ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(行ケ)10012 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和3年11月29日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告アテナ工業株式会社 被告特許庁長官 |
| 法令 |
特許権 特許法120条の52回 特許法29条2項1回 |
| キーワード | 進歩性9回 実施6回 特許権2回 刊行物2回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。20 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等 ⑴ 原告は,「電子レンジ加熱食品用容器」の名称の発明につき,平成27年 |
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令和3年11月29日判決言渡
令和3年(行ケ)第10012号 特許取消決定取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年10月6日
判 決
原 告 ア テ ナ 工 業 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 三 木 浩 太 郎
同訴訟代理人弁理士 後 藤 憲 秋
同 加 藤 大 輝
被 告 特 許 庁 長 官
同 指 定 代 理 人 井 上 茂 夫
同 矢 澤 周 一 郎
同 青 木 良 憲
同 山 田 啓 之
同 藤 原 直 欣
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が異議2019-700949号事件について令和2年12月24日にした異議の決定を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等
⑴ 原告は,「電子レンジ加熱食品用容器」の名称の発明につき,平成27年10月28日に出願した特願2015-211834号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年11月8日に新たな特許出願(特願2017-215835号)とし,令和元年5月10日に特許第6522714号(以
5 下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受け,同月29日に特許掲載公報が発行された。
⑵ 令和元年11月26日,本件特許について特許異議の申立て(異議2019-700949号)がされた。令和2年2月12日付けで原告に対し取消理由通知がされ,原告は,その指定期間内に訂正(以下「本件訂正」という。)の請求をした。同年7月21日付けの「取消理由通知書<決定の予告>」においては,本件訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1に係る特許を取り消す旨の決定をすることが予告された。原告は,これに対し,同年9月16日付けで意見書を提出したが,訂正の請求はしなかった。
⑶ 令和2年12月24日,本件訂正請求を認めた上で,本件特許の請求項1に係る特許を取り消す旨の異議の決定(以下「本件決定」という。)がされ,その謄本は,令和3年1月7日,原告に送達された。
⑷ 原告は,令和3年1月23日,本件決定の取消しを求めて本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載本件訂正後の本件特許の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,同請求項1に係る発明を「本件発明」といい,上記訂正後の明細書及び図面を併せて「本件明細書」という。)。「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって,前記蓋体部の蓋面部に凹面部及び前記凹面部を取り囲むように蓋面上周壁部が形成されており,前記凹面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,
5 前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100m㎡であることを特徴とする電子レンジ加熱食品用容器。」3 本件決定の理由の要旨
⑴ 甲1に記載された発明甲1(特開平7-237658号公報)には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。「電子レンジ等による加熱のための食品を収容する容器本体と,容器本体の周壁の内側の被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなり,蓋体の蓋面に凹部を形成し,この凹部の底部に,容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ,例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成した合成樹脂製の食品容器において,ストレッチフィルムFで容器を包被せず,ラベルLのみを,凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した,電子レンジ等による加熱に用いる食品容器。」
⑵ 本件発明と引用発明との一致点及び相違点ア 一致点「電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって,前記蓋体部の蓋面部に凹面部が形成されており,前記凹面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の孔が形成されている,電子レンジ加熱食品用容器。」である点
5 イ 相違点1本件発明が,「前記凹面部を取り囲むように蓋面上周壁部が形成」されているのに対し,引用発明は,そのような周壁部を備えていない点ウ 相違点2本件発明が,「前記凹面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が,
⒜異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,⒝前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,⒞前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100m㎡である」のに対し,引用発明は,「この凹部の底部に,容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ,例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔を形成」し,「ストレッチフィルムFで容器を包被せず,ラベルLのみを,凹部の一部が容器表面に露出するように貼着した」ものである点(⒜⒝⒞の符号は本判決が付した。以下,それぞれを「相違点2⒜」のようにいう。)
⑶ 相違点1についての検討蓋嵌合容器の蓋体部の蓋面上に周壁部を形成することは,従来より周知の技術であるから(例えば,甲3(意匠登録第1447685号公報),甲4(意匠登録第1462433号公報),登録実用新案第3159788号公報参照。),蓋体の補強等のために,引用発明の凹面部を囲むように周壁部を形成することは,周知技術の単なる付加にすぎず,当業者が容易に想到し
5 得た。
⑷ 相違点2についての検討ア 相違点2⒞について引用発明の小孔は,「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ,例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数」,形成されるものであるから,容器内の内容物から発生する水蒸気の量が変われば,適切に水蒸気を逃がすためには,水蒸気を逃がす孔の大きさ(径)と個数も,それに合わせて変えることが必要であることは,当業者にとって明らかであり,引用発明の小孔の大きさ(径)と個数は,発生する水蒸気の量に応じて,適宜設定されるものであるといえる。引用発明の「0.5~1mm径前後で適宜な個数の小孔」のうち,直径「0.5~0.59mm」の小孔は,本件発明の「排気細孔」の直径「0.15ないし0.59mm」の範囲内であるところ,電子レンジで加熱される容器から発生する水蒸気を逃す孔として小さい孔を多数設けることは,周知技術であり,引用発明の「適宜」の個数の「0.5mm」の小孔を,発生する水蒸気の量に応じて調整し,本件発明の構成のように,「直径は0.15ないし0.59mm」,「個数は8ないし1000個」,「開口面積の合計は0.25ないし100m㎡」の排気孔群とすることは,当業者が容易に想到し得る。イ 相違点2⒝について甲1の段落【0010】によれば「この小孔12は,例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができる」とされており,引用発明の小孔を,食品包装容器に小孔を空ける方法として周知技術であるレーザー光線照射を用いて,レーザー光線照射孔とすることも,適宜なし得る。ウ 相違点2⒜について
5 引用発明の食品容器は,容器にラベルLを貼着したものであるが,ラベルよりも凹部の方が大きく形成されて膨脹空気を排出し得るようにしており,その場合,ラベルLと凹部の隙間から異物が入り得ることになるから,ラベルLは,異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部材には該当しない。そして,本件明細書において,「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が省略されることにより,「本発明の食品用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。」(段落【0032】)との効果が得られるとされ,「排気孔群を被覆又は包皮する部材」が存在すると,逆に「電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間が必要になる」ことを意味しているものといえるが,引用発明のものは,電子レンジ加熱又は加温時に,ラベルLを取り付けたままで調理できるものであり,このことは,引用発明のラベルLが,本件発明の「排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないという上記理解と整合する。エ 上記アないしウによれば,相違点2に係る本件発明の構成は,引用発明及び上記周知技術に基いて,当業者が容易に想到し得た。オ 本件発明の効果について,本件明細書(段落【0011】)には,本件発明の構成を備えることにより「従前の水蒸気の排気構造に代わり,排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えることができる。」と記載されている。しかし,食品包装容器において,通気孔が大きいと虫等の異物が混入する可能性があるため通気孔は小さい方が好ましいことは周知技術であり,原出願前に,小さい孔は,それ自体,容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することは,当業者にとって自明であったといえるから,上記効果は,引用発明及び周知技術から,当業者が予測できた。
⑸ 結論
5 以上のとおり,本件発明は,引用発明及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明できたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。4 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1(手続違背)本件決定が,取消理由通知において示していなかった文献(甲7,甲12,甲13)を進歩性欠如の実質的理由として引用したことは,特許法120条の5に違反する。
⑵ 取消事由2(進歩性判断の誤り)本件決定が,相違点2に係る本件発明の構成を容易想到と判断したことは,誤りである。なお,相違点1に係る本件決定の判断は,争わない。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(手続違背)について
〔
(原告の主張)
〕被告は,原告に対し,「取消理由通知書<決定の予告>」において,引用刊行物として,甲1,甲3,甲4,甲6,甲8を挙げて,これら引用刊行物に記載された事項に基づいて本件発明は進歩性を欠く旨の取消理由を通知したが,本件決定においては,新たに甲7,甲12,甲13に記載された事項を適用して本件発明の進歩性を否定する決定をした。「取消理由通知書<決定の予告>」に引用されていなかった甲7,甲12及び甲13の記載事項を特許の取消しの新たな理由にすることは,特許法120条の5第1項の規定に反し,特許権者たる原告においてこれらに対する弁明の機会を与えなかったものというべきであり,かつ,この点に関する被告の手続違背は決定の結論に影響を及ぼすものであるから,本件決定は取り消されるべきである。〔
(被告の主張)
〕
5 本件決定において,甲7は,「取消理由通知書<決定の予告>」記載の甲
6及び甲8により指摘した事項が周知技術であるとの説示についてさらに該当する文献を加えるために引用したものであって,原告はこの周知技術に対して令和2年9月16日に意見書を提出して反論しているから弁解の機会があったものであるし,甲12及び甲13は,原告の上記意見書における主張を排斥するために示したものであって,これらの文献に示された技術的事項を引用発明と組み合わせて,本件発明の構成が容易に得られたとする進歩性の判断の根拠とするものではないから,本件決定の結論に影響を及ぼす手続違背には該当しない。
2 取消事由2(進歩性判断の誤り)について
〔
(原告の主張)
〕
⑴ 相違点2⒞について
本件発明と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異にするものであって,そもそも「良好な水蒸気排気」及び「確実な嵌合状態の維持」を解決課題とする引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」とを一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本件発明の解決課題は生じ得ないから,本件決定が,「異物混入抑制」という解決課題を想定した上で,その解決手段として,甲6,甲7,甲11ないし甲13を適用することが容易であると判断して,これらから本件発明を容易想到であると判断したことは誤りである。また,引用発明に適用された,甲6,甲7,甲11ないし甲13の周知技術もまた,本件発明とは解決課題及び技術思想を異にし,かつその孔の技術的意義を異にするから,これらを引用発明に適用したこと自体も誤りである。したがって,これら周知技術と引用発明を組合せ適用して本件発明を容易想到であると判断した本件決定は誤りである。
⑵ 相違点2⒜について
5 本件決定は,電子レンジで加熱する容器においても水蒸気を排出する孔か
ら塵挨や虫などの異物が混入するおそれがあることは周知の課題であるとしているところ,これを前提とすれば,電子レンジで加熱する容器の蓋面に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けた引用発明において,甲1の図8(B)に示されたように,連通部(小孔12)の上部に同連通部を覆うように貼着されたラベルLが,異物混入を防止することを目的として連通部上に設けられたものであることは自明である。引用発明は,電子レンジ等で容器を加熱した場合に生じる膨張空気や水蒸気を容器外部に排出することを解決課題とし,課題解決手段として蓋体上面の凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けることにより,容器内部の気圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保ち,容器本体と蓋体との確実な嵌合状態を維持するという技術思想に基づくものであり,そもそも「異物の混入を防止する」という技術思想は何ら開示も示唆もされていない。したがって,引用発明において,異物の混入を防止するのは連通部とは別に設けられたラベルであり,引用発明は異物混入防止のための被覆部を備えるものであるから,本件決定が「ラベルLは,異物が小孔から混入することを防止するために設けられた部材には該当しない」とした判断は,誤りである。〔
(被告の主張)
〕
⑴ 相違点2⒞について
本件決定は,直径において重複する範囲(0.5~0.59mm)の引用発明の「小孔」の「適宜な個数」を,発生する水蒸気の量に応じて調整することにより,当業者が本件発明に係る排気細孔の個数及び開口面積合計の数値を容易に想到し得たと判断しており,原告のいう「異物混入抑制」なる課題を想定した上で,周知技術を適用することによって容易想到であると判断してはいない。
5 また,本件決定において,甲6,甲7,甲11ないし甲13は,周知の技
術又は課題について記載した文献の例として提示されており,これらの文献を個別に引用発明と組み合わせて,本件発明の構成が得られるとしたものではない。
⑵ 相違点2⒜について
本件決定は,本件発明及び引用発明の孔の直径が重複することを踏まえ,引用発明の小さな孔が,それ自体,容器内への虫等の混入を防ぐ効果を奏することは自明と判断しており,そのような小さな孔に該当せずかつ直径が重複するものでもない,ラベルLと凹部の隙間は,単に容器加熱時に膨張空気を排出するためのものであり,また,本件発明の「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」は,電子レンジ加熱時には開封等の手間が必要になる部材と理解されるのに対し,引用発明のラベルLは,これを付けたままで電子レンジ加熱するものである。したがって,本件決定が,引用発明のラベルLは「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないと判断したことに誤りはない。
第4 当裁判所の判断
事案にかんがみ,取消事由2,同1の順に判断する。
1 取消事由2(進歩性判断の誤り)について
⑴ 本件発明ア 特許請求の範囲本件訂正がされた後の本件発明に係る特許請求の範囲は,前記第2の2のとおりである。イ 明細書の記載本件明細書には,次のとおりの記載がある(なお,「・・・」は省略した部分を表す。)。
5 (ア) 技術分野「本発明は電子レンジ加熱食品用容器に関し,特に蓋体部からの水蒸気の効率よい排気を可能とする容器に関する。」(段落【0001】)(イ) 背景技術「調理済み食品をコンビニエンスストア等の小売店にて販売する際の加熱調理または持ち帰った後の加熱調理に際し,これらの食品を包装する容器は容器本体部とその開口部に嵌合する蓋体部の組み合わせからなる。・・・」(段落【0002】)「食品の加熱調理や温め直しには,通常電子レンジ(マイクロ波照射)が使用される。そこで,食品容器ごと電子レンジ内に入れられそのまま加熱された後に提供される。実際に販売される食品に着目すると,スープ類のように水分量の多い食品から,炒め物等のように重量当たりの水分量の少ない食品まで存在し,食品の種類は実に多用である。ここで問題となることは,電子レンジによる食品の加熱調理の際,容器内の食品から水蒸気が発生することである。」(段落【0003】)「蓋嵌合容器においては,・・・内部発生の水蒸気を容器外部に排気するための穴部を形成した蓋体が提案されている・・・。・・・U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部が蓋体に形成されている。水蒸気はこの舌片状の開口部を通過して容器外部に放出される。」(段落【0004】)「U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部の排気効率は良好である。ところが,水蒸気の排気が良好ということは,それだけ,舌片状の開口部からの異物侵入のおそれも増す。そのために,この場合,舌片状の開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがある。さらには,舌片状の開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられる。・・・」(段落【0005】)
5 「上述のように,既存の水蒸気を排気する構造を採用した容器では本来の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり,コスト上昇が否めない。・・・」(段落【0006】)(ウ) 発明が解決しようとする課題「一連の経緯から,発明者は,U字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を模索してきた。その中で容器の蓋体部に微細な孔を複数設けた構造が有効であることを見出した。しかも,微細な孔であることから,破損や異物混入への耐性も良好であることが判明した。」(段落【0008】)「本発明は,前記の点に鑑みなされたものであり,従前のU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止性能改善,異物混入抑制を実現し,・・・資材コストの軽減にも有利な電子レンジ加熱食品用容器を提供する。」(段落【0009】)(エ) 課題を解決するための手段「すなわち,請求項1の発明は,電子レンジ加熱のための食品を収容する容器本体部と,前記容器本体部の開口部と嵌合する蓋体部とを備えた蓋嵌合容器であって,前記蓋体部の蓋面部に凹面部及び前記凹面部を取り囲むように蓋面上周壁部が形成されており,前記凹面部には,前記容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ないし1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100m㎡であることを特徴とする電子レンジ加熱食品
5 用容器に係る。」(段落【0010】)(オ) 発明の効果「請求項1の発明に係る電子レンジ加熱食品用容器によると,・・・従前の蓋嵌合容器の蓋体に設けられたU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わり,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止性能改善,異物混入抑制を実現し,併せて蓋体部の形状上の制約も少なく,資材コストの軽減も可能となる。とりわけ,請求項1の発明によれば,・・・複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,前記排気細孔の直径を0.15ないし0.59mmと規定し,前記排気細孔の個数を8ないし1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100mm と規定したものであるから,現実の市場にて流通する多くの食品の包装に対応でき,後述する実施例に示されるように,従前の水蒸気の排気構造に代わり,排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えることができる。さらに加えて,請求項1の発明によれば,前記排気細孔がレーザー光線照射孔であるため,簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設することができる。」(段落【0011】)(カ) 発明を実施するための形態「これまでの説明にあるように,本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器) における排気細孔の直径を勘案すると,極めて微細であることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため,本発明の食品用容器では,従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮したりするフィルム等の部材は省略可能となる。従って,本発明の食品用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要
5 なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。特に,本発明の食品用容器は排気孔群の開孔面積の合計,これに加えて排気細孔の個数の規定も備える。そこで,本発明の食品用容器は多種類の食品から発生する水蒸気量にも対応可能な極めて都合のよい包装材である。さらに,排気細孔の配置いかんにより多様な排気孔群を形成できることから,蓋体部の形状設計の制約は少なくなることに加え,排気孔群自体の形状の自由度も高まる。」(段落【0032】)ウ 以上によれば,本件発明の内容は次のとおりである。(ア) 本体部とその開口部に嵌合する蓋体部とからなる食品容器を,容器ごと電子レンジに入れて加熱調理する際には,容器内の食品から水蒸気が発生する。発生した水蒸気を容器外部に排気するためにU字状またはV字状の切れ込みによる舌片状の開口部が形成された蓋体が提案されているが,舌片状の開口部からの異物侵入のおそれがあるため,この開口部を塞ぐ封止テープが貼付されることがあり,さらには,この開口部を被覆するためのフィルム部材も別途必要により被せられることから,本来の食品包装にのみ必要な資材以外も必要となり,コスト上昇が否めない(段落【0002】~【0006】)。(イ) 本件発明は,従前の舌片状の開口部を用いた水蒸気の排気に代わる新たな排気構造を提案し,良好な水蒸気排気を可能とし,同時に封止性能改善,異物混入抑制を実現し,資材コストの軽減にも有利な電子レンジ加熱食品用容器を提供するために(段落【0009】),蓋体部の蓋面部に,容器本体部内に収容された食品から発生する水蒸気を外部に排気する複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されていて,前記排気細孔はレーザー光線照射孔であるとともに,前記排気細孔の直径は0.15ないし0.59mmであり,前記排気細孔の個数は8ない
5 し1000個であり,かつ前記排気孔群における前記排気細孔の開口面積の合計は0.25ないし100m㎡であるように構成したものである(段落【0010】)。(ウ) 本件発明の電子レンジ加熱食品用容器によると,複数の排気細孔からなる排気孔群が,異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材を備えることなく形成されたものであるから,現実の市場にて流通する多くの食品の包装に対応でき,従前の水蒸気の排気構造に代わり,排気細孔群を形成するのみで,良好な水蒸気排気とともに異物混入抑制効果を備えることができるので,電子レンジ加熱または加温時にフィルム等の部材を開封する手間も必要なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。さらに,前記排気細孔がレーザー光線照射孔であるため,簡便かつ迅速に蓋面部に排気細孔を穿設することができる(段落【0011】及び【0032】)。
⑵ 引用発明ア 甲1には,次の記載がある。(ア) 特許請求の範囲「周壁の内側に被嵌合部を有する容器本体と上記被嵌合部に嵌合する縁部を有する蓋体からなる合成樹脂製の食品容器において,上記蓋体上面の少なくとも一部を凹部とし,この凹部内に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けたことを特徴とする食品容器。」(【請求項1】)(イ) 発明の詳細な説明a 発明が解決しようとする課題「本発明は,従来の蓋構造及びその解決方法における上記問題点に鑑みてなされたものであり,その目的とするところは,高い密封性を維持しつつ液漏れを効果的に防止できると共に,電子レンジ等による加熱時や高温に熱せられた食品収納時にも,容器内の膨張空気を効率的
5 に排出し,容器を変形させることのない食品容器を提供することにある。」(段落【0005】)b 実施例「以下,本発明の一実施例を図面により説明する。図1乃至図5において,9は容器本体,10は蓋体であり,何れも圧空,真空成形等のサーモフォーミング法により,夫々の周縁が図8に示す従来例と同様な内嵌合構成で平面視略円形の嵌合部形状に成形されている。両者の嵌合は,蓋体10の周縁が容器本体9の外側に被るように嵌合する構成や,上下に重合して嵌合する構成のものでもよく,また平面視楕円状等に成形してあるものでもよい。」(段落【0009】)「蓋体10の上面中央部には,当該蓋面10aに貼着される任意大きさのラベルLよりも小寸法の凹部11が,蓋面10aの頂部から適宜の深さ凹ませて形成され,この凹部11の底面には蓋体10の表裏を貫通するピンホール状の小孔12が穿設されている。小孔12は,容器内の加熱状態の空気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ,例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数形成される。この小孔12は,例えば加熱針を蓋面に押し当てる等の任意方法を用いて空けることができるが,孔を空けるときに蓋内面側から外面側へ向かって空けることがより好ましい。また,凹部11及び小孔12を設ける位置は,容器が傾いても液に浸りにくい位置として蓋面10aの中央部付近が好ましいが,この範囲に限定するものではない。」(段落【0010】)「【図1】」「図6はストレッチフィルムFで容器を包被せず,ラベルLのみを貼着する場合の本発明の実施例を示しており,これは上記実施例と同様
5 の嵌合構成を有する蓋体16の蓋面16aに星型に凹んだ凹部17を形成し,この凹部17の底部に小孔18を穿設したものである。図中,破線はラベルLを示しているが,このようにラベルLを貼ったときに凹部17の一部が容器表面に露出していれば,容器加熱時に膨張空気をここから容器外部に排出し得(同図(B)参照),容器内部の気圧を一定に保つことができる。なお,凹部17は,当該容器に使用するラベルLよりも大きく形成し,その形状は任意である。」(段落【0017】)「【図6】」c 発明の効果「以上,本発明によれば,蓋面に凹部を形成し,この凹部の底部に蓋体の表裏を貫通する小孔若しくは切り込み片を設けるようにしたので,蓋面にラベルを貼着しても小孔や切り込み片が閉塞することはなく,
5 容器内外を常に連通させることができる。・・・従って,容器加熱時や高温の食品等の収納時に,容器内部で膨張した空気や水蒸気を適宜外部に排出し得,容器内部の気圧を加熱冷却状態に関わらず一定に保つことができ,容器を圧迫変形させることなく,容器本体と蓋体との確実な嵌合状態を維持することができる。」(段落【0019】)イ 上記各記載によれば,甲1には本件決定が認定したとおりの引用発明が開示されており,その小孔12は,容器蓋の凹部11に形成され,容器内の加熱状態の空気の排出を確実に行なうための適宜な大きさ及び個数であり,具体的な大きさとして0.5~1mmが開示されている。また,図6のものは,凹部17の上部にラベルLが貼着されているが,このラベルLは,凹部17よりも小さく,容器内の加熱状態の空気はラベルLと凹部17との隙間から排出されるので,加熱する前にラベルLを剥がす必要はない。
⑶ 相違点2⒞についてア 引用発明の小孔は,「容器内の加熱状態の空気や水蒸気の排出を確実に行なうことのできる適宜な大きさ,例えば0.5~1mm径前後で適宜な個数」形成されるものである。この「適宜」な大きさ及び個数について,甲1には具体的な開示がないが,容器内の内容物から発生する水蒸気の量が変われば,適切に水蒸気を逃がすために,水蒸気を逃がす孔の大きさ(径)と個数もそれに合わせて変える必要があることは,当業者にとって明らかである(例えば,甲6(特開平11-11543号公報)(本件発明及び引用発明と同様に電子レンジ加熱にも用いる食品等容器の発明を開示する文献)の段落【0018】においては,個数について一応の数値範囲を示した上で,「容器内に存在する液体の成分,粘度等により前記の範囲を逸脱したものとしてもよい」とされている。)。そうすると,引用発明に接した当業者にとって,容器内の食品から発生し得る水蒸気の量を勘
5 案し,適切に水蒸気を逃がすために,小孔の直径及び個数並びにこれらから簡単に算出される開口面積合計を定めることは,設計的事項にすぎない。よって,引用発明に接した当業者にとって,本件発明の相違点2⒞に係る構成を想到することは,容易になし得たと認めるのが相当である。イ 原告は,本件発明は,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」という二律背反する(技術的阻害要因のある)課題を解決するものであるから,排気細孔の直径,個数及び開口面積合計の各下限は,「良好な水蒸気排気」の効果を奏することのできる最小の範囲であり,それらの各上限は,「異物混入抑制」のための最大の範囲であり,いずれも臨界的意義を有する旨主張する。しかしながら,まず,そもそも本件発明における排気細孔の直径(0.15~0.59mm)は,引用発明の「0.5~1mm」と重複する範囲(0.5~0.59mm)を有している。また,本件発明の上限値(0.59mm)は,その設定の根拠について本件明細書には記載がなく,虫等の異物の侵入を抑制するために設定されたものであると認められるところ,通気孔から虫等の異物が混入する可能性を考慮し,通気孔の大きさを小さく,殊に1mm以下とするのが好ましいことは,本件特許の原出願前に周知の技術事項であるから(例えば,甲7(特開平10-218250号公報)の段落【0003】には「米穀用袋において,通気性が大き過ぎる場合には,その通気孔から虫等が侵入し,思いもしない事故を起こすことがある」との記載があり,甲11(実開平4-62684号のマイクロフィルム)にも「成形された米飯食品用包装容器の蓋部に形成される孔は,円形の孔,多角形の孔又はスリット状の孔などの適宜の形状で,虫や塵埃が容易に入らないような大きさとされる。」(明細書4頁4~8行),「1mm以下の大きさとすると,虫の侵入が防止できるので好ましい」(5頁5~6行)との記載がある。),排気細孔の直径の上限である「0.59
5 mm」という値に臨界的意義があるとは認められない。また,下限値(0.15mm)の設定の根拠については,本件明細書の段落【0058】に「排気細孔の直径の下限は照射装置の性能に依存する。しかしながら,極端に直径を狭くすると水蒸気の排気効率は低下するため,一連の実験結果から少なくとも0.15mmは必要」との記載があるにとどまり,ここでいう「一連の実験結果」も,6種の食品を加熱して蓋が外れるか否かを調べるという単純な試験(段落【0033】~【0060】)にすぎないから,「0.15mm」という下限値の設定についても臨界的意義があるとは認められない。さらに,排気細孔の個数(8~1000個)及び開口面積の合計(0.25~100m㎡)も,同様の理由により,臨界的意義があるとはいい難い。したがって,原告の上記主張は採用することができない。ウ 原告は,本件発明と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異にするものであって,そもそも「良好な水蒸気排気」及び「確実な嵌合状態の維持」を解決課題とする引用発明から,「良好な水蒸気排気」と「異物混入抑制」とを一つの構成手段(排気孔)によって実現するという本件発明の解決課題は生じ得ないから,本件決定において,「異物混入抑制」という解決課題を想定した上で,その解決手段として,本件決定のいう周知技術を適用することが容易であると判断して,これらから本件発明を容易想到であると判断したことは誤りであり,さらに,本件決定のいう周知技術もまた,本件発明とは解決課題及び技術思想を互いに異にし,かつその孔の技術的意義を異にするから,これらを引用発明に適用したこと自体も明らかに誤りである旨主張する。しかしながら,本件決定の論理構成をあらためて整理すると,本件発明の相違点2⒞に係る構成の一部は,引用発明の構成から,「小孔」の直径
5 の数値範囲として,本件発明と重複する「0.5~0.59mm」を選択し,「適宜」とされた「小孔」の個数及び開口面積の合計については,発生する水蒸気の量に応じて調整することによって,当業者が容易に想到し得た,とするものである。すなわち,本件決定は,原告のいうように,「異物混入抑制」なる課題を想定した上で,かかる課題を解決するために周知技術を適用することが容易であると判断したものではない。そして,このようにして当業者が容易に想到し得た構成によって,結果的に異物混入抑制という別の課題も解決することができたとしても,異物混入抑制という課題を把握すること自体が困難であったのであればともかく,そうではない以上,異物混入抑制という課題を解決したこと,そしてそのことを特許請求の範囲及び明細書に明記したことが,進歩性の根拠になるものではない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。エ 原告の主張は,電子レンジ加熱容器における排気孔の設計に当たって,水蒸気排出と異物混入抑制とを両立させることが困難である,あるいは,これらを両立させるという課題に想到すること自体がそもそも困難である,というものとも見受けられる。しかし,前記説示のとおり,食品の容器である以上,虫や塵埃などの異物が容器内に混入してはならないことは周知の技術的事項に属するから,水蒸気排出という課題の解決手段を考察するに当たって,異物混入抑制という課題も同時に解決しなければならないことは,当業者にとって当然のことである(異物混入抑制を考慮しなくてよいのであれば,排気孔はいくらでも大きくできるが,そうするわけにはいかないからこそ,周知技術の例として示された他の文献(上記の甲7,甲11)においても排気孔の大きさなどを工夫しているのであるし,引用発明の「0.5~1mm」という数値範囲も,その設定の理由として甲1には「加熱状態の空気の排出」
5 のみが記載されているものの,発明者が異物混入抑制も念頭に置いていたことは十分に考えられる。)。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
⑷ 相違点2⒜についてア 本件発明の「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」について,本件明細書には,「本発明の食品用容器(電子レンジ加熱食品用容器)における排気細孔の直径を勘案すると,極めて微細であることから昆虫等の異物侵入を有効に抑制できる。そのため,本発明の食品用容器では,従前の容器に見られた蓋体部の排気を担う穴を被覆したり包皮したりするフィルム等の部材は省略可能となる。従って,本発明の食品用容器は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間も必要なく,包装資材費の軽減にも貢献し得る。」(段落【0032】)と記載されている。この記載によれば,本件発明の「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」は,異物混入防止の機能を有するとともに,電子レンジ加熱時には開封等の手間が必要になる部材を意味するものと解される。そこで,この解釈を前提に,引用発明のラベルLが「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に当たるか否かを検討するに,まず,甲1の段落【0017】の「ラベルLを貼ったときに凹部17の一部が容器表面に露出していれば,容器加熱時に膨張空気をここから容器外部に排出し得」との記載によれば,ラベルLは電子レンジ加熱の際にも貼着したままであって,開封等の手間を必要としない。また,ラベルLと凹部17との隙間の形状及び大きさが,異物混入防止の観点から特定されているわけでもない(むしろ,図6(B)によれば,隙間の幅は,小孔18の径とほぼ同じであり,小孔18を通過してしまうような異物をラベルLによって排除するという機能を有していない。)。
5 したがって,引用発明は,「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」を備えていないから,この点において,本件発明と実質的な相違はない。これと同旨の本件決定の認定判断に誤りはない。イ 原告は,本件決定が,電子レンジで加熱する容器においても水蒸気を排出する孔から塵挨や虫などの異物が混入するおそれがあることは周知の課題であるとしているところ,これを前提とすれば,電子レンジで加熱する容器の蓋面に蓋面表裏を貫通し得る連通部を設けた引用発明において,連通部(小孔)の上部に同連通部を覆うように貼着されたラベルLが,異物混入を防止することを目的として連通部上に設けられたものであることは自明であるから,これに反する本件決定の認定判断は誤りであると主張する。しかしながら,本件発明の「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」は,電子レンジ加熱または加温時の開封等の手間が必要になる部材と解されるのに対し,引用発明のラベルLは,これを着けたままで電子レンジ加熱するものであるとともに,蓋体の凹部17との隙間から異物が入り得る可能性を排除するような形状及び大きさのものとは特定されていないから,当該ラベルLが,本件発明にいう「異物混入防止のための,当該排気孔群を被覆又は包皮する部材」に該当しないと解されることは,上記アのとおりである。したがって,原告の上記主張を採用することはできない。
⑸ 小括以上によれば,本件決定に原告主張の取消事由はない。
2 取消事由1(手続違背)について原告は,「取消理由通知書<決定の予告>」に引用されていない甲7,甲12及び甲13を適用して本件特許の取消決定をしたことは,特許法120条の5の規定に反する旨主張する。
5 しかしながら,上記各文献の記載事項に照らすと,甲7は,「取消理由通知書<決定の予告>」において既に示されていた合議体の見解(甲6及び甲8のとおり,容器から水蒸気を逃がす孔をレーザー光線照射孔とすること,容器の蓋に小孔を設けること,がいずれも周知技術であるとの説示)について,さらにこれらを裏付ける文献を加えるために引用されたものである。また,甲12及び甲13は,原告が「取消理由通知書<決定の予告>」を受けての令和2年9月16日付け意見書において「少なくとも,20,30年ほど前には,電子レンジ加熱食品用容器の蓋部の蒸気孔に,良好な水蒸気排気を可能とし同時に異物混入抑制を実現する,被覆部材を不要とする構造などは到底考えられもしなかったニーズであった」と主張したのを排斥するために示されたものといえる。そうすると,本件決定は,甲7,甲12及び甲13に示された技術的事項を,引用発明と組み合わせて,本件発明の構成が容易に得られたとする論理付けに用いてはいないから,「取消理由通知書<決定の予告>」に記載されていなかった新たな取消しの理由に基づき特許を取り消したとはいえない。原告は,甲7について実質的に反論する機会が与えられなかったことは明らかな事実であって,甲6及び甲8に対して反論していれば足りるというものではなく,また,甲12及び甲13をもって実質的に本件発明の進歩性を否定していることは明らかであるとも主張するが,上記説示に照らして,採用することができない。よって,本件決定に原告主張の取消事由はない。
3 結論以上のとおり,本件決定に原告主張の取消事由はなく,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
都 野 道 紀
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