ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 平成31(ワ)2534 損害賠償等請求事件
| 裁判所 | 認容 大阪地方裁判所大阪地方裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和3年11月11日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告株式会社ネイチャースケープ 被告福井県 |
| 法令 |
著作権 |
| キーワード | 許諾73回 侵害16回 差止11回 損害賠償5回 ライセンス5回 実施3回 分割1回 |
| 主文 | 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 1 被告は,別紙目録1記載のハードウェア,ソフトウェア及びアプリケーショ 2 被告は,別紙目録2記載のサーバ設計書を,原告以外の第三者に開示しては 3 被告は,別紙目録2記載のサーバ設計書を廃棄せよ。 4 被告は,原告に対し,8569万円及びこれに対する平成28年3月26日 1 本件は,被告の運営する福井県自然保護センター(以下「本件センター」と 5条又は国家賠償法1条1項に基づく8569万円の損害賠償及びこれに対する平 2 前提事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定で 16日,原告との間で,「自然保護センター インターネット展示システム機器購 6)。また,原告と被告は,同月25日,「自然保護センターインターネット展示 7),同契約は,平成26年まで1年毎に更新された。 3 争点 1 本件展示システムの著作物性(争点1) 1記載のハードウェアを設置したに過ぎない。このため,これが原告の創作的な表 2 著作者人格権の侵害の有無等(争点2)10 3 本件使用許諾契約の成否(争点3) 4 債務不履行の有無等(争点4) 15頁及び17頁を示したことは認める。その余は否認ないし争う。 1頁,15頁及び17頁を,被告担当者と外部業者とで確認したものである。 5 国家賠償法上の違法行為の有無等(争点5) 6 損害及び因果関係の有無等(争点6) 1 本件展示システムの著作物性(争点1)について 2(2)イ),同契約による委託業務の詳細を定める本件構築仕様書には,本件セン 2003(OS)関連設計」,「ルータ・Firewall 設計」・「Web サーバ設計」,「DNS 0項目以上とされており,表示,変更履歴及び目次を除く本文は全58頁から成る。 2 本件使用許諾契約の成否(争点3)及び債務不履行の有無等(争点4) 3 国家賠償法上の違法行為の有無等(争点5) 4,15,弁論の全趣旨)。 143,123も記載されているが,これらも含め,いずれも代表的なポート番号 5頁及び17頁の開示)につき,原告の法的に保護すべき権利ないし利益を侵害す |
| 事件の概要 | 1 本件は,被告の運営する福井県自然保護センター(以下「本件センター」と いう。)のインターネット展示システム(以下「本件展示システム」という。)を5 構築等した原告が,被告に対し,以下の請求をする事案である。 |
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令和3年11月11日判決言渡 同日判決原本交付 裁判所書記官
平成31年(ワ)第2534号 損害賠償等請求事件
口頭弁論終結の日 令和3年9月7日
判 決
原告 株式会社ネイチャースケープ
同訴訟代理人弁護士 秋田 真志
同 城使 洸司
被告 福井県
同訴訟代理人弁護士 藤井 健夫
同訴訟復代理人弁護士 藤井 紘士
同指定代理人 桝 厚生
同 吉村 由紀子
同 竹内 宏治
同 千葉 直樹
主 文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
1 被告は,別紙目録1記載のハードウェア,ソフトウェア及びアプリケーションシステムを使用してはならない。2 被告は,別紙目録2記載のサーバ設計書を,原告以外の第三者に開示してはならない。3 被告は,別紙目録2記載のサーバ設計書を廃棄せよ。4 被告は,原告に対し,8569万円及びこれに対する平成28年3月26日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は,被告の運営する福井県自然保護センター(以下「本件センター」と
5 いう。)のインターネット展示システム(以下「本件展示システム」という。)を構築等した原告が,被告に対し,以下の請求をする事案である。
(1) 差止及び廃棄請求ア 被告が本件展示システムに使用されているルータ(以下「本件ルータ」という。)の80番ポートを閉鎖した行為(以下「本件閉鎖行為」という。)及び本件ルータから ADSL 回線のモジュラージャックを取り外した行為(以下「本件引抜行為」という。また,これと本件閉鎖行為を併せて「本件閉鎖行為等」という。)について,本件展示システムに係る原告の著作者人格権(同一性保持権)侵害に基づく差止(著作権法(以下「法」ということがある。)112条1項)及び廃棄(同条2項)請求イ 本件閉鎖行為等及び被告が本件展示システムに係るサーバ設計書(以下「本件サーバ設計書」という。)を第三者に開示した行為(以下「本件開示行為」という。)について,原告と被告との間の本件展示システムに係る使用許諾契約(以下「本件使用許諾契約」という。)の債務不履行(同一性保持義務違反及び秘密保持義務違反)に基づく差止及び廃棄請求
(2) 損害賠償請求本件開示行為について,被告による本件使用許諾契約に基づく秘密保持義務の不履行又は原告の秘密ないし営業活動上の利益を侵害する違法行為であるとして,平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)415条又は国家賠償法1条1項に基づく8569万円の損害賠償及びこれに対する平成28年3月26日(原告が被告に対し本件使用許諾契約に基づく許諾の撤回等を求めた日)から支払済みまで改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求2 前提事実(争いのない事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定できる事実。なお,枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)
5 (1) 当事者原告は,自然環境・生物多様性の保全・再生・調査・研究をはじめ,コンサルティング業務を行う法人である。被告は,本件センターを設置し,運営する地方公共団体である。
(2) 本件展示システムの設置ア 被告は,平成14年5月10日,株式会社乃村工藝社(以下「乃村工藝社」という。)との間で,本件センターに係る展示更新工事(以下「本件工事」という。)の請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件工事は,具体的には,展示パネル,模型,ガラスケース等展示用の造作の設置等のほか,インターネット展示システム(以下「旧展示システム」という。)の構築・設置等を含む展示設備全般の更新工事であるところ,原告は,乃村工藝社の下請けとしてこれに関与した。被告は,当初,乃村工藝社との間で旧展示システムの保守点検業務委託契約を締結,更新し,その下請けとして原告が当該業務に当たっていた。しかし,被告は,平成18年4月1日,原告との間で,旧展示システムの保守・運用の業務委託契約を締結した。イ 被告は,本件センターのウェブサーバ設備の更新に伴い,平成21年12月16日,原告との間で,「自然保護センター インターネット展示システム機器購入および保守委託業務」を原告に委託することを内容とする 業務委託契約(以下「本件購入契約」といい,これに係る契約書を「本件購入契約書」という。また,本件購入契約書添付の調達仕様書を「本件購入仕様書」という。)を締結した(乙6)。また,原告と被告は,同月25日,「自然保護センターインターネット展示システム 稼働環境構築・システム移行業務」を被告が原告に委託することを内容とする業務委託契約(以下「本件構築契約」といい,これに係る契約書を「本件構築契約書」という。また,本件構築契約書添付の調達仕様書を「本件構築仕様書」という。)を締結した(甲1)。
5 本件購入契約書及び本件構築契約書には,いずれもその12条に,以下の趣旨の規定がある。・契約により生じた契約目的物の所有権は,当該目的物に相当する委託料が完済されたときに,原告から被告へ移転するものとする。(1項)・契約により作成される成果物の著作権の取扱いは,次の各号に定めるところによる。(3項)原告は,法21条,27条,28条に規定する権利について,被告に無償で譲渡するものとする。(1号)被告は,法20条2項3号又は4号に該当しない場合においても,その使用のために,成果物を改変し又は任意の著作者名で任意に公表することができる。(2号)前各号にかかわらず委託業務により作成される成果物のうち,被告と原告が従来から有していたプログラム等の著作権は,それぞれ被告と原告に帰属する。(4号)ウ 原告は,平成22年3月頃,本件購入契約に基づき,パソコン本体,本件ルータ等を調達した上で,本件構築契約に基づき,本件展示システムを構築し,被告に納品した(甲1,5,弁論の全趣旨)。また,これに伴い,原告と被告は,平成22年以降,本件展示システムの保守点検業務について業務委託契約(以下「本件保守点検契約」といい,これに係る契約書添付の保守管理業務仕様書を「本件保守点検仕様書」とい う。)を締結し(甲7),同契約は,平成26年まで1年毎に更新された。
(3) 被告による本件閉鎖行為等被告は,本件展示システムの OS のメーカーサポート終了を契機とする本件センターのホームページリニューアル作業に際し,従来のホームページを外部から見えなくすることとした。そこで,被告担当者と外部業者は,平成27年6月29日~同年7月6日の間に,本件ルータの設定を変更し,80番ポートを閉鎖する作業(本件閉鎖行為)及び ADSL 回線のケーブルを本件ルータから外す作業(本件引抜
5 行為)を行うと共に,本件ルータの設定を変更し,443番,53番,25番ポートを閉鎖する作業を実施した。本件閉鎖行為の際,被告担当者は,原告に対し,本件ルータのログインに必要なユーザ名とパスワードの記載箇所をメール(甲2。以下「本件メール」という。)で問い合わせたが,原告から回答を得られなかった。もっとも,被告担当者は,本件サーバ設計書及び本件ルータの取扱説明書(以下「本件説明書」という。)に各記載のユーザ名及びパスワードを入力したところログインができたことから,本件閉鎖行為を行った。これらの作業に際し,被告担当者は,外部業者に対し,少なくとも本件サーバ設計書1頁,15頁及び17頁を開示した(本件開示行為。ただし,開示の範囲については,後記のとおり,当事者間に争いがある。)。3 争点
(1) 本件展示システムの著作物性(争点1)
(2) 著作者人格権の侵害の有無等(争点2)
(3) 本件使用許諾契約の成否(争点3)
(4) 債務不履行の有無等(争点4)
(5) 国家賠償法上の違法行為の有無等(争点5)
(6) 損害及び因果関係の有無等(争点6)
第3 当事者の主張
1 本件展示システムの著作物性(争点1)
(原告の主張)
原告は,本件サーバ設計書の記載のとおりに本件展示システムを構築したところ,本件展示システム(別紙目録1記載のハードウェア,ソフトウェア,アプリケーションシステムの組合せや構成そのもの)は,以下のとおり,本件サーバ設計書とは独立して外部に表出された著作物である。
(1) 創作性
5 ソフトウェアやハードウェアを組み合わせたシステム一般においては,当該シス
テムの機能を実現するためのシステムの設計・構築について,作成者による選択の余地があり,その幅も広い。被告が本件センターで使用するインターネット展示システムに必要な機能を実現するためのシステム構成も,様々な組合せが考えられる。そのような多数ある構成の中から,どのようなソフトウェアやハードウェアを用い,それらをどのような構成で組み合わせ,どのように機能分担させるかに関する選択(必要機能の選定,機能分割設計,分割した機能単位の配置計画という設計行為)は,作成者である原告の技術者としての知識や経験が表出したものである。個々の構成物が他社製品であったとしても,当該製品の組合せ,表現順序等によって原告の個性が表れている。
(2) 思想及び感情の表現であること
本件展示システムの構成は,原告による様々なデザインと,技術者としての知識や経験により独自に開発したノウハウに基づいて,最適な機能を実現するために構築されたものであり,原告の知識・技術・思想・価値観が投じられた原告の精神活動の所産であるから,思想又は感情の表現といえる。すなわち,原告による上記創作的な設計・構築行為の結果は,本件展示システムにおける「表現」として,検索一覧・分布図等のアプリケーションシステムの提供する画面が表示されるさま(サービス)や,意図した選択・配列の結果が,設定値・設定内容として規定されるさま,ハードウェア・ソフトウェアの機種名・製品名,ソフトウェアの独自開発及びハードウェア・ソフトウェアの構成として規定されるさま,設計書として取りまとめられるさまに表出している。例えば,本件展示システムのうち,インターネット接続を可能にしているネットワーク構成について,ネットワークのセキュリティ対策としては種々の方法が考えられるところ,原告は,Web アプリケーションファイアウォール(WAF)といわれる方式の一種である独自に開発したセキュリティプログラムの使用を選択することで,ファイアウォール専用機を用いることなくハードウェア構成やファイアウォ
5 ールをシンプルな仕様にとどめ,高い性能とセキュリティを維持しつつも費用低減
を実現している。これは,費用の制約を受けつつも性能・信頼性は確保するという原告の企業文化・設計思想の表出である。また,原告は,物理ディレクトリ及び仮想ディレクトリ構成を組み合わせるという独自の構成を取ることによっても,通常のディレクトリ構成よりも堅牢なセキュリティを本件展示システムで実現している。
(3) 学術の範囲に属すること
本件展示システムの設計,構築には,コンピュータシステム等に関する専門的知識を要する。このため,本件展示システムは,原告の知的な精神活動の所産であり,学術の範囲に属する。
(4) 本件展示システムが原告の著作物であることは,本件保守管理仕様書6項に
おいて,「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS」の著作権が原告に帰属し,原告が本件センターに対しその使用を許諾する旨記載されていることにも示されている。「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS」とは,本件展示システムのうち,被告が保有するデータ等原告の著作物ではない部分を除いた範囲として原告が特定したものであり,本件展示システムと同義である。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(1) 著作物性に関する
(原告の主張)
は,原告の技術やノウハウに基づいて本件展示システムが構築されたという結果を主張するものに過ぎず,本件展示システム自体の表現形式及び表現内容に関する具体的な主張はない。また,製作がノウハウに基づいていることと,完成した製品が何らかの思想感情を表現しているかということとは,全く関係がない。むしろ,原告が本件展示システムに表出していると主張する原告の技術的な知識経験は,人間の精神活動の所産である思想感情には該当せず,著作権法で保護されるものではない。加えて,本件展示システムは,被告の要求する仕様を満たすために専ら技術的見地から製作されたものであって,文芸,美術と並んで列挙されていることなどから芸術的要素を含
5 む概念と理解される「学術」の範囲に属さない。
(2) 仮に,本件展示システムが何らかの表現物であるとしても,以下のとおり,
創作的な表現には当たらない。ア 本件展示システムの外観は,他のメーカーが製造した市販品である別紙目録1記載のハードウェアを設置したに過ぎない。このため,これが原告の創作的な表現となる余地はない。また,本件展示システムに用いるハードウェアについては,要求される性能が本件購入仕様書に詳細に定められている。原告は,当時流通していた商品から予算の範囲内でこれを調達する必要があったことから,その際の原告の選択の幅は狭い。他方,ソフトウェアについては,本件購入仕様書や本件構築仕様書で,使用するOS やサーバ機能が指定されており,原告による選択の余地はない。そもそも,原告主張に係る原告の選択や選択の結果は,原告の技術的知見やアイデアそのものであって,著作権法による保護の対象ではない。本件展示システムが著作物と評価されるには,こうした選択の結果が創作的に表現されていなければならないところ,本件展示システムの構築に当たって原告が行った行為は,使用するハードウェア及びソフトウェアの購入とそれらの設置及び設定であり,こうした行為は,同じ技術的知見に基づいて行われる限り誰が行っても結果に大差はなく,創作的な表現が作出されることはない。さらに,原告主張に係る本件展示システムのネットワーク構成におけるセキュリティ対策の独自性やその堅牢さ,換言すれば,技術の独自性や優越性については,著作権法が技術ではなく創作的表現を保護するものであることから,本件とは関係がない。イ 本件展示システムにおいては,本件サーバ設計書の記載のとおりにハードウェアやソフトウェアが設定されているものの,これらの各種設定は,仮に複雑多岐に及んでいるとしても,被告の要求する仕様を満たすために,各メーカー所定の方式で行われたものである。その結果,本件展示システムは,各メーカーが想定した
5 範囲内での動作を行うに過ぎないことから,原告の創作的な表現となるものではな
い。本件展示システムのうち外部ネットワークに接続する機能を実現している部分についても,本件サーバ設計書記載の本件ルータの設定コマンドは,本件ルータのメーカーのホームページ上で公開されている設定例とほぼ同一であることから,原告の創作的表現とはいえない。
2 著作者人格権の侵害の有無等(争点2)
(原告の主張)
(1) 同一性保持権の侵害
ア 著作物の改変本件展示システムにおいては,外部ネットワークに接続されている状態で展示システムを稼働させることが表現の重要な内容となっている。しかし,本件閉鎖行為等により外部ネットワークから遮断されることで,本件展示システムは,外部ネットワークとの接続という機能が失われたことによってシステム構成物間の牽連性が失われ,システム全体としての同一性が喪失させられたのであるから,その表現内容が変更されたといえる。また,本件閉鎖行為は,本件サーバ設計書の記載のとおりに入力されていたコマンドに対して別のコマンドを投入する行為である。これは,本件展示システムを構成するソフトウェア(別紙目録1記載の「ソフトウェア構成」の「Router」)について,本件サーバ設計書に記載された設計の内容を変更する行為である。さらに,本件引抜行為は,別紙目録1の「ネットワーク構成」のうち,「外部ネットワーク接続」,「web 接続」の設計に改変を加える行為である。したがって,本件閉鎖行為等は,原告の意に反して,原告の著作物である本件展示システムを改変するものであり,本件展示システムに係る原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害する。イ やむを得ない改変に当たらないこと本件展示システムの利用目的は,外部ネットワークに接続した上で,生物分布情
5 報を地図上に表示させる点にある。また,本件展示システムの OS サポート期間の
満了に伴う措置としては,OS のアップグレードにより,外部ネットワークとの接続を維持したまま,本件展示システムの利用目的や利用態様を損なうことなく,セキュリティの脆弱性に対処することができた。にもかかわらず,被告は,本件閉鎖行為等により,自ら本件展示システムの本来の利用目的等を損なわせるような改変を行った。このような本件閉鎖行為等は,著作物の性質,利用目的及び態様に照らして,やむを得ない改変に当たらない。ウ 本件構築契約上も認められない行為であること本件展示システムは,本件構築契約以前からある旧展示システムの設計やアプリケーションシステムを踏襲・移行しつつ,経年劣化したハードウェアのみをリニューアルさせたものである。他方,被告が改変したのは,外部ネットワークへの接続を実現するルータのプログラム及び外部回線という物理的なネットワーク構成である。したがって,被告が改変を加えた部分は,原告が従来から著作権を有していた著作物であって,本件構築契約によって新たに構築された成果物ではない。このため,同部分については,「本契約により作成される成果物」(本件構築契約書12条3項柱書)に当たらない。また,本件構築契約書12条3項2号は,契約の成果物の使用のために成果物の改変を認めるものであり,「使用のため」の改変とは,本件展示システムが本来予定された機能を実現するために必要な改変を指す。しかし,被告の改変によって,本件展示システムは本来予定していた機能を有しなくなった。したがって,本件閉鎖行為等による本件展示システムの改変は,同条項により正当化されない。
(2) 差止及び廃棄の必要性
上記(1)のとおり,原告は,本件閉鎖行為等により,本件展示システムに係る同一性保持権を侵害された。この侵害行為は,本件サーバ設計書を原告の承諾なく第三者に開示し,第三者に本件展示システムに対する改変を加えさせたというものである。
5 よって,原告は,被告に対し,侵害の停止又は予防として,別紙目録1記載のハ
ードウェア,ソフトウェア及びアプリケーションシステムの使用停止及び本件サーバ設計書の第三者への開示の禁止,並びに侵害の停止又は予防に必要な措置として本件サーバ設計書の廃棄を求めることができる。
(被告の主張)
否認ないし争う。
(1) 同一性保持権の侵害について
ア 著作物の改変がないこと仮に本件展示システムが著作物に当たり得るとしても,本件閉鎖行為等において,被告は,自ら所有するシステムの設定を変更して外部ネットワークから切り離したに過ぎないため,著作物の改変に当たらない。本件ルータはコマンドを入力する方式で設定を行う仕様であるところ,その各種コマンドはルータメーカーが定義しており,原告が作成したものではない。このため,被告が本件閉鎖行為に際して所定のコマンドを入力した行為は,本件ルータの設定変更に過ぎず,改変に当たらない。イ やむを得ないと認められる改変に当たること本件センターは,福井県民と自然とのふれあいを促進することを目的とし,その事業の一つとして,自然保護に関する情報等を公開する展示事業を行っている。本件展示システムは,この展示事業の用に供するために発注・納品されたものであるため,展示内容の変更,機器の老朽化等種々の事情に応じて展示方式の変更があること,それに伴いシステムに変更を加えることは,当然に予定されている。この場合に,本件展示システムの所有者である被告が外部ネットワークへの接続を不要と考えたにもかかわらず,原告の承諾がない限り接続を継続しなければならないとするのは極めて不合理である。他方,本件展示システムが外部ネットワークに接続されているか否かは,専らシステムの利便性やセキュリティといった実用性についての問題であるから,本件展
5 示システムを外部ネットワークから切断しても著作者の人格的価値を貶める結果に
はならない。したがって,仮に本件閉鎖行為等が原告の意に反する著作物の改変に当たるとしても,「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる改変」(法20条2項4号)に該当する。ウ 本件構築契約上改変が認められること本件構築契約(本件構築契約書12条3項2号)では,法20条2項4号に該当しない場合においても,その使用のための被告による成果物の改変が認められている。
(2) 差止及び廃棄請求について
否認ないし争う。原告の請求のうち,別紙目録1記載のハードウェア等の使用差止請求については,
(原告の主張)
によれば本件展示システムの改変は既に実行済みであるから,改変による侵害を停止することにならない。したがって,原告による上記請求は,「その侵害の停止」の請求とはならない。また,上記請求は,上記別紙記載のハードウェア等を本件展示システムと無関係に使用することをも禁ずることになり,過大である。本件サーバ設計書の開示禁止及び廃棄請求については,仮に上記使用差止請求が認められるのであれば,以後本件展示システムが改変されることはなく,必要性がない。上記使用差止請求が認められなければ,法112条1項の請求と同時にしなければならない同条2項の請求も認められない。したがって,上記開示禁止等請求は,いずれにせよ認められる余地はない。
3 本件使用許諾契約の成否(争点3)
(原告の主張)
(1) 本件使用許諾契約の成立
ア 原告は,平成15年に本件請負契約における乃村工藝社の下請業者として本件センターの旧展示システムを構築した際,同システムのうち原告が著作権を有す
5 る部分(以下「原告著作物部分」という。)の使用許諾につき,被告に対し,「エ
ンドユーザ使用許諾契約書」(甲4,以下「本件使用許諾契約書」という。)を 当該システムのサーバ設計書と共に書面で交付した。また,原告は,上記本件使用許諾契約書等のデジタルファイルをサーバのディレクトリに保存し,その旨及びディレクトリ名を被告に伝えた。原告と被告は,上記時点でサーバ構築そのものについては直接の契約関係になかったが,旧展示システムを運用する被告は,必然的に原告著作物部分をエンドユーザとして使用する立場にあり,原告の使用許諾が必要であることを認識していた。また,本件使用許諾契約書には,「本ソフトウェアの全部または一部を使用した場合,特に以下の制限を含む本契約上のすべての条件を受諾したものと見なされます」との記載がある。さらに,旧展示システムにおいては,使用許諾について,許可されたサーバ以外では稼働しないようにロックされ,許可されたサーバ用のロック解除キーを生成・インストールさせる方式が採られていた。原告は,旧展示システム納入時,被告担当者に対して,システム使用のための使用許諾の必要性及びロック解除方法を説明し,被告担当者によってその作業が行われた。したがって,被告が旧展示システムの使用を開始した時点で,原告と被告との間に本件使用許諾契約が成立した。イ 平成21年に原告と被告が本件構築契約を直接締結し,本件展示システムを構築・移行した際も,旧展示システムと同内容の原告著作物部分が使用され,かつ旧展示システムのサーバ設計書とほぼ同内容の本件サーバ設計書が原告から被告に交付された。このため,本件使用許諾契約は平成21年以降も原告と被告との間で存続しており,被告は,本件使用許諾契約に基づく義務を負っていた。
(2) 本件使用許諾契約に基づく使用許諾の対象
本件使用許諾契約は,原告がユーザに対して「本ソフトウェア」(本件使用許諾
5 契約書1条)を使用する非排他的なライセンスを許諾するものであるところ(同2
条),「本ソフトウェア」とは,本件展示システムを構成しているもののうち,原告著作物部分を定義したものであり,構成物であるハードウェア単体,OS 単体及び被告が保有するデータベースはこれに含まれない。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告は,平成15年に原告から本件使用許諾契約書を紙媒体ないしデータで受領したことはなく,平成28年3月26日に初めて本件使用許諾契約書を原告代表者から提示された。また,被告は,旧展示システムないし本件展示システムを直ちに使用可能な状態で受領しており,被告担当者において原告の説明を受けてロック解除作業を行ったこともない。そもそも,本件使用許諾契約書記載の「本ソフトウェア」の定義によれば,「本ソフトウェア」とは,ハードディスク等の媒体に記録可能でコンピュータにインストールされることが想定されるファイル等であり,
(原告の主張)
によればハードウェアを含む構築物全体を含むものとされる本件展示システムとは別のものである。したがって,本件使用許諾契約書は,本件展示システムの使用許諾契約書ではない。
4 債務不履行の有無等(争点4)
(原告の主張)
(1) 本件使用許諾契約に基づく被告の同一性保持義務及び秘密保持義務
本件使用許諾契約書には,ユーザである被告が,「本ソフトウェア」を改変,翻案又は翻訳しないことに同意する旨及び原告から提供された情報又は被告が入手した情報を第三者に開示してはならない旨が定められている。したがって,被告は,本件使用許諾契約に基づき,原告に対して,本件展示システム(原告著作物部分)に関する同一性保持義務及び秘密保持義務を負う。
(2) 秘密保持義務違反
原告は,本件メールを受け,被告に対し,本件展示システムの外部接続の遮断は
5 必然的に原告著作物部分の改変を伴い,本件使用許諾契約に違反することを説明し
た上で,本件サーバ設計書記載のパスワードの開示を拒否した。にもかかわらず,被告は,原告に無断で,本件開示行為をした。本件開示行為による開示の範囲については,以下のとおり,本件サーバ設計書の全てが網羅的に開示されたと考えられる。すなわち,本件展示システムは,通常は専用機を用いて構築するファイアウォールをルータ上に構築するという設計や,独自仕様を採用することにより,ルータで実現できる基本的なファイアウォール機能でも,かつ,標準ポートを用いていてもセキュリティが確保されるという設計をその構造的特徴とするものである。また,ファイアウォールの構築には様々な方法があり,本件ルータのプログラムを改変して80番ポートを閉鎖すれば外部インターネットから遮断できるという判断をするためには,本件展示システムで採用するネットワーク構成やセキュリティ構成を把握する必要がある。そのためには,本件サーバ設計書全体の中から必要な箇所を特定し,当該箇所の記載全てを理解する必要がある。これに加え,外部業者が本件ルータの設定内容を参照する操作を実施できたことなどを踏まえると,80番ポートの遮断のための本件ルータのプログラム改変に必要なパスワードが記載された箇所にとどまらず,外部インターネットとの接続遮断に必要な箇所を特定・抽出するために,結局,本件サーバ設計書の全てが網羅的に開示されたと考えられる。
(3) 同一性保持義務違反
ア 被告は,前記(2)のとおり,原告著作物部分の改変は本件使用許諾契約に違反する旨原告から説明を受けたにもかかわらず,本件閉鎖行為等を行った。これにより,前記(2
(原告の主張)
(1)ア)のとおり,本件展示システム(原告著作物
部分)の設定が改変された。イ 本件使用許諾契約所定の同一性保持義務違反に基づく差止及び廃棄請求本件使用許諾契約書には,ユーザが本件使用許諾契約の条件に従う限りにおいて,原告がユーザに対し,「本ソフトウェア」を使用する非排他的なライセンスを許諾
5 する旨の記載がある(2条)。このため,被告が本件使用許諾契約の条件に反した
場合は,原告は,その使用許諾を撤回することができる。原告は,被告による秘密保持義務違反等を認識した平成28年3月26日に,被告に対し,本件使用許諾契約に基づく使用許諾を撤回し,本件展示システムにおける原告著作物部分の使用停止を求めた。したがって,原告は,本件使用許諾契約に基づき,被告に対し,本件展示システムの原告著作物部分の使用停止請求権並びに本件サーバ設計書の第三者への開示禁止及び廃棄請求権を有する。
(被告の主張)
(1) 秘密保持義務違反について
ア 本件開示行為につき,被告が外部業者に対して本件サーバ設計書のうち1頁,15頁及び17頁を示したことは認める。その余は否認ないし争う。イ 本件閉鎖行為により被告及び外部業者が閉鎖した80番ポートは,ホームページ閲覧のために Web サーバで通常用いられる一般的なものであり,これを閉鎖すれば,外部からホームページにアクセスすることはできなくなる。そのため,被告担当者らは,本件展示システムの実際の構成とは関係なく,技術的に当然の判断として,80番ポートを閉鎖した。その作業の際に,本件サーバ設計書のうちネットワーク構成,パスワード及び作業に必要なコマンド情報が記載された箇所である1頁,15頁及び17頁を,被告担当者と外部業者とで確認したものである。ウ 本件使用許諾契約書3条によれば,本件使用許諾契約が第三者への開示を禁じている「情報」とは,ユーザがソフトウェアの正常な動作を実現するために特別に原告に開示を要求する情報であり,かつ,ソフトウェアのソースコードを解析しなければ得られないような情報であると理解される。しかし,本件において開示が問題とされている情報は本件ルータのパスワードである。このパスワードは,被告が所有する外部機器であるルータを設定するために必要なパスワードであるから,特別に原告に開示を要求するまでもなく,当然被告
5 に提供されるべき情報であり,また,ソフトウェアのプログラムとは無関係である。
したがって,被告が外部業者に開示した情報は,本件使用許諾契約により第三者への開示が禁じられる情報に該当せず,本件開示行為は本件使用許諾契約違反とならない。
(2) 同一性保持義務違反及びこれに基づく差止等請求について
本件閉鎖行為等は認め,その余は否認ないし争う。前記(2
(被告の主張)
(1))のとおり,被告は,本件展示システムを改変して
いない。
5 国家賠償法上の違法行為の有無等(争点5)
(原告の主張)
原告は,本件サーバ設計書に記載された秘密情報を開示されない権利を有する。特に,本件サーバ設計書記載のパスワードに係る情報は,本件展示システムの原告著作物部分のセキュリティにもつながる重要な秘密情報であり,その秘密性及び重要性は,被告のみならず一般人にとっても明白である。このようなパスワードに係る情報のほか,本件展示システムに係る機器構成,ファイアウォールが本件ルータ上に構築されている旨のセキュリティ仕様等本件サーバ設計書記載の秘密情報が原告に無断で第三者に開示された場合,原告の労力及び資本投下により作成された商品の価値が低下し,投下資本の回収が困難になる。したがって,本件サーバ設計書記載の原告の秘密情報を保持する権利は,法的保護に値する原告の営業活動上の権利ないし利益である。しかるに,被告は,本件開示行為を行い,故意又は重大な過失により上記原告の権利ないし利益を侵害した。
(被告の主張)
否認ないし争う。被告が運用するサーバに設定されたパスワードは,被告のサーバ運用のセキュリティ向上のために設定されていることから,仮にこれが開示されたとしても,原告
5 の利益を害する結果とはならない。また,前記(1
(被告の主張)
(2)イ)のとお
り,本件ルータの設定のために入力されたコマンド等は,本件ルータのメーカーが公開している設定例とほぼ同一であることから,秘密性もない。
6 損害及び因果関係の有無等(争点6)
(原告の主張)
本件展示システムは,もともと原告が構築したシステム(以下「基礎システム」という。)を基に構築されている。基礎システムは,原告が被告以外の顧客に納入した37のシステムにも使用されている。しかるに,本件開示行為により基礎システムのセキュリティに関する事項が漏えいしたことから,原告は,他の顧客に納入したシステムについても,セキュリティ対策を施す必要が生じた。その結果,原告には,被告の債務不履行(秘密保持義務違反)又は違法行為と相当因果関係のある損害として,以下のとおり,合計8569万円の損害が発生した。
(1) サーバシステム(Server OS)のセキュリティ対策費用
サイト共通設計 15万円サイト別個別設計 277万5000円(=7万5000円×37)サイト別カスタマイズ 740万円(=20万円×37)小計 1032万5000円
(2) ネットワークシステム(Router・Fire Wall)のセキュリティ対策費用
サイト共通設計 15万円サイト別個別設計 185万円(=5万円×37)サイト別カスタマイズ 370万円(=10万円×37)小計 570万円
(3) サーバシステムセキュリティパッチ及び構築済みのアプリケーションシステ
ムの秘密漏えい対策費用サーバシステム分 3700万円(=100万円×37)
5 アプリケーションシステム分 1850万円(=50万円×37)
小計 5550万円
(4) 被告の債務不履行の調査・交渉費用
原告の人件費 637万5000円(=7万5000円 ×85日)
(5) 弁護士費用 779万円
(被告の主張)
事実は否認ないし不知,主張は争う。仮に基礎システムが37のシステムで使用されているとしても,これだけの数使用されているシステムの仕様を一業者が知った途端全てについてセキュリティ対策が必要になるとする
(原告の主張)
は不合理である。
第4 当裁判所の判断
1 本件展示システムの著作物性(争点1)について
(1) 前提事実(前記第2の2),文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア 旧展示システムの構築等被告と乃村工藝社は,平成14年5月10日,旧展示システムの構築・設置等を含む本件工事に係る本件請負契約を締結し,原告は,乃村工藝社の下請業者としてこれに関与したところ(前記第2の2(2)ア),原告は,平成15年2月頃,本件サーバ設計書の初版を作成し,これに基づき,旧展示システムを構築した。また,被告は,同年3月頃,本件センター内において,旧展示システムの稼働を開始した。(甲5,13,乙11,弁論の全趣旨)イ 本件購入契約の締結等被告は,平成21年12月16日,原告との間で本件購入契約を締結したところ(前記第2の2(2)イ),同契約はインターネット展示システム機器の購入をその内容に含む。同システムで使用するサーバ機器(ハードウェア及びソフトウェア),
5 ネットワーク機器を購入するための技術仕様は本件購入仕様書にまとめられている。すなわち,同仕様書には,システム構成の概要図やファイアウォールはパケットフィルタリング等の機能により行うことなど,システム構成及びネットワーク構成の概要の説明が示されていると共に,サーバ機器(スタンドアロンサーバ)の機能,用途及びハードウェア要件,サーバソフトウェア(オペレーティングシステム)のソフトウェア要件,ネットワーク機器(Router / Firewall)の機能,用途及びハードウェア要件等が記載されている。(乙6)ウ 本件構築契約の締結等被告は,同月25日,原告との間で本件構築契約を締結したところ(前記第2の2(2)イ),同契約による委託業務の詳細を定める本件構築仕様書には,本件センターにて稼働中のインターネット展示システムに必要な稼働環境の構築,インターネット展示システムの移行に関する技術仕様がまとめられている(なお,同仕様書においては,当該システムに必要なサーバ機器及びネットワーク機器は,別途被告が調達を行うこととされている。)。また,同仕様書には,「本調達では,自然保護センターインターネット展示システムの稼働に必要な Web サーバ,Mail サーバ,ミドルソフトウェア環境,ネットワーク環境,及び,Firewall 環境を構築する。」,「受託者は,オペレーティングシステムの設定,Web サーバ・Mail サーバ・ファイルサーバ機能の構築,ミドルウェアのインストール及び cgi 連携機能の構築,UPS によるサーバ管理機能の構築,ネットワーク構築,Firewall 構築,インターネット展示システム及びデータベースの移行,及び,動作確認を行うこととする。」とも記載されている。さらに,本件構築仕様書には,システム構成の概要と共に,稼働環境構築要件として,サーバ機能,ネットワーク機能,ファイアウォール機能等の要件が示されているところ,ファイアウォール機能については,「パケットフィルタリングによりFirewall 機能を構築すること」等とされている。これと共に,同仕様書には,「移行対象は,インターネット展示システムのアプリケーションシステム,そのデータ
5 ベース,自然保護センターサイト,及び,その他業務データ(野生生物情報WebGIS システム等)とする。」との記載がある。エ 本件展示システムの納品等(ア) 原告は,平成22年3月頃,本件購入契約に基づき機器を調達し,本件構築契約に基づき本件展示システムを構築して,被告に納品したところ(前記第2の2
(2)ウ),これらの調達及び構築は,この機会に改訂された 本件サーバ設計書に基づき行われた。(甲5)本件サーバ設計書は,原告が作成したものであり,平成15年2月17日にその初版が新規作成され,複数回の変更を経た後,平成22年3月18日に「システム更新(サーバ・Windows Server 2003・ルータ)」の変更により第3版に改訂され,更に複数回の変更を経て第 3.03 版(平成24年11月14日変更)に至っている。原告は,本件構築契約に基づき本件展示システムを構築した際,被告に対し,当時の版の本件サーバ設計書を電磁媒体に記録して交付した(甲1,弁論の全趣旨)( イ ) 本 件 サ ー バ 設 計 書 は , 「 ネ ッ ト ワ ー ク 構 成 設 計 」 , 「 Windows Server2003(OS)関連設計」,「ルータ・Firewall 設計」・「Web サーバ設計」,「DNSサーバ設計」,「Mail サーバ設計」,「UPS 設計」,「バックアップ設計」,「クライアントのための参考情報」,「保守関連情報」,「クライアントユーザアカウントのパスワードのリセット」の計11章により構成され,設計項目は1140項目以上とされており,表示,変更履歴及び目次を除く本文は全58頁から成る。このうち,「第1章 ネットワーク構成設計」には,ネットワーク構成図やアドレス設計等に関する記載があるところ,これによれば,本件展示システムのネットワーク構成が ADSL 回線に接続されたルータ,サーバ,研究室 PC 等により構成されること及び各端末の IP アドレス等が理解される。また,「第3章 ルータ・Firewall 設計」には,ハードウェア構成,ファームウェア構成,ネットワーク構成,接続条件等が記載されているところ,このうち,「3.6.項目名設計」の項(15頁)には,初期ルータパスワード及び変更後ルータ
5 パスワードが示されている。また,「3.7.ルータ・ファイアウォール設定コマンド」の「(5)パケットフィルタリング」の項(17頁)には,「外部からのパケットをすべて拒否するファイアウォールの基本ルールに対し,サーバへのパケットを通すための設定」が示されている。このほか,「第2章 Windows Server 2003(OS)関連設計」や「第4章 Web サーバ設計」以降にも,各種のハードウェア構成やソフトウェア構成,その設定情報等が詳細に記載されている。オ 本件保守管理契約に係る仕様書原告と被告は,平成22年以降,本件保守点検契約を締結し,平成26年までこれを更新したところ(前記第2の2(2)ウ),同契約に係る本件保守管理仕様書には,「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS の著作権」は原告に帰属し,原告は本件センターに対しその使用を許諾する旨の記載がある。(甲7)(2) 検討ア 著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(法2条1項1号)。したがって,著作物といえるためには,思想又は感情を表現したものであること,その表現に創作性があること,文学,学術,美術又は音楽の範囲に属するものであることを要する。イ 前提事実及び前記認定に係る各事実によれば,原告は,旧展示システムからの移行として本件展示システムを構築するに当たり,本件購入契約及び本件構築契約に基づき,本件展示システムの機能を実現するために必要な機能を選定し,性能,セキュリティ対策ないし費用等の面から必要かつ最適と考えるサーバ機器及びネットワーク機器等を,その組合せも踏まえた上で選定し,各機能等を分担させて本件展示システムを構築することとして,本件サーバ設計書を改訂し,これに基づき,本件展示システムを構築したことが認められる。もっとも,本件サーバ設計書と本件展示システム自体とはその表現形式を異にすることから,本件展示システムの著作物性の有無は,本件サーバ設計書の著作物性
5 とは別個に検討する必要がある。すなわち,本件展示システム自体につき著作物性が認められるためには,本件サーバ設計書を離れてなお固有の創作性が認められる必要がある。しかるに,本件展示システム自体は,いわば本件サーバ設計書の記載を技術的・機械的に具体化したものにとどまるものというべきであって,固有の創作性があると見るべき部分に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本件展示システム自体をもって創作的な表現と見ることはできない。したがって,本件サーバ設計書の表現の創作性すなわち著作物性の有無に関わりなく,本件展示システム自体をもって著作物ということはできない。ウ これに対し,原告は,本件展示システムは本件サーバ設計書とは独立して外部に表出された著作物である旨などを主張する。しかし,本件展示システムが本件サーバ設計書の記載のとおりに構築されたものであることは,原告自身も認めるところである。原告が本件展示システム自体の創作性の表現として縷々主張するものも,本件サーバ設計書の記載に基づき実現されているものと理解されるのであって,前記のとおり,これを離れて本件展示システムに固有の創作性があると見るべき部分についての具体的な主張立証はない。また,本件保守管理仕様書には「生物情報データベースフォーマット,及び,WebGIS」の著作権が原告に帰属する旨の記載があるものの,著作物性の有無は当事者間の契約条項の記載によって決定されるものではない。そもそも,上記記載が示すものと本件展示システム自体との関係性に関する具体的な主張立証はなく,両者の異同その他の関係性は不明というほかない。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用できない。
(3) 小括以上のとおり,本件展示システム自体の著作物性は認められない。したがって,原告は,本件展示システム自体に係る著作者人格権(同一性保持権)を有しないから,その余の点を論ずるまでもなく,被告に対する著作者人格権に基づく差止及び
5 廃棄請求権を有しない。
2 本件使用許諾契約の成否(争点3)及び債務不履行の有無等(争点4)(1) 「エンドユーザ使用許諾契約書」(本件使用許諾契約書。甲4)には,以下の記載がある。なお,同契約書には,契約当事者の記名押印欄及び作成日付欄は設けられておらず,また,これらの記載等もない。・「本ソフトウェアの全部または一部を使用した場合,特に以下の制限を含む本契約上のすべての条件を受諾したものと見なされます。(a) 第2条で規定する使用。」・「1.定義「本ソフトウェア」とは,下記の生物情報データベースシステム・生物情報データベース検索システム・文献データベース検索システム・レッドリスト検索システムを指すものとします。(a) ファイル,ディスク,CD-ROM その他の媒体に含まれている以下の内容のすべて(i) ネイチャースケープのコンピュータ情報またはソフトウェア及びデジタル画像data╲doc ディレクトリ・…exhweb╲wf21 ディレクトリに含まれるすべてのファイルを除き,data ディレクトリ・exhweb ディレクトリに含まれるすべてのファイル,および,その複製物。また,下記のファイルはディレクトリを問わないものとします。…(ii) 設計ドキュメントDB リレーション設計書.ppt データベース仕様書.xls DB メンテ.ppt サーバ・ フ ァ イ ア ー ウ ォ ー ル 設 計 書 .doc レ ィ レ ク ト リ 設 計 .xls 画 面 レ イ ア ウ ト .ppt画面遷移.ppt 機能仕様書.ppt Gisdata.ppt Gisdata.xls 要求仕様.ppt(b) ネイチャースケープが使用を許諾したソフトウェアのアップグレード,変更されたバージョン,アップデート,追加ファイル,およびコピー…
5 「本ソフトウェアの(を)使用(する)」とは,インストール,コピーの操作を行い,その他本ソフトウェアの機能を利用することを指します。」・「2. ソフトウェアのライセンスユーザがこのエンドユーザ使用許諾契約(以下「本契約」といいます)の条件に従う限りにおいて,ユーザに対し,本ソフトウェアを使用する非排他的なライセンスを許諾します。」・「3.知的所有権本ソフトウェア,およびネイチャースケープが作成を許諾したすべてのコピーについては,ネイチャースケープが所有権および知的財産権を有しています。…ユーザは,本ソフトウェアを改変,翻案または翻訳しないことに同意するものとします。…ネイチャースケープから提供された情報またはユーザが入手した情報は,本契約の規定に従い,本契約に定められた目的にのみ使用しうるものとし,第三者に開示してはならず,…」(2) 検討ア 仮に本件使用許諾契約の成立が認められる場合,「ユーザ」である被告は,本件使用許諾契約に基づき,原告に対し,同一性保持義務及び秘密保持義務(いずれも本件使用許諾契約書3条)を負う。しかし,以下のとおり,本件において,被告による同契約に基づく同一性保持義務及び秘密保持義務の不履行は認められない。イ 同一性保持義務の不履行について原告は,被告の本件閉鎖行為等をもって,本件使用許諾契約に基づく同一性保持義務に違反する行為であるとする。しかし,前記のとおり,本件展示システム自体は著作物とはいえない。また,本件展示システムのうち,後記のとおり,本件ルータには,一般的な設定がなされており,本件閉鎖行為等に関係する80番ポートに関する構成の部分につき著作物性
5 が認められることの主張立証もない。そうである以上,当該構成につき原告が著作権を有する部分(原告著作物部分)と見ることもできない。したがって,本件閉鎖行為等をもって,原告著作物部分の改変があったとはいえず,本件使用許諾契約に基づく同一性保持義務に違反する行為ということはできない。これに反する原告の主張は採用できない。ウ 秘密保持義務の不履行について(ア) 本件開示行為により被告が外部業者へ本件サーバ設計書を開示した範囲については当事者間に争いがあるものの,少なくともその1頁,15頁及び17頁が開示されたことは,当事者間に争いがない(前記2の2(3))。これら各頁の記載内容の概要は,前記認定(1(1)エ(イ))のとおりである。他方,前記(1)のとおり,本件使用許諾契約は,その契約書1条において定義される「本ソフトウェア」を対象とし,これを使用するライセンスの許諾及びこれに関連する事項を定めた契約である。したがって,仮に原告と被告との間で本件使用許諾契約が成立していたとしても,被告による本件開示行為につき本件使用許諾契約に基づく被告の秘密保持義務の違反といえるか否かは,本件サーバ設計書が本件使用許諾契約の対象である「本ソフトウェア」に含まれるか否かによることとなる。(イ) まず,本件使用許諾契約書における 「本ソフトウェア」の 定義において,「下記の生物情報データベースシステム・生物情報データベース検索システム・文献データベース検索システム・レッドリスト検索システムを指すものとします。」とした上で,ディレクトリ名及びファイル名等を特定していることに鑑みると,本件使用許諾契約の対象は,本件展示システムの構成要素のうち上記定義に該当するものに限定されると理解される。そこで,個別に検討するに,「ネイチャースケープのコンピュータ情報またはソフトウェアおよびデジタル画像」(本件使用許諾契約書1(a)(i))として列挙されているディレクトリ名及びファイル名からは,本件サーバ設計書を示すとうかがわ
5 れるものは見当たらず,原告も,そのいずれかに当たる旨主張するものではない。次に,「設計ドキュメント」(本件使用許諾契約書1(a)(ii))として列挙されているファイル名を見ると,「サーバ・ファイアーウォール設計書.doc」など,ファイル名を見る限り本件サーバ設計書に当たる可能性がうかがわれるものが含まれているといえる。しかし,上記ファイル名の各ファイルの具体的内容(ないし当該名称のファイルが備えるべき内容)等は証拠上明らかでない。そもそも,本件サーバ設計書と「設計ドキュメント」に列挙されたファイルとの関係に関する具体的な主張立証はない。そうである以上,本件サーバ設計書が「設計ドキュメント」として列挙されるファイルのいずれかに相当するものか否かは,不明というほかない。そうすると,本件サーバ設計書は,本件使用許諾契約の対象である「本ソフトウェア」として掲げられているもののいずれかに含まれるものとは認められない。したがって,その余の点につき論ずるまでもなく,本件開示行為につき,本件使用許諾契約に基づく被告の秘密保持義務違反が成立するとはいえない。これに反する原告の主張は採用できない。(3) 小括以上より,原告は,被告に対し,本件使用許諾契約の債務不履行を理由とする差止等請求権及び損害賠償請求権を有しない。
3 国家賠償法上の違法行為の有無等(争点5)(1) 前提事実,前記認定事実,文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。ア 被告担当者は,平成27年6月29日,本件閉鎖行為に際し,原告に対して本件メールにより問合せを行ったところ(前記第2の2(3)),本件メールには,「本日,ホームページのリニューアル作業に際し,従来のホームページを外部から見えなくするためサーバ設計書(P15 3.6 項目名設計)によりルータ(AR415S)の設定を変更しようとしたところ,ユーザ,パスワードが必要となりました。仕様書のどこに記載があるのかお教え願います。」などと記載されている(甲2)。
5 イ 本件説明書本件説明書(乙2)には,設定や管理を行うためには製品にログインする必要があること,購入時のユーザ名及び初期パスワード,設定のためのコマンド入力に関する基本的操作方法,コマンドの分類等が記載されている。ウ 代表的なポート番号インターネットサーバ側のポート番号として,25番がメール送信に,53番がDNS 索引に,80番がホームページ閲覧に,443番がホームページ暗号化閲覧にそれぞれ使用される代表的なポート番号であることは,広く知られている(乙14,15,弁論の全趣旨)。エ 本件開示行為により開示された情報被告は,外部業者に対し,本件サーバ設計書の少なくとも1頁,15頁及び17頁を開示した(前記第2の2(3))。原告は,更に,本件開示行為により開示されたのは,本件サーバ設計書の全頁であると主張する。しかし,被告担当者が本件メールで原告に対して開示を求めた事項は,前記アのとおり,ユーザ名及びパスワードに関する情報である。また,被告職員が作成したとされる「ネットワーク構成図」と題する書面(甲6)には,「 H27.7.1 ポート(80,443,53,25)をクローズ」,「H27.7.6ADSL の切り離しを実施」との記載がある。ここで,本件閉鎖行為の際に被告が外部業者と共に閉鎖したポート番号は,80のほか,443,53,25であり,いずれも代表的なポート番号である(前記ウ)。これらの事情に加え,本件サーバ設計書1頁,15頁及び17頁の各記載内容並びに本件ルータの基本的操作方法等は本件説明書に記載されていることなどに鑑みると,本件センターのホームページリニューアル作業に際し,従来のホームページを外部から見られないようにする目的で外部との接続を遮断する作業を行うために
5 は,本件サーバ設計書1頁,15頁及び17頁に各記載の情報を把握すれば足りるといえる。また,本件サーバ設計書の全頁が被告により外部業者に開示されたことを認めるに足りる証拠はない。したがって,本件開示行為により被告が外部業者に開示したのは,本件サーバ設計書の1頁,15頁及び17頁にとどまると認められる。これに対し,原告は縷々主張するが,いずれも原告による推論であるか,裏付けとなる客観的な証拠を欠くものであり,この点に関する原告の主張は採用できない。(2) 検討ア 本件サーバ設計書1頁にはネットワーク構成図等が記載されているところ(前記1(1)エ(イ)),本件展示システムが ADSL 回線と本件ルータを接続することにより外部ネットワークと接続することは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書にも,システム構成として記載されている。また,同頁記載の各端末に割り当てられたグローバル IP アドレスは,本件サーバ設計書を見ずとも,所定の手順を履践することにより確認可能なものである。また,本件サーバ設計書15頁には,「項目名設計」の項に本件ルータの初期パスワード及び変更後パスワードが記載されているところ(前同),このうち,初期パスワードは本件説明書にも記載がある。さらに,本件サーバ設計書17頁には,「ルータ・ファイアウォール設定コマンド」の項の「パケットフィルタリング」に関する記載があるところ(前同),本件展示システムにおいてファイアウォール機能がパケットフィルタリングにより行われることは,本件購入仕様書及び本件構築仕様書にも記載されている。加えて,本件ルータがファイアウォール機能を有することやそのファイアウォールポリシーの詳細な設定情報,ルータの設定コマンド等は一般に公開されている(乙1,3~5)。しかも,「パケットフィルタリング」記載の設定方法は,メーカーが一般に公開している設定例集(乙5)記載の設定例と,サーバの IP アドレスを異にするに過ぎない。
5 そうすると,本件展示システムにつき外部との接続を遮断するために必要な情報のうち,本件サーバ設計書を参照しなければ被告及び外部業者が把握し得ないものは,本件ルータの変更後パスワード及び開放されているポート番号である。これに,確認に所定の手順を要する IP アドレスをも含むとしても,サーバの IP アドレス及び本件ルータの変更後パスワードは,本件展示システムに固有のものと思われることから,これらの情報が第三者との関係で秘密として保持されることにつき,原告にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難く,少なくともこれがあることの具体的な主張立証はない。また,本件サーバ設計書17頁には,開放済みポート番号として本件閉鎖行為により閉鎖された80,25及び53のほか,110,143,123も記載されているが,これらも含め,いずれも代表的なポート番号とされるものであるから(乙14),これらの情報についても,秘密として保持されることにつき原告にとっての有用性ないし固有の利益があるとは考え難い。そうすると,被告の外部業者に対する本件開示行為(本件サーバ設計書1頁,15頁及び17頁の開示)につき,原告の法的に保護すべき権利ないし利益を侵害するものとはいえない。したがって,本件開示行為をもって,被告による国家賠償法上の違法行為と認めることはできない。イ これに対し,原告は,本件開示行為により,本件サーバ設計書記載の原告の秘密情報を保持する権利ないし利益が侵害された旨及びこれにより本件展示システムの基となっている基礎システムを使用する他の顧客のシステムについてセキュリティ対策を施す必要が生じ,損害を受けた旨などを主張する。しかし,前記のとおり,本件開示行為により開示された情報は,いずれも公開されたものであるか,原告にとって有用性ないし固有の利益がある情報とはいえない。また,損害の点についても,他の顧客に対する連絡・周知文書や対策として調達したとする機器の購入の裏付資料といった客観的な証拠はない。その他原告が縷々主張する事情を考慮しても,この点に関する原告の主張は採用
5 できない。(3) 小括以上より,原告は,被告に対し,本件開示行為につき,国家賠償法上の損害賠償請求権を有しない。
第5 結論
よって,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官
杉 浦 正 樹
裁判官
杉 浦 一 輝
裁判官
布 目 真 利 子
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