令和3(ネ)10066損害賠償請求控訴事件
判決文PDF
▶ 最新の判決一覧に戻る
裁判所 |
控訴棄却 知的財産高等裁判所知的財産高等裁判所
|
裁判年月日 |
令和4年2月8日 |
事件種別 |
民事 |
対象物 |
入力支援コンピュータプログラム,入力支援コンピュータシステム |
法令 |
特許権
|
キーワード |
特許権3回 損害賠償2回 実施2回 侵害1回
|
主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。 |
事件の概要 |
1 事案の概要5
(1) 本件は,発明の名称を「入力支援コンピュータプログラム,入力支援コン
ピュータシステム」とする特許(特許第4611388号。請求項の数5。
以下,「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)
の特許権者である控訴人が,被控訴人シャープによるスマートフォンSHV
39,SHV40,SHV41,SHV42及びSHV43(以下,総称し10
て「被告製品」という。)の製造及び被控訴人KDDIによる被告製品の販売
がいずれも本件特許権の侵害に当たると主張して,被控訴人らに対し,不法
行為に基づく損害賠償の一部請求として270万円並びにうち106万20
00円に対する令和元年5月21日(不法行為の後の日)から支払済みまで
及びうち163万8000円に対する訴状送達の日の翌日(被控訴人KDD15
Iについては令和2年8月14日,被控訴人シャープについては同月18日)
から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 |
▶ 前の判決 ▶ 次の判決 ▶ 特許権に関する裁判例
本サービスは判決文を自動処理して掲載しており、完全な正確性を保証するものではありません。正式な情報は裁判所公表の判決文(本ページ右上の[判決文PDF])を必ずご確認ください。
判決文
令和4年2月8日判決言渡
令和3年(ネ)第10066号 損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所令
和2年(ワ)第15464号)
口頭弁論終結日 令和3年11月15日
5 判 決
控 訴 人 株 式 会 社 コ ア ア プ リ
10 被 控 訴 人 K D D I 株 式 会 社
(以下「被控訴人KDDI」という。)
被 控 訴 人 シ ャ ー プ 株 式 会 社
15 (以下「被控訴人シャープ」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 鳥 山 半 六
同 長 谷 川 葵
被控訴人シャープ訴訟代理人弁理士 渡 邊 一
20 主 文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 控訴の趣旨
25 1 原判決を取り消す。
2 被控訴人らは,控訴人に対し,連帯して270万円並びにうち106万20
00円に対する令和元年5月21日から及びうち163万8000円に対す
る被控訴人KDDIについては令和2年8月14日から,被控訴人シャープに
ついては同月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
5 1 事案の概要
(1) 本件は,発明の名称を「入力支援コンピュータプログラム,入力支援コン
ピュータシステム」とする特許(特許第4611388号。請求項の数5。
以下,
「本件特許」といい,本件特許に係る特許権を「本件特許権」という。)
の特許権者である控訴人が,被控訴人シャープによるスマートフォンSHV
10 39,SHV40,SHV41,SHV42及びSHV43(以下,総称し
て「被告製品」という。)の製造及び被控訴人KDDIによる被告製品の販売
がいずれも本件特許権の侵害に当たると主張して,被控訴人らに対し,不法
行為に基づく損害賠償の一部請求として270万円並びにうち106万20
00円に対する令和元年5月21日(不法行為の後の日)から支払済みまで
15 及びうち163万8000円に対する訴状送達の日の翌日(被控訴人KDD
Iについては令和2年8月14日,被控訴人シャープについては同月18日)
から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(2) 原審は,被告製品は本件特許に係る発明の技術的範囲に属するものと認
20 めることはできないとして,控訴人の請求をいずれも棄却した。
これを不服として,控訴人は,本件控訴を提起した。
2 前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張
前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,以下のとおり原判決を補
正し,後記3のとおり当審における補充主張を付加するほかは,原判決「事実
25 及び理由」の第2の1及び3並びに第3(原判決2頁16行目ないし23頁1
8行目及び原判決別紙(原判決52頁ないし78頁) に記載のとおりであるか
)
ら,これを引用する。
(1) 原判決6頁19行目の「1~3」を「1乃至3」と改める。
(2) 原判決9頁6行目,71頁8行目及び72頁22行目の「本件発明」をい
ずれも「本件各発明」と改める。
5 3 当審における補充主張
(1) 争点1-3(本件ホームアプリが「操作メニュー情報」(構成要件B,E
及びF)を有するか)について
〔控訴人の主張〕
以下のとおり,被告製品のページ一部表示の画像は,
「操作メニュー情報」
10 (構成要件B,E及びF)に相当する。
ア ①利用者がその表示の有無を視覚的に認識できること,②物理的に操作
メニュー情報が占める座標位置の範囲が明確になっていること,③表示内
容から所望の命令を実施した結果についても理解できるような画像デー
タであることの三つの要件を満たすものが,
「操作メニュー情報」であると
15 考えられるところ,以下のとおり,被告製品のページ一部表示の画像は,
これらの要件をいずれも満たすから,「操作メニュー情報」に相当する。
(ア) 被告製品においては,それまで液晶画面に表示されていなかったペ
ージ一部表示の画像が,構成e又は構成e’の情報処理によって表示さ
れるようになる。したがって,被告製品のページ一部表示の画像は,構
20 成e又は構成e’の情報処理を実行する前後において,利用者がその表
示の有無を視覚的に認識することができる画像データであるから,上記
①の要件を満たす。
(イ) 被告製品のページ一部表示の画像は,内側を占める色が壁紙画像の
色よりも白く,壁紙画像とは色が異なるから,壁紙画像との境界が明確
25 である。したがって,被告製品のページ一部表示の画像は,画像が占め
る座標位置の範囲が明確であるから,上記②の要件を満たす。
(ウ) 被告製品のページ一部表示の画像は,実行されるスクロール命令の
対象である隣接したページを小さな絵で表現した画像データである。し
たがって,被告製品のページ一部表示の画像が表現している表示内容は,
実行されるスクロール命令の結果を小さな絵で表現した画像であるか
5 ら,上記③の要件を満たす。
イ 以下のとおり,本件ホームアプリに係るソースコードの記載によっても,
被告製品のページ一部表示の画像が上記①及び②の要件を満たすことは
明らかである。
(ア) 被告製品においては,構成e又は構成e’の情報処理を実行する前
10 後において,すなわち,ページの表示縮小率が100%の通常状態から
90%以下の縮小状態になると,それまで液晶画面に表示されていなか
ったページ一部表示の画像が表示されるようになるから,利用者は,そ
の表示の有無を視覚的に認識することができる。したがって,上記①の
要件を満たす。
15 (イ) 被告製品においては,縮小状態において,壁紙画像及びスクリム画
像(不透明度約25%の長方形の図形)を不透明度30%で合成した画
像(白みがかった壁紙画像)が,ページ一部表示の画像の全面を占め,
これに「アイコンの配置」の画像が合成されるから,利用者は,ページ
一部表示の画像の4辺の境界線を認識することができ,物理的にページ
20 一部表示の画像が占める座標位置の範囲が明確になっている。したがっ
て,上記②の要件を満たす。
〔被控訴人らの主張〕
ア 控訴人の主張アについて
(ア) 「操作メニュー情報」は,少なくとも,原判決の判断のとおり,『ポ
「
25 インタの座標位置によって実行される命令結果を利用者が理解できる
ように前記出力手段に表示するため』の『画像データ』であり,出力手
段に表示され,利用者がその表示自体から『実行される命令結果』の内
容を理解できるように構成されていることを要する」べきである。
(イ) 利用者が,被告製品のページ一部表示をみても,それがどのような
命令を実行する表示であるのかを理解することができないことは,原判
5 決が説示するとおりである。
イ 控訴人の主張イについて
控訴人は,本件ホームアプリに係るソースコードの記載を根拠として,
被告製品のページ一部表示の画像が縮小モードにおいて表示されること,
利用者がその画像の境界を認識することができることを追加して主張す
10 るが,これらの主張は,プログラムの解析を待たずとも甲12の映像から
明らかであり,原判決も当然の前提としているものであるから,その判断
に何ら影響を及ぼすものではない。
(2) 原判決において判断されなかった争点について
〔控訴人の主張〕
15 本件ホームアプリが「操作情報」と「データ状態情報」を「関連付け」て
記憶していること(構成要件B,E及びF)(争点1-4),本件ホームアプ
リが「入力手段を介してポインタの位置を移動させる命令を受信すると…操
作メニュー情報を…記憶手段から読み出して…表示する」ものであること(構
成要件E)
(争点1-5)に関する控訴人の原審における主張は,本件ホーム
20 アプリに係るソースコードの記載によっても裏付けられる。
〔被控訴人らの主張〕
控訴人の主張は,本質的には原審で主張した内容と変わるものではなく,
また,原審における主張を超える意味は持たない。
第3 当裁判所の判断
25 当裁判所も,原審と同様に,控訴人の請求はいずれも理由がないものと判断
する。
その理由は,後記1のとおり原判決を補正し,後記2のとおり控訴人の当審
における補充主張に対する判断を付加するほかは,原判決「事実及び理由」の
第4(原判決23頁20行目ないし50頁9行目)に記載のとおりであるから,
これを引用する。
5 1 原判決の補正
(1) 原判決46頁24行目の「『操作メニュー』は」を「『操作メニュー情報』
にいうところの『操作メニュー』とは」に改める。
(2) 原判決47頁26行目の「本件特許請求の範囲」を「本件各発明の特許請
求の範囲」と改める。
10 (3) 原判決50頁8行目の「本件発明」を「本件各発明」と改める。
2 控訴人の当審における補充主張について
(1) 控訴人の主張(1)アについて
ア 前記のとおり補正して引用する原判決が説示するとおり(原判決46頁
23行目ないし49頁1行目),本件各発明の特許請求の範囲の記載内容
15 に加え,本件明細書の段落【0012】の記載内容及び【図7】に記載さ
れた本件各発明の実施例としての様々な操作メニュー情報の表示内容か
らすれば,本件各発明の「操作メニュー情報」とは,
「ポインタの座標位置
によって実行される命令結果を利用者が理解できるように前記出力手段
に表示するため」の「画像データ」であり,出力手段に表示され,利用者
20 がその表示自体から「実行される命令結果」の内容を理解できるように構
成されていることを要するものというべきである。
イ そして,被告製品のページ一部表示が,縮小された中央ページの右端又
は左端あるいは両端に,幅が細く縦長の白みがかった長方形として表示さ
れること,そこには何の文字,図形,記号,アイコン等は表示されないこ
25 とからすれば,当該長方形部分のみを見た利用者は,それがどのような命
令を実行する表示であるのかを理解することはできないというべきであ
り,したがって,被告製品のページ一部表示の画像は本件各発明の「操作
メニュー情報」には当たらず,本件ホームアプリが構成要件Bの「操作メ
ニュー情報」を有するとは認められないことは,前記のとおり補正して引
用する原判決が説示するとおりである(原判決49頁2行目ないし50頁
5 6行目)。
控訴人は,①被告製品においては構成e又は構成e’によってそれまで
表示されていなかったページ一部表示の画像が液晶画面に表示されるよ
うになること,②ページ一部表示の画像と壁紙画像との境界が明確である
ことを指摘するが,これらの点は,いずれも利用者がページ一部表示の画
10 像自体から「実行される命令結果」の内容を理解することができるか否か
に関わるものではないから,上記の判断を左右するものではないというべ
きである。また,控訴人は,③被告製品のページ一部表示の画像が表現し
ている表示内容は,実行されるスクロール命令の結果を小さな絵で表現し
た画像であるとも指摘するが,上記のとおり,ページ一部表示の画像は,
15 その表示内容等からすれば,利用者がその表示自体から「実行される命令
結果」の内容を理解できるように構成された画像データであるということ
はできない。
なお,上記の判断に照らすと,控訴人が上記第2の3(1)アにおいて主張
する判断基準によったとしても,被告製品のページ一部表示の画像は,少
20 なくとも同主張における③の要件を満たすものとはいえないから,本件ホ
ームアプリが構成要件Bの「操作メニュー情報」を有するとは認められな
い。
ウ したがって,控訴人の主張(1)アは採用することができない。
(2) 控訴人の主張(1)イについて
25 ア 控訴人が主張(1)イにおいて指摘する各点は,いずれも上記(1)で検討し
たところと同様の事情であるといえるから,いずれも前記の判断を左右す
るものではないというべきである。そして,このことは,本件ホームアプ
リに係るソースコードの記載内容を基に検討した場合であっても同様で
ある。
イ したがって,控訴人の主張(1)イは採用することができない。
5 (3) 小括
ア 控訴人は,上記のほかにも,争点1-3について縷々主張するが,いず
れも前記の判断を左右するものではないというべきである。
イ 以上によれば,本件ホームアプリは,構成要件Bにいう「操作メニュー
情報」を有するとは認められず,被告製品が構成要件Bを充足するものと
10 は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告製品
が本件各発明の技術的範囲に属するものと認めることはできない。
第4 結論
以上によれば,前記第2の3(2)記載に係る控訴人の当審における補充主張に
ついて判断するまでもなく,控訴人の請求はいずれも棄却すべきであり,これ
15 と同旨の原判決は相当である。
よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
東 海 林 保
裁判官
5 中 平 健
裁判官
10 都 野 道 紀
最新の判決一覧に戻る