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令和3(行ケ)10048審決取消請求事件

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裁判所 請求棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
裁判年月日 令和3年12月15日
事件種別 民事
当事者 原告
被告特許庁長官
法令 特許権
特許法29条2項3回
特許法17条の22回
キーワード 審決19回
進歩性3回
実施3回
主文 1 原告の請求を棄却する。15
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事件の概要 1 手続の経緯等 ⑴ 原告は,平成31年4月25日,「雨滴除去装置」の発明について特許出 願(特願2019-95552号。以下「本件特許出願」という。)をした が,令和2年5月20日,拒絶査定を受けたので,同年6月24日,拒絶査25 定不服審判(不服2020-10258号)を請求するとともに,特許請求 の範囲等を補正する手続補正(以下「本件補正」という。)をした。

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判決文

令和3年12月15日判決言渡
令和3年(行ケ)第10048号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 令和3年10月13日
判 決
原 告 X
被 告 特許庁長官
同指定代理人 畔 津 圭 介
10 同 藤 井 昇
同 一 ノ 瀬 覚
同 青 木 良 憲
同 山 田 啓 之
主 文
15 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
特許庁が不服2020-10258号事件について令和3年2月25日にし
20 た審決を取り消す。
第2 事案の概要
1 手続の経緯等
⑴ 原告は,平成31年4月25日,「雨滴除去装置」の発明について特許出
願(特願2019-95552号。以下「本件特許出願」という。)をした
25 が,令和2年5月20日,拒絶査定を受けたので,同年6月24日,拒絶査
定不服審判(不服2020-10258号)を請求するとともに,特許請求
の範囲等を補正する手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
⑵ 特許庁は,令和3年2月25日,本件補正を却下するとともに審判請求は
成り立たないとする審決をし,同年3月22日,その謄本が原告に送達され
た。
5 ⑶ 原告は,令和3年4月10日,上記審決の取消しを求めて本件訴えを提起
した。
2 特許請求の範囲の記載
本件特許出願に係る本件補正の前後における請求項1の記載は次のとおりで
ある。なお,本件特許出願に係る明細書を「本願明細書」という。
10 〔本件補正前〕(以下「本願発明」という。)
容器内の下側にはモータを,上側にはモニターに映像を写すことのできる
カメラを容器に固定し,モータに円形の透明なガラスを取り付け,このガラ
スの前面の下側の位置に,円弧の形をしているワイパーが,円の外から円の
中心方向に向かっているような状態で,容器に固定されている,雨滴除去装
15 置。
〔本件補正後〕(以下「本件補正発明」という。下線は補正箇所を示す。)
容器内の下側にはモータを,上側にはモニターに映像を写すことのできる
カメラを容器に固定し,モータに円形の透明なガラスを取り付け,このガラ
スと容器は接して設け,このガラスの前面の下側の位置に,円弧の形をして
20 いるワイパーが,円の外から円の中心の方に向かっているような状態で,容
器に固定されている,雨滴除去装置。
3 審決の理由の要旨
⑴ 補正の適否について
本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的
25 とするものに該当する。そこで,本件補正発明の独立特許要件充足性(同条
6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか否か)について
以下に検討する。
ア 引用発明
特開2007-110665号公報(甲4。以下「引用文献1」とい
う。)には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
5 「カメラハウジング装置1は,仕切板8とカメラ収納部7からなる容器を
有し,
清浄部6と仕切板8を介してその後部にカメラ収納部7が構成され,カ
メラ収納部7の上側にはカメラ装置10が前向きに収納され,
清浄部6には,回転軸5で回動する光学回転板3が設けられ,回転軸5
10 はカメラ収納部7側に設けた電動機に基づき連動し,
光学回転板3の前面がその回動にともない払拭されるように払拭子4を
設置し,払拭子4は前記回動にともない光学回転板3表面の水滴/水濡れ
または塵埃等による汚れを払拭し,
仕切板8の上部には光学ガラス等を用いた撮影窓2を設け,これに近接
15 して光学回転板3を配設し,
清浄部6の下部は水等の洗浄液を貯水できるものとし,光学回転板3の
回転軸5よりも下の部分と払拭子4とは前記洗浄液に浸漬され,
光学回転板3は,前記回動にともない該払拭子4で払拭洗浄され,光学
回転板3が回動して前記洗浄液面より脱出した位置で,上記払拭子4とは
20 別の払拭子4により洗浄液の水滴/水濡れを払拭し,
光学回転板3が円形であり,光学回転板3は,光学フィルタを用いない
場合には透明な光学ガラス等にしてもよく,
払拭子4は,光学回転板3の円の外から円の中心方向に向かっているよ
うな状態で,仕切り板8に固定されている,
25 ハウジングの撮影窓を直接払拭することなく水滴/水濡れまたは汚れの
蓄積を防ぐ,カメラハウジング装置1。」
イ 本件補正発明と引用発明との対比
(ア) 一致点
容器内にはモータを,上側にはカメラを容器内に配置し,モータに円
形の透明なガラスを取り付け,このガラスと容器は近接して設け,この
5 ガラスの前面の下側の位置に,水滴や汚れを拭き取る機構が,円の外か
ら円の中心の方に向かっているような状態で,容器に固定されている,
雨滴除去装置。
(イ) 相違点1
容器内にはモータを,上側にはカメラを容器内に配置していることに
10 関して,本件補正発明では,容器内「の下側」にはモータを,上側には
「モニターに映像を写すことのできる」カメラを容器に「固定」してい
るのに対して,引用発明では,「電動機」は「カメラ収納部7側に設
け」られ,「カメラ装置10」は「カメラ収納容部7の上側に前向きに
収納され」ている。
15 (ウ) 相違点2
ガラスと容器は近接して設けることに関して,本件補正発明では,ガ
ラスと容器は「接」して設けているのに対して,引用発明では,そのよ
うな特定はなされていない。
(エ) 相違点3
20 水滴や汚れを拭き取る機構が,本件補正発明では,「円弧の形をして
いるワイパー」であるのに対して,引用発明では,「払拭子4」である。
ウ 相違点の判断
(ア) 相違点1について
技術常識を踏まえると,引用発明の「電動機」や「カメラ装置」が,
25 それらの機能を安定して果たすためには,当然,容器に「固定」される
ものといえる。また,引用文献1には,背景技術として段落【000
2】に「従来,ビデオカメラ等のカメラ装置で被写体を撮影して監視/
観測/計測,さらにはこれらの記録,画像解析などを行なう装置が使用
されている。」と記載されており,引用発明のカメラ装置10を「モニ
ターに映像を写すことのできるカメラ」とすることの示唆があるといえ
5 る。
そして,引用発明の「電動機」を容器の一部であるカメラ収納部7の
どこに設けるかは,当業者が適宜なし得る程度の設計的事項にすぎない
から,引用発明の「カメラ装置」について,上記示唆を参考にするとと
もに,「電動機」と「カメラ装置」の配置に関して,バランス等を考慮
10 して,相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは,当業
者が容易に想到し得た。
(イ) 相違点2について
実公大14-18424号公報(甲6)(以下「引用文献3」とい
う。)には,以下の事項が記載されている。
15 「船車等にて前方を完全に透視し得る窓に用いるものであって,木框
1に円形の切抜孔3を穿った硝子板2を施着し,円孔3には少し大形
の円形硝子板5を当て,硝子板2と円形硝子板5との間に漏水止4を
施し,円形硝子板5はその中心にて框1に固着した丁字形の支え金6,
8に框栓7にて回転できるように支着し,支え金6,8は両面に設け,
20 その下垂せる片8の内面には,フェルトやゴム9等を固着して,硝子
面を掃除すべく,硝子板5を回転させること。」
引用文献3に記載された窓は「硝子板2と円形硝子板5間に漏水止4
を施」しているから,円形硝子板5と硝子板2が接して設けられている
ことは明らかである。また,第1図からみて,この円形硝子板5の前面
25 の下側の位置に,フェルト又はゴム9の固着された支え金8が,円の外
から円の中心方向に向かっているような状態で,木框1に固定されてい
る。
そうすると,引用文献3には,「回転する円形硝子板5は,硝子板2
に接して設けられ,この円形硝子板5の前面の下側の位置に,フェルト
又はゴム9を設けた下垂せる片8が,円の外から円の中心方向に向かっ
5 ているような状態で,木框1に固定されており,このフェルト又はゴム
9により硝子面を掃除されること」が記載されている(以下「引用文献
3記載事項」という。)。
そして,引用発明と引用文献3記載事項とは,「回転するガラスは,
板に近接して設けられ,ガラスの前面の下側の位置に,払拭子が円の外
10 から円の中心方向に向かっているような状態で固定されている」という
機能・作用において共通するから,引用発明の容器を構成する「仕切板
8」に引用文献3記載事項の「硝子板2」を対応させて適用することに
より,「ガラスと容器は接して設け」ることとして,相違点2に係る本
件補正発明の発明特定事項とすることは,当業者が適宜なし得た。
15 (ウ) 相違点3について
特開昭51-58230号公報(甲5)(以下「引用文献2」とい
う。)には,「ワイパー機構を採り入れた自動車用サイドミラーに関し,
サイドミラーは高々100RPM程度の低速回転を行なう回転ミラーの
部分と,ミラー表面を掃払するワイパー機構の部分とから成り,ワイパ
20 ー機構は,円弧状に形成されたワイパーブレード3を有する,自動車用
サイドミラー」が記載されている(以下「引用文献2記載事項」とい
う。)。
引用発明と引用文献2記載事項とは,回転する部材の水滴や汚れを拭
き取る機構において共通するから,引用発明の「払拭子4」に引用文献
25 2記載事項を適用することにより,「円弧の形をしているワイパー」と
して相違点3に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは,当業者
が容易に想到し得た。
(エ) 効果について
本件補正発明の効果について検討しても,引用発明,引用文献2記載
事項及び引用文献3記載事項に基いて予期される以上の格別のものがあ
5 るとはいえない。
エ 上記アないしウのとおり,本件補正発明は,引用発明,引用文献2記載
事項及び引用文献3記載事項に基いて,当業者が容易に発明をすることが
できたから,進歩性を欠き,特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができない。
10 よって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法1
26条7項の規定に違反するので,同法159条1項において読み替えて
準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
⑵ 本願発明について
本件補正は却下されたので,本願発明は,前記2記載の本件補正前のとお
15 りのものと認められる。そこで検討するに,本願発明は引用発明との対比に
おいて,上記⑴イ記載の相違点1及び3を有するが,上記⑴ウのとおり,い
ずれも当業者が容易に想到し得た構成である。
したがって,本願発明は,引用発明に基いて当業者が容易に発明をするこ
とができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができな
20 い。
4 原告の主張する取消事由
⑴ 取消事由1
一致点・相違点の認定の誤り,容易想到性判断の誤り
⑵ 取消事由2
25 相違点3の判断の誤り
⑶ 取消事由3
顕著な作用効果の看過
第3 当事者の主張
1 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り,容易想到性判断の誤り)につい

5 〔原告の主張〕
⑴ ガラスと容器との位置関係について
審決は,本件補正発明の「ガラスと容器は接して設ける」ことと,引用発
明の「仕切板8の上部には光学ガラス等を用いた撮影窓2を設け,これに近
接して光学回転板3を配設する」こととは,「近接して設ける」点において
10 共通すると認定した。
しかしながら,「接して」設けることと「近接して」設けることとは構成
上相違するから,審決の上記認定は誤りである。
⑵ ワイパーの向きについて
ア 審決は,本件補正発明におけるワイパーの固定構造と,引用発明の払拭
15 子の固定構造とは,「水滴や汚れを拭き取る機構が,円の外から円の中心
の方に向かっているような状態で,容器に固定されている」点において共
通すると認定した。
しかしながら,本件補正発明におけるワイパーは「円の中心『の方』に
向かって」固定されているのに対し,引用発明の払拭子は「円の中心に向
20 かって」固定されている。すなわち,本件補正発明におけるワイパーは,
円の中心そのものではなく,中心「の方」に向かっている点で引用発明の
払拭子と相違するのであり,審決には,この相違(以下「相違点A」とい
う。)を看過した誤りがある。
イ 相違点Aの看過は,次のとおり,審決の結論に影響を及ぼす誤りである。
25 (ア) 構成の非容易想到性
引用文献2の記載によれば,「円弧状に形成されたワイパーブレー
ド」の先端は円の中心そのものに接しているから,引用発明に引用文献
2に記載された事項を適用しても,相違点Aに係る本件補正発明の構成
に至らない。
(イ) 顕著な作用効果
5 払拭子が円の中心そのものに向かっている引用発明では,円の中心付
近の雨滴を直角に受けて押し出すのに対して,本件補正発明では,ワイ
パーが中心付近の雨滴を斜めに受けて押し出すので,外側へも押し出す
作用が生まれ,円形の透明なガラス全面を効率良く払拭することができ,
ワイパーへの負荷を少なくすることもできる。本件補正発明の相違点A
10 に係る構成は,このように,従来にない大雨にも対処できるという新規
かつ顕著な作用効果を有する。
〔被告の主張〕
⑴ ガラスと容器との位置関係について
「近接して」いることは「接して」いることの上位概念であるから,引用
15 発明の「近接して」と本件補正発明の「接して」とが「近接して」いる点に
おいて共通するとした審決の判断に誤りはない。また,共通するとはいえな
いとしても,審決は,本件補正発明では「接して」いるのに対して,引用発
明ではそのような特定はされていない点を相違点2として認定し,その容易
想到性を判断しているのであるから,位置関係に関する原告の主張は審決の
20 結論に影響しない。
⑵ ワイパーの向きについて
本件補正発明のワイパーの「円の中心の方に向かっている」について,円
の中心そのものに向かっている態様が除外されていると理解する理由はない
から,引用発明の払拭子の「円の中心方向に向かっている」と相違しない。
25 2 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
審査官及び審判官は,本願発明に接したことにより,円弧の形をしたワイ
パーが払拭効果を上げることを知り,円弧の形をしたワイパーを検索するこ
とによって,引用文献2を発見することができた。
これに対し,本件出願時の当業者は,本願発明に接していないのであるか
5 ら,円弧の形をしたワイパーが払拭効果を上げることを知らない。そうする
と,当業者は,円弧の形をしたワイパーを検索することはなく,引用文献2
を発見することができないから,引用文献2に記載された事項を引用発明に
適用することもできない。
したがって,相違点3の判断は,引用文献2を容易想到性の判断に用いた
10 ことにおいて誤っている。
〔被告の主張〕
引用発明に触れた当業者であれば,車両に用いられるワイパーに関する引
用文献2に接する機会は十分にあるといえるから,引用文献2を容易想到性
の判断に用いた審決の判断に誤りはない。
15 3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
〔原告の主張〕
引用文献をどのように組み合わせても,本件補正発明の,大雨の時でも対
処できる機能を有することはできない。引用文献に開示された払拭子やワイ
パーは雨滴を押し退けているのに対して,本件補正発明では,「円弧の形を
20 している」ワイパーが,円の中心「の方」に向かって固定されているため,
雨滴を斜めに受けることにより,雨滴に外側へ動く作用を促し,遠心力との
相乗効果により,払拭効果が格段に上がっており,大雨の時でも対処できる
機能を有する。
審決には,この顕著な作用効果を看過した誤りがある。
25 〔被告の主張〕
ワイパーによって拭かれる面とワイパーとが相対的に回転する際に,ワイ
パーが水分を斜めに受けて外側へ押し出す作用が生まれることは,その構成
から自明の効果である。また,水滴が付着した面が回転することで水滴が遠
心力により外側へ動くことも,その構成から自明の効果である。そして,こ
れらの作用により水滴が外側へ動くことで水滴が効率よく払拭されるから,
5 ワイパーの負荷が少なくなることは明らかである。
したがって,原告が主張する作用効果は,引用発明及び引用文献2記載事
項から予期される効果に対して,際立って優れた効果あるいは異質な効果と
はいえない。
第4 当裁判所の判断
10 1 本願発明及び本件補正発明
⑴ 特許請求の範囲
本願発明及び本件補正発明の特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとお
りである。
⑵ 本願明細書の記載
15 本願明細書には次のとおりの記載がある(本件補正後の記載を含む。)。
ア 技術分野
「本発明は,車等で走行中,降雨による視界の妨げを解消する装置に関す
るものである。」(段落【0001】)
イ 背景技術
20 「従来,車等で走行中に雨が降ると,ワイパーを動かし,ガラスに付いた
雨滴を押し退ける方法を採っているが,大雨の時は効果が弱くなる。」
(段落【0002】)
ウ 発明が解決しようとする課題
「ワイパーが前面を左右に動くので視界の邪魔になり,その上,ワイパー
25 の届かない所もある。また,大雨の時は,ワイパーの動く速さに限度があ
り,雨を払拭しきれない。本発明は,この問題点を解決するために成され
たものである。」(段落【0003】)
エ 課題を解決するための手段
「その手段は,図1のような円形で透明なガラス(1)を作り,このガラ
スを回す為にモータ(2)に取り付け,このモータ(2)を容器(3)の
5 下側に固定する。」(段落【0004】)
「次に,容器(3)の上側に監視カメラ等のモニターに映像を写すことの
できるカメラ(4)を固定する。」(段落【0005】)
「最後に,ガラス(1)の前面の図2の位置に円弧の形をしたワイパー
(5)を容器(3)に固定する。以上の構成により成る ,雨滴除去装
10 置。」(段落【0006】)
オ 発明の効果
「1.従前の,左右に動くワイパーと異なり,一方向に回転させる動きに
なるので,動力の効率が良くなり,そのためガラスを速く回転させること
ができる。
15 2.ワイパーを動かすのでは無く,ガラスの方を動かすので,固定され
ているワイパーにより,雨滴の切れる場所を一ヵ所に集中することが出来,
ガラスの上側は,綺麗に見ることができる。
3.図2の位置に,円弧の形をしたワイパーを固定すると,従前のワイ
パーのように雨滴を押し退けるのでは無く,雨滴の動きを斜めに受けて押
20 し出すので,円の外側へも押し出す作用ができる。その上,円の外側に近
づく程,斜めになる角度も大きくなり,外側へ押し出す力も大きくなる。
4.フロントガラスに比べ,円形のガラスは小さいので,雨滴を払拭す
る必要のある面積も少なくて良い。
5.円形のガラスは,回転しているので雨滴に遠心力が働き,外側へ動
25 くので,払拭効果を高めることになる。
以上の理由により,雨滴除去装置は,大雨,嵐の時にも対処することが
できる。」(段落【0007】)
カ 発明を実施するための最良の形態
「モータ(2)は,雨天の際の雨滴の量によって,回転の速さを変える必
要があるので,変速機能を有したモータを使用する。」(段落【000
5 8】)
「カメラ(4)は,周囲が暗くなるとセンサーが自動感知して,赤外線撮
影に切り替わるカメラを使用する。ワイヤレスカメラは,映像が遅れるの
で使用しない。」(段落【0009】)
「ワイパー(5)の構成は,従前のワイパー(ワイパーアーム,ブレード,
10 ゴム)と同様にする。」(段落【0010】)
「容器(3)は,防塵,防水,霜取り設備を有した容器を使用する。」
(段落【0011】)
「降雨の際,運転手はモニターを見ながら運転をすることになるが,モニ
ターに,画面の明るさを調整する機能,赤外線撮影を写し出す機能等を有
15 するモニターを使用することにより,便利になる面もある。」(段落【0
012】)
キ 産業上の利用可能性
「雨滴除去装置は,自動車に使用することを前提に記載致しましたが,電
車,船,ヘリコプター,飛行機等の乗り物,また,管制塔,展望台,監視
20 塔等の建物にも使用することができるため,普及率は高いと考えておりま
す。」(段落【0013】)
⑶ 本件補正発明の内容
以上によれば,本願発明及び本件補正発明の内容は,次のとおりと認めら
れる。
25 本願発明は,降雨による視界の妨げを解消する装置に関するものであり,
従来,ワイパーを動かし,ガラスに付いた雨滴を押し退ける方法では,ワイ
パーが前面を左右に動くので視界の邪魔になり,ワイパーの届かない所もあ
り,大雨の時は,雨を払拭しきれないという問題があることから,円形で透
明なガラスをモータに取り付けて回し,このモータを容器の下側に固定し,
容器にモニターに映像を写すことのできるカメラを固定し,ガラスの前面に
5 円弧の形をしたワイパーを容器に固定する構成により成る,雨滴除去装置と
し,これにより,一方向に回転させる動きになるので,動力の効率が良くな
り,そのためガラスを速く回転させることができ,固定されているワイパー
により,雨滴の切れる場所を一か所に集中することができ,ガラスの上側は,
綺麗に見ることができ,円弧の形をしたワイパーを固定すると,雨滴の動き
10 を斜めに受けて押し出すので,円の外側へも押し出す作用ができ,円形のガ
ラスは小さいので,雨滴を払拭する必要のある面積も少なくて良く,さらに,
ガラスは,回転しているので雨滴に遠心力が働き,外側へ動くので,払拭効
果を高めることになり,これらの理由により,大雨,嵐の時にも対処するこ
とができるという発明。
15 2 引用文献の記載
⑴ 引用文献1
ア 引用文献1(甲4)には,次の記載がある。
(ア) 特許請求の範囲
【請求項1】
20 「開口孔を有する前面板の裏側に設けた清浄部とその後部にカメラ装置
を収納するカメラ収納部とを備えたカメラハウジング装置であって,
前記清浄部には電動機で回動する光学回転板とその前面または両面が
払拭されるように設置した1または複数個の払拭子とを備え,前記カメ
ラ収納部と清浄部との間に光学ガラス等を用いた撮影窓を有する仕切板
25 を備え,前記カメラ装置の撮影光軸は前記それぞれ撮影窓と光学回転板
の面の一部分と開口孔とを通して被写体を撮影し,
前記払拭子は前記回動にともない光学回転板表面の水滴/水濡れまた
は塵埃等による汚れを払拭することを特徴とするカメラハウジング装
置。」
(イ) 技術分野
5 「本発明は,カメラ装置を収納し撮影窓を通して被写体を撮影するカメ
ラハウジング装置に係り,撮影画像に影響せずに撮影窓を清浄に保つ手
段に関する。」(段落【0001】)
(ウ) 背景技術
「従来,ビデオカメラ等のカメラ装置で被写体を撮影して監視/観測/
10 計測,さらにはこれらの記録,画像解析などを行なう装置が使用されて
いる。これらの屋外における撮影時には,塵埃・風雨または日照などに
よるカメラ装置の電気/機械的弊害の防護のため,また,撮像レンズ面
に付着する水滴または汚れにともなう光学的障害の対処のため,箱状の
カメラハウジングに収納して撮影する場合が多い。そしてその撮影は,
15 その前面に設けた光学ガラス等を用いた撮影窓を通して行なわれる。」
(段落【0002】)
「このようなカメラハウジングは,通常,その撮影窓の塵埃等による汚
れ,または雨等による水滴,水濡れなどを払拭して光学的障害を除くた
めのワイパー手段を設けている。これは,例えば,車両用等のワイパー
20 等に基づくものであって,その撮影窓面を電動で円弧状に往復移動する
アームに設けた払拭子で水滴/水濡れなどを払拭する。」(段落【00
03】)
「また,カメラ装置の撮影レンズの直前に,その中心を軸に電動機等に
より高速で回動する光学ガラス等を用いた回転板を設置し,そして,そ
25 の回転板の周辺の一部を通して被写体を撮影する手段(特許文献1参
照)も提案されている。これは,その回転板の表面に付着した水滴を遠
心力により跳ね飛ばして雨滴が直接に撮影レンズに付着するのを防ぐも
のである。」(段落【0004】)
(エ) 発明が解決しようとする課題
「上述したような,ワイパー手段を備えたカメラハウジング装置では,
5 円弧状に往復移動する払拭子が撮影されて画面に現われることになる。
これは,監視/観測すべき画面が見づらいだけでなく,計測または画像
解析などのための撮影では生成される画像データ等に影響する。」(段
落【0005】)
「また,上述した回転板による手段では,降雨時等にその表面に付着し
10 た水滴等を遠心力により跳ね飛ばすとしても,降雨時以外には回転体は
塵埃その他により次第に汚れが蓄積し,光学的な支障を及ぼすことにな
る。」(段落【0006】)
「本発明による装置は,このような背景になされ,カメラハウジングの
前面板に設けた開口孔とその内部に備えた撮影窓との間に回動する光学
15 回転板を設け,撮影はこれらを通して行なわれる。そして,光学回転板
の回動にともないその表面を払拭する払拭子により水滴/水濡れまたは
汚れによる光学的障害を防ぐことにより,払拭子が撮影されて画面が見
ずらかったり,上述の画像データ等に影響することのないカメラハウジ
ング装置の提供を目的とする。」(段落【0007】)
20 (オ) 課題を解決するための手段
「本発明は,上記目的を達成するため,次の課題解決手段によりこの問
題を解決した。本発明のテレビジョン画像合成装置の課題解決の手段は,
開口孔を有する前面板の裏側に設けた清浄部とその後部にカメラ装置を
収納するカメラ収納部とを備えたカメラハウジング装置であって,前記
25 清浄部には電動機で回動する光学回転板とその前面または両面が払拭さ
れるように設置した1または複数個の払拭子とを備え,前記カメラ収納
部と清浄部との間に光学ガラス等を用いた撮影窓を有する仕切板を備え,
前記カメラ装置の撮影光軸は前記それぞれ撮影窓と光学回転板の面の一
部分と開口孔とを通して被写体を撮影し,前記払拭子は前記回動にとも
ない光学回転板表面の水滴/水濡れまたは塵埃等による汚れを払拭する
5 ことを特徴とする(請求項1)。」(段落【0008】)
「これにより,光学回転板の回動にともないその表面を払拭する払拭子
により水滴/水濡れまたは汚れの蓄積を防いで光学的障害を排除し,し
かも,払拭子が撮影されて画面が見ずらかったり,上述の画像データ等
に影響することのないカメラハウジング装置を提供できる。」(段落
10 【0009】)
「また,第2の課題解決手段としては,前記仕切板に通風孔を設け前記
収納部を介し清浄部に空気を圧入して前記開口孔より排出する(請求項
2)。従って,霧状の水滴または塵埃/雪等の開口孔からの侵入を防止
できる。また,前記排出によりカメラハウジング装置内の熱を放出する
15 こともできる。」(段落【0010】)
「さらに,第3の課題解決手段は,光学回転板の前記回転軸よりも下の
部分と払拭子とはそれぞれ前記清浄部に貯水された水等の洗浄液に浸漬
されて前記回動にともない該払拭子で払拭洗浄され,前記光学回転板の
面の一部分はそれが洗浄液より脱出した位置で上記払拭子とは別の払拭
20 子により洗浄液の水滴/水濡れが払拭された面である(請求項3)。こ
れにより,水滴または塵埃による汚れが光学回転板に蓄積しないよう洗
浄しながら撮影できる。」(段落【0011】)
「本実施例のカメラハウジング装置は,図1,図2に示すように,開口
孔12を有する前面板11の裏側に設けた清浄部6とその後部にカメラ
25 装置10を収納するカメラ収納部7とを備えたカメラハウジング装置1
であって,清浄部6には電動機で回動する光学回転板3とその前面また
は両面が払拭されるように設置した1または複数個の払拭子4とを備え,
カメラ収納部7と清浄部6との間に光学ガラス等を用いた撮影窓2を有
する仕切板8を備え,カメラ装置10の撮影光軸はそれぞれ撮影窓2と
光学回転板3の面の一部分と開口孔12とを通して被写体を撮影し,払
5 拭子4は前記回動にともない光学回転板3表面の水滴/水濡れまたは塵
埃等による汚れを払拭することを特徴とする。」(段落【0016】)
「上記構成の動作を図1および図2を参照して説明する。図2に示すカ
メラハウジング装置1は,その前面である前面板11の上部に開口孔1
2が設けられ,その前面板11の裏側には,図1に示すような清浄部6
10 が備えられる。図1において,カメラハウジング装置1は,清浄部6と
仕切板8を介してその後部にカメラ収納部7が構成され,これにはカメ
ラ装置10が前向きに収納される。これにより,屋外での撮影では,塵
埃・風雨または日照などによるカメラ装置10の電気/機械的弊害を防
護し,また,撮像レンズ面に付着する水滴または汚れにともなう光学的
15 障害に対処しながら撮影できる。」(段落【0017】)
「また,この清浄部6には,回転軸5で回動する光学回転板3が設けら
れ,回転軸5はカメラ収納部7側に設けた電動機に基づき連動する。こ
の場合,光学回転板3は,これに点線の矢印で示す方向に前記回動する
ものとする。そして,光学回転板3の前面がその回動にともない払拭さ
20 れるように払拭子4を設置する。また,前記電動機のオン/オフ動作ま
たは速度を調整してもよい。さらに,払拭子4は一個でも複数でもよく,
一組等の払拭子4で光学回転板3の両面を払拭してもよい。」(段落
【0018】)
「ここで,仕切板8の上部には光学ガラス等を用いた撮影窓2を設け,
25 これに近接して光学回転板3を配設する。また,カメラ装置10の撮影
レンズに基ずく撮影光軸は,それぞれ撮影窓2と,光学回転板3の上部
部分と,及び図2の開口孔12とを通し,必要とする視野角で被写体を
撮影する。このようにして,屋外での撮影では,塵埃・風雨または日照
などによるカメラ装置10の電気/機械的弊害を防護し,水滴/水濡れ
または塵埃等が撮影窓2に直接付着するのを防ぐ。そして,光学回転板
5 3は,前記回動にともない光学回転板3の前面または両面の水滴/水濡
れまたは塵埃等による汚れを払拭子4で払拭することにより,撮影窓2
および撮像レンズ9の光学的障害に対処しながら撮影できる。」(段落
【0019】)
「次に,前述の第2の課題解決手段によれば,仕切板8に通風孔を設け
10 カメラ収納部7を介し清浄部6に空気を圧入して前記開口孔より排出す
る。すなわち,モーターファンその他により,カメラ収納部7に空気圧
を加える手段をカメラ収納部7またはその外部に備え,仕切板8の撮影
窓2の上部等に設けた通風孔を介し,前記空気圧によりカメラ収納部7
から清浄部6に空気を流入させる。これにより,図2の開口孔12より
15 空気が排出することにより霧状の水滴または塵埃等の侵入を防止し,ま
た,前記排出によりカメラハウジング装置内の熱を放出できる。さらに,
カメラ収納部7から清浄部6への前記空気の流入は,撮影窓2に添って
エアカーテン効果となるように流入することが望ましい。これにより,
特に霧状の水滴または塵埃等に対する防御効果がある。」(段落【00
20 20】)
「また,第3の課題解決手段によれば,光学回転板3の回転軸5よりも
下の部分と払拭子4とはそれぞれ清浄部6に貯水された水等の洗浄液に
浸漬されて前記回動にともない該払拭子で払拭洗浄され,光学回転板3
の面の一部分はそれが洗浄液より脱出した位置で上記払拭子とは別の払
25 拭子により洗浄液の水滴/水濡れが払拭された面である。」(段落【0
021】)
「これは,清浄部6の下部は水等の洗浄液を貯水できるものとし,光学
回転板3の回転軸5よりも下の部分と払拭子4とは前記洗浄液に浸漬さ
れる。この洗浄液は別途容器に入れて容器ごと装填するようにすれば,
洗浄液の交換が容易となる。これにより,光学回転板3は,前記回動に
5 ともない該払拭子で払拭洗浄され,光学回転板3が回動して前記洗浄液
面より脱出した位置で,上記払拭子とは別の払拭子により洗浄液の水滴
/水濡れを払拭するものである。また,前記払拭洗浄および別の払拭子
による洗浄液の水滴/水濡れの払拭は,光学回転板3の両面についても
行なうことが出来る。」(段落【0022】)
10 「さらに,第4の課題解決手段は,撮影窓2または光学回転板3は光学
フィルタの作用を有するものである。すなわち,撮影窓2または光学回
転板3は,単なる透明な光学ガラス等によるものではなく,光学フィル
タを用いることができる。これにより,例えば紫外線/赤外線その他の
光学フィルタとして兼用できる。」(段落【0023】)
15 「このようにして,本発明は,ハウジングの撮影窓を直接払拭すること
なく水滴/水濡れまたは汚れの蓄積を防いで光学的障害に対処しながら
撮影でき,しかも,円弧状に往復移動する払拭子が撮影されて撮像画面
が見ずらかったり,観測データに影響することのないカメラハウジング
装置を提供できる。」(段落【0024】)
20 イ 引用発明の内容
以上の記載によれば,引用発明の内容は,前記第2,3⑴アに記載のと
おりであると認められる。
⑵ 引用文献2
ア 引用文献2(甲5)には,次の記載がある。
25 「本発明はワイパー機構を採り入れた新規な自動車用サイドミラーに関す
るものである。」(公報1頁左下欄13~14行)
「本発明になるサイドミラーは高々100RPM程度の低速回転を行なう
回転ミラーの部分と,ミラー表面を掃払するワイパー機構の部分とから
成る。」(公報1頁右下欄8~11行)
「さて1図は本発明になるサイドミラーの主要部(モーター等は省略)を
5 表わした組立図であり,判り易くするためケース11および回転軸10
の一部を切断してある。次に本体の一部を回転ミラーの部分とワイパー
機構の部分とに分離して図示したものが各々2図,3図である。回転ミ
ラー1とカム2とはいずれもモーター若しくは減速機付モーターと連結
された回転軸10に固定されており40~100RPM程度の低速定回
10 転を行なう。一方ケース11に固定された軸受20の中にはワイパー取
付軸4が通つているが,この4にはワイパーブレード3,および二本の
アーム5,6が取り付けられている。アーム5の先端は適宜な張力を与
えるスプリング9を介してケース11へ接続されている。また先端をL
字形に曲げられたアーム6にはカム面との接触を滑らかにするためのブ
15 ツシユ(又はベアリング)7がはめ込まれている。以上の機構により,
カム2が低速定回転をする場合,ブツシユ7はスプリング9の力により
カムの面に滑らかに接触し続け,これに伴つてワイパーブレード3はカ
ムの一回転につき一回の割合で首振り運動を行なう。またカムに二箇所
若しくはそれ以上の切れ込みを入れてカム一回転当りのワイパーブレー
20 ドの首振り回数を適宜増加させることも,あるいは又回転ミラーの二回
転以上に対しカムが一回転する様にミラーとカムとを連結構成する事に
より,ミラーの二回転若しくはそれ以上に対して一回の割合でブレード
に首振り運動をさせる事も可能である。次に4図,5図はワイパーブレ
ード3とカム2との間の相互運動及び相対位置を示す略図であり,1図
25 において回転ミラー1の側から本体を眺めた場合のものである。図中の
二点鎖線はミラー1の外周を示す想像線である。さて4図は機構が初期
位置にある場合(即ち1図の示す状態)を示す。円弧状に形成されたワ
イパーブレード3は,この状態にあつてはミラー1の外側に位置してお
り鏡面視野が3によつて妨げられる事はない。次に操作スイツチ18に
より電源が入れられミラーが(即ちカムが)時計廻りに回転しはじめた
5 直後,ブレード3は立ち上がりその先端は鏡面の中心に達する(5図)。
ミラーは回転を続け,それとともにミラー上の雨滴等はブレード3にか
き集められる。更にミラーが回転し機構が初期位置(1図,4図の示す
状態)に戻る直前ブレード3は鏡面外へと滑らかに移動するが,この際
ブレードでかき集められた雨滴等は鏡面周辺へ搬送排除される。以上が
10 本機構の一行程である。6図はミラー1とワイパーブレード3との相互
関係を説明するためのものであり,判り易くするためミラーを静止させ
て考えワイパーブレードの方を相対的に動かした場合の図となつている。
図中Aが初期位置(1図,4図の示す状態)に対応し,ミラーの回転に
従つて(即ち6図にあつてはワイパーブレードの回転に従つて)B,C,
15 D・・・・・・と対応する。Uよりワイパーブレードは次第に鏡面外へ
と移動をし始めV,W,Xを経て最後にAへ戻り一行程を完了する。前
述の一行程により鏡面の全面がブレードにより掃引されるのは6図より
明白である。」(公報2頁左上欄9行~右下欄7行)
「サイドミラー全体をコンパクトにするためには本図面で示した如き円弧
20 状のワイパーブレードを採用するのが望ましいが,それ以外の形状をも
つてしても本発明は実施され得る。」(公報3頁左上欄9~13行)
イ 引用文献2に記載された技術事項
以上の記載によれば,引用文献2には,前記第2,3⑴ウ(ウ)記載の引
用文献2記載事項のとおりの技術事項が記載されていると認められる。
25 ⑶ 引用文献3
ア 引用文献3(甲6)には,次の記載がある。
「實用新案ノ性質,作用及効果ノ要領 本案ハ木框(1)ニ圓形ノ切抜孔
(3)ヲ穿テル硝子板(2)ヲ施着シ圓孔(3)ニハ少シ大形ノ圓形硝子
板(5)ヲ當テ硝子板(2)ト圓形硝子板(5)トノ間ニ適宜ノ漏水止
(4)ヲ施シ圓形硝子板(5)ハ其中心ニテ框(1)ニ固着セル丁字形ノ
5 支ヘ金(6)(8)ニ樞栓(7)ニテ囘轉シ得ヘク支着シ支ヘ金(6)
(8)ハ兩面ニ之レヲ設ケ其下垂セル片(8)ノ内面ニハ「フエルト」又
ハ「ゴム」(9)等ヲ固着シテ硝子面ヲ掃除スヘク圓形硝子板(5)ニハ
框(1)ニ樞着セル車輪(10)ヨリ「ベルト」(11)ヲ掛ケ手動ニヨ
リ車輪(10)ヲ囘轉セシムルコトニヨリ硝子板(5)ヲ囘轉セシムヘク
10 ス
本案ハ船車等ニテ前方を完全ニ透視シ得ル窓ニ用フルモノニシテ外方ヨリ
ノ汚レ及内方ヨリノ曇リヲ自動的ニ掃除シテ透視ヲ完全ナラシムルモノナ
リ」(1頁10行~16行)
イ 引用文献3に記載された技術事項
15 以上の記載によれば,引用文献3には,前記第2,3⑴ウ(イ)記載の引
用文献3記載事項のとおりの技術事項が記載されていると認められる。
3 取消事由1(一致点・相違点の認定の誤り,容易想到性判断の誤り)につい

⑴ ガラスと容器との位置関係について
20 ア 本件補正発明における「接して」について
「接する」とは「互いに隔てなくつながる」ことであるから(広辞苑第
5版),本件補正発明の「ガラスと容器は接して設け」は,「ガラス」と
「容器」とが互いに隔てなくつながるように設けられていることを意味す
ると理解できる。
25 また,本件補正発明における「容器内の下側にはモータを」「容器に固
定し,モータに円形の透明なガラスを取り付け」との文言から,本件補正
発明における「ガラス」は「モータ」に取り付けられて回転するものであ
ること,また,「モータ」は「容器」に固定されていることが分かり,こ
れらから,「ガラス」と「容器」は相対回転するものであることが理解で
きる。
5 そうすると,「ガラス」と「容器」が「互いに隔てなくつながる」とは
いっても,両者の相対回転を許容する程度のつながりでなければならない
から,両者は完全に密着しているわけではない(厳密にいえば隙間が存在
する)と解される。
イ 引用発明における「近接して」について
10 引用文献1の「仕切板8の上部には光学ガラス等を用いた撮影窓2を設
け,これに近接して光学回転板3を配設」との記載における「近接」は,
撮影窓2と光学回転板3との位置関係を表している。
そして,引用文献1の段落【0024】の記載によれば,引用発明は,
ハウジングの撮影窓を直接払拭することなく水滴/水濡れまたは汚れの蓄
15 積を防いで光学的障害に対処しながら撮影できるという作用又は効果を奏
するものであるから,光学回転板3とハウジングの撮影窓2との間を大き
く隔てることや,両者が相対回転することができない程度に密着させるこ
とは,想定されていないと解される。引用発明におけるこのような距離は,
光学回転板3とハウジングは相対回転が可能な程度に互いに隔たりなくつ
20 ながっていることと実質的に同様の距離を包含しているということができ
る。
ウ 本件補正発明の「接して」と引用発明の「近接」について
上記ア及びイによれば,引用発明における光学回転板3とハウジング
(撮影窓2)が「近接」することは,本件補正発明のガラスと容器が「接
25 して」いることと同程度の距離を包含する概念であると解することができ
るから,両者は実質的に相違しない。したがって,審決が,これを相違点
として認定しなかったことに誤りはない。
⑵ ワイパーの向きについて
ア 本件補正発明における「円の中心の方に向かって」について
「方」とは「向き」を意味すること(広辞苑第5版)を踏まえると,
5 「円の中心の方に向かっている」は「円の中心の向きに向かっている」と
同義であるから,本件補正発明は,円の中心そのものに向かっている態様
を除外していない(包含する)ものと解される。
原告は,本件補正発明の図面において,ワイパーの先端が円の中心から
外れていることをもって,本件補正発明の「円の中心の方に向かって」は,
10 円の中心そのものに向かっている態様を包含しない旨主張する。しかしな
がら,発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書
の特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきものであり,本件補正発明
の要旨認定に当たって図面の記載に限定されるべき特段の事情も見当たら
ないから,原告の主張は採用することができない。
15 イ 引用発明における「円の中心方向に向かって」について
「方向」は「むき」を意味するから(広辞苑第5版),引用発明の払拭
子4が「円の中心方向に向かっている」ことも,「円の中心の向きに向か
っている」ことと同義である。
ウ 本件補正発明の「中心の方」と引用発明の「中心方向」について
20 上記ア及びイによれば,本件補正発明においてワイパーが「円の中心の
方に向かっている」ことと,引用発明において払拭子が「円の中心方向に
向かっている」こととは,相違しない。
したがって,審決が,これを相違点として認定しなかったことに誤りは
ない。
25 4 取消事由2(相違点3の判断の誤り)について
⑴ 特許法29条2項にいう「特許出願前にその発明の属する技術の分野にお
ける通常の知識を有する者」(いわゆる「当業者」)は,当該発明の属する
技術分野の出願時の技術水準を構成する事項の全てを知識として活用できる
者と理解すべきである。
これを本件についてみると,引用発明及び引用文献2記載事項は,いずれ
5 も,雨滴を拭き取るワイパーという本件補正発明と同様の技術分野に関する
技術であるから,当業者は,これらを自らの知識とした上で通常の創作能力
を発揮することができる。そして,引用発明と引用文献2記載事項とは,回
転する部材の水滴や汚れを拭き取る作用・機能においても共通するから,引
用文献2記載事項の引用発明への適用を動機付けられることは,当業者の通
10 常の創作能力の発揮であるといえる。よって,相違点3に係る審決の判断に
誤りはない。
⑵ この点に関し,原告は,本件出願時の当業者は,本願発明に接していない
のであるから,円弧の形をしたワイパーを検索することはなく,引用文献2
を発見することができず,また,引用発明に引用文献2に記載された事項を
15 適用する動機付けはない旨主張する。
しかしながら,上記のとおり,当業者とは,本件補正発明の属する技術分
野であるワイパーについての出願時の技術水準にある事項の全てを知識とし
て活用できる者なのであるから,技術水準を構成する円弧の形をしたワイパ
ーに係る先行技術(引用文献2記載事項)を調査し把握し得ることはもとよ
20 り,この先行技術を引用発明に適用することを動機付けられ,相違点3の構
成を容易に想到し得るというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
5 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について
⑴ 本願明細書(甲1)の段落【0007】には,本件補正発明が雨滴を円の
25 外側へも押し出す作用を奏する機序について,「円弧の形をしたワイパーを
固定すると,従前のワイパーのように雨滴を押し退けるのでは無く,雨滴の
動きを斜めに受けて押し出すので,円の外側へも押し出す作用ができる」と
記載されている。こうした機序,すなわち,円弧上のワイパーを採用すると,
雨滴の動きを斜めに受けて押し出すことができるという作用効果を奏するこ
とは,特開2016-137235公報(乙3)の段落【0050】にも
5 「ワイパー65により拭かれた水分は,円弧状をなすワイパー65の形状に
沿って外周部側へ押しやられやすくなる。」との記載があるように,本件出
願時の技術常識といえる。
そうすると,本件補正発明の作用効果は,本件補正発明の構成によって自
ずと奏される予測可能な作用効果であるから,発明の進歩性を基礎付けるに
10 足る顕著な作用効果とはいえない。
⑵ この点に関し,原告は,本件補正発明の構成により,水滴が外側へ動くこ
とで,水滴が効率よく払拭されるから,ワイパーの負荷が少なくなるとも主
張する。
しかしながら,引用文献1の段落【0004】に「回転板の表面に付着し
15 た水滴を遠心力により跳ね飛ばして雨滴が直接に撮影レンズに付着するのを
防ぐ」と記載されるように,水滴が付着した面が回転することで水滴が遠心
力により外側へ動くということも,引用発明が既に備える作用効果であるか
ら,引用発明に引用文献2記載事項及び引用文献3記載事項を適用して得ら
れた本件補正発明が同様の作用効果を奏することは当然であり,当業者にと
20 って容易に予測可能であるから,発明の進歩性を基礎付けるに足る顕著な作
用効果とはいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
6 結論
以上のとおり,審決に原告主張の取消事由はなく,原告の請求は理由がない
25 からこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
上 田 卓 哉
裁判官
都 野 道 紀
別紙
本願明細書
【図1】
【図2】
引用文献1(甲4) 引用文献2(甲5)
【図1】

15 引用文献3(甲6)

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