ホーム > 知財判決速報/裁判例集 > 令和3(行ケ)10033 審決取消請求事件
| 裁判所 | 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所 |
|---|---|
| 裁判年月日 | 令和3年12月20日 |
| 事件種別 | 民事 |
| 当事者 | 原告キョーセー株式会社 被告アクワネクスト株式会社 |
| 対象物 | 内装用短尺コーナー材による施工方法 |
| 法令 |
特許権 特許法36条6項2号1回 特許法36条6項1号1回 特許法36条4項1号1回 特許法157条2項4号1回 特許法126条1項3号1回 特許法126条1項2号1回 |
| キーワード | 実施23回 審決22回 無効4回 特許権1回 |
| 主文 | 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。20 |
| 事件の概要 | 1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。) ⑴ 被告は,平成26年5月21日,発明の名称を「内装用短尺コーナー材に よる施工方法」とする発明について特許出願(特願2014-105244。 以下「本件特許出願」という。)をし,平成28年10月28日,特許権の設 定登録(特許第6031065号。請求項の数2)を受けた(以下,この特 許を「本件特許」という。)。5 ⑵ 原告は,令和2年4月6日,本件特許を無効にすることを求めて審判の請 求をした。特許庁は,上記請求を無効2020-800038号事件として 審理を行った。 ⑶ 被告は,令和2年7月10日付けで,本件特許の明細書を訂正する旨の訂 正請求(以下「本件訂正請求」といい,これによる訂正を「本件訂正」とい10 う。)をした。特許庁は,令和3年1月5日,本件訂正請求を認めた上で,「本 件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日原告 に送達された。 ⑷ 原告は,令和3年2月16日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起 |
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令和3年12月20日判決言渡
令和3年(行ケ)第10033号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年10月26日
判 決
原 告 キ ョ ー セ ー 株 式 会 社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 筒 井 豊
同 川 上 確
同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 西 教 圭 一 郎
被 告 アクワネクスト株式会社
同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 小 林 七 郎
同 村 上 弓 恵
同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 古 谷 史 旺
同 大 橋 剛 之
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が無効2020-800038号事件について令和3年1月5日にした審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。)
⑴ 被告は,平成26年5月21日,発明の名称を「内装用短尺コーナー材による施工方法」とする発明について特許出願(特願2014-105244。以下「本件特許出願」という。)をし,平成28年10月28日,特許権の設定登録(特許第6031065号。請求項の数2)を受けた(以下,この特
5 許を「本件特許」という。 。)
⑵ 原告は,令和2年4月6日,本件特許を無効にすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2020-800038号事件として審理を行った。
⑶ 被告は,令和2年7月10日付けで,本件特許の明細書を訂正する旨の訂正請求(以下「本件訂正請求」といい,これによる訂正を「本件訂正」という。)をした。特許庁は,令和3年1月5日,本件訂正請求を認めた上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月20日原告に送達された。
⑷ 原告は,令和3年2月16日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。2 特許請求の範囲の記載特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである(以下請求項1に係る発明を「本件訂正発明1」と,請求項2に係る発明を「本件訂正発明2」といい,包括して「本件訂正発明」という。)。「【請求項1】市販のコーナー材よりも短尺に形成した内装用短尺コーナー材を,小型の搬送用車両に横置き状態に積層して所定の作業場所まで搬送する第1工程と,所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これらの内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程と,前記内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程と,前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う第4工程とを有することを特徴とする内装用短尺コーナー材による施工方法。【請求項2】前記内装用短尺コーナー材は,長さが1000~1800mmの範囲の寸法からなることを特徴とする請求項1に記載の内装用短尺コーナー材による施工方法。」3 本件審決の理由の要旨等
⑴ 訂正要件についてア 本件訂正の訂正事項は,本件特許出願の願書に添付した明細書(以下「訂正前明細書」という。)の【0025】で,請求項1及び【0022】等の「接合」と異なる「接続」という語が用いられていたのを,「接合」と訂正して表記を統一したものであって,不明瞭な記載の釈明を目的としたものである。イ 本件訂正において,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の変更はなく,特許請求の範囲が拡張又は変更されるものでない。
⑵ サポート要件違反についてア 当業者は,本件訂正後の明細書(以下「訂正明細書」という。)の【0008】の「(3)」において言及する「隙間」とは,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合すること」によって「発生を防止」することができる「隙間」であり,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」 「対峙」を させた場合に生じることが予想される「隙間」を意味すること,同所で言及する「十分な密着性を確保」は,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合に比較して,「十分な密着性を確保」することができる趣旨であると理解することができる。イ 訂正明細書の【0008】に記載される「(4)」の効果は,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合」した後に
5 「内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う」ことで得られる,「従来の施工と何ら遜色なく完成させることができる」という効果であり,本件訂正発明が有する,「前記内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」及び「前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う第4工程」という構成により,合理的に得ることができる効果であると,当業者は理解することができる。
⑶ 明確性要件違反について本件訂正発明1は,「施工方法」の発明全体として見た場合,第三者の利益を不当に害するほどに発明が不明確というものではない。本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成を全て有した上で,用いる「内装用短尺コーナー材」の長さの範囲を,具体的に数値で特定したものであるから,本件訂正発明1と同様に,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに発明が不明確なものではない。
⑷ 実施可能要件違反について訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,第1工程ないし第4工程を含む実施例について具体的な説明を記載しているから,本件訂正発明について,当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実施をすることができるだけの説明を記載したもので,実施可能要件に違反するものではない。
第3 当事者の主張
1 取消事由1(理由不備)
⑴
(原告の主張)
本件審決は,サポート要件違反,明確性要件違反及び実施可能要件違反の判断に関し,実質的に理由を付していないに等しく,理由不備がある。
⑵
(被告の主張)
(原告の主張)
は争う。
2 取消事由2(訂正要件違反の判断の誤り)
⑴
(原告の主張)
ア 本件訂正は,誤記の訂正に当たらないことについて本件審決は,本件訂正の目的を用語の統一を図るためであると認定し,内装用短尺コーナー材の形成の段階の「接続」と施工の段階の「接合」とに使い分けるものであるとする(以下「解釈①」という。)。しかし,用語の統一を図るための訂正であれば,訂正前明細書の【0025】のとおり,3本の内装用短尺コーナー材を使用する際,第1,第2内装用短尺コーナー材の端面を「接続」して切除は行わず,第2内装用短尺コーナー材に対して第3内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分Gを「削除」して「接合」するように,すなわち,3本の内装用短尺コーナー材のうち,切除しないか「削除」するかという操作で「接続」と「接合」とを合理的に使い分けることもでき,この場合,本件訂正は必要ではない(以下「解釈②」という。)。また,訂正前明細書の【0012】のとおり,図3の断面L字形状の内装用短尺コーナー材1を形成する際に,熱によって溶融された合成樹脂が,典型的には押出成形されて第1側面2と第2側面3とのそれぞれの基端側端部2y,3y同士が一体化されて「接続」する構成(熱融着)と,訂正前明細書上,この熱融着のような具体的構成が開示されない「接合」とで合理的に使い分けることもでき(以下「解釈③」という。),この場合にも,本件訂正は必要ではない。このように,訂正前明細書の【0025】の「接続」の意味を,解釈②又は③のように,本件訂正なしで,「接続」とも「接合」とも合理的に理解できるので,当業者であれば容易にその誤記に気付くことはなく,解釈
①は不当である。
したがって,本件訂正は誤記の訂正(特許法126条1項2号)に当たらない。イ 本件訂正は不明瞭な記載の釈明に当たらないことについて明瞭でない記載の釈明(特許法126条1項3号)のために訂正をすることができるには,不明瞭な記載を正し,その本来の意味を明らかにするものであることが必要である。訂正前明細書の【0025】の「接続」の記載は,それ自体からみて不明瞭ではなく,解釈②又は③のとおり整合し,合理的に理解できる。他方,用語「接合」の具体的構成は,訂正明細書に開示されておらず,不明である。したがって,訂正前明細書の【0025】の「接続」を,具体的構成が不明な「接合」に訂正することは,本来の意味を明らかにする訂正であるとはいえない。ウ 本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであることについて訂正前明細書の「接続」から具体的構成が開示されていない「接合」への訂正は,誤記の訂正でも明瞭でない記載の釈明でもないので,請求項1の「接合」が「接続」とは異なる技術的意義を持つことになる。その結果,特許請求の範囲の実質上の変更となる。エ 小括以上のとおりであって,本件訂正が訂正要件に適合するとした本件審決の判断には誤りがある。
⑵
(被告の主張)
本件訂正は,訂正前明細書の【0025】に,請求項1及び【0022】等の「接合」と異なる「接続」の表記を用いていた誤記の訂正と,当該表記の不統一による不明瞭な記載の釈明を目的としたものである。そうすると,本件訂正に係る訂正事項は,請求項1の内容を変更する結果をもたらすものではない。
3 取消事由3(サポート要件の判断の誤り)
⑴
(原告の主張)
ア コーナー材の端部の形状について訂正明細書の【0008】の効果のうち,「(3)内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合することによって,十分な密着性を確保して隙間の発生を防止することができる。」という効果(以下「効果(3)」という。),「(4)内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行うため,従来の施工と何ら遜色なく完成させることができる。」という効果(以下「効果(4)」という。)を実現させるには,本件訂正発明1の第3工程でコーナー材を反転させて,対向する端面同士をつぎ合わせ一体化する実質的な接合をしなければならず,そのためには,コーナー材のカット面を除く残りの端部が,長手方向に垂直で,平面状,平坦でなくてはならない(以下このような端面を「平端面」という。)。請求項1の記載は,コーナー材の端部の形状に関して何らの定義もないため,コーナー材のカット面を除く残りの端部が平端面の場合だけでなく,①一方の端面は45°で,他方の端面は,それとは異なる30°で傾斜して形成される場合や,コーナー材の両端部の各端面が,一平面ではなく,不規則な又は任意の形状を有する弯曲面又は凹凸面である構成である場合等,②孔部4の一部である切欠きが長手方向外方に臨む「切欠き端面」である場合が本件特許請求の範囲の記載に基づく技術的範囲に属することになる。このように,本件訂正発明1は,効果(3),(4)を実現しない構成を含むので,サポート要件に適合しない。イ コーナー材の孔部の有無について請求項1では,コーナー材の孔部4の有無が特定されておらず,孔部4が形成されていないコーナー材も含む。施工者が使用するコーナー材において,孔部4が形成されず,長手方向の端部が平端面であり,その側面2,3の幅寸法が,訂正明細書の【0012】及び図3にある27mmのような小さな値であれば,当業者は,本件訂正発明の第2工程で,一方のコーナー材のオーバーラップ部分を,ある程度の高い精度で,長手方向に垂直な平面状に切除することができるので,切除したカット面を対峙しないように反転させる操作を必要とせずに,つぎ合わせて一体化する実質的な接合の構成を実現できる。そのため,本件訂正発明1の第3工程,第4工程による効果(3),(4)に対応する課題自体が存在しない。ウ 相互に接合される各コーナー材の両端部における側面の幅寸法について請求項1及び2において,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす
第1側面と第2側面との幅寸法を相違させた場合について,接合箇所付近
で複雑な段差が生じるところ,効果(3),(4)を奏するために必要な記載が不足している。エ 3本以上のコーナー材を使用する場合について本件訂正発明の第2工程は,オーバーラップ部分の形成の個所,切除の個所が特定されていないので,上部にある第3コーナー材を削除せず,中間にある第2コーナー材のオーバーラップ部分を削除する操作を含むし,また,上部にある第3コーナー材や下部にある第1コーナー材を削除せず,上部と下部とにある第3コーナー材及び第1コーナー材に対して,中間にある第2コーナー材の両端部をそれぞれオーバーラップさせて,第2コーナー材の2つの各オーバーラップ部分をそれぞれ削除する操作も含む。これらの操作によれば,本件訂正発明の第3工程で,中間にある第2コーナー材を反転させても,第2コーナー材の端部のカット面が,下部にある第1コーナー材及び上部にある第3コーナー材の少なくとも一方の端部に対峙する。したがって,本件訂正発明の第2工程には,「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」を実行できず,効果(3),(4)が達成されない構成を含むので,サポート要件に適合しない。オ 第3工程について請求項1に記載された第3工程については,訂正明細書の発明の詳細な説明中に,第3工程を必要とする理由並びに同工程を構成要件とする目的及び効果に関する記載がないことを考慮すれば,サポート要件を充足しない。カ 小括以上のとおり,訂正明細書の記載では,当業者は,本件訂正発明について,発明の課題が解決できると認識することができないから,本件審決の判断には,誤りがある。
⑵
(被告の主張)
原告がサポート要件違反を主張する点は,いずれも失当であり,本件審決の判断に誤りはない。本件訂正発明は,訂正明細書の記載や示唆,あるいは出願時の技術常識に照らし,当業者において,当該発明の課題を解決でき,かつ効果を奏するものであると合理的に理解できるものである。
4 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)
⑴
(原告の主張)
ア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」についてこれらの用語は,いずれも多義的であり,その意味する内容が明らかでなく,解釈も異なり得るし,明細書の記載を参酌しても,これらを明確にした記載は見当たらない。イ 用語「接合」について請求項 1 の「接合する」(つぎあわす)という工程は,十分に特定されておらず,明細書及び図面の記載を考慮しても,当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない場合に該当する。ウ 3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合について本件訂正発明における第2工程及び第3工程について,3本以上のコーナー材では,どのようにオーバーラップ部分を形成し,どこを切除して,どこをどのように接合するのか,特許請求の範囲にも発明の詳細な説明にも具体的に記載されていないから,本件訂正発明は明確でない。エ その他前記3(1)ア,ウ及びオ記載の各事情に照らし,本件特許請求の範囲の記載にはそれぞれ明確性要件違反がある。オ 小括以上のとおり,本件訂正発明には明確性要件違反があり,これと異なる本件審決の判断には誤りがある。
⑵
(被告の主張)
ア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」について(ア) 「市販のコーナー材」については,本件訂正発明の特許請求の範囲の記載及び訂正明細書の【0004】,【0005】及び【0007】の記載を参酌すれば,長さが2500mm程度であり,日本家屋の床側の幅木と天井との間にそのまま取り付けることができない長さの,従来のコーナー材が想定されているものと,当業者であれば理解することができる。(イ) 「小型の搬送用車両」は,「搬送用車両」であって「小型」のものであることが明らかである。また,訂正明細書の【0004】からは,本件訂正発明における「小型の搬送用車両」としては,「長さが2500mmのコーナー材」を「横置き状態に収容可能」である「1ボックスワゴンタイプの車両やバンタイプの車両」に比較して,小型の車両が想定されていると,当業者は理解することができる。(ウ) 「横置き状態」については,搬送対象物である「内装用短尺コーナー材」を「小型の搬送用車両」で「搬送」するときの状態であることからすれば,垂直方向に立て掛けた不安定な状態ではなく,横に寝かせた安定な,かつ積層可能な状態とすることは,自然な選択である。(エ) 「通常のパテ施工」でいう「パテ施工」が,「内装用短尺コーナー材の表面」に「内装仕上げ」を施す「施工」のうち,「パテ」を用いた「施工」であることが明らかである。また,「通常」とは,「普通であること。なみ。通例。」(広辞苑第六版)という意味である。イ 「接合」について「接合」という用語自体は一般的な用語であり,不明確なものではない。また,本件訂正発明における「接合」という構成は,請求項1の記載から,「内装用短尺コーナー材による施工方法」において,「内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際」に行われる「接合」であり,かつ,「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線状にセットし,これらの内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程」を経た上で,「オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように」行われる「接合」であるところ,これらの文脈において,「接合」という語が一般的な用語とは異なる特異な意味となる事情はない。ウ コーナー材の端部について本件訂正発明において,「コーナー材の端部」が長手方向に垂直な平面状の端面を有する平端面に限定されていないから,訂正明細書におけるコーナー材の端部に関する記載自体は,不明確なものではない。エ 小括原告が主張するその他の点も含めて,本件訂正発明には明確性要件に違反する点はなく,本件審決の判断に誤りはない。
5 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)
(1)
(原告の主張)
ア 「接合」による効果(3)の達成について「接合」は冶金的接合,機械的締結,化学的接合に大別され,樹脂の主な接合方法としては,①機械的締結,②接着,③溶剤接合及び④溶着による接合があり,「接合」には様々な態様がある(甲5)。このような公知の技術的知見から考えれば,本件訂正発明の内装用短尺コーナー材の端部を「接合」して,「つぎあわすこと」という結果と併せて効果(3)を達成するためには,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,何と何がどのような接合方法によって接合され,その効果として,何と何との「密着性」が達成され,及び何と何との「隙間」の発生が防止されるかが明細書の発明の詳細な説明に記載されていなければならないが,訂正明細書には,そのような記載はない。イ 効果(4)について訂正明細書では,効果(4)について,何が「遜色なく」であるのか,及び何を「完成させることができる」のかが記載されていない。このため,当業者にとって,その具現すべき構成を出願時の技術常識に基づいて理解することもできない。ウ 抽象的な記載について訂正明細書の発明の詳細な説明における発明の実施の形態は,請求項1に記載される技術的手段として「市販のコーナー材」 「短尺コーナー材」, ,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」の各用語を用いて記載されているが,これらの用語の技術的意味に関する記載は,抽象的又は機能的であるし,「市販」,「短尺」,「小型」,「横置き」,「通常」の各用語自体もいずれも極めて抽象的であり,発明に係る機能,特性,解決課題ないし作用効果との関係における技術的意味が示されていない。上記の各用語によっては,本件訂正発明がいかなる発明であるかを正確に把握することができず,訂正明細書の発明の詳細な説明の記載は,実施可能要件に反する。エ 内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を異ならせた場合について内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を一部異ならせた構成では,内装用短尺コーナー材1の側面2,3と壁面との間に段差が存在する。この中間部位で切除して内装用短尺コーナー材の端部を接合したとき,段差は存在したままであり,なくなるわけではない。そのため,効果(3),
(4)を達成できず,訂正明細書の記載に実施可能要件違反がある。
オ その他前記3⑴ア,ウ及びオ並びに4(1)ア及びウ記載の各事情に照らし,訂正明細書の記載にはそれぞれ実施可能要件違反がある。カ 第3工程について訂正明細書には,第3工程を必要とする理由並びに同工程を構成要件とする目的及び効果に関する記載がない。キ 小括以上のとおり,訂正明細書は,発明の詳細な説明の記載が当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件を欠き,これと異なる本件審決の判断は誤りである。
(2)
(被告の主張)
ア 「接合」による効果(3)の達成について効果(3)の「隙間」とは,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合すること」によって「発生を防止」することができる「隙間」であり,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合に生じることが予想される「隙間」を意味するものと,当業者であれば理解することができる。効果(3)の「十分な密着性を確保」についても,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合に比較して,「十分な密着性を確保」することができる趣旨であると,当業者であれば理解することができる。イ 効果(4)について効果(4)は,内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,所定の作業場所においてオーバーラップ部分を削除した「カット面」を「対峙させないように」することで達成できる「密着」及び「隙間」がないという効果について記載するものであり,オーバーラップ部分の削除と無関係にコーナー材の端部の一部に形成されている切欠きの部分についてまで,コーナー材の端部を全面にわたって隙間なく密着させることを発明の効果として記載するものではない。ウ 小括その他の
(原告の主張)
も失当であり,本件審決の判断に誤りはない。
第4 当裁判所の判断
1 訂正明細書等の記載事項について
⑴ 訂正明細書の発明の詳細な説明には,別紙2の図面と共に,別紙1の記載がある(甲10,20)。
⑵ 前記⑴の記載事項及び特許請求の範囲の請求項1によれば,本件訂正発明に関し,次のような開示があることが認められる。ア 建物の壁面を壁装材を貼り付けて仕上げをする場合に,あらかじめ下地
5 の壁面を平坦に先仕上げする作業があるが,先仕上げが困難な出隅部分については,角部及び角部を挟んで両側にある2つの壁面に装着することにより,角部を平坦に先仕上げするコーナー材が提案されている。このコーナー材は長さ2500mmと長尺であるため,搬送作業時には,これを横置き状態に収容可能な荷台スペースを有する1ボックスワゴンタイプの車両やバンタイプの車両を使用する必要があり,搬送効率が低いとともに,搬送コストが嵩み,経済的に不利であるという不都合がある。また,一般的な日本家屋の場合,長尺なコーナー材をそのまま取り付けることができず,メジャーによって所定の作業場所の床側の幅木と天井との間の距離を測定した後に,この距離に合致するように長尺なコーナー材をカットする必要があり,測定作業という作業工程が増加し,作業効率が悪いという問題があった(【0002】,【0004】,【0005】)。イ 「本発明」は,内装用短尺コーナー材を使用することによって,搬送コストの低減及び搬送効率の向上,施工の際の作業効率の向上などを実現することを目的とする(【0006】)。ウ 「本発明」は,特許請求の範囲記載の構成を採ることによって,以下の効果を奏する(【0008】)。(1)搬送を容易として,車両の準備費用や燃費などを含めた搬送コストを低減することができるとともに,搬送効率を向上させることができる。(2)メジャーを使用しなくとも,容易に施工することができ,作業効率を向上させることができる。
(3)内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合することによって,十分な密着性を確保して隙間の発生を防止することができる。
(4)内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行うため,従来の施工と何ら遜色
5 なく完成させることができる。
2 取消事由1(理由不備)について原告は,前記第3の1⑴のとおり,本件審決は,サポート要件違反,明確性要件違反及び実施可能要件違反のいずれの争点についても実質的に審理判断していないに等しく,特許法157条2項4号に違反していると主張する。しかし,前記第2の3⑵ないし⑷の本件審決の理由の要旨及び後記4以下において判断するところに照らせば,本件審決はこれらの無効理由について実質的に判断しているものと認められ,取消事由1は理由がない。
3 取消事由2(訂正要件違反の判断の誤り)について⑴ 本件訂正が誤記の訂正に当たるかについてア 本件訂正前は,施工の段階である第3工程について,請求項1及び訂正前明細書の【0022】に「接合」の語が用いられていたのに対し,訂正前明細書の【0025】には,施工の段階について「このとき,第1,第2内装用短尺コーナー材21-1,21-2の端面を接続して切除は行わず,・・・」とあり,同じ段階について「接合」と「接続」の2つの用語が用いられていたのであるから,本件訂正は用語の統一を図るものであるといえ,誤記の訂正に当たる。イ 原告は,前記第3の2⑴アのとおり,解釈②又は解釈③のように,訂正前明細書の【0025】の「接続」の意味を,本件訂正なしで,「接続」とも「接合」とも合理的に理解できるので,当業者であれば容易にその誤記に気付くことはないと主張する。しかし,解釈③は,短尺コーナー材の成形の場面に関する記載である【0012】の「接続」の記載と,成形が終わった短尺コーナー材で施工をする段階である【0025】の「接続」の記載が同じ意味でなければならないということに帰し,採り得ない。また,解釈②も,同じ工程である【0022】と【0025】の中に,切除していないコーナー材の端面をつぎ
5 合わせることをいう「接続」と,オーバーラップ部分を削除したコーナー材の端面をつぎ合わせることをいう「接合」という用語の使い分けがされているというものであるが,訂正前明細書にそのような解釈を裏付ける記載は何ら存在しない。⑵ 本件訂正が不明瞭な記載の釈明に当たるかについてア 本件訂正前は,同じ施工段階の作業について,請求項1には「接合」と,訂正前明細書の【0025】には「接続」とあったのであるから,本件訂正は不明瞭な記載の釈明に当たる。イ 原告は,前記第3の2⑴イのとおり主張するが,その解釈の前提に誤りがあることは前記⑴イのとおりであり,原告の主張は採用できない。⑶ 本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものであるかについて本件訂正により,特許請求の範囲の請求項1及び2の記載に変更はない。また,請求項1に記載される「接合」の意味が,訂正前明細書の【0025】における不統一な記載を請求項1における「接合」と整合させた訂正事項1によって,訂正前より拡張されたり,訂正前とは変更された内容となったと考えるべき事情はない。したがって,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものとはいえない。⑷ 小括よって,本件訂正について訂正要件違反は認められないから,取消事由2は理由がない。
4 取消事由3(サポート要件の判断の誤り)について⑴ 本件訂正発明の課題と効果についてア 本件訂正発明は,前記1⑵アのとおり,長さが2500mm程度の長尺なコーナー材を用いると,①経済的に不利であること及び②一般的な日本家屋の場合に長尺なコーナー材をそのまま取り付けることができず,カッ
5 トの際に測定が必要となり作業効率が悪くなるという課題があったのを解決するためのものである。イ(ア) 本件訂正発明の「市販のコーナー材よりも短尺に形成した内装用短尺コーナー材を,小型の搬送用車両に横置き状態に積層して所定の作業場所まで搬送する第1工程」という構成により,前記ア①の課題が解決され,かつ訂正明細書の【0008】に記載された(1)の効果が得られるものと,当業者は理解することができる。(イ) 本件訂正発明の「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これらの内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程」という構成により,前記ア②の課題が解決され,かつ訂正明細書の【0008】に記載された(2)の効果が得られるものと,当業者は理解することができる。(ウ) 第2工程において,現場ではさみ等を使って内装用短尺コーナー材を切断した上,カット面同士を対峙させて接合すると,カット面が直線的・平坦に形成できない場合があることから,接合時の端面間に隙間が生じやすいという課題が新たに生じることは,発明の詳細な説明に明示的な記載がなくても,現に作業をする当業者からは自明である。そうすると,効果(3)にいう「隙間」とは,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合に生じることが予想され,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合すること」によって「発生を防止」することができる「隙間」を意味するものであり,効果(3)にいう「十分な密着性を確保」についても,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合との比較において,「十分な密着性を確保」することができる趣旨であると,当業者は理解することができる。そして,効果(3)は,本件訂正発明が有する
5 「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線上にセットし,これらの内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する第2工程」によって切除した「カット面」について,「前記内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」という構成により,合理的に得ることができる効果であると,当業者は理解することができる。(エ) 効果(4)の記載は,効果(3)の記載に続くものであることから,効果(3)で言及する「内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合」した後に効果(4)で言及する「内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う」ことによって可能な効果として,「従来の施工と何ら遜色なく完成させることができる」ことを示すものであると,当業者は文脈から十分に理解することができる。そうすると,効果(4)は,本件訂正発明が有する「前記内装用短尺コーナー材の端部を突き合わせる際に,オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転させ,少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」及び「前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う第4工程」という構成により,合理的に得ることができる効果であると,当業者は理解することができる。(オ) 以上のとおりであって,本件訂正発明は,本件訂正発明1が有する「第1工程」ないし「第4工程」により,訂正明細書に記載され,又は自明である発明の課題を解決することができ,かつ訂正明細書に記載される発明の効果を奏するものであると,当業者が合理的に理解すること
5 ができるものであるから,発明の詳細な説明の記載により,当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。⑵ 原告の主張についてア コーナー材の端部の形状について原告は,前記第3の3⑴アのとおり,請求項1の記載は,本件訂正発明の第3工程でコーナー材を反転させて,対向する端面同士をつぎ合わせて一体化する実質的な接合が実現できず,効果(3),(4)を実現しない構成を含むので,サポート要件に適合しない旨主張する。しかし,上記主張は本件訂正発明にいう「接合」が「つぎ合わせて一体化する」ことを意味することを前提とするところ,そのように解すべき事情は見いだせない。前記⑴イ(ウ)及び(エ)のとおり,効果(3)及び効果(4)は,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させないことにより,「内装用短尺コーナー材の端部のカット面」を「対峙」させた場合との比較において「十分な密着性を確保」できること,及び,その上で通常のパテ施工を含む内装仕上げを行えば,従来と遜色ない内装仕上げを完成できることを示すものであり,本件訂正発明の効果として,内装用短尺コーナー材の端部の端面全体にわたって,密着しない箇所が全く存在しないものとしなければならないことを示すような記載は,訂正明細書中にない。原告が前記第3の3⑴アの①で挙げる例は,通常のコーナー材の端部の構造として想定し難いものであり,仮にそのようなコーナー材があったとしても,本件訂正発明の技術的意義に照らせば,本件訂正発明におけるコーナー材がそのような構造のものを含むと解する余地はない。また,原告が前記第3の3⑴アの②で挙げる切欠き端面についてみると,L字型のコーナー材の両側面に設けられた「孔部」は,コーナー材を
5 壁面の出隅部分に貼り付けた際にコーナー材の両側面の内側内の空気を排出して密着性を向上させる機能を有する一方,原材料の使用量の低減にも貢献するものであるが(【0011】),コーナー材を用いる目的が壁面の出隅部分の角部を平坦に先仕上げするため(【0002】)であることに照らせば,このような「孔部」を,原告が主張するように,コーナー材の長手方向に垂直な幅方向に細長く形成したり,必要以上に大きく形成して,あえてコーナー材の側面と壁面との間に生じる段差を増大させる必要性は認められないから,コーナー材の端部に,孔部の一部が露出した切欠きが一定程度存在したとしても,それが効果(3)や効果(4)を妨げるものになるという原告の主張は採用できない。イ コーナー材における孔部の有無について原告は,前記第3の3⑴イのとおり,施工者が使用するコーナー材に孔部4が形成されず,その側面2,3の幅寸法が,小さな値であれば,本件訂正発明の第3工程,第4工程による効果(3),(4)に対応する課題自体が存在しない旨主張する。しかし,当業者が,一方のコーナー材のオーバーラップ部分について,工場出荷時と同等の垂直なカット面を形成し得るとの原告の主張は,証拠に基づくものでなく,採用できないし,仮に,課題が生じない構造の場合が限定的に生じ得るとしても,本件訂正発明の技術的意義に照らせば,本件訂正発明におけるコーナー材がそのような課題が生じない構造のものを含むと解するべきでないことは,前記アの場合と同様である。ウ 相互に接合される各コーナー材の両端部における側面の幅寸法について原告は,前記第3の3⑴ウのとおり,本件訂正発明の請求項1及び2において,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす第1側面と第2側面との幅寸法を相違させた場合に段差が生じるが,それにもかかわらず効果(3),(4)を達成するために必要な記載が不足している旨主張する。しかし,内装用短尺コーナー材の断面L字形状をなす第1側面と第2側面との幅寸法が相違している場合には,本件訂正発明の第2工程において,2本の短尺コーナー材のうちの一方を予め反転させて直線上にセットし,これらの短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除した後,第3工程において,カット面が形成された方のコーナー材を反転させて,短尺コーナー材の端部を突き合せればよいことは,発明の詳細な説明に明示的な記載がないとしても,当業者にとって自明のことであり,この場合,2本の短尺コーナー材の幅寸法が同じ第1側面同士及び第2側面同士が突き合せされることになり,原告が主張するような段差は発生しないから,原告の主張は採用できない。エ 3本以上のコーナー材を用いる場合について原告は,前記第3の3⑴エのとおり,本件訂正発明には,3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合,オーバーラップ部分の形成及び切除を行う個所や方法が特定されておらず,効果(3),(4)が達成されない旨主張する。しかし,本件訂正発明では,3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合にも,「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」を行うのであるところ,3本以上の内装用短尺コーナー材のうち中間部に配置する内装用短尺コーナー材については,両端がいずれも他の内装用短尺コーナー材と対峙することとなるのであるから,「オーバーラップ部分を切除したカット面」を形成しないこと,すなわち切除をしないことが明らかであって,原告の主張は採用できない。オ 第3工程について原告は,前記第3の3⑴オのとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明中に,第3工程を必要とする理由等に関する記載がないとして,本件訂正発明は,第3工程に関して,サポート要件を充足しない旨主張する。しかし,現場ではさみ等を使って内装用短尺コーナー材を切断した上,カット面同士を対峙させて接合すると,工場出荷の際の端面同士を接合する場合と比較して,接合時の端面間に隙間が生じやすいという課題があることは前記⑴イ(ウ)のとおり自明であり,本件訂正発明の「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させないように接合する第3工程」に対応して効果(3)が生じ,それを前提に,「第4工程」において,効果(4)が生じるものと当業者が理解することができることは前記⑴イ(ウ)及び(エ)のとおりであるから,原告の主張は採用できない。⑶ 小括以上によれば,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載された発明であり,発明の詳細な説明の記載を踏まえると,当業者が発明の課題を解決することができると認識できる範囲のものであるということができ,サポート要件(特許法36条6項1号)を充足するから,取消事由3は理由がない。
5 取消事由4(明確性要件の判断の誤り)について⑴ 明確性要件違反の有無について本件訂正発明1は,第1工程ないし第4工程の4つの工程を有する施工方法の発明であり,各工程において用いられている用語及び各工程の関係も,平易なものであって特段不明確なものではない。そのため,本件訂正発明1は,施工方法の発明全体として見た場合,第三者の利益を不当に害するほどに,発明が不明確というものではない。また,本件訂正発明2は,本件訂正発明1の構成を全て有した上で,「内装用短尺コーナー材」の長さの範囲を,具体的に数値で特定したものであるから,本件訂正発明1と同様に,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに発明が不明確なものではない。本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。⑵ 原告の主張についてア 用語「市販のコーナー材」,「短尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」について(前記第3の4(1)ア)(ア) 「市販のコーナー材」について訂正明細書の【0004】,【0007】の記載を参酌すれば,請求項1にいう「市販のコーナー材」は,長さが2500mm程度であり,一般的には2000mm~2300mm程度である日本家屋の床側の幅木と天井との間にそのまま取り付けることができない長さのコーナー材が想定されているものと,当業者であれば理解することができ,そこで問題となるのは長さであるから,具体的な材質や形状に関してまで記載する必要はない。(イ) 「小型の搬送用車両」について訂正明細書の【0004】には「搬送作業時には,長さ2500mmのコーナー材を横置き状態に収容可能な荷台スペースを有する1ボックスワゴンタイプの車両やバンタイプの車両を使用する必要があった。」と記載されているのであるから,本件審決が認定するとおり,本件訂正発明における小型の搬送用車両としては,同所に例示されている車両に比較して,小型の車両が想定されていると,当業者は容易に理解することができる。なお,原告は,道路運送車両法で規定する「軽自動車」や「小型自動車」の概念と平仄が合わない場合がある旨主張するが,本件において「小型の搬送用車両」に該当するか否かの問題を同法上の定義と整合させなければならない理由はない。(ウ) 「横置き状態」について本件でいう「横置き状態」は,内装用短尺コーナー材を搬送用車両に乗せて運搬する場面を想定したものであり,立て掛ける「縦置き」と対比して,安定して相当数を運搬できる「横に寝かせて積層可能とした状態」であることは明らかである。(エ) 「通常のパテ施工」について請求項1の「前記内装用短尺コーナー材を接合した後に,内装用短尺コーナー材の表面に通常のパテ施工を含む内装仕上げを行う」という記載から,「通常のパテ施工」とは,「内装用短尺コーナー材の表面」に「内装仕上げ」として行われる「パテ施工」であり,当該「パテ施工」に「通常の」すなわち「普通の」という語が付記されていることが理解できるのであり,第三者に不測の不利益を生じさせるほどに不明確であるとはいえない。イ 用語「接合」について原告は,前記第3の4⑴イのとおり,請求項 1 の「接合する」という工程は,技術的に十分に特定されておらず,明細書及び図面の記載を考慮しても,当業者が請求項の記載から発明を明確に把握できない旨主張する。しかし,「接合」という用語は「つぎあわすこと」を意味する一般的な用語で(広辞苑第七版,乙1),それ自体特段不明確なものではなく,また,本件訂正発明における「接合」という構成は,請求項1の記載上も,一般的な意味とは異なる特異な解釈を要するような事情はない。ウ 3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合について原告は,前記第3の4⑴ウのとおり,本件訂正発明における第2工程及び第3工程について,3本以上のコーナー材では,オーバーラップ部分の形成方法,切除箇所,接合の場所及び方法について具体的に記載されていないから,明確でない旨主張する。しかし,3本以上の内装用短尺コーナー材のうち,両端がいずれも他の内装用短尺コーナー材と対峙することとなる,中間部に配置する内装用短尺コーナー材については,「オーバーラップ部分を切除したカット面」を形成しないことが明らかであることは前記4⑵エのとおりである。また,床側又は天井側の端に配置する内装用短尺コーナー材についても,第3工程においては「オーバーラップ部分を切除したカット面を対峙しないように反転」させることで「少なくとも前記内装用短尺コーナー材の端部のカット面を対峙させない」ようにするのであるから,片方の端部のみに「オーバーラップ部分を切除したカット面」を形成することは,明らかである。本件訂正発明において,「オーバーラップ部分を切除する第2工程」では,「所定の作業場所の床側の幅木と天井との間に,少なくとも2本の前記内装用短尺コーナー材を直線上にセット」した上で,「これらの内装用短尺コーナー材のオーバーラップ部分を切除する」ものであるから,3本以上の内装用短尺コーナー材を用いる場合にも,「オーバーラップ部分」 「切の除」は,基本的に1本の内装用短尺コーナー材の1箇所で足り,「オーバーラップ部分」の「切除」を行う箇所を複数設ける必要がない。そして,訂正明細書の【0025】及び【図6】には,3本の内装用短尺コーナー材を用いる場合について,オーバーラップ部分の切除が,2本の内装用短尺コーナー材を用いる【図1】(a)の場合と同様に,1箇所のみで足りることが,具体的に示されており,4本以上の内装用短尺コーナー材を用いた場合にも,オーバーラップ部分の切除は,内装用短尺コーナー材を2本用いる場合及び3本用いる場合と同様に,基本的に1箇所のみで足りることを,当業者であれば十分に理解することができる。また,3本以上の内装用短尺コーナー材を用いた場合について,オーバーラップ部分をカットしたカット面を対峙しないように反転させた接合を,2本の内装用短尺コーナー材を用いた【図1】(b)の場合と同様に,行うことができることも,当業者であれば十分に理解することができる。エ 原告が主張するその他の点について,いずれもその前提を欠くものとい
5 うべきであり,採用し得ないことは,前記4の関係部分における説示から明らかである。なお,原告の主張の多くは,同一の事項につき,サポート要件違反,明確性要件違反,実施可能要件違反の各要件を正確に峻別することなく重ねて述べるものであり,また,当業者であれば想定しないような例外的場面,あるいは合理的な解釈により当然に理解可能な場面をとらえて,問題点を指摘するものであり,到底採用し得ないことを付言する。⑶ 以上のとおり,本件訂正発明1及び2は,明確であり,明確性要件(特許法36条6項2号)を充足するから,取消事由4は理由がない。
6 取消事由5(実施可能要件の判断の誤り)について⑴ 実施可能要件について本件訂正発明1は,第1工程ないし第4工程の4つの工程を有する施工方法の発明であるところ,発明の詳細な説明の記載は,第1工程ないし第4工程を含む実施例について具体的な説明を記載しているから,本件訂正発明1について,当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実施をすることができるだけの説明を記載したものである。また,本件訂正発明2は,本件訂正発明1において,「内装用短尺コーナー材」の長さの範囲を具体的に数値で特定したものであるから,訂正明細書における発明の詳細な説明の記載は,本件訂正発明1と同様に,本件訂正発明2についても,当業者であれば過度の試行錯誤を要することなく発明の実施をすることができるだけの説明を記載したものである。本件審決はこれと同旨であって,誤りはない。⑵ 原告の主張についてア 「接合」による効果(3)の達成について前記5⑵イ及び4⑴イ(ウ)において説示したところに照らせば,前記第3の5⑴アの主張に理由がないことは明らかである。イ 効果(4)について前記4⑴ア(エ)において説示したところに照らせば,前記第3の5⑴イの主張に理由がないことは明らかである。ウ 抽象的な記載について原告は,前記第3の5⑴ウのとおり,訂正明細書の発明の詳細な説明における発明の実施形態について用いられている「市販のコーナー材」 「短,尺コーナー材」,「小型の搬送用車両」,「横置き状態」,「通常のパテ施工」の各用語の技術的意味に関する記載は,抽象的又は機能的であり,本件特許の発明がいかなる発明であるかを正確に把握することができない旨主張する。しかし,これらの用語の意味を当業者が明確に理解できることは前記5⑵アのとおりであり,原告の主張は前提を欠くものである。エ 内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を異ならせた場合について原告は,前記第3の5⑴エのとおり,内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法を一部異ならせた構成では,内装用短尺コーナー材1の側面2,3と壁面との間に段差が存在し,この中間部位で切除して内装用短尺コーナー材の端部を接合したとき,段差は存在したままであるので, (3)効果 ,(4)を達成できない旨主張する。しかし,本件訂正発明において,内装用短尺コーナー材の接合を行うのは,内装用短尺コーナー材の端部であるから,内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法が一部変更されているか否かは,本件訂正発明における内装用短尺コーナー材の端部の接合には関わり合いがない。仮に,本件訂正発明において,内装用短尺コーナー材の「オーバーラップ部分を切除した」際に,内装用短尺コーナー材の幅寸法を一部変更した中間部位が,「オーバーラップ部分を切除したカット面」となる場合があるとしても,「オーバーラップ部分を切除したカット面」は,本件訂正発明においては,「カット面を対峙しないように反転」させて,「カット面を対峙させないように接合」を行うから,内装用短尺コーナー材の中間部位の幅寸法の一部が変更されているか否かは,本件訂正発明における「内装用短尺コーナー材」の端部の接合に,影響するものではない。したがって,内装用短尺コーナー材の中間部位で幅寸法が一部変更されたとしても,効果(3),(4)に影響するものではなく,原告の主張は採用できない。オ 原告が主張するその他の点について,いずれもその前提を欠くものというべきであり,採用し得ないことは,前記4の関係部分及び5⑵エにおける説示から明らかである。⑶ 小括したがって,訂正明細書の発明の詳細な説明は,当業者が本件訂正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ,実施可能要件(特許法36条4項1号)を充足するから,取消事由5は理由がない。
7 結論以上のとおり,本件審決を取り消すべき違法は認められない。したがって,原告の請求は理由がないのでこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅 野 雅 之
裁判官
本 吉 弘 行
裁判官
岡 山 忠 広
(別紙1)
(別紙2)
【図1】【図2】【図3】【図4】【図5】 【図6】
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