令和3(ワ)1333 著作権
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裁判所 |
東京地方裁判所東京地方裁判所
|
裁判年月日 |
令和3年12月21日 |
事件種別 |
民事 |
当事者 |
原告A 被告株式会社エムエムラボ
株式会社グローバルネット
|
法令 |
著作権
民法719条2項1回
|
キーワード |
侵害50回 許諾19回 損害賠償3回 実施1回
|
主文 |
1 被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対す20
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがないか弁論の全趣
0)。
2 争点
3 争点に対する当事者の主張
00万円を下らない。
1 争点1(被告らの共同不法行為責任の有無)について
8パーセントから10パーセント程度となっていた。
2 争点2(原告の損害額)について5
2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は46
2円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ,10 |
事件の概要 |
本件は,漫画家である原告が,インターネット上の漫画閲覧サイト(以下「本件
ウェブサイト」という。)において原告の著作物である漫画が無断掲載されて原告の
公衆送信権が侵害されているところ,被告らは本件ウェブサイトに掲載する広告主5
を募り,本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料として運営資金の提供等をするこ
とにより,上記公衆送信権侵害を幇助したと主張して,被告らに対し,共同不法行
為者としての責任(民法719条2項,709条)に基づき,損害賠償金1100
万円及びこれに対する原告の漫画が本件ウェブサイトに無断掲載された日のうち最
も後の日である平成29年11月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第10
44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を
求める事案である。 |
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判決文
令和3年12月21日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和3年(ワ)第1333号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和3年10月14日
判 決
原 告 A
同訴訟代理人弁護士 平 野 敬
同 山 口 貴 士
10 被 告 株式会社エムエムラボ
(以下「被告エムエムラボ」という。)
被 告 株式会社グローバルネット
15 (以下「被告グローバルネット」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 森 大 輔
同 岡 井 裕 夢
主 文
20 1 被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対す
る平成29年11月18日から支払済みまで年5分の割合によ
る金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
25 事 実 及 び 理 由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
本件は,漫画家である原告が,インターネット上の漫画閲覧サイト(以下「本件
ウェブサイト」という。 において原告の著作物である漫画が無断掲載されて原告の
)
5 公衆送信権が侵害されているところ,被告らは本件ウェブサイトに掲載する広告主
を募り,本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料として運営資金の提供等をするこ
とにより,上記公衆送信権侵害を幇助したと主張して,被告らに対し,共同不法行
為者としての責任(民法719条2項,709条)に基づき,損害賠償金1100
万円及びこれに対する原告の漫画が本件ウェブサイトに無断掲載された日のうち最
10 も後の日である平成29年11月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第
44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を
求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがないか弁論の全趣
旨により認められる。)
15 (1) 当事者
ア 原告は,漫画家であり,別紙原告著作物目録記載の各漫画(以下,同目録の
「番号」欄記載の1から38までを「原告漫画1」といい,39から53までを「原
告漫画2」といい,これらを併せて「原告漫画」という。)を制作した。
イ 被告エムエムラボは,主に,インターネットの広告を取り扱う広告代理業を
20 目的とする株式会社である。
ウ 被告グローバルネットは,インターネットの広告を取り扱う広告代理業を目
的とする株式会社であり,被告エムエムラボの親会社である。被告エムエムラボの
代表取締役B(以下「B」という。 は,
) 被告グローバルネットの常務取締役を務め,
被告グローバルネットの本店事務所の住所地は,被告エムエムラボの支店の所在地
25 として登記されている。
(2) 本件ウェブサイトの設置及び閲覧者数等
平成28年1月頃,
「漫画村-無料コミック漫画-」と題するウェブサイト(本件
ウェブサイト)が設置された。本件ウェブサイトには,
「登録不要で完全無料な最新
漫画サイトです。スクロールだけで見やすくDL不要!」などの閲覧を推奨する文
章とともに,ウェブサイト上で閲覧可能な漫画が掲載されていた。本件ウェブサイ
5 トが有する蔵書数は5万冊以上であり,平成30年3月時点の月間閲覧者数は,延
べ1億7000万人に上り,平成29年9月から平成30年2月までの間の閲覧者
数は延べ約6億2000万人に上るとの試算もされている。(甲4,5,8)
本件ウェブサイトは,平成30年4月に閉鎖された。
(3) 本件ウェブサイトへの原告漫画の掲載
10 ア 原告は,別紙原告著作物目録の各「発行年月日」欄記載の各年月日頃に,原
告漫画をそれぞれ制作した。
イ 本件ウェブサイト上において,平成29年4月21日から同年5月6日にか
けて,原告漫画1のうち1巻,6巻から15巻まで及び24巻が掲載された(甲1
0)。
15 また,平成29年11月18日までに,本件ウェブサイトにおいて,原告漫画2
が掲載された(甲11)。
2 争点
(1) 被告らの共同不法行為責任の有無(争点1)
ア 被告らの幇助による共同不法行為の成否(争点1-1)
20 イ 被告らの行為と原告の損害との因果関係の有無(争点1-2)
ウ 被告らの故意又は過失の有無(争点1-3)
(2) 原告の損害額(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1-1(被告らの幇助による共同不法行為の成否)
25 〔原告の主張〕
ア 被告ら(被告エムエムラボが子会社,被告グローバルネットが親会社)の行
為については,次のとおり,原告漫画の本件ウェブサイトへの掲載行為に関し,幇
助による共同不法行為が成立する。
(ア) 本件ウェブサイトのような海賊版サイト運営者は,専ら利益のみを目的とし
て海賊版サイトを運営している。現に,本件ウェブサイトの運営者と目されるC(以
5 下「C」という。)は,本件ウェブサイト等の1年分の利益として約6257万円の
利益を受けており,他の運営協力者もCから相当額の報酬を得ており,金銭を目的
として本件ウェブサイトが運営されていたことは明らかである。
そして,海賊版サイトの運営資金源は専ら広告収入である。すなわち,一般に,
インターネット上のウェブサイトから収益を上げるには,会員制として閲覧者から
10 閲覧代金を徴収するか,広告を掲載して広告主から広告収入を得るかのどちらかで
あるところ,海賊版サイトを含む違法なウェブサイトの場合,運営者自身が身元を
隠す必要があるし,閲覧者もそうしたサイトに個人情報やクレジット番号等の情報
を登録することを嫌い,会員制による代金徴収が困難であるため,広告収入に頼る
ことになる。
15 (イ) 本件ウェブサイトに関し,Cらは,株式会社D(以下「D」という。)をその
広告取扱いの窓口(メディアレップ)とし,Dは,被告エムエムラボ(被告グロー
バルネットはその親会社)その他の広告代理店と契約を結び,本件ウェブサイトに
おける広告掲載を受け付けていた。そして,被告らは,広告主に対して自社を通じ
て本件ウェブサイトに広告を出稿することができることをアピールして営業活動を
20 行い,あるいは,広告主に対して本件ウェブサイトに広告を掲載することを告げず
に,広告主から預かった広告掲載料を本件ウェブサイトの管理者に提供するなどし
て,広告費の支払をしていた。
(ウ) 広告業界においては,従前より,インターネット広告が正当なデジタルコン
テンツを支える経済的基盤であるという社会的責任と役割に基づき,インターネッ
25 ト上の違法 不当サイトを広告掲載先から排除する取組みがされてきたのであって,
・
海賊版サイトを含む違法サイトに広告費を支出して広告を出稿することは,当該サ
イトの運営者に資金を提供するに等しく,違法行為を助長すると広く認識されてい
た。
(エ) これらによれば,被告らにおいて,海賊版サイトである本件ウェブサイトに
広告費を支出して広告を出稿する行為は,本件ウェブサイトの運営を容易ならしめ,
5 著作権侵害という犯罪行為にも該当する不法行為を誘発する共同の行為に他ならな
い。そうすると,被告らがDを通じて本件ウェブサイトに広告を掲載するための広
告主を募り,広告費を徴収してこれを本件ウェブサイトに支払う行為は,本件ウェ
ブサイトの著作権侵害の不法行為を共同して幇助するものであることは明らかであ
る。
10 イ 被告らは,本件ウェブサイトに広告費を支出して広告掲載を行うより前に,
原告漫画が本件ウェブサイトに無断掲載されていたことを理由に,被告らの行為が
本件ウェブサイトによる著作権侵害の幇助に該当しないと主張する。しかし,本件
ウェブサイトにおいて原告漫画が無断掲載されて閲覧可能な状態が作出されている
のであるから,かかる状態が削除されない限り,原告の公衆送信権が侵害されてい
15 る状況が継続しているといえ,被告らの行為が違法な公衆送信可能化状態の維持及
び継続を容易にしていることに変わりはなく,被告らに幇助行為が成立すると評価
することに何らの問題はない。
〔被告らの主張〕
原告の上記主張は,否認して争う。
20 まず,原告漫画1の6巻ないし13巻は,平成29年5月より前に掲載されてい
る一方,被告らが本件ウェブサイトの広告取扱窓口(メディアレップ)であるDと
の間で本件ウェブサイトにおける広告掲載に係る契約を締結したのは同年4月,被
告らがDに対して広告費を支払ったのは同年5月以降であるから,本件ウェブサイ
トにおける原告漫画1の6巻ないし13巻の無断掲載は,被告らが本件ウェブサイ
25 トに対して広告費を支払うより前から行われていたものである。そうすると,この
ような被告らの行為が,本件ウェブサイトの無断掲載行為による著作権侵害(公衆
送信権侵害)の成立を容易にするということはできない。
また,同月以降に行われた原告漫画の無断転載行為に関しても,被告らの広告費
の支出行為が社会通念上,一般的,類型的に著作権侵害を招来する現実的危険性を
有するとはいえず,これは,幇助に該当しない。すなわち,著作権侵害を物理的に
5 促進する現実的危険性を有する行為とは,無断掲載に用いる著作物を提供する等著
作権侵害に直接必要なものを提供する行為であるが,広告費を支出して広告を掲載
する行為は,無断掲載行為を行う上で直接必要なものではない。そして,社会通念
上,広告収益が広告媒体であるメディアに対して支払われることによって,著作物
の無断掲載行為がされるとは言い難く,広告費の支払が著作権侵害の結果を招来す
10 ることにはならない。仮に,広告費が広告媒体であるメディアに支払われることが
著作権侵害を物理的に促進する現実的危険性を有する行為ということになれば,著
作権侵害を行う者と取引を行って金銭的な利益を提供した者はすべからく著作権侵
害を物理的に促進したということになりかねず,そのような結果が社会通念上不合
理であることは明らかである。
15 (2) 争点1-2(被告らの行為と原告の損害との因果関係の有無)
〔原告の主張〕
原告は,原告漫画を有償で提供していたものであるところ,本件ウェブサイトに
よる原告漫画の無断掲載により,消費者の購買意欲が低下し,その正規品の売上げ
が低下したことは経験則上明らかである。そうすると,被告ら(被告エムエムラボ
20 が子会社,被告グローバルネットが親会社)による行為(本件ウェブサイトによる
無断掲載の幇助行為)と原告に生じた損害との間には因果関係が存するものである
といえる。
〔被告らの主張〕
原告の上記主張は,否認して争う。
25 被告らは,本件ウェブサイトの運営者とは直接取引を行っておらず,被告エムエ
ムラボが,メディアレップとして本件ウェブサイトとの間に介在していたDとの間
で広告掲載に係る契約を締結していたに過ぎないから,被告らがDに支払った広告
費のうち,本件ウェブサイトに対して支払われた広告費を区別して算出することは
不可能である。そのため,原告漫画の売上減少にどの程度影響を及ぼしたのかは不
明であるから,被告らの行為と原告の損害との間に因果関係があるとはいえない。
5 (3) 争点1-3(被告らの故意又は過失の有無)
〔原告の主張〕
ア 故意が認められること
被告らの行為は,次のとおり,故意による幇助行為に当たるというべきである。
すなわち,まず,被告エムエムラボ(被告グローバルネットの子会社)は,本件
10 ウェブサイトの運営者との間で広告掲載の契約を締結するに当たり,本件ウェブサ
イトの表題やURLを提示させ,
「運用チーム」の配信設定を手動で行っていたもの
であるから,本件ウェブサイトについて,これを配信先として登録する際に認識し
ていた。加えて,被告グローバルネットは,広告主に対し,広告の掲載先となるウ
ェブサイトの性質を踏まえて営業活動を行っていた。具体的には,被告グローバル
15 ネットは,詐欺的な情報商材を扱う事業者やアダルト関連事業者に対して本件ウェ
ブサイト上での広告掲載を打診していた。また,被告らが広告掲載の媒体として契
約を締結していたウェブサイトは,本件ウェブサイトに限らず,漫画や動画を無断
掲載する多数の海賊版サイトであり,その中には,大規模な刑事事件及び民事事件
に発展した海賊版サイトも含まれており,現に,被告ら自身,当該事件に関して警
20 察から照会を受けることもあった。
そして,違法な海賊版サイトの管理者と契約を結んで広告を掲載するに当たって
は,被告エムエムラボの代表者であり,かつ,被告グローバルネットの常務取締役
であるBが決裁者となり,個別に決裁を行っていた。
これらからすれば,被告らによる本件ウェブサイトに対する広告出稿は,被告ら
25 が組織ぐるみで意思決定し,関与していたものであり,被告らに,幇助行為につい
ての故意が認められる。
イ 過失が認められること
仮に,被告らの行為が,故意による幇助行為に当たらないとしても,被告らの行
為は,次のとおり,過失による幇助行為に当たるというべきである。
すなわち,漫画をウェブサイト上に掲載して閲覧者にこれを閲覧させるようなウ
5 ェブサイトにおいて,許諾なく漫画を掲載すれば,当然に著作権侵害の結果を招来
することは明らかであるところ,本件ウェブサイトのような違法な海賊版サイトに
広告及び広告費を提供する行為が上記著作権侵害の結果を招来することについては
予見することが可能であって,当該サイトの運営に必要な広告及び広告費を提供す
るに当たっては,当該サイトの運営者に対し,著作権者との間で使用許諾を得て当
10 該サイトに掲載するなど著作権侵害の結果を招来しないように措置すべき注意義務
を負っているといえる。しかるに,被告らは,かかる注意義務に違反して,Dと通
じて,広告主から募った広告及び広告費を本件ウェブサイト管理者に提供し,もっ
て,本件ウェブサイトにおける原告漫画の無断掲載行為を助長し,著作権侵害の結
果を招来したのであるから,被告らに,幇助行為について,過失が認められる。
15 〔被告らの主張〕
原告の上記主張は,否認して争う。
ア 故意が認められないこと
前記のとおり,被告らの行為は幇助行為に当たらないから,同行為に係る故意も
認められないものであるが,仮にこれが幇助行為に当たるとしても,被告らは,平
20 成30年4月13日に第三者から指摘されるまで,本件ウェブサイトが海賊版サイ
トであることを認識し得なかったのであるから,被告らの行為について故意は認め
られない。
この点,確かに,わいせつ画像を転載するサイト,自殺幇助に関するサイト等外
形上明らかに違法サイトであると判断できるウェブサイトであれば,被告らも,広
25 告掲載先から除外することは可能かもしれないが,本件ウェブサイトのように,著
作物を掲載するウェブサイトの場合,当該ウェブサイトの運営者が,著作権者から
著作物の利用許諾を得ているか外形上明らかではないため,著作権侵害の有無を判
断することは不可能である。
また,著作権侵害の有無を判断するために,ウェブサイト運営者に対して,著作
権者の許諾を得ているか確認する方法が考えられるが,広告業界の取引関係では,
5 広告主と広告媒体であるメディアとの間に多数の広告代理店が存在し,本件におい
ても同様であって,被告らと本件ウェブサイトの管理者とが直接の取引関係にない
以上,被告らが,同運営者に対して著作権者の利用許諾の有無を確認することは,
大きな労力を必要とし,現実的に不可能である。
さらに,被告エムエムラボが運用する広告配信サービスの運用実態は,①メディ
10 ア登録,②広告枠登録,③広告の配信設定,④広告掲載タグの取得,⑤タグをサイ
トに設置して広告掲載という流れをとり,被告エムエムラボの運用チームは,上記
③の広告配信設定を行う場面において,広告掲載先サイトとして登録するメディア
を審査している。しかして,被告エムエムラボが,一日に100を超え,最終的に
は1万6788ものメディアを広告配信サービスの広告掲載先サイトとして登録し
15 ている実態をも踏まえると,メディアの審査において,その都度,全てのメディア
が著作物の利用許諾を得ているか確認することは困難であり,現実的に不可能とい
える。
このように,被告エムエムラボが審査時点で全ての違法サイトを確認することが
不可能であることから,被告エムエムラボの広告配信サービスの利用規約において
20 知的財産権に関して禁止事項を定め,メディアレップに対し,広告掲載先のウェブ
サイトが違法サイトではないことを申込みの条件の一つとして掲げ,メディアレッ
プにおいて著作権侵害の有無を確認するよう求めている。
加えて,被告らは,政府が平成30年4月13日に本件ウェブサイトが海賊版サ
イトであることの指摘をしたため,直ちに内部調査をしたところ,被告らが提供す
25 る広告配信サービスを通じて本件ウェブサイトに広告掲載をしていたことが発覚し,
広告配信サービスの利用規約に基づき,同月16日までに,海賊版サイトに関与し
ているおそれのある取引先等との取引を停止する措置を講じている。
このように,被告らの取引実態や被告らの広告配信サービスの利用規約において
知的財産権侵害の提携サイトの登録申込みの禁止条項を設けていたことに加え,本
件ウェブサイトが海賊版サイトである旨の指摘がされて以降の被告らの一連の対応
5 等を踏まえれば,被告らにおいて,本件ウェブサイトが海賊版サイトであり,著作
物の無断転載行為を行っていることについて認識があったということはできない。
イ 過失が認められないこと
被告らの行為について,過失は認められない。
すなわち,上記のとおり,被告らにおいて全ての広告掲載先のメディアに対して
10 著作物の利用許諾を確認することの困難性,現実的可能性の不存在という事情の下
で,被告らが広告代理店に対して著作権侵害に関する注意義務を課していること,
本件ウェブサイトが海賊版サイトであるとの政府の指摘直後に速やかに広告配信サ
ービスの停止措置を講じていることからすれば,被告らに対して著作権侵害の回避
のための注意義務を課する必要性はなく,前述のとおりの業界の取引実態や被告ら
15 の広告配信サービスの運用実態からすれば,著作権侵害の回避のための注意義務を
履行し得る実行可能性もなく,したがって,被告らに過失も認められない。
その上,著作権侵害の有無の確認は,メディアの広告窓口である広告代理店にお
いてすべきことであって,被告らやその他の広告代理店に対してメディアの著作権
侵害の有無の確認義務を負わせてしまえば,多数のウェブサイトを扱う被告らやそ
20 の他の広告代理店において,広告掲載に関する大量の取引を円滑に行えなくなって
しまい,広告代理店の存在意義がなくなり,広告代理店の権利又は法律上保護され
た利益を侵害することとなり,全体的に見て,明らかに不当な結果をもたらすこと
になる。
(4) 争点2(原告の損害額)
25 〔原告の主張〕
ア 売上の減少 1000万円
原告漫画のうち,原告漫画1の累計発行部数は約2000万部,原告漫画2の累
計発行部数は約370万部であり,最も価格の安い電子書籍を基準として考えると,
前記2つの原告漫画は,いずれも1冊当たり462円である。そうすると,無断掲
載された前記2つの原告漫画の総売上げは,109億4940万円を下らない。
5 そして,原告漫画の著作者である原告の収入は,これらに印税率を乗じたもので
あるところ,印税率は,漫画業界において,一般に8%から10%程度であるが,
原告は著名な実績を有するベテラン作家であるから,上方の10%を印税率として
採用すべきである。
以上より,無断掲載された原告漫画に係る原告の総売上げは,10億9494万
10 円であるところ,本件ウェブサイトが原告漫画を無断掲載したことにより,消費者
の購買意欲が低下するなどして被った原告の損害額が,全体の1%を下ることはな
い。そうすると,原告が,被告の行為により被った売上減少に係る損害額は,10
00万円を下らない。
イ 弁護士費用 100万円
15 不法行為に当たる被告らの著作権侵害行為については,訴訟上その救済を求める
場合における弁護士費用も,被告らの行為と因果関係のある損害というべきである
から,上記アの損害の1割に相当する弁護士費用相当額(100万円)も原告の損
害となる。
ウ 遅延損害金
20 本件ウェブサイトによる原告漫画の無断転載は,遅くとも平成29年11月18
日には行われていたのであって,被告らの著作権侵害行為による損害賠償債務は,
同日から遅滞に陥っている。そうすると,被告らは,同日を起算日として損害全体
に係る遅延損害金の支払義務を負う。
〔被告らの主張〕
25 原告の上記主張は,否認して争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告らの共同不法行為責任の有無)について
(1) 認定事実
前記前提事実に加え,証拠(掲記したもの。)及び弁論の全趣旨によれば,次の事
実が認められる。
5 ア 本件ウェブサイトの設立と運営実態
(ア) 本件ウェブサイトは,平成28年1月頃,発行間もない新作を含め5万冊以
上の漫画をインターネット上で閲覧することができるサイトとして開設された。開
設当時の本件ウェブサイトの画面上には,「無料コミック漫画-完全無料で漫画が
読める!!登録一切不要!!」「登録不要で完全無料な最新マンガサイトです。ス
,
10 クロールするだけで見やすくDL不要!毎日更新中です。お好きなマンガを検索で
きます。タブから好きな作品をお選び下さい。」との記載がされ,本件ウェブサイト
上で各種の漫画を無料で閲覧することができる旨の説明がされ,また,同画面上に
は,「大量貯蔵の為,検索をご利用下さい。」との記載とともに,本件ウェブサイト
に登録されている漫画を検索するための検索バナーが設置されていた。(甲4)
15 また,本件ウェブサイトにおいては,出版社により発売された漫画が,発売日の
翌日に掲載され,その閲覧が可能にされていることもあった。(甲19)
さらに,本件ウェブサイトについて,平成29年6月頃のその画面上には,
「無料
コミック漫画」「漫画村は無料で単行本・週刊誌が読めるウェブ型マンガビューサ
,
イト」との記載とともに,原告漫画1の1巻,6巻から15巻まで及び24巻が掲
20 載され,同年11月頃の本件ウェブサイトの画面上には,原告漫画2が掲載された
ほか,原告以外の漫画家の作品も掲載されていた。(甲10,11)
しかるに,原告漫画を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くは,著
作権者の許諾を得ずに違法に掲載されていた。
(イ) 平成30年4月18日付けのNHKが開設しているウェブサイトでは,10
25 代から50代までの幅広い世代が本件ウェブサイトを利用しており,平成30年3
月時点の本件ウェブサイトの月間閲覧数が延べ1億7000万,平成29年9月か
ら平成30年2月までの半年間で延べ約6億2000万に上っていること,本件ウ
ェブサイトの運営者は莫大な広告収入を稼いでいたとみられることなどの報道がさ
れた。(甲5)
(ウ) 本件ウェブサイトの運営者は,本件ウェブサイトの利用者から本件ウェブサ
5 イトに掲載した漫画の閲覧に対する対価や手数料を徴収していなかった。
(エ) 本件ウェブサイトに広告を出稿していた企業に対する取材をしたとするイ
ンターネット上の情報提供サイト(同年4月15日付けの記事)には,本件ウェブ
サイトの運営資金は広告収入によって賄われているとみられること,同月14日付
けの記事で,本件ウェブサイトに広告が出稿されるまでの流れは,出稿主である事
10 業者(広告主)から広告代理店に出稿依頼がされ,当該広告代理店から本件ウェブ
サイト上の広告出稿の窓口となっている会社に広告主からの出稿依頼が取り次がれ,
最終的に,本件ウェブサイトに広告主の広告が掲載されるものであること,広告主
から支払われる広告費は,広告代理店,窓口会社の手数料に充てられるほか,広告
を掲載する本件ウェブサイトの運営者に支払われる仕組みとなっていることなどの
15 説明がされていた。(甲6,7)
イ 海賊版サイトに対する政府や広告関係団体の取組み
広告関係団体においては,平成29年,違法な海賊版サイトが広告費の収入を資
金源として運営されていることが社会問題となっているとして,インターネット上
の違法・不当サイトを広告掲載先から排除する取組みを始め,当該問題を取り扱う
20 専門部会を設置した。そして,平成30年6月,より実効的な対策を継続的に講じ
るために恒常的な組織として委員会を設置し,広告業界内で情報共有を進め,違法・
不当サイトの排除に取り組むことなどを宣言した。(甲24,25)
また,政府からも,平成30年4月,本件ウェブサイトを含む海賊版サイトの拡
大による漫画,アニメ等の著作物の無断掲載行為に対する緊急対策として,法制度
25 を整備するまでの間,民間事業者が自主的に悪質なサイトをブロッキングできるよ
うな制度を検討する方針が示された。(甲34)
ウ 本件ウェブサイトの閉鎖
本件ウェブサイトは,平成30年4月に閉鎖された。
エ 被告らの広告掲載事業等
(ア) 被告らの実施している広告掲載事業の概要
5 被告ら(被告エムエムラボが子会社,被告グローバルネットが親会社)が行って
いる広告掲載事業については,広告主である事業者から入稿された広告をそれぞれ
広告代理店に直接取り次ぐ方法と,被告エムエムラボの広告配信サービス(アドネ
ットワーク)を通じて広告代理店に配信する方法とがあった。上記広告配信サービ
ス(アドネットワーク)とは,インターネット広告において,広告媒体となる多数
10 のウェブサイトからなるネットワークをいい,広告主が一つのネットワーク事業者
に広告を出稿することにより,多数のウェブサイトで広告を配信することができる
サービスであった。
被告エムエムラボは,アドネットワークによる広告配信サービスに関し,ウェブ
サイト運営者との間で広告掲載に係る契約を締結するに当たり,自社のホームペー
15 ジ上に「MEDIADⅡ」と題する広告掲載を行うウェブサイト(メディア)を登
録するページを設け,当該ウェブサイト運営者にウェブサイトの表題,URL等を
入力させ,入力された情報を基に,被告エムエムラボの運用チーム担当者が,これ
を審査していた。(甲22)
そして,被告エムエムラボ(子会社)に対してその掲載を依頼された広告は,被
20 告エムエムラボのアドネットワークにより,本件ウェブサイトとの間に介在してい
たDを経由して,本件ウェブサイトに掲載されていた。また,被告グローバルネッ
ト(親会社)に対して広告掲載が依頼された場合においても,その掲載は,同様に
被告エムエムラボが設置している「MEDIADⅡ」のシステムを利用して行われ
ていた。
25 (イ) 被告らの本件ウェブサイトに関する営業活動等
被告グローバルネットは,平成30年3月2日,取引先からの広告掲載先に本件
ウェブサイトを追加した場合の予算についての問合せに対し,本件ウェブサイトへ
の掲載には追加で5万円から10万円で可能であるとの回答をしていた。(甲13)
また,被告グローバルネットは,同月23日,取引先からの被告グローバルネッ
トの広告メニューの過去の実績についての問合せに対し,「弊社の場合DL BO
5 OKSや漫画村を保有しているのでそこそこ効果はいいかなと思います。」と回答
し,その後,同取引先から,被告グローバルネットに対し,広告掲載の打診がされ
た。(甲12)。
また,被告グローバルネットの取引先から依頼された広告掲載に関しては,本件
ウェブサイトが閉鎖された後である同年4月16日時点で,本件ウェブサイトを含
10 む違法系サイトに65%程度が出稿されている状況にあった。(甲14)
被告らは,広告事業主から広告費の支払を受け,一定の手数料を受け取った残額
を本件ウェブサイトの窓口であったDに提供していた。
オ 原告漫画の発行部数等
原告漫画の発行部数に関しては,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,
15 電子書籍及び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。 は第1巻の発売が
)
された平成5年7月から平成24年2月頃までの間で約2000万部,原告漫画2
の累計発行部数は第1巻の発売がされた平成25年12月から令和2年1月頃まで
の間で約370万部であった。(甲18,19)
原告漫画の1冊当たりの販売価格は462円であって,原告漫画の累計売上額は,
20 およそ109億4940万円となっており,原告漫画は,人気を博し,需要者層に
相当程度浸透していた。
しかして,このような漫画の著作権者が受けていた印税の率としては,一般に,
8パーセントから10パーセント程度となっていた。
(2) 上記認定事実に基づき,以下判断する。
25 ア 争点1-1(被告らの幇助による共同不法行為の成否),同1-2(被告らの
行為と原告の損害との因果関係の有無)について
(ア) 前記認定のとおり,原告漫画を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫
画の多くは,著作権者の許諾を得ずに無断で掲載されていたものであり,本件ウェ
ブサイトの運営者が,原告漫画の無断掲載行為によって,原告の原告漫画に係る著
作権(公衆送信権)を侵害したものであることが認められる。
5 そこで,被告らの行為が,このような原告漫画の無断掲載行為という著作権(公
衆送信権)侵害行為を共同して幇助する行為に当たるかについて検討する。
(イ) 本件ウェブサイトの運営実態を見ると,本件ウェブサイトの運営者は,5万
冊以上もの漫画作品をインターネット上に掲載していたが,原告漫画を含め,本件
ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを,著作権者の許諾を得ずに無断で掲載
10 する一方,利用者において無料でそれらの漫画を閲覧することができるようにし,
発行翌日に新作閲覧ができるようにするなどのこともして利用者の誘引や閲覧数の
増大を図り,費用は広告収入で賄う仕組みを作り上げ,本件ウェブサイトの開設か
ら2年後には,月間の閲覧数が1億7000万にも上るなど,本件ウェブサイトの
利用者は相当の規模に上っていたことが認められる。
15 (ウ) そうすると,本件ウェブサイトは,その利用者からの支払によりこれを運営
するための経費(本件ウェブサイトが使用するサーバ等,その維持管理に必要とな
る費用や本件ウェブサイトの運営者等の得る報酬等)を賄うことが構造上予定され
ず,その規模を増大させることにより,本件ウェブサイト上での広告掲載効果を期
待する事業主を増加させ,その運営資金源のほとんどを,広告事業主から支払われ
20 る広告費による広告料によって賄う仕組みであったことがうかがわれるのであって,
当該広告料収入がほとんど唯一のその資金源であったというべきである。このよう
な本件ウェブサイトの運営実態からすると,本件ウェブサイトに広告を出稿しその
運営者側に広告料を支払っていた行為は,その構造上,本件ウェブサイトを運営す
るための上記経費となるほとんど唯一の資金源を提供することによって,原告漫画
25 を含め,本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを,著作権者の許諾を得ず
に無断で掲載するという本件ウェブサイトの運営者の行為,すなわち,原告漫画の
公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)といえる
ものである。
(エ)しかして,被告らが本件ウェブサイトに広告を出稿し広告料を支払う行為に
ついて具体的にみるに,被告エムエムラボと被告グローバルネットとは子会社と親
5 会社の関係にあり,広告の出稿は被告エムエムラボが設置している「MEDIAD
Ⅱ」のシステムを利用して行われ,また,
「MEDIADⅡ」のアドネットワークの
利用者からの問合せに対して被告グローバルネットの従業員が対応しているという
実態もある。そして,被告らは,上記「MEDIADⅡ」のシステムを利用して,
広告主である事業者から依頼された広告掲載につき,Dを介して本件ウェブサイト
10 上へ掲載するとともに,当該事業主から支払われる広告料をその運営者側に支払っ
ていたのであるから,これらに照らせば,被告らは,客観的にも,主観的にも,共
同して本件ウェブサイトへの広告出稿やその運営者側への広告料支払を遂行してい
たといえ,共同して原告漫画の公衆送信権の侵害行為を容易ならしめる不法行為(幇
助行為)を行っていたものといわざるを得ない。そして,被告らのこのような共同
15 不法行為に因って,原告漫画の公衆送信権の侵害行為が助長され容易となり,これ
に因って,原告が原告漫画の売上減少等の損害を被ったものであるというべきであ
る。
以上によれば,被告らの行為は,原告漫画の無断掲載行為という著作権(公衆送
信権)侵害行為を共同して幇助する行為に当たり,また,被告らの行為と原告の損
20 害との間に相当因果関係が存することが肯定されるというべきである。
(オ)被告らの主張について
a 被告らは,被告らが本件ウェブサイトの窓口となっていたDに対して広告費
の支払を始めたのは,平成29年5月からであって,それより前から本件ウェブサ
イトに原告漫画1が掲載されている以上,本件ウェブサイトにおける原告漫画1の
25 著作権(公衆送信権)侵害を助長したという関係にはないとして,幇助を否定する。
しかしながら,本件ウェブサイトにおいては,同月以降平成30年4月に閉鎖す
るに至るまで,原告漫画1が掲載され,原告漫画1に係る著作権(公衆送信権)が
侵害されている状態が継続しており,かかる違法状態の継続は,被告らによる広告
費の支払によって助長され容易にされていたといえ,これをもって幇助行為と評価
することができるというべきである。
5 以上によれば,被告らの上記主張は採用することができない。
b また,被告らは,被告らの広告配信サービスの提供が社会通念上,一般的,
類型的に著作権侵害を招来する現実的危険性を有する行為とはいえず,幇助に該当
しないと主張する。
確かに,被告らが広告掲載先とするウェブサイトの全てが違法に著作物を掲載す
10 るようなものであるとはいえず,本件ウェブサイトは多数の被告らの取引先の一つ
に過ぎず,被告らの広告掲載に関する営業活動一般が,一概に著作権侵害を招来す
る現実的危険を内包するものではないということはできる。しかし,上記説示のと
おり,本件ウェブサイトは,原告漫画を含め多くの漫画を著作権者の許諾なく違法
に掲載していたのであり,その運営は,広告事業主からの広告料収入をほぼ唯一の
15 資金源としてされていたものであって,そうである以上,本件ウェブサイトとの関
係においてみれば,被告らが広告主からの依頼を取り次いで本件ウェブサイトの運
営側に広告料を支払うことは,本件ウェブサイトによって行われている著作権侵害
行為を助長し,容易にする現実的危険性を有する行為と言わざるを得ない。
以上によれば,被告らの上記主張は採用することができない。
20 c 被告らは,本件ウェブサイトとは取引関係がなく,本件ウェブサイトの窓口
となっているDに広告料を支払っていただけであり,被告らが本件ウェブサイトに
支払った広告料の割合は不明であり,原告漫画の売上減少にどの程度影響したのか
明らかではないことを理由に,上記因果関係を否定する。
しかしながら,被告らから本件ウェブサイトの運営者にどの程度の金額が還流し
25 ていたのかは不明であるとしても,被告らが事業主の依頼を受けて広告を出稿すべ
くDを通じて広告料の全部又は一部を本件ウェブサイトの運営者側に支払うことに
よって,原告漫画の著作権(公衆送信権)侵害行為を助長していたと評価されるこ
とには変わりはなく,被告らが挙げる事情は,被告らの広告掲載活動が本件ウェブ
サイトに原告漫画が掲載されることにより生じる原告漫画の売上減少という損害と
の因果関係を認めることを否定する事情にはならないことは明らかである。
5 以上によれば,被告らの上記主張は採用することができない。
イ 争点1-3(被告らの故意又は過失の有無)について
(ア) 続いて,被告らにおいて,上記幇助行為を行うにつき故意又は過失があると
認められるかについて検討する。
前記のように,本件ウェブサイトに関しては,これに掲載されている漫画の多く
10 が著作権の対象であるにもかかわらず,利用者から利用料等の対価を徴収せず,広
告料収入をほぼ唯一の資金源として,新作を含む多数の漫画を違法に掲載して利用
者に閲覧させているという運営実態が存したものである。また,これに加え,広告
業界においては,従前から違法な海賊版サイトがインターネット広告による広告料
収入を資金源に運営されているという社会問題に対して早急に対策を強化する必要
15 があるとの認識が広く共有され,平成29年に広告業界団体の中に当該社会問題を
取り扱う専門部会が設置されていたものである。さらに,政府も,平成30年4月,
漫画やアニメの海賊版サイトが急速に拡大していることの対応が喫緊の課題であり,
本件ウェブサイトを含む特定のサイトに対する民間事業者によるブロッキング措置
等を含む対策を講じる必要性やその方針を示していたものである。
20 そうすると,被告らにおいては,遅くとも被告らが本件ウェブサイトへの広告配
信サービスの提供を開始した平成29年5月の時点においては,本件ウェブサイト
の属性,すなわち,本件ウェブサイトが著作権者等から許諾を得ずに違法に多数の
漫画を掲載している蓋然性を認識していたものであるといえる。しかして,前記認
定のとおり,原告漫画は,人気を博し,需要者層に相当程度浸透していたものであ
25 るから,このような原告漫画についても,被告らにおいては,著作権(公衆送信権)
侵害行為を行っているものであることを予見することが可能であったといわなけれ
ばならない。そして,被告ら自身,そのような本件ウェブサイトの実態や規模拡大
についての認識に基づき,その広告掲載効果が比較的高いものであると考えたから
こそ,それを取引先にも伝え,広告配信事業を展開し,広告事業主からの広告掲載
依頼を本件ウェブサイトにつなげることにより,自らも営業上の利益を得ていたも
5 のであるといえる。一方で,被告らにおいて,Dを通じて本件ウェブサイトに掲載
されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認す
ることが困難であったことをうかがわせる事情も見当たらず,違法行為を幇助する
ことを回避することは可能であったものである。
これらに照らせば,被告らとしては,本件ウェブサイトの運営者が,そこに掲載
10 する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で,本件ウェブサイ
トへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていたといわざ
るを得ない。
そうであるにもかかわらず,被告らは,その取引先から,本件ウェブサイトへの
広告掲載を依頼した場合に要する追加費用について回答しているだけではなく,被
15 告グローバルネットの広告掲載に係る実績への問合せに対して,具体的に本件ウェ
ブサイトを挙げて「そこそこ効果はいいかなと思います。」などと回答して,積極的
に本件ウェブサイトへの掲載について営業活動をし(なお,被告らにおいては,本
件ウェブサイトを含む違法サイトとされるウェブサイトへの広告出稿率も相応の割
合を占めていたことも証拠上うかがえる。 ,本件ウェブサイトに掲載されている原
)
20 告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することを怠っ
たものである。
これらによれば,被告らがDを介して本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営
者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は,前記注意義務に違反した過失に
より行われたものといわざるを得ない。
25 (イ)被告らは,外形上,本件ウェブサイトが著作権侵害をしているかどうかは明
らかではなく,また,被告らにおいては広告配信の成果を表す数値を基礎として依
頼された広告の掲載先を審査するという審査実態があり,被告らが本件ウェブサイ
トの運営者と直接取引をしているわけではないこと,被告らは被告らの広告配信サ
ービスを利用する取引先に対して著作権等の侵害行為を行うおそれのあるウェブサ
イトを広告掲載先に有する場合には取引をしない旨の条項を規約に置いて取引先に
5 注意義務を課していること,仮に被告らが広告掲載先の著作権使用許諾契約の有無
を確認しようにも広告代理店は取引先情報を秘匿するという業界の実態などを理由
に,本件ウェブサイトが違法に著作物を掲載していることを認識することは困難で
あるし,著作権者等から使用許諾を得ているかの確認をすることも困難である旨主
張する。
10 しかしながら,前記説示のとおり,本件ウェブサイトに関しては,これに掲載さ
れている漫画の多くが著作権の対象であるにもかかわらず,利用者から利用料等の
対価を徴収せず,広告料収入をほぼ唯一の資金源として,新作を含む多数の漫画を
違法に掲載して利用者に閲覧させているという運営実態が存したものである。しか
して,被告らが本件ウェブサイトに係る広告配信サービスの提供を開始した時点で
15 は,既に海賊版サイトによる著作権侵害が社会問題となっており,広告業界におい
ても,これに対する対策の必要性について認識されていたことを踏まえると,被告
らにおいても,外形上,本件ウェブサイトが著作権侵害をしていることを予見する
ことは十分に可能であったというべきである。また,被告らの広告掲載先の審査実
態の点は,むしろ,被告らにおいて,自己の利益を優先し,広告掲載先のサイトの
20 適性の検討・確認を怠っていたことを自認するに等しく,また,取引先に対する注
意義務を課していたという点も,その内容自体に照らし,幇助行為の注意義務やそ
の懈怠を否定する事情にはならないというほかない。さらに,本件ウェブサイトと
の間で直接取引していなかったことや広告代理店から取引先情報を秘匿されるなど
といった点も,本件ウェブサイトの窓口となっていたDとの取引があることや違法
25 な海賊版サイトが社会問題として認識されている昨今の事情に鑑みれば,本件ウェ
ブサイトによる著作物使用許諾の確認を困難ならしめる事情ということはできず,
また,その確認ができないのであれば,被告らの広告配信サービスによる広告掲載
先から本件ウェブサイトを除くという措置を講じることも容易であったというべき
である。
以上によれば,被告らの上記主張はいずれも採用することができない。
5 2 争点2(原告の損害額)について
(1) 財産的損害
前記認定のとおり,原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍,電子書籍及
び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部,原告漫画
2の累計発行部数は約370万部であり,原告漫画の1冊当たりの販売価格は46
10 2円であって,原告漫画の売上額は,およそ109億4940万円となるところ,
原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は,原告漫
画の上記のような発行部数等に照らし,同売上額の10パーセントと認めるのが相
当である。
ところで,本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより,原告
15 漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され,原告漫画においても,発売
日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば,新作が無
料で閲覧できることにより,読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべ
きである一方,被告らの行為は,本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲
載を,広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること,
20 原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって,本件ウェブ
サイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関
して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた
一切の事情に照らして検討すれば,被告らの本件における行為が原告漫画の売上減
少に寄与した割合は,約1パーセントと認めるのが相当である。
25 これらの事情に鑑みると,本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆
送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害
額は,1000万円(≒109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが
相当である。
(2) 弁護士費用
本件訴訟の性質,経緯その他本件に現れた一切の事情を考慮すると,被告らによ
5 る著作権侵害の幇助と相当因果関係のある弁護士費用は,100万円が相当である。
第4 結論
その他も,被告らは縷々主張するが,その主張内容を精査しても,上記認定判断
を左右するに足りるものはない。
よって,原告の請求は理由があるからこれを認容することとして,主文のとおり
10 判決する。
東京地方裁判所民事第47部
裁判長裁判官 田 中 孝 一
裁判官 小 口 五 大
20 裁判官 鈴 木 美 智 子
(別紙原告著作物目録省略)
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