ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成30(ワ)18555 特許権侵害差止請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和2年9月17日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告大塚製薬株式会社 被告株式会社アドバンスト・メディカル・ケア 株式会社ダイセル |
| 対象物 | エクオール含有抽出物及びその製造方法,エクオール抽出方法,並びにエクオールを含む食品 |
| 法令 |
特許権 特許法29条1項3号17回 特許法104条7回 特許法36条6項1号1回 特許法36条4項1号1回 |
| キーワード | 無効67回 新規性42回 進歩性40回 実施27回 優先権22回 分割13回 特許権8回 侵害6回 無効審判6回 差止4回 審決2回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 1(1) 主位的請求 2(1) 主位的請求 3(1) 主位的請求 4(1) 主位的請求25 5(1) 主位的請求 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番25 5313号。請求項の数は1。以下,請求項1に係る特許を「本件特許」と 4」という。)。 100g当たり約6.6g(1gあたり66mg)のエクオールを生 2 争点 1-6) 3 争点に関する当事者の主張 3。出願日平成19年6月13日)には,発酵原料として「ダイゼイン類」 1の1~3。出願日平成19年6月13日)には,発酵原料が「大豆胚軸」 13日)となる。そして,同日の時点では,「オルニチン及びエクオールを 0重量%程度)と少量(1重量%程度)のダイゼインとを含むイソフラボ 093】)をみても,ダイゼイン類を含む発酵原料が開示されている。本件15 1の「ダイゼイン類」は大豆胚軸に限定されるものであるから,被告方法 92以外の上記微生物を見出すためには過度の試行錯誤を有するという 3に基づく新規性・進歩性欠如)の有無) 20年6月13日)となるから,本件発明は,乙B3(公開日平成19年10 6月14日)に記載された発明であると認められ,本件発明には,乙B3 3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 2に接した当業者が,再現実験をすれば,引用例2記載のdo03が 6mg/Lであり,アルギニンの添加にかかわらず,ほぼ等量のエクオ 2(FERM BP-10036 号)で 10036 号)である点。15 3は「アルギニン」を含むことを明示していない点。 92が,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」 0-92についても,オルニチン産生能力を備えると認識できる。 1を主引例とする進歩性欠如)の有無) 4は「アルギニン」を含むことを明示していない点。 2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)はない。 1)のラクトコッカスラクチスがオルニチン産生能力を有していること 5はアルギニンを含むか不明である点。 28日)で新規性,進歩性が判断されることとなる。そうすると,本件発 6】等に記載されている以上,本件明細書には,「少なくとも1種のダイ 148】に基づくものであって,本件明細書に記載した事項の範囲内の 5】,【0229】は,大豆胚軸発酵物の粉末化処理に関する記載にすぎ 1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること」を含むのに対し, 8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」するの 3-1の試験例1の発酵原料である豆乳や牛乳にアルギニンが含まれて 3,24頁の「試験例1」)の再現実験を行った(以下,この再現実験を 8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」を含有する発酵 3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 2号)はない。 2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。 3)ということができ,これを前提とすると,被告方法は,構成要件A’, 1,B’-2の文言からすれば,本件訂正発明の微生物は,構成要件A’ 2を充足しない。 1を充足する。25 2の発酵処理工程の前に,構成要件B’-1の「前記ダイゼイン類と前 1 争点1(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か)について 6月13日であるというべきところ,国際公開第2007/066655 0重量%程度)を含むイソフラボンを用いるものの,その後の酵素処理工 2,A-3に相当する発酵工程が存在しないということはできない(ただ 1の「ダイゼイン類」は大豆胚軸に限定されるものである旨主張する。25 032】には,本件特許の特許出願時,エクオールを産生する能力のある20 20-92を適切なものとして発見した点のみに基本的な技術思想があ 0-92のみが挙げられているものの,構成要件Bの「微生物」がラクト 2)によれば,本件発明の「微生物」は,ダイゼイン配糖体から糖を切断 00重量部に対して,アルギニンが0.5~3重量部程度が例示される。」 22】【0225】の記載をみても,「大豆胚軸の発酵において,発酵原料 1重量%を含む大豆胚軸溶液」(【0225】)という記載は,発酵原料の調 2 結論 |
| 事件の概要 | 原告は,発明の名称を「エクオール含有抽出物及びその製造方法,エクオー ル抽出方法,並びにエクオールを含む食品」とする物の製造方法の特許に係る 特許権者であるところ,別紙被告方法目録記載の方法(以下「被告方法」とい う。)は,上記特許に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張している。15 そして,本件は,原告が,被告ダイセルに対し,被告ダイセルによる被告方 法の使用,及び,別紙被告原料目録記載の原料(以下「被告原料」という。)の 生産,販売等は,上記特許権を侵害すると主張して,上記特許権に基づき,上 記第1の3,4のとおりの請求をし,並びに,上記侵害行為を組成したもので あるとして,上記第1の5のとおりの請求をするとともに,被告AMCに対し,20 被告AMCによる別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の 生産,販売等は,上記特許権を侵害すると主張して,上記第1の1のとおりの 請求をし,及び,上記侵害行為を組成したものであるとして,上記第1の2の とおりの請求をする事案である。 |
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令和2年9月17日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第18555号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 令和2年7月9日
判 決
原 告 大 塚 製 薬 株 式 会 社
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 城 山 康 文
林 康 司
山 内 真 之
大 出 萌
被 告 株式会社アドバンスト・メディカル・ケア
(以下「被告AMC」という。)
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 水 野 晃
丹 羽 厚 太 郎
中 田 裕 人
同 訴 訟代 理 人 弁 理 士 関 根 宣 夫
被 告 株 式 会 社 ダ イ セ ル
(以下「被告ダイセル」という。)
同 訴 訟代 理 人 弁 護 士 吉 澤 敬 夫
川 田 篤
同 訴 訟代 理 人 弁 理 士 紺 野 昭 男
井 波 実
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1(1) 主位的請求
被告AMCは,別紙被告製品目録記載の製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,
譲渡若しくは貸渡しの申出をし,又は輸出してはならない。
(2) 予備的請求
ア 被告AMCは,別紙被告方法目録記載の方法により生産された別紙被告
原料目録記載の原料を使用してはならない。
イ 被告AMCは,別紙被告方法目録記載の方法により生産された別紙被告
原料目録記載の原料を使用した別紙被告製品目録記載の製品を譲渡し,貸
し渡し,譲渡若しくは貸渡しの申出をし,又は輸出してはならない。
2(1) 主位的請求
被告AMCは,別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
(2) 予備的請求
被告AMCは,別紙被告方法目録記載の方法により生産された別紙被告
原料目録記載の原料を使用した別紙被告製品目録記載の製品を廃棄せよ。
3(1) 主位的請求
被告ダイセルは,別紙被告原料目録記載の原料を生産してはならない。
(2) 予備的請求
被告ダイセルは,別紙被告方法目録記載の方法を使用してはならない。
4(1) 主位的請求
被告ダイセルは,別紙被告原料目録記載の原料を譲渡し,貸し渡し,譲渡
若しくは貸渡しの申出をし,又は輸出してはならない。
(2) 予備的請求
被告ダイセルは,別紙被告方法目録記載の方法により生産した別紙被告
原料目録記載の原料を譲渡し,貸し渡し,譲渡若しくは貸渡しの申出をし,
5 又は輸出してはならない。
5(1) 主位的請求
被告ダイセルは,別紙被告原料目録記載の原料を廃棄せよ。
(2) 予備的請求
被告ダイセルは,別紙被告方法目録記載の方法により生産した別紙被告
原料目録記載の原料を廃棄せよ。
第2 事案の概要
原告は,発明の名称を「エクオール含有抽出物及びその製造方法,エクオー
ル抽出方法,並びにエクオールを含む食品」とする物の製造方法の特許に係る
特許権者であるところ,別紙被告方法目録記載の方法(以下「被告方法」とい
う。)は,上記特許に係る特許発明の技術的範囲に属すると主張している。
そして,本件は,原告が,被告ダイセルに対し,被告ダイセルによる被告方
法の使用,及び,別紙被告原料目録記載の原料(以下「被告原料」という。)の
生産,販売等は,上記特許権を侵害すると主張して,上記特許権に基づき,上
記第1の3,4のとおりの請求をし,並びに,上記侵害行為を組成したもので
あるとして,上記第1の5のとおりの請求をするとともに,被告AMCに対し,
被告AMCによる別紙被告製品目録記載の製品(以下「被告製品」という。)の
生産,販売等は,上記特許権を侵害すると主張して,上記第1の1のとおりの
請求をし,及び,上記侵害行為を組成したものであるとして,上記第1の2の
とおりの請求をする事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。なお,枝番
号の記載を省略したものは,枝番号を含む(以下同様) )
。
(1) 本件特許
原告は,発明の名称を「エクオール含有抽出物及びその製造方法,エクオ
ール抽出方法,並びにエクオールを含む食品」とする特許権(特許第627
5313号。請求項の数は1。以下,請求項1に係る特許を「本件特許」と
5 いう。)の特許権者である。原告は,本件特許につき,平成29年6月28日
に特許出願をし,平成30年1月19日にその設定登録を受けた。
(2) 本件発明
ア 本件特許に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,こ
れを「本件特許請求の範囲」といい,これに係る発明を「本件発明」とい
う。また,その明細書(図面を含む。)を「本件明細書」といい,その該当
部分の記載を【0001】などと表すこととする。 。
)
「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から
選択される少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,アルギニンを含む発
酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で
発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の
製造方法。」
イ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した
構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A-1」などのようにいう。。
)
A-1 ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる
群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,
A-2 アルギニン
A-3 を含む発酵原料を
B オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵
処理することを含む,
C オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法。
(3) 本件訂正請求及び本件訂正発明
ア 被告ダイセルは,本件特許について,平成30年10月12日付けで特
許無効審判を請求した(無効2018-800122号。以下「本件無効
審判」という。。
)
原告は,本件無効審判において,平成31年1月24日付けで特許請求
5 の範囲を訂正することを請求した(乙B22。以下「本件訂正請求」とい
い,その訂正を「本件訂正」という。。
)
イ 本件訂正請求に係る請求項1記載の発明(以下「本件訂正発明」という。)
は,次のとおりである(下線部は訂正箇所である。以下同じ。。なお,本
)
件無効審判に対しては,令和元年7月19日付けで,本件訂正を認め,請
求は成り立たない旨の審決(乙B31)がされたところ,これに対しては,
審決取消訴訟が提起され,現在,知的財産高等裁判所に係属中である(令
和元年(行ケ)第10112号)。
「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から
選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること,
及び,前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産
生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含
む,オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であ
って,前記発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以
上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し,及び前記発酵物が
食品素材として用いられるものである,前記製造方法。」
ウ 本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説
した構成要件をそれぞれの符号に従い「構成要件A’」などのようにいう。
また,構成要件A’,B’-1の下線部に係る訂正を「訂正事項1」と,構
成要件C’の下線部に係る訂正を「訂正事項2」と,構成要件E’の下線
部に係る訂正を「訂正事項3」と,構成要件D’に係る訂正を「訂正事項
4」という。。
)
A’ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群か
ら選択される少なくとも1種のダイゼイン類にアルギニンを添加するこ
と,及び,
B’-1 前記ダイゼイン類と前記アルギニンを含む発酵原料を
5 B’-2 オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物
で発酵処理することを含む,
C’オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法で
あって,
D’前記発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g当たり,8mg以上
のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成し,及び
E’前記発酵物が食品素材として用いられるものである,前記製造方法。
(4) 被告らの行為等
ア 被告ダイセルは,大豆胚芽抽出発酵物(製品名は,フラボセルEQ-5。
被告原料)を製造し,これを被告AMCに対し販売している。
イ 被告AMCは,被告ダイセルから販売された被告原料を用いて,大豆胚
芽抽出発酵物含有食品(製品名は,エクオール+ラクトビオン酸。被告製
品)を製造し,販売している。
ウ 被告ダイセルは,次の方法を用いて,被告原料を製造している(被告方
法)。
α1 ダイゼイン配糖体であるダイジン(50重量%程度)と少量(1重
量%程度)のダイゼインとを含むイソフラボンを,
α2 酵素処理することにより,ダイゼイン配糖体であるダイジンの糖を
切断してダイゼインとなし,
α3 前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを含む処理液と, (省
●
略)●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,
α4 オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法で
あって,
α5 前記発酵処理により,1gあたり18.40mg以上のオルニチン,
100g当たり約6.6g(1gあたり66mg)のエクオールを生
成し,及び
5 α6 前記発酵物が食品素材として用いられるものである,前記製造方法。
2 争点
(1) 被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点1)
ア 被告原料は,特許法104条により,本件発明の方法により生産したも
のと推定されるか(争点1-1)
イ 被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイゼイン配糖
体か(構成要件A-1~A-3,Bの充足性)(争点1-2)
ウ 構成要件A-1の「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼ
インよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」は,大豆
胚軸に限定されるか(構成要件A-1の充足性)(争点1-3)
エ 構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限定されるか
(構成要件Bの充足性)(争点1-4)
オ 構成要件Bの「微生物」は,糖を切断する能力を有する微生物に限定さ
れるか(構成要件Bの充足性)(争点1-5)
カ 被告方法におけるアルギニンを含む培養液は,「アルギニンを含む発酵
原料」に当たるものといえるか(構成要件A-2,A-3の充足性)
(争点
1-6)
(2) 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2)
ア 無効理由1(優先権主張の効力がないことを前提とする乙B3に基づく
新規性・進歩性欠如)の有無(争点2-1)
イ 無効理由2(本件発明の「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力
を有する微生物」に関するサポート要件違反・実施可能要件違反)の有無
(争点2-2)
ウ 無効理由3(乙B4に基づく新規性欠如・乙B4を主引例とする進歩性
欠如)の有無(争点2-3)
エ 無効理由4(乙B16に基づく新規性欠如・乙B16を主引例とする進
5 歩性欠如)の有無(争点2-4)
オ 無効理由5(乙B19の1に基づく新規性欠如・乙B19の1を主引例
とする進歩性欠如)の有無(争点2-5)
カ 無効理由6(乙B24に基づく新規性欠如・乙B24を主引例とする進
歩性欠如)の有無(争点2-6)
キ 無効理由7(本件特許に係る特許出願の分割要件違反による新規性・進
歩性欠如)の有無(争点2-7)
(3) 本件発明についての訂正の対抗主張の成否(争点3)
ア 訂正要件の具備(争点3-1)
イ 無効理由1の解消の有無(争点3-2)
ウ 無効理由2の解消の有無(争点3-3)
エ 無効理由3の解消の有無(争点3-4)
オ 無効理由4の解消の有無(争点3-5)
カ 無効理由5の解消の有無(争点3-6)
キ 無効理由6の解消の有無(争点3-7)
ク 無効理由7の解消の有無(争点3-8)
ケ 被告方法が本件訂正発明の技術的範囲に属するか否か(争点3-9)
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点1-1(被告原料は,特許法104条により,本件発明の方法により
生産したものと推定されるか)
【原告の主張】
特許法104条は,物を生産する方法の発明について特許がされている
場合において,その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物で
ないときは,その物と同一の物は,その方法により生産したものと推定す
る旨規定する。
しかして,本件発明は,「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」
5 という物の生産方法の発明であるところ,優先権基礎出願(乙B1の1~
3。出願日平成19年6月13日)には,発酵原料として「ダイゼイン類」
の場合が記載されており 【0013】
( 【0015】
【0018】
【0020】,
)
基準日は,本件特許の優先日(平成19年6月13日)となる。そして,
同日の時点では,
「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」は,日本
国内において公然知られた物ではなかった。また,被告原料は,
「オルニチ
ン及びエクオールを含有する発酵物」と同一の物である。そうすると,特
許法104条により,被告原料は,本件発明の方法により生産したものと
推定される。
【被告らの主張】
原告の上記主張は,争う。本件発明の優先権主張に係る基礎出願(乙B
1の1~3。出願日平成19年6月13日)には,発酵原料が「大豆胚軸」
の場合について記載されているにすぎず,その基準日は,本件特許の優先
日(平成19年6月13日)ではなく,親出願の出願日(平成20年6月
13日)となる。そして,同日の時点では,
「オルニチン及びエクオールを
含有する発酵物」は,日本国内において公然知られた物であったから(乙
B3(公開日平成19年6月14日)
【0011】,特許法104条による
)
被告原料が本件発明の方法により生産したものとの推定は働かない。
(2) 争点1-2(被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイ
ゼイン配糖体か(構成要件A-1~A-3,Bの充足性))
【原告の主張】
被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイゼイン配糖
体(構成α1)ではなく,「ダイゼインを含む処理液」(構成α3)という
ことができ,これを前提とすると,被告方法は,構成要件A-1~A-3,
Bを充足する。
すなわち,構成要件A-1~A-3の文言からすれば,本件発明におい
5 ては,
「ダイゼイン配糖体」「ダイゼイン」「ジヒドロダイゼイン」の3種
, ,
のダイゼイン類の中から少なくとも1種が発酵原料に含まれていれば足
りる。そして,これを被告方法の構成α3と対比すれば,被告方法には,
「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から
選択される少なくとも1種のダイゼイン類」に「アルギニン」を含むよう
にして「発酵原料」を得る工程が存在しているといえる。また,構成要件
A-1~A-3,Bの文言からすれば,本件発明の微生物は,構成要件A
-1に挙がっているダイゼイン類3種のうち少なくとも1種をエクオー
ルに変換する能力を有していれば足り,ダイゼイン配糖体からエクオール
を産生する能力があることが必須の要件ではないから,これを被告方法の
構成α3と対比すれば,被告方法には「オルニチン産生能力及びエクオー
ル産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」との文言に相当す
る工程が存在しているといえる。
【被告らの主張】
被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイゼイン配糖
体(構成α1)というべきであり,これを前提とすると,被告方法は,構
成要件A-1~A-3,Bを充足しない。
すなわち,被告方法の構成α1(「ダイゼイン配糖体であるダイジン(5
0重量%程度)と少量(1重量%程度)のダイゼインとを含むイソフラボ
ンを」)によれば,被告方法において選択されているダイゼイン類は,ダイ
ゼイン配糖体であるダイジンであるところ,被告方法においては,そのダ
イジンとアルギニンとを含ませて発酵原料を得る工程(構成要件A-2,
A-3に相当する工程)は存在しない。被告方法でアルギニンが含まれる
のは,原料調整工程ではなく,発酵処理工程であり,培養液として発酵処
理液に存在するからであるにすぎない。また,被告方法における微生物は,
ダイゼイン配糖体から発酵によってエクオールを産生する能力がないた
5 め,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵
処理することを含む」との文言に相当する工程(構成要件B)も存在しな
い。
(3) 争点1-3(構成要件A-1の「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒ
ドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」
は,大豆胚軸に限定されるか(構成要件A-1の充足性))
【原告の主張】
被告方法は,大豆胚軸を用いていないが,構成要件A-1を充足する。
すなわち,構成要件A-1の文言は,
「ダイゼイン類」を大豆胚軸に限定し
ていないものであり,本件明細書(【0031】
【0033】
【0038】
【0
093】)をみても,ダイゼイン類を含む発酵原料が開示されている。本件
明細書の【発明が解決しようとする課題】
【実施例】等において,大豆胚軸
を取り上げているからといって,上記「ダイゼイン類」が大豆胚軸に限定
されることにはならない。
【被告らの主張】
被告方法は,大豆胚軸を用いていないものであるところ,構成要件A-
1の「ダイゼイン類」は大豆胚軸に限定されるものであるから,被告方法
は構成要件A-1を充足しない。すなわち,原告が指摘する本件明細書の
【0093】の記載は,優先権基礎出願の明細書において記載されておら
ず,また,本件明細書においては,【技術分野】【発明が解決しようとする
課題】【発明の効果】【図面】【発明を実施するための形態】【実施例】の全
てにおいて,本件発明の対象は大豆胚軸発酵物であり,製造方法は,大豆
胚軸発酵物からエクオールを含む有用成分を効率的に抽出する方法である
ことを示している。
(4) 争点1-4(構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限
定されるか(構成要件Bの充足性))
5 【原告の主張】
構成要件Bの文言は,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を
有する微生物で発酵処理することを含む」というものであり,ラクトコッ
カス20-92に限定していないものであるから,被告方法における微生
物(●(省略)●)は,構成要件Bを充足する。
【被告らの主張】
構成要件Bの「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微
生物で発酵処理することを含む」とは,いわゆる機能的クレームとして広
範な微生物を包含する記載であるのに対し,本件明細書には,ラクトコッ
カス20-92を適切なものとして発見した点に基本的な技術思想があ
ることが記載され,あらゆる微生物を含むものとして記載されていない。
また,原告のホームページ(乙B11)をみても,ラクトコッカス20-
92以外の上記微生物を見出すためには過度の試行錯誤を有するという
べきである。これらによれば,構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカ
ス20-92に限定して解釈されるべきであるから,被告方法における微
生物(●(省略)●)は,構成要件Bを充足しない。
(5) 争点1-5(構成要件Bの「微生物」は,糖を切断する能力を有する微生
物に限定されるか(構成要件Bの充足性))
【原告の主張】
構成要件Bの文言は, オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有
「
する微生物で発酵処理することを含む」というものであり,
「微生物」を,
配糖体から糖を切断する能力を有する微生物に限定していないから,被告
方法における微生物(●(省略)●)も,構成要件Bを充足する。被告ら
が指摘する意見書(乙B7の2)は,ダイゼイン配糖体を発酵に供する原
料とする場合は,その微生物は糖を切断する必要があると述べるにとどま
り,原料がダイゼイン配糖体以外のダイゼイン類である場合について言及
5 するものではない。
【被告らの主張】
本件特許の関連の分割出願における原告の意見書(乙B7の2)によれ
ば,本件発明の「微生物」は,ダイゼイン配糖体から糖を切断する能力を
有する微生物であると理解すべきである。しかして,被告方法における微
生物(●(省略)●)は,そのような能力を有しておらず,別途,糖を切
断する工程を必要とするから,被告方法は,構成要件Bを充足しない。
(6) 争点1-6(被告方法におけるアルギニンを含む培養液は,「アルギニン
を含む発酵原料」に当たるものといえるか(構成要件A-2,A-3の充足
性))
【原告の主張】
被告方法において,培養液に含まれるアルギニンも,ダイゼインを含む
処理液と共に混合して発酵処理されるから,
「発酵原料」に含まれるもので
あるといえ,被告方法は,構成要件A-2,A-3を充足する。このこと
は,本件特許請求の範囲の記載及び本件明細書の【0036】
【0222】
【0225】の記載からも裏付けられる。
すなわち,本件特許請求の範囲の記載からは,アルギニンは,発酵原料
にダイゼイン類と共に含まれていれば足りるものであるところ,本件明細
書には,
「大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に
応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,
(中略)アミ
ノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産生微生物として,
アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を使用する
場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得
られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。(
」 【0036】,
)
「粉末状大豆胚軸,アルギニン,及び水を混合して」【0222】 ,
( )「粉末
状大豆胚軸10重量%及びL-アルギニン0.1重量%を含む大豆胚軸溶
5 液」【0225】
( )などと記載されており,培地や培養液のように栄養成分
として用いるアルギニンであっても,発酵原料と特段区別されていないも
のである。
【被告らの主張】
被告方法におけるアルギニンは, 発酵原料」
「 には含まれず,被告方法は,
構成要件A-2,A-3を充足しない。すなわち,本件発明は物を生産す
る方法の発明であり,各構成要件は,経時的な工程(ステップ)を意味し
ているところ,構成要件A-1~A-3は,発酵工程の前に,ダイゼイン
類にアルギニンを添加しダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料を作
る工程であることが明らかである。しかして,被告方法におけるアルギニ
ンは,培養液として発酵処理液に存在するものであり,発酵処理工程に含
まれるものであって,発酵原料を作る工程においては存在していないもの
である。
(7) 争点2-1(無効理由1(優先権主張の効力がないことを前提とする乙B
3に基づく新規性・進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件発明には,優先権主張の効力がない。すなわち,本件発明の優先権
主張に係る基礎出願(乙B1の1~3。出願日平成19年6月13日)に
は,発酵原料が「大豆胚軸」の場合についてのみ記載されているところ,
この発明は,その後,発酵原料が「大豆胚軸」以外の「ダイゼイン類」の
場合に拡張され,以前のものとは質的に異なるものとして,一体不可分の
本件発明を構成するものとなったというべきである。そうすると,本件発
明全体につき,優先権主張の効力がなく,発酵原料を「大豆胚軸」とする
発明につき部分優先権を主張することもできない。また,上記基礎出願の
明細書(乙B1の1~3)においては,本件明細書(【0036】)記載の
「公知のスクリーニング方法」について一切記載がないから,上記基礎出
5 願には微生物としてラクトコッカス20-92が記載されているのみと
いうこととなる。この点からしても,本件発明には,優先権主張の効力が
ないというべきである。
そうすると,本件発明につき新規性・進歩性を判断する基準日は,本件
特許の優先日(平成19年6月13日)ではなく,親出願の出願日(平成
20年6月13日)となるから,本件発明は,乙B3(公開日平成19年
6月14日)に記載された発明であると認められ,本件発明には,乙B3
に基づき,新規性・進歩性欠如の無効理由があることとなる。
【原告の主張】
被告らの上記主張は,争う。本件発明については,優先権を主張するこ
とができるから,優先日に後れる乙B3(公開日平成19年6月14日)
が公知文献となることはなく,本件発明に,乙B3に基づく新規性・進歩
性欠如の無効理由は存しない。
(8) 争点2-2(無効理由2(本件発明の「オルニチン産生能力及びエクオー
ル産生能力を有する微生物」に関するサポート要件違反 実施可能要件違反)
・
の有無)
【被告らの主張】
ア サポート要件違反について
本件特許請求の範囲には,「オルニチン産生能力及びエクオール産生
能力を有する微生物」とあるのに対し,本件明細書には,
「ラクトコッカ
ス20-92」しか開示されておらず,本件明細書の記載をみても,ス
クリーニングすべき対象の範囲も不明であり,スクリーニング方法も特
定されておらず,スクリーニングによって本件特許請求の範囲に記載の
機能・作用を有する微生物が得られるかも不明である。そうすると,本
件特許には,本件特許請求の範囲の記載につき,特許法36条6項1号
に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたサポート要件
5 違反の無効理由(同法123条1項4号)が存することとなる。
イ 実施可能要件違反について
本件発明においては,本件明細書に具体的に開示された微生物(ラク
トコッカス20-92)以外の「オルニチン産生能力及びエクオール産
生能力を有する微生物」を見出すために,当業者において期待し得る程
度を超える試行錯誤を必要とする。そうすると,本件明細書の記載は,
当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載
したものであるとはいえず,特許法36条4項1号に規定する要件を満
たしていない特許出願に対してされた実施可能要件違反の無効理由(同
法123条1項4号)が存することとなる。
【原告の主張】
ア サポート要件違反について
被告らの上記主張は,争う。当業者は,本件明細書の記載及び出願当
時の技術常識によれば,エクオール産生能力を有する微生物を対象とし
て,これらの中から,さらに,アルギニンからオルニチンへの変換能力
を有するものを,公知のスクリーニング方法で特定し,
「オルニチン産生
能力及びエクオール産生能力を有する微生物」を取得できると十分理解
できる。そして,当業者は,このような微生物を用いることにより,本
件明細書の実施例に記載されたラクトコッカス20-92と同様に,本
件発明の課題を解決し得ると認識できるから,本件特許請求の範囲の記
載にサポート要件違反はなく,本件特許に無効理由はない。
イ 実施可能要件違反について
被告らの上記主張は,争う。当業者は,本件明細書の記載及び出願当
時の技術常識に基づいて,通常の試行錯誤の範囲内でスクリーニングを
行い得るものであって,本件明細書の記載に実施可能要件違反はなく,
本件特許に無効理由はない。
5 (9) 争点2-3(無効理由3(乙B4に基づく新規性欠如・乙B4を主引例と
する進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件発明は,次のとおり,乙B4(引用例2)記載の引用発明2と同一
の発明であるか,または,引用発明2に技術常識(アルギニンジヒドロラ
ーゼ経路)を適用することにより,容易に発明をすることができたもので
あるから,新規性又は進歩性が欠如し,本件特許には,特許法29条1項
3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
ア 乙B4(引用例2)には,次の発明が記載されている。
a-1 ダイゼイン,及び
a-2 アルギニン
a-3 を含む発酵原料を
b エクオール産生能力を有する微生物であるグラム陽性菌do03で
c 発酵処理することを含む,
d エクオールを含有する発酵物を製造する方法。
イ 本件発明と引用発明2とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
微生物が,本件発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産生能
力を有する微生物」であるのに対し,引用発明2は「エクオール産生
能力を有する微生物であるグラム陽性菌do03」である点。
(イ) 相違点②
製造される発酵物が,本件発明は「オルニチン及びエクオールを含
有する発酵物」であるのに対し,引用発明2は「エクオールを含有す
る発酵物」である点。
ウ 相違点①,②について
相違点①,②は,次に照らせば,乙B4(引用例2)に記載されている
5 に等しい事項であるか(新規性欠如),技術常識(アルギニンジヒドロラ
ーゼ経路)を適用して,当業者が容易に想到することができた事項であ
る(進歩性欠如)。
(ア) すなわち,引用例2には,do03が成長のためにアルギニンを用
いており,アルギニンジヒドロラーゼ経路を用いてエネルギーを得る
こと,アルギニンの菌代謝によりNH 3 が産生されることが記載され
ているところ,乙B5には,アルギニンジヒドロラーゼ経路を介して,
アルギニンからオルニチンとNH 3 が産生することが記載されている。
そして,かかるアルギニンジヒドロラーゼ経路は,本件特許の特許出
願時,技術常識となっていた(乙B15の1~3)。そうすると,当業
者であれば,本件特許の特許出願時,引用例2記載のdo03が,ア
ルギニンからアルギニンジヒドロラーゼ経路を用いてエネルギーを得
る過程においてオルニチンを産生していること(相違点①) 引用例2
,
の発酵物が,オルニチンを含有していること(相違点②)は,容易に
理解することができた事項である。
(イ) 引用例2の再現実験(乙B6)においては,アルギニンを培地に添
加するか否かにかかわらず,ほぼ等量のエクオールが生成したところ,
アルギニンを添加した培地ではオルニチンが生成し,アルギニンを添
加しない培地でも少量のオルニチンが生成した。そうすると,引用例
2に接した当業者が,再現実験をすれば,引用例2記載のdo03が
オルニチン産生能力を有し(相違点①) 引用例2の発酵物にはオルニ
,
チンが含まれること(相違点②)は,容易に確認することができる事
項である。
なお,引用例2には,検体を振盪したかどうかが記載されていない
ことからすれば,静置培養と振盪培養があり得るところ,再現実験(乙
B6)では振盪培養を選択している。しかし,静置培養か振盪培養か
5 では,エクオール変換率に差異があるというだけであり,エクオール
を産生する点,オルニチンを産生する点の確認には,影響がないもの
である。
【原告の主張】
本件発明は,引用発明2と対比して,少なくとも上記【被告らの主張】
イ記載のとおりの相違点①,②を有するが,次のア~ウに照らせば,上記
相違点①,②が当業者にとり容易に理解できた事項であるとはいえないか
ら,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①,②が引用発明2に基
づいて容易に想到することができたものであるともいえないから,進歩性
も欠如していない。したがって,本件特許に,特許法29条1項3号,2
項に違反する無効理由(同法123条1項2号)はない。
ア 確かに,乙B4(引用例2)には,①アルギニンの菌代謝により,N
H3 が産生され,それらによって培養ブロスpHが増加したこと,②ア
ルギニン追加により,OD600
(600nmにおける吸光度)が増加し,
それによって,株do03が成長のためにアルギニンを用いている,と
の記載がされている。
しかし,上記①については,引用例2の表1には,pHの測定値が記
載されているものの,かかるpHの増加がNH 3 に由来するものかどう
かについて確認されておらず,仮にNH3 に由来するものであるとして
も,アルギニンジヒドロラーゼ経路におけるシトルニンまでで反応が止
まっている可能性もあり,オルニチンが生成されていることの確認には
ならない。また,上記②については,OD 600 の増加がなぜアルギニン
の菌代謝を示すのかについて何ら説明されていない。
イ また,被告らが,アルギニンジヒドロラーゼ経路が技術常識であった
ことの根拠とする乙B15の1~3に関しても,単にアルギニンジヒド
ロラーゼ経路についての説明があるのみであって,引用例2で用いられ
5 ているグラム陽性菌であるdo03において,かかるアルギニンジヒド
ロラーゼ経路が現に機能することについて何ら言及していない。
ウ さらに,次に照らせば,被告らが主張する再現実験(乙B6)は,引
用例2の再現実験とは到底いえないものである。
まず,引用例2では,ダイゼインの供給源として,
「フジッコ社製」フ
ジフラボンP10を用いているが,上記再現実験では,
「LC Labo
ratories製」
(Lot DA-121)を用いており,発酵原料
がそもそも相違するし,前培養の条件も異なっている。また,得られた
実験結果についても,引用例2の場合は,Table1によれば,アル
ギニンを培地に添加することによりエクオールの産生量が約4倍に増加
する結果となっているのに対し,再現実験(乙B6)の場合は,培地へ
のアルギニンの無添加,添加のいずれの場合も,エクオール濃度は39.
6mg/Lであり,アルギニンの添加にかかわらず,ほぼ等量のエクオ
ールが生成する結果となっており,このことからすれば,両者の結果は
明らかに乖離している。
(10) 争点2-4(無効理由4(乙B16に基づく新規性欠如・乙B16を主引
例とする進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件発明は,次のとおり,乙B16(引用例3-1)記載の引用発明3
と同一の発明であるか,または,引用発明3に基づいて容易に発明をする
ことができたものであるから,新規性又は進歩性が欠如し,本件特許には,
特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)
がある。
ア 乙B16(引用例3-1)には,次の発明が記載されている。
a-1 ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインから
なる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類
5 a-3 を含む発酵原料(豆乳を含むダイゼイン含有基礎培地など)を
b エクオール産生能力を有する微生物であるラクトコッカス20-9
2(FERM BP-10036 号)で
c 発酵処理することを含む,
d エクオールを含有する発酵物を製造する方法。
イ 本件発明と引用発明3とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
微生物が,本件発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産生能
力を有する微生物」であるのに対し,引用発明3は「エクオール産生
能力」を有する微生物である「ラクトコッカス20-92」
(FERM BP-
10036 号)である点。
(イ) 相違点②
製造される発酵物が,本件発明は「オルニチン及びエクオールを含
有する発酵物」であるのに対し,引用発明3は「エクオールを含有す
る発酵物」である点。
(ウ) 相違点③
発酵原料が,本件発明は「アルギニン」を含むのに対し,引用発明
3は「アルギニン」を含むことを明示していない点。
ウ 相違点①~③は,次に照らせば,乙B16(引用例3-1)に記載さ
れているに等しい事項であるか(新規性欠如),技術常識(アルギニンジ
ヒドロラーゼ経路)ないし乙B18(引用例3-2)を適用して,当業
者が容易に想到することができた事項である(進歩性欠如)。
(ア) 相違点①については,本件明細書において,ラクトコッカス20-
92が,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」
「
として開示されている。また,引用例3-2には,ラクトコッカス・
ガルビエのアルギニンジヒドロラーゼは+と記載され,当業者は,ラ
5 クトコッカス・ガルビエはオルニチン産生能力を備えると認識できる
から,かかるラクトコッカス・ガルビエに含まれるラクトコッカス2
0-92についても,オルニチン産生能力を備えると認識できる。
(イ) 相違点②については,引用例3-1には,発酵原料として豆乳,大
豆,牛乳が記載され,これらがアルギニンを含むことは周知であるか
ら,当業者において,引用発明3の発酵原料にアルギニンが含まれる
ことは自明である。そして,ラクトコッカス20-92は,
「オルニチ
ン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物」であるから,引
用発明3の発酵原料に豆乳,大豆又は牛乳を用いるときは,客観的に
は,豆乳,大豆又は牛乳に含まれるアルギニンからオルニチンを産生
し,オルニチンを含有する発酵物を製造していることとなる。
(ウ) 相違点③については,引用例3-1で,発酵原料として豆乳,大豆,
牛乳を用いる場合,それらのいずれについてもアルギニンが含まれる
のは周知である(乙B17の1~3)。
【原告の主張】
本件発明は,引用発明3と対比して,少なくとも上記【被告らの主張】
イ記載のとおりの相違点①~③を有するが,次のア~ウに照らせば,上記
相違点①~③が当業者にとり容易に理解できた事項であるとはいえないか
ら,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①~③が引用発明3に基
づいて容易に想到することができたものであるともいえないから,進歩性
も欠如していない。したがって,本件特許に,特許法29条1項3号,2
項に違反する無効理由(同法123条1項2号)はない。
ア 相違点①については,本件明細書の記載や乙B18(引用例3-2)
を根拠に,乙B16(引用例3-1)に開示されているに等しい事項と
いうことはできない。すなわち,本件明細書の記載については,本件特
許の優先日時点では開示されていない。また,引用例3-2については,
5 ラクトコッカス・ガルビエのADH(アルギニンジヒドロラーゼ)活性
が+と記載されていても,ラクトコッカス20-92も同様にADH活
性が+とは記載されておらず,ADH活性が+であるからといって,必
ずしもオルニチンを含む発酵物を得られるとは限らない。
イ 相違点②については,仮に一時的にオルニチンが生成しても,オルニ
チンは乳酸菌により分解されることが知られていたから(甲7,8),一
時的に生成したオルニチンは分解され,発酵物には残存していない可能
性がある。また,仮に第三者が引用例3-1の再現実験を行ったとして
も,引用例3-1の試験例1の豆乳や牛乳のアルギニン含有量は記載さ
れておらず,オルニチンの原料となるアルギニンの存在には着目されて
いないものであって,当業者であっても,オルニチンの生成を確認しよ
うとする意図がなければ,その生成の有無は分かり得ない。
ウ 相違点③については,一般に豆乳や牛乳にアルギニンが含まれ得ると
しても,引用例3-1の試験例の豆乳や牛乳中のアルギニン含有量の記
載はなく,実際に発酵によってオルニチンが生成し得る程度の量か否か
は不明であるし,大豆については例示されているだけで具体的開示はな
い。
(11) 争点2-5(無効理由5(乙B19の1に基づく新規性欠如・乙B19の
1を主引例とする進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件発明は,次のとおり,乙B19の1(引用例4-1)記載の引用発
明4に記載された発明であるか,または,引用発明4に基づいて当業者が
容易に発明をすることができたものであるから,新規性又は進歩性が欠如
し,本件特許には,特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同
法123条1項2号)がある。
ア 乙B19の1(引用例4-1)には,次の発明が記載されている。
5 a-1 ダイゼイン配糖体,ダイゼインおよびジヒドロダイゼインから
なる群から選ばれる少なくとも1種のダイゼイン類
a-3 を含む発酵原料を
b エクオール産生能力を有する微生物である,
① BIFIDOBACTERIUM LACTIS,
② LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS,
③ LACTOCOCCUS LACTIS,
④ ENTEROCOCCUS FAECIUM
⑤ LACTOBACILLUS CASEI, 及び,
⑥ LACTOBACILLUS SALIVARIUS を含む「混合培養物」で
c 発酵処理することを含む,
d エクオールを含有する発酵物を製造する方法。
イ 本件発明と引用発明4とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
微生物が,本件発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産生能
力を有する微生物」であるのに対し,引用発明4はエクオール産生能
力を有する微生物である,
① BIFIDOBACTERIUM LACTIS,
② LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS,
③ LACTOCOCCUS LACTIS,
④ ENTEROCOCCUS FAECIUM
⑤ LACTOBACILLUS CASEI, 及び,
⑥ LACTOBACILLUS SALIVARIUS を含む「混合培養物」である点。
(イ) 相違点②
製造される発酵物が,本件発明は「オルニチン及びエクオールを含
有する発酵物」であるのに対し,引用発明4は「エクオールを含有す
5 る発酵物」である点。
(ウ) 相違点③
発酵原料が,本件発明は「アルギニン」を含むのに対し,引用発明
4は「アルギニン」を含むことを明示していない点。
ウ 相違点①~③は,次に照らせば,乙B19の1(引用例4-1)に記
載されているに等しい事項であるか(新規性欠如),乙B20(引用例4
-2)を適用するなどして,当業者が容易に想到することができた事項
である(進歩性欠如)。
(ア) 相違点①について
引用例4-2には,ストレプトコッカスラクチス(ラクトコッカス
ラクチスのこと)が,オルニチンなどを産生するアルギニンデイミナ
ーゼ経路を介してアルギニンを代謝すること,すなわち,アルギニン
をオルニチンに代謝する能力を有していることが記載されている。そ
うすると,これを踏まえて引用例4-1に接した当業者は,ラクトコ
ッカスラクチスが,大豆由来の発酵原料に含まれるアルギニンを代謝
し,オルニチンを産生していることを容易に認識するものである。
(イ) 相違点②について
引用発明4の発酵原料の豆乳は,アルギニンを含んでいるものであ
るところ,上記のとおり,引用発明4の混合培養物がアルギニンから
オルニチンを産生する能力を備えることが実質的に開示されているか
ら,当業者は,製造される発酵物が,オルニチンとエクオールを含有
する発酵物となることを容易に認識するものである。
(ウ) 相違点③について
引用例4-1の実施例5には,発酵原料として「ほぼ20mg/l
のダイゼインを含むダイゼイン強化豆乳」が開示されているところ,
豆乳にアルギニンが含まれるのは周知である(乙B17の1)。
5 【原告の主張】
本件発明は,引用発明4と対比して,少なくとも上記【被告らの主張】
イ記載のとおりの相違点①~③を有するが,次のア~ウに照らせば,上記
相違点①~③が当業者にとり容易に理解できた事項であるとはいえない
から,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①~③が引用発明4に
基づいて容易に想到することができたものであるともいえないから,進歩
性も欠如していない。したがって,本件特許に,特許法29条1項3号,
2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)はない。
ア 相違点①について
被告らは,乙B20(引用例4-2)について指摘するが,これには,
ラクトコッカスラクチスがアルギニンデイミダーゼ経路を介してアルギ
ニンを代謝し得ることが記載されるのみで,乙B19の1(引用例4-
1)のラクトコッカスラクチスがオルニチン産生能力を有していること
まで明示的に記載されていない。また,ラクトコッカスラクチス以外に
も複数の微生物が含まれている引用例4-1の「混合培養物」が,実際
にオルニチンを生成することは,具体的に確認されていない。
イ 相違点②について
豆乳を発酵原料としても,必ずしも発酵物中にオルニチンが含まれる
とはいえない。また,仮に第三者が引用例4-1の実施例5の再現実験
を行ったとしても,引用例4-1の実施例5は,ダイゼイン強化豆乳の
アルギニン含有量について記載されておらず,アルギニンの存在も着目
されておらず,オルニチンについても言及していない。そうすると,再
現実験でオルニチンの生成を確認しようとする意図は生じ得ず,オルニ
チンの生成を測定により確認しようとする意図がなければ,その生成の
有無は分かり得ない。
ウ 相違点③について
5 引用例4-1には,実施例5の「ほぼ20mg/lのダイゼインを含
むダイゼイン強化豆乳」がいかなる構成のものかは開示されていない。
(12) 争点2-6(無効理由6(乙B24に基づく新規性欠如・乙B24を主引
例とする進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件発明は,次のとおり,乙B24(引用例5)記載の引用発明5と同
一の発明であるか,または,引用発明5に基づいて当業者が容易に発明を
することができたものであるから,新規性又は進歩性が欠如し,本件特許
には,特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同法123条1
項2号)がある。
ア 乙B24(引用例5)には,次の発明が記載されている。
a-6-1 基質としてダイゼイン,例えば豆乳
a-6 を含む発酵原料を
a-6-2 変法GAM培地で
b-6 エクオール産生能力を有する微生物であるストレプトコッカス
インターメディアス菌,特にストレプトコッカスA6G-225
(FERM BP-6437)で
c-6 発酵処理することを含む,
d-6 エクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,
e-6 粉末状の発酵物の乾燥重量1g当たり,1mg~3mgのエク
オールを生成し,
f-6 前記発酵物が,例えば飲料,乳製品,発酵乳,バー,顆粒,粉
末,カプセル,錠剤等の食品形態として用いられる,製造方法。
イ 本件発明と引用発明5とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
微生物が,本件発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産生能
5 力を有する微生物」であるのに対し,引用発明5は「ストレプトコッ
カスA6G-225」である点。
(イ) 相違点②
製造される発酵物が,本件発明はオルニチンを含有するのに対し,
引用発明5はオルニチンを含有するか不明である点。
(ウ) 相違点③
発酵原料が,本件発明は「アルギニン」を含むのに対し,引用発明
5はアルギニンを含むか不明である点。
ウ 相違点①~③は,次に照らせば,乙B24(引用例5)に開示されて
いるに等しい事項であるか(新規性欠如) これに基づいて当業者が容易
,
に想到することができた事項である(進歩性欠如)。
(ア) 相違点①については,本件明細書の【0032】 甲18によれば,
,
エクオール産生微生物である「ストレプトコッカスA6G-225」
は,オルニチン産生能力を有することが示されているから,乙B24
は,エクオール産生能力及びオルニチン産生能力を有する微生物を用
いることを実質的に開示している。
(イ) 相違点②については,上記(ア)に照らせば,当然にオルニチンが産
生されるものである。
(ウ) 相違点③については,引用例5は,「変法GAM培地」で発酵処理
することを開示するところ,
「変法GAM培地」はアルギニンを含んで
いる(乙B45) また,
。 引用例5で発酵原料として用いられた「豆乳」
がアルギニンを含むことは,当業者において知られている(乙B17
の1)。
【原告の主張】
被告らの上記主張は,民訴法157条1項に規定する時機に後れた攻撃
防御方法に当たるものとして,却下を免れない。
5 また,仮にそうでないとしても,本件発明は,引用発明5と対比して,
少なくとも上記【被告らの主張】イ記載のとおりの相違点①~③を有する
が,次のア,イに照らせば,上記相違点①~③が引用例5(乙B24)に
開示されたに等しい事項であるとはいえないから,新規性は欠如しておら
ず,また,上記相違点①~③が引用発明5に基づいて容易に想到すること
ができたものであるともいえないから,進歩性も欠如していない。したが
って,本件特許に,特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同
法123条1項2号)はない。
ア 相違点①,②について
引用例5には,エクオールと共にオルニチンを含有する発酵物を得る
ことは何ら開示されておらず,また,オルニチン自体に関する記載も何
らされていない。また,当業者は,ストレプトコッカスA6G-225」
「
がエクオールに加えてオルニチンを産生する能力を有することを,本件
明細書を見て初めて理解することができるものである。さらに,甲18
の実験結果についても,あくまで無効理由2(サポート要件)との関係
で,本件明細書の実施例で用いられている「ラクトコッカス20-92」
以外にも,エクオール・オルニチン産生菌が実在することを示すための
ものであって,本件明細書の記載を前提とするものであるから,このよ
うな甲18の実験結果を,新規性や進歩性の議論において参照すること
は許されない。
イ 相違点③について
引用例5には,あくまで好ましい例として「変法GAM培地」に言及
されているにすぎず(乙B24の28頁9~18行) 被告らの引用する
,
実施例3において,
「変法GAM培地」が用いられたとは具体的に記載さ
れていない。そして,引用例5中において別個に記載されている異なる
実施態様を組み合わせて1つの引用発明を認定することは許されない。
5 また,仮に一般論として豆乳にアルギニンが含まれ得るとしても,引
用例5の実施例3に用いられている「豆乳」についてアルギニン含有量
の記載はなく,実際に,発酵処理によってオルニチンが生成し得る程度
の量であるか不明である。
さらに,仮に引用例5の培養系において一時的にオルニチンが生成し
たとしても,発酵により分解されて発酵物には残存しない可能性がある
と理解することが,当業者の常識であるといえる。
(13) 争点2-7(無効理由7(本件特許に係る特許出願の分割要件違反による
新規性・進歩性欠如)の有無)
【被告らの主張】
本件特許は,分割出願に係るものであり,分割出願の遡及効により親出
願の出願日又は優先日を基準として新規性,進歩性等が判断されているが,
本件特許に係る特許出願は,分割出願の要件を満たさず,分割出願の遡及
効を得ることができない。
すなわち,分割出願直前の特許出願(乙B47)において,「大豆胚軸」
に「アルギニン」を添加して発酵原料とすることは記載されているが,
「ダ
イゼイン類」に「アルギニン」を添加して発酵原料とすることは記載され
ていない。しかして,本件発明の構成要件A-1は,
「ダイゼイン配糖体,
ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくと
も1種のダイゼイン類」というものであるから,本件発明には,新規事項
が記載されていることとなる。つまり,本件特許に係る特許出願は,分割
出願の要件を満たさないから,分割出願の現実の出願日(平成29年6月
28日)で新規性,進歩性が判断されることとなる。そうすると,本件発
明を,乙B2(出願日平成20年6月13日)と対比すれば,本件発明は,
乙B2に記載された発明であるか,または,乙B2に記載された発明に基
づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,新規性又
5 は進歩性が欠如し,本件特許には,特許法29条1項3号,2項に違反す
る無効理由(同法123条1項2号)がある。
【原告の主張】
被告らの上記主張は,民訴法157条1項に規定する時機に後れた攻撃
防御方法に当たるものとして,却下を免れない。
また,仮にそうでないとしても,被告らの上記主張は,争う。本件発明
には,新規事項が記載されていることはなく,本件特許に係る特許出願は,
分割出願の要件を満たしている。
(14) 争点3-1(訂正要件の具備)
【原告の主張】
訂正事項1~4は,いずれも,訂正要件を具備するものである。
ア 訂正事項1は,
「少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,アルギニン
を含む発酵原料」にアルギニンを別途添加する工程を特定したものであ
り,本件明細書の【0036】【0050】【0226】に基づくもので
ある。すなわち,
「大豆胚軸」は「少なくとも1種のダイゼイン類」の代
表例であり,これにアルギニンを添加することが本件明細書の【003
6】等に記載されている以上,本件明細書には,
「少なくとも1種のダイ
ゼイン類」にアルギニンを添加することが記載されているものであって,
訂正事項1は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであり,新規
事項とはいえない。
イ 訂正事項2は,
「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」が粉末
状であることを特定したものであり,本件明細書の【0144】に基づ
くものであって,本件明細書に記載した事項の範囲内のものである。
ウ 訂正事項3は,発酵物の用途が食品素材であることを特定したもので
あり,本件明細書の【0010】
【0023】
【0027】
【0144】
【0
148】に基づくものであって,本件明細書に記載した事項の範囲内の
5 ものである。
エ 訂正事項4は,オルニチンとエクオールの生成量を特定したものであ
り,本件明細書の【0042】
【0050】に基づくものである。そして,
本件明細書の【0042】
【0050】には,エクオール及びオルニチン
含有量の好ましい範囲が記載されているものであって,訂正事項4は,
本件明細書に記載した事項の範囲内のものであり,新規事項とはいえな
い。
オ 訂正事項1~4は,いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とし,実質
上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
訂正事項1~4以外の点は,訂正はされていない。構成要件B’-2
についても,訂正前の請求項から訂正されていないから,新規事項とは
いえない。
【被告らの主張】
ア 訂正事項1は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは
いえない。すなわち,本件明細書において,
「アルギニンを添加」する対
象は,「大豆胚軸」が明記されているだけで,「ダイゼイン類」に「アル
ギニンを添加する」ことは記載されていない。原告が指摘する本件明細
書の【0036】【0050】【0226】は,いずれも「大豆胚軸」に
「アルギニンを添加する」ことを記載するのみである。
イ 訂正事項2は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは
いえない。すなわち,本件明細書の【0144】【0222】【022
, ,
5】【0229】は,大豆胚軸発酵物の粉末化処理に関する記載にすぎ
,
ず,
「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群
から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」の発酵物の粉末化処理
に関する記載ではないから,訂正の根拠とはならない。
ウ 訂正事項3は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは
5 いえない。すなわち,本件明細書の【0042】【0050】には,
, 「発
酵物の乾燥重量1g当たり1mg以上」に該当する量のエクオールを生
成すること及び「発酵物の乾燥重量1g当たり8mg以上」に該当する
量のオルニチンを生成することに関する記載はなく,エクオール含有量
が「1mg以上」及びオルニチン含有量が「8mg以上」であればどの
ような値であってもよいことなどの開示はない。また,本件訂正発明で
は,微生物を用いた発酵において通常用いられる培地や発酵原料として
用いられる大豆胚軸に含まれるアルギニンとは区別する意味で,ダイゼ
イン類にアルギニンを添加する工程を含むことが特定されたものと考え
られるが,本件明細書には,大豆胚軸以外のダイゼイン類を発酵原料と
する際に「8mg以上」のオルニチンを得る手段に関する記載がない。
エ 訂正事項4は,本件明細書に記載した事項の範囲内のものであるとは
いえない。すなわち,本件明細書の【0010】
【0023】
【0027】
【0144】
【0148】には,オルニチン,エクオールの生成量の数値
範囲は記載されていない。また,本件明細書の【0042】には,エク
オール含有量について,
「1~20mg,好ましくは2~12mg,更に
好ましくは5~8mg」と記載されているだけで,
「1mg以上」であれ
ばどのような値でもよいことは開示されていない。さらに,本件明細書
の【0050】には,オルニチン含有量について,
「5~20mg,好ま
しくは8~15mg,更に好ましくは9~12mg」と記載されている
だけで,
「8mg以上」であればどのような値でもよいことは開示されて
いない。
オ 構成要件B’-2は,本件訂正前から規定されているが,本件明細書
においては,本件訂正前も微生物としてラクトコッカス20-92しか
記載されておらず,ラクトコッカス20-92以外の微生物によりエク
オールとオルニチンの特定の産生量が得られることは記載されていない
5 から,上記微生物については,本件明細書に記載した事項の範囲内のも
のであるとはいえず,新規事項の追加に当たるものである。
(15) 争点3-2(無効理由1の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正に係る構成は,いずれも,本件特許の優先権主張の基礎出願の
明細書に記載されており,本件訂正発明については,優先権を主張するこ
とができるから,優先日に後れる乙B3(公開日平成19年6月14日)
が公知文献となることはなく,そもそも本件訂正発明に,乙B3に基づく
新規性・進歩性欠如の無効理由は存しない。
【被告らの主張】
本件特許の優先権主張の基礎出願には,「少なくとも1種のダイゼイン
類」にアルギニンを添加すること(訂正事項1)「少なくとも1種のダイ
,
ゼイン類」から発酵物が得られ,発酵物中にエクオール及びオルニチンが
特定量で含まれること(訂正事項4)は記載されていない。
(16) 争点3-3(無効理由2の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明は,本件発明を減縮したものであるから,訂正前の本件発
明と同様に,サポート要件及び実施可能要件を満たしており,そもそも無
効理由2は存しない。被告らの主張は,いずれも失当である。
【被告らの主張】
本件明細書には,オルニチン8mg以上,エクオール1mg以上であれ
ば上限がないことは記載されていないから,本件訂正発明は,サポート要
件に違反する。また,本件明細書の記載から,乾燥重量1g当たり「8m
g以上」の全ての高濃度のオルニチン,
「1mg以上」の全ての高濃度のエ
クオールの製造方法を理解することはできないから,本件訂正発明は,実
施可能要件に違反する。
5 すなわち,本件明細書の【0042】には,エクオール1~20mgと
記載されているが,上記20mgを超えた値をどのように得るのか,どの
ような原料,微生物,発酵処理でこれを達成できるのか開示されていない。
また,本件訂正発明では,発酵原料であるダイゼイン類の量についての構
成はなく,その量が大豆胚軸に含まれる量とはかけ離れる場合もあり得る
ところ,本件明細書においてはその場合の製造条件について開示がなく,
当業者が所定量のエクオールを得られる保証はない。これらのことは,オ
ルニチン含有量についても,同様である。
(17) 争点3-4(無効理由3の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明は,乙B4(引用例2)記載の引用発明2と対比して,少
なくとも次のア記載のとおりの相違点①~④を有するが,次のイ~エに照
らせば,上記相違点①~④が当業者にとり容易に理解できた事項であると
はいえないから,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①~④が引
用発明2に基づいて容易に想到することができたものであるともいえな
いから,進歩性も欠如していない。したがって,本件訂正後の本件特許(以
下「本件訂正特許」という。)に,特許法29条1項3号,2項に違反する
無効理由(同法123条1項2号)はない。
ア 本件訂正発明と引用発明2とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
本件訂正発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有
する微生物」を用いるのに対し,引用発明2のdo03は,オルニチ
ン産生能力を有するか不明である点。
(イ) 相違点②
本件訂正発明は「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発
酵物」が得られるのに対し,引用発明2の発酵物は粉末状ではなく,
5 オルニチンを含有するかも不明である点。
(ウ) 相違点③
本件訂正発明は「前記発酵処理により,前記発酵物の乾燥重量1g
当たり,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」
するのに対し,引用発明2は,発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニ
チンとエクオールの生成量が不明である点。
(エ) 相違点④
本件訂正発明は,「発酵物が食品素材として用いられるものである」
のに対し,引用発明2は,発酵物の用途が不明である点。
イ 相違点①,②について
前記(9)の【原告の主張】に記載したとおりである。
また,相違点②の「粉末状」については,引用例2においては,学術
的な観点からエクオールの産生機構を解明することが主眼とされており,
本件訂正発明のように,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物を
機能性食品素材として用いる際に好適な粉末状とすることは何ら想定さ
れておらず,当業者において,これを「粉末状」とする動機付けはない。
ウ 相違点③について
引用例2においては,学術的な観点からエクオールの産生機構を解明
することが主眼とされており,発酵物を食品素材として用いることは何
ら想定されておらず,オルニチン及びエクオールが生理活性物質である
ことにも着目されていないから,引用発明2において,これらの成分の
含有量を特定の範囲とする動機付けとなるものはない。
また,被告らは,再現実験(乙B29。以下「乙B29実験」という。)
を行ったとするが,前記のとおり,被告らが主張する再現実験(乙B6)
は,引用例2の再現実験とは到底いえないものである以上,これと同様
である乙B29も,再現実験とはいえない。
5 さらに,乙B29実験で,ダイゼイン濃度を増加させることでエクオ
ール生成量が本件訂正発明の数値範囲内になり得るとしても,そもそも
引用例2において,エクオール生成量を増加させる動機付けが存在しな
い以上,乙B29実験の結果は意味がないものである。
エ 相違点④について
引用例2は,発酵物を食品素材として用いることは想定していない。
このことは,引用例2のdo03がラット由来であることからも裏付け
られる。
【被告らの主張】
本件訂正発明は,次のとおり,引用発明2と同一の発明であるか,また
は,引用発明2に技術常識(アルギニンジヒドロラーゼ経路)を適用する
ことにより,容易に発明をすることができたものであるから,新規性又は
進歩性が欠如し,本件訂正特許には,特許法29条1項3号,2項に違反
する無効理由(同法123条1項2号)がある。
ア 相違点①,②について
前記(9)の【被告らの主張】に記載したとおりである。
また,粉末状とするかどうか(例えば,粉末状ではなく液状とするか
どうか)は設計事項であり,当業者であれば,保存性,取扱いの利便性
などの観点から,粉末状とするのは当然である(乙B28の2)。
イ 相違点③について
引用例2の再現実験(乙B29)において,ダイゼイン濃度を変化さ
せてオルニチンとエクオールの産生量を確認したところ,オルニチン産
生量は8mg以上であったから,
「8mg以上」について引用例2に開示
されているに等しいといえる。そして,エクオール産生量は,0.62
mg又は0.75mgであるが,本件明細書の【0042】には,
「エク
オール量」は,「エクオールが1~20mg,好ましくは2~12mg,
5 さらに好ましくは5~8mg」とmg単位であるため,上記結果もmg
単位とすると1mgとなるから,
「1mg以上」である点も,引用例2に
開示されているに等しい事項である。
また,仮にそうでないとしても,引用例2は,エクオールを産生する
ことを目的とした論文であり,本件特許に係る特許出願時,エクオール
を産生することを見出した当業者であれば,その産生量をなるべく多く
することは,当然なし得ることである。
(18) 争点3-5(無効理由4の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明は,引用例3-1(乙B16)記載の引用発明3と対比し
て,少なくとも次のア記載のとおりの相違点①~④を有するが,次のイ~
エに照らせば,上記相違点①~④が当業者にとり容易に理解できた事項で
あるとはいえないから,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①~
④が引用発明3に基づいて容易に想到することができたものであるとも
いえないから,進歩性も欠如していない。したがって,本件訂正特許に,
特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)
はない。
ア 本件訂正発明と引用発明3とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
本件訂正発明は,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有
「
する微生物」を用いるのに対し,引用発明3の「ラクトコッカス20
-92(FERMBP-100036 号)は,オルニチン産生能力を有するか不明
である点。
(イ) 相違点②
本件訂正発明は,オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発
「
酵物」が得られるのに対し,引用発明3の発酵物は,オルニチンを含
5 有するか不明である点。
(ウ) 相違点③
本件訂正発明は,
「ダイゼイン配糖体,…から選択される少なくとも
1種のダイゼイン類にアルギニンを添加すること」を含むのに対し,
引用発明3は,そのような工程を含まない点。
(エ) 相違点④
本件訂正発明は,発酵処理により,
「 …発酵物の乾燥重量1g当たり,
8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」するの
に対し,引用発明3は,発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニチンと
エクオールの生成量が記載されていない点。
イ 相違点①,②について
前記(10)の【原告の主張】に記載したとおりである。
ウ 相違点③について
引用例3-1には,発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は開示
されていない。また,引用例3-1では,エクオールに加えてオルニチ
ンを含有する発酵物を得るという動機がないから,オルニチンに変換さ
れるアルギニンを発酵原料に添加するという動機もない。また,引用例
3-1の試験例1の発酵原料である豆乳や牛乳にアルギニンが含まれて
いても,さらに別途アルギニンを添加する動機はない。
エ 相違点④について
引用例3-1には,オルニチンについて触れるところがないのである
から,相違点④は,当業者が容易に想到するとはいえない。
また,相違点④で相違する本件訂正発明と引用発明3とは,次のとお
り,実質的に同一であるとはいえない。
すなわち,原告は,引用発明3につき,引用例3-1(乙B16の2
3,24頁の「試験例1」)の再現実験を行った(以下,この再現実験を
5 「甲15実験」という。。その結果,発酵原料が豆乳の場合,オルニチ
)
ン生成量は1.19~3.61mgであり,また,発酵原料が牛乳の場
合も,オルニチン生成量は0.11mgであり,いずれの場合も「8m
g以上」を大きく下回った。また,エクオール生成量も,発酵原料が豆
乳と牛乳の場合のいずれも,
「1mg以上」を下回った。これらの再現実
験の結果からすると,引用例3-1には,発酵物の乾燥重量1g当たり,
「
8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオール」を含有する発酵
物が得られておらず,相違点④は何ら開示されていないものである。
【被告らの主張】
ア 本件訂正発明は,次のとおり,引用発明3と同一の発明であるか,ま
たは,引用発明3に基づき容易に発明をすることができたものであるか
ら,新規性又は進歩性が欠如し,本件訂正特許には,特許法29条1項
3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
イ 相違点①,②について
前記(10)の【被告らの主張】に記載したとおりである。
ウ 相違点③について
豆乳や大豆が,アルギニン,ダイゼイン類を含むことは,技術常識で
あるから,相違点③は,引用例3-1に記載されているに等しい。また,
引用例3-1の試験例1では,発酵原料として豆乳だけでなく,
「ダイゼ
イン含有基礎培地(BHIブロスにダイゼインを10μg/mlなる量
で添加したもの) も開示されており,
」 これにはアルギニンが存在するか
ら(乙B30の1~3),これも「ダイゼイン類にアルギニンを添加」し
たものに対応するといえる。
エ 相違点④について
エクオールとオルニチンの生成量に係る相違点④については,発酵原
料を多くすれば構成要件D’
(相違点④)の範囲内となるものであり,構
5 成要件D’に臨界的意義もないから,実質的には相違点とはいえない。
また,構成要件D’は下限値しか特定していないところ,当業者におい
て,エクオール及びオルニチンが産生することを認識する以上,産生量
を増やそうとするのは当業者の通常の期待にすぎない。また,それぞれ
の下限値に顕著な効果があるともいえない。
また,甲15実験については,豆乳と牛乳しか行っておらず,ダイゼ
イン含有基礎培地を発酵原料とする場合,エクオールとオルニチンの産
生量が所定量以下であることは示されていない。さらに,豆乳と牛乳を
発酵原料とする場合であっても,被告らが発酵物の乾燥重量1g当たり
について換算したところによれば,オルニチンの産生量は8mg以上で
あり構成要件D’を満たすし,エクオールの産生量は0.258mgで
あるものの,引用例3-1はエクオールを産生する方法であるから,発
酵原料を増やしてエクオールを多く産生しようとすることは当業者が当
然行う行為である。
(19) 争点3-6(無効理由5の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明は,引用例4-1(乙B19の1)記載の引用発明4と対
比して,少なくとも次のア記載のとおりの相違点①~④を有するが,次の
イ~エに照らせば,上記相違点①~④が当業者にとり容易に理解できた事
項であるとはいえないから,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点
①~④が引用発明4に基づいて容易に想到することができたものである
ともいえないから,進歩性も欠如していない。したがって,本件訂正特許
に,特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項
2号)はない。
ア 本件訂正発明と引用発明4とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
5 本件訂正発明では,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力
を有する微生物」を用いるのに対し,引用発明4はエクオール産生能
力を有する微生物である,
① BIFIDOBACTERIUM LACTIS,
② LACTOBACILLUS ACIDOPHILUS,
③ LACTOCOCCUS LACTIS,
④ ENTEROCOCCUS FAECIUM
⑤ LACTOBACILLUS CASEI, 及び,
⑥ LACTOBACILLUS SALIVARIUS を含む「混合培養物」を用いてお
り,かかる「混合培養物」がオルニチン産生能力を有するか不明で
ある点。
(イ) 相違点②
本件訂正発明では, オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の
「
発酵物」が得られるのに対し,引用発明4で得られる発酵物は,オル
ニチンを含有するものであるか不明である点。
(ウ) 相違点③
本件訂正発明では,
「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダ
イゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類に
アルギニンを添加する」という工程を含むのに対し,引用発明4はそ
のような工程を含まない点。
(エ) 相違点④
本件訂正発明では,
「発酵処理により,…発酵物の乾燥重量1g当た
り,8mg以上のオルニチン及び1mg以上のエクオールを生成」す
るのに対し,引用発明4では,発酵物の乾燥重量1g当たりのオルニ
チンとエクオールの生成量が不明である点。
イ 相違点①,②について
5 前記(11)の【原告の主張】に記載したとおりである。
ウ 相違点③について
引用例4-1には,発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は開示
されていない。また,引用例4-1では,エクオールに加えてオルニチ
ンを含有する発酵物を得るという動機がないから,オルニチンに変換さ
れるアルギニンを発酵原料に添加するという動機もない。
エ 相違点④について
引用例4-1には,オルニチンの有用性は開示されていないから,仮
に,被告らが主張するように,意図せずオルニチンが産生され得るとし
ても,当業者が,発酵物中のオルニチン含有量を「8mg以上」とする
動機はない。
また,前記(18)の【原告の主張】に記載したように,甲15実験にお
いて豆乳を発酵原料とした場合,
「8mg以上」を遥かに下回るオルニチ
ン生成量しか得られなかったものであり,この点は,引用例4-1の「ダ
イゼイン強化豆乳」であっても同様である。
さらに,引用例4-1では,鏡像異性体のエクオールを製造すること
を課題としており,エクオールと共にオルニチンを含有する発酵物を製
造することは課題としておらず,そもそもオルニチンに言及していない
のであるから,相違点④は,当業者が容易に想到するとはいえない。
【被告らの主張】
ア 本件訂正発明は,次のとおり,引用発明4と同一の発明であるか,ま
たは,引用発明4に基づき容易に想到することができたものであるから,
新規性又は進歩性が欠如し,本件訂正特許には,特許法29条1項3号,
2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
イ 相違点①,②について
前記(11)の【被告らの主張】に記載したとおりである。
5 ウ 相違点③について
豆乳は,アルギニンとダイゼイン類を含むから,引用例4-1の豆乳
は,ダイゼイン類にアルギニンを添加した状態を開示している。そうす
ると,相違点③は,引用例4-1に開示されているに等しい事項である。
エ 相違点④について
エクオールとオルニチンの生成量に係る相違点④については,発酵原
料を多くすれば構成要件D’
(相違点④)の範囲内となるものであり,構
成要件D’に臨界的意義もないから,実質的には相違点とはいえない。
また,構成要件D’は下限値しか特定していないところ,当業者におい
て,エクオー及びオルニチンが産生することを認識する以上,産生量を
増やそうとするのは当業者の通常の期待にすぎない。
鏡像異性体であれ,エクオール産生量を増加させること,特に,ダイ
ゼイン強化豆乳を用いてそれを増加させることに係る動機付けが,引用
例4-1に認められるのは明らかである。また,オルニチンについても,
発酵原料にアルギニンが含まれていること,ラクトコッカスラクチスが
オルニチン産生能力を有していることが知られているから,当業者にお
いては,オルニチンの生成の可能性が示唆されるものである。このこと
は,鏡像異性体のエクオールであるかどうかとは関係しない。
また,本件訂正発明は,オルニチンの下限値しか特定しておらず,こ
れは,生成量はより多い方がよいとの当業者の通常の期待を示したにす
ぎず,それぞれの下限値に顕著な効果があるともいえない。
(20) 争点3-7(無効理由6の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明は,引用例5(乙B24)記載の引用発明5と対比して,
少なくとも次のア記載のとおりの相違点①~⑤を有するが,次のイ~エに
照らせば,上記相違点①~⑤が引用発明5に開示されているに等しい事項
5 であるとはいえないから,新規性は欠如しておらず,また,上記相違点①
~⑤が引用発明5に基づいて容易に想到することができたものであると
もいえないから,進歩性も欠如していない。したがって,本件訂正特許に,
特許法29条1項3号,2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)
はない。
ア 本件訂正発明と引用発明5とを対比すると,次の点で一応相違する。
(ア) 相違点①
微生物が,本件訂正発明は「オルニチン産生能力及びエクオール産
生能力を有する微生物」であるのに対し,引用発明5は「ストレプト
コッカスA6G-225」である点。
(イ) 相違点②
製造される発酵物が,本件訂正発明はオルニチンを含有するのに対
し,引用発明5はオルニチンを含有するか不明である点。
(ウ) 相違点③
発酵原料が,本件訂正発明は「アルギニン」を含むのに対し,引用
発明5はアルギニンを含むか不明である点。
(エ) 相違点④
本件訂正発明は,ダイゼイン類にアルギニンを添加する工程を含む
方法であるのに対し,引用発明5は,そのような方法であるか不明で
ある点。
(オ) 相違点⑤
本件訂正発明は,8mg以上のオルニチンを生成する方法であるの
に対し,引用発明5は,そのような方法であるか不明である点。
イ 相違点①~③について
前記(12)の【原告の主張】に記載したとおりである。
ウ 相違点④について
5 引用例5には,発酵原料にアルギニンを別途添加する工程は開示され
ていない。また,引用例5では,エクオールに加えてオルニチンを含有
する発酵物を得るという動機がないから,オルニチンに変換されるアル
ギニンを発酵原料に添加するという動機もない。
エ 相違点⑤について
引用例5には,オルニチンの有用性は開示されていないから,仮に,
被告らが主張するように,意図せずオルニチンが産生され得るとしても,
当業者が,発酵物中のオルニチン含有量を「8mg以上」とする動機は
ない。
【被告らの主張】
ア 本件訂正発明は,次のとおり,引用発明5と同一の発明であるか,ま
たは,引用発明5に基づき容易に想到することができたものであるから,
新規性又は進歩性が欠如し,本件訂正特許には,特許法29条1項3号,
2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
イ 相違点①~③について
前記(12)の【被告らの主張】に記載したとおりである。
ウ 相違点④について
引用発明5は,変法GAM培地を添加して処理する方法であり,変法
GAM培地を添加する工程は,アルギニンを添加する工程に相当するか
ら,相違点④は,引用例5に開示されているに等しい事項である。
エ 相違点⑤について
オルニチンが8mg以上であることに技術的意義はなく,技術的効果
もないから,相違点⑤は,実質的な相違点であるとはいえない。
(21) 争点3-8(無効理由7の解消の有無)
【原告の主張】
本件訂正発明についても,本件発明と同様に,前記(13)の【原告の主張】
5 に記載したとおり,無効理由7により新規性・進歩性を欠き無効というこ
とはできない。
【被告らの主張】
本件訂正発明も,本件発明と同様に,前記(13)の【被告らの主張】に記
載したとおり,無効理由7により新規性・進歩性を欠き無効というべきで
ある。
(22) 争点3-9(被告方法が本件訂正発明の技術的範囲に属するか否か)
ア 被告原料は,特許法104条により,本件訂正発明の方法により生産し
たものと推定されるか
【原告の主張】
前記(1)の【原告の主張】と同様である。
すなわち,特許法104条は,物を生産する方法の発明について特許が
されている場合において,その物が特許出願前に日本国内において公然知
られた物でないときは,その物と同一の物は,その方法により生産したも
のと推定する旨規定する。
しかして,本件訂正発明は,
「オルニチン及びエクオールを含有する粉末
状の発酵物」という物の生産方法の発明であるところ,優先権基礎出願(乙
B1の1~3。出願日平成19年6月13日)には,発酵原料として「ダ
イゼイン類」の場合が記載されており 【0013】
( 【0015】
【0018】
【0020】,基準日は,本件特許の優先日(平成19年6月13日)と
)
なる。そして,同日の時点では,
「オルニチン及びエクオールを含有する粉
末状の発酵物」 日本国内において公然知られた物ではなかった。
は, また,
被告原料は,
「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物」と同
一の物である。そうすると,特許法104条により,被告原料は,本件訂
正発明の方法により生産したものと推定される。
【被告らの主張】
5 前記(1)の【被告らの主張】と同様である。原告の上記主張は,争う。
イ 被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイゼイン配糖
体か(構成要件A’,B’-1,B’-2の充足性)
【原告の主張】
前記(2)の【原告の主張】と同様である。
すなわち,被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイ
ゼイン配糖体(構成α1)ではなく,「ダイゼインを含む処理液」(構成α
3)ということができ,これを前提とすると,被告方法は,構成要件A’,
B’-1,B’-2を充足する。
つまり,構成要件A’の文言からすれば,本件訂正発明においては,
「ダ
イゼイン配糖体」「ダイゼイン」「ジヒドロダイゼイン」の3種のダイゼ
, ,
イン類の中から少なくとも1種が発酵原料に含まれていれば足りる。そし
て,これを被告方法の構成α3と対比すれば,被告方法には,
「ダイゼイン
配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少
なくとも1種のダイゼイン類」に「アルギニン」を含むようにして「発酵
原料」を得る工程が存在しているといえる。また,構成要件A’,B’-
1,B’-2の文言からすれば,本件訂正発明の微生物は,構成要件A’
に挙がっているダイゼイン類3種のうち少なくとも1種をエクオールに
変換する能力を有していれば足り,ダイゼイン配糖体からエクオールを産
生する能力があることが必須の要件ではないから,これを被告方法の構成
α3と対比すれば,被告方法には「オルニチン産生能力及びエクオール産
生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」との文言に相当する工
程が存在しているといえる。
【被告らの主張】
前記(2)の【被告らの主張】と同様である。
すなわち,被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイ
5 ゼイン配糖体(構成α1)というべきであり,これを前提とすると,被告
方法は,構成要件A’,B’-1,B’-2を充足しない。
つまり,被告方法の構成α1(「ダイゼイン配糖体であるダイジン(50
重量%程度)と少量(1重量%程度)のダイゼインとを含むイソフラボン
を」)によれば,被告方法において選択されているダイゼイン類は,ダイゼ
イン配糖体であるダイジンであるところ,被告方法においては,そのダイ
ジンとアルギニンとを含ませて発酵原料を得る工程(構成要件B’-1に
相当する工程)は存在しない。被告方法でアルギニンが含まれるのは,原
料調整工程ではなく,発酵処理工程であり,培養液として発酵処理液に存
在するからであるにすぎない。また,被告方法における微生物は,ダイゼ
イン配糖体から発酵によってエクオールを産生する能力がないため,「オ
ルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理す
ることを含む」との文言に相当する工程(構成要件B’-2)も存在しな
い。
ウ 構成要件A’の「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼイ
ンよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」は,大豆胚
軸に限定されるか(構成要件A’の充足性)
【原告の主張】
前記(3)の【原告の主張】と同様である。すなわち,構成要件A’の文言
は,
「ダイゼイン類」を大豆胚軸に限定していないものであり,大豆胚軸を
用いていない被告方法であっても,構成要件A’を充足する。
【被告らの主張】
前記(3)の【被告らの主張】と同様である。すなわち,被告方法は,大豆
胚軸を用いていないものであるところ,構成要件A’の「ダイゼイン類」
は大豆胚軸に限定されるものである。
エ 構成要件B’-2の「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限定さ
5 れるか(構成要件B’-2の充足性)
【原告の主張】
前記(4)の【原告の主張】と同様である。すなわち,構成要件B’-2の
文言は,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で
発酵処理することを含む」というものであり,ラクトコッカス20-92
に限定していないものであるから,被告方法における微生物(●(省略)
●)は,構成要件B’-2を充足する。
【被告らの主張】
前記(4)の【被告らの主張】と同様である。すなわち,構成要件B’-2
の「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限定して解釈されるべきで
あるから,被告方法における微生物(●(省略)●)は,構成要件B’-
2を充足しない。
オ 構成要件B’-2の「微生物」は,糖を切断する能力を有する微生物に
限定されるか(構成要件B’-2の充足性)
【原告の主張】
前記(5)の【原告の主張】と同様である。すなわち,本件訂正発明の微生
物は,ダイゼイン配糖体からエクオールを産生する能力を必ずしも必要と
しないから,被告方法は,構成要件B’-2を充足する。
【被告らの主張】
前記(5)の【被告らの主張】と同様である。すなわち,本件訂正発明の微
生物は,
「ダイゼイン配糖体」からも「ダイゼイン」からもエクオールを産
生する能力がなければならないのに対し,被告方法の微生物はそのような
能力を有するものではなく,別途,糖を切断する工程を必要とするから,
被告方法は,構成要件B’-2を充足しない。
カ 被告方法には,構成要件A’の「…にアルギニンを添加すること」,構成
要件B’-1の「前記アルギニンを含む発酵原料を」に相当する工程は存
5 在するか(構成要件A’,B’-1の充足性)
【原告の主張】
被告方法には,次の(ア)~(ウ)に照らし,構成要件A’の「…にアルギニ
ンを添加すること」 構成要件B’-1の
, 「前記アルギニンを含む発酵原料
を」に相当する工程が存在し,構成要件A’,B’-1を充足する。
(ア) 被告方法は,アルギニンを培養液として添加して発酵原料を得てい
るから,訂正事項1が,ダイゼイン類にアルギニンを別途添加する工程
を含むこと,これによってダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料が
得られることを特定するための減縮と解したとしても,被告方法は,構
成要件A’,B’-1を充足する。
(イ) 本件明細書の【0036】
【0222】
【0225】の記載をみても,
培地/培養液のように栄養成分として用いるアルギニンも,発酵原料と
特段区別されていないのであり,このことからも,構成要件A’の「ア
ルギニンを添加する」とは,栄養成分とするなどの目的を問わず,発酵
処理に供されるものにアルギニンを含める工程をいうものと解されると
ころ,ダイゼインにアルギニンを混合している被告方法は,これを充足
するというべきである。
(ウ) しかして,被告方法の構成α3によれば,被告方法は,ダイゼインと,
アルギニンとを混合した発酵原料を発酵処理するものであり,発酵に供
される培養液にアルギニンが含まれているから,構成要件A’,B’-
1を充足する。
【被告らの主張】
被告方法には,次の(ア),(イ)に照らし,構成要件A’の「…にアルギニ
ンを添加すること」 構成要件B’-1の
, 「前記アルギニンを含む発酵原料
を」に相当する工程が存在せず,構成要件A’,B’-1を充足しない。
(ア) 構成要件A’では,アルギニンを添加することが追加されたが,この
5 追加の意味は,アルギニンは一般的な発酵条件において発酵用の培地に
もともと含まれるものであるところ,本件訂正発明のアルギニンは,そ
のような培地に含まれるものや,発酵原料(大豆胚軸等)に本来含まれ
ているアルギニンとも区別するものとして,
「アルギニンを添加」するこ
とで,発酵前において,
「ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料」を
得る工程が存在することを明確にしたものである。このことは,訂正請
求書記載の訂正事項1の目的として,
「請求項1に係る発明では,ダイゼ
イン類にアルギニンを別途添加する工程を含むこと,これによってダイ
ゼイン類とアルギニンを含む発酵原料が得られることを特定することで,
特許請求の範囲を減縮しようとするもの」である旨明記されていること
からも裏付けられる。
(イ) 原告は,本件明細書の【0036】
【0222】
【0225】の記載に
ついて指摘するが,これらは,いずれも何を「発酵原料」とするかにつ
いて言及していない。他方,本件明細書の【0222】には,
「…粉末状
大豆胚軸,アルギニン,及び水を混合して大豆胚軸溶液(原料)を調製
した」と記載されているから,構成要件A’の工程は,構成要件B’-
2の発酵処理工程の前に,構成要件B’-1の「前記ダイゼイン類と前
記アルギニンを含む発酵原料」を生成する工程であると理解されるもの
である。すなわち,本件明細書の記載からも,構成要件A’は,発酵処
理工程に先立ち,選択された発酵対象にアルギニンを別途添加すること
で,いったん,発酵原料を得る工程であることが裏付けられる。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告方法が本件発明の技術的範囲に属するか否か)について
(1) 争点1-1(被告原料は,特許法104条により,本件発明の方法により
生産したものと推定されるか)についてア 特許法104条は,物を生産する方法の発明について特許がされている
5 場合において,その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物で
ないときは,その物と同一の物は,その方法により生産したものと推定すると規定する。しかして,本件特許請求の範囲は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法。というものであ」るから,「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」という物を生産する方法について特許がされている場合に当たることは明らかである。そして,被告原料は,被告方法の構成α4に「オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物」とあるとおり,上記「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」と同一の物であるといえる。イ そうすると,「オルニチン及びエクオールを含有する発酵物」が本件特許の特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは,被告原料は,本件発明の方法により生産されたものと推定されることとなる。この点,被告原料が生産方法の推定を受ける本件発明に関し,「本件特許の特許出願」日とは具体的にはいつのことを指すかについて検討する。本件特許の特許出願日は,2017年(平成29年)6月28日であるが,本件特許は分割出願を経ており,優先権も主張されているから(優先権主張番号特願2007-156822号,特願2007-156825号,特願2007-156833号),上記にいう「本件特許の特許出願」日は,優先日である2007年(平成19年)6月13日とみることが考えられる。しかし,本件発明の方法に係る発酵原料は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」であって,本件明細書においても,様々なダイゼイン類が開示されている(【0089】~【0096】)のに対し,優先権
5 基礎出願の明細書(乙B1の1~3)を精査しても,これらに開示されて
いる発酵原料は「大豆胚軸」のみであって,「大豆胚軸」以外のダイゼイン類は開示されていない。そうすると,本件発明のうち,発酵原料が大豆胚軸である発明については,上記「本件特許の特許出願」日は,優先日である2007年(平成19年)6月13日となる一方,発酵原料が大豆胚軸以外のダイゼイン類である発明については,上記「本件特許の特許出願」日は,親出願日である2008年(平成20年)6月13日となると解するのが相当である。そして,被告方法は,その構成α1~α3から明らかであるように,発酵原料として大豆胚軸以外のダイゼイン類を用いるものである。ウ 以上によれば,このような被告方法が生産方法の推定を受ける本件発明に関し,上記「本件特許の特許出願」日は,優先日である2007年(平成19年)6月13日ではなく,親出願日である2008年(平成20年)6月13日であるというべきところ,国際公開第2007/066655号(国際公開日2007年(平成19年)6月14日)(乙B3)によれば,上記親出願日の時点において,オルニチン及びエクオールを含有する発酵「物」は日本国内において公然知られた物であると認められるから,被告原料は,本件発明の方法により生産されたものとは推定されないと言わなければならない。エ 原告は,優先権基礎出願の明細書(乙B1の1)には,発酵原料として「ダイゼイン類」の場合が記載されているから(【0013】【0015】【0018】【0020】,被告方法が生産方法の推定を受ける基準日は,)本件特許の優先日(平成19年6月13日)となる旨主張する。しかし,原告が指摘する上記記載を精査しても,エクオール産生微生物の能力についての記載 【0013】 ,( ) 発酵原料となる大豆胚軸への任意添加物についての記載(【0018】【0020】,大豆胚軸にダイゼイン類)
5 が多く含まれている旨の記載(【0015】)などであるにすぎず,いずれ
の記載についても,当業者において,大豆胚軸以外のダイゼイン類も発酵原料として記載されていると理解できるものではないというべきである。そして,それ以外の記載をみても,上記優先権基礎出願の明細書において,大豆胚軸以外のダイゼイン類も発酵原料として記載されていると理解できるような記載は見当たらない。したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(2) 争点1-2(被告方法において「選択」された「ダイゼイン類」は,ダイ
ゼイン配糖体か(構成要件A-1~A-3,Bの充足性))についてア 本件発明の構成要件A-1は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」というものであるから,文言上,選択されるダイゼイン類は,「ダイゼイン配糖体」「ダイゼイン」「ジヒドロダイゼイン」の3種のダイゼイン類の, ,うち少なくとも1種であればよいものであって,「ダイゼイン配糖体」でなければならないものではない。しかして,被告方法の構成α1は,ダイゼイン配糖体であるダイジン(50重量%程度)を含むイソフラボンを用いるものの,その後の酵素処理工程(構成α2)を経て「ダイゼインを含む処理液」(構成α3)が得られ,これをもって,上記「選択される少なくとも1種のダイゼイン類」に当たるものといえるから,このような被告方法は,上記の意味においては,本件発明の構成要件A-1の文言を充足し,ひいては,構成要件A-2,A-3,Bの文言をも充足し得るものというべきである。イ 被告らは,被告方法の構成α1によれば,被告方法において選択されているダイゼイン類は,ダイゼイン配糖体であるダイジンであるところ,被告方法においては,そのダイジンとアルギニンとを含ませて発酵原料を得る工程(構成要件A-2,A-3に相当する工程)は存在せず,また,被
5 告方法における微生物は,ダイゼイン配糖体から発酵によってエクオール
を産生する能力がないため,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力「を有する微生物で発酵処理することを含む」との文言に相当する工程(構成要件B)も存在しない旨主張する。しかし,上記アに説示したとおり,被告方法の構成α1は,ダイゼイン配糖体であるダイジン(50重量%程度)を含むイソフラボンを用いるものの,これに経時的に続く構成α2,α3もみれば,その後の酵素処理工程(構成α2)を経て「ダイゼインを含む処理液」(構成α3)が得られ,これが「アルギニンを含む培養液」(構成α3)と混合されて発酵処理がされている。これに照らせば,被告方法においては,「ダイゼイン類」として,「ダイゼイン配糖体」である「ダイジン」ではなく,「ダイゼインを含む処理液」が選択されているものであり,上記理由によっては,構成要件A-2,A-3に相当する発酵工程が存在しないということはできない(ただし,後記(6)のとおり,被告方法の「アルギニンを含む培養液」(構成α3)が,本件発明の「アルギニンを含む発酵原料」(構成要件A-2,A-3)に当たるものといえるか否かについては,別途検討する必要がある。 。さ)らに,被告方法において,●(省略)●(構成α3)が,「ダイゼインを含む処理液」「アルギニンを含む培養液」と共に混合され,発酵処理により,オルニチン及びエクオールが生成されている以上,この腸内細菌がダイゼイン配糖体から発酵によってエクオールを産生する能力を有するかどうかにかかわらず,被告方法においては,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」との文言に相当する工程(構成要件B)が存在するというべきである。以上によれば,被告らの上記主張は,採用することができない。
(3) 争点1-3(構成要件A-1の「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒ
ドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」
5 は,大豆胚軸に限定されるか(構成要件A-1の充足性))について
ア 構成要件A-1の文言は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」というものであり,文言上,選択される少なくとも1種のダイゼイン類は,「ダイゼイン配糖体」 「ダイゼイン」「ジヒドロダイゼイン」の3種のダ, ,イゼイン類のいずれかであればよく,大豆胚軸に限定されるものではない。このことは,本件明細書の【0093】に,発酵原料はダイゼイン類を含む限り特に制限されないと記載され,大豆胚軸以外の発酵原料も種々列挙されていることからも裏付けられるものである。そうすると,構成要件A-1の「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類」は,大豆胚軸に限定されず,大豆胚軸以外のダイゼイン類を発酵原料とする被告方法であっても,構成要件A-1を充足するものというべきである。イ 被告らは,本件明細書の【0093】の記載は,優先権基礎出願の明細書において記載されておらず,また,本件明細書においては,【技術分野】【発明が解決しようとする課題】【発明の効果】【図面】【発明を実施するための形態】【実施例】の全てにおいて,本件発明の対象は大豆胚軸発酵物であり,製造方法は,大豆胚軸発酵物からエクオールを含む有用成分を効率的に抽出する方法であることを示していることからすれば,構成要件A-1の「ダイゼイン類」は大豆胚軸に限定されるものである旨主張する。しかし,上記アに説示したとおり,本件特許請求の範囲の文言及び本件明細書の【0093】の記載からは,「ダイゼイン類」は大豆胚軸に限定されていないことが明らかであって,上記【0093】の記載が優先権基礎出願の明細書に記載されていなかったとしても,本件特許の親出願の特許出願時の明細書に記載されている以上,上記認定判断は何ら左右されるも
5 のではない。そして,本件明細書の【技術分野】
【発明が解決しようとする課題】【発明の効果】【図面】【発明を実施するための形態】【実施例】における記載をみても,当業者において発酵原料が大豆胚軸に限定されることが読み取れる記載はなく,各記載内容からすれば,むしろこれらはダイゼイン類の代表例として大豆胚軸を発酵原料とした場合について記載したものであるにすぎないというべきである。以上によれば,被告らの上記主張は,採用することができない。
(4) 争点1-4(構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限
定されるか(構成要件Bの充足性))についてア 構成要件Bは,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」という文言であり,「微生物」は,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有するものである必要はあるが,特定の微生物のみに限定しているものではない。そして,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみると,【実施例】において,「微生物」としてはラクトコッカス20-92のみが挙げられているものの,他方,【0032】には,本件特許の特許出願時,エクオールを産生する能力のある微生物がいくつか知られていたことが記載され,【0036】には,その中から,オルニチン産生能力を有する微生物を公知のスクリーニング方法により得ることができることが記載されている。そうすると,本件特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者においては,公知のスクリーニング方法を用いて,通常の試行錯誤の範囲内において,ラクトコッカス20-92以外についても「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有する微生物を見出すことができると理解するというべきであるから,構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限定されるものではないというべきであって,被告方法における腸内細菌(●(省略)●)も,上記「微生物」と
5 の文言を充足するというべきである。
イ 被告らは,構成要件Bの「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む」とは,いわゆる機能的クレームとして広範な微生物を包含する記載であるのに対し,本件明細書には,ラクトコッカス20-92を適切なものとして発見した点に基本的な技術思想があることが記載され,あらゆる微生物を含むものとして記載されておらず,また,原告のホームページ(乙B11)をみても,ラクトコッカス20-92以外の上記微生物を見出すためには過度の試行錯誤を有するというべきであることなどを指摘して,構成要件Bの「微生物」は,ラクトコッカス20-92に限定して解釈されるべきである旨主張する。しかし,構成要件Bの「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有する微生物という文言に,広範な微生物を包含してしまうことについての合理的根拠はなく,上記アに説示したとおり,本件明細書の記載等に接した当業者においては,公知のスクリーニング方法を用いて,通常の試行錯誤の範囲内において,ラクトコッカス20-92以外についても「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有する微生物を見出し得る旨理解するというべきであるから,本件明細書において,ラクトコッカス20-92を適切なものとして発見した点のみに基本的な技術思想があることが記載されているとはいえない。さらに,原告のホームページ(乙B11)をみても,実際に市販できる程度に優れた微生物を見出すことには困難が伴うとしても,構成要件Bの「微生物」は,本件特許請求の範囲及び本件明細書の発明の詳細な説明の記載に照らし,上記のような程度に優れた微生物である必要はなく,ある程度,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有する微生物であれば足りるというべきであるから,当業者に過度の試行錯誤を課することにもならない。以上によれば,被告らの上記主張は,採用することができない。
5 (5) 争点1-5(構成要件Bの「微生物」は,糖を切断する能力を有する微生
物に限定されるか(構成要件Bの充足性))についてア 前記(2)アに説示したとおり,本件発明の構成要件A-1において,選択されるダイゼイン類は,「ダイゼイン配糖体」「ダイゼイン」「ジヒドロダ, ,イゼイン」の3種のダイゼイン類のうち少なくとも1種であればよいものであって,ダイゼイン配糖体」「 でなければならないものではない。そして,構成要件Bは,オルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生「物で発酵処理することを含む」という文言であり,「微生物」は,「オルニチン産生能力及びエクオール産生能力」を有するものである必要はあるが,さらに,糖を切断する能力を有するものである必要がある旨を記載しているものではない。また,本件明細書の発明の詳細な説明の記載をみても,上記「微生物」が,糖を切断する能力を有するものである必要がある旨をうかがわせる記載はない。この点,本件明細書の【実施例】における「微生物」として,糖を切断する能力を有する微生物であるラクトコッカス20-92のみが挙げられているものの,構成要件Bの「微生物」がラクトコッカス20-92に限定されるものでないことは,上記(4)に説示したとおりである。そうすると,構成要件Bの「微生物」は,糖を切断する能力を有するものである必要はないというべきであって,被告方法における腸内細菌(●(省略)●)も,上記「微生物」との文言を充足するというべきである。イ 被告らは,本件特許の関連の分割出願における原告の意見書(乙B7の2)によれば,本件発明の「微生物」は,ダイゼイン配糖体から糖を切断する能力を有する微生物であると理解すべきである旨主張する。しかし,被告らの指摘する原告の意見書(乙B7の2)には,ダイゼイン配糖体を直接発酵させるときには,微生物は配糖体の糖を切断する必要がある旨が記載されているにすぎず,ダイゼイン配糖体以外のダイゼイン
5 類を発酵させるときについて記載されているものではないから,微生物を
作用させるダイゼイン類が,ダイゼイン配糖体だけでなく,「ダイゼイン配糖体」「ダイゼイン」 「ジヒドロダイゼイン」の3種のダイゼイン類のう, ,ち少なくとも1種であればよい本件発明の場合に当然に当てはまるものとはいえない。以上によれば,被告らの上記主張は,採用することができない。
(6) 争点1-6(被告方法におけるアルギニンを含む培養液は,「アルギニン
を含む発酵原料」に当たるものといえるか(構成要件A-2,A-3の充足性))についてア 被告方法におけるアルギニンを含む培養液は,「アルギニンを含む発酵原料」に当たるものということはできず,被告方法は,構成要件A-2,A-3を充足しないものというべきである。その理由は次のとおりである。(ア) 本件特許請求の範囲の記載は,「ダイゼイン配糖体,ダイゼイン及びジヒドロダイゼインよりなる群から選択される少なくとも1種のダイゼイン類,並びに,アルギニンを含む発酵原料をオルニチン産生能力及びエクオール産生能力を有する微生物で発酵処理することを含む,オルニチン及びエクオールを含有する発酵物の製造方法。というものであるか」ら,文言上,アルギニンは,選択されたダイゼイン類と共に発酵原料を調整する段階において,既にその発酵原料に含まれるものであることが明記されている。しかして,被告方法において,「アルギニンを含む培養液」は,選択されたダイゼイン類と共に発酵原料を調整する段階においては,その発酵原料に含まれているものではなく,その後の工程である発酵処理工程において,初めて現れ,他の所定の液(ダイゼインを含む処理液)と混合されるものであるから,上記文言を充足するということはできない。(イ) このことは,本件明細書の記載からも裏付けられる。すなわち,本件
5 明細書の【0033】には,
「当該エクオール含有大豆胚軸発酵物は,発酵原料として大豆胚軸を用いて製造される」と記載され,【0036】には,「大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,酵母エキス,ポリペプトン,肉エキス等の窒素源;グルコース,シュクロース等の炭素源;リン酸塩,炭酸塩,硫酸塩等の無機塩;ビタミン類;アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。この場合,アルギニンの添加量については,例えば,大豆胚軸(乾燥重量換算)100重量部に対して,アルギニンが0.5~3重量部程度が例示される。」と記載されている。これらの記載に照らせば,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分を添加してもよいと記載されているから,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分は,発酵原料とは別の成分として扱われていると考えるほかない。しかして,前記説示のとおり,被告方法における発酵原料に当たるものは,構成α1~α3に記載された各工程を経時的にみるときは,構成α3の「ダイゼインを含む処理液」であるというべきであるから,構成α3の「アルギニンを含む培養液」は,発酵原料に含まれるものではなく,発酵処理工程において上記発酵原料や●(省略)●と共に混合される,発酵効率の促進等を目的とする栄養成分に当たるものというべきである。そうすると,被告方法においては,「ダイゼイン類とアルギニンを含む発酵原料」は存在せず,その「アルギニンを含む培養液」は,発酵原料を調整した後の工程である発酵処理工程において,栄養成分等として初めて現れるもので
5 あって,これが混合されて発酵処理されているものにすぎないというべ
きである。イ 原告は,被告方法において,培養液に含まれるアルギニンも,ダイゼインを含む処理液と共に混合して発酵処理されるから,「発酵原料」に含まれるものであるといえ,このことは,本件特許請求の範囲の記載及び本件明細書の【0036】【0222】【0225】の記載からも裏付けられる旨主張する。しかし,原告の上記主張は,本件発明においては,栄養成分として用いられるアルギニンと発酵原料に存するアルギニンとを区別していないとの解釈を前提とするものであるところ,上記説示のとおり,本件特許請求の範囲の記載の文言上,アルギニンは,選択されたダイゼイン類と共に発酵原料を調整する段階において,既にその発酵原料に含まれるものであることが明記されているものである。また,本件明細書の【0036】【0222】【0225】の記載をみても,「大豆胚軸の発酵において,発酵原料となる大豆胚軸には,必要に応じて,発酵効率の促進や発酵物の風味向上等を目的として,(中略)アミノ酸等の栄養成分を添加してもよい。特に,エクオール産生微生物として,アルギニンをオルニチンに変換する能力を有するもの(中略)を使用する場合には,大豆胚軸にアルギニンを添加して発酵を行うことによって,得られる発酵物中にオルニチンを含有させることができる。(」【0036】)という記載からは,発酵原料と栄養成分とが区別されるものであり,発酵原料に対する栄養成分の添加は任意であることが読み取れるにすぎず,「粉末状大豆胚軸,アルギニン,及び水を混合して」(【0222】,)「粉末状大豆胚軸10重量%及びL-アルギニン0.1重量%を含む大豆胚軸溶液」【0225】( )という記載は,発酵原料の調製についての記載とみるのが自然であるというべきであって,これらの記載を根拠に,培地や培養液のように栄養成分として用いるアルギニンであ
5 っても,発酵原料と特段区別されていないということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(7) 小括
以上によれば,被告方法は,本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないから,本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点2),本件発明についての訂正の対抗主張の成否(争点3)について検討するまでもなく,被告らによる特許権侵害は成り立たない。原告は,その他縷々詳細に主張するが,その主張内容を証拠に照らしつつ慎重に検討するも,上記認定判断を左右するに足りるものはなく,いずれも採用の限りでない。したがって,原告の被告ダイセルに対する①被告原料の生産(主位的請求)又は被告方法の使用(予備的請求)の差止請求(前記第1の3),②被告原料の譲渡等(主位的請求)又は被告方法により生産した被告原料の譲渡等(予備的請求)の差止請求(前記第1の4),③被告原料(主位的請求)又は被告方法により生産した被告原料(予備的請求)の廃棄請求(前記第1の5)は,いずれも理由がなく,また,原告の被告AMCに対する①被告製品の生産等(主位的請求)又は被告方法により生産された被告原料の使用及び同被告原料を使用した被告製品の譲渡等(予備的請求)の差止請求(前記第1の1),
②被告製品(主位的請求)又は被告方法により生産された被告原料を使用し
た被告製品(予備的請求)の廃棄請求(前記第1の2)も,いずれも理由がないことになり,原告の被告らに対する請求は,全て理由がないことに帰する。
2 結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして,主文のとおり判決する。東京地方裁判所民事第47部
5 裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 奥 俊 彦裁判官 西 尾 信 員(別紙)被告製品目録大豆胚芽抽出発酵物含有食品製品名 エクオール+ラクトビオン酸(別紙)被告原料目録大豆胚芽抽出発酵物製品名 フラボセルEQ-5(別紙)被告方法目録ダイゼイン配糖体であるダイジン(50重量%程度)と少量(1重量%程度)
5 のダイゼインとを含むイソフラボンを,酵素処理することにより,ダイゼイン配
糖体であるダイジンの糖を切断してダイゼインとなし,前記酵素処理工程を経て得られたダイゼインを含む処理液と,●(省略)●をアルギニンを含む培養液と共に混合して発酵処理をし,オルニチン及びエクオールを含有する粉末状の発酵物の製造方法であって,前記発酵処理により,1gあたり18.40mg以上のオルニチン,100gあたり約6.6g(1gあたり66mg)のエクオールを生成し,及び前記発酵物が食品素材として用いられるものである,前記製造方法。
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