令和1(ワ)9113特許権侵害差止等請求事件
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裁判所 |
請求棄却 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
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裁判年月日 |
令和3年9月16日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告因幡電機産業株式会社 被告FXC株式会社
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対象物 |
情報通信ユニット |
法令 |
特許権
特許法102条2項13回 特許法102条3項5回 特許法29条1項2回 特許法29条2項1回 特許法103条1回 特許法100条1項1回
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キーワード |
特許権25回 侵害19回 無効18回 実施16回 損害賠償15回 新規性11回 分割7回 差止5回 無効審判5回 進歩性5回 刊行物3回
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主文 |
1 被告は,別紙被告物件目録記載の製品の製造,輸入,販売及び販売
2 被告は,別紙被告物件目録記載の製品を廃棄せよ。15
3 被告は,原告に対し,2億1966万9722円及びこのうち以下
4 その余の原告の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余は
6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。5 |
事件の概要 |
1 本件は,発明の名称を「情報通信ユニット」とする特許(特許第58946
35号。以下,「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」とい
う。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明1」,
請求項1及び6を引用してなる請求項7記載の発明を「本件発明2」,請求項1,20
5及び6を引用してなる請求項7記載の発明を「本件発明3」といい,これらを併
せて「本件各発明」という。)の特許権者である原告が,別紙被告物件目録記載の
各製品(以下,各製品を順に「被告製品1」などという。また,これらを併せて
「各被告製品」という。)は本件各発明の全部(被告製品2及び3)又は一部(被
告製品1につき,本件発明1。被告製品4につき,本件発明1及び2)の技術的範25
囲に属し,その製造,輸入,販売及び販売の申出は本件特許権を侵害するとして,
これらを製造等する被告に対し,本件特許権に基づき,上記各行為の差止(特許法 |
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判決文
令 和 3 年9月16日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官
令 和 元年 (ワ)第91 13号 特許 権侵害差止等請求事件
口 頭 弁 論終結の日 令和3年6月21 日
判 決
5 原告 因幡電機産業株式会社
同訴訟代理人弁護士 小池眞一
同補佐人弁理士 宮地正浩
被告 FXC 株式会社
同訴訟代理人弁護士 吉原崇晃
10 同 佛明由佳
同訴訟代理人弁理士 工藤一郎
主 文
1 被告は,別紙被告物件目録記載の製品の製造,輸入,販売及び販売
の申出をしてはならない。
15 2 被告は,別紙被告物件目録記載の製品を廃棄せよ。
3 被告は,原告に対し,2億1966万9722円及びこのうち以下
の各項記載の金員に対する同記載の日から各支払済みまで, (1)~(5)
については年5%の割合による金員を,(6)~(8)については年3%の
割合による金員をそれぞれ支払え。
20 (1) 16万2581円に対する平成29年1月1日から
(2) 772万8167円に対する平成30年1月1日から
(3) 4192万7264円に対する平成31年1月1日から
(4) 8871万7382円に対する令和2年1月1日から
(5) 2531万5098円に対する令和2年4月1日から
25 (6) 3693万6274円に対する令和2年11月1日から
(7) 804万5241円に対する令和3年1月1日から
(8) 1083万7715円に対する令和3年3月1日から
4 その余の原告の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,これを20分し,その1を原告の負担とし,その余は
被告の負担とする。
5 6 この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 主文第1項及び第2項と同旨
2 被告は,原告に対し,●省略●並びにうち●省略●に対する平成29年1月
10 1日から,うち●省略●に対する平成30年1月1日から,うち●省略●に対する
平成31年1月1日から,うち●省略●に対する令和2年1月1日から,うち●省
略●に対する令和2年4月1日から各支払済みまで年5%の割合による金員及びう
ち●省略●に対する令和2年11月1日から,うち●省略●に対する令和3年1月
1日から,うち●省略●に対する令和3年3月1日から各支払済みまで年3%の割
15 合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,発明の名称を「情報通信ユニット」とする特許(特許第58946
35号。以下,「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」とい
う。また,本件特許に係る特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明1」,
20 請求項1及び6を引用してなる請求項7記載の発明を「本件発明2」,請求項1,
5及び6を引用してなる請求項7記載の発明を「本件発明3」といい,これらを併
せて「本件各発明」という。)の特許権者である原告が,別紙被告物件目録記載の
各製品(以下,各製品を順に「被告製品1」などという。また,これらを併せて
「各被告製品」という。)は本件各発明の全部(被告製品2及び3)又は一部(被
25 告製品1につき,本件発明1。被告製品4につき,本件発明1及び2)の技術的範
囲に属し,その製造,輸入,販売及び販売の申出は本件特許権を侵害するとして,
これらを製造等する被告に対し,本件特許権に基づき,上記各行為の差止(特許法
100条1項)及び各被告製品の廃棄(同条2項)を求めると共に,本件特許権侵
害の不法行為に基づく損害賠償(民法709条,特許法102条2項ないし3項)
として●省略●並びにうち●省略●に対する平成29年1月1日から,うち●省略
5 ●に対する平成30年1月1日から,うち●省略●に対する平成31年1月1日か
ら,うち●省略●に対する令和2年1月1日から,うち●省略●に対する令和2年
4月1日から各支払済みまで 平成29年法律第44号による改正前の 民法(以下
「改正前の民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金及びうち●省略
●に対する令和2年11月1日から,うち●省略●に対する令和3年1月1日から,
10 うち●省略●に対する令和3年3月1日から各支払済みまで民法所定の年3%の割
合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠を掲げていない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実である。)
(1) 当事者
15 ア 原告は,電気機械器具,情報通信機械器具等の設計,製造,販売等を目的と
する株式会社である。
イ 被告は,ローカルエリアネットワーク及びワイドエリアネットワークに使用
する機器,その部品等の製造,販売等を目的とする株式会社である。
(2) 本件特許権
20 原告は,以下の特許権(本件特許権)を有する(以下,本件特許の願書に添付さ
れた明細書及び図面を「本件明細書」という。)。本件明細書の記載は,別紙「特
許公報」(甲3の2)のとおりである。
特許番号 特許第5894635号
発明の名称 情報通信ユニット
25 出願日 平成26年7月14日
登録日 平成28年3月4日
特許請求の範囲 別紙「特許公報」の特許請求の範囲請求項1,5~7記載
のとおり
(3) 構成要件の分説
ア 本件発明1を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
5 A 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数のアンテナの夫々のアンテナ素
子をケーシングに内蔵し,
B 前記ケーシングが,設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可
能に構成されている情報通信ユニットであって,
C-1 前記ケーシングが,外部に露出される表示面部と,
10 C-2 当該表示面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿
部とを有し,
D-1 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの内壁面に沿
う板状に形成されていると共に,
D-2 前記内挿部の互いに異なる内壁面において前記表示面部の後方側内部空間を
15 挟んで離間する位置に分配配置されている
E 情報通信ユニット。
イ 本件発明2を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A~D 本件発明1と同じ
F-1 前記表示面部が,前記コンセント部の表面に沿って延びる帯状に形成され,
20 F-2 前記内挿部が,前記表示面部の両側縁部の夫々から後方に延出し互いに対
向する一対の平面状側壁部を有し,
F-3 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の
夫々に分配配置されており,
G 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の夫
25 々において,前記表示面部の後方側内部空間を挟んで対角位置に分配配置されてい
る
E 情報通信ユニット。
ウ 本件発明3を構成要件に分説すると,以下のとおりである。
A~D 本件発明1と同じ
H-1 前記表示面部に,モジュラープラグが挿入される接続窓が形成され,
5 H-2 当該接続窓の後方側に前記モジュラープラグが着脱自在に接続されるモジ
ュラーアダプタが設けられており,
E~G 本件発明2と同じ
(4) 被告の行為等
ア 各被告製品の製造,販売等
10 被告は,被告製品1については平成28年9月頃から,被告製品2及び3につい
てはいずれも平成29年10月頃から,被告製品4については平成30年7月頃か
ら,それぞれ製造,販売等を開始し,令和3年2月頃まで,各被告製品を製造,輸
入,販売及び販売の申出をしていた(甲52)。
イ 被告製品1の構成
15 被告製品1の構成は,以下のとおりである。
1a 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のア
ンテナ素子をケーシングに内蔵し,
1b 前記ケーシングが,設置面に設けられた「取付けフレーム」,「コンセン
トプレートのベース部材」及び「コンセントカバー」から構成されるコンセント部
20 に,「取付けフレーム」に設けられた「取付け用の凹部」にケーシングの取付け用
の爪部を嵌合させることで,埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニッ
トであって,
1c-1 前記ケーシングが,外部に露出されるケーシング正面部と,
1c-2 当該ケーシング正面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿
25 されるケーシング側面部とを有し,
1d-1 前記複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの
内壁面に沿う板状に形成されていると共に,
1d-2 前記ケーシング側面部の互いに異なる上方内壁面及び側方内壁面において
前記ケーシング正面部の後方側上方片側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置
されている
5 1e 情報通信ユニット。
ウ 被告製品2の構成
被告製品2の構成は,以下のとおりである。
2a 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のア
ンテナ素子をケーシングに内蔵し,
10 2b 前記ケーシングが,設置面に設けられた「取付けフレーム」,「コンセン
トプレートのベース部材」及び「コンセントカバー」から構成されるコンセント部
に,「取付けフレーム」に設けられた「取付け用の凹部」にケーシングの取付け用
の爪部を嵌合させることで,埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニッ
トであって,
15 2c-1 前記ケーシングが,外部に露出されるケーシング正面部と,
2c-2 当該ケーシング正面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿
されるケーシング側面部とを有し,
2d-1 前記複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの
内壁面に沿う板状に形成されていると共に,
20 2d-2 前記ケーシング側面部の互いに異なる内壁面において前記ケーシン グ正面
部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されており,
2h-1 前記ケーシング正面部に,有線 LAN 及び電話回線のモジュラープラグが
挿入される接続窓が形成され,
2h-2 当該接続窓の後方側に前記モジュラープラグが着脱自在に接続される有線
25 LAN 及び電話回線用モジュラーアダプタが設けられており,
2f-1 前記ケーシング正面部が,前記コンセント部の表面に沿って延びる帯状に
形成され,
2f-2 前記ケーシング側面部が,前記ケーシング正面部の両側縁部の夫々から後
方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部を有し,
2f-3 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の
5 夫々に分配配置されており,
2g 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の夫
々において,前記ケーシング正面部の後方側内部空間を挟んで対角位置に分配配置
されている
2e 情報通信ユニット。
10 エ 被告製品3の構成
被告製品3の構成は,以下のとおりである。
3a 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のア
ンテナ素子をケーシングに内蔵し,
3b 前記ケーシングが,設置面に設けられた「取付けフレーム」,「コンセン
15 トプレートのベース部材」及び「コンセントカバー」から構成されるコンセント部
に,「取付けフレーム」に設けられた「取付け用の凹部」にケーシングの取付け用
の爪部を嵌合させることで,埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニッ
トであって,
3c-1 前記ケーシングが,外部に露出されるケーシング正面部と,
20 3c-2 当該ケーシング正面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿
されるケーシング側面部とを有し,
3d-1 前記複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの
内壁面に沿う板状に形成されていると共に,
3d-2 前記ケーシング側面部の互いに異なる内壁面において前記ケーシング正面
25 部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されており,
3h-1 前記ケーシング正面部に,有線 LAN のモジュラープラグが挿入される接
続窓が形成され,
3h-2 当該接続窓の後方側に前記モジュラープラグが着脱自在に接続される有線
LAN 用モジュラーアダプタが設けられており,
3f-1 前記ケーシング正面部が,前記コンセント部の表面に沿って延びる帯状に
5 形成され,
3f-2 前記ケーシング側面部が,前記ケーシング正面部の両側縁部の夫々から後
方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部を有し,
3f-3 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の
夫々に分配配置されており,
10 3g 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の夫
々において,前記ケーシング正面部の後方側内部空間を挟んで対角位置に分配配置
されている
3e 情報通信ユニット。
オ 被告製品4の構成
15 被告製品4の構成は,以下のとおりである。
4a 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数(2つ)のアンテナの夫々のア
ンテナ素子をケーシングに内蔵し,
4b 前記ケーシングが,設置面に設けられた「取付けフレーム」,「コンセン
トプレートのベース部材」及び「コンセントカバー」から構成されるコンセント部
20 に,「取付けフレーム」に設けられた「取付け用の凹部」にケーシングの取付け用
の爪部を嵌合させることで,埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニッ
トであって,
4c-1 前記ケーシングが,外部に露出されるケーシング正面部と,
4c-2 当該ケーシング正面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿
25 されるケーシング側面部とを有し,
4d-1 前記複数(2つ)のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの
内壁面に沿う板状に形成されていると共に,
4d-2 前記ケーシング側面部の互いに異なる内壁面において前記ケーシング正面
部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されており,
4f-1 前記ケーシング正面部が,前記コンセント部の表面に沿って延びる帯状に
5 形成され,
4f-2 前記ケーシング側面部が,前記ケーシング正面部の両側縁部の夫々から後
方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部を有し,
4f-3 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の
夫々に分配配置されており,
10 4g 前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の夫
々において,前記ケーシング正面部の後方側内部空間を挟んで対角位置に分配配置
されている
4e 情報通信ユニット。
カ 被告製品1の構成 1a,1b,1d-1 及び 1e は,本件発明1の構成要件のうち,
15 A,B,D-1 及び E を充足する。
被告製品2の構成 2a,2b,2d-1 及び 2e,被告製品3の構成 3a,3b,3d-1 及び 3e
は,いずれも,本件各発明の構成要件のうち,A,B,D-1 及び E を充足する。
被告製品4の構成 4a,4b,4d-1,4e は,本件発明1及び2の構成要件のうち,A,
B,D-1 及び E を充足する。
20 3 争点
(1) 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)
(2) 無効理由の有無(争点2)
ア 特開 2004-15731 号公報に基づく無効理由の有無(争点2-1)
(ア) 新規性欠如の有無(争点2-1-1)
25 (イ) 進歩性欠如の有無(争点2-1-2)
イ 乙14等の文献に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)
(3) 損害発生の有無及び損害額(争点3)
第3 当事者の主張
1 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)について
(原告の主張)
5 (1) 前記(第2の2(4)カ)のとおり,被告製品1の構成 1a,1b,1d-1 及び 1e は,
本件発明1の構成要件 A,B,D-1 及び E を,被告製品2の構成 2a,2b,2d-1 及び
2e 並びに被告製品3の構成 3a,3b,3d-1 及び 3e は,いずれも本件各発明の構成要
件 A,B,D-1 及び E を,被告製品4の構成 4a,4b,4d-1,4e は,本件発明1及び
2の構成要件 A,B,D-1 及び E を充足する。
10 また,以下のとおり,各被告製品の構成 1c-1,2c-1,3c-1 及び 4c-1 は本件各発明
の構成要件 C-1 を,構成 1c-2,2c-2,3c-2 及び 4c-2 は構成要件 C-2 を,構成 1d-2,
2d-2,3d-2 及び 4d-2 は構成要件 D-2 を充足し,被告製品2~4の構成 2f-1~2f-3,
3f-1~3f-3 及び 4f-1~4f-3 は本件発明2及び3の構成要件 F-1~F-3 を,被告製品2及
び3の構成 2h-1,2h-2,3h-1 及び 3h-2 は本件発明3の構成要件 H-1 及び H-2 を,
15 それぞれ充足する。
したがって,各被告製品はいずれも本件発明1の技術的範囲に属すると共に,被
告製品2~4はいずれも本件発明2の技術的範囲に,被告製品2及び3はいずれも
本件発明3の技術的範囲に属する。
(2) 「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)及び「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)の
20 意義等
ア 意義
「表示面部」は,「面部」と特定されている。また,「表示面部」につき,「外
部に露出する表示面部」と特定されているものの,「表示面部」だけが「外部に露
出する」と特定されているわけではない。
25 「内挿部」については,「コンセント部に内挿される」と特定されているものの,
その全てが「コンセント部に内挿される」と特定されているわけではない。
さらに,本件発明1に係る請求項1の従属項である請求項5には,「前記表示面
部に,モジュラープラグが挿入される接続窓が形成され」との構成が示されている。
同じく請求項1の従属項である請求項6には,「前記表示面部が,前記コンセント
部の表面に沿って延びる帯状に形成され」との構成が示されている。これらの請求
5 項によれば,「表示面部」は,「面部」として室内側から見た正面部を指すと理解
される。
しかも,本件明細書の記載によれば,一貫して面部である板状部材を「表示面部」
とし,そのような「表示面部」の「外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内
挿される」構成として,「内挿部」が特定されている。
10 したがって,「表示面部」は,ケーシングの室内側の露出面すなわち情報通信ユ
ニットの室内側に露出する前面側の表面領域を意味する。また,「内挿部」は, そ
のような「表示面部」の「外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される」
構成として特定されていることから,ケーシングの側面全体を指す。
イ 各被告製品について
15 被告製品1の「ケーシング正面部」(構成 1c-1,1d-2)は,ケーシングの室内側
露出面として「面部」として把握される構成である。また,その「ケーシング側面
部」(構成 1c-2,1d-2)は,「ケーシング正面部」の「外縁部から後方に延出」す
る部位であり,かつ,「コンセント部に内挿される」部位である。そうすると,被
告製品1の「ケーシング正面部」(構成 1c-1,1d-2)は「表示面部」(構成要件 C-
20 1,D-2)に,「ケーシング側面部」(構成 1c-2,1d-2)は「内挿部」(構成要件 C-
2,D-2)に,それぞれ相当する。
したがって,被告製品1は,本件発明1の構成要件 C-1,C-2 及び D-2 をいずれ
も充足する。
同様に,被告製品2~4の「ケーシング正面部」(構成 2c-1,2d-2,3c-1,3d-2,
25 4c-1,4d-2)は「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)に,「ケーシング側面部」(構
成 2c-2,2d-2,3c-2,3d-2,4c-2,4d-2)は「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)に,
それぞれ相当する。
したがって,被告製品2及び3は,それぞれ,本件各発明の構成要件 C-1,C-2
及び D-2 を,被告製品4は,本件発明1及び2の構成要件 C-1,C-2 及び D-2 をい
ずれも充足する。
5 (3) 構成要件 F,G 及び H について
ア 構成要件 F について
前記(2)と同様に,「ケーシング正面部」(構成 2f-1,2f-2,3f-1,3f-2,4f-1,4f-
2)は「表示面部」(構成要件 F-1)に,「ケーシング側面部」(構成 2f-2,3f-2,
4f-2)は「内挿部」(構成要件 F-2)に,それぞれ相当する。したがって,被告製
10 品2~4は,本件発明2及び3の構成要件 F-1 及び F-2 をそれぞれ充足する。
また,被告製品2~4の「前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一
対の平面状側壁部の夫々に分配配置されており」(構成 2f-3,3f-3,4f-3)は,構
成要件 F-3 を充足する。
イ 構成要件 G について
15 被告製品2~4の「前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記一対の平
面状側壁部の夫々において,前記ケーシング正面部の後方側内部空間を挟んで対角
位置に分配配置されている」(構成 2g,3g,4g)は,本件発明2及び3の構成要
件 G を充足する。
ウ 構成要件 H について
20 前記(2)と同様に,「ケーシング正面部」(構成 2h-1,3h-1)は「表示面部」(構
成要件 H-1)に相当する。したがって,被告製品2及び3は,本件発明3の構成要
件 H-1 を充足する。
また,被告製品2及び3の「当該接続窓の後方側に前記モジュラープラグが着脱
自在に接続される有線 LAN 及び電話回線用モジュラーアダプタが設けられており」
25 (構成 2h-2,3h-2)は,構成要件 H-2 を充足する。
(4) 被告の主張について
ア 被告の主張する「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)の解釈は,前記のとお
り,クレームの文言解釈として成り立たない上,他の請求項と整合性を保つ解釈が
できないため合理的でなく,かつ,本件明細書の記載に反する。
イ 被告の主張する「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)の解釈は,以下のとおり,
5 その前提となる本件各発明の解決すべき課題等の理解に誤りがある。
本件各発明は,市販のコンセントカバーの標準的な長方形状取付け窓(取付けフ
レームに関する JIS 規格)という制約があることを前提とする。すなわち,このよ
うなコンセントカバーを使用するコンセント部に,内挿部を挿入する状態で,埋設
状態に設置可能なケーシングを取り付ける場合,取付けフレーム及びケーシングを
10 設置面である壁体に取り付けた後,取付け窓を通じてコンセントカバーを取り付け
ることから,「表示面部の外縁部から後方に延出」した「内挿部」は,同じ長方形
形状を保ったまま,コンセントカバーの取付け窓内に挿通される必要がある。この
ため,ケーシングのうち,コンセント部に埋設されておらず外部に露出する部分も,
内部に埋設される部分と同様に,大きさや形状に制約を受けることになる。本件各
15 発明は,このような制約を前提として課題の解決を図るものである。
したがって,壁面から外部に露出している部分には,コンセント部によって受け
る制限がなく,本件各発明が解決しようとする課題が生じないとする被告の主張は,
その前提に誤りがある。
ウ 被告は,被告製品1について「挟んで離間」(構成要件 D-2)の要件も満た
20 さないと主張するが,「挟む」は通常の用語の理解として,「中間の位置に置く。
間に入れる。」という意味であり,一定の空間を中間の位置に置いたアンテナ素子
の分配配置関係を特定していると理解すべきであって,アンテナ素子が平行に配置
されていなければならないとの特定にはならない。このことは,本件発明1に係る
請求項1を引用してなる請求項6において,アンテナ素子が互いに対向する一対の
25 平面状側壁部の夫々に分配配置されているとの構成(構成要件 F-3)に限定してい
ることとの対比や本件明細書の実施例においてアンテナ素子が直交関係を含む形で
分配配置されている技術的事項を開示していることからも明らかである。
(被告の主張)
(1) 各被告製品は,いずれも,本件各発明の構成要件 C-1,C-2 及び D-2 を充足し
ない。また,被告製品1は,本件発明1の構成要件 D-2 のうち「挟んで離間」とい
5 う点をも満たしていない。
被告製品2~4が本件発明2及び3の構成要件 F 及び G を充足すること,被告製
品2及び3が本件発明3の構成要件 H を充足することはいずれも争う。本件発明2
及び3は本件発明1に従属するところ,上記のとおり,各被告製品はそもそも本件
発明1の技術的範囲に属しないから,被告製品2~4は,本件発明2ないし3の技
10 術的範囲にも属しない。
(2) 「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)及び「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)の
意義等
ア 意義
「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)とは,クレームの文言上,「外部に露出さ
15 れる」部分を指すところ,「表示面部」の機能が「表示すること」であることは明
らかであるから,「表示面部」が「ケーシングの室内側の露出面」のみを指すので
あれば「外部に露出される」との限定は無意味であること, 「表示面」ではなく
「表示面部」とされており,「面」に限定される趣旨ではないことから,「外部に
露出される表示面部」とは,表示面及びその周辺の外部に露出される部分を含めて
20 解釈される。そうすると,「前記内挿部の互いに異なる内壁面において前記表示面
部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」(構成要件 D-2)
とは,「前記内挿部の互いに異なる内壁面において,「外部に露出される」部分以
外の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」ことを意味する
ものと解される。
25 また,本件明細書の記載によれば,「ケーシングの少なくとも一部が設置面に設
けられたコンセント部に埋設される場合には,そのコンセント部が標準化された市
販の資材を利用したものであるために,ケーシングの大きさや形状に制限が生じ
る。」という本件各発明の解決しようとする課題は,コンセント部によって受ける
制限がある中でのケーシングにおけるアンテナ素子の配置であり,本件各発明の効
果は,そのような制限を受けるケーシングの領域に複数のアンテナを配置できる点
5 にある。他方,コンセント部に埋設されていないケーシングの領域は,コンセント
部によってその大きさや形状に制限を受けることはない。そうすると,本件各発明
において,課題解決のために意味を持つケーシングの部分は,室内空間側ではなく,
壁面に埋設されている部分である。コンセント部によって受ける制限がない壁面
(設置面)から外部(室内空間)に露出しているケーシングの部分は,そもそも本
10 件各発明が解決しようとする課題が生じないのであるから,その部分は「内挿部」
に該当しないと解釈するのが合理的である。
そうすると,「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)とは,ケーシングが壁面(設
置面)から露出している立方体状の部分であり,また,「内挿部」(構成要件 C-2,
D-2)とは,ケーシングのうち,コンセント部の外部に露出している部分を含まず,
15 「コンセント部に内挿され」ている部分のみを意味すると解される。
イ 各被告製品について
各被告製品のいずれにおいても,複数のアンテナのそれぞれのアンテナ素子は,
ケーシングのうち,壁面(設置面)の外部に露出している表示面部の内壁面に配置
されている。このため,各被告製品は,いずれも,複数のアンテナのそれぞれのア
20 ンテナ素子が「前記内挿部の互いに異なる内壁面において,「外部に露出される」
部分以外の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」とはいえ
ない。したがって,各被告製品は,いずれも構成要件 D-2 を充足しない。
2 特開 2004-15731 号に基づく無効理由の有無(争点2-1)について
(被告の主張)
25 (1) 新規性の欠如(争点2-1-1)
特開 2004-15731 号公報(乙13。以下「乙13文献」という。)の第11実施
例及び図26には,アンテナ外付け端子 120T を具備して壁面 W に埋設される無線
拡張部 11i と,この無線拡張部 11i の壁面 W の外側に取り付けられる蓋 12a を備え
た無線ユニットが記載されている。また,蓋 12a には,無線拡張部 11i に取り付け
る際にアンテナ外付け端子 120T と接続されるアンテナ 121 及び 122 が,面に沿っ
5 てそれぞれ水平及び垂直となるように配置されているところ,両アンテナは,断面
矩形状の棒状のアンテナであるが,一面が内壁面に沿い,これと対向する面が蓋の
内部空間に向けられており,アンテナが内壁面に沿う板状であることが示されてい
る。この場合,アンテナ 121 及び 122 は,壁面 W の外側に位置することとなる。
そうすると,本件各発明の技術的範囲に属するとされる技術である「複数のアン
10 テナの夫々のアンテナ素子を,ケーシングのうち,壁面の外部に露出している表示
面部の内壁面にのみ配置する技術」及び「複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,
内挿部の互いに異なる内壁面において表示面部の後方側空間を挟んで離間する位置
に分配配置されている技術」は,いずれも乙13文献に記載されたものであり,従
来公知の技術といえる。
15 そうすると,本件特許は,本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された
刊行物に記載された発明であるにもかかわらず,特許法29条1項に違反してされ
たものである。
したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるから
(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはで
20 きない(同法104条の3第1項)。
(2) 進歩性の欠如(争点2-1-2)
ア 特開 2014-42123 号公報記載の技術
特開 2014-42123 号公報(乙14。以下「乙14文献」という。)には,送受信
波の相互干渉を抑えるために,2つのアンテナ素子部 11,12 を筐体内において操
25 作面 SUF1,充電給電面 SUF2 にそれぞれ沿わせて対向配置することが開示されて
いる。
イ 特開 2013-135258 号公報記載の技術
特開 2013-135258 号公報(乙15。以下「乙15文献」という。)には,筐体の
大きさに制約がある通信機器等において,その内部に格納される2つのアンテナに
つき,相互結合を抑えるために,基板の表面上において,薄板形状の第1アンテナ
5 素子 111 及び第2アンテナ素子 112 を互いに直線状に対向配置することが開示され
ている。
ウ 特開 2013-126120 号公報記載の技術
特開 2013-126120 号公報(乙16。以下「乙16文献」という。)には,相互結
合を効果的に分離するために,結合素子 131 のパッド部分 1311 を給電素子 111 の
10 短絡部分に対向配置し,結合素子 131 のパッド部分 1312 を給電素子 121 の短絡部
分に対向配置することが開示されている。
エ 特開 2013-110706 号公報記載の技術
特開 2013-110706 号公報(乙17。以下「乙17文献」という。)には,送受信
効率の低下を抑えるために,筐体の主平面の表面左上隅に第1アンテナ 110 を配置
15 すると共に,主平面に対向する裏面に第2アンテナ 120 を配置し,両アンテナ 110,
120 が筐体の中心に対して互いに略点対称(すなわち対向配置)となるように配置
することが開示されている。
オ 特開 2003-209419 号公報記載の技術
特開 2003-209419 号公報(乙18。以下「乙18文献」という。)には,大きさ
20 に制約がある電子機器において,2つのアンテナ素子部 23,23 を筐体本体1の左
右両壁に対向配置することが開示されている。
カ 特開 2002-312070 号公報記載の技術
特開 2002-312070 号公報(乙19。以下「乙19文献」という。また,乙14文
献~乙19文献を一括して「乙14文献等」という。)には,送受信効率を高める
25 ために,2個のアンテナ 40,40 をディスプレーパネル 67 の左右側面に内蔵して対
向配置することが開示されている。
キ 以上のとおり,乙14文献等には,いずれも,複数のアンテナが距離を置い
て分配配置されることが開示されている。このため,複数のアンテナの夫々のアン
テナ素子が,原告主張の「内挿部」の互いに異なる内壁面において表示面部の後方
側空間を挟んで離間する位置に分配配置される技術は,従来から公知の技術である。
5 乙14文献等には,いずれも,形式的には情報コンセントのケーシングに関する技
術が記載されていないとしても,これらの技術は,「夫々のアンテナ素子における
送受信波の相互干渉を良好に抑制することで,安定且つ広範囲の無線 LAN 通信を
実現」するとの目的において,乙13文献記載の技術と矛盾するものではない。
したがって,乙13文献記載の技術に乙14文献等記載の技術を組み合わせるこ
10 とは容易であって,上記形式的な違いを理由に組合せが容易でないということはで
きない。
そうすると,本件特許は,当業者が,本件特許に係る出願前に日本国内において
頒布された刊行物に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたもの
であるにもかかわらず,特許法29条2項に違反してされたものである。
15 したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるから
(同法123条1項2号),原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはで
きない。
(原告の主張)
(1) いずれも否認ないし争う。
20 (2) 新規性及び進歩性があること
ア 乙13文献記載の発明
乙13文献によれば,同文献記載の発明(以下「乙13発明」という。)は,以
下の構成を有するものと把握される。
A’ 無線 LAN の周波数帯域(2.4GHz 帯又は/及び 5GHz 帯)に感度を有する2
25 本の「アンテナ 121,122」を「無線ユニット 1K の蓋 12a 及びベース部 10e」で構
成されるケーシングに内蔵し,
B’ 前記無線ユニット 1K の蓋 12a 及びベース部 10e で形成されるケーシングの
うち,「ベース部 10e」部分が,壁 W に設けられた「電源・情報コンセント 5A の
収容スペース 53」に埋設状態で設置可能に構成されている「無線ユニット 1K」で
あって,
5 C’-1 前記ケーシングが,前記収容スペース 53 を開閉する構成として外部に露出
される蓋 12a と,
C’-2 当該蓋 12a の外縁部から独立した箱体として前記コンセント収容部 53 に内
挿されるベース部 10e とを有し,
D’-1 前記2本のアンテナ 121,122 の夫々が,前記「蓋 12a の底面に沿って」こ
10 れに埋設し内蔵される線状に形成されていると共に,
D’-2 前記蓋の 12a の底面に沿ってそれぞれ水平及び垂直になるよう分配配置さ
れている
E’ 無線ユニット 1K。
イ 本件各発明と乙13発明との相違点の存在
15 乙13発明は,少なくとも構成 B’,C’-2,D’-1,D’-2 につき,本件発明1と相違
する。これらの相違点は,本件発明1が,標準化された市販の資材を前提として,
「コンセント部に埋設状態に設置可能に構成された情報通信ユニット」を提供す べ
き発明であるのに対し,乙13発明が,「電源・情報コンセント 5PA」における特
別な「収納スペース 53」の構成を前提として,「電源・情報コンセント 5PA」の外
20 側から交換容易に取り付けるため「栓刃」及び「モジュラプラグ」を備えた「無線
ユニット 1K」に関する発明であるという,技術的思想の違いを反映したものであ
る。
したがって,本件発明1につき,乙13発明をもって新規性が欠如するものとは
いえない。
25 また,本件発明1を引用する本件発明2及び3は,更なる特定を加えているもの
であるから,本件発明1以上に,乙13発明をもってする被告の新規性欠如の無効
理由に基づく無効の抗弁は成り立たない。
ウ 乙14文献等記載の技術について
乙14文献等は,いずれも,被告の主張に係る技術的事項が開示されておらず,
また,乙13発明とは技術分野も課題も異なる。したがって,引用発明としての適
5 格性がなく,相違点に係る容易想到性の根拠となり得るものでもない。
3 乙14文献等に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)について
(被告の主張)
前記のとおり,乙14文献等には,いずれも,制限された空間内で2つのアンテ
ナ素子の相互干渉を少なくするために,2つのアンテナを可能な限り離間させる と
10 いう技術が開示されており,このような技術は技術常識である。本件各発明は,こ
の技術常識を採用したものにすぎず,従来技術以上の技術を採用したものではない。
そうすると,本件特許は,本件特許に係る出願前に日本国内において頒布された
刊行物に記載された発明であるにもかかわらず,特許法29条1項に違反してされ
たものである。
15 したがって,本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,
原告は,被告に対し,本件特許権を行使することはできない。
(原告の主張)
前記2(原告の主張)(2)ウと同様である。
4 損害発生の有無及び損害額(争点3)について
20 (原告の主張)
(1) 原告は,被告による各被告製品の製造,販売によ って,自己の対応製品
(以下「原告製品」という。)の販売数量が落ち込み,損害を受けた。
(2) 損害額(特許法102条2項に基づくもの)
ア 限界利益の額
25 (ア) 各被告製品の販売による被告の限界利益の額(税込)は,以下のとおりであ
る。
・平成28年12月(被告製品1) ●省略●
・平成29年(被告製品1~3) ●省略●
・平成30年(被告製品1~4) ●省略●
・平成31年(令和元年)(被告製品1~4) ●省略●
5 ・令和2年1月~3月(被告製品1~4) ●省略●
・同年4月~10月(被告製品1~4) ●省略●
・同年11月及び12月(被告製品1~4) ●省略●
・令和3年1月及び2月(被告製品1~4) ●省略●
(イ) 被告の主張について
10 a 消費税の取扱い
消費税法基本通達5-2-5(2)により,特許権侵害に基づく損害賠償金には,
幅広く資産の譲渡と見なされる範囲においては消費税相当額が加算される。実際に,
侵害訴訟の損害賠償請求については消費税の納税が指導されている。したがって,
原告が受けた逸失利益に相当する額である損害額の算定にあたっては,税込み売上
15 高より税込み経費を控除する方法により消費税分を加算して算定すべきである。
b 資産性コストの取扱い
上記限界利益額の算定においては,返品による売上高を控除した正味売上高を前
提としている。また,資産に計上される在庫価値が会社の売上高に加わるはずもな
い。このため,在庫資産の評価損を変動経費として控除することは,全くの不当評
20 価となる。
c 為替差損益の取扱い
被告の為替差益は,特段の長期為替予約に基づいて得た為替差益ではなく,製品
開発契約に基づく当初のロット数の取決めをした際の為替と,実際の個々の少数の
発注を行ってこれを輸入し,その支払を行った際の為替との差損益を被告が会計管
25 理のために計上しているだけである。実際の各被告製品の仕入時に外貨決済がされ
ていることから,あくまで発注時における為替レートに基づき被告の仕入値を算定
すべきである。
イ 推定覆滅事由の不存在
(ア) 原告製品の性能について
原告製品は業界のパイオニア商品であり,一定の高いシェアを有している。原告
5 製品の一取引先に製品不具合の事故が発生したからといって,製品の不具合が原告
製品の売上高減少の唯一の理由とはいえない。
(イ) 原告の製品供給能力について
原告失注後に被告が受注している取引先に対し,原告は,被告の受注までは原告
製品を供給していたことから,被告指摘に係る事情は原告の製品供給能力とは無関
10 係である。原告が製造委託しているメーカーの具体的な製造能力を踏まえても,原
告は,各被告製品の譲渡個数に応じた製品供給能力を現に有している。
(ウ) 競合製品について
被告が競合メーカーの製品と主張する各社製品は,原告製品と商品市場が異なる。
(エ) 寄与度について
15 本件各発明の特徴は,ケーシングに制約のある埋込型情報コンセントにおいて,
筐体の外部ではなく内部に,単なるチップアンテナや基板アンテナといったミニマ
ムサイズのアンテナではなく,受信・放射特性に優れた内壁に沿わせる板状のアン
テナ素子を内蔵させ,無線 LAN に用いられる周波数帯域を前提として,複数アン
テナの相互干渉を防ぐ合理的な配置を実現したことにある。
20 他方,各被告製品についても,カタログ上,顧客の選定ポイントとして「もっと
電波を強くしてほしい」,「部屋の内装を損ねないシンプルなデザイン」等の要望
を挙げると共に,商品アピール要素として「標準の情報コンセント内に埋込み,省
スペースで快適な無線 LAN 環境を提供」,「見た目がスマートな 埋込み型」,
「JIS 規格のコンセントに無線アクセスポイント・有線 LAN ポート・電源接続部等
25 を一体化させたコンパクト設計」,「JIS 規格のコンセントであればメーカを問わ
ず設置可能」といった点を強調している。すなわち,各被告製品は,本件各発明の
上記特徴を最大の商品訴求力としてきたものであるから,被告の販売及び利益に本
件各発明の実施が貢献したことは明らかである。
また,特開 2013-157738 号公報(乙26。以下「乙26文献」という。)及び特
許第 5406950 号公報(乙27。以下「乙27文献」という。)には,いずれも,従
5 来技術として,複数のアンテナ素子の記載はなく,その配置についての教示も示唆
もない。
(オ) 過失相殺について
本件は,交渉当初の段階から専門家が関与してきた事件であり,被告の主張は特
許法103条に反し,かつ,原告が交渉当初から一貫して同じ主張をしてきた事実
10 にも即していない。
(3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)
ア 被告の売上高
各被告製品の売上(税込)は,以下のとおりである。
・平成28年12月 ●省略●
15 ・平成29年 ●省略●
・平成30年 ●省略●
・平成31年(令和元年) ●省略●
・令和2年1月~3月 ●省略●
・同年4月~10月 ●省略●
20 ・同年11月及び12月 ●省略●
・令和3年1月及び2月 ●省略●
イ 実施料率
特許法102条3項による損害の算定にあたり定められるべき料率は,通常の円
満交渉による実施料率と比べて自ずと高額になるものであり,本件にあっては売上
25 高の8%とされるべきである。そうすると,同項に基づき算定される損害額は,●
省略●となる。
被告主張に係る0.4%の料率は,訴訟等の和解交渉による場合の変動料率に係
るアンケート結果に基づくものであり,裁判においては,通常の実施料率よりも各
実施料率帯に平均で0.4%加算するとの相場感がライセンサーにあったことを示
すものに過ぎない。また,平成20年頃において,本件各発明の属する技術分野で
5 ある「電気」又は「電気通信」の技術分野の平均実施料率は2.9%であるところ,
訴訟等の和解交渉による場合のライセンサーの意向として,平均で1.2%の上積
みを妥当とする相場感が形成されていた。
(4) 弁護士費用及び弁理士費用
本件における原告の法律上の権利の実現に弁護士及び弁理士への依頼が必要不可
10 欠であり,その費用は各損害賠償額の1割を下ることはない。
(5) 遅延損害金の起算日
原告は,被告に対し,民法709条,特許法102条2項又は3項に基づき損害
賠償請求権を有するところ,前記(2)アないし(3)アの各期間における侵害行為より
後の日である各期間の末日の翌日を起算日として,改正前の民法が適用される期間
15 については年5%,その後の期間については年3%の割合による遅延損害金請求権
を有する。
(6) 小括
ア よって,原告は,被告に対し,不法行為に基づき(なお,損害額については,
特許法102条2項及び3項を選択的に主張する。),●省略●の損害賠償請求権,
20 並びにうち●省略●に対する平成29年1月1日から,うち●省略●に対する平成
30年1月1日から,うち●省略●に対する平成31年1月1日から,うち●省略
●に対する令和2年1月1日から,うち●省略●に対する令和2年4月1日から各
支払済みまで年5%の割合による遅延損害金及びうち●省略●に対する令和2年1
1月1日から,うち●省略●に対する令和3年1月1日から,うち●省略●に対す
25 る令和3年3月1日から各支払済みまで年3%の割合による遅延損害金の支払請求
権を有する。
イ 特許法102条2項及び3項の重畳適用
仮に,特許法102条2項に基づく損害額算定に関して何らかの推定覆滅事情が
認められた場合,覆滅に係る部分については,特許法102条3項を重畳的に適用
すべきである。
5 (被告の主張)
(1) 原告製品の売上減少と各被告製品の売上に因果関係がないこと(原告の損害
の全部又は一部の発生と被告の行為との因果関係の欠如)
ア 原告製品の性能の問題
原告の売上減少の原因は,原告製品の不具合ないし原告の技術力不足によるもの
10 であり,被告にはない。
イ 供給能力及び製造能力の欠如
原告は,発注後直ちに在庫製品の納入を求める形態のビジネスには対応しておら
ず,そのような形態のビジネスをする特定の事業者とは,被告の存在と関わりなく,
取引ができなかった。
15 また,原告は,各被告製品の販売数量に対応し得る供給能力及び製造能力を有し
ない。
ウ 競合製品の存在
原告製品と同種の製品を販売している企業は多数存在し,各被告製品が存在しな
くても市場を全て原告が手にできたわけではない。また,技術的に同一の技術では
20 なくても市場において競合することはあり得る。さらに,原告製品は,性能面で他
社製品を上回っているにもかかわらず失注した例もあり,その競争力は乏しい。
(2) 損害額(特許法102条2項に基づくもの)について
ア 限界利益額
(ア) 消費税の取扱い
25 消費税は国庫に納付すべきものであり,被告は,原告主張の消費税の過年度分を
既に国庫に納付しており,何らの利得を受けていない。また,原告に対する損害賠
償金の支払は一般的な意味での資産の譲渡には当たらないから,通達によりこれを
原告に課税する取扱いにも疑義があり,この分の負担を被告に求めることには合理
性がない。特許法102条2項は特許権者が利得すべき額を定めるものではないか
ら,被告が最終消費者たる顧客から徴収し,いわば顧客が負担すべき消費税を顧客
5 に代わり国に納付した価額については,被告は「利益を受けている」とはいえず,
損害額として推定されるべきではない。
以上より,平成28年12月の限界利益から●省略●,平成29年の限界利益か
ら●省略●,平成30年の限界利益から●省略●,平成31年(令和元年)の限界
利益から●省略●,令和2年の限界利益から●省略●,令和3年1月及び2月の限
10 界利益から●省略●を減額すべきである。
(イ) 在庫評価損
棚卸評価損は,製造活動において恒常的・不可避的に発生する額であることから,
会計上の処理であるとしても売上に対応する費用に算入するべき額である。すなわ
ち,棚卸評価損は,製品の品質低下や陳腐化等による価値の低減により生じるもの
15 であり,これらは通常の営業活動に伴って不可避的に発生するものである。したが
って,これらを営業外損益等として取り扱う理由はなく,損害額の算出を行う際に
通常の会計基準と異なる扱いをする理由もないから,棚卸評価損は限界利益計算に
算入するべきである。
これによれば,平成29年の限界利益から●省略●,平成30年の限界利益から
20 ●省略●,令和2年の限界利益から●省略●を減額すべきである。
(ウ) 為替差損益
企業会計で用いられている二取引基準においては,仕入時の為替レートで売上原
価を算出する基礎となる仕入額を把握し,決済時に発生した為替差損益を,決済も
一つの取引として仕入額を変動させるのではなく,為替差損益として営業外損益と
25 するのが通常である。為替差益の発生が通常の状態ではない等の理由から上記会計
基準に反して為替差益を売上原価に算入する根拠はない。また,被告は,仕入額の
3割程度につき為替予約を行っているが,被告は特定の取引に対応する形で行って
はいないことから,これを振当処理し売上原価を算定する扱いをすべき根拠はない。
以上より,為替差損益は売上原価に算入されるものではないことから,限界利益
算出で考慮されるべきではない。そうすると,平成28年12月の限界利益から●
5 省略●,平成29年の限界利益から●省略●,平成30年の限界利益から●省略●,
平成31年(令和元年)の限界利益から●省略●,令和2年の限界利益から●省略
●を減額すべきである。
(エ) 以上の事情等を考慮すると,限界利益は,平成30年に●省略●,平成31
年(令和元年)に●省略●,令和2年1月~同年3月は合計●省略●,同年4月~
10 同年10月は合計●省略●,同年11月及び同年12月は合計●省略●にとどまる。
イ 寄与度
(ア) 本件各発明の主たる課題は,無線 LAN を行うためのアンテナ素子を備えた情
報通信ユニットにおいて,コンセント部へ埋設状態で設置可能なケーシング内に複
数のアンテナ素子を配置させるにあたり,夫々のアンテナ素子における送受信波の
15 相互干渉を良好に抑制することで,安定且つ広範囲の無線 LAN 通信を実現可能な
技術を提供する点にある。しかし,アンテナ間の相互干渉はアンテナ間距離にのみ
依存することから,本件各発明の構成を採用しても,常に所期の効果が得られると
はいえず,また,ケーシングを限定する要件は全く関係がない。このため,本件各
発明は,単に従来からの技術常識である「二つのアンテナの距離を大きくとること
20 が相互干渉の大きさを少なくできる」ことを権利内容とするものである。
さらに,本件各発明の特徴は,設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設
置可能とするために空間的な制約のあるケーシング内のアンテナの配置を工夫する
点にあるところ,当該態様のケーシング自体は,本件各発明の特許出願前から存在
したものである。
25 このため,本件各発明の特徴は,従来から存在したケーシングに対して上記技術
常識に基づく配置を合わせた点に限定される。しかし,これのみによって,製品の
性能や売れ行きが向上するものではない。
したがって,本件各発明は,売上や利益に対して寄与せず,又はその寄与は無視
できる程度に小さい。
(イ) 原告が商品の訴求ポイントとして挙げる事情は,本件各発明と無関係である
5 し,乙26文献において公開されている公知技術であり,本件特許が登録された所
以となる技術的特徴に関するものではない。
また,乙27文献には,情報通信ユニットのケーシングの一部がコンセント部に
埋設され,外部に露出するユニット表部分から後方に延出してコンセント部に内挿
される内挿部を有することが記載されており,これに相当する本件特許の構成部分
10 は従来技術に属する部分である。しかも,乙27文献記載の発明の特許出願当時,
既に複数のアンテナを利用するアイデアは公知となっていた。このため,本件各発
明は,既に公開されている技術に基づいて容易に発明できるありふれた発明であり,
仮に無効ではないとしても,需要者との関係で訴求ポイントになるものではない。
ウ 損害額
15 利益三分法によれば特許発明の利益の技術の寄与分は三分の一であり,また,本
件各発明を実施することに対する寄与はほぼ零に等しく,仮にあったとしても百分
の一以下である。
そうすると,特許法102条2項に基づく適切な損害賠償額は,最大でも●省略
●程度となる。
20 (3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)について
前記(2)ア(ア)と同様に,損害額の算定に当たっては,売上高から消費税額を控除
すべきであり,その額は●省略●となる。
また,料率としては,本件各発明は情報通信ユニットの発明であるから,その属
する技術分野としてはコンピュータテクノロジーの分野を採用すべきである。この
25 分野における訴訟等の和解交渉による場合の平均料率は0.4%である。
したがって,特許法102条3項に基づき支払われるべき最大の金額は,●省略
●である。
(4) 過失相殺
本件特許には無効理由として認識され得る先行技術文献があること,特許請求の
範囲の記載から内挿部の認定が困難であり,明細書を参酌しても発明の効果との関
5 係で内挿部は狭く解釈される余地があったこと,発明自体がほぼ従来からの技術常
識を具体化したに過ぎないものであったことから,被告にとって通常の注意を払っ
て特許侵害を回避する努力をしても回避は困難であり,被告の過失の程度は非常に
軽いものである。このため,損害の公平な分担という過失相殺の趣旨に鑑み,相当
程度の過失相殺をすべきである。
10 第4 当裁判所の判断
1 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)について
(1) 前記(第2の2(4)カ)のとおり,被告製品1は本件発明1の,被告製品2及
び3は本件各発明の,被告製品4は本件発明1及び2の構成要件 A,B,D-1 及び E
をそれぞれ充足する。
15 (2) 構成要件 C-1,C-2 及び D-2 の充足性について
ア 本件明細書の記載等
本件明細書には,以下の記載がある(図面は別紙「特許公報」参照)。
(ア) 技術分野
「本発明は,…無線 LAN を行うためのアンテナ素子を備えた情報通信ユニット
20 であって,特に,無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数のアンテナ素子をケ
ーシングに内蔵し,前記ケーシングが,設置面に設けられたコンセント部に埋設状
態で設置可能に構成されている情報通信ユニットに関する。」(【0001】)
(イ) 背景技術
「従来の情報通信ユニットとしては,装置の意匠性や設置箇所の美観などを損な
25 わないように,アンテナ素子をケーシングに内蔵し,室内に面する壁面などの設置
面に設置可能なものが知られている…。」(【0002】)
「特許文献1記載の情報通信ユニットは,設置面に対してケーシング全体を外部
に露出させた姿勢で設置可能に構成されており,広範囲での無線 LAN 通信を確立
するべく,2つのアンテナ素子がケーシングに内蔵されている。/しかし,この種
の情報通信ユニットでは,設置面に対してケーシング全体が外部に露出しているこ
5 とから,設置面からの突出量が大きくなる。すると,設置箇所の美観が低下する上
に,歩行の妨げになり易く,その歩行者との衝突などにより装置が損傷し易くなる
という問題があった。」(【0003】。なお,「特許文献1」は,特開 2006-050564
号公報を指す。また,「/」は改行部分を意味する。以下同じ。)
「特許文献2に記載の情報通信ユニットは,ケーシング全体を外部に露出させる
10 のではなく,設置面に設けられたコンセント部にケーシングの一部を埋設状態で設
置可能に構成されている。よって,設置面からの突出量が極力小さくなり,上記の
ような美観の低下や歩行の邪魔になるなどの問題が回避されている。」(【 000
4】。なお,「特許文献2」は,特開 2013-157738 号公報を指す。)
(ウ) 発明が解決しようとする課題
15 「従来の情報通信ユニットにおいて,安定且つ広範囲の無線 LAN 通信を確立す
るためには,複数のアンテナ素子をケーシングに内蔵させるだけでなく,それら複
数のアンテナ素子を,送受信波の相互干渉が十分に抑制されるような配置状態でケ
ーシング内に配置する必要がある。そして,上記特許文献1に記載の情報通信ユニ
ットのように,ケーシング全体が設置面から外部に露出する場合には,ケーシング
20 の大きさや形状に制限が略無いので,その内部において夫々のアンテナ素子を十分
な離間距離を設けて略自由に配置することができる。/しかしながら,上記特許文
献2に記載の情報通信ユニットのように,ケーシングの少なくとも一部が設置面に
設けられたコンセント部に埋設される場合には,そのコンセント部が標準化された
市販の資材を利用したものであるために,ケーシングの大きさや形状に制限が生じ
25 る。そして,このような大きさなどに制限があるケーシング内では,複数のアンテ
ナ素子を配置されていなかった。」(【0006】)
「この実情に鑑み,本発明の主たる課題は,無線 LAN を行うためのアンテナ素
子を備えた情報通信ユニットにおいて,コンセント部へ埋設状態で設置可能なケー
シング内に複数のアンテナ素子を配置するにあたり,夫々のアンテナ素子における
送受信波の相互干渉を良好に抑制することで,安定且つ広範囲の無線 LAN 通信を
5 実現可能な技術を提供する点にある。」(【0007】)
(エ) 課題を解決するための手段
「本発明の第1特徴構成は,/無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数のア
ンテナの夫々のアンテナ素子をケーシングに内蔵し,/前記ケーシングが,設置面
に設けられたコンセント部に埋設状態で設置可能に構成されている情報通信ユニッ
10 トであって,/前記ケーシングが,外部に露出される表示面部と,当該表示面部の
外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部とを有し,/前記複
数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前記ケーシングの内壁面に沿う板状に形成
されていると共に,前記内挿部の互いに異なる内壁面において前記表示面部の後方
側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている点にある。」(【0008】)
15 「本特徴構成によれば,ケーシングの内挿部をコンセント部に内挿し,その前方
側に連接する表示面部を室内に露出させる形態で,ケーシングをコンセント部に埋
設状態で設置できる。そして,このような設置形態を採用することにより,設置面
からの表示面部の突出量が極力小さくなり,設置箇所の美観が向上されると共に,
歩行の妨げになることが抑制される。/更に,コンセント部に対して埋設状態で設
20 置可能なことで大きさ等に制限が生じるケーシング内において,複数のアンテナ素
子を配置するにあたり,それら複数のアンテナ素子が,ケーシングの内壁面に沿う
板状に形成され,更には,内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟
んで離間する位置に分配配置されている。このことで,夫々のアンテナ素子間の離
間距離を十分に大きくとって,当該夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干
25 渉を良好に抑制することができる。」(【0009】)
「本発明の第5特徴構成は,/モジュラープラグが挿入される接続窓が形成さ
れ,当該接続窓の後方側に前記モジュラープラグが着脱自在に接続されるモジュラ
ーアダプタが設けられている点にある。」(【0016】)
「本特徴構成によれば,モジュラーアダプタに対して接続窓を介して有線 LAN
用や電話回線用のモジュラープラグが接続可能となるので,無線 LAN に加えて,
5 有線 LAN や電話回線が利用可能となる。」(【0017】)
「本発明の第6特徴構成は,/前記表示面部が,前記コンセント部の表面に沿っ
て延びる帯状に形成され,/前記内挿部が,前記表示面部の両側縁部の夫々から後
方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部を有し,/前記複数のアンテナの夫
々のアンテナ素子が,前記一対の平面状側壁部の夫々に分配配置されている点にあ
10 る。」(【0018】)
「本特徴構成によれば,表示面部を上記帯状に形成することで,コンセント部に
おいて内挿部が挿入される取付け窓の形状を,市販のコンセントカバーに形成され
た標準的な長方形形状として,その取付け窓に表示面部の外延部から後方に延出す
る内挿部を挿入する状態で,ケーシングをコンセント部に埋設状態で設置できる。
15 /このようなケーシングの内挿部における四方の内壁面において,表示面部の両側
縁部の夫々から後方に延出し互いに対向する一対の平面状側壁部が存在することに
なる。そして,これら一対の平面状側壁部の夫々に複数のアンテナ素子を分配配置
するという合理的な構成により,これら複数のアンテナ素子を表示面部の後方側内
部空間を挟んで離間する位置に分配配置することができる。/また,これら一対の
20 平面状側壁部は互いに平行な平面となるので,その平面状側壁部に沿った姿勢で配
置される複数のアンテナ素子の夫々において,指向性を決定する延出方向が設定し
やすくなる。」(【0019】)
「本発明の第7特徴構成は,/前記複数のアンテナの夫々のアンテナ素子が,前
記一対の平面状側壁部の夫々において,前記表示面部の後方側内部空間を挟んで対
25 角位置に分配配置されている点にある。」(【0020】)
「本特徴構成によれば,複数のアンテナ素子が上記のように表示面部の後方側内
部空間を挟んで対角位置に配置されているので,夫々のアンテナ素子間の離間距離
を一層大きくとって,当該夫々のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を一層
良好に抑制することができる。」(【0021】)
(オ) 発明を実施するための形態
5 「図1に示すように,コンセント部1は,設置面 W に貫通形成された矩形状
(長方形状)の設置用孔 Wa の背面側に設置したコンセントボックス2と,設置面
W の前面側に配置されたコンセント部1の外表面を覆うコンセントカバー3とを,
それらの間において設置面 W の前面に当接する金属製の取付けフレーム…を介し
て固定することにより構成されている。」(【0023】)
10 「図4に示すように,情報通信ユニット U1 は,無線 LAN の周波数帯域に感度を
有する複数のアンテナ素子 51 をケーシング 10 に内蔵し,ケーシング 10 が,設置
面に設けられたコンセント部1に埋設状態で設置可能に構成されている。/図2~
図4に示すように,ケーシング 10 は,設置面 W に対して直交する前後方向(設置
面 W の表裏方向)から互いに脱着自在に嵌合する前側分割ケーシング 10A と後側
15 分割ケーシング 10B とで二分割された合成樹脂製のケーシングである。」(【002
6】)
「図2に示すように,前側分割ケーシング 10A は,コンセントカバー3の取付け
窓4を通して前方に突出して外部に露出される表示面部 11 と,当該表示面部 11 の
外縁部から後方に延出しコンセントカバー3に形成された取付け窓4に内挿される
20 内挿部 12 と,内挿部 12 の後端部から側方に延出し,設置面 W の背面側,具体的
にはコンセントカバー3の背面側で固定されるフランジ部 13 とを有する。」(【0
027】)
「表示面部 11 は,コンセントカバー3の表面に沿って上下方向に延びる略長方
形の帯状に形成されており,詳しくは,前方への突出代が最も少ない偏平な上側表
25 面部 11a と,これの下端から前方下方に向かって延びる傾斜姿勢の中間傾斜表面部
11b と,これの下端から下方に延びる最も突出代の大きな偏平な下側表面部 11c と
からなる。」(【0028】)
イ 「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)及び「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)
の意義
(ア) 本件各発明に係る特許請求の範囲の各記載によれば,本件各発明の「ケーシ
5 ング」は,「外部に露出される表示面部」(構成要件 C-1)と,「当該表示面部の
外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿される内挿部」(構成要件 C-2)
とを有し,「無線 LAN の周波数帯域に感度を有する複数のアンテナの夫々のアン
テナ素子を」「内蔵し」(構成要件 A),「設置面に設けられたコンセント部に埋
設状態で設置可能に構成されている」(構成要件 B)ものである。
10 これらの文言によれば,まず,「コンセント部」は,設置面に設けられたもので
あり,ケーシングを埋設状態で設置可能な空間をその中に有する ものと理解され
る。また,「ケーシング」は,アンテナ素子を内蔵し,表示面部と内挿部を有する
ところ,「表示面部」は,コンセント部に埋設状態で設置されたケーシングのう
ち,「外部」すなわち設置面の外側(室内側)に露出されるものであり,かつ,外
15 縁部を有する部位を意味するものと理解される。他方,「内挿部」は,表示面部の
外縁部から後方に延出するものであり,かつ,コンセント部に内挿される部位を意
味するものと理解される。
そうすると,「ケーシング」は,コンセント部に埋設状態で設置可能であるもの
の,その「表示面部」は外部すなわち設置面の外側(室内側)に露出されるもので
20 あるから,その全てが埋設状態にあることは要しない。さらに,外部に露出してい
る部分が「表示面部」のみであるとの限定もない。加えて,「表示面部」とは,そ
の文言からは,「表示面」として把握される「面」(物の外側の広がり)を形成し
ている板状の部位を意味するものと解するのが最も自然であり,このように解する
ことは,「外縁部」を有することとも整合する。
25 他方,「内挿部」については,表示面部が外部に露出されるものであることか
ら,「表示面部」の「後方」とは,外部から設置面に向かう方向を意味するものと
理解されること,「コンセント部に内挿される」とは,設置面に設けられ,ケーシ
ングを埋設状態で設置可能な空間を有するコンセント部の内側に挿入されることな
いし挿入された状態を意味するものと理解されること,「内挿」と「埋設」(コン
セント部の有する空間に埋めて設置することを意味するものと理解される。)とが
5 それぞれ異なる用法であって,異なる文脈で使用されていることに鑑みると,「表
示面部の外縁部から後方に延出」する部位である「内挿部」は,外部に露出されて
いる表示面部から設置面方向に向けて連続して伸び出している部位であり,外部に
露出され得るものであることが理解される。
以上より,本件各発明に係る特許請求の範囲の 各記載によれば,「表示面部」
10 (構成要件 C-1,D-2)とは,設置面に設けられたコンセント部に埋設状態で設置
されたケーシングのうち,コンセント部から外部すなわち設置面の外側(室内側)
に露出しているケーシングの正面を形成している板状の部位をいい,「内挿部」
(構成要件 C-2,D-2)とは,そのような表示面部の外縁部から設置面方向に向け
て連続して伸び出し,コンセント部の内側に挿入されている部位をいうものと解さ
15 れる。
(イ) 本件明細書の記載によれば,情報通信ユニットにおいて,安定かつ広範囲の
無線 LAN 通信を確立するためには,複数のアンテナ素子をケーシングに内蔵させ
るだけでなく,それら複数のアンテナ素子を,送受信波の相互干渉が十分に抑制さ
れるような配置状態でケーシング内に配置する必要があるが(【0006】),従来の
20 情報通信ユニットのうち,設置面に対してケーシング全体を外部に露出させた姿勢
で設置可能としたもの(特許文献1)は,ケーシングの大きさや形状に制限が略無
いため,その内部においてそれぞれのアンテナ素子を十分な離間距離を設けて略自
由に配置することができるものの,設置面からの突出量が大きくなり,設置個所の
美観が低下する上,歩行の妨げになり易く,その歩行者との衝突などにより装置が
25 損傷しやすくなるという課題がある(【0003】,【0006】)。他方,このような課
題を回避し得る従来の情報通信ユニットのうち,設置面に設けられたコンセント部
にケーシングの一部を埋設状態で設置可能に構成されているもの(特許文献2)
は,そのコンセント部が標準化された市販の資材を利用したものであり,ケーシン
グの大きさや形状に制限が生じるため,複数のアンテナ素子を配置されていなかっ
た(【0004】,【0006】)。本件各発明は,このような実情に鑑み,無線 LAN を
5 行うためのアンテナ素子を備えた情報通信ユニットにおいて,コンセント部へ埋設
状態で設置可能なケーシング内に複数のアンテナ素子を配置するにあたり,それぞ
れのアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで,安定かつ
広範囲の無線 LAN 通信を実現可能な技術を提供することをその主たる課題とする
ものである。
10 ここで,本件各発明は,上記課題から,コンセント部が「標準化された市販の資
材を利用したもの」であることを前提とすることが理解される。また,コンセント
部は,具体的には,「設置面 W に貫通形成された矩形状(長方形状)の設置用孔
Wa の背面側に設置したコンセントボックス2と,設置面 W の前面側に配置された
コンセント部1の外表面を覆うコンセントカバー3」とを,「設置面 W の前面に
15 当接する金属製の取付けフレーム…を介して固定すること」により構成される部位
である(【0023】)。このうち,「コンセントカバー」は,標準的な長方形形状の
「取付け窓」を有する(【0019】)。
その上で,上記課題を解決する手段である本件各発明の「表示面部」及び「内挿
部」については,「本特徴構成によれば,表示面部を上記帯状に形成することで,
20 コンセント部において内挿部が挿入される取付け窓の形状を,市販のコンセントカ
バーに形成された標準的な長方形形状として,その取付け窓に表示面部の外延部か
ら後方に延出する内挿部を挿入する状態で,ケーシングをコンセント部に埋設状態
で設置できる。」(【0019】),「図2に示すように,前側分割ケーシング 10A
は,コンセントカバー3の取付け窓4を通して前方に突出して外部に露出される表
25 示面部 11 と,当該表示面部 11 の外縁部から後方に延出しコンセントカバー3に形
成された取付け窓4に内挿される内挿部 12 と,内挿部 12 の後端部から側方に延出
し,設置面 W の背面側,具体的にはコンセントカバー3の背面側で固定されるフ
ランジ部 13 とを有する。」(【0027】),「表示面部 11 は,コンセントカバー3
の表面に沿って上下方向に延びる略長方形の帯状に形成されており,詳しくは,前
方への突出代が最も少ない偏平な上側表面部 11a と,これの下端から前方下方に向
5 かって延びる傾斜姿勢の中間傾斜表面部 11b と,これの下端から下方に延びる最も
突出代の大きな偏平な下側表面部 11c とからなる」(【0028】)ものとされてい
る。
【図2】
10 これらの記載等によれば,設置面を基準として,その外側に向かう方向が前方,
内側に向かう方向が後方とされるところ,「表示面部」は,コンセントカバー3の
取付け窓4を通して前方に突出して外部に露出され,コンセントカバー3の表面に
沿って上下方向に延びる略長方形の帯状に形成された部位であること,「内挿部」
は,表示面部 11 の外縁部から後方に延出するものであると共に,ケーシングをコ
15 ンセント部に埋設状態で設置する際,市販のコンセントカバーに形成された標準的
な長方形形状である取付け窓の内側に挿入される部位であることが理解される。
また,前側分割ケーシング 10A は,内挿部 12 の後端部から側方に延出し,コン
セントカバー3の背面側で固定されるフランジ部 13 を有する。このため,本件各
発明に係る情報通信ユニットの具体的な設置作業は,コンセント部のコンセントボ
5 ックスを準備する工程,当該コンセントボックスにケーシングを埋設状態で設置す
る工程,及び当該ケーシングの内挿部がコンセントカバーの取付け窓の内側に挿入
されるようにコンセントカバーを設置面 W に接近させ,コンセントカバーがコン
セント部の外表面を覆うように設置される工程により行われることがうか がわれ
る。このことからは,コンセント部に内挿される「内挿部」は,コンセント部を構
10 成するコンセントカバーの取付け窓の内側に挿入される部位であり,前側分割ケー
シング 10A において,フランジ部 13 から前方に突出している部位を意味するもの
と理解される。
換言すれば,外部に露出され,その外縁から後方に内挿部が延出する「表示面
部」は,コンセントカバーの取付け窓を通して前方に突出して外部に露出されるも
15 のであり,設置状態において,「表示面部」と「コンセント部」を構成するコンセ
ントカバーとの間には空間があるところ,この空間は,表示面部の外縁部から後方
に延出している「内挿部」によって画される。また,「内挿部」は,コンセントカ
バーの取付け窓の内側に挿入され,コンセントカバーに対して,設置面の外側であ
る前方に突出している部分を含むことになる。
20 そうすると,「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)につき,設置面に設けられた
コンセント部に埋設状態で設置されたケーシングのうち,コンセント部から外部す
なわち設置面の外側(室内側)に露出しているケーシングの正面を構成する板状の
部位と解し,「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)につき,そのような表示面部の外
縁部から設置面方向に向けて連続して伸び出し,コンセント部の内側に挿入されて
25 いる部位をいうものと解することは,本件明細書の記載等とも整合する。
ウ 各被告製品について
前記(第2の2(4)イ~オ)のとおり,各被告製品は,「前記ケーシングが,外
部に露出されるケーシング正面部と」(構成 1c-1,2c-1,3c-1,4c-1),「当該ケ
ーシング正面部の外縁部から後方に延出し前記コンセント部に内挿されるケーシン
グ側面部とを有し」(構成 1c-2,2c-2,3c-2,4c-2),「前記ケーシング側面部の
5 互いに異なる上方内壁面及び側方内壁面において前記ケーシング正面部の後方側上
方片側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」(構成 1d-2)ないし
「前記ケーシング側面部の互いに異なる内壁面において前記ケーシング正面部の後
方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置されている」(構成 2d-2,3d-2,4d
-2)という構成を有する。
10 前記「表示面部」(構成要件 C-1,D-2)及び「内挿部」(構成要件 C-2,D-2)
の解釈によれば,このうち,構成 1c-1,2c-1,3c-1,4c-1 はいずれも本件各発明の
構成要件 C-1 を,構成 1c-2,2c-2,3c-2,4c-2 はいずれも構成要件 C-2 を充足す
る。また,被告製品2~4の構成 2d-2,3d-2,4d-2 はいずれも構成要件 D-2 を充足
する。被告製品1についても,構成 1d-2 のうち,「互いに異なる上方内壁面及び
15 側方内壁面」は,「互いに異なる内壁面」(構成要件 D-2)に含まれ,「後方側上
方片側内部空間」は,「後方側内部空間」(同上)に含まれると解されるから,構
成 1d-2 は,本件発明1の構成要件 D-2 を充足する。
また,前記「表示面部」及び「内挿部」の解釈によれば,構成要件 F~H におい
てもその意義は同様である。そうすると,被告製品2~4の構成 2f-1,3f-1,4f-1
20 は本件発明2の構成要件 F-1 を,構成 2f-2,3f-2,4f-2 は構成要件 F-2 を,構成 2f-
3,3f-3,4f-3 は構成要件 F-3 を,構成 2g,3g,4g は構成要件 G をそれぞれ充足す
る。加えて,被告製品2及び3の構成 2h-1,3h-1 は本件発明3の構成要件 H-1 を,
構成 2h-2,3h-2 は構成要件 H-2 をそれぞれ充足する。
そうである以上,各被告製品は,いずれも本件発明1の構成要件を充足し,その
25 技術的範囲に属する。また,被告製品2~4は,いずれも本件発明2の構成要件を
充足し,その技術的範囲に属する。さらに,被告製品2及び3は,いずれも本件発
明3の構成要件を充足し,その技術的範囲に属する。
エ 被告の主張について
被告は,「表示面部」とは,ケーシングが壁面(設置面)から露出している立方
体状の部分であり,「内挿部」とは,ケーシングのうち,コンセント部の外部に露
5 出している部分を含まず,「コンセント部に内挿され」ている部分のみを意味する
などと主張する。
しかし,本件特許に係る特許請求の範囲及び本件明細書の各記載を見ても,「表
示面部」にケーシング側面部を含むと解すべき具体的な記載はなく,また,本件各
発明の各構成が,内挿部全てがコンセント部に埋設されるものに限定されると解す
10 べき記載もない。また,「表示面部」の機能が表示することであって,「外部に露
出される」との記載がなくても外部に露出されることが明らかであると しても,
「外部に露出される表示面部」との記載につき,当然に「表示面」以外に外部に露
出する部分を含む趣旨,換言すれば,ケーシングにおいて,外部に露出する部分は
「表示面部」のみであるとの趣旨と解釈すべきことにはならない。むしろ,前記イ
15 (イ)のとおり,被告の主張に係る解釈は,本件明細書の記載等と整合しない。
さらに,被告は,本件各発明において,課題解決のために意味を持つケーシング
の部分は壁面に埋設されている部分であり,コンセント部によって受ける制限がな
い壁面(設置面)から外部(室内空間)に露出しているケーシングの部分は,そも
そも本件各発明が解決しようとする課題が生じないから,その部分は「内挿部」に
20 該当しないなどとも主張する。
しかし,前記イ(イ)のとおり,本件各発明に係る情報通信ユニットの具体的な設
置作業は,コンセント部に設置されているケーシングの内挿部がコンセントカバー
の取付け窓の内側に挿入されるようにコンセントカバーを設置面 W に接近させ,
コンセントカバーがコンセント部の外表面を覆うように設置される工程を含むもの
25 とうかがわれることから,ケーシングは,コンセント部に埋設される部分のみなら
ず,コンセントカバーの取付け窓に内挿して外部に露出する部分についても,形状
や大きさに制約を受けることとなる。すなわち,ケーシングのうち,壁面から外部
に露出している部分についても,本件各発明が解決しようとする課題が生じるので
あって,被告の上記主張は,その前提である本件各発明の課題に係る理解に誤りが
ある。
5 その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する被告の主張は採用
できない。
2 乙13文献に基づく無効理由の有無(争点2-1)について
(1) 乙13文献には,以下の記載及び図がある。
ア 発明の属する技術分野
10 「本発明は,有線 LAN に無線機能を付加するための無線ユニットに関するもの
である。」(【0001】)
イ 発明が解決しようとする課題
「図 36,37 の従来のシステムでは,…LAN コンセントに宅内の機器を接続する
場合に LAN ケーブルによって美観を損なうという問題があった。また,LAN ケー
15 ブルで接続されることにより,利便性を損なう場合もあり,無線通信化のニーズが
増加している。」(【0013】)
「屋内使用の無線通信方式には,例えば,2.4GHz 帯の IEEE802.11b 規格,5GHz
帯の IEEE802.11a 規格および Bluetooth などの複数の方式があり,またそれに続く新
しい標準規格の策定も進められている。また,インターネットへの接続について
20 も,様々な通信方式が存在している。」(【0014】)
「このような状況下において,既存の無線化対応の製品では,公衆系の接続機器
と宅内の無線通信機器とが一体に組み合わさった形態で供給されているので,公衆
または宅内の通信方式を変更する場合に,全て買い直す必要があった。」(【001
5】)
25 「また,住宅内には様々な電波の障害物や,通信に有害なノイズを発生する機器
が存在することも問題となっている。無線により均一な通信品質を提供するために
は,顧客の住宅事情に合わせたシステム提案が必要となる。」(【0016】)
「本発明は,上記事情に鑑みてなされたものであり,宅内での使用において交換
が容易でありまた安価な無線ユニットを提供することを目的とする。 」(【001
7】)
5 ウ 発明の実施の形態
「第9実施形態の無線ユニット 1H は,図 19~図 21 に示すように,電源・情報
コンセント 5A に組み込まれて使用されるものであ…る。」(【0082】)
「電源・情報コンセント 5A は,商用電源に接続される電源コンセント 51 と,同
軸コンセント 52 と,有線 LAN に先行配線で接続される LAN コンセント 50 とを備
10 えるとともに,LAN コンセント 50 および電源コンセント 51 が1個ずつ底部に設け
られた収容スペース 53 を有し,この収容スペース 53 に無線ユニット 1H が組み込
まれるようになっている。」(【0084】)
「無線ユニット 1H は,図 19 に示すように,…一の面にスロットが設けられたベ
ース部 10d と,このスロットに着脱自在に装着されて電気的に接続される無線拡張
15 部 11g とを備えている。」(【0085】)
「第9実施形態では,図 19 に示すような形状のベース部 10d および無線拡張部 1
1g を備える無線ユニット 1H が使用される構成になっているが,これに限らず,図
24 に示すように,箱状で蓋 12 付きのベース部 10e およびこれに収納される平板状
の無線拡張部 11h を備え,それぞれに例えば同様の構成部を含む無線ユニット 1J が
20 使用される構成でもよい。」(【0090】)
「図 26 は本発明に係る第 11 実施形態の無線ユニットの設置の様子を示す図であ
る。」(【0096】)
【図 26】
「第 11 実施形態の無線ユニット 1K は,図 24 の無線ユニット 1J との相違点とし
て,無線拡張部 11h および蓋 12 に代えて,図 26 に示すように無線拡張部 11i およ
び蓋 12a をそれぞれ備えている。」(【0097】)
5 「無線拡張部 11i は,…アンテナを外付けで接続するためのアンテナ外付け端子
120T を表面に備える構成になっている。」(【0098】)
「蓋 12a は,同軸ケーブル9を介してアンテナ外付け端子 120T と接続される線
状のアンテナ 121,122 を,面に沿ってそれぞれ水平および垂直となるように備え
(例えば内蔵し)ている。」(【0099】)
10 「このように,アンテナを蓋に設けることにより,施工が容易となり,また突起
物が存在しないため,アンテナの破損を防止することができる。」(【0100】)
(2) 以上の乙13文献の記載等によれば,乙13発明は,以下の構成を有するも
のと認められる。
A’’ 無線 LAN の周波数帯域に感度を有する2つのアンテナ 121,122 を箱状
15 で蓋 12a 付きのベース部 10e に内蔵し,
B’’ 前記ベース部 10e が,壁 W に設けられた電源・情報コンセント 5A の収
容スペース 53 に埋設状態で設置可能に構成されている無線ユニット 1K であって,
C’’-1 前記蓋 12a 付きのベース部 10e が,外部に露出され,開閉される蓋 12a の
表面部と,
C’’-2 当該蓋 12a の表面部の外縁部から後方に延出するが,前記収容スペース 5
3 には内挿されない蓋 12a の側面部及び前記収容スペース 53 に内挿されるベース部
10e とを有し,
5 D’’-1 前記2つのアンテナ 121,122 の夫々が,前記蓋 12a の底面に沿って線状
に形成されていると共に,
D’’-2 前記蓋 12a の底面に沿ってそれぞれ水平及び垂直になるよう分配配置され
ている
E’’ 無線ユニット1K。
10 (3) 本件各発明と乙13発明との対比
本件各発明と乙13発明とを比較すると,乙13発明の「2つのアンテナ 121,
122」は本件各発明の「複数のアンテナの夫々のアンテナ素子」に,「箱状で蓋 12
a 付きのベース部 10e」は「ケーシング」に,「壁 W」は「設置面」に,「電源・
情報コンセント 5A の収容スペース 53」は「コンセント部」に,「無線ユニット 1
15 K」は「情報通信ユニット」に,「蓋 12a の表面部」は「表示面部」に,それぞれ
相当するものといえる。
しかし,第1に,本件各発明は,ケーシングが,外部に露出される表示面部(構
成要件 C-1)と,当該表示面部の外縁部から後方に延出しコンセント部に内挿され
る内挿部を有する(同 C-2)のに対し,乙13発明は,外部に露出されるのは蓋 12
20 a の表面部であるが,蓋 12a は開閉されるものであって,図 26 からも明らかなよう
に,その壁 W の面方向の高さは,ベース部 10e 及び収容スペース 53 の同高さのい
ずれよりも大きいものであるため,蓋 12a の表面部の外縁部から後方に延出する蓋
12a の側面部はコンセント部に内挿されず,また,収容スペース 53 に内挿されるベ
ース部 10e の側面部は,蓋 12a の表面部の外縁部から後方に延出するものとはいえ
25 ない(以下「相違点1」という。)。
第2に,本件各発明は,複数のアンテナのそれぞれのアンテナ素子が,ケーシン
グの内壁面に沿う板状に形成されている(構成要件 D-1)のに対し,乙13発明
は,2つのアンテナが,蓋 12a の底面に沿う線状に形成されている(以下「相違点
2」という。)。
第3に,本件各発明は,複数のアンテナのそれぞれのアンテナ素子が内挿部の互
5 いに異なる内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に配置
されている(構成要件 D-2)のに対し,乙13発明は,2つのアンテナが収容スペ
ース 53 に内挿されない蓋 12a の同一面である底面に沿って離間する位置に配置さ
れている(以下「相違点3」という。)。
(4) 新規性(争点2-1-1)及び進歩性(争点2-1-2)の欠如について
10 本件各発明と乙13発明とは,少なくとも相違点1~3において相違するとこ
ろ,これらの相違点について,設計事項に過ぎないなど,いずれも実質的に相違し
ないと見るべき事情に係る主張立証はない。
また,本件各発明は,「設置面に設けられたコンセント部にケーシングの一部を
埋設状態で設置可能に構成」することにより,「設置面からの突出量が極力小さく
15 な」ることで「美観の低下や歩行の邪魔になるなどの問題が回避され」るという背
景技術を踏まえ(本件明細書【0004】),そのような「コンセント部へ埋設状態で
設置可能なケーシング内に複数のアンテナ素子を配置するにあたり,夫々のアンテ
ナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制する…技術を提供する」(同【00
07】)ものであり,「設置面からの表示面部の突出量」を「極力小さく」する(同
20 【0009】)という方向性を有するものである。他方,乙13発明は,複数の無線通
信方式等に対応し得ると共に,新たに策定される標準規格への対応も想定して,宅
内での使用において交換が容易な無線ユニットを提供することを目的とするもので
あり(乙13【0014】,【0015】,【0017】),コンセントカバーを取り付けたま
まで,無線ユニット 1K を電源・情報コンセント 5A の収容スペース 53 の外側から
25 組込み可能な構成を採用している。このように,乙13発明は,本件各発明の上記
方向性を有するものではない。このため,乙13発明においては,本件各発明の構
成要件 C-2 の構成を採用することについての動機付けはない。
さらに,仮に乙14文献等に被告主張に係る「複数のアンテナのそれぞれのアン
テナ素子が,「内挿部」の互いに異なる内壁面において表示面部の後方側空間を挟
んで離間する位置に分配配置される技術」が記載されていたとしても,乙13発明
5 に当該技術を組み合わせることにより,相違点1~3の全てにつき,本件各発明の
構成に至ることが,当業者にとって容易であったとはいえない。
以上より,本件各発明は,乙13発明と同一のものとはいえず,また,乙13発
明に基づき当業者が容易に発明をすることができたということもできない。
したがって,本件特許は,乙13発明に基づく新規性ないし進歩性の欠如を理由
10 として,特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。この点につき被
告は縷々主張するけれども,いずれも採用できない。
3 乙14文献等に基づく新規性欠如の有無(争点2-2)について
乙14文献は「携帯端末用のアンテナおよびその製造方法,ならびに,当該アン
テナを備えた携帯端末」,乙15文献は「マルチアンテナ装置および通信機器」,
15 乙16文献は「アンテナ装置,及び無線通信装置」,乙17文献は「携帯通信端
末」,乙18文献は「電子機器及びアンテナ実装方法」,乙19文献は「無線通信
用アンテナ及び該アンテナを有する移動用電子機器」を,それぞれその発明の名称
とする発明が記載されているものであり,これらの文献の記載を具体的に見ても,
本件各発明のようなコンセント部に設置されている情報通信ユニットに係る発明は
20 記載されていない。このため,乙14文献等に被告主張に係る「複数のアンテナの
それぞれのアンテナ素子が,「内挿部」の互いに異なる内壁面において表示面部の
後方側空間を挟んで離間する位置に分配配置される技術」が記載されているとはい
えない。
また,前記(1(2)イ(イ))のとおり,本件各発明は,コンセント部が「標準化さ
25 れた市販の資材を利用したもの」であることを前提とするためコンセント部に設置
されるケーシングの形状及び大きさに制約がありながらも,コンセント部へ埋設状
態で設置可能なケーシング内に複数のアンテナ素子を配置するにあたり,それぞれ
のアンテナ素子における送受信波の相互干渉を良好に抑制することで,安定かつ広
範囲の無線 LAN 通信を実現可能な技術を提供することを主たる課題とする。この
ため,仮に乙14文献等に被告主張に係る「複数のアンテナのそれぞれのアンテナ
5 素子が,「内挿部」の互いに異なる内壁面において表示面部の後方側空間を挟んで
離間する位置に分配配置される技術」が記載されていたとしても,当該技術により
直ちに本件各発明の上記課題を解決し得るものではない。
したがって,本件特許は,乙14文献等の記載に基づく新規性の欠如を理由とし
て,特許無効審判により無効にされるべきものとはいえない。この点に関する被告
10 の主張は採用できない。
4 差止請求及び廃棄請求について
以上より,各被告製品は,いずれも本件特許権を侵害するものであるから,原告
は,被告に対し,本件特許権に基づき,各被告 製品の製造等の差止請求権を有す
る。
15 被告は,前記(第2の2(4)ア)のとおり,令和3年2月頃まで各被告製品を販
売等していたが,現時点で製造販売しているとは認められない。しかし,被告にお
いて各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属することなどを争い,本件訴え提起
後も各被告製品の販売を継続していたことなどを踏まえると,なお被告により本件
特許権が侵害されるおそれがあると認めるのが相当である。したがって,原告の被
20 告に対する本件特許権に基づく各被告製品の製造,輸入,販売及び販売の申出の差
止の必要性は認められる。
同様に,被告による本件特許権の侵害を予防するために,各被告製品の廃棄の必
要性も認められる。
したがって,原告は,被告に対し,本件特許権に基づく各被告製品の製造,輸
25 入,販売及び販売の申出の差止請求権並びに各被告製品の廃棄請求権を有する。
5 損害発生の有無及び損害額(争点3)について
(1) 損害発生について
証拠(甲53~55)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成24年頃の原告
製品の販売開始以降,順調に販売実績を上げていたところ,被告の各被告製品の販
売により,既存の取引先を失うなどして原告製品の販売数量が減少し,損害を受け
5 たことが認められる。
これに対し,被告は,原告製品の性能や原告の供給能力等を指摘して,原告製品
の売上減少と各被告製品の売上に因果関係がないこと,すなわち原告の損害の全部
又は一部の発生と被告の行為との因果関係の欠如を主張する。
しかし,原告製品の性能の問題や原告の供給能力,製造能力の欠如として被告が
10 指摘する事情は,具体性を欠くか,一部の取引事例のみを取り上げて殊更に一般化
したものに過ぎない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(2) 損害額(特許法102条2項に基づくもの)について
ア 証拠(甲58)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製品の販売による被告の
15 利益の額(税込)は,以下のとおりと認められる。
・平成28年12月 ●省略●
・平成29年1月~12月 ●省略●
・平成30年1月~12月 ●省略●
・平成31年1月~令和元年12月 ●省略●
20 ・令和2年1月~3月 ●省略●
・令和2年4月~10月 ●省略●
・令和2年11月及び12月 ●省略●
・令和3年1月及び2月 ●省略●
イ 利益の額に関する被告の主張について
25 被告は,消費税,在庫評価損及び為替差益について,被告の利益の額から控除さ
れるべきと主張する。しかし,以下のとおり,これらの点に関する被告の主張はい
ずれも採用できない。
(ア) 消費税について
消費税は,国内において事業者が行った資産の譲渡等に課されるものであるとこ
ろ(消費税法4条1項),「例えば,次に掲げる損害賠償金のように,その実質が
5 資産の譲渡等の対価に該当すると認められるものは資産の譲渡等の対価に該当する
ことに留意する。…(2) 無体財産権の侵害を受けた場合に加害者から当該無体
財産権の権利者が収受する損害賠償金」(消費税法基本通達5-2-5)とされて
いる。このことに鑑みると,特許権を侵害された者が特許権侵害の不法行為に基づ
く損害賠償金を侵害者から受領した場合,その損害賠償金も消費税の課税対象とな
10 るものと推察される。そうすると,特許権者が特許権侵害による損害のてん補を 受
けるためには,課税されるであろう消費税額相当分についても損害として受領し得
る必要があるというべきである。そうである以上,「利益」には消費税額相当分も
含まれ得ると解される。このことは,侵害者が特許権を侵害する製品の譲渡等につ
いて既に消費税を納付しているかによって左右されるものではない。
15 したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
(イ) 在庫評価損について
上記認定に係る利益額の算定は,被告が現実に販売した各被告製品について,返
品分を控除して行われたものである。また,棚卸評価損(在庫評価損)は,被告に
よる各被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった費用ではない。し
20 たがって,棚卸評価損(在庫評価損)については,被告の利益の計算において控除
すべき費用とはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ) 為替差益について
被告は,各被告製品を外国から輸入して販売しているから,各被告製品に係る為
替差益は,各被告製品の仕入れを外貨建で決済していることに関連して発生してい
25 るものと解される。そうすると,一定の期間の各被告製品の仕入れについて外貨建
決済したことによる輸入契約時の為替相場との計算上の為替差益は,各被告製品の
販売によって被告が受けた利益の額の算定においては,各被告製品の仕入額と合わ
せて原価と評価すべきものであり,被告の利益の計算にあたって算入すべきものと
見るのが相当である。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
5 なお,被告は,仕入額の3割程度について為替予約を行っていると主張する。し
かし,その具体的な契約内容は証拠上明らかではなく,また,各被告製品の仕入れ
と対応しない金融商品の取引による利益が含まれていることについて具体的に明ら
かにしていないから,この点に関する被告の主張も採用できない。
ウ 推定覆滅について
10 (ア) 本件各発明の効果
本件発明1の効果は,発明に係るケーシングのコンセント部に対する設置形態を
採用することにより,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなり,設置箇所
の美観が向上されると共に,歩行の妨げになることが抑制されること,上記設置形
態を採用することで大きさ等に制限が生じるケーシング内に複数のアンテナ素子を
15 配置するにあたり,複数のアンテナ素子がケーシングの内壁面に沿う板状に形成さ
れ,内挿部の内壁面において表示面部の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分
配配置されることで,アンテナ素子間の離間距離を十分に大きくとって,送受信波
の相互干渉を良好に抑制することができること(【0009】)である。
本件発明2の効果は,本件発明1の効果に加えて,ケーシングの内挿部における
20 四方の内壁面において,表示面部の両側縁部から後方に延出し互いに対向する一対
の平面状側壁部が存在し,これらの平面状側壁部のそれぞれに複数のアンテナ素子
を分配配置するという合理的な構成により,これら複数のアンテナ素子を表示面部
の後方側内部空間を挟んで離間する位置に分配配置できると共に,一対の平面状側
壁部は互いに平行な平面となるので,その平面状側壁部に沿った姿勢で配置される
25 複数のアンテナ素子のそれぞれにおいて,指向性を決定する延出方向が設定しやす
くなること(【0019】),複数のアンテナ素子が表示面部の後方側内部空間を挟ん
で対角位置に配置されているので,それぞれのアンテナ素子間の離間距離を一層大
きくとって,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉を一層良好に抑
制することができること(【0021】)である。
本件発明3の効果は,本件発明1及び2の効果に加えて,無線 LAN に加えて有
5 線 LAN や電話回線が利用可能になること,表示面部の後方側にモジュラーアダプ
タが配置されているので,複数のアンテナ素子をモジュラーアダプタを間に挟んだ
状態で配置することができ,それぞれのアンテナ素子における送受信波の相互干渉
が一層良好に抑制されること(【0017】)である。
要するに,本件各発明の作用効果は,①ケーシングをコンセント部に埋設状態で
10 設置でき,設置面からの表示面部の突出量が極力小さくなることによる美観の向上
及び歩行の妨げとなることの防止,②複数のアンテナ素子間の送受信波の相互干渉
の抑制,③アンテナ素子の指向性を決定する延出方向設定の容易化(本件発明1を
除く)にあるといえる。
(イ) 本件各発明の貢献の程度等について
15 本件各発明は,コンセント部に埋設状態で設置される情報コンセントに係る発明
であり,主として集合住宅やホテル,オフィス等に一括して設置することが想定さ
れる(甲4,54,55,弁論の全趣旨)。そうすると,それらの設置を扱うイン
ターネットサービスプロバイダーが原告製品及び各被告製品の主要な取引者と解さ
れると共に,最終的な需要者である情報コンセントが設置される建築物の施主の意
20 向も,製品選択に影響することが考えられる。これらの者にとって,本件各発明の
前記の効果①~③は,いずれも選択の動機となり得る事情といえる。
また,証拠(甲52)によれば,被告は,各被告製品について,「標準の情報コ
ンセント内に埋込み,省スペースで快適な無線 LAN 環境」,「美観重視のお客様
に適した,見た目がスマートな埋込み型」,「JIS 規格のコンセントであればメー
25 カを問わず設置可能」などと宣伝しており,効果①を謳っている上,「もっと電波
を強くしてほしい」という要望に応じて導入された事例や,「確実に無線が使用で
きる環境でありながら,部屋に設置しても存在を意識しないデザイン」が評価され
たという事例等を紹介して宣伝してもおり,効果②を取り上げた宣伝も行っている
と認められる。
そうすると,本件各発明は,少なくとも効果①及び②により,これを実施する製
5 品の販売に貢献するものというべきであって,顧客誘引力がない又は乏しいものと
はいえない。
これに対し,被告は,本件各発明の特徴は従来から存在したケーシングに対して
技術常識に基づく配置を併せた点に限定されること,原告が商品の訴求ポイントと
して挙げる事情は本件各発明と無関係であること,乙26文献及び乙27文献記載
10 の公知技術の存在を指摘して,本件各発明は売上や利益に対して寄与せず,又はそ
の寄与は無視できる程度に小さいなどと主張する。
しかし,被告がその主張の前提とする本件各発明の特徴に関する理解は,本件各
発明に係る技術的思想や効果を正しく理解したものとはいえず,被告の上記主張は
その前提を欠く。また,乙26文献及び乙27文献には,いずれも複数のアンテナ
15 を配置することの記載も示唆もないから,これらの文献記載の公知技術の存在は,
本件各発明の貢献の程度を失わせるものとはいえない。
このほか,被告において,他に顧客誘引力を有すべき製品の特徴等についての主
張立証はない。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
20 (ウ) 競合品の存在について
証拠(甲1,49~52,55,56)によれば,原告製品及び各被告製品は,
JIS 規格のコンセントプレートに対応した情報コンセント型無線 LAN アクセスポイ
ントの製品であるところ,エレコム株式会社の製品(WAB-S733IW-PD。以下「甲
56製品」という。)も,1つの電子チップ型アンテナ及び1つの基板アンテナの
25 2つのアンテナ素子を有し,JIS 規格のコンセントプレートに対応した製品である
から,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品であることが認められ
る。もっとも,その販売開始時期,販売価格,販売実績,市場占有率その他具体的
な事情について,被告による主張立証はなく,証拠上明らかでない。また,甲56
製品のほかに,原告製品及び各被告製品と市場において競合するものと認められる
製品の存在等に関する具体的な主張立証はない。
5 そうすると,原告製品及び各被告製品と市場において競合する製品として甲56
製品が存在する以上,その存在をもって特許法102条2項に基づく損害額の推定
の覆滅事由として考慮すべきではあるものの,その覆滅の程度は極めて限定的であ
り,本件においては,5%の限度で推定が覆滅されるにとどまると考えるのが相当
である。
10 これに対し,被告は,原告製品及び各被告製品と同種の製品を販売している競合
企業が多数存在するなどと主張する。しかし,一般論として技術的に同一の製品で
はなくとも市場において競合することがあり得るとしても,他社製品との競合の状
況に関する具体的な主張立証がない以上,特許法102条2項に基づく損害額の推
定を覆滅すべき事情としてこれを考慮することはできない。また,原告製品の失注
15 といった個別の取引事例に基づく主張については,その具体的な事情が明らかでは
ないから,失注の点をもって直ちに原告製品の競争力の乏しさを示すものとは必ず
しもいえない。したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
エ 小括
そうすると,特許法102条2項に基づき推定される原告の損害額は,以下のと
20 おり,合計●省略●なる。
・平成28年12月 ●省略●
・平成29年1月~12月 ●省略●
・平成30年1月~12月 ●省略●
・平成31年1月~令和元年12月 ●省略●
25 ・令和2年1月~3月 ●省略●
・令和2年4月~10月 ●省略●
・令和2年11月及び12月 ●省略●
・令和3年1月及び2月 ●省略●
(3) 損害額(特許法102条3項に基づくもの)並びに特許法102条2項及
び3項の重畳適用について
5 原告は,損害額につき,選択的に特許法102条3項に基づく推定をも主張す
る。しかし,その主張する額は特許法102条2項に基づき推定される損害額(前
記(2)エ)より少ない。したがって,同条3項に基づく損害額について論ずる必要
はない。
特許法102条2項及び3項の重畳適用について は,前記(2)ウのとおり,本件
10 において同条2項に基づく損害額の推定を覆滅すべき事情として考慮すべきものは
競合製品の存在のみであるところ,被告による各被告製品の販売実績等と直接の関
わりを有しないこのような事情に基づく覆滅部分に関しては,同条3項適用の基礎
を欠く。したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。
(4) 過失相殺について
15 被告は,被告にとって通常の注意を払って回避する努力をしても本件特許権侵害
の回避は困難であり,被告の過失の程度は非常に軽いとして,相当程度の過失相殺
をすべきであると主張する。
しかし,そもそも過失相殺は,不法行為の被害者に過失があった場合にその点を
考慮して損害賠償額を定めることができるというものである。過失相殺の法理は,
20 損害の公平な分担というその趣旨を考慮しても,加害者の過失の程度が軽いことの
みを理由に損害賠償額を減額することを一般的に基礎付けるものではない。この点
に関する被告の主張は採用できない。
(5) 弁護士費用等
原告が本件訴訟の提起及び追行を弁護士及び弁理士に委任したことは当裁判所に
25 顕著な事実であるところ,その費用については, 原告の逸失利益額の1割の限度
で,被告の行為と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。
そうすると,弁護士費用等相当損害額は,以下のとおり,合計●省略●と認めら
れる。
・平成28年12月 ●省略●
・平成29年1月~12月 ●省略●
5 ・平成30年1月~12月 ●省略●
・平成31年1月~令和元年12月 ●省略●
・令和2年1月~3月 ●省略●
・令和2年4月~10月 ●省略●
・令和2年11月及び12月 ●省略●
10 ・令和3年1月及び2月 ●省略●
(6) 原告の損害額
以上によれば,原告の損害額は,以下のとおり,合計●省略●と認められる。
・平成28年12月 ●省略●
・平成29年1月~12月 ●省略●
15 ・平成30年1月~12月 ●省略●
・平成31年1月~令和元年12月 ●省略●
・令和2年1月~3月 ●省略●
・令和2年4月~10月 ●省略●
・令和2年11月及び12月 ●省略●
20 ・令和3年1月及び2月 ●省略●
(7) まとめ
以上より,原告は,被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づき,合計2億
1966万9722円の損害賠償請求権及びこのうち以下の各金額に対する各日付
(いずれも対応する 損害額算定期間の最終日の翌日であり,不法行為後の日であ
25 る。)から各支払済みまで,令和2年3月末までの不法行為に対応する分について
は改正前の民法所定の,その後の分については民法所定の法定利率による遅延損害
金請求権を有する。
・ 16万2581円に対する平成29年1月1日から
・ 772万8167円に対する平成30年1月1日から
・ 4192万7264円に対する平成31年1月1日から
5 ・ 8871万7382円に対する令和2年1月1日から
・ 2531万5098円に対する令和2年4月1日から
・ 3693万6274円に対する令和2年11月1日から
・ 804万5241円に対する令和3年1月1日から
・ 1083万7715円に対する令和3年3月1日から
10 第4 結論
以上より,原告の請求は,主文第1項~第3項の限度で理由があるから,その限
度でこれを認容し,その余の請求は理由がないから,これを棄却することとして,
主文のとおり判決する。なお,主文第1項及び第2項については,仮執行の宣言を
付すのは相当でないから,これを付さないこととする。
大阪地方裁判所第26民事部
20 裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
布 目 真 利 子
(別紙)
被告 物件目録
型 番
5 1 AE1031,AE1031PE
2 AE1041,AE1041PE
3 AE1051,AE1051PE
4 AE1050PE
【 別 紙 特許公報添付省略】
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