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令和3(行ケ)10016審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年11月30日
事件種別 民事
当事者 原告デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
被告特許庁長官
法令 特許権
特許法70条2項2回
特許法70条1項1回
特許法67条2項1回
キーワード 実施39回
審決15回
特許権7回
侵害2回
無効1回
優先権1回
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 原告のため,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付
事件の概要 本件は,特許権存続期間延長登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立 とした審決の取消訴訟である。

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判決文

令和3年11月30日判決言渡

令和3年(行ケ)第10016号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 令和3年9月21日

判 決

原 告 デビオファーム・インターナショナル・エス・アー

同訴訟代理人弁理士 森 田 慶 子

小 國 泰 弘

三 輪 繁

被 告 特 許 庁 長 官

同 指 定 代 理 人 原 田 隆 興

田 村 聖 子

長 井 啓 子

小 暮 道 明

山 田 啓 之

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 原告のため,この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付

加期間を30日と定める。

事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた裁判

特許庁が不服2019-15516号事件について令和2年9月16日にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,特許権存続期間延長登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。1 本件特許(甲1)

(1) 原告は,以下の特許(以下「本件特許」という。)の特許権者である。発明の名称 オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用特許番号 第4430229号出願日 平成11年2月25日優先日 平成10年2月25日 (優先権主張国:英国(GB))登録日 平成21年12月25日

(2) 本件特許の特許請求の範囲の請求項1~17に記載の各発明(以下併せて「本件各発明」といい,それぞれ対応する請求項の番号に合わせて「本件発明1」などという。)は次のとおりである。なお,本件各発明について訂正を認める審決(無効―800121号。甲8)が平成30年4月16日に確定しており,以下の記載は訂正後のものである。【請求項1】オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物であって,製薬上許容可能な担体が水であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,1) 緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10- 5M~1x10- 2M,(b)5x10- 5M~5x10- 3M,(c)5x10- 5M~2x10- 3M,(d)1x10- 4M~2x10- 3M,または(e)1x10- 4M~5x10- 4Mの範囲のモル濃度である,pH が3~4.5の範囲の組成物,あるいは2)緩衝剤の量が,5x10- 5M~1x10- 4 Mの範囲のモル濃度である,組成物。【請求項2】緩衝剤がシュウ酸またはシュウ酸ナトリウムである請求項1の組成物。【請求項3】緩衝剤がシュウ酸である請求項2の組成物。【請求項4】緩衝剤の量が 1x10- 4 M~5x10- 4 Mの範囲のモル濃度である請求項1の組成物。【請求項5】緩衝剤の量が 4x10- 4Mのモル濃度である請求項4の組成物。【請求項6】オキサリプラチンの量が1~5mg/mL である請求項1~5のいずれかの組成物。【請求項7】オキサリプラチンの量が2~5mg/mL である請求項1~5のいずれかの組成物。【請求項8】オキサリプラチンの量が5mg/mL であり,そして緩衝剤の量が 2x10- 4 Mのモル濃度である請求項3の組成物。【請求項9】オキサリプラチンの量が5mg/mL であり,そして緩衝剤の量が 4x10- 4 Mのモル濃度である請求項3の組成物。【請求項10】オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含するオキサリプラチン溶液組成物の安定化方法であって,有効安定化量の緩衝剤を前記溶液に付加することを包含し,前記溶液が水性溶液であり,緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,緩衝剤の量が,以下の:(a)5x10- 5M ~1x10- 2M,(b)5x10- 5M ~5x10- 3M,(c)5x10- 5M ~2x10- 3M,(d)1x10- 4M ~2x10- 3M,または(e)1x10- 4M ~5x10- 4Mの範囲のモル濃度である方法。【請求項11】請求項1~9のいずれかの組成物の製造方法であって,製薬上許容可能な担体,緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法。【請求項12】請求項1~9のいずれかの組成物の製造方法であって,以下の:(a)製薬上許容可能な担体および緩衝剤を混合し,(b)オキサリプラチンを前記混合物中に溶解し,(c)工程(b)からの混合物を冷却して,製薬上許容可能な担体を補って最終容積を満たし,(d)工程(c)からの溶液を濾過し,そして(e)工程(d)からの生成物を任意に滅菌する工程を含む方法。【請求項13】前記方法が不活性大気中で実行される請求項12の方法。【請求項14】工程(d)から生じる生成物が熱に曝露されることにより滅菌される請求項12の方法。【請求項15】密封容器中に請求項1~9のいずれかの組成物を包含する包装製剤製品。【請求項16】容器がアンプル,バイアル,注入袋または注射器である請求項15の包装製剤製品。【請求項17】容器が目盛付注射器である請求項16の包装製剤製品。2 特許庁における手続の経緯

(1) 原告は,平成27年6月19日,下記(2)のとおり,平成28年法律第108号による改正前の特許法67条2項の政令で定める処分(以下「本件処分」という。)を受けることが必要であったために,本件特許の特許発明の実施をすることができない期間があったとして,本件特許について特許権存続期間延長登録出願(以下「本件出願」という。)をしたが,令和元年8月1日付けで拒絶査定を受け,同年11月日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は上記請求を不服2019-号事件として審理をした上,令和2年9月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同年10月6日,原告に送達された。

(2) 本件出願の内容は次のとおりであった。(甲2)ア 延長を求める期間 5年イ 本件処分を受けた日 平成27年3月20日ウ 本件処分の内容(ア) 特許権の存続期間の延長登録の理由となる処分薬事法(平成25年法律第84号による改正前の題名であり,現在の題名は,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保に関する法律。令和元年法律第号による改正前のもの。以下「法」という。)14条9項に規定する医薬品に係る同項の承認(イ) 処分を特定する番号承認番号 22100AMX02237000(ウ) 処分の対象となった物(以下「本件医薬品」という。)販売名:エルプラット点滴静注液50mg有効成分:オキサリプラチン(エ) 処分の対象となった物について特定された用途治癒切除不能な進行・再発の胃癌3 本件審決の理由の要点

(1) 本件各発明は,いずれも,特許請求の範囲の請求項1又は請求項10に規定される所定の「緩衝剤の量」を発明特定事項として含むものであり,この「緩衝剤の量」とは,オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,当該「緩衝剤の量」に含まれないと解するのが相当である。

(2) そうすると,本件医薬品についても,その作製時に,オキサリプラチン及び担体に対して,本件各発明の発明特定事項の濃度となるよう緩衝剤が添加,混合されたものでなければならない。しかしながら,願書に添付した「延長の理由を記載した資料」,当該「延長の理由を記載した資料」を補正する平成27年8月21日付け手続補正書及び参考資料1~8のいずれをみても,本件医薬品において,緩衝剤が外から添加されたものとは認められない。したがって,本件医薬品は,本件各発明のいずれについても,発明特定事項の全てを備えているといえず,特許発明の実施に政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められない。

第3 当事者の主張

(原告の主張)

1 「緩衝剤の量」の認定の誤り

本件発明1は,「安定オキサリプラチン溶液組成物」が「緩衝剤」を「包含する」こと,「緩衝剤」 「シュウ酸」が であること,「緩衝剤の量」が請求項1の1) (a)の ,(b)(c)(d)又は(e)若しくは2)に記載されるモル濃度を満たすことが, ,特定されているのみであって,本件審決が認定する「オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸(原告注:すなわち緩衝剤)は,緩衝剤の量に含まれない」なる事項及び「オキサリプラチン溶液組成物は,製薬上許容可能な担体,緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することにより製造され」るという製造方法に係る事項は,本件発明1において特定されておらず,本件審決の上記認定は,本件発明1の発明特定事項に記載のない事項を必須事項として認定するものであり,その認定には誤りがある。なお,

(被告の主張)

する発明の「技術的範囲」の解釈は,特許権侵害訴訟の充足論において妥当するものであり,特許権延長登録出願における特許請求の範囲の記載の解釈においてではない。また,本件発明1の「緩衝剤」の「量」は,特許請求の範囲の記載から一義的に明確に確定できるから,実施例等の発明の詳細な説明の記載から特許請求の範囲に記載されていないことを取り込んで,本件各発明を限定的に解釈することは許されない。

2 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かに

ついて

(1) 本件医薬品の有効成分であるオキサリプラチンを水に加えると,下図のとお

り,オキサリプラチン1分子が水2分子の付加により解離されて,シュウ酸1分子が遊離する。シュウ酸上図で示された解離は平衡状態として知られており,遊離したシュウ酸は緩衝剤としての役割を果たす。本件医薬品であるエルプラット点滴静注液も,その成分がオキサリプラチンと注射用水であるから,同製剤中でシュウ酸が遊離し,それが緩衝剤の役割を果たす。

(2) 甲9(実験報告書)によると,本件医薬品のシュウ酸モル濃度は,製造直後

においても,本件発明1で特定されたモル濃度の範囲を満たしており(実験データ),36箇月保存した後も,依然として,本件発明1で特定されたモル濃度の範囲を満たしている(実験データ2)。そうすると,本件医薬品は,本件発明1の発明特定事項を全て満たしており,その製造販売行為は本件各発明の実施行為に該当する。

(被告の主張)

1 「緩衝剤の量」の認定について

被告は,緩衝剤の量」「 の意味するところを,明細書の記載を参酌して判断したが,このこと自体に誤りはない(特許法70条1項・2項)。そして,本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の記載,特に,従来技術,本件各発明が解決しようとする課題,課題を解決するための手段,緩衝剤の定義,実施例や比較例等の記載を総合すると,「緩衝剤の量」とは,オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチンの経時的な分解を防ぐために,添加,混合された緩衝剤の量を意味する一方,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量を,当該「緩衝剤の量」に含めることは,従来技術,本件各発明が解決しようとする課題,課題を解決するための手段,緩衝剤の定義,実施例や比較例等の記載に反することであるから,本件審決で,「この『緩衝剤の量』とは,オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,当該『緩衝剤の量』に含まれないと解するのが相当である」と判断したことに誤りはない。また,このように解することは本件特許の特許請求の範囲の記載とも整合する。そして,本件審決は,上記「緩衝剤の量」の認定を前提として,本件医薬品の製造販売行為が本件各発明の実施に該当するには,本件医薬品が本件各発明の発明特定事項を全て備えている必要があり,そのためには,本件医薬品も「その作製時に,オキサリプラチン及び担体に対して,本件各発明に発明特定事項の濃度となるよう緩衝剤が添加,混合されたものでなければならない」と説示したものであって,本件各発明の発明特定事項ではない事項を必須事項として認定したものではないから,何ら誤りはない。

2 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かに

ついて本件各発明における「緩衝剤の量」については,「オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,当該『緩衝剤の量』に含まれないと解するのが相当である」と本件審決において説示したとおりであり,オキサリプラチンと注射用水からなる本件医薬品中でオキサリプラチンが水と反応して遊離したシュウ酸を緩衝剤とし,甲9に基づきその量が本件各発明の発明特定事項を満たすという

(原告の主張)

は,その前提において誤りである。

第4 当裁判所の判断

1 本件各発明について

(1) 本件明細書(甲1)には次の記載がある。【発明の詳細な説明】【0001】本発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物,癌腫の治療におけるその使用方法,このような組成物の製造方法,およびオキサリプラチンの溶液の安定化方法に関する。【0010】・・・Ibrahim 等(豪州国特許出願第 29896/95 号,1996年3月7日公開)(WO96/04904,1996年2月22日公開の特許族成員)は,1 ~5mg/mL の範囲の濃度のオキサリプラチン水溶液から成る非経口投与のためのオキサリプラチンの製薬上安定な製剤であって,4.5~6の範囲のpHを有する製剤を開示する。同様の開示は,米国特許第 5,716,988 号(1998年2月10日発行)に見出される。【0012】・・・オキサリプラチンは,注入用の水または5%グルコース溶液を用いて患者への投与の直前に再構築され,その後5%グルコース溶液で稀釈される凍結乾燥粉末として,前臨床および臨床試験の両方に一般に利用可能である。しかしながら,このような凍結乾燥物質は,いくつかの欠点を有する。中でも第一に,凍結乾燥工程は相対的に複雑になり,実施するのに経費が掛かる。さらに,凍結乾燥物質の使用は,生成物を使用時に再構築する必要があり,このことが,再構築のための適切な溶液を選択する際にそこにエラーが生じる機会を提供する。例えば,凍結乾燥オキサリプラチン生成物の再構築に際しての凍結乾燥物質の再構築用の,または液体製剤の稀釈用の非常に一般的な溶液である0.9%NaCl 溶液の誤使用は,迅速反応が起こる点で活性成分に有害であり,オキサリプラチンの損失だけでなく,生成種の沈澱を生じ得る。凍結乾燥物質のその他の欠点を以下に示す:(a) 凍結乾燥物質の再構築は,再構築を必要としない滅菌物質より微生物汚染の危険性が増大する。【0013】(b) 濾過または加熱(最終)滅菌により滅菌された溶液物質に比して,凍結乾燥物質には,より大きい滅菌性失敗の危険性が伴う。そして,(c) 凍結乾燥物質は,再構築時に不完全に溶解し,注射用物質として望ましくない粒子を生じる可能性がある。水性溶液中では,オキサリプラチンは,時間を追って,分解して,種々の量のジアクオ DACH プラチン(式I),ジアクオ DACH プラチン二量体(式 II)およびプラチナ(IV)種(式 III ):【0014】【化3】【0015】【化4】【0016】を不純物として生成し得る,ということが示されている。任意の製剤組成物中に存在する不純物のレベルは,多くの場合に,組成物の毒物学的プロフィールに影響し得るので,上記の不純物を全く生成しないか,あるいはこれまでに知られているより有意に少ない量でこのような不純物を生成するオキサリプラチンのより安定な溶液組成物を開発することが望ましい。【0017】したがって,前記の欠点を克服し,そして長期間の,即ち2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える(RTU)形態のオキサリプラチンの溶液組成物が必要とされている。したがって,すぐに使える形態の製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物を提供することによりこれらの欠点を克服することが,本発明の目的である。【0018】より具体的には,本発明は,オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤および製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関する。シス-オキサラト(トランス-l-1,2-シクロヘキサンジアミン)プラチナ(II)[SP-4-2]-(1R,2R)-(シクロヘキサン-1,2-ジアミン(-k2 N,N'(オキサラト(2-)-k2 O1,O2)プラチナ(II)(1,2-シク,ロヘキサンジアミン-N,N')[エタンジオエート(2-)-O,O']-[SP-4-2-(1R-トランス)]-プラチナ,シス-[オキサラト(1R,2R-シクロヘキサンジアミン)プラチナ(II),(1R,2R)-1,2-シクロヘキサ][ンジアミン-N,N'][オキサラト(2-)-O,O']プラチナ,[SP-4-2-(1R-トランス)]-(1,2-シクロヘキサン-ジアミン-N,N')[エタンジオエート(2-)-O,O']プラチナ,1-OHPおよびシス-オキサラト(トランス-l-1,2-ジアミノシクロ-ヘキサン(プラチナ(II))とも呼ばれる)として化学的に知られており,以下の:【0019】【化5】【0020】で示される化学構造を有するオキサリプラチンは,種々の種類の罹患しやすい癌および腫瘍,例えば結腸癌,卵巣癌,類表皮癌,胚細胞(例えば,精巣,縦隔,松果体)の癌,非小細胞肺癌,非ホジキンリンパ腫,乳癌,上気道および消化管の癌,悪性黒色腫,悪性肝癌,尿路上皮癌,前立腺癌,小細胞肺癌,膵臓癌,胆嚢癌,肛門癌,直腸癌,膀胱癌,小腸癌,胃癌,白血病および種々のその他の種類の固形腫瘍の治療に有用な細胞増殖抑制性抗新生物剤である。【0022】オキサリプラチンは,約1~約7mg/mL,好ましくは約1~約5mg/mL,さらに好ましくは約2~約5mg/mL,特に約5mg/mL の量で本発明の組成物中に存在するのが便利である。緩衝剤という用語は,本明細書中で用いる場合,オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオ DACH プラチンおよびジアクオDACH プラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。したがって,この用語は,シュウ酸またはシュウ酸のアルカリ金属塩(例えばリチウム,ナトリウム,カリウム等)等のような作用物質,あるいはそれらの混合物が挙げられる。緩衝剤は,好ましくは,シュウ酸またはシュウ酸ナトリウムであり,最も好ましくはシュウ酸である。【0023】緩衝剤は,有効安定化量で本発明の組成物中に存在する。緩衝剤は,約 5x10-5M~約 1x10-2M の範囲のモル濃度で,好ましくは約 5x10-5M~5x10-3Mの範囲のモル濃度で,さらに好ましくは約 5x10-5M~約 2x10-3Mの範囲のモル濃度で,最も好ましくは約 1x10-4M~約 2x10-3Mの範囲のモル濃度で,特に約 1x10-4M~約 5x10-4Mの範囲のモル濃度で,特に約 2x10-4M~約 4x10-4Mの範囲のモル濃度で存在するのが便利である。【0027】本発明はさらに,オキサリプラチンの溶液を安定化するための方法であって,有効安定化量の緩衝剤を前記の溶液に付加することを包含する方法に関する。この方法の好ましい局面では,溶液は水性(水)溶液であり,緩衝剤はシュウ酸またはそのアルカリ金属塩である 。本発明は,本発明のオキサリプラチン溶液組成物の製造方法であって,製薬上許容可能な担体,緩衝剤およびオキサリプラチンを混合することを包含する方法にも関する。【0028】本発明のオキサリプラチン溶液組成物の好ましい製造方法は,以下の:(a)製薬上許容可能な担体および緩衝剤を,好ましくは約 40℃で混合し,(b)オキサリプラチンを前記混合物中に,好ましくは約 40℃で溶解し,(c)工程(b)からの混合物を,好ましくは約室温に冷却して,製薬上許容可能な担体を補って最終容積を満たし,(d)工程(c)からの溶液を濾過し,そして(e)工程(d)からの生成物を任意に滅菌する工程を含む。前記の方法は,不活性大気の存在下または非存在下で実行するのが便利であるが,しかし不活性大気中で,例えば窒素中で実行するのが好ましい,ということを留意すべきである。【0030】前記の本発明のオキサリプラチン溶液組成物は,本明細書中でさらに詳細に後述するように,現在既知のオキサリプラチン組成物より優れたある利点を有することが判明している,ということも留意すべきである。凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチンとは異なって,本発明のすぐに使える組成物は,低コストで且つさほど複雑ではない製造方法により製造される。【0031】さらに,本発明の組成物は,付加的調製または取扱い,例えば投与前の再構築を必要としない。したがって,凍結乾燥物質を用いる場合に存在するような,再構築のための適切な溶媒の選択に際してエラーが生じる機会がない。本発明の組成物は,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物よりも製造工程中に安定であることが判明しており,このことは,オキサリプラチンの従来既知の水性組成物の場合よりも本発明の組成物中に生成される不純物,例えばジアクオ DACH プラチンおよびジアクオ DACH プラチン二量体が少ないことを意味する。【0034】以下の実施例で本発明をさらに説明するが,しかしながら本発明はそれらに限定されない。温度はすべて摂氏(℃)で表される。表1Aおよび1Bに記載された実施例1~14の組成物は,以下の一般手法により調製した:注射用温水(W.F.I.)(40℃)を分取し,濾過窒素を用いて約30分間,その中で発泡させる。【0035】必要とされる適量の W.F.I.を,窒素中に保持しながら容器に移す。最終容積を満たすために残りの W.F.I.を別に取りのけておく。適切な緩衝剤(固体形態の,または好ましくは適切なモル濃度の水性緩衝溶液の形態の)を適切な容器中で計量して,混合容器(残りの W.F.I.の一部を含入する濯ぎ容器)に移す。例えば,磁気攪拌機/ホットプレート上で,約10分間,または必要な場合にはすべての固体が溶解されるまで,溶液の温度を40℃に保持しながら混合する。【0039】【表1】【0041】【表2】【0042】注:実施例8~14の組成物のために用いられた密封容器は,20mL 透明ガラスアンプルであった。シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。表1Cに記載した実施例15および16の組成物は,実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製した。【0044】注:実施例15~16の組成物のために用いられた密封容器は,20mL 透明ガラスアンプルであった。シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。表1Dに記載した実施例17の組成物は,実施例1~14の組成物の調製に関して前記した方法と同様の方法で調製したが,但し,(a)窒素の非存在下で(即ち酸素の存在下で)密封容器中に溶液を充填し,(b)充填前に密封容器を窒素でパージせず,(c)容器を密封する前に窒素でヘッドスペースをパージせず,そして(d)密封容器はアンプルよりむしろバイアルであった。【0045】【表4】【0046】注:実施例17の溶液組成物 1000mL を,5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL溶液/バイアル),これを West Flurotec ストッパーで密封し(以後,実施例17(a)と呼ぶ),実施例17の残りの 1000mL 溶液組成物を 5mL 透明ガラスバイアル中に充填し(4mL 溶液/バイアル),これを Helvoet Omniflex ストッパーで密封した(以後,実施例17(b)と呼ぶ)。【0047】シュウ酸は二水和物として付加される;ここに示した重量は,付加されたシュウ酸二水和物の重量である。・・・【0050】実施例18比較のために,例えば豪州国特許出願第 29896/95 号(1996年3月7日公開)に記載されているような水性オキサリプラチン組成物を,以下のように調製した:1000mL より多い注射用水(W.F.I.)を分取し,濾過窒素を約 30 分間,溶液中で発泡させる。 磁気攪拌機/ホットプレート上で攪拌し,W.F.I.を 40℃に加熱する。【0051】800mL の W.F.I.を 1000mL スコットボトル中に移し,N2 霧中に保持する。最終容積を満たすために W.F.I.の残り(200mL)を別に取りのけておく。オキサリプラチン(5.000g)を小ガラスビーカー(25mL)中で計量して,スコットボトル中に移し,約 50mL の温 W.F.I.でビーカーを濯ぐ。混合物を,磁気攪拌機/ホットプレート上で,すべての固体が溶解されるまで,温度を 40℃に保持しながら攪拌する。【0052】溶液を室温に冷却させた後,それを 1000mL 容積フラスコに移して, (約 20℃)冷W.F.I.で最終容積を 1000mL とする。真空管路を用いて,ミリポアGV型直径 47mm,0.22 ㎛フィルターを通して,溶液を 1000mL フラスコ中に濾過する。次に溶液を,滅菌 1.2 ㎛使い捨て親水性充填ユニット(Minisart‑NML, Sartorius)を用いて,洗浄,滅菌済の 20mL ガラスアンプル中に充填した。充填前に窒素でアンプルをパージし,ヘッドスペースを密封前に窒素でパージした。【0053】

23 本のアンプルをオートクレーブ処理せずに保持し(以後,実施例18(a)と呼ぶ),即ちそれらを最終滅菌せず,残り 27 本のアンプル(以後,実施例18(b)と呼ぶ)を,SAL(PD270)オートクレーブを用いて,121℃で 15 分間オートクレーブ処理した。・・・【0063】・・・実施例1~17の組成物に関する安定性試験実施例1~14のオキサリプラチン溶液組成物を,6ヶ月までの間,40℃で保存した。・・・【0067】・ ・実施例15および16のオキサリプラチン溶液組成物を,・ 9ヶ月までの間,℃/相対湿度(RH)60%および 40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。・・・【0070】・・・実施例17(a)および17(b)のオキサリプラチン溶液組成物を,1ヶ月までの間,25℃/相対湿度(RH)60%および 40℃/相対湿度(RH)75%で保存した。・・・【0072】・・・これらの安定性試験の結果は,緩衝剤,例えばシュウ酸ナトリウムおよびシュウ酸が,本発明の溶液組成物中の不純物,例えばジアクオ DACH プラチンおよびジアクオ DACH プラチン二量体のレベルを制御する場合に非常に有効である,ということを実証する。【0073】比較例18の安定性実施例18(b)の非緩衝化オキサリプラチン溶液組成物を,40℃で1ヶ月間保存した。この安定性試験の結果を,表8に要約する。【0074】【表14】

(2) 前記第2の1(2)の本件特許の特許請求の範囲及び上記(1)の本件明細書の記載によると,本件各発明は,製薬上安定なオキサリプラチン溶液組成物,癌腫の治療におけるその使用方法,このような組成物の製造方法,およびオキサリプラチンの溶液の安定化方法に関するものであって 【0001】,( ) 従来からある使用時に再構築が必要で,エラーが生じる機会があるという欠点を有する凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン(【0012】,【0013】)に換えて,従来技術であるオキサリプラチン水溶液(豪州国特許出願第 29896/95 号等。【0010】)の分解による不純物の生成を回避又は有意に減らすことで,2年以上の保存期間中,製薬上安定である,すぐに使える形態のオキサリプラチンの溶液組成物を提供することを目的とする(【0014】~【0017】)ものと認められる。

2 延長登録について特許権の存続期間の延長登録の制度は,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復することを目的とするものであるから,本件医薬品の製造販売が,本件各発明の実施に当たらないのであれば,本件処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかったということはできない。ところで,本件処分は,オキサリプラチンを有効成分とする「エルプラット点滴静注液50mg」(本件医薬品)に係る本件処分に係る医薬品製造販売承認事項一部変更承認申請当時(平成26年10月3日。甲2・参考資料7参照)の法14条9項に規定する医薬品の製造販売についての承認である。原告は,本件医薬品はオキサリプラチンと注射用水からなり,本件医薬品中でオキサリプラチンが水と反応して遊離したシュウ酸を緩衝剤とする旨主張している。そこで,以下,本件医薬品の製造販売行為が,本件各発明の実施に当たるか検討する。

3 本件各発明の「緩衝剤の量」について(1) 本件各発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の1(2)のとおりであり,本件発明1~9及び15~17については,①オキサリプラチン,②有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び③製薬上許容可能な担体である水,を包含する「安定オキサリプラチン溶液組成物」に係るものであり,本件発明は,①オキサリプラチン,②有効安定化量の緩衝剤であるシュウ酸又はそのアルカリ金属塩及び③製薬上許容可能な担体,を包含する水性溶液である「オキサリプラチン溶液組成物」に関して,緩衝剤を溶液に付加することを含む安定化方法に係る発明,本件発明11~14は,本件発明1~9のいずれかの組成物についての担体(水)と緩衝剤を混合することを含む製造方法に係る発明である。(2) 原告は本件審決における「緩衝剤の量」の認定に誤りがあると主張するので検討するに,上記(1)の特許請求の範囲の記載からすると,「緩衝剤」は,溶液に添加したり,混合することを前提とするものと解するのが自然である。また,上記の通り,本件発明1~9及び15~17が,オキサリプラチン,緩衝剤及び担体を含む溶液組成物に係るものであるところ,オキサリプラチンを水に溶解させたときに生じるシュウ酸を緩衝剤と称し,オキサリプラチンや水とは別個の要素として把握するのは不自然である。さらに,「緩衝剤」の「剤」は,「各種の薬を調合すること。また,その薬」(広辞苑〔第6版〕)を意味するから,この一般的な意義に従うと,「緩衝剤」は,「緩衝作用を有する薬」を意味すると解される。そうすると,特許請求の範囲の記載からは,本件各発明における「緩衝剤」に,オキサリプラチンから遊離したシュウ酸は含まれないと解するのが相当である。

(3) 次に,特許請求の範囲に記載された用語の意義は,明細書の記載を考慮して解釈するものとされる(特許法70条2項)ので,本件明細書(甲1)の記載をみると,前記1(1)のとおり,「緩衝剤という用語」について,「オキサリプラチン溶液を安定化し,それにより望ましくない不純物,例えばジアクオDACHプラチンおよびジアクオDACHプラチン二量体の生成を防止するかまたは遅延させ得るあらゆる酸性または塩基性剤を意味する。(」【0022】)として,これを定義付ける記載があり,上記の「剤」の一般的意義に照らしても,「緩衝剤」について,「緩衝作用を有する薬」を意味するものと理解することは,本件明細書の記載にも整合する。なお,原告は,本件において,本件明細書の記載を考慮すべきではない旨主張しているが,特許法70条2項は一般的に特許発明の技術的範囲を定める場面に適用され,特許侵害訴訟における充足性を検討する場面にのみ適用されるものではないから,原告の上記主張は採用できない。また,原告は,オキサリプラチンから遊離したシュウ酸が緩衝剤としての役割を果たすと主張するが,同主張は本件特許の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に整合していないし,一般に,有効成分である化合物が水溶液中で分解した場合に,当該分解物を「緩衝剤」と称するというような技術常識があると認めるべき証拠もない。

(4) そして,前記1(2)のとおり,本件各発明が,オキサリプラチンと水からなる従来技術よりも安定したオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とするものであることに加え,本件明細書には,緩衝剤としてシュウ酸が二水和物として付加される実施例1~17が記載され,オキサリプラチン及び水のみからなる実施例18は従来技術である比較例とされていることなどの本件明細書のその余の記載を考慮しても,「緩衝剤」にオキサリプラチンから遊離したシュウ酸を含むと認めることはできない。そうすると,「緩衝剤の量」に,オキサリプラチンから遊離したシュウ酸の量を含めるべきであるという原告の主張を採用することはできず,本件発明1の「緩衝剤の量」について,「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤の量を意味し,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,当該『緩衝剤の量』に含まれない」とする本件審決の認定に誤りはない。

4 本件医薬品を製造販売する行為が本件各発明の実施行為に該当するか否かについて(1) 証拠(甲9)によると,本件医薬品中のシュウ酸モル濃度は,製造直後において5×10-5M,36箇月保存後において8×10 -5Mであることが認められるものの,前記3のとおり,オキサリプラチン溶液組成物中のオキサリプラチンが経時的に分解することで生じたシュウ酸の量は,本件各発明における「緩衝剤の量」に含まれないから,本件医薬品のシュウ酸モル濃度から直ちに,本件医薬品が本件各発明の「緩衝剤の量」の範囲の緩衝剤を含有するということはできない。そして,証拠(甲3,10)によると,本件医薬品は,オキサリプラチンと注射用水のみを成分とし,その他の添加物はないことが認められるから,本件各発明における「緩衝剤」すなわち「オキサリプラチン溶液組成物の作製時に,オキサリプラチン及び担体に添加,混合された緩衝剤」を含有しないというほかないから,本件医薬品は,本件各発明における「緩衝剤の量」の範囲を満たす量の「緩衝剤」を含有しない。(2) そうすると,本件医薬品を製造・販売することは,本件各発明の実施に当たらないから,本件医薬品には緩衝剤が外から添加されていないとして,特許発明の実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。

第5 結論

以上のとおり,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部

裁判長裁判官

本 多 知 成

裁判官

浅 井 憲

裁判官

勝 又 来 未 子

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