令和2(行ケ)10069審決取消請求事件
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裁判所 |
審決取消 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
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裁判年月日 |
令和3年12月9日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告沢井製薬株式会社同訴訟代理人弁護士森本純 被告旭化成ファーマ株式会社同訴訟代理人弁理士細田芳徳
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対象物 |
1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治25療/予防剤 |
法令 |
特許権
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キーワード |
実施112回 進歩性20回 審決17回 無効9回 無効審判2回 優先権1回
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主文 |
1 特許庁が無効2018-800065号事件について令和2年4月15
22日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 |
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判決文
令和3年12月9日判決言渡
令和2年(行ケ)第10069号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年10月12日
判 決
原 告 沢 井 製 薬 株 式 会 社
同訴訟代理人弁護士 森 本 純
10 被 告 旭化成ファーマ株式会社
同訴訟代理人弁理士 細 田 芳 徳
同 亀 ヶ 谷 薫 子
主 文
15 1 特許庁が無効2018-800065号事件について令和2年4月
22日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
20 主文同旨
第2 事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴ 被告は,平成27年5月25日,その名称を「1回当たり100~200
25 単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治
療/予防剤」とする発明について特許出願(特願2015-105266号。
平成22年9月8日(優先権主張 平成21年9月9日・特願2009-2
08039号)を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を
新たな特許出願として行われたもの。以下「本件出願」という。)をし,平成
29年9月1日,その設定登録(特許第6198346号,請求項の数2)
5 を受けた(以下,この登録に係る特許を「本件特許」という。 。
)
⑵ 原告は,平成30年5月24日,本件特許の請求項1及び2に係る発明に
ついて特許無効審判請求(無効2018-800065号)をした。
特許庁が令和元年8月6日に本件特許の請求項1及び2に係る発明につい
ての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ,被告は,同年10月1
10 1日付けで本件特許の請求項2に係る特許請求の範囲を訂正する訂正請求を
行った(以下,この訂正を「本件訂正」という。 。
)
特許庁は,令和2年4月22日,
「特許第6198346号の特許請求の範
囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項
2について訂正することを認める。特許第6198346号の請求項1及び
15 2に係る発明についての審判請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審
決」という。)をし,その謄本は,同年5月1日,原告に送達された。
⑶ 原告は,令和2年5月26日,本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起
した。
2 特許請求の範囲の記載等
20 本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の発明(以下,請求項の番号に応じ
て「本件発明1」のようにいい,本件発明1及び2を併せて「本件発明」とい
う。)に係る特許請求の範囲の記載は,それぞれ次のとおりである。
⑴ 本件発明1
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され
25 ることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有
する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし,48週を超過して7
2週以上までの間投与される,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
5 (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。
⑵ 本件発明2
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され
ることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有
10 する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし,48週を超過して7
2週以上までの間投与される,骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤
であって,前記PTH(1-34)又はその塩がヒトPTH(1-34)酢
酸塩であり,前記骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では,
15 新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためである;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。
20 3 本件審決の理由の要旨
本件審決は,①本件発明の「200単位のPTH(1-34)」は明確であ
るから,本件発明は明確性要件に違反しない,②当業者は本件特許に係る明細
書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の記載及び出願時の技術常
識に基づいて本件発明を実施することができるから,本件発明の発明の詳細な
25 説明の記載は実施可能要件に違反しない,③本件発明は本件明細書に記載した
ものであるから,サポート要件に違反しない,④本件発明は,甲第7号証「ヒ
ト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠週1回投与の効果:
3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験」(Osteoporosis Inter
national,Vol.9 p.296-306,1999)(以下「甲7文献」という。)に記載さ
れた発明(以下「甲7発明」という。)及び本件発明の特許要件判断の基準日
5 (平成22年9月8日。以下「本件基準日」という。)当時の技術常識を踏ま
えても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない旨判断した。
それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は,以下のとおりである。
⑴ 明確性要件違反(無効理由1)の有無について
本件明細書の段落【0034】に「非特許文献9」を引用して記載されて
10 いるPTHの単位の測定法は,PTHの生物活性の測定法としてごく一般的
なラット腎アデニルシクラーゼ法である。上記「非特許文献9」である甲第
4号証「ラット腎臓からのアデニルシクラーゼの安定な調製による,in Vit
roの副甲状腺ホルモンのバイオアッセイ」(Endocrinology,Vol.85 p.80
1-810,1969)
(以下「甲4文献」という。)では,ラット腎皮質をホモジナ
15 イズ,精製等して得られたアデニルシクラーゼ酵素調製物(以下「本件酵素
32
調製物」という。)とAT Pを添加した酵素反応用液に,測定目的のPT
H試料と,生物活性既知の標準品であるMRC67/342(以下「本件標準
32
品」という。)をそれぞれ添加し,両者のcAM P産生量を比較すること
により,PTH試料の生物活性の結果を得ている(以下,甲4文献に記載さ
20 れた測定方法を「甲4方法」という。 。したがって,PTH試料として,本
)
件発明のPTH(1-34)を用いたときにも,甲4方法又はこれと同じ結
果を再現できる同等の方法を用いることにより,
「200単位のPTH(1-
34)」の量を当業者は特定できる。
⑵ 実施可能要件違反(無効理由2)の有無について
25 「200単位のPTH(1-34)」は当業者が明確に理解できるものであ
り,また,本件標準品が入手できないようなことがあった場合にも,例えば,
「ヒトPTH注(東洋) 又は
」 「テリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成」」
(以下, 「テリパラチド酢酸塩静注用100
この 「旭化成」 を
」 「本件代替品」
という。)を標準品として用いることにより,200単位量のPTH(1-3
4)を測定することができる。
5 ⑶ サポート要件違反(無効理由3)の有無について
本件発明の解決課題は,(1)年齢が65歳以上である,
「 (2)既存の骨折
がある,3)
( 骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,
骨萎縮度が萎縮度I度以上である」の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に,
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩(酢酸塩)が週1回
10 投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩(酢酸塩)を
有効成分として含有する,48週を超過して72週以上までの間投与される,
骨折抑制のため又は骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では
新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるための骨粗鬆症治療剤ないし
予防剤を提供することである。
15 本件明細書の実施例2に示される試験の投与期間は72週までであって,
72週を超えた投与期間についての具体的な結果の記載はないが,本件明細
書には,新規椎体骨折発生率が,投与開始ないし24週まででは2.3%であ
ったものが,24ないし48週では0.9%となり,48ないし72週では
0%となったとの記載(【0131】 【表35】 ,
, ) 「PTH200群では,投
20 与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えて
からの新規椎体骨折の発生はなかった。
・・・本剤による骨折抑制効果は,投
与とともに増強する傾向が認められた。 との記載 【0132】 があるから,
」 ( )
当業者は,本件発明の骨粗鬆症治療剤を72週を超えて投与したときにも,
本件発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のために用いることができ,48週を
25 超過して72週までの間の投与では,新規椎体骨折の発生率を0%までに低
減させるために用いることができると理解する。
したがって,本件発明は,特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明
に記載したものである。
⑷ 進歩性欠如(無効理由4)の有無について
ア 甲7発明の認定
5 ヒトPTH(1-34)酢酸塩の200単位を毎週皮下注射する,ヒト
PTH(1-34)酢酸塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であ
って,厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,
年齢範囲が45歳から95歳の被験者のうち,複数の因子をスコア化する
ことによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の
10 患者に対し,48週にわたり投与される,骨粗鬆症治療剤。
イ 本件発明1と甲7発明との一致点
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与さ
れることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として
含有する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,特定の骨粗鬆症患者に投
15 与されることを特徴とする,骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。
ウ 本件発明1と甲7発明との相違点
(ア) 相違点1
特定の骨粗鬆症患者が,
本件発明1では
20 「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨
萎縮度が萎縮度I度以上である」であるのに対し,
25 甲7発明では,
「厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢
範囲が45歳から95歳の被験者のうち,複数の因子をスコア化するこ
とによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の
患者」である点
(イ) 相違点2
5 骨粗鬆症治療剤ないし予防剤が,本件発明1では,骨折抑制のための」
「
ものであることが特定されているのに対し,甲7発明では,そのような
特定がない点
(ウ) 相違点3
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤が,本件発明1では,
「48週を超過して
10 72週以上までの間」投与されるものであるのに対し,甲7発明では,
「48週にわたり」投与されるものである点。
エ 相違点1及び相違点3の容易想到性
下記(ア)に示すいずれの文献にも,本件発明1の「(1)年齢が65歳以
上である」 「
, (2)既存の骨折がある」 「
, (3)骨密度が若年成人平均値の
15 80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である」
との全ての条件(以下「本件3条件」といい,各条件を番号に従い「本件
条件(1)」のようにいう。)を満たす骨粗鬆症患者に対し,48週を超過
して72週以上までの間投与をすること(以下,この期間の投与を「本件
条件(4)」ということがある。)は記載も示唆もされておらず,また,本
20 件3条件の全てを満たす患者に対して本件条件(4)の用法に特定するこ
とにより,下記(イ)に示すような顕著な骨折抑制効果が奏されることを当
業者が予測し得たとは認められない。
よって,相違点1及び相違点3に係る,本件3条件を満たす患者に本件
条件(4)の用法で甲7発明の骨粗鬆症治療剤を投与することは,本件基
25 準日において,当業者が容易に想到し得たとは認めることはできないから,
相違点2の容易想到性について検討するまでもなく,本件発明1に進歩性
が認められる。
(ア)a 甲7文献には,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が,48週という比較
的短期間で腰椎骨密度(BMD)を8.1%増加させた治療剤であるこ
とが記載されているが,本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者に対
5 して,48週を超過して72週以上までの間投与することは記載も示
唆もされておらず,また,本件3条件の全てを満たす患者を特に選ん
で48週を超過して72週以上までの間投与することにより,顕著な
骨折抑制効果が奏されることを当業者が期待し得る記載や示唆もない。
甲7文献には,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を48週間投与したとき
10 に,椎体骨折数が0であったことが記載されているが,これは,
「各群
間の差は有意でなかった」と評価されるデータにすぎず,また,本件
3条件の全てを満たす患者についてのものではないから,本件3条件
の全てを満たす骨粗鬆症患者を選んで,48週を超過して72週以上
までの間投与することにより顕著な骨折抑制効果が奏されることを当
15 業者が予測することはできない。
甲7文献には,投与期間を48週間と設定した理由として,脱落率
が過度とならずに,定期的に骨測定並びに血液及び尿試料採取を行う
適切に管理された多施設試験を実施できる限界とも考えられた旨の記
載があり,48週間が「限界」であると考えられたためであり,腰椎
20 骨密度の増加の程度は投与期間の長期化に伴って減少し,48週間の
投与期間中であっても,72症例中30症例で有害反応が生じ(約4
2%),そのうち16症例(有害反応症例のうちの約53%)がその有
害反応によって脱落したことが報告されているから,甲7文献の記載
に接したときには,72週以上もの長期間一律に患者に強いるに足る
25 だけの顕著な薬理効果が甲7発明の治療剤にあることを,その記載か
ら読み取ることはできない。
b 甲第19号証「テリパラチドの後の重症閉経後骨粗鬆症の逐次的治
療:Forsteoの無作為化コントロール欧州試験(EUROFORS)の最終
結果」(Journal of Bone and Mineral Research,Vol.24,No.4
p.726-736,2009)
(以下「甲19文献」という。)には,1年間の
5 テリパラチド(PTH製剤)20μg/日の投与後,2年目もテリパ
ラチドの投与を続けた群(305例)では,2年目も腰椎骨密度の上
昇が継続したのに対し,2年目にテリパラチドの投与をやめ,ラロキ
シフェン投与に切り替えた群(100例)では,腰椎骨密度の変化は
なく,2年目に積極的な治療を行わずカルシウムとビタミンDの補充
10 のみに切り替えた群(102例)では腰椎骨密度が減少したことが記
載され,甲第20号証「骨吸収抑制剤による前治療がある場合とない
場合における,重症骨粗鬆症の閉経後女性のBMDに及ぼす2年間の
テリパラチド連日投与の効果」(Journal of Bone and Mineral R
esearch,Vol.23,No.10 p.1591-1600,2008)
(以下「甲20文
15 献」という。 には,
) テリパラチド20μg/日の2年間の投与により,
腰椎骨密度が継続して上昇することが記載され,甲第52号証「閉経
後骨粗鬆症女性におけるテリパラチド投与中止後の持続的な椎体骨折
リスクの低下」(Archives of Internal Medicine,Vol.164 p.20
24-2030,2004)(以下「甲52文献」という。)には,テリパラチ
20 ド20μg/日や同40μg/日の投与を18か月でやめたときに,
24か月目,36か月目に骨密度が下がったことが記載されている。
しかしながら,これら文献は,甲7発明の骨粗鬆症治療剤とは用法
用量の異なるテリパラチド20μg/日や同40μg/日の投与の結
果を示すものであるから,これら用法用量の異なる治療剤の腰椎骨密
25 度の推移が,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を用いたときにも同様にあて
はまるとすることは適切ではない。
加えて,骨折抑制効果について,甲19文献には,「我々の試験は
骨折に対する効果を評価するためにデザインされておらず,適切に評
価する検出力もない。予測通り,試験期間中の臨床的脆弱性骨折の全
数は少なく,ランダムに割り付けられた2年目の治療の群間比較は,
5 3つの逐次的治療の相対的な骨折抑制効果に関して導かれるどの結論
も許可されるものではない。 (733頁右欄41ないし57行目)と
」
記載されており,甲19文献の骨折抑制に係る記載を甲7発明の骨粗
鬆症治療剤に敷衍することも不適切である。
なお,甲19文献には,「しかしながら,時間と共に骨折発生率が
10 徐々に減少することは(表3),興味深い記述的な発見であるが,確認
のためのさらなる試験を必要とするであろう。 (733頁右欄41な
」
いし57行目)との記載があり,表3には,テリパラチド20μg/
日を2年間継続投与した群において,骨折患者数が時間と共に減少し
ているとの記載があるが,2年目にラロキシフェン治療に切り替えた
15 群と,積極的治療を行わず,カルシウムとビタミンDの補充のみに切
り替えた群も加えた全体集団の骨折患者数が13ないし24月の投与
期間ではより低い値となっており,この結果は,PTH20μg/日
の投与を2年間続けた群の2年目の骨折発生率が4.3%,ラロキシフ
ェンに切り替えた群の2年目の骨折発生率が2.1%,積極的治療を行
20 わないカルシウムとビタミンDの補充のみに切り替えた群の2年目の
骨折発生率が1.0%であったこと(730頁右欄8ないし20行目)
が反映されたものであるから,2年目もPTH投与を続けた群の方が
2年目に積極的な治療をやめた群よりも骨折発生率が高かったとの結
果が示されている。
25 そうすると,甲19文献の記載から,PTHの長期間投与が骨折抑
制効果の点で優れたものであると理解することはできない。
(イ)a 本件明細書【表35】によると,本件3条件の全てを満たす患者
における24週,48週及び72週にわたる投与における骨折相対リ
スク減少率(RRR)は次のとおりである。
① 0ないし24週の間 約54%
5 ② 24ないし48週の間 約82%
③ 48ないし72週の間 100%
b 本件明細書【0132】には,【表35】の結果について,「上記の
表が示すように,半年ごとの新規椎体骨折発生率は,P群では,いず
れの区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して,PTH200
10 群では,投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,
48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかった。また,PTH
200群の新規椎体骨折発生率は,24週以内,24週~48週,4
8週~72週のいずれの区間でもP群より低く,プラセボに対する相
対リスク減少率(Relative Risk Reduction;RRR)は投与を継続す
15 るにつれて増加した。このように,本剤200単位の週1回投与は,
新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リ
スクをプラセボに対して53.9%低下させた。また,本剤による骨折
抑制効果は,投与とともに増強する傾向が認められた。 との記載があ
」
る。
20 c 本件明細書【0133】には,
「その他,骨折試験のFASにおいて,
Kaplan―Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生
率は,PTH200群3.5%,P群が16.3%であり,本剤200
単位の発生率はプラセボ投与群より低かった(logrank検定,p<0,0
001)。また,本剤200単位は,72週後には,椎体骨折(新規+増
25 悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の
椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24
週~48週,48週~72週のいずれの区間でも,PTH200群の
発生率はP群より低かつた。」との記載がある。
d 別紙5の実験成績証明書C(甲95。 「甲95証明書」
以下 という。)
に示された実験結果の骨折相対リスク減少率(RRR)は,下記のと
5 おりである。
① 本件3条件の全てを満たす患者における48週超過投与 約5
1%
本件3条件の全部又は一部を満たさない患者における48週超過
投与 約43%
10 ② 本件3条件の全てを満たす患者における72週以上投与 約5
9%
本件3条件の全部又は一部を満たさない患者における72週以上
投与 約36%
なお,本件明細書【表34】 【表35】 【0131】ないし【01
, ,
15 33】には,本件3条件の全てを満たす患者について,プラセボに対
するRRRが,PTH投与の継続につれて増加して,72週後には,
椎体骨折の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた旨が
記載されているから,本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者に対す
る本件発明の被験薬の72週以上の長期投与により,優れた骨折抑制
20 効果がもたらされることが記載されており,本件3条件の全てを満た
す患者に対する72週以上の投与における骨折抑制効果を示す甲95
証明書を参酌することは許される。
オ 本件発明2について
(ア) 本件発明2と甲7発明とは,上記相違点1ないし3に加え,下記の
25 相違点4の点で相違する。
(相違点4)
骨折抑制の用途が,
本件発明2では,「48週を超過して72週までの間の投与では,新
規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるため」であることが特定さ
れているのに対し,
5 甲7発明では,そのような特定がない点
(イ) 前記エのとおり相違点1及び3に係る本件発明1の構成を当業者が
容易に想到し得たと認められない以上,本件発明2は,相違点2及び4
について検討するまでもなく,進歩性を有する。
4 取消事由
10 ⑴ 明確性要件に関する判断の誤り(取消事由1)
⑵ 実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由2)
⑶ サポート要件に関する判断の誤り(取消事由3)
⑷ 本件発明1の進歩性に関する判断の誤り(取消事由4-1)
⑸ 本件発明2の進歩性に関する判断の誤り(取消事由4-2)
15 第3 当事者の主張
1 取消事由1(明確性要件に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
本件発明のPTHの生物学的活性は甲4方法によって測定されるところ,
甲4方法は,①活性が既知であるウシ甲状腺ホルモンから部分的に精製した
32 32
20 本件標準品と,本件酵素調製物と,AT P( Pは放射標識体)とを混
合し,本件標準品中のPTHがアデニルシクラーゼを活性化させ,これによ
32 32 32
りAT PがcAM Pに変換され,反応終了後にcAM Pの生成量
を測定し,用量反応曲線を作成し,②同様に,活性が未知のPTHであるサ
32
ンプルと本件酵素調製物とAT Pとを混合して用量反応曲線を作成し,
25 ③次に,サンプルの用量反応曲線と本件標準品の用量反応曲線とを対比して,
生物学的活性が既知の標準品に対するサンプルの生物活性の比から,サンプ
ルの生物活性を導くバイオアッセイ法である。
しかし,以下のアないしエの4つの観点からみて,本件発明の「200単
位」は明確ではない。
ア 明確性要件違反その1
5 甲4方法は,①本件標準品が甲4方法を阻害する不純物を含んでいたこ
と(甲4,36ないし38),②本件酵素調製物中のラット由来の腎皮質細
胞膜によりウシPTHが急速に分解されること(甲40,41),③本件酵
素調製物におけるラットの個体差・酵素の純度の相違に基づく試験間の差
を平準化する指標が定められていないことにより,生物学的活性の測定法
10 として再現性・普遍性を欠くものであり,その測定結果には信頼性がない。
イ 明確性要件違反その2
ヒトPTH(1-34)は,ラット腎皮質細胞膜で分解されるため(甲
40,41),甲4方法において十分な用量反応曲線を得ることができず
(甲4,40) 甲4方法で生物学的活性の測定を行うことが困難である。
,
15 すなわち,ヒトPTHはウシPTHよりも分解速度が速いこと,また,ヒ
トPTH(1-34)はヒトPTH(1-84)よりも分解速度が速く,
ヒトPTH(1-84)に比して約10分の1の生物学的活性しかみられ
ない。そうすると,ラット腎皮質を調製したものを酵素調製物として使用
した場合,ウシPTHである標準品の用量反応曲線とヒトPTHであるサ
20 ンプルの用量反応曲線の傾きが異なってしまったり,また,両曲線が平行
になったとしてもそれら用量反応曲線の傾きが小さくなりすぎて誤差が
大きくなってしまったりする。このようなことから,甲4方法ではヒトP
TH(1-34)の生物学的活性の測定が困難であるため,ラット以外の
他の種由来の酵素を使用することが提案されていたのである(甲40)。
25 したがって,本件発明のPTHの1単位量は,薬剤の投与量を定める単
位として明確性に欠ける。
ウ 明確性要件違反その3
(ア) 本件基準日当時には,国際標準品として別の製品が用いられるよう
になっていて,本件標準品は入手が不能ないし困難となっており,甲4
方法によりPTH1単位量を定めることは,現実に行うことができない
5 か,少なくとも著しく困難になっていた。
(イ) 次のとおり,本件代替品(生物学的活性は,被告の測定によると,
テリパラチド酢酸塩として3300単位/mg)を標準品として測定し
てPTH1単位量を定めることはできない。
a 本件明細書には,甲4方法と同じ測定結果を再現することができる
10 代替可能な他の方法についての記載も,他の標準品で代替することが
できる旨の記載もない。
b 被告が本件代替品について行った測定結果は,甲4方法ではなく,
これとは異なる甲第83号証に記載の方法(以下「甲83方法」とい
う。)によってされたものである。しかしながら,酵素的分析法では,
15 酵素の精製法や精製段階が違えば,純度や比活性が当然に異なり,酵
素反応時の温度・pH等の微妙な変化でも酵素の変性・失活が生じて
しまって試験結果に影響することから,試験条件の変化が仮に微妙で
あっても注意が必要であることは,本基準日当時の技術常識である(甲
42) したがって,
。 甲4方法と甲83方法の試験方法及び試験条件の
20 相違は,技術常識に照らし,生物学的活性の測定結果に看過できない
程度の影響を生じさせる。したがって,本件代替品の「3300単位
/mg」自体が甲4方法とは異なる測定方法によって定めた値である
から,甲83方法を用いても甲4方法と同一の結果を再現することは
できない。
25 エ 明確性要件違反その4
ウシPTHとヒトPTHとは,アミノ酸配列を異にする上(甲3),構造
的及び立体配座的な相違により生物学的活性が異なるから,ウシPTHの
生物学的活性について規定された単位を,何らの換算方法等の規定もない
ままにヒトPTHに適用できるという技術常識はない。
⑵ 被告
5 ア 前記(1)ア(明確性要件違反その1)について
上記①については,仮に,本件標準品が不純物を含んだりするとしても,
本件標準品の用量反応曲線はそれらの影響も含めて測定されたものであ
り,不純物の割合が測定の度に変わるわけではないから,平行線検定法が
前提とするサンプルの用量反応曲線との平行性を満たしている限り,測定
10 の信頼性は否定されない。
上記②については,ラット由来の腎皮質細胞膜がウシPTHを急速に分
解するとしても,それゆえ,甲4方法が再現性が得られない方法とする文
献はない。仮に,PTHの種類によって分解速度が異なるとしても,本件
標準品の用量反応曲線とサンプルの用量反応曲線が平行であることを確
15 認した上で生物活性を測定するのが甲4方法であるから,両者の用量反応
曲線が平行にならなければ,その測定結果はただ単に採用されないだけで
ある。
上記③については,当業者であれば,甲4文献に技術常識に関わるよう
な詳細の記載がなくとも,甲4方法における試験間の差の平準化や測定結
20 果の再現性を高めるために通常工夫する実験手法や統計学的手法を適用
し,測定結果の開きや誤差を最小限にした測定を行うことができる。
イ 前記(1)イ(明確性要件違反その2)について
甲4文献には,ヒトPTHについて甲4方法が使用できないといった記
載はない。原告主張の関係文献(甲40等)も,見かけの活性が低いとし
25 ているだけであって,ヒトPTH(1-34)を測定できないとの記載は
ない。甲4方法がPTHの最も代表的な信頼できる測定法であることに変
わりはない。
標準品とサンプルの用量反応曲線の勾配が,測定条件間で異なる傾きに
なる可能性があることに被告も異論はないが,勾配が異なっても,その影
響は標準品とサンプルのそれぞれに等しく及ぶのだから,各曲線間の距離,
5 すなわち効力比は変わらない。
ウ 前記(1)ウ(明確性要件違反その3)について
(ア) 本件明細書の【0034】には,
「PTHの1単位量は,自体公知の
活性測定方法により測定可能である(非特許文献9)」と記載され,活性
測定方法として非特許文献9(甲4)を引用して公知の「ラット腎アデ
10 ニルシクラーゼ法」を用いることが記載されている。標準品として,甲
4文献では本件標準品が記載されているが,上記【0034】には,標
準品に関する格別の記載はなく,本件標準品でもよく,あるいはその後
に提案されたものでもよく,本件出願当時に技術常識となっていれば,
他の標準品を使用することを排除するものではない。そして,本件基準
15 日当時には,本件代替品のように,ラット腎アデニルシクラーゼ法によ
る生物活性が100単位であって,同測定による比活性がテリパラチド
酢酸塩として3300単位/mgであるものが流通し,当業界では容易
に入手し得たものである。したがって,本件基準日当時の技術常識に照
らせば,活性測定方法は,ラット腎アデニルシクラーゼ法を用いていて,
20 本件標準品に紐付いた測定結果が得られるものであればよく,本件標準
品を用いる甲4方法で測定しなければならないと論ずること自体が的外
れである。
(イ) 多少の測定条件の差違はあっても,甲4方法も甲83方法もいずれ
も同一の測定原理に基づく「ラット腎アデニルシクラーゼ法」であり,
25 標準品に対する相対的な活性を平行線検定法で測定するものであるから,
測定条件の相違は測定結果に影響を与えない。甲83方法も本件標準品
から生物活性を紐付けされた方法であるから,甲4方法と同一の測定結
果が得られるものであり,試験結果に影響を与えない。原告は,測定条
件や調製法が同一でなければ看過できない影響が出ると主張するが,何
ら具体的な根拠に基づいて主張しているものではなく,単なる憶測にす
5 ぎない。
エ 前記(1)エ(明確性要件違反その4)について
ヒトPTHの生物活性を測定する際に,ウシPTHの生物活性から換算
することはしておらず,平行線検定法により相対的に測定したそのままの
値をヒトPTHの生物活性(単位)として用いればよく,原告の主張する
10 「換算」は意味不明であり,その主張は失当である。
2 取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
本件明細書の【0034】には「ここでPTHの1単位量は,自体公知の
活性測定方法により測定可能である(非特許文献9) とだけ記載されており,
」
15 具体的な測定方法や手順は記載されていない。
前記1⑴のとおり,本件標準品は,本件基準日当時に入手が不能ないし困
難となっていて,
「非特許文献9」による測定方法,すなわち甲4方法による
生物学的活性の測定は,現実に行うことができないか,著しく困難になって
いた。その上,本件明細書には,甲4方法と同じ測定結果を再現することが
20 できる代替可能な測定方法について何らの記載もされていない。また,甲8
3方法は甲4方法とは異なり,その測定方法の相違は,技術常識に照らし,
看過することができない程度の試験結果の相違をもたらす。したがって,本
件発明の「200単位」に係るPTH1単位量は,測定すること自体が不能
ないし著しく困難であって,当業者は本件発明を実施することができない。
25 そうすると,本件発明は,発明の詳細な説明の記載が当業者が本件発明を
実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,
実施可能要件を欠く。
⑵ 被告
前記1⑵と同旨である。
3 取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)の有無について
5 ⑴ 原告
本件明細書には,200単位のテリパラチド酢酸塩の週1回の間欠投与を
48週を超過して72週にわたり実施した実施例2について,腰椎骨密度変
化率が,投与開始時,投与開始から24週後,48週後,72週後と増加し
ていき,また,新規椎体骨折発生率が,投与開始後半年の区間ごとに低下し
10 ていった旨記載されている。
しかしながら,72週を超えた投与については,本件明細書には何ら記載
されておらず,本件明細書の記載から72週を超えた投与について予測でき
ない顕著な効果が認められると当業者が認識することは困難である。したが
って,本件発明の72週を超えて投与する部分は,発明の課題が解決できる
15 ことを当業者が認識できるよう発明の詳細な説明に記載された範囲を超える。
なお,本件明細書に72週を超えた投与について具体的な記載が何らされ
ていないにもかかわらず,当業者が72週を超えた投与について有効性及び
安全性が認められると理解できるというのであれば,200単位のPTHを
48週にわたり週1回間欠投与した甲7発明に基づき,本件発明の「48週
20 を超過して72週以上までの間」の投与につき有効性及び安全性が認められ
ると理解できることになるから,本件発明に進歩性を認める余地がないこと
になる。サポート要件と進歩性要件とは整合的な評価判断がされるべきであ
る。
⑵ 被告
25 本件明細書の【0032】では,投与期間について「72週以上,または
78週以上を例示することができ・・・」と記載され,また,【表35】及
び【0132】に記載された72週までの記載をみると,投与の継続により
骨折抑制効果が増強する傾向が明確に読み取れる。
したがって,当業者は,72週以上継続投与しても,骨折抑制のための治
療剤,予防剤として使用できることを十分に理解できるから,本件発明は,
5 72週を超えた投与についても,発明の課題が解決できることを当業者が認
識できるように記載された範囲を超えるものではない。
なお,原告は,72週を超えた投与について具体的な記載がなくても本件
発明がサポート要件を充足するのであれば,甲7発明に基づき進歩性がない
旨主張するが,サポート要件に関する判断に従って進歩性の判断をすること
10 はできず,両者は全く関連性を有しない。
4 取消事由4-1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
ア 相違点1の容易想到性
(ア) 本件3条件の各条件について
15 a 本件条件(1)について
骨粗鬆症は加齢とともに有病率が上昇する疾病であること,椎体骨
折及び大腿骨頚部骨折発生率が年齢とともに指数関数的に増加するこ
と,高齢であることが骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であるこ
と,年齢が骨密度とは独立した骨粗鬆症による骨折の危険因子である
20 ことは,本件基準日当時の技術常識であった(甲8,15の1,99)。
そして,
「65歳以上」というのは,高齢者の医療の確保に関する法律
32条で65歳以上が高齢者とされていることに相応するだけである。
したがって,本件条件(1)は,単に,骨粗鬆症の発症率が高いこと
及び骨折のリスクが増大した状態の患者群であることの一要素でしか
25 なく,これ自体,何ら格別の技術上の意義を有するものではない。
b 本件条件(2)について
既存骨折の有無は,骨粗鬆症の診断において,重要な診断の要素の
一つとされていたものである(甲8,9,15の1,99)。さらに,
男女とも,部位にかかわらず,既存骨折があると将来の骨折リスクは
5 約2倍になり,特に,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折リスクは
約4倍に高まるとされていた(甲99)。したがって,本件条件(2)
は,骨粗鬆症の患者群を特定する条件の一つとして,ごく一般的なも
のにすぎず,これ自体,何ら格別の技術上の意義を有するようなもの
ではない。
10 c 本件条件(3)について
本件条件(3)の骨密度・骨萎縮度に関する条件は,骨粗鬆症の診
断基準の一要素とされていたものである(甲9,15の1,99)。し
たがって,本件条件(3)も,骨粗鬆症の患者群を特定する条件の一
つとして,ごく一般的なものにすぎず,これ自体,何ら格別の技術上
15 の意義を有するものではない。
(イ) 本件3条件の容易想到性について
a(a) 甲7発明における骨粗鬆症患者の年齢範囲は「45歳から95
歳」であるが,骨粗鬆症は,加齢とともに有病率が上昇する疾病で
あるから,本件条件(1)を満たす患者は,甲7発明が当然に投与
20 対象として予定していたものである。また,甲7発明は,
「退行期骨
粗鬆症の診断基準(1989年) (甲8)に記載の診断基準により
」
骨粗鬆症と診断された患者を投与対象とするものであるところ ,
本件条件(2)の既存の骨折があることは,スコアの合計において
重要な因子となっているから,本件条件(2)を満たす患者も,甲
25 7発明が当然に投与対象として予定していたものである。さらに,
甲7発明が対象とする患者は,上記診断基準(甲8)を改訂した「原
発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版) (甲9)に記載の
」
診断基準に含まれる本件条件(3)も満たしている蓋然性が高いか
ら,本件条件(3)を満たす患者も,甲7発明が当然に投与対象と
して予定していたものである。
5 ⒝ 甲7発明の対象患者は,「退行期骨粗鬆症の診断基準(1989
年) (甲8)で「4点(ほぼ確実)以上の患者」である。上記診断
」
基準において,「年齢」のスコアは,「女性55歳未満 -1」及び
「男性75歳未満 -1」であるから,本件条件(1)を満たした
だけでは,甲7発明の対象患者(骨粗鬆症患者)には選定されない。
10 他方,本件条件(2)は,スコア+1~+3,本件条件(3)は,
スコア+3であるが,本件条件(2)及び本件条件(3)以外でス
コアが加点となる因子は,
「腰背痛あり 1」 「血清カルシウム,
及び
リン,AL-P値 正常 1」しかない。
したがって,甲7発明の対象患者(合計4点(ほぼ確実)以上)
15 と診断されるためには,年齢以外の複数の因子をも満たしている必
要があり,そのなかでも,本件3条件の全てを満たしている患者は,
「確実」(合計5点以上)あるいは「ほぼ確実」(合計4点)に骨粗
鬆症と診断される患者の典型といえる。
このように,甲7発明の対象患者は,本件3条件の全てを満たし
20 ている蓋然性が高い。
b 前記(ア)のとおり,本件3条件は,骨粗鬆症の発症や骨折の危険因
子あるいは骨粗鬆症の一般的な診断要素にすぎないから,骨粗鬆症に
ついて特殊な患者群を画する意義は認められない。
甲第101号証「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」
25 には,臨床的骨折危険因子として合計8個の因子が確認されている中
で「低骨密度」 「既存骨折」及び「年齢」に関しては,骨折の危険因
,
子としてエビデンスがあるが,その他の臨床的骨折危険因子について
は,相対危険度と,それらの年齢との関係性等のデータが十分ではな
い旨明記され(51頁),また,本件3条件が骨折の危険因子として筆
頭に挙げられていて,「骨折の重要な危険因子である」(女性,高齢),
5 「骨折を強く予測する」
(低骨密度),
「男女とも部位にかかわらず既存
骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になる。特に,既存椎体骨折
があると将来の椎体骨折は約4倍に高まる」
(既存骨折)との記載がさ
れている(34頁)。また,PTHが骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者
に有効な薬剤であることは,本件基準日当時,技術常識となっていた。
10 すなわち,効能・効果を「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」
(甲15の1)
とするPTH製剤であるフォルテオ(一般名テリパラチド) 年齢,
は,
既存骨折,低骨密度の3要素により骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者
を定義しており(70頁7行目以下),甲第139号証「骨折抑制のた
めの薬剤選択 閉経後女性」」(CLINICAL CALCIUM17巻7号86な
15 いし92頁,2007)の図3(91頁)には,PTHが,年齢が高くなり,
より骨折の危険性の高い患者に対し有効な薬剤であることが示されて
いる。
そして,甲7発明は,48週という比較的短期間で腰椎骨密度を8.
1%増加させた治療剤であり,骨密度の増加は骨折予防に寄与するも
20 のであるところ,中手骨骨密度を減少させることなく腰椎骨密度を比
較的短期間で用量依存的に増加させたことにより,極めて将来有望で
あると思われる骨粗鬆症治療剤と評価されていた。
したがって,甲7発明に接した当業者は,本件3条件を全て満たす
患者に対して甲7発明を適用することを,当然に検討する。
25 甲7文献には,各サブ群間においてPTHの骨密度への応答が同程
度であった旨記載されているが(300頁左欄11行ないし右欄6行
目) 各サブ群で骨密度増加効果が確認されたのであるから,
, 特定の患
者群に対する甲7発明の適用を妨げる事情ではない。
c 甲7発明においても,投与された患者に重篤な副作用はみられず,
かつ,生じた副作用は一時的なものにとどまっており(甲7の298
5 頁左欄25行ないし299頁左欄9行目,表5) 200単位週1回投
,
与が安全でないと予測すべき理由はない。
d PTHは,年齢が高くなり,より骨折の危険性の高い患者に対して
有効に薬剤であるから(甲15の1,139),高齢者には効きにくい
との技術常識は存在しない。仮にそのような技術常識が存在するとし
10 ても,それはPTHを連日投与するからであり,甲7発明の200単
位週1回投与については,連日投与と比較して高いBMD(骨密度)
の増加作用が確認されているから,当業者は,PTH200単位週 1
回投与を高齢者に適用することを動機付けられる。
e 以上のとおり,甲7発明に接した当業者において,甲7発明の骨粗
15 鬆症治療剤を本件3条件の全てを満たす患者に適用することは,技術
常識に基づき,当業者が当然に検討する事項である。
イ 相違点3の容易想到性
(ア) 本件条件(4)の技術的意義
本件条件(4)は,投与期間の終期を「72週以上までの間」とする
20 が,この投与期間は,48週を超えて「72週以外の他の期間以上まで
の間」
(72週より短い期間以上までの間,あるいは,72週より長い期
間以上までの期間)にわたる投与とを比較して,投薬の有効性を分析し
た結果に基づき定められた条件ではない。本件発明1の実施例である実
施例2の試験結果は,PTH200単位投与群において,48週以降,
25 新規椎体骨折が発生しておらず,その状態で,試験が72週まで継続さ
れたというものであり(本件明細書【表35】 ,その新規椎体骨折の抑
)
制効果は,48週までの継続投与によって奏されていて,これが,48
週を超過した継続投与でも維持されたというものでしかない。
したがって,本件条件(4) 「48週を超えて72週以上までの間」
の
に格別の技術的意義はなく,本件条件(4)は,
「48週を超えての継続
5 投与」というものでしかない。
(イ) 動機付けの存在
a 甲7発明のPTH200単位投与群は,中手骨の骨密度を減少させ
ることなく,腰椎BMDが試験開始時と比較して治療後24週目及び
48週目にそれぞれ約5.0%及び8.1%増加したものであり(甲7
10 の図1),かつ,投与において重篤な有害事象は生じておらず,椎体骨
折の発生件数が0件であった。したがって,投与期間を更に長期に定
めれば,それだけ腰椎BMDの増加及び維持が見込まれ,骨折発生を
抑制することが合理的に期待されるから,当業者は,骨粗鬆症治療の
ために更に長期の投与を試みようとする。
15 b また,骨粗鬆症患者においては,骨折リスクが年齢とともに指数関
数的に増加するため(甲99の34頁左欄8行目以下) いったん骨粗
,
鬆症を発症すると,生涯にわたって骨密度や骨折抑制の治療が必要と
なり,PTHの投与を中止すれば,骨密度が減少するというのが技術
常識である(甲19の726頁要旨欄,甲52の2028頁の図3C)。
20 甲7発明では,骨密度の増加幅が,試験開始ないし24週までの間
と比して,24週ないし48週までの間に減少はしているが,そうで
あっても,24週ないし48週までの間の腰椎骨密度は約3.1%増加
しており,その増加幅は十分に治療効果が上がったものと評価される。
したがって,48週で腰椎BMDを顕著に増加させた甲7発明に接
25 した当業者は,生涯にわたる骨粗鬆症治療及び骨密度の減少抑制維持
のため,48週を超えて更に長期の継続投与を試みようとする。
(ウ) 阻害事由の不存在
甲7発明に接した当業者が,骨粗鬆症患者に対する実際の処方におい
て,48週を超えて長期の継続投与することを妨げる事情はない。
甲7発明の試験期間は48週であるが,これは,恒常的に骨折のリス
5 ク及び不安を抱える骨粗鬆症集団において,高すぎるドロップアウト率
を被ることなく定期的に骨測定並びに血液及び尿試料採取を行う適切に
管理された多施設試験の継続期間の限界として定められたものである
(甲7の297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目) 甲7文献の
。
記載をみても,重篤な副作用はみられず,また,一時的な副作用しか顕
10 れず,かつ,その副作用は被験薬が原因因子であることを示すものでは
なかったのであるから(301頁左欄1行ないし右欄4行目) 副作用の
,
発生が投与継続の限界の理由となったものではない。
このように,甲7発明は,試験管理の目的上,事前に試験期間を48
週間と定めたものにすぎず,副作用による脱落率が高いとの結果に基づ
15 き48週で試験を打ち切ったというものではないから,治療の場面で4
8週よりも長い期間投与に用いることを阻害するものではない。
(エ) 甲19文献及び甲20文献について
甲19文献及び甲20文献では,PTHを24か月にわたり継続投与
した結果,BMDが,6か月時点,12か月時点,18か月時点,24
20 か月時点とそれぞれ有意に増加することが確認されていた。
被告は,甲19文献が,48週を超過したPTHの長期投与では骨折
抑制効果が期待できないことを示した文献である旨主張するが,①甲1
9文献では,2年間のPTH治療群については腰椎BMDが有意に増加
し続けた結果が示されている一方で(731頁図3A) 2年目をラロキ
,
25 シフェン投与とした治療群では治療2年目において腰椎BMDの有意な
変化がみられず,2年目を無治療とした治療群では治療2年目において
腰椎BMDが有意に減少したことが示されており(729頁右欄10行
ないし730頁右欄7行目,732頁表2),②甲19文献の試験は,骨
折に対する効果を評価するためにデザインされたものではないため(7
33頁右欄41ないし57行目) 骨折発生件数や骨折発生率についての
,
5 統計学的評価には限界があるものの,2年間のPTH治療群について,
6か月ごとの骨折発生患者数及びその割合,骨折発生数,1000人1
年当たりの骨折数のいずれもが,期間経過に従って減少していることは
見て取れる(732頁表3)。したがって,甲19文献は,甲7発明と用
量用法を異にする試験結果であるとはいえ,48週を超過したテリパラ
10 チドの長期投与により,腰椎BMDの増加及び骨折抑制効果が継続して
みられることを示したものといえる。
(オ) まとめ
以上のとおり,甲7発明に接した当業者は,技術常識に基づき,骨密
度の増加又は骨密度の減少防止によって骨折発生を抑制するため,甲7
15 発明の骨粗鬆症治療剤を48週を超過して継続投与することを十分に動
機付けられる。
したがって,当業者は,相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想
到し得る。
ウ 効果について
20 (ア) 本件発明の効果
本件明細書には,本件3条件の全てを満たす患者に対してPTH20
0単位週1回投与をした際の試験結果が記載されているが(実施例2),
本件3条件の全てを満たす患者と本件3条件の全部又は一部を満たさな
い患者とを比較した試験結果は示されておらず,あくまで,本件3条件
25 の全てを満たす骨粗鬆症患者を選定して投与対象とした場合において,
新規椎体骨折発生率の経時変化が本件明細書に記載したとおりになるこ
とをただ単に確認したものでしかない。
(イ) 被告の主張する効果①(後記⑵ウ(ア)①)について
a 前記(ア)のとおり,本件明細書は,骨折抑制効果が本件3条件により
奏するとしながら,200単位投与群について,本件3条件の全てを
5 満たす患者と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者とを比較し
た試験結果は何ら示していない。仮に,本件3条件の全てを満たした
場合に100単位の投与によってPTHの骨折抑制効果を強く発現さ
せることができるとしても,本件発明のように,用法用量を限定した
ところに格別の効果を奏する特殊な患者群を見出したとする発明にお
10 いて,当該用法用量を変更しても,その特殊な患者群において変更前
の用法用量と同様に格別な効果を奏するという技術常識はなく,また,
そのような推論ができる根拠もない。実際,本件明細書に記載の実施
例1の結果は,100単位投与群では,本件3条件の全てを満たすと
する高リスク患者の骨折発生率が6%(=3÷52,
【表2】及び【表
15 8】 ,本件3条件を満たさないとする低リスク患者の骨折発生率が
)
9%であり(=1÷11,
【表3】及び【表9】 ,高リスク患者の方が
)
低リスク患者よりも骨折発生率が低いが,5単位投与群では,高リス
ク患者の骨折発生率が28%(=18/64,【表2】及び【表8】 ,
)
低リスク患者の骨折発生率が10%(=1÷10, 表3】 【表9】
【 及び )
20 であり,低リスク患者の方が高リスク患者よりも骨折発生率が低くな
っている。
b 本件発明が対象とする「高リスク患者」とは,本件条件(1)と,
「既存骨折がある」(本件条件(2))と,本件条件(3)の全てを満
たす者であるところ(【請求項1】 ,本件明細書の実施例の「高リス
)
25 ク患者(高リスク者)」は,本件条件(1)と,「既存の椎体骨折があ
る」と,本件条件(3)の全てを満たす患者としており(本件明細書
【0079】 ,
) 「既存の椎体骨折がある」は「既存骨折がある」(本件
条件(2))に含まれるから,実施例の「高リスク者」は,本件3条
件を満たす者である。
他方,実施例では,
「高リスク者」以外の者を全て「低リスク者」と
5 しているから(本件明細書【0079】【0080】 ,本件条件(1)
, )
と,
「既存の『非』椎体骨折がある」と,本件条件(3)の全てを満た
す患者は,実施例においては「低リスク者」であるが,本件3条件は
満たしていることになり,本件発明は実施例にいう「低リスク者」を
も含んでいる。そして,骨粗鬆症患者では,男女とも,部位にかかわ
10 らず,既存骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になり,特に,既
存椎体骨折があると将来の椎体骨折は約4倍に高まるとされていて
(甲99),本件条件(2)の「既存の骨折がある」と実施例の「既存
の椎体骨折がある」とでは,骨折リスクが約2倍相違する。そうする
と,骨折リスクの高い「既存の椎体骨折がある」患者を対象とした実
15 施例1の結果をもってしては,それより骨折のリスクの低い「既存の
『非』椎体骨折がある」患者をも含む本件3条件が特殊な患者群を画
することの根拠となり得ない。
また,低リスク患者の類型は7通り(3種の条件を組み合わせた8
通りの場合から,全ての条件を満たす場合―すなわち,高リスク患者
20 ―を控除する。)存在するが,実施例1の「低リスク患者」かつ「1
00単位投与群」の例数は,わずか11例しかなく,7通りの組合せ
に対しては少なすぎ,その結果をもってしては,確率の低い事象が偶
然生じた可能性を排除することができず,そのような試験結果に信頼
性を認めることは困難である。また,実施例1の100単位投与群に
25 おける低リスク患者の患者背景は,全員が年齢65歳未満で本件条件
(1)を満たさないが,本件条件(2)及び本件条件(3)のいずれ
も満たす者とうかがわれ(本件明細書【表3】 ,実施例1の「低リス
)
ク患者」かつ「100単位投与群」の結果は,本件条件(1)のみを
満たさない患者群についての結果であって,ここから低リスク患者全
般について客観的な評価を導くことは困難である。
5 (ウ) 被告の主張する効果②(後記⑵ウ(ア)②)について
a 本件明細書【表35】によると,骨折相対リスク減少率は,0ない
し24週までの間で約54%,24ないし48週までの間で約82%,
48ないし72週までの間で100%となっており,一見,継続投与
により効果が顕れたかのようにみえる。
10 しかしながら,上記【表35】の結果は,わずか6件でしかなかっ
た0ないし24週までの間における骨折発生例数が,24ないし48
週までの間で既に2件にまで減少していたところ,更なる継続投与に
より48週後に骨折発生例数が0件になったというものであり,48
ないし72週までの間の骨折相対リスク減少率の増加幅は,約18%
15 にとどまる。この【表35】の結果は,48週まで投与されることに
よって顕れた骨折抑制効果が48週後も維持されたということでしか
ない。
b 本件明細書は,48週後の骨折発生例数が0件であったするものの,
甲7発明においても,48週までの投与において椎体骨折の発生件数
20 が0件であったのであり(300頁左欄11行ないし右欄6行目) 当
,
業者は,このまま48週を超過して継続投与することによって,骨折
発生を抑制することができると期待する。
したがって,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を48週を超えて継続投与
した場合に,骨折発生例数を0件とするような骨折抑制効果が奏され
25 ることは,当業者の予測を超えるようなものではない。
c 甲7発明は,48週までの投与によって骨密度の顕著な増加が見ら
れているから,この骨密度の増加から見て,骨折抑制効果が大いに見
込まれると評価されるものである。
d 甲19文献及び甲20文献は,PTH20μg連日投与のものであ
って,PTH200単位週1回投与の甲7発明とは用法用量を全く異
5 にするものであるから,その記載内容が甲7発明に基づく効果の期待
を否定する材料となるものではない。
e 発症率が僅少で,かつ,被験薬投与群とプラセボ投与群の各発症率
の差が少ない場合,わずかに発症率が異なるだけで相対リスク減少率
が大きな数字に置き換えられてしまうため,相対リスク減少率でその
10 効果を評価すると,特別に優れた効果が確認できたかのような誤った
評価を導いてしまう危険性がある。
そのため,臨床研究の統計では,相対リスク減少率ではなく,絶対
リスク減少率(Absolute Risk Reduction:ARR,対照群における発
症率と治療群における発症率の差)で評価すべきとするのが技術常識
15 である(甲130,137)。
本件明細書【表35】に基づき絶対リスク減少率を算定すると,①
24ないし48週までの間では,4.2%(5.1%(P群)-0.
9%(PTH200群) ,48ないし72週までの間では,5.3%
)
(5.3%(P群)-0%(PTH200群))となり,本件発明にお
20 ける継続投与による48週前後での椎体骨折抑制効果の差は,わず
か,100人当たり1.1人(5.3%-4.2%)という差でしかな
い。
したがって,本件明細書に記載された本件発明の効果は,そもそも
顕著な効果といえるようなものではない。
25 (エ) 被告の主張する効果③(後記⑵ウ(ア)③)について
被告は,甲7発明において,投与の継続によりBMD増加率が低下し
ているにもかかわらず,本件発明では,骨折抑制効果が逆に高まってい
ると主張する。
しかしながら,甲7発明では,試験開始時ないし24週時の腰椎BM
Dの増加幅に比して24週時ないし48週時の腰椎BMDの増加幅が減
5 少してはいるものの,あくまで,24週時ないし48週時においても腰
椎BMDは約3.1%増加しており,経時的に腰椎BMDの増加が確認さ
れているのである。一方,本件発明は,48週を超過してから72週ま
での間のPTH投与群の骨折発生例数が0件であったことが示されてい
るにとどまる(本件明細書【表35】 。
) したがって,本件発明について,
10 48週を超過してから72週までの間の投与の継続において48週時点
での効果を維持することができたとまではいえたとしても,被告が主張
するような「投与の継続によりBMD増加率が低下しているにもかかわ
らず,本件発明では骨折抑制効果が逆に高まっている」という関係は成
り立たない。
15 (オ) 甲88証明書及び甲95証明書について
a 実験成績証明書の参酌の可否
別紙4の実験成績証明書(甲88。以下「甲88証明書」という。)
及び甲95証明書は,本件3条件の全てを満たすことにより特別な骨
折抑制効果が認められるとの効果を基礎付けようとするものであるが,
20 本件明細書には,200単位投与群について,本件3条件を全て満た
す患者と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者とを比較した試
験結果は何ら示されていない。加えて,甲95証明書は,本件3条件
の全てを満たす患者に対し,本件条件(4)の「48週を超過して」
の,あるいは「48週を超過して72週以上までの間」の投与をする
25 ことにより,特別な骨折抑制効果が認められることを基礎付けようと
しているが,本件明細書には,PTH200単位週1回投与について,
本件3条件の全てを満たす患者と,本件3条件の全部又は一部を満た
さない患者とを比較した試験結果や,PTH200単位週1回投与に
ついて特別な患者群を見出すことを課題とすることは何ら示されてい
ない。
5 そうすると,甲88証明書及び甲95証明書は,本件明細書に記載
されていない発明の効果を,出願後に実験結果等を提出して主張又は
立証するものであり,出願人と第三者との公平を害する結果を招来す
るものであるから,これを斟酌することは許されない。
しかも,実施例1の低リスク患者は本件条件(1)のみを満たさな
10 い患者群であるのに対し,甲95証明書の本件3条件の一部を満たさ
ない患者は全て本件条件(1)を満たす患者群であり,患者背景が全
く異なる。さらに,甲95証明書の「条件2) は
」 「既存の骨折がある」
とされているが,実施例1及び実施例2では「既存の椎体骨折を有す
る」であり,本件条件(2)に係る条件を異にしており,立証対象も
15 適切ではない。
b 実験成績証明書の内容
仮に,甲95証明書を参酌することが許されるとしても,以下の理
由から,甲95証明書は,本件発明1の効果の顕著性を基礎付けるも
のではない。
20 (a) 効果の不一致
本件3条件の全てを満たす患者について,本件条件(4)を満た
す用法により顕著な骨折抑制効果が奏される旨が客観的に実証さ
れるためには,ⅰ)投与期間について,骨折発生率の経時変化をみ
ること,ⅱ)投与対象患者について,本件3条件に関し,
「本件3条
25 件の全てを満たす患者群」と「本件3条件の全部又は一部を満たさ
ない患者群」との比較試験が行われることが必要である。
ⅰ) 甲95証明書の表1の「48週を超過して投与される」患者
には,同表2の「72週以上投与される」患者を含むから,
「48
週を超過して投与される」患者には,
「48週を超過して72週以
上投与される」患者と「48週を超過して72週未満まで投与さ
5 れる」患者の双方を含む。そして, 48週を超過して投与される」
「
患者について骨折発生が有意に抑制された旨の記載があることか
らすると,
「48週を超過して72週未満まで投与される」患者に
ついても効果が発生していることになり,被告が主張する効果②
は,
「48週を超過して投与される」ことによって既に奏されてい
10 ることになる。そうすると,甲95証明書は,
「72週以上投与さ
れる」ことによって骨折抑制効果が増強されると評価できるもの
ではない。
また,本件発明1が,
「48週を超過して72週以上までの間投
与される」という用法により顕著な骨折抑制効果を奏するという
15 のであれば,その効果を確認するため,骨折発生率の経時変化を
みる必要があるが,甲95証明書の表1及び表2は,投与期間内
(投与開始から投与終了まで)に発生した骨折例数の総数を示し
たものであり,骨折発生率の経時変化は示されていない。
しかも,投与期間(観察期間)が長ければ,当然,骨折発生例
20 数は多くなるが,他方で,打ち切り例数が発生することにより,
評価例数は徐々に少なくなる。そのなかで,同表1及び表2の投
与期間内の骨折発生率(骨折発生例数/評価例数)を比較しても,
その効果を理解することはできない。
仮に経時変化を読み取るとしても,甲95証明書においては,
25 本件3条件の全てを満たし,48週を超過して投与した患者のP
TH投与群の骨折例数が26件であり,本件3条件の全てを満た
し,72週以上投与した患者のPTH投与群の骨折例数が19件
であるところ,その差である7件の骨折例数は,48週を超過し
て投与したが72週以上投与してはいない患者のものであるから
(表1と表2とは同一出処のデータを集計したものとされている
5 から,72週以上投与したPTH投与群の患者には,48週ない
し72週までの間に打ち切りとなった患者は含まれていない。 ,
)
本件3条件の全てを満たした患者の48週を超過して72週まで
の間に発生した骨折である。したがって,48週を超過して投与
した患者に対する「実質的に完全に骨折を抑制する効果」は明確
10 に否定される
ⅱ また,甲95証明書は,本件3条件の全てを満たす患者と本件
条件(1)を満たすが,本件条件(2)又は本件条件(3)(た
だし,骨密度に関する条件のみ)のうち少なくとも1つを満たさ
ない患者との間で,骨折発生率を対比したものでしかない。仮
15 に,甲95証明書によって本件発明1の効果が基礎付けられると
いうのであれば,本件発明1の効果は,本件条件(2)及び本件
条件(3)(ただし,骨密度に関する条件のみ)によって奏され
ることになり,本件条件(1)及び本件条件(3)のうち骨萎縮
度に関する条件は,骨折抑制効果に関し,特段の技術的意義を有
20 しないことになる。
したがって,甲95証明書は,本件3条件の全てを満たすこと
によって初めて優れた骨折抑制効果が奏されることを基礎付ける
ものではない。
⒝ データの出処
25 甲95証明書は,被告の販売するPTH製剤であるテリボンの再
審査申請用の製造販売後データ(甲98)とテリボン及びエルシト
ニンの臨床試験におけるプラセボ投与群を統合したデータから,本
件3条件の充足の有無が判定可能であり,骨折抑制率を算出可能な
ものを抽出して解析したものとされている。このように,甲95証
明書は,他の骨粗鬆症治療薬を併用していたり,別の疾患が併発し
5 ているために骨粗鬆症治療薬以外の薬を併用している患者を含ん
でいる可能性を排除できず,投与期間・観察期間も骨折の診断基準
も不明な患者についてのデータである製造販売後データと,有効成
分,効能効果,用法用量が異なり,しかも試験条件及び試験実施時
期の異なる別個の薬剤に関する臨床試験のプラセボ投与群を統合
10 したデータとを寄せ集めたものでしかなく,その結果の信頼性は疑
わしい。
⒞ 予測の範囲
プラセボとの対比において,骨折の高リスク患者について低リス
ク患者より骨折の発生が抑制されたように見えることは至極当然
15 のことである。
甲95証明書は,本件3条件の全てを満たす患者(本件明細書で
いうところの骨折の「高リスク患者」)と本件条件(1)を満たし,
本件条件(2)又は本件条件(3)のうちの少なくとも1つを満た
さない患者(本件明細書でいうところの骨折の「低リスク患者」)と
20 の間で,それぞれ,プラセボ投与群(コントロール群)との対比に
おいて骨折抑制率を比較したものである。そして,骨折の高リスク
患者のプラセボ投与群は,骨折リスクが高いにもかかわらずプラセ
ボを投与した患者群であるから骨折発生率が高いことは予測の範
囲内である。そして,PTHが,骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者
25 に対し有効な治療薬であることは技術常識であるから,「高リスク
患者」のPTH投与群において骨折発生率が低くなることも予測の
範囲内である。そうすると,骨折の「高リスク患者」において,相
対リスク減少率が,より高い値となることは,当業者において予測
の範囲内のことでしかない。一方,骨折の「低リスク患者」では,
そもそも骨折発生率が低いため,PTH投与群とプラセボ投与群と
5 で骨折発生率に有意な差が顕れにくい。そうすると,骨折の「低リ
スク患者」において,相対リスク減少率が,より低い値となること
も,当業者の予測の範囲内である。
その上,甲95証明書は,投与期間内(投与開始から投与終了ま
で)に発生した骨折の発生率をみるものであるから,投与期間が長
10 期になればなるほど,
「高リスク患者」のプラセボ投与群と「低リス
ク患者」のプラセボ投与群との骨折発生率の差は,より大きなもの
となりやすい。実際,本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患
者)でコントロール群とされた患者と,本件3条件の一部を満たさ
ない患者(低リスク患者)でコントロール群とされた患者との骨折
15 発生率の差をみると,48週を超過して投与される患者のコントロ
ール群同士(表1)では両者の差は3.6%(12.4%-8.8%)
であるのに対し,72週以上で投与される患者のコントロール群同
士(表2)では両者の差は6.6%(13.3%-6.7%)と大きく
なっている。
20 (カ) まとめ
以上からすると,本件発明1は予測できない顕著な効果を奏するとい
えるものではない。
エ 小括
以上のとおり,相違点1及び相違点3は当業者において容易に想到でき
25 るから,本件審決の判断には,誤りがある。
⑵ 被告
ア 相違点1の容易想到性の主張について
(ア) 本件3条件の各条件について
高齢の骨粗鬆症患者であれば,本件3条件を充足するとの技術常識は
ない。患者の要件は,一つ一つに分解できるものではなく,それらが有
5 機的に結合して患者の要件を構成するものであるから,本件3条件を一
体として,その技術的意義が判断されなければならない。
(イ) 本件3条件の容易想到性について
a 骨粗鬆症と診断された患者が本件3条件の全てを満たすとは限らな
いし,本件3条件以外の因子の重要度が低いことを意味しない(甲9
10 9)。それゆえ,甲7発明における対象患者の選定においても,複数の
因子をスコア化して評価してそのスコアの合計数で診断したものであ
って,その対象患者が本件3条件を全て満たすことは予定されていな
い。甲7文献の臨床試験は,後期第Ⅱ相試験であり,その主な目的は,
骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明らかにし,第Ⅲ相比較試
15 験のための用法用量を決定することであり,PTH50単位投与群(L
群),100単位投与群(M群),200単位投与群(H群)を比較す
る試験にすぎず,骨粗鬆症患者の中から特殊な患者群を取り出して薬
効を評価するというものではない。仮に,本件3条件の個々の条件自
体は甲7発明が対象範囲として予定するものであるとしても,本件3
20 条件全体は一般的な指標ではなく,甲7発明が当然に対象範囲として
予定していたものではない。甲7文献には,本件3条件に着目して患
者群をとらえた記載はないし,骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤に関
し,本件3条件を満たす患者を選択してその対象とすることが一般的
であるとの証拠も存在しない。本件3条件の着想を得たのは本件発明
25 が初めてである。
b 本件3条件の個々の条件自体は一般的な指標であったとしても,本
件3条件全体は一般的な指標ではない。
「骨折リスクの増大」というこ
とであれば,他にも骨折リスク因子は多数あり(甲99),本件3条件
を選択する蓋然性はない。骨折しやすい患者が骨折抑制効果を得られ
やすい患者という技術常識はないところ,本件3条件は,PTH10
5 0単位週1回投与の第Ⅲ層試験の層別解析により初めて,本件3条件
を組み合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得
られたことに基づいて設定されたものであり,これを甲7文献の開示
事項から導くことはできない。むしろ,甲7文献には,サブグループ
間で薬物に対する応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明の
10 投与対象患者を区分して投与対象をサブ群に限定しても効果は変わら
ないことが推論されるから,甲7発明から本件3条件を選択する動機
付けは否定される。
c 甲第69号証「治療前及び治療1年後の腸骨梁の組織形態計測及び
微細構造解析によって評価される原発性骨粗鬆症患者におけるヒト副
15 甲状腺ホルモン1-34の毎週間歇投与の効果及び安全性」(Journal
of Bone and Mineral Metabolism Vol.22,p.569-576,2004)
でも,甲7文献に接した当業者が,200単位の投与には非常に頻繁
な副作用が認められたため,臨床使用には不適当である旨の認識に至
ったことが記載されている。甲7発明が将来有望であると思われる骨
20 粗鬆症治療剤とされていたとの甲7文献の記載は,週1回投与という
新たな用法の可能性に関して述べたものであり,200単位投与とい
う点に特化して将来有望と記載されたものではない。
d テリパラチド20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群
に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,6
25 5歳以上75歳未満の場合よりも低くなっているなど,PTH製剤が
高齢者には効きにくいということは技術常識であり(乙28,29),
PTHを高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない
から,年齢に関する本件条件(1)を含む本件3条件の動機付けは生
じない。
e 以上のとおり,本件3条件は,本件発明の発明者が初めて見出した
5 条件であり,甲7文献に開示,示唆されておらず,技術常識を踏まえ
ても着想し得ない。
イ 相違点3の容易想到性の主張について
(ア) 本件条件(4)の技術的意義
本件発明1は,48週を超過して投与を継続した場合に顕著な骨折抑
10 制効果が奏されるというものであり,72週はその効果の評価期間の一
端であって,72週前後での効果の対比を意図したものではない。した
がって,72週前後での効果の対比が無いことを根拠に技術的意義がな
いとする主張は誤りである。
また,48週までの投与では,PTH200単位投与群に新規椎体骨
15 折の発生が認められているのに対して,48週を超えての投与での骨折
発生例数は0件であり(本件明細書【表35】 ,骨折が発生し続けるプ
)
ラセボに対して骨折発生率を0%までに低減させ,実質的に完全に骨折
を抑制する効果が発現している。のみならず,24週以下のRRRは5
4%,24週を超え48週以下のRRRは82%,48週を超え72週
20 以下のRRRは100%であり,投与の継続により骨折抑制効果が増強
する効果が明確に読み取れる。したがって,48週までの効果がそのま
ま維持されたという評価も妥当ではない。
(イ) 動機付けの存在の主張について
a 甲7発明では,24週まではBMD増加率は増加するものの,24
25 週後にはBMD増加率は低下傾向を示し(甲7の図1) この傾向に鑑
,
みると,仮に48週を超えて投与しても更にBMD増加率は低下し,
その向上は期待できないとみられる。このように,骨粗鬆症治療剤を
長期間にわたって継続投与すると,BMD増加効果は徐々に低減し,
ほぼ平坦になるのは技術常識である。他方で,骨粗鬆症は年齢ととも
に骨折発生リスクが指数関数的に増加するから,48週を超えて投与
5 を継続しても,骨粗鬆症が進行しないように維持できるかは疑わしい。
また,甲7発明では,プラセボとの比較が無いので骨折抑制効果は不
明であり(PTH投与群で骨折発生件数が0件であっても,プラセボ
投与群でもそれが0件の場合には骨折抑制効果があるとはいえない。 ,
)
甲7文献の骨折発生件数が0件との記載は骨折抑制効果が期待される
10 根拠にはならない
次に副作用についてみると,甲7発明のPTH200単位週1回投
与は,副作用発生率,脱落率の高さから不適切とされ,48週が投与
限界と考えられていたところ(甲69ないし71) 48週を超えて長
,
期投与してもBMD増加率の増強も見込めず,また骨折抑制効果も不
15 明であったから,PTH200単位週1回投与を48周を超えて更に
長期間投与することを試みる動機付けはなく,その投与はむしろ妨げ
られる。
b 骨粗鬆症は生活習慣病であり治療は長期間にわたるので,投与の継
続ができないような副作用が起きる治療は望ましくない(甲70,7
20 1)。PTH200単位週1回投与は,その副作用発生率,脱落率の高
さから治療が継続できない程のリスクがあり,長期投与を試みるとの
動機付けはない。一方で,フォルテオのように,甲7発明と比較する
と副作用脱落率が格段に低い安全なPTH連日投与の製剤もあり,ま
た,骨粗鬆症治療薬としてPTH以外のものも多数知られていたから,
25 投与中止による骨密度の減少は他剤への切り替えで簡単に解消できる
のであって,PTHの投与を中止した場合の骨密度の減少を問題にす
る理由はなく,敢えてPTH200単位週1回投与を続けることにこ
だわる必要はない。
(ウ) 阻害事由の不存在の主張について
甲7文献に,
「脱落率が過度とならずに,十分な制御下で多施設試験を
5 実施できる限界であると思われた。 (297頁右欄43行ないし298
」
頁左欄24行目)とあるように,甲7文献の臨床試験は,試験計画の段
階において48週が投与継続の限界と考えられていたのである。これは,
「後期第Ⅱ相試験の主な目的は,骨粗鬆症患者を対象として用量反応関
係を明らかにし,第Ⅲ相比較試験のための用法用量を決定することにあ
10 る」
(乙23)ところ,48週を超えて投与すると相当数の患者に脱落者
が続出することが予測されるため,試験結果を得るために48週までを
投与期間の限界と判断したのである。
そして,実際,その結果は予測どおり,甲7文献の臨床試験では20
0単位投与のH群は42%という極めて高い副作用の発現率を示し(表
15 6),L群(50単位)の19%,M群(100単位)の19%と比べ
ても異常に高いものであった。また,200単位投与群における副作用
を理由とする脱落者も,72名の患者中16名で,脱落率は22%に達
し,L群(50単位)の4%,M群(100単位)の13%と比べて異
常に高いものであった(表6)。
20 (エ) 甲19文献及び甲20文献について
甲19文献及び甲20文献におけるPTH製剤の投与は,20μg(約
67単位に相当)の連日投与であり,このような用法用量の異なる継続
投与の報告があるからといって,それら報告が,甲7発明の骨粗鬆症治
療剤を48週を超えて投与する動機付け又は甲7発明の骨粗鬆症治療剤
25 を臨床に適用する際の阻害事情を取り除く要因となったりはしない。し
かも,次のとおり,甲19文献及び甲20文献は,48週を超過した長
期投与では骨折抑制効果が期待できないことが示された文献といえる。
a 甲19文献の表3(732頁)には,①1年間のPTH投与に続い
て2年目の治療もPTH治療に割り付けられた患者群と②1年間のP
TH投与に続いて2年目の治療がラロキシフェン治療又は無治療に割
5 り付けられた患者群(727頁右欄26行ないし728頁左欄10行
目)の骨折に関する結果が示されているが,PTH治療群の骨折個数
は,6か月毎の発生数に大差はない。また,48週を超過し72週ま
での期間に相当する期間(「13-18mo」)の骨折発生率は,その
他の群(ラロキシフェン治療群及び無治療群。全体の骨折患者数から
10 PTH治療群の骨折患者数を差し引いて計算した。 が0.5%であり,
)
24ないし48週までの6か月間の3.1%から大幅に低下している
にもかかわらず,PTH治療群では2.3%であり,24ないし48週
までの6か月間の骨折発生率のまま変化がない。さらに,ランダム割
り付け後である48週以降の骨折発生率は,無治療群が1.0%である
15 のに対してPTH治療群では4.3%となっている(730頁右欄8な
いし20行目)。そうすると,甲19文献からは,PTHの長期投与に
よる骨折抑制効果は全く期待できるものではないと理解できる。
b 甲19文献の図3A(731頁)には,PTH治療群,ラロキシフ
ェン治療群及び無治療群についての腰椎BMDの増加率が示されてい
20 るところ,PTH治療群では,12か月(48週)で7.1%の増加が,
48週の超過で9.0ないし10.7%の増加がそれぞれみられる。し
かし,このような腰椎BMDの増加にもかかわらず,前記aのように,
PTH治療群による骨折抑制効果が全く期待できないものであったの
であるから,48週を超えた後に腰椎BMDが増加したとしても,そ
25 れは骨折を抑制するものではないという結果が示されているといえる。
c 甲20文献の図2A(1595頁)には,PTH連日投与群につい
ての腰椎BMDの増加率が示されているところ,12か月(48週)
で6.8%の増加,48週の超過で8.9ないし10.5%の増加を示し
ている。この値は,甲19文献の図3Aと同程度の値である。甲19
文献で骨折が抑制できていないことが示されているのであるから,甲
5 20文献も,48週を超えた後に腰椎BMDが増加したとしても,そ
れは骨折を抑制できるものではないという結果を示すものといえる。
(オ) まとめ
以上のとおり,当業者は,相違点3に係る本件発明1の構成を容易に
想到することができない。
10 ウ 効果について
(ア) 本件発明の効果
本件発明の効果は,①本件3条件の全てを満たす患者に対して顕著な
骨折抑制効果が奏されること 【0013】
( ,
【0068】 以下
。 「効果①」
という。 ,②本件3条件に加えて,本件条件(4)を充足することによ
)
15 り,骨折発生率を0%まで低減させる骨折抑制効果が奏されること 【0
(
080】 【0098】 【表34】 【表35】 【0131】ないし【01
, , , ,
33】。以下「効果②」という。)及び③PTH連日投与から想定される
BMD増加率に対する骨折相対リスクと対比して,BMD増加率が低く
ても,より低い骨折相対リスクが得られること(以下「効果③」という。)
20 である。
以上の効果①ないし③は,甲7文献をはじめ,いかなる文献からも予
測できなかったものであり,本件出願当時の技術水準からは予測できな
い顕著な効果である。
(イ) 効果①について
25 a 本件明細書において,PTH週1回投与について,本件3条件の全
てを満たす患者(高リスク患者)と,本件3条件の全部又は一部を満
たさない患者(低リスク患者)とを比較した試験結果が,PTH10
0単位週1回投与の試験で示されている(実施例1)。そして,高リス
ク患者では,低リスク患者と対比して,骨折抑制効果に優れることの
結果も示されている(【表6】【表7】【0086】 。本件明細書の実
, , )
5 施例2は,この100単位週1回投与の高リスク患者での顕著な骨折
抑制効果を200単位週1回投与について実証したという関係になる。
実施例2では,低リスク患者は試験の対象とされていないが,実施例
1と実施例2とは,100単位と200単位との用量の相違にすぎな
いので,実施例2に低リスク患者を対象に含めた試験データの記載が
10 なくとも,実施例1の結果からみて,200単位週1回投与について
も高リスク患者に対して顕著な効果を奏することは十分に推論できる。
なお,本件発明においては,5単位投与群はプラセボ相当の対照群
として扱っているから,5単位投与群において,低リスク患者の方が
高リスク患者よりも骨折発生率が低くなるのは,骨折をしやすい者を
15 高リスク患者として定義付けている以上,骨折をしにくい者の骨折発
生率が骨折をしやすい者の骨折発生率よりも低いという当然の結果が
示されたにすぎない。
b 本件明細書が定義する「高リスク者」は,
「既存骨折がある」であり
(【0068】 ,本件3条件を満たす患者である。
) 「低リスク者」は,
20 高リスク者以外のものであるから,本件3条件を満たさない患者であ
る。実施例1及び2では,骨折リスクが高い典型例である既存椎体骨
折を有する患者を対象として「高リスク者」と「低リスク者」を区分
したが,本件発明が「既存の『非』椎体骨折がある」患者を「高リス
ク者」から除外しているわけではない。実施例は既存椎体骨折の有無
25 に着目したものであるが,既存骨折を有することにより骨折リスクが
高くなることは,既存骨折の部位・種類に関わらず共通するから,既
存骨折が『非』椎体骨折である高リスク患者においても,既存骨折が
椎体骨折である高リスク患者と同様にPTHが高い骨折抑制効果を奏
すると推定するのが自然である。
実施例1の「低リスク者」かつ「100単位投与群」の例数が11
5 例であっても,その結果を偶然とする根拠はないし,本件3条件を満
たさない類型が種々あり,その全ての類型についての試験結果がない
としても,それら類型には本件3条件を満たさないという共通点はあ
るし,たとえ本件条件(1)だけの相違しかないとしても,高リスク
者と低リスク者として相違するものであることに変わりはない。した
10 がって,比較対象となる低リスク者の例が一つでもあればよく,あら
ゆる類型の低リスク者と対比した試験結果がなければならないもので
はない。
(ウ) 効果②について
a 48週までの投与では,PTH200単位投与群に新規椎体骨折の
15 発生が認められているのに対して,48週を超えての投与での骨折発
生例数は0件であり,骨折が発生し続けるプラセボに対して骨折発生
率を0%までに低減させ,実質的に完全に骨折を抑制する効果が発現
している。
このように,48週を超過して72週までの期間の投与の継続によ
20 り生じる骨折抑制効果は,48週までの期間の投与により生じる効果
に比べて明らかに増強された効果であって,48週までの効果がその
まま維持されたものではない。
b 甲7発明では,プラセボとの比較が無いので骨折抑制効果は不明で
あり(PTH投与群で骨折発生件数が0件であっても,プラセボ投与
25 群でもそれが0件の場合には骨折抑制効果があるとはいえない) 甲7
,
文献の骨折発生件数が0件との記載は,骨折抑制効果が期待される根
拠にはならない。さらに,甲7文献には,L群(50単位投与),M群
(100単位投与),H群(200単位投与)とがあるところ,椎体骨
折数は「各群間の差は有意でなかった」と評価されており,当業者が,
本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選んで,48週を超過して
5 72週以上までの間投与することによる顕著な骨折抑制効果を予測す
ることはできない。
c 甲7文献において,投与の継続によりBMD増加率は低下し,増加
の程度が投与期間の長期化により鈍化していることを考慮すると,4
8週を超過して72週以上までの間投与するとの投与期間の長期化に
10 より,BMD増加率は低下し鈍化すると予測されるにもかかわらず,
本件発明における骨折抑制効果は逆により一層高まっており,このよ
うな本件発明の効果は,骨密度の増加と骨折抑制効果とが関係付けら
れない現象であり,甲7文献の開示からは予測できない効果である。
d 前記イ(エ)のとおり,甲19文献及び甲20文献からPTHの長期
15 投与による骨折抑制効果を予測することはできない。
e 骨粗鬆症における骨折抑制効果を評価する場合は相対リスク減少率
で評価することが慣例となっている(甲101の78頁の表45,8
0頁の表46,82頁の表47,94頁の表52,96頁の表53の
それぞれ「骨折」の項の「成績」の欄を参照)。したがって,本件発
20 明の効果は,当業界の慣例に従って,相対リスク減少率で評価する方
が適切である。
(エ) 効果③について
本件発明は,BMD増加率が,48週時点で4.0ないし5.9%,72
週時で5.9ないし6.7%であるにもかかわらず(本件明細書の【表2
25 6】から算出),骨折相対リスク減少率が,48週時点で70%,72週
時点で79%となるのに対して(本件明細書の【表34】から算出),P
TH連日投与では,平均17ないし18か月の投与でのBMD変化率が,
40μg/日投与で約12.6%,20μg/日投与で約8.6%とな
っているのにもかかわらず(乙41の1438頁表4から算出) 骨折相
,
対リスク減少率が,40μg/日投与で69%,20μg/日投与で6
5 5%にとどまっている(乙41の1434頁要約)。このように,本件発
明は,連日投与での結果からは到底予測できない挙動を示しており,し
かも,骨折相対リスク減少率79%というのは,連日投与では達成でき
ていない効果である。
(オ) 甲88証明書及び甲95証明書について
10 a 実験成績証明書の参酌の可否
本件明細書には,骨折抑制効果に関し,本件3条件についての具体
的な対比データ自体は記載されていない。しかしながら,試験データ
自体が常に明細書に記載されていることが必要とされるのではなく,
明細書において,効果を認識し,これを推論できる記載がある場合に
15 は,出願後に実験成績証明書を提出してその効果を説明することは許
容されている。
甲88証明書は,本件条件(1)を満たすが,本件条件(2)又は
本件条件(3)のいずれかを満たさない患者において,PTH投与群
ではコントロール群よりも骨折の発生が抑制されたものの有意差は認
20 められず,他方,本件3条件の全てを満たす患者においてはPTH投
与群ではコントロール群よりも骨折の発生が有意に抑制されているこ
とが認められることを明らかにすることによって,少なくとも本件3
条件を充足していれば,有意な骨折発生率の低減が可能になることを
示し,甲95証明書は,本件4条件のうち本件条件(1)及び本件条
25 件(4)を満たすが,本件条件(2)又は本件条件(3)のいずれか
を充足しない患者ではプラセボとの対比で有意差は得られないが,本
件4条件の全てを満たす患者は有意な骨折抑制効果が得られることを
報告するものである。
甲88証明書及び甲95証明書によると,本件発明の顕著な効果が
裏付けられる。なお,この点に関する原告の主張に対する反論は,以
5 下のとおりである。
b 実験成績証明書の内容について
(a) 効果の不一致(前記⑴ウ(オ)b(a))の主張について
ⅰ 甲95証明書には48週を超過して投与した場合であっても,
72週以上投与した場合であっても,いずれでも本件3条件の全
10 てを満たす患者においては有意な骨折抑制効果が認められたこと
が示されている。
表1は,48週を超過して投与された患者についての0週から
試験期間中に発生した骨折数を集計し,表2は72週以上投与さ
れた患者についての0週から試験期間中に発生した骨折数を集計
15 しているのであり,48週を超過して72週未満まで投与された
患者がいるが,これら患者について48週を超過して72週未満
の期間に発生した骨折のみを集計していないから,表1から表2
の骨折数を差し引けばこの期間内の骨折発生数が分かるというも
のではない。
20 甲95証明書は,48週を超過して投与した場合又は72週以
上投与した場合に,本件3条件の全てを満たす患者においては本
件3条件の全部又は一部を満たさない患者よりも顕著な効果を奏
することを明らかにするものにすぎず,骨折発生率が48週を超
えるとゼロになる効果を示すためのものではない。
25 そして,
「48週を超過して72週以上までの間投与される」こ
とによる効果を示すには,48週を超過して投与した場合(表1)
と72週以上投与した場合(表2)のそれぞれの投与期間内にお
いて発生した骨折例数を評価して,本件3条件を全て満たす患者
と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者を対比すれば足り
る。そのため,甲95証明書は,48週を超過して,又は,72
5 週以上投与された本件3条件の全てを満たす患者に対する顕著な
効果を,本件3条件の一部を満たさない患者に対する効果と対比
したものである。被告は,表1と表2を比較した効果を主張して
いるのではなく,表1,表2のそれぞれにおける本件3条件の全
て満たす患者と本件3条件の一部を満たさない患者とを比較して,
10 いずれにおいても,本件3条件の全てを満たす患者ではPTH投
与群がコントロール群よりも骨折の発生が有意に抑制され,本件
3条件の一部を満たさない患者では骨折の発生の抑制が有意でな
いことを示している。
ⅱ 甲95証明書で示した「本件条件(2)又は本件条件(3)の
15 少なくともいずれかを満たさない患者」は,
「本件条件(1)ない
し本件条件(3)の全部又は一部を満たさない患者」であるから,
本件3条件の効果を基礎付けるための条件として適合している
(なお,本件条件(1)を満たさない患者が含まれていないのは,
コントロール群であるテリボン,エルシトニンの臨床試験の対象
20 患者が65歳以上になっているため,PTH投与群も65歳以上
の患者を対象とすることで条件をそろえたためである。 。本件条
)
件(3)は,
「骨密度が若年成人平均値の80%未満である,およ
び/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である」であるから,
「骨
密度が若年成人平均値の80%未満である」のみでも,本件条件
25 (3)に該当するといえるし,骨密度がYAM80%以上あれば,
通常,骨萎縮度がⅠ度未満と考えられる(甲35)から,
「骨密度
が若年成人平均値の80%未満である」と「骨萎縮度が萎縮度I
度以上である」はほぼ同義である。よって,甲95証明書は,本
件3条件を充足する患者と,本件3条件の全部又は一部を満たさ
ない患者とを比較したものにほかならない。低リスク患者の全て
5 の態様が確認できていないとしても,確認されていない態様は,
確認された態様よりも更に条件を満たしていない態様であり,低
リスク患者の中でもよりリスクの低い低リスク患者であり,この
ような患者に比して本件発明が高い骨折抑制効果を示すことは十
分に推論できる。
10 ⒝ データの出処(前記⑴ウ(オ)b⒝)の主張について
市販後の調査におけるデータであっても,実際の患者を対象とし,
事前に規定した調査項目を調査したものであるから,PTH投与群
として扱うことに特に問題ない。この場合,治験のように,患者の
選択・除外基準等を設けるなどの介入は行われていないが,骨折評
15 価が可能であること,本件3条件の充足又は非充足の評価が可能で
あること等の調査項目を事前に規定した上で調査を行っている。ま
た,コントロール群については,テリボンの臨床試験におけるプラ
セボ投与群,エルシトニンの臨床試験におけるプラセボ投与群のい
ずれについても二重盲検下で実薬群と同じ投与経路,投与頻度でプ
20 ラセボ投与されているので,実薬を投与されていない患者として適
切に骨折発生を評価できている。したがって,いずれも,実薬を投
与されていない患者として共通し,共に適切に骨折発生を評価でき
ているのであるから,両プラセボ投与群を統合して解析しても何ら
問題はない。
25 仮に,PTH投与群に既存の骨粗鬆症治療薬を併用している患者
が含まれ,あるいは,PTH投与群の投与期間・観察期間が患者ご
とに開きがあったとしても,それら条件は,本件3条件の全てを満
たす患者群と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者群の両
方に同等の割合で存すると考えるのが自然であり,両者に対する骨
折抑制効果を比較する場合に何ら問題となることではない。なお,
5 どのような臨床試験であっても,途中で脱落する患者が出てきて投
与期間・観察期間が異なることは生じる。また,甲95証明書は,
PTH投与群,コントロール群ともに臨床骨折のデータを用いて比
較評価をしており,統計データを用いただけなどというものではな
い。
10 ⒞ 予測の範囲(前記⑴ウ(オ)b⒞)の主張について
本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)は骨折しやすい
患者群ではあるが,だからといって,治療薬を投与すれば骨折が抑
制されやすい患者とは当然にはいえない。骨折の高リスク患者に対
しては高い骨折抑制効果が期待できるといった技術常識はなく,む
15 しろ,骨折しやすいのであれば治療薬を投与しても骨折を抑えにく
いと予測される。そうすると,本件3条件を充足しない患者と比し
て,本件3条件の全てを満たす患者で骨折抑制効果が高くなること
は,予測できない効果である。
(カ) まとめ
20 以上からすると,本件発明1は予測できない顕著な効果を奏するもの
といえる。
エ 小括
以上のとおり,相違点1及び相違点3は当業者において容易に想到でき
るものではなく,本件審決の判断には,誤りはない。
25 5 取消事由4-2(本件発明2の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
⑴ 原告
本件発明2は,本件発明1に対し,骨折抑制が48週を超過して72週ま
での間の投与では,「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためで
ある」との治療目標を特許請求の範囲の記載に加えたものにすぎない。
被告は,
「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためである」が特
5 定の医薬用途を定めたものであると主張するが,本件発明2の用途は,あく
まで骨粗鬆症治療であり,「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる
ためである」を特定の医薬用途ということはできない。いずれにせよ,甲9
5証明書からは,本件3条件の全てを満たす患者のPTH投与群について,
48週ないし72週の間に少なくとも7件もの骨折が発生したことが示され
10 ているから,PTH200単位週1回投与を,48週を超過して72週以上
までの間継続しても,骨折は完全に抑制されるものではない。そうすると,
「新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためである」を特許請求の
範囲の記載に加えても,本件発明2は,本件発明1と同一のものでしかない。
したがって,本件発明1に進歩性が欠如していることは,そのまま本件発
15 明2にも妥当し,本件発明2は進歩性を欠如する。
⑵ 被告
本件発明1に進歩性が認められることは,そのまま本件発明2にも妥当し,
本件発明2にも進歩性が認められる。
さらに,本件発明2は,
「48週を超過して72週までの間の投与では,新
20 規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるため」という特定の医薬用途を
規定したものであるが,このような構成は,前述までのとおり,当業者にと
って容易想到なものではないから,この点からみても,本件発明2は進歩性
を有する。
第4 当裁判所の判断
25 1 本件発明について
本件明細書(甲116)には,別紙1「本件明細書の記載事項(抜粋)」のと
おりの記載があり,この記載によると,本件発明について,次のような開示が
あると認められる。
⑴ 技術分野
本件発明は,PTH(Parathyroid Hormone: パラサイロイドホルモン〔副甲
5 状腺ホルモン〕)を有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に
関するものであり,また,PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし
予防剤に関するものである(【0001】 【0018】 。
, )
⑵ 背景技術
骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患
10 であり,治療剤の1つとしてPTH製剤が知られている(【0002】 。
)
従来技術として,1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり,1
回の投与当たり「100又は200単位」のPTHを皮下投与する骨粗鬆症
の治療方法があるが,この方法が,骨強度を増大させること又は骨折のリス
クを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについては明示されてい
15 ない(【0004】 【0005】 。
, )
また,従来技術として,PTHを連日投与するものがあるが,高カルシウ
ム血症の副作用事例等があり,安全性の面から十分ではないことから,安全
性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求め
られていた(【0006】ないし【0009】 。
)
20 ⑶ 発明が解決しようとする課題
本件発明の課題は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによ
る骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供すること,さらに,安全性の高いPT
Hによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである(【0012】 。
)
⑷ 課題を解決するための手段等
25 前記課題を解決するため,PTHの投与量・投与間隔を限定すること,具
体的には1回当たり「100ないし200単位」のPTHを週1回投与する
ことにより,効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方
法となること並びに安全性の高い骨折抑制又は予防方法となることが見出さ
れ,それらの方法において,骨折の高リスク者に対して特に効果を奏するこ
とが見出された(【0013】【0015】【0018】【0034】【00
, , , ,
5 35】 。
)
骨粗鬆症における骨折の危険因子としては,年齢,性,低骨密度,骨折既
往,喫煙,アルコール飲酒,ステロイド使用,骨折家族歴,運動,転倒に関
連する因子,骨代謝マーカー,体重,カルシウム摂取などが挙げられるとこ
ろ,本件発明においては,(1)年齢が65歳以上である,(2)既存骨折が
10 ある,
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎
縮度が萎縮度I度以上であるとの3条件を満たす骨粗鬆症患者を「高リスク
患者」として定義する(【0068】 。
)
⑸ 発明を実施するための形態
本件発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤の投与期間は
15 特に限定されず,患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができ
る。本件発明の発明者らは,投与期間を156又は72週間として,骨折発
生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施したところ,この試験
において,当該投与による有意な骨折抑制効果を確認でき,その効果は24
又は26週後という早期から発現し(実施例1~2) 投与後48週を超えて
,
20 からの新規椎体骨折は認められなかったことから(実施例2) 投与期間とし
,
て,24週以上,26週以上,48週以上,52週以上,72週以上,また
は78週以上を例示することができ,最も好ましくは78週以上である 【0
(
032】 【0035】 。
, )
⑹ 実施例1
25 退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症),特発性骨粗鬆症
(妊娠後骨粗鬆症,若年性骨粗鬆症など)が例示される原発性骨粗鬆症の男
女の患者を,高リスク患者及び低リスク患者(高リスク患者ではない患者)
に区分して,それぞれ,
「5あるいは100単位」のPTH製剤であるテリパ
ラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した 【0037】
( ,
【00
77】 【0079】 。
, )
5 高リスク患者においては,「100単位」投与群は,「5単位」投与群に比
べ,有意に高い骨密度の増加,有意に低い新規椎体骨折発生,及び,有意に
低い椎体以外の骨折発生が認められ,テリパラチド酢酸塩の週1回「100
単位」投与は,高リスク患者に対し,有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制な
いし予防剤となり得ることが確認されたが,低リスク患者においては,骨密
10 度,新規椎体骨折発生及び椎体以外の骨折発生のいずれについても,
「100
単位」投与群と「5単位」投与群との間で有意差は認められなかった(【00
83】ないし【0094】 【表4】ないし【表11】 。
, )
投与期間中,いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなかっ
た(【0095】 【図1】 。
, )
15 ⑺ 実施例2
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して,テリパラチド
酢酸塩「200単位」
(披験薬)又はプラセボ(対照薬)を,72週間,週1
回,皮下投与した(【0098】 。
)
投与72週後における被験薬投与群と対照薬投与群それぞれにおける椎体
20 多発骨折(新規の2箇所以上の椎体骨折)の発生比率(例数)を比較したと
ころ,対照薬投与群は2.1%(6例),被験薬投与群 は0.8%(2例)で
あり,被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示
された(【0109】【表12】 。また,増悪骨折に対しても披験薬は有効で
, )
ある(【0118】 【表20】 。
, )
25 半年ごとの新規椎体骨折発生率は,プラセボ投与群では,いずれの区間も
約5%でほぼ一定であるのに対し,PTH200単位投与群では,投与期間
が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えてからの
新規椎体骨折の発生はなく,また,PTH200単位投与群の新規椎体骨折
発生率は,24週以内,24週ないし48週,48週ないし72週のいずれ
の区間でもプラセボ投与群より低く,プラセボに対する相対リスク減少率(R
5 RR)は投与を継続するにつれて増加しており,PTH200単位週1回投
与は,新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リ
スクをプラセボに対して53.9%低下させ,さらに,その骨折抑制効果は,
投与とともに増強する傾向が認められた 【0131】 0132】 表34】
( ,
【 【
, ,
【表35】 。
)
10 骨折試験のFAS(判決注 Full Analysis Set:最大の解析対象集団)
において,Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)
発生率は,PTH200単位投与群3.5%,プラセボ投与群16.3%であ
り,PTH200単位投与群の発生率はプラセボ投与群より低く(logrank検
定,p<0,0001),200単位の投与は,72週後には,椎体骨折(新規+増
15 悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させており,さらに,半
年毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24
週ないし48週,48週ないし72週のいずれの区間でも,PTH200群
の発生率はプラセボ投与群より低かつた(【0133】 。
)
2 取消事由4-1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)の有無につ
20 いて
本件では,本件発明について,明確性要件及び実施可能要件の充足の有無
(取消事由1及び2)並びにサポート要件の充足の有無(取消事由3)が争
われているところではあるが,事案に鑑み,取消事由4-1から,まず判断
する。
25 ⑴ 甲7発明
甲7文献(訳は乙2)には,別紙2「甲7文献の記載事項(抜粋)」のとお
りの記載がある。この記載によると,本件審決が認定するとおりの甲7発明
を認定することができ,この点は,当事者間にも争いがない。
なお,甲7発明の「厚生省による委員会が提唱した診断基準」とは,厚生
省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班の定める「退行期骨粗鬆症の診断基準
5 (1989年)」(甲8,77)
(以下「1989年診断基準」という。)である
(甲74)。
⑵ 相違点1の容易想到性について
ア 本件基準日(平成22年9月8日)における骨粗鬆症に関する技術常識
について
10 (ア) 下記文献には,以下に引用する記載がある。
a 「退行期骨粗鬆症の診断」(1990年。甲8)
① 「本症の発生頻度は加齢とともに増加するので,本症は骨の生理
的加齢現象にすぎないと考える人もあるが,そうではない。加齢に
伴い,生理的にも骨のなかの蛋白およびCa,Pが減少するが,こ
15 のような骨の生理的加齢を基盤に,さまざまな要因が加わって発症
し,腰背痛や,病的骨折を伴うものを骨粗鬆症とよぶべきである。」
(288頁左欄13ないし18行目)
② 「骨粗鬆症の骨病変は通常胸椎および腰椎に認められるので,退
行期骨粗鬆症の診断にさいしてまず必要なことは,胸椎および腰椎
20 の側面X線写真撮影を行うことである。ついでこの胸椎および腰椎
の側面X線写真を用いて骨密度の減少あるいは圧迫骨折の有無を
チェックする。
・・・胸椎・腰椎の骨密度の減少を判定する方法とし
ては慈恵大の方式が一般に用いられている。
骨粗鬆症ではまず椎体の密度が減少するために椎体のX線透過度
25 が増大し,ついで縦の骨梁がめだつようになり,さらに進行すると
上下面が陥没し・・・ついには椎体が崩れて圧迫骨折の像を呈する
に至る。慈恵大方式では,このような骨X線像をもとにして骨粗鬆
症の程度をI~Ⅲ度に分類している。
・・・最近,厚生省骨粗鬆症研
究班では,これをより簡略化したものとして表2に示すような骨萎
縮度の基準を提唱しており,今後はこの方法が広く用いられること
5 が期待される。 (288頁右欄7行ないし289頁左欄17行目)
」
③ 「表2 骨萎縮度の基準
Ⅰ度 縦の骨梁がめだち,また椎体終板もめだつ。
Ⅱ度 縦の骨梁が粗となり,また椎体終板も淡くなる。
Ⅲ度 縦の骨梁が不明瞭となり,全体としてぼやけた感じを示す。
」(289頁)
④ 「1988年度から,厚生省シルバーサイエンスプロジェクトと
して「老人性骨粗鬆症の予防および治療法に関する総合的研究班」
10 (班長:A)が結成されたが,この研究班ではこのような立場から
本症において認められる自・他覚所見をスコア化し,そのスコアに
応じて,①確実,②ほぼ確実,③疑いあり,④否定的,の4つに分
類する診断基準を提唱している(表3) (290頁左欄20ないし
」
26行目)
15 ⑤ 「表3 退行期骨粗鬆症の診断基準
確実
1) 骨量の減少(+) 3 合計5点以上
2) 骨折あり 脊椎1個 1 ほぼ確実
≧2個 2 合計4点
大腿骨頚部 3 疑いあり
橈骨 1 合計3点
否定的
3) 年齢 女性55歳未満 -1 合計2点以下
男性75歳未満 -1
4) 腰背痛あり 1 除外疾患
…
5) 血清カルシウム,リン,AL-P値
正常 1
1項目の異常 0
2項目以上の異常 -1
…」(289頁)
b 「原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)」
(2001年。
甲9,35)
「表1 原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)
Ⅰ X線上椎体骨折を認める場合
低骨量(骨萎縮度Ⅰ度以上,あるいは骨密度値が若年成人平均値(Y
AM)の80%以下)で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。
Ⅱ X線上椎体骨折を認めない場合
脊椎X線像 骨密度値
正常 骨萎縮なし
骨量減少 骨萎縮度Ⅰ度 YAMの80~70%
骨粗鬆症 骨萎縮度Ⅱ度以上 YAMの70%未満
YAM:若年成人平均値(20~44歳)
(注)骨密度値は原則として腰椎の骨密度値とし,腰椎骨密度値評価が困難
である場合にのみ橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨密度値を用いる。
骨萎縮とは radiographic osteopenia に相当する。
…」
(77頁。以下,この「表1 原発性骨粗鬆症の診断基準(19
96年度改訂版) に係る診断基準を
」 「1996年診断基準」という。)
c 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2006年版」2006年。
(
甲101)
5 ① 「骨量測定方法の進歩と普及を背景に,1991年の国際骨粗鬆
症会議において,骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によ
って特徴づけられる疾患であり,骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増
大に結びつく疾患と定義された。この定義に従った診断基準がわが
国でも整備され,1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに,
10 2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)。」(3
1頁左欄3ないし10行目)
② 「表21 原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)
低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認め
ず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診
15 断する。
(注1)
Ⅰ 脆弱性骨折 あり
Ⅱ 脆弱性骨折なし
(注2) (注3)
骨密度値 脊椎エックス線像での骨粗鬆化
正常 YAMの 80%以上 なし
骨量減少 YAMの 70~80% 疑いあり
骨粗鬆症 YAMの 70%未満 あり
YAM:若年成人平均値(20~44 歳)
注1 脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満,あるいは脊椎
エックス線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で,軽微な外力によっ
て発生した非外傷性骨折,骨折部位は脊椎,大腿骨頸部,橈骨遠位
端,その他。
注2 骨密度は原則として腰椎骨密度とする。…
注3 脊椎エックス線像での骨粗鬆化の評価は,従来の骨萎縮度判定基準
を参考にして行う。
脊椎エックス線像での骨粗鬆症 従来の骨萎縮度判定基準
なし 骨萎縮なし
疑いあり 骨萎縮度Ⅰ度
あり 骨萎縮度Ⅱ度以上
」
(31頁。以下,この「表21 原発性骨粗鬆症の診断基準(20
00年度改訂版) に係る診断基準を
」 「2000年診断基準」という。)
③ 「Ⅲ 骨粗鬆症による骨折の危険因子
・・・
5 骨折の危険因子は,
「骨密度低下」
「骨質低下」
「外力(転倒など)」
に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を判定するには,骨
密度測定に加えて,「骨質」「外力」に関連する危険因子を評価する
必要があり,骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っ
ておくことがポイントとなる。
10 年齢,性 ・・・
低骨密度 ・・・
骨折既往 ・・・
・・・」(34頁)。
④ 「表22 骨折の危険因子(メタアナリシス,システマティック・
レビューによる結果〔エビデンスレベルⅠ〕のみ表示)
危険因子 文献 成績
低骨密度 … …
骨密度とは独立 既存骨折* … …
した危険因子 …
… …
」(35頁)
⑤ 「現在,骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが,同
じ骨密度を示していても年齢が高いほど,表22の危険因子*をも
5 つほど,骨折リスクは高くなる。骨密度,年齢,危険因子を総合的
に考慮に入れることで,骨折リスクの高い人をより効果的に判別で
きる。 (35頁)
」
⑥ 「表30 骨粗鬆症治療についての基本的な考え方
1.骨粗鬆症治療は骨折危険性を抑制し,QOLの維持改善をはか
10 ることを目的とする。
2.脆弱性骨折予防のための薬物治療開始基準は,骨粗鬆症診断基
準とは別に定める。
3.わが国では骨折危険因子として,低骨密度,既存骨折,年齢に
関するエビデンスがあり,WHOのメタアナリシスでは過度のア
15 ルコール摂取(1日2単位以上),現在の喫煙,大腿骨頸部骨折の
家族歴が確定している。
4.骨粗鬆症の薬物治療開始は上記の骨折危険因子を考慮して決定
する。 (53頁)
」
d 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版 2ないし3頁」
(2006年。甲128)
「NIHコンセンサス会議では,骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下
を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患・・・」に修
正した。さらに,
「骨強度」は骨密度と骨質の二つの要因からなり,B
5 MDは骨強度のほぼ70%を説明するとした。残りの30%の説明要
因を“骨質”という用語に集約し,その内容には,構造,骨代謝回転,
微細損傷の集積,骨組織のミネラル化などをあげた」
(2頁右欄27な
いし36行目)
(イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日当時の技術常識は,次のとお
10 りである。
すなわち,①骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が
増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOLの維
持改善を図ることである,②骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加する,
③骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で,わが国では,低骨密度,
15 既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,④骨粗鬆症の診断基準に関
して,1990年当時,厚生省シルバーサイエンスプロジェクト「老人
性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研究班」により提唱された
診断基準(1989年診断基準)があったが,1996年に診断基準が
改訂され(1996年診断基準),その後,2000年に更に改訂された
20 (2000年診断基準) ⑤骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり,
,
骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残りの30%を説明する。
イ 本件3条件について
(ア) 検討
a 甲7発明と本件発明1とは,
「1回当たり200単位のPTH(1-
25 34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする」との用量の
点において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を
一応異にする。
b 甲7発明で投与対象とされた患者は,前記⑴のとおり,1989年
診断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,甲7発明に接し
た当業者が,甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療
5 剤を投与する対象患者を選択するのであれば,より新しい基準を参酌
しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことで
あるから,1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診
断基準又は2000年診断基準を参酌するといえる。
そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗
10 鬆症と診断される者は,①骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの
80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,②X線上椎体
骨折を認めないが,骨萎縮度Ⅱ度以上,又は,骨密度値がYAMの7
0%未満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断され
る者は,③骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨
15 量で,軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する
者か,④脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度Ⅱ度以上,又は,骨密度
値がYAMの70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記①と同じであるから 「既
(
存の骨折」は「非外傷性椎体骨折」を含む。 ,当業者が甲7発明の2
)
20 00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件
条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。
また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加
するとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らか
であるところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的な
25 ことであり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上
が高齢者とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症によ
る骨折の複数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢
が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上
として,本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)
のように設定することはごく自然な選択であって,何ら困難を要しな
5 い。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条
件を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要する
ことではない。
(イ) 被告の主張について
10 a 被告は,前記第3の4⑵ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は,
層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み
合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たこと
に基づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献
の開示事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬
15 物に対する応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件
3条件を選択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記(ア)において判示したように,本件基準日にお
ける技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を
本件3条件の全てを満たす患者とすることに格別の困難はない。また,
20 本件3条件の組合せについても,客観的観点からその選択において格
別なものである,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組
合せが想定される中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意
味合いがあると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析
は,後述するように,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リ
25 スク患者)のグループと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患
者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較す
るものにすぎず,また,その結果自体も被告主張の顕著な効果が認め
られると即断できるものではない。 。
)
そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,
「年齢が64歳以下
と65歳以上,体重が49㎏以下と50㎏以上,閉経後10年未満,
5 10から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所
以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブ
グループ間で薬物に対する応答は同程度であった。 との記載があるこ
」
とは認められるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目) 当該
,
記載は,上記記載中の条件によってサブグループ化されたサブグルー
10 プ間の薬物効果の比較について述べているにすぎず,当該記載により,
甲7発明の投与対象患者をサブグループ化すること全般が阻害される
とはいえない。
したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
b また,被告は,前記第3の4⑵ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ
15 る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作
用脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない
旨主張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回
投与のH群の副作用発生率は42%であり,72人のうち16人(約
20 22%)が副作用により脱落していて,副作用発生率及び副作用によ
る脱落率は,50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び1
00単位を投与したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても
高いことが記載されており(表6) 骨粗鬆症の治療は長期間にわたる
,
ため,臨床使用において患者の症状や治療継続意思に直接に影響する
25 副作用が起こることは望ましくはないから(甲69ないし71,96),
甲7文献の上記記載に接した当業者は,この点に限っていえば,20
0単位の投与よりも100単位の投与の方がより適当であると認識す
ることが考えられる。
しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められな
いと記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目),さらに,
5 200単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこ
と,及び,その増加の程度は,100単位投与の3.6%,及び,50
単位投与の0.6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎
骨密度を48週という比較的短期間で用量に依存して増加させる極め
て有望なものと評価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行
10 目,301頁右欄5行ないし303頁23行目。有望とされた対象か
ら200単位の投与のみが排除されているとは理解し難い。 。
) そして,
前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することで
あるところ,骨密度が低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国
でエビデンスがある骨折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ7
15 0%を説明するとの技術常識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与
と100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面
を総合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,20
0単位週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られ
20 るとはいえず,これを選択することもまた十分に動機付けられている
というべきである。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
c さらに,被告は,前記第3の4⑵ア(イ)dのとおり,PTH製剤が
高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTHを
25 高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張す
る。
被告は,関係文献(乙28,29)を挙げて,PTH製剤が高齢者
には効きにくいということは技術常識であるとするが,
「The Skelet
al Response to Teriparatide Is Largely Independent of Age,
Initial Bone Mineral Density, and Prevalent Vertebral Frac
5 tures in Postmenopausal Women With Osteoporosis」
(Journa
l of bone and mineral research, vol.18, No.1,p18-23,2
003)(乙28)における記載(21頁FIG.2)及び「フォルテオ
皮下注キット600μg フォルテオ皮下注カート600μg「2.
7.3臨床的有効性の概要」 (乙29)における記載(213頁)と
」
10 して,プラセボ投与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及
びテリパラチド40μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投
与した際の新規椎体骨折発生率の結果が示されているところ,65歳
以上75歳未満の患者,及び,75歳以上の患者いずれに対しても,
テリパラチド投与群における椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎
15 体骨折発生率より低くなっているから,これらの記載をもって,フォ
ルテオが高齢者,すなわち65歳以上の患者に効きにくいなどとはい
えない。
また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与
群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,
20 65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,
75歳以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満
の患者群の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与
対象を75歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはな
るとしても,投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けに
25 は何らの影響を与えない。
したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65
歳以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとは
いえず,被告の上記主張を採用することはできない。
d そのほかにも,被告はるる主張するが,いずれの点についても,前
記(ア)の認定を左右するものではない。
5 ⑶ 相違点3の容易想到性について
ア 本件基準日(平成22年9月8日)時点のPTH製剤の投与期間に関す
る技術常識等について
(ア) 下記文献には,以下に引用する記載がある。
a 「「フォルテオ皮下注カート600μg,同皮下注キット600μ
10 gの審議結果報告書」に添付された審査報告書」(2010年4月。
甲15の1)
① 「[用法・用量] 通常,成人には1日1回テリパラチド(遺伝子
組換え)として20μgを皮下に注射する。
なお,本剤の投与は18ヵ月間までとすること。 (2頁)
」
15 ② 「3) 投与期間の上限
・・・それまでに実施した臨床試験における投与期間を基に設定
することとし,米国及び欧州では投与期間の上限を24ヵ月間とし
て承認されている。国内においては,GHDB試験での18ヵ月間
のデータより安全性が確認されることを前提に,投与期間の上限を
20 18ヵ月間として承認申請を行い,その後18ヵ月時点のデータを
提出した。なお,国内GHDB試験において24ヵ月間投与の使用
経験を得るため,投与期間を24ヵ月間に延長して2009年9月
に終了した。 (96頁)
」
b 「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版」
(2006年。甲
25 101)
「 ■副甲状腺ホルモン(PTH)
ヒトPTH(1-34)(テリパラチド)皮下注射剤
骨形成促進薬としての効果が期待されているPTHは,海外におい
て大規模臨床試験が実施され,すでに米国をはじめとする多くの国で
認可されている。閉経後5年以上を経過し椎体骨折を有する骨粗鬆症
5 患者を対象とした大規模臨床試験では,20μgのヒトPTH(1-
34)の平均18ヵ月にわたる連日自己皮下注射により新規椎体骨折
の発生を対照群の14%から5%へと1/3近く低下させた。 (99
」
頁)
c 「メルクマニュアル 第18版 日本語版」(2006年。甲13
10 6)
「合成副甲状腺ホルモン(PTH1-34;teriparatide)を平均20
カ月間毎日注射すると,骨量が増し骨折が減少する。 (326頁)
」
d 「骨折抑制のための薬剤選択 閉経後女性」(CLINICAL CALCI
UM,Vol.17,NO.7,86-92,2007)(甲139)
15 「 骨形成促進剤
PTHを間歇投与すると,海綿骨を中心に骨形成促進作用を有し,
椎体圧迫骨折を有する閉経後骨粗鬆症女性1,637名に,プラセ
ボ,20μg,40μgPTH(1-34)を21ヵ月連日皮下投
与すると腰椎骨密度はPTH投与でそれぞれ9.7%,13.7%増
20 加した。PTHの骨折防止に対する効果は,20μg,40μg投
与で新規椎体圧迫骨折発症頻度をそれぞれ65%,69%減少させ,
非椎体骨折発症頻度も有意に低下した(それぞれ53%,54%)」
(90頁)
e 甲19文献,甲20文献及び甲52文献
25 別紙3-1ないし3記載のとおり。
(イ) 前記(ア)の各記載によると,本件基準日時点のPTH製剤の投与期間
に関する技術常識は,次のとおりである。
すなわち,①海外では既に投与期間の上限を24か月とするPTH2
0μg連日投与の製剤が認可されていたこと,②PTH20μg又は4
0μg18か月間以上の連日投与により骨密度の増加と新規椎体骨折の
5 発生の抑制を得られることが知られていたこと,③甲19文献の試験で
は,1年間のテリパラチド20μg連日投与後,2年目もテリパラチド
の投与を続けた群(305例)では,2年目も腰椎骨密度の上昇が継続
したのに対し,2年目にテリパラチドの投与をやめて,ラロキシフェン
投与に切り替えた群(100例)では腰椎骨密度の変化はなく,2年目
10 に積極的な治療を行わないでカルシウムとビタミンDの補充のみに切り
替えた群(102例)では腰椎骨密度が減少したこと(726頁要旨欄,
729頁右欄10行ないし730頁右欄7行目,731頁図3A,73
2頁右欄1行ないし733頁左欄4行目,733頁表2,734頁40
ないし52行目) ④甲20文献の試験では,
, 2年間のテリパラチド20
15 μg連日投与により,腰椎骨密度が継続して上昇したこと(1595頁
図2) ⑤甲52文献の試験では,
, テリパラチド20μg連日投与又は4
0μg連日投与を18か月で終了すると,その6か月後,18か月後に
骨密度が下降していったこと(2028頁図3C)が技術常識として当
業者に知られていたものと認められる。
20 イ 本件条件(4)について
(ア) 検討
a 「48週を超過して72週以上までの間」投与されることの技術的
意義
本件条件(4)は,投与期間を「48週を超過して72週以上まで
25 の間」とするものであるところ,これは,
「までの間」として一定の期
間内における投与を規定し,その始期(投与自体の開始は0週からで
ある。)を「48週を超過」と,同終期を「72週以上」とするものと
理解できる。
そして,本件明細書には,骨折発生を主要評価項目とした二重盲件
比較臨床試験において,その効果が24週後又は26週後という早期
5 から発現し,投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められな
かったことが記載された上で,投与期間として,24週以上,26週
以上,48週以上,52週以上,72週以上や78週以上が例示され,
最も好ましいものを78週以上としている(【0032】 。
)
また,実施例2として,本件3条件の全てを満たす患者(高リスク
10 患者)に対して,被験薬(PTH200単位)又は対照薬(プラセボ)
を,72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与したところ
(【0098】 ,半年毎の新規椎体骨折発生率は,対照薬投与群では,
)
24週以下,24週を超えて48週以下,48週を超えて72週以下
のいずれの区間でも約5%でほぼ一定であったが,被験薬投与群では,
15 投与期間が長くなるにつれて区間ごとの発生率が低下しており,48
週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったこと(【0131】,
【0132】 【表34】 【表35】 ,カプラン-マイヤー推定法によ
, , )
る72週後の椎体骨折(新規及び増悪)発生率が,被験薬投与群で3.
5%,対照薬投与群で16.3%であること(【0133】)が記載され
20 ている。
これらの記載によると,本件発明は,遅くても48週を超えてから
の新規椎体骨折の発生はなかったことを踏まえて,始期を「48週を
超過」とし,試験期間が72週であったことを踏まえて,少なくとも
72週までの継続した投与を要するとの趣旨で終期を「72週以上」
25 (72週が含まれる。)としたものと理解される。
ところで,本件明細書には,上記のほかに「48週」なる数値の技
術的意義についての記載はないところ,【表34】において,48週
を超えて72週までの間に骨折発生がなかったということは,とりも
なおさず24週を超えて48週以下までの間に発生した最後の骨折以
降に更なる骨折発生がなかったことを意味し,しかも,その骨折発生
5 時期は不明であるものの,24週という相当長期の間に発生した骨折
例数はわずか2例であること(本件明細書【表35】)に鑑みると,
単に新規椎体骨折発生の有無にだけ着目するならば,その効果は24
週を超えて48週以下の区間で既に奏していたとの評価もできる。さ
らに,72週は試験期間が72週であったことによる一応の評価期間
10 とされていることは,被告も自認しているところであり,72週を超
える期間での骨折発生率は,本件明細書上不明である。
以上からすると,「48週」及び「72週以上」に臨界的意義を認
めることは困難であり,本件発明の「48週を超過して72週以上ま
での間」との特定の時期をもって始期及び終期とする限定には格別の
15 技術的意義を見いだすことができず,単に,適宜の区間についてPT
Hの投与継続につれて骨折発生率が低下していることを示すためだけ
のものにすぎないというのが相当である。
これに対して,被告は,本件発明1は48週を超えると骨折抑制効
果が増強し実質的に完全に骨折を抑制する効果を発現するものである
20 旨主張するが,その主張を採用するに足りる根拠は見当たらない。
b 容易想到性について
上記ア(イ)のとおり,本件基準日において,連日投与のPTH製剤
に関し,48週を超えた投与により骨密度が上昇し,骨折発生が減少
することが知られていた。
25 一方,甲7発明は,PTH200単位週1回投与により,48週ま
での間,腰椎BMDが継続的に増加し,48週後には8.1%有意に増
加し(甲7文献の296頁左欄1行ないし右欄7行目),さらに,PT
H200単位投与群であるH群では48週の投与期間中に椎体骨折が
発生しなかったものである(甲7文献の300頁左欄11行ないし右
欄6行目)。そして,前記⑵ア(イ)記載の技術常識によると,当業者で
5 あれば,そのような骨密度の増大は骨折の予防に寄与すると理解する
といえるところ,甲7文献の試験は,48週までの投与についてのも
のであるが,その増加率に逓減傾向があるとしても,腰椎BMDが継
続的に増加していることが見て取れ(甲7文献の図1) 48週を超え
,
ると,これが減少に転じるとする根拠は見当たらない。
10 以上からすると,連日投与のPTHに関して48週を超えての投与
がされ,それによる骨密度の上昇及び骨折発生の減少が報告されてい
たことを踏まえ,甲7発明の骨粗鬆症治療剤においても,骨密度の上
昇と骨折の予防のために48週を超えて投与するようにすることは,
当業者として容易に想到することといえ,これにより本件発明1に至
15 るものというべきである。
(イ) 被告の主張について
a 被告は,前記第3の4⑵イ(イ)及び(ウ)のとおり,①甲7発明にお
いては,48週を超えて投与しても腰椎BMDの増加は見込めず,ま
た,骨折抑制効果も不明であるから,長期投与を試みることの動機付
20 けはない,②甲7発明のPTH200単位週1回投与の副作用発生率,
脱落率の高さからみて長期投与を試みることの動機付けはない,③甲
7発明の試験は,48週が投与継続の限界と考えられていたのであり,
甲7発明において長期投与を試みることには阻害要因がある旨主張す
る。
25 しかしながら,甲7文献の開示事項(図1)からは,48週を超え
ての投与によって腰椎BMDの増加率が上昇していることは確認でき
ないものの,増加率が低減しながらも正味としては腰椎BMDは増加
していることが確認できるのであるから,人体である以上自ずと腰椎
BMDの増加に上限はあるとしても,投与48週後にこの腰椎BMD
の増加が直ちに消失するとする格別の根拠はないし,骨折抑制効果自
5 体についての有意な記載はなくても,前示のとおり,骨密度の増大が
骨折の予防に寄与することは技術常識というべきものであるから,上
記①の主張を採用することはできない。
また,前記⑵イ(イ)cにおいて説示するとおり,甲7発明における
PTH200単位週1回投与の副作用発生率,脱落率の高さにより,
10 当業者において臨床使用への適用を妨げられるとはいえず,その適用
の際,そのBMD増加の効果に鑑みて長期投与することは十分に動機
付けられるといえるから,上記②の主張を採用することはできない。
さらに,甲7文献には,
「試験期間を48週間に設定した。この期間
は,骨折の危険性と不安が常にある患者を対象として通常の骨測定,
15 血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに,十分な制御下で
多施設試験を実施できる限界であると思われた。 (297頁右欄43
」
行ないし298頁左欄24行目)と記載されているのであるから,甲
7文献上,試験期間が48週に設定された直接の理由は臨床試験の管
理上の問題を懸念したことによるものであることは明らかであり,し
20 かも,試験期間の設定は甲7試験の結果を知る前にされるものである
ことも併せ考えれば,甲7試験の結果を見た当業者が,甲7発明の骨
粗鬆症治療剤を治療の場面で用いる際,48週を超えて投与すること
を阻害されるとはいえないというべきであるから,上記③の主張も採
用することができない。
25 b 被告は,前記第3の4⑵イ(エ)のとおり,甲19文献及び甲20文
献は,甲7発明とは用法用量の異なる試験に関するから,これら文献
の記載事項が甲7発明の骨粗鬆症治療剤を48週を超えて投与する動
機付けや臨床に適用する際の阻害事情を取り除く要因とはならない
し,むしろ,これら文献は,48週を超過した長期投与では骨折抑制
効果が期待できないことが示されたものである旨主張する。
5 しかしながら,用法用量が異なることから,その継続期間を直ちに
全く同様のものとしてよいと考えることはできないとしても,同じP
TH製剤である以上,少なくとも,48週を超過して長期期間投与す
ること自体が動機付けられないとはいえない。
次に,確かに甲19文献には,2年間のテリパラチド投与群につい
10 て継続的にBMDの有意な増加が認められ,その2年目の増加は,1
年目をテリパラチド投与で2年目を治療なしとした群に比して有意な
差があったとされるものの(729頁右欄10行ないし730頁右欄
7行目,図3AないしC),臨床的脆弱性骨折については,2年間のテ
リパラチド投与群の2年目の骨折発生率が,1年目をテリパラチド投
15 与で2年目を治療なしとした群の2年目の骨折発生率を上回ったこと
が示されてはいる(730頁右欄8ないし20行目,表3)。
しかしながら,両群の臨床的脆弱骨折発生数については有意差はな
いとされ(730頁右欄8ないし20行目) 「我々の試験は骨折に対
,
する効果を評価するためにデザインされておらず,適切に評価する検
20 出力もない。予測通り,試験期間中の臨床的脆弱性骨折の全数は少な
く,ランダムに割り付けられた2年目の治療の群間比較は,3つの逐
次的治療の相対的な骨折抑制効果に関して導かれるどの結論も許可さ
れるものではない。 (733頁右欄41ないし57行目)とされてい
」
るから,甲19文献が,48週を超過した長期投与では骨折抑制効果
25 が期待できないことを示す文献とはいえない。また,甲19文献が被
告が主張するような文献とは解し得ない以上,24か月間のテリパラ
チド治療によりBMDの有意な増加を伴ったことを示す甲20文献も,
被告が主張するような点が示された文献とはいえない。したがって,
被告の上記主張も採用することができない。
c そのほかにも,被告はるる主張するが,いずれの点においても,前
5 記(ア)の判断を左右するものではない。
⑷ 効果について
前示のとおり,本件発明1の構成は容易想到であるが,これに対し,被告
は,前記第3の4⑵ウ(ア)のとおり,本件発明1は,本件3条件の全てを満
たす患者に対する顕著な骨折抑制効果(効果①),本件条件(4)を充足する
10 ことにより,骨折発生率を0%まで低減させる骨折抑制効果(効果②),PT
Hの連日投与から想定されるBMD増加率に対する骨折相対リスクと対比し
て,BMD増加率が低くても,より低い骨折相対リスクが得られる効果(効
果③)という,当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏する
ものである旨主張する。
15 以下,これらの効果について検討する。
ア 効果①について
(ア) 前記⑵ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨
折の危険性が増大した骨疾患であり,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予
防することであり,
「骨強度」は骨密度と骨質の2つの要因からなり,骨
20 密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから,当業
者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解するところ,甲7
文献には,「ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)
が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した」
(296頁右欄10行な
いし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与すること
25 が記載され,その上で,48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示
されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そうすると,甲7
発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは,当業
者において容易に理解できる。
(イ) 効果①の骨折抑制効果とは,単なる骨折発生率の低減ではなく,プ
ラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指
5 すものであるが,本件明細書の記載からでは,本件3条件の全てを満た
す患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果が,本件3
条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨
折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,効果①を確認するためには,高リスク患者に対する骨折抑
10 制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があり,
単に高リスク患者とプラセボを対比して高リスク患者に対する骨折抑制
効果を示しただけでは,高リスク患者がPTH投与群の中で特に効果を
奏する患者群であることを明らかにしたことにはならないところ,前記
1のとおり,本件明細書には,実施例1において,高リスク患者では,
15 100単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨
折発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群にお
ける発生率に対して有意差が認められるが,低リスク患者では,100
単位週1回投与群における新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨折の発
生率は,いずれも,5単位週1回投与群における発生率に対して有意差
20 が認められなかったと記載されているのにとどまる 【0086】
( ないし
【0096】 【表6】ないし【表11】 。そして,低リスク患者の新規
, )
椎体骨折についていえば,100単位週1回投与群11人と5単位週1
回投与群10人(令和3年5月10日付け被告第1準備書面31頁にお
ける再解析の数値による。)について,それぞれ,ただ1人の骨折例数が
25 あったというものであり,また,椎体以外の部位の骨折は,上記5単位
週1回投与群について,ただ1人の骨折例数があったというものであっ
て,有意差がなかったことが,症例数が不足していることによることを
否定できない。このように,低リスク患者において,100単位週1回
投与群の新規椎体骨折及び椎体以外の部位の骨折の発生率が5単位週1
回投与群のそれらの発生率に対して有意差がなかったとの結論が,上記
5 のような少ない症例数を基に導かれたことからすると,高リスク患者に
おける骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における骨折発生の抑制の
程度と比較して,前者が後者よりも優れていると結論付けることはでき
ない。
したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折
10 抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いと
いうことを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他の部分
をみても,高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が,低リスク患
者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解すること
はできない。
15 以上によれば,効果①は,本件明細書の記載に基づかないものという
べきである。
(ウ) 被告は,効果①を明らかにするものとして,甲88証明書及び甲9
5証明書を提出する。
しかしながら,本件明細書の記載から,高リスク患者に対するPTH
20 の骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも
高いということを理解することができず,また,これを推認することも
できない以上,効果①は対外的に開示されていないものであるから,上
記各実験成績証明書を採用して,効果①を認めることは相当でない。
仮に,上記各実験成績証明書を参酌するにしても,本件3条件の全て
25 を満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は一
部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグル
ープとを比較しているものにすぎないから,本件3条件の効果が明らか
になっているとはいえない。また,甲88証明書には,本件条件(1)
を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)のいずれかを満たさない
患者とされる「非3条件充足患者」につき,
「非3条件充足患者において
5 もPTH投与群ではコントロール群よりも骨折の発生が抑制されたが,
3条件充足患者においては,PTH投与群ではコントロール群よりも骨
折の発生が『有意に』抑制された。」旨が,甲95証明書には,本件条件
(1)及び本件条件(4)を満たし,本件条件(2)又は本件条件(3)
のいずれかを満たさない患者とされる「非4条件充足患者」につき,4
10 8週を超過して投与される場合(①)及び72週以上投与される場合(②)
のいずれについても,
「非4条件充足患者①(非4条件充足患者②)にお
いてもPTH投与群では,コントロール群よりも骨折の発生は抑制され
たが,4条件充足患者①(4条件充足患者②)においてはPTH投与群
ではコントロール群よりも骨折の発生が『有意に』抑制された。」と記載
15 されているだけである。すなわち,本件3条件を満たさない患者につい
ては,PTH投与群においてコントロール群よりも骨折発生が抑制され
たものの有意差がなかったことが理解できるのみであり,それら有意差
がなかったとの結論も,コントロール群の症例数が少ないことによるも
のであって,高リスク者と低リスク者の各群間に差があることが示され
20 たとはいえず,本件3条件の全てを満たす患者の骨折発生の抑制の程度
が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程度より優れ
ていると結論付けることはできない。そうすると,上記各実験成績証明
書をみても,本件3条件を全て満たす患者に対するPTHの骨折抑制効
果が,本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨折抑制効果より
25 も高いということを理解することはできない。
(エ) 以上によれば,いずれにしても効果①を認めることはできないから,
その他の点について判断するまでもなく,効果①を予測することのでき
ない顕著な効果という余地はない。
イ 効果②について
(ア) 前記ア(ア)とおり,骨密度の増大は骨折の予防に寄与するものと理
5 解されるところ,甲7発明は,48週で骨密度を8.1%有意に増大し,
48週を超えても腰椎BMDが継続的に増加しすることが見込まれるも
のであり,甲7文献には,試験の結果を示す事実として,200単位投
与群では,48週間の投与において椎体骨折が発生しなかったことが示
されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)。そうすると,PT
10 H200単位投与の甲7発明において,投与期間が48週を超えても,
48週までの投与期間においてのものと同等の骨折抑制の効果がある程
度継続すると考えるのが自然である。
(イ) 効果②の骨折抑制効果とは,本件3条件の全てを満たす患者に本件
発明1に係るPTH200単位週1回投与を48週を超えて少なくとも
15 72週まで投与した場合に骨折発生率を0%に低減するというものであ
るが,前記⑶イ(ア)aのとおり,
「48週」及び「72週」という数値そ
れ自体には格別の技術的意義を見いだすことはできない。
この点をさておいても,前記(ア)のとおり,甲7発明において,同等
の骨折抑制の効果が48週を超過してもある程度継続すると考えるのが
20 自然であるところ,試験の結果を示す事実にすぎないとはいえ,甲7発
明でも,48週間の投与において椎体骨折が発生していなかったことに
鑑みると,本件発明1において,48週を超えて72週までの区間での
骨折発生数は0件であり,骨折発生率が0%であったとしても,その骨
折抑制効果が当業者にとって意外なものとまではいえず,予測し得る範
25 囲内のものであるといえる。
(ウ) 被告は,前記第3の4⑵ウ(ウ)のとおり,①甲7発明においては,
プラセボとの比較が無いので骨折発生数が0件であるからといってそれ
が骨折抑制効果が期待されることにはならないし,椎体骨折数について
の群間比に有意差はなかったから,甲7発明から,48週を超過して7
2週以上までの間投与することによる顕著な骨折抑制効果を当業者が予
5 測することはできない,②BMD増加率は低下し鈍化すると予測される
にもかかわらず,骨折抑制効果が増強することは甲7文献の開示からは
予測できない,③甲19文献及び甲20文献からは,PTHの長期投与
による骨折抑制効果は予測することはできない旨を主張する。
しかしながら,前記(ア)のとおり,骨密度を増大させる甲7発明にお
10 いて骨折抑制効果があるものと理解され,その効果が投与期間が48週
を超えてもある程度継続すると考えるのが自然であるから,当業者は,
甲7発明において骨折発生率についてプラセボ投与群との対比がないと
しても,甲7発明の骨粗鬆症治療剤に骨折抑制効果があり,これが48
週を超過して継続することを予想し得るというべきである。また,甲7
15 文献において「L群で被験者3名,M群で5名およびH群で0名に椎体
骨折が発生したが,各群間の差は有意ではなかった。 (300頁左欄1
」
1行ないし右欄6行目)と記載されているとおり,有意差がなかったと
される群間比は,50単位(L群),100単位(M群)及び200単位
(H群)のPTH投与群の中での対比のことを指すのであるから,20
20 0単位投与群の他の群に対する優位性は示されていないとしても,20
0単位投与に骨折抑制効果がないことまでを示すものとは理解され得な
い。これらの事情を総合考慮すると,上記①の主張は採用することがで
きない。
また,前記⑶イ(イ)aのとおり,腰椎BMDの増加率が上昇していな
25 いとしても,腰椎BMDは正味としては増加していることや,同bのと
おり,甲19文献及び甲20文献がPTHの長期投与による骨折抑制効
果の予測を妨げる文献とはいえないことからすれば,上記②及び③の主
張も採用することができない。
(ウ) 被告は,効果②を明らかにするものとして,甲95証明書を提出す
る。
5 しかしながら,効果②は,PTHの長期間の投与により効果が増強す
るとするものであるから,そもそもPTHの投与を受けたことのないプ
ラセボ投与群との関係においてただ単にPTHに骨折抑制効果があるこ
とだけを示しても,効果②が顕著であることを示したとはいえない。そ
して,被告が自認するとおり,甲95証明書は,本件3条件の全てを満
10 たす患者と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者のそれぞれにつ
き,48週を超過して投与した場合の投与期間全体の骨折数又は72週
以上投与した場合の投与期間全体の骨折数をPTH200単位週1回投
与群とプラセボ投与群ごとに集計して対比をしたものであって,PTH
200単位週1回投与を48週を超えて継続すると骨折発生率がゼロに
15 なる効果を示すためのものではなく,また,甲95証明書からそのよう
な効果の存在をうかがうこともできない。さらに,甲95証明書は,最
終的な評価例数しか記載していないので,脱落者がいつ,どの程度生じ
たのかが不明であり,また,最終的な骨折例数しか記載していないので,
骨折がいつ,どの程度発生したのかが不明であり,結局,48週以下の
20 投与期間中の骨折発生数も骨折発生率も分からず(48週を超過して投
与した患者も72週以上を投与した患者も必ず48週以下投与がされて
いる。 ,48週以下の投与期間中と48週を超過した投与期間中の効果
)
に相違があるのかを明らかにするものでもない。加えて, 甲95証明書
は,対象患者を被験薬投与群,対照薬投与群のいずれも全て本件条件(4)
25 を満たす者としており,PTH200単位週1回投与を48週以下投与
した患者(例えば,PTH200単位週1回投与を48週まで継続し,
その後治療を中止した患者)と48週を超えて投与した患者との間で,
被験薬を投与された場合の新規椎体骨折発生数を対比するようなもので
はない。
したがって,甲95証明書は,効果②を明らかにするものとはいえは
5 ない。
(エ) 以上によれば,いずれにしても効果②を認めることはできないから,
その他の点について判断するまでもなく,効果②を予測することのでき
ない顕著な効果という余地はない。
ウ 効果③について
10 被告は,PTHの連日投与から想定されるBMD増加率に対する骨折相
対リスクと対比して,BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リスクが
得られるとの効果が生ずるとして,これを本件発明の予測できない顕著な
効果とするが,本件明細書には,PTHの連日投与から想定されるBMD
増加率と骨折相対リスクとの関係を記載した部分は見当たらず,上記主張
15 は,明細書に記載されていない効果を主張するものであって失当というほ
かない。
エ まとめ
そのほか被告がるる主張するところも,前記アないしウの判断を左右す
るものではなく,効果の程度等につき更に検討を加えるまでもなく,本件
20 発明1が,当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するも
のであると認めることはできない。
⑸ 小括
以上のとおりであるから,相違点1及び3に係る本件発明1の構成を想到
することは容易と認められ,本件発明1の効果も当業者において予測できな
25 い顕著なものとは認められないから,結局,相違点1及び3は当業者が容易
に想到し得たものというべきであり,相違点1及び相違点3が容易に想到で
きないと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると,相違点1及
び相違点3が容易に想到できないことから相違点2について検討するまでも
なく本件発明1の進歩性を認めた本件審決の判断にも誤りがあり,取消事由
4-1は,理由がある。
5 3 取消事由4-2(本件発明2の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
前記2⑸のとおり,相違点1及び相違点3が容易に想到できないと認定した
本件審決の判断には誤りがある。そうすると,相違点1及び相違点3が容易に
想到できないことから相違点2及び相違点4について検討するまでもなく本件
発明2の進歩性を認めた本件審決の判断にも誤りがあり,取消事由4-2は,
10 理由がある。
4 結論
以上のとおり,取消事由4-1及び4-2には理由があるから,その他の点
について判断するまでもなく,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり
判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
中 村 恭
(別紙1)
本件明細書の記載事項(抜粋)
(表は末尾に一括して掲記した。)
5 【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPTHを有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に関す
る。また,本発明はPTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関す
10 る。特に本発明は,1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されるこ
とを特徴とする,前記薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患」であ
15 る。現在,骨粗鬆症の治療剤の一つとしてPTH(Parathyroid Ho
rmone; パラサイロイドホルモン)製剤が知られている。
【0003】
PTHは,カルシトニン類やビタミンD類とともに,血中カルシウム濃度の調節
に関与するホルモンである。例えば,PTHは,生体内において,腎臓における活
20 性型ビタミン D3生成を増加させることにより,腸管でのカルシウム吸収を促進
する作用を有することも知られている(非特許文献1)。
【0004】
特許文献1は,骨粗鬆症患者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間
にわたり1回の投与あたり100又は200単位のPTHを皮下投与することによ
25 り,当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させかつ皮質骨の骨密度を減少させ
ない骨粗鬆症の治療方法を開示している。
【0005】
このように,特許文献1は,これらの治療方法が単に骨密度の増加を誘導するこ
とを開示する一方,骨粗鬆症患者の骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽
減させることが可能な治療方法であるか否かについて明示していない。また,PT
5 Hを単独使用したのみで,カルシウム剤を併用していない。
【0006】
非特許文献1は,PTHによる骨粗鬆症治療に関する臨床試験において,患者に
PTH(20μg/ay)投与後4~6時間後採血した際に高カルシウム血症がそ
の患者の11%にみられ,持続性の高カルシウム血症はその3%に観察されたこと
10 を開示している。 さらに,非特許文献1は,次ぎのPTH投与前には血清カルシウ
ムが殆ど全ての患者において正常に戻ったものの541人の患者の中で1名につい
ては持続性の血清カルシウム上昇が観察された為治療中止に至った旨も開示してい
る。
【0007】
15 非特許文献2は,カルシウム剤を併用下でPTHの連日皮下投与製剤に関して,
本剤投与後の血清カルシウムは臨床的に問題ないと開示するものの,投与後の血清
カルシウムが上昇したことも報告している。非特許文献3は,非特許文献2に開示
の連日皮下投与製剤の添付文書である。本文書は,臨床試験において,当該製剤投
与後の様々な有害事象を開示する中で該製剤投与後の一過性の高カルシウム血症が
20 観察された旨を報告している。さらに,非特許文献3は,当該製剤の市販後調査に
おいて,高カルシウム血症の副作用報告があった旨を開示している。
【0008】
このように,非特許文献1~3は,PTHの骨粗鬆症治療における高カルシウム
血症の副作用事例等を開示しており,これらに開示の治療方法は安全性の面から十
25 分ではないといえる。
【0009】
このような背景の下,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨
粗鬆症治療方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
5 【0011】
【非特許文献9】Marcus.& Aurbach,G.D,Endocrin
ology 85,801-810,1969
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
10 【0012】
本発明の課題は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆
症治療ないし予防方法を提供することである。さらに,本発明の課題は,安全性の
高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
15 【0013】
前記課題を解決するために,本発明者らは鋭意研究開発を重ねた結果,驚くべき
ことに,PTHの投与量・投与間隔を限定することにより,効能・効果及び安全性
の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となることを見出した。また,PTHの
投与量・投与間隔を特定することにより,安全性の高い骨折抑制/予防方法となる
20 ことを見出した。さらに,それらの方法において,高リスク患者に対して特に効果
を奏することも見出した。
【0014】
すなわち,本発明は,以下に関するものである。
〔1〕カルシウム剤と併用され,かつ,1回当たり100~200単位のPTHが
25 週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治
療ないし予防剤。
〔2〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする, 〔1〕
前記
の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔3〕併用されるカルシウム剤が,カルシウムとして1日あたり200~800m
g投与されることを特徴とする,前記〔1〕または〔2〕の骨粗鬆症治療ないし予
5 防剤。
〔4〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔1〕~〔3〕のいずれ
かである骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔5〕24週または48週を超過する期間にわたり投与するための,前記〔1〕~
〔4〕いずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
10 〔6〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための,
前記〔1〕~〔5〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が
15 萎縮度I度以上である。
〔7〕ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症,あるいは,糖尿病性骨粗鬆症を治
療ないし予防するための,前記〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療
ないし予防剤 。
〔8〕 下記(1)~(8)の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する
20 骨粗鬆症を治療ないし予防するための,
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆
症治療ないし予防剤;
(1)糖尿病,
(2)高血圧,
(3)高脂血症,
25 (4)関節痛,
(5)変形性脊椎症,
(6)変形性腰痛症,
(7)変形性股関節症,
(8)変形性顎関節症。
〔9〕 下記(1)~(6)の少なくともいずれか1つの骨粗鬆症治療薬の投与歴
5 がある 骨粗鬆症患者に投与するための,〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗
鬆症治療ないし予防剤;
(1)L-アスパラギン酸カルシウム
(2)アルファカルシドール,
(3)エルカトニン,
10 (4)塩酸ラロキシフェン,
(5)メナテトレノン,
(6)乳酸カルシウム
〔10〕 軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
15 〔11〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔6〕~〔10〕のい
ずれか1の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔12〕前記PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤が皮下注射剤である,
前記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔13〕 前記〔1〕~〔12〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤
20 と下記 (1)~(6)の少なくともいずれか1つの薬剤からなる合剤または医療用
キット。
(1)メトクロプラミド,
(2)ドンペリドン,
(3)ファモチジン,
25 (4)クエン酸モサプリド,
(5)ランソプラゾール,
(6)六神丸。
〔14〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する, PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記
(1)~(3 )の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための,骨粗鬆症治
5 療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が
萎縮度 I度以上である。
10 〔15〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する, PTHを有効成分として含有する,骨折の危険性の高い骨粗鬆症治療ないし
予防剤。
〔16〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する, PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,ステ
15 ロイドを起因とする続発性骨粗鬆症,あるいは,糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予
防するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔17〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する, PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度
腎障害または 中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治
20 療ないし予防剤。
〔18〕カルシウム剤と併用され,かつ,1回当たり100~200単位のPTH
が週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨折抑制
ないし予防剤 。
〔19〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする,前記
25 〔18〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔20〕併用されるカルシウム剤が,カルシウムとして1日当たり200~800
mg投与されることを特徴とする,前記〔18〕または〔19〕の骨折抑制ないし
予防剤。
〔21〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔18〕~〔20〕の
いずれかである骨折抑制剤。
5 〔22〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす対象者に投与するための,前記
〔18〕~〔21〕のいずれかである骨折抑制ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が
10 萎縮度I度以上である。
〔23〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔22〕の骨折抑制な
いし予防剤。
〔24〕前記PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤が皮下注射剤
である,前記〔22〕または〔23〕の骨折抑制ないし予防剤。
15 〔25〕骨折抑制ないし予防剤が多発骨折抑制ないし多発骨折予防剤である,前記
〔18〕~〔24〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔26〕骨折抑制ないし予防剤が増悪骨折抑制ないし増悪骨折予防剤である,前記
〔18〕~〔25〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。
〔27〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,ステ
20 ロイド を起因とする続発性骨粗鬆症,あるいは,糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予
防するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔28〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度
腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療
ないし予防剤 。
25 〔29〕前記〔27〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度腎障害または中
程度腎 障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔30〕前記〔16〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度腎障害または中
程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔31〕上記〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の治療剤,予防剤,薬剤,合剤,
または キットを用いる,予防または治療方法。
5 【発明の効果】
【0015】
本発明の骨粗鬆症治療剤は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れている。ま
た,本発明の骨折抑制ないし予防剤は,安全性が高く,有用である。
【図面の簡単な説明】
10 【0016】
【図1】図1は,投与群(高リスク者,低リスク者)別での血清カルシウム濃度推
移の結果を示すグラフである。
【図2】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬
投与群を「PTH200群」,対照薬投与群を「P群」と表記した。
15 【図3】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬
投与群 を「PTH200群」,対照薬投与群を「P群」と表記した。
【図4】被験薬(「PTH200群」)または対照薬(「P群」)を週1回の頻度で7
2週間患者に投与した際の尿中カルシウム値の変動について試験した結果を示す。
尿中カルシウム値/尿中クレアチン値の比を投与開始前と観察週で比較した。尿中
20 カルシウムの測定は,開始時,12週後,24週後,48週後,72週後に実施し
た。標準併用薬(カルシウム 610mg,ビタミンD 3 400IU,及びマグ
ネシウム 30mg)を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
【図5】被験薬(「PTH200群」)または対照薬(「P群」)を週1回の頻度で7
2週間患者に投与した際の補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示
25 す。血清カルシウムの測定は,開始時,12週後,24週後,48週後,72週後
に実施した。血清カルシウム基準値:8.4-10.4mg/dL。標準併用薬(カ
ルシウム 610m g,ビタミンD3 400IU,及びマグネシウム 30mg)
を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
5 本発明について,具体的に説明する。
【0018】
本発明は,1回当たり100~200単位のPTHが週1回(以下,
「週1回」を
「隔週」と称することもある。)投与されることを特徴とする,PTHによる骨粗鬆
症治療ないし予防方法又は骨折抑制ないし予防方法を提供する。また,本発明は,
10 1回当たり100~200単位のPTHが隔週投与されることを特徴とする,PT
Hを有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を提供す
る。さらに,本発明は,前記骨粗鬆症治療ないし予防剤又は前記骨折抑制ないし予
防剤の製造のためのPTHの使用を提供する。
【0019】
15 I 有効成分
本発明の有効成分であるPTH(以下,単に「PTH」ということもある。)は,
ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH(1-84) 及び,
, ヒトPTH(1-84)
と同等又は類似の活性を有する分子量約4,000~10,000程度のペプチド
類を包含する。
20 【0020】
PTHは,天然型のPTH,遺伝子工学的手法により製造されたPTH,及び化
学合成法により合成されたPTHのいずれをも含む。PTHは,自体公知の遺伝子
工学的手法により製造され得る(非特許文献8)。あるいは,PTHは,自体公知の
ペプチド合成法により合成されることができ(非特許文献11),例えば,不溶性の
25 高分子担体上でペプチド鎖をC末端から伸長していく固相法(solid pha
se method)によっても合成され得る(非特許文献4)。なお,本発明のP
THの由来は,ヒトに限られず, ラット,ウシ,ブタ等であってもよい。
【0021】
本願明細書において,ヒトPTH(n-m)というときには,ヒトPTH(1-
84)のアミノ酸配列第n番目から第m番目までからなる部分アミノ酸配列で示さ
5 れるペプチドを意味する。例えば,ヒトPTH(1-34)は,ヒトPTH(1-
84)のアミノ酸配列第1番目から第34番目からなる部分アミノ酸配列で示され
るペプチドを意味する。
【0022】
本発明の有効成分であるPTHは,1種又は2種以上の揮発性有機酸と形成した
10 塩でもあってもよい。揮発性有機酸として,トリフルオロ酢酸,蟻酸,酢酸などが
例示され,好ましくは酢酸を挙げることができる。フリー体のPTHと揮発性有機
酸が塩を形成する際の両者の比率は,当該塩を形成する限りにおいて特に限定され
ない。例えば,ヒトPTH (1-34)は,その分子中に9分子の塩基性アミノ酸
残基と4分子の酸性アミノ酸残基を有するため,それらの分子内における塩形成を
15 考慮に入れると,塩基性アミノ酸5残基 を酢酸の化学当量とすることができる。例
えば,酢酸量に酢酸重量×100(%)/ヒトPTH(1-34)のペプチド重量,
で表される酢酸含量を用いれば,一つの理論として,フリー体であるヒトPTH(1
-34)に対する酢酸の化学当量は約7.3%(重量%)となる。本願明細書にお
いて,フリー体であるヒトPTH(1-34)はテリパラチド ,テリパラチドの酢
20 酸塩はテリパラチド酢酸塩と,それぞれ称されることもある。テリパラチド酢酸塩
における酢酸含量は,テリパラチドと酢酸が塩を形成する限りにおいて特に限定さ
れず,例えば,前記の理論化学等量である7.3%以上であってもよく,0~1%
でもよい。より具体的には,テリパラチド酢酸塩における酢酸含量として,1~7%,
好ましくは2~6%を例示され得る。これらの塩は自体公知の方法(特許文献4~
25 5)に従って製造可能である。
【0023】
PTHとして,ヒトPTH(1-84),ヒトPTH(1-34),ヒトPTH(1
8,
- 38),hPTH(非特許文献5),ヒトPTH(1-34)NH 2 ,〔Nle
18 8,18 34
〕ヒトPTH(1-34) 〔Nle
, ,Tyr 〕ヒトPTH(1-3
8,18 8,18
4) 〔Nle
, 〕ヒトPTH(1-34)NH 2 ,
〔Nle ,Tyr
34
5 〕 ヒトPTH(1-34)NH 2 ,ラットPTH(1-84),ラットPTH(1
-34) ,ウシPTH(1-84),ウシPTH(1-34),ウシPTH(1-3
4)NH2 等 が例示される。好ましいPTHとして,ヒトPTH(1-84),ヒト
PTH(1-38 ),ヒトPTH(1-34),ヒトPTH(1-34)NH 2 が例
示される(特許文献3等)。特に好ましいPTHとして,ヒトPTH(1-34)が
10 挙げられる。さらに好ましいPTHとして,化学合成により得られたヒトPTH(1
-34),最も好ましいPTH として,テリパラチド酢酸塩(実施例1)が挙げら
れる。
【0024】
II 他の薬剤との併用
15 本発明者らは,カルシウム剤併用下でのPTHに関し,骨折発生を主要評価項目
とした 二重盲検比較臨床試験を実施した結果,その効果は24または26週後と
いう早期から発現され,さらに,有害事象として高カルシウム血症が確認されなか
った(実施例1~2)。従って,本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤
は,他の薬剤と併用することを一つの特徴とする。ここで,他の薬剤との併用とは,
20 本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と本剤とは別のある薬剤(他の
薬剤)を併用することを意味する。
【0025】
本発明の他の薬剤としてはカルシウムを好適に例示できる。但し,本発明におい
て他の薬剤との併用というときには,当該他の薬剤以外の別の薬剤のさらなる併用
25 を排除するものでない。従ってカルシウムとの併用として,例えば,
カルシウムのみとの併用,
カルシウムならびにビタミンD(その誘導体を含む)および/またはマグネシウム
のみとの併用,
も好ましく例示できる。よって,他の薬剤の具体的様態として,カルシウム剤を例
示でき,好ましくは,
5 (1)カルシウムを薬効成分として含むカルシウム剤,
(2)カルシウム,ビタミンD(その誘導体を含む)およびマグネシウムをそれぞ
れ薬効成分として含むカルシウム剤を好ましく例示できる。
【0026】
上記の本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤との併用の
10 形態(投与頻度,投与経路,投与部位,投与量等)は,特に限定されず,患者に応
じた医師の処方等により適宜決定することができる。
【0027】
たとえば,上記他の薬剤としてカルシウム剤を併用する場合,当該カルシウム剤
は,PTHを有効成分とした本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と
15 同時に投与されてもよいし(すなわち週1回) それ以上の頻度で投与されても差し
,
支えはなく,1日1回ないし数回の頻度で投与されてもよい。従って,上記の他の
薬剤は,本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と組合せてなる
合剤としてもよく,本発明に係 る骨粗鬆症治療剤/予防又は骨折抑制/予防剤と
他の薬剤とが別々の製剤であってもよい。このようなカルシウム剤として,
「新カル
20 シチュウ(商標)D3 」
(販売元:第一三共ヘルスケア,製造販売元:日東薬品工業
株式会社)を例示できる。
【0028】
また,他の薬剤は,発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と一
緒に又は逐次に(すなわち別々の時間に) 同一の又は異なる投与経路で投与され得
,
25 る。従って ,他の薬剤の剤形も特に限定されないが,例えば,錠剤,カプセル剤,
細粒剤等を例示できる。他の薬剤がカルシウム剤の場合,単位剤形あたり100~
400(好ましくは150~350)mgをカルシウムとして含むカルシウム剤で
あることが好ましい。しかして,単位剤形あたりカルシウムとして100~400
mgを含むカルシウム錠剤を,たとえば本発明の実施例に従って1日あたり2錠投
与するとすれば,カルシウムとして200~ 800mgが一日あたり投与される
5 ことになるが,これに限定されない。
【0029】
上記の他の薬剤の具体的な例としては,カルシウム剤の場合,たとえば沈降炭酸
カルシウム,乳酸カルシウム,炭酸カルシウム,塩化カルシウム,グルコン酸カル
シウム,アスパラギン酸カルシウム,燐酸カルシウム,燐酸水素カルシウム,クエ
10 ン酸カルシウム等を有効成分とする公知の薬剤が例示できる。沈降炭酸カルシウム
を含む薬剤が好ましい。なお,当該他の薬剤には,賦形剤,結合剤,崩壊剤,滑沢
剤,制酸剤等が適宜含まれていてもよい。
【0030】
PTH投与患者のある一定の割合に,嘔吐,悪心,嘔気,胃もたれ,胃部不快感,
15 胸焼けなどの消化器症状が一過的に観察されることが知られている(特許文献6)。
【0031】
本発明者らは,被験薬投与に伴う一過性の悪心・嘔吐に対する様々な制嘔剤の投
与時期と有効性について試験した結果,プリンペラン(その薬効成分の一般名はメ
トクロプラミド),ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン),ガスター
20 D(その薬効成分の一般名はファモチジン),ガスモチン(その薬効成分の一般名は
クエン酸モサプリド) タケプロンOD
, (その薬効成分の一般名はランソプラゾール)
および六神丸がPTH投与に伴う悪心または嘔吐に対して有効であることを確認し
た(実施例2)。従って,更なる他の薬剤としてこれらの制嘔剤を好ましく,ナウゼ
リン(その薬効成分の一般名はドンペリドン),ガスモチン(その薬効成分の一般名
25 はクエン酸モサプリド)および/または 六神丸をより好ましく,挙げることができ
る。これらの制嘔剤の用法用量は患者の症状等に応じて医師等が適宜設定すること
ができる。
【0032】
III 投与期間
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤の投与期間は特に限定
5 されず,患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。本発明者ら
は,投与期間を156または72週間として,骨折発生を主要評価項目とした二重
盲検比較臨床試験を実施した。本試験において,当該投与による有意な骨折抑制効
果を確認でき,その効果は24または26週後という早期から発現した(実施例1
~2)。さらに,投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった(実
10 施例2)。従って,投与期間として,24週以上,26週以上,48週以上,52週
以上,72週以上,または78週以上を例示することができ,最も好ましくは78
週以上である。また,本試験において,有害事象として高カルシウム血症は確認さ
れなかった(実施例1)。
【0033】
15 IV 投与量
本発明者らは,1回当たり100または200単位のPTHを用いた二重盲検比
較臨床試験を実施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26
週後という早期からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血
症は確認されなかった(実施例1~2)。
20 【0034】
従って,本発明は,その投与量として,1回当たり100~200単位であるこ
とを特徴の一つとする。ここでPTHの1単位量は,自体公知の活性測定方法によ
り測定可能である(非特許文献9)。投与量として,好ましく1回当たり100又は
200単位,最も好ましく1回当たり200単位が例示される。
25 【0035】
V 投与間隔
本発明者らは,1週間に1回の頻度でPTH投与する二重盲検比較臨床試験を実
施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期
からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されな
かった(実施例1~ 2)。従って,本発明は,その投与間隔を隔週とすることを特
5 徴の一つとする。
【0036】
VI 投与経路
本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は,その製剤形態に応じた適
当な投与経路により投与され得る。例えば,本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤或
10 いは骨折抑制ないし予防剤が注射剤の場合には,静脈,動脈,皮下,筋肉内などに
投与され得る。本発明者らは,PTHを皮下注射した結果,優れた効能・効果及び
安全性を示すことを立証した(実施例1~2)。従って,本発明は,その投与経路と
して皮下投与経路を好ましく例示可能である。
【0037】
15 VII 対象疾患
本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず,原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症の
いずれをも含む。原発性骨粗鬆症としては,例えば,退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗
鬆症及び老人性骨粗鬆症) 特発性骨粗鬆症
, (妊娠後骨粗鬆症,若年性骨粗鬆症など)
が例示される。 続発性骨粗鬆症は,特定の疾病や特定の薬剤等の原因により誘発さ
20 れる骨粗鬆症であり,例えば,特定の薬剤,関節リウマチ,糖尿病,甲状腺機能亢
進症,性機能異常,不動性,栄養性,その他先天性疾患などが原因として挙げられ
る。特定の薬剤として,例えば,ステロイドが例示される。本発明に係る骨粗鬆症
として骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく例示できる。骨折の危険性の高い骨
粗鬆症への本発明の適応は下記の高リスク患者への本発明の適応を意味する。
25 【0038】
本発明者らは,原発性骨粗鬆症の患者を対象とした臨床試験において,本発明の
効果・効能や安全性を確認した(実施例1~2)。従って,本発明に係る骨粗鬆症と
して好ましく原発性骨粗鬆症を例示でき,最も好ましく退行期骨粗鬆症を例示でき
る。
【0039】
5 本発明者らは,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症
患者を対象とした臨床試験において,本発明の効果を確認した(実施例2) 従って,
。
本発明に係る原発性骨粗鬆症患者として,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを
服用する原発性 骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0040】
10 本発明者らは,合併症(糖尿病,高血圧,または高脂血症)を有する原発性骨粗
鬆症患者を対象にした臨床試験において,本発明の効果を確認した(実施例2)。
従って,本発明に係る骨粗鬆症患者として,糖尿病,高血圧および高脂血症の少な
くともいずれか1の合併症を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき,糖尿病,高
血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する原発性骨粗鬆症患者
15 をさらに好ましく例示できる。
【0041】
糖尿病は骨粗鬆症性骨折リスク要因である可能性が高いことが知られている(非
特許文献16)。
【0042】
20 糖尿病性骨粗鬆症とPTHの関係については動物実験において次の報告が認めら
れる。
1) 糖尿病性の骨減少症示すsreptozotocin処理ラットに対して
hPTHを投与することによって,cancelous enveropeにおい
て『骨量』 『骨梁幅』 『類骨表面』 『石灰化面』 『骨石灰化速度』 『骨形成速度』
, , , , ,
25 の増加が見られ,さらに,endocortical envelopeでは『類
骨表面』 『石灰化面』 『骨石灰化速度』 『皮質骨厚』の増加が見られたことが報告
, , ,
されている(非特許文献21)。ただし,本ラットは,他の原因による骨減少症ラッ
トと異なり,吸収面の顕著な減少は見られていない。
2 sreptozotocin処理ラットに対して8週間に渡ってPTHを投
与した結果,海面骨量とターンオーバーの回復を認めたことが報告されている(非
5 特許文献22)。
3 培養細胞における実験では高濃度のグルコースに曝露されるとhPTH(1
-34)に対する反応が落ちる(PTHの効きが悪くなる)ことが報告されている
(非特許文献20)。
【0043】
10 発明者は,糖尿病性骨粗鬆症ヒト患者へのPTH投与の効果を期待する医師等の多
くの見解が存在している(例:http://www.richbone.com
/kotsusoshosho/basic_shindan/tonyo.ht
m)ことを理解している一方で,その効果を実証した論文を見出せなかった。
【0044】
15 従って,本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤により,原発性骨粗鬆症と
糖尿病の合併症患者に対しての椎体骨折リスクが低減されることを,本願試験で実
証したことは重要な知見である。
【0045】
本発明に係る骨折は特に限定されず,椎体骨折及び非椎体骨折のいずれをも含み
20 (実施例1) 骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折,
, 交通事故・
打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは,骨粗鬆症を原因
とする骨折,さらに好ましくは骨粗鬆症を原因とする椎体骨折への適用を例示可能
である。骨折の部位も特に限定されないが,典型的には,脊椎圧迫骨折,大腿骨頸
部骨折,大腿骨転子間部骨折 ,大腿骨骨幹部骨折,上腕骨頸部骨折,橈骨遠位端骨
25 折を挙げることもでき,特に脊椎圧迫骨折が例示され得る。
【0046】
本発明に係る骨折の回数は特に限定されず,単発骨折及び多発骨折のいずれをも
含む。単発骨折とは,骨が1箇所だけ折れるまたは亀裂が入る病状を意味し,多発
骨折とは,骨が2箇所以上折れるまたは亀裂が入る病状を意味する。多発骨折にお
ける骨折数は特に限定されないが,2個~4個へ適用される場合が好ましい。
5 【0047】
本発明に係る椎体骨折は新規骨折および増悪骨折のいずれをも含む。例えば,椎
体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ,Grad
e0(正常),Grade1(椎体高約20~25%減少,かつ,椎体面積10~2
0%減少) Grade2
, (椎体高約25~40%減少,かつ,椎体面積20~40%
10 減少),Grade3(椎体高約40%以上減少,かつ,椎体面積40%以上減少)
とすることが一般的である。新規・増悪の区分はDの判定基準に従いGradeの
増加パターンに沿って実施可能である。具体的には,Grade0からGrade
1,2,または3への変化が認められた場合には新規骨折と診断され,Grade
1からGrade2または3,Grade2からGrade3への変化が認められ
15 た場合には増悪骨折とみなすことができる。さらにGradeの変化を正確に判断
するために,Bら(非特許文献35)の方法,およびCら(非特許文献36)の方
法に従って,椎体高の計測を行った。
【0048】
本発明者らは,既存骨折を有する患者を対象とした臨床試験において,本発明の
20 増悪骨折抑制効果を確認した(実施例2)。従って,本発明においては,骨粗鬆症患
者として, 好ましく既存骨折を有する患者,さらに好ましく既存骨折およびその増
悪骨折の可能性を有する患者への適用を例示できる。
【0049】
PTHの骨強度増強作用のメカニズムについては未だ不明な点が多い。骨強度は
25 骨密度のみならず骨質の状態を反映するが,これは骨密度のみならず骨微細構造や
石灰化など骨質要因が骨強度を規定することを意味する(非特許文献17) 本発明
。
者は,骨質は骨強度のみならず骨粗鬆症とは異なる疾病の発症リスクやその合併症
の治癒成績に影響を及ぼす可能性があると考える。本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・
骨折抑制/予防剤は,従前の治療剤(特許文献2)と比較してこれらの点で優位で
ある可能性が示唆された。
5 【0050】
特許文献2は,rhPTH(1-34)を骨粗鬆症患者に投与した結果,骨塩含
有量(BMC)や骨塩密度(BMD)のみならず,腰椎や大腿骨等の骨面積を増加
させたことを開示する。骨面積の増加は骨が外側に向かって肥厚することを意味す
る。
10 【0051】
ところが,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を骨粗鬆症患者に
投与した結果,皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加した。すなわち,骨全
体の厚さは殆ど変化が認められなかった。本メカニズムは例えば下記に示される重
要な臨床的意義を示すと考えられる。
15 【0052】
(1)長管骨肥厚による関節破壊がない
長管骨(四肢を構成する長形状の骨)の一つである大腿骨は,その骨端が関節軟
骨と接触してその他滑膜や半月板とともに膝関節を形成している。その接触面は厚
さ数ミリ程度の軟骨に覆われる関節面と称される。膝関節痛の原因となる疾病とし
20 て例えば変形性膝関節症が例示される。
【0053】
一方,プレドニゾン(prednisone)誘発骨粗鬆症と関節痛の合併症患
者に対してフォサマック(Fosamax)と比較してフォルテオ(Forteo;
毎日投与のPTH)がより強い骨強化作用を示したことが知られている(非特許文
25 献23~24)。
【0054】
しかし,このフォルテオ投与は特許文献2に記載のPTH投与と実質的に同等の
従来の治療方法であり,先に述べたように本従来方法は骨の外側に肥厚させる治療
方法である。 大腿骨の外側への肥厚は関節面の面積増大を意味し,軟骨細胞数は骨
の肥厚と比して増加しない為,この従前治療法に起因する大腿骨の外側への肥厚は,
5 関節面の増大で惹起または増悪される軟骨細胞の損傷を介して関節の破壊を促進す
る可能性がある。
【0055】
ところが,本発明のように大腿骨の内側への肥厚は,関節面増大がなく,軟骨を
より安定化させ,結果として,軟骨への負担を増やさずに関節破壊を実質的に促進
10 させない可能性があると発明者は考えている。本剤による骨粗鬆症治療が前記従来
法による骨粗鬆治療と比較して関節に優しい治療である可能性を示唆するものであ
る。
【0056】
(2)椎体肥厚による変形性脊椎症の増悪または発症がない
15 加齢等の何らかの原因によって正常な椎体骨量が減少すると椎体が不安定化する。
不安定化は終板の変形によって始まる。椎体の不安定化とは,具体的には,終盤の
薄化や終盤孔(ハバース管)の拡大である。その不安定化が進むと,椎間板の終盤
孔への進入や椎間板狭小化が見られる。さらに症状が進めば,椎骨同士の衝突によ
る骨棘(こつきょく)生成にいたる。このような脊椎の変性が変形性脊椎症といわ
20 れる疾病である。変形性脊椎症になると,椎間が安定化して椎間板の進入に起因す
る痛みや周辺の筋肉膨張による痛みなどが生じることになる。
【0057】
しかし,特許文献2に記載のようにPTHを毎日投与して骨の外側に肥厚させる
場合,終盤孔の拡大に対して十分な抑制作用が見られない可能性がある。あるいは,
25 椎体と椎間板の接触面積の増大によって,椎体間の距離が縮小し,椎体の不安定化
が進み,結果として,変形性脊椎症の発症や増悪リスクが高くなる可能性もある。
【0058】
一方,本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤投与により,皮質骨厚が骨の
外側ではなく骨の内側に増加していくため,終盤孔の拡大や椎間板の終盤孔への進
入に対して十分に抑制できる可能性がある。
5 【0059】
(3)変形性股関節症・変形性顎関節症を増悪または発症促進させない
変形性股関節症は,関節に対する血流不良や極度の加重や酷使を理由として,股
関節を形成している臼蓋と大腿骨頭の接触面の関節軟骨が摩耗,変性,不可逆性の
変化を起こした状況である。変形性股関節症患者の大腿骨皮質骨面積は健常者のそ
10 れと比較して有意に大きい(非特許文献18)。大腿骨皮質骨面積の増大は,大腿骨
の外側への肥大化を意味し,従ってこれが変形性股関節症の発症または増悪に関与
している可能性がある。本発明のように大腿骨の内側への肥厚化をさせる場合には,
大腿骨の外側への肥大化をさせることはないので,変形性股関節症の発症または増
悪リスクを増大させない可能性がある。変形性顎関節症は顎関節の変形を主徴候と
15 するものであるが,皮質骨の肥厚が診断所見の一つとなっている(非特許文献19)。
従って,皮質骨のさらなる外側への肥大化が症状を悪化または発症させる可能性が
ある。本発明のように骨の内側へ肥厚させる場合には,このような変形性顎関節症
の発症または増悪リスクを増大させない可能性が推定される。
【0060】
20 以上,
(1)~(3)を纏めると,関節痛,変形性脊椎症,変形性腰痛症,変形性
股関節症,および変形性顎関節症の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有
する骨粗鬆症患者(好ましくはそのうち原発性骨粗鬆症患者)を本発明の骨粗鬆症
治療/予防剤・骨折抑制/予防剤の適応患者として好ましく例示できる。
【0061】
25 本発明者らは,1年以内の他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本剤有効性に与える影
響を評価した。その結果,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者
は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった(実施例2)。
従って,本発明においては,骨粗鬆症患者として,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が
ある骨粗鬆症患者への適用を好ましく例示でき,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴があ
る原発性骨粗鬆症患者への適用をさらに好ましく例示できる。
5 【0062】
また,他の骨粗鬆症治療薬として,L-アスパラギン酸カルシウム,アルファカ
ルシドール,塩酸ラロキシフェン,エルカトニン,メナテトレノン,乳酸カルシウ
ム,が例示され,好ましくは,L-アスパラギン酸カルシウム,アルファカルシド
ール,エルカトニンが例示される。他の骨粗鬆症治療薬は単独または併用して投薬
10 実績があってもよい。
【0063】
他の骨粗鬆症治療薬の投与歴のある骨粗鬆症患者に対して,本発明の骨粗鬆症治
療剤・骨折抑制/予防剤を24週~72週またはそれ以上にわたり投与することが
好ましい。特にそのうち腰椎の骨折リスクの高い患者に対しては24週またはそれ
15 以上にわたり投与することが好ましく,大腿骨頚部または大腿骨近位部の骨折リス
クの高い患者に対しては72週またはそれ以上投与することが好ましい。
【0064】
骨粗鬆症および腎障害は加齢とともにその有病率が上昇する。女性の骨粗鬆症患
者の85%は軽度~中程度の腎障害を有しているという大規模な疫学研究報告もあ
20 る(非特許文献32)。従って,腎障害を有する骨粗鬆症患者に対して有効かつ安全
な薬剤を提供することは重要である。
【0065】
本発明者らは,腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症
患者群,中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても本発明の骨粗
25 鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が有効であることを示した(実施例2)。さら
に加えて,血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して本発明の骨粗
鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤は同等であることが明らかとなった。
【0066】
腎機能正常,障害,および障害の程度は,クレアチニンクリアランスに基づき区
別可能である。具体的には,クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を
5 腎機能正常, 50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害,30以上50未満
ml/minを中等度腎機能障害と判定可能である。
【0067】
一般的には,血清カルシウムの正常上限濃度は10.6mg/mlでありこれを
超える11.0mg/mlはやや高値といえる。従前のPTH毎日投与では,中程
10 度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群の11.76%の患者に投与後にやや高値で
ある11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められていた(非特許文献3
2)。ところが,本発明においては,中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に本
発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を投与した結果,11.0mg/
mlを超える血清カルシウムが認められる患者は投与開始~最終時まで全ての検査
15 時において一人も見出すことができなかった(実施例2)。すなわち,有効性のみな
らず安全性の面でも,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が優れて
いると考えられる。従って,本発明の適用対象患者として,軽度腎機能障害を有す
る骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する骨粗 鬆症患者を好まし
く例示でき,さらに好ましくは軽度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者および
20 /または中等度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者を例示できる。
【0068】
本発明に係る薬剤投与ないし治療方法が適用されるべき対象者の人種・年齢・性
別・身長・体重等は特に限定されないが,当該対象者として,骨粗鬆症患者が例示
され,或いは骨粗鬆症における骨折の危険因子を多くもつ骨粗鬆症患者に対して本
25 発明の方法を適用し,或いは本発明の骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制ないし予防剤を
投与することが望ましい。骨粗鬆症における骨折の危険因子としては,年齢,性,
低骨密度,骨折既往,喫煙,アルコール飲酒,ステロイド使用,骨折家族歴,運動,
転倒に関連する因子,骨代謝マーカー,体重,カルシウム摂取などが挙げられてい
る(非特許文献10)。しかして,本発明においては,下記(1)~(3)の全ての
条件を満たす骨粗鬆症患者(ないし対象者)を「高リスク患者」として定義する。
5 (1)年齢が65歳以上である
(2)既存骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が
萎縮度I度以上である。
【0069】
10 ここで,骨密度とは,典型的には腰椎の骨塩量を指す。但し,腰椎骨塩量の評価
が困難な場合では,橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨塩量値により当該骨
密度を示すことができる。また,若年成人平均値とは20~44歳の骨密度の平均
値を意味する。骨密度は,例えば,二重エネルギーX線吸収測定法,photod
ensitometry法 ,光子吸収測定法,定量的CT法,定量的超音波法など
15 自体公知の方法により測定可能で ある。また,本発明において骨萎縮度とはX線上
骨量減少度を意味する。骨萎縮度は,骨萎縮なし,骨萎縮度I度,骨萎縮度II度,
及び骨萎縮度III度に分類される。当該骨 萎縮度における骨萎縮なしとは,正常
状態を指し,具体的には,縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することが
できない状態を意味する。骨萎縮度I度とは,縦の骨梁が目立つ状態を意味し,典
20 型的には,縦の骨梁は細くみえるがいまだ密に配列しており,椎体終板も目立って
くる状態を意味する。当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは,縦の 骨梁が粗と
なり,縦の骨梁は太くみえ,配列が粗となり,椎体終板も淡くなる状態を意味する。
当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは,縦の骨梁も不明瞭となり,全体とし
て椎体陰影はぼやけた感じを示し,椎間板陰影との差が減少する状態を意味する(骨
25 粗鬆 症治療,5/3,2006年7月号,
「単純X線写真による骨粗鬆症の診断」 。
)
骨萎縮度は,例えば,腰椎側面X線像から判定可能である。本発明でいう椎体骨折
数は,例えば ,Dらの方法(非特許文献14)により容易に計測可能である。椎体
以外の部位の骨折は,例えば,レントゲンフィルムを用いて容易に確認され得る。
【0070】
本発明においては,特に高リスク患者に対して本発明の方法を適用し,或いは本
5 発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが特に
好ましい(実施例1)。
【0071】
一方,一般的に,下記(1)~(6)の少なくともいずれかに該当する患者(対
象者)に対しては本発明の方法を適用すること,及びそれに従う本発明の骨粗鬆症
10 治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤の投与を避けることも好ましい。
(1)気管支喘息,発疹(紅班,膨疹等)などの過敏症を起こしやすい体質の患者
(2)高カルシウム血症患者
(3)妊婦または妊娠している可能性のある婦人
(4)甲状腺機能低下症または副甲状腺機能亢進症の患者
15 (5)過去に薬物過敏症を呈したことのある患者
(6)心疾患,肝疾患,腎障害など重篤な合併症を有する患者
従って,本発明においては,上記高リスク患者であって,かつ, (1) (6)
上記 ~
全てに該当しない骨粗鬆症患者等を適用対象とすることが好ましい。
【0072】
20 VIII 製剤
本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤(以下,単に「本剤」
ということもある。)は,種々の製剤形態をとり得る。一般的には,本剤は,PTH
単独又は慣用の薬学的に許容される担体とともに注射剤等とされ得る。本剤の剤形
として注射剤が好ましい。
25 【0073】
例えば,本剤が注射剤の場合,PTHを適当な溶剤(滅菌水,緩衝液,生理食塩
水等)に溶解した後,フィルター等で濾過および/またはその他適宜の方法にて滅
菌して,次いで無菌的な容器に充填することにより調製され得る。その際にPTH
とともに必要な添加物(例えば,賦形剤,安定化剤,溶解補助剤,酸化防止剤,無
痛化剤,等張化剤,pH調整剤,防腐剤等)を添加しておくことが好ましい。この
5 ような添加物として,例えば, 類,
糖 アミノ酸,又は食塩等を挙げることができる。
添加剤として糖類を用いる場合には, 糖類として,マンニトール,グルコース,ソ
ルビトール,イノシトール,シュークロース ,マルトース,ラクトース,トレハロ
ースをPTH1重量に対して1重量以上(好ましくは50~1000重量)添加す
ることが好ましい。添加剤として糖類及び食塩を用いる場合には,糖類1重量に対
10 して1/1000~1/5重量(好ましくは1/100~1/10重量)の食塩を
添加することが好ましい。
【0074】
例えば,本剤が注射剤の場合,本剤は凍結乾燥等の手段により固形化されたもの
(凍結乾燥製剤等)でもよく,用時に適当な溶剤で溶解すればよい。あるいは,本
15 剤が注射剤の場合,本剤は予め溶解されてなる液剤であってもよい。
【0075】
また,好ましくは,本剤は,骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制/予防剤として,1回
当たり 100~200単位のヒトPTH(1-34)を隔週で投与すべき旨を記載
したパッケージに収容されるか,そのような旨を記載した添付文書とともにパッケ
20 ージに収容された薬剤とすることができる。
【0076】
なお,本願発明の有用性は,実施例に示される臨床試験の結果を慣用の方法で統
計処理等することによっても容易に確認することができる。また,以下,本発明を
実施例により本発明をさらに具体的に説明するが,本発明の範囲は以下の実施例に
25 限定されることはない。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の患者(非特許文献12)に対して,Eの方法
(特許文献4~5,非特許文献11)により調製した,5あるいは100単位のテ
5 リパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(それぞれを5あるい
は100単位投与群とする) なお,
。 テリパラチド酢酸塩の活性測定はMarcus
らの論文(非特許文献9)に従った。
【0078】
5または100単位投与群は,1バイアル中にテリパラチド酢酸塩を5または
10 100単位含有する凍結乾燥製剤を生理食塩水1mLに用時溶解してその溶液全量
を投与した。さらに,5または100単位投与群共に,カルシウム剤(1錠中に沈
降炭酸カルシウムを500mg[カルシウムとして200mg]含有)を1日1回
2錠投与した。
【0079】
15 骨粗鬆症患者は,非特許文献13に示された,骨折の危険因子の保有状況により,
表-1に示す条件で区分して比較した。高リスク患者(以下,単に高リスク者と称
することもある)は,年齢,既存の椎体骨折,骨密度あるいは骨萎縮度の3因子を
すべて有するものと定義し,低リスク者はそれ以外のものとした。
【0080】
20 【表1】(後記)
患者背景は表-2,3に示す通りであり,両群の背景に統計学的な有意差は認め
られなかった(p<0.05)。
【0081】
【表2】(後記)
25 【表3】(後記)
【0082】
投与期間中はカルシトニン製剤,活性型ビタミンD3製剤,ビタミンK製剤,イ
プリフラボン製剤,ビスホスホン酸塩製剤,エストロゲン製剤,蛋白同化ホルモン
製剤,医師の処方によるカルシウム製剤(ただし,上記の1日1回2錠投与される
カルシウム剤は除く),その他骨代謝に影響を及ぼすと考えられる薬剤の併用は禁
5 止した。骨評価としては, 腰椎骨密度と骨折の発生の確認を実施した。腰椎骨密度
は,二重エネルギーX線吸収測定 法(DXA法)を用いて第2~第4腰椎骨密度の
測定を開始時と以降6ヶ月毎に実施した。骨折発生頻度は,椎体では,第4胸椎か
ら第5腰椎までの正面,側面のX線撮影を開始時と以降6ヶ月毎に実施し,Dらの
方法(非特許文献14)を参考に,開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比
10 較して,新規椎体骨折を評価した。また椎体以外 の部位では,レントゲンフィルム
での確認で評価した。また,全症例において投与開始時 および投与期間中に採血を
行い,カルシウム濃度を含む一般臨床検査値を測定した。
(DXA,新規椎体骨折は
中央で一括判定し,椎体以外の骨折は担当医師がレントゲンフィルムにより判定)
高リスク者における投与期間は,5単位投与群で85.1±20.8週, 100単
15 位投与群で83.7±19.8週であり両群間で有意な差は認められなかった(p
<0.05)。また低リスク者は,5単位投与群で72.7±19.4週,100単
位投与群で88.3±21.3週であり両群間で有意な差は認められなかった(p
<0.05)。
【0083】
20 表-4,5に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の腰椎骨密度の推移を
示した 。高リスク者においては,100単位投与群の骨密度は投与開始時に比較し
有意に高い骨密度の増加が認められ,5単位投与群と比較しても有意に高い値を示
した(p<0.05)。一方低リスク者においては,投与開始時との比較および群間
での比較において有意差は認められなかった(p>0.05)。
25 【0084】
【表4】(後記)
【0085】
【表5】(後記)
【0086】
表-6,7に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の新規椎体骨折発生の
5 結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ骨
折発生は有意に低かった(p<0.05)。一方低リスク者においては,群間で有意
差は認められなかった(p>0.05)。
【0087】
【表6】(後記)
10 【0088】
【表7】(後記)
【0089】
表-8,9に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の26週毎の新規椎体
骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与
15 群に比べ,26週後から骨折発生を抑制した。一方,低リスク者においては群間の
差は認められなかった。
【0090】
【表8】(後記)
【0091】
20 【表9】(後記)
【0092】
表-10,11に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の椎体以外の部位で
の骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投
与群に比べ骨折発生は有意に低かった。一方低リスク者においては,群間で有意差
25 は認められなかった。
【0093】
【表10】(後記)
【0094】
【表11】(後記)
【0095】
5 図1に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の血清カルシウム濃度推移の
結果を示した。実施した採血サンプルを用いた臨床検査値の結果のうち,低リスク
者の5単位投与群において薬剤投与開始前より高値であった1症例を除き,全例で
高カルシウム血症は認められず,また,血清カルシウムが上昇する傾向も認められ
なかった。
10 【0096】
以上の表から分かる通り,原発性骨粗鬆症患者のうち,新規骨折の危険因子を有
する患者において,テリパラチド酢酸塩を週1回100単位間欠的に皮下投与する
ことによって,有意な腰椎の骨密度の増加が認められ,さらに新規椎体骨折の抑制
が認められた。即ち,本発明の新規骨折の高リスク患者に対する,テリパラチド酢
15 酸塩の週1回100単位投与は,有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤
となり得ることが確認された。
【0097】
また,投与期間中,本発明テリパラチド酢酸塩の週1回投与では,いずれの投与
量においても高カルシウム血症の発症はなく,既に知られているテリパラチド酢酸
20 塩の連日投与に比較し,有用であるものと考えられた。
【0098】
(実施例2)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して,Eの方法(特許文献
4~5,非特許文献11)により調製した被験薬(1バイアル;1バイアルにテリ
25 パラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイアル;
1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞれ生
理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下
投与した。
【0099】
上記患者は,併せて,カルシウム剤2錠を1日1回夕食後に服薬した。本カルシ
5 ウム剤は,2錠中にカルシウム610mg,ビタミンD 3400IU及びマグネシ
ウム30mgを含有するソフチュアブル製剤であり,成分として,沈降炭酸カルシ
ウム,炭酸マグネシウム,コレカルシフェロール(ビタミンD 3 )等を含み,
「新カ
ルシチュウ(商標)D 3 」
(販売元:第一三共ヘルスケア,製造販売元:日東薬品工
業株式会社)の商品名として市販されているものである。
10 【0100】
なお,上記患者は全て自立歩行可能な外来患者であり,かつ,以下の(1)~(1
9)いずれの基準にも該当しない患者である。
(1) 所定の原因により続発性骨粗鬆症と診断された患者。ここで所定の原因と
は,内分泌性(甲状腺機能亢進症,性腺機能不全,Cushing症候群),栄養性
15 (壊血病,その他(タンパク質欠乏,ビタミンAまたはD過剰) ,薬物(副腎皮質
)
ホルモン,メトトレキサート(MTX),へパリン,アロマターゼ阻害剤,GnRH
アゴニスト) 不動性
, (全身性(臥床安静,対麻痺,宇宙飛行) 局所性
, (骨折後等) ,
)
先天性(骨形成不全症,Marfan症候群等),その他(関節リウマチ,糖尿病,
肝疾患,消化器疾患(胃切除)等)を意味する。
20 (2)骨粗鬆症以外の骨量減少を呈する所定の疾患を有する患者。ここで所定の疾
患とは ,各種の骨軟化症,原発性,続発性副甲状腺機能亢進症,悪性腫瘍の骨転移,
多発性骨髄腫,脊椎血管腫,脊椎カリエス,化膿性脊椎炎,その他を意味する。
(3)椎体の強度に影響を及ぼすと考えられる所定のX線所見を有する患者。ここ
で所定とは6個以上の連続した椎体が架橋を形成している,椎体周辺の靱帯に著し
25 い骨化が認められる,脊椎に著しい脊柱変形を有する,椎体の手術が施行されてい
る,ことを意味する。
(4)胸腰椎体全体を覆うコルセットを装着している患者。
(5)同意取得前52週(364日)以内にビスホスフォネート製剤の投与を受け
た患者。
(6)同意取得日に以下の骨粗鬆症治療薬の投与を受けている患者(ただし,治療
5 開始までに8週(56日)以上の休薬(ウォッシュアウト)が可能ならば,対象と
して選択可とする) カルシトニン製剤,
。 活性型ビタミンD3製剤,ビタミンK製剤,
イプリフラボン 製剤,エストロゲン製剤,SERM製剤,蛋白同化ホルモン製剤。
(7)気管支喘息,発疹(紅斑,膨疹等)等の過敏症状を起こしやすい体質の患者。
(8)PTH製剤に対して過敏症の既往歴のある患者。
10 (9)骨バジェット病の患者。
(10)悪性骨腫瘍の既往または過去5年以内に悪性腫瘍の既往のある患者。
(11)多発性外骨腫症の患者。
(12)骨格への放射線外照射療法歴または放射線組織内照射療法歴を有する患者。
(13)血清カルシウム値が11.0mg/dL以上の患者。
15 (14)アルカリフォスファターゼ値が基準値上限の2倍以上の患者。
(15)重篤な腎疾患,肝疾患または心疾患を有する患者。各疾患の基準は次の通
り。
腎疾患:血清クレアチニン値が2mg/dL以上
肝疾患:AST(GOT)またはALT(GPT)値が基準値上限の2.5倍以
20 上または100IU/L以上
心疾患:
「医薬品の副作用の重篤度分類基準について(平成4年6月29日薬安発
第80号)」に示すグレード2を参考に判断する。
(16)問診の信頼性が低いと判断された患者(少なくとも認知症の患者は必ず除
外する )。
25 (17)他の治験薬を同意取得前26週(182日)以内に投与された患者。
(18)過去に治験でPTH製剤の投与を受けた患者。
(19)その他,治験責任(分担)医師が本治験の実施にあたり不適当と判断した
患者。
【0101】
また,上記患者は,治験への同意時から治験終了時までの間,以下の(1) (6)
~
5 いずれの薬剤の投与が禁止された。
(1) テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬(具体的には,ビスホスフォネ
ート製剤,カルシトニン製剤,活性型ビタミンD3製剤,カルシウム製剤(ただし,
上記の1日1回 夕食後に服薬するカルシウム製剤は除く),ビタミンK製剤,イプ
リフラボン製剤,エストロゲン製剤,SERM製剤,蛋白同化ホルモン製剤)
10 (2) 副腎皮質ホルモン製剤(ただし,筋注,静注または経口投与,ブレドニゾ
ロン換算で,1週間平均として5mg/日を超える場合,1日投与量として10m
g/日を超える場合,または総投与量が450mgを超える場合)
(3) アロマターゼ阻害剤
(4) GnRHアゴニスト
15 (5) 他の治験薬
【0102】
被験薬および対照薬の投与例数は,それぞれ,290例(実施例において被験薬
投与群と称することもある)および288例(実施例において対照薬投与群と称す
ることもある)であり,投与総症例数は578例であった。ただし,試験の種類に
20 応じてそれぞれの投与群の例数が異なることがあり,例えば(n=**)や評価例
数等の表現で示すことがある。
【0103】
骨評価としては,骨密度と骨ジオメトリー,骨折の発生の確認を実施した。
【0104】
25 腰椎骨密度は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2~第4
腰椎骨 密度の測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0105】
大腿骨骨密度は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて大腿骨近
位部を 20度内旋し,左側のみの測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0106】
5 DXAジオメトリーは担当医が測定した開始時と以降24週毎の大腿骨骨密度デ
ータで 評価した。
【0107】
CTジオメトリーはマルチスライスCTを用いて大腿骨近位部の測定を開始時,
48週後,72週後に実施した。
10 【0108】
骨折発生頻度は,椎体では,第4胸椎から第4腰椎までの正面,側面のX線撮影
を開始時と以降24週毎に実施し,Dらの方法(非特許文献14)を参考に,開始
時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して,新規および増悪椎体骨折を評価
した。また椎体以外の部位では,レントゲンフィルムでの確認で評価した(DXA,
15 骨ジオメトリー,新規および増悪椎体骨折は中央で一括判定し,椎体以外の骨折は
担当医がレントゲン フィルムにより判定)。
【0109】
(A)椎体多発骨折に対する被験薬の有効性
ここで椎体多発骨折を新規の2箇所以上の椎体骨折と定義して,投与72週後に
20 おける被験薬投与群(n=261)と対照薬投与群(n=281)それぞれにおけ
る椎体多発骨折発生比率(例数)を比較したところ,対照薬投与群は2.1%(6
例),被験薬投与群 は0.8%(2例)であった。すなわち,被験薬は椎体多発骨
折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された。
骨折発生個数別の症例数を下記表に示す。
25 【表12】(後記)
【0110】
(B)ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬の有効性
ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬投与の効果を試験した。
その結果,下記の表のとおり,ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対して
被験薬が有効であることが示された。
5 【0111】
【表13】(後記)
【表14】(後記)
【0112】
ステロイドは続発性骨粗鬆症の原因となる薬剤であることから,上記の結果は,
10 ステロイドの続発性骨粗鬆症を誘発する薬剤に起因する続発性骨粗鬆症に対して被
験薬が効果を奏する可能性を示唆するものであると考えられる。
【0113】
(C)大腿骨3部位に対する被験薬の有効性
大腿骨3部位(大腿骨頚部,大腿骨転子間部,大腿骨骨幹部)に対する被験薬の
15 効果を一般的なCT法に準じて試験した。その結果,下記の表のように,大腿骨各
部位に対して 被験薬は有効であることが示された。
【表15】(後記)
【表16】(後記)
【表17】(後記)
20 【0114】
(D)被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する処方検討
被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する様々な処置薬の投与時期と有効性について
試験した。
【表18】(省略)
25 【0115】
上記の通り,プリンペラン,ナウゼリン,ガスターD,ガスモチン,タケプロン
OD, 六神丸が有効であった。特に,ナウゼリン,又はガスモチン,六神丸が好ま
しかった。
【0116】
(E)合併症の種類またはその有無が被験薬効果に与える影響評価
5 上記患者の中には合併症を有している者もいる。そこで,合併症の種類(糖尿病,
高血圧,高脂血症)やその有無が被験薬効果に与える影響を評価した。その結果,
下記の表の通り,これら合併症の種類や有無に関わらず,さらに投与後24週時点
以降において,被験薬は新規椎体骨折発生を抑制することが明らかになった。
【表19】(後記)
10 【0117】
糖尿病を原疾患とする糖尿病性骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症の一つであるが,糖尿
病を合併症として有する原発性骨粗鬆症患者に被験薬効果が認められたことは,被
験薬が糖尿病性骨粗鬆症に対しても治療効果を示す可能性を示唆するものと考えら
れる。
15 【0118】
(F)増悪骨折に対する被験薬の有効性
増悪骨折に対する被験薬の有効性を試験した。その結果,下記の表のように,増
悪骨折に対して被験薬は有効であることが示された。
【表20】(後記)
20 【0119】
(G)他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響の評価
前述のように,上記患者に対して,治験への同意時から治験終了時までの間,テ
リパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬の投与は原則的に禁止された。しかし,治
験への同意時以前においては,所定の条件の下,他の骨粗鬆症治療薬の服薬を受け
25 ている患者も存在していた。そこで,当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有
効性に与える影響を,新規椎体骨折発生率および骨密度変化率の観点から評価した。
【0120】
新規椎体骨折発生率に関する評価結果を下表に示す。該表中,被験薬投与後72
週時において,当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者について被験薬投与群
の骨折率が2.9%であり対照薬投与群の骨折率が16.1%であったが,服薬歴
5 のない患者について 被験薬投与群の骨折率が3.2%であり対照薬投与群の骨折
率が12.9%であった。すなわち,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者は服
薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった。
【表21】(後記)
【0121】
10 次に骨密度変化率についての評価結果を下表に示した。該表中,腰椎骨密度に関
しては ,いずれの他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者においても,被験薬投与
後48週で当該骨密度の増加が顕著になっており,特に,他の骨粗鬆症治療薬がL
-アスパラギン酸カルシウム,エルカトニン,アルファカルシドール,メナテトレノ
ン及びカルシトリオールである被験薬投与群においては,投与後24週という早期
15 段階での腰椎骨密度の顕著な増加が見られた。更に注目されるのは,他の骨粗鬆症
治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム及びエルカトニンの場合,被験薬投与後7
2週時点の大腿骨頚部及び近位部骨密度の顕著な増加がみられ,特に,他の骨粗鬆
症治療薬がエルカトニンの場合では,大腿骨近位部 骨密度が被験薬投与後24週
時点から既に大幅に増加している点は特筆に値するであろう。
20 【表22】(後記)
【0122】
また,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を,個別の当該
他の骨粗鬆症治療薬について,新規椎体骨折発生率の観点から詳しく評価した結果
を下表に示したが,その表からわかるとおり,カルシトリオール以外の骨粗鬆症治
25 療薬服用歴のある患者において,被験薬投与による新規骨折の顕著な抑制が見られ
た。
【表23】(後記)
【0123】
(H)腎機能障害を有する骨粗鬆症患者への被験薬の有効性及び安全性
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,および
5 中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に対する被験薬の有効性及び安全性を試
験した。
【0124】
(H-1)各患者群の背景因子の分布(詳細)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群を「Normal(80≦) ,軽度腎機能障害を有
」
10 する 骨粗鬆症患者群を「Mild impairment(50≦<80) ,中等
」
度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を「Moderate impairmen
t(<50) と表記した。また,被験薬投与群を「PTH200群」
」 ,対照薬投与
群を「P群」と表記 した。また,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群と中度腎
機能障害を有する骨粗鬆症患者群を併せて「Abnormal (<80)」と表記
15 することもある。各患者はその 患者のクレアチニンクリアランスをもとに上記群
に分類した。具体的には,クレアチニン クリアランスが80ml/min以上を腎
機能正常,50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害,30以上50未満m
l/minを中等度腎機能障害とみなした。
【0125】
20 (H-1)各患者群の背景因子の分布
各患者群の背景因子の分布は次のようになる。
【表24】(後記)
【0126】
(H-2)各患者群に対する被験薬の有効性(骨折抑制)
25 腎機能正常の骨粗鬆症患者群および腎機能障害(軽度・中程度)を有する骨粗鬆症
患者群いずれに対しても被験薬が新規椎体骨折抑制効果を有することが明らかとな
った。
【表25】(後記)
【0127】
(H-3)各患者群に対する被験薬の有効性(骨密度増加)
5 腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度
腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が腰椎骨密度増加効果
を有することが明らかとなった。
【表26】(後記)
【0128】
10 (H-4)各患者群に対する被験薬の安全性(補正血清カルシウム)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎
機能障 害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果,どの
群に対しても被験薬と対照薬間で有意差は認められなかった。すなわち,血清カル
シウムに関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らか
15 となった。
【表27】
【0129】
(H-5)各患者群に対する被験薬の安全性(有害事象発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎
20 機能障 害を有する骨粗鬆症患者群それぞれに被験薬を投与した後の有害事象発現
率を試験した。
【表28】(後記)
【表29】(後記)
【表30】(後記)
25 【0130】
(H-6)各患者群に対する被験薬の安全性(副作用発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎
機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果,どの群
に対しても被験薬は対照薬の約2倍の発現率を示した。すなわち,副作用発現率に
関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。
5 【表31】(後記)
【表32】(後記)
【表33】(後記)
【0131】
(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響
10 被験薬投与群を「PTH200群」,対照薬投与群を「P群」と表記した。
【表34】(後記)
【表35】(後記)
【0132】
上記の表が示すように,半年ごとの新規椎体骨折発生率は,P群では,いずれの
15 区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して,PTH200群では,投与期間
が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えてからの新規椎
体骨折の発生はなかった。また,PTH200群の新規椎体骨折発生率は,24週
以内,24週~48週,48週~72週のいずれの区間でもP群より低く,プラセ
ボに対する相対リスク減少率(Relative Risk Reduction;
20 RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように,本剤200単位の週1
回投与は,新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リス
クをプラセボに対して53,9%低下させた。また,本剤による骨折抑制効果は,
投与とともに増強する傾向が認められた。
【0133】
25 その他,骨折試験のFASにおいて,Kaplan-Meier推定法による7
2週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は,PTH200群3.5%,P群が16.
3%であり,本剤200単位の発生率はプラセボ群より低かった(logrank
検定,p<0,0001)。また,本剤200単位は,72週後には,椎体骨折(新
規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の椎体
骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24週~48週,48
5 週~72週のいずれの区間でも,PTH200群の発生率はP群より低かつた。
【0134】
(J)骨粗鬆症患者の尿中カルシウムおよび血清カルシウムに与える被験薬投与の
影響
被験薬投与群を「PTH200群」,対照薬投与群を「P群」と表記した。被験薬
10 あるいは対照薬を週1回の頻度で72週間患者に投与した際の尿中カルシウム値お
よび補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示す(図4~5)。
尿中カルシウム値変化率の平均値(および中央値)は,開始時に比較72週後で
PTH200群3.2%(-14.7%),P群23.6%(1.6%)で,P群に
比べPTH 200群で減少傾向が見られた。
15 補正血清カルシウム値は,両群共に平均9.3~9.6mg/dLの範囲で推移
した。 PTH200群の投与後の補正血清カルシウムは最小値で8.5mg/dI
(48および72週後) 最大値で11.
, 6mg/dl(4週後)であり,P群では,
最小値で8.5 mg/dL(4週後),最大値で12.lmg/dI(12週後)
であつた。両群共に,大きな変動は認められなかつた。
20 本試験で血清カルシウム上昇および低下の有害事象は認められなかった。
本試験でPTH200群はP群と比較して高Ca血症および高Ca尿症のいずれ
の発現も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
25 本発明の骨粗鬆症治療/予防及び骨折抑制/予防方法は効能・効果及び安全性の
両面で優れ,本発明の骨折抑制方法は安全性が高く,いずれも骨粗鬆症等治療や骨
折抑制/予防のために大きく貢献する画期的な医療技術である。従って,当該目的
のための本発明の骨粗鬆症治療/予防剤及び骨折抑制/予防剤は,医薬品産業にお
いて極めて有用である。
(表)
(図面)
(別紙2)
甲7文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。)
5 [296頁左欄1行ないし右欄7行目]
要約
ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の
骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために,71施設にて骨粗鬆症患者220名
を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け,hPTH(1-34)の5
10 0単位(L群),100単位(M群)または200単位(H群)を,毎週皮下注射し,
骨形成促進剤としての可能性について検討した。二重エネルギーX線吸収測定法(D
XA)で測定したところ,投与後48週目には,腰椎骨密度(BMD)はL,Mお
よびH群でそれぞれ,0.6%,3.6%および8.1%増加した。また,MとH
群での薬物への応答はL群より有意に高かった(p<0.05,マン・ホイットニ
15 ーのU検定)。腰椎測定の変動係数が1~2.5%に留まることから,3.6%およ
び8.1%の増加は有意であると思われる。ラジオグラメトリによる中手骨のBM
Dと皮層の厚さの測定では,有意な変化はみられなかった。血清カルシウムはそれ
ぞれの群で減少し,血清リンはMとH群で減少した。尿中カルシウム/クレアチニ
ンが,H群では治療後12週目に,MとL群では治療後24と48週目に減少した。
20 それぞれの群で,血清25(OH)ビタミンDと1,25(OH)2 ビタミンDが治
療48週目に減少した(p<0.05)。血清中の骨型アルカリホスファターゼが,
HとM群で4週目に増加し,H群では48週目に減少した。尿中のヒドロキシプロ
リン,ピリジノリンおよびデオキシピリジノリンはそれぞれの群で有意に減少した。
各群の30~40%で,背部痛の改善がみられた。試験期間中を通じて,重篤な副
25 作用はみられなかった。hPTH(1-34)の間欠的毎週投与によって,骨粗鬆
症で腰椎のBMDが増加し,骨粗鬆症治療に有用であることを示唆していた。
[296頁右欄10行ないし297頁左欄25行目]
序説
閉経後および退行期の骨粗鬆症を治療するためには,主にエストロゲン,ビスホ
5 スホネートおよびカルシトニンなどの骨吸収抑制剤に頼っている。ここに挙げた薬
剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に
進歩したことから,骨形成の刺激によって,幾つかの骨吸収抑制剤の迅速かつ時に
は一時的な効果が補完されることが考えられ,骨吸収抑制剤の骨同化効果が長期間
にわたり,退行期骨粗鬆症,特に低回転型の疾患に対して注目すべき有効な治療と
10 なり得ることが期待できる。副甲状腺ホルモン(PTH)が骨形成促進作用を有す
ることが動物とヒトで示されており,特に間欠的投与でその効果が認められている。
しかし,原発性副甲状腺機能亢進症でみられるように,骨が大量のPTHに持続的
に曝されることによって線維性骨炎を発症する懸念がある。ヒトPTHのアミノ末
端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の100または200単位を皮下注射
15 で単回投与した予備試験の結果によると,血清リンの下降,血清サイクリックAM
Pの上昇,尿中のカルシウムとサイクリックAMP排泄の増加をはじめとする重要
な代謝系に対する効果が示された。100または200単位を毎週投与すると,治
療後26週目で腰椎BMDが有意に増加したが,5単位毎週投与では効果がなかっ
た。
20 この結果を踏まえて本試験では,骨粗鬆症患者220名を対象として,hPTH
(1-34)の50,100または200単位を毎週投与した時の効果をみるため
に,無作為化,前向き,二重盲検,多施設試験を実施した。主要評価項目は,二重
エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いた腰椎BMDの評価とし,ラジオグラ
メトリによる中手骨皮質のBMD,および骨代謝回転の生化学的マーカーを副次評
25 価項目とした。ここに挙げた濃度のhPTH(1-34)の1週1回投与が―これ
までに検討されたことがない低濃度の間欠的投薬計画を意味するものだが―骨粗鬆
症治療に便益性をもたらすかどうかを検討した。
[297頁左欄27行ないし右欄42行目]
試験対象
5 71施設が参加した多施設試験を実施した。試験は,厚生省による委員会が提唱
した診断基準で骨粗鬆症と定義された年齢範囲が45から95歳の被験者220名
を対象として実施した。このシステムは,単に骨粗鬆症を非外傷性脊椎骨折が存在
する,または脊椎骨折が2箇所に存在するものとして定義するのではなく,複数の
因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義するものである。スコア
10 の計が4より高い場合(骨粗鬆症と定義)をこの治験への組み入れ基準とした。日
本の大部分で,医療関係者が骨粗鬆症の診断に使用できる方法が未だに脊椎のX線
撮影に限られていることから,X線撮影は骨粗鬆症の診断基準として実施せざるを
得なかった。X線上の骨減少は,腰椎の側面X線写真で骨梁の菲薄化,つまり(1)
横骨梁欠損による縦骨梁の明瞭化,
(2)縦骨梁が粗となるおよび(3)縦骨梁の減
15 少が認められた場合とした。X線上の骨減少は,BMDで若年成人の平均値から2
0%または2.5SDの減少に相当する。本試験では,たとえば,腰椎BMDの平
均値がLunar社製DPXデンシトメーターで測定した時に0.736g/cm
2
,Hologic社製QDRデンシトメーターで測定した時に0.694g/c
2
m ,Norland社製XRデンシトメーターで測定した時に0.624g/c
2
20 m を示す者を試験対象に含めた。なお,この基準は現在用いられている他の基準
と一致している。X線上の骨減少度がグレード1から3,またはBMDが若年成人
の平均値から2.5SD未満の場合はスコア3とした。椎体骨折が1箇所の場合は
スコア1,骨折が2箇所以上の場合はスコア2とした。大腿骨頸部骨折がある場合
はスコア3とし,橈骨遠位端骨折がある場合はスコア1とした。骨量減少の原因と
25 なる骨軟化症,原発性副甲状腺機能亢進症および腎性骨異栄養症などを除外するた
めに,骨粗鬆症の診断を支持する因子として,正常血清カルシウム,リンおよびア
ルカリホスファターゼ値がスコア1であることとした。ただし,ひとつ以上の異常
がある場合にスコア1を差し引いた。同様に,被験者が閉経前である場合には,ス
コア1を差し引いた。
血清クレアチニンが2mg/dlより高いかまたはBUNが30mg/dlより
5 高い値を示し,腎機能の低下が示唆される被験者,過敏症の既往歴がある被験者ま
たは自覚症状の自己評価の信頼性が疑われる被験者は除外した。今後の試験参加予
定者それぞれに,0.003単位のhPTH(1-34)の皮内試験を実施した。
15分後に紅斑部が直径10mmを超える陽性結果を示した被験者は除外した。
他の薬物の効果とhPTH(1-34)の効果との混同を避けるために,骨代謝
10 および骨粗鬆症の進行に影響すると思われる薬剤は試験開始3ヵ月前から自粛し,
試験期間中も投与をさし控えた。このような薬剤には,エストロゲン,カルシトニ
ン,活性型ビタミンD,ビタミンK 2 ,イプリフラボン,ビスホスホネートおよび
同化ステロイドがある。
担当医師の判断によって必要な場合には,鎮痛薬および筋弛緩薬を投与した。理
15 学療法および合併症に対する薬物は,患者の状態が許す限り,試験前も試験後も変
えることなく引き続き投与した。
試験開始に先立ち,hPTH(1-34)製剤の特質と起こりうる副作用を含む
試験の重要性を参加予定者に詳細に説明し,口頭または書面にて被験者の同意を得
た。本臨床試験は,それぞれの参加施設の施設内治験審査委員会から承認されたも
20 のである。
[297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目]
hPTH(1-34)(テリパラチド酢酸塩)の調製と投与方法
旭化成工業株式会社により合成されたhPTH(1-34)の純度と生物学的効
25 果を,国際標準のウシPTH(1-84)に対するラット腎臓の皮質膜によるサイ
クリックAMPの生成を指標として評価したところ,3300単位/mgを得た。
各バイアルは50,100および200単位のテリパラチド酢酸塩を含むものとし
た。なお,これは約15,30および60μgのペプチドに相当した。1回のバッ
チから3個のロットを調整し,50,100および200単位を含むバイアルを作
成した。このようにして調整することで,1種類の濃度を含む5000本のバイア
5 ルには,常にひとつのロットから由来するものを用いた。製剤は25℃で3年間安
定であった。バイアルの内容物は,無作為に抽出したサンプルについて中立機関で
測定され,コントローラ(F医師とG医師)によって3バイアルが識別不能である
ことを確認された。使用直前に,バイアル内容物を生理食塩水1mlで溶解したも
のを,48週間にわたり1週1回皮下注射した。
10 本試験のコントローラは,50,100および200単位のサンプルを102セ
ット準備し,セット内で無作為に割付け(1,2および3と番号を割り付けた),
それぞれのセットを参加施設に先着順に送付した。各セットは施設で開かれ,サン
プル番号1,2および3を逐次患者に経時的に投与した。試験の二重盲検性を確実
にするために,コードは試験終了まで鍵をかけて保管した。
15 予備試験の結果によると,hPTH(1-34)を100または200単位,2
6週間,1週1回投与したところ腰椎BMDが増加していた。そこで,試験期間を
48週間に設定した。この期間は,骨折の危険性と不安が常にある患者を対象とし
て通常の骨測定,血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに,十分な制御
下で多施設試験を実施できる限界であると思われた。Schwietertらは,
20 ヒトに対するPTH(1-84)5μg/kg投与の安全性についても報告してい
る。
[298頁左欄25行ないし299頁左欄9行目]
集積データ
25 治療開始前のデータ。年齢,性別,閉経時の年齢,身長,体重,入院の有無また
は歩行状況,一般病歴,hPTH(1-34)の抗原性の皮内テストの結果,骨粗
鬆症診断のためのスコア,既往歴,治験前の骨粗鬆症の治療および骨粗鬆症の合併
症,試験期間中に投与された試験薬剤以外の薬物,非処方カルシウム製剤および乳
製品について記録した。
5 自覚症状。骨粗鬆症による痛みを休息時の自発性疼痛と運動時の痛みに分類して,
治療後0,2,4,12,24および48週間目または試験終了時に以下に示すグ
レードに従って評価した。休息時の痛みは,以下のとおりのグレードで表示した。
1:痛みなし,2:中等度の痛み,3:無視できないが耐えられる痛み,4:重度
の耐え難い痛み。運動時の痛みは以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みな
10 し,2:中等度の痛み,3:運動を妨げる無視できない痛み,4:動けないほどの
重度の痛み。患者は,自身の痛みの度合いをアナログ尺度で自己評価した。
骨所見。
(a)腰椎BMDの測定。治療後0,12,24および48週目または試験
終了時に,骨塩量,腰椎(L2-4)の骨面積およびBMDをDXA(QDR(H
15 ologic社),DPX(Lunar社)またはXR(Norland社))を用
いて前後方向を撮影することによって測定した。多数の参加施設で,適切な精度管
理を維持するのが困難であった。各施設では,装置に付随の推奨に従って,BMD
測定を日常的に毎日ファントムを用いて実施した。その結果,変動係数(CV)を
1%から2.5%の範囲で維持できた。
20 患者の年齢が高いことから,脊椎BMDの前後方向の測定上,圧迫骨折とそれに
伴う変化に加えて,脊椎の退行性変化が重大な支障となった。この理由から,L2,
L3またはL4の骨棘や圧迫変形などの脊椎の退行性変化を有する被験者全員を,
薬物の効果の根拠となるデータから除外した。このため,脊椎BMD測定における
組み入れ前の脱落率が高くなった。
25 (b)中手骨BMDの測定。非利き手側の第2中手骨のラジオグラメトリを実施す
るために,前後方向の手のX線写真をファントムと一緒に,治療0,12,24お
よび48週後または試験終了時に撮影した。試験終了時に,71施設で撮影された
すべてのフィルムをコンピューター化されたデジタル画像処理を用いて,東洋検査
センターにて測定した。ひとりの観察者が中手骨BMD(∑GS/D)を同一フィ
ルムを用いて10回連続で測定した場合のデジタル画像処理法の精度は,CVが0.
5 59であり,同一処理を3人の観察者で実施した場合は1.47であった。同一被
験者の手のフィルムを4枚撮影した場合,測定は個々に実施され,CVは1.72
であった。
(c)椎体骨折の評価。腰椎および胸部脊椎の側面X線写真は,それぞれL3とT
8に焦点を合わせ,ひとりの放射線科医が椎体の圧迫骨折や変形を評価した。前縁
10 高/後縁高の比率が25%以上減少および中央高/後縁高の比率が20%以上減少
した場合を,有意な変形と定義した。
生化学的パラメーター。治療開始前および治療後2,4,12,24および48週
目または試験終了時に,血清中のカルシウム(Ca),リン(P),25(OH)ビ
15 タミンD(競合タンパク結合分析による測定),1.25(OH)2 ビタミンD(ラ
ジオリセプターアッセイによる測定),オステオカルシン,中間部PTH(ラジオイ
ムノアッセイによる測定),総アルカリホスファターゼと骨型アルカリホスファタ
ーゼ,アルブミンおよび尿中のCa,P,ヒドロキシプロリン,ピリジノリン,デ
オキシピリジノリン(HPLCによる測定)とクレアチニンを日本最大の臨床検査
20 会社SRLにて測定した。各施設で治療後0,12,24,36および48週目ま
たは試験終了時に,血球算定(RBC,WBCと血球分画,ヘマトクリット,ヘモ
グロビンおよび血小板),血清生化学的試験(GOT,GPT,A/G,BUN,ク
レアチニン,総コレステロール,CPK,Na,K,Clおよびグルコース)およ
び尿検査(潜血,タンパク質,糖,ウロビリノーゲン,ビリルビンおよびpH)を
25 実施した。
副作用と有害事象の調査。試験期間中の有害事象を記録し,詳細を検査した。総合
的な経過の評価,重症度,治療および転帰に基づいて,有害事象を以下に示すグレ
ードに分類した。(1)試験薬剤が原因のもの,(2)試験薬剤が原因と考えられる
もの,(3)試験薬剤が原因とは考えにくいもの,(4)試験薬剤が原因ではないも
5 の。副作用は暫定的に(1)から(3)を含むものとした。
統計解析
患者群の背景は,カイ二乗検定にて,両側検定の危険率10%で評価した。測定
値はマン・ホイットニーのU検定およびフィッシャーの直接確率法にて,両側検定
10 の危険率5%で検定した。
[299頁10行ないし300頁左欄3行目]
結果
表1は,試験への参加が許可された被験者における治験組み入れ基準の詳細をま
15 とめたものである。
試験に当初登録した被験者220名を無作為に二重盲検下で割り付け[50単位
投与群(L)に73名,100単位投与群(M)に75名および200単位投与群
(H)に72名],そのうち41名は骨粗鬆症の診断基準に適合せず,また試験前に
投与されていた薬の休薬期間が不十分であったため不適格とした。
20 正確なBMD測定を阻害する腰椎の退行性変化と圧迫変化を有する患者および指
定時間以外に測定した患者を除外したところ,不適格者にはさらに64名が含まれ
た。このため,腰椎BMDに及ぼす効果の分析は被験者115名で実施した。内訳
はL群で39名,M群で38名およびH群で38名であった(表2)。被験者61名
が,副作用,中途での心変わりにより試験を拒絶,合併症の悪化などの理由で試験
25 を完了できなかったが,最初の3ヵ月以内に脱落しない限り,分析グループに含む
ものとした。
被験者の治療開始時の特徴を各グループで比較したものを表3に示した。3群と
も被験者が一様に分布していることを確認した。
[300頁左欄4ないし10行目]
5 自覚症状
主として背部痛からなる自覚症状は,L群で被験者52名中21名(40%),M
群で被験者60名中18名(30%)およびH群で被験者47名中17名(36%)
に,中等度またはやや改善がみられた。群間に有意な差は認められなかった(表4)。
10 [300頁左欄11行ないし右欄6行目]
骨測定
試験期間48週間中の腰椎BMDにおける変化を図1に示した。腰椎BMDは,
試験開始時と比較して,治療後24と48週目に用量依存的に増加し,L,Mおよ
びH群でそれぞれ0.6%,3.6%および8.1%であった。24週目と48週
15 目でMとH群で増加の程度がL群より大きく,48週目ではM群よりH群の方が大
きかった(p<0.05)。年齢が64歳以下と65歳以上,体重が49kg以下と
50kg以上,閉経後10年未満,10から20年,20年以上,および脊椎骨折
が0,1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したとこ
ろ,サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。第2中手骨(皮質骨か
20 らなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は何ら認められず,皮質骨と各群のX
線写真上の骨量減少度が変化せずに一定に保たれていることを示していた。L群で
被験者3名,M群で5名およびH群で0名に椎体骨折が発生したが,各群間の差は
有意ではなかった。
25 [301頁左欄1行ないし右欄4行目]
生化学的パラメーター
図2に示すように,血清Caは治療後2週目から減少し始め,4週目以降は治療
開始前の基準値より有意に低かった。血清Pも治療後2週目に減少した。尿中Ca
は2週目から減少し,試験期間中を通じて基準値より低いままであった。尿中Pも
減少した。血清25(OH)ビタミンDと1.25(OH)2 ビタミンD値は,図3
5 に示すように,各群で48週目に治療開始時よりやや減少した。図4に示すように,
骨型アルカリホスファターゼは,治療開始後4週目で治療開始時の値より高く,2
4週目と48週目ではH群のみ低かった。尿中へのピリジノリン,デオキシピリジ
ノリンおよびヒドロキシプロリン排泄は,図5に示すようにL群とH群で24週目
と48週目に治療開始時の値より減少した。
10 表5に示すように,各群で試験期間中,異常な試験結果が出現したが,いずれも
明白ではないか一過性のものであり,試験薬剤が原因であるとは明示できなかった。
表6は治療中に発生した副作用をまとめたものである。29例で,被験者が幾つか
の症状のため試験から脱落した。副作用の総数はhPTH(1-34)の用量が増
加するのに合致して増加したものの,重篤な有害事象は認められなかった。
[301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目]
考察
原発性副甲状腺機能亢進症では過剰量のPTHが持続的に分泌され,著明な骨,
特に皮質骨の欠損を特徴とするものの,組織形態計測の結果によると海綿骨は比較
20 的,良く保存されている。PTHはおそらく骨芽細胞活性と骨形成も刺激し,骨に
対して同化作用を及ぼすものと思われる。
動物試験で,PTHの同化作用が頻繁に確認されており,骨質の物理的な改善を
することが報告されている。このような同化作用は,N末端からアミノ酸をひとつ
除去するだけで効果がほとんど消失することから,PTHのN末端部アミノ酸の全
25 長に依存していると思われる。
海綿骨が増加することについては,一貫して報告されているが,皮質骨の応答は
不良である。間欠投与は,PTHの骨同化作用を生成に対してより効果的であると
思われる。これまで,骨粗鬆症の治療には,主にエストロゲン,カルシトニンとビ
スホスホネートのような骨吸収抑制剤が投与されており,骨吸収を刺激する骨形成
促進剤は低回転型骨粗鬆症に有効であると思われている。BMDの増加を予想をは
5 るかに上回る程度に誘導する活性があるにも拘わらず,フッ化物に問題がない訳で
はない。つまり,骨折発生率を減少させることができずに骨痛などの副作用を惹き
起こす。しかし,PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。
PTHを大量に投与すると,ヒトでもBMDの増加がみられたが,ヒトで好ましい
効果を奏する間歇投与法は未解決の課題である。Hらが,骨粗鬆症患者12名を対
10 象として多施設試験を実施したところ,hPTH(1-34)を7日間投与し21
日間休薬するというサイクルを16回繰り返す間欠投与によって,全身のCaがや
や増加したがさまざまな部位のBMDでは有意な増加はみられなかったと報告して
いる。連日投与は,持続点滴に比べると間欠的であり,好ましい影響がみられた。
Hらによると,hPTH(1-34)約250単位を患者21名に6から24ヵ月
15 間,連日投与したところ,重篤な副作用もみられず,血清アルカリホスファターゼ
が15%増加し,著明な骨増加がみられた。Iらは,ホルモン補充療法を受けてい
る閉経後の女性17名を対象として,hPTH(1-34)25μgを連日皮下注
射投与する3年の無作為化対照試験を実施し,その結果をコントロールとしてホル
モン補充療法単独を投与した女性17名と比較した。脊椎のBMDはPTH投与群
20 で13.0%増加したが,コントロール群では有意な増加はみられなかった。PT
Hは他の試験では,エストロゲンと共に投与して効果があった。
ビタミンD誘導体と併用してPTHの効果を増強することも検討されている。実
際に,400-500単位のhPTH(1-34)を0.25μgの1,25(O
H)2 ビタミンD3 と一緒に投与すると,海綿骨で増加がみられた。カルシトニンと
25 の併用投与も実施されている。Heschらは,hPTH(1-37)720-7
50単位を8週間連日投与し,同時にカルシトニンを2〜4,6〜8および8〜1
0日目に鼻腔内投与し,このサイクルを4回繰り返した。Jらは,800単位のP
THを連日,2ヵ月の間隔を置いて1ヵ月間投与するサイクルを繰り返し,この投
薬サイクルを2年間続けたところ,腰椎BMDが8〜10%増加したことを認めて
いる。
5 hPTH(1-34)の単位体重当たりの生物学的活性は試験間でばらつきがあ
るようである。Iらの試験では,たとえば,hPTH(1-34)400単位(2
5μg)が使用されている。試験に用いられている調製法が異なっているため,h
PTH(1-34)の投与量について本試験の結果を他の試験のものと比較するこ
とは容易ではないが,これまでの試験の多くに比べると,本試験で用いられた週1
10 回の間欠投与の方が,hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑えられ
る。hPTH(1-34)が中手骨(ほとんどが皮質骨からなる)の骨密度を減少
させることなく,腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を,48週という比較的短期
間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆
症治療はきわめて将来有望であると思われる。
表 1 本試験の参加者における組み入れ基準の詳細
組み入れ基準 L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
骨密度減少
骨萎縮
グレード1 31 26 18
グレード2 19 29 26
グレード3 21 19 27
不明 2 1 1
DXA
DPX ≥0.831 5 7 3
<0.831 17 14 18
QDR ≥0.711 25 17 11
<0.711 15 23 27
不明 1 0 0
XR ≥0.701 2 4 1
<0.701 7 10 12
不明 1 0 0
椎体骨折数
0 32 30 29
1 14 18 15
≥2 27 26 28
不明 0 1 0
大腿骨骨折数
0 65 72 69
≥1 8 3 3
橈骨遠位端骨折数
0 72 71 69
≥1 1 4 3
総スコア
=<2 0 2 0
3 2 2 1
4 14 13 13
≥5 57 58 58
表 2 本試験における各評価項目別の症例数
群 総症例数 脱落 症状評価 腰椎BMD評価 中手骨BMD評価
(副作用による)
L (50単位) 73 12 (3) 62 39 60
M (100単位) 75 25 (10) 65 38 58
H (200単位) 72 24 (16) 56 38 50
合計 220 61 (29) 183 115 168
表 3 各群の治療開始時の背景比較
L 群(50 単位) M 群(100 単位) H 群(200 単位) χ2 検定
年齢(歳) 70.2±9.84 (73) 70.1±9.64 (75) 71.7±10.78 (72) NS
体重(kg) 47.7±7.49 (73) 49.2±7.54 (75) 45.8±8.21 (72) NS
身長(cm) 148.2±8.01 (73) 148.9±7.77 (75) 147.3±6.97 (72) NS
閉経後年数 19.0±8.52 (73) 18.8±8.35 (75) 20.6±9.43 (72) NS
椎体骨折数 1.86±2.65 (62) 1.62±1.89 (61) 1.82±2.65 (55) NS
腰椎BMD (g/cm )
DPX 0.746±0.123 (13) 0.753±0.089 (10) 0.711±0.159 (11) NS
QDR 0.719±0.103 (19) 0.723±0.140 (17) 0.640±0.132 (19) NS
XR 0.637±0.115 (7) 0.680±0.130 (11) 0.556±0.064 (8) NS
中手骨 BMD (∑GS/D)
1.875±0.350 (60) 1.917±0.404 (58) 1.850±0.446 (50) NS
データは平均値±標準偏差、カッコ内は症例数
表 4 自覚症状
群 症例数 中等度 軽度 不変 悪化 U-検定 Fisher の
以上改善 改善 検定
中等度以上
L (50単位) 52 21 (40) 16 (31) 14 (27) 1 (2)
M (100単位) 60 18 (30) 28 (47) 14 (23) 0 (0) NS NS
H (200 単位) 47 17 (36) 21 (45) 9 (19) 0 (0)
カッコ内の数値はパーセント
図 1 治療週数と腰椎 BMD の変化率(平均±標準偏差)。
□は L 群(50 単位)、●は M 群(100 単位)、○は H 群(200 単位)のデータ。
a
L 群の値との比較で p<0.05 の有意差、bM 群の値との比較で p<0.05 の有意差、マンホイッ
トニーの U 検定による
*治療開始時との比較で p<0.05 の有意差の有意な増加、マンホイットニーの U 検定による
図 2 治療週数と血清カルシウム(左)とリン(右)(平均±標準偏差)。
□は PTH50 単位(L 群)、●は PTH100 単位(M 群)、○は PTH200 単位(H 群)のデータ。
*治療開始時との比較で p<0.05 の有意差、マンホイットニーの U 検定による
図 3 治療週数と血中 25(OH)ビタミン D(左)と 1,25(OH)2 ビタミン D(右) (平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
図 4 治療週数と血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
表 5 被験者における治療期間中の臨床検査値異常
L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
総症例数 73 75 72
臨床検査異常例数(%) 8 4 12
(11%) (5%) (17%)
異常データ数 16 7 22
赤血球数の低下 1 1
分節核球上昇 1 1
リンパ球減少 1 2
好酸球減少 1
好塩基球減少 1
ヘマトクリット低下 2 1
ヘモグロビン低下 2 1
血小板数減少 1
GOT上昇 1 1
GPT上昇 1
A/G低下 1
BUN上昇 2
総コレステロール上昇 2 1 2
CPK上昇 1 2 2
Naの下降 2
Kの上昇 2
Kの下降 1
Clの上昇 1
Clの下降 1
血糖上昇 1
尿潜血 1 2
尿蛋白 1
尿ビリルビン 1
図 5 治療週数とクレアチニン補正後の尿中ピリジノリン(a)、デオキシピリジノリン(b)、
ヒドロキシプロリン(c)血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。
シンボルの表記は図 2 と同様。
表 6 被験者における治療期間中の副作用
L群(50単位) M群(100単位) H群(200単位)
総症例数 73 75 72
a b b
副作用発現例数 (%) 14 (3 ) 14 (10 ) 30 (16b)
(19%) (19%) (42%)
重症度と件数 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計 軽度 中等度 計
8 6 14 13 10 23 19 18 37
皮下出血 1 1
全身潮紅 1 1
顔面潮紅 1 1
湿疹 1 1
そう痒 1 1
腰痛 1 1 1 1
頭痛 1 1 2 3 3 2 2 4
めまい 1 1 1 1 2 1 1
悪心 3 1 4 5 2 7 9 6 15
嘔吐 1 1 2 2 4
腹痛 1 1 1 1
おくび 1 1
あくび 1 1
口渇 1 1
食欲不振 1 1
熱感 1 1 1 1 2 1 1
発熱 1 1 3 3
脱力感 1 1 1 1
全身倦怠感 1 1 1 1 1 2 3
悪寒 1 1
眠気 1 1
a
臨床検査値異常を含む
b
副作用による脱落症例数
(別紙3-1)
甲19文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。)
[726頁要旨欄]
要旨:重症骨粗鬆症のテリパラチド治療の中止後,治療をすべきかどうかは明ら
かになっていない。2年間の前向き無作為化コントール試験において,我々は,1
年間のテリパラチドの後,3つのフォローアップ治療のBMDへの効果と臨床上の
10 安全性を比較した(テリパラチドによる骨形成,ラロキシフェンによる骨吸収抑制,
または,積極的な治療なし) 骨粗鬆症で最近脆弱性骨折の既往があった閉経後女性
。
が,非盲検でテリパラチド(20μg/日)を12ヶ月間投与された後,テリパラ
チドを継続する群(n=305),ラロキシフェン60mg/日に切り替える群(n
=100),2年目は何も積極的な治療を受けない群(n=102)にランダムに割
15 り付けられた(3:1:1)。全患者はカルシウムとビタミンDの補充を受けた。部
分的BMDにおけるベースラインから24ヶ月後の変化を混合モデルの反復測定を
用いて解析した。2年間の連日のテリパラチド投与は腰椎BMDを10.7%有意
に増加した。2年目にラロキシフェンを投与した患者は,1年目から腰椎BMDに
さらなる変化はなく(ベースラインからの変化,7.9%),一方,何も積極的な治
20 療を受けない患者は,2年目に2.5%BMDが減少した(ベースラインからの変
化,+3.8%)。股関節における,ベースラインから2年目のBMD増加は,テリ
パラチドで2.5%,ラロキシフェンで2.3%,積極的な治療なしで0.5%で
あった。
;大腿骨頚部については,それぞれ3.5%,3.1%,そして1.3%の
変化であった。本試験は骨折に対する有効性を評価するには不十分である。結論と
25 して,重症骨粗鬆症女性における2年間にわたるテリパラチド治療で,BMDは漸
進的に増加した。テリパラチドの中止後,ラロキシフェンは腰椎BMDを維持し,
股関節BMDを増加した。
[727頁左欄41ないし51行目]
材料と方法
5 研究仮説
複合的な第一の研究仮説は,2年間続けたテリパラチド投与か,1年間のテリパ
ラチドに続いて1年間のラロキシフェンの投与か,いずれが,1年間のテリパラチ
ドに続いて1年間何も積極的な治療を受けない場合(すなわち,カルシウムとビタ
ミンDの補充のみ)に得られるBMD対して,優れたBMDの結果を生み出すの
10 か,である。この報告に関連する第二の仮説は,1年間のテリパラチドの後,2年
目のテリパラチドが,BMDに対して,ラロキシフェンよりも優れたBMDの結果
を生み出すのかどうか,である。
[727頁左欄52行ないし右欄18行目]
15 被験者
EUROFORSは10の欧州の国の95施設で行われた。我々は,閉経後少な
くとも2年経過した55歳以上の歩行可能な女性で,腰椎,股関節,又は大腿骨頚
部でT-score<-2.5であり,過去3年以内に1以上の椎体または非椎体
の脆弱性骨折の既往がある患者を組み入れた。適格な女性は,また,血清中のPT
20 H,アルカリホスファターゼ,カルシウムのベースラインレベルが正常でなくては
ならず,骨粗鬆症以外の重症または慢性的な障害を持っていないこと,とされた。
腰椎L2-L4のうち少なくとも2つがBMDの評価が可能でなくてはならなかっ
た。
我々は,骨粗鬆症を二次的に作り出す原因となることが知られている薬剤を摂取
25 しているか,そのような疾患を持っている女性,または,テリパラチドまたはラロ
キシフェンでの治療に禁忌となっている女性は除外した。いずれの骨吸収抑制剤の
使用歴があっても,制限やウォッシュアウト期間なしで許可されたが,これらの薬
剤はベースラインの時点では中止しなければならなかった。
参加女性は,(1)治療経験なし(すなわち,試験の参加前に何も骨粗鬆症治療
薬を投与されたことがない) (2)骨吸収抑制剤で前治療がある(AR前治療あ
;
5 り);または(3)AR前治療で不十分な臨床的成果であった(不十分なAR反応
患者)であり得た。
[727頁右欄26行ないし728頁左欄10行目]
試験デザインと手順
10 試験は,2つのサブスタディと,ぞれぞれ12ヶ月間の2つの治療フェーズから
構成された(図1)。この報告では,サブスタディ1のみの結果を示す。・・・
登録のための適格性を調べる1ヶ月間のスクリーニング期間の後,全患者は,治
療の最初の年を通じて,カルシウム(500mg/日)とビタミンD(400-8
00IU/日)の補充とともに,テリパラチド(20μg/日)を1日1回の皮下
15 自己注射で投与された。12ヶ月後,すべての治療経験なしの参加者とAR前治療
のある参加者は,2年目の間,テリパラチドを継続する群(治療群1),ラロキシフ
ェン60mg/日に切り替える群(治療群2) 2年目は何も積極的な治療を受けな
,
い群(治療群3)にランダムに割り付けられた(3:1:1)(サブスタディ1)。
・・・
20 試験の間,最も重要な結果の測定値である部位BMDは,ベースラインと,治療
の6,12,18,24ヶ月目に,種々の密度計(Hologic,Lunar,
または,Norland)を用いたDXAにより,腰椎(L1-L4),股関節,
大腿骨頚部について評価した。密度計は,相互校正され,すべてのBMDスキャン
は,品質評価と解析のために,中央の読み取り担当者(バイオイメージングテクノ
25 ロジーズ,ライデン,オランダ)に送付された。試験は,非盲検で遂行された;し
かし,中央の読み取り担当者は,患者個人の治療群の割付について,盲検化され
た。
[729頁右欄10行ないし730頁右欄7行目]
治療期間のBMDの変化
5 腰椎BMDは,各治療群で全ての時点においてベースラインから有意に増加した。
腰椎BMDの増加(ベースラインBMDの平均値のある患者について)は,ラロキ
シフェンに切り替えた女性と,積極的な治療なしの女性についてはベースラインか
ら24ヶ月で,それぞれ7.9%と3.8%であったのに比べて,ランダム割付後
テリパラチドの投与を続けた女性については,10.7%であった(図3A)。ベー
10 スラインから24ヶ月後の腰椎BMDにおける絶対的変化は,積極的な治療なし群
2
と比べて,テリパラチド群で(治療群の差,0.051g/cm ;95%CI,
0.039-0.062;p<0.001),積極的な治療なし群と比べてラロキシ
フェン群で(治療群の差,0.030g/cm2;95%CI,0.017-0.
044;p<0.001),ラロキシフェン群に比べてテリパラチド群で有意に大き
15 かった(治療群の差,0.020g/cm2;95%CI,0.009-0.03
1;p<0.001)。
治療2年目の間,腰椎BMDは,テリパラチド群において有意に増加し続け,ラ
ロキシフェン群において有意な変化はなく,積極的な治療なしの群において有意に
減少した(表2)。
20 股関節BMDは,テリパラチド群とラロキシフェン群において,ベースラインか
ら18ヶ月目,24ヶ月目で,有意に増加した(図3B)。一方,積極的な治療なし
の群においては,いずれのフォローアップ評価の時点においてもベースラインから
有意な変化はなかった。ベースラインから24ヶ月目までの股関節BMDのパーセ
ント変化(ベースラインBMDの平均値のある患者について)は,積極的な治療な
25 しの群(0.5%)より,テリパラチド群(2.5%)とラロキシフェン群(2.
4%)で大きかった(図3B)。ベースラインから24ヶ月目の股関節BMDにおけ
る絶対的変化は,積極的な治療なしの群に対してテリパラチド群で大きく(治療群
の差,0.014;95%CI,0.005-0.022;p=0.001),積極
的な治療なしの群に対してラロキシフェン群で有意に大きかった(治療群の差,0.
013;95%CI,0.003-0.023;p=0.012;図3B)
;テリパ
5 ラチド群とラロキシフェン群の差は統計学的に有意ではなかった(治療群の差,0.
001;95%CI,-0.007から0.009;p=0.849)。股関節BM
Dの値は,テリパラチド群とラロキシフェン群では12ヶ月から24ヶ月で有意に
増加したが,積極的な治療なしの群では有意な変化はなかった(表2)。
大腿骨頚部BMDは,3つすべての治療群でベースラインから18ヶ月目と24
10 ヶ月目に有意に増加したが,ベースラインから24ヶ月目のパーセント変化は,テ
リパラチド群(3.5%)とラロキシフェン群(3.1%)で,積極的な治療なし
の群より大きかった(1.3%;図3C)。ベースラインから24ヶ月目の大腿骨頚
部BMDにおける絶対的変化は,積極的な治療なしの群に対してテリパラチド群で
(治療群の差,0.014;95%CI,0.005-0.023;p=0.00
15 2) 積極的な治療なしの群に対してラロキシフェン群で有意に大きかったが
, (治療
群の差,0.011;95%CI,0.000-0.022;p=0.044),ラ
ロキシフェン群に対してテリパラチド群は有意差がなかった(治療群の差,0.0
03;95%CI,-0.006-0.012;p=0.577)。大腿骨頚部BM
Dの値は,3つすべての治療群で12ヶ月から24ヶ月で有意に増加したが,テリ
20 パラチド群における増加量は,積極的な治療なしの群において得られた増加量より
有意に大きかった(表2)。
[730頁右欄8ないし20行目]
臨床的脆弱性骨折
25 2年の試験の間,サブスタディ1の評価可能な患者632名の内64名(10.
1%)が,計77の臨床的骨折を被り,内56は脆弱性骨折と分類された(15が
椎体,41が非椎体)。これらの骨折の内,16がランダム割付後に発生した:テリ
パラチド群で13(4.3%)
(椎体4,前腕/手首3,下腿2,股関節1,その他
3),ラロキシフェン群で2(2.1%)
(1が上腕骨,1が骨盤),そして,治療薬
なし群で1(1.0%)(下腿1)。グループ間の差は統計的に有意ではなかった。
5 すべての評価可能なサブスタディ1の患者と,2年目にテリパラチド群にランダム
割付された患者における,臨床的脆弱性骨折の縦断的な記述解析は,表3に示され
ている。
[732頁右欄1行ないし733頁左欄4行目]
10 考察
本報告は,重症骨粗鬆症の閉経後女性において,テリパラチド一年間投与後の逐
次的治療に対して3つの異なるアプローチ(骨形成,骨吸収抑制,そして,治療薬
なし)の効果を直接比較した初めての無作為化コントロール試験である。本試験は,
結果の変数として部分的BMDを用い,次の事を示すことにより治療効果の明確な
15 ヒエラルキーを確立するものである。
(1)テリパラチドの2年目は腰椎と股関節い
ずれにおいても優位で漸進的なBMD増加を伴う。
(2)テリパラチド投与一年の後
に続くラロキシフェンによる治療は腰椎のBMD増加を維持し,股関節のBMDを
さらに増加する。
(3)カルシウムとビタミンDのみによる逐次的治療は,テリパラ
チドにより前もって増加した腰椎BMDを部分的に喪失することを伴う。
[733頁右欄41ないし57行目]
我々の試験は骨折に対する効果を評価するためにデザインされておらず,適切に
評価する検出力もない。予測通り,試験期間中の臨床的脆弱性骨折の全数は少なく,
ランダムに割り付けられた2年目の治療の群間比較は,3つの逐次的治療の相対的
25 な骨折抑制効果に関して導かれるどの結論も許可されるものではない。しかしなが
ら,時間と共に骨折発生率が徐々に減少することは(表3),興味深い記述的な発見
であるが,確認のためのさらなる試験を必要とするであろう。
テリパラチドによる2年間の治療は一般に安全で,良好な忍容性を示した。2年
目の間,テリパラチドに関連する可能性のある有害事象(高カルシウム血症と腎石
症)は,他の治療群と同等の発生率であった。ラロキシフェンの有名な副作用であ
5 る,筋痙攣,顔面潮紅,そして,不眠は,ラロキシフェン群において他の治療群よ
りも,有意に多くの女性から報告された。
[734頁左欄40ないし52行目]
まとめると,24ヶ月に渡るテリパラチドによる治療において,腰椎の一部と股
10 関節のBMDは漸進的に増加する。12ヶ月のテリパラチド治療に続いて,ラロキ
シフェンで12ヶ月治療するとき,股関節と大腿骨頚部のBMDは漸進的に増加し,
腰椎BMDは2年目の間安定に維持される。我々の結果は,初めて3群の直接比較
を用い,テリパラチドによる骨形成治療の追加の一年が,骨吸収抑制剤(ラロキシ
フェン)への切り替えよりも優れていること,同様に,カルシウムとビタミンDの
15 みによるフォローアップ治療より勝ることを示すことにより,(BMDに関しての)
治療効果のヒエラルキーを確立するものである。
[731頁図3A]
[731頁図3B]
[731図3C]
[731頁図3Cの説明]
図3 EUROFORSのサブスタディ1参加者におけるBMDの変化。ベースラ
2
5 インから治療6,12,18,24ヶ月後のBMD(g/cm )における絶対的
変化(A)が腰椎,(B)が股関節,および,(C)が大腿骨頸部(最大の解析対象
集団)。棒グラフの頂点にある数字はベースラインからのBMD変化率。
[732頁表2]
表2.治療24ヶ月目におけるランダム割り付け(12ヶ月目)からのBMDの変
化
[732頁表3]
*These numbers include two fragility fractures that occured in the raloxifene group and one fracture
that occured in the no active treatment group.
表3 すべてのランダム割り付けされた集団と,治療群1(テリパラチドを2年間
継続)における,6ヶ月毎の臨床的脆弱性骨折
*これらの数値はラロキシフェン治療群で生じた2の脆弱性骨折と,治療薬なし群
10 で生じた1の脆弱性骨折を含む。
(別紙3-2)
甲20文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。
5 1594頁表2の囲み線及び下線は原告による。)
[1591頁要旨部分]
要旨:骨吸収抑制剤(AR)の前治療は,テリパラチドヘの反応に影響を及ぼす可
能性がある。我々は,24ヶ月間,テリパラチド投与を受けた骨粗鬆症の閉経後女
10 性503名のサブグループにおいて,BMDの反応と安全性を調査した。患者はA
Rの前治療に基づいて,3群に分類された:治療経験なし(n=84)
;前治療があ
り,治療反応が不十分であったエビデンスなし(n=134)
;前治療があり,AR
投与に対して不十分な反応を示した(n=285),不十分な反応については,治療
中に,骨折,持続的に低いBMD,及び/または,明らかなBMDの喪失の発生に
15 より,あらかじめ定義された。ベースラインからのBMDの変化は混合モデルの反
復測定を用いて解析した。腰椎BMDは3群すべてで,ベースラインから6,12,
18,24ヶ月目に,有意に増加した。24ヶ月にわたる腰椎BMDの平均の増加
2
は,治療経験なし(治療ナイーブ)群(0.095g/cm ;13.1%)におい
2
て,AR前治療あり群(0.074g/cm ;10.2%;p<0.005)と不
2
20 十分なAR反応患者(0.071g/cm ;9.8%;p<0.001)よりも,
大きかった。股関節BMDは,同様の増加であり,それぞれ,3.8%,2.3%
及び2.3%であった。不十分なAR反応患者における股関節BMDの早期の低下
は,投与18ヶ月後までには逆転した。18ヶ月目と24ヶ月目の間におけるBM
Dの増加は,大きく有意なものであった。吐き気(13.3%)と関節痛(11.
25 7%)は最も頻回に報告された有害事象であった。無症候性の高カルシウム血症は
患者の5.0%で報告があった。24ヶ月のテリパラチド治療は,ARの使用歴が
ある患者およびない患者において,BMDの有意な増加に関与する。AR前治療は
テリパラチドに対するBMDの反応をわずかに鈍くした。安全性は,現在処方され
ている添付文書と一致するものであった。
5 [1591頁左欄1行ないし1592頁左欄29行目]
序論
遺伝子組み換えヒトPTH[1-34]
(テリパラチド)の連日の皮下注射による
治療は,骨代謝速度,小柱骨の結合性,皮質骨厚を増加することにより新しい骨形
成を導く。テリパラチドは骨の生体力学的特徴を改善し,骨粗鬆症の閉経後女性に
10 おける椎体及び非椎体脆弱性骨折の割合を減少させる。
テリパラチドは通常,骨折のリスクの高い重症骨粗鬆症の閉経後女性と男性の治
療として用いられる。テリパラチドはまた,骨粗鬆症治療用の他の薬剤,特にビス
ホスホネートに反応しなかったか,忍容性のなかった患者の代替治療でもある。故
に,テリパラチドを投与されている多くの患者が,以前に骨吸収抑制剤(AR)を
15 投与されたことがある。
重要な医学的疑問は,ARの前治療がテリパラチドに対する骨形成反応を変化さ
せるかどうかである。卵巣切除ラットでは,アレンドロン酸(アレンドロネート),
エストロゲン,又はラロキシフェンに前もって長期間暴露されているにも関わらず,
テリパラチドは新たに骨形成を導いた。しかしながら,いくつかの臨床試験で,A
20 R,特にビスホスホネートによる前治療が,テリパラチドの骨形成効果に影響する
可能性があることを示唆している。Kらは,平均28ヶ月間のアレンドロン酸(ア
レンドロネート)による連日の前治療が,腰椎のテリパラチドに対するBMDの早
期の反応遅延と,股関節のBMDにおける早期の一時的減少を伴った事を報告した。
しかしながら,エストロゲンまたはラロキシフェンを以前に服用したこと,または
25 同時に服用したことによって,テリパラチドが導く腰椎または股関節BMDの増加
が減じることはなかった。
Forsteoの欧州試験(EUROFORS)は,1年間のテリパラチド治療
後,種々の逐次的治療レジメン(テリパラチドを含む)を調査するためにデザイン
された,骨粗鬆症と確定診断された閉経後女性における,2年間の前向き無作為化
試験であった。全患者は一年目の間,テリパラチドを投与され,一部が2年目の間
5 テリパラチド投与を継続した。これらの前もって定めた解析は,2年間の連日テリ
パラチド投与を受けた患者に限定されている。加えて,我々は,18ヶ月と24ヶ
月の治療の間で,何らかの違いが存在するかどうか解析を行った。我々は,AR前
治療のない女性(治療経験なし(ナイーブ)群),ARで前もって治療されていた女
性(AR前治療あり群) そして,
, AR前治療に対して不十分な反応であった女性(不
10 十分なAR反応患者群)における,24ヶ月のテリパラチド連日投与に対するBM
D反応を比較する,サブグループ解析も行った。AR前治療に対する不十分な反応
の基準は,治療ガイドラインにおいて最も受け入れられている基準に従って,あら
かじめ定義した(すなわち,長期の治療期間で脆弱性骨折が発生した,及び/また
は治療前のベースラインレベルを下回るBMDにおける有意な減少)。
[1592頁左欄30行ないし右欄53行目]
材料と方法
試験設計
EUROFORSは,骨粗鬆症と確定診断された閉経後女性868名の,2年間
20 の前向きコントロール無作為化非盲検臨床試験であった。試験は,2つのサブスタ
ディ(1と2)と,2つの治療フェーズからなり,欧州の10カ国の95施設で行
われた。
患者の組み入れ適格性を判断する1ヶ月のスクリーニング期間後,両方のサブス
タディの全患者は,治療一年目の間,テリパラチド(20μg/日)を一日一回自
25 己注射で皮下投与された。12ヶ月目,サブスタディ1の患者は,テリパラチド群
(20μg/日),ラロキシフェン群(60mg/日),あるいは積極的なAR治療
なし(治療ナイーブ)の群にランダムに割り付けられた(3:1:1)。サブスタデ
ィ2は,もっぱら不十分なAR反応の患者(以下に定義する)のみを含み,試験を
通してランダム割付されることなく,非盲検でテリパラチドを継続するオプション
が与えられた。すべての患者は,試験を通して,カルシウム(500mg/日)と
5 ビタミンD(400-800IU/日)を補充投与された。これらの解析は,24
ヶ月間連日テリパラチド注射を受けた患者からのデ-タを用いて行われた(すなわ
ち,サブスタディ1でテリパラチド群にランダム割付された患者と,サブスタディ
2の全患者は合わせられた)。
・・・
10 患者
参加者は,閉経後少なくとも2年であり,腰椎,股関節または大腿骨頚部のBM
DのTスコアが-2.5以下であり,試験参加前の3年以内に少なくとも椎体又は
非椎体の脆弱性骨折と1回以上診断された,55歳以上の歩行可能な女性であった。
研究者の見解で,伴った外傷が,正常な骨であれば骨折は起こらなかったであろう
15 という場合,骨折は,脆弱性骨折として定義した。加えて,参加者は,血清中のP
TH,全アルカリホスファターゼ(トータルALP),全カルシウムのベースライン
のレベルが正常であり,骨粗鬆症以外の重症または慢性的に障害を持っていない必
要があった。腰椎L2-L4のうち少なくとも2つがBMDの評価が可能でなくて
はならなかった。
20 次の女性は除外された。閉経後骨粗鬆症の他に代謝性骨疾患の既往がある場合;
骨格領域への放射線療法;明らかな腎または肝機能の障害;乳癌,子宮癌,その他
エストロゲン依存性の癌;過去5年以内に何か他の癌;血栓塞栓性の疾患;重度の
閉経後の主観的症状や愁訴;過去12ヶ月以内にコルチコステロイドの薬学的用量
による全身治療;過去12ヶ月以内にフッ素化合物による全身の治療的な使用;過
25 去6ヶ月以内に何か他の骨形成治療薬の使用。あらゆるAR(ビスホスホネート,
ラロキシフェン,エストロゲンとエスロトロゲン/プログスチン療法,カルシトニ
ン,ビタミンD類似体)の前使用は,単剤も併用も,制限やウォッシュアウト期間
なしで許可されたが,これらの薬剤はベースライン時点では中止しなければならな
かった。各患者の医学的既往と薬剤使用の詳細は,投与量,前のARの開始日と中
止日,BMD評価歴の結果,正確な骨折歴を含めて,記録された。
5 患者は,試験組み入れ前のAR治療に基づき,3群に振り分けられた:
(1群)治
療経験がない(治療ナイーブ,すなわち,試験組み入れ前に何の骨粗鬆症治療も受
けたことがない)(2群)骨吸収抑制剤による前治療がある(AR前治療あり)(3
群)臨床的に不十分な結果となったAR前治療がある(不十分なAR反応患者)。次
の基準の内1つ以上に当てはまる女性は,不十分なAR反応患者として分類された:
10 (1)先に少なくとも12ヶ月間のAR治療の処方があったにもかかわらず,1つ
以上の新規椎体または非椎体の脆弱性骨折が生じた;
(2)少なくとも24ヶ月間の
AR前治療歴の後,腰椎,股関節または大腿骨頚部BMDのTスコアが-3.0以
下であった;および/または(3)前述の24ヶ月間に,AR治療薬の継続的な処
方歴があったにもかかわらず,測定した骨部位のいずれか一つのBMDにおいて,
15 2年間で3.5%を超える減少があった。以前AR治療を受けており,これらの基
準のいずれにも当てはまらない,他の全女性は,2つめの群(AR治療歴あり)に
割り付けられた。
[1595頁左欄8行ないし57行目]
20 ベースラインからのBMD変化
腰椎BMDは,テリパラチド投与患者の各サブグループにおいて,すべてのフォ
ローアップ時点で,AR前治療に関わらず,ベースラインから有意に増加した(図
2A) テリパラチド投与患者のすべての群において,
。 ベースラインから24ヶ月後
までの腰椎の%変化は,平均10.5%であった。ベースラインからの腰椎BMD
25 の絶対的変化量(平均±SE)は,AR前治療あり(0.074±0.004g/
2
cm ;10.2%;p=0.003)と,不十分なAR反応患者(0.071±0.
2
003g/cm ;9.8%;p<0.001)のサブグループよりも,治療経験な
2
し(治療ナイーブ)のサブグループ(0.095±0.006g/cm ;13.1%)
で,有意に大きかった(図2A;表3)。
24ヶ月時点で,股関節BMDは患者のすべての3つのサブグループにおいて,
5 ベースラインから有意に増加した(図2B)
;平均±SE変化は,治療経験なしサブ
グループにおいて,不十分なAR反応患者サブグループと比較して,有意に大きか
2
った(0.026±0.004対0.016±0.002g/cm ;p<0.0
5) 股関節BMDのベースラインから24ヶ月後の変化率は,
。 テリパラチドを投与
されたすべての患者で2.6%であり,治療経験なし,AR前治療あり,不十分な
10 AR反応患者のサブグループにおいては,それぞれ,3.8%,2.3%及び2.
3%であった(図2B)。不十分なAR反応患者のサブグループにおいて,テリパラ
チド治療の最初の6ヶ月間に,股関節BMDは有意に減少したが,この減少は18
ヶ月後までに逆転した:BMDのベースラインからの変化(平均±SE)は,6ヶ
2
月,12ヶ月時点で,それぞれ,-0.009±0.002g/cm (-1.3%),
2
15 -0.002±0.002g/cm (-0.3%)であった(表3)。同様に,不十
分なAR反応患者のサブグループにおいて,治療6ヶ月後,大腿骨頚部BMDは減
少した(表3)。大腿骨頚部BMDの,治療経験なしと不十分なAR反応患者のサブ
グループの差は,12ヶ月後なお有意であった(それぞれ,0.014±0.00
2 2
4g/cm ;+2.2%対0.001±0.002g/cm ;+0.1%;p=
20 0.008)。しかしながら,24ヶ月後,大腿骨頚部BMDは患者のすべての3つ
のサブグループにおいて,ベースラインから優に増加し(図2C),変化の平均はこ
れら3つ前治療に関するサブグループを通して,有意差がなかった。大腿骨頚部B
MDのベースラインから24ヶ月後の変化率は平均で,テリパラチドを投与された
すべての患者で3.9%であり,治療経験なし,AR前治療あり,不十分なAR反
25 応患者のサブグループにおいては,それぞれ,4.8%,3.4%及び3.9%で
あった(図2C)。
腰椎,股関節,大腿骨頚部のBMD値の比較は,全グループの患者において,連
日テリパラチド投与を受けた18ヶ月目と24ヶ月目で統計学的に有意な増加を示
した(表3)。2つのAR前治療グループでは,股関節と大腿骨頚部のBMDにおけ
る24ヶ月の増加が,治療18ヶ月後に見られたものと比べて,おおよそ2倍であ
5 った(表3)。
[1597頁左欄10行ないし1598頁左欄13行目]
考察
本試験の結果は,骨粗鬆症で最近脆弱性骨折のあった閉経後女性において,24
10 ヶ月のテリパラチドの治療が,AR治療の有無にかかわらず,BMDの有意な増加
を伴うことを示した。BMDの増加は,過去に治療を経験していない患者で,最も
大きかった。不十分なAR反応患者群における,股関節と大腿骨頚部のBMDの一
時的な減少は,連日のテリパラチド治療18ヶ月後と24ヶ月後に逆転し,最後の
6ヶ月間に最もBMDが増加した。
15 テリパラチドの枢要な登録試験(骨折予防試験[FPT])で計画されていた期間
は36ヶ月であった・・・平均18±5ヶ月のテリパラチドの曝露期間という結果
になり,FPTの集団における参加者の1%未満が24ヶ月目の受診に到達した。
FPTが終了して以来,EUROFORSは,18ヶ月を超えるテリパラチド(2
0μg/日)による治療を調査した初めて完遂された試験である。ゆえに,重要な
20 回答すべき研究の疑問は,3つすべての部位において,24ヶ月時点のBMDが,
18ヶ月時点よりも統計学的に有意に高かったかどうかである。この2つの時点の
間におけるBMDの絶対的な増加は,AR前治療を受けた患者群の股関節において
特に著しく,18ヶ月と24ヶ月の間で,BMDの平均増加量は倍となった。股関
節BMDが,最初の12ヶ月間より,治療期間の12から24ヶ月の間において,
25 より顕著であったという発見は,アレンドロン酸(アレンドロネート)により治療
された後,合成hPTH(1-34)40μgを連日投与された骨粗鬆症男性の試
験において,Lらにより既に報告されている。
[1598頁右欄45ないし56行目]
結論として,24ヶ月間のテリパラチド治療は,ARの前治療がある患者とない
5 患者において,腰椎,股関節,大腿骨頚部のBMDにおける有意な増加を伴う。A
R前治療は,テリパラチドに対するBMDの反応をわずかに鈍くした。24ヶ月間
の連日のテリパラチド治療は18ヶ月間の治療と比較して,BMDを有意に大きく
増加させる結果となり,18ヶ月間の治療である既報の試験と一致する患者の安全
性プロファイルであった。さらなる研究により,AR前治療の後に観察されたBM
10 D変化が,テリパラチドの骨折抑制効果に影響するかどうか明らかにするべきであ
る。
[1594頁表1]
[1594頁表2]
[1595頁図2]
3つの前治療サブグループと,全集団におけ
る,ベースラインからの調整した平均BMD
の変化。(A)腰椎,(B)股関節,(C)大腿
骨頸部における,ベースラインから治療の
6,12,18および24ヶ月後のBMD
(g/cm 2)の絶対変化量。縦棒の頂点の数
字は,ベースラインからの変化率を示す。エ
ラーバーはSEを示す。AR前治療群と不十
分なAR反応患者の間では,いずれの部位,
いずれの時点においても統計学的に有意な差
はなかった。
(別紙3-3)
甲52文献の記載事項(抜粋)
5 [2024頁要旨欄6ないし12行目]
方法:この試験は,閉経後骨粗鬆症女性に平均18か月間テリパラチド(20また
は40μg)を1日1回投与した無作為化プラセボ対照試験,骨折抑制試験(FP
T)のフォローアップ試験である。FPT終了時に残っていた女性の90%以上が
フォローアップ試験を継続した(n=1262)。
[2028頁図3C]
―●― 40-μg Teriparatide Group
―○― 20-μg Teriparatide Group
5 ―▼― Placebo Group
図3 テリパラチド(遺伝子組換えヒト副甲状腺ホルモン)治療中および治療後の
腰椎の骨密度(BMD)変化。・
・ ・骨粗鬆症治療薬を全く使用しなかった女性(C)。
EPは骨折抑制試験の終了時点を示す。アスタリスクはP<.001,エラーバー
10 は標準偏差を表す。
(別紙4)
(別紙5)
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