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令和3(ネ)10036著作権等の侵害に基づく削除等請求控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年9月30日
事件種別 民事
法令 著作権
著作権法112条1回
キーワード 侵害2回
損害賠償1回
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,インターネット上のウェブサイト(省略)に掲載されている原
3 被控訴人は,控訴人に対し,394万6758円及びこれに対する令和元年20
12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
1 本件は,原判決別紙原告作品目録記載1の文章(以下「原告文章」という。)
8円及びこれに対する不法行為の後である令和元年12月26日(訴状送達の
2 「前提事実」,「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,次のとおり補
3 当審における控訴人の補充主張
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
2 控訴人の当審における補充主張について20
3 以上によれば,控訴人の請求は,その余について判断するまでもなくいずれ
事件の概要 1 本件は,原判決別紙原告作品目録記載1の文章(以下「原告文章」という。) 及び同目録記載2-1ないし2-3のイラスト(以下「原告イラスト」といい, 原告文章とあわせて「原告作品」という。)を制作して,ツイッター上の自らの25 アカウントに投稿した控訴人が,被控訴人がインターネット上のウェブサイト に掲載した原判決別紙被告作品目録記載1-1ないし1-3のイラスト(以下 「被告イラスト」という。)及び同目録記載2の文章(以下「被告文章」といい, 被告イラストとあわせて「被告作品」という。)は著作物である原告作品に依拠 して制作されたものであり,被告作品をウェブサイトに掲載した行為は原告作 品に関する控訴人の翻案権,公衆送信権・送信可能化権及び同一性保持権を侵5 害するものである旨主張して,被控訴人に対し,①著作権法112条に基づい て,上記ウェブサイトに被告作品を掲載した全ての記事の削除を求めるととも に,②不法行為による損害賠償請求権に基づいて,逸失利益等394万675 8円及びこれに対する不法行為の後である令和元年12月26日(訴状送達の 日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定10 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

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判決文

令和3年9月30日判決言渡
令和3年(ネ)第10036号 著作権等の侵害に基づく削除等請求控訴事件
(原審・東京地方裁判所令和元年(ワ)第30833号)
口頭弁論終結日 令和3年8月31日
5 判 決
控 訴 人 X
同訴訟代理人弁護士 太 田 真 也
10 被 控 訴 人 Y
同訴訟代理人弁護士 藤 澤 潤
主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
15 事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,インターネット上のウェブサイト(省略)に掲載されている原
判決別紙被告作品目録記載の各作品を掲載した記事を全て削除せよ。
20 3 被控訴人は,控訴人に対し,394万6758円及びこれに対する令和元年
12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,原判決別紙原告作品目録記載1の文章(以下「原告文章」という。)
及び同目録記載2-1ないし2-3のイラスト(以下「原告イラスト」といい,
25 原告文章とあわせて「原告作品」という。)を制作して,ツイッター上の自らの
アカウントに投稿した控訴人が,被控訴人がインターネット上のウェブサイト
に掲載した原判決別紙被告作品目録記載1-1ないし1-3のイラスト(以下
「被告イラスト」という。 及び同目録記載2の文章
) (以下「被告文章」といい,
被告イラストとあわせて「被告作品」という。)は著作物である原告作品に依拠
して制作されたものであり,被告作品をウェブサイトに掲載した行為は原告作
5 品に関する控訴人の翻案権,公衆送信権・送信可能化権及び同一性保持権を侵
害するものである旨主張して,被控訴人に対し,①著作権法112条に基づい
て,上記ウェブサイトに被告作品を掲載した全ての記事の削除を求めるととも
に,②不法行為による損害賠償請求権に基づいて,逸失利益等394万675
8円及びこれに対する不法行為の後である令和元年12月26日(訴状送達の
10 日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決は,被告作品はいずれも原告作品を翻案したものではなく,また,被
告作品は原告作品とは別の著作物であって同一性保持権を侵害するものでは
ない旨判断して,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人がこれを不服として
15 控訴をした。
2 「前提事実」 「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は,次のとおり補

正し,後記3のとおり当審における控訴人の主張を付加するほかは,原判決の
「事実及び理由」中「第2 事案の概要」の1ないし3に記載のとおりである
から,これを引用する。
20 (原判決の補正)
(1) 2頁11行目の「5日」を「23日」に改める。
(2) 2頁24行目の末尾に行を改めて,次のとおり加える。
「(3) 原告作品及び被告作品に登場する「麦わら屋」 とらお

「 (又はトラ男)」
は,それぞれ漫画「ONE PIECE」
(尾田栄一郎作。集英社発行の
25 「週刊少年ジャンプ」に連載中。)に登場する「モンキー・D・ルフィ」,
「トラファルガー・ロー」の別名であり,同漫画において,
「ルフィ」は,
同漫画の主人公であり,
「海賊王」になることを夢見る少年として描かれ,
年齢19歳,身長174㎝の男性であり,身体がゴムのように伸びると
いう設定がされており,
「ロー」 同漫画に登場する海賊として描かれ,
は,
年齢26歳,身長191㎝の男性と設定されている。
(乙1,4,弁論の
5 全趣旨)」
3 当審における控訴人の補充主張
(1) 被告イラストは原告文章の翻案に当たること
原判決は,原告文章の著作物性について認めながらも,原告文章と被告イ
ラストを対比して,両者は描写対象の設定というアイデアにすぎず,表現そ
10 れ自体でない部分又は平凡かつありふれたものであり,表現上の創作性がな
い部分について同一性を有するものにとどまるので,被告イラストは原告文
章を翻案したものに当たらない旨判断した。
しかし,原告文章は,140文字という文字制限のあるツイッターに投稿
された文章であるため,情報量にはおのずと限界があり,そのような原告文
15 章において,身長差のある設定の2人の登場人物が,一般的に困難と思われ
る体位で性的行為を行っている点,性器の状態,及び登場人物の一方が壁に
つかまろうとしている点がアイデアないし表現それ自体でない部分又は平凡
かつありふれたものであり,表現上の創作性がない部分とすれば,思想又は
感情が創作的に表現された部分はほとんど存在しないことになるから,原判
20 決の上記判断は原告文章について著作物性を認めた判断と矛盾するものであ
る。
原告文章は,①公式発表によると身長差が17cmある「ロー」と「ルフ
ィ」という同性間の性交渉において,あえて性交渉が困難な体位を取らせた
性描写を行ったこと,②性的行為の初期段階から「ロー」の性器が「ルフィ」
25 の肛門に深く挿入されている状況の性描写がされていること,③「ルフィ」
が「ロー」の「攻め」に耐えるために「どうにか壁に掴まろう」とする状況
の性描写がされていること等が具体的な創作部分であり,被告イラストはこ
れらの3点が全て描写されているから,仮に身長差のある設定の2人の登場
人物が,一般的に困難と思われる体位で性的行為を行っている点,性器の状
態の点及び登場人物の一方が壁につかまろうとしている点が描写対象の設定
5 であるとしても,原告文章と被告イラストは,思想又は感情が創作的に表現
された部分について同一性があるから,被告イラストは,原告文章の翻案に
当たる。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。
(2) 被告文章は原告イラストの翻案に当たること
10 原判決は,原告イラストの著作物性を認めつつ,原告イラストと被告文章
を対比して,両者は描写対象の設定(2人いる登場人物の一方が性的行為の
際に勘違いをした状況で,他方の登場人物に対する言動・働きかけに及んで
いる点)について同一性を有するにとどまり,その設定は内面的思想たるア
イデアにすぎず,仮に表現と捉えられる部分があるとしても,平凡でありふ
15 れたものであり,表現上の創作性がない部分であるから,被告文章は原告イ
ラストを翻案したものに当たらない旨判断した。
しかし,原告イラストは,掲載できるイラストの容量に限界があるツイッ
ターに投稿されたイラストであるため,情報量にはおのずと限界があり,そ
のような原告イラストのうち,2人いる登場人物の一方が性的行為の際に勘
20 違いをした状況で,他方の登場人物に対する言動・働きかけに及んでいる点
全てが描写対象の設定というアイデアにすぎず,表現それ自体でない部分又
は平凡かつありふれたものであり,表現上の創作性がない部分になってしま
うのであれば,思想又は感情が創作的に表現された部分はほとんど存在しな
いことになるから,原判決の上記判断は原告イラストについて著作物性を認
25 めた判断と矛盾するものである。
原判決の第2の3(1)ウ(イ)のとおり,原告イラストは,①2人の登場人物
のうち「ルフィ」が性的行為の際に勘違いをした状況の性描写に加え,②漫
画の終了時点で「ロー」の性器が勃起状態にあるという性描写がされている。
被告文章は,①の性描写がされており,性交渉の際に尿を漏らしたと勘違い
している状況が発生した後に,
「ルフィ」が同じことをしようとする話に発展
5 をさせていこうとすれば,
「ロー」の性器が勃起状態にあることが不可欠であ
るため,原告イラストの最後のコマの「ルフィ」のセリフを受けて,あたか
も連歌のように,直前の状況や内容を参看し,その背景や情趣,心境を踏ま
えて,そのポエジーを受け継いで記載されたものである。
そうすると,2人いる登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況
10 で,他方の登場人物に対する言動・働きかけに及んでいる点が描写対象の設
定であるとしても,原告イラストと被告文章は,原告イラストの思想又は感
情を創作的に表現された部分について同一性が認められるから,被告文章は,
原告イラストを翻案したものといえる。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。
15 第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断する。その理由
は,後記2のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほ
かは,原判決の「第3 当裁判所の判断」の1及び2(ただし,10頁2行目
冒頭から3行目末尾までを除く。 に記載のとおりであるから,
) これを引用する。
20 2 控訴人の当審における補充主張について
(1) 被告イラストが原告文章の翻案に当たるとの点について
既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,
事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部
分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当
25 たらないことは引用する原判決が説示するとおりである。
本件についてみると,被告イラストは,原告文章と同じく,原作である「O
NE PIECE」に登場するキャラクターの設定に依拠して,身長差のあ
る同性の2人が,壁に掴まりながら特定の体位で性交渉を行うという描写に
おいて,原告文章と同一性を有するにとどまるものであり,こうした描写自
体は,アイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分である。
5 そうすると,原告文章を全体として見た場合に一定の創作性が認められる余
地があるとしても,前述のとおり,被告イラストは,原告文章のうちアイデ
アないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分において同一性を有
するにすぎないのであるから,原告文章の翻案に当たるものでないことは明
らかというべきである。
10 控訴人は,原告文章の創作性につき前記第2の3(1)のとおり指摘し,被告
イラストは,これらの創作部分が全て描写されているので,原告文章の翻案
に当たる旨主張するが,控訴人の指摘する部分は,いずれも,アイデアない
し表現上の創作性のない部分であるにすぎないし(「ONE PIECE」
に登場するキャラクターの設定については,当然のことながら創作性を認め
15 ることができない。),その具体的な表現ぶりも,性表現として平凡かつあ
りふれたものであり,そもそも被告イラストが当該表現部分に依拠して作成
されたと特定することもできないものといわざるを得ない。
したがって,控訴人の主張は失当というほかない。
(2) 被告文章が原告イラストの翻案に当たるとの点について
20 被告文章は,原作である「ONE PIECE」に登場するキャラクター
の設定に依拠して,原作に登場する2人の人物が性交渉後に,身長の低く若
い人物(ルフィ)が失禁したと勘違いし,動揺をしている描写設定において,
原告イラストと同一性を有するに止まり,こうした描写設定は,同性間の性
交渉を描写するに当たってのアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創
25 作性があるとはいえない部分である。そうすると,原告イラストを全体とし
て見た場合に一定の創作性が認められる余地があるとしても,前述のとおり,
被告文章は,原告イラストのうちアイデアないし着想にすぎないか,表現上
の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないのであるから,原告
イラストの翻案に当たるものでないことは明らかというべきである。
控訴人は,前記第2の3(2)のとおり,被告文章は,原告イラストの最後の
5 コマの「ルフィ」のセリフを受けて,あたかも連歌のように,直前の状況や
内容を参看し,その背景や情趣,心境を踏まえて,そのポエジーを受け継い
で記載されたものである旨主張するが,独自の見解というほかないものであ
り,控訴人主張のセリフ自体に表現上の創作性を認めることはできないし,
ましてやそのセリフから連歌性やポエジーの存在を認め,被告文章が原告イ
10 ラストに依拠した翻案に当たるなどと認めることは到底できない。
3 以上によれば,控訴人の請求は,その余について判断するまでもなくいずれ
も理由がない。
したがって,これと同旨の原判決の判断は相当であり,本件控訴は理由がな
いから棄却されるべきである。
15 よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
20 菅 野 雅 之
裁判官
中 村 恭
裁判官
岡 山 忠 広

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