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平成30(ワ)29802特許権侵害差止請求事件

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裁判所 請求棄却 東京地方裁判所東京地方裁判所
裁判年月日 令和2年12月24日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社大塚製薬工場
被告エイワイファーマ株式会社 株式会社陽進堂
対象物 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤
法令 特許権
特許法100条1項1回
キーワード 実施20回
無効16回
進歩性8回
特許権6回
侵害5回
無効審判2回
差止2回
審決2回
間接侵害1回
主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
1 被告エイワイファーマは,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,譲渡し,
2 被告陽進堂は,別紙被告製品目録記載の各製品を譲渡し,又は譲渡の申出を
3 被告らは,被告らの占有する別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨に
1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が
1D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
1E ことを特徴とする輸液製剤。10
2A 微量金属元素が銅である
2B ことを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。15
10A 複室輸液製剤において,
10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液を収容している室と25
10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器
10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。
10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。」というものであり,これを構
11A 微量金属元素が,銅である
11B ことを特徴とする請求項10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。
1B及び1Eを充足している(本件発明1の構成要件1A,1C及び1D
128)において,平成31年2月19日付けで,本件各発明について訂正
1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が
1D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である5
1E ことを特徴とする輸液製剤であって,
1F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
1G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋
2A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
2B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
2C 他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納され25
2D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
2E ことを特徴とする輸液製剤であって,
2F 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-ア
2G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,輸液製剤。5
10A 複室輸液製剤の輸液容器において,
10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液を収容している室と
10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器20
10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,
10F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
10G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外25
11A 複室輸液製剤の輸液容器において,
11B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液を収容している室と
11C 別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,15
11D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
11E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,
11F 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-
11G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,保存安20
2 争点
1)。また,本件訂正請求により拡大先願要件違反は解消されるか(争点
3 争点についての当事者の主張
2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔
10については構成要件10F及び10G,本件訂正発明11について
4明細書に開示された発明と比較して新たな効果を奏することは明らか
2】)から,原告が主張する上記相違点は存在しない。
4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し
8】)という目的を既に達成しているものであるから,微量元素(ミネ
2公報の輸液容器をガスバリヤー性外袋に収納し,かつ,当該袋内の酸25
1 本件事案に鑑み,まず,争点
10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を備える
024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に15
2 よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は全部理由15
1 ワンパル1号輸液(水分量800ml)
2 ワンパル1号輸液(水分量1200ml)5
3 ワンパル2号輸液(水分量800ml)
4 ワンパル2号輸液(水分量1200ml)
1a-1 混注口側から投与口側に向かって順に大室,中室,小室T,小室Vに区画さ
1a-2 大室と中室との間は樹脂フィルムを外部からの押圧によって剥離するシール
1a-3 中室と小室Tとの間及び小室Tと小室Vとの間は,二重になっている樹脂フ
1a-4 小室Vの投与口側は二重になっている樹脂フィルムの外側の樹脂フィルムと
1b 中室にアセチルシステイン,L-メチオニン及び亜硫酸水素ナトリウムを含
1c 小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に塩化第二鉄水和物,塩化マン
1d 小室Tの内側の樹脂フィルムはポリエチレン樹脂及び環状オレフィン樹脂を
1e 上記を特徴とする輸液製剤である(別紙図1及び図2のとおり)。20
1f 1bと同じ
1g 前記輸液容器と脱酸素剤がガスバリヤー性の外袋に収納されている。
10a-1 混注口側から投与口側に向かって順に大室,中室,小室T,小室Vに区画
10a-2 大室と中室との間は樹脂フィルムを外部からの押圧によって剥離するシー
10a-3 中室と小室Tとの間及び小室Tと小室Vとの間は,二重になっている樹脂
10a-4 小室Vの投与口側は二重になっている樹脂フィルムの外側の樹脂フィルム
10b 中室にアセチルシステイン,L-メチオニン及び亜硫酸水素ナトリウム
10c 小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に塩化第二鉄水和物,塩化
10d 小室Tの内側の樹脂フィルムはポリエチレン樹脂及び環状オレフィン樹
10e 上記を特徴とする輸液製剤の保存安定化方法である(別紙図1及び図220
10f 10bと同じ
10g 前記輸液容器と脱酸素剤が,ガスバリヤー性の外袋に収納されている。
事件の概要 本件は,発明の名称を「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」とする 物ないし方法に係る特許発明についての特許権を有する原告が,輸液製剤の製 造販売業者である被告らに対し,被告らが,上記特許発明の技術的範囲に属す15 る輸液製剤を製造ないし販売し(直接侵害),又は,上記特許発明の技術的範 囲に属する輸液製剤の保存安定化方法を使用し(直接侵害),若しくは,その 保存安定化方法にのみ使用する輸液製剤を製造ないし販売し(間接侵害),も って原告の特許権を侵害していると主張して,特許法100条1項及び2項に 基づき,当該輸液製剤の製造販売等の差止め及びその廃棄を求めた事案である。20

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判決文

令和2年12月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成30年(ワ)第29802号 特許権侵害差止請求事件
口頭弁論終結日 令和2年9月28日
判 決
原 告 株式会社大塚製薬工場
同訴訟代理人弁護士 設 樂 隆 一
塚 原 朋 一
10 佐 藤 慧 太
同訴訟復代理人弁護士 松 阪 絵 里 佳
同訴訟代理人弁理士 長 谷 川 芳 樹
清 水 義 憲
同補佐人弁理士 小 曳 満 昭
15 今 村 玲 英 子
吉 住 和 之
田 村 明 照
被 告 エイワイファーマ株式会社
20 (以下「被告エイワイファーマ」という。)
被 告 株 式 会 社 陽 進 堂
(以下「被告陽進堂」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 川 田 篤
井 上 義 隆
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
5 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告エイワイファーマは,別紙被告製品目録記載の各製品を製造し,譲渡し,
又は譲渡の申出をしてはならない。
2 被告陽進堂は,別紙被告製品目録記載の各製品を譲渡し,又は譲渡の申出を
10 してはならない。
3 被告らは,被告らの占有する別紙被告製品目録記載の各製品を廃棄せよ。
第2 事案の概要
本件は,発明の名称を「含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤」とする
物ないし方法に係る特許発明についての特許権を有する原告が,輸液製剤の製
15 造販売業者である被告らに対し,被告らが,上記特許発明の技術的範囲に属す
る輸液製剤を製造ないし販売し(直接侵害),又は,上記特許発明の技術的範
囲に属する輸液製剤の保存安定化方法を使用し(直接侵害),若しくは,その
保存安定化方法にのみ使用する輸液製剤を製造ないし販売し(間接侵害),も
って原告の特許権を侵害していると主張して,特許法100条1項及び2項に
20 基づき,当該輸液製剤の製造販売等の差止め及びその廃棄を求めた事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか,末尾掲記の各証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認定できる事実)
当事者
ア 原告は,医薬品,医療機器,機能性食品等の製造,販売及び輸出入等を
25 行う株式会社である。
イ 被告エイワイファーマは,輸液製剤,注射剤,透析剤等の製造販売を行
う株式会社である。
ウ 被告陽進堂は,医薬品,医薬部外品等の製造,販売,輸出入等を行う株
式会社である。
原告の特許権
5 原告は,次の特許権を有している。
発明の名称 含硫化合物と微量金属元素を含む輸液製剤
特許番号 特許第4171216号
登録日 平成20年8月15日
出願番号 特願2002-7821号(以下,「本件出願」と
10 いい,その願書に最初に添付された明細書を「本件
明細書」という。)
出願日 平成14年1月16日
訂正認容の審決日 平成30年2月13日(甲3)
特許請求の範囲 請求項1ないし11(以下,上記審決において認容
15 された訂正後の請求項1,2,10及び11記載の
各発明を順に「本件発明1」,「本件発明2」,
「本件発明10」,「本件発明11」といい,これ
らを併せて「本件各発明」という。)
本件各発明
20 ア 本件発明1は,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画さ
れている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ酸お
よび亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液が充
填され,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくと
も1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納
25 されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
ことを特徴とする輸液製剤。」というものであり,これを構成要件に分説
すると,次のとおりとなる。
1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
の室を有する輸液容器において,
1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
5 なくとも1種を含有する溶液が充填され,
1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が
収納されており,
1D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10 1E ことを特徴とする輸液製剤。
イ 本件発明2は,「微量金属元素が銅であることを特徴とする請求項1に
記載の輸液製剤。」というものであり,これを構成要件に分説すると,次
のとおりとなる。
2A 微量金属元素が銅である
15 2B ことを特徴とする請求項1に記載の輸液製剤。
ウ 本件発明10は,「複室輸液製剤において,含硫アミノ酸および亜硫酸
塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している
室と別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種
の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微
20 量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であることを特徴とす
る輸液製剤の保存安定化方法。」というものであり,これを構成要件に分
説にすると,次のとおりとなる。
10A 複室輸液製剤において,
10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
25 1種を含有する溶液を収容している室と
10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器
を収納し,
10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法。
5 エ 本件発明11は,「微量金属元素が,銅であることを特徴とする請求項
10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。」というものであり,これを構
成要件に分説すると,次のとおりとなる。
11A 微量金属元素が,銅である
11B ことを特徴とする請求項10に記載の輸液製剤の保存安定化方法。
10 被告らの行為
ア 被告エイワイファーマは,遅くとも平成30年5月30日以降,別紙被
告製品目録記載の各製品(以下,「被告製品」といい,被告製品において
使用されている輸液製剤の保存安定化方法を「被告方法」という。)を製
造,販売している。
15 イ 被告陽進堂は,遅くとも同日以降,被告製品を販売している。
被告製品及び被告方法の各構成と本件各発明との対比
ア 被告製品は,本件発明1に対応させると,別紙被告製品説明書記載の構
成1a(枝番を含む。)ないし1eを備えており,本件発明1の構成要件
1B及び1Eを充足している(本件発明1の構成要件1A,1C及び1D
20 については,その充足性に争いがある。)。
また,上記構成1cの液に硫酸銅水和物が含まれる点において,被告製
品は,本件発明2の構成要件2Aを充足している(本件発明1を引用する
本件発明2の構成要件2Bについては,その充足性に争いがある。)。
イ 被告方法は,本件発明10に対応させると,別紙被告方法説明書記載の
25 構成10a(枝番を含む。)ないし10eを備えており,本件発明10の
構成要件10B及び10Eを充足している(本件発明10の構成要件10
A,10C及び10Dについては,その充足性に争いがある。)。
また,上記構成10cの液に硫酸銅水和物が含まれる点において,被告
方法は,本件発明11の構成要件11Aを充足している(本件発明10を
引用する本件発明11の構成要件11Bについては,その充足性に争いが
5 ある。)。
特許無効審判における訂正の請求
原告は, 特許権についての特許無効審判(無効2018-800
128)において,平成31年2月19日付けで,本件各発明について訂正
の請求をした(甲11。以下,「本件訂正請求」といい,本件訂正請求によ
10 る訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2,10及び11に記載された各発
明を順に「本件訂正発明1」,「本件訂正発明2」,「本件訂正発明10」,
「本件訂正発明11」といい,併せて「本件各訂正発明」という。)。
ア 本件訂正発明1は,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区
画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ
15 酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液
が充填され,他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少な
くとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が
収納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋で
あることを特徴とする輸液製剤であって,前記溶液は,アセチルシステイ
20 ンを含むアミノ酸輸液であり,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収
納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,輸液製剤。」というもの
であり(なお,下線部は,本件訂正請求による訂正箇所である。),これ
を構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
1A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
25 の室を有する輸液容器において,
1B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
なくとも1種を含有する溶液が充填され,
1C 他の室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が
収納されており,
5 1D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
1E ことを特徴とする輸液製剤であって,
1F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
1G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外袋
内の酸素を取り除いた,輸液製剤。
10 イ 本件訂正発明2は,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区
画されている複数の室を有する輸液容器において,その一室に含硫アミノ
酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液
が充填され,他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収
納されており,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であ
15 ることを特徴とする輸液製剤であって,前記溶液は,システイン,または
その塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸
液であり,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,輸液
製剤。」というものであり(なお,下線部は,本件訂正請求による訂正箇
所〔ただし,本件発明2において本件発明1を引用していた箇所を除
20 く。〕である。),これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
2A 外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている複数
の室を有する輸液容器において,
2B その一室に含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
なくとも1種を含有する溶液が充填され,
25 2C 他の室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納され
ており,
2D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
2E ことを特徴とする輸液製剤であって,
2F 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-ア
シル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,
5 2G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,輸液製剤。
ウ 本件訂正発明10は,「複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ
酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液
を収容している室と別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる
少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容
10 器を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,前記溶液は,アセ
チルシステインを含むアミノ酸輸液であり,前記輸液容器は,ガスバリヤ
ー性外袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた,保存安定化
方法。」というものであり(なお,下線部は,本件訂正請求による訂正箇
15 所である。),これを構成要件に分説すると,次のとおりとなる。
10A 複室輸液製剤の輸液容器において,
10B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液を収容している室と
10C 別室に鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも
20 1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器
を収納し,
10D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
10E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,
10F 前記溶液は,アセチルシステインを含むアミノ酸輸液であり,
25 10G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されており,前記外
袋内の酸素を取り除いた,保存安定化方法。
エ 本件訂正発明11は,「複室輸液製剤の輸液容器において,含硫アミノ
酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液
を収容している室と別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器
を収納し,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋であるこ
5 とを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,前記溶液は,システ
イン,またはその塩,エステルもしくはN-アシル体,及び亜硫酸塩を含
むアミノ酸輸液であり,前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納され
ている,保存安定化方法。」というものであり(なお,下線部は,本件訂
正請求による訂正箇所〔ただし,本件発明11において本件発明10を引
10 用していた箇所を除く。〕である。),これを構成要件に分説すると,次
のとおりとなる。
11A 複室輸液製剤の輸液容器において,
11B 含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも
1種を含有する溶液を収容している室と
15 11C 別室に銅を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,
11D 微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である
11E ことを特徴とする輸液製剤の保存安定化方法であって,
11F 前記溶液は,システイン,またはその塩,エステルもしくはN-
アシル体,及び亜硫酸塩を含むアミノ酸輸液であり,
20 11G 前記輸液容器は,ガスバリヤー性外袋に収納されている,保存安
定化方法。
被告製品及び被告方法の各構成と本件各訂正発明との対比
ア 被告製品は,本件訂正発明1に対応させると,別紙被告製品説明書記載
の各構成を備えており,本件訂正発明1の構成要件1B及び1Eないし1
25 Gを充足している(本件訂正発明1の構成要件1A,1C及び1Dについ
ては,その充足性に争いがある。)。
また,被告製品は,本件訂正発明2に対応させると,上記構成1a(枝
番を含む。)ないし1gが本件訂正発明2の構成要件2Aないし2Gにそ
れぞれ対応し,上記構成要件2B及び2Eないし2Gを充足している(本
件訂正発明2の構成要件2A,2C及び2Dについては,その充足性に争
5 いがある。)。
イ 被告方法は,本件訂正発明10に対応させると,別紙被告方法説明書記
載の各構成を備えており,本件訂正発明10の構成要件10B及び10E
ないし10Gを充足している(本件訂正発明10の構成要件10A,10
C及び10Dについては,その充足性に争いがある。)。
10 また,被告方法は,本件訂正発明11に対応させると,上記構成10a
(枝番を含む。)ないし10gが本件訂正発明11の構成要件11Aない
し11Gにそれぞれ対応し,上記構成要件11B及び11Eないし11G
を充足している(本件訂正発明11の構成要件11A,11C及び11D
については,その充足性に争いがある。)。
15 先行出願及び先行文献の存在
ア 特願2001-278664号の特許出願は,本件出願の出願日より前
の日である平成13年9月13日に特許出願され(乙4。以下,この特許
出願を「乙4出願」といい,乙4出願の願書に最初に添付された明細書及
び図面を併せて「乙4明細書」という。),本件出願の出願日より後の日
20 である平成14年9月3日に出願公開(特開2002-248158号)
された(乙5)。
イ 特開平11-158061号の特許公報は,本件出願の出願日より前の
日である平成11年6月15日に出願公開された(乙17。以下,上記特
許公報を「乙17公報」という。)。
25 ウ 特開2002-702号の特許公報は,本件出願の出願日より前の日で
ある平成14年1月8日に出願公開された(乙12。以下,上記特許公報
を「乙12公報」という。)。
2 争点
被告製品の小室Tの部分は構成要件1Aの「外部からの押圧によって連通
可能な隔壁手段で区画されている・・・室」の構成を備えるか
5 被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微量金属元
素収容容器が収納」されている構成を備えるか
被告製品及び被告方法は構成要件1D及び10Dの「熱可塑性樹脂フィル
ム製の袋」を備えるか
被告方法は構成要件10Aの「複室輸液製剤」の構成を備えるか
10 本件各発明はサポート要件違反により無効にされるべきものか
本件各発明は拡大先願要件違反により無効にされるべきものか(
1)。また,本件訂正請求により拡大先願要件違反は解消されるか(争点
-2)
本件各発明は乙12公報に基づいて進歩性を欠き無効にされるべきものか
15 。また,本件訂正請求により進歩性の欠如は解消されるか
( 2)
本件各発明は乙17公報に基づいて進歩性を欠き無効にされるべきものか
本件各訂正発明は実施可能要件違反により無効にされるべきものか
3 争点についての当事者の主張
20 被告製品の小室Tの部分は構成要件1Aの「外部からの押圧によ
って連通可能な隔壁手段で区画されている・・・室」の構成を備えるか)につ
いて
【原告の主張】
ア 本件各発明における「室」とは,「輸液製剤及び/又は微量金属元素収
25 容容器を収納し,保管するためのものであって,外部樹脂シートにより形
成された収納容器(収容空間)」であるところ,被告製品の小室Tは,外
側の樹脂フィルムで形成された収納容器(収納空間)であるから,「複数
の室」の1つである。
そして,前記収納容器(収納空間)と中室との間は,内側の樹脂フィル
ム同士が外部からの押圧によって剥離するシールで接合されており,外部
5 からの押圧によって,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋が中室
と連通するため,前記収納容器(収納空間)と中室とは連通するというこ
とができる。
イ この点,被告らは,構成要件1Aの「室」について,「輸液の保管時に
は隔壁手段により区画された空間であり,輸液の使用時には隔壁手段の開
10 通により混合した輸液を収容する空間の一部となる空間」という請求項に
記載のない用語を追加して限定して解釈しているが,「室」という用語自
体にこのような意味はなく,このように言い換える理由も不明であり,こ
のような限定解釈をすべき理由はない。
仮に,被告らが主張する解釈を前提にしたとしても,前記アのとおり,
15 被告製品においては,使用時に,外部からの押圧によって小室Tの内側の
樹脂フィルムで形成された袋が中室と連通し,小室Tの一部である上記袋
が存在していた部分に混合された輸液が収容されることにより,小室Tの
外側の樹脂フィルムで形成された収納容器(収納空間)が中室と連通する
ことを意味するから,上記収容容器は「室」に該当する。
20 ウ したがって,被告製品の小室Tの部分は構成要件1Aの「外部からの押
圧によって連通可能な隔壁手段で区画されている・・・室」の構成を備える
といえる。
【被告らの主張】
ア 被告製品の小室Tの部分は,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルム
25 とで形成された2つの空間と,内側の樹脂フィルム同士で形成された空間
とを合わせたものであるが,前者の空間はそもそも「室」に当たらないし,
前者の空間と後者の空間を1つの空間と見る理由もなく,これらの空間を
合わせた空間が「室」に該当する理由はない。
仮に,これらの空間を合わせた空間が存在するとしても,本件各発明に
おける「室」とは,これを複数有する複室容器である輸液容器において,
5 「輸液の保管時には隔壁手段により区画された空間であり,輸液の使用時
には隔壁手段の開通により混合した輸液を収容する空間の一部となる空
間」をいうところ,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとで形成さ
れた2つの空間は,保管時及び使用時のいずれの時点においても輸液を収
容することのない空間であるから,これらの空間と内側の樹脂フィルム同
10 士で形成された空間とを合わせた空間が「室」に該当する余地はなく,
「室」に該当する空間は,内側の樹脂フィルム同士で形成された空間のみ
である。
イ また,前記のとおり,外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとで形
成された2つの空間は,保管時及び使用時のいずれの時点においても輸液
15 を収容することがないから,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手
段」を備えていない。
争点 (被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微
量金属元素収容容器が収納」されている構成を備えるか)について
【原告の主張】
20 「収納」とは,「品物をしまいおさめること」あるいは「中に入れてしま
っておくこと」を意味するところ,被告製品の小室Tの部分のうち,内側の
樹脂フィルム同士で形成された空間は,微量金属元素収容容器であって,小
室Tの外側の樹脂フィルムで形成された収納容器(収納空間)に収納されて
いるから,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室に・・・微
25 量金属元素収容容器が収納」されている構成を備えている。
【被告らの主張】
本件各発明における「室」とは,これを複数有する複室容器である輸液容
器において,「輸液の保管時には隔壁手段により区画された空間であり,輸
液の使用時には隔壁手段の開通により混合した輸液を収容する空間の一部と
なる空間」をいうのであって,被告製品の小室Tの部分のうち,「室」に該
5 当するものは,内側の樹脂フィルム同士で形成された空間のみであるから,
被告製品には,微量金属元素を含有する輸液を収容した上記空間(袋)を収
納する「室」は存在しない。
(被告製品及び被告方法は構成要件1D及び10Dの「熱可塑性樹
脂フィルム製の袋」を備えるか)について
10 【原告の主張】
被告製品の小室Tの部分のうち,内側の樹脂フィルム同士で形成される袋
は,ポリエチレン樹脂及び環状オレフィン樹脂を積層して形成されているも
のであるところ,ポリエチレン及び環状ポリオレフィンは熱可塑性樹脂であ
るから,被告製品及び被告方法は構成要件1D及び10Dの「熱可塑性樹脂
15 フィルム製の袋」を備える。
【被告らの主張】
構成要件1D及び10Dの「熱可塑性樹脂フィルム製の袋」は,「他の
室」に収納して初めて,「経時変化を受けることなく保存できる輸液製剤を
提供することができる」という効果を奏することができる態様の「熱可塑性
20 樹脂フィルム」により形成されたものでなければならないが,被告製品の小
室Tの部分のうち,内側の樹脂フィルムで形成され,微量金属元素を含む溶
液を収容している袋は,熱可塑性樹脂ではあるものの,ガスバリヤー性が高
いCOP(環状ポリオレフィン)を含む樹脂が用いられているから,「熱可
塑性樹脂フィルム製の袋」には当たらない。
25 争点 (被告方法は構成要件10Aの「複室輸液製剤」の構成を備える
か)について
【原告の主張】
ア 被告方法を使用している被告製品は,輸液容器において大室,中室,小
室Tの外側の樹脂フィルムで形成された収容容器及び小室Vの複数の室を
有するから,被告方法は構成要件10Aの「複室輸液製剤」の構成を備え
5 る。
イ この点,被告らは,構成要件10Aの「複室輸液製剤」について,「輸
液の使用時には隔壁手段の開通により混合した輸液を収容する空間の一部
となる空間」という請求項に記載のない用語を追加して限定して解釈して
いるが,本件明細書には,そのように定義すべき記載は見当たらない上,
10 構成要件10Aは,そもそも,外部からの押圧によって連通可能な隔壁手
段によって区画されていることを発明特定事項としておらず,輸液の使用
時に隔壁手段の開通により混合した輸液を収容する空間の一部となる空間
であるとも特定されていないのであるから,同構成要件の「複室輸液製
剤」は,上記アのように,その記載どおりに解すべきである。
15 仮に,被告らが主張する上記解釈を前提にしたとしても,被告製品にお
いては,使用時に,外部からの押圧によって小室Tの内側の樹脂フィルム
で形成された袋が中室と連通し,小室Tの一部である上記袋が存在してい
た部分に混合された輸液が収容されることにより,小室Tの外側の樹脂フ
ィルムで形成された収納容器(収納空間)が中室と連通することを意味す
20 るから,上記収容容器は「室」に該当する。
【被告らの主張】
ア 構成要件10Aは,「複室輸液製剤」とのみ特定しており,構成要件1
Aとは異なり,「外部からの押圧によって連通可能な隔壁手段で区画され
ている複数の室」とまでは特定していないが,本件明細書に開示されてい
25 る「複室からなる輸液容器」は,「連通可能な隔壁手段で区画されてい
る」ことによって「複室」が形成された輸液容器であり,その具体的な構
成として,①外部より押圧することによって連通する隔壁手段を設けた構
成,及び②破断させることにより連通する「流路閉塞体」を設けた構成が
開示されているから,構成要件10Aにおいても,「室」が「輸液の保管
時には隔壁手段により区画された空間であり,輸液の使用時には隔壁手段
5 の開通により混合した輸液を収容する空間の一部となる空間」を意味する
ものとして用いられていることは明らかである。
イ 被告方法を使用している被告製品の小室Tの部分は,内側の樹脂フィル
ム同士で形成された空間を除いては,使用時に隔壁手段の開通によって混
合した輸液を収容する空間の一部を形成することとなる空間ではなく,
10 「室」に該当しない。
(本件各発明はサポート要件違反により無効にされるべきものか)
について
【被告らの主張】
ア 違反理由1
15 本件明細書の段落【0005】には,「微量金属元素が安定に存在して
いることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供する
こと」が本件各発明の解決すべき課題であると記載されているところ,こ
のような課題を解決することができたとして本件明細書に記載された実施
例は,「微量金属元素収容容器」が糖・電解質輸液が充填された「室」に
20 収納され,また,輸液容器と外袋の間には,「脱酸素剤」が封入されてい
る構成だけである(段落【0052】,【0055】,【0058】,
【0059】)。
この実施例と異なる構成,すなわち,「微量金属元素収容容器」の収納
先である「室」に輸液が充填されていない構成は本件明細書に記載されて
25 いない上,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液に「微量金属元素収容容器」
を収納した場合に微量金属元素が不安定になるメカニズムも,本件明細書
の実施例に記載された構成によって「微量金属元素が安定に存在」するこ
とができるメカニズムも,本件明細書には記載されていないから,本件明
細書の記載に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の
知識を有する者)において,この構成によっても本件各発明の課題を解決
5 することができると認識することはできないというべきである。
それにもかかわらず,本件各発明には「微量金属元素収容容器」の収納
先である「室」に輸液が充填されていない構成が含まれているから,本件
各発明はサポート要件を満たしていないというべきである。
イ 違反理由2
10 本件明細書には,安定性試験において,本件明細書に記載された実施例
の構成によって安定性が確認された旨記載されているが,この安定性試験
は,銅のみの定量的な効果を確認しただけで,それ以外の微量金属元素の
安定性や比較例における変化の原因を確認していないこと,輸液製剤の保
存期間が4週間ではなく2週間であること,具体的な測定方法が記載され
15 ていないことから,この安定性試験によっては,当業者において本件各発
明の課題(微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合
物を含む溶液を有する輸液製剤を提供すること)を解決することができる
と認識することができない。
したがって,本件各発明はサポート要件を満たしていないというべきで
20 ある。
ウ 違反理由3 の予備的主張)
において主張するように,本件発明10及び11における
「室」が「連通可能な隔壁手段で区画されている」という具体的態様を備
えたものに特定されないのであれば,本件発明10及び11はサポート要
25 件を満たさないというべきである。
すなわち,本件明細書には,本件各発明の主な課題として,混注操作に
よる細菌汚染の排除,及び微量金属元素の品質劣化の回避が記載されてい
る(段落【0002】,【0003】,【0005】,【0066】)と
ころ,このうち前者の課題については,含硫アミノ酸等の含硫化合物を含
有する溶液を収容する一室と微量金属元素収容容器を収納する他の室とが
5 連通可能な隔壁手段で区画されている空間として形成され,微量金属元素
と上記溶液を混合する際に,細菌汚染の可能性が高く,衛生面において問
題のある混注操作が不要となることによって解決することができるのであ
るから,本件発明10及び11における「室」は連通可能な隔壁手段で区
画されている空間として形成される必要がある。
10 そうすると,本件発明10及び11における「室」が「連通可能な隔壁
手段で区画されている」という具体的態様を備えたものに特定されないの
であれば,本件発明10及び11は,混注操作による細菌汚染の排除とい
う課題を解決することができると当業者において認識し得る範囲を超える
発明を含むことになるから,サポート要件を満たさないというべきである。
15 【原告の主張】
ア 違反理由1について
本件各発明は,「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする
含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供」するという課題を解決し
ようとするものであるところ,ここでいう「安定」とは,含硫化合物を含
20 む「アミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容容器を同室に収容す
る」場合と比較して安定であるという意味である。
そして,微量金属元素収容容器を収容している室に溶液が充填されてい
ない輸液製剤も当業者には提供可能であり,また,当該輸液製剤における
アミノ酸輸液と微量金属元素も,本件明細書の実施例1ないし4の輸液製
25 剤と同様に,アミノ酸輸液を充填した「室」の壁,微量金属元素収容容器
が収納された「他の室」の壁,及び微量金属元素収容容器の壁によって三
重に隔てられていることから,当業者は,微量金属元素収容容器を収容し
ている室に溶液が充填されていない場合も,「アミノ酸輸液を一室に充填
し,微量金属元素収容容器を同室に収容する」場合と比較して安定である
と理解する。
5 したがって,本件各発明は,本件明細書に記載されたものであり,当業
者が「微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を
含む溶液を有する輸液製剤を提供する」という課題を解決できると認識で
きる範囲のものである。
イ 違反理由2について
10 被告らは,本件明細書に記載された安定性試験が,①銅のみの定量的な
効果を確認しただけで,それ以外の微量金属元素の安定性や比較例におけ
る変化の原因を確認していないこと,②輸液製剤の保存期間が4週間では
なく2週間であること,③具体的な測定方法が記載されていないことを挙
げて,本件各発明がサポート要件を満たさない旨主張する。
15 しかしながら,まず,上記①については,前記アのとおり,本件各発明
は,アミノ酸輸液を充填した「室」の壁,微量金属元素収容容器が収納さ
れた「他の室」の壁,及び微量金属元素収容容器の壁によって三重に隔て
られていることによって,その課題を解決できることを考慮すれば,当業
者であれば,銅以外の微量金属元素の安定性も銅の場合と同様に課題解決
20 できると当然に認識するものであるし,硫化水素と微量金属元素が反応し
て着色沈殿を生じることは本件出願前に知られていたから,比較例におけ
る着色が微量金属元素によるものであることは,あえて確認するまでもな
く明らかなことである。
また,上記②については,本件各発明が解決しようとする課題は,前記
25 アのとおりであるから,保存安定性を測定する温度条件や経過条件は,当
該課題とは関係しない。
さらに,上記③については,本件出願当時,元素の定量方法としてIC
P発光分光分析は当業者の常法であったから,本件明細書の記載に接した
当業者は,銅の安定性試験として,まずはICP発光分光分析により測定
が行われたものと理解する。
5 したがって,上記①ないし③を根拠に本件各発明がサポート要件を満た
さないということはできない。
ウ 違反理由3について
本件発明10及び11は,「微量金属元素が安定に存在していることを
特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供する」ことを解
10 決しようとする課題とし,本件明細書に記載された「その一室に硫黄原子
を含む化合物を含有する溶液が収容され,微量元素収容容器は他の室に収
容する」という手段に対応して,「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液を収容している室と別室に
鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属
15 元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器を収納し,微量金属元素
収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」との特定事項を有してい
る。
したがって,本件発明10及び11は,本件明細書の記載により当業者
が課題を解決できると認識できる範囲のものである。
20 について
ア (本件各発明は拡大先願要件違反により無効にされるべきも
のか)について
【被告らの主張】
乙4明細書の【図5】及び【図6】に示された実施形態は,本件各発
25 明の全ての構成要件に相当する構成を備えている。
この点,原告は,本件各発明が,①アミノ酸を含有する溶液が「含硫
アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有
する溶液」である点,②袋の素材が「熱可塑性樹脂フィルム製」である
点,及び③袋に収容される溶液が「鉄,マンガンおよび銅からなる群よ
り選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液」又は「銅を含む
5 液」である点において,乙4明細書の【図5】及び【図6】に示されて
いる実施形態とは異なる旨主張する。
しかしながら,乙4明細書は,【図1】に示された実施形態を基本と
なる実施形態として,各室に収容する溶液の具体的な構成を記載し,他
の図面に示された実施形態については,各室に収容する溶液の具体的な
10 構成に関する記載を省略しているところ,上記①及び③に係る構成は,
乙4明細書の【図1】及びこれに関する記載部分に開示されている。ま
た,日本薬局方が注射剤として使用できる容器の素材をガラス又は熱可
塑性樹脂製のプラスチックと規定していることや乙4明細書の【図5】
及び【図6】に示されている実施形態における「区画室28」の熱溶着
15 部分が外部からの押圧によって剥離させることができると記載されてい
ることを踏まえると,上記「区画室28」が「熱可塑性樹脂フィルム製
の袋」で形成されていることは明らかである。
したがって,本件各発明は,乙4明細書に開示された発明と同一であ
り,拡大先願要件に違反するというべきである。
20 【原告の主張】
乙4明細書に開示された発明は,「容器が,複数の収容室を有する容
器本体と,壁材の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる
隔離部により下端部が収容室と隔離され,収容室より小さい複数の区画
室を有して収容室に収容された収容容器とからなり,収容室にはアミノ
25 酸あるいはアミノ酸及び電解質含有液が収容され,別の収容室には糖あ
るいは糖及び電解質含有液が収容され,複数の区画室には,少なくとも
2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを他のビタミンと隔
離するように別々に収容され,他のビタミンの一部がさらに他の収容室
に収容されていてもよく,該複室容器の容器本体では,複数の収容室間
が容器壁の内壁面同士を剥離可能に熱溶着した弱シールからなる仕切部
5 により仕切られていて,上下両端を含む周囲が密封シール部により密封
されている輸液製剤ないし輸液製剤の保存安定化方法」というものであ
る。
そうすると,乙4明細書に開示された発明は,「アミノ酸を含有する
溶液」が「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なく
10 とも1種を含有する溶液であること」,及び「収容容器」が「鉄,マン
ガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を
含む液」を収容するものであることが特定されておらず,複数の区画室
には,少なくとも2種以上のビタミンが,少なくとも一部のビタミンを
他のビタミンと隔離するように別々に収容され,他のビタミンの一部が
15 さらに他の収容室に収容されていてもよいことが特定されている点にお
いて本件各発明と相違しているところ,「微量金属元素が安定に存在し
ていることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供
する」という課題を解決するために,糖あるいは糖及び電解質含有液の
収容室に収容された収容容器の複数の区画室を「熱可塑性フィルム製」
20 にして,そこに「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なく
とも1種の微量金属元素を含む液」を収容するという構成を採用するこ
とはもちろん,その構成と共に,アミノ酸あるいはアミノ酸及び電解質
含有液を「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なく
とも1種を含有する溶液」とする構成を採用することは,乙4出願時の
25 当業者の周知慣用技術ではないから,かかる相違点は,課題解決のため
の具体化手段における微差とはいえない。
したがって,本件各発明は,乙4明細書に開示された発明と同一でな
いから,拡大先願要件に違反するとはいえない。

ついて
5 【原告の主張】
乙4明細書には,本件訂正請求により訂正された構成要件のうち,本
件訂正発明1については構成要件1F及び1G,本件訂正発明2につい
ては構成要件2Fの「亜硫酸塩を含む」の部分及び2G,本件訂正発明
10については構成要件10F及び10G,本件訂正発明11について
10 は構成要件11Fの「亜硫酸塩を含む」の部分及び11Gに係る各構成
は開示されていない。
しかるに,①本件訂正発明1及び10については,輸液容器が「ガス
バリヤー性外袋に収納されており」,「外袋内の酸素を取り除いた」場
合において,輸液容器の一室に「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる
15 群より選ばれる少なくとも1種」を含有する溶液である「アセチルシス
テインを含むアミノ酸輸液」が充填され,他の室に「鉄,マンガンおよ
び銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が
収容された微量金属元素」収容容器が収納されていることにより,②本
件訂正発明2及び11については,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に
20 収納されて」おり,アミノ酸輸液が「亜硫酸塩を含む」場合において,
輸液容器の一室に「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれ
る少なくとも1種」を含有する溶液である「システイン,またはその塩,
エステルもしくはN-アシル体・・・を含むアミノ酸輸液」が充填され,
他の室に「銅を含む液が収容された微量金属元素」収容容器が収納され
25 ていることにより,それぞれ,「含硫化合物と微量金属元素を含有する
輸液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌によ
る汚染を全く排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保
存できる輸液製剤を提供することができる」という効果を奏するのに対
し,乙4明細書に開示されている発明は,「輸液とこの輸液に配合する
ための複数のビタミンとの混合操作が容易であり,該複数のビタミンを
5 長期間安定に維持保存することができるとともに生体に必須の薬剤以外
の不要成分をできるだけ少なくすることができ,製造が容易な輸液容器
が得られる」という効果を奏するにすぎないから,本件各訂正発明が乙
4明細書に開示された発明と比較して新たな効果を奏することは明らか
である。
10 そうすると,前記
る微差とはいえないから,本件各訂正発明は乙4明細書に開示された発
明とは同一とはいえない。
【被告らの主張】
乙4明細書の【図5】及び【図6】には,収容室23に,「アミノ
15 酸」又は「アミノ酸及び電解質含有液」並びに「酸化防止剤(亜硫酸水
素ナトリウム,亜硫酸ナトリウムなど)」などの「アミノ酸」などと配
合可能な輸液を収容する構成が記載されているから,乙4明細書には,
アミノ酸輸液に「亜硫酸塩を含む」ことが開示されているし,「アミノ
酸」は,含硫アミノ酸である「システイン」,「シスチン」を含む一般
20 的な輸液に使用される必須アミノ酸又は非必須アミノ酸から成るから,
必須アミノ酸又は非必須アミノ酸として,含硫アミノ酸である「システ
イン」,「シスチン」のほか「アセチルシステイン」を含有させること
も実質的に開示されているといえる。
また,輸液容器を「ガスバリヤー性外袋」に収納すること及び「外袋
25 内の酸素を取り除いたもの」とすることは,輸液製剤を安定的に保存す
るために行われるものであるところ,乙4明細書の輸液容器においても,
輸液製剤を安定的に保存するために「窒素充填された常温の遮光室に収
容」すべきことが当然に予定されている上,輸液製剤を「外袋内の酸素
を取り除いた」「ガスバリヤー性外袋」に収納することは,乙4出願当
時の技術常識であったから,乙4明細書の【図5】及び【図6】に示さ
5 れる輸液容器は,輸液製剤として,製造し,保管し,販売し,搬送し,
再び保管する際には,「外袋内の酸素を取り除いた」「ガスバリヤー性
外袋」に収納することを当然の前提としている。
したがって,本件訂正請求によっても拡大先願要件違反は解消されな
い。
10 について
ア (本件各発明は乙12公報に基づいて進歩性を欠き無効にさ
れるべきものか)について
【被告らの主張】
乙12公報に開示された発明は,微量金属元素を含む液の収容先を
15 「室」それ自体とする構成になっており,微量金属元素を含む液の収容
先を「室」に収納された容器(「微量金属元素収容容器」)内とする構
成を備えていない点を除き,本件各発明の各構成要件に相当する構成を
備えている。
これに対し,原告は,乙12公報に開示された発明は,アミノ酸輸液
20 に含硫アミノ酸であるアセチルシステイン及び/又はシステインを含有
する構成並びに微量金属元素として鉄,マンガン及び銅を含有する構成
を備えていない点において,本件各発明と異なる旨主張する。
しかしながら,乙12公報には,アミノ酸の一成分として,「システ
イン」のN-アシル誘導体である「N-アセチル-L-システイン」を
25 具体的に特定する形で配合することや,「微量金属元素」として「鉄」,
「マンガン」又は「銅」を具体的に特定する形で含有させることが記載
されている(前者につき段落【0021】,後者につき段落【002
2】)から,原告が主張する上記相違点は存在しない。
そうすると,本件各発明と乙12公報に開示された発明との相違点は,
前者においては,微量金属元素を含む液の収容先は「室」に収納された
5 容器(「微量金属元素収容容器」)内であるのに対し,後者においては,
微量金属元素を含む液の収容先が「室」それ自体である点にあるところ,
原告は,乙12公報に開示された発明は,既に所期の目的を達成してい
るから,微量金属元素を含む液の収容先を「室」に収納された容器内と
する構成を採用する動機付けがない旨主張する。
10 しかしながら,収容された微量金属元素を含む液が含硫アミノ酸から
発生する硫化水素ガスにより不安定となる場合には,その透過量を低下
させるため,微量金属元素を含む液を収容する「室」を多重包装状態と
する構成や微量金属元素を含む液を小袋に入れた上で「室」に収納する
構成などを適宜採用すれば足りるから,上記相違点を解消することは単
15 なる設計事項にすぎない。また,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液が硫
化水素ガスを透過しにくい材料で形成された「室」に収容されている場
合には,微量金属元素を含む液を収容した容器を上記「室」に収納しな
い構成を採用すれば足り,上記容器を上記「室」以外の「室」に収納す
る構成を採用する必要はなく,後者の構成には格別の技術的意義はない
20 から,この構成を乙12公報に開示された発明に適用することを阻害す
る理由もない。
したがって,乙12公報に開示された発明に微量金属元素を含む液の
収容先を「室」に収納された容器内とする構成を適用することは,当業
者であれば容易に想到することができたものであるから,本件各発明は,
25 乙12公報に開示された発明に基づき容易に発明をすることができたも
のであって,進歩性を欠き無効にされるべきものである。
【原告の主張】
乙12公報には,「医療用液体を封入する樹脂製容器であって,袋状
の樹脂製容器本体及び少なくとも1つのポート部材を備え,容器本体内
部が相対する内壁面の一部を液密にかつ剥離可能に接着して形成される
5 接着部により複数の分室C1~C4に区画され,接着部は,分室C1若
しくはC2に糖,電解質及びアミノ酸の各薬液を収容し,分室C3に微
量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤,ポート部材若しくは分室C
4にビタミン類を凍結乾燥物(固形薬剤)あるいは水溶液として収容し
た状態で容器本体外部からの10~40kgfの押圧力により剥離可能
10 であり,接着部が剥離することにより接着部の両側の分室が互いに連通
し,分室C1~C4に収容された経中心静脈栄養用液体が混合され,ポ
ート部材は,閉鎖体,筒体及び保持具を備え,閉鎖体を貫通する連通具
を介して容器本体内の液体を注出又は容器本体内へ液体を注入可能であ
り,ポート部材を構成する筒体及び容器本体の内壁面は,いずれもVI
15 CAT軟化点が121℃以上のプロピレン・α-オレフィンランダム共
重合体により形成されることを特徴とする容器。」という発明と「上記
発明の各成分の安定性を実質的に損なわない方法。」という発明が開示
されている。
そうすると,本件各発明と乙12公報に開示された発明とは,前者に
20 おいては,アミノ酸を含有する溶液が「含硫アミノ酸および亜硫酸塩か
らなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」であり,他の室
に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微
量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器が収納されてお
り,微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」のに
25 対し,後者においては,「アミノ酸を含有する溶液」が「含硫アミノ酸
及び亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」
である点,及び,他の室に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ば
れる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素
収容容器が収納されている」ことが特定されておらず,他の室の1つで
ある小室(分室)C3に微量元素(ミネラル)の水溶液又は固形薬剤が
5 直接収容されている点において相違しているといえる。
しかるに,乙12公報に記載された「N-アセチル-L-システイ
ン」,「塩化第二鉄,塩化マンガン,硫酸銅」は飽くまでも配合し得る
成分の膨大な選択肢の例示にすぎず,積極的,優先的に選択すべき事情
が見当たらないから,乙12公報に接した当業者は,「N-アセチル-
10 L-システイン」等の含硫アミノ酸の有する課題や,「N-アセチル-
L-システイン」等の含硫アミノ酸と「塩化第二鉄,塩化マンガン,硫
酸銅」とを選択して組み合わせた場合の課題を認識することはない。ま
た,乙12公報に開示された発明は,「ビタミンやミネラルの微量成分
の変質を避けて投与直前に混合するために分室に収容保持し,必要なと
15 きに容易に混合する ことが可能な容器を提供する」(段落【000
8】)という目的を既に達成しているものであるから,微量元素(ミネ
ラル)の水溶液を熱可塑性フィルム製の袋に収容した上で,アミノ酸の
薬液を収容している分室ではない他の分室内に収容保持するという構成
を,あえて採用する動機付けは存しない。
20 したがって,乙12公報に開示された発明の一の分室に「含硫アミノ
酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶
液」を充填し,他の分室に「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ば
れる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素
収容容器」を収納し,「微量金属元素収容容器は熱可塑性樹脂フィルム
25 製の袋」とすることは,当業者において容易に想到し得ることではない。
よって,本件各発明は,当業者が乙12公報に開示された発明に基づ
いて容易に発明をすることができたものではない。


【原告の主張】
5 乙12公報には,本件訂正発明1の構成要件1G,本件訂正発明2の
構成要件2G,本件訂正発明10の構成要件10G,並びに本件訂正発
明11の構成要件11Gに係る構成は開示されていない。
しかるに,本件各訂正発明において,輸液容器が「ガスバリヤー性外
袋に収納されており,前記外袋内の酸素を取り除いた」という構成,あ
10 るいは,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納されている」という構
成を採用している目的は,アセチルシステインあるいは「システイン,
又はその塩,エステル,もしくはN-アシル体」を含む「アミノ酸等の
酸化分解されやすい成分の酸化分解を抑える」という点にあるところ,
乙12公報に開示された発明は,これらのアミノ酸を選択して配合した
15 ものではないから,アミノ酸の酸化分解を抑える目的で,前記各構成を
採用する動機付けは存しない。
また,①本件訂正発明1及び10については,輸液容器が「ガスバリ
ヤー性外袋に収納されており」,「外袋内の酸素を取り除いた」場合に
おいて,輸液容器の一室に「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群よ
20 り選ばれる少なくとも1種」を含有する溶液である「アセチルシステイ
ンを含むアミノ酸輸液」が充填され,他の室に「鉄,マンガンおよび銅
からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金属元素を含む液が収容
された微量金属元素」収容容器が収納されていることにより,②本件訂
正発明2及び11については,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納
25 されて」おり,アミノ酸輸液が「亜硫酸塩を含む」場合において,輸液
容器の一室に「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少
なくとも1種」を含有する溶液である「システイン,またはその塩,エ
ステルもしくはN-アシル体・・・を含むアミノ酸輸液」が充填され,他
の室に「銅を含む液が収容された微量金属元素」収容容器が収納されて
いることにより,それぞれ,「含硫化合物と微量金属元素を含有する輸
5 液製剤において,微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による
汚染を全く排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく保存
できる輸液製剤を提供することができる」という効果を奏するのに対し,
乙12公報に開示された発明は,「必要な透明度を備え,溶着不良が低
く,且つ封入される医療用液体へのスチレン系のエラストマーによる環
10 境ホルモンの溶出のない容器を提供することができる」,「滅菌工程後
の透明度が高く,容器本体,容器内部を良好に観察することができる」
という効果を奏するにすぎないから,本件各訂正発明が乙12公報に開
示された発明と比較して新たな効果を奏することは明らかである。
したがって,乙12公報に開示された
15 件に係る構成を採用することは容易になし得ることではない。
【被告らの主張】
乙12公報において,輸液容器が「ガスバリヤー性外袋に収納され」
ているかどうか,また,「外袋内の酸素を取り除いた」構成であるかど
うか明らかでないが,本件明細書には,輸液容器をガスバリヤー性外袋
20 に収納すること,及び外袋内の酸素を除去することの意義は,アミノ酸
などの酸化分解を抑制することであると記載されているところ,プラス
チック容器を透過する酸素によりアミノ酸が分解されてしまうことは周
知の課題であり,この課題を解決するために,輸液容器をガスバリヤー
性外袋に収納し,外袋内の酸素を除去することも周知であるから,乙1
25 2公報の輸液容器をガスバリヤー性外袋に収納し,かつ,当該袋内の酸
素を除去するという構成を採用することは当業者が容易になし得ること
である。
また,乙12公報において,アミノ酸輸液に亜硫酸塩が含まれている
か明らかでないが,亜硫酸塩を安定化剤としてアミノ酸輸液に含ませる
ことは周知の構成にすぎないから,乙12公報のアミノ酸輸液に亜硫酸
5 塩を含ませることは当業者が容易になし得ることである。
(本件各発明は乙17公報に基づいて進歩性を欠き無効にされるべ
きものか)について
【被告らの主張】
ア 乙17公報に開示された発明は,①熱可塑性樹脂フィルム製の袋から成
10 る容器が設けられ,②同容器に微量金属元素を含む液が収容され,③同容
器が含硫アミノ酸等を含有する溶液が充填された室とは異なる室に収容さ
れている構成を備えていない点を除き,本件各発明の各構成要件に相当す
る構成を備えている。
これに対し,原告は,乙17公報には,アミノ酸を含有する溶液にシス
15 テイン及び/又はその塩,エステル,N-アシル誘導体(アセチルシステ
イン),並びに亜硫酸塩を含有する構成は開示されていない旨主張する。
しかしながら,乙17公報には,「アミノ酸を含有する溶液(B)」に
配合されるアミノ酸として「L-システイン」,同溶液に添加される安定
化剤として「亜硫酸塩」や「亜硫酸水素塩」が記載されており,「L-シ
20 ステイン」を「塩」や「エステル」の形態,あるいは「N-アシル誘導
体」である「アセチルシステイン」とする形態で用いることができること
も記載されている(段落【0012】,【0015】ないし【0018】,
【0033】)から,原告の上記主張は理由がない。
イ そうすると,本件各発明と乙17公報に開示された発明との相違点は,
25 前記①ないし③のみであるところ,乙17公報に開示された発明に,前記
①ないし③から成る構成を適用することは,当業者であれば容易に想到す
ることができたものである。
すなわち,乙17公報には,還元糖(ブドウ糖)を含有する溶液とアミ
ノ酸を含有する溶液とを2室容器に分別して収容した輸液製剤において,
脂溶性ビタミンを含有する溶液を収容したバッグを2室のいずれかに収納
5 する構成が開示されているところ,ビタミン類と銅や鉄などの微量金属元
素とは,欠乏症の発生を予防するために輸液に配合して投与する必要性が
あるものの,予め輸液に配合しておくことは安定性の問題があり,他方で,
使用時に混注する方法は操作が煩雑な上,細菌汚染のおそれがある点にお
いて共通しているから,銅や鉄などの微量金属元素を収容した容器を2室
10 のいずれかに収納する構成が強く示唆されているといえる。そして,含硫
アミノ酸を含有する溶液を収容している室にこの容器を収納した場合,含
硫アミノ酸から発生した硫化水素ガスがこの容器の熱可塑性樹脂フィルム
を透過し,この容器に収容されている銅や鉄などの微量金属元素と反応し
て沈殿物を不可避的に生成させることは,輸液製剤の技術分野における技
15 術常識であるから,還元糖を含有する溶液を収容している室に銅や鉄など
の微量金属元素を収容した容器を収納することは容易に想到し得ることで
ある。
ウ したがって,本件各発明は,乙17公報に開示された発明に基づき容易
に発明をすることができたものであるから,進歩性を欠き無効にされるべ
20 きものである。
【原告の主張】
ア 乙17公報には,「還元糖を含有する溶液(A),アミノ酸を含有する
溶液(B)及び脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)の3液からなる輸液
であって,溶液(A)がビタミンB1を含有し,溶液(B)が葉酸を含有
25 し,溶液(C)がビタミンCを含有し,さらにビタミンB2が溶液(B)
又は溶液(C)に配合され,かつ,溶液(A)がpH3.5~4.5,溶
液(B)及び溶液(C)がpH5.5~7.5であることを特徴とし,連
通可能な隔壁で隔てられた2室容器の各室にそれぞれ溶液(A)及び溶液
(B)が収容され,そのいずれか一方の室に溶液(C)を収容した容器が,
使用時連通可能に接続され,溶液(C)を収容した容器が2室容器の一方
5 の室内に固着した剥離開封可能な小袋であり,2室容器を脱酸素剤と共に
ガス非透過性外装容器で包装する,中心静脈投与用輸液。」という発明と
「上記発明のビタミン類を長期間安定とする方法。」という発明が開示さ
れている。
イ そうすると,本件各発明と乙17公報に開示された発明とは,前者にお
10 いては,アミノ酸を含有する溶液が「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からな
る群より選ばれる少なくとも1種を含有する溶液」であり,当該溶液が充
填されていない「他の室に」,「熱可塑性樹脂フィルム製の袋である」
「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微量金
属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」が収納されているの
15 に対し,後者においては,アミノ酸を含有する溶液(B)が特定されてお
らず,脂溶性ビタミンを含有する溶液(C)を収容した容器が2室容器の
いずれか一方の室に使用時連通可能に接続されている点において相違して
いるといえる。
しかるに,乙17公報に開示された発明は「ビタミン類を長期間安定に
20 含有する中心静脈投与用輸液を提供すること」(段落【0009】)を目
的としている上,同発明において,微量元素は,溶液(A)ないし(C)
に予め配合するのではなく,輸液の投与時に必要に応じて,配合変化等が
起こらない範囲で任意に添加するにすぎないものとして位置付けられてい
る(段落【0043】)から,乙17公報の記載からは,「微量金属元素
25 が安定に存在していることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸
液製剤を提供する」という本件各発明の課題は読み取れない。むしろ,含
硫アミノ酸と微量元素が配合された高カロリー輸液において,含硫アミノ
酸の分解により発生する硫化水素が亜鉛,鉄,銅及びマンガン等と反応し
て硫化物の着色沈殿を生成させること,亜硫酸塩や重亜硫酸塩を含む輸液
がアレルギー性反応を引き起こすことが本件出願前の技術常識であったこ
5 とに照らせば,乙17公報に接した当業者は本件各発明の課題には思い至
らないというべきであって,この課題を解決するために,乙17公報に開
示された発明の技術手段を変更するなどの動機は生じない。
しかも,輸液の投与時に微量元素の配合変化等が起こらないように,
「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を
10 含有する溶液」が充填されていない「他の室」に,「熱可塑性樹脂フィル
ム製の袋である」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なく
とも1種の微量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」を
収納することは,本件出願時の当業者に知られていたことではない。
さらに,乙17公報に開示された発明において,「脂溶性ビタミンを含
15 有する溶液(C)を収容した容器」を「熱可塑性樹脂フィルム製の袋であ
る」「鉄,マンガンおよび銅からなる群より選ばれる少なくとも1種の微
量金属元素を含む液が収容された微量金属元素収容容器」に代え,さらに,
「含硫アミノ酸および亜硫酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種を
含有する溶液」が充填されていない「他の室」に当該微量金属元素収容容
20 器を収納することは,ビタミン類を長期間安定に含有する輸液を提供する
という同発明の目的を達成し得なくするものであるから,阻害要因となる。
ウ したがって,本件各発明は,当業者が乙17公報に開示された発明に基
づいて容易に発明をすることができたものではないから,進歩性を欠くと
して無効にされるべきものとはいえない。
か)について
【被告らの主張】
本件各訂正発明の構成のうち,「アセチルシステイン」と「亜硫酸塩」と
をアミノ酸輸液に含有する構成については,本件明細書において実施例によ
る確認がされておらず,一般的,抽象的な記載がされているにすぎないから,
5 本件明細書は,上記構成について,当業者において実施できる程度に明確か
つ十分に記載されたものとはいえない。
したがって,本件各訂正発明は,実施可能要件違反により無効にされるべ
きものである。
【原告の主張】
10 本件明細書の実施例 1 には,アセチルシステインを1.0g/L含有する
溶液(B)を第2室に充填した輸液製剤の製造方法が,実施例2ないし4に
は,亜硫酸水素ナトリウムを50ないし200mg/L含有する溶液(B)
がそれぞれ具体的に記載されており,当業者において,これらを参照し,例
えば,アセチルシステイン1.0g/Lを含有する溶液(B)に添加する亜
15 硫酸水素ナトリウムの量を適宜決定して輸液製剤を製造し得ることは明らか
であるから,本件明細書は,当業者が本件各訂正発明を実施することができ
る程度に明確かつ十分に記載されたものである。
したがって,本件各訂正発明は,実施可能要件違反により無効にされるべ
きものとはいえない。
20 第3 当裁判所の判断
1 本件事案に鑑み,まず,争点
10Cの「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を備える
か)について判断する。
及び弁論の全趣旨によれば,被告製品ないし被告方法にお
25 いては,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に,微量金属元素であ
る鉄,マンガン及び銅を含む液が充填されており,その袋が小室Tの外側の
樹脂フィルム2枚で覆われていると認められるところ,原告は,小室Tの外
側の樹脂フィルム2枚が構成要件1C及び10Dの「室」を形成していると
の理解を前提に,その中に,上記両構成要件の「微量金属元素収容容器」で
ある内側の樹脂フィルムで形成された袋が収納されているから,被告製品な
5 いし被告方法は上記両構成要件の「室に・・・微量金属元素収容容器が収納」
されている構成を備えている旨主張する。
そこで検討するに,構成要件1Aないし1C及び10Aないし10Cの記
載( ア,ウ)によると,構成要件1C及び10Cの「室」は
輸液容器の「複数の室」(構成要件1A)ないし「複室」(構成要件10
10 A)の一室であると解されるところ,証拠(甲2)によれば,本件明細書に
は,発明の詳細な説明として,次の記載のあることが認められる。
「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,経時変化を受けることなく保存でき,使用時に細菌による汚染
15 なく薬剤の配合を行うことができる複数の室を有する輸液容器に収容され
ている輸液製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者には,経静脈からの高カ
20 ロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤として
は,糖製剤,アミノ酸製剤,電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤な
どが市販されており,病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用さ
れていた。
しかし,病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに,かかる混合操
25 作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題がある。このため
連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病
院で使用されるようになった。
【0003】
一方,輸液中には,通常,微量金属元素(銅,鉄,亜鉛,マンガンなど)
が含まれていないことから輸液の投与が長期になると,患者の唇がひび割
5 れたり,造血機能が低下したりする,いわゆる微量金属元素欠乏症を発症
する。微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によっ
て品質劣化の原因となる。このため病院では,細菌汚染の問題をかかえな
がらも依然として輸液を投与する直前に微量金属元素が混合されているの
が現状である。
10 【0004】
本発明者らは,かかる現状に鑑み,外部からの押圧によって連通可能な隔
壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器を用い,用時に細菌汚染の
可能性なく微量金属元素を混入することができ,かつ,保存安定性にも優
れた輸液製剤の創製研究を開始した。
15 本発明者らは,システインまたはシスチンなどの含硫アミノ酸を含むアミ
ノ酸輸液と微量金属元素とを隔離して保存することを試みた。しかしなが
ら,含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填し,微量金属元素収容
容器を同室に収容すると,該アミノ酸輸液と微量金属元素とは隔離してあ
るにもかかわらず,微量金属元素を含む溶液が不安定であるという問題が
20 生じることを知見した。上記室と微量金属元素収容容器を構成する材料を
種々変更して検討したが,通常入手し得る樹脂材料である限り,微量金属
元素溶液を安定化することはできなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
25 本発明は,微量金属元素が安定に存在していることを特徴とする含硫化合
物を含む溶液を有する輸液製剤を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは,上記目的を達成すべく鋭意検討した結果,連通可能な隔壁
手段で区画されている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原
5 子を含む化合物を含有する溶液が収容され,微量金属元素収容容器は他の
室に収容することにより,微量金属元素を含む溶液が安定であるという思
いがけない知見を得た。(以下,略)」
「【0012】
【発明の実施の形態】
10 本発明にかかる輸液製剤においては,連通可能な隔壁手段で区画されてい
る複室からなる輸液容器を用いる。(以下,略)」
「【0014】
本発明にかかる輸液製剤は,上述のような連通可能な隔壁手段で区画され
ている複室からなる輸液容器において,その一室に硫黄原子を含む化合物
15 を含有する溶液が充填され,他の室に微量金属元素収容容器が収納されて
いることを特長とする。このようにすることにより,硫黄原子を含む化合
物を含有する溶液を有する輸液製剤において,微量金属元素,特に銅イオ
ンを安定化することができる。」
「【0066】
20 【発明の効果】
本発明によれば,含硫化合物と微量金属元素を含有する輸液製剤において,
微量金属元素を用時に輸液に混合する際に細菌による汚染を全くは(判決
注:原文のまま)排除することができ,かつ,経時変化を受けることなく
保存できる輸液製剤を提供することができる。」
25 以上の記載によれば,本件各発明については,次のとおりのものである旨
認めることができる。
すなわち,まず本件各発明の技術分野は,経口・経腸管栄養補給が不能又
は不十分な患者に対して,経静脈からの各種輸液(糖製剤,アミノ酸製剤,
電解質製剤,混合ビタミン製剤,脂肪乳剤等)の投与を行うための輸液製剤
に関するものである。この点,当該輸液製剤は,経時変化を受けることなく
5 保存し,その使用時に細菌による汚染なく混合するため,連通可能な隔壁手
段で区画された複数の室を有する輸液容器に収容される。
しかして,輸液中には,通常,銅等の微量金属元素が含まれていないこと
から,患者は,輸液の投与が長期になるときにはいわゆる微量金属元素欠乏
症を発症することとなる。しかるところ,これを予防するために必要な微量
10 金属元素を輸液と混合した状態で保存すると,化学反応によって品質劣化の
原因になり,これを防ぐべく含硫アミノ酸を含むアミノ酸輸液を一室に充填
し,微量金属元素収容容器を同室に収容すると,当該アミノ酸輸液と微量金
属元素とを隔離していても,微量金属元素を含む溶液が不安定となるという
技術的課題が生じていた。
15 本件各発明は,このような技術的な課題に対して,連通可能な隔壁手段で
区画されている複室の一室に含硫アミノ酸を含有する溶液を充填し,これと
は他の室に,微量金属元素を収容した容器を収納するという構成を採用する
ことにより,上記技術的な課題を解決し,微量金属元素が安定に存在してい
ることを特徴とする含硫化合物を含む溶液を有する輸液製剤を提供するとい
20 う効果を奏するようにしたものであるというべきである。
そうである以上,本件各発明の課題解決の点における特徴的な技術的構成
は,微量金属元素収容容器を,含硫アミノ酸を含有する溶液と同じ室ではな
く,同室と連通可能な他の室に収納するという構成を採用したところにある
ものというべきである。そして,これは,連通可能な隔壁手段で区画された
25 複数の室を有する輸液容器であることを前提として,その複数の各「室」に
ついては,それぞれ異なる輸液を充填して保存するための構造となっており,
上記の微量金属元素収容容器を収納する「室」は,含硫アミノ酸を含有する
溶液とは異なる輸液の充填・保存のための構造となっている「室」であると
いう技術的構成が採用されたものということができる。
すなわち,本件各発明において,構成要件1Aの「複数の室」及び構成要
5 件10Aの「複室」は,各種輸液を充填して保存するための構造となってい
る各空間を意味すると解されることから,輸液容器に設けられた空間がその
一室である構成要件1C及び10Cの「室」に当たるためには,当該空間が
輸液を充填して保存し得る構造を備えていることを要すると解するのが相当
であり,これに反する原告の前記主張は採用できない。
10 この点,証拠(甲2)によれば,本件明細書には,発明の詳細な説明とし
て,「(略)また,微量金属元素収容容器は,それを収納している室と連通
可能であることが好ましい。(以下,略)」(段落【0020】)との記載
や,「上記『微量金属元素収容容器を収納している室』には,溶液が充填さ
れていてもよいし,充填されていなくてもよい。(以下,略)」(段落【0
15 024】)との記載のあることが認められる。しかしながら,前者の記載に
ついては,前記で説示した本件各発明の技術的意義に照らせば,微量金属元
素収容容器が上記のような意味の「室」に収納されていることを前提とする
記載であり,同容器が輸液を充填して保存し得る構造を備えていない構成の
ものに収納されている場合をも許容する趣旨であるとは解されない。また,
20 後者の記載についても,同様に,「微量金属元素収容容器を収納している
室」には,輸液が充填されていない構成のものも含まれることを述べたもの
にすぎず,そもそも輸液を充填して保存するための構造となっていない構成
のものまで含まれることを意味したものと解することはできない。
したがって,これらの記載によっては,前記判断は左右されず,その他,
25 本件明細書の記載内容を詳細に検討しても,前記判断を左右し得る記載は見
当たらない。
そこで,これを被告製品ないし被告方法について見ると,
及び弁論の全趣旨によれば,小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋を
覆っている外側の樹脂フィルム2枚は,中室側及び小室V側の両端部におい
て内側の樹脂フィルムと溶着されており,使用時にも当該溶着部分は剥離し
5 ないと認められる。
そうすると,小室Tの外側の樹脂フィルムと内側の樹脂フィルムとの間の
空間は,使用時に中室及び小室Vと連通するものではなく,これに照らすと,
同空間が,輸液を充填して保存し得る構造を備えているものとは認められな
いといわざるを得ず,同空間が「室」に当たるということはできない。
10 したがって,被告製品及び被告方法は構成要件1C及び10Cの「室
に・・・微量金属元素収容容器が収納」されている構成を具備するとは認めら
れない。
以上によれば,被告製品及び被告方法は,本件各発明の技術的範囲に属す
るものとは認められないといわなければならない。
15 2 よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求は全部理由
がないから,これらをいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第47部
20 裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 横 山 真 通
裁判官 西 尾 信 員
別 紙
被告製品目録
1 ワンパル1号輸液(水分量800ml)
5 2 ワンパル1号輸液(水分量1200ml)
3 ワンパル2号輸液(水分量800ml)
4 ワンパル2号輸液(水分量1200ml)
以 上
別 紙
被告製品説明書
1a-1 混注口側から投与口側に向かって順に大室,中室,小室T,小室Vに区画さ
5 れた樹脂フィルム製の輸液容器であって,
1a-2 大室と中室との間は樹脂フィルムを外部からの押圧によって剥離するシール
で接合して仕切られており,
1a-3 中室と小室Tとの間及び小室Tと小室Vとの間は,二重になっている樹脂フ
ィルムの外側の樹脂フィルムを内側の樹脂フィルムに溶着し,内側の樹脂フ
10 ィルム同士を前記シールで接合して仕切られており,
1a-4 小室Vの投与口側は二重になっている樹脂フィルムの外側の樹脂フィルムと
内側の樹脂フィルムとは接着せず,内側の樹脂フィルム同士を前記シールで
接合している。
1b 中室にアセチルシステイン,L-メチオニン及び亜硫酸水素ナトリウムを含
15 有する溶液が充填されている。
1c 小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に塩化第二鉄水和物,塩化マン
ガン水和物及び硫酸銅水和物を含む液が充填されている。
1d 小室Tの内側の樹脂フィルムはポリエチレン樹脂及び環状オレフィン樹脂を
積層して形成されている。
20 1e 上記を特徴とする輸液製剤である(別紙図1及び図2のとおり)。
1f 1bと同じ
1g 前記輸液容器と脱酸素剤がガスバリヤー性の外袋に収納されている。
以 上
別 紙
被告方法説明書
10a-1 混注口側から投与口側に向かって順に大室,中室,小室T,小室Vに区画
5 された樹脂フィルム製の輸液容器であって,
10a-2 大室と中室との間は樹脂フィルムを外部からの押圧によって剥離するシー
ルで接合して仕切られており,
10a-3 中室と小室Tとの間及び小室Tと小室Vとの間は,二重になっている樹脂
フィルムの外側の樹脂フィルムを内側の樹脂フィルムに溶着し,内側の樹
10 脂フィルム同士を前記シールで接合して仕切られており,
10a-4 小室Vの投与口側は二重になっている樹脂フィルムの外側の樹脂フィルム
と内側の樹脂フィルムとは接着せず,内側の樹脂フィルム同士を前記シー
ルで接合している。
10b 中室にアセチルシステイン,L-メチオニン及び亜硫酸水素ナトリウム
15 を含有する溶液が充填されている。
10c 小室Tの内側の樹脂フィルムで形成された袋に塩化第二鉄水和物,塩化
マンガン水和物及び硫酸銅水和物を含む液が充填されている。
10d 小室Tの内側の樹脂フィルムはポリエチレン樹脂及び環状オレフィン樹
脂を積層して形成されている。
20 10e 上記を特徴とする輸液製剤の保存安定化方法である(別紙図1及び図2
のとおり)。
10f 10bと同じ
10g 前記輸液容器と脱酸素剤が,ガスバリヤー性の外袋に収納されている。
25 以 上
別 紙

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