は,「ジルコニウムが酸化し
20 た二酸化ジルコニウムの通称である。」と判断できるものではなく,本件商標の登
録当時,「ジルコニアバー」という表示が,取引者,需要者に,原材料を表示する
ものと広く認識されていたとまではいえない。
また,「バー」という言葉は,窓・ドア・門などに固定して打ちつけてある木ま
たは金属の細長い棒,(ドアの)かんぬき,横木,柵,(戸・障子の)桟,(バレ
25 エの練習用の)バー,横棒,かなてこ,バール,障壁,関所,障害,じゃまもの,
細長い線,(光・色などの)線条,筋,しま,(軍人の)線章等の意味が与えられ
ており,単なる「棒」以外の他の意味を有する語であると認識されている。他方で,
「棒状のもの」という意味の英語としては,「stick」,「pole」,「rod」,「club」,
「cudgel」等がある。
そして,前記2⑴で述べたとおり,歯科用切削,研磨器具の名称としては,棒状
5 のものであっても,原材料の名称と「バー」を組み合わせる以外の様々な名称が使
用されている。
以上より,「ジルコニア」という言葉も,「バー」という言葉も,歯科用切削,
研磨器具という商品との関係においては,「原材料……形状……を普通に用いられ
る方法で表示する」ということはできず,これらの結合語である本件商標は,一般
10 的用語として普通に用いられる記述的表現ではなく,自他識別力を有する。
なお,本件商標権を前提としても,「ジルコニア製切削器具」,「ジルコニアス
ティック」などという名称は使用可能であるから,原告がジルコニアを原材料とす
る切削,研磨器具の名称を独占していることにはならない。
したがって,本件商標は,商標法3条1項3号に該当しない。
15 4 争点⑷(本件商標権の行使は,権利の濫用に当たるか。)について
【被告の主張】
本件商標には,前記3のとおり無効原因があるため,原告には本件商標権の取得
に不正の意図があったと考えられる。また,被告は,被告標章について商標的使用
をしておらず,原告からの通知を受けて,無用な紛争を避けるために,原告に対し,
20 「ジルコニアバー」を表示して被告商品を販売しない旨を通知し,ウェブページに
おける被告標章の表示を中止した。さらに,本件商標に,普通名称又は記述的表示
として信用が化体しているとも言い難い。
以上によれば,原告による本件商標権の行使は権利濫用に当たる。
【原告の主張】
25 争う。
5 争点⑸(差止の必要性)について
【原告の主張】
被告が,ウェブページ上での被告標章の表示を中止したことは認めるが,中止の
具体的時期は不知である。
被告には,いまだ本件商標権を侵害するおそれが認められる。
5 【被告の主張】
被告は,平成30年10月3日付けの原告からの通知を受け,同月25日,原告
に対し,「ジルコニアバー」を表示して商品を販売しない旨を通知し,同年11月
以降,自己のウェブページ上での被告標章の表示を中止した。
したがって,商標法36条1項にいう「侵害するおそれ」はなく,差止・廃棄請
10 求は認められるべきではない。
6 争点⑹(損害の発生及びその額)について
【原告の主張】
被告は,平成27年6月1日から平成30年10月末日までの間に,被告商品を
少なくとも月1000本(上記期間における合計4万本)を販売した。被告商品1
15 本当たりの被告の利益額は少なくとも500円であるから,被告は,被告商品の販
売により少なくとも合計2000万円の利益を得た。これは,商標法38条2項に
より,原告の損害額と推定される。
原告は,本件訴訟の遂行に当たり弁護士への委任をせざるを得なかったところ,
被告による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は200万円である。
20 したがって,被告は,原告に対し,不法行為に基づき2200万円の損害賠償債
務を負う。
【被告の主張】
争う。仮に損害が認められたとしても,その額は数百円から数万円程度に限られ
る。
25 第4 当裁判所の判断
1 認定事実(前提事実及び後掲各証拠又は弁論の全趣旨から認定できる事実)
⑴ 歯科技工用切削・研磨器具について
ア 全体の構成及び機能(甲2,5,7,17,乙9の1,2,乙10の1,2,
乙12ないし18)
原告商品及び被告商品は,「ハンドピース」と呼ばれる器具(手に持って使用す
5 る部分で,小型モーターを内蔵しており先端が高速回転する。)の先端部分に差し
込んで使用される部品(以下「先端部品」という。)であり,これが高速で回転す
ることによって,歯や技工物(金属,陶材,レジン,石膏,セラミックス,樹脂,
二酸化ジルコニウム等を素材とする。)を切削,研磨することができる。
ハンドピースの装着部及び先端部品の大きさや形状には一定の規格があり,その
10 規格に沿った商品であれば概ね適合性があるようになっているため,使用者は,切
削,研磨の対象物の材質や特性に応じてハンドピースと先端部品の組み合わせを使
い分けることとなる。規格には,大きく分けて,歯科技工士が歯の模型等の技工物
を削って形成する際に利用する器具の規格(「HP」)と,歯科医が患者の治療の際
に口腔内に入れて歯を削るなどする器具の規格(「FG」)とがあり,原告商品及び
15 被告商品は,いずれも HP の規格に適合するものである。
イ 先端部品の素材,形状等(甲5ないし8,14ないし17,乙9ないし18)
先端部品には,研磨剤として,ダイヤモンド,二酸化ジルコニウム,タングステ
ン等の粒子が固着されている。取引者,需要者は,この研磨剤の素材を先端部品全
体の素材,材質と捉えるのが通常であり,先端部品の商品説明等には,研磨剤の素
20 材に応じて,「ジルコニア製」(甲3,8,16,乙10の1,2,乙11の2,
8),「材質 ジルコニア」(甲5,7),「ダイヤモンドを使用」,「タングス
テンを使用」(乙9の1)などと記載される。
また,先端部品の根元部分は,ハンドピースの先端に差し込むために細い棒状と
なっており,反対側の先の部分(「ヘッド部分」とも言われる,研磨剤が使われ対
25 象物と接する部分。)は,切削,研磨する部位や対象物,用途に合わせて,先の尖
った円錐状,円柱状,ボール球状,原告商品や被告商品のような中心が膨らんだ砲
弾状等,様々な形状をしている。
美容目的のネイリストが使用する器具にも,歯科技工用のものと形状の類似する
先端部品が使用されている。
⑵ 原告商品等について
5 ア 原告は,平成26年8月12日に,本件商標の出願を行い,平成27年2月
6日,その登録を得た。
イ 原告は,原告商品を販売するに当たり,パンフレット(甲3)の表題部に,
小さめの字で「ジルコニア製レジンマテルアル用バー」 その下に大きめの字で
, 「ジ
ルコニアバー」と表示し,一般的に商標権等の登録済みであることを示す「Ⓡ」マ
10 ークを付し,また,パンフレット表紙の大部分を占める商品写真の右上部分に,小
さく「Zirconia Bar」と表示した。同パンフレットの2頁目には,原告商品の刃は
白色のジルコニア製であること,ジルコニアは滑りが良く,摩擦熱を持ちにくいこ
と,切粉が刃に焼き付かず,簡単に清掃できること等を記載し,先端部品の素材が
ジルコニアであることによる原告商品の特長,利点を訴えた。
15 ウ 原告は,原告のウェブサイト(乙9の2)において,原告商品以外にも,「ダ
イヤモンドバー」,「ラウンドバー」等の名称を付した先端部品を販売している。
エ なお,被告は,本件商標について無効審判を提起したが,書面審理を経て,
令和2年6月24日,本件商標の登録を有効とする旨の審決がなされた(甲22,
乙20ないし23)。
20 ⑶ 被告の行為について
ア 被告の通信販売用ウェブサイト(甲2)には,商品紹介ページの上部及び後
ろの方に商品カテゴリーが記載されており,被告標章については,「技工用器材の
カテゴリー」のうち,「技工用切削・研磨用品」の中の小カテゴリーとして「ジル
コニアバー(HP)」の表示が,また,「切削・研磨のカテゴリー」の中のカテゴリ
25 ー及びその中の小カテゴリーとして,「ジルコニアバー」の表示があった。
そして,「ジルコニアバー(HP)」及び「ジルコニアバー」の小カテゴリーに属
する商品を表示して,これを購入することのできるページには,被告商品6種類の
小さな写真の横に, ジルコニアバー/HP/FZB0001」 ジルコニアバー/HP/FZB0002」
「 ,

等の名称が表示され,タイプ,ヘッド長,ヘッド径と共に,販売名がジルコニアバ
ーであることの表示がされていた。
5 同ウェブサイトにおいて,カテゴリー名及び商品名は比較的大きめの太字で,小
カテゴリー名や販売名は小さめの細字で記載されていたが,被告標章はカタカナ表
記の一段であり,英字の表記はなかった。
イ 被告は,同ウェブサイトにおいて上記記載を始めた時期を明らかにしないが,
本件商標が登録された平成27年2月以前に上記記載があったことを示す証拠はな
10 いから,上記記載は,早くとも,原告の主張する同年6月以降に開始されたと認め
るのが相当である。
また,被告は,平成30年10月3日付けの原告からの通知(乙1)を受け,同
年11月ころ以降,同ウェブサイトにおいて被告標章の表示を行うことを中止した
ものと認められる。
15 ウ なお,同ウェブサイトでは,被告商品以外にも,被告が販売する多数の医療
機器,歯科技工用具の宣伝が行われており,技工用切削・研磨用品の中カテゴリー
の中に,ダイヤモンドバー(HP)の小カテゴリー11個,カーバイドバー(HP)
の小カテゴリー19個,スチールバー(HP)の小カテゴリー2個が存するほか,ダ
イヤモンドディスク(HP),カーボンランダムポイント(HP),研削ホイールと
20 いった形で,材質,形状,機能を表す言葉を組み合わせた商品が多数紹介されてい
る。
⑷ 他の先端部品の名称について
ア 原告及び被告以外の第三者が販売する医療用,歯科技工用の先端部品の名称
として,以下のようなものがある。
25 主に色,材質,形状等を表すと考えられる名称として,「カーバイドバー」,「ダ
イヤチットカーバイドバー」,「シリコンバー」,「ダイヤバー」,「ダイヤモン
ドバー」,「ダイヤモンドポイント」,「ホワイトダイヤモンドバー」,「ホワイ
トカーバイドバー」「ホワイトポイント」,「ラウンドバー」,「スチールバー」,
「チッカバイト」,「ジルカットダイヤバー」等がある(甲5,6,17,乙9の
1,2,乙11の3,乙15ないし18)。
5 このうち,「スチールバー」,「ダイヤモンドバー」,「ダイヤバー」,「ダイ
ヤモンドポイント」,「カーバイトバー」,「ホワイトポイント」,「ホワイトカ
ーバイトバー」については,平成22年ころ,平成25年8月ころ,平成26年4
月ころ,平成26年11月ころに作成されたと考えられるパンフレット等に記載が
ある(乙9の1,乙15,17ないし19)。
10 上記の要素と共に機能や用途も表すと考えられる名称として,「カーバイドカッ
ター」,「カービングダイヤポイント」,「スマートシェイピングバー」,「マイ
クロフィニッシャー」,「ダイヤモンドグラインダー」,「フィニッシャーバー」
等がある(甲6,7,15,乙9の2)。
その他の造語を含むと思われる名称として,「コメット MI セラバー」,「スマ
15 ートバー」,「MG フォーミングバー Zr」等がある(甲8,16,乙11の3)。
イ 原告商品や被告商品と形状の類似する先端部品について, ジルコニアバー」

又はこれを含む名称を使用する例も複数あり,そのうちの2つは平成26年ころに
使用されている(乙10の1,2,乙11の2,4,乙15,18)。
ウ ネイリスト用の器具についても,「ジルコニアバー」など,上記と類似した
20 名称が使用されている(乙10の3,乙11の1,6)。
エ 本件商標と類似する商標の登録としては,欧文字の「ZIRCONIA」という商
標が,「絵の具,絵の具溶き油,謄写版用インキ」,「パレットナイフ」等を指定
商品として,平成2年4月23日に登録され(甲9),標準文字の「ジルコニアメ
タルバー」,「ブラックバー」,「ホワイトバー」の各商標が,「歯科用又は歯科
25 技工用の切削器具」等を指定商品として,平成27年から平成28年に登録されて
いる(甲10ないし12)。
また,標準文字の「ダイヤバー」という商標が,「医療用機械器具」等を指定商
品として,平成29年6月23日に登録されている(甲13)。
オ なお,本件商標は,「ZIRCONIA BAR」と「ジルコニアバー」とを二段で表
示するものであり,「BAR」の表示を含むことから,原告は,本件商標より,ジル
5 コニアという材質が使用された棒状のものとの観念が生じると主張し,被告も,被
告標章は,材料を示すジルコニアと棒状のものを示す「バー(bar)」を結合したも
のであると主張する。
これに対し,前記アに記載したとおり,原告,被告以外の第三者が医療用,歯科
用器具として販売する先端部品には,名称の一部に「バー」が入るものが多く,原
10 告と被告は,これらの「バー」についても,本件商標は被告標章と同様に,棒状の
ものを示す「バー(bar)」であると主張する。
しかしながら,歯科用器具を紹介する英文のウェブサイトでは,「ジルコニアバ
ー」については「Zirconia Bur」と表記されていること(甲18の2),「bur」に
ついては,一般的な英和辞典に,「クリなどのいが,いがをつける植物」のほか,
15 「≪機械≫穴ぐり器,≪医学≫バー:歯を削ったり,骨に穴をあけたりする器具」
との訳語が充てられている(公知の事実)。
前記アないしエで指摘した,「バー」を名称又は商標の一部に使用する商品又は
器具が,これを「bar」,「bur」のいずれの意味で用いているのかは不明といわざ
るを得ない。しかしながら,「歯を削る器具」との意味が辞書に収録されるほど一
20 般的なものであり,上述した歯科用器具の宣伝,案内において,「バー」が何であ
るかの特段の説明もないまま,カーバイド,シリコン,ダイヤモンドといった素材
名とバーを組み合わせた名称が広く使用されている。また,ジルコニアメタルバー,
ブラックバー,ホワイトバーについて,いずれも歯科用又は歯科技工用の切削器具
その他を指定商品とする商標権を取得している会社は,法人名の中に「バー」を用
25 いているが(株式会社東洋バー,甲10ないし12),これは,「歯を削る器具」
の販売等を業とすることを示す趣旨と考えるのが合理的である。
以上を総合すると,医療用器具,歯科用器具の名称,商標の一部に「バー」を使
用する場合は,「bur(歯や骨を削る器具)」の意味であることが多く,本件商標の
ように,「bar(棒状のもの)」であることを前提とするものは,むしろ少ないと考
えられる。
5 2 争点⑴(被告標章の使用,本件商標及び指定商品との対比)
⑴ 被告は,被告商標の使用自体を争っており,確かに,歯科技工用の先端部材
である被告商品自体,あるいは被告商品の包装に被告標章が付されていた事実を認
めることはできない。
しかしながら,前記1⑶で認定したとおり,被告は,被告商品の宣伝,販売を行
10 うウェブサイトで,少なくとも平成27年6月から平成30年10月までの間,被
告商品の名称及び販売名として被告標章を表示したものであるから,被告は,商品
に関する広告に被告標章を付して,これを電磁的方法により提供したということが
できる。
⑵ 本件商標と被告標章の類似性について,被告は具体的な主張をして争うこと
15 をしないところ,本件商標と被告標章の外観は,「ジルコニアバー」という横書き
のカタカナの文字が共通であり,本件商標はこれと同じ意味・称呼である,
「ZIRCONIA BAR」という全て大文字の欧文字を上段にほぼ同じ大きさで配置す
るものであって,類似しているといえる。
また,被告は,被告標章の意味を,「ジルコニアという材質が使用された棒状の
20 もの」である旨主張しており,そうであれば,本件商標のうちの「ZIRCONIA BAR」
から生じるのと,同一の観念を生じさせることになる。
以上によれば,被告標章は本件商標に類似するといえる。
⑶ そして,被告商品は,本件商標の指定商品である「医療用機械器具」に当た
るから,被告の上記行為は,商標法2条3項8号,37条1号に当たるというべき
25 である。
3 争点⑵ア(商標法26条1項2号の関係)
⑴ 歯科技工用切削,研磨用品の一般的な名称の付け方について
前記認定したところによれば,歯科技工用切削,研磨用品の先端部品には,様々
な材質,色,形状のものがあり,使用者は,用途や目的,ハンドピースとの適合性
等に応じて,複数の先端部品を日常的に使い分けている。
5 このような使用態様から,先端部品の名称としては,材質,形状,用途等を分か
りやすく表すものが求められており,特に,研磨剤の材質は,前記1⑴のとおり,
カタログ等において「○○製」と記載されたり,その特性を説明されたりすることが
多く,歯や歯科用技工物を切削・研磨するという使用目的に鑑みて重要かつ需要者
の注目度が高い要素であるから,名称に取り入れられることが多い。
10 また,先端部品であることを示したり,その形状や用途を表したりするために,
「バー」,「カッター」,「フィニッシャー」,「ポリッシャー」,「ポイント」
といった単語も,一般的に使用されていた。
そうすると,被告標章が使用された平成27年から平成30年にかけて,歯科技
工用切削,研磨用品の取引者,需要者の間においては,歯科技工に用いるハンドピ
15 ースの先端部品について,素材,材質を示す言葉と,形状,用途を示す言葉とを組
み合わせた先端部品の名称により表示することは一般的に行われており,その意味
するところは,取引者,需要者の間では容易に認識,理解されるものと考えられる。
⑵ 「ジルコニアバー」という名称について
ア 「ジルコニア」について
20 「ジルコニア(zirconia)」は,ジルコニウムが酸化した「二酸化ジルコニウム」
の通称であり,模造ダイヤモンドともいわれる物質である。このことは,化学用語
の辞典だけではなく,広辞苑(第7版)や大辞林(第3版)といった一般的な辞書
にも記載されており,「ジルコニア」の正確な化学的組成についてはともかく,そ
れが化学的,工業的な物質や材質を意味する単語であることは,一般的な知識であ
25 るということができる(乙6の1ないし4,乙7の2)。
また,平成23年の時点でジルコニアバーの表示が(乙10の3),平成26年
の時点でジルコニアダイヤモンドバーあるいはプレミアタフジルコニアバーの表示
がなされていることから(乙15,18),被告標章が使用された平成27年の時
点では,ハンドピースの先端部分の素材を「ジルコニア」と表記することは一般的
であったと認められる。
5 イ 「バー」について
前記認定のとおり,遅くとも平成22年以降,医療用歯科技工用の先端部品の名
称として「バー」は広く用いられており,本件商標のように「bar」(棒状のもの)
の意味で用いられている可能性も否定はできないが,既に検討したとおり,「bur」
(歯や骨を削る道具)の意味で使われている場合が多いと考えられ,このことは,
10 「バー」と表記される先端部品の形状が必ずしも棒状のものに限られないこととも
整合する。
そうすると,被告標章が使用された平成27年の時点では,歯科技工用切削,研
磨用品の取引者,需要者にとって,「バー」という語は,上記いずれの意味であっ
たとしても,ハンドピースの先端部品を指す一般的な名称として認識されていたと
15 考えられる。
ウ まとめ
以上によれば,「ジルコニアバー」という名称は,平成27年の時点において,
材質を表す「ジルコニア」と,ハンドピースの先に用いる先端部品であることを指
す「バー」という2つの単語を組み合わせた名称であって,そのいずれの意味も一
20 般的に知られていたところ,特に歯科技工用切削,研磨用品の需要者,取引者にと
っては,この名称から,ジルコニアを研磨剤として使用する先端部品であることを
容易に認識,理解することができるものであったと認められる。
⑶ 被告による被告標章の使用態様について
被告は,前記認定のとおり,歯科医院向け技工用器材その他を販売する被告のウ
25 ェブサイトにおいて,ハンドピース用の器材であるとして,被告商品のカテゴリー
名,各商品の名称の一部及び販売名として,被告標章を表示していたものであって,
他のカテゴリーに属する被告の商品として,「ダイヤモンドバー」,「カーバイド
バー」,「スチールバー」その他があることを前提に,普通の字体で表示していた
にすぎない。
以上によれば,被告標章の記載は,平成27年の時点において,被告商品の原材
5 料及び用途又は形状を「普通に用いられる方法で表示する」にすぎないものであっ
たと認めることができる。
⑷ まとめ
そうすると,被告による被告標章の使用は,商標法26条1項2号により,本件
商標権の効力が及ばないものであったということができ,前記2の判断にかかわら
10 ず,商標権侵害は成立しないというべきである。
4 結論
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも
理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
15 大阪地方裁判所第21民事部
裁判長裁判官
谷 有 恒
25 裁判官
杉 浦 一 輝
5 裁判官
島 村 陽 子
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