平成22(ワ)12777損害賠償請求事件
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裁判所 |
請求棄却 東京地方裁判所
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裁判年月日 |
平成24年11月30日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
被告ユニ・チャーム株式会社山口健司 原告大王製紙株式会社
ダイオーペーパーコンバーティング
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法令 |
特許権
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キーワード |
無効14回 特許権12回 無効審判5回 刊行物3回 損害賠償2回 進歩性2回 分割2回 侵害2回 実施1回 新規性1回
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主文 |
原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事件の概要 |
本件は,紙おむつに関する特許権を有する原告らが,被告の製造,販売する
紙おむつについて,原告らの特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとし
て,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,それぞれの損害7
億4350万円のうちの1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成
22年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める事案である。 |
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判決文
平成24年11月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成22年(ワ)第12777号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 平成24年7月13日
判 決
愛媛県四国中央市<以下略>
原 告 大 王 製 紙 株 式 会 社
愛媛県四国中央市<以下略>
原 告 ダイオーペーパーコンバーティング
株式会社
上記両名訴訟代理人弁護士 村 林 隆 一
井 上 裕 史
田 上 洋 平
上記両名訴訟代理人弁理士 永 井 義 久
上記両名補佐人弁理士 和 泉 久 志
愛媛県四国中央市<以下略>
被 告 ユニ・チャーム株式会社
同訴訟代理人弁護士 近 藤 惠 嗣
山 口 健 司
薄 葉 健 司
同訴訟代理人弁理士 古 賀 哲 次
同 補 佐 人 弁 理 士 蛯 谷 厚 志
森 本 有 一
小 野 田 浩 之
主 文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
被告は,原告らに対し,それぞれ1億円及びこれに対する平成22年4月1
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は,紙おむつに関する特許権を有する原告らが,被告の製造,販売する
紙おむつについて,原告らの特許権に係る特許発明の技術的範囲に属するとし
て,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,それぞれの損害7
億4350万円のうちの1億円及びこれに対する不法行為の後の日である平成
22年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の
支払を求める事案である。
1 前提となる事実(当事者間に争いがない。)
(1) 本件特許権
ア 原告らは,次の特許権(以下「本件第1特許権」という。)を有してい
る。
特 許 番 号 第4197179号
原 出 願 日 平成12年6月6日
分 割 出 願 日 平成17年5月30日
登 録 日 平成20年10月10日
発 明 の 名 称 使い捨て紙おむつ
イ 原告らは,次の特許権(以下「本件第2特許権」という。)を有してい
る。
特 許 番 号 第4463322号
原 出 願 日 平成12年12月6日
分 割 出 願 日 平成21年7月7日
登 録 日 平成22年2月26日
発 明 の 名 称 紙おむつ
(2) 本件各発明
本件第1特許権に係る特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件第1
特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1及び同3の記載は,本
判決添付のA特許公報(以下「本件第1特許公報」という。)の各該当項記
載のとおりであり(以下,この請求項1に係る発明を「本件第1発明1」と,
請求項3に係る発明を「本件第1発明2」といい,これらを併せて「本件第
1発明」という。),本件第2特許権に係る特許出願の願書に添付した明細
書(以下「本件第2特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の
記載は,本判決添付のB特許公報(以下「本件第2特許公報」という。)の
該当項記載のとおりである(以下,この請求項に係る発明を「本件第2発
明」という。本件第1発明と併せて,以下「本件各発明」という。)。
(3) 構成要件の分説
ア 本件第1発明1は,次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件を
それぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。
A 吸収体と,吸収体の表面側を覆う透液性表面シートと,前記吸収体
の裏面側を覆う裏面シートとを含み,表面がわ両側部に立体ギャザー
が形成された使い捨て紙おむつにおいて,
B 前記吸収体の長手方向両側部において前記透液性表面シートが吸収
体側縁部を巻き込んで吸収体の裏面側まで延在して固定されるととも
に,
C 前記立体ギャザーを形成するためのギャザー不織布が前記透液性表
面シートによって巻き込まれた吸収体側縁部をさらに上側から巻き込
んで吸収体の裏面側まで延在して固定され,
D かつ前記裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手方向側
縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させることにより脚回りにサイドフ
ラップを無くし,
E1 前記吸収体側縁部を巻き込んで起立するギャザー不織布の起立先端
部分に弾性伸縮部材を配設するとともに,
E2 少なくとも吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に弾性伸縮
部材をおむつ長手方向に沿って配設し,
F 前記ギャザー不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材と,
前記吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に配置された弾性伸
縮部材との伸縮力により前記ギャザー不織布と共に前記吸収体の両側
部を起立させるようにした
G ことを特徴とする使い捨て紙おむつ。
イ 本件第1発明2は,次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件を
その符号に従い「構成要件H」という。)。
H 前記ギャザー不織布の吸収体側に対する固定領域を,吸収体側縁部
から裏面がわに亘る範囲とする請求項1,2いずれかに記載の使い捨
て紙おむつ。
ウ 本件第2発明は,次の構成要件からなる(以下,分説した構成要件をそ
れぞれの符号に従い「構成要件J」のようにいう。)。
J 外形シートと前記外形シートの内面に股間部を中心として縦方向に
延存する吸収コアを有し,使用状態においてウエスト開口部および左
右のレッグ開口部を有するパンツ型紙おむつであって,
K 前記パンツ型紙おむつは,ウエスト部と腰下部とからなる胴周り領
域と,股部領域からなり,
M 前記ウエスト部には,複数の糸状あるいは細帯状のウエスト伸縮部
材が,縦方向に一定の間隔を持って周方向に平行に設けられ,
N 前記腰下部には,前記腰下部領域の60%以上の縦方向範囲にわた
って,複数の太さが620dtex以下,伸張応力が150%伸長時
において4~17gの腰下伸縮部材が,前記ウエスト伸縮部材の間隔
より短い7㎜以下の間隔を持って周方向に平行に,且つ,前記吸収コ
アの中央部では不連続に設けられ,
O 前記股部領域の前身頃には,複数の太さが620dtex以下の整
形伸縮部材が,前記ウエスト伸縮部材の間隔より短い7㎜以下の間隔
を持って周方向に平行に,且つ,前記吸収コアの中央部では不連続に
設けられ,
P 前記腰下伸縮部材と前記整形伸縮部材とは,腰下部の最下部に設け
られた前記腰下伸縮部材と,前記股部領域の前身頃の最上部に設けら
れた前記整形伸縮部材との間隔が,前記ウエスト伸縮部材の間隔より
短い7㎜以下の間隔であり縦方向に連続して設けられ,
Q 前記股部領域には,左右一対の脚周り伸縮部材が,前記レッグ開口
部に沿って延在し,前記整形伸縮部材が,前記レッグ開口部近傍にお
いて,前記脚周り伸縮部材と交差し,
R 前記胴回り領域の左右の接合部から吸収コアの両側部の対応位置ま
でそれぞれ設けられた前記腰下伸縮部材が,前記接合部と前記対応位
置との間で伸縮し,
S 左右のレッグ開口縁部から吸収コアの両側部の対応位置までそれぞ
れ設けられた前記整形伸縮部材が,前記レッグ開口縁部と前記対応位
置との間で伸縮する
T ことを特徴とするパンツ型紙おむつ。
(4) 被告の行為
被告は,業として,別紙物件目録記載1及び2のパンツ型紙おむつ製品
(以下「被告製品1」,「被告製品2」といい,併せて「各被告製品」とい
う。)を製造し,販売している(なお,原告らは,被告が,各被告製品のほ
かに,被告製品1と同一の構成を有する使い捨てパンツ型紙おむつ及び被告
製品2と同一の構成を有する使い捨てパンツ型紙おむつを製造し,販売して
いると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。)。
(5) 本件各発明と各被告製品との対比
各被告製品は,本件第1発明1の構成要件AないしC,E1及びGを充足
し,また,本件第2発明の構成要件J,K,M,P及びTを充足する。
2 争点
(1) 各被告製品の構成(争点1)
(2) 各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か(争点2)
(3) 本件第1発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべきものと
認められるか否か(争点3)
(4) 原告らの損害(争点4)
3 争点についての当事者の主張
(1) 争点1(各被告製品の構成)について
(原告らの主張)
被告製品1の構成は,別紙「被告製品1の構成」の「原告ら主張」欄に記
載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品1の図面(原告ら)」のと
おりである。
また,被告製品2の構成は,別紙「被告製品2の構成」の「原告ら主張」
欄に記載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品2の図面(原告
ら)」のとおりである。
(被告の主張)
被告製品1の構成は,別紙「被告製品1の構成」の「被告主張」欄に記載
のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品1の図面(被告)」のとおり
である。
また,被告製品2の構成は,別紙「被告製品2の構成」の「被告主張」欄
に記載のとおりであり,その図面は,別紙「被告製品2の図面(被告)」の
とおりである。
(2) 争点2(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)につい
て
(原告らの主張)
ア 本件第1発明1について
(ア) 構成要件Dについて
a 構成要件Dの各文言の解釈について
(a) 本件第1発明1の「サイドフラップ」は,「立体ギャザーBS
を乗り越えて漏出する体液を堰き止めるために,…弾性伸縮部材…
を配設して平面ギャザーGKを形成」したような構成を意味し,単
なる外形シートの「余剰部」を意味しない。
本件第1発明1は,従来技術において平面ギャザーで行っていた
体液漏出防止という機能を,透液性表面シートの構成と吸収体の両
側部を起立させるという技術思想によって代替して(構成要件B,
C,E1,E2,F),「サイドフラップ」を省略し,「コンパク
ト化等を図りながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ
臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感
やもたつき感を無くす」という作用効果を奏するものである。この
ように,本件第1発明1が上記代替技術を採用することによって省
略した「サイドフラップ」は,体液漏出防止機能を有する構成であ
る。
(b) 本件第1特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面によれ
ば,「サイドフラップ」をなくした構成要件Dの「脚回り部位」と
は下記【図1】のAの領域(脚周り部の股間部周辺位置)を指す。
このことは,前記の体液漏出防止機能が問題となるのが股間部周辺
であることからも明らかである。
A
(c) 構成要件Dの「裏面シートは,…長手方向側縁を前記吸収体の
側縁にほぼ一致させる」との構成は,「サイドフラップ」をなくす
構成を実現するための手段であるから,「ほぼ一致させる」とは,
側縁同士を1㎜の誤差もなく一致させることを意味するのではなく,
前記構成の「サイドフラップ」を形成しない程度に一致させること
を意味する。
b 各被告製品は,脚周り部の股間部周辺位置で,側縁同士が僅かに
ずれて「余剰部」が形成されているが,「余剰部」に体液漏出防止
機能を有する構成はないから,「余剰部」は「サイドフラップ」に
該当しない。
そして,各被告製品は,「サイドフラップ」をなくしたことにより,
従来製品と比べ,「脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図る」と
の作用効果を発揮している。
c したがって,各被告製品は,「裏面シートは,…長手方向側縁を前
記吸収体の側縁にほぼ一致させることによって脚回りにサイドフラッ
プを無くし」との構成を有するから,構成要件Dを充足する。
(イ) 構成要件E2について
被告製品1の弾性伸縮部材(9)は,ギャザー不織布の吸収体の側縁か
ら平均5.6㎜外側の位置に配設され,被告製品2の弾性伸縮部材(9)
は,ギャザー不織布の吸収体の側縁から平均5.0㎜外側の位置に配設
されている。
したがって,各被告製品の弾性伸縮部材(9)は,吸収体の「裏面側両
側部近傍」に配設されているから,各被告製品は,構成要件E2を充足
する。
(ウ) 構成要件Fについて
各被告製品の吸収体は,全体的に緩やかなカーブを描いて湾曲した形
状となっていて,「ギャザー不織布と共に前記吸収体の両側部」が起立
している。この起立は,ギャザー不織布の先端部分に配置された弾性伸
縮部材(8)と吸収体の裏面側両側部近傍に配置された弾性伸縮部材(9)と
の伸縮力によるものであるから,各被告製品は,構成要件Fを充足する。
(エ) 以上のとおりであって,各被告製品は,本件第1発明1の構成要件
を全て充足するから,本件第1発明1の技術的範囲に属する。
イ 本件第1発明2について
本件第1発明2の技術的意義は,ギャザー不織布の吸収体側に対する固
定領域を,吸収体側縁部から裏面側にわたる任意の部分に設けることにあ
る。そして,本件第1発明2の目的は,吸収体の体液を吸収する部分の面
積を最大限に活用することにあり,そのためには吸収体の上面側にギャザ
ー不織布を固定しなければよい。
各被告製品は,吸収体側縁部から吸収体上面側範囲にギャザー不織布が
固定され,吸収体の上面側全部が体液の吸収面として有効に活用されてい
る。
そして,各被告製品は,前記アのとおり,本件第1発明1の技術的範囲
に属するから,構成要件Hの「請求項1…に記載の使い捨て紙おむつ」に
該当する。
したがって,各被告製品は,構成要件Hを充足するから,本件第1発明
2の技術的範囲に属する。
ウ 本件第2発明について
(ア) 構成要件Nについて
a 「150%伸長時」について
(a) 本件第2発明が属する「紙おむつ又は吸収性物品」の分野にお
いて,どのような張設具合をもって伸縮部材を対象部材に適用する
かが問題となる場面では,自然長を100%とし,どの程度伸張す
るかを表示するとの解釈を採用することが,自然長に対する収縮の
程度を指標することにつながるから合理的である。このことは,紙
おむつに関する他の発明の特許公報(甲14,25ないし27)の
記載からも裏付けられる。
本件第2発明における伸長率とは,伸縮部材のその適用対象部材
に対する張設具合を示す指標であって,伸びとは異なる概念であり,
被告が指摘するJIS規格である「JIS K 6327」,「J
IS K 6251」は,いずれも伸びを対象にしたもので,伸長
率を規定するものではないし,「JIS K 6327」や「JI
S L 1096」は,おむつの分野の特許出願では使用されてい
ない。
(b) 仮に「150%伸長時」が二通りに解釈される可能性があると
しても,以下の各点によれば,当業者は,これが「自然長の1.5
倍伸長時」を意味するものと理解する。
i 本件第2発明は,「レッグ開口縁がひらひらとし難く,脚周り
がすっきりとして見栄えの良い紙おむつを提供する」との課題を
解決するために伸縮部材の配置方法を工夫した発明であり,本件
第2特許明細書の発明の詳細な説明に伸縮部材の配置とその作用
効果が詳細に説明されているのに対し,伸縮部材の物性と作用効
果との関係についてはほとんど説明されていないから,「太さが
620dtex以下,伸張応力が150%伸長時において4~1
7gの腰下伸縮部材」との特定は,汎用される一般的な伸縮部材
を具体的に説明したものにすぎない。
そして,本件第2発明に係る特許出願当時,紙おむつに汎用さ
れていた代表的な弾性伸縮部材である,オペロンテックス社(旧
東レ・デュポン社)製のスパンデックスが「4~17g」の伸張
応力を示すのは,自然長の1.5倍前後に伸長した時である(自
然長の1.5倍伸長時の伸張応力は470dtexで15.3g
f,620dtexで16.8gfである。)。
ii 本件第2発明に係る特許出願当時,弾性伸縮部材は,汎用品と
同程度かより大きな伸張応力のものを用いるのが技術開発のトレ
ンドであった。仮に「150%伸長時」を自然長の2.5倍伸長
時と解釈すると,「伸張応力が150%伸長時において4~17
g」との構成は,当時汎用されていた伸縮部材と比較して伸張応
力の極めて小さな材料を採用することとなり,当時のトレンドと
異なるが,本件第2特許明細書の発明の詳細な説明にはこれにつ
いての説明が一切ないから,当業者がそのように理解することは
ない。
iii 本件第2発明に係る特許出願当時,おむつ分野で利用されてい
た弾性伸縮部材は,装着時に自然長の1.5倍前後になるように
配設されていた。
b 各被告製品の腰下伸縮部材(121)の150%伸長時(自然長の1.
5倍伸長時)の伸張応力は,被告製品1が約12.4gf,被告製品
2が約12.5gfであり,いずれも「伸張応力が150%伸長時に
おいて4~17g」の範囲内であるから,各被告製品は,構成要件N
を充足する。
(イ) 構成要件Oについて
構成要件Oの「整形伸縮部材」は,それによって「レッグ開口縁が胴
回りと平行に収縮して小さくなる」ものである。
各被告製品は,レッグ開口縁が伸縮部材(123)によって胴回りと平行
に収縮して小さくなっていて,各被告製品の伸縮部材(123)の伸縮力を
喪失させると,レッグ開口縁のひらひらが増加し,脚周りのすっきり感
が低下するとともに,股部領域の表面のモコモコ感も増加するから,各
被告製品の伸縮部材(123)は「整形」機能を奏している。
したがって,各被告製品の伸縮部材(123)は,「整形伸縮部材」に該
当し,各被告製品は,構成要件Oを充足する。
(ウ) 構成要件Qについて
構成要件Qの「伸縮部材が,前記レッグ開口部に沿って延在し」は,
伸縮部材がレッグ開口部に沿って配設されていれば足りると解される。
各被告製品の脚周り伸縮部材(170)は,左右一対となって,レッグ開
口部に沿って配設されているから,各被告製品は,構成要件Qを充足す
る。
(エ) 構成要件R及びSについて
各被告製品は,構成要件R及びSを充足する。
(オ) 以上のとおりであって,各被告製品は,本件第2発明の構成要件を
全て充足するから,本件第2発明の技術的範囲に属する。
(被告の主張)
ア 本件第1発明1について
(ア) 構成要件Dについて
a 構成要件Dの「裏面シートは,少なくとも脚回り部位において長手
方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させる」との構成は,「サイ
ドフラップを無くし」との構成を実現するための手段である。本件第
1特許明細書の発明の詳細な説明には,脚周りの吸収体の側縁よりも
外方部分の吸収体の存在しない部位が「サイドフラップ」であると記
載されている。従来技術における「サイドフラップ」は表面シートと
裏面シートの双方からなることが同明細書に記載されているが,本件
第1発明1は,表面シートが吸収体側縁を巻き込んで吸収体の裏面側
まで延在して固定されるから,表面シートが吸収体側縁からはみ出す
ことはなく,「サイドフラップ」は裏面シートからなる。そして,
「サイド」と「フラップ」の用語の通常の意味からしても,紙おむつ
の分野において「サイドフラップ」といえば,吸収体の側部に形成さ
れた,吸収体の存在しないひらひらした部分を意味する。
そうであるから,構成要件Dの「サイドフラップ」は,脚周り部位
において吸収体の側縁より外方にはみ出している裏面シートからなる
部分を指すと解される。
b 各被告製品の裏面シート(1)の長手方向側縁は吸収体(3)の側縁と一
致せず,最も短くなる箇所においても,被告製品1で平均12.2㎜,
被告製品2で平均12.0㎜の離間があり,また,前身頃のレッグ開
口始端と股下域の真下との間の二等分線上の箇所においては,被告製
品1で平均36.0㎜,被告製品2で平均31.6㎜の離間があるか
ら,各被告製品は,構成要件Dの「前記裏面シートは,少なくとも脚
回り部位において長手方向側縁を前記吸収体の側縁にほぼ一致させ
る」との要件を充足しない。
そして,各被告製品は,裏面シート(1)の長手方向側縁と吸収体(3)
の側縁とが一致しない結果として,紙おむつの脚周り部位において,
吸収体側縁より外方部分に吸収体の存在しない「サイドフラップ」が
形成されているから,構成要件Dの「脚回りにサイドフラップを無く
し」との要件を充足しない。
したがって,各被告製品は,構成要件Dを充足しない。なお,各被
告製品は,立体ギャザーによってせき止められた便や尿が外側から視
認されることをユーザーの視線から覆い隠すために,サイドフラップ
を積極的に設けているのであり,しかも,各被告製品のサイドフラッ
プは,製造過程において,カット代や取付け代としての役割を果たす
ためにも必要なのであって,各被告製品は,本件第1発明1の「脚周
りに沿って形成されているサイドフラップを無くし脚周りをすっきり
させて見栄えの向上を図ることができる」との作用効果を奏しない。
(イ) 構成要件E2について
「裏面側両側部近傍」に配設される弾性伸縮部材は,吸収体の「裏面
側」に配設される必要があり,「裏面側両側部」に配設されていると解
される本件第1特許明細書の発明の詳細な説明にいう「糸状弾性伸縮部
材10」の近傍に設けられる必要があるが,各被告製品の弾性伸縮部材
(9)は,吸収体(3)の側縁部の上方近傍に位置し,少なくとも裏面側には
配設されていないのであって,構成要件E2の「裏面側両側部近傍」に
配設された弾性伸縮部材に該当しないから,各被告製品は,構成要件E
2を充足しない。
(ウ) 構成要件Fについて
a 各被告製品の弾性伸縮部材(9)は,上記(イ)のとおり,吸収体(3)の
「裏面側両側部近傍」に配設されず,ほかに吸収体(3)の裏面側に配
設された弾性伸縮部材は存在しないから,各被告製品には,構成要件
Fの「吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近傍に配置された弾性
伸縮部材」が存在しない。
b 本件第1特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌すれ
ば,構成要件Fの吸収体両側部の「起立」とは,吸収体の両側部が屈
曲部を起点に折れ曲がった状態を意味すると解される。
各被告製品の弾性伸縮部材は,吸収体(3)の裏面側の内側に配設さ
れず,吸収体(3)の製品状態における形状は,全体的に緩やかなカー
ブを描いて湾曲したものであって,折れ曲がりの起点(屈曲部)を見
いだすことはできないから,各被告製品は,構成要件Fの「吸収体の
両側部を起立させるようにした」との要件を充足しないし,仮に各被
告製品に屈曲部があるとしても,これは,裏面側の内側に配設される
弾性伸縮部材の伸縮力によって上方に吸収体を絞り上げたために屈曲
しているのではないから,構成要件Fの「起立」に当たらない。
c 本件第1特許明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を参酌すれ
ば,本件第1発明1の「起立」や「屈曲」は,臀部のカーブ線に沿っ
て吸収体をフィットさせるため,少なくとも,臀部を包む箇所に配置
されている吸収体の両側部において生じなければならないが,各被告
製品では,臀部を包む箇所に配置されている吸収体の両側部において
屈曲していない。
d したがって,各被告製品は,構成要件Fを充足しない。
イ 本件第1発明2について
各被告製品のギャザー不織布(6)の吸収体(3)に対する固定領域は,前後
の腹回り位置に対応する箇所では,吸収体の側縁から平均2.8㎜内側に
入った位置から裏面側に至る領域であり,股間部に対応する箇所では,吸
収体の側縁から平均6.3㎜(被告製品1)又は平均6.7㎜(被告製品
2)外側の位置から裏面側に至る領域であって,いずれも構成要件Hの
「吸収体側縁部から裏面がわに亘る範囲」と異なる。また,吸収体の側縁
部より吸収体の上面側の範囲も有効面積として活用するというのが構成要
件Hの技術的意義であり,それを可能にする固定態様を予定しているが,
各被告製品の股間部に対応する箇所における固定態様は,吸収体の側縁部
より吸収体の上面側の範囲を有効面積として活用することができない。
そして,各被告製品は,前記アのとおり,本件第1発明1の構成要件D,
E2及びFを充足しないから,各被告製品は,本件第1発明2の構成要件
Hの「請求項1…に記載の使い捨て紙おむつ」に該当しない。
したがって,各被告製品は,構成要件Hを充足しない。
ウ 本件第2発明について
(ア) 構成要件Nについて
a 「150%伸長時」について
技術用語の普通の意味は,業界で一般に通用している基準,例えば
JIS規格があればそれによるべきであるところ,糸ゴムのJIS規
格である「JIS K 6327」(乙3の1)をみると,「5.2
引張試験」の項で「JIS K 6251に規定する方法に準じ」と
あり,「JIS K 6251」(乙3の2)をみると,「6.2
切断時伸び」の項に,「E B =(L 1 -L 0 )/L 0 ×100」との式
(E B :切断時伸び(%),L 0 :標線間距離(㎜),L 1 :切断時の
標線間距離(㎜))があり,この式によると,試験片が自然長(L 1
=L 0 )のときは伸びの割合が0%であるから,このJIS規格は,
伸長率0%が自然長,100%が2倍伸長時であるとの解釈を前提と
していることが分かる。また,一般織物試験方法のJIS規格である
「JIS L 1096」(乙22)をみると,「伸長率(%)」を
求める式を「(L 1 -L 0 )/L 0 ×100」とし,伸びた状態におけ
る全体の長さ(L 1 )から元の長さ(L 0 )を引いた伸びの長さから
伸長率を求めているから,この式によると,自然長(L 1 =L 0 )の
ときは伸長率が0%である。
そして,JIS規格を離れると,150%伸長時とは,① 自然長
の1.5倍伸長時(自然長は100%)とする解釈と,② 自然長の
2.5倍伸長時(自然長は0%)とする解釈(前記のJIS規格と一
致する解釈)の二つの解釈があり得るところ,被告の調査によると,
明細書において定義を明示して①を採用するものと②を採用するもの
の双方があった。本件第2特許明細書の発明の詳細な説明に伸長率に
ついての定義がなく,①を採用しなければならないことを根拠付ける
記載はないし,②を採用することを妨げるような記載もないから,伸
長率は,通常の意味,すなわち,JIS規格に従って使用されている
と解釈すべきである。
構成要件Nの「伸張応力が150%伸長時において4~17gの腰
下伸縮部材」は,「腰下伸縮部材」に用いる弾性伸縮部材の物性を規
定した要件であり,「張設具合」を示す指標であると解釈する余地は
なく,実際に,「紙おむつ又は吸収性部品」の分野において,「伸長
率」が「張設具合」以外の意味をもつ用語として用いられている例が
ある。また,「張設具合」を問題とする場面において,②(自然長が
0%)を採用した特許出願の例は,枚挙にいとまがないから,「張設
具合」の場合には,②(自然長が0%)が例外であって,①(自然長
が100%)が原則であると断定することはできない。
そうであるから,伸長率とは,伸びの長さを元の長さで割った値を
意味し,伸長率150%とは,伸びの長さが元の長さの1.5倍であ
ることを意味すると解釈すべきであり,構成要件Nの「150%伸長
時」は,自然長の2.5倍伸長時となる。なお,「伸長時」,「伸長
率」,「伸び」及び「伸度」は,いずれも「%」がその単位であって,
全く同じ概念である。
b 各被告製品の腰下伸縮部材(121)の150%伸長時(自然長の2.
5倍伸長時)の伸張応力は,被告製品1が約31.6gf,被告製品
2が約33.4gfであり,いずれも「伸張応力が150%伸長時に
おいて4~17g」の範囲から外れるから,各被告製品は,構成要件
Nを充足しない。なお,仮に150%伸長時が自然長の2.5倍伸長
時であると一義的に導くことができないとしても,おむつの業界では
前記①,②のいずれも通用していて,定義がない限りどちらであるか
を一義的に導くことはできないから,前記①,②のいずれか一方を前
提とした場合に「4~17g」の数値の範囲から外れるときは,構成
要件Nを充足しないと解すべきであり,前記②を前提とした場合に,
各被告製品が「4~17g」の数値の範囲から外れることは上記のと
おりである。
c 以上のとおりであって,各被告製品は,構成要件Nを充足しない。
(イ) 構成要件Oについて
本件第2特許明細書の発明の詳細な説明には,脚周りがすっきりして
見栄えが良好になる作用効果等を発揮させるためには,伸縮部材を配設
する領域の60%以上において,各伸縮部材の太さが620dtex以
下,その間隔が7㎜以下であれば足りる旨の記載があるが,股部領域の
前身頃の60%以下の範囲に各伸縮部材が配設される場合であっても,
上記の作用効果を奏することを開示,示唆する記載や図面は一切ない。
そして,股部の下部を除いた全ての領域(吸収体の側部とレッグ開口縁
とが離れている領域)に伸縮部材が設けられていなければ,上記の作用
効果を奏することはできない。そうであるから,構成要件Oは,その伸
縮部材が「整形伸縮部材」として機能するために,少なくとも股部領域
の前身頃のおおむね60%以上の範囲において,複数の伸縮部材が7㎜
以下の間隔をもって周方向に平行に設けることを要すると解すべきであ
る。
各被告製品は,被告製品1が前身頃の領域の10.3%ないし15.
7%,被告製品2が前身頃の領域の3.8%ないし9.2%にしか伸縮
部材(123)を配設せず,いずれも股部領域の前身頃の「60%以上の範
囲」において伸縮部材を配設していないから,各被告製品は,構成要件
Oを充足しない。なお,各被告製品のような範囲で配設された整形伸縮
部材では,脚周りがすっきりとして見栄えが良好となるとの本件第2発
明の作用効果を奏しないから,各被告製品は,本件第2発明の技術的範
囲に属しない。
(ウ) 構成要件Qについて
構成要件Qの「前記股部領域には,左右一対の脚周り伸縮部材が,前
記レッグ開口部に沿って延在し」は,① 用語の通常の意味,② この
要件が,本件第2発明に係る特許の原々出願及び原出願の「レッグ開口
縁6,6の全体に,レッグ開口部に沿って連続する脚周り伸縮部材24,
24を外形シート1の不織布間に固定した形態」との記載に基づくもの
であること,③ この要件を実施したものと解される図面が【図17】
しかないことを考えると,左右一対の脚周り伸縮部材が,レッグ開口縁
の全体にレッグ開口部に沿って連続して設けられていることを要するも
のと解すべきである。
各被告製品の股部領域は,1組3本からなる4組の脚周り伸縮部材
(170)が,レッグ開口縁の一部にのみレッグ開口部に沿って設けられて
いるのであって,レッグ開口縁の全体にレッグ開口部に沿って連続して
設けられていないし,「左右一対」でもないから,各被告製品は,構成
要件Qを充足しない。
(エ) 構成要件R及びSについて
構成要件R及びSの「吸収コアの両側部の対応位置」がどこを指す
のか明確でないから,各被告製品は,これらの要件を充足しない。
(3) 争点3(本件第1発明に係る特許が特許無効審判により無効にされるべ
きものと認められるか否か)について
(被告の主張)
ア 無効理由1(新規性又は進歩性の欠如)
(ア) 平成11年7月6日に公開された刊行物である米国特許第5919
179号明細書(乙35。以下「乙35明細書」という。)には,使い
捨て吸収性物品に係る発明が記載されている(以下,乙35明細書に記
載された発明を「乙35発明」という。)。
(イ) 乙35明細書の記載と本件第1発明の構成とを対比すると,次のと
おりである。
a 乙35明細書には,本件第1発明1の構成要件A,B,C,D,E
1及びG並びに本件第1発明2の構成要件Hに相当する構成が記載さ
れている。
b 乙35明細書には,本件第1発明1の「吸収体」に相当する「貯留
部分50」及び「オーバーラップ層64」からなる部分の裏面側両サ
イドに,「弾性部材78」がおむつの長手方向に沿って配設した構成
が記載されているから,乙35明細書には,本件第1発明1の構成要
件E2に相当する構成が記載されている。
c 乙35明細書には,「弾性部材78」が「液体不透過性部材44」
をその長さに沿ってギャザー状に縮ませ,「末端弾性部材76」との
組合せにおいて「吸収性集成体36」が弓状又はカップ状の形態をな
すことが記載されているところ,原告らは,本件第1発明1の構成要
件Fの「吸収体の両側部を起立」について,吸収体の両側部が持ち上
がりさえすればよい旨主張しているから,これによると,「吸収性集
成体36」の形態も本件第1発明1の構成要件Fの「起立」に相当す
ることになり,結局乙35明細書に本件第1発明1の構成要件Fに相
当する構成が記載されていることになる。
(ウ) したがって,乙35明細書には,本件第1発明1の各構成要件に相
当する構成及び本件第1発明2の構成要件Hに相当する構成が記載され
ているから,本件第1発明は,乙35明細書に記載された発明であり,
特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
(エ) 仮に本件第1発明1又は2の構成要件の一部が乙35明細書に記載
されていると認められないとしても,本件第1発明は,当業者が乙35
発明及び後記乙36発明に基づいて容易に発明をすることができたもの
であるから,特許無効審判により無効にされるべきものと認められる。
イ 無効理由2(進歩性の欠如)
(ア)a 平成4年2月12日に公開された刊行物である実公平4-474
4号公報(乙36。以下「乙36公報」という。)には,「使い捨て
オムツ」に係る発明が記載されている(以下,乙36公報に記載され
た発明を「乙36発明」という。)。
b 乙36公報の記載と本件第1発明の構成とを対比すると,次のとお
りである。
(a) 乙36公報には,本件第1発明1の構成要件B,D,E1及び
G並びに本件第1発明2の構成要件Hに相当する構成が記載されて
いる。
(b) 乙36公報の「吸収性コア2」,「透液性トップシート3」,
「不透液性バックシート4」及び「サイドフラップ6」は,それぞ
れ,本件第1発明1の「吸収体」,「透液性表面シート」,「裏面
シート」及び「立体ギャザー」に相当するから,乙36公報には,
本件第1発明1の構成要件Aに相当する構成が記載されている。
(c) 乙36公報の「サイドフラップ6」は,本件第1発明1の「立
体ギャザー」に相当するところ,「サイドフラップ6」は,疎水性
繊維又は親水性繊維からなる不織布であるから,本件第1発明1の
構成要件Cの「前記立体ギャザーを形成するためのギャザー不織
布」に相当する。そして,乙36公報には,「サイドフラップ6」
が「透液性トップシート3」によって巻き込まれた「吸収性コア
2」の側縁部をさらに上側から巻き込んでその裏面側まで延在して
固定される態様が記載されているから,乙36公報には,本件第1
発明1の構成要件Cに相当する構成が記載されている。
(d) 乙36公報の「弾性部材5」は,本件第1発明1の「ギャザー
不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材」に相当し,この
「弾性部材5」の伸縮力によって,本件第1発明1の「ギャザー不
織布」に相当する「サイドフラップ6」が起立するから,乙36公
報には,少なくとも,本件第1発明1の構成要件Fのうち「ギャザ
ー不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材…の伸縮力によ
り前記ギャザー不織布…を起立させるようにした」に相当する構成
が記載されている。
c したがって,乙36公報には,本件第1発明1の構成要件A,B,
C,D,E1及びGに相当する構成並びに構成要件Fのうち「ギャザ
ー不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材…の伸縮力により
前記ギャザー不織布…を起立させるようにした」に相当する構成を有
する発明と,本件第1発明2の構成要件Hに相当する構成を有する発
明がそれぞれ記載されている。
(イ)a 平成3年5月10日に公開された刊行物である特開平3-111
048号公報(乙37。以下「乙37公報」という。)には紙おむつ
に係る発明が記載されている(以下,乙37公報に記載された発明を
「乙37発明」という。)。
b 乙37公報の記載と本件第1発明1の構成とを対比すると次のとお
りである。
(a) 乙37公報には,本件第1発明1の構成要件A,E2及びGに
相当する構成が記載されている。
(b) 乙37公報には,少なくとも,本件第1発明1の構成要件E1
のうち「起立するギャザー不織布の起立先端部分に弾性伸縮部材を
配設する」構成に相当する構成が記載されている。
(c) 乙37公報の「弾性伸縮部材7」,「弾性伸縮部材4」は,そ
れぞれ本件第1発明1の「ギャザー不織布の起立先端部分に配置さ
れた弾性伸縮部材」,「吸収体の裏面両側部または裏面側両側部近
傍に配置された弾性伸縮部材」に相当し,乙37公報には,「弾性
伸縮部材7」の伸縮力によって「バリヤーカフスB,B」が起立し,
「弾性伸縮部材4」の伸縮力により「吸収体3」の側部が起立する
構成が記載されているから,乙37公報には,本件第1発明1の構
成要件Fに相当する構成が記載されている。
c したがって,乙37公報には,本件第1発明1の構成要件A,E2,
F及びGに相当する構成並びに構成要件E1のうち「起立するギャザ
ー不織布の起立先端部分に弾性伸縮部材を配設する」構成に相当する
構成を有する発明が記載されている。
(ウ) 本件第1発明と乙36発明との相違点の容易想到性
a 本件第1発明1と乙36発明とは,乙36発明が本件第1発明1の
構成要件E2に相当する構成及び構成要件Fの一部に相当する構成を
有していない点で相違する(以下,この相違点を「相違点1」とい
う。)。
b 相違点1に係る本件第1発明1の構成,すなわち,紙おむつにおい
て「吸収体の裏面両側部又は裏面側両側部近傍に弾性伸縮部材を配設
し,その伸縮力により吸収体の両側部を起立させるようにする」とい
う技術事項は,乙37発明が有している。
c 乙36発明も乙37発明もおむつに関する技術で,技術分野は同一
であり,排泄物の漏れを防止するという点で共通の課題を有している
から,乙36発明に接した当業者は,共通する課題である排泄物の漏
れの防止をより確実にするために,「吸収体の裏面両側部又は裏面側
両側部近傍に弾性伸縮部材を配設し,その伸縮力により吸収体の両側
部を起立させるようにする」という乙37発明の技術を採用して,乙
36発明に係るおむつの「サイドフラップ6」の起立を確実なものに
しようと試み,その結果,相違点1に係る本件第1発明1の構成を容
易に想到することができるものである。
d 本件第1発明1と乙36発明とで共通する,本件第1発明1の構成
要件B及びCに相当する構成によって導かれる作用効果は,吸収体の
側縁部,さらに吸収体裏面側の側部に形成されたポケットから尿等の
再吸収が図れ,吸収性能が向上することであり,本件第1発明1の構
成要件Dに相当する構成によって導かれる作用効果は,脚周りがすっ
きりとし見栄えが向上することである。また,本件第1発明1と乙3
7発明とで共通する,本件第1発明1の構成要件E2及びFの一部に
相当する構成によって導かれる作用効果は,吸収体が臀部のカーブ線
に沿ってフィットされ装着性に優れること,吸収性能が向上すること
や立体ギャザーが良好に起立することである。
以上の本件第1発明1と乙36発明や乙37発明とでそれぞれ共通
する構成によって導かれる作用効果は,それぞれが機能的又は作用的
に全く関連せず,双方の構成を併せたことによる相乗効果は見いだせ
ないから,本件第1発明1は,乙36発明と乙37発明とを単に寄せ
集めたものにすぎない。
e したがって,相違点1に係る本件第1発明1の構成は,乙36発明
に乙37発明の技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得
たものであり,また,本件第1発明2に係る特許請求の範囲の請求項
3は,本件第1発明1に係る特許請求の範囲の請求項1に従属するも
のであるから,本件第1発明は,乙36発明及び乙37発明に基づい
て当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許無効審判
により無効にされるべきものと認められる。
(原告らの主張)
ア 無効理由1について
(ア) 本件第1発明1の構成要件E2に相当する構成について
a 本件第1発明1の「吸収体」は,綿状パルプからなるある程度の剛
性を有する部分で,「クレープ紙」とは独立して取り扱われていると
ころ,乙35明細書の「貯留部分50」は,綿状パルプ等からなるあ
る程度剛性を有するものであるから,本件第1発明1の「吸収体」に
相当するが,乙35明細書の「オーバーラップ層64」は,「貯留部
分50」を囲繞するティッシュ(すなわちクレープ紙)や合成繊維ウ
ェブ等からなるシート材料であるから,「クレープ紙」に相当するの
であって,乙35明細書の「オーバーラップ層64」は,本件第1発
明1の「吸収体」に含まれない。
b 本件第1発明1の構成要件E2の「裏面側両側部近傍」は,「ギャ
ザー不織布の起立先端部分に配置された弾性伸縮部材」の伸縮力と共
働して「吸収体」の両側部を起立させる程度の位置関係を意味すると
ころ,乙35明細書の「弾性部材78」は,本件第1発明1の「吸収
体」に相当する「貯留部分50」の側縁部を起立させるものではない
し,「弾性部材78」は,「貯留部分50」の「裏面両側部」に配設
されていない上,乙35明細書には,「貯留部分50」が「オーバー
ラップ層64」の側縁まで移動している構成は開示されていない。
(イ) 本件第1発明1の構成要件Fに相当する構成について
乙35明細書の「吸収性集成体36は弓状またはカップ状の形態を成
す」との記載は,長手方向に弾性部材が収縮する結果,「吸収性集成体
36」が長手方向に「弓状またはカップ状の形態」に変形することを意
味するものであり,仮に上記記載が「吸収性集成体36」の横方向の形
態を説明したものであるとしても,「弾性部材78」は本件第1発明1
の「吸収体」に相当する「貯留部分50」の両側部を起立させない。さ
らに,被告の主張を前提としても,「カップ状の形態」になるのは「吸
収性集成体36」であり,「貯留部分50」の側縁が臀部にフィットす
る程度に起立することは,乙35明細書に開示も示唆もされていない。
イ 無効理由2について
(ア) 乙36公報について
a 乙36発明の「サイドフラップ6」は,少なくとも背側区域におい
ては,平面ギャザーとして機能しているので,本件第1発明1の「立
体ギャザー」とはいえないし,本件第1発明1の「立体ギャザー」は,
ギャザー不織布の先端に配設された弾性部材の弾性伸縮力によってギ
ャザー不織布が上方向に引き上げられることによって吸収体側部を包
み上げるように持ち上げ,吸収体側部の起立をサポートし得るものを
意味するが,乙36公報の「サイドフラップ6」は後身頃領域では外
側に展開された状態で耳部上に接着されているので,股間部中央から
後身頃後端にかけての「弾性部材5」の伸縮力は,「サイドフラップ
6」を上方向に引き上げるようには作用していない。
b 乙36公報の「サイドフラップ6」は,少なくとも股下区域から背
側区域において,吸収体側縁部を巻き込んでいない。
c 乙36公報の「サイドフラップ6」は,少なくとも背側区域におい
て起立しない。
(イ) 乙37公報について
本件第1発明1の構成要件Fの「吸収体の両側部を起立させる」は,
吸収体の両側部が臀部にフィットする構成で起立させることを意味する
ところ,乙37公報では,「吸収体3」の側部が持ち上がる構成が開示
されているが,これは,「バリヤーカフスB」を確実に起立させ,「表
面シート5」及び「吸収体3」を使用者からできるだけ離し,軟便を吸
収するための「ポケット空間P」を形成するための構成にすぎないから,
本件第1発明1の「吸収体の両側部を起立させる」構成には相当しない。
(ウ) 本件第1発明1と乙36発明との相違点について
a 本件第1発明1と乙36発明とは,相違点1のほか,乙36発明で
は,「サイドフラップ」の縦方向前端部は,少なくともその一部が内
側へ折り曲げられた状態で,おむつの前側区域に固定され,その折り
曲げによっておむつの前側区域から股下区域へかけてそれらの区域の
対向側にポケットが形成され,外側へ広げられた状態で,おむつの背
側区域における吸収性コアの横対向側縁から外側へ延出する耳部上に
固定されているのであって,乙36発明の「サイドフラップ6」は,
前側領域の一部のみでしか立体ギャザーとして機能していないから,
本件第1発明1と乙36発明とは,乙36発明が本件第1発明1の構
成要件Aの「表面がわ両側部に立体ギャザーが形成された」との構成
を有していない点及び構成要件Cの「ギャザー不織布が…吸収体側縁
部をさらに上側から巻き込んで」との構成を有していない点で相違す
る。
b 乙37発明の「吸収体3」の側部が持ち上がる構成は,前記(イ)の
とおり,本件第1発明1の「吸収体の両側部を起立させる」構成に相
当しないから,乙36発明に乙37発明を適用したとしても,本件第
1発明1に想到することはできない。
また,乙36発明の課題は,サイドフラップが充分に広げられてい
る場合の尿漏れの防止,腿回り,とくに背側区域におけるフィット性
の改善,製造の簡易化であるのに対し,乙37発明の課題は,尿の横
漏れ防止とバリヤーカフスの確実な起立であり,両者の課題は明らか
に異なるから,乙36発明に乙37発明を適用する動機付けがないし,
乙36発明には,吸収体を身体側にフィットさせて吸収性能を高める
という本件第1発明1の動機付けの記載も示唆もない。さらに,乙3
6発明は,「サイドフラップ6」の前側区域における内向きの力を背
側区域までの間に徐々に外向きの力に置換することにより,身体に対
するフィット性を向上させるのに対し,乙37発明は,立体ギャザー
を起立させることのみを目的とするものであって,乙36発明に乙3
7発明を適用した場合には,乙36発明の「サイドフラップ6」は,
少なくとも背側区域で「外側へ広がりながら,尻部を広く包み込むこ
と」が阻害され,その作用効果を喪失するから,乙36発明には,乙
37発明を適用することを阻害する事由がある。
c 乙36発明に,吸収体の側縁部を持ち上げる技術思想はなく,乙3
7発明も,吸収体の側縁部を持ち上げるのは確実にバリヤーカフスを
起立させるためであって,臀部のカーブ線に沿って吸収体をフィット
させるとの技術思想はないから,本件第1発明1は,乙36発明と乙
37発明の単なる寄せ集めではない。
d したがって,当業者が,乙36発明及び乙37発明に基づいて本件
第1発明1を容易に発明することができたとはいえない。
(4) 争点4(原告らの損害)について
(原告らの主張)
被告は,平成20年10月10日から平成22年3月末日までの間に,被
告製品1を少なくとも1億9000万枚,被告製品2を3億9000万枚そ
れぞれ製造し,販売した。被告製品1及び2の1個当たりの利益は,それぞ
れ2.6円及び2.2円を下らないから,被告による本件第1特許権及び本
件第2特許権の侵害行為によって被った原告らの損害の額は,被告製品1に
ついて4億9400万円,被告製品2について8億5800万円の合計13
億5200万円になると推定される。
また,原告らは,本件訴訟の提起を弁護士に依頼して着手金及び報酬金を
支払うことを約しているところ,被告による侵害行為と相当因果関係のある
弁護士費用相当損害金の額は,1億3500万円である。
(被告の主張)
否認する。
第3 争点に対する判断
1 争点2(各被告製品が本件各発明の技術的範囲に属するか否か)について
事案に鑑み,まず,争点2について判断する。
(1) 本件第1発明1について
ア 各被告製品が本件第1発明1の構成要件Dを充足するか否かについて,
検討する。
(ア) 構成要件Dの「サイドフラップ」の解釈について
a 本件第1発明1に係る特許請求の範囲の記載は,本件第1特許公報
の特許請求の範囲の請求項1記載のとおりであり,これによれば,構
成要件Dの「サイドフラップ」は,吸収体の裏面側を覆う裏面シート
からなり,脚周り部位において,上記裏面シートの長手方向側縁を吸
収体の側縁にほぼ一致させることによってなくなるものであると認め
られる。
b そして,甲2(本件第1特許公報)によれば,本件第1特許明細書
の発明の詳細な説明には,次の記載があることが認められる。
(a) 「本発明は,サイドフラップを無くし見栄えを向上するととも
に,吸収体両側部を身体側に持上げフィットさせるようにした使い
捨て紙おむつに関する。」(段落【0001】)
(b) 「従来より,市場に提供されている紙おむつは,図9および図
10に示されるように,裏面側に配置されるポリエチレン等からな
る不透液性裏面シート51と,表面側に配置される不織布等からな
る透液性表面シート52と,これら不透液性裏面シート51と透液
性表面シート52との間に配置された略砂時計状の吸収体53とか
ら主に構成され,紙おむつの両側部においては,表面側に設けられ
た不織布等からなる立体ギャザーシート54と,その内側端縁に沿
って配設された弾性伸縮部材55とにより表面側に起立する立体ギ
ャザーBSが形成されるとともに,吸収体53の側縁よりも側方に
延在された前記不透液性裏面シート51部分と,前記立体ギャザー
シート54の外側シート部分とにより吸収体53の介在しないサイ
ドフラップ部SFが形成され,かつこれらの間に複数条の糸状弾性
ゴム57,57…が紙おむつの長手方向に沿って配置されることに
より,前記サイドフラップ部SFにひだ状の平面ギャザーGKが形
成されている。」(段落【0002】)
(c) 「他方,前記立体ギャザーBSを乗り越えて漏出する体液を堰
き止めるために,脚周りには吸収体側縁よりも外方部分に吸収体の
存在しないサイドフラップSFを形成するとともに,弾性伸縮部材
57,57…を配設して平面ギャザーGKを形成している。しかし,
フリル状に外部に突出形成される前記サイドフラップSFが見栄え
を悪くしているなどの問題があった。」(段落【0005】)
(d) 「そこで本発明の主たる課題は,コンパクト化等を図りながら
も十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ線に沿
って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感を無く
すことにある。また同時に,脚周りに沿って形成されているサイド
フラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を図ること
等にある。」(段落【0006】)
(e) 「本発明においては,コンパクト化等を図るために好ましくは
吸収体を方形状とし,透液性表面シートを吸収体の側縁部を巻き込
んで吸収体裏面がわまで延在させるとともに,立体ギャザー形成用
のギャザー不織布についても同様に吸収体の側縁部を巻き込んで吸
収体裏面がわまで延在させるようにしている。したがって,脚周り
にサイドフラップが形成されないため見栄えが良好となる。」(段
落【0008】)
(f) 「以上詳説のとおり,本発明によれば,コンパクト化等を図り
ながらも十分な吸収性能を確保することができ,かつ臀部のカーブ
線に沿って吸収体をフィットさせることでゴワ付き感やもたつき感
を無くすことができる。また同時に,脚周りに沿って形成されてい
るサイドフラップを無くし脚周りをすっきりさせて見栄えの向上を
図ることができる。」(段落【0012】)
(g) 「前記裏面シート1は略砂時計状とされ,少なくとも脚周りの
幅寸法は前記吸収体3の幅寸法とほぼ同寸法とされ,吸収体3の側
縁線にほぼ一致した形状となっている。」(段落【0020】)
(h) 「さらに,脚周りに沿って形成されていた従来のサイドフラッ
プが無くなり,脚周りがすっきりとするため見栄えが向上するよう
になる。」(段落【0030】)
c 以上の事実によれば,構成要件Dの「サイドフラップ」は,吸収体
の裏面側を覆う裏面シートのうち,吸収体の側縁よりも外方に延在し
た部分を指すものということができる。
d 原告らは,「サイドフラップ」とは体液漏出防止機能を有する構成,
すなわち,体液をせき止めるために平面ギャザーを形成したような構
成を意味し,単なる外形シートの「余剰部」を意味しないと主張する。
しかし,前記b認定の事実によれば,「サイドフラップ部SF」は,
本件第1特許明細書の発明の詳細な説明において,従来技術として説
明されているところ,これは,「吸収体53の側縁よりも側方に延在
された前記不透液性裏面シート51部分と,前記立体ギャザーシート
54の外側シート部分とにより」構成され,この「サイドフラップ部
SF」に,糸状弾性ゴムが配置されることによって「平面ギャザーG
K」が形成されるものであって,「サイドフラップ」は平面ギャザー
を構成する要素にすぎず,従来技術の説明において,体液漏出防止の
機能を担う平面ギャザーと「サイドフラップ」とが同一であるとは説
明されていない。そして,発明の詳細な説明におけるそのほかの記載
をみても,「サイドフラップ」がなくなることにより見栄えの向上が
図られることが説明されているだけで,「サイドフラップ」が体液漏
出防止機能を有するものに限られ,単なる外形シートの余剰部は「サ
イドフラップ」に当たらないことをうかがわせるような説明はない。
したがって,原告らの上記主張は,採用することができない。
(イ) 各被告製品が構成要件Dを充足するか否かについて
a 被告製品1について
(a) 構成要件Dに対応する被告製品1の構成が次のとおりであること
は,当事者間に争いがない。
「裏面シートの長手方向側縁は,吸収体の側縁から以下の①ないし
③の各箇所において,それぞれに記載された距離だけ外方に形成され,
製品展開状態における裏面シートの長手方向側縁の形状が円弧状にな
るように形成されている。
① 吸収体側縁から最も距離が短い部分 平均12.2㎜
② 前身頃のレッグ開口始端と股下域の真下との間の二等分線上の箇
所 平均36.0㎜
③ 前身頃の一番下(股下域寄り)に設けられた伸縮部材の線上の
箇所 平均67.1㎜」
(b) これによれば,被告製品1の裏面シートの長手方向側縁は,脚周
り部位において,吸収体の側縁と一致せず,裏面シートの一部は,吸
収体の側縁よりも外方に延在して,「サイドフラップ」を形成してい
ることが認められる。
(c) したがって,被告製品1は,構成要件Dを充足しない。
b 被告製品2について
(a) 構成要件Dに対応する被告製品2の構成が次のとおりであること
は,当事者間に争いがない。
「裏面シートの長手方向側縁は,吸収体の側縁から以下の①ないし
③の各箇所において,それぞれに記載された距離だけ外方に形成され,
製品展開状態における裏面シートの長手方向側縁の形状が円弧状にな
るように形成されている。
① 吸収体側縁から最も距離が短い部分 平均12.0㎜
② 前身頃のレッグ開口始端と股下域の真下との間の二等分線上の箇
所 平均31.6㎜
③ 前身頃の一番下(股下域寄り)に設けられた伸縮部材の線上の箇
所 平均70.3㎜」
(b) これによれば,被告製品2の裏面シートの長手方向側縁は,脚周
り部位において,吸収体の側縁と一致せず,裏面シートの一部は,吸
収体の側縁よりも外方に延在して,「サイドフラップ」を形成してい
ることが認められる。
(c) したがって,被告製品2は,構成要件Dを充足しない。
イ 以上のとおりであって,各被告製品は,構成要件Dを充足しないから,
本件第1発明1の技術的範囲に属しない。
(2) 本件第1発明2について
各被告製品は,前記(1)のとおり,本件第1発明1の構成要件Dを充足し
ないし,本件第1特許権に係る特許請求の範囲の請求項2は,請求項1に従
属するものであって,各被告製品は,構成要件Hの「請求項1,2のいずれ
かに記載の使い捨て紙おむつ」に当たらないから,構成要件Hを充足しない。
したがって,各被告製品は,本件第1発明2の技術的範囲に属しない。
(3) 本件第2発明について
ア 各被告製品が本件第2発明の構成要件Nを充足するかについて,検討す
る。
(ア) 構成要件Nには,「複数の太さが620dtex以下,伸張応力が
150%伸長時において4~17gの腰下伸縮部材が,前記ウエスト伸
縮部材の間隔より短い7㎜以下の間隔を持って周方向に平行に,且つ,
前記吸収コアの中央部では不連続に設けられ」との構成があり,このう
ちの「150%伸長時」について,まず検討する。
a 構成要件Nの「150%伸長時」の文言は,腰下伸縮部材の「伸張
応力」に係る文言であり,甲4(本件第2特許公報)によれば,本件
第2特許明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Dの構成と同一内
容の記述(段落【0009】,【0010】参照)のほか,腰下伸縮
部材の材質やその「伸張応力」に係る記述として,「また,これら腰
下部伸縮部材21F,21Bとして使用する糸ゴムは,前述のウエス
ト伸縮部材20F,20Bとして使用する細い糸ゴムよりも伸張応力
および断面外径が小さいか,あるいは実質的に同一のものとすること
ができる。ここにおいて使用する細い糸ゴムとしては,具体的には,
伸張応力が,150%伸長時において4~17gの範囲,特に5~1
0gの範囲のものが好適に使用される。」(段落【0041】),
「<伸縮部材について> 本発明の各伸縮部材としては,天然ゴムや
合成ゴムなどの材質のほか,ウレタンなどの弾性伸縮性のものを用い
ることができる。また,細帯状の弾性伸縮性帯や,面積的に大きいシ
ート状のものも使用できる。これらの例として,ウレタンなどの帯,
フィルムまたはシートなどがある。フィルムとしては無孔フィルムや
孔開きフィルム,さらにシートとしては前述のような網目状のシート
などを適宜選択できる。」(段落【0077】)との記載があること
が認められる。
しかしながら,本件第2特許明細書の発明の詳細な説明に,「%伸
長時」の意味を定義する記載はない。
b ところで,「伸長」は,「長さや勢力などがのびること。また,の
ばすこと。」(広辞苑。乙2の2)を意味する言葉であり,「伸長
時」は,伸びた時や伸ばした時を意味し,伸びに関する用語であるか
ら,以下,繊維やゴムの伸びに係る用語についてみることとする。
(a) 繊維やゴムに係る用語についてのJIS規格
前記a認定の事実によれば,本件第2発明の各伸縮部材としては,
天然ゴムや合成ゴムなどの材質のほか,ウレタンなどの弾性伸縮性
のものが用いられるところ,繊維やゴムに係る用語についてのJI
S規格は次のとおりである。
繊維製品の試験に関する主な用語について規定する「繊維用語-
試験部門」のJIS規格(JIS L 0208。乙44)は,
「伸び率」を,「引き伸ばしたときの長さと元の長さとの差の,元
の長さに対する百分率。伸度又は伸長率ともいう。」と定義してい
る。
ゴム工業において一般的に使用する用語について規定する「ゴム
用語」のJIS規格(JIS K 6200。乙45)は,「伸び
率」を,「試験片又は一様な断面をもつ部分の伸びで,元の長さに
対する百分率。」と定義している。
また,「糸ゴム」のJIS規格(JIS K 6327。乙3の
1)は,引張試験について「JIS K 6251に規定する方法
に準じ」るとし,「加硫ゴムの引張試験方法」のJIS規格(JI
S K 6 251 。 乙3の2) は,切断 時伸び(% )を「 E B =
(L 1 -L 0 )/L 0 ×100」との式(E B :切断時伸び(%),
L 0 :標線間距離(㎜),L 1 :切断時の標線間距離(㎜)),す
なわち,切断時の長さと元の長さとの差(伸びの長さ)の,元の長
さに対する百分率で表している。
(b) ポリウレタン繊維やゴム糸の伸長率,伸度の用法について
書籍「最新ポリウレタンの合成・配合と機能化・用途展開」(乙
24)は,ポリウレタン繊維とゴム糸の伸度と強度の関係を表すグ
ラフにおいて,伸度を0%から表示し,また,ポリウレタン繊維で
ある「ロイカHS」のリーフレット(乙23)は,「ロイカHS」
の伸縮特性を表すグラフにおいて,伸長率を0%から表示し,さら
に,ポリウレタン繊維である「オペロン」のカタログ(乙34)は,
「オペロン」の伸度とパワーの関係を表すグラフにおいて,伸度を
0%から表示している。
(c) 前記(a)及び(b)認定の事実によれば,繊維やゴムについての
伸びの度合いを表す用語としては,伸び率,伸度又は伸長率との語
が一般的に用いられ,これらは,伸びの長さ(伸びたときの全体の
長さと元の長さとの差)の元の長さに対する百分率を意味する,す
なわち,自然長の時は0%と表すものと認められる。
c 次いで,おむつ等の吸収性物品に関する発明に係る特許公報におけ
る,弾性伸縮部材について用いられる「%伸長時」,「伸長率」の用
法についてみる(なお,乙2の2によれば,「伸長時」と「伸張時」,
「伸長率」と「伸張率」はそれぞれ同義であると認められるから,以
下の(a),(b)では,それぞれ「伸長時」,「伸長率」と統一して表
記する。)
(a) 「%伸長時」の用法について
甲26,乙18,25,28,29,43の特許公報では,「%
伸長時」の語が用いられ,これらの公報で用いられている「%伸長
時」の「%」は,伸びの長さの自然長に対する百分率であり,自然
長の時には0%と表すものである。
この用法は,上記b(c)に述べた伸び率,伸度又は伸長率の用法
と同じである。
(b) 「伸長率」の用法について
i 乙16,18,27,28,29の特許公報では,「伸長率」
の語が用いられ,これらの公報で用いられている「伸長率」は,
伸びの長さの自然長に対する百分率であり,自然長の時には伸長
率は0%と表すものである。
この用法は,上記b(c)で述べた伸び率,伸度又は伸長率の用
法と同じである。
ii これらに対し,甲14,26,27,乙30,31,32,3
3,43の特許公報で用いられている「伸長率」は,伸ばしたと
きの全体の長さの自然長に対する百分率であり,自然長の時には
伸長率は100%と表すものである。
この用法は,上記b(c)に述べた伸び率,伸度又は伸長率の用
法とは異なるが,上記の各特許公報において,伸長率の意味を定
義する記載がある。
d 本件第2特許明細書の発明の詳細な説明には,構成要件Nの「15
0%伸長時」の「%伸長時」の意味を定義するような記載がなく,こ
れを特定の意味で用いていることはうかがえないから,「%伸長時」
との文言は,その有する通常の意味で用いているものと考えられる。
そして,前記bで述べたところによれば,繊維やゴムの伸びの度合い
について,「伸び率」,「伸長率」又は「伸度」は,一般的に用いら
れ,伸びの長さの元の長さに対する百分率を意味するから,同じよう
に伸びの度合いを表す構成要件Nの「%伸長時」も,前記cの他の特
許公報における通常の用法と同様に,伸びの長さの自然長に対する百
分率を意味するものとして用いていると解するのが相当である。
そうであれば,構成要件Nの「150%伸長時」は,伸びの長さが
自然長の150%になっている時,すなわち,自然長の2.5倍伸長
時を意味するものである。
e 原告らの主張について
(a) 原告らは,伸縮部材を対象部材に適用する張設具合が問題とな
る場面では,「%伸長時」や「伸長率」について,自然長を10
0%とする解釈を採用することが合理的である旨主張する。
しかしながら,構成要件Dの「%伸長時」は,前記dのとおり,
自然長を0%とするものとして用いているのであり,証拠(乙18,
25,27,28,29)によれば,張設具合が問題となる場面に
おいても,自然長を0%とするものとして用いている特許公報が複
数あることが認められることを併せ考えると,自然長を0%とする
解釈を排除して,100%とする解釈を採用することが合理的であ
るということはできない。
原告らの上記主張は,採用することができない。
(b) 原告らは,① 構成要件Nの腰下伸縮部材は,汎用される一般
的な弾性伸縮部材を具体的に説明したものにすぎないところ,本件
第2発明に係る特許出願当時紙おむつに汎用されていた弾性伸縮部
材は,自然長の1.5倍伸長時に構成要件Nに規定する伸張応力を
示す,② 本件第2発明に係る特許出願当時,汎用品と同程度か,
より伸張応力の大きな弾性伸縮部材を用いるのが技術開発のトレン
ドであり,「150%伸長時」を自然長の2.5倍伸長時とすると,
伸張応力の極めて小さな材料を採用することとなって,当時のトレ
ンドと異なる,③ 本件第2発明に係る特許出願当時,おむつ分野
の弾性伸縮部材は装着時に自然長の1.5倍前後となるように配設
されていたから,当業者は「150%伸長時」を「自然長の1.5
倍伸長時」を意味するものと理解すると主張する。
しかしながら,① 本件第2特許明細書の発明の詳細な説明の記
載からは,構成要件Nの腰下伸縮部材が汎用される一般的な弾性伸
縮部材であるか否かは明らかではないから,紙おむつに汎用されて
いた弾性伸縮部材が自然長の1.5倍伸長時に構成要件Nに規定す
る伸張応力を示すとしても,「太さが620dtex以下,伸張応
力が150%伸長時おいて4~17g」との特定が,汎用される一
般的な弾性伸縮部材を具体的に説明したものにすぎないということ
はできない。また,② 本件第2特許明細書の発明の詳細な説明の
記載からは,構成要件Nの腰下伸縮部材として,出願当時の技術開
発のトレンドに従った弾性伸縮部材を採用したものであるか否かは
明らかではないから,構成要件Nの腰下伸縮部材が汎用品と同程度
か,より大きな伸張応力のものであると認めることはできない。さ
らに,③ 構成要件Nの「150%伸長時」は,弾性伸縮部材を配
設する際の伸長の度合いを示したものではない。
したがって,原告らの主張する事情があるとしても,当業者が
「150%伸長時」を「自然長の1.5倍伸長時」を意味するもの
と理解するとは認められないから,原告らの上記主張は,採用する
ことができない。
(イ) 構成要件Nの「150%伸長時」は,前記のとおり,伸びの長さが
自然長の150%になっているとき,すなわち,自然長の2.5倍伸長
時を意味するから,「伸張応力が150%伸長時において4~17gの
腰下伸縮部材」とは,腰下伸縮部材の「伸張応力」が自然長の2.5倍
伸長時において「4~17g」(「4~17g」の「g」は,「g/
㎠」を意味すると解すると,弾性伸縮部材の応力として明らかに小さな
値となるから,「gf」(糸の断面積で割らない引張力)を意味すると
認められる。)を示すことを意味する。
a 被告製品1について
被告製品1の腰下伸縮部材の「伸張応力」が自然長の2.5倍伸長
時(150%伸長時)において約31.6gfであることは,当事者
間に争いがないところ,これは,「150%伸長時において4~1
7」gfの範囲外であるから,被告製品1は,構成要件Nを充足しな
い。
b 被告製品2について
被告製品2の腰下伸縮部材の「伸張応力」が自然長の2.5倍伸長
時(150%伸長時)において約33.4gfであることは,当事者
間に争いがないところ,これは,「150%伸長時において4~1
7」gfの範囲外であるから,被告製品2は,構成要件Nを充足しな
い。
イ 以上のとおりであって,各被告製品は,構成要件Nを充足しないから,
本件第2発明の技術的範囲に属しない。
2 上記1に判示したところによれば,各被告製品は,本件各発明の技術的範囲
に属しないから,原告らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,
いずれも理由がない。
第4 結論
よって,原告らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 高 野 輝 久
裁判官 志 賀 勝
裁判官 小 川 卓 逸
(別添A特許公報及びB特許公報は省略)
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