令和2(ワ)24090発信者情報開示請求事件
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裁判所 |
認容 東京地方裁判所東京地方裁判所
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裁判年月日 |
令和3年2月19日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告X 被告エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
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法令 |
著作権
著作権法23条1項1回
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キーワード |
侵害16回 損害賠償7回
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主文 |
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事件の概要 |
1 本件は,漫画家である原告が,電気通信業(インターネット接続事業)を営
む被告に対し,氏名不詳者が,ビットトレント(BitTorrent)方式のP2Pソ
フトを利用し,原告の著作物である漫画「望まぬ不死の冒険者」(以下「本件
漫画」という。)をインターネット上からダウンロードして複製して自己の端
末に蔵置した上,被告の提供するインターネット接続サービスを通じて公衆送
信するなどし,原告の本件漫画に係る著作権(公衆送信権,送信可能化権)を
侵害したことが明らかであるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任
の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に
基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案である。 |
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判決文
令和3年2月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
令和2年(ワ)第24090号 発信者情報開示請求事件
口頭弁論終結日 令和2年12月23日
判 決
原 告 X
同訴訟代理人弁護士 平 野 敬
髙 井 雅 秀
笠 木 貴 裕
被 告 エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 松 田 真
主 文
1 被告は,原告に対し,別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は,漫画家である原告が,電気通信業(インターネット接続事業)を営
む被告に対し,氏名不詳者が,ビットトレント(BitTorrent)方式のP2Pソ
フトを利用し,原告の著作物である漫画「望まぬ不死の冒険者」(以下「本件
漫画」という。)をインターネット上からダウンロードして複製して自己の端
末に蔵置した上,被告の提供するインターネット接続サービスを通じて公衆送
信するなどし,原告の本件漫画に係る著作権(公衆送信権,送信可能化権)を
侵害したことが明らかであるとして,特定電気通信役務提供者の損害賠償責任
の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に
基づき,被告が保有する発信者情報の開示を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨
により認定できる事実)
(1) 当事者
ア 原告は,本件漫画の著作権者である(甲1,2)。
イ 被告は,電気通信事業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告による調査結果
ア 原告訴訟代理人は,原告の委託を受け,令和2年7月11日頃,P2P
方式のプロトコルであるビットトレントを実装したクライアント・ソフト
ウェアを利用して,本件漫画の作者名及び題名を含むデータ(以下「本件
データ」という。)をダウンロードし,本件データに本件漫画の1巻1話
冒頭部分等が含まれることを確認した(甲3~5,6の1,7,8)。
イ 原告訴訟代理人は,同月23日午前11時5分42秒頃,前記ソフトウ
ェアを利用し,本件データのダウンロード元となる「ピア」として,別紙
発信端末目録記載AのIPアドレスを通じて,インターネットに接続する
者(以下「本件発信者A」という。)の端末が登録されていることを確認
した(甲6の2)。当該IPアドレスは,被告が保有していた。
ウ 原告訴訟代理人は,同年8月10日午後6時27分37秒頃,同様に本
件データのダウンロード元となる「ピア」として,前記目録記載BのIP
アドレスを通じ,インターネットに接続する者(以下「本件発信者B」と
いう。)の端末が登録されていることを確認した(甲6の3)。当該IP
アドレスは,被告が保有していた(甲9の2)。
(3) 被告による意見聴取
ア 本件発信者Aは,被告による法4条2項の意見聴取に対し,令和2年1
0月28日付けで,①本件漫画が「著作権物」であるとは認識していなか
ったこと,②本件漫画のファイルをダウンロードするため,ビットトレン
トを導入したが,これが不特定多数に配信されていることを認識していな
かったことなどを内容とする回答をした(乙1)。
イ 本件発信者Bは,被告による法4条2項の意見聴取に対し,令和2年1
1月10日付けで,①これまでP2Pソフトウェアの仕組みを知らなかっ
たこと,②ファイルを共有するためではなく,ダウンロードしたファイル
を管理するため,「Free Download Manager」というソフトウェアを利用
していたにすぎないことなどを内容とする回答をした(乙2)。
3 争点
(1) 権利侵害の明白性(争点1)
(2) 開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
公衆送信権は,送信可能化権を含む(著作権法23条1項)が,ビットトレ
ント・ネットワークのピアに登録した者は,いつでも要求があればデータを送
信する待機状態にあるのであるから,ピアとなっていること自体が公衆送信権
を侵害する。本件データは,少なくとも,本件漫画1巻1話冒頭部分の画像デ
ータを含むものであるが(甲7,8),本件発信者A及び本件発信者Bは,本
件データを保有した上で前記ピアに登録したから(甲6の2,3),本件漫画
の公衆送信権を現に侵害していたことが明白である。
(被告の主張)
甲6の2,3の各スクリーンショットは,本件発信者A及び本件発信者Bに
割り当てられたIPアドレスに係るピアが存在したという事実を示すにとどま
り,不特定多数者に実際に本件データを送信された事実を裏付けるものではな
い。したがって,公衆送信権侵害が明らかであるということはできない。
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
(1) 原告は,本件発信者A及び本件発信者Bに対し,損害賠償などを求める予
定があり,そのために発信者情報の開示を受ける必要がある。したがって,
その「開示を受けるべき正当な理由」がある。なお,本件発信者A及び本件
発信者Bは,権利侵害の故意を否定するかのようであるが,発信者情報開示
請求の要件は,権利侵害の有無のみであり,故意過失は関係しない。
(2) 仮に,故意過失の有無が請求原因に関係するとしても,本件発信者A及び
本件発信者Bには,少なくとも客観的に過失がある。ビットトレントの仕組
みについては,インターネット上にも平易な解説記事があり(甲12),ま
た,インターネットを扱う上で,他人の著作権に十分な注意を払うべきこと
は確立した社会通念となっているからである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。本件発信者Bは,前記前提事実記載の回答書を提出して
おり,権利侵害に対する故意過失がない。このように,不法行為の要件を明ら
かに欠いており,損害賠償請求をすることが不可能である場合,開示請求者に
は,発信者情報の開示を受ける利益がない。他方で,開示請求を認めることで
制約される発信者のプライバシー等の利益を考慮すれば,原告には「開示を受
けるべき正当な理由」がないというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1) 前提事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア ビットトレントとは,インターネットなどを通じ,P2P方式でファイ
ルを共有するプロトコルであり,これを実装したクライアント・ソフトウ
ェアを実行する端末が,ビットトレント・ネットワークからファイルをダ
ウンロードすると,当該端末も当該ファイルを所有するピアとして同ネッ
トワーク上に登録され,別のピアから要求があれば当該端末から当該ファ
イルを送信する仕組みのものである(甲3,5,12)。
イ 本件発信者A及び本件発信者Bは,いずれもビットトレントを実装した
クライアント・ソフトウェアを利用していたが(甲11,乙1,2),そ
の端末は,別紙発信者端末目録記載の各日時頃において,本件データの1
00%を所有するピアであると登録されており,同日時頃,同記載の被告
保有の各IPアドレスを通じ,原告訴訟代理人の使用する端末に対し,少
なくとも本件データの一部を送信した(甲5~8)。
(2) これらによれば,本件発信者A及び本件発信者Bが,本件データを自己の
端末にダウンロードして記録させた上,本件データを所有するピアとして自
らの端末を登録し,不特定多数の別のピアから要求があれば,被告の提供す
るインターネット接続サービスを通じ,当該端末から当該ファイルを自動で
送信し得るようにしていたことが推認される。したがって,原告の本件漫画
に係る送信可能化権が侵害されていたことは明らかである。また,原告訴訟
代理人は,原告に対する著作権侵害の有無を調査するため,前記の各日時に
おいて,本件データの一部を自らの端末に受信し得たのであるから,現に公
衆送信権の侵害があったことも明らかというべきである。
2 争点2(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(1) 争点1に判示したところによれば,原告は,本件発信者A及び本件発信者
Bに対し,著作権侵害の不法行為に対する損害賠償請求など,その権利を行
使するために,発信者情報の開示を受ける必要があるといえる。
⑵ これに対し,被告は,本件発信者Bには権利侵害に対する故意過失がない
から,損害賠償請求が明らかに不可能な場合であると主張する。しかし,本
件発信者Bの回答書(乙2)をもって,本件発信者Bに権利侵害に対する故
意過失がなかったということはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はな
いので,本件発信者Bに対する損害賠償請求が明らかに不可能であるという
ことはできない。なお,本件発信者Aも,その故意過失を争うかのようであ
るが(乙1),同様に本件発信者Aに対する損害賠償請求が明らかに不可能
であると認めるに足りる証拠はない。
(3) そうすると,本件発信者A及び本件発信者Bに対し,原告の主張する権利
行使が明らかに不可能な場合であるということもできない。したがって,原
告には,発信者情報の開示を受けるべき正当な理由が認められる。
3 結論
よって,原告の請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のと
おり判決する。
東京地方裁判所民事第40部
裁判長裁判官
佐 藤 達 文
裁判官
三 井 大 有
裁判官
? 野 俊 太 郎
(別紙)
発 信 者 情 報 目 録
別紙発信端末目録記載のIPアドレスを,同目録記載の発信時刻頃に使用した者
の情報であって、次に掲げるもの。
1 氏名又は名称
2 住所
(別紙)
発 信 端 末 目 録
IPアドレス リモートホスト ポート番号 発信時刻
A (省略) (省略) (省略) 2020/7/23
11:05:42
B (省略) (省略) 2020/08/10
18:27:37
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