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令和3(ネ)10054等損害賠償,同反訴請求控訴,同附帯控訴事件

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裁判所 控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年11月25日
事件種別 民事
当事者 被控訴人X ポラリスエコ株式会社 新理想工業株式会社
法令 不正競争
民法709条1回
キーワード 損害賠償9回
侵害5回
主文 1 控訴人らの本件控訴に基づき原判決中本訴請求に関する部分を次の20
2 反訴請求についての控訴人らの本件控訴を棄却する。
3 被控訴人新理想工業の本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審,本
5 本判決主文第1項⑴は仮に執行することができる。
事件の概要 (以下,略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)

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判決文

令和3年11月25日判決言渡
令和3年(ネ)第10054号,同第10067号 損害賠償,同反訴請求控訴,
同附帯控訴事件(原審・さいたま地方裁判所平成30年(ワ)第2327号,平成
31年(ワ)第175号)
5 口頭弁論終結日 令和3年9月28日
判 決
控訴人兼附帯被控訴人 X
控訴人兼附帯被控訴人 ポラリスエコ株式会社
(以下「控訴人ポラリスエコ」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 野 本 夏 生
被控訴人兼附帯控訴人 新 理 想 工 業 株 式 会 社
(以下「被控訴人新理想工業」という。)
主 文
20 1 控訴人らの本件控訴に基づき原判決中本訴請求に関する部分を次の
とおり変更する。
⑴ 控訴人らは,被控訴人新理想工業に対し,連帯して,30万円及
びこれに対する控訴人Xについては平成30年10月14日から,
控訴人ポラリスエコについては同月16日から各支払済みまで年5
25 分の割合による金員を支払え。
⑵ 被控訴人新理想工業のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
2 反訴請求についての控訴人らの本件控訴を棄却する。
3 被控訴人新理想工業の本件附帯控訴を棄却する。
4 訴訟費用(控訴費用,附帯控訴費用を含む。)は,第1,2審,本
訴反訴を通じてこれを5分し,その4を被控訴人新理想工業の負担と
5 し,その余を控訴人らの連帯負担とする。
5 本判決主文第1項⑴は仮に執行することができる。
事 実 及 び 理 由
第1 申立て
1 控訴の趣旨
10 ⑴ 原判決中,控訴人ら敗訴部分を取り消す。
⑵ 被控訴人新理想工業の本訴請求を棄却する。
⑶ 被控訴人新理想工業は,控訴人Xに対し,70万円及びうち40万円に対
する平成30年6月21日から,うち30万円に対する平成30年11月1
4日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
15 ⑷ 被控訴人新理想工業は,控訴人ポラリスエコに対し,150万円及びうち
100万円に対する平成30年6月21日から,うち50万円に対する平成
30年10月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 附帯控訴の趣旨
原判決主文第2項を次のとおり変更する。
20 ⑴ 控訴人らは,被控訴人新理想工業に対し,連帯して,300万円及びこれ
に対する控訴人Xについては平成30年10月14日から,控訴人ポラリス
エコについては同月16日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支
払え。
⑵ 被控訴人新理想工業のその余の本訴請求をいずれも棄却する。
25 第2 事案の概要等
(以下,略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
1 事案の概要
⑴ 本訴請求
本件本訴は,被控訴人新理想工業において,同社の元従業員である控訴人
Xが被控訴人新理想工業の営業秘密である仕入先情報(本件仕入先情報)を
5 不正の手段により取得し,控訴人Xが設立しその代表取締役を務める控訴人
ポラリスエコにおいて本件仕入先情報が使用されているとして,控訴人Xに
ついては,不正競争防止法(不競法)2条1項4号又は労働契約に付随する
競業避止義務違反若しくは秘密保持義務違反の債務不履行に基づく損害賠償
請求として,また,被控訴人ポラリスエコについては,同項5号に基づく損
10 害賠償請求として,いずれも内金3000万円,及びこれらに対する不正競
争行為の後の日かつ請求の日(本件訴状送達の日)の翌日である控訴人Xに
つき平成30年10月14日から,控訴人ポラリスエコにつき同月16日か
ら各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下
同じ。 所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払
) (遅延損害金につい
15 ては,平成30年10月16日からのものに限る。)を求めるとともに,予備
的に,被控訴人新理想工業から控訴人Xに対して示された本件仕入先情報が
控訴人ポラリスエコにおいて図利加害目的で使用されているとして,控訴人
Xについては不競法2条1項7号に基づく損害賠償請求として,控訴人ポラ
リスエコについては同項8号に基づく損害賠償請求として,いずれも上記同
20 額の金員の連帯支払を求めた事案である。
⑵ 反訴請求
本件反訴は,控訴人Xにおいて,被控訴人新理想工業が,①ⅰ)控訴人ポ
ラリスエコの取引先に対して控訴人Xが不正競争を行っている旨の通知書
(本件通知書)を送付したこと(本件通知行為),ⅱ)控訴人Xの社会的評価
25 を著しく低下させる主張が記載された本件訴状を本件第1回口頭弁論期日に
おいて陳述したこと,及び,②本件本訴を提起したことにより控訴人Xに精
神的苦痛を与えたとして,被控訴人新理想工業に対し,不法行為(民法70
9条)に基づく損害賠償請求として70万円及びこれに対する,うち上記①
ⅰ)により発生した40万円については不法行為日である平成30年6月2
1日(本件通知書による通知日)から,うち上記①ⅱ)及び②により発生し
5 た合計30万円については最後の不法行為日である同年11月14日(本件
第1回口頭弁論の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅
延損害金の支払を求め,また,控訴人ポラリスエコにおいて,被控訴人新理
想工業が上記①ⅰ)の本件通知行為及び同②の本件本訴の提起により控訴人
ポラリスエコの信用を毀損したとして,被控訴人新理想工業に対し,不法行
10 為(民法709条)に基づく損害賠償請求として700万円及びこれに対す
る,うち上記①ⅰ)により発生した650万円については不法行為日である
平成30年6月21日(本件通知書による通知日)から,うち上記②により
発生した50万円については不法行為日である平成30年10月1日(本件
本訴提起の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
15 金の支払を求めた事案である。
⑶ 原判決及び不服申立て
原審は,被控訴人新理想工業の本訴請求につき,控訴人らに対して162
万1200円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を命ずる限度でこれを
認容し,控訴人らの反訴請求はいずれも棄却した。
20 これに対し,控訴人Xは,本訴につき敗訴部分を,反訴につき全部敗訴を
不服として控訴を提起し,控訴人ポラリスエコは,本訴につき敗訴部分を不
服として控訴するとともに,全部敗訴した反訴につき150万円及びこれに
対する遅延損害金の支払を求める限度で控訴を提起した。他方,被控訴人新
理想工業は,本訴敗訴部分(原判決認容部分を除くその余の部分)のうち3
25 00万円及びこれに対する遅延損害金の連帯支払を求める限度で附帯控訴を
提起した。
2 前提事実
「前提事実」は,原判決4頁13行目の「原告代表者が,」の次に「同月12
日,」を加え,42頁21行目冒頭から同23行目末尾までを次のとおり改め,
47頁8行目及び49頁15行目の各「規定」をそれぞれ「規程」と改めるほ
5 かは,原判決の「事実及び理由」第2の1(「前提事実」)に記載されたとおり
であるから,これを引用する。

始業 午前9:30時 終業 午後18:30時
休憩時間 正午から午後1時まで(1時間) 調整
(判決注・上記「調整」は手書きである。 」

10 3 争点
「争点」は,原判決第2の2(「争点」)に記載されたとおりであるから,こ
れを引用する。
4 争点に関する当事者の主張
「争点に関する当事者の主張」は,次のとおり補正し,後記5に当審におけ
15 る当事者の補充主張を付加するほかは,原判決第2の3 「争点に関する当事者

の主張」)に記載されたとおりであるから,これを引用する。
⑴ 8頁1行目末尾に行を改め次のとおり加える。
「 数社ほどの一部の小口仕入業者については,福山通運の着払いの宅配便
で対応していたが(甲58) 被控訴人新理想工業の工場長が自ら荷物の受

20 取りと入荷伝票に対するサインをし,段ボールに付されている伝票は,は
がしてシュレッダーにかけ,入荷伝票控えはデスクの引出しに入れて施錠
をして管理し,これを3か月ごとにまとめて倉庫に保管替えをしていた。」
⑵ 10頁16行目から同17行目にかけての「会社名及び電話番号等を覚え
ており,」を「会社名を覚えており,この会社名を基に」と改める。
⑶ 12頁4行目の「委縮させ」を「萎縮させ」と改め,同15行目の「被告
らの行為」の前に「退職後に従事する業務において一般的な営業活動の範囲
内で用いる情報にすぎず,」を加える。
⑷ 13頁16行目末尾に行を改め次のとおり加え,同17行目冒頭の「オ」
5 を「カ」と改める。
「オ 控訴人Xは,被控訴人新理想工業が,海外販売価額に1枚当たり50
0円ないし600円の利益を見込んで買取価格を設定していることを知
っており,自らの利益を1枚当たり400円程度に抑えることで被控訴
人新理想工業の仕入先から中古液晶パネルを仕入れることを可能にした。
10 そこで,被控訴人新理想工業は,これに対抗して利益を1枚当たり40
0円ないし20円まで下げて仕入れることとなったため,従来,出荷1
回当たりの平均粗利が約330万2651円であったものが約189万
5569円に落ち込み,出荷1回当たり平均140万7082円の損失
が生じることとなった。
15 したがって,被控訴人新理想工業は,控訴人らの不正競争により,平
成30年7月から平成31年1月にかけての8回の出荷に際して112
5万6658円(≒140万7082円×8回)の損害を受けた。」
5 当審における当事者の新たな主張
(被控訴人新理想工業に生じた損害の有無及びその額(本訴争点4)について)
20 ⑴ 控訴人ら
控訴人ポラリスエコが中古液晶パネルを仕入れた各仕入業者は,被控訴人
新理想工業のみと中古液晶パネルの取引をしていたわけではないし,控訴人
ポラリスエコが仕入れた中古液晶パネルがこれら各仕入業者から被控訴人新
理想工業に対して売却が予定されていたものであったわけでもなく,これら
25 各仕入業者は,より高い買取価格を提示した相手業者があればその都度同相
手業者に中古液晶パネルを販売するなどして,相手を限定することなく幅広
く営業活動をしていたのである。したがって,控訴人ポラリスエコがこれら
各仕入業者から中古液晶パネルを仕入れると,その仕入れの分量だけ被控訴
人新理想工業の中古液晶パネルの仕入れが減少するという直接の関係はない。
そうすると,被控訴人新理想工業がこれら各仕入業者から過去に中古液晶パ
5 ネルを仕入れた実績を有するとの理由だけに基づいて,控訴人ポラリスエコ
の仕入分と被控訴人新理想工業の仕入減少分とを等しいものとし,被控訴人
新理想工業が,その減少分に相当する量の中古液晶パネルを従来の取引にお
ける価格をもって仕入れることができ,それら中古液晶パネルを第三者に販
売したとすれば得られたであろう利益をもって被控訴人新理想工業の損害と
10 する損害算定方法は,経験則に著しく反するものである。加えて,そもそも
被控訴人新理想工業は,原判決別紙「被告らの主張に基づく被告会社の仕入
一覧」に記載されている仕入先について,被控訴人新理想工業との間で中古
液晶パネルの取引実績があったことすら立証していない。
そして,控訴人ポラリスエコの営業活動自体も,各仕入先に対して,買取
15 価格を提示して同社への販売を勧誘したというものにすぎない。入札により
買取価格を決めるという制度があることから明らかなとおり,中古液晶パネ
ルの取引において,買取業者間における買取価格の競争が以前からも存在し
ていたのであり,従来からの取引先が,より高い買取価格を提示する者に販
売するよう取引の見直しを求めてくる可能性があるならば,それに応じて,
20 自らがより高い買取価格を提示する等の対策工夫を講じれば足りる。そのこ
とによって自らの利益が減るとしても,それは正当な自由競争の結果にほか
ならず,買取価格の提示のみをもって本件仕入先情報を使用した不正競争と
非難されるいわれはない。
⑵ 被控訴人新理想工業
25 控訴人ポラリスエコが買取単価をつり上げて被控訴人新理想工業の仕入先
から中古液晶パネルを仕入れたため,被控訴人新理想工業は,以前は比較的
安価(1枚の粗利500円前後)で液晶を仕入れることができた得意先から
も,入札と同様の高値(1枚の粗利20ないし50円)で買取りをせざるを
得ない状況となり,さらに,同業他社もこのような価格に追随せざるを得な
くなって,業界全体の仕入価格が大幅に上昇して価格バランスが崩されてし
5 まった。このように,控訴人ポラリスエコが遊技機リサイクル液晶の買取・
販売事業に参入し,この事業で業績を向上させて利益を向上させることは,
被控訴人新理想工業の同事業における利益低下に直結することである。
そして,遊技機リサイクル液晶の買取・販売事業は,知名度の低い特殊な
業種であるため,現在稼働している業者は数十社程度であり,中古液晶パネ
10 ルの仕入先は限られている。また,それら業者は,個人経営や零細業者がほ
とんどであって,ホームぺージを持たない業者も多いところ,本件システム
で管理されている本件仕入先情報は,被控訴人新理想工業がその営業努力に
よって少しずつ開拓していった誰もが知り得るものではない取引先に関する
情報である。そして,たとえ関係業者の中にホームページを有するような者
15 がいるとしても,そもそも,本件仕入先情報を使用してそのような関係業者
の社名を知らなければ,インターネットを用いて当該業者を検索することも
できず,当然ながら,当該業者に対して販売勧誘をすることもできず,そう
であれば,当該業者から遊技機リサイクル液晶を仕入れることもできないは
ずである。
20 第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は,本件本訴請求は,控訴人らに対して損害賠償金30万円及びこ
れに対する控訴人Xについては平成30年10月14日から,控訴人ポラリス
エコについては同月16日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による
遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,本件
25 反訴請求は,いずれも理由がないものと判断する。
その理由は,以下のとおり原判決を補正し,後記2に当審における当事者の
新たな主張に対する判断等を付加するほかは,原判決第3の1ないし8に記載
されたとおりであるから,これを引用する。
⑴ 18頁3行目の「遊技機リサイクル協会及び日本遊技機リサイクル専門業
者」を「一般社団法人遊技機リサイクル協会又は日本遊技機工業組合」と,
5 20頁19行目の「構成される。 から21頁2行目の
」 「収集したものであり,」
までを「構成され,」とそれぞれ改め,同8行目の「従来」から同10行目の
「行うために」までを削る。
⑵ 21頁25行目冒頭から22頁6行目の「根拠はない。 までを次のとおり

改める。
10 「 しかしながら,前記のとおり,本件仕入先情報は,一般に公開されたリ
サイクル専門業者等の特定のための情報を網羅的に収集して単に羅列し
たものではなく,被控訴人新理想工業との取引実績のある各仕入先に関す
る会社名,住所,電話番号等の特定のための情報を記録したものであると
ころ,被控訴人新理想工業とどの業者との間に取引実績があるかなど公知
15 であるはずもない。」
⑶ 24頁3行目の「そして,」から同10行目末尾までを次のとおり改める。
「そして,営業秘密であることが理解され得る情報に従業員等が業務上接し
たとしても,まさしくそれは企業活動において営業秘密が利用される場面そ
のものであるから,そのようなことがあっても当該情報が秘密管理性を欠く
20 ことにはならないのは当然である。したがって,本件仕入先情報に含まれる
仕入先の会社名等が入荷伝票や検品報告書に記載され,従業員がこれに接す
る機会があったとしても,それは業務上の必要から本件仕入先情報に接して
いるだけであって,そのことによって本件仕入先情報の秘密管理性が失われ
ることはない。さらに,搬送業者が仕入先である荷送人の名称等(仕入先)
25 に接することがあるとしても,搬送業者自体も契約上あるいは少なくとも条
理上みだりに荷送人の名称等を第三者に開示しない義務を有すると考えられ
るから,そのことをもって本件仕入先情報が秘密管理性を失うともいえない。
よって,控訴人らの上記主張を採用することはできない。」
⑷ 25頁10行目冒頭から同15行目末尾までを次のとおり改める。
「 控訴人Xは,平成29年11月下旬頃,被控訴人新理想工業代表者であ
5 るAから退職するよう申し向けられ,その予定で勤務を続けていたが,同
年12月7日頃に競業他社への就職等を禁止する競業避止義務等を定め
た「秘密保持に関する誓約書」
(甲13)に署名を求められ,同契約書への
署名を留保したところ,同月11日,もう会社に来なくてよいと告げられ,
以後出勤せず,同月20日付けで退職扱いとなった(甲10,13,乙1,
10 19,被控訴人新理想工業代表者,控訴人X本人) 」

⑸ 27頁14行目の「営業活動を行ったことからすると」を次のとおり改め
る。
「営業活動を行ったことが認められるところ,その営業活動において,以下
の事実が認められる。すなわち,①控訴人Xが株式会社ネオリサイクルの担
15 当者に対して同社の前身が株式会社アキラ産業である旨を述べたことがある
ところ(当事者間に明らかに争いがない。 ,本件仕入先情報には「アキラ産

業が倒産後,その従業員が立ち上げた会社」
(甲24)とそれに相応する掲載
がある。②控訴人Xが,ホームページを有しない個人である(乙14参照)
Bの電話番号を把握しているところ(当事者間に明らかに争いがない。 ,本

20 件仕入先情報には同人の電話番号が掲載されている(甲49,105)。③控
訴人Xが,上記Bに対し,同人が毎月月末持込みであるとの発言をしたこと
があるところ(当事者間に明らかに争いがない。 ,本件仕入先情報には「主

に月末持込」との掲載がある。④控訴人Xが,株式会社FPの事務所ではな
く社長自宅にファックス送信及び架電をしたところ(当事者間に明らかに争
25 いがない。 ,本件仕入先情報に同社長自宅のファックス及び電話番号が掲載

されている(弁論の全趣旨)。これらの事実に照らせば」
⑹ 28頁17行目の「上記②について,」の次に「控訴人らは,控訴人Xが他
の業務に従事している時間と納品時間とが重なることがないようにBの携帯
電話番号を教えてもらって時間調整をした旨主張するが, を加え,
」 同19行
目の「認められ,」から同21行目の「交換する」までを「認められるのであ
5 るから,控訴人らの主張する上記理由では,Bと控訴人Xとが電話番号を交
換する」と改める。
⑺ 29頁16行目の「開示することは, を
」 「開示し,利用可能とすることは,」
と改め,同20行目の「至ったとしても,」の次に「それは,被控訴人新理想
工業前代表者の突然の死去に伴う社内の混乱が収束するまでの臨時的な措置
10 にすぎず,」を加える。
⑻ 30頁7行目冒頭から同19行目末尾までを次のとおり改め,同22行目
の「又は不競法2条1項7号及び8号所定の不正競争行為」を削る。
「オ なお,被控訴人新理想工業は,予備的に,控訴人らが不競法2条1項
7号及び8号所定の不正競争を行った旨主張するが,同項4号及び5号
15 の不正競争が認められることは既に認定したとおりであるから,同主張
について判断をする必要はない(根拠法条に基づき損害賠償金額に差が
生じるともいえない。 。
)」
⑼ 31頁4行目冒頭から同24行目末尾までを次のとおり改める。
「 被控訴人新理想工業は,控訴人Xが,本件就業規則4条,本件秘密情報
20 管理規程7条又は労働契約に付随する義務として信義則上負う秘密保持
義務に違反し,また,本件就業規則4条,本件秘密情報管理規程8条によ
り負う競業避止義務に違反した旨主張する。
しかしながら,本件就業規則写し(甲7)や本件秘密情報管理規程写し
(甲8)の記載内容が従業員に周知されていたと認めるに足りる証拠はな
25 い。また,被控訴人新理想工業の主張する,労働契約書に記載のない信義
則上の義務なるものも,その具体的内容や根拠が不明であるというほかな
く,法的義務違反を導くものとは認められない。
被控訴人新理想工業は,本件就業規則が常時同社の事務所の見やすい場
所に備え付けられていた旨主張し,本件就業規則が掲示されている状況を
撮影した写真(甲40)を提出する。しかしながら,同写真に撮影された
5 本件就業規則と本件就業規則写し(甲7)の原本とは同一のものと認めら
れるところ,このことによると,本件就業規則は,
「平成19年10月1日
施行」とありそれ以降何ら改訂を加えた形跡のないものである上に,採用
条件(第5条)の条項の一部に「?」のマークが付されたまま,労働時間
(8条)について「48」が二重線で抹消され「40」との書込みがされ
10 たまま,休憩時間(8条)に「調整」との書込みがされたまま,特別休暇
(16条)の一部が二重線で抹消され新たな日数の書込みがされたままの
各状態で,単なる個人のメモ,心覚えの類のものではないかと疑われるも
のであって,このような記載内容のものが正規の就業規則として周知のた
めに掲示されていたり,入社の際に従業員に提示されていたとは認め難い。
15 したがって,本件就業規則は周知されたものではなく,被控訴人新理想工
業と控訴人Xとの間の雇用契約書(甲42)に記載されていない,就業規
則に基づく競業避止義務や秘密保持義務の存在を認めることはできない。
したがって,被控訴人新理想工業の秘密保持義務違反又は競業避止義務
違反に基づく請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも
20 理由がない。」
⑽ 32頁1行目冒頭から34頁17行目末尾までを次のとおり改める。
「ア 被控訴人新理想工業は,控訴人らの不正競争により,本来成立するは
ずであった仕入先との契約の受注の機会を喪失し,あるいは,通常の仕
入価格より高い価格で仕入れることとなり,従来と同程度の数量・同程
25 度の価格により仕入れを行えば得られたはずであろう利益を逸した損害
が発生した旨主張する。
イ しかしながら,前記1⑵アに説示したとおり,本件仕入先情報は,中
古液晶パネルを仕入れようとする者にとって,新規に仕入先を開拓する
ことになる場合と比べて,営業活動を効率よく行うことを可能にすると
ころに事業活動上の有用性が認められる情報であるところ,前記前提事
5 実,後掲証拠及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。
すなわち,①平成12年頃から,国内において,解体した廃棄遊技機
から有価物を取り出し再利用するリサイクルシステムの構築が取り組ま
れており,遅くとも,平成19年以降に一般社団法人遊技機リサイクル
協会が,平成15年以降に日本遊技機工業組合遊技機回収管理センター
10 が,平成13年以降に日本電動式遊技機工業協同組合がそれぞれ主導す
る遊技機のリサイクルシステムが運営されていること(甲87,88,
乙36ないし38,41),②一般社団法人遊技機リサイクル協会,日本
遊技機工業組合遊技機回収管理センター及び日本電動式遊技機工業協同
組合は,ホームページ上で遊技機の回収,解体等に係る指定業者,再生
15 処理会社,選定業者の名称,住所,電話番号等を公開していること(乙
7,8,41),③リサイクル事業は高齢者及び障害者の雇用促進との連
携も着目されているところ,独立行政法人福祉医療機構が運営する障害
福祉サービス事業者情報にはそれら事業所が紹介されていること(乙3
6,44) ④控訴人ポラリスエコの中古パネル液晶の仕入先となった業

20 者についてみると,有限会社アール・イー・コーポレーション及び株式
会社ピーエスリサイクル東北は,一般社団法人遊技機リサイクル協会の
指定業者や日本遊技機工業組合の遊技機リサイクル選定業者となってい
ること(乙7,46,47),有限会社オールズは自社ホームページでパ
チンコ液晶買取を標榜していること(乙10,45),⑤控訴人ポラリス
25 エコが営業活動を行った業者についてみると(上記④の業者を除く。 ,

株式会社ネオリサイクルは,上記障害福祉サービス事業者情報で遊技台
の解体,分別販売をする業者として紹介されていること(乙44),株式
会社中谷組は,一般社団法人遊技機リサイクル協会の指定業者及び日本
電動式遊技機工業協同組合の遊技機リサイクル選定業者となっており
(乙7,41) アンフィニ株式会社は平成31年2月21日まで一般社

5 団法人遊技機リサイクル協会の指定業者であったこと(乙9) ⑥前記1

⑴ア(ア)において説示したとおり,一般社団法人遊技機リサイクル協会
等の業界団体加盟の業者から中古液晶パネルを仕入れる場合には,入札
を経て仕入れをしなければならないものであるから,中古液晶パネルの
取引において,買取業者間における買取価格の正常な競争が以前からも
10 存在していたことが認められる。また,被控訴人新理想工業が原判決別
紙「被告らの主張に基づく被告会社の仕入一覧」記載の業者との間で,
契約等によって法的な拘束力が及ぶ継続的な中古液晶パネルの供給契約
関係を結んでいたことを認めるに足りる証拠や,控訴人ポラリスエコが
本件仕入先情報以外の被控訴人新理想工業の営業秘密を使用して上記仕
15 入先業者と買取交渉をしたことを認めるに足りる証拠はなく,これら業
者は,経済的合理性に従い買取価格がより高いところへ中古液晶パネル
を売却していたにすぎず,その取引先を被控訴人新理想工業とすること
について,事実上の拘束もなかったことは,本件の事実経過からみても
明らかというべきである。
20 ウ これらの事実や事情を前提に検討すると,営業秘密である本件仕入先
情報の使用があったと推認される平成30年4月ないし11月頃(前記
2⑴オ参照)の時点で,遊技台の中古液晶パネルの取引は一般に知られ
た事業であり,その取引に当たる業者がその連絡先を秘匿されることを
望んでいたとはいえず,通常の商取引同様,積極的に連絡先を公開して
25 多くの取引先を確保し,より利益をもたらす者を取引相手として選択す
るといった経済的合理性に基づく行動をしていたものといえ,そして,
法令上の各種制約からみれば,廃棄物たる遊技台の排出事業者も,その
廃棄物の取扱事業者の数も自ずと限定されたものであり,その探索が過
度に困難なものともいえない。また,平成25年から平成29年の間に
年当たり15万枚ないし26万枚という被控訴人新理想工業の中古液晶
5 パネルの取扱数(甲75)と対比してみれば,約9か月間で合計476
6枚という原判決別紙「被告らの主張に基づく被告会社の仕入一覧」程
度の取扱数を控訴人ポラリスエコが買い入れることで,中古液晶パネル
の市場において供給が払底し,その仕入れをすることが困難になるとは
認め難い。
10 そうすると,被控訴人新理想工業が自己の中古液晶パネルの仕入先情
報を控訴人らに使用されないこと自体から中古液晶パネルの仕入れが可
能又は容易になっているという関係が生じているとはいえないし,逆に,
被控訴人新理想工業が自己の中古液晶パネルの仕入先情報を控訴人らに
使用されること自体によってその仕入先を喪失するという関係が生じる
15 ともいえない。結局のところ,中古液晶パネルの仕入れの可否及び額は,
買取条件をどのように設定するかの自由競争の範囲内で決まる問題にす
ぎず,被控訴人新理想工業の仕入量・仕入額は,たまたま新規参入者が
限定されていたことによって生じた反射的なものというべきであり,本
件仕入先情報の取得,使用等とは関連しないものというほかない。そし
20 て,控訴人らが,本件仕入先情報を用いて,殊更,被控訴人新理想工業
の事業継続を困難にさせる意図をもって客観的に不相当な仕入価格を設
定したこと等,自由競争の範囲を超えるような行動をとったことを認め
るに足りる証拠もない。これらの事情に照らせば,契約の受注の機会を
喪失し,あるいは,従来と同程度の数量・同程度の価格により仕入れを
25 行えば得られたはずであろう利益を逸したことをもって,控訴人らの不
正競争により被控訴人新理想工業の損害と解することは相当ではない。
もっとも,前記イで触れた本件仕入先情報の事業上の価値に鑑みると,
営業秘密の侵害の不正競争により生じる最低限度の損害とされる,営業
秘密の使用に対して受けるべき金銭の額についての損害を観念すること
は可能というべきである。したがって,本件においては,この限度で損
5 害を算定すべきであるところ,その額は,その営業秘密としての価値や
控訴人らが取得した範囲の立証状況等,本件諸事情に鑑み,30万円と
認めるのが相当である。」
⑾ 35頁7行目の「162万1200円」を「30万円」と改め,同8行目
の「又は請求の日の翌日(本件訴状送達の日の翌日)」を削る。
10 ⑿ 36頁5行目の「権利を侵害されたと主張する者」を「権利を侵害された
者」と改め,同11行目の「当該告知の内容が真実でない限り,」を削り,同
25行目の「権利を侵害されたと主張する原告」を「権利を侵害された被控
訴人新理想工業」と改める。
2 当審における当事者の新たな主張に対する判断等
15 (1) 被控訴人新理想工業に生じた損害の有無及びその額について(前記第2の
5)
被控訴人新理想工業は,控訴人ポラリスエコが遊技機リサイクル液晶の買
取・販売事業に参入し,この事業で業績を向上させて利益を向上させること
と,被控訴人新理想工業の同事業における利益低下との間に関連性がある旨
20 主張するが,前記1において原判決を補正した上で説示したとおり,中古液
晶パネルの仕入れの可否及び額は,買取条件をどのように設定するかの自由
競争の範囲内で決まる問題にすぎず,被控訴人新理想工業の仕入量・仕入額
は,たまたま新規参入者が限定されていたことによって生じた反射的なもの
というべきであり,本件仕入先情報の取得,使用等とは関連しないものとい
25 うほかないから,被控訴人新理想工業の上記主張を採用することはできない。
また,被控訴人新理想工業は,本件仕入先情報を使用しなければ,遊技機
リサイクル液晶の仕入れをすることはできない旨主張するが,この点につい
ても原判決を補正した上で既に説示したとおり,遊技台の中古液晶パネルの
取引に当たる業者は通常の商取引同様,積極的に連絡先を公開して多くの取
引先を確保し,より利益をもたらす者を取引相手として選択するといった経
5 済的合理性に基づく行動をしていたものといえ,これらの業者の探索が過度
に困難なものともいえないから,本件仕入先情報を取得すること自体には,
その記載の相手方からの仕入れを可能にする効果はなく,本件仕入先情報の
価値は,中古液晶パネルを仕入れようとする者の営業活動を効率よく行うこ
とを可能にする程度にとどまるというべきである。したがって,被控訴人新
10 理想工業の上記主張を採用することもできない。
よって,これらの点については,控訴人らの主張に酌むべき点があり,
前記1のとおり,原判決の該当部分を補正したところである。
(2) 控訴人ら及び被控訴人新理想工業は,そのほか,それぞれ原判決及び相
手方の主張が不当であるとして,るる主張し,口頭弁論終結後にも準備書面
15 を提出するが,必要に応じ前記1のとおり原判決を補正した点を除き,本件
認定判断を左右しない。
3 結論
よって,被控訴人新理想工業の本訴請求は,30万円及びこれに対する遅延
損害金の連帯支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余
20 は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,162万1200円及び
これに対する遅延損害金の限度で認容し,その余を棄却した原判決は一部失当
であって,本件控訴の一部は理由があるから,原判決を上記のとおり変更する
とともに,被控訴人新理想工業の本件附帯控訴は理由がないからこれを棄却す
ることとし,控訴人らの反訴請求はいずれも理由がなく,これを棄却した原判
25 決は相当であって,控訴人らの反訴請求についての本件控訴は理由がないから
これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
中 村 恭

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