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令和1(ワ)5444損害賠償請求事件

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裁判所 大阪地方裁判所大阪地方裁判所
裁判年月日 令和3年9月28日
事件種別 民事
当事者 原告株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ
被告P1 P2 P3 P4
対象物 二酸化炭素含有粘性組成物
法令 特許権
特許法102条2項10回
特許法101条1号6回
民法709条5回
特許法72条1回
特許法65条1回
特許法29条2項1回
特許法196条1回
特許法102条1回
不正競争防止法2条1項3号1回
キーワード 特許権147回
侵害141回
損害賠償33回
無効26回
実施15回
進歩性12回
間接侵害9回
抵触5回
分割4回
許諾2回
優先権2回
職務発明2回
無効審判1回
差止1回
主文 1 被告P1及び被告P2は,原告に対し,連帯して,1億0
129万1485円及びこれに対する令和元年7月9日から
2 被告P3及び被告P4は,原告に対し,連帯して,746万
8027円及びこれに対する令和元年7月7日から支払済みま
3 被告P3は,原告に対し,326万8238円及びこれに対
4 訴訟費用は,これを100分し,その7を被告P3及び被告
5 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行すること
事件の概要 1 本件は,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする2件の特許(特 許第4659980号及び特許第4912492号。以下,前者を「本件特許1」, 後者を「本件特許2」,併せて「本件各特許」といい,本件特許1に係る特許権を 「本件特許権1」,本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」,併せて「本件各10 特許権」という。また,本件特許1に係る特許請求の範囲請求項1,7~9記載の 発明をそれぞれ「本件発明1-1」,「本件発明1-7」などといい,本件特許2 に係る特許請求の範囲請求項1,7記載の発明を「本件発明2-1」などといい, これらの発明を併せて「本件各発明」という。)の特許権者であった原告が,別紙 被告製品目録記載の各製品(以下,各製品を順に「被告製品1」などという。また,15 これらを併せて「各被告製品」という。)の製造販売等を行った訴外2社の代表取 締役,取締役であった被告らに対し,本件各特許権が侵害され損害を受けたとして, 主位的に,被告ら全員に対し,会社法429条1項に基づく損害賠償及び訴状送達 による催告の後の遅延損害金の支払を求め,予備的に,代表取締役であった被告P

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判決文

令 和 3 年9月28日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官

令 和 元年 (ワ)第54 44 号 損害賠償 請求事件

口 頭 弁 論終結の日 令和3年7月27 日

判 決

原告 株式会社メディオン・リサーチ・ラボラトリーズ

同訴訟代理人弁護士 山 田 威一郎

同 松 本 響 子

同 柴 田 和 彦

同補佐人弁理士 田 中 順 也

同訴訟代理人弁理士 水 谷 馨 也

同補佐人弁理士 迫 田 恭 子

被告 P1

被告 P2

上記2名訴訟代理人弁護士 髙 橋 淳

同訴訟復代理人弁護士 宮 川 利 彰

被告 P3

被告 P4

上記2名訴訟代理人弁護士 松 本 憲 男

主 文

1 被告P1及び被告P2は,原告に対し,連帯して,1億0

129万1485円及びこれに対する令和元年7月9日から

支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 被告P3及び被告P4は,原告に対し,連帯して,746万

8027円及びこれに対する令和元年 7月7日から支払済みま

5 で年5分の割合による金員を支払え。

3 被告P3は,原告に対し,326万8238円及びこれに対

する令和元年7月7日から支払済みまで年5分の割合による金

員を支払え。

4 訴訟費用は,これを100分し,その7を被告P3及び被告

P4の連帯負担,その3を被告 P3の負担,その余を被告P1

及び被告P2の連帯負担とする。

5 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行すること

ができる。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 主位的請求主文同旨2 予備的請求

(1) 被告P1は,原告に対し,1億0129万1485円及びうち23万7772円に対する平成23年1月31日から,うち90万0686円に対する平成26年12月25日から,うち1367万4508円に対する平成27年2月28日から,うち52万1381円に対する平成27年5月31日から,うち84万7960円に対する平成27年12月3日から,うち662万1308円に対する平成28年2月29日から,うち125万7616円に対する平成28年9月14日から,うち6671万7585円に対する平成28年12月16日から,うち819万2802円に対する平成28年12月31日から,うち142万3288円に対する平成29年3月17日から,うち89万6579円に対する平成29年5月16日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2) 被告P3は,原告に対し,1073万6265円及びうち746万8027円に対する平成26年12月1日から,うち326万8238円に対する平成2

5 9年1月31日から,各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は,発明の名称を「二酸化炭素含有粘性組成物」とする2件の特許(特許第4659980号及び特許第4912492号。以下,前者を「本件特許1」,後者を「本件特許2」,併せて「本件各特許」といい,本件特許1に係る特許権を「本件特許権1」,本件特許2に係る特許権を「本件特許権2」,併せて「本件各特許権」という。また,本件特許1に係る特許請求の範囲請求項1,7~9記載の発明をそれぞれ「本件発明1-1」,「本件発明1-7」などといい,本件特許2に係る特許請求の範囲請求項1,7記載の発明を「本件発明2-1」などといい,これらの発明を併せて「本件各発明」という。)の特許権者であった原告が,別紙被告製品目録記載の各製品(以下,各製品を順に「被告製品1」などという。また,これらを併せて「各被告製品」という。)の製造販売等を行った訴外2社の代表取締役,取締役であった被告らに対し,本件各特許権が侵害され損害を受けたとして,主位的に,被告ら全員に対し,会社法429条1項に基づく損害賠償及び訴状送達による催告の後の遅延損害金の支払を求め,予備的に,代表取締役であった被告P1及び被告P3に対し,民法709条に基づく損害賠償及び各売上後の遅延損害金の支払を求めた事案である。2 前提事実(証拠を掲げていない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)

(1) 当事者ア 原告は,医薬品,化粧品等の研究,開発,製造,販売等を業とする株式会社である。イ 被告P1は,平成13年5月22日からネオケミア株式会社(以下「ネオケミア」という。)の代表取締役であった者である。被告P2は,平成13年5月22日から平成28年6月17日までネオケミアの取締役であった者である。

5 被告P3は,平成23年11月18日から平成30年7月11日までクリアノワール株式会社(以下「クリアノワール」という。)の代表取締役であった者である。被告P4は,平成23年11月18日から平成26年11月30日までクリアノワールの取締役であった者である。

(2) 本件特許権ア 原告は,以下の特許権(本件特許権1)を有していた(以下,本件特許1の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書1」という。)。本件明細書1の記載は,別紙「特許公報」(甲2)のとおりである。特許番号 特許第4659980号発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物出願日 平成10年10月5日登録日 平成23年1月7日優先権主張番号 特願平9-305151優先日 平成9年11月7日特許請求の範囲 別紙「特許公報」(甲2)の特許請求の範囲請求項1,7~9記載のとおりイ 原告は,以下の特許権(本件特許権2)を有していた(以下,本件特許2の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書2」という。)。本件明細書2の記載は,別紙「特許公報」(甲4)のとおりである。特許番号 特許第4912492号発明の名称 二酸化炭素含有粘性組成物出願日 平成22年9月6日登録日 平成24年1月27日分割の表示 特願2000-520135の分割原出願日 平成10年10月5日優先権主張番号 特願平9-305151

5 優先日 平成9年11月7日特許請求の範囲 別紙「特許公報」(甲4)の特許請求の範囲請求項1,7記載のとおり

(3) 構成要件の分説ア 本件発明1-1を構成要件に分説すると,以下のとおりである。1-1A 部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治療用医薬組成物として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,1-1B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合せ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり,1-1C 含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,1-1D 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。イ 本件発明1-7を構成要件に分説すると,以下のとおりである。1-7A 請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化炭素含有粘性組成物を含む1-7B 部分肥満改善用化粧料。ウ 本件発明1-8を構成要件に分説すると,以下のとおりである。1-8A 顔,脚,腕,腹部,脇腹,背中,首,又は顎の部分肥満改善用である,1-8B 請求項7に記載の化粧料。エ 本件発明1-9を構成要件に分説すると,以下のとおりである。1-9A 部分肥満改善用化粧料,或いは水虫,アトピー性皮膚炎又は褥創の治

5 療用医薬組成物として利用される二酸化炭素含有粘性組成物を調製する方法であって,1-9B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物;を用いて,含水性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する二酸化炭素含有粘性組成物を調製する工程を含み,1-9C 含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものである,1-9D 二酸化炭素含有粘性組成物の調製方法。オ 本件発明2-1を構成要件に分説すると,以下のとおりである。2-1A 医薬組成物又は化粧料として使用される二酸化炭素含有粘性組成物を得るためのキットであって,2-1B 1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,2-1C 含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,2-1D 含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。カ 本件発明2-7を構成要件に分説すると,以下のとおりである。2-7A 請求項1~5のいずれかに記載のキットから得ることができる二酸化

5 炭素含有粘性組成物を含む2-7B 化粧料。

(4) 各被告製品についてア 各被告製品の販売ネオケミアは,被告製品1,3,4,8及び14を製造販売し,被告製品2,5~7,9~13,15~17の顆粒剤を製造販売していた。クリアノワールは,被告製品14をネオケミアから購入して販売していた。イ 各被告製品の成分各被告製品は,いずれもジェル剤と顆粒剤がセットで販売されており,顆粒剤の配合成分はいずれも,乳糖,リンゴ酸,バレイショデンプン,デキストリンであり,ジェル剤には,いずれも配合成分として,水,アルギン酸ナトリウム,炭酸水素ナトリウムが含まれている。ウ 各被告製品の構成各被告製品の構成は以下のとおりである。a 部分痩せ効果を有するジェル状化粧料として使用される二酸化炭素を含有するジェルを得るためのキットであって,b 炭酸水素ナトリウム及びアルギン酸ナトリウムを含有するジェル剤と,リンゴ酸を含む顆粒剤の組み合わせからなり,c ジェル剤と顆粒剤を混ぜ合わせたジェルが,二酸化炭素を気泡状で保持できる,d ジェル剤の中で炭酸塩とリンゴ酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有するジェルを得ることができるキット。エ 各被告製品の効果各被告製品は,ジェル剤と顆粒剤を混ぜ合わせて肌に塗布することで,脂肪の代謝を活性化させ,顔痩せ,小顔,リフトアップといった部分痩せ効果を奏する製品である。各被告製品のパンフレットやインターネット上での宣伝,広告でも部分痩

5 せ効果を強調した宣伝広告が行われていた。

(5) 被告らの行為ア ネオケミアは,別紙「ネオケミアの売上の推移」のとおり,平成23年1月13日から平成29年3月2日までの間,各被告製品 及びその顆粒剤を販売した(甲45~57。なお,平成22年12月6日の被告製品6の売上は,本件各特許の登録前のものである。)。被告P1は,ネオケミアの代表取締役として,ネオケミアの事業の執行の全般に関与し,被告製品1を開発し,被告製品1,3,4,8及び14の製造販売及びその余の被告製品の顆粒剤の販売に係る意思決定をした。イ クリアノワールは,別紙「ダイヤモンドスキンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」のとおり,平成25年7月25日から平成29年1月31日までの間,被告製品14を販売した。被告P3は,クリアノワールの代表取締役として,琉球粘土を用いた被告製品14の開発を着想し,被告P1に依頼して被告製品14を完成させ,被告製品14の販売に係る意思決定をした。

(6) 別件訴訟(甲5,6)原告は,平成27年5月1日,ネオケミア及びクリアノワール(以下「訴外2社」という。)を含む総計11社を被告として,各社の製品の製造販売が本件各特許権の侵害行為に当たるとして,特許権侵害の不法行為に基づき損害賠償等を求める訴え(大阪地方裁判所平成27年(ワ)第4292号。以下「別件訴訟」という。)を提起した。別件訴訟において,大阪地方裁判所は,平成30年6月28日,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円,並びにうち23万7772円に対する平成23年1月31日から,うち90万0686円に対する平成26年12月25日から,うち1367万4508円に対する平成27年2月28日から,うち52万1381円に対する同年5月31日から,うち84万7960円に対する同年12月3日

5 から,うち662万1308円に対する平成28年2月29日から,うち125万7616円に対する同年9月14日から,うち7650万3995円に対する同年12月16日から,うち819万2802円に対する同月31日から,うち142万3288円に対する平成29年3月17日から,及びうち89万6579円に対する同年5月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を原告に支払うよう命じ,クリアノワールに対し,金1223万6265円及びこれに対する平成29年1月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を原告に支払うよう命じることなどを内容とする判決(以下「別件判決」という。)を言い渡した(なお,別件判決の認容した損害額には,被告製品6の販売に係るものも含まれていた。)。訴外2社を含む7社は,同判決に対して控訴したが,知的財産高等裁判所は,令和元年6月7日,控訴を棄却する判決をし,別件判決は確定した。

(7) 本件訴訟に至る経緯(甲58の1)原告は,平成30年8月15日,被告製品8の製造販売に係る損害賠償金のうち500万円について,ネオケミアの売買代金債権の差押命令及び転付命令を受けた。原告は,別件判決後,被告製品8の製造販売に係る損害賠償金についてした債権仮差押えに対してネオケミアが供託した供託金200万円及び被告製品14の製造販売に係る損害賠償金についてした債権仮差押えに対してクリアノワールが供託した供託金150万円を差押え,回収した。ネオケミアは,令和2年12月7日,破産手続開始決定を受けた。3 争点

(1) 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)

(2) 褥瘡治療マニュアル(乙1)に基づく進歩性欠如の有無(争点2)

(3) 被告らの悪意重過失の有無(争点3)

(4) 原告の損害額(争点4)

(5) 被告P1及び被告P3を主体とする不法行為の成否(争点5)

(6) 権利濫用の成否(争点6)

5 4 当事者の主張

(1) 本件各発明の技術的範囲への属否(争点1)について(原告の主張)ア 各被告製品は,本件発明1-1の構成要件1-1A~1-1D をいずれも充足し,各被告製品は,いずれも本件発明1-1の技術的範囲に属する。イ 各被告製品は,2剤を混ぜ合わせて化粧料を製造する以外の用途は考えられず,また,2剤のキットが本件発明1-7の課題解決のために不可欠なものであることは明らかである。また,各被告製品は,部分痩せ効果を有することを積極的に宣伝して販売されており,「部分肥満用化粧料」を生成するために使用されることは当然に認識されていた。したがって,各被告製品の製造販売は,本件発明1-7の間接侵害行為(特許法101条1号又は2号)に当たる。ウ 各被告製品は,ジェル剤と顆粒剤のキットとして販売されているものであるが,両剤を混ぜ合わせて生成される化粧料は,主に顔の部分肥満改善用に使用されていた。したがって,各被告製品の製造販売は,本件発明1-8の間接侵害行為(特許法101条1号又は2号)に当たる。エ 各被告製品は,2剤を混ぜ合わせて化粧料を製造する以外の用途は考えられず,また,2剤のキットが本件発明1-9の課題解決のために不可欠なものであることは明らかである。また,各被告製品は,部分痩せ効果を有することを積極的に宣伝して販売されており,「部分肥満用化粧料」を生成するために使用されることが当然に認識されていた。したがって,各被告製品の製造販売は,本件発明1-9の間接侵害行為(特許法101条1号又は2号)に当たる。オ 各被告製品は,本件発明2-1の構成要件2-1A~2-1D をいずれも充足し,いずれも本件発明2-1の技術的範囲に属する。

5 カ 各被告製品は,2剤を混ぜ合わせて化粧料を製造する以外の用途は考えられず,また,2剤のキットが本件発明2-7の課題解決のために不可欠なものであることは明らかである。また,各被告製品が「化粧料」を生成するために使用されることは当然に認識されていた。したがって,各被告製品の製造販売は,本件発明2-7の間接侵害行為(特許法101条1号又は2号)に当たる。(被告P1及び被告P2の主張)争う。(被告P3及び被告P4の主張)不知。

(2) 褥瘡治療マニュアル(乙1)に基づく進歩性欠如の有無(争点2)について(被告らの主張)ア 褥瘡治療マニュアル記載の発明の構成福井基成著「エキスパートナース MOOK 16 最新!褥瘡治療マニュアル創面の色に着目した治療法」平成5年12月10日発行(乙1。以下「乙1文献」という。)の記載によれば,乙1文献には以下の発明(以下「乙1発明」という。)が記載されている。(ア) 褥瘡治療のために(イ) 炭酸塩及び酸を含む固形物を砕いたものとお湯からなり,(ウ) 複合剤をお湯に溶かし水中で炭酸塩と酸を反応させることにより二酸化炭素を発生させる治療法。イ 本件各発明と乙1発明との対比本件各発明と乙1発明とを対比すると,「炭酸塩及び酸を含む」点 が共通し,「含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」が「複合剤をお

5 湯に溶かし水中で炭酸塩と酸を反応させることにより二酸化炭素を発生させる」に,「褥瘡の治療用医薬組成物」が「褥瘡治療のために,炭酸塩と酸を含む固形物を砕いたものをお湯に溶かしたもの」にそれぞれ相当する。ウ 相違点(ア) 相違点1本件各発明においては,複合顆粒を「アルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物中」で炭酸塩と酸を反応させるため,「含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする」のに対し,乙1発明においては,「水中」で反応させる点。(イ) 相違点2本件各発明においては,炭酸塩及び酸を含む「複合顆粒(細粒,粉末)剤」が用いられるのに対し,乙1発明においては,炭酸塩及び酸を含む固形物を砕いたもの」が用いられる点。エ 相違点の容易想到性(ア) 相違点1について二酸化炭素が空気中に拡散せず,患部に長く接した方が皮膚における二酸化炭素の吸収効率を高め,褥瘡やかゆみなどの治療効果が高くなることは周知であるから,乙1発明に当接した当業者は,乙1発明の課題として二酸化炭素が空中に拡散するため効率が悪いことを認識でき,二酸化炭素を空中に拡散させない方法を模索する動機付けがある。本件各発明の発明者であるP5は,本件各発明を着想したきっかけとして乙1文献を挙げ,二酸化炭素がもったいないと感じ,ジェルであれば炭酸ガスを封じ込めることができるのではないかと着想したと述べており,単なる医師であり化粧品の研究開発の実績もないP5が当該着想を得たという経緯からすれば,他のいずれの当業者であっても極めて容易にたどり得たものにすぎないといえる。「生活の界面科学」(乙4。以下「乙4文献」という。)や「化粧品における水

5 溶性高分子の利用」(乙5。以下「乙5文献」という。)に記載されているように,一般に,気泡膜を形成する媒質の粘性が増大すると気泡の安定性を高め,気泡の寿命を高めることが古くから知られていた。特開平 9-206001 号公報(乙6。以下「乙6公報」という。)には,増粘多糖類(増粘剤)を溶液化して用途のために適度な粘性を帯びるよう調整し,これに発泡成分を添加することにより,増粘多糖類溶液の中で発泡成分が徐々に発泡を開始し,増粘多糖類溶液が防御壁となって,発泡成分の気泡を外へ逃散させることなく止め,その結果,炭酸ガスの気泡が十分に発生し,しかも増粘多糖類溶液内に確実に内包される技術が記載されている。アルギン酸ナトリウムは,海藻由来の増粘剤であり,化粧品及び食品を含む幅広い産業分野において有用性がある増粘剤として利用されており,水に溶解するが,時間がかかるため,事前に水に溶解させることが望ましいことが古くから知られていた。また,アルギン酸ナトリウムは,局所止血及び創傷治療効果のある「アルロイド」という商品名のアルギン酸ナトリウム水溶液として古くから慣用されており,安全であることが周知であって,床擦れ治療においてもよく知られた材料であった。以上から,褥瘡治療目的で,二酸化炭素を閉じ込める含水粘性組成物の材料としてアルギン酸ナトリウムを用いることは,乙1文献に接した当業者にとって容易であり,乙1発明において,水をアルギン酸ナトリウムを含む含水粘性組成物(ジェル)に置き換えることにより相違点1を克服することは,当業者にとって容易である。原告は,湯を使用しなければ湯による温熱作用が失われ,阻害要因があると主張するが,乙1発明における炭酸ガスによる血行促進作用と湯による血行促進作用は別個独立のものであり,湯を用いずとも乙1発明の炭酸ガスによる血行促進作用が得られることは当業者において明らかである。また,乙1発明に水に代えて気泡状の二酸化炭素を保持させる含水粘性組成物を適用するに当たっては,バケツや洗面器に大量の粘性組成物を用意する必要はなく,少量を直接皮膚に塗布すればよいこ

5 とも,当業者に認識可能な事項であるから,これらの点は阻害要因とはならない。(イ) 相違点2について乙1発明において,剤形は粉末・顆粒とはなっていないものの,バブを割って小さくして使用している。これは,溶解に時間を要するのを防ぐためである。一般にも,経皮吸収を目的とする化粧品の場合には,反応速度を調整するために,徐放化技術が慣用されている。含水粘性組成物中で二酸化炭素を発生させるためには,水中で発生させる場合に比べて,炭酸塩と酸を含む固形物をより小さくしなければ反応が遅すぎることになると思われるところ,これを改善するために,バブのような固形物をさらに細かくして公知の剤形である粉末ないし顆粒状とすることは,当業者にとっては自明のことであり,剤形について粉末ないし顆粒状を選択することは設計事項というべきである。よって,当業者にとって,相違点2を克服することは容易である。(原告の主張)ア 乙1発明の構成乙1発明の構成は以下のとおりである。(ア) 褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物を得るための剤であって,(イ) 炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤であり,前記組成物は,前記入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物である,剤。イ 本件各発明と乙1発明の対比本件各発明と乙1発明を対比すると,乙1発明の「炭酸水素ナトリウム」,「炭酸ガス」は,それぞれ本件各発明の「炭酸塩」,「二酸化炭素」に相当する。また,乙1発明の「褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物」は,本件各発明の「医薬組成物」に相当する。さらに,乙1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」は,

5 本件各発明の「二酸化炭素含有組成物」である限りにおいて一致する。そして,乙1発明の「炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである」「剤」と,本件各発明(本件発明1-9を除く)の「炭酸塩」を含む「二酸化炭素含有」「組成物を得るためのキット」とは,「炭酸塩」を含むものであり,「二酸化炭素含有組成物を得るためのキット」である限りにおいて一致する。ウ 相違点(ア) 相違点1「二酸化炭素含有組成物」が,本件各発明においては,「粘性」を有するものであるのに対し,乙1発明においては,「入浴剤バブを割った剤を湯に溶かした組成物」であり,粘性の特定がない点。(イ) 相違点2「炭酸塩」を含むものが,本件発明1-1,1-7,1-8においては,「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含む顆粒(細粒,粉末)剤の組み合せ;又は2)炭酸塩及び酸を含む複合顆粒(細粒,粉末)剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせからなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット」であり,本件発明2-1,2-7においては,「1)炭酸塩及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,酸を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;2)酸及びアルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物と,炭酸塩を含有する顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤の組み合わせ;又は3)炭酸塩と酸を含有する複合顆粒剤,細粒剤,又は粉末剤と,アルギン酸ナトリウムを含有する含水粘性組成物の組み合わせ;からなり,含水粘性組成物が,二酸化炭素を気泡状で保持できるものであることを特徴とする,含水粘性組成物中で炭酸塩と酸を反応させることにより気泡状の

5 二酸化炭素を含有する前記二酸化炭素含有粘性組成物を得ることができるキット。」であるのに対し,乙1発明においては,「炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤」である点。エ 相違点の克服困難性(ア) 相違点1本件明細書1及び2には,「本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。」(本件明細書2【0017】),及び,「本発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素粘性組成物が形成される組合せであれば,これらの組合せに限定されるものではない。」(本件明細書2【0032】)と記載されていることからすれば,含水粘性組成物と二酸化炭素含有粘性組成物とは,いずれも,粘性を有することにより二酸化炭素を気泡状で保持できるものといえる。そうすると,相違点1に係る本件各発明の二酸化炭素含有粘性組成物における「粘性」とは,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を意味すると解される。また,乙1文献は,人口炭酸泉浴剤を湯に溶かした「バブ浴」を用いた褥瘡の治療又は予防に関する文献であり,古くから知られる炭酸泉の効果である炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善効果(血行改善効果)と,湯の温熱作用による血行改善効果の両方を含む「温泉の効果」を応用するものと解される。乙1発明が組成物中に含まれる炭酸ガスの血行改善効果と,湯の温熱作用による血行改善効果を利用して,褥瘡の治療又は予防を図ろうとするものであることを踏まえると,乙1発明の組成物中には,当然,血行改善効果が期待できる程度で炭酸ガスが存在していると考えるのが相当である。そうしてみると,乙1発明において,組成物中の炭酸ガス濃度が褥瘡の治療又は予防に不十分であり,炭酸ガスを極力保持する必要があるとの課題が認識できると

5 はいえず,二酸化炭素が空気中に拡散するために効率が悪いと認識するともいえないし,入浴剤バブを溶かした湯自体に,炭酸ガスを保持するための手段を採用することや,乙1発明の組成物において,炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題があることを認めるに足りる記載のある文献はないから,乙1発明の組成物において,炭酸ガスを保持するための手段を採用するという課題が認識できるとはいえず,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することは当業者が容易に想到することができるものではない。さらに,乙1発明の組成物に,二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与すれば,足浴や温湿布とするに当たり使用感が大きく変化してしまい,人工炭酸泉であるバブ浴の概念とかけ離れたものとなることは明らかであり,乙1発明の組成物に二酸化炭素を気泡状で保持できる程度の粘性を付与することには阻害要因がある。(イ) 相違点2相違点2は,相違点1の「二酸化炭素含有組成物」を「粘性」を有するものとするための具体的な組成に関するものであるから,乙1発明において,相違点1に係る本件各発明の発明特定事項を採用することを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上,相違点2に係る本件各発明の発明特定事項を採用することも,当業者が容易に想到することができたとはいえない。

(3) 悪意重過失の有無(争点3)について(原告の主張)ア 被告P1(ア) 被告P1は,ネオケミアの代表取締役として,本件各特許権の侵害品である各被告製品の開発及び完成品又は顆粒剤の製造販売を主導した。被告P1は,本件各発明の発明者の一人であり,特許出願に関する特許事務所とのやり取りも担当しており,本件各特許の出願内容を熟知していた。また,被告P1は,本件各特許が成立した後,間もなくその内容を知った。遅くとも,原告がネ

5 オケミアに対して送付した被告製品1が本件特許権1を侵害することを指摘する通告書にネオケミアが平成23年2月14日付けで回答した時点までには,被告P1は本件特許1の内容を確認し,原告が被告製品5等の製造元に対して送付した被告製品5等が本件特許権2を侵害することを指摘する通告書にネオケミアが平成24年2月10日付けで回答した時点までには,被告P1は本件特許2の内容を確認していた。被告P1は,ネオケミアの代表取締役として,最終決定権を持っており,少なくとも,本件各特許の成立後,各被告製品の完成品及び顆粒剤の製造販売を中止すべきであったが,これをせず,漫然と特許権侵害行為を継続した。かかる行為は,ネオケミアの取締役として職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく違法な業務の執行をしたと評価できるものであり,取締役としての任務懈怠に当たる。被告P1は,本件各発明の発明者の一人として内容を熟知しており,仮に特許法の専門家に助言を求めていたとしても,特許権侵害について疑義がある状態にもかかわらず,積極的に販売を継続することは,違法行為を行わないという取締役の注意義務に著しく反するものであり,重過失がある。また,原告は,各被告製品と同様の成分からなる炭酸ジェルパックを販売していた会社等を被告として本件特許権1に基づく訴訟を提起し,当該製品が特許権侵害に当たるとの判決を受けたところ,被告P1もこの判決を把握していたから,各被告製品の製造販売行為が本件各特許権の侵害にならないと信じていたとは信じがたく,仮に誤信していたとすれば明らかな判断ミスである。また,取締役が自ら違法行為をした場合においては,当該取締役に違法行為に関与したことを理由として悪意又は重過失が認められるべきであるから,自ら特許権侵害行為を遂行した被告P1には悪意又は重過失が認められる。(イ) 被告P1が青山特許事務所から得た鑑定書は,原告がネオケミアらを被告とする訴訟を提起する直前に作成されたものであり,クリアノワール等の取引先への説明のために,非侵害との結論ありきで作成されたものである。

5 ネオケミアは,平成24年5月ころには,被告P1以外の者が発明に関与した冒認出願の可能性のみ言及しており,技術的範囲の属否に関しては具体的な主張をしていなかった。被告P1は,原告設立前に発明を完了していたので,職務発明とはいえず,原告に特許を受ける権利が帰属しないとの認識を有していたと主張するが,被告P1は,本件各特許の出願当時,原告の代表取締役であり,特許事務所とのやり取りも被告P1がしていたから,特許を受ける権利の譲渡がされていたことは明らかである。原告とネオケミアとの間の訴訟において,冒認出願の主張は,控訴審に入ってからされたものであり,被告P1も,北浜法律事務所の岡田弁護士に相談した際に,冒認出願の無効理由が認められる可能性は低いと認識していた。被告P1は,各被告製品が二酸化炭素の気泡が経皮吸収される製品ではないことを根拠に,各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属さないと判断した旨主張するが,二酸化炭素の気泡が経皮吸収されるか否かは本件各発明の技術的範囲の解釈には無関係な事項であり,不合理な判断である。被告P1は,平成23年2月に岡田弁護士に相談したというが,岡田弁護士の見解は,本件各発明の進歩性に関するものであり,岡田弁護士も被告P1の見解に合理性を見出しておらず,被告P1にその旨説明していた可能性が高い。被告P1は,特許が取得できた技術を使用していれば,他社の特許権の侵害にはならないと誤解していたとして,ネオケミアの特許出願に関して特許査定を受けたことを根拠に,その実施品である各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属さないとの判断をしたと述べているが,特許制度の基本的な部分に関して根本的な誤解をしていたものであり,重過失に当たる。被告P1は,岡田弁護士から本件各発明に進歩性が認められないとの意見を聞いたと述べるが,具体的な根拠が明らかではなく,鑑定書等の資料もなく,当時の原告との交渉においても進歩性欠如の主張をしていなかったから,少なくともその時点においては,被告P1と岡田弁護士は進歩性について何ら具体的な議論をしてい

5 なかったというべきである。イ 被告P2被告P2は,ネオケミアの取締役であったから,取締役として各被告製品の完成品及び顆粒剤の製造販売を中止させるべきであったのに,これをせず,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく違法な業務の執行をした。また,被告P2は,ネオケミアの取締役として代表取締役が行う業務執行一般につきこれを監視し,必要があれば取締役会を通じて代表取締役による業務執行が適正に行われるように監視する義務を負うところ,各被告製品の完成品又は顆粒剤の製造販売を漫然と継続させていたから,取締役としての任務懈怠に当たる。被告P2は,取締役にもかかわらずその経営に全く関与することなく各被告製品の完成品又は顆粒剤の製造販売を漫然と継続させ,他の取締役の特許権侵害行為を継続させていたから,重過失がある。ウ 被告P3(ア) 被告P3は,クリアノワールの代表取締役として被告製品14の開発,販売を主導した。被告P3は,原告が平成25年7月18日付けでクリアノワールに対して送付した被告製品14が本件各特許権を侵害する旨を指摘する通告書を受け取り,同月25日付けでネオケミアから原告に回答書が送付されてきたのであるから,遅くとも当該通告書を受け取った時点で本件各特許の内容を把握したことになる。被告P3は,クリアノワールの代表取締役として,最終決定権を持っており,特許権侵害品の販売を避けることが可能であったにもかかわらず,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく違法な業務の執行をしていたのであり,取締役としての任務懈怠に当たる。被告P3は,自身で調査を行ったわけではなく,ただ取引先の一方的な主張を信じただけであるから,重過失がある。また,原告からの警告書に加えて,被告製品14と同様の成分からなる炭酸ジェ

5 ルパックについて,本件特許1の特許権侵害に当たるとの判決があることを知っていたのであり,被告製品14について極めて高度な特許権侵害のおそれが認められる状況にあったことが容易に認識できた。それにもかかわらず,原告からの警告書を私人である弁護士の警告にすぎないとして漫然と被告製品14の販売を継続した被告P3の判断には重過失がある。(イ) 被告P3が被告P1から見せてもらったという鑑定書は,原告からネオケミアらを被告とする訴訟提起の直前に作成されたものであり,それ以前の侵害行為の重過失を否定する根拠にならない。また,被告P1は,万一裁判になった場合や裁判で負けた場合は裁判費用や賠償金を負担すると言っていたのであり,被告P3は,鑑定書が取引先への説明のために非侵害との結論ありきで作成されたものであることを容易に理解できたはずである。被告P3は,本件各特許の公報の内容を確認することすらしておらず,本件各特許の権利範囲がどうなっているのかに関しても全く理解しておらず,単なる感覚のみで非侵害と判断したのであり,正当化することはできない。被告P3は,自ら弁理士に相談したと本人尋問において供述するが,それまで一切主張しておらず,特許権侵害の成否について具体的に検討,確認したものではなく,具体的な見解を得たとは考えられない。また,被告P3は,ネオケミアの弁護士等から,訴訟に勝てる旨の説明を受けたとするが,被告P3はその説明内容を理解できていないのであるから,感覚や雰囲気のみで非侵害と判断したといえる。被告P3は,被告製品14を販売するに際し,ネオケミアの特許発明を実施しており,ネオケミアに特許料を支払っているから原告の特許権を侵害することはないと認識していたと述べるが,原告の警告書を受け取った後は,被告製品14の販売行為が原告の特許権を侵害する可能性があると認識できたのであり,重過失に当たる。エ 被告P4被告P4は,クリアノワールの取締役であったから,取締役として被告製品14

5 の販売を中止させるべきであったのに,これをせず,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく違法な業務の執行をしていた。また,被告P4は,クリアノワールの取締役として代表取締役が行う業務執行一般につきこれを監視し,必要があれば取締役会を通じて代表取締役による業務執行が適正に行われるように監視する義務を負うところ,被告製品14の販売を漫然と継続させていたから,取締役としての任務懈怠に当たる。被告P4は,取締役にもかかわらずその経営に全く関与することなく被告製品14の販売を漫然と継続させ,他の取締役の特許権侵害行為を継続させていたから,重過失がある。(被告P1及び被告P2の主張)会社法429条1項に基づく損害賠償請求には,取締役としての職務遂行について重過失があったことが求められている以上,対象商品が特許発明の技術的範囲に属しないか,又は特許に無効理由があると信じたことについての相当な理由は,会社による特許権侵害の場合の過失の有無を検討する際よりも,より広く認められるべきものである。直接損害事例における役員の会社に対する任務懈怠行為は,実質的には第三者に対する不法行為と異なるところはなく,取締役に課せられている義務は同一のものであり,取締役の責任を広く認めることには,経営判断を委縮させる問題を生じさせる弊害があるから,取締役の対会社責任の場面と同様に経営判断原則が考慮されるべきであり,少なくとも直接損害事例においては,会社法429条1項は民法709条から軽過失を排除し,取締役の第三者責任の範囲を限定する趣旨の規定であると解すべきである。特許権侵害の成否については,弁護士及び弁理士といった専門家の間でも結論が分かれることが珍しくなく,ある製品の製造・販売が他人の特許権を侵害するか否かにつき正確な判断を下すことは,非専門家からすれば極めて困難であるから,特許侵害の有無について取締役として求められる調査義務を尽くし,妥当な根拠に基

5 づいた合理的な判断をしていた場合には,「相当な理由」があったものと認められるべきである。すなわち,取締役が,特許権侵害である旨の警告書を受領した上で,被疑侵害物件の製造販売を継続した場合であっても,同警告書の受領後,専門家に相談する等の方法により,取締役において当該特許権侵害の成否を積極的に確認していた場合には,当該製造販売行為は任務懈怠に当たらないと考えるべきである。ア 被告P1(ア) 被告P1は,ネオケミア製品に用いられている技術は,原告 の特許技術と全く異なるものであると認識していた。被告P1は,ネオケミアで製品を製造販売するに当たり,特許権を取得することとし,これが原告の特許権の侵害に当たるか否かについて,兵庫県の工業試験センターの相談会に赴き,同相談会において,元特許庁審査官の弁理士から,非侵害であり問題なく事業にて実施できる旨を伝えられた。ネオケミアが平成14年に原告から最初に警告文を受領した際,被告P1は,畑中弁護士に相談し,事情を説明したところ,同弁護士より,原告の特許権は冒認出願によるものであり,無効であるとの説明を受け,その旨,原告に回答した。平成14年の警告文から平成23年までの9年間,ネオケミアは引き続き炭酸ガスパック製品の製造販売を継続し,業界で有名な企業となったにもかかわらず,原告からネオケミアに対して特許権侵害の通知等はなかった。ネオケミアが平成23年に原告から警告文を再度受領した際,被告P1は,北浜法律事務所の中森亘弁護士及び岡田徹弁護士に相談し,特許権紛争に精通していると聞いた岡田弁護士から,原告の特許発明はその作用効果を奏さないものであり進歩性を欠くとの説明を受けた。被告P1は,本件特許1の審査過程で原告が科学的に誤った内容の意見書を提出し,特許庁がそれを否定せずに特許査定に至ったことから,本件各特許は無効であると確信していた。なお,被告P1は,岡田弁護士から,被告P1自身が発明者である本件各特許について,冒認出願を主張することは問題であろうとの見解を得た。

5 原告が平成27年1月から2月にかけてネオケミアの取引先に最終警告文を送付した後,被告P1は,当該取引先に対し,ネオケミアの製品が原告の特許権を侵害しない旨説明し,取引先が損害を被った際には,ネオケミアにおいて補償する旨を約束した。その頃,被告P1は,青山特許事務所にネオケミアの製品が原告の特許権を侵害していないかを確認し,非侵害である旨の内容の鑑定書を取得した。原告が平成27年5月1日,ネオケミアを被告として特許権侵害差止請求訴訟を提起した際,被告P1は,岡田弁護士から,原告の特許権の気泡状の二酸化炭素の発生について技術的意義がないことから,ネオケミアが勝訴する見込みである旨の説明を受けた。(イ) 本件各特許は,いずれも気泡状の二酸化炭素を発生させることを構成要件とし,かつ,二酸化炭素を気泡状で保持することによって,気泡状の二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給することを作用効果としているから,各被告製品が二酸化炭素の気泡が経皮吸収されるものでなければ,本件各発明の技術思想と異なると考えるのはごく自然なことである。中森弁護士と岡田弁護士は,遅くとも訴訟段階において,各被告製品が本件各発明と技術的範囲を異にする旨を第一に主張しており,非侵害の主張により訴訟は十分戦えるとの強気の見込みを有していた。被告P1は,研究者として複数の特許発明に携わったが,実際に出願手続を行うのは弁理士であり,特許権の専門家でもなければ,そのまま実施すれば他人の特許権を侵害することになる技術に対して特許権が別途与えられることはないと誤解することは不自然ではない。本件各特許には,鐘紡株式会社の従業員であったP6氏及びP7氏を真の共同発明者とする冒認出願の無効理由の疑いも存在しており,北浜法律事務所の弁護士は証拠不十分を理由として冒認出願の主張をあきらめたが,被告P1が明確に誤りと認識していたわけではない。岡田弁護士が平成24年の原告との交渉において本件各特許の進歩性欠如の無効

5 理由を主張しなかったとすれば,それは,双方が互いの特許をつぶしあうことをあえて控えていたためであり,進歩性がないとの判断をしていなかったわけではない。平成25年に,株式会社 KBC が販売する各被告製品と類似する製品について,本件特許権1の技術的範囲に属する旨の判決があり,当該判決理由中でネオケミアの製品が本件特許権1の技術的範囲に属すると判断されたとしても,あくまでネオケミアは当事者ではなく,理由も簡略な記載であったから,被告P1が各被告製品が本件各特許権を侵害することについての危険を具体的に把握できなくとも無理はない。イ 被告P2被告P2は,ネオケミア設立当初,取締役の人数を確保するために名目上の取締役として登記された者にすぎない。そのため,被告P2はネオケミアの業務に全く関与しておらず,報酬も一切得ておらず,本件各特許の存在すら知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害しているかについて判断する機会がなかった。また,被告P2は,ネオケミアの業務を指揮監督する実質的な権限を有さず,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,被告P2がそれを発見し,抑止することはできず,被告P2の行為と原告が被ったという損害との間に因果関係はなく,故意又は重過失もない。(被告P3及び被告P4の主張)ア 被告P3被告P3は,平成25年7月22日,原告からの平成25年7月18日付けの内容証明郵便による通告書を受領したため,被告P1に説明を求め,被告P1から,原告の特許とネオケミアの特許には,発生した炭酸ガスを気泡状で保持するか,ジェルの中に溶かして保持するかの違いがあり,効果も大きく異なるので,原告の特許権を侵害していないと説明を受けた。また,被告P3は,被告P1から,大手の信頼できる弁護士事務所や弁理士事務所の複数の弁護士や弁理士から,原告の特許権を侵害していないとの説明を受けており,鑑定書も出してもらったとの説明を受

5 け,万一裁判になって負けた場合は,弁護士費用や賠償金をネオケミアで負担すると言われた。さらに,被告P3は,クリアノワールの取引先の会社の顧問をしている沖縄の弁理士にも確認したところ,当該弁理士は自ら調査しただけでなく,東京の青山特許事務所に電話して話し合ったとのことであり,心配いらないと言われた。被告P3は,科学者ではなく,一人のエステティシャンに過ぎず,被告製品14が本件各特許の技術的範囲に属するか否かについては,全くわからないが,実際に使って比較して,原告の製品よりもネオケミアの製品の方が,明らかに品質も効能も使い勝手も良かったことから,良い製品の方が悪い製品の特許権を侵害することなどあり得ないと考えていた。被告P1は,炭酸ガスパックの生みの親であり,炭酸ガスパックに一番詳しい人間であり,当時,業界でも著名な人物であり,本件各特許の発明者であったから,被告P1の原告の特許権を侵害していないとの言葉は,誰よりも信頼に値する。被告P3に過失があるとすれば,一私人である弁護士から内容証明郵便による通告書が届いた場合,それを受け取った者は,すべからくその警告に従って製造や販売等の営業活動を全て停止しなければならなくなってしまうし,仮に通告書を発した弁護士の意見が間違っていた場合は,その損害が賠償されないので不当である。被告P3は,被告製品14を販売するに際してネオケミアの特許権について特許料を支払っていたのであり,被告P3からすれば,特許権を尊重し,特許法を遵守してきたにもかかわらず,原告から警告を受け,なぜ権利を侵害することになるのか,今まで支払ってきた特許料は何であったのか,理解できない,納得できないと考えるのが普通であって,通告書を受け取った立場として,真摯にできるだけの対応をしたから,過失がない。原告が訴外2社を提訴したのは平成27年5月1日であり,裁判所が特許権侵害の心証を開示したのは平成28年12月16日であり,1年7か月以上の期間が経過しているが,それだけ判断が難しい事案ということであり,素人である被告P3らが,侵害していないとの確信をすることは無理からぬことであり,過失はない。

5 イ 被告P4被告P4は,名目上の取締役に過ぎず,業務懈怠も悪意重過失もない。

(4) 原告の損害額(争点4)について(原告の主張)ア 特許法102条2項に基づき推定される損害額及び弁護士費用(ア) ネオケミアの各被告製品及びその顆粒剤の売上額は,別紙「ネオケミアの売上の推移」のとおりである。別件判決においては,当該売上から経費を差し引いてネオケミアの各被告製品及びその顆粒剤の販売による利益を認定し,特許法102条2項に基づき損害額を推定し,推定の覆滅を認めず,その1割に相当する額を弁護士費用として加算して,1億1107万7895円を損害と認めた。このうち,平成22年12月6日の被告製品6の売上は,本件各特許の登録前のものであるからこれを除く(売上額288万円-経費額34万6900円+弁護士費用25万3310円=278万6410円)と,ネオケミアの各被告製品及びその顆粒剤の販売による損害は,1億0829万1485円である。原告は,このうち,700万円を供託金及び売買代金債権の差押えにより回収又は転付命令を受けたから,これを控除した1億0129万1485円がネオケミアの行為に係る損害額となる。(イ) クリアノワールの被告製品14の売上額は,別紙「ダイヤモンドスキンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」記載のとおりである。別件判決においては,当該売上から経費を差し引いてクリアノワールの被告製品14の販売による利益を認定し,特許法102条2項に基づき損害額を推定し,推定の覆滅を認めず,その1割に相当する額を弁護士費用として加算して,1223万6265円を損害と認めた。原告は,このうち,150万円を供託金から回収したから,これを控除した1073万6265円がクリアノワールの行為に係る損害額となる。

5 また,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11月30日までの期間の被告製品14の売上額は1534万5107円であり,これに関して控除すべき経費である原料及び材料費,運送費の額は,597万4577円及び40万2503円であるから,当該期間の原告の損害額は896万8027円であり,回収した供託金150万円を控除した746万8027円が当該期間のクリアノワールの行為に係る損害額となる。イ 被告らの任務懈怠との因果関係被告らの任務懈怠に基づき,各被告製品が製造販売されたことによって,原告は自社製品の売上減少の損害を被ったのであり,かかる売上の減少は,訴外2社の特許権侵害行為に起因するものであるから,被告らの任務懈怠と,原告の損害には因果関係がある。また,当該損害の算定に関しては,特許法102条2項の規定を類推適用するのが相当である。(被告P1及び被告P2の主張)会社法429条1項に基づく会社役員の責任が民法709条に基づく一般不法行為責任と競合するものであり,不法行為責任とは別個の責任であるとすれば,特許法102条各項は,あくまで不法行為としての特許権侵害行為を理由とする損害賠償請求について立証の困難を軽減するために設けられた規定であり,不法行為としての特許権侵害行為を理由とする損害賠償請求の場面においてのみ適用されるべきであるから,会社法429条1項に基づく責任は不法行為責任ではないため,特許法102条各項を適用または類推適用すべきものではない。会社法429条1項に基づく役員の責任は,会社が第三者に与えた直接損害すべてではなく,当該役員の故意又は重過失による任務懈怠行為と因果関係を有する範囲にとどまるのであり,会社が第三者に特許権侵害により損害を与えた場合,同損害額と,その損害について会社法429条1項に基づき役員が責任を負うべき損害額が同一ではないのであるから,この点からも,会社法429条1項に基づく損害

5 賠償について,会社による損害と同様に特許法102条各項に基づいて算定されるべきではない。仮に被告P1の会社法429条1項に基づく責任が肯定されるとしても,直接損害と因果関係を有する任務懈怠行為のうち,被告P1が責任を負うべき部分は,被告P1の悪意又は重過失によるものに限られるから,被告P1は,原告がネオケミアの行為により被った直接損害すべてではなく,悪意又は重過失を伴う任務懈怠と因果関係を有する損害についてのみ責任を負うことになる。(被告P3及び被告P4の主張)被告P3の行為は,那覇市を中心とする沖縄県内での炭酸ガスパックの販売であり,原告が被ると考えられる具体的な損害は,被告P3が炭酸ガスパックを販売することによって,沖縄県内の顧客がその分買い控えたと考えられる原告の炭酸ガスパックの売上の減少額であるが,原告は,沖縄において製品を販売していなかったから,原告の損害はない。会社法429条1項は,悪意又は重過失を要件としており,わざわざ成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については一転して推定規定を適用して要件を緩めることは立法趣旨に反しており,認められない。

(5) 被告P1及び被告P3を主体とする不法行為の成否(争点5)(原告の主張)ア 被告P1は,ネオケミアの代表取締役として,ネオケミアが製造販売する製品に関する最終決定権を持っており,各被告製品の開発及び製品の完成品又は顆粒剤の製造販売を主導しており,本件各特許の成立後に各被告製品の製造販売を継続したのも,主として被告P1の判断であった。また,被告P1は,各被告製品の研究開発や処方の決定,製造委託先工場との間の契約締結,販売先の選定及び販売先との契約の締結を自ら主導して行っていたから本件各特許権の侵害行為の主体である。被告P1は,故意又は過失によってネオケミアに特許権侵害行為を惹起させ,原

5 告に前記(4)ア(ア)の1億0829万1485円の損害を与えたといえ,このうち,差押による回収及び差押・転付命令を受けた700万円を控除した1億0129万1485円について,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。イ 被告P3は,クリアノワールの代表取締役として,クリアノワールが製造販売する製品に関する最終決定権を持っており,被告製品14の開発,製造販売を主導しており,本件各特許の成立後に被告製品14の販売を開始し,原告からの通告書受領後も販売を継続したのは,主として被告P3の判断であった。また,被告P3は,被告製品14の開発や成分,仕様の決定,製造委託先の工場との契約締結,販売先の選定及び販売先との契約の締結を自ら主導して行っていたから,本件各特許権の侵害行為の主体である。被告P3は,故意又は過失によってクリアノワールに特許権侵害行為を惹起させ,原告に1223万6265円の損害を与えたといえ,このうち,差押によって回収した150万円を控除した1073万6265円について不法行為に基づく損害賠償義務を負う。(被告P1の主張)会社法429条1項は,民法上の不法行為の過失要件から軽過失を排除した特則であると解すべきであるから,会社法429条1項に基づく請求と民法709条の一般不法行為に基づく請求は競合しない。本件各特許権の侵害行為の主体はネオケミアであって,被告P1ではなく,被告P1について独立に原告に対する不法行為が成立する余地はない。被告P1には,本件各特許権を侵害していないと信じた相当な理由があったのであり,相当な理由が広く解されるべきことは民法709条の不法行為の場合であっても同様であり,故意又は過失はない。(被告P3の主張)被告P3は,原告からの警告に対し,発明者である被告P1,法律の専門家である複数の弁護士,特許法に詳しい複数の弁理士の意見を聞き,熟慮を重ねた結果,

5 これらの意見は十分信用するに足りるものであり,被告製品14が原告の特許権を侵害していないと信じたものであり,原告製品の販売行為を妨害する等の加害行為について故意又は過失はない。

(6) 権利濫用の成否(争点6)(被告P3及び被告P4の主張)本件各特許の実質上の発明者は被告P1であり,原告は,形式上,特許権者であるが,本件各発明のために要した日時も投下した費用も極めて少なく,別件訴訟やその他の多数の特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟により,数億円の利益を得ており,特許法が本来想定する損害額を回収し,それ以上に多額の利益を得ている。被告P1は,発明者としての相当の利益を得ておらず,別件訴訟で多額の損害を被った。形式上の特許権者が,実質上の発明者である被告P1個人や被告P1が有する特許権に基づく製品を取引してきた取引先に対してまで特許権侵害を原因として損害賠償請求までするのは,特許権者として権利の濫用というべきである。(原告の主張)争う。被告P3は,自らが代表取締役として主導した特許権侵害行為の損害賠償債務を一切弁済せず,他方で,個人資産は保全したまま,令和2年6月に新たな法人を立ち上げ,炭酸ガスパックの販売事業の継続を図ろうとしており,到底看過できるものではない。

第3 当裁判所の判断

1 本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について

前記第2の2(5)アのとおり,ネオケミアが被告製品6を製造販売していたのは本件各特許の登録前であるから,以下においては,各被告製品のうち被告製品6を除くものについて検討する。

(1) 本件発明1-1

5 各被告製品の構成は前記第2の2(4)ウのとおりであり,炭酸水素ナトリウムは

炭酸塩に,リンゴ酸は酸に該当するから,各被告製品は,いずれも本件発明1-1の構成要件1-1A~1-1D を充足する。

(2) 本件発明1-7

前記第2の2(4)ウのとおり,各被告製品は,部分痩せ効果を有するジェル状化粧料として使用されるジェルを得るためのキットであって,部分肥満改善用化粧料を製造する以外の用途は考え難いから,各被告製品を製造販売する行為は,本件発明1-7の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たると認められる。

(3) 本件発明1-8

前記第2の2(4)ウ及びエのとおり,各被告製品は,主に顔の部分痩せ効果を奏する製品として販売されており,顔の部分肥満改善用化粧料を製造する以外の用途は考え難いから,各被告製品を製造販売する行為は,本件発明1-8の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たると認められる。

(4) 本件発明1-9

前記(1)のとおり,炭酸水素ナトリウムは炭酸塩に,リンゴ酸は酸に該当し,前記第2の2(4)ウのとおり,各被告製品は,ジェル剤と顆粒剤を混ぜ合わせ ,ジェル剤の中で炭酸塩とリンゴ酸を反応させる(構成要件1-9B)ことにより二酸化炭素を気泡状で保持できる(構成要件1-9C)部分肥満改善用化粧料として利用される二酸化炭素を含有するジェルを得るためのキット(構成要件1-9A)であって,当該ジェルを調製する以外の用途は考え難いから,各被告製品を製造販売する行為は,本件発明1-9の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たると認められる。

(5) 本件発明2-1

各被告製品の構成は前記第2の2(4)ウのとおりであり,炭酸水素ナトリウムは炭酸塩に,リンゴ酸は酸に該当するから,各被告製品は,いずれも本件発明1-1の構成要件2-1A~2-1D を充足する。

5 (6) 本件発明2-7

前記第2の2(4)ウのとおり,各被告製品は,部分痩せ効果を有するジェル状化粧料として使用されるジェルを得るためのキットであって,化粧料を製造する以外の用途は考え難いから,各被告製品を製造販売する行為は,本件発明2-7の間接侵害行為(特許法101条1号)に当たると認められる。

(7) 小括

以上より,各被告製品は,本件発明1-1及び2-1の技術的範囲に属し,各被告製品を製造販売する行為は,本件発明1-7,1-8,1-9及び2-7の間接侵害行為に当たる。

2 乙1文献に基づく進歩性欠如の有無(争点2)

(1) 本件明細書1及び2の記載

本件明細書1及び2には,以下の記載が認められる(甲2,4)。なお,両明細書において当該記載は同一であり,段落番号は本件明細書2のものを用いる。ア 技術分野本発明は,…褥創,創傷…などの皮膚粘膜損傷;…などを副作用をほとんどともなわずに治療あるいは改善でき,また所望する部位に使用すれば,その部位を痩せさせられる二酸化炭素含有粘性組成物に関する。(【0001】)イ 背景技術痒みの治療に対して,局所療法として外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤などが一般に使用される。これらは痒みが発生したときに使用され,一時的にある程度痒みを抑える。湿疹に伴う痒みに対しては外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤の使用が一般的であり,これらは炎症を抑えることにより痒みの発生を防ごうとするものである。(【0002】)しかしながら,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤はアトピー性皮膚炎,水虫や虫さされの痒みにはほとんど効果がない。外用の非ステロイド抗炎症剤やステロイド剤は,痒みに対する効果は弱く,即効性もない。また,ステロイド剤は副作

5 用が強いため,使用が容易でない。(【0003】)

ウ 発明が解決しようとする課題本発明は,水虫,虫さされ…などの皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供することにある。(【 0004】)また本発明は,褥創,創傷…などの皮膚粘膜損傷;…髪の艶の衰えなどの皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法などを提供することを目的とする。(【0005】)エ 課題を解決するための手段本発明者らは鋭意研究を行った結果,二酸化炭素含有粘性組成物が,外用の抗ヒスタミン剤や抗アレルギー剤,非ステロイド抗炎症剤,ステロイド剤などが無効な痒みにも有効であることを発見し,更に該組成物が抗炎症作用や創傷治癒促進作用,美肌作用,部分肥満解消作用,経皮吸収促進作用なども有することを発見して本発明を完成した。(【0006】)化粧料としては,美白,肌質改善,そばかす改善,部分痩せ,除毛後の再発毛抑制,髪の艶改善効果などがあり,クリーム,ジェル,ペースト,クレンジングフォーム,パック,マスクなどの形状で使用できる。(【0016】)本発明でいう「含水粘性組成物」とは,水に溶解した,又は水で膨潤させた増粘剤の1種又は2種以上を含む組成物である。該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ,皮膚粘膜又は損傷皮膚組織等に適用した場合,二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。該組成物は,二酸化炭素を気泡状で保持するためのものであれば特に限定されず,通常の医薬品,化粧品,食品等で使用される増粘剤を制限なく使用でき,剤形としてもジェル,クリーム,ペースト,ムースなど皮膚粘膜や損傷組織,毛髪などに一般的に適用される剤形が利用できる。(【0017】)本発明には,例えば以下のキットが含まれる。

5 1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸とのキット;

2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩とのキット;3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤とのキット;5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物のキット;6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物のキット;7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートのキット;8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートのキット;9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物のキット;10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートのキット;及び11)炭酸塩と酸と水と増粘剤のキット。(【0018】)気泡状の二酸化炭素を含む本発明の組成物は,これらのキットの各成分を使用時に混合することにより製造できる。(【0019】)増粘剤としては,例えば天然高分子,半合成高分子,合成高分子,無機物などがあげられ,これらの1種又は2種以上が用いられる。(【0020】)本発明の含水粘性組成物に二酸化炭素を保持させる方法としては,該組成物に炭酸ガスボンベなどを用いて二酸化炭素を直接吹き込む方法がある。(【0031】)また,反応により二酸化炭素を発生する物質を含水粘性組成物中で反応させて二酸化炭素を発生させるか,又は含水粘性組成物を形成すると同時に二酸化炭素を発生させて二酸化炭素含有粘性組成物を得ることも可能である。二酸化炭素を発生する物質としては,例えば炭酸塩と酸の組み合わせがある。具体的には以下のような組み合わせにより二酸化炭素含有粘性組成物を得ることが可能であるが,本発明は二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物が形成される組み合わせであれば,これらの組み合わせに限定されるものではない。1)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の組み合わせ;

5 2)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の組み合わせ;

3)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;4)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩の顆粒(細粒,粉末)剤の組み合わせ;5)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有含水粘性組成物の組み合わせ;6)炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤と含水粘性組成物の組み合わせ;7)炭酸塩含有含水粘性組成物と酸含有シートの組み合わせ;8)酸含有含水粘性組成物と炭酸塩含有シートの組み合わせ;9)炭酸塩と酸と含水粘性組成物の組み合わせ;10)含水粘性組成物と,炭酸塩と酸の複合顆粒(細粒,粉末)剤含有シートの組み合わせ;及び11)炭酸塩と酸と水と増粘剤の組み合わせ。(【0032】)なお,炭酸塩含有含水粘性組成物と,酸含有含水粘性組成物及び含水粘性組成物は,各々炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等,酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等の製剤を製造し,これらから調整してもよい。炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は,各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能である。(【0033】)本発明の二酸化炭素含有粘性組成物を皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防目的,又は美容目的で使用する場合は,該組成物を直接使用部位に塗布するか,あるいはガーゼやスポンジ等の吸収性素材に含浸させるか,またはこれらの素材を袋状に成形してその中に該組成物を入れて使用部位に貼付してもよい。該組成物を塗布又は貼付した部位を通気性の乏しいフィルム,ドレッシング材などで覆う閉鎖療法を併用すれば更に高い効果が期待できる。該組成物を満たした容器に使用部位を浸すことも有効である。その場合,炭酸ガスボンベなどを用いて該組成物に二酸化炭素を補給すればより効果が持続する。(【0049】)本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は使用後ティッシュペーパーなどでふき取っ

5 たり,水などで洗い流すことにより容易に除去できるが,該組成物の原料及び該組

成物自体はいずれも非常に安全性が高いので,褥創面などの損傷組織に投与した場合は,完全に患部から除去しなくても問題はなく,また,場合によっては除去せずに新しい二酸化炭素含有粘性組成物を追加使用することも可能である。(【 0053】)本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。肌質改善等の美容目的に使用する場合は,1回の使用ですぐに効果が得られる。使用時間や使用回数,使用期間を増やせば,美容効果は更に高まる。部分痩せ用途に対しては,1日1回の使用を1ヶ月以上継続すれば十分な効果が得られるが,使用時間や使用回数,使用期間を増やせば効果は更に高まる。(【0055】)

(2) 乙1文献の記載

乙1文献には,以下の記載が認められる。バブ浴(人工炭酸泉浴剤 花王バブ)【作用機序・効果】入浴剤バブは重炭酸水素ナトリウム(重曹)を含んでおり,湯に溶かすことにより,炭酸ガスを発生する。この炭酸ガスにより局所の血行を改善し,褥瘡を予防 または治療する試みがなされている。すなわち,温泉の効果を応用するものである。【使用方法】バブ1個を1/4から1/8の大きさに割る。そのうちの1~数片を約42度の湯(洗面器―バケツ)に溶かす。バブは炭酸ガスを出しながら溶ける(図17)。バブは無着色,無香料のものがよいが,なかなか手に入らない。その場合,香料入りでもかまわないが,刺激臭が強いので直接湯に鼻を近づけない。

5 バブが溶けた湯にガーゼやタオルを浸し,それを褥瘡部に当てて温湿布をするか

(冷めないように湿布の上からビニールカバーをかぶせ,約42度の湯枕を当てるとよい),その湯に褥瘡を生じた足を入れて足浴する。ただし,足浴によって感染を引き起こすことがあるので注意が必要である(バケツは個人用とし,また足浴後は創の消毒,洗浄を行う)。バブ浴は1日1回~数回行う。バブ浴は褥瘡の治療に用いられるだけでなく,褥瘡や下肢の皮膚潰瘍の予防にも有効である。私たちは,褥瘡のリスクのある患者さんの清拭にバブを溶かした湯を使用している。また,寒い季節になると,動脈硬化や血管の攣縮により,足先の血行が悪くなりチアノーゼを呈する患者さんがある(特に高齢で閉塞性動脈硬化症や糖尿病を合併している人に多い)(写真50)。このまま放置すると,下肢の皮膚潰瘍(とくに趾先に多い)を生じる場合がある。プロスタンディンなどの血管拡張剤を使用する前に,このバブによる足浴を試みるべきである。有効なことが多い。図17●バブ浴アルミの包装を開封する前に,木槌や手で,バブを細かく割る。約42度の湯を入れた洗面器,バケツにバブ片を1~数個入れ,完全に溶けるまで待つ足浴に用いる患部にあてて,温湿布する

(3) 本件各発明と乙1発明の対比等

ア 前記(2)の乙1文献の記載からすると,乙1発明は, 以下の内容と認められる。a 褥瘡を治療又は予防するために使用される組成物を得るための剤であって,b 炭酸水素ナトリウムを含み,湯に溶かして炭酸ガスを発生させるものである入浴剤バブを割った剤であり,

5 c 前記組成物は,前記入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物であ

る,d 剤イ そうすると,本件各発明と乙1発明とは,少なくとも,「二酸化炭素含有組成物」が,本件各発明においては「粘性」を有するものであるのに対し,乙1発明においては「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」であり,粘性の特定がない点で相違する。ウ 本件各発明における二酸化炭素含有組成物は「粘性」を有するものであるところ,本件各発明は,「皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害に伴う痒みに有効な製剤とそれを用いる治療及び予防方法を提供すること」(【0004】)及び「皮膚や毛髪などの美容上の問題及び部分肥満に有効な製剤とそれを用いる予防及び治療方法を提供すること」(【0005】)を目的とするものであり,本件明細書1及び2に,「該組成物に二酸化炭素を気泡状で保持させ」,「二酸化炭素を皮下組織等に十分量供給できる程度に二酸化炭素の気泡を保持できる。」(【0017】),「二酸化炭素が気泡状で保持される二酸化炭素含有粘性組成物」(【0032】),「炭酸塩の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等及び酸の増粘剤含有顆粒(細粒,粉末)剤等は各々炭酸塩及び酸の徐放性製剤とすることにより,更に持続性を増強することも可能である。」(【0033】),「本発明の二酸化炭素含有粘性組成物は,数分程度皮膚または粘膜に適用し,すぐに拭き取ってもかゆみ,各種皮膚粘膜疾患もしくは皮膚粘膜障害の治療や予防,あるいは美容に有効であるが,通常5分以上皮膚粘膜もしくは損傷皮膚組織等に適用する。特に褥創治療などでは24時間以上の連続適用が可能であり,看護等の省力化にも非常に有効である。」(【0055】)との記載があることを踏まえると,本件各発明の二酸化炭素含有粘性組成物における「粘性」とは,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を意味するものと解される。他方で,前記乙1文献の【作用機序・効果】の記載や【使用方法】における約4

5 2度の湯を用いる旨の記載を踏まえると,乙1文献記載の乙1発明が利用する「温

泉の効果」とは,炭酸泉に含まれる炭酸ガスの末梢血管拡張作用に基づく循環改善効果及び湯の温熱作用による血行改善効果の双方を含むものと解される。そして,前記乙1文献に「バケツにバブ片を1~数個入れ,完全に溶けるまで待つ」との記載もあることからすると,乙1発明の「入浴剤バブを割った剤を湯に完全に溶かした組成物」については,二酸化炭素がなお「気泡」の状態で湯中に保持されているものとは解されない。そして,乙1文献には,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を付与することの記載はなく,そのことについての示唆や動機づけとなる記載があるとは認められない。また,乙1発明の「組成物」には二酸化炭素が「気泡」の状態で存しているものとは解されな いし,二酸化炭素の保持について「気泡」という点に着眼することが容易であるとは解されず,二酸化炭素を気泡状で相応の時間にわたり保持できる程度の粘性を付与した場合,温湿布や足浴に用いる場合の使用感や利便性が少なからず変化してしまうことになるとも考えられる。そうすると,本件各発明は,乙1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。エ 被告らは,乙1発明に当接した当業者は,乙1発明の課題として二酸化炭素が空中に拡散するため効率が悪いことを認識でき,二酸化炭素を空中に拡散させない方法を模索する動機付けがあると主張するが,前記ウのとおり,乙1発明の「組成物」には二酸化炭素が「気泡」の状態で存しているとは認められないから,二酸化炭素を気泡状で保持する動機付けがあるとはいえない。また,被告らは,乙4文献及び乙5文献に記載されているように,気泡膜を形成する媒質の粘性が増大すると気泡の安定性を高め,気泡の寿命を高めることが古くから知られており,乙6公報には,炭酸ガスの気泡が十分に発生し,増粘多糖類溶液内に確実に内包される技術が記載されているから,乙1文献に接した当業者にとって,乙1発明の「組成物」を二酸化炭素を閉じ込めるための含水粘性組成物(ジ

5 ェル)に置き換えることは容易であると主張する。

しかしながら,乙4文献に記載されているのは,泡沫表面の粘性が高くなると泡沫寿命が長くなる相関関係があることであり,乙5文献に記載されているのは,水溶性高分子が添加されると泡の安定性が良くなることであって,二酸化炭素の気泡についての記載はない。また,乙6公報は,「発泡性ゼリー用粉末及びこれを用いた発泡性ゼリーの製法」に関する発明であって,「気泡が多数内包された清涼感のある外観を有し,しかも喫食時に強い発泡感が感じられる発泡性ゼリー」(【 0001】)の技術分野に関するもので,本件各発明とは技術分野が大きく異なり,乙1発明に乙6公報に記載された発明を適用する動機付けは認められない。さらに,被告らは,単なる医師であり化粧品の研究開発の実績もないP5が,乙1文献からジェルで炭酸ガスを封じ込めることを着想したと述べているから,当該着想は当業者にとって極めて容易であったといえると主張するが,本件各発明の発明者であるP5の供述にすぎず,本件各発明を乙1発明に基づいて容易に想到することができないとの認定を左右するものではない。

(4) 小括

以上によれば,本件各発明は,特許出願前に当業者が乙1文献及び乙6公報記載の発明や周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえないから,特許法29条2項に違反して特許されたものとはいえない。したがって,本件各特許は,特許無効審判により無効にされるべきものとは認められない。この点に関する被告らの主張は採用できない。

3 被告らの悪意重過失の有無(争点3)

(1) 判断の枠組み

法人の代表者等が,法人の業務として第三者の特許権を侵害する行為を行った場合,第三者の排他的権利を侵害する不法行為を行ったものとして,法人は第三者に対し損害賠償債務を負担すると共に,当該行為者が罰せられるほか,法人自身も刑罰の対象となる(特許法196条,196条の2,201条)。

5 したがって,会社の取締役は,その善管注意義務の内容として,会社が第三者の

特許権侵害となる行為に及ぶことを主導してはならず,また他の取締役の業務執行を監視して,会社がそのような行為に及ぶことのないよう注意すべき義務を負うということができる。他方,特許権者と被疑侵害者との間で特許権侵害の成否や特許の有効無効について厳しく意見が対立し,双方が一定の論拠をもって自説を主張する場合には,特許庁あるいは裁判所の手続を経て,侵害の成否又は特許の有効性についての公権的判断が確定するまでに,一定の時間を要することがある。このような場合に,特許権者が被疑侵害者に特許権侵害を通告したからといって,被疑侵害者の立場で,いかなる場合であっても,その一事をもって当然に実施行為を停止すべきであるということはできないし,逆に,被疑侵害者の側に,非侵害又は特許の無効を主張する一定の論拠があるからといって,実施行為を継続することが当然に許容されることにもならない。自社の行為が第三者の特許権侵害となる可能性のあることを指摘された取締役としては,侵害の成否又は権利の有効性についての自社の論拠及び相手方の論拠を慎重に検討した上で,前述のとおり,侵害の成否または権利の有効性については,公権的判断が確定するまではいずれとも決しない場合があること,その判断が自社に有利に確定するとは限らないこと,正常な経済活動を理由なく停止すべきではないが,第三者の権利を侵害して損害賠償債務を負担する事態は可及的に回避すべきであり,仮に侵害となる場合であっても,負担する損害賠償債務は可及的に抑制すべきこと等を総合的に考慮しつつ,当該事案において最も適切な経営判断を行うべきこととなり,それが取締役としての善管注意義務の内容をなすと考えられる。具体的には,①非侵害又は無効の判断が得られる蓋然性を考慮して,実施行為を停止し,あるいは製品の構造,構成等を変更する,②相手方との間で,非侵害又は無効についての自社の主張を反映した料率を定め,使用料を支払って実施行為を継続する,③暫定的合意により実施行為を停止し,非侵害又は無効の判断が確定すれ

5 ば,その間の補償が得られるようにする,④実施行為を継続しつつ,損害賠償相当

額を利益より留保するなどして,侵害かつ有効の判断が確定した場合には直ちに補償を行い,自社が損害賠償債務を実質的には負担しないようにするなど,いくつかの方法が考えられるのであって,それぞれの事案の特質に応じ,取締役の行った経営判断が適切であったかを検討すべきことになる。

(2) 被告P1の悪意,重過失について

ア 認定事実前記前提事実,証拠(甲2,4,7,10,29の1,2,30の1~6,31の1,2,40,58の1及び2,59の1及び2,乙82の1~10,乙89,93,95,96の1~4,乙97~99,101,丙4,被告P1本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。(ア) 原告は,平成10年10月5日,被告P1及びP5を発明者として,本件特許1の出願をした。当時,被告P1及びP5は,原告の代表取締役であった。その後,原告は,本件特許1の実施品である炭酸パック「メディプローラー」(以下「原告製品」という。)の製造販売を開始した。(イ) 被告P1は,平成12年頃までに,経皮吸収される炭酸ガスは気泡ではなく溶存二酸化炭素であるから,炭酸ガスの経皮吸収効率を高めるために炭酸ガスの発生速度を抑え,無駄な炭酸ガスの気泡を発生させず,高濃度の溶存二酸化炭素をジェル内で持続させることで炭酸パックを改良することを発案し,P5に提案したが,容れられなかった。被告P1は,原告から独立して新たに改良炭酸パック剤について特許を出願することを考え,平成12年頃,兵庫県発明協会の特許相談を申し込み,対応した元特許庁の審査官であるという弁理士に,当時出願準備中であった特許が,原告が出願中の特許に抵触するかを尋ねたところ,抵触しないとの回答を得た。被告P1は,平成12年に原告の代表取締役を退任し,平成13年4月6日,特願 2001-108816 号の発明を特許出願し,同年5月22日,ネオケミアを設立して代

5 表取締役に就任した。

その後,ネオケミアは,被告製品1の製造販売を開始した。(ウ) 原告は,平成14年2月8日付けで,被告 P1に対し,被告製品1の製造販売について原告製品の形態模倣の不正競争行為(不正競争防止法2条1項3号)に当たる旨の警告書を送付した。被告P1は,畑中鐵丸弁護士に相談し,畑中弁護士は,同年3月24日付けで,原告に対し,被告P1は被告製品1の製造販売主体ではないこと,原告が特許出願中であった本件各特許とは別の特願平 11-125903 号の発明について,被告P1が単独で発明したものであり,職務発明ではなく,原告に特許を受ける権利を譲渡していないので,冒認の無効理由がある旨を回答した。(エ) ネオケミアは,平成14年4月5日,被告 P1を発明者とする二酸化炭素外用剤調製用組成物に係る発明を特許出願し,平成21年1月23日に登録(特許第 4248878 号)された。また,平成16年6月21日に当該出願から分割出願された発明について,平成20年5月30日に登録(特許第 4130181 号)され,平成20年11月21日に分割出願された発明について,平成22年9月17日に登録(特許第 4589432 号)された(以下,これらの特許を併せて「ネオケミア特許」という。)。(オ) 平成23年1月7日,本件特許権1が登録された。ネオケミアが原告の取引先に対し,原告の製造する製品がネオケミア特許の発明の技術的範囲に属するとして特許法65条に基づく補償金の支払を求めたところ,原告は,同年2月2日,ネオケミア特許に無効理由があることを理由として取引先への警告及び請求を止めるよう求めると共に,被告製品1が本件特許1の発明の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通知書を送付した。被告P1は,北浜法律事務所の弁護士に相談し,中森亘弁護士及び岡田徹弁護士に委任して,同月14日,原告に対し,ネオケミア特許の無効理由の具体的主張及び被告製品1が本件特許1の構成要件を充足することについて,具体的主張を求め

5 る回答書を送付した。

(カ) 平成24年1月27日,本件特許権2が登録された。原告は,同年2月2日,被告の取引先5社に対し,被告製品5~7,10,12が本件特許2の発明の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を送付した。被告P1は,取引先から前記通告を知り,中森 弁護士及び岡田弁護士に委任して,同月10日,通告対象の被告製品が本件特許2の構成要件を充足することについて,具体的主張を求める回答書を送付した。被告P1は,中森弁護士及び岡田弁護士との相談の中で, 本件各特許の発明には,鐘紡株式会社の従業員であったP7及びP6も関与しており,P6についてはノートをつけていて協力も得られる旨の話をしていた。原告及びネオケミアの代理人間での和解交渉が難航していたため,中森弁護士及び岡田弁護士は,被告P1と相談の上,本件各特許について,P6との共同発明であるとして共同出願違反の無効理由がある旨の主張をすることとし,平成24年5月30日,原告に対し,発明の経緯に係る事実関係の主張を記載した書面を送付した。その後,中森弁護士及び岡田弁護士は,被告P1からP6の協力が得られないと聞き,事実関係を確認できる証拠もないことから,被告P1に対し,共同出願違反の無効理由の主張を断念するよう助言し,それ以上,交渉において主張しないこととなった。(キ) 原告は,平成25年7月18日付けで,クリアノワールに対し,被告製品14が本件各特許の発明の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を送付した。被告P1は,被告P3から前記通告を知り,中森弁護士及び岡田弁護士に委任して,原告に対し,同月25日,被告製品14の本件各特許の発明の構成要件の充足に係る具体的主張を求める回答書を送付した。被告P1は,クリアノワールに対し,同月29日付けで,原告の特許とネオケミ

5 ア特許は別の技術として特許庁が認めたものだからネオケミアの技術で製造された

製品は原告の特許権に抵触しない,ネオケミアの製品は,泡を立たせず,ジェルに炭酸ガスを溶け込ます技術である点で本件発明2-1の構成要件を充足しない,ネオケミアの製剤はネオケミア特許により保護されており,販売者や取扱者が特許権侵害を問われることはない,原告との交渉一切についてネオケミアの顧問弁護士が対応し,賠償責任問題が発生した場合はネオケミアが全責任を負う旨を説明する書面を交付した。(ク) 被告P1は,平成27年3月13日,取引先に対し,その販売する製品が原告を含む第三者の特許権を侵害していないこと,原告から特許権侵害として提訴された場合,訴訟手続に参加して主張立証を行うこと,敗訴が確定した場合,損害賠償額及び合理的な訴訟費用を負担することを約する保証書を差し入れた。被告P1は,青山特許事務所の弁理士に,被告製品2,3,4,6,7,8,12,13,14ほか1製品について,本件発明2-1の技術的範囲に属するか否かの鑑定を依頼し,平成27年4月6日及び同月9日付けで,それらの製品が本件発明2-1の技術的範囲に属さない旨の鑑定書を受領した。(ケ) 原告は,平成27年5月1日,別件訴訟を提起した。被告P1は,それまで,原告の特許が先に出願されていたのにネオケミア特許が登録されたことから,ネオケミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないものと考え,取引先にもその旨説明していたが,別件訴訟への対応について弁護士や弁理士から話を聞く中で,ネオケミア特許が先に出願された原告の特許発明を利用する関係にあるときはそのようにいうことはできず,それまでの考えは誤解であることを知った。(コ) 別件判決は,ネオケミアに対し,金1億1107万7895円及びこれに対する遅延損害金を原告に支払うこと等を命じるものであり,令和元年6月7日にこれに対する控訴棄却判決がなされたが,原告において供託金の差押え等の方法により計700万円を回収した以外に,ネオケミアより原告に対する前記損害賠償債

5 務の弁済はなされていない。

被告P1は,令和2年9月24日付けで,二酸化炭素経皮吸収技術の開発等を目的とする新会社を設立した。また被告P1は,ネオケミアについて破産手続開始の申立てを行い,同年12月7日,同手続開始決定を得た。破産者ネオケミアについては,令和3年2月28日の時点で,回収済みとして破産管財人が保管している資産の額は124万9370円,届出のあった一般破産債権の総額は1億6969万3683円とされた。イ 被告P1の主張について被告P1は,兵庫県の工業試験センターの相談会で弁理士から非侵害であると言われたこと,畑中弁護士から原告の特許権は冒認出願で無効であると言われたこと,平成14年から平成23年まで原告から警告を受けなかったこと,岡田弁護士から原告の特許発明は作用効果を奏せず進歩性を欠くと言われたこと,青山特許事務所がネオケミアの製品が原告の特許権を侵害していない旨の鑑定書を作成したこと,別件訴訟について岡田弁護士から原告の特許権に技術的意義がないことから勝訴の見込みであると言われたこと,中森弁護士と岡田弁護士は別件訴訟において非侵害の主張で十分戦えるとの強気の見込みを有していたことを理由に,被告P1において取締役として求められる調査義務を尽くし,妥当な根拠に基づいた合理的な判断をした旨を主張するので,以下のとおり検討する。(ア) 兵庫県工業試験センターの相談会で被告 P1が弁理士に相談した内容は,前記認定のとおり,先行して出願された本件特許権1に抵触することなくネオケミア特許が登録されるか否かであったから,弁理士が抵触しない旨を回答したとしても,当時企画中であった各被告製品が,原告の特許権を侵害するものではないとの意味を有するものではない。(イ) 畑中弁護士から冒認出願による無効の可能性がある旨聞いたことがあったとしても,平成23年に原告から警告を受けた後に相談した岡田弁護士からその主張は困難であると言われ,前記認定のとおり,中森弁護士及び岡田弁護士から,共

5 同出願違反についても断念するよう言われたのであるから,仮に被告P1において

本件各特許がなお無効であると判断したとすれば,専門家の意見を無視した不合理な判断といえる。(ウ) 本件特許権1の登録は平成23年,本件特許権2の登録は平成24年であるから,平成14年から平成23年までの間,原告が警告をしなかったとしても,今後原告からの権利行使がないと考えるべき合理的な理由はない。(エ) 被告P1は,岡田弁護士から進歩性欠如の話を聞いたとする が,当時の原告との交渉においてそのような主張はされておらず,中森弁護士の回答書(乙101)においてもどのような無効主張を検討していたのか不明であり,当時の主たる主張は構成要件の非充足の主張であったから,被告P1が岡田弁護士と進歩性欠如の無効理由について十分な検討をしていたとは認められない。(オ) 青山特許事務所の鑑定書は,平成27年に原告とネオケミアとの間の交渉が決裂し,原告からの訴訟提起が予想される中で取得されたものであり,取引先に対して不安を静めるために保証書を差し入れたのと同じ目的のものと考えられ,これによって,被告P1が各被告製品の販売継続の可否を判断したものとは考えられない。被告P1は,別件訴訟での裁判所の心証開示後にも取引先に保証書を差し入れているのであり(乙96の3,4),被告P1の取引先に対する説明が,その判断の合理性を裏付けるものとはいえない。(カ) 別 件 訴 訟に お い て中 森 弁 護 士 及び 岡 田弁 護 士 が 非 侵害 の 主張 に 自 信 を 持ち,勝訴の見込みがあると考えていたとしても,その具体的な根拠は明らかではない。また,登録された特許権であっても,先願の特許発明を利用するものであるときは,特許権者は業としてその特許発明を利用することができず(特許法72条),先願の特許権者に対し実施の許諾を求めなければならないところ(同法92条),前記認定のとおり,被告P1は,ネオケミア特許が登録された以上,その実施品については本件各特許権の侵害にはならないものとして,各被告製品の製造販売を継

5 続し,取引先にその旨説明していたところ,別件訴訟の提起後,ネオケミアの特許

は先願の原告の特許を利用する関係にあることを知ったというのであるから,特許権に関する基本的な事項について誤解したまま,各被告製品につき特許権侵害は成立しないと考えてその製造販売を継続し,取引先に説明していたものである。ウ 判断前記アで認定した事実,及び前記イで被告P1の主張について判断したところを総合すると,被告P1が,各被告製品の製造販売が本件各特許権の侵害にならない,あるいは本件各特許は無効であると主張した点について十分な論拠があったということはできず,むしろ特許制度の基本的な内容に対する無理解の故に,ネオケミア特許の実施品であれば本件各特許権の侵害にはならないと誤解して各被告製品の製造販売を続け,取引先にもそのように説明したものである。前述のとおり,特許権侵害の成否,権利の有効無効については,公権力のある判断が確定するまでは軽々に決し得ない場合があり,自社に不利な判断が確定する場合もあるのであるから,取締役にはそれを前提とした経営判断をすべきことが求められ , 前記 (1)の ① ない し ④で 述 べた よ うな 方 法を と るこ と で, 特 許権 侵 害 に 及び,自社に損害賠償債務を負担させることを可及的に回避することは可能であるにも関わらず,被告P1はそのいずれの方法をとることもせず,各被告製品の製造販売を継続している。さらに,別件判決(甲5)によれば,ネオケミアは各被告製品の販売により相応の利益を得ていたのであるから,特許権侵害となった場合の賠償相当額を留保するなどして,別件判決確定後に損害を遅滞なく填補すれば,ネオケミアに損害賠償債務を確定的に負担させないようにすることも可能であったのに,被告P1は任意での賠償を行わず,ネオケミアを債務超過の状態としたまま,破産手続開始の申立てを行ったものである。以上を総合すると,被告P1が,本件各特許が登録されたことを知りながら,特段の方法をとることなく各被告製品の製造販売を継続したことは,ネオケミアの取締役としての善管注意義務に違反するものであり,被告P1は,その前提となる事

5 情をすべて認識しながら,ネオケミアの業務としてこれを行ったのであるから,そ

の善管注意義務違反は,悪意によるものと評価するのが相当である。

(3) 被告P2の悪意重過失について

ア 会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締役の業務執行を監視,監督すべきものである。被告P2は,自身が名目上の取締役であり,ネオケミアの業務に全く関与せず,本件各特許の内容を知らず,各被告製品が本件各特許権を侵害するかを判断する機会もなかったので,被告P1の経営判断が特許権侵害であるとしても,それを発見し,抑止することはできなかったと主張するが,このような理由で,取締役としての善管注意義務が存在しない,あるいは免除されていると解することはできない。イ 既に認定したとおり,原告とネオケミアとの間で各被告製品に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,被告P2において,これを把握することは容易であり,前記(2)で検討したとおり,被告P1に対し,ネオケミアに不利となる公権的判断が確定する可能性をも考慮した適切な経営判断を行っているかを確認し,被告P1の判断に不十分な点があれば,再考を求めることは可能であったと解される。被告P2が,上述したような監視,監督を尽くしても,被告P1の行為を抑止できなかったとすべき具体的な事情は認められないし,被告P2がネオケミアの業務に関心を持たず,本件各特許すら知らず,各被告製品に係る紛争を知らなかったということを被告P2に有利な事情と解することはできず,むしろ,取締役としての義務に違反する程度は大きいといわざるを得ない。以上を総合すると,被告P2には,取締役である被告P1の業務執行に対する適切な監視,監督を怠ったことについて,重大な過失があったということができる。

(4) 被告P3の悪意重過失について

ア 前記前提事実,証拠(甲31の1,60の1及び2,乙82の1,丙1,

5 2,4,被告P3本人)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 被告P3は,エステティシャンとして活動していたところ,原告ら10数社から発売されていた炭酸ガスパックを試した結果,ネオケミアの製品が効果的であったため,被告P1に面会して炭酸ガス療法及び炭酸ガス美容について説明を受け,炭酸ガスパック剤の特許はネオケミアのみが有しているので,安心して販売できると聞いた。被告P3は,ネオケミアの製品には特許使用料が上乗せされて他の商品より高額であったが,ネオケミアの製品が最も良いと考え,これを仕入れて販売することにした。(イ) 被告P3は,ネオケミアの製品が人気を博した後,琉球粘土を配合した炭酸ガスパック剤を作りたいと考え,被告P1に相談した。被告P3は,事業を法人化して製品の開発・販売を進めることし,平成23年11月18日,自らを代表取締役とするクリアノワールを設立し,平成24年頃,ネオケミアの協力を得て被告製品14を開発した。(ウ) 被告P3は,平成25年7月22日,原告から被告製品14が本件各特許の技術的範囲に属するとして,その製造販売の中止等を求める通告書を受領し,また,取引先からも,原告から同様の通告を受けたと聞いた。被告P3は,原告からの通告書を確認してもその内容を理解することができなかったため,被告P1に面会して説明を求めたところ,被告P1から,原告は本件各特許権を有しているが,大阪の大手の事務所である北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士に相談しており,弁護士及び弁理士が特許権の侵害はないから心配はないと言っていると聞いた。また,被告P1は,弁護士を代理人として原告と交渉しているので心配ない,任せてほしいなどとも言ったことから,被告 P3は,これを信用し,被告製品14の販売を継続することとした。被告P3は,同月29日頃,被告P1から,前記(2)ア(キ)の書面(丙4)を受領した。

5 (エ) 被告P3は,別件訴訟の提起を受けて,改めて被告 P1に説明を求めたと

ころ,被告P1から,北浜法律事務所の弁護士と青山特許事務所の弁理士が原告の特許権を侵害していることはないと言っている旨を再び告げられ,別件訴訟の裁判費用をネオケミアが負担し,万一敗訴した場合は,賠償金もネオケミアが負担すると言われた。また,被告P3は,その頃,被告P1から,被告製品2について,本件発明2-1の技術的範囲に属さない旨の青山特許事務所の弁理士作成の鑑定書の写しの交付を受けた。被告P3は,炭酸ガスパックの専門家である被告P1が自信を持っており,原告製品よりもネオケミアの製品の方が品質・性能が良く,悪い製品の特許が優先することはあり得ないと考え,被告製品14の販売を継続した。その後,被告P3は,ネオケミアの代理人弁護士や弁理士から直接説明を受ける機会があり,その際も,大丈夫だ,心配ないと言われた。(オ) 被告P3は,平成28年12月16日,別件訴訟において裁判所から心証開示を受けた後も,被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たることに疑問を持っていたが,裁判所の判断である以上やむを得ないと考え,被告製品14の販売を止めた。(カ) 令和元年6月7日の控訴棄却判決により,クリアノワールに対し1223万6265円及び遅延損害金を支払うよう命じた別件判決は確定したが,原告において供託金の差押えにより150万円を回収した以外に,クリアノワールが原告に対し前記債務を弁済することはなく,被告P3は,同年6月,琉球粘土と炭酸ガスパックからなるスキンケア商品その他を販売することを目的とする新会社を設立した。イ 判断前記認定したところによれば,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権の侵害に当たるとの警告を受けたものの,本件各特許の発明者であって炭酸ガスパックの専門家であった被告P1から,ネオケミアが委任した弁護士や弁理

5 士が特許権侵害ではないと言っているなどと聞き,どのような根拠で特許権侵害に

当たらないということになるのか理解できないまま,ネオケミアも特許権を有していて,原告製品よりネオケミアの製品の方が品質・性能が良いので,原告の特許権が優先することはないなどと考え,被告製品14の販売を継続する意思決定をしたというのであるから,主として,被告製品14の製造元であるネオケミアからの説明に依拠してその判断を行ったことになる。しかしながら,特許権侵害が成立しないとするネオケミア側の説明に十分な論拠がなく,むしろ被告P1の特許制度に対する誤解が前提となっていたことは,前記

⑵で検討したとおりであるし,品質・性能において上回っていることは,特許権侵

害を否定する理由とはなり得ない。被告P3は,特許権侵害の判断は素人には難しく,警告を受ければすべからく製造販売等を停止しなければならないとすることは不当であると主張するが,前記

(1)で述べたとおり,クリアノワールの代表取締役として,被告P3には,特許権

侵害の成否や権利の有効性についての公権的判断が,自己に有利にも不利にも確定する可能性があることを前提に,そのいずれの場合であっても第三者の権利を侵害し損害を生じさせることを可及的に回避しつつ,自社の利益を図るような経営判断をすべき注意義務があったということができる。この点について被告P3は,特許権侵害の警告を受けた後も,主として被告製品14の製造元であるネオケミア側からの説明に依拠し,前記(1)の①ないし④で検討したような方法をとることもなく,裁判所からの心証開示があるまでの間,被告製品の14の販売をして特許権侵害の不法行為を継続し,原告に損害を生じさせたのであるから,取締役としての善管注意義務に違反したというべきであり,少なくとも重過失によると認めるのが相当である。

(5) 被告P4の悪意過失について

会社法上,取締役として選任されている以上は,個々の能力,知識,報酬等の有無にかかわらず,取締役として一般に要求される善管注意義務を尽くして代表取締

5 役の業務執行の監督を行うべきものである。

前記(4)のとおり,原告から警告書の送付を受けるなど,クリアノワールについて被告製品14に係る明らかな紛争が発生していたのであるから,その取締役であった被告P4においてこれを把握することは容易であった。また,前記(4)で認定したとおり,被告P3に確認すれば,特許権侵害が成立しないことの十分な論拠はなく,仮に特許権侵害が確定した場合の対応も想定しないままに,クリアノワールが被告製品14の販売を継続しようとしていることを知り得たのであるから,被告P4には,取締役である被告P3の監視・監督を怠る義務違反があったというべきであり,その過失の程度は重大というべきである。

4 原告の損害額(争点4)について

(1) 訴外2社の行為に係る原告の損害額

ア ネオケミアの行為に係る原告の損害額(ア) 証拠(甲45~49,51~57)及び弁論の全趣旨によれば,各被告製品とその顆粒の販売によるネオケミアの売上の額は別紙「ネオケミアの売上の推移」(ただし,平成22年12月6日の被告製品6の売上を除く)のとおりと認められる。そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1億0829万1485円である。証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任して訴訟追行していたことが認められ,ネオケミアの行為と相当因果関係のある弁護士費用等は,ネオケミアの利益の額の1割とするのが相当であるから,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害額及び弁護士費用は,1億0829万1485円であると認められる。また,原告は,700万円を回収した等として控除することを自認しているから,ネオケミアの行為と相当因果関係のある損害額として現存するのは,1億01

5 29万1485円であると認められる。

(イ) 上記1億0829万1485円という金額は,別件判決が特許法102条2項を適用して算出したネオケミアの損害賠償債務の元金部分(1億1107万7895円)から,被告製品6の売上にかかる部分と原告が差押え等により回収した700万円を控除した金額に一致するところ,被告らは,会社法429条1項に基づく責任に特許法102条2項を適用または類推適用すべきではない旨主張する。しかしながら,特許法102条2項は,推定を用いるとはいえ,特許権者が受けた損害賠償額を算定する方法を定めたものであり,別件判決の確定により,原告がネオケミアの特許権侵害により上記損害を受けたことは確定しているのであるから,取締役の善管注意義務違反によりネオケミアが特許権侵害を行ったことによる損害も,これと同じものであると解するのが相当であり,法的性質は 異なるとして,別途の算定をしなければならないと解すべき理由はない。イ クリアノワールの行為に係る原告の損害額(ア) 弁論の全趣旨によれば,被告製品14の販売に係る別紙「ダイヤモンドスキンジェルパック売上一覧表(クリアノワール)」の内容は,クリアノワールが自ら原告に開示したものであると認められ,被告製品14の販売によるクリアノワールの売上の額は当該別紙記載のとおりと認められる。そして,当該売上額から,原告において経費として控除することを自認する額を差し引き,その1割に相当する金額を弁護士費用として加算した金額は,1223万6265円であり,被告P4がクリアノワールの取締役であった平成26年11月30日までの期間の利益額は896万8027円である。証拠(甲5,6)によれば,別件訴訟において原告が弁護士及び弁理士に委任して訴訟追行していたことが認められ,クリアノワールの行為と相当因果関係のある弁護士費用等は,クリアノワールの利益の額の1割とするのが相当であるから,クリアノワールの行為と相当因果関係のある損害として特許法102条2項により推定される損害額及び弁護士費用は,1223万6265円であると認められる。

5 また,原告は,150万円を回収したとして控除することを自認しているから,

現存するクリアノワールの行為と相当因果関係のある損害額は,1073万6265円であると認められる。(イ) 上記1223万6265円という金額は,別件判決が特許法102条2項を適用して算出したクリアノワールの損害賠償債務の元金部分に一致するが,前記アで述べたとおり,取締役の善管注意義務違反によりクリアノワールが特許権侵害を行ったことによる損害も,同様に解するのが相当である。被告P3及び被告P4は,会社法429条1項は悪意又は重過失を要件としており,成立要件を厳格にしておきながら,損害額の立証については立証を容易にする推定規定を適用することは立法趣旨に反すると主張するが,会社法429条1項の責任は不法行為責任とは別個の責任を定めるものであるところ,第三者の生じた損害をどう認定するかについては何も定めておらず,特許権侵害があった場合の損害の算定について,特許法の規定を用いることを禁じるものとは解されない。

(2) 損害の発生について

被告P3及び被告P4は,クリアノワールが沖縄県内でのみ被告製品14を販売しており,原告は沖縄県内で原告製品を販売していなかったから,クリアノワールの行為によって原告は損害を被っていないと主張する。しかしながら,証拠(甲7,8)によれば,原告製品は販売地域を限定した製品とは認められないものであり,原告製品の性質上,沖縄県内での販売が困難であるとか,原告において沖縄県において原告製品を販売することができない事情があったとは認められないから,仮に原告製品が沖縄県において販売されていなかったとしても,被告製品14が販売されていることが原告製品の沖縄県への進出を妨げる等の損害が生じ得たのであり,特許法102条2項の適用を否定すべき理由とはならない。

(3) 被告らの任務懈怠行為との因果関係について

ア 被告P1について

5 前記3(2)のとおり,被告P1は,本件各特許が登録されたことを知ってなお,

ネオケミアにおいて各被告製品やその顆粒剤を製造販売するに際し,被告P1の当該意思決定によってネオケミアが本件各特許権の侵害行為をしたのであるから,ネオケミアが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)アの損害は,被告P1の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。イ 被告P2について前記3(3)のとおり,被告P2は,被告P1にネオケミアの業務執行を一任して監視・監督義務を怠ったものであり,これは重過失による任務懈怠行為に当たるところ,前記アのとおり,原告がネオケミアから受けた前記 (1)アの損害が被告P1の悪意の任務懈怠によって生じたものであって,被告P1の任務懈怠行為と同損害に相当因果関係があるのであるから,被告P2の任務懈怠行為と同損害にも相当因果関係があると認められる。ウ 被告P3について前記3(4)のとおり,被告P3は,原告から被告製品14の販売が本件各特許権の侵害となるとの通知を受けてなお,クリアノワールにおいて被告製品14を販売するに際し,調査・検討を怠って,漫然と被告製品14の販売を継続する意思決定をしたものであり, この善管注意義務違反は重過失による任務懈怠に当たるところ,クリアノワールが本件各特許権の侵害行為により原告に与えた前記(1)イの損害は,被告P3の任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。エ 被告P4について前記3(5)のとおり,被告P4は,被告P3にクリアノワールの業務執行を一任して監視・監督義務を怠ったものであり,これが任務懈怠行為に当たるところ,前記ウのとおり,原告がクリアノワールから受けた前記(1)イの損害が被告P3の重過失による任務懈怠によって生じたものであって,被告P3の任務懈怠行為と同損害に相当因果関係があるのであるから,被告P4の任務懈怠行為と被告P4がクリアノワールの取締役在任中にクリアノワールから原告が受けた損害にも相当因果関

5 係があると認められる。

そして,前記(1)イのとおり,被告P4がクリアノワールの取締役であった期間にクリアノワールが本件各特許権を侵害して被告製品14を販売したことにより得た利益は,896万8027円であり,原告は,これから回収済みの150万円を控除した746万8027円についてのみ被告P4に対して請求しているから,この全額について,被告P4の任務懈怠行為との間に相当因果関係があるものと認められる。

(4) 遅延損害金等

会社法429条1項の責任に係る債務は,不法行為の性質を有するものではないから,履行の請求を受けたときから遅滞に陥り,遅延損害金の利率は,民法所定の利率である。そうすると,本件の訴状送達の日の翌日(被告P1及び被告P2につき令和元年7月9日,被告P3及び被告P4につき同月7日)を遅延損害金の起算日とし,利率を改正前民法所定の年5分の割合とする

(原告の主張)

には理由がある。また,被告P1と被告P2,被告P3と被告P4は,それぞれ共通する損害について連帯して債務を負う(会社法430条)。

5 権利濫用の成否(争点6)について

被告P3及び被告P4は,本件各特許の発明者である被告P1が発明者としての相当の利益を得ておらず,別件訴訟で多額の損害を被ったのに対し,原告は,投下した労力や資金が少ないにもかかわらず,別件訴訟やその他の特許権侵害に基づく損害賠償請求訴訟により,特許法が本来想定する損害額を回収し,それ以上に多額の利益を得ているとし,原告が,被告P1個人や被告P1が有する特許権に基づく製品を取引してきた取引先に対してまで特許権侵害を原因として損害賠償請求までするのは,特許権者として権利の濫用というべきであると主張する。しかしながら,原告が特許権者である以上は,発明者であっても特許権侵害行為について損害賠償責任を免れるものではなく,別件訴訟その他の訴訟において原告

5 が得た損害賠償金が特許権侵害行為との因果関係を欠く不当なものであったと認め

るに足りる証拠はない。また,特許権侵害者が特許権者ではない発明者や別の特許の特許権者から許諾を受けているからといって,特許権者の権利行使が制約されるべき理由はない。そうすると,原告の被告P3及び被告P4に対する前記4の損害賠償請求権の行使が権利の濫用に当たるとは認められない。

6 結論

以上より,原告の主位的請求は,いずれも理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第21民事部裁判長裁判官谷 有 恒裁判官杉 浦 一 輝

5 裁判官

峯 健 一 郎(別紙)被告 製品目録

1 エコツージェル イーエックス

5 2 レバンテ リ ッツ スパークリングジェルパック

3 AL ジェルパッ ク

4 HIN アクネスラボ R ジェルパック

5 スラージュ315

6 オクシゲンジャグジー

7 スパークル1000プラス

8 ルージュフィル プレタパック

9 ラフェリーチェ CO2 ジェルパック

10 シモンシーオーツーパック

11 プレミアムセレクションジェルパック

12 エバーフィール ミキシングジェルパック

13 クーフォースジェルパック

14 DM スキンジェ ルパック

15 アヴィナスセレブジェルパック

16 シンデレラクイーン ビューティーシーオーツージ ェルパッ ク

17 イー・サー・ホワイト CO2 ジェルマスク

( 別 紙に つき被告製品目録を 除き 省略)

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